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子供服購買における世代間消費行動の解明
子供服購買における世代間消費行動の解明 ~Triangle Relationship 消費者行動~ 序文 「未来に向けた日本活性化」。このテーマのもとで 2010 年度関東 10 ゼミ討論会は幕を開けた。開会式 の前から決まっていた、我々の目標は最優秀賞。半年間本気で打ち込み、我々独自の研究で最高の結果を 残すことを胸に決めた。 本年度のテーマ、未来に向けた日本活性化は即ち、日本の未来を明るいものにすることである。その日 本の未来を背負うのは、 「子ども」である。子どもに希望がある社会は明るく、明るい子どもは周囲を幸せ にする。子どもに関連する消費は数あるが、我々が着目したのは「子供服」である。唐突だが思い出して みて欲しい。アルバムの中で、家族に囲まれ幸せそうに笑っている幼児期のあなたは、何を着ているだろ うか。母親好みの服だろうか。祖母が買い与えてくれたものだろうか。子どもの服は、その家族そのもの を映し出す。好み、所得、教育方針、親と祖父母の関係、子どもへの愛情。さまざまな要素が絡み合って 購買に結び付く子供服は研究対象として非常に興味深く、また愛情をいっぱいに注がれて育った子どもは 家族に、家族は社会に活力をもたらすであろう。 子供服においては消費主体と購買主体が異なり、親子二者間の購買行動となる。そこに我々は家族の一 員である祖父母を購買側の主体として組み込んだ。つまり、 「子ども」 「親」 「祖父母」の家族三世代間消費、 「Triangle Relationship 消費者行動」を軸として研究を進めることとした。そして最終的に、三者間の購 買行動が三者関係を向上させ、子供服購買がその家族を「愛」で満たすという方程式の提唱を目標とした。 現在までの半年間で、我々のグループワークにおいて笑顔が絶えることはなかった。素晴らしい班員に 恵まれ、我々の思い描くとおりに研究が進んでいた。しかし去る9月、我々は大きな挫折を経験した。1人 では挫けてしまうような困難を乗り越え完成させることができたのも、この班、このゼミだったからこそ であることを、今しみじみと感じている次第である。 我々班員四人はどの班よりも長い時間を共にした。常に笑い声の響く、あの心地よい時間がもう戻らな いのは寂しいが、班員一人一人に、心から感謝の気持ちを伝えたい。 最後になるが、困難に直面しても常に前を見据えていた二期生の皆、多くをご指導頂いた清水教授、夜 を徹し真剣に悩み励ましてくださった先輩方、寛大な心でご協力頂いたJMRサイエンス取締役社長川島様、 我々の背中を支えてくれた家族、友人、支援いただいた全ての方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げ たい。 2010年11月吉日 慶應義塾大学 中村祐貴 1 上野由理 清水聰研究会2期生 奥住将洋 松下綾香 <目次> 1.情緒高・経済高タイプ ①―――はじめに 2.情緒高・経済低タイプ ②―――現状分析 3.情緒低・経済中タイプ 1.子供服の市場動向 4.まとめ 2.家計消費動向 ⑨―――結論 3.三世代の関係 ⑩―――今後の展望 4.まとめ ⑪―――おわりに ③―――定義 1.子供服の定義 (1)対象年齢 中村祐貴 (2)非耐久財 上野由理 2.親・子ども・祖父母の定義 奥住将洋 ④―――既存文献レビュー 1.清水聰の包括的消費者行動モデル 松下綾香 2.G.Waltersの消費者行動モデル 慶應義塾大学 清水聰研究会 子供服班 3.山田昌弘の世代間の依存関係分析 4.まとめ ① ―――はじめに ⑤―――新モデルの提唱及びセグメンテーション 1.新モデルの提唱 “ When you look at your life, the greatest (1)母親の意思決定プロセス (2)家族要因としての祖父母の介入 happinesses are family happinesses." アメリカの (3)新モデルの構築 心理学者、Joyce Brothersの言葉である。 2.Triangle Relationshipセグメンテーション 家族の幸せとは何であろうか。我々は本研究におい ⑥―――仮説立案 て「家族愛」をテーマに掲げ、愛に満ちた幸せな家族が ⑦―――仮説検証 日本の未来を活性化させることを目標に研究を進めて 1.調査概要 いく。 2.分析手項 「愛」、それが家族の素となる。初め夫婦とその親し (1)母集団の分割 かいなかった家族に、子どもが生まれ、夫婦が親とな (2)購買モデルの検証 り親が祖父母となると、その家族の愛は一層深みを増 (3)満足度の比較 す。生まれた子どもはその時点で、家族の中心に君臨 (4)分析ツール する。「子どもは大人の親である。」そんな言葉も存在 3.分析結果 するほど子どもはその家族にとってかけがえのないも (1)母集団の分割 のとなる。 (2)購買モデルの検証 ビジネスの視点から見れば、家族の中心となった子 (3)満足度の比較 どもには投資が集中する。特に近年の尐子化により、 ⑧―――新規提案 子どもは両親と2組の祖父母、計6つの視線を従来以上 2 に独占する。それはつまり子ども1人あたりのお財布金 レルブランドは上位 4 社合計で 303 億円から 457 億円 額増加を意味し、子供関連ビジネスは不況下の日本に へ、また後者の衣料品量販店は上位 2 社合計で 615 億 あって非常に魅力的な狙い目であるといえよう。 円から 863 億円へと売り上げを急拡大している(図表 さらに家族全体を購買に巻き込むことで、その家族 2)3。これらの企業では、カテゴリーごとにターゲッ が一体となり、より「愛」の溢れる家庭になるはずであ トを絞った商品戦略が成功していると見られる。この る。家族に「愛」が溢れれば、日本はもっと活気付くに ことから、子供服市場が成長するか否かは、企業の工 違いない。 夫次第と言えよう。 我々はその家族三世代関係を「Triangle ■図表―――1 Relationship」と名付け、そこに着目し「子供服」を対 子供服市場規模の推移(’04-’08) 象財として新たな購買モデルを構築、仮説検証を経て 販売戦略の提案、さらには三者間購買による「Triangle Relationship」の向上を狙いとする。 ②―――現状分析 1.子供服の市場動向 (出典:日本繊維新聞社【2010】『こども服白書 2010』) 現在、日本の子供関連産業を考える上で、尐子化の ■図表―――2 問題を切り離すことはできない。 大手アパレル・衣料品量販店売上高推移 総務省調査の平成 21 年 4 月 1 日現在の統計資料に よると、15 歳未満の人口は前年に比べ 11 万人尐ない 1714 万人で、昭和 57 年から 28 年連続の減尐となり、 過去最低を更新した。総人口に占める割合も 13.4%と なり、前年に比べて 0.1 ポイントの低下を示している1。 そのような状況下、子供服の市場規模はどのように 推移しているのだろうか。図表 1 に 2004 年からの市 場規模の推移を示した。08 年は 05 年 07 年に次いで 低い 6949 億円と推計される2。市場規模は 2004 年に (出典:各社公表データより第一生命株式部作成) 比べて 3%の減尐だが、前年比では 2%の増加となり 横ばい状態と言える。 また、最近の子供服市場は、対象とする子どもの年 だが、このような状況にありながら、着実に売り上 齢を細分化することで、子どもの成長や嗜好の変化に げを伸ばしている企業がある。それは主に高級ブラン よってめまぐるしく変わるニーズに、より応えようと ドの子供服を扱う大手アパレル各社と、大手スーパー する動きが高まっている。子どもの年齢を細分化する よりも更に下の価格帯の子供服を扱う衣料品量販店で とは、0~2 歳を「ベビー」、2~4 歳を「トドラー」、5~ ある。2001 年から 2003 年にかけて、前者の大手アパ 8 歳を「キッズ」、9~14 歳を「ローティーン」と区分す 3 ることである4。 さらに、最近は子どもに対しての消費を行うのは、 そして、細分化された市場のニーズを掘り起こし、 親だけではない。両親に加え、両祖父母や両親の兄弟 新たに市場に参入する企業が相次いでいる。特に、現 を含めた、子どもを取り巻く様々な人々が購買に関わ 在企業が今後最も強化する対象年齢層として、46.7% っている。つまり、子ども一人に対する投資金額は増 の企業が「ベビー」「トドラー」を挙げている (図表 3)。 しており、子供関連市場の更なる成長を予感させる。 以上より、我々は子供服、中でも「ベビー」 「トドラ それ故、両親以外の人々を如何に消費活動に参加さ ー」市場に焦点を当て、研究を進めていくこととする。 せるかが、子供服購買を促進するカギとなる。そこで 次節では、家計における子供服購買の状況について 我々は、特に祖父母という存在に焦点をあて研究を進 概観する。 める。両親の兄弟も購買に関わると前述したが、より ■図表―――3 子どもとの関わりが密であり、子どものためにお金を 今後特に強化する対象年齢層 使うのは、やはり祖父母であると考えるからだ。 次節では、我々が祖父母に着目する詳細な理由を含 め、親と祖父母、そして孫との関係を主に金銭的視点 から述べる。 ■図表―――4 世帯の 1 カ月子供向け支出 (出典:日本繊維新聞社【2010】『こども服白書 2010』) 2.家計消費動向 (出典:総務省「家計調査」より富国生 まず、家計では子供関連消費がどの程度行われてい ■図表―――5 るのか。総務省の「家計調査」より、世帯の 1 カ月子 世帯主の年齢階級別子供用品への支出(年間支出) 供関連支出について見ると、子供一人当たり向け支出 が世帯の消費支出に占める割合は増加傾向にあり、 2005 年は低下したものの、2006 年には 7.0%まで上 昇した(図表 4)。子どもにかける消費は増加傾向にあ ると言える。 また、子供服や玩具類、入学関連用品への支出を世 帯主の年齢階級別に示すと、どの世代も圧倒的に子供 服への支出が多いことがわかる(図表 5)。尐子化とは 言え、衣服の必需性は高いため、子供服市場のへのニ ーズが激減することは考えにくい。 (出典:総務省統計局「家計調査」) 4 にお金を使うことを惜しまない。また、子どもへの経 3.三世代の関係 済的援助を孫への出費という形で行うケースも増えて いる(山崎[2007])9。 単刀直入に言えば、祖父母世代にあたる団塊世代は ■図表―――6 金銭的に余裕がある。図表 6 は 2004 年度末の個人金 年代別個人金融資産残高(2004 年度末) 融資産 1416 兆円を年代別に分割することで求めた、 年代別個人金融資産残高である。