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IMF の金融セクター専門家派遣制度について IMF 玉川 雅之 先般

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IMF の金融セクター専門家派遣制度について IMF 玉川 雅之 先般
IMF の金融セクター専門家派遣制度について
IMF 玉川
雅之
(通貨金融システム局審議役
アジア太平洋地域 TA チーフ)
先般、ウェッブサイトに掲載していただいた「IMF における通貨金融システ
ム局(MFD)の発足」におきましては、金融セクターに関する IMF の活動全般
の変遷と最近の進展状況について説明させていただきましたが、本稿では IMF
の金融セクターTA(技術協力)の中核にある、金融専門家派遣制度について、
実際にどのように運営されているかをご紹介させて頂きたいと思います。
金融資本市場整備ネットワークの問題提起に対応するかたちで、日本人が今
後、金融セクター専門家としてもっと国際的にも活躍していける余地はないか、
とくに JICA の現在の専門家派遣制度の運営を強化していくことはできないか
といった視点から、創設後すでに約40年の実績があり、また本年 5 月の MFD
発足とともに大幅に体制が強化された IMF のケースを参考例として提供させて
いただきます。
金融セクター整備ネットワークからの問題提起の一部に応えて、最後の第7
節において、日本の金融セクター支援との関わりについて私見を述べさせてい
ただいておりますので、ご関心のある方はこちらだけでもご一読ください。
1
IMF の TA
IMF は世界の財務省、中央銀行など通貨、ファイナンスに関わる政府、公的
部門の相互協力機関としての性格があり、各国マクロ経済のモニタリング、技
術協力・知的支援、外貨不足に陥った国の資金貸し出しを活動の三本柱として
います。
コンディショナリティ付きの融資で、新古典派的な経済政策や市場開放、民
営化を押し付けてきた IMF というイメージが一時ワシントンコンセンサスの議
論とともにクローズアップされましたが、経済学に進歩があるように、IMF の
対応にも変化があります。アジア金融危機への対応の反省もあって、最近は当
局との政策対話を重視し、節度ある財政金融政策、健全な強い金融・経済シス
テム、市場経済が機能するための基本的な制度の整備、グローバリゼーション
への適切な対応といった観点が最重視されてきています。また、国際危機に陥
った国に対してもプログラム融資だけなく、適切な助言によって危機脱出をお
手伝いする事が活動の中心になっています。
IMF における助言、技術支援の歴史は、1960年代に独立したアフリカ等
の諸国に、依頼により大蔵大臣や中央銀行の顧問(時に中央銀行総裁)を派遣
した時期に遡りますが、90 年代の旧ソ連中東欧諸国の市場経済以降を経て、TA
は極めて盛んになり、とくに 90 年代後半のアジア金融危機等を契機に金融セク
ター問題の重要さがクローズアップされ、金融セクター関連の TA が IMF 全体
の TA オペレーションの三分の一近くを占めるようになってきました。
これが、金融セクター問題全般を所管し、金融セクター審査プログラム
(FSAP)や金融専門家派遣のコントロールセンターとしての通貨金融システム
局(Monetary and Financial Systems Department, MFD)発足の経緯でもあ
ります。
2
金融専門家派遣制度
IMF の専門家派遣制度は、IMF に加盟する各国の中央銀行や財務省、金融監
督機関の依頼により、特定の問題についての対応を助言やノウハウの移転など
によって支援するため、先進国の公的部門などで経験を積んだ専門家を選定し
て、無償で派遣する制度です。
派遣には長期(6ヶ月以上の現地滞在。1 年ごとに契約を更新しますが数年に
わたることもあります)と短期(2 週間から 3 ヶ月程度の現地訪問)があります
が、短期訪問を何回か継続して行なってもらう形態もあります。専門家派遣に
あたって、MFD は金融専門家リスト(roster)を作成、管理しており、2,000
名以上の登録実績があります。専門家リストには、自薦者や先進国の財務省や
中央銀行からの推薦者を、内部審査を経て登録しています。各国から依頼があ
