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巻頭コラム 若者の意欲やモチベーションを再考する

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巻頭コラム 若者の意欲やモチベーションを再考する
巻 頭 コ ラ ム
若者の意欲やモチベーションを再考する
JILPT 主任研究員 下村英雄
いつからか、若者のキャ
して論じるかを議論の基調
のだろう。むしろ、ハード
リア支援・キャリア教育の
としてきた。それは戦前戦
面の環境が整備されるほど、
文脈で「意欲」や「モチベー
後と連綿と続けられてきた
やるかやらないかという最
ション」を論じることが、
進路指導研究・職業指導研
初の一歩が決定的な要因と
ひどく難しくなった。
究の大きなパラダイムシフ
なる。こういう「ファンダ
今、正面切って、意欲や
トであり、そう言って良け
メンタルな動機づけ」とも
モチベーションを問題にす
れば一大革命であったとさ
言うべき問題の重大さが、
れば、すぐさま若者の問題
え思う。
キャリア支援・キャリア教
を意識の問題にすり替える
この革命によって、若者
育の最前線に立つカウンセ
「心理主義」
「自己責任論」
の就労の問題を単純に意識
ラーやコンサルタントのよ
「新自由主義」と批判され
の問題にするのではなく、
うな人達に改めて気づかれ
すれば社会全体として個人
てしまう。しかも、ある種
より社会的な視点から、政
るようになったのである。
の意欲やモチベーションに
の論者達は、そうした語彙
策的な視点から論じる道が
特に、様々な社会経済的
適切に刺激を与え、活性化
で相手を批判できた場合、
開かれた。その後、約15
な環境要因、それは家庭環
させ、行動を促せるのかに
それを決定的な勝利と感じ
年の月日を経て、今では、
境や学歴のようなものまで
関心を移している。意欲や
るらしく、どこか得意げで
各種の若年支援を組み合わ
含み込むのであろうが、そ
モチベーションを失った若
さえある。学問領域によっ
せることで、一定の方向に
うしたものを勘案して、自
者を、再び社会に取り込む
ては、いかに巧みにこうし
向かって進んでいけるよう
分が必ずしも有利な条件に
ことを論じる「キャリアガ
た論じ方をできるかが、そ
な仕組みや制度は、それな
恵まれていないと悟った時、
イダンスと社会正義
の領域に対する忠誠心を示
りに充実したと言って良い
人はもはや自分の可能性を
(social justice)
」の議
す踏み絵にもなっているの
だろう。
信 じ ら れ な く な る。 そ う
論が、先進各国の専門家の
であろう。
――しかし。仕組みや制
なった時、結局、重要とな
間で盛んに行われている。
ただ、私は、こういうこ
度が整備されるにつれて、
るのは、目の前の高い壁を
そして、ここで改めて重視
とになった発端というか瞬
改めて、人々は、意欲やモ
乗り越えると決意する最も
されているのは、やはり検
間を間近で目撃していたよ
チベーションといったもの
素朴な意味での意欲やモチ
査や相談といった伝統的な
うに思う。それは、明らか
の手ごわさに気づくことと
ベーションであろう。それ
手法でもあるのだ。
に2000年 前 後 に フ リ ー
なった。いかに社会の仕組
を自己責任論の名のもとに
今こそ、個々人の意欲や
ターについて、集中的に研
みを整えようとも、いかに
封じてしまえば、もはや解
モチベーションといった意
究がなされた時である。そ
支援の仕組みを作ろうとも、
決策は容易には見当たらな
識の問題をどう社会全体の
れ以降、陸続と発表された
意欲やモチベーションを持
くなるはずである。
問題として考えていけるの
2000年 代 を 彩 る 優 れ た
たない個人を支援すること
し た が っ て、 今 ど き の
か、レッテル貼りのゲーム
若年就労問題に関する研究
は難しい。仕組みや制度を
キャリア支援・キャリア教
を横目に、地道に静かに議
は、基本的には若者の意識
整 え れ ば、 自 然 と 前 に 向
育研究は、こうした類の問
論を進めていく必要がある
に話を持っていかず、これ
かっていけるほど、人間の
題を自己責任論のような語
だろう。
をいかに社会全体の問題と
意識は単純なものではない
彙で考えることなく、どう
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