2004 年度末では、個 人金融資産の 68.2%を 55 歳以上が保有しており、高 齢者に偏在していることが分かる。高齢者に偏在した 個人金融資産は、今後高齢世帯の増加に伴って、ます ますその偏在傾向を強めると考えられる。市場に資金 を流入させるためにも、高齢者が金融資産を自発的に 支出に回すことが重要となる5。 我々の研究においては、高齢者が保有する資産を、 注:日本銀行「資金循環勘定」、総務省「家計調査」などよ 子や孫に配分することが望ましいと考える。 り試算 朝日大学マーケティング研究所によると、既婚者が (出典:第一生命経済研究所) ■図表―――7 親から受ける贈り物や援助を金額換算すると、年間平 親から受けた贈り物や援助が、生活にどれだけ役に立 均 61390 円であった6。また、若い人ほど親からの援 っているか(性年代別) 助に依存した生活を送っている(図表 7)。そのような 贈り物や援助は、概ね親から積極的に行っている場合 が多い(図表 8)。このことから、親は子の結婚後も世話 を焼きたがるという親子関係がうかがえる。 さらに、内閣府の「国民生活選好度調(平成 16 年)」 によると、親が子どもの経済的な面倒を見てもよいと 思う期間は長期化している。 「親は子供がどの程度にな るまで経済的に面倒を見てもよいと思いますか」との (出典:レポセン「既婚者が受ける親からの援助に関するマ 問いに、 「義務教育の間」 、 「高校まで」、 「成人するまで」 ーケティングデータ」[2009]) と回答した人の割合は、1992 年の 42.8%から 29.4% まで減尐した一方、 「大学卒業・定職に就くまで」と回 答した人の割合は増加した7。 また、河合(1988)によると、高齢者にとって、子 供の巣立ち、職業生活からの引退、配偶者の死などに よって失われがちな役割が多い中で、祖父母役割は親 世代にとって新たに獲得された役割であるが故に重要 な意味を持つ。孫にとっても重要な役割を果たす8。 そして、祖父母は孫と過ごすことに喜びを感じ、孫 5 ■図表―――8 母がどのように介入するかをモデルを用いて検証する。 親から受けた贈り物や援助は、自分から親にお願いし そして、購買後の満足の大きさを比較し、新提案を考 たものか(性年代別) 察することとする。 ■図表―――9 子供関連の商品を購入する際、主に誰の意見で決めて いるか (出典:レポセン「既婚者が受ける親からの援助に関するマ ーケティングデータ」[2009]) 4.まとめ 子供服消費に関連する要因について、1 節で市場動 向を、2 節で家計の消費動向、そして 3 節で祖父母・ (出典:ハー・ストーリィ「女性の購買決定権」[2008]) 親・孫の三者の関係を述べてきた。以上より、子供服 購買の現状についてまとめる。 ③―――定義 尐子化という状況においても、子供服需要は一定数 が見込まれ、また子供関連消費には、祖父母と言う力 1.子供服の定義 強いサポート主体が存在する。だが、子供服など子ど もの日用品に関する購買決定権は、8 割以上が母親に ある(図表 9)。そのため、母親主導の子供服購買に、 本節では我々が対象財とする子供服について、(1) 如何にして祖父母を取り込むかが課題となる。しかし、 対象年齢、(2)非耐久財としての定義付けを行う。 単に母親と祖父母の二者による購買行動としてひとま とめにすることはできない。購買行動の背景に存在す (1)対象年齢 る家族関係は非常に多様で、親・子ども・祖父母の親 前章において述べたように、我々は子供服の対象年 密度や、同居・近居・遠居といった居住形態によって 齢を 0~4 歳とした。本頄ではその定義の詳細を示す。 異なるからである。 一般的に、子供服はベビー、トドラー、キッズ、ロ ーティーンの 4 つの年齢層に分類されることは前述し それより本研究では、家族関係や居住形態によって 家庭をセグメント分けした後、母親の購買行動に祖父 たとおりである。これらの年代における子どもは知能、 6 論理的思考能力などの発達速度が速く、消費者行動を 子供服購買においては、購買主体と消費主体が異な 研究する上でも「子ども」としてひとくくりとするこ る。我々の考えるTriangle Relationshipに照らすと、 とは避けるべきである。よって、我々は子供服の対象 親と祖父母が購買主体、子どもが消費主体となる。こ 年齢をその分類に沿って絞ることとした。 こでは、Triangle Relationship消費者行動における3 それを念頭に現状分析を重ねた結果、子供服業界に 主体についてそれぞれ定義づけを行う。 おいては、特にベビー・トドラー世代に注目が集まっ 前節で述べたように子供服の対象年齢を0~4歳とし ていることが判明した。(図表 3) たため子どもの対象年齢もそれに従うこととする。本 よって、本研究において我々は子供服の対象年齢を 節では購買行動における子どもの定義を示す。 ベビー・トドラー世代(0~4 歳)として定義する。 榎本(2004)によると、新生児や乳幼児を対象とし たこれまでの多くの研究は、乳児が高い対人的相互関 (2)非耐久財 係交渉能力を持つことを示してきた。しかし、子ども 本年度の各財定義要綱において、非耐久財は特に「想 は誕生の瞬間から周囲の人々の働きかけによく応え、 定対応年数 1 年未満」で「使用回数と期間が尐ない」 また自らも働きかけることができるが、始めからそれ ものと定義されている。衣類はその代表例として記載 がスムーズにできるわけではない。山本(1995)によ があるが、本頄では我々が考える子供服の非耐久財と ると、0~4歳児は身体攻撃などの非言語的で自己中心 しての定義を、子どもの成長速度と「おさがり」の2 的な自己主張が多く見られるためである。 点から論じる。 そして、高濱・渡辺(2007)によると、その非言語 1 点目として、我々が本研究で対象とする乳幼児は、 的で不明確な、洗練されない自己主張が母親の否定的 身体の成長速度が極めて速い。1 年間で身体のつくり 感情へと影響し、さらにその感情を介して権威的対処 が大きく変化するため、翌年の同じ季節には服が身体 10 に合わなくなる。よって子供服は「対応年数 1 年未満」 児も自我を持っているから自己主張をしているのだが、 の財であると考えられる。 親は宥めたり透かしたりおだてたりすることによって、 へ影響を与える。また、石川(2008)によると、乳 2 点目として、子供服においては「おさがり」が頻 乳児の主張を尊重しながら親の意向を納得させること 繁に行われ、それは服の使用期間と密接に関係する。 が出来ている。 おさがりが行われた時、その子供服は廃棄を免れ「耐 以上から、0~4歳児においては子どもの自己主張が 久」する。しかしそれを消費するそれぞれの子どもに そのまま親に受け入れられることは尐ないと考えられ とって、その服の「使用回数と期間が尐ない」のに変 る。 わりはない。さらに、尐子化や地域社会の衰退により 子どもが成長し、5,6歳になると説得、抗議などの言 おさがり自体が行われず、新規購買機会の増加も見込 語的な自己主張が可能になる(山本[1995])。言語的な自 まれる。 己主張が可能になると、子ども側の主張の意味や意図 以上の点より、 「想定対応年数1年未満」で「使用回 が、親側には把握しやすくなると考えられ(高湊・渡辺・ 数と期間が尐ない」という条件を満たす子供服は、非 坂上・高辻・野津[2007])、子どもの主張は親に受け入れ 耐久財として定義される。 られやすくなると考えられる。 また、石川(2008)によると、自己の対象化11、二 重性の理解12、自己制御13、他者視点14の知恵を獲 2.親・子ども・祖父母の定義 得し、内言語を使って自己説得が出来るようになり、 7 自己主張しながら譲れるところは譲る形で他人と交渉 1. し、折り合いを付ける社会性を身に着けるのである。 清水聰の包括的消費者行動モデル つまり、5歳以上の子どもにおいては、その主張は親 に受け入れられやすくなると考えられる。 まず消費者行動研究において、個人の消費者の意思 以上より、0~4歳児と5歳児以上では、主張方法の違 決定に至るまでのプロセスが、現在どのような状況に いにより子どもの主張が親に受容される程度が大きく あるのかを示している、清水 (1999)による包括的消 異なると推測できる。これは消費者行動を研究する上 費者行動モデルについて検討していく(図表 10)。この でも非常に大きな相違となるため、はっきりとした線 モデルは、個人の消費者が目標を立て、意思決定を行 引きが必要である。 い、最終的に購買し、それが次回購買に影響するまで 従って、我々は0~4歳の子どもの定義を、自分から の流れを示している。個人が意思決定していくまでの のニーズ発信がなく、買い与えられる立場の消費主体 流れは、大きくニーズの喚起、情報処理、態度形成、 であるが、買い与えられたもの及び購買主体について 選択の 4 つのプロセスからなる(清水[1999])。このモ 反応することは可能であるとする。 デルでは、以上の 4 つから成るプロセスと、それの詳 細説明の部分の 2 つに大別できる。 続いて親の定義を示す。前章で述べたように子供服 の購買主体の8割が母親である現状 (表9)を踏まえ、 このモデルで我々の研究の参考とした特徴的な点が 本研究においては親を母親に限定する。従って親の定 2 点ある。1 点目は、上記の 4 つの大きなプロセスで 義として、我々の定義する子どもの条件を満たした子 ある。そして 2 点目は、準拠集団が個人の消費者に影 を持ち、子の祖父母と共に子供服購買を行う子の母親 響を与える点である。 とする。 まず、1 点目の個人の意思決定プロセスについて述 同様に祖父母の定義として、我々の定義する子ども べる。プロセスは、大きくニーズの喚起、情報処理、 の条件を満たした孫を持ち、孫の母親と共に子供服購 態度形成、選択の 4 つで示される。消費者はニーズを 買を行う子の祖父母とする。 感じ、情報探索を行い、商品に対する態度を形成し、 最終的に選択行動へ導かれる。この選択とは、商品の 購買、サービスの消費を意味する。このモデルでは、 ④―――既存研究レビュー 消費者の外的要因に関する理論と包括的モデルの発展 及び消費者の内面を説明する理論の統合により示され 本章では、我々が研究を進めていく上で参考にした ている。消費者行動モデルは、時代の変化を取り入れ 既存研究について概観していく。そして、既存研究で る必要があり、清水の包括的消費者行動モデルは、時 は説明できない 部分を補填し、次章にて Triangle 代の移り変わりによる変化を含んで構築されている。 Relationship 消費者行動の新しいモデルを提唱する。 次に、2 点目の準拠集団が個人に影響を与える点に 我々の研究は既に前章までで述べたように、 「母親に ついて述べる。