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論 文 の 内 容 の 要 旨 論文題目 サトウキビ産業における農工融合型の

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論 文 の 内 容 の 要 旨 論文題目 サトウキビ産業における農工融合型の
論 文 の 内 容 の 要 旨
論文題目
サトウキビ産業における農工融合型の砂糖・バイオエタノール同時生産システムの開発
氏
小原 聡
名
1. 緒言
サトウキビは,熱帯・亜熱帯地域の代表的な畑作物であり,主な構成成分は,砂糖原料となるスクロース以外に,
グルコース,フルクトースなどの還元糖,リグノセルロースからなる繊維分等である。サトウキビ産業は,世界史的に
重要な甘味成分であるスクロースを晶析する砂糖生産技術と共に発展し,農業側は砂糖生産に適した品種開発
を,工業側は砂糖生産の効率化が図られてきた。地球的規模における食料とエネルギーの同時的増産の必要性
が高まる中,サトウキビ産業には砂糖・バイオエタノールの同時的な増産が求められている。その実現には原料生
産とその利用が一体となった飛躍的な生産技術が必要である。そのような状況下,農業側では従来と変わらず砂
糖のみを目的生産物とした高スクロース含有のサトウキビの品種開発が行われ,工業側ではサトウキビを原料とし
た製糖産業と,製糖副産物である糖蜜からの副産物利用型のバイオエタノール産業が個別に発展し,これまで農
業,工業(砂糖,バイオエタノール生産)を俯瞰した生産システムの開発が取り組まれていない。今後,優良農地
の拡大が望み難い中で,砂糖とバイオエタノールを同時的に増産するには,不良環境条件下で高生産性
を発揮する高バイオマス量サトウキビの利用と,砂糖とバイオエタノールという2つの製品を生産する発想が必須で
ある。高バイオマス量原料は,既存の製糖用サトウキビより,スクロース以外の構成成分である還元糖,繊維分の
含有率が高く,現行の製糖技術では砂糖生産収率を低下させることが知られている。そのため,バイオエタノール
産業を含めて工業的に利用されておらず,それに伴い,農業側でも高収量化に関する品種改良が進んでいない。
そこで,従来のように農業・工業が別々に行う個別型技術改良ではなく,農業・工業の融合型システ
ム設計による新たなサトウキビの開発とその利用に伴って予想される砂糖収率の低下を克服するための
技術・システムの開発・導入を構想した。そして,本研究の目的を,砂糖・バイオエタノール同時的増
産を達成する農工融合型のシステム開発,システムの定量的評価,実用化の提案とした。
2.農工融合型の砂糖・バイオエタノール生産システムの開発
同一圃場面積において,従来の砂糖生産量を維持しつつバイオエタノールを増産するための新規複合生産シ
ステムを設計した(図.1)。工業的には,砂糖製造からバイオエタノール製造までを一工程と捉え,砂糖回収率が
低下する2,3回目の結晶化工程を省略して,回収率が高い1回目の晶析のみで砂糖を生産し,合計の砂糖回収
率低下を許容することによって,バイオエタノール原料となる糖蜜における発酵阻害物質の低率化と供給量増加
を図る設計にしている。同時に,農業側の改良のために,砂糖回収率低下を補うスクロース収量条件,バガス燃焼
エネルギーで全生産エネルギーを自給するための繊維収量条件を明示し,条件に適合するサトウキビを設計した。
次に,品種改良途上の幅広い原料系統から,複合生産システムの原料条件に適合する高バイオマス量サトウキ
ビ系統の選定を行った。そして,フィジビリティスタディ(FS)によって,複合生産システムによって現状の砂糖生産
量を維持しながらバイオエタノール生産量を向上させる効果があることを定量的に示すとともに,システム設計に
おける課題を明確にした。
砂糖生産
高バイオマス量
サトウキビ
圧搾
清浄
濃縮
晶析
バガス
燃焼
蒸気・電力
分離
バイオエタノール生産
糖蜜
(1番糖蜜)
希釈
発酵
蒸留
脱水
製造エネルギー供給
バイオエタノール