った際に担当マネージャーが適任と思われる専門家にコンタクトして、派遣相
手先 (Authorities)の同意をとりつけ、仕事の内容(Term of Reference TOR)
を定め、IMF と専門家が派遣契約を結ぶ(専門家に所定のフォームにサインし
てもらい、内部で決裁し、事務スタッフがフォロー)という手続きにより専門
家派遣が行なわれます。
世界銀行やアジア開発銀行(ADB)と異なるのは、コンサルタント会社は一
切使わず、個人を選任する事です。またリストへの登録制度によって運営され
ており、報酬は概ね標準化されていますので、入札手続はおこなわれません。
このため、40年の運営経験を経て極めて迅速な対応も可能になっており、緊
急対応が必要な場合には電話やメールの連絡により専門家に翌日の飛行機に乗
ってもらうようなこともできます。
3
金融セクターTA の分野
MFD は80年代には中央銀行局と名乗っていたため、もともとの TA は中央
銀行の運営、金融政策の実施、外貨の管理、通貨決済といったものが中心でし
た。90年代のソ連、中東欧の市場経済移行支援のなかで、銀行監督、銀行の
破綻処理なども重要な分野となりましたが、アジア金融危機を経て活動の全面
的な見直しが始まるようになり、マネーロンダリング対策なども新しい分野に
として対応していくようになりました。
この見直し作業の帰結が、本年 5 月の MFD の発足であり、専門分野をサポ
ートする課が、以下のとおり2ウィング、6 課に再編成されました。
金融監督・危機対応ウィング
(Financial Supervision and Crises Management Wing)
金融規制・監督課 ( Financial Supervision and Regulation Division)
銀行、保険等の金融機関の規制、監督等
危機対応課 (Systemic Issues Division)
金融危機(とくに銀行危機)の対応、預金保険などのセーフティネット等
金融市場インテグリティ課(Financial Market Integrity Division)
マネーロンダリング・テロ資金対策 金融市場のガバナンス問題等
中央銀行・市場インフラウィング
(Central Banking and Market Infrastructure Wing)
金融・為替政策課 (Monetary and Forex Operations Division)
金融政策・為替政策の実施、インターバンク短期金融市場の整備等
通貨制度・外貨債務管理課 (Exchange Regime and Debt and Reserve
Management Division)
為替管理、資本規制、外貨準備の運用、国債などの公的債務管理等
金融インフラ課(Financial Infrastructure Division)
中央銀行制度、通貨、決済、資本市場、会計・ディスクロージャー等
これらは、多岐にわたる金融セクター問題を、無理して 6 つの課に割り振っ
たものですが、MFD の TA の具体的な対象分野を示す構造になっています。
これまでの伝統的分野に加えて、保険やノンバンクの監督、資本市場整備、
国債管理、資本市場自由化支援、ガバナンス、マネーロンダリング、オフショ
ア金融センターなどの最近まで IMF の担当範囲とは余り思われていなかった分
野も積極的に取りこみ、マクロ、短期、中央銀行関連特化の IMF というイメー
ジを払拭したところに、大きな特徴があります。
4
IMF のオペレーションの中での専門家派遣の位置付け
金融セクターの専門家派遣は、IMF の業務の重要な一部として位置付けられ
ており、以下のようなコンテクストの中で運営されます。
1)4条コンサルテーション
IMF は毎年各国にスタッフのミッションを派遣して、当局と議論を行い各国
の経済状況をモニターしていますが(4 条コンサルテーション)、各国の金融セ
クターの問題はこの中でも議論され、同時に TA のニーズが把握されることにな
ります。4 条コンサルテーションミッションは地域局の主要業務ですが、金融セ
クター問題が大きな問題となっている国には MFD のスタッフを参加させるこ
ともあります。
2)プログラムローン
IMF は国際収支危機に陥ったり、外貨が恒常的に不足している貧困国では、
緊急融資や貧困削減成長促進ファシリティのスキームにより資金融資が行われ