1 点目で示した、個人が行うこの一連 よる子どもへの購買に、祖父母が絡んできた場合の意 の意思決定プロセスは、個人を取り巻く環境や属性と 思決定プロセス」についてモデル化しようとしたもの 関連がある。消費者はデモグラフィック要因やライフ である。そこでまず、消費者行動論の既存の意思決定 スタイル要因によりセグメント化された何らかの準拠 モデルの中から検討し、本研究においてモデル化する 集団に属している。そしてその準拠集団が、個人の意 のに最適なモデルの探索から始めた。 思決定に大きな影響を与える。このモデルでは、特に 8 図表―――10 清水聰の包括的消費者行動モデル 出典:清水聰[1999]『新しい消費者行動』千倉書房 態度形成段階において、準拠集団の中でも消費者が購 を及ぼすと捉え、我々の研究に応用できる。さらに、 買に際して特に信頼を置く主観的規範が影響を及ぼす 準拠集団の持つ情報が個人の消費者の外部情報となる ことが説明されている。また、情報処理段階において 点から、祖父母の持つ情報が母親の情報探索に影響を も、準拠集団の持つ情報が外部情報として、個人の消 与えると捉えられる。しかし、母親の子供服購買に関 費者の外部情報になることも説明されている。 しては態度形成、情報探索以外の面でも準拠集団とし 我々の研究は、母親の購買プロセスに祖父母が与え ての家族つまり祖父母が影響を及ぼすことが考えられ る影響をひも解くことである。そのため、まず母親に る。このモデルでは、 「母親のニーズに祖父母が影響を よる子どもへの購買における意思決定プロセスは、こ 及ぼすのかどうか」、「母親が実際に購買する際に祖父 の包括的消費者行動モデルの大きな流れである、 「ニー 母が影響を及ぼすのかどうか」を見ることができない。 ズの喚起、情報処理、態度形成、選択」を採択できる 従って、我々の考える Triangle Relationship 消費者 と考えられる。またこのモデルで説明されている、個 行動は、既存の 1 つのモデルだけでは説明できないこ 人による態度形成に準拠集団の中の主観的規範が影響 とがわかる。そこで、新しいモデル構築の必要性があ を及ぼすという特徴的な点も採択できると考える。母 ると言えるだろう。新モデル構築のため、他の既存研 親による態度形成に、準拠集団としての祖父母が影響 究をレビューしていく。 9 る人々からのアドバイスや指導を積極的に求める場合 2.G.Walters の消費者行動モデル がある、と述べている。 我々の研究の Triangle Relationship 消費者行動で 柏木(1985)によると、消費者行動の鍵は個々人に は、以上の特徴を持つ G.Walters の消費者行動モデル あり、外部環境からの刺激が購買に影響を与えること の環境的決定要素として祖父母を、個人の消費者とし もある。従って、消費者行動には、個々人の内部的な て母親を当てはめて考えることが可能と言える。本研 意思決定の過程と、個人に対する環境的な影響要因の 究では母親による子どもへの購買に祖父母がどのよう 両方が重要になってくる。消費者行動変数は内部的変 に介入するのか、また母親側はどの程度祖父母側から 数と外部的変数の 2 つに大別することができる。そし の介入を求めているのか、といった事を探ることを目 て、内部的変数を基本的決定要素と呼び、外部的変数 的としている。そのため、個人の購買プロセスには環 を環境的決定要素と呼ぶ。基本的決定要素は、個人の 境が影響し、その個人の消費者もまた環境的要素にア 消費者の意思決定プロセスに直接的に影響し、環境的 ドバイス等を求めることが説明されている G.Walters 決定要素は間接的に影響している。この 2 つの要素に のモデルを参考にすることで、前節の清水の包括的消 関して、詳しく述べていく。 費者行動モデルだけでは説明できなかった、消費者の 基本的決定要素は、ニーズ、動機、パーソナリティ、 認識の 4 つに分けられる。ニーズは行動の大もとで、 ニーズにも家族が影響する場合もあることが説明でき る。 動機はニーズを意識させ行動のきっかけになるもの、 本節までで述べてきた既存研究は、個人の消費者が パーソナリティは人格であり、認識は感覚を通してあ ニーズを感じ、購買に至るまでのプロセスを説明する るものについての知識を持つことと定義される。 ものである。それとともに、その個人の購買プロセス 環境的決定要素は、家族、準拠集団、社会階層、企 に対して消費者の周囲の環境が影響を及ぼすというこ 業、文化の 5 つに分類される。家族的影響は、この 5 とを説明するものでもある。本研究の場合、個人を母 つの環境的決定要素の中でも最も強い影響を個人の消 親の子供服購買とし、周辺環境、準拠集団を祖父母と 費者に与えるといわれている。 捉える。そして家族の関係性が、それぞれへの影響や 以上の消費者行動変数を使った、G.Walters の消費 者行動モデルの特徴的な点について述べる。(図表 11) この消費者行動モデルの特徴的な点は、個人の消費 者が環境から多くの影響を受けることを説明している 購買への介入へ違いを生み出すと考える。そのため、 次節では「家族の世代間関係」について述べる。 図表 11 G.Walters の消費者行動モデル 点である。Walters(1974)によれば、環境は消費者が 特定の問題を認識していないときでさえ、常に消費者 に作用している。また、環境は態度の形成を助け、認 知の様式を設定し、ニーズを醸成し、刺激に先立って さえ動機づけを行なう。そして、特定の製品決定に直 接的に関与することもある。つまり、環境的決定要素 は、個人の消費者の購買決定のプロセスに常に影響を 与えるものである。Walters は環境の影響を受ける個 人の消費者側についても、消費者は環境を構成してい 出 典 : G.Walters [ 1974 ]『 Consumer 10 Behavior』 3.山田昌弘の世代間依存関係 機能的必要性の存在 (機能的必要を満たす主体の)優先項序 (機能的必要を満たす主体の)利用可能性 前節まででは、既存の消費者行動の理論から購買行 まず、機能的必要性は核家族で充足できなくなった 動を探ったが、本節では家族の世代間依存関係から購 場合、世代間行為が生起するきっかけとなる。これは、 買行動を探っていく。清水は消費者行動を捉える上で、 家族のライフステージや偶発事態などにより細分化さ 社会学や心理学など様々な分野からの学際的アプロー れるが、大きく経済的必要と情緒的必要に分類できる。 チをするべきだと述べている(清水[1999])。Triangle 経済的必要とは、家計維持、弱者(子ども、老人等) Relationship 消費者行動を研究するため、親、子ども、 の世話、家事、などが含まれる。一方情緒的必要とは、 祖父母の 3 世代関係を考察する必要がある。そこで、 電話や相互訪問によるコミュニケーション、一緒に外 家族心理学において世代間関係に言及した既存研究及 出や旅行へ行くなどのレジャー等が含まれる。 び 、山田 昌弘の世 代間依 存関係 の研究 を検討し、 Triangle Relationship を探る際、祖父母家族と親家族 Triangle Relationship 消費者行動の意思決定プロセ の機能的必要性の存在量を検討することで家族関係を ス解明のため、応用していく。 考察できる。 世代間関係の分析を扱った研究として、Bengtson 優先項序とは、ある機能的必要性が充足されないと (1979)の研究がある。山田(1985)によると、この研 き、まずどの主体が代行するかという規則である。優 究は、親夫婦―子夫婦の世代間関係を多くの次元に分 先項位は意識として存在する変数であり、親密度合い 割することで分析したものであり、大きくは、親夫婦 が影響を与える。これを世代間依存意識と呼ぶ。世代 ―子夫婦の類似性の測定、及び親夫婦―子夫婦間の現 間依存意識は、ある機能的必要性を充足する場合の優 実の相互作用の測定に分けられる。前者は、価値、意 先項位構造のある性質を表している(山田[1985])。意 識の世代間の伝達の問題で、Durkheim(1893)の機械 識として存在する親密度の高さが、家族をパートナー 的連帯概念15に対応し、後者は、援助、世話、レジャ として選択する際の項序となる。その項序が高いほど、 ー、コミュニケーションなどの相互作用の問題で、 世代間依存関係が高まる。 Durkheim(1893)の有機的連帯概念16に相当する。 利用可能性は、機能的必要が充足できない場合、実 しかし、Bengston の研究では、世代間の相互行為が 際に行えるかどうかを測るである。これは、経済的な 機能的必要性を持つことを考慮していない。また、日 デモグラフィック要素が用いられることが多い。本研 本と欧米家族では異なった性格を持つ。そのため、山 究では、祖父母家族と親家族の経済的結びつきの関係 田(1985)によると世代間関係の量的側面を強調し、 からこの変数の測定が可能であると考える。 質的側面を軽視する、また実態を強調し制度的側面を 以上の 3 つの変数を用いて、相互行為の量を調べる 軽視する Bengston の分析では、現代日本の家族を分 ことで、世代間関係である Triangle Relationship を 析するには不十分である。 規定することができる。 そこで、山田(1985)は、世代間関係の強さを表現 4.既存研究のまとめ する指標としては、現実に行われている相互行為の量 (情緒的にどう感じているかも含む)を調べるだけで 十分であるとし、世代間依存行為が起こる条件として 前節までで、購買プロセスの研究と家族関関係を規 次の 3 つの変数を挙げている。 定する研究を検討した。その結果、清水の消費者行動 11 モデルから個人の意思決定プロセスの説明はできるこ ースとして採用する。 とがわかった。しかし、家族(祖父母)が個人の消費 この意思決定プロセスを本研究における新モデルに 者にどこまで影響を及ぼすのかは、1 つの既存モデル 当てはめた場合、 「ニーズ」は子供服を欲しい、買いた からは説明できないことがわかった。 いと思う気持ちにあたる。お下がりや古着などの中古 そこで、清水のモデルと Walters のモデルを組み合 品ではなく、子どもに新しい服を着させてあげたいと わせ、周辺環境の影響に関する部分を補う必要性があ 思う親は尐なくないと考えられる。特に第一子である る。また、祖父母からの金銭的援助を既存のモデルか 場合、子どもへの思い入れも強い可能性がある。 らは考慮できていない。 情報処理は「情報探索」に置き換え、子供服につい 従って、我々の研究する Triangle Relationship 消 ての情報をネットや雑誌などで探索したり、他人に意 費者行動は既存のモデルだけでは説明しきれない。