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中小企業の事業継続計画ノート
に 震 地 巨大 中小企業の事業継続計画ノート 財団法人 神奈川県経営者福祉振興財団 神 奈 川 県 福 祉 共 済 協 同 組 合 はじめに 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災とその後の巨大津波は、東北から関東にか けて 500 キロメートルにも及ぶ地域において建物、設備、電力、上下水道、通信、道路、鉄道、 港湾設備、船舶などを広範囲に破壊し、かつ死者と行方不明者 2 万数千人を出す国内では 有史以来の大惨事となりました。 市民生活面では道路や、鉄道網が壊滅的な被害を受けたことから、初動において救援活 動や復旧活動に大きな支障が生じたり、その後の仮設住宅の建設やライフラインの供給面で も月単位の時間がかかる事態となりました。 また、産業面では東北から関東にかけて素材製造業者や部品製造業者が地震や津波の 被害を受け、材料あるいは部品の生産・納入がストップしたことで、完成品製造業者におい ても操業停止を余儀なくされ、サプライチェーン全体に影響を生じさせる事態に発展しました。 特に日本の産業を代表する自動車産業においては東北・関東の部品製造会社から部品が 入らなくなったことで、3 週間近く工場が完全停止し、その後一部生産を開始したものの完 全生産は年末頃までかかるという過去に経験したことのない状況となりました。 また産業の米といわれている半導体分野では、茨城県にある半導体製造会社が地震によ り生産設備に大きなダメージを受けたことから生産がストップし、再開の見通しも暫くたたな いといった事態に陥り、国内は勿論として海外の会社にまで影響が及ぶという状況となりま した。 今回、大震災にあわれた事業者の中には、既に明日に向かって復旧に乗り出した事業者と、 復旧の目処が立たず泣く泣く廃業を選んだ事業者とに別れました。 当財団では、神奈川県下で事業をされております中小企業の皆様が今回のような緊急事態 に備えて、事業継続計画を立案することにより早期に事業を復旧させられるよう、力不足な がらもお手伝いしたいとの思いから、本事業継続計画ノートを作成いたしました。 企業の皆様の事業継続の一助になれば幸いです。 財団法人神奈川県経営者福祉振興財団 神 奈 川 県 福 祉 共 済 協 同 組 合 1 本事業継続計画ノートの使い方 事業継続計画(一般的に略称として BCP といわれています)は、行政機関や、大手企業 のみに求められるものではなく、むしろ、中小企業においてこそ意義のあるものです。 大手企業は、中小企業よりも、人力・財力ともに豊かにあり、災害にあっても復興できる 可能性は格段に高いです。一方、中小企業は人力・財力ともに大企業に対して見劣りし、災 害に弱いことは明らかです。 今般の東日本大震災においても、被災された多くの中小企業で再建を諦めざるを得なかっ たといった事例が出ています。中小企業において災害等を契機として廃業に追い込まれない ためには、簡略といえども事業継続計画を立て、あらかじめそのような事態に備えておくこと が、いざそのような事態に至ったときに力を発揮するものです。 本事業継続計画ノートは、前編、後編の 2 編だて構成としています。前編は考え方および 作成例を記載しており、お読みいただくことで事業継続計画の作成方法をご理解いただける ものと思っております。但し、様式に記載されている事例はあくまでも皆様が事業継続計画 を作成する上での参考としてお読みください。 後編は様式を添付しておりますので、そちらの様式にあなたの会社の事業継続計画を完 成させてください。なお、添付様式もあくまでも参考とし、実情にあった様式を作成してい ただければと存じます。 後編を作成するにあたっては、あまり肩意地を張らずに、緊急事態に陥った時に事業を復 旧させ、会社を存続させるためにはどうしたら良いかといった視点に立って、事業継続計画を 考えてみてください。 その後は、年に 1 回程度、最初に立てた事業継続計画を事業環境、取引先との取引状況、 資金調達環境等の変化を考慮して改訂し、継続的に改善していってください。 2 目 次 1. 事業継続計画とは ..................................................................................................................................................... 4 2. 自社の事業所のハザードを認識する ............................................................................................................. 