ますが、このためには、状況を改善するための政策プログラムが、融資のコン
ティショナリティーとして協議され、合意されます。この交渉は地域局のミッ
ションにより行われますが、このときに金融セクター問題に対応することの必
要性が認識され、プログラムの項目に組み込まれることがあります。この場合、
具体的な措置の実施にあったては、TA により支援することが多く、案件が MFD
に持ち込まれます。とくにアジア危機以降、プログラムにコンディショナリテ
ィーとして盛り込まれる事項は、危機脱出に必要不可欠なものに限られるべき
だという考え方から、コンディショナリティの簡素化が行われており、金融セ
クターの問題の具体的な対応方法は、TA に委ねられるケースが多くなってきて
います(トルコ、アルゼンチン、ウルグアイ等)。
3)金融セクター審査プログラム(FSAP)
各国の金融セクターの現状と問題点を包括的に把握するため1999年より
世銀と共同で、金融セクター審査プログラムが発足スタートし、現在先進国を
含めて約80カ国で実施されて、今後も毎年 20 カ国前後の国で実施されること
になっています。FSAP は MFD 及び世銀のスタッフの他、各国の中央銀行や監
督当局等からの専門家の参加を得て行なわれます。FSAP の結果、改善が望ま
れる点について各国当局との間で共通の認識が形成されることになり、TA ニー
ズが把握されるようになります。
上記の 4 条コンサルテーション等の地域局のミッションへの MFD スタッフ
の参加と、FSAP の運営は MFD では金融システムモニタリングウィング
(Financial Systems Monitoring Wing)が担当しています。
4)MFD 助言ミッション
MFD においては、金融セクター問題についての対応策を助言するために、各
国の要請により、MFD スタッフが率いる TA 助言ミッションを各国に派遣して
います。ミッションは通例 2 週間程度各国を訪問し、一定の問題について、MFD
としての正式の助言(recommendations)を行ないます。ミッションには金融
専門家も参加してもらい、議論に加わり、レポート作成の一端を担ってもらう
ことになります。助言ミッションは、4 条コンサルテーションや、FSAP の結果
を受けて派遣されることもあれば、銀行危機の勃発などより、さし迫った要請
により急遽派遣されることもあります。
助言ミッション結果を受けて、より具体的な問題の解決に、専門家を派遣す
るケースがしばしばあります。また年に一回、小さな国では2-4年に一回助
言ミッションを派遣して、それまでに専門家が行なってきた仕事の成果を踏ま
えて、MFD としての正式の助言を行なったり、今後の対応策(Action Plan)
とそのためのフォローアップ TA(専門家の追加派遣)等を協議します。
5)専門家派遣
専門家派遣制度は、以上のような業務を通じて IMF と先方当局との間では、
金融セクターにおける問題状況の把握や対応策について共通の認識が形成され
ていくプロセスの中で、さらに具体的な問題について当局の問題解決をサポー
トするためのものです。
専門家は自己の経験と見識にもとづいた助言やノウハウの移転を行なっても
らうので、専門家の助言が直ちに IMF としての正式の助言になるわけではあり
ません。
(例えば中央銀行の総裁として派遣された場合は、IMF が中央銀行を運
営するのではなく、あくまでも専門家が個人として運営に携わります)
同時に専門家には、本派遣制度の趣旨に沿ったいい仕事をしていただくこと
が重要であり、IMF と当局と専門家の間で仕事の内容(TOR)を明確にすると
ともに、専門家から定期的に報告を受け、ある問題について IMF としての標準
的な考え方はどのような方向か、他の国で似た例がないか、他のミッションな
どではどのような議論がなされたかなど、この専門家を情報面でもサポートし
続けることが必要です。
5
MFD における TA 業務の企画、管理体制
MFD において、TA 業務の企画、実施および管理を担っているのが新しく創
設された TA ウィングです。
TA ウィングは、MFD の TA 助言ミッションと専門家派遣制度の双方を所管
し、その実施管理を一元的に行なっています。TA ウィングは現在20名余りの、
