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修士論文 歩行パターン変化に着目した 人物間インタラクションの解析

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修士論文 歩行パターン変化に着目した 人物間インタラクションの解析
修士論文
歩行パターン変化に着目した
人物間インタラクションの解析
本田 和久
年 月 日
奈良先端科学技術大学院大学
情報科学研究科 情報処理学専攻
本論文は奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に
修士 工学 授与の要件として提出した修士論文である。
本田 和久
審査委員:
木戸出 正継 教授
(主指導教員)
小笠原 司 教授
(副指導教員)
波部 斉 助教授
(副指導教員)
歩行パターン変化に着目した
人物間インタラクションの解析
本田 和久
内容梗概
センサーの小型化やビジュアルサーベイランス技術の発展により自動的に人々
に関する情報を獲得することが可能となってきている.しかし,得られる情報の
多くが人物の位置や移動速度といったプリミティブな情報であり,必要な高次情
報を得るためには人手による判断が不可欠なことが多い.この問題点を克服する
ためには,我々人間が普段から無意識のうちに行っているプリミティブな観測情
報から高次な知識を獲得するプロセスを計算機上でも実現することが不可欠であ
ると考えている.
そこで,本研究では人物間の関係や異常状態などを自動的に認識することを最
終目標とし,プリミティブな情報である人物の移動軌跡から人物間で発生してい
るインタラクションを解析する手法を提案する.インタラクションとは歩行中に
おいて他の人物との間で影響を与えあうこととし,人が移動速度や進行方向といっ
た歩行パターンを変化させた点においてインタラクションが起こっていると考え,
人物の歩行パターン変化点に着目することで人物間のインタラクションを解析す
る.最後に,実際に得た歩行者の移動軌跡からインタラクションを解析し,人間
関係推定実験と異常状態検出実験を行うことで提案手法の有効性を検討する.
キーワード
移動軌跡,歩行者理解,歩行パターン変化点,相互関係推定,異常状態検出
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報処理学専攻 修士論文
年
月
日
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目次
はじめに
%
%
%
%:
研究背景
研究目的
人物の移動軌跡
本論文の構成
インタラクションと影響度
歩行パターン変化に着目した影響度推定
%
%
%
歩行パターン変化点抽出
変化点における他の人物からの影響度
影響度の人間関係推定への応用
;
:
実験準備:人物移動軌跡の獲得
歩行パターン変化点に着目したインタラクション解析
%
%
歩行パターン変化点抽出実験
歩行パターン変化点に着目したインタラクション解析
<
インタラクション解析に基づく知人関係推定実験
異常状態におけるインタラクション解析
終わりに
謝辞
参考文献
図目次
監視システムのタスク
友人間に起こる歩行パターン変化
歩行パターン変化点抽出
: 図 の状況における変化点抽出
実際のデータに対する変化点検出
< インタラクション例:加速度
インタラクション例:空間的距離
; インタラクション例:時間的距離
撮影対象環境
. =>&985?
撮影画像1
撮影画像2
人物移動軌跡1(画像座標系)
: 人物移動軌跡2(画像座標系)
トータルステーション「8
」
< 人物移動軌跡(世界座標系)
歩行パターン変化点抽出結果1
; 歩行パターン変化点抽出結果2
インタラクション解析結果
インタラクションの誤抽出
歩行パターン変化の多発領域
歩行パターン変化の学習
ヒストグラム:人物間平均距離
: ヒストグラム 拡大:人物間平均距離
歩行パターン変化に基づく特徴の分布 主成分分析
< 歩行パターン変化と距離を組み合わせた特徴の分布 主成分分析
知人関係推定:ペア ; 知人関係推定:ペア <
;
:
<
;
;
;
:
<
;
知人関係推定:ペア 知人関係推定:ペア :
知人関係推定:ペア 知人関係推定:ペア <
知人関係推定:ペア 知人関係推定:ペア ;
異常状態:ペア 異常状態:ペア 異常状態:ペア 異常状態における各変化点におけるインタラクション解析結果
正常・異常状態におけるインタラクション解析結果 主成分分析
;
;
:
:
:
:
:
:
::
表目次
スペック>&985?
カメラパラメータ
スペック:8
: 実験データ詳細
4つの距離帯と特徴(参照:@A)
< 実験データ詳細
分割交差検定:知人・他人推定実験結果
; 知人関係推定:正誤表
正常・異常状態識別実験データ詳細
分割交差検定:正常・異常状態推定実験結果
<
<
:
:
:
:
::
はじめに
研究背景
近年,市街や公共施設,商業施設などに監視カメラが設置されセキュリティシ
ステムの一つとして利用されており,治安の悪化に伴い監視カメラの重要性は増
してきている.
年 月 日に発生したイギリスのロンドンでの地下鉄爆破事件においては,
駅の改札に設置してあった監視カメラの映像が決め手となり,犯人を特定するこ
とができている.また,横浜市中区山手町では痴漢被害の対策として学校脇の公
道に監視カメラが設置されている.守られる側の学生からは人による警備が希望
されているが,長時間の警備が難しいことから監視カメラによるチェックが行わ
れている.
監視カメラを用いることで監視区域巡回のための人員を削減することが可能
だが,問題が発生し,映像のチェックが必要になった際には多くの映像を人手で
チェックする必要がある.そのため,人員も時間も大変コストがかかり,必要な
情報の見逃しが発生することもある.こういった問題や社会情勢の変化を背景に,
監視カメラ映像中に起こった異常状態を自動的に検出することを目標とした研究
が古くから行われてきている.
また,監視カメラがセキュリティのために利用されている一方で,センサーの
小型化や画像認識技術の発展に伴い映像中の人物や環境に関する様々な情報を取
り出すことが可能になり,マーケティングや都市計画などへの応用を目指した研
究が行われている 図 .
研究目的
監視カメラの本来の目的は,対象環境において異常な事象や犯罪などが起こっ
ているかどうかを確認することであるが,近年ではマーケティングや都市計画な
どへの応用も考えられている.
Shopping Centers
Banks
Train Stations
Roads
Age Estimation
Measurement
Criminal Detection
図
Anomaly Detection
監視システムのタスク
犯罪の防止や異常状態の検出,映像チェックのためのコスト削減を目指すため
に監視映像中の人物の検出およびその追跡が必要となるため,古くから数多くの
研究が行われている @A.また,三井らはエレベータ内に設置された防犯カメラに
よる限られた映像から,エレベータ内の人物の移動軌跡を抽出する手法を提案し
ている @A.