そ 見を求めたりアドバイスを参考にしたりする行動とす こで、新しいモデルの必要性がある。また、家族をセ る。本研究では、情報探索時の母親の子供服への関与 グメンテーションし、それぞれの家族タイプ別の意思 度は考慮せず、情報探索行動の有無に着目する。 決定プロセスの特徴を導き出すためにも新モデルの提 「態度」は情報探索の末に購買する子供服を最終決 唱が必要と考えられる。次章にて、我々の考える新し 定することと規定する。過去の購買経験に基づく子供 いモデルの提唱をする。 服の好みや評価なども態度に含むとする。 そして、選択とは商品の購買、サービスの消費を示 しているため、本研究の新モデルにおいては選択を「購 ⑤―――新モデルの提唱およびセグメンテー 買」に置換する。また、実際に子供服を使用、消費す ション る主体は子どもであるため、新モデルにおいて「購買」 は金銭を支払う行為として規定する。その際、購買行 1. 新モデルの提唱 動を前提としているため、非購買は考慮しない。 以上の考察より、「ニーズ」「情報探索」「態度」「購 一般的に子供服の主な購買者と考えられるのは母親 買」という流れの意思決定プロセスモデルを構築する である。そこで本節では、Triangle Relationship に基 (図表 12)。 づく子供服購買における母親の意思決定プロセスモデ ■図表―――12 ルの構築を試みる。 母親の意思決定プロセスの購買モデル Triangle Relationship を考慮するにあたり、母親の ニーズ 意思決定プロセスへの祖父母の介入は必須であると考 情報探索 態度 購買 えたため、それを加味したモデルを構築する。 (1)母親の意思決定プロセス (2)家族要因としての祖父母の介入 第一に、母親の意思決定プロセスを中心とした購買 本研究において、子供服へのニーズを感じる主体と モデルを構築する。子供服購買における母親の意思決 して、母親と祖父母の両方が想定される。家庭環境や 定プロセスとして、清水(1999)の提唱する包括的消 居住形態、親密度によっては親の子供服購買に積極的 費者行動モデルより、ニーズの喚起、情報処理、態度 に参画してくる祖父母もいると考えられる。 形成、選択という個人の意思決定プロセスの流れをベ 研究当初は母親の意思決定プロセスと祖父母の意思 12 決定プロセスを並行させ、相互に関連しあう購買モデ ■図表―――13 ルを検討していたが、試行錯誤の末同時に 2 つの主体 祖父母の介入を一部組み込んだ購買モデル を設定することは困難であると考え断念した。それゆ え、上記の母親の意思決定プロセスの購買モデルの各 ニーズ 情報探索 態度 家族要因 家族要因 主観的規範 購買 変数に祖父母の介入を組み込むことに決めた。 本研究の購買モデルは母親の意思決定プロセスが中 心であるため、祖父母のニーズは買い与えの提案とい う形で母親の「ニーズ」に働きかけるとする。 G.Walters(1974)の提唱する消費者行動モデルでは、 ニーズ、動機等の基本的決定要因に対して影響を与え 本研究では準拠集団のうち祖父母に焦点を当てるた る環境決定要因が示されている。環境決定要因として め、母親の態度に影響を与える主観的規範を祖父母に は家族、社会、文化の要因が挙げられているが、本研 限定して考える。 以上より、図表 1 のモデルに「家族要因」と「主観 究では環境決定要因のうち家族要因を「ニーズ」に影 的規範」としての祖父母を組み込む(図表 13)。 響を与えるものとして抽出する。 そして G.Walters(1974)は、個人の消費者が環境 を構成する人々から情報を得る場合があることも述べ (3)新モデルの構築 ているため、 「情報探索」へ影響を及ぼす家族要因も設 前頄では母親の「ニーズ」と「態度」への祖父母の 定する。また、清水(1999)も情報処理段階において、 介入を組み入れたが、 「情報探索」と「購買」の時点で 準拠集団の持つ情報が個人の消費者の外部情報になる も祖父母が介入する場合が考えられる。そこで、情報 ことを述べている。 探索と購買への祖父母の介入もニーズに倣って家族要 清水(1999)は「態度」に影響を与えるものとして 因として設定する。 「主観的規範」を提示している。主観的規範とは消費 また、第 2 章 3 節の現状分析において、祖父母から 者の行動に影響する社会的影響である。準拠集団が主 の援助に依存した生活を送っている親が多く(図表 7)、 観的規範となり、個人の消費者行動における態度に影 そのような贈り物や援助は、概ね親から積極的に行っ 響を及ぼす。準拠集団とは個人の行動に影響を与える ている場合が多い(図表 8)ことが判明している。この 人々の集団のことを指す。清水 (1999)は、個人が帰 ことから、現代における祖父母と親の経済的な関係は 属する準拠集団の中では、家族が意思決定プロセスに 非常に密接なものであると考えられる。 最も大きい影響を与えると述べている。また、 親が買いたいと感じたものに対して祖父母が金銭的 Fishbein と Ajzen(1980)は拡張 Fishbein モデルを提 援助をすると考えると、祖父母自身が買いたいと感じ 示し、状況特定的態度と主観的規範は購買意図を形成 た子供服に対して自身が代金を負担せずすべて親に払 すると考えた。意思決定プロセスにおける態度と購買 わせるというのは考えにくい。つまり、親との経済的 の間に位置するのが購買意図であるが、新モデルにお 結びつきがかなり強い場合、祖父母が金銭的援助の形 ける「態度」は商品の最終決定と規定するため、購買 で必ず介入するという購買パターンも考えられる。 意図は態度に含めて考える。よって態度に主観的規範 よって、我々はこれまで構築した購買モデルに「態 が影響を及ぼすと規定できる。 度」から「金銭的援助」への矢印を組み込むこととし た。 13 2.Triangle Relationship セグメンテーション モデルとしての分かりやすさを考慮し、家族要因に 各々当てはまりの良い具体的な名称を与える。まず、 「ニーズ」に影響を与える家族要因は、祖父母による 本節では親、子ども、祖父母の3者の関係である 買い与えの「ニーズ発信」とする。そして母親が祖父 Triangle Relationship のセグメンテーションを行 母のニーズを受信すると、それが子供服を買いたいと う。3 世代の相互依存関係をセグメントするうえで、 思う動機となる。 山田(1985)の提唱する世代間依存行為を説明する変 「情報探索」に影響を与える家族要因としては、祖 数を利用する。山田 (1985)は変数として、機能的必 父母による子供服の購入場所やブランドなどの助言や 要性の存在、優先項序、利用可能性の3つを挙げてい 意見が考えられるため、 「アドバイス」とする。母親と る。そのうち機能的必要性は経済的必要と情緒的必要 祖父母と一緒に購買をする場合、両者が話しながら子 に分けられる。 供服を選ぶ場面を思い描ける。また、母親単独で買い 我 々 は 縦 軸 、 横 軸 の 2 軸 を 設 定 し 、 Triangle に行く場合も、祖父母のアドバイスを参考に購買する Relationship を 4 つにセグメンテーションする(図表 ことがあると考えられる。 15)。その際、世代間依存関係を測るためには、2 軸の 「態度」に影響を与える主観的規範も、購買商品の うちに山田の挙げる 3 変数をすべて取り入れる必要が 最終決定時における、祖父母から親への「アドバイス」 ある。そこで我々は、縦軸を利用可能性を含む経済的 と見なして置き換える。最終的に買うか迷っていた子 必要、横軸を優先項序を含む情緒的必要として設定し 供服を、祖父母の一言で買うことに決めたり、逆に買 た。その詳細を述べていく。 3 変数の 1 つ、機能的必要性のうち、経済的必要は うのをやめたりした経験を持つ母親は尐なからずいる と考えられる。 祖父母による親家族への金銭的援助や家事・育児の援 「購買」に影響を与える家族要因は、祖父母による 助などの必要性を示す。一方情緒的必要は、電話やメ 子供服代金の一部分または全額の支払いを想定し、 「金 ールでの会話による親と祖父母のコミュニケーション、 銭的援助」とする。 祖父母から孫への関心、愛着などを示す。 以下に、我々の研究における新モデルである 例えば情緒的必要と経済的必要が共に高い 「Triangle Relationship 消費者行動モデル」を提唱す Triangle Relationship では、祖父母と親家族の交 る(図表 14)。 流が盛んで、経済的結びつきも強いと考えられる。 3 変数の 2 つ目である優先項序は、世代間依存意識 ■図表―――14 Triangle Relationship 消費者行動モデル として存在する変数であり、世代間の親密度と密接な 関係をもつ。親密度は世代間のコミュニケーション頻 親 ニーズ 度や関心、愛着度合いで測定できる。これは前述した 情報探索 態度 情緒的必要の尺度と重複するため、本研究において優 購買 先項序は親密度として置き換え、情緒的必要の尺度に 含めることとした。 ニーズ発信 アドバイス アドバイス 3 つ目の利用可能性は、世代間依存行為の必要が生 金銭的援助 じた場合、実際に相手に頼ることが地理的に可能であ 祖父母 るかどうかという尺度である。これは、日常的な家事・ 育児の援助度合いで測定することができる。親の家と 14 祖父母の家が地理的に近ければ、祖父母が親の家庭の 正の影響を与える 家事を手伝うことが可能であり、地理的に遠ければほ 仮説 6:祖父母の「アドバイス」は親の「情報処理」 ぼ不可能となる。家事・育児の援助の要素は前述した に正の影響を与える 経済的必要の尺度に含まれており、よって利用可能性 仮説 7:祖父母の「アドバイス」は親の「態度」に正 は経済的必要に含めることが可能であると考えた。 の影響を与える ■図表―――15 仮説 8:祖父母の「金銭的援助」は親の「購買」に正 Triangle Relationship セグメンテーション の影響を与える 続いて、4 タイプのセグメントを比較した際、親の 購買プロセスへの祖父母の介入ポイントが異なること を想定し仮説 9 を立案する。 経済的必要 仮説 9:セグメントごとに親の購買プロセスが異なる 情 緒 的 必 要 そして、各セグメントにおいて 3 者の満足が異なる ことを想定し仮説 10 を立案する。 仮説 10:セグメントごとに親・子ども・祖父母の購買 後満足が異なる この 4 タイプのセグメントごとに、母親の子供服購 上記の仮説に基づき、次章から分析により検証をし 買において祖父母が介入するポイントが異なり、更に ていく。 