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コバルトプロトポルフィリンの抗腫瘍作用について
395 金沢大学十全医学会雑誌 第67巻 第3号 395−398(1961) コバルトプロトポルフィリンの抗腫瘍作用について ㌧ 皿.コバルトプロトポルフィリンの腫瘍細胞形態に及ぼす影響 金沢大学医学部第二病理学教室(主任 石川大刀雄教授) 佐 古 英 二 (昭和36年10月3日受付) コバルトプロトポルフィリン(以下COPP)の抗腫 蕩作用,体内分布,腫瘍へのとりこみなどについて前 報1)2)でのべた.ここでは,COPPの腫瘍細胞形態に 図1 腹水腫蕩細胞密度に及ぼすCOPPの影響 ×106(個) 300 及ぼす影響を検索した結果を報告する. 、 実験材料と方法 200 実験動物にはdd系ハツカネズミ(体重18∼209 ♂)及び雑系ダイコクネズミ(体重80∼1209$)を 100 ● 用い,腹水腫蕩としては,エールリッヒ癌,結節型腫 瘍としては吉田肉腫を用いた. ハツカネズミ腹腔内の腫瘍細胞数,細胞型並びに細 0 5 10 胞形態をしらべるに際しては,ガラス毛細管で腫瘍細 一。一=COPP投与 胞を採集した.このとき,出血性の腹水はのぞいた. 一〇一:無処置 縦軸:腫瘍細胞数(1m1当り) 横軸3腫瘍細胞移植後の日数(日) 細胞型等の検索は,腹水塗抹後メタノール固定,メ 15(日) イ・ギムザ染色を行った. 腫瘍細胞数は,Thoma−Zeiss型の血球計算盤を使 件では,個体差をこえるだけ十分有意な値で示され 用して測定した. た. 結節型吉田肉腫細胞に及ぼす影響をしらべるに際し 2)エールリッヒ癌細胞型に及ぼすCOPPの影響 ては,移植9日及び14日後の腫瘍を切除し,これを ついでエールリッヒ癌の細胞型組成に対するCOPP 10%中性ホルマリン固定・パラフィン切片,ヘマトキ の影響をしらべてみた.まずエールリッヒ癌細胞型を シリン・エオジン染色として検索した. 沢口3>にほぼ従って以下の3型に分類した. 工型……直径12・卵以下で,核がほぼ中央に存在 実 験 成 績 し,細胞質が乏しい. 1.腹水腫瘍細胞に及ぼすCOPPの影響 1)腹水腫瘍細胞密度に及ぼすCOPPの影響 皿型……直径12.0∼15.鉢で,核はしばしば偏在 工一ルリッヒ癌細胞106個をハツカネズミ3匹の腹 皿型……直径15.0“以上,細胞質は最も多く,核 腔に接種し,3時間後にCOPP 5mg/kgを後肢心内に は常に細胞の一方に偏よつている. 投与し,7日間1日1回投与をくりかえした場合,腹 水1m1あたりの癌細胞数の変動は図1のようになる. 実験条件は前述と同様とし,細胞数測定後,塗抹染 数値は3匹平均であり,対照は無処置の腹水癌3例平 均値である, く1000個の腫瘍細胞を分類した,得た%から復水1m1 中の各型細胞数を計細し,3例平均して図示すると図 即ち,COPP投与は,腹水単位容積あたりの癌細胞 2のようになった. 数の低下を起こさせている.このことは筆者の実験条 これからCOPP投与が腫瘍細胞型に著明な変動を する.細胞実は1型より多い. 色標本について,細胞境界不明化した変性細胞をのぞ On the Anti−tumor Effect of Cobaltiprotoporphyrine. II工The Ef〔ect of Cobalitiprotoporphy− rin on the Morphology of Tumor Cells. Eiji Sako, Department of Pathology(Director 3 Pro£T. Ishikawa), School of Medicine, University of Kanazawa. 396 佐 古 起こさせることが明らかである.とくに接種後7∼11 COPPの腫瘍細胞形態に対する最も直接的且つ効果 日の腹水における工臨細胞の比率を低下させ,対照13 的な作用を見るために,エルリッヒ癌(腹水型)の腹 日目腹水における皿型細胞の増加を強く低下させてい 腔内にCOPP及び対照物質を大量投与して,細胞形 る. 態の変化を観察した. 3)エールリッヒ癌細胞の形態に及ぼすCOPPの 106個のエールリッヒ癌細胞接種後,3時間目より それぞれの物質を1日1回7日間連続投与し,8日目 影響 に腹水をとって塗抹,メイ・ギムザ染色標本とした. 図2 COPP投与による腹水腫瘍細胞型の変動 1型の変動 xコ{P(個) kgを投与した. り \/ ” 1回投与量はCOPP 40mg/kg,対照物質としては, フ。ロトポルフィリン36mg/kg,硫酸コバルト18mg/ COPP投与では,前記細胞型分類における1型細胞 (直径12μ以下)に相当する大きさの腫瘍細胞は強い 核変化を起こし,多型核化している.(写真3) より大型の皿型,皿:型細胞の出現は著しく乏しい 5 む が,それらには,ほとんど著明な変化が認められな い.