プロフェッショナルスタッフ (economist, financial sector expert, advisor 等)
とそれをサポートする事務スタッフやアシスタントなどにより構成されていま
す。プロフェッショナルスタッフは地域別に 7 つのチームを構成し、チームリ
ーダーには課長級の管理職である審議役が担当し、地域チーフ(TA Area Chief)
というタイトルが与えられています(私はアジア太平洋地域を担当する 2 つの
チームの、地域チーフの一人です)。
各チームは、地域内各国ごとのMFDの助言ミッションと専門家派遣の企画、
立案、調整、管理を担当しています。助言ミッションについては、TA ウィング
あるいは 2 つの専門ウィングに所属するスタッフが、ミッションを率い、また
参加することになります。専門家の派遣については、相手国とのコンタクト、
TAニーズの把握、専門家の選任、派遣に際してのTORの確定、契約締結過
程(報酬、日程等)管理、専門家の情報収集、業績評価までの一連の過程を TA
ウィングが担当します。
とくに専門家の報告を受けて、その活動が派遣制度の趣旨やIMFの基本的
な考え方や他の類似ケースにおける過去のアドヴァイス等とも対応が一貫して
いるかを検討し、専門ウィングのスタッフとも相談しながら、専門家に対する
コメントや助言を行なう事は、専門家の情報サポートの中核であり、IMFと
してのTAの質的管理(Quality Control)の一環でもあります。
TAウィングのスタッフは、担当国のTAニーズの把握やTAの成果を検証
するために各国を訪問することも多く、また、専門家の派遣に際しては、世界
銀行や他の機関(アジア太平洋地域ではADB等)とも連絡をとって、調整を
行なう事が重要です。
TAウィングの全体の運営に関する事項(予算、専門家登録、運営に関する
ルール・手続きの策定等)については、ウィングの責任者である局次長の指揮
のもとに、各審議役、プロフェッショナルスタッフが担当をするというパート
ナーシップ型の組織運営を行なっています。
また TA ウィングと並んで、MFD には第 4 のウィングとして金融セクターモ
ニタリングウィングが創設されました。こちらは金融セクター問題のわかるエ
コノミストを中心に約40名のプロフェッショナルスタッフが配備されており、
IMF のマクロ経済モニターという基本的業務の中で、地域局ミッションへのサ
ポート、参加やFSAPを通じた金融セクターのモニタリング活動に関するオ
ペレーションの中枢としての役割を果たしています。金融セクターモニタリン
グウィングと TA ウィングという2つのオペレーション中枢は、2 つの専門ウィ
ングからのサポートをうけつつ、いわば病院における健康診断と実際の治療と
いった補完関係に立って運営される事になります。
(最近作成された MFD TA ウィングの説明パンフレットと MFD の組織図を
ウェッブサイトに参考資料として掲載してありますので、ご参照ください)
6
IMF の TA の実績
IMFはTAの実績を、投入したスタッフと専門家の「のべ稼動人・日」で把
握しています。昨事務年度(2002年5月から2003年4月)までのTA
の実績は356年・日で、実効年間稼動日を260日とすると約 9 万日相当の
人的資源がTAに投入されていることになります。予算規模では年間100億
円程度の規模の事業です。TAはIMFに加盟する事の大きなメリットとして
位置付けられており(先進国もTAを受けられます)
、その支出の大半はIMF
の通常予算でまかなわれていますが、先進国などからの特別な拠出も重要な財
源であり、日本政府は現在年間約20億円近くを拠出し、この分野で最大のサ
ポーターとなっています。
MFDの金融セクター整備関連のTAはこのうち三分の一の約120年・日
で、IMFの中においても最大規模のものになっています。このなかで年間約
120件のTA助言ミッションが各国に派遣され、約50名の専門家が長期専
門家として各国に滞在し、短期派遣については、200名以上の専門家が件数
では約300件、総滞在日数では年間合計 10,000 日程度、各国に派遣されてい
ます。
地域別ではアジア太平洋地域が29%、アフリカ諸国が23%と両方で半分
以上を占め、分野別では金融監督関連が52%と最大になり、金融政策関連、
決済、会計、外国為替、債務管理などがそれに続いています。
