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5. - 国土交通省

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5. - 国土交通省
5.取り組みを考える
~地域公共交通コーディネーターだよりから~
地域公共交通会議等を通じ議論を行い、多様な関係者間による合意形成を図っていくと
いう検討プロセスには、当事者のみでは利害関係などが生じ、議論が円滑に進まない可能性
もあり、そういった意味においてコーディネート役を勤めるキーパーソンの存在が非常に重
要となっています。この点については、戦略実行組織に求められる7つの要素(S)の1つ
「人材(Staff)
」に該当します。
中部運輸局では、各地域での公共交通活性のための活動がより活発になるよう、
「地域公
共交通コーディネーター」制度を中心に、様々な地域公共交通に関する情報の共有化等を進
めており、情報共有や活動支援の一環として定期的にメールニュースを発行しています。こ
こでは、今まで発行したメールニュースに掲載した各コーディネーターの方々からいただい
た“コーディネーターだより”の一部を紹介します。
“コーディネーターだより”には、地域の公共交通に関する取り組みを進めていくうえ
で考えなければならないことや、課題を解決していくためのヒントが盛り込まれています。
※コーディネーターの方々の肩書きについては、執筆当時の肩書きを掲載しております。
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“愛知県日進市におけるバス交通見直しに向けた取り組み”
株式会社国際開発コンサルタンツ
(2008.8)
牧 田 博 之
公共交通利用促進に向けた日進市の取り組みを紹介させていただきます。現在検討中の事項
ですので、現段階での“動き”として見ていただければ幸いです。
日進市は、名古屋市に隣接する住宅都市として人口が増加する一方、昭和 40 年代に開発され
た住宅団地では高齢化が進んでいます。市内には鉄道駅を中心に 9 路線 14 系統の路線バスが運
行されていますが、平成 20 年 4 月 1 日は愛知学院線、赤池・学院線など 4 路線 5 系統が廃止さ
れました。これに対し、市が運行経費の一部を負担する形で廃止代替バスを運行していますが、
朝ピーク時には学生の積み残しが発生し、臨時便によりその対応を図っている状況にあります。
一方、市内には公共交通空白地域の解消を目的に市役所を発着地点として市内を循環する“く
るりんばす”が運行されており、その利用者は年々増加傾向にあり、平成 19 年度には約 45 万人
となっています。しかし、利用者からはサービスエリアの拡大や双方向運行を望む声があること
から、これに対応すべく、市民代表より構成される生活交通部会を中心に具体的な見直し内容に
ついて検討が行われています。
―ここからは、具体的にその方向性がまだオーソライズされていない内容になりますので、
私自身の考えを交えたコメントとしてお読みいただければと思います。―
ご存知のように、コミュニティバスのいたずらなルート拡大が路線バスの退出を招き、結果
的に財政負担の増大に繋がることは周知の事実であります。そこで、一つの考えかたとして“大
学のスクールバスを活用した新たなバスネットワークシステムの構築”を視野に入れた検討を行
ってみてはどうかということがあります。日進市には愛知学院大学、名古屋外語大学、名古屋学
芸大学、名古屋商科大学等多くの大学が立地しており、学生や大学職員による通勤・通学交通需
要が多く存在していることから、バス交通により市民の交通移動ニーズと一体となった“移動の
仕組み”が構築できないかということです。これにより、バス交通における機能分担を明確化す
るとともに、その中で“くるりんばす”については、その果たすべき役割に応じた適切なサービ
ス水準の確保を図ろうとするものです。
特に、名古屋市を中心として放射状に延びる名鉄豊田線やリニモ等の鉄軌道と一体となった
持続可能な広域的公共交通体系の構築という視点からも、大学と地域が一体となった交通まちづ
くりの展開が重要になるものと考えられます。
“地域公共交通会議はできたけれども”
(2009.2)
福井県立大学経済学部経済学科
浅 沼 美 忠
平成 18 年に施行された改正道路運送法に基づいて、福井県ではほぼすべての市町で地域公共
交通会議が設置され、私もその中のいくつかの会議に委員として参加させていただいています。
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地域住民が地域公共交通のあり方を自らの問題として考え、自分たちの手で問題解決策を探り決
定する場ができたことは意義のあることだと思います。地域公共交通会議の設置は、制約がある
とはいえ地方に主体的な決定権限を与えたという意味で、地方分権の流れを先取りした施策であ
ると考えます。ただ問題は、各自治体が地方分権の受け皿として十分に機能しうるかということ
です。いくつかの地域公共交通会議に参加して感じることは、自主的、主体的に公共交通政策を
策定することができ、またそれを実行できる自治体はごく一部に限られているということです。