また赤血球塩嗜に基性の粗大頼粒乃至糸状構造が 現われ,あたかもJolly小体の如き像を呈するものが 051015(目) 一●一=COPP投与 一〇一=無処置 しばしば認められる. 腫瘍細胞胞体内にも嗜塩基性の粗大穎粒がしばしば 認みられるが,それとは別に細胞質がビマン性に黄色 縦軸:腫瘍細胞数(1m1当り) を呈し,明らかにCOPP摂取を思わせる腫瘍細胞 横軸=腫瘍細胞移植後の日数(日) が,かなり認められた. プロトポルフィリン投与では,工型細胞中直径8∼ 皿型の変動 1い程度の小型腫蕩細胞の出現は乏しく,また細胞核 x109(佃) の多型核化はほとんど認められない.多数存在する 10 皿,皿型細胞にも,ほとんど変化はない.ただしばし む / ば細胞質にポルフィリンに由来すると思われる暗室褐 色の粗大穎粒を含む細胞が出現した. 硫酸コバルト投与では,COPP投与の類似の所見が 5 認められたが,工型細胞中小型(直径8∼10“程度) 細胞の出現は乏しく,多型核化した細胞の数もCOPP の場合に比して乏しい.多数存在する豆,皿:型細胞に は,ほとんど認められるほどの変化はない. o 5 15(日) ユo COPPの溶媒である燐酸緩衝液を投与した群または 無投与群では,1型細胞中の小型細胞出現はさらに乏 皿型の変動 しく,また皿型,皿型細胞にも変化は認められなかっ x109(個) た.(写真4) o 20 5 ト● 10 \\ 15 2.結節型吉田肉腫細胞形態に及ぼすCOPPの影響 吉田肉腫細胞の6×106個をダイコクネズミ背部皮 下に接種し,その後3時間目にCOPPを後肢筋内に 1日1回,1日量50mg/kg 14日間投与した群では, 5例全例が結節中の腫瘍細胞に強い変性を起こしてい る.即ち,ほとんどすべての細胞に細胞境界不明化, 核消失,核崩壊,核濃縮,あるいは,クロマチン構造 の不明瞭化が起こっている.(写真5) 0 5 10 15(日) 壊死巣の拡がりも,無投与の対照と比較して広いも COPPの抗腫瘍作用(皿) 397 のが多い.1例では,ほとんど結節全体が壊死に陥入 と,COPP投与は腹水腫瘍の細胞型組成に強い変動 り,わずかの崩壊核が散在する像を示していた. を生ぜしめた. 1日量20mg/kg 14日投与の5例では,上記同様の エールリッヒ癌ハツカネズミの腹腔内にCOPPを 所見が2例に認められたが,3例では障碍の少ない腫 投与して,COPPの腫瘍細胞に対する直接作用を見る 瘍細胞群が所々に残存していた. と,腫瘍細胞は小型(直径8∼10ののものが増加し, 対照6例は,いずれも腫瘍結節が大きく,一部に壊 また強く核変性を起した.一方,より大型(皿,皿 死巣は形成しているが,以外の大部分は多少の崩壊核 型)の腫瘍細胞の数は減じたが,それらのものは,変 を含むとしても,ほとんど健全な腫瘍細胞でみたされ 性をうけることが乏しかった. ている.(写真6) 対照としてのプロトポルフィリン,硫酸コバルト投 これに対してCOPP 1日量100∼20 mg/kgを後 肢筋内に7日間投与した8例では,細胞障碍はより乏 与でも多少類似の変化が起こったが,その程度は微弱 しい.上述同様の効果は多少とも認められるが,毎常 結節型吉田肉腫にCOPP 50∼20mg/kgを14日間投 障碍の少ない腫瘍細胞群が結節中に残存していた. 与したものでは,腫瘍全体の強い壊死が認められた. 結 語 コバルトフ。ロトポルフィリン(COPP)をエールリ であった。 終りに御指導を戴いた石川教授・倉田助教授に感謝する. 文 献 ッヒ癌ハツカネズミに投与すると,腹水1m1あたり 1)佐古英=3十全医学会誌,印刷申. の腹水腫瘍細胞数の低下が起こった. 2)佐古英二:十全医学会誌,印刷中. 腫瘍細胞を,大ききを主として3つの型に分類する 3)沢口正夫:十全医学会誌,62,132(1959). Abstract By intraperitoneal administration of cobaltiprotoporphyrine(COPP)into mice bearing Ehrlich ascites carcinoma in 40mg/kg/day for 7 days, the number of cell per ml of carcino− ma ascites decreased and the constitution of cell types changed remarkably. All Yoshida sarcolna cel】s implanted subcutaneously fell into necrosis by intramusclar ad− ministration of cOPP in 50mg/kg/day for 14 consecutive days. 佐 398 古 難 難灘懇懇 晦 鎌欄顯罵 ‘讐 麟鍵灘 ,鍵鍛、蟻戴 図3 工一ルリッヒ癌細胞一COPP投与 図4 エールリッヒ癌細胞一対照 欝 袋灘 一国τ【聯 ’ 胤 図5 吉田肉腫皮下結節一一COPP投与 図6 吉田肉腫皮下結節一対照