これらのように人物移動軌跡の抽出だけでも様々な研究が行われているが,異
常状態や犯罪検出のためには人物の検出や追跡だけでは十分ではない.また,マー
ケティングや都市計画などへの応用を考えると,必要だと考えられる人間関係や
性別,年齢などといった人物に関する様々な情報を得るにも不十分である.数多
くの研究が行われているにも関わらず,あらゆる条件下で安定して動作し,人手
による監視にとって代わるようなサーベイランスシステムは未だ登場していない.
その理由としては,実環境下では監視対象となる事象が非常に複雑多岐にわたり,
監視の妨げとなる環境変化も多様であることが考えられる.さらに,システムに
よって観測が行われたとしても,そこで得られる情報は対象物体の位置や速度な
どの物理的な情報であり,必要とする情報を得るためには人手に寄る判断が不可
欠なことが多い.
このような問題点を克服し,真に有用なビジュアルサーベイランス技術を確立
するためには,我々人間が普段から無意識のうちに行っている“ 人物の位置や速
度などの物理的な観測情報から高次な情報を得るプロセス ”を計算機の上でも実
装することが不可欠であると考えている.
そこで本論文では,人物の位置と速度を含む情報である“ 移動軌跡 ”から高次
な情報を取り出すことを目的としている.そして,犯罪・異常状態の検出やマー
ケティングなどへの応用を最終目標としている.
人物の移動軌跡
近年,デバイスや人物検出・追跡技術の進化により人物の移動軌跡を正確に抽
出することが可能になってきている.ユビキタスシステムとして街中に設置され
てきているのは監視カメラだけではなく,その他の画像センサーや B6,レー
ザーレンジファインダなども設置されている.これらのデバイスを利用すること
で,表情や体の構造などの他の情報に比べ移動軌跡は比較的容易に獲得できる.
移動軌跡自体は単純な情報であるが,移動軌跡のみから以下の : つの情報の獲
得を目指す研究が行われている.
%
不審・異常な行動
%
土地勘の有無
%
目的・目的地
:%
人間関係
鈴木らは人物がシーン中で通過した位置に着目し,ある店舗内にいる人物の移
動軌跡から他の人物とは異なる逸脱した行動をとる人物を検出している @:A.ま
た,都築らは映像中の人物上に存在する特徴点を追跡することで映像中の人物群
の流れを学習し,それ以外の行動をとる人物の異常行動を検出している @
A.浅間
らは人物が目的地までまっすぐ向かっているか,うろつきながら目的地へ近付い
ているかを特徴として,人物を内部者か外部者かに識別している @<A.西村らは対
象シーンの主な出入り口に 9 を振り,9 を振った領域間を移動する人物の移動
軌跡から,対象人物の目的地を推定している @A.
このように移動軌跡単体からでも人物に関する様々な情報を得ることができる.
我々はこれらの情報の中でも人間関係の推定を最終目標の一つとしている.なぜ
ならば,都市計画やマーケティング,コミュニティ支援,または,異常状態検出
などの様々な研究への応用などを考えると,複数人物間の相互関係などの情報は
有用かつ必要な情報となるからである.
小林らは,オフィス内の人物の位置と人物間の距離に着目し,人物間の親密度
を推定している @;A.この手法ではオフィス内の座席レイアウトを考慮した領域ラ
ベルを用いているためオフィスなどの領域に意味を持つ場所には適しているが,
ただの通路のような領域に意味を持たない場所には適さないと考えられる.また,
親密度推定を行うためには対象人物の長時間における移動軌跡を必要としている
ため,映像中に対象人物が入ったり出たりする場合は,対象同定を行わなければ
正確に親密度を測ることは難しい.また,人物間の親密度を測る上で人物間の距
離が重要な要素であることは明白であるが,通路のような場所に意味を持たない
空間において人間関係を推定するためには,人物間距離以外の特徴が必要になっ
てくる.そこで我々は,人間が映像中の異常状態や人物間の相互関係を理解する
上で考慮していると考えられる“ 直感的な特徴 ”を抽出することを目標とし,研
究を行っている.
人間が人物の移動軌跡のみを見て着目するポイントの一つとして歩行パターン
の変化がある.ここで言う歩行パターンとは,人物の歩行速度と進行方向である.
つまり,歩行パターン変化とは走り始めたり,曲がったりなど,人物が等速運動
をやめることを指す.これら歩行パターンの変化は,人物自身の意図や他人との
インタラクションで発生したものであり,それらをよく表現していると考えられ
る.そこで我々は,人物の歩行パターンが変化した瞬間に着目し,人物間で発生
しているインタラクションの度合いを抽出することを目指している.そして本論
文では,対象人物と映像中の他の人物間で発生したインタラクションを抽出し,
その値を基に人物間の距離情報のみでは分からない人間関係の推定実験と異常状
態検出実験を行う.
:
本論文の構成
歩行パターンとインタラクションの具体的な説明については,第 章にて行う.
第 章では,人物の移動軌跡から歩行パターンを変化させた点を抽出し,そのと
き発生したインタラクションを数値化する手法について述べる.そして,第 : 章
にて実際に撮影を行い移動軌跡を得る.第 章にて,取得した人物の移動軌跡か
ら歩行パターン変化点に着目したインタラクション解析を行い,第 < にて,人物
関係の推定実験を行った結果について示し,第 章にて,異常状態に対して本手
法を適用した結果についても示す.人間関係推定実験では,本論文にて提案する
インタラクションに着目した特徴量と,人物間の親密さを測る上で重要とされて
いる人物間の平均距離のみに着目した特徴量,そして, つの特徴量を組み合わ
せた特徴量の パターンの特徴量を用いた.
インタラクションと影響度
本章では,我々が定義するインタラクションと影響度について説明し,歩行パ
ターン変化に着目することで影響度を推定する手法の概要について述べる.
屋外の通路のような場所を一人で歩いている人物の進行方向・速度といった歩
行パターンが変化するのは,曲がり角を曲がる,信号待ち,通路から建物の方へ
進行方向を変える,などが考えられる.これらは,環境や歩行者の意図によるも
のといえる.知人と並んで歩いている場合はこれらに加え,知人が道を曲がった
ことで自分も曲がったり,知人が立ち止まったことに気づいて自分も立ち止まっ
たりなど,知人の歩行パターンの変化に合わせて自分の歩行パターンを変化させ
る場合がある.他にも,遠くにいる知人を見つけ歩行パターンを変化させて近寄
る場合や,近寄ってくる相手を待つために立ち止まる場合などが考えられる.我々
はこういった,歩行者同士が影響を及ぼしあうことをインタラクションと呼んで
いる.これらは先述の関連研究のように,位置情報だけでは理解することができ
ない.しかし,対象の人物が歩行パターンを変化させたタイミングで周りの人物
の移動軌跡との関係を調べることで,知人かどうかが分かるはずである.提案手
法はこのインタラクションの大きさを定式化し,位置情報から得た距離だけでは
関係が分からない二者間の関係を推定するものである.