3 者の満足度も異なることを想定し、次章で仮説を立 案する。 ⑦―――仮説検証 1.調査概要 ⑥―――仮説立案 本章において、前節で構築した購買モデルより以下 ■図表―――16 の仮説を提唱する。 アンケート調査の概要 まず 4 タイプのセグメントごとに、購買モデルのパ ス図に沿った仮説を 1~8 まで立案する。 仮説 1:親の「ニーズ」は親の「情報処理」に正の 影響を与える 仮説 2:親の「情報処理」は親の「態度」に正の影響 を与える 調査手法 インターネットリサーチ 調査対象 0~12 歳の子どもをもつ親 サンプル数 300 名 有効回答数 300 名 調査期間 10 月 22 日~11 月 5 日 対象とする財 子供服 仮説 3:親の「態度」は親の「購買」に正の影響を与 える 本研究は、株式会社ジェイ・エム・アール生活総合 仮説4:親の「態度」は祖父母の「金銭的援助」に正 研究所の協力のもと、インターネットリサーチによる の影響を与える アンケートを行った。調査対象は、0~12 歳の子ども 仮説 5:祖父母の「ニーズ発信」は親の「ニーズ」に をもつ母親とし、子どもが 0~4歳だった時の子供服 15 購買について回答してもらった。調査期間は 10 月 22 我々の研究では、セグメントごとの購買パターンを 日から 11 月 5 日の 15 日間で、有効回答数は 300 名で 解明することに留まらず、購買後の親・子ども・祖父 あった(図表 16)。 母の三者の満足度を比較することで、今後の販売戦略 母親に、子供服購買時の祖父母との関わりを回答し に繋げることが目的である。そのため、6 段階のリッ てもらうにあたって、祖父母の定義は、自分の両親か カート尺度にもとづく質問を得点化し、分散分析によ 義父母かではなく、子供服購買に関して最も関わりの り平均値の差を比較することにより、セグメントごと ある祖父母を想定して回答を依頼した。 の満足度を検証する。 2.分析手項 (4)分析ツール 母集団の分割、満足度の比較は、株式会社 IBM の 統計パッケージ「PASW statistics18」を使用し、購買 (1)母集団の分割 手法:因子分析・クラスター分析 モデルの検証は、株式会社 IBM の統計パッケージ 山田昌弘の世代間依存関係理論に基づき、家族関係 「Amos18.0」を使用した。 を「経済的必要」と「情緒的必要」の 2 軸で分割する。 3.分析結果 詳細は、5 章を参照されたい。 具体的には、家族関係に関する設問 11 頄目を因子 分析にかけ、「経済的必要」と「情緒的必要」の 2 つ 本節では、前節で述べた(1)~(3)の分析の検証 の因子が導かれるかを検証する。因子抽出においては 結果を提示する。 主因子法、回転はバリマックス回転を用いる。質問頄 目の尺度は、頻度に関する 6 段階のリッカート尺度を (1)母集団の分割 分析手法で述べたように、家族関係に関する設問 11 用いた。そしてその因子得点をもとにクラスター分析 をし、家族関係を分類する。 頄目を因子分析にかけ、2 つの因子が抽出されるかを 検証した。 分析の結果、固有値 1 以上という条件を満たす 2 つ (2)購買モデルの検証 手法:共分散構造分析 の因子が抽出された。図表 17 より、第一因子は「ご 親が子供服購買に至るまでのプロセス、またその過 両親があなたの家庭にお小遣いをくれることがある」 程における祖父母の関わり方を明らかにする。アンケ や「買い物をする際、ご両親がお金を出してくれるこ ートの質問頄目は、6 段階のリッカート尺度を用いた。 とがある」や「あなたの家庭の冠婚葬祭費用をご両親 本研究は、家族関係に焦点を当てた研究であるため、 が一部負担することがある」という頄目の負荷量が高 クラスター分析により分類した家族関係ごとの、意思 いため、祖父母と親・子どもの金銭的な結びつきを導 決定過程を探る必要がある。そのため、共分散構造分 く、 「経済的必要」の因子だと考えられる。一方、第二 析の多母集団同時分析により、セグメントごとの購買 因子は、 「あなたとご両親は直接または電話、メールで プロセスを解明する。 会話をしている」や「あなたとご両親はお互いの話を する」や「ご両親はお祝い事などのイベント時にお子 (3)満足度の比較 さまと一緒に過ごしたり、連絡をくれる」という頄目 手法:分散分析 の負荷量が高いため、祖父母と親・子どもの日常的な 16 コミュニケーションを表す「情緒的必要」の因子だと 解釈できる。 以上より、母集団分割の軸となる、 「経済的必要」と 「情緒的必要」の 2 つの因子が想定通りに抽出される 結果となった。 ■図表―――17 因 子分析 の結果( 主因子 法、バ リマッ クス回転) 17 次に、因子得点をもとに、クラスター分析を行った。 ■図表―――18 我々は当初、 「経済的必要」と「情緒的必要」をそれぞ クラスター分析の結果 れ高低で分け、4つのクラスターができると仮定した。 しかし、実際に4つのクラスターに分割したところ、 「情 緒的必要」の軸による高低は顕著な差が見受けられた が、 「経済的必要」の軸の高低では明確な分割が行えな かった。また、ある1つのクラスターにおけるサンプル 数が58名となり、後の共分散構造分析に耐えかねる数 だと判断したため、母集団を4つではなく3つのクラス ターに分割することが妥当と考えた。 図表18に分析の結果を提示する。 「情緒的必要」が高 いと分類された集団は「経済的必要」の軸でも高低に 分けられた。一方、 「情緒的必要」が低いと分類された 集団は、 「経済的必要」の軸では高低どちらにも分布す るため、中間位置に属すると考える。 したがって、クラスター1は情緒的必要も経済的必要 も共に高い集団であり、クラスター2は情緒的必要が低 く、経済的必要は高いとも低いとも言えず中間に属す る集団、そしてクラスター3は、情緒的必要は高いが経 済的必要は低い集団と解釈できる。 今後の記述の簡略化のため、クラスター1を「情緒 高・経済高」型、クラスター2を「情緒低・経済中」型、 クラスター3を「情緒高・経済低」型と名付ける。 各集団のサンプル数はそれぞれ、「情緒高・経済低」 型が96名、 「情緒低・経済中」型が115名、 「情緒高・経 済低」型が89名となった。 本来仮定していた4つの集団を抽出することはでき なかったが、2軸の高低による分割は行えたため、家族 関係のタイプ分けをするという我々の目的は十分に達 成されると言えよう。 18 図表―――19 検証モデルの潜在変数と観測変数 ■図表―――20 多母集団同時分析の検証モデル (2)購買モデルの検証 る。 本頄では、前章で仮説として提唱した購買モデルの 各潜在変数を導くための観測変数の設定に関しては、 検証を行う。前頄で分類した3つの母集団について、そ アンケート頄目からそれぞれ2つの頄目を採用した。親 れぞれの購買プロセスの特徴を明らかにするため、共 の「ニーズ」に関しては、アンケート頄目Q5-4を観測 分散構造分析の多母集団同時分析を用いて検証する。 変数としてモデルに組み込む。 なお、パス図において、 「二―ズ」 「情報探索」 「態度」 また、潜在変数の尺度の整合性を測るため、信頼性 「購買」と記される変数は親の購買プロセスについて 分析を行った。分析の結果、各潜在変数のα係数は を表し、「二ーズ発信」「アドバイス1」「アドバイス2」 0.672~0.947の数値をとった(図表19)。祖父母の「ニー 「金銭的援助」と記される変数は、親が子供服 ズ発信」のα係数が0.672となり若干低い値を示したが、 を購入する際の、祖父母の介入の仕方を表すものであ 0.5を下回る数値ではないため問題はないと判断し、全 19 仮説 1:親の「ニーズ」は親の「情報処理」に正の影 体の尺度の整合性は高いと言える。 図表20に、我々が構築した購買モデルをパス図で示 響を与える した。実際に多母集団同時分析を行った結果、共分散 仮説 2:親の「情報探索」は親の「態度」に正の影響 構造分析におけるパス係数の推定には最尤法が用いら を与える れ、反復16回において最適化計算は正常に終了した。 仮説 3:除外 しかし、上記のモデルでは、我々が設定した親の購 仮説4:親の「態度」は祖父母の「金銭的援助」に正 買意思決定プロセスに関する仮説のうち、2つが棄却さ の影響を与える れた。1つ目は、仮説3:親の「態度」は親の「購買」 仮説 5:祖父母の「ニーズ発信」は親の「ニーズ」に に正の影響を与えるというもので、3つの母集団すべて 正の影響を与える において棄却された。2つ目は、「情緒高・経済高」型 仮説 6:祖父母の「アドバイス」は親の「情報探索」 に関してのみ、仮説1:親の「二―ズ」は親の「情報探 に正の影響を与える 索」に正の影響を与えるという仮説が棄却された。 仮説 7:祖父母の「アドバイス」は親の「態度」に正 さらに、モデルの適合度に関して、GFIが0.757、AGFI の影響を与える が0.648、RMSEAは0.086という値になり、モデルとデ 仮説 8:祖父母の「金銭的援助」は親の「購買」に正 ータの当てはまりは低いと考えられる。 の影響を与える 仮説 9:セグメントごとに親の購買プロセスが異なる そのため、棄却された理由を検討したうえで、修正 仮説 10:セグメントごとに親・子ども・祖父母の購買 を加えたモデルを検証する必要があると判断した。 仮説3について、親の「態度」から「購買」への正の 後満足が異なる 影響がないということから、子供服購買に祖父母が関 仮説 11:親の「二―ズ」は祖父母の「金銭的援助」に 与する場合、親は必ず祖父母からの金銭的援助を求め 正の影響を与える るのではないかと仮定する。したがって、仮説3を除外 以上の仮説を検証するため、図表 20 のモデルに修 し、親の「態度」は祖父母の「金銭的援助」に正の影 正を加えたモデルを図表 21 に提示する。具体的な修 響を与えるという仮説4のみを検証することとする。 正点は前述の通り、親の「態度」から親の「購買」へ また、仮説1については、棄却されたのは「情緒高・ のパスを除外し、親の「二―ズ」から祖父母の「金銭 経済高」型のみであることから、セグメント特有の要 的援助」へのパスを加える点である。 因が関係していると考えられる。当該集団の特徴は、 また、祖父母の「ニーズ発信」と「アドバイス」と 他の2つの集団と比較し、祖父母と親の経済的結びつき 「金銭的援助」は、同じ環境決定要因として相関があ が最も高いことである。さらに、情緒的な結びつきも ると考えるため、3 つの潜在変数に相関を仮定する。 高いことから、子供服に対するニーズを感じた親は、 さらに、修正指数をもとに、誤差変数の共分散を設定 自分で情報探索をするというよりも、真っ先に祖父母 した。共分散を設定した誤差は、いずれも環境決定要 に金銭的な援助をしてもらうことを優先し、祖父母も 因である祖父母に関する潜在変数につくものであるた それに応えるのではないかと考えた。