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Epstein-BarrVirus陽性膿胸関連悪性リンパ腫の一例 - J

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Epstein-BarrVirus陽性膿胸関連悪性リンパ腫の一例 - J
361
Kitakanto Med J
2011;61:361∼366
Epstein-Barr Virus 陽性膿胸関連悪性リンパ腫の一例
要
塚
本
圭, 今
井
久
雄, 石
原
真
一
田
村
峻太郎, 黒
岩
陽
介,
口
清
一
徳
永
真
理, 小
林
裕
幸, 鈴
木
荒
井
泰
道
豊
旨
症例は 81 歳男性. 肺結核の既往あり陳旧性結核性胸膜炎との診断で近医にて経過観察されていた. 2010 年
12 月下旬より咳嗽・胸部不快感・食欲不振が出現し, 2011 年 1 月 7 日近医を受診した. 胸部単純写真にて浸
潤影を認め肺炎が疑われ当院に紹介入院した. 胸腹部造影 CT にて右胸腔内に巨大な空洞性病変を認め,薄く
造影される壁は不整な結節状に肥厚し内腔に液体貯留を認めた.腫瘤は空洞壁に
転移性腫瘍・悪性胸膜中皮腫・原発性肺癌などが
胸の合併を
って認められ,多発膿瘍・
えられた.組織学的検索などの精査を実施しつつ肺炎・膿
え抗生剤投与を施行していたが全身状態悪化にて死亡した. 死亡後, 病理解剖を施行し膿胸関
連悪性リンパ腫と診断された. 組織学的には核内に EBER (EBV encoded small RNAs) 陽性所見を伴うびま
ん性大型 B 細胞性リンパ腫の所見を示しており, EB ウイルスの感染を確認できたことより発症に EB ウイ
ルスが関与した典型的な一例と
えられた. 経過が長い慢性膿胸の存在する患者に胸部不快感, 肺炎様症状,
炎症反応, 胸壁腫瘤が認められる場合, 膿胸関連悪性リンパ腫の存在を念頭に入れる必要があると
若干の文献的
えられ
察を加えて報告する.(Kitakanto Med J 2011;61:361∼366)
キーワード:慢性膿胸, リンパ腫, 膿胸関連悪性リンパ腫, EB ウイルス
緒
症
言
例
患
者:81 歳
PAL) は慢性膿胸に合併する悪性リンパ腫で, 結核性胸
主
訴:咳嗽, 胸部不快感, 食欲不振
膜炎, 結核性慢性膿胸や肺結核症に対する人工気胸療法
既往歴:肺結核 (20 歳代), 糖尿病 (60 歳代より), 狭心症
術後の患者が数十年を経過した後に膿胸腔に隣接して発
(60 歳代より)
症する悪性リンパ腫である. 多くはびまん性大細胞型 B
家族歴:特記すべきことなし
リンパ腫 (diffuse large B cell lymphoma; DLBCL) であ
喫煙歴:なし
り, 近年 Epstein-Barr virus との関連も指摘されている.
飲酒歴:機会飲酒
膿胸関連リンパ腫 (pyothorax-associated lymphoma;
今回, 我々は膿胸関連悪性リンパ腫の一例を経験した.
男性
アスベスト暴露歴:なし
膿胸関連悪性リンパ腫は稀であり, 本症例は死亡後病理
現病歴:2002 年右胸部異常影にて胸部 CT を施行した
解剖を施行し若干の文献的
ところ陳旧性結核性胸膜炎 (Fig.1) とのことで近医にて
察を加えて報告する.
経過観察されていた.その後,糖尿病・狭心症にて近医で
加療していた. 今回, 2010 年 12 月下旬より咳嗽・胸部不
1 群馬県伊勢崎市連取本町12-1 伊勢崎市民病院内科
2 群馬県伊勢崎市連取本町12-1 伊勢崎市民病院放射線科
3 群馬県伊勢崎市連取本町12-1 伊勢崎市民病院病理部
平成23年5月20日 受付
論文別刷請求先 〒372-0817 群馬県伊勢崎市連取本町12-1 伊勢崎市民病院内科 今井久雄
膿胸関連悪性リンパ腫の一例
362
快感・食欲不振が出現し, 2011 年 1 月 7 日近医を受診し
回/min, 胸部 : 右肺野呼吸音減弱. 心雑音なし. 右前胸部
た. 胸部単純写真にて浸潤影を認め, CRP10mg/dl と高
に弾性
値であり, 肺炎が疑われたため当院を紹介受診し精査加
なし.
療目的に入院した.