例えば,図 のような友人が出会って一緒に歩く状況では, 片方が声をかけ
ることでお互いの存在に気づき, 一方が追い付くまで他方が待ち, 合流後,
: 一緒に歩き始める,といった変化が考えられる.もし,この二人が他人であれ
ばどちらも立ち止まることなく,下から来る人物が曲がり角で一度歩行パターン
を変化させるだけで,最小限の変化しか発生しなかったはずである.つまり,知
人関係にあったからこそ立ち止まるという変化が発生したと考えられる.この場
合,立ち止まって待っている人物は歩行パターンを急激に変えているが,これは
他方の人物の影響を受けたものである.提案手法ではこのような影響の大きさを
定式化する.まず,移動軌跡から歩行パターンが変化した点を抽出し,各点で他
の人物から受けた影響の大きさを定式化する.映像中の全ての人物の全ての変化
点における影響を抽出することができれば,インタラクションが発生している知
人関係にある二人の間で発生している影響の大きさは,無関係な二人の間で発生
<
している影響よりも大きくなるはずである.
(3)Catches Up
(4)Walk Together
(1)Notices Friend, and Calls Out
(2)Stops and Waits for Friend
図
友人間に起こる歩行パターン変化
歩行パターン変化に着目した影響度推定
本章では,人物の移動軌跡中より他の人物から影響を受けた瞬間を見つけ,そ
の時,誰からどの程度影響を受けたのかを影響度として抽出する手法について述
べる.
前章で説明した通り,インタラクションが発生したときに影響を受けたと考え
る.そして,人物が進行方向と歩行速度の歩行パターンのどちらか,または両方
を変化させた瞬間を影響を受けた瞬間と考える.歩行パターンが変化する点のこ
とを変化点と呼ぶ.移動軌跡は変化点によって複数のセグメントに分割すること
ができ,各セグメント中では,歩行パターンは一定となる.
人物の移動軌跡から人物 が他の人物から受けた影響度を算出する処理は以下
の 過程となる.
%
人物 の歩行パターン変化点 %
各変化点で他の人物 0((%%% から受けた影響度
½ ¾ ½
を抽出
を算出
½
それぞれの詳しい手法について述べ,求めた影響を用いて知人関係を推定する
手法について述べる.
歩行パターン変化点抽出
人物の移動軌跡中から,歩行パターンを変化させた点を抽出する.変化点は歩
行者のある時間間隔での平均速度ベクトルの変化量を調べることで求める.
を時刻 での人物 の位置とすると,単位時間 @ C A と @ A における平均
速度は以下(式 ,式 )のようになる.
D
D
;
この平均速度ベクトルの変化量がある閾値を超えた時,すなわち式 が成立
するとき,時刻 で歩行パターンが変化したとする.
D このとき, が二つのセグメントを分ける変化点となる.式 によって,歩
行者が進行方向と速度のどちらか,または両方を変化させたことを検出できる.
Stops
speed vector
Begins Walking
transition points
Turns
magnitude of acceleration
図
歩行パターン変化点抽出
単純な手法であるが図 のような,止まる,進み始める,曲がるといった顕著
な変化を抽出することができる.また,図 の状況においてこの手法を適用する
ことで,図 : のような結果を得ることが予想される.本手法は第 章において十
分な結果を得ることができている.
本手法を用いて実際のデータに対して変化点抽出を行うと,変化が起こった一
瞬ではなく,図 のように複数点抽出される.一定の歩行パターン変化を持った
連続して抽出して連続された点群は,一つの歩行パターン変化と考え,一変化点
として扱うこととする.
(3)Catches Up
(4)Walk Together
transition points
(1)Notices Friend, and Calls Out
(2)Stops and Waits for Friend
図
:
図 の状況における変化点抽出
transition points
図
実際のデータに対する変化点検出
変化点における他の人物からの影響度
次に,人物 の変化点 において,人物 が人物 から受けた影響の大きさ
を推定する式について説明する.
提案する影響度を推定する式は,人物 が受けた影響の大きさを表すパラメー
タ と,影響を与えた人物が人物 である可能性を表すパラメータ @
のそれぞれを掛け合わせた 次元の値からなる 式 :.
D @
A
A(x1, acc1, t1)
A(x1, acc1, t1)
A
B(x1, acc1, t1)
B(x1, acc1, t1)
A
B
Acc
B
'( %% 図
A
:
Acc
<
')( *! インタラクション例:加速度
は変化点前後における歩行パターンの変化の大きさを表している.知人
と歩行中に道を曲がったときや目的地の方向へ進行方向を変化させたときなどは
小さな値となり,走っている最中に声をかけられ急に立ち止まった場合や今まで
の進行方向とは全く違う方向に進行方向を変化させたときほど大きな値になる 図
<.歩行パターン変化がある一定時間 @ A に起こったとすると,
式はは式 により求めることができる.
D
を表す
C(x1, acc1, t1)
C
Distance
Distance
A(x1, acc1, t1)
B(x1, acc1, t1)
A
図
B
インタラクション例:空間的距離
次に,影響を与えた相手を推定するためのパラメータの一つである につい
て説明する.
は人物間の空間的距離を表す指標であり,人物間の距離が小さ
いほど大きくなる値である.もし 人の人物がインタラクションを発生させなが
ら一緒に移動しているならば,お互いの空間的距離は他の人物に比べ近いと考え
られる 図 .式 < は,人物 の歩行パターン変化が始まった時刻 ,終わった
時刻 ,変化中でもっとも が大きかった時刻 の 点においてそれぞ
れ人物 と人物 の空間的距離を測り,最も近い距離をその変化点での空間的距
離とすることを表す.こうすることで,相手から受けた影響が原因で,相手に近
づく行動を取る場合も離れる行動を取る場合も正しく影響を与えた人物を推定で
きる.求めた距離を式 によって最大 になるように正規化する.