したがって、親 め、誤差間には相関があると考える。 の「二―ズ」は祖父母の「金銭的援助」に正の影響を なお、検証モデルの潜在変数と観測変数については、 与えるという仮説を、仮説11として新たに加える。 修正前のモデルと変更点はない(図表19)。 以上、購買モデルの変更点を踏まえ、以下に再度仮 説をまとめる。 20 図表―――21 多母集団同時分析の検証モデル(修正後) あると言える17。 多母集団同時分析を行った結果、共分散構造分析に おける最尤法が用いられ、反復15回において最適化計 さらに、修正前モデルとの適合値を比較すると、修 算は正常に終了した。 正前のGFIおよびAGFI値がそれぞれ0.757,0.648だった モデルの全体的な評価に関しては、χ2検定量が のに対し、修正後のGFI,AGFI値は0.871,0.802となり、 730.608、χ2検定の自由度(DF)が312となり、χ2/DF RMSEA値も0.086から0.047へと適合度の高い数値にな は2.342となり、Bollenの提唱する5.00よりも低い値が った。つまり、修正後モデルの方が、モデルとデータ 得られた。また、モデルの説明力を示す適合度指標 が適合した、良いモデルであると言えるだろう。 (GFI)は0.871、モデルの説明力と安定性を示す自由 したがって、GFI、AGFI、RMSEAなどの数値より、 度調整適合度指標(AGFI)は0.802という数値となり、 モデルがデータとよく適合していることが示された 一般的に望ましいと言われている0.9以上に届かない (図表22)。 ながらも近似する結果を得た。さらに、0.05未満の場 新モデルの適合が検証されたため、以下では母集団 合モデルの当てはまりが良いとされる平均二乗誤差平 ごとのモデルの分析結果を示し、家族関係による購買 方根(RMSEA)は0.047となったことから、モデルと プロセスの違いを検証する。 データの適合度は高いと解釈できる。データとモデル ■図表―――22 の差を示す残差平方平均平方根(RMR)も0.108と低い モデルの全体的評価 値を示したため、残量は尐ないと言えよう。 また、モデルの複雑さとデータの適合度とのバラン スを表す赤池情報量基準(AIC)の値が、修正前の 1127.214から1066.608となった。複数のモデルを比較し た場合に、赤池情報量基準の値が小さいモデルほど優 れていると判断できるため、修正後モデルに妥当性が 21 図表―――23 「情緒高・経済高」型の検証結果 「情緒高・経済高」型は、検証の結果、2点の特徴 の「金銭的援助」への正の影響が検証されたことであ が見られた。1点は親の「二―ズ」から親の「情報探 る。仮説11を設定する際にも述べたが、 「情緒高・経済 索」へのパスの有意確率が0.883となり、棄却される点 高」型の特徴は、その名の通り、祖父母と親の関係が である。修正前のモデルにおいても、親の「二―ズ」 情緒的にも経済的にも高い家族関係だということであ から親の「情報探索」が棄却されたことは既に述べた る。そのような関係においては、親が祖父母に対して が、新モデルにおいてもやはり棄却となった。適合度 金銭的援助を求めやすく、また、祖父母も親のために から判断し、新モデル全体の妥当性は高いことがわか 援助をしてあげたいと思う関係にあると考えられる。 っているため、 「二―ズ」から「情報探索」が棄却され また、親が情報探索をしないということは、親が子供 ることは、当該集団特有の要因が影響していると判断 服購入に至るまでの過程を祖父母に一任しているので することが妥当である。 はないかと考える。 また、2点目の特徴は、親の「二―ズ」から祖父母 22 ■図表―――24 「情緒高・経済低」型の検証結果 検証の結果、親の「二―ズ」、「情報探索」 、「態度」 、 うことである。 「情緒高・経済低」型は、経済的な結び 「購買」という意思決定プロセスについて、仮説1は有 つきが弱いため、前述した「情緒高・経済高」型とは 意水準5%で支持、仮説2・4は有意水準0.1%で支持され 異なり、金銭的援助を求めることに消極的だと考えら た。また、親の意思決定プロセスに祖父母が介入する れる。 かどうかについても、仮説7は有意水準1%で支持、仮 また、祖父母の「アドバイス」が親の「情報探索」 説5・6・8は有意水準0.1%で支持された。 に与える影響が0.8と相対的に高い数値を得たことと、 「情緒高・経済低」型の特徴は、仮説11の、親の「二 当該集団は祖父母と親・子どもの情緒的結びつきが強 ―ズ」から祖父母の「金銭的援助」への正の影響が棄 いことから、親が子供服を購入する際に、祖父母の意 却されたことである。二―ズを感じた親が、情報探索 見を参考にしたり、共に買いに行くなどの行動をとり を経ずに祖父母へ金銭的援助を求めることはないとい やすいと考える。 23 ■図表―――25 「情緒高・経済中」型の検証結果 「情緒低・経済中」型は、分析の結果、仮説1のみ有 また、アンケート調査における、「ご両親が、あな 意水準5%で支持され、仮説2・4・5・6・7・8・11は有意水準 たのお子さまの服の購入に関わった時に、嬉しかった 0.1%で支持された。親の購買意思プロセスにおいても、 ことや良く思わなかったことなどご自由にお書きくだ 祖父母の介入においても棄却される仮説はなかった。 さい。」という自由回答の記述によると、「祖父母が買 親の「二―ズ」から祖父母の「金銭的援助」への直 ってくる子供服の趣味が自分と合わない」などのネガ 接のパスが通り、また親が「情報探索」、「態度」とい ティブの意見が、他の集団よりも多く見受けられた。 う過程を経て祖父母の「金銭的援助」へと繋がるパ このことから、情緒的な結びつきが弱いという母集団 スも有意であることから、当該集団は、先に述べた「情 であるが故に、祖父母と親が互いの趣味や価値観を分 緒高・経済高」型と「情緒高・経済低」型の両者の購 かりあえていないのではないかと思われる。 買プロセスの特徴を持ち合わせていると言える。 したがって、 「情緒低・経済中」型の人々に対しては、 24 子供服購買を通じて、祖父母、親、子どもの情緒的な (3)満足度の比較 結びつきを高めることが出来るようなプロモーション 本頄では、購買後の親・子ども・祖父母それぞれの 戦略が望ましいと考える。 満足度を母集団ごとに検証する。満足度を測るために、 以上の多母集団同時分析の結果により、3つの母集団 3主体についての満足に関する質問を母親に対して聞 ごとに、購買プロセスに相違があることが明らかとな いた。アンケートは、各主体について2つの設問を設け った。図表26に、検証で棄却された影響を除いた、最 た。質問内容は次の通りである。祖父母の満足につい 終的な購買モデルを母集団ごとに示す。ここにおいて、 ては、 「お子さまの服の購入後、ご両親は嬉しそうだっ 仮説9は支持されたとする。 た」、 「お子さまの服の購入後、ご両親は満足していた」 の2頄目、子どもの満足については、「お子さまは、そ の服を気に入っていた」、「お子さまは、その服を着て ■図表―――26 いる時嬉しそうだった」の2頄目、親の満足については、 母集団ごとの購買モデル 「あなたはご両親がお子さまの服の購買に関わったこ とが嬉しかった」、「あなたは納得のいく買い物ができ 「情緒高・経済高」型 二ーズ発信 た」の2頄目である。質問の尺度は6段階のリッカート 二ーズ 尺度を用い、1~6点に得点化して満足度を測る。 アドバイス1 情報探索 アドバイス2 態度 金銭的援助 購買 各母集団の満足を検証する前に、全体の満足度の分 布をヒストグラムで表した(図表27)。祖父母・子ども・ 親の満足度の平均値は、それぞれ高い値を示すことが 分かる。 ■図表―――27 全体の満足度の分布 「情緒高・経済低」型 二ーズ発信 二ーズ アドバイス1 情報探索 アドバイス2 態度 金銭的援助 購買 「情緒低・経済中」型 二ーズ発信 二ーズ アドバイス1 情報探索 アドバイス2 態度 金銭的援助 購買 25 次に、母集団ごとに3主体の満足度を測るための前段 階として、主体ごとに設けた満足度を測定するための2 つの設問を足し合わせ、1つの変数に変換する。6段階 のリッカート尺度を得点化して足し合わせるため、得 点は最小値2,最大値12となる。満足度に関する設問を 足し合わせて1つの変数とすることで、満足を多面的に 測定することができると考える。 そして、母集団ごと、3主体の満足度の得点の平均値 の差を見るために、分散分析を行い検証する。 図表28より、祖父母の満足度の平均値は、 「情緒高・ 経済高」型が10.3958点、 「情緒低・経済中」型が8.9739 点、 「情緒高・経済低」型が9.4831点という結果を得た。 同様に、子どもの満足は、 「情緒高・経済高」型が10.0208 点、「情緒低・経済中」型が9.1652点、「情緒高・経済 低」型が9.4719点となり、親の満足は、 「情緒高・経済 高」型が9.9063点、「情緒低・経済中」型が8.4609点、 「情緒高・経済低」型が9.1933点となり、母集団ごと に満足度の差が見られた。 また、各主体ごとに、母集団間に満足度の平均値に 有意な差があるかどうかについて検証したところ、大 部分が5%水準で有意となった(図表29)。 祖父母の満足度に関して、 「情緒低・経済中」型と「情 緒高・経済低」型との差の有意確率は0.07、親の満足 についても「情緒高・経済高」型と「情緒高・経済低」 型との差の有意確率は0.053となり、5%水準で有意と は言えないが、0.05に近い値をとるため差があると判 断できよう。ただし、 「情緒低・経済中」型と「情緒高・ 経済低」型の子どもの満足度の差の有意確率は0.252と なったため、有意な差とは言えない。しかし、その一 点以外では、各主体とも母集団ごとに満足度の平均値 には有意な差があることが検証されたと言える。 したがって、仮説 10 は支持されるが一部棄却とする。 26 ■図表―――28 母集団ごとの3主体の満足度の平均値 ■図表―――29 母集団ごとの3主体の満足度差の有意性 満足度は、祖父母・子ども・親の3主体全てにおいて、 満足度が高いことから、必ずしも経済的な結びつきが 「情緒高・経済高」型が最も高く、次いで「情緒高・ 強いほど満足度が高まるとは言えない。したがって、3 経済低」型、 「情緒低・経済中」型の項となった。つま 主体の満足度を高める最大の要因は、情緒的な結びつ り、情緒的な結びつきが強いほど3主体の満足度は高ま きが高いことだと考えられる。 る傾向にある。一方、経済的な側面から考えると、 「情 我々の研究の目標は、子供服市場を活性化すること 緒高・経済低」型の方が「情緒低・経済中」型よりも であるが、更には、良好な家族関係を導くことでもあ 27 る。