入院時検査所見
入院時現症:体温 : 35.8℃, 血圧 : 104/63mmHg, 脈拍 :
AST・γGTP・BUN の軽度上昇,LDH・CRP 上昇を認め
100 回/min・整, SpO2: 99 % (room air), 呼吸回数 : 16
た. 腫瘍マーカーに異常を認めない.
の腫瘤を触知する. その他特記すべき異常所見
(Table1):血算に異常なし. T-Bil・
喀痰抗酸菌塗沫検査:陰性
Table 1 入院時検査所見
Hematology
Chemistry
WBC
6400 /μl
T-P
Hb
14.4 g/dl
Alb
Ht
43.3 %
T-Bil
RBC
4.73×10 /μl
AST
Plt
18.7×10 /μl
ALT
Tumormarker
LDH
CEA
3.0 ng/ml
ALP
CYFRA
3.2 ng/ml
y-GTP
ProGRP
33.7 pg/ml
BS
HbA1c
BUN
Cr
Na
K
Cl
CRP
喀痰細胞診:炎症性細胞のみで明らかな異型細胞を認め
6.5 g/dl
2.5 g/dl
1.65 mg/dl
53 IU/l
34 IU/l
648U/l
341 U/l
61 IU/l
162 mg/dl
7.5 %
37 mg/dl
1.1 mg/dl
135 mEq/l
4.5 mEq/l
100 mEq/l
10.73 mg/dl
ない.
胸部単純写真 (Fig.2):右肺野の透過性低下あり. 気管
の右側偏位および niveau を伴った空洞形成あり.
胸腹部造影CT (Fig.3):右胸腔内に巨大な空洞性病変
を認める. 壁は不整な結節状で肥厚しており造影で壁の
最外層が薄く造影されている. 内腔に niveau を認め, 横
隔膜・肝臓・前縦隔・右胸壁にも同様の病変が多発して
いる.
経
過:肺炎・膿胸疑いにて,SBT/ABPC 3g×2/日で加
療を開始した. 胸腹部造影 CT にて右胸腔内に巨大な空
洞性病変を認め, 薄く造影される壁は不整な結節状に肥
厚し内腔に液体貯留を認めた.横隔膜直下・肝・前縦隔・
Fig.1 胸部 CT (2002 年 3 月)
右胸膜が一部肥厚し被包化された胸水, 縦隔の右側偏位を認める. 陳旧性結核性胸膜炎の所見.
Fig.2 胸部単純写真 (入院時)
右肺野の透過性低下あり. 気管の右側偏位および niveau を伴った空洞形成あり.
363
Fig.3 胸腹部造影 CT (入院時)
右胸腔内に巨大な空洞性病変を認める. 壁は不整な結節状で肥厚しており造影で壁の最外層が薄く造影
されている. 内腔に niveau を認め, 横隔膜・肝臓・前縦隔・右胸壁にも同様の病変が多発している.
↓は経皮針生検を施行した部位
Fig.4 右肺・横隔膜剖検所見
A. 右胸腔内に変性壊死性物質が充満し, 一部は肺内, 胸壁,肋間筋,横隔膜,肝臓へと浸潤性に増殖してい
た. B・C. 腫瘍様結節では中心部に壊死性傾向を伴い辺縁部に腫瘍組織が残存していた.
Table 2 胸水検査所見
T-P
LDH
Glu
ADA
CEA
CA19 -9
CYFRA
ProGRP
Hyaluronic acid
を施行し,膿性・混濁した胸水を 200ml 採取した.胸水は
2.1 g/dl
23280 U/l
0 mg/dl
228.0 U/l
207.5 ng/ml
2.2 U/ml
2.4 ng/ml
2.0 pg/ml
59000 ng/ml
滲出性で, 外観は膿性・混濁・黄色であり, 糖の低下,
CEA・ADA の上昇を認めた (Table2). 胸水細胞診は多
数の好中球を認めるのみで悪性細胞を認めなかった. 右
前胸壁皮下の腫瘤性病変に対して経皮的針生検を施行し
たが明らかな異型細胞浸潤を認めなかった. 肺炎・膿胸
の合併を
え抗生剤投与にて加療を継続していたが, 1
月 20 日より呼吸困難が出現し心肺停止となったため蘇
生処置を施行し, 人工呼吸器管理下に全身管理を開始し
右胸壁にも辺縁のみ造影される低濃度腫瘤を認め, 一部
た.全身造影 CT・血液検査を施行したが心肺停止の明ら
は胸腔と連続しており,多発膿瘍・転移性腫瘍・悪性胸膜
かな原因を認めず, その後徐々に状態が悪化し同日死亡
中皮腫・原発性肺癌などが鑑別に挙げられた. 胸腔穿刺
した. 病理解剖を承諾されたため, 病理解剖を施行した.