D @ A
´ µ
D <
につい
もう一つの影響を与えた相手を推定するためのパラメータである て説明する.2人で歩いている人物間の距離が近い場合ならば のみで人物
間のインタラクションを抽出できるかもしれない.しかし,実際の環境中におい
“ 一人が立ち止まり,ある程度歩き進んでいたもう一人がそ
ては図 ; のように,
れに気づいて戻る ”といった離れた位置にいる二人の間にもインタラクションは
A(x1, acc1, t1)
A
Temporal Difference
B
B(x2, acc2, t2)
B(x1, acc1, t1)
図
;
インタラクション例:時間的距離
発生する.そこで,離れた位置にいる人物間のインタラクションを抽出するため
に,人物間の距離以外に時間的距離を表す指標である を導入する. は人
物間の変化点が発生した時間の差分を表している.この値が小さいときほど影響
を与えた人物である確率が高い.よって,この指標により離れている人物同士の
インタラクションを推定することが可能になるが,このままでは遠くにいる全く
関係のない人物同士がそれぞれで変化を起こしたときもインタラクションが発生
したと誤認識してしまう.そこで,人物間の距離を表す式 < によって遠くなる
は変化のタイミング
ほど減衰する係数を与え,式化たものが式 ; である.
と距離が近いほど大きな値となる.この式はある程度離れた人物間のインタラク
ションを抽出するものであるが,二人が近距離で歩いている場合でも,一緒に道
を曲がったり,片方が止まってもう片方も立ち止まるなど,二人がほぼ同時に変
化点を発生させるインタラクションも効果的に抽出できる.
´ µ
D ;
以上が我々が提案するある人物が歩行パターンを変化させたときの影響度を数
値化する式である.
を影響の大きさ,
と が,距離と時間に着
目することでお互いに保管し合い影響を与えた人物を推定する.
影響度の人間関係推定への応用
は時刻 における人物 から人物 への影響度である.移動軌跡を計測
しているシーン中において人物 が 回歩行パターンを変化させたとすると,そ
のシーンにおいて人物 から受けた影響はすべての変化点での影響の集合になる
式 .
D ½ ¾ 我々は,もし歩行者同士がお互いを知っているならば,互いに影響を与えなが
ら歩行すると考えている.つまり,シーン中である人物から受けた影響の大きさ
は2人の歩行者間の関係を推定する指標になると言える.そこで,
人物 が人物 から受けた影響 と人物 が人物 から受けた影響 を組
み合わせた相互影響度 式 を用いて知人関係推定を行う.
を表す D 前述の通り,知人関係にある人物間ではインタラクションが発生しているため,
他人関係にある人物間よりも相互影響度は高い値を示すことが予想される.つま
り,学習器などを用いることで知人関係と他人関係それぞれの相互影響度の分布
と はそれぞれ人
を考慮した識別が可能になるはずである.しかし,
物 , の変化点数に依存するため,次元数が違い,学習器では扱いにくい.そこ
と それぞれの平均と分散を算出し,それらのデータとする集合
で,
を人物 と人物 の間の知人・他人を表す特徴量とする.人物 の変化点の数を
とすると,特徴量は式 の通りとなる.
D :
実験準備:人物移動軌跡の獲得
提案手法の有効性を確認するため,大学構内の人物の移動軌跡から影響度を表
す特徴量を抽出し,特徴量を基に知人・他人の判別実験,異常状態検出実験を行っ
た.本章では,実験に用いた人物の移動軌跡の取得方法について述べる.
本章では,実験に用いた人物の移動軌跡の取得方法について述べる.提案手法
では,人物の実環境中での位置が必要となる.人物位置はレーザーレンジファイ
ンダや監視映像などから得ることができるが,本実験では,撮影した動画中から
人物位置を人手で取得し,画像座標系から実際の環境の世界座標系に射影するこ
とで実環境中の人物の移動軌跡を得た.
撮影を行った大学構内の環境を図 に示す.黄の枠の部分が人が出入りする場
所になる.
passage: A
passage: B
building: E
passage: C
passage: F
building: D
図
撮影には .
撮影対象環境
= の &985? を用いた 図 .カメラのスペックは表 の通
りである.
このカメラを用いて大学構内の撮影を行った 図 ,図 .以降では撮影者
のプライバシーのために顔を隠す.このときのカメラの設定は表 の通りである.
図
表
. =>&985?
スペック>&985?
型番
有効画素数
焦点距離
シャッタースピード
&985?
万画素 9
&9E <> 時:$D:%
∼
:%
F:∼F( 秒
表 カメラパラメータ
解像度
::+;
アイリス
$
5
焦点距離
無限遠
フレームレート
シャッタースピード
ゲイン
F
秒,F
秒
","
<
図
撮影画像1
図
撮影画像2
次に,取得した連続画像に対してテンプレートマッチングを行うことで,対象
人物の足元位置を抽出し,移動軌跡を獲得した 図 ,図 :.人物のテンプレー
トは人手により与え,オクルージョンによる追跡ミスをなくすために人手により
修正を加えた.
図
人物移動軌跡1(画像座標系)
提案手法は実世界中での人物の位置や速度を必要としているため,対象人物
の座標位置を画像座標系から世界座標系に変換する必要がある.画像座標系から
世界座標系に変換するために射影変換行列を求める.まず,撮影した映像中から
複数の点を選び,実世界中で対応する位置をトータルステーションを用いて計測
した.この対応する点を用いて画像座標系から世界座標系へ変換するためのホモ
グラフィー行列を求めた.対象環境を計測するにあたり,トータルステーション
「G 社製 8
#」を使用した 図 .本トータルステーションのスペッ
クは表 の通りである.
取得したホモグラフィー行列を用いて,移動軌跡を画像座標系から世界座標系
への変換を行った 図 <,図 <".
これまでの手順により人物の世界座標系での移動軌跡を取得できたが,実際に
;
図
図
:
人物移動軌跡2(画像座標系)
トータルステーション「8
」
表
スペック:8
H
H
測角精度
最小表示
測定距離F測距精度
測定時間
内蔵メモリー
素子プリズム B68 使用時:F C
ノンプリズム測距 ' モデル:F C
ノンプリズム測距 #! モデル:
F C
光波: 秒以下( ノンプリズム:∼< 秒
点
シリアル
8
インターフェイス
+
± %;F 器械高 %
望遠鏡倍率
レーザー求心装置
'( + & 図
<
')( + & 人物移動軌跡(世界座標系)
は画像中から人物の足元位置を抽出したときと画像座標系から世界座標系へ射影
したときとで多少正確な位置からずれていることあった.そこで,世界座標系の
位置において前後数フレーム間の平均を現在の位置とするように補正を行った 式
.ここでの
は平均を取るときに参考にするフレーム数である.今回は D
にて行った.