5 3. 優先的に業務復旧すべき重要業務を把握する....................................................................................... 6 4. 重要業務が受ける被害を想定する ................................................................................................................. 7 5. 重要業務の目標復旧時間の設定を行う ...................................................................................................... 9 6. 重要業務の継続に必要な要素を抽出する ...............................................................................................10 7. 製品・サービスの供給体制を確立する ..................................................................................................... 12 8. 指揮命令系統の明確化と人材の確保を図る ..........................................................................................14 9. 重要業務の継続に必要な資源の代替調達を図る ..............................................................................16 10. 地域・拡大地域での協業を検討する ........................................................................................................ 18 11. 復旧資金の確保を図る ....................................................................................................................................... 20 12. 事業継続計画書をまとめる .............................................................................................................................. 23 13. 事業継続計画の発動態勢を明確にする................................................................................................... 25 様式集 .......................................................................................................................................................................................... 29 3 1.事業継続計画とは 事業継続計画とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃、パンデミックなどの緊急事態 に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限に留めつつ、中核となる業務の継続あ るいは復旧を可能とするために、あらかじめ緊急時に行うべき活動や緊急時における事業継 続方法などを定め、平常時に定めたことを訓練し、いざ、緊急事態が生じたときには整然と 行えるように各種手段を取り決めておくことです。 緊急事態は突然発生します。平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災時においても、東北地 方から関東地方まで幅広い地域で、地震による直接被害、その後に発生した巨大津波によっ ての被害、福島第一原子力発電所事故による放射線被害、地震を直接原因として多くの企 業が長期にわたり事業の中断を余儀なくされました。 緊急時に倒産や事業縮小に追い込まれないためには、平常時から事業継続計画を周到に 準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります。事業継続計画 を作成し有事に備える企業は、顧客の信用を維持し、更には高い評価を受けることとなり、 事業継続の可能性が高くなります。 事業継続計画の概念を理解していただくために、下記にイメージ図を用意いたしました。 緊急事態が発生した場合に事業継続計画が一切ない場合には、復旧にあたって必要な人 や設備、原材料、あるいは優先復旧させる業務が明らかになっていないことから、生産ゼロ の状態が長く続き、復興の機会を失う可能性が大きくなります。 しかし、事業継続計画をあらかじめ作成し、緊急事態に備えておければ、計画に従って 優先度の高いものから復旧させることが可能となり、廃業に至らず、事業の縮小、または完 全復興に至る度合いが確実になります。 企業の事業復旧に対するBCP導入効果イメージ 操業率 緊急 BCP 事態 導入済 事業 縮小 廃業 目標 時間 許容限界 4 2.自社の事業所のハザードを認識する 1 目的 自社の事業所がどのような立地環境にあるかを、正確に把握し、認識することが事業継 続計画を策定するにあたり第一に行うことです。日本は地震の国といわれており、いくつもの プレートが日本の国土の下でひしめきあっています。 巨大地震による被災という視点から事業継続をみた場合、首都直下型地震、南関東地震、 東海地震、東南海地震、南海地震と時期の違いこそあれ必ず発生するといわれており、事 業継続にとって極めて大きな障害要素となります。 今回、東日本大震災では、震度 6 以上の激震により、土地亀裂、陥没、隆起、水没など、 土地の形状も大きく変化した所が多数発生しました。あなたの事業所がどのような立地状況 下にあるかによって、被害の程度は大きく異なることが想定されることから、ハザード情報を 適切に収集し、認識し、評価することが重要なステップとなります。 2 方法 ハザードマップを調べ、事業所がおかれた立地状況を確認します。 (※)ハザードマップは市町村役場及び公的図書館に備えてあります。 (※)土地の高低は国土地理院の 1 / 25,000 の地図で分かります。 3 自社事業所のハザードをまとめる 【例示】 神奈川県川崎市○○区○○町○○番地 鉄筋コンクリート 3 階建て 昭和 60 年建築 1 階から 2 階 事業用に使用 5 3.優先的に業務復旧すべき重要業務を把握する 1 目的 優先的に業務復旧する重要業務を把握する目的は、災害等により被害を受けた場合に活 用できる人や資材、設備、建物などが相当限られることが想定され、全ての業務を継続する ことが困難となることから、優先的に復旧すべき重要業務(中核業務)をあらかじめ明確に しておくことにあります。 ここでいう「重要業務」とは、それを失うと、あなたの会社の経営状態に甚大な影響を与 える業務のことであり、一般的な中小企業の場合は、大企業に比べて業務の数が少ないこ とから製品の種類や顧客等の視点から特定するといったことでも良いでしょう。 2 重要業務の選定 〈1〉重要業務を選定する基準を決める 重要業務を選定する基準は売上、利益、顧客からの信用、社会的イメージ失墜など経営 に甚大な影響を及ぼす事項と云えますが、中小企業の場合には、売上、利益を基本として 重要業務を選定し、次に顧客との契約によって供給が遅れた場合にあなたの会社に与える 損害が最も大きい業務、およびその業務が止まると資金繰りが厳しくなる業務を優先して復 旧する重要業務として選定します。 〈2〉重要業務を金額ベースで把握する 〈1〉の基準で重要業務を選定したら、中断による影響度を算出するため売上、利益、決 済条件等をなるべく金額ベースで把握します。重要業務は最終的には経営者の判断によって 決定されるものですが、事業規模がそれほど大きくない会社の場合には、重要と思われる 業務をいくつか上げて、その中で、売上、利益、資金繰り、遅延損害等を勘案して、決定 するといったことでも良いでしょう。 〈3〉重要業務に関する優先度の決定 重要業務を選定できたら、その重要業務について経営上の優先復旧すべき順位を決定し ます。その際には、事業継続計画の特性の違いにより、①供給中断時間の長短により顧客 を失うか、②再調達に時間も費用もかかる設備に依存しているか、③代わりの場所でも業務 が出来るか、④緊急時に同業他社に協力を求め依存できる構造かなど、事業継続計画の特 徴を把握しておくことも必要です。 6 4.重要業務が受ける被害を想定する 1 目的 重要業務が受ける被害を想定する目的は、想定する災害・事故があなたの会社の重要業 務の継続を失わせることとなる想定被害に対して、具体的な対策を立てるための被害想定を 行うことにあります。 被害想定を行う範囲は、工場・事務所、機材、要員、原料、輸送、梱包、サービスなど 重要業務を継続するにあたって影響を受けるものすべてを対象として考慮します。 