364
膿胸関連悪性リンパ腫の一例
Fig.5 右前胸部腫瘤剖検所見
A. 前胸壁には胸部 CT にて→で示す部位に腫瘤形成を認める.
B. 組織学的には右肺・横隔膜病理所見と同様の腫瘍組織を認めた.
C. 免疫組織学的には B 細胞マーカーである CD20 陽性でありびまん性大型 B 細胞性リンパ腫の所見
を認める.
D . in situ hybridization 法で核内に EBER 陽性所見を伴うびまん性大型 B 細胞性リンパ腫の所見を認
める.
Fig.6 肝臓剖検所見
A. 横隔膜を通し連続性に上面より腫瘍の浸潤を複数認める.
B. 顕微鏡所見では腫瘍部 は壊死状態であり, 一部圧迫萎縮状態の肝組織との間に異型リンパ球の層
状残存像を認める.
剖検所見 (Fig.4, 5, 6):右胸腔内に変性壊死性物質が充
満し, 一部は肺内, 胸壁, 肋間筋, 横隔膜, 肝臓へと浸潤性
に増殖していた. 腫瘤様結節は中心部に壊死性傾向を伴
張不全, 高度な肺炎が
えられた.
察
い辺縁部で残存していた. 組織学的には B 細胞マーカー
膿胸関連悪性リンパ腫は, 約 30 年の経過の後に慢性
である CD20 陽性であり in situ hybridization 法で核内
膿胸患者の約 2.2%に発症する特徴的なリンパ腫として,
に EBER 陽性所見を伴うびまん性大型 B 細胞性リンパ
1987 年 Iuchi らが報告した疾患群であり多くが本邦の報
腫の診断であった. 経過から膿胸関連リンパ腫と
告であり, 外国の報告例は非常に稀である.
えら
れた. 直接死因としては胸腔内への腫瘍の浸潤と肺の拡
西山ら が
まとめた 53 例では男女比は 43:10 であり, ほぼ全例に
365
肺結核または結核性胸膜炎の既往が認められた.
に経過が長い慢性膿胸の存在する患者に胸部不快感, 肺
PAL の 初 発 症 状 と し て, Nakatsuka ら の 報 告 で は
炎様症状, 炎症反応, 胸壁腫瘤が認められる場合, 膿胸関
57%に胸背部痛, 43%に発熱, 40%に胸壁腫瘤や胸壁隆
連悪性腫瘍, 特に PAL の存在を念頭に入れる必要があ
起が認められたとしている. 本症例でも胸部不快感およ
ると
えられる.
び右前胸壁に隆起を認めた. PAL は経過中に膿胸腔の拡
大を呈することが多いと報告されている.
結
本症例でも
語
2002 年と今回の胸部 CT と比較すると膿胸腔拡大所見
膿胸関連悪性リンパ腫の一例を経験したので, 文献的
を認めている.
察を加えて報告した.
PAL の診断においては, 生検標本による病理診断が必
文
要である. 組織型は Iuchi らの報告した 34 例のうちでは
献
1 例を除くすべてが B 細胞型であった. 本症例もその所
1. Iuchi K, Ichimiya A, Akashi A et al. Non-Hodgkin s
見とよく合致していた. Aozasa は, 膿胸壁では胸膜側の
lymphoma of the pleural cavity developing from long-
組織は胸水と接する所で慢性炎症を起こしており, ここ
standing pyothorax. Cancer 1987; 60: 1771-1775.
でリンパ球が腫瘍化し増殖していると推測している. 発
生起源については Fukayama らは B リンパ球に EB ウ
イルスが感染して不死化し慢性膿胸患者の免疫不全を背
景に増加, 腫瘍化していると指摘している. また, Fukayama らは膿胸関連リンパ腫において血清 EBV VCA
IgG, IgA 抗体が上昇すること, 組織に EB ウイルスが認
められることを示している. 本症例では血清抗体価は未
測定であるが, 組織にて in situ hybridization 法で EB ウ
イルスの感染を確認できたことより発症に EB ウイルス
が関与した典型的な一例と
えられる.
本症例では悪性腫瘍の存在を疑い経皮的針生検を施行
2. Aozasa K. Pyothorax-associated Lymphoma. Journal
of Clinical and Experimental Hematopathology 2006;
46: 5-10.
3. 西山典利,木下博明,小林庸次 他.人工気胸術後の慢性膿
胸に合併した胸壁悪性リンパ腫の 1 例. 日本胸部疾患学
会雑誌 1996; 34: 579-585.
4. Nakatsuka S, Yao M, Hoshida Y et al. Pyothoraxassociated lymphoma: a review of106 cases. Journal of
clinical oncology: official journal of the American Society of Clinical Oncology 2002; 20: 4255-4260.