D 大学構内において人通りの多い時間に撮影を行い,本手法を用いて人物の移動
軌跡を取得した.1シーンを知人・他人入り交じった歩行者が ∼ 人写っている
動画とし,合計で20シーンの撮影を行った.対象人物の詳細は表 : の通りであ
る.人物同士が知人関係か他人関係にあるかは映像を見て判断を行い,ペアは2
人で歩いている場合は1ペア,複数人で歩いている場合は人数に対する全組み合
わせ数をペア数とした.他人関係のペア数は,1シーン中に写っている歩行者の
全組み合わせ数からそのシーン中の知人関係のペア数を引いたものとし,全シー
ンのペア数の合計とした.
表 : 実験データ詳細
対象人数
; 人
知人関係
他人関係
ペア
ペア
歩行パターン変化点に着目したインタラクション解析
本章では,第 : 章で得た ; 人の移動軌跡に関して歩行パターン変化点に着目
したインタラクション解析を行った結果を示す.
歩行パターン変化点抽出実験
人物が影響を受けた瞬間を見つけるために第 : 節にて取得した ; 人の移動軌
跡に対して式 を適用し,歩行パターン変化点抽出実験を行った.このときの
式 のパラメータは,
D とした.取得したデータが
$ の画像列なので対象人物のある 秒間と次の 秒間の平均速度の差分が加
となる.撮影した動画中の人物を確認したところ,歩行者が歩行パ
速度
D @
A
ターンを変更するためにはおおよそ2歩ほど必要であり,2歩進むには平均1秒
D とした.また, D は,事前に複数の移動軌
跡に対して を求め,映像中の人物の動きと目視により比較を行いヒュー
間かかっていたため リスティックに決定した.
以下に変化点抽出実験の結果を示す.移動軌跡の色が変化している点が対象人
物が歩行パターンを変化させ始めた点である.色は赤,黄,緑,青の順で変化さ
せている.
歩行パターン変化点抽出の結果を図 ,図 ; に示す.
図 と図 " を見てみると,それぞれ一回ずつ歩行パターンが変化して
いる.図 の場合は,建物から出てきており,垣根を超えたところで右折し
ている.図 " の場合は,左の通路から出てきて上へ歩いて行っている.どち
らも曲がり角での方向転換を正しく抽出できている.
図 と図 は同じグループ中の2人の歩行パターン変化点抽出結果で
ある.どちらも通路上で 度方向転換しており,その点における歩行パターン変
化を正しく抽出できていることが分かる.実際に映像を見てみると,人物 9 の方
が先に進行方向を変え(赤→黄),途中から走り(黄→緑),その後,少しだけ
>0 の方へ進行方向を変え 緑→青,最後に >0 の方へ曲がっている
赤→黄 ことが分かる.また,人物 は人物 9 が曲がったのに気づき歩行速度を
'( ')( *
' ( ,
図
'#( 歩行パターン変化点抽出結果1
'( -
')( .
' ( "
図
;
'#( /
歩行パターン変化点抽出結果2
:
緩め(赤→黄),曲がった後歩行を続け(黄→緑),同じグループの人物が近寄っ
てきたのを避けている 緑→青→赤 ために少しだけ動き,その後は >0 の
方へ歩いている.上記の変化は映像中の人物の変化通りに抽出できているが,人
物 9 の青→赤の変化は映像を見た限りでは分からない.これは人物の足下位置を
抽出した際に,抽出位置がずれていたことが原因だと考えられる.足下位置は両
足の足先の中点になるように抽出しているため,立ち止まっていたり,歩いてい
る場合は抽出位置の決定が容易なのだが,走っている場合はほぼ両足が浮き空中
にいる瞬間があり,実際の位置からずれてしまうことがある.また,対象人物が
木陰や他の人物に隠れたりなど,オクル―ジョンによっても正しい位置を抽出す
ることが困難な場合があった.そのために,実際の移動軌跡からずれてしまい,
歩行パターン変化点を誤抽出したのではないかと考える.この結果より,変化点
抽出を行う際に参考にする閾値 の精密な調整が必要だと分かる.本実験では
事前にチェックした歩行者の移動速度を参考に全歩行者に対して同じ閾値を決定
したが,様々な状況に対応するためには走っている人物に関しては閾値を高めに,
歩いている人物に関しては低めにするなど,歩行者毎に最適な閾値を決定するた
めの手法を構築する必要があると考えられる.
図 ;,図 ;" どちらも歩行パターン変化点は見つかっていない.人物 7 は
グループで歩行しており,左から右へ向かっているが橋の部分で少しだけ左へ進
行方向を変えている.映像を見てみると,グループ全員が狭い橋を渡るため少し
だけ避けているように見えるが,歩行パターン変化点を正しく抽出できていない
のは,既に述べた閾値であると考えられる.また,人物 5 もグループで歩行して
おり,右から来て,途中から下の建物の方へ曲がっているが緩やかに進行を変化
させ曲がっているため,歩行パターンを変化させた点は抽出されなかった.
図 ;,図 ; は 人組の動線で同時に >0 から出てきて,一緒に
> まで歩いて行っている.この二人はお互いに‘ ふらついて少し近づく
→もう片方が離れる ’を繰り返しつつ,ほぼ一定の距離を保ちながら歩いている.
ここでのふらつく行為とは,体調不良時の足元おぼつかない状態ではなく,目的
地までまっすぐ歩きながらも壁や人に影響を受けて少しだけ左右によけたり,近
づいたりする行為を言う.この結果より,第 章で想定したようなどちらかが立
ち止まり,それに追いつくと言った動作の大きいインタラクションだけでなく,
歩行中の小さなインタラクションもで捉える事が出来ることが分かった.
歩行パターン変化点に着目したインタラクション解析
次に,取得した移動軌跡中の歩行パターン変化点に対して式 : を適用し,イ
ンタラクションの大きさを抽出した.発生したすべてのインタラクションの大き
さをプロットした結果を図 に示す.知人関係にあるペアの間で発生したイン
タラクションを赤で,他人関係にあるペアの間で発生したインタラクションを青
でプロットしている.プロット数は知人関係のインタラクション発生数が ; 点(
他人関係のインタラクション数が : 点である.
Influence between Pedestrians
1.2
Influence between related persons
Influence between unrelated persons
0.8
1
0.6
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
1
0.6
0.8
1.2
1.4
1.6
図
インタラクション解析結果
横軸が変化点における変化の大きさと空間的距離に依存した値を掛けた で,縦軸が変化の大きさと空間的距離,時間的距離に依存する値をそれぞれを掛
け合わせた となる.
<
プロット中の分布を見ると,どちらの値も他人関係に比べ,知人関係の方が大
きい傾向にあり,知人間の方が大きいインタラクションが発生することが多いと
いう想定した分布におおむね近い結果となった.