IMFのTAはMFDの他、財政局、統計局、法務局、IMFインスティチュ
ートによって実施されています。
財政局は公的支出管理、税制改正、徴税などの分野が中心で、統計局は統計
整備に特化しています。法務局のTAは最近金融関連を中心に急速に拡大して
きており、銀行法、中央銀行法、マネーロンダリング・テロ資金対策法制の整
備などが中心で、MFDと緊密な連携をとって進められています。IMFイン
スティチュートでは途上国の財務省、中央銀行など関係者を対象にする研修や
セミナーを開催しており、ウィーン、シンガポールにも研修センターがありま
す。また、太平洋諸国、カリブ海諸国には各分野の専門家数名を常駐させて対
象国を頻繁に訪問して助言したり、研修等を実地する地域TAセンターがフィ
ジー(PFTAC)とバルバドス(CARTAC)にあります。また、東、西アフリカを
それぞれカバーするTAセンター(AFRITAC)も新たにスタートすることになり
ました。
各局のTA実施体制は業務の性格により、若干異なっており、たとえば財政
局では財政問題はマクロ経済問題の中心なので、スタッフが地域局の 4 条コン
サルテーションやプログラムミッションに参加する頻度が高く、他方財政問題
は支出サイドと、収入サイドサイドに切り分けられやすいので、TAはそれぞ
れの専門課を中心に運営されています。また法務局においては最近TA専門の
チームが発足し、専門家を何回かに分けて派遣し、法案のコンセプト作り、ド
ラフトの作成、協議、議会への提出過程を継続してサポートするような方式で
法整備支援TAが行なわれるようになってきています。
これに対して金融セクター問題は、対象分野、トピックが多岐にわたり複雑
に相互関連しており、財務省、中央銀行、金融監督機関など対象機関の業務分
担も各国によって異なるので、より工夫した対応が必要になってきます。この
ため長年の試行錯誤を経て、今般、TAウィングというオペレーションの中枢
チームを作ると共に、金融規制監督系と中央銀行系の2つの専門ウィングとい
うアドヴァイスの中枢を設け、TAウィングが、専門ウィングの知的サポート
とミッションなどへの参加をうけつつ、TAオペレーションを企画、運営する
という体制がとられることになりました。
7
最後に
―
日本の金融セクター整備支援TAとの関わりについて
このように、IMFの金融セクター整備支援は、40年の歴史の中で、時代
の変化に対応して次第に拡充され、オペレーションについても改善の工夫が重
ねられながら現在にいたったものです。今般の MFD の発足によって、金融セク
ター問題の多岐にわたる分野をカバーすると共に、TAオペレーションの中枢
が確立され、金融セクター分野における世界最大規模のTA実施機関としての
グローバルな役割を果たしていく上で必要な体制が整えられました。
しかしながら、途上国にとっては(多分先進国にとっても)地球規模でネッ
トワーク化しつつある金融資本市場のもたらすメリットを享受しつつも、金融
危機に陥ることを避けられるような健全で強い自国の金融セクターを整備し、
経済開発を実現していくことは容易ならざる課題であり、この分野における、
助言、ノウハウの移転、人材育成などのニーズは、極めて大きなものがありま
す。また、多分単なる移転ではとどまらず、各国それぞれにあまり前例のない
ユニークな事態に遭遇し続けるなかで、現場において、類似ケースなどを参考
にして、一緒にいい対応策を考えていかねばならないことがしばしばでしょう。
これに対して、IMFはマクロ経済、財政、金融分野における各国の財務省
や中央銀行等の相互協力推進を基本的な役割とする国際機関として、なるべく
適正な役割を果たしていこうと努力しているものの、投入できる資源には自ず
と限界があります。また、その TA の対象も中央銀行、財務省、金融監督機関な
ど基本的には途上国の公的機関に対するものであり、方式もスタッフおよび専
門家を現地に派遣して助言等を行なう事に特化しており、例えば民間金融セク
ターに対する人材育成等には、ほとんど手が回っていない現状です。
このためTAニーズや問題点を把握した場合には、他の援助機関とも情報を
シェアし、問題に対する対応方向に合意が形成され、具体的な課題が数多く特
定される中において、できるだけ他の援助機関にも仕事を分担してもらうよう
なアレンジメントを推進することが重要になっています。