砂糖
図.1 農工融合型(1回晶析・糖蜜利用型)の砂糖・バイオエタノール複合生産システム
3.砂糖・バイオエタノール複合生産システムの実証
沖縄県伊江島に建設したパイロットプラントにおいて,現地で栽培した8種類のサトウキビを用いて,設計した複
合生産システムの実証試験を行った。実証試験では,システム設計に使用した各工程の歩留データが,実際は原
料組成の差異によって影響を受けること,またその定量的な関係性を実験的に明らかにした上で,総合的に,砂
糖・バイオエタノールの同時的増産が達成できることを実証し
10
た。一方,パイロットプラントでの実証試験では,バガス燃焼
8
た。実証結果を元に,世界初の砂糖・バイオエタノール生産
用品種として,KY01-2044の品種登録を実現した。次に,実
際の製糖工場(鹿児島県種子島)および工場規模のバイオ
エタノールプラント(福島県本宮市)において,実用規模の実
砂糖生産量[t/ha]
エネルギーによる製造エネルギーの自給は達成できなかっ
実用規模
プラント
NiF8
6
1回晶析
3回晶析
同時増産
3回
晶析
1回晶析
2
伊江島パイロットプラント
KY01-2044
伊江島パイロットプラント
NiF8
0
0
量1.2倍,バイオエタノール生産量9倍)が可能であること,バ
3回晶析
4
証試験を行い,新品種KY01-2044を用いた複合生産システ
ムによって,砂糖・バイオエタノールの同時的増産(砂糖生産
実用規模プラント
KY01-2044
1回晶析
1
2
3
エタノール生産量[t/ha]
4
ガス燃焼エネルギーによる製造エネルギーの自給が達成で
きることを実験的に示した。(図.2)
図.2 砂糖・エタノール生産量(実証試験結果)
4.砂糖・バイオエタノール複合生産システムの評価
社会面での評価として,バイオエタノールの製造コストおよびシステム
導入による環境影響性評価を実施した。
バイオエタノール製造コストは,国内のモデル地域を設定して算出し,
圃場2,000ha,製糖工場1,000t/dの規模の地域に複合システムを導入し
た場合,糖蜜価格を現状レベルの2,000円と仮定すると,製造コストが
エタノール製造原価[円/L]
120
100
80
60
40
糖蜜20,000円/t
糖蜜10,000円/t
20
糖蜜 2,000円/t
51.5円/L(目標値の範囲内)となることを示した(図.3)。
0
環境影響性評価では,新規複合生産システムの導入による温室
0
1000
2000
製糖工場の原料処理規模[t/day]
図.3 エタノール製造コスト試算結果
効果ガス(GHG)の排出量の変化について調査し,日本の標準的原料
生産・砂糖生産をモデルとした生産地域に,従来の副産物利用型生産
システムを導入した場合,圃場1haの生産あたり,0.7 t-CO2eq.のGHG削減となること,複合生産システムを導入し
た場合は40.2 t-CO2eq.のGHG削減となることを示し,複合生産システムのGHG排出削減効果が大きいことを明ら
かにした。
最後に開発した新規複合生産システムの総合評価を行い,システム普及のための課題として,(1) 原料の収量
が大幅に増加しても,原料の純糖率が著しく低い場合は砂糖歩留も大幅に低下し,トータルでは砂糖が減産する
可能性があること,(2)原料の還元糖比率によって砂糖とバイオエタノールの生産比率が影響されること,(3)現状の
製糖技術では,低純糖率の原料において,スクロース回収に限界があり,砂糖生産可能量(理論値)と実際の最
大砂糖生産量のギャップが大きいこと,(4)工場の稼動日数が短いことを挙げ,それらを解決させるためには,工業
側での還元糖除去技術が不可欠であることを示している。
GHG 排出量 [t-CO2eq./ha]
-100
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
サトウキビによる
吸収量 (A)
理論上の最大砂糖生産量
=原料中のスクロース量
副産物による
排出削減量 (∑Ci)
生成したエタノールの消費
による直接排出量 (D)