知人関係にあるペアにおいて0に近い結果を得たインタラクションは,路上で
合流したり離れたりするペアがある一定距離離れているときに歩行パターンが変
化した場合や,歩行パターン変化点が抽出されなかったためにインタラクション
自体が発生していなかった場合などであった.逆に,他人関係にあるペアの間で
発生した高い値をもつインタラクションは,ある人物の進行方向転換時にもう一
人がたまたま近くにいた場合や,相手から一方的な影響を受けた場合などであっ
た.進行方向転換時に起こったインタラクションは,ある人物が曲がり角付近や
建物の出入り口付近で方向転換したタイミングで,別の人物が逆から来た場合や,
同じ方向へ曲がる人物がいた場合に観測された 図 .曲がり角付近では人物
は歩行パターンを変化させやすいが,実際には観測された人物間においてインタ
ラクションは発生していないことが多い.この曲がり角付近におけるインタラク
ションの誤抽出問題を解決するためには,歩行パターン変化が多発している領域
において,多発している歩行パターン変化の種類(図 においては左右から下,
下から左右という変化)を学習し,その領域にて学習した変化と同じ変化が抽出
されたとしてもインタラクションの計算は行わないことが効果的ではないかと考
える 図 ,図 .
また,相手から一方的に受けた場合とは,人の後ろを歩いている際に,前の人
物の速度が遅くなったことで後ろの人物も速度を緩めなくてはならなかった場合
や進路上にいる相手を避けようとした場合などであった.これは瞬間的で一方的
な影響を捉える事が出来ていると考えることができる.この結果より,変質者や
犯罪者に追いかけられたり,暴行を加えられたりなど,一方的で大きな影響を発
生していると考えられる異常状態の検出へ本手法は応用できるのではないかと考
えらえる.
transition points
Interaction
transition
point
図
transition area
インタラクションの誤抽出 図
歩行パターン変化の多発領域
transition area
図
歩行パターン変化の学習
;
インタラクション解析に基づく知人関係推定実験
人物の移動軌跡中のインタラクションを解析し,知人・他人関係推定実験を行っ
た.実験には以下の 種類の特徴を用いた.
歩行パターン変化に着目した特徴量
第 章にて取得した影響度に式 を適用することで取り出した,ある人
の
物の全ての歩行パターン変化点において他の人物から受けた影響 平均と分散を表す ; 次元の特徴である.式中の時間的距離にかかるパラメー
タ
は,本実験に用いていないデータに対して提案手法を適用し,そ
の結果を参考にしてヒューリスティックに決定した.空間的距離にかかるパ
ラメータ は,&!! による近接学 + を参考に決定した
@( A.&!! は日常生活の中で使われている距離帯は大きく分けて四種類あ
ることを見いだしている 表 .我々は近距離と遠距離におけるインタラク
ションの違いが声を張る必要があるかないかだと考え,近接学を参考に声
が になるように決めた.
の大きさの境目となる % のときに 人物間距離のみに着目した特徴量
これまで行われてきた様々な研究からも分かるように,人物間の距離は親
密度を測る上でシンプル,かつ,直感的な情報で,とても重要であることが
知られている @;(
A.実際,知人同士がインタラクションを行うときは,
近距離にいる場合が多い.そのため,式 : のような移動軌跡の平均距離
だけでも,常に近くを歩いている人物間の知人関係や途中すれ違う程度で
平均的にはある一定以上の距離を保つ他人同士などを識別することが可能
だと考える.式 : 中の は人物 と人物 が共に観測範囲内にいた時
が に近づき,離れれば に近づく
間であり,Æ は,距離が近ければ ように距離の値を @ A に変換するためのパラメータである.本実験におい
´ µ
ては,式 や式 ; と同様に距離が % のときに Æ が %
を取るよ
うに値を設定した.
表
名称
蜜
接
距
離
個
体
距
離
社
会
距
離
公
衆
距
離
4つの距離帯と特徴(参照:@A)
相
距離 >
近接相
愛撫,慰め,格闘,保護のための距離
遠方相
:
手で相手に触ることができる距離
近接相
:
手足を使って相手に触ることができる限界の距離
遠方相
相手の表情を細かいところまで観察できる
近接相
相手に触れることも顔の微妙な変化を見ることも
遠方相
<
相手の体全体が見やすくなる距離
近接相
<
個人的な関係が成立しにくくなる距離
遠方相
表情や細かい動きが分からなくなる距離
特徴
恋人や夫婦,親子に利用される
親しい人物間で使われる
相手の表情を正しく見分けることができる
私的な交渉などに使われる
できない距離. 仕事仲間との間で使われる
声は大きくなり,他人を気にせず仕事ができる
無意識な逃走反応が起こりやすくなる
講演や演説に用いられる
D ´µ
D ´µ Æ
Æ :
実験データの全てのペアに対し,人物間距離を計算した 図 ,図 :.横
軸が人物間の シーン中における平均距離で,縦軸がペア数である.また,
赤のグラフが知人関係にある人物のペア数であり,青のグラフが他人関係
にある人物のペア数である.知人関係と他人関係は %
付近で二分されてお
り,他人の大半が %: 以下になっている.
上記 つの特徴量を組み合わせた特徴量
上記の特徴を組み合わせた 次元の特徴である.歩行パターン変化点に着
目した特徴量のみでは,インタラクションの回数が少ない場合や,一回一回
のインタラクションがとても小さい場合は知人と判定できないことが予想
される.また,距離のみに着目した特徴量では,知人関係にある人たちが
通路上で合流する場合や他人関係にある人物同士がある程度近い距離を保
ちつつ前後を歩いている場合などを識別することができない.そこで,二
つの特徴量を組み合わせることで,単独の特徴量では識別できない状況を
お互いに補完し,単独の特徴量よりも高い識別率を目指す.
図 に歩行パターン変化に着目した特徴の分布を,図 < に歩行パターン変化
と人物間距離に着目した特徴の分布を示す.どちらも ; 次元, 次元の分布を主
成分分析により 次元にしている.以下でこれらの特徴を用いて実験を行ってい
るが,実験には次元数を落としていない特徴量を用いている.
実験には第 : 章で得たデータ(表 <)を用いた.E を用いて 分割交差検定
により評価を行った.