2 重要業務に与える被害を想定する 〈1〉重要業務に与える被害を把握する 想定する災害・事故が実際に起こった場合に、あなたの会社の重要業務を継続・復旧す るのに必要な主な資源にどの程度の被害が生じ、結果として重要業務の継続にどのような影 響が出るかを推定・把握します。 日本において企業の事業継続を脅かす最大の脅威は地震です。想定される被害は、震度 によって変化します。今般の東日本大震災のように震度 7 に遭う可能性は震度 5 や 6 のそれ より小さく、震度が低ければ全損にならない可能性が高くなり、自力で対応できる事業継続 の方法を検討する余地が大きくなります。 そこで、自社事業所の震度をとりあえず設定し、その地震による被害を、土地の液状化の 可能性、津波による損壊の可能性、建物の耐震性など既に集めた情報から、倒壊の危険、 倒壊しないまでも使えない、適度な補修で使用できる、ほぼ無傷、設備の損傷などを推定し、 復旧にかかる金額を想定します。 損害の想定にあたっては、最初はあまり神経質にならず着手することが重要です。被害想 定の妥当性や精緻さは継続的に改善することが肝要です。 〈2〉インフラの影響を把握する 重要業務を継続するにあたり必要となる各種ライフラインの被害度を想定します。 ここでは、 「2.自社の事業所のハザードを認識する」 (P.5)で集めた情報を基に、電力、ガス、水道等の ライフラインや、道路、通信等のインフラの情報を可能な限り集められれば良いでしょう。し かしながら、これらのライフライン情報を単独で正確に集めることは難しい場合が多く、行 政や公益事業体に確認する、あるいは過去の事例を調査するなどによって収集することとな りますが、ある程度調査した後は、自社で一定の被害想定ができる程度の情報把握で良い と思われます。 何故ならば、自社の設備や機器の復旧が出来るまでの間に、ライフライン関連の復旧が出 来ていれば良いため、大まかな復旧時間を見通せれば良いからです。 7 8 5.重要業務の目標復旧時間の設定を行う 1 目的 目標復旧時間の設定目的は、重要業務の中断による被害を最小限に抑えるために重要業 務を復旧させるまでの期限の目安となる目標復旧時間を決めることにあります。 災害時における中核業務の復旧の遅れはその分だけ事業機会の損失を被っているという ことであり、事業復旧が大きく遅れると最悪の場合主要な顧客との取引解消にもつながり、 結果として会社の存続が危ぶまれることは想像に難しくありません。 2 目標復旧時間の設定方法 目標復旧時間を決めるにあたっては、最低限、以下のことを考慮する必要があります。 ① 中核業務に係る取引先やサプライチェーンの要請時間 ② 中核業務が社会的な影響が高い場合には、一定の時間を経過するまでに現場からの要 請に応えられないと社会的批判が高まる場合には、その想定時間 ③ 中核業務の復旧に至るまでの各種損失が経営上決定的にならないまでの時間 3 目標復旧時間を設定する 上記 2 ① , ② , ③の判断要素から、取引先や社会から許容される中断時間にとどめるとい う観点で、できることなら達成したい「許容中断時間」を考えることが出来ます。 次に、 「4.重要業務が受ける被害を想定する」 (P.7)において想定した個別の想定被害 を基に、現段階で可能と思われる復旧時間を検討し、設定します。検討結果が許容中断時 間内に収まれば良いのですが、通常は許容中断時間に収めるための対策が必要となる場合 がでてきます。 目標復旧時間の決定は、顧客との協議結果、想定被害の程度等を考慮し、経営者が自ら 判断することとなります。 9 6.重要業務の継続に必要な要素を抽出する 1 目的 重要業務の継続に必要な要素を抽出する目的は、特定された重要業務を復旧目標時間ま でに確実に復旧させるために、その重要業務を継続するにあたり必要な資源(人員、物、資 金、情報)を把握しておく必要があるためです。 例えば、中核業務の一つが「顧客“○○”に対して、 “BB 製品”を製造・提供すること」 であるとします。 この場合、中核業務として取り上げた業務の受注から出荷までの一連プロセスがどのよう に構成されているかを正確に把握し、それぞれ構成されているものの影響の大きさを評価す ることが必要となります。 2 構成要素 構成要素を効果的に考えるための手法として、例えば、以下のような資源が利用できなく なった、または無くなった場合に、中核業務としての重要業務が継続できるかどうかを検討 するといった方法があります。 従業員、工場などの施設、設備、原材料、消耗品、コンピュータ、受発注システム、 FAX、電話、電力、ガス、水道、輸送手段等 この時、項目ごとに重要度を図るために、 「被害・調達の困難さ」 、「業務継続への影響度」、 「許容中断時間と個別資源復旧時間比較」 、「対策の要否」、 「実現のための行動」それぞれ の視点から整理してみると、重要業務に不可欠な資源が特定できます。 