Case 1:砂糖のみ
Case 2:従来法
Case 3:新規法
砂糖生産量[t/ha]
ギャップ
各工程での総排出量(∑Pi)
ガソリン代替による
排出削減量(G)
工
程
ロ
3回晶析型
ス
複合生産
(現在の最大砂糖生産量)
理論的な
砂糖・エタノール分配ライン
1回晶析型
複合生産
実際の
砂糖・エタノール分配ライン
⊿E (GHG削減効果)
エタノール
単独生産
バイオエタノール生産量[t/ha]
図.4 農地1haあたりのGHG吸収・排出量と削減効果
図.5 理論的な砂糖生産可能量と
最大砂糖生産量のギャップ
5.砂糖・バイオエタノール逆転生産システムの開発
高バイオマス量サトウキビからの複合生産普及の鍵となる還元糖除去技術について,従来の物理的,生物的な
除去技術の課題を明示し,スクロース非利用性酵母による還元糖の選択的発酵を利用した全く新しい逆転型の砂
糖・バイオエタノール複合生産システム(逆転生産システム)を設計した。
新システムを理論上可能にするのに必要なスクロース非利用性酵母の探索を実行し,発酵試験によって,シス
テムでの使用条件を充たす菌株として,Saccharomyces属3株と近縁のZygosaccharomyces属1株の酵母を取得し
た。
サトウキビ搾汁
サトウキビ搾汁
(Suc, Glc, Fru)
(Suc, Glc, Fru)
製糖プロセス
砂糖
(Suc)
選択的
エタノール生産(SF)
糖蜜
SF処理搾汁
(Suc, Glc, Fru)
(Suc)
従来型
エタノール生産
プロセス
エタノール
製糖プロセス
エタノール
砂糖
150
250
120
200
90
150
60
100
30
50
0
(Suc)
0
2
0
4 6 8 10 12
発酵時間 [h]
酵母濃度 [106 cells/ml]
B) 逆転プロセス
糖,エタノール [g/L]
A) 従来プロセス
糖蜜
スクロース
エタノール
(Suc)
従来型
エタノール生産
プロセス
グルコース
酵母
エタノール
図.7 スクロース非利用性酵母の
搾汁発酵経過
図.6 逆転生産システムの概要
6.砂糖・バイオエタノール逆転生産システムの実証
ラボスケールおよび伊江島パイロットプラントにおいて逆転生産システムの実証試験を行い,還元糖の選択的な
エタノール変換による砂糖生産性の飛躍的な向上効果について実証した(図.8)。また,世界のサトウキビについ
て,逆転生産システム導入の有無による砂糖・バイオエタノール生産量の差異をシミュレーションによって明らかに
し,システムの成立可否の条件を検証した。
10
逆転生産システム導入
9
100
逆転生産
(3回晶析)
砂糖生産可能量 [t/ha]
8
砂糖回収率 [%]
80
60
40
20
逆転生産システム
従来の製糖システム
7
3回晶析
糖蜜利用型
1回晶析
糖蜜利用型
6
5
4
現状
3
2
1
0
50
60
70
80
搾汁純糖率 [%]
図.8 逆転生産システム導入による
砂糖回収率の飛躍的向上
90
0
砂糖:1.9倍
バイオエタノール:2倍
0
複合生産システム導入
砂糖:1.2倍
バイオエタノール:9倍
3回晶析
KY01-2044
糖蜜利用型
搾汁分配型
1回晶析
(ブラジル方式)
糖蜜利用型
搾汁分配型
(ブラジル方式)
NiF8
エタノール
(製糖用品種)
単独生産型
(ブラジル方式)
1
エタノール
単独生産型
(ブラジル方式)
2
3
4
5
6
エタノール生産可能量 [t/ha]
7
図.9 逆転生産システムを含めた
農工融合型複合生産システムの開発による
砂糖・バイオエタノール生産量の増加
7.要約
本研究は,サトウキビからの砂糖・バイオエタノール生産に関する全く新しい農工融合型の複合生産システム
開発を提案し,そのシステムの有効性・有用性を定量的に明らかにしたものであり,食料・エネルギーの同時的増
産に向けた技術・システムとして,工学的に高い価値を有し,化学システム工学への貢献は大きい。
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