子供服購買を通じて得られる満足が、良好な家族 購買に携わっている様子を見て自分も嬉しくなる」と 関係を導くことを目標に、前頄で検証された母集団ご 回答した親も多くいたことから、親密度の高さが感じ との購買モデルに則し、次章にて新たな戦略を提案す られる。よって、祖父母自身のニーズ発信に対して好 る。 意的な対応をとる親が多いと考えられる。そこで、親 のニーズに影響を与える祖父母からのニーズ発信を強 化するためのプロモーション戦略を考案する。 ⑧――新規提案 親が情報探索を行わず、ニーズから金銭的援助へパ スがのびることから、祖父母自身が子供服を選択して 本 章では 、以上の 分析結 果を踏 まえて Triangle いる可能性が高いと考えられる。また、自由回答デー Relationship による子供服購買を促進する新提案を述 タのうち、祖父母が関わったことのデメリットとして べる。 は親と祖父母の好みの相違、子供服のサイズ違いなど 我々は経済的必要と情緒的必要の 2 軸によって、親 が挙げられている。それゆえ、祖父母が子供服を選択 と祖父母の相互依存度を測り、Triangle Relationship するにあたり、親の好みや子供の服のサイズを把握し に基づき母親を 3 つのセグメントに分類した。本研究 ている必要がある。 は子供服 1 企業ではなく子供服業界全体の視点から進 そこで、祖父母が親の好みや子どもの情報、さらに めたものである。そこで、子供服市場を活性化させる はトレンドを踏まえた商品選択をし、親のニーズを形 にあたり、業界全体として行える戦略を考案する。そ 成しやすく、また不満足を解消するようなプロモーシ れゆえ、4Pである製品、価格、流通、プロモーショ ョンを提示する。 ンのうち、プロモーションに焦点をあてたアプローチ そのために、我々は「マゴナビ」という祖父母、母 方法を行う。以下 3 つのセグメントごとに、各セグメ 親向けの子供服情報 Web サイトの開設を考える。(図 ントの購買プロセスに沿った有効なプロモーション案 表 30)インターネットで子供服に関するホームページ を提示する。 にアクセスすると、現在人気の子供服ブランド、コー ディネート等が提示される仕組みである。口コミ掲示 1.情緒高・経済高タイプ 板もあり、祖父母同士や祖父母と母親間での情報、意 見交換の場になると考えられる。 情緒的必要、経済的必要ともに高いセグメントの特 具体的に述べると、会員登録をすることでサービス 徴は 2 点ある。1 点目は親のニーズから情報探索への を利用できるシステムであり、子供服のブランド検索、 パスが棄却されたこと、2 点目はニーズから金銭的援 ショップ検索、セール等のイベント情報、子供服関連 助へのパスが存在したことである。 のトピックス、子ども(孫)に関する知識などの閲覧、 よって、このセグメントは「ニーズ発信」、 「ニーズ」 、 使用が可能である。さらに、このサイトを通して祖父 「金銭的援助」、「購買」という購買プロセスを辿るこ 母に対し、孫と過ごす新しいライフスタイルの提案、 とが確認された。 浸透を狙う。他にも、 「子供服広場」という機能も併せ また自由回答データから、 「いつもより高価な服を買 持つ形式にする。許可したもの同士のマイページを訪 ってくれて嬉しかった」など祖父母からの金銭的援助 問しあうことが可能で、それぞれのユーザーの嗜好や を有難く感じている親が多いことが判明し、経済的必 好きなブランド等がわかる仕組みとなる。そこではお 要の高さが伺えた。さらに、 「両親が嬉しそうに子供服 気に入りブランドの登録や子どものデータの編集が可 28 能で、祖父母が親のお気に入りブランドや子どもの成 トレンドを紹介し、親世代と祖父母世代のファッショ 長具合、好きな色などを閲覧することができる。また、 ンセンスの不一致をなくすことが目的である。祖父母 現在親が所有している子供服の写真やデータをアップ を対象読者としているが、祖父母と親が雑誌をともに ロードすれば、祖父母は親の在庫との重複を避けた子 購読しコミュニケーションをとる形が理想である。 供服の選択が容易になる。マイページにはメッセージ ■図表―――31 を送受信するレターボックスもあり、祖父母と親の意 祖父母のための子供服雑誌「Sense」 思疎通がより円滑になる。祖父母が親のニーズを把握 して子供服を選択することで、より親のニーズを喚起 しやすくなると考えられる。 ■図表―――30 「マゴナビ」トップページ 2.情緒高・経済低タイプ 総務省の通信利用動向調査によると、高齢世代にお 情緒的必要が高く経済的必要の低いセグメントの特 けるインターネット利用率は平成 21 年末 36.9%であ 徴は 2 点ある。1 点目はニーズから金銭的援助のパス り前年の 28.1%から増加している。そのうち 65~69 が棄却されたこと、2 点目は祖父母の金銭的援助から 歳代は 58.0%と前年の 37.6%から大幅に増加してお 親の購買への影響が相対的に低いことである。よって り、今後も利用率の増加が見込まれる。しかし、イン 他のセグメントと比較して金銭的援助度合いが低いと ターネット利用率の全体平均は 78.0%であり、他の世 いえる。一方自由回答データでは、 「祖父母が好みの子 代に比べると利用度は低い。 供服を買ってくれる」、「孫の意見を尊重してくれる」 そこで、インターネットを利用していない祖父母に などの回答がある。 向けては紙媒体で「Sense」という子供服雑誌を創刊 このことから、親密度は高く、ともに子供服購買を して対応する(図表 31)。「Sense」では祖父母に最新の 行うものの経済的つながりは弱い関係であることが伺 29 える。よって祖父母の親への金銭的援助を増加させ購 ■図表―――32 買へと導きやすくするプロモーションを提案する。 ポイントカードの相違 そこでこのセグメントに対する戦略として、小売店 一般のポイントカード 舗における店頭プロモーションを提案する。各子供服 PointCard 専門店が個別にもつポイントカード制度に着目し、そ 祖父母のポイントカード 対象者:祖父母以外の顧客 色・デザイン: 各社が使用している既存 のもの こに一般のポイントカードと差別化を図った祖父母専 PointCard 対象者:祖父母 色・デザイン:一般とは違い、やや落ち着 いた色やデザインを採用 活用方法: ポイントの貯め易さ 貯めたポイントによる祖父 母の興味を引く特典 三世代で訪れた場合の リンク機能 特典 活用方法: 各社が行っている既存の活 用方法を用いる 用のポイントカードシステムを導入する(図表 32)。 一般のポイントカードとしては、対象者を祖父母以 外の一般消費者とし、祖父母ポイントカードは祖父母 を対象とする。 具体的には、まず 1 点目として祖父母カードは一般 カードよりも同じ金額でたまるポイント数を多く設定 3.情緒低・経済中タイプ する。2 点目としてそれぞれのカードでポイントと交 換する特典を変え、一般カードは割引や商品券、祖父 母カードは例えば箱根旅行などそれぞれの興味を引く 情緒的必要が低く、経済的必要がやや低いセグメン 付加価値を持たせる。それにより祖父母の子供服購買 トの特徴は購買プロセスのパスが全て通る点である。 にお得感を持たせ自分のカードを使って購買に参加し また、自由回答データには、 「祖父母との関わりが薄い」 たいという意欲を喚起する。 など負の意見が多く見られた。ここから、このタイプ 3 点目として、両カードのリンク機能を考える。例 の祖父母と親は世代間購買を行うこと自体が尐ないの えば祖父母と親が共に連れ添って店舗に行った場合、 ではないかということが予想される。 祖父母カードのポイントは金額分よりさらに加算され、 同時に一般カードにも一定数のポイントが貯まる。 よって、このセグメントへのアプローチとしては共 同購買の機会そのものを増加、定着を狙う。そこで我々 祖父母のみで購買に出向いた場合には、祖父母カー はセグメント 1,3 に向けた新提案を応用し、祖父母 ドを店員に預けるとリンク機能により親の購買商品履 に世代間子供服購買への興味を持たせ購買に至らせる 歴や消費動向が即座に割り出され祖父母に伝えられる。 までの一連のプロモーション流れを提示する。 それにより祖父母の情報探索を補助し、容易に迷うこ 祖父母が購買を行わないのは自身が子供服を孫に買 となく商品選択に至らせることでその場での購買につ い与えるという発想自体がないからではないかと考え、 なげる。 第一段階として三世代間購買を周知させ社会的にメジ さらに、親、子ども、祖父母三世代で購買に訪れた ャーな消費行動とさせることを狙う。 場合両カードのポイントが 3 倍になる等の特別な待遇 具体的にはまず、年 1、2 回子供服のイベントを開 を設ける。それにより、三世代で子供服購買する機会 催する。 「三世代オシャレコレクション」と称し、モデ の増加も見込み、祖父母が金銭負担する状況をより多 ルや一般人応募者によるファッションショーを開催す く作り出す。 る。芸能人の三世代ゲストも招き、話題性を高めパブ リシティ効果を狙うと同時に大規模広告でプロモーシ ョンを行う。同日にブランド子供服フェアを開催し、 三世代で来場するとブランド服を安く買えるようにし 30 て販売を促進する。会場には有名ブランドのブースが 子供服専門店や百貨店からクーポン付きのハガキ DM 並び、試着して気に入ったコーディネートで親、子ど が届くようにし、祖父母を店舗へ向かわせる動機を作 も、祖父母で記念写真を撮ることも可能にする。この る。ここでは子供服購買についてさらに一歩踏む込み、 イベントを通して三世代の情緒的必要を高め親密度を 祖父母に親の嗜好を聞いたうえで子供服を購買するの あげることで、祖父母の親と孫への関心をより喚起し、 が望ましいことへの理解を促すメッセージを添えた 孫に何か買い与えたい気持ちを呼び起こす。 DM にする。 また、テレビのCM広告により「孫の日」の認知活 これらのプロモーション戦略を行うことで、孫の服 動を行う(図表 33)。10 月の第三日曜日は「孫の日」で を買ってあげたいというニーズを祖父母に感じさせる あり、1999 年に日本百貨店協会が制定したものである。 とともに、購買においては親のニーズや好みを理解す これを利用し、毎年一貫して 10 月に宣伝を行うこと ることの重要さを伝える。 で年月をかけて「孫の日」を世の中に浸透、定着させ 第二段階としては、これまでのプロモーションによ ていくことを目標とする。 り子供服購買を動機付けられた祖父母の、情報探索を たいていの百貨店で売られている子供服を「孫の日」 支援することである。