3 必要に応じて目標復旧時間を見直す この作業により、重要業務について、現時点における復旧可能時間をより正確に推定でき るようになります。この時間は、 「5.重要業務の目標復旧時間の設定を行う」 (P.9)におい て経営陣が設定した目標復旧時間よりも一般的に長くなる場合があります。このような場合 は、経営陣が設定した目標復旧時間を見直せるかどうか、あるいは目標復旧時間内に復旧 できるよう制約要因となっている項目を再度見直し、対策をとることによって復旧時間を短く 出来るかを検討し、全体として復旧時間が短縮できるかを再検討します。 復旧時間を見直す際には、対策を検討すると共に投入する経営資源を合わせて検討する 必要があります。要は紙に書いた見直しプランではなく、目標復旧時間内に復旧させるため にどれだけの経営資源を投入できるかを適切に見積もる必要があり、この見積が甘いと実行 可能とならない復旧時間に陥ってしまうこととなります。 このように、この段階では経営陣が設定した目標復旧時間と、制約要因から推定される 復旧時間とを行ったり来たりしながら、実現可能な復旧時間を設定していきます。 10 11 7.製品・サービスの供給体制を確立する 1 目的 製品・サービスの供給体制を明確にする目的は、重要な製品・サービスを復旧目標時間内 に確実に供給するために必要となる対策を明らかにしておくことにあります。 製品・サービスの供給体制が復旧目標時間内に収まることを目標に、どこで、誰が、どの ように、それぞれの重要業務を継続するかについて、その方法を検討することにします。 2 製品・サービスの供給体制を確立する 〈1〉供給方法の選択 あなたの会社の重要業務が想定する要因により中断、あるいは、中断する恐れがある場 合に、目標復旧時間までに、①自前で業務が継続することができる、②他者に依頼して重 要業務を継続することができる、③いずれでもできないかを判断し、明確にします。 〈2〉継続方法を検討する 現在は、部品から製品まで1つの製品を1社単独で製作するのはむしろ稀といえるでしょう。 したがって、原材料の供給、輸送、生産、販売などに携わる複数の企業の中のどこかが被 災すると、その製品は市場に提供されないこととなります。 このことは、事業継続計画が自社だけでは完結しなくなっていることを意味しており、そ のことから事業継続計画を取引先と調整しておくことが大事です。 製品・サービスが供給される状態とは、製品について言えば、工場の早期復旧、代替生 産の実施、他社への委託生産など、何らかの形で製品・サービスが継続出来れば良く、あ るいは、在庫を活用し製品・サービス供給が出来ればそれでも良いでしょう。 重要業務の目標復旧時間を達成することが出来る方法を、費用対効果や実現性などを考 慮し、以下のような視点から検討します。 ① 被災工場を早期復旧するか、被災地以外の工場・拠点で代替生産が可能か。 ② 他社への委託実施・同業他社との応援協定を事前に合意を得ておけるか。 ③ 復旧までの期間に関して、顧客が許容できる最大時間について顧客と合意を得ておけるか。 しかし、①から③の対策でも供給体制が確保できない場合には、資源を重要業務復旧に 集約するため比較的重要度の低い業務の縮小、撤退といったことを検討します。 〈3〉参考 東日本大震災時は、東北地方の製造会社が地震、津波、原発事故などの広域被害に遭 遇し、自動車部品、IC チップ、電子部品、素材、塗料、シリコンなどの原材料や部品の生 産がストップし、車体製造会社、コンピュータ製造会社、電気製品製造会社等、業種を越 えて生産がストップしたことは記憶に新しいと思います。これらは、まさにサプライチェーン が寸断されて、最終製品まで市場への供給が停止した事例です。 12 13 8. 指揮命令系統の明確化と人材の確保を図る 1 目的 事業継続の取り組みや災害発生時の対応には、事業継続の組織体制の構築とその役割、 および指揮命令系統を明確にしておく必要があります。しかし、中小企業の場合は経営者自 らが事業継続を率先して行う事が多いものと想定されますので、経営者ご自身で行う、と明 確にしておくことで良いでしょう。しかし、大規模地震のような場合には、必ずしも経営者が その場にいるとは限りませんので、代理権限を他の役員に与え、経営者が現場に復帰するま では権限を与えて、事にあたらせるといった事を明示しておくことが重要です。 2 指揮命令系統の明確化 災害発生時の対応は一般的に混乱することが多く、指揮命令の遅れが被害を大きくする場 合が少なくありません。そのためには、以下のように組織としての指揮命令系統を事前に明 確にしておくことが求められます。 ① 災害時の組織体制について、責任者(経営者等) 、代理者(役員等) 、各部門の責任者な ど災害時対応の当事者を明確にする。 ② 災害対策責任者に連絡がつかなかった場合、直ちに代理者に連絡をつけるなど権限委 譲や代行順位をあらかじめ定めておく。 ③ 各部門の対策責任者も権限委譲や代行順位を定めておく。 ④ 災害時には日常の業務と全く異なる業務が発生するため、部門を越えた動員体制を構築 しておく。 3 復旧に重要な役割を担う人材を確保する 責任者の指示のもとで復旧にあたる重要な役割を担う者、および重要な役割を担う者の代 理者を明確にしておくことが必要です。重要な役割を担う者の代理者は重要な役割を担う者 の直属の部下や同僚が代理の候補ですが、同じ場所にいることが多いので同一の災害・事 故で被災する可能性が高いのが問題です。その重要業務にあたる人材の不可欠の度合いが 高い場合には、それ以外の代理者の確保に努めなければなりません。 前任者、OB や、自社の他工場、あるいはこれから育成するなどの方法から適切な方法を 採用し、いずれにしても必要な代理者を確保することです。 4 目標復旧に要する人材を確保する 復旧に要する人材の確保をどのように行うかを事前に検討しておくことが必要です。あなた の会社の取引先もあなたの会社の事業継続が不可欠であれば、そこから積極的な支援を得 られる場合もあるでしょう。取引先や協力会社とも普段から積極的に話し合いをしておくこと も有効です。特に、損傷を受けた設備の復旧には専門性をもった人が不可欠なので、その 要員をどこから派遣してもらえるかといった認識を常に持つことが大切です。 14 15 9. 重要業務の継続に必要な資源の代替調達を図る 1 目的 重要業務の継続に必要な資源を事業継続計画で明らかにしておく目的は、事業を営むに あたり外部から調達する原材料・部品、あるいはサービスなどの物品・サービスが震災等に より供給が停止した場合に、重要業務に関して復旧目標時間までに復旧させることの障害と なり、結果として目標時間までに復旧出来なくなることを避けることにあります。 高度にサプライチェーン化した現代では、重要な部品が一つ欠けても製造に打撃がでるこ ととなります。それゆえに、あなたの会社の事業継続が問題となるような事態が生じた場合、 目標復旧時間までに原材料、部品、サービスが調達できるか、あるいは代替が可能かどう かをあらかじめ検討しておくことが必要となります。 2 代替調達 〈1〉代替調達先からの調達が難しい資源を特定する あなたの会社の事業継続にとって社外から調達する重要業務に必要な資源は、 「6.重要 業務の継続に必要な要素を抽出する」 (P.10)において概ね整理されているはずです。その 中で事業継続への影響度が高く、かつ調達先が限定されているという場合は特に注意を払 う必要があります。その企業が被災すると、調達物品の調達に即影響を及ぼすことになるか らです。 もし、不可欠な調達品であれば、事前に代替品となる資源の調査、テスト、あるいは顧客 による認定等を経て、いざという事態に備えておくことが求められます。 それでも、代替調達が困難な資源の場合には唯一の調達先企業に対して、自社と同様の 事業継続の取り組みを要請することで対応するしかありません。 〈2〉代替調達の可能性が明らかでない資源の調査と対策をとる 次に、他社からの代替調達が可能かどうか不明な原材料・部品については、代替調達の 可能性調査を行う必要があります。新たな供給元として期待できる企業が見つかった場合に は、可能であれば複数購買を図る、あるいは新たな供給先と合意が得られれば緊急時の調 達先として連携を図ることが望まれます。 〈3〉ライフラインの対策を検討する ライフラインは通常の場合には、個別の企業の復旧よりも早く復旧する場合が多いですが、 大規模の震災等の場合は、復旧までに相当日数を要することになります。 東日本大震災では、電気、上水、下水、ガス、道路、鉄道などのライフラインごとに復旧 までの時間は相当格差が生じました。 ライフラインがあなたの会社の重要業務に対して大きな影響を及ぼすと思われる場合は、 これらの代替方策を考えておく必要があります。代替手段としては、自家用発電、回線の二 重化、デリバリールートの確保などがありますが、多額な投資が必要となる場合もあります ので事業継続計画とのバランスの上で、経営トップが判断することにします。 16 17 10.地域・拡大地域での協業を検討する 1 地域・拡大地域での協業を図る目的 地震や台風などの広域災害時は、個別の会社のみならず地域の住民や企業も同時に被害 を受ける可能性が大きく、災害が収束して復旧や復興活動を行うにも、被災状況によっては 一企業の努力だけでは難しい事態が想定されます。このような場合に、地域内での同業者 による協業や地域を超えて協業が成立していれば、重要業務を目標復旧時間内に復旧させ、 製品又はサービスの顧客提供が可能となります。 特に、大きな地震においては建物や、機械、原材料等を始め、消耗品、各種の IT 装置 などの被害により、地震が発生した時から一定の時間が経過した後においても、生産再開が スムーズに出来ないといった事態が随所に発生します。 