この場合、IMF にとっての現在の最大の提携先は、19番街を隔てて向かい
にある世界銀行です。世銀は金融セクターに関するオペレーションについても
長い実績があり、なかなか人材も豊富で、とくに世銀と共同で行われる FSAP
を通じて、協力関係は拡充されてきています。しかしながら世銀は基本的には
融資のための機関であり、金融セクターの整備には技術移転や人材育成のニー
ズは莫大ながらローンの需要はそれほど大きくないという問題があります。他
方、無償で技術支援、助言を行うことは、必ずしも世銀の本業とは位置づけら
れておらず、世銀のオペレーションは、主としてローンプロジェクト準備のた
めの経費を使ってニーズ調査をしたり、プログラムローンで相手国の政策にコ
ンディショナティーをつけたうえでその実施指導に職員を派遣したり、各国に
おける世銀事務所の活動の一貫としてセミナーなどを開催したりというような
かたちで構成されています。銀行がいくら儲かっても、調査やコンサルタント
業務、セミナーに経費をつぎこんで無償でサービスを提供することには無理が
あるように、この分野で世銀がノレッジバンクとして果たせる役割には、現在
の組織、業務運営方法の見直しや思想の転換、無償技術協力機関である国連の
UNDP との役割分担の調整等が大きく進展しない限り、かなりの限界があるよ
うに思えます。このようなことから、世銀もまた、多分 IMF 以上に他の機関と
の協力、提携や、さらには無償資金の任意拠出等を必要としています。
アジア開発銀行(ADB)は、アジア金融危機以降この分野にとくに力を入
れ始めており、日本政府の支援もあって、融資のほかにTAを無償(グラント)
で供与できる能力を付与されています。TA ウィングは ADB との協力も推進
することとしています。しかしながら、ADB にとってローンと技術支援を同時
に管理運営するのはなかなか容易ではなく、IMFのように技術支援・助言の
中枢が確立していないので、助言(つまりグラントの執行)の方は、往々にし
て競争入札で受注した(欧米豪などの)コンサルタント会社に依存するという
問題が生じてしまいがちになるという傾向もあるようで、この分野により多く
の人材投入、できれば日本人の参加が望まれています。
このようななか、昨年から、英国を始めとする欧州数カ国の政府、援助機関
による共同資金拠出により、ロンドンに金融セクター改革強化イニシアチブ
(FIRST)という新たな組織が発足しました。これは、IMFと世銀が行なっ
た FSAP の結果発見されたTAニーズ等に対応するためのもので、基本的には、
国際競争入札を経てFIRSTに登録されたコンサルティング会社が案件を直
接受注する仕組みです。現在拠出金が約 5,000 万ドル、年間 1,500 万ドル程度
の事業を行なって行こうとしており、IMFや世銀も積極的に案件を紹介する
ことになっており、とくに世銀の紹介案件が増えています。
(登録された企業は
シティーのコンサルタント会社が中心ですが、なかなか商売が上手だと思いま
す。なお FIRST については本ネットワークのウェッブサイトのリンクから基本
的な情報を入手することができます。)
アジア太平洋地域などにおける今後の連携を考えると、ADBとともに日本
政府が最大のパートナーであるのは明らかですが、私は旧来からの財務省、金
融庁や日本銀行等との協力とともに、世界最大規模の技術協力機関である JICA
(国際協力機構)との連携が重要になるのではないかと思います。
JICA は、ソ連、中東欧の体制移行やアジア金融危機以降、金融セクター整
備を含めた経済改革支援の分野においても、かなりの専門家専門家派遣の実績
があり、最近はシニアボランティア制度も発足しました。
JICA の制度は、民間部門、公共セクター双方出身の現職あるい OB の専門
家を相手国に派遣し、知的支援や技術移転などに従事させることができるとい
う間口の広い制度ですが、他方で、援助ニーズやそれに対応できる専門家を発
掘したり、現地に派遣された専門家を情報面においてもサポートする体制があ
まり整っていないことが、ひとつの弱点ではないかと思われます。
JICA は緒方新総裁のもとで、独立行政法人国際協力機構となり、援助への
国民参加を掲げ、来年4月からの大規模な機構改革も検討中だと伺っています
が、新生 JICA のもとで、日本人の金融関係者あるいは途上国の経済改革支援を