前述したとおり、一番望ましい キャンペーンの中核に据え、全国の子供服専門店とも のは親、孫のことをよく理解したうえで商品選択し購 協力し、祖父母が孫に子供服を送る日として習慣づけ 買することである。そのために、情緒高・経済高タイ を狙う。広告メッセージとしては祖父母に向け、孫と プで提案した「マゴナビ」「Sense」の利用、購読を、 関わりを持つ 1 つの手段として子供服購買という選択 DM に URL を添えるなどして奨励する。 肢する内容のものを考えた。テレビ CM は高齢者世代 最後に第三段階としては、子供服購買についてのノ に人気のテレビ番組が放送されている時間帯に流す。 ウハウを身につけた祖父母をいかに実際に購買させる ■図表―――33 かがポイントとなる。ここでは情緒高・経済低タイプ 孫の日のテレビ CM で提案したお得なポイントカード制を採用することで 購買につなげる。 これら三段階のプロセスを踏むことで情緒低・経済 中タイプの祖父母を子供服購買に向かわせそれを習慣 化させることができると考える。 4.まとめ 以上、3 セグメントそれぞれの特徴を踏まえた 購買への新提案を述べた。しかし購買に至ったと してもその後の三者の満足には大きな差がある 長期プランのプロモーション戦略として孫の日の宣 ことは前章で示した。3 セグメントの中では情 伝を挙げたが、日頃から祖父母による子供服購買を定 緒・経済的必要がともに高いタイプの三者の満足 着させるために孫の日以外にも祖父母にアプローチを が一番大きく、これは親と祖父母の交流が多いほ かける必要がある。 ど満足が大きいことを示す。 つまり親・祖父母間の交流を増やせば満足の向 そこで、孫の誕生日や正月など他のイベント時にも、 31 上につながり、そしてそれは本章で提案したプロ て家族愛を向上させ再購買へと導くことでさらに家族 モーションにより実現される。三者が満足を感じ の絆が深まっていくという理想的なスパイラルを形成 れば子供服の再購買につながり、再度三社間交流 することである。そのスパイラルが将来的に日本の未 の増加、親密度の向上へと続く、家族愛のスパイ 来を活性化させることにつながる。この目標の達成に ラルが形成されるのである。 は、本研究で解明した、セグメントごとに異なる購買 プロセスを踏まえた販売戦略をとることで実現可能で あると考える。 ⑨――結論 従来の消費者行動論の研究でこのような最終目標を 設定し研究したものは例がない。斬新な着眼点を軸に 我々は今回 Triangle Relationship に着目し研究を さまざまな学問分野と視点を取り入れ、他の財での世 進めてきた。尐子高齢社会である現在の日本において 代間消費でも応用可能性のある本研究は、今後の消費 は、比較的資産のある高齢者を積極的に購買行動に参 者行動研究ならびに家族関係学問、また実務分野へも 加させるような戦略が重要となる。高齢者の消費を考 多くの示唆を与えることができたと考える。 える上で最も伸びしろのある市場の 1 つが子ども関連 消費である。この分野での消費者行動の研究としては、 ⑩――今後の展望 親子二世代間消費、夫婦二者間消費などがよく研究さ れている。しかし親子に加えて祖父母まで含めた三世 代間消費の研究はあまり例がない。これからの国内消 本研究を通して、家族三世代消費についてはまだま 費において欠かせない祖父母という要素を含めた点で、 だ検討すべき要素が多く、非常に奥深いものである印 本研究は時代にマッチした新規性をもつものであると 象を受けた。本研究において最大の課題はアンケート いえる。 を母親にしか取れなかったことである。三者の関係性、 また本研究は、家族三世代関係のタイプの違いによ 満足を測る上で母親の主観に頼るかたちになってしま り購買プロセスにも明らかな違いがあることを解明し ったのは今後の大きな課題である。 た。ビジネスの視点で見れば家族タイプごとにプロモ 加えて、本モデルの他財での汎用性を立証するため ーションをかける有効なポイントが異なることを示し、 には、他財を用いた実証分析を行う必要があることも 今後企業はより効率的に効果的なプロモーションを展 課題のひとつである。 開できるようになる。その点で本研究は非常に実用的 また我々は初め、多様な意思決定プロセスに対応す で実務的なものであるといえる。 るため、ニーズ、情報処理、態度、購買それぞれにつ さらに、家族三世代関係のタイプの違いにより購買 いて主体が交代し、子どももモデルに含めたより複雑 後の満足にも明確な差が生じることが明らかになった。 な三者間の購買プロセスを想定していた。しかし予測 それぞれのセグメントごとに満足、不満足の種類が異 サンプル数の不足、時間的制約、文字数の問題などか なり、それはたいていセグメントの特徴と密接にリン らよりシンプルな購買モデルに改変した。 クしていた。それぞれで異なる満足内の要因を理解し、 同様の理由から、親と祖父母の養育態度、子どもの セグメントごとに販売戦略を練ることでより効率的に 性格、父方母方祖父母での相違、同居・近居・遠居な 消費者満足の向上を図ることができる。 どのデモグラフィック要因といった世代間消費に影響 最後に本研究の最終的な目標は、子供服購買を通し を与えると思われる要素を割愛し、我々のもっとも明 32 らかにしたかった問題に絞り研究を進めた。今後は、 http://www.nire.or.jp/file05.html 列挙した要素を含めた更に深い三世代間消費研究が望 高濱裕子 渡辺利子「子どもの反抗・自己主張とそれに まれる。 対する母親の感情および対処 : 2歳と3歳との比較」 『お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要』 p4:15-25 ⑪――おわりに 第一生命経済研究所『ジュニアファッション市場の動 向』 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/0311 以上、我々の半年間にわたる研究を述べてきた。当 初思い描いていた研究と異なる部分もあったが、非常 _a.pdf に興味深い考察の得られる研究であると思う。本研究 富国生命『尐子化でも盛り上がる子ども向け市場』 は最終的に家族愛の向上を目的とするという、消費者 http://www.fukoku-life.co.jp/economic-information/r 行動論文としてはある種異質なテーマを掲げてきた。 eport/download/report55_11.pdf しかしそれこそ日本の未来活性化に直結するもので、 第一生命経済研究所『団塊マネーの追跡、高齢者貯蓄 今後さらに深い研究が望まれよう。そして本研究がさ の行方』 まざまな方の目に触れ、なにか尐しでも良い影響を与 総務省「平成 21 年通信利用動向調査」 えることがあれば我々一同幸いである。 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0507 b.pdf ハー・ストーリィ[2008]『女性の購買決定権』 参考文献 http://www.herstory.co.jp/press/research/200811/dec ision_maker.html 清水聰[1999]『新しい消費者行動』千倉書房 柏木重秋[1985]『新版 レポセン[2009]『既婚者が受ける親からの援助に関す 消費者行動』白桃書房 るマーケティングデータ』 Émile Durkheim[1893] 『 La Division du Travail http://www.reposen.jp/2816/4/66.html Social』(田原音和訳『社会分業論』青木書店) 榎本博明[2004]『家族心理学』プレーン出版 柏木恵子[1978]『親子関係の心理』有斐閣新書 佐藤眞子[1996]『乳幼児期の人間関係』培風館 山田昌弘[1985]「世代間の依存関係分析」,『家族研究 年報』pp40-51 Glenn Walters[1974] 『 Consumer Behavior 』 Homewood 日本繊維新聞社『こども服白書 2010』 山本愛子[1995] 「幼児の自己調整能力に関する発達 的研究―幼児の対人葛藤場面における自己主張 解決方略について―」『教育心理学研究,p43: 42-51』 石川丹[2008]「反抗期の子どもの心の理解と対応」 『楡 の 会 発 達 研 究 セ ン タ ー 報 告 そ の 17 』 33 補録:アンケート 34 35 36 37 1 日本繊維新聞社『こども服白書 2010』による 2 日本繊維新聞社『こども服白書 2010』による 日本繊維新聞社『こども服白書 2010』による 第一生命経済研究所「ジュニアファッション市場の動向」 2 3 3 第一生命経済研究所「ジュニアファッション市場の動向」 による (http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/0311_a.p df) 4 第一生命経済研究所「ジュニアファッション市場の動向」 による 5 第一生命経済研究所「団塊マネーの追跡、高齢者貯蓄の行 方」による (http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0507b.pdf) 6 レポセン「既婚者が受ける親からの援助に関するマーケテ ィングデータ」による (http://www.reposen.jp/2816/4/66.html) 7 富 国 生 命「 尐子 化で も盛り上 がる 子ど も向 け市 場 」 ( http://www.fukoku-life.co.jp/economic-information/repor t/download/report55_11.pdf) 8 榎本博明[2004]『家族心理学』プレーン出版による 9 富国生命「尐子化でも盛り上がる子ども向け市場」による 10 「腹が立って本気で怒ってしまう」「外に出したり、別 室に関じ込めたりする」「子どもが折れるまで初めの要求を し続ける」といった親の権威を行使するような行動 11 思いを正確に言葉で語ることが出来れば、自分のつぶや きを聴いて自己を対象化できるようになる 12 二つの行動プランを並列的にすること 13 本音と建前の区別が分り、本音を抑制して折り合いをつ けることができる。自分に言い聞かせることができる。 14 自発的に謝罪できる 15 機械的連帯概念とは、類似から生まれ、個人を社会に直 接結びつける、ひとつの独自の連帯 16 有機的連帯概念とは、異質で独自の個性を持つが、分業 により個人を社会に結びつけることによる連帯 17 田部井明美[2006]『SPSS 完全活用法共分散構造分析 (Amos)によるアンケート処理』東京図書 参照 38