サプライチェーンに入っている企業においては、事業規模が小さくても、サプライチェーン 全体に及ぼす影響は大きくなり、1 社の復旧の遅れがサプライチェーン全体の遅れとなること があります。このような状態が長く続くと、顧客は他に供給者を求めたり、代替品を探したり といったことに結びつき、結果として契約の継続が難しくなることが考えられます。このよう な事態にならないためには、地域・拡大地域での広域災害に備えた、同業者間の協業をあら かじめ決めておくことが有効です。 2 中小企業の地域連携の事例 平成 23 年度の東日本大震災でも、東北地方で電気製品の組み立てを行っている会社が 被災し、社屋の復旧、生産ラインの復帰に相当の時間がかかることが判明し、生産の復旧 までの間、顧客への納入がストップする事態となりました。その会社は、製品の一部の部品 を都内にある会社から供給を受けていたことから、工場が復旧するまでの間、部品の供給 を受けている会社に組み立てまでのプロセスを委託することによって顧客への供給責任を果 たせた。といった事例などはまさに広域連携の成果です。 3 協業先の検討 まずは、供給者(下請け業者あるいは納入業者等)の調査を行い、広域災害等が生じた 時に一定期間どのような分野で協業が可能か検討・協議しておくことが求められます。その 際には、先方の企業とも広域災害時における相互扶助について契約を行い、復旧した後の 業務返還、協業時の単価、協業の方法等を文書で明らかにしておくことが重要です。 しかし、協業する会社が自社と同じ地域にある場合には、大震災の場合には同じく災害 を被る恐れがあることから、広域災害に向けた対応を必要とするかどうかも、合わせて検討 しておくことが有効です。 4 財団法人 神奈川県経営者福祉振興財団でご支援できること 神奈川県はご存じのように太平洋に面した海岸側から内陸部の山側まで様々な立地で構成 されおり、また、そのような環境下でたくさんの企業が事業を営んでおります。 当財団では神奈川県下の中小企業を対象とした「産業 Navi」を運営しています。 18 産業 Navi には製造業からサービス業まで幅広い会社が登録しており、企業間での事業 マッチングや、発注先検索等に利用されています。 もし、広域災害時に協業したい会社を県下あるいは近隣以外他県で探したいといったご希 望があれば、当財団にご相談ください。 ネットワークを駆使して、協業先を探すお手伝いをいたします。 産業 19 Navi http://www.navida.ne.jp/sangyo/ 11. 復旧資金の確保を図る 1 目的 想定する災害が発生し、復旧から本格的に復興させるまでには運転資金、あるいは復興 のための設備資金が必要となります。 今回の東日本大震災のような大災害の場合、公的な態勢として復興計画が立案され、災 害支援金、低利での融資、あるいは助成制度等が発表され実施されるまでに、数ヶ月程度 かかることは充分予測されます。一方、個別の被災企業では復旧までの期間、およびその後 の本格稼働までの期間は大幅に売上が減少する状況下で食い繋ぐ事態となります。その間 に資金繰りが付かなくなり、倒産、廃業といった事態になることも少なくありません。 そこで、事業継続計画では、暫定復旧、その後の本格復旧までの時間的な計画をもとに、 資金調達の道をあらかじめ検討しておくことが必要となります。 2 資金計画 〈1〉資金繰り計画 現在の稼働状態を 100 として、暫定復旧、本格復旧までの時間を軸として事業継続計画 に基づき売上高、粗利益、固定費を想定します。 通常の場合、本格復旧までは赤字に陥りますので、その間の運転資金がどの程度要する のか、それらが手持ち資金で賄うことが可能なのかを判断するために用います。 ここで、不足が生じることとなれば、この間の資金の手当ての可否、あるいはコスト削減 対策の可否、緊急処置の可否を検討して、どのような手法がとれるかを明らかにしておきます。 次に、災害により想定した最大損害額を「4.重要業務が受ける被害を想定する」 (P.7) より抽出し、復旧のための設備投資額を算出します。 震災後 1 カ月から 2 カ月過ぎる頃には、国、地方自治体、政府系金融機関などから災害 復興のための緊急融資制度がスタートしていることが想定されますので、金融機関等とも充 分に話し合って復旧資金および設備資金の調達を検討することとなります。 但し、復興のための設備投資資金が、政府系融資による無担保融資を越えるような調達 金額となる場合には、担保の問題等が出てきますので、作成した事業継続計画における復旧 に要する設備投資額によっては、担保をどうするかについても事前に検討しておくことが必要 です。 ※事業継続での資金計画に日常的な資金繰りを含めることは、個別企業の財務状態によっ て異なることとなるので、事例は日常の資金繰りは考慮せずに考えることにしています。 〈2〉金融機関との折衝 事業継続計画書および災害発生時の事業継続計画対応資金繰り計画表が完成したら、そ れを基に金融機関と話し合いをし、資金繰りに対する協力を取り付けておくことが大切です。 