Interaction based on Distance
400
Related Persons
Unrelated Persons
350
300
Frequency
250
200
150
100
50
0
0
0.2
図
0.4
0.6
Average Distance between Persons
0.8
1
ヒストグラム:人物間平均距離
Interaction based on Distance
20
Related Persons
Unrelated Persons
Frequency
15
10
5
0
0.2
0.3
図
:
0.4
0.5
0.6
Average Distance between Persons
0.7
ヒストグラム 拡大:人物間平均距離
0.8
PCA:Interaction between Pedestrians
25
Interaction between Related Persons
Interaction between Unrelated Persons
20
15
PC2
10
5
0
-5
-10
-5
0
5
10
15
20
25
30
PC1
図
歩行パターン変化に基づく特徴の分布 主成分分析
PCA:Interaction and Distance between Pedestrians
6
Interaction and Distance between Related Persons
Interaction and Distance between Unrelated Persons
4
2
0
PC2
-2
-4
-6
-8
-10
-12
-14
-16
-5
0
5
10
15
20
25
30
PC1
図
<
歩行パターン変化と距離を組み合わせた特徴の分布 主成分分析
表 < 実験データ詳細
対象人数
; 人
知人関係
他人関係
ペア
ペア
分割交差検定:知人・他人推定実験結果
: インタラクション
%: %; % %
; :%:;
平均距離
<% %: ;% <% <%
組み合わせ(提案手法) %:
;% ;%: ;%: ;%
表
識別率 I
%
%
;%
結果を表 に示す.全ての特徴で Iを超える高い識別率を得ており,特徴を
組み合わせることで識別率は高くなっている.以下に識別を行った ; ペアを例に
挙げ,インタラクションが定量化できているか考察する 表 ;( 図 図 :.
図番号
図 ( 図 ;
図 ( 図 図 ( 図 図 ( 図 :
図
表 ; 知人関係推定:正誤表
正解:関係 提案手法 平均距離
知
他
知
他
5
5
5
5
組み合わせ
, 関係:知人,インタラクション:,平均距離:,提案手法:
図 では,(" 共に左から現れ上へ抜けている." は先に曲がった後に走り
始め,駆け抜けている. は " が曲がったことに気づいた後,進行方向を変
え,歩きで後を追いかけている." が進行方向を変え走り始めるまでは一緒
:
に歩いているが,その後は離れてしまっているために平均距離では正しく
識別できていない.しかし,インタラクションに基づく手法では,二人が
曲がったときの 赤→黄 インタラクションを捉えており,正しく識別でき
ている. 図 ; は,路上で知人同士が合流した事例である. が左から現
れ右へ向かっている途中に が下から出てくる.それに気づいた が立ち
止まり 赤→黄,合流後右へ向かっている.二人が近距離にいた時間は短
いため,平均距離では誤識別しているが,インタラクションに基づく手法
では,合流時,歩き始め時などに発生しているインタラクションを捉える
ことで正しく識別できている.
図
, 関係:他人,インタラクション:,平均距離:,提案手法:
図 では,平均距離の式 : 中の人物 (4 の共有時間 が短すぎること
が問題となっている. が左から右へ歩き,橋を渡ろうとしたとき 赤→青
に $ が右から現れすれ違っており,二人とも対象範囲にいた時間が短かった.
共有した時間の全てにおいて橋の上ですれ違うほど近い距離いたため,平
均距離がとても小さくなり,平均距離では誤識別していた.図 では,他
人同士が常に近い位置を歩行していたため,平均距離では誤識別している.
が右から出てきた後, が出てくる.その後, が の外側を通って追い
越している.追い越してはいるが,撮影対象範囲内では常に近距離を歩行
していたため誤識別が起こっていたと考えられる.
図
, 関係:知人,インタラクション:,平均距離:,提案手法:
図 では,歩行パターン変化が全く起こらなかったため誤識別が起こって
いる.インタラクションに基づく手法は,変化点が発生していることが知
人関係を推定するための前提となるため,( のように変化点が全く発生し
ていないペアは他人だと判断する.今回の実験では大学構内の一部しか移
動軌跡を計測する対象範囲としていないため,このデータのように歩行パ
ターン変化点が発生しない移動軌跡が多々ある.しかし,提案するインタ
ラクションと平均距離に基づく情報を組み合わせた提案手法では,平均距
離によって正しく識別できている.図 のペアでは,片方に歩行パターン
変化点が見つかっているが誤識別している.知人関係はお互いに影響を与
えながら歩いていると仮定しているため,図 のように一方的なインタラ
クションだけでは知人と判断することができない.しかし,図 のペアと
同様に, つの情報を組み合わせた手法では正しく識別できている.
図
, 関係:他人,インタラクション:,平均距離:,提案手法:
図 では, が下の建物から現れ右へ, が右から現れ下の建物へ入って
行っている.時間的・空間的に近い歩行パターン変化が発生しているためイ
ンタラクションに基づく手法では誤認識している.第 章でも説明した通
り,建物の入り口や曲がり角では歩行パターン変化が起こりやすく,( の
ような誤認識が起こりやすい.この問題を克服するためには,歩行パター
ンが多発する領域を学習することが効果的だと考える.図 : では, が右
から来て下の建物へ, が下から出て右へ歩いている. しか歩行パターン
変化が起こっていないため双方向のインタラクションは起こっていないが,
歩行パターン変化が大きかったために知人関係と誤認識したと考える.図
のところでも述べたが,知人間では双方向のインタラクションが発生す
ると考えている.そのため,一方的なインタラクションのみで知人と判断
するべきではない.にもかかわらず,一方的なインタラクションで知人と
識別される原因は,本実験で用いた知人関係にある人物のデータに一方的
なインタラクションしか発生していないペアが多いためと考えられる.こ
の問題を克服するためには,もっと多くのデータを用意するか,長時間の
観測が必要と考える.
<
'( 図
')( )
知人関係推定:ペア '( 図
')( #
;
知人関係推定:ペア '( 図
')( 知人関係推定:ペア '( !
図
')( 知人関係推定:ペア :
;
'( 図
')( +
知人関係推定:ペア '( 0
図
')( %
知人関係推定:ペア <
'( 図
')( 知人関係推定:ペア '( 図
')( :
知人関係推定:ペア ;
:
異常状態におけるインタラクション解析
本章では異常状態検出の実験として,学生が演じた異常状態の移動軌跡に対し
て提案手法を適用した結果を示す.
実際の異常状態を撮影することは困難なため,著者以外の学生に状況はすべて
歩行中として,痴漢,異常行動者,ひったりを演じてもらった.演技の基本的な
流れは,被害者が歩行中,加害者がゆっくりと近づき,近距離になったら襲いか
かり,被害者が逃げ,加害者が追いかけるという流れである.