サポートできる知識や経験をもつ方が、専門家として途上国に派遣されたり、
人材育成に関わられることが活発化し、IMF を通じて派遣される専門家とも共
同作業を行なっていけるようなシステムが整備されていくことになってくれな
いかと期待しています。
私の担当国の1つであるモンゴルやサモアでは、JICA の専門家やシニアボ
ランティアの方とも一緒に仕事をさせていただいたケースがあり、とくにモン
ゴルでは、IMF の専門家による銀行のリスク管理体制の整備や中央銀行による
銀行検査に日本の銀行出身の JICA 専門家の方が参加し、応援していただいきま
した。IMF の活動により浮上し、把握されてくる TA ニーズを JICA にもフォ
ローアップしていただいたり、JICA 専門家の現場でのアドヴァイスが IMF の
助言や、さらには国際機関としての基本的な考え方にもフィードバックされて
いくような建設的な関係を築いていけるのではないかと思います。
なお、JICA の金融セクター整備関連の専門家で派遣された方については、
その体験記、経験談等を披露していただくことにより、本ネットワーク上で経
験を共有、蓄積して、日本人専門家としての技能向上、レヴェルアップにも貢
献していくことが出来るのではないかと思います。もし、本稿を読まれた方で、
そのような方々をご存知でしたら、是非、ML へのご参加、投稿などをよびかけ
ていただければと思います。
IMF の専門家派遣制度につきましては、1960年代に当時日本銀行の職員
だった服部正也さんがアフリカの新興独立国ルワンダの中央銀行総裁として派
遣され大活躍された実績があります。中公新書にはルワンダ中央銀行総裁日記
として出版されており、絶版とはなってしまいましたが、読まれた事のある方
も多いのではないかと思います。私もかつて読んで感動をした本の一つでした
が、たまたま自分がこの派遣側に関わっているのだと後で気づき、日本から送
ってもらいました。今回、本制度の運営サイドから見たこの本の補足説明とそ
の後の報告を、すでに亡くなられた服部さんに捧げたいという気持ちで、また
読み返してみたところです。
ただ、その後は、日本人でこの分野で活躍していただいたケースは30件程
度に止まっています。IMF の TA 制度は、政府や中央銀行分野に焦点をあてて
いるため、日本の公務員などでこのような活躍を希望する人が今まで余りいな
かったことが最大の原因かもしれませんが、IMF の専門家には、学者や民間企
業出身で、金融資本市場の整備というパブリックイシューに興味をもち、経験
を積んで活躍している人も沢山いるので、実はそのような日本の方と未だ出会
えていないからなのかも知れないと思ってみたりします。
本ネットワークを通じて、基本的な情報がより広くシェアされることにより、
このような活躍を希望する方ともネット上で新たに出会えるようになるかもし
れないことを期待しています。MFD においては現在金融セクター専門家登録制
度の見直しを行っており、私も関わっていますが、IMF 専門家としての登録や
活躍にご関心のある方は、[email protected] までご連絡下さい。
また世銀や ADB においても、日本のコンサルタント会社が金融セクター整
備に関する調査や助言案件を受注した例はほとんどないようです。日本の金融
界の方が国内におけるビジネスチャンスの減少などからくる閉塞感にさいなま
れつつ、このような分野への進出が余り活発ではないのは何故なのか、何が大
きな壁となっているのか、皆さんはどのようにお考えでしょうか。
欧米には、大きなコンサルタント会社や会計事務所だけでなく、個人営業や
数名のパートナーシップによるコンサルタント会社も多く、30歳代までが大
きな企業や事務所で働き、40代以降、希望してか強いられてか独立するケー
スが多いようです。また大学の先生も副業でこの分野に加わられたり、学生さ
んにもプロジェクトに参加して、海外などでの経験を積むいい機会になってい
るケースも多いようです。
IMF への勤務を契機に、この分野でも大きな変化が生じていることを実感す
ることができましたが、日本人が金融資本市場整備等の分野で国際的な活躍が
できる余地が沢山ありそうなのにも関わらず、まだ十分に機会を捉えきれてい
ないように思えて、もったいない感じがします。
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