もちろん、その時点で金融機関から有益なアドバイスが得られ、資金計画が変わるといった こともあり得ます。 20 〈3〉制度融資・支援スキーム 東日本大震災に伴う、危機対応融資枠の事例 ① 地元の信用保証協会が無担保で 8,000 万円を保証する ② 政府系金融機関が 4 兆円の融資枠を設定し、日本政策金融公庫が中小企業向け融資限 度額を緩和する 政策金融による危機対応円滑化スキーム 日本政策投資銀行 低利融資 低利融資・出資 商工中金 損失肩代わり 民間金融機関 資金調達 市 場 21 CP 買い取り 大企業 中小企業 政府保証 日本政策金融公庫 国が発 動 認 定 財政投融資 22 12.事業継続計画書をまとめる 1 目的 事業継続計画書を作成することの目的は、事業継続計画を発動するような事態になった時 に、速やかに行動できるようにしておくことにあります。 そのため今まで各章で検討してきたことをベースにして重要業務ごとに事業継続計画書を まとめておく必要があります。 事態が起きてから考えたのでは、時間が経過する間に事態が悪化したり損失が拡大したり して、経営面で大きなダメージを受けてしまう恐れがあり、そのようなことを避けるため事業 継続計画書を作成しておき、緊急事態が発生した場合には当該関連者に課された行動を適 切に取れるようにしておくことです。 2 事業継続計画書の作成 〈1〉作成対象 重要業務として選択された業務を優先度の高いものから作成します。 「3.優先的に業務 復旧すべき重要業務を把握する」 (P.6)で選択された BB 業務と CC 業務は最低限作成しな ければなりません。 中小企業の場合であれば、顧客ごと、製品ごと等でも良いかもしれません。 〈2〉作成上のポイント 事業継続計画書はあくまでも、そのような事態が生じた場合に、この計画書によって行動 できるものでなくてはなりません。そこで、記載内容はトップの判断事項を除いて出来るだけ 具体的に、かつ定量化できるものは定量化して、判断部分に曖昧さが残らないように作成す ることが重要です。 〈3〉定量化の例 業務の重要性の判断 業務の重要性 高 い 普 通 低 い 許容時間 1 日以内 3 日以内 5 日以内 一定の水準の業務の継続性を確保するための優先度を決定する。 業務の重要性 23 高 い 普 通 低 い 緊急事態発生における影響範囲 顧客 社内 S A A B B C 24 13. 事業継続計画の発動態勢を明確にする 1 目的 事業継続計画の発動態勢を明確にしておく目的は、あなたの会社の重要業務を特に優先 して継続しなければならないような災害・事故が発生した場合には、人的、物的被害が多数 発生し、非常に混乱した状況下にあることが想定されます。こうした中で重要業務を継続し ていくためには、明確で、誰にでも判断可能な事業継続計画の発動基準をあらかじめ定め ておき、周知しておくことが重要となります。 2 事業継続計画の発動 〈1〉発動フロー ① 緊急事態が発生したら、初動対応(緊急事態の種類ごとに違いあり)を行います。 ② なるべく速やかに、顧客等へ被災状況を連絡するとともに、中核事業の継続方針に基づ き実施体制を確立します。 ③ 中核事業継続方針に基づき、顧客、協力会社向け対策、従業員・資源対策、財務対策 を並行して進めます。また地域貢献活動も実施します。 ④ 緊急事態の進展・収束にあわせて、応急対策、復旧対策、復興対策を進めます。 大規模 緊急事態の発生 災害時 の目安 初動対応(緊急事態ごと) 二次被害の防止策 当日∼ 従業員の参集 地域貢献活動 安否・被害状況の把握 顧客 ・協力会社への連絡 中核事業の事業継続方針立案・体制確立 数 日 目標 顧客・協力会社 従業員・資源 財務対策 取引調整 応急措置 運転資金確保 取引復元 復旧措置 復旧資金確保 復旧 時間 数カ月 災害復興 25 〈2〉事業継続計画の発動基準等の明確化 例えば、以下のような様式を用いて、復旧させる重要業務を対象として、事業継続計画発 動の基準等を明確にしておくことです。 26 メモ 27 メモ 28 様 式 集 29 30 31 32 33 34 35 36 37 〈参考文献〉 事業継続マネジメント仕様 BS25999 英国規格協会 事業継続ガイドライン 内閣府 防災担当編 事業継続計画策定ガイドライン 経済産業省 中小企業 BCP 策定運用指針 中小企業庁 中小企業の BCP ステップアップ・ガイド 特定非営利活動法人事業継続推進機構 実践 BCP マニュアル - 事業継続マネジメントの基礎 昆 正和著 いずれくる巨大地震に打ち勝ち生き残るための設計書 中小企業の事業継続計画ノート 企画制作 財団法人神奈川県経営者福祉振興財団 神 奈川県 福 祉 共 済 協同組合 監 修 岩田 美知行 実用新案登録出願中 非売品 2011.09.01 Vol.2 無断複製・転載禁止 38