この演技を シーン撮影し,合計 << 本の移動軌跡を取得した.取得した移動
軌跡に対して歩行パターン変化点抽出を行った結果から ペアを図 ,図 <,図
に示す.また,加害者・被害者の各変化点において発生したインタラクション
の大きさをプロットした結果を図 ; に示す.
インタラクションの大きさを示す図 ; を見てみると,異常状態は知人・他人間
のインタラクションに比べ高い値が発生していることが分かる.これは,加害者
が襲ったときと被害者が逃げる際に歩行パターンが大きく変化したことによって
発生したものである.このことを考慮すると,異常状態を普段のインタラクショ
ンが取る値よりも十分に大きいインタラクションが発生する状況とすれば,激し
い動きを含む動作を提案手法により認識可能だと期待できる.
次に,知人関係推定実験と同様に,人物間のインタラクションを特徴量として
正常状態と異常状態の識別実験を行った.識別器に E を用いて 分割交差検定
により評価を行った.正常状態のデータを知人関係推定実験で用いた全てのデー
タとした.実験に用いたデータ数は表 のとおりである.
表
正常・異常状態識別実験データ詳細
正常状態 < ペア
ペア
異常状態
全ペアのインタラクションを定量化し,主成分分析を掛け第 主成分まで落と
したインタラクションの分布を図 に示す.実験には主成分分析を掛けていな
い ; 次元のインタラクション特徴量を用いている.また,正常・異常状態推定実
:
'( 1 ')( 図
異常状態:ペア '( 1 ')( 図
<
異常状態:ペア :
'( 1 ')( 図
異常状態:ペア Influence between Persons
4
Influence between related persons
Influence between unrelated persons
anomaly
3.5
2.5
3
2
1.5
1
0.5
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
図
;
異常状態における各変化点におけるインタラクション解析結果
:
験を行った結果を表 に示す.
PCA: Interaction Normal and Anomaly State
10
Normal State
Anomaly State
PC2
5
0
-5
-10
-5
図
0
5
10
PC1
15
20
25
正常・異常状態におけるインタラクション解析結果 主成分分析
分割交差検定:正常・異常状態推定実験結果
: 識別率 I
インタラクション 表
実験を行った結果,Iの認識率を得ることができた.この要因の一つとし
て,異常状態にある人物の各歩行パターン変化点における影響が正常状態に比べ
大変大きいため,インタラクションの平均値と分散が高くなったことがある.
今回の実験では異常状態を演技により行ったが,実際の異常状態を検出するた
めには警察による演技指導を受けるなどしてより実際の状況に近い演技をするか,
監視カメラに映った実際の異常状態を学習データとする必要がある.
::
!
終わりに
本研究では,人物の移動軌跡から,速度や進行方向といった歩行パターンが変
化した点に着目することで,人物間で影響を与えあっていると考えられるインタ
ラクションが発生した瞬間を検出し,発生したインタラクションの大きさを定量
化する手法について提案した.
インタラクションの解析実験では,実際の環境中の人物の移動軌跡を人手によ
り取得し,人物間のインタラクションの定量化を試みた.定量化したインタラク
ションの分布を確認したところ,知人関係においては他人関係に比べ高い値を示
すインタラクションが多く発生していることが観測された.
知人関係推定実験では,定量化したインタラクションと人物間の平均距離の両
方の情報を用いることで,それぞれの情報だけでは識別できなかった知人関係を
識別できるようになり,約 ;Iという高い識別率を得ることができた.
また,異常状態における人物の移動軌跡からインタラクションを抽出し解析し
たところ,正常状態におけるインタラクションの値よりも高い値が発生している
ことが確認でき,異常状態検出実験を行った結果 Iの検出率を得た.
以下に問題点と今後の課題を挙げる.
歩行パターン変化点の過検出
曲がり角や建物の出入り口付近では道を曲がる必要があるため歩行パター
ン変化が多く検出される.そのため,関係のない人物がたまたま同じ曲が
り角でほぼ同時に歩行パターンを変化させてしまうと,大きなインタラク
ションが発生したと誤認識してしまう.この問題の克服には,人物の流れを
学習しておき,各領域において起こる頻度が高い変化と同じ変化が起こっ
た場合はインタラクションを計算を行わないようにすることが効果的では
ないかと考える.
環境・人物の属性に関する検討
本論文中の実験はすべて同一の場所で,大人のみに対して行っている.そ
のため,他の環境においても実験を行い,対象人物の移動速度や空間に対
する人物密度,建物の配置などの環境の属性と,大人だけでなく,子供,高
:
齢者,男性,女性などの人物の属性それぞれが提案手法においてどの程度
影響を及ぼすのか検討する必要がある.
人物の主従関係の推定
本実験では,人物間においてインタラクションが発生しているかしていな
いかを判断し,その大きさを解析している.しかし,理論では影響を与え
た側,与えられた側を仮定し解析を行っているため,常に影響を与えてい
る人物,常に従っている人物といった人物の主従関係まで知ることができ
ると期待できる.そのためには,影響が誰から誰へのものなのかを明確化
する必要がある.
監視映像中の人物の自動理解
現在のシステムでは人物移動軌跡は事前に得られていると仮定し,映像か
ら人物位置を手動により抽出している.今後システムを完全に自動化しす
るためには人物抽出・追跡も自動化する必要がある.本実験で用いている
人物位置は人手によって抽出しているため精度が高いため,実際に自動化
した場合の人物位置で,本手法によってどの程度の精度が得られるのか検
証する必要がある.
:<
謝辞
本研究を進めるにあたり,研究内容だけでなく,研究者,技術者としてあるべ
き姿など様々なことを御指導頂いた知能情報処理学講座 木戸出 正継 教授には厚
く御礼申し上げます.
本論文執筆にあたり副指導教官として御教授頂いたロボティクス講座 小笠原
司 教授に心から御礼申し上げます.
本研究を進める上で,様々なご助言,御指導して頂きました知能情報処理学講
座 浮田 宗伯 准教授に心より感謝申し上げます.
論文執筆,研究,海外発表に際し,多大な時間を割いて細部にわたり御指導頂
いた知能情報処理学講座波部 斉 助教には深く心より感謝致します.
研究に際して的確なアドバイスを頂いた知能情報処理学講座 松原 崇充 助教に
心より感謝の意を表します.
そして研究にとどまらず,様々な面で助言,手助けをしていただきました知能
情報処理学講座の諸氏に深く感謝いたします.
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研究会
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波部斉( 中河秀仁( 本田和久( 木戸出正繼% 対象シーンの高次情報に着目した
柔軟・頑健なビジュアルサーベイランスの実現に向けて% 電気学会 一般産
業研究会(
<( ;
国際会議
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