5. 関根朗雅,萩原恵里,橋場容子 他.膿胸関連リンパ腫 8 例
の臨床的検討. 日本呼吸器学会雑誌 2010; 48: 186191.
したにもかかわらず診断に至らなかった. 関根ら によ
6. Iuchi K, Aozasa K, Yamamoto S et al. Non-Hodgkin s
ると針生検の診断率は 30%, 外科的生検でも 60%に過
lymphoma of the pleural cavity developing from long-
ぎず PAL の生検においては必ずしも診断率が高くはな
いと報告している. 本症例でも剖検において確定診断で
きたということから PAL が診断困難な疾患であると
えられる.
cal findings in thirty-seven cases. Japanese journal of
clinical oncology 1989 ; 19 : 249-257.
7. Fukayama M, Ibuka T, Hayashi Y et al. Epstein-Barr
virus in pyothorax-associated pleural lymphoma. The
治療に関しては, 現時点では確立したものはないが,
通常の非ホジキンリンパ腫に対する治療と同様, 化学療
法が中心に施行され, 放射線照射が併用される場合もあ
る. 膿胸腔に限局した症例においては手術療法を試みる
場合もある が, 低呼吸機能や高齢の症例が多いことか
らその適応は限られていると
えられる.
予後は, 生存期間中央値は 9 カ月, 2 年生存率は 31%
と極めて不良であると報告されている.
結核・慢性膿胸患者の減少により,今後 PAL 症例は減
少していくと
standing pyothorax. Summaryofclinical and pathologi-
えられるが, 今後もしばらくは日常診療
で PAL に遭遇する機会はあると
えられ, 本症例の様
American journal of pathology 1993; 143: 1044-1049.
8. Fukayama M, Hayashi Y, Ooba T et al. Pyothoraxassociated lymphoma: development of Epstein-Barr
virus-associated lymphoma within the inflammatory cavity. Pathology international 1995; 45: 825-831.
他. 放射線治療が有効で
9. 横川徳造, 白井辰夫, 尾形
あった膿胸関連リンパ腫の 1 例. 日本胸部臨床 2007;
66: 699-704.
10. 中島由槻,和久宗明,小島玲 他.慢性結核性膿胸壁由来の
悪性リンパ腫に対する胸膜肺全摘除術の 11 例の治療成
績. 日本胸部外科学会雑誌 1996; 44: 484-492.
366
膿胸関連悪性リンパ腫の一例
A Case of Pyothorax Associated Lymphoma Positive
for Epstein-Barr Virus Developing from Chronic Empyema
Kei Tsukamoto,
Shuntaro Tamura,
Mari Tokunaga,
Hisao Imai,
Shinichi Ishihara,
Yosuke Kuroiwa,
Hiroyuki Kobayashi,
Seiichi Higuchi,
Yutaka Suzuki
and Taido Arai
1
Department of Internal Medicine, Isesaki Manucipal Hospital, 12-1 Tsunatorihon-machi,
Isesaki, Gunma 372-0817, Japan
2
Department of Diagnostic Radiology, Isesaki Manucipal Hospital, 12-1 Tsunatorihonmachi, Isesaki, Gunma 372-0817, Japan
3
Department of Pathology, Isesaki Manucipal Hospital, 12-1 Tsunatorihon-machi, Isesaki,
Gunma 372-0817, Japan
We report the case of a 81-year-old man with a history of pulmonary tuberculosis. He had been
followed up for old pleuritis. Subsequently, he developed cough, chest discomfort and poor appetite,
and was admitted to our hospital with a suspicious of pneumonia and thoracic empyema. Chest CT
revealed a thickness of cavity wall enhanced heterogeneously in the right intrathoracic space. Tumors
were found along thewall ofthepyothorax cavity. A biopsywas performed under ultrasound guidance,
but could not arrive at diagnosis. Antibiotic therapy did not have any effect and he died. Pyothorax
associated lymphoma was identified on autopsy. Lymphoma cells were stained with CD20, which is
known as a B cell marker. Autopy yielded a diagnosis of non-Hodgkin s lymphoma,diffuse large cell
lymphoma (B cell type). Furthermore, the presence of EBV in tumor cells were detected. We should
always keep in mind the earlydiagnosis ofmalignant tumor and tuberculosis in patients presenting with
a chest wall mass and constitutional symptoms during follow-up of chronic tuberculous empyema.
Pyothorax associated lymphoma israre. Wereport a casewith a briefreviewoftheliterature.(Kitakanto
Med J 2011;61:361∼366)
Key words:
chronic empyema, malignant lymphoma, pyothorax-associated lymphoma,
Epstein-Barr virus
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