ほとんどの自治体は、まだそれだけの能力や余裕がないというのが実情だと思います。これは行
政の能力不足という問題だけではなく、地域住民、交通事業者等を含めた地域全体の問題だとい
えます。また、まだ慣れていないという問題もあるでしょう。手続きの正当性やあり方に関する
議論に終始してしまい、自分たちの地域の公共交通はどうあるべきかという本来最も大切な問題
が十分議論されないというケースも見られることが、このことを示しています。
地域公共交通会議がうまく運営されていないと思われる自治体では、その原因の1つとして公
共交通計画が策定されていないということが挙げられます。従来からコミュニティバスを運行し
ているような自治体で、若干のルート変更、時刻表変更を承認するような会議に終わってしまう
。これでは会議に集まった人たちも会議の意義をなかなか見いだせないでしょう。また、利用者
が少ないルートについて、その見直しをしようとしても反対意見があり、なかなか見直しを進め
ることができないというケースもあります。一度バスルートやバス停が整備されてしまうと、そ
れは既得権だけになってしまい、責任についてはあいまいになってしまう傾向があります。これ
らは公共交通計画を策定していないために起こる問題です。やはり公共交通計画を策定し、公共
交通の役割と各主体の責任を明確にしておくべきです。
■地域住民に成果を具体的に示せ
私が関わっている中で比較的うまく行っていると思うのは、越前町地域公共交通会議です。越
前町では、現在の地域公共交通会議の前身となる地域交通活性化検討委員会が平成 17 年 9 月に
発足し、5 回に渡る検討を経て半年後に越前町地域公共交通計画と同時に、コミュニティバスの
導入計画を決定しました。この地域公共交通計画の重要なポイントは、数値目標をはっきりと設
定したことにあると思います。具体的数値で公共交通の目標を設定したことにより、その実現に
向けてまず役場職員自らが率先してバス通勤を実施することを施策として打ち出しています。行
政の中には公共交通サービスは地域住民に対して行政が提供しているものという意識が強いと
ころがあるのではないでしょうか。行政自らが地域住民と同じように公共交通を活用し、公共交
通を維持していくという姿勢が必要だと思います。また、越前町地域公共交通会議では利用状況
と同時に、各種交通施策の実施により補助金がどれだけ削減されたかという財政的な効果を数字
で提示しています(もちろん公共交通サービスの水準を落とさないということが重要ですが)。
公共交通利用者の増加が見られるとしても、地方では公共交通利用者は少数派です。あまり人の
乗っていないコミュニティバスを走らせることに意味があるのかという批判は少なくありませ
ん。こうした批判には公共交通の社会的意義だけで説得するのではなく、できるだけ具体的にそ
の効果を示すことで理解を得るのが一番だと思います。
越前町地域公共交通会議では各種交通施策の成果を具体的数字で提示してはいますが、そのこ
とを広報等によって地域住民に積極的にアピールするという点ではまだ不十分なように思いま
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す。これは課題の1つであるといえるでしょう。
“亀山モデル”
(2009.6)
名城大学理工学部建設システム工学科
松 本 幸
正
“世界の亀山モデル”で知られる三重県亀山市。シャープ製の薄型液晶テレビに貼られる亀山モ
デルのステッカーは、パネル製造から組立までを一貫して亀山工場で行うことによる品質の高さ
を誇示している。実は、地域公共交通においても、他市町村に誇れる“亀山モデル”があるので、
簡単に紹介したい。
亀山市には、公共施設を結ぶバス、廃止代替バス、福祉施設への送迎バス、旧関町の巡回バス
など、様々なバスが市内を運行していた。しかしながら、財政支出や運行の効率化が課題となり、
平成 19 年 1 月に庁内検討組織で再編に向けた方針がまとめられた。それを受け、同年 3 月に第
1 回地域公共交通会議が開催され、具体的な再編計画の検討が始まった。この地域公共交通会議
のあり方と再編の検討過程が、地域公共交通版の“亀山モデル”であり,その主な特徴を以下に
示す。
1) 運行目的の絞り込み
再編の目的を、
「移動困難者の日常生活における最低限度の移動性を維持・確保すること」と
明確にした。このように、住民代表も含めた委員全員の合意の上で,対象者を限定しサービス水
準を明確にすることは、バス運行計画を策定する過程での最も重要な第一歩であろう。
2) 見直し基準の明確化
運行後の見直し基準として、例えば、バス停での乗降人数が平均 5 人/日を定めた。基準を満
たない場合には見直し対象として会議で検討することになる。一般的に、バス運行は既得権とな
り、利用がなくてもルート等の変更は難しい。しかしながら、このように前もって見直し基準を
定め、かつ、地域住民に周知することで、効果的な見直しが可能となろう。ただし、新たな需要
が生じた場合には、再度、ルートが設定できる仕組みも構築してある。
3) バスの現場をみんなで走る
運行計画策定前には、委員全員で、予定ルートを視察する。これによって、住居や施設の分布
状況、あるいは、交通安全上の問題点などを実際に確認でき、具体的な印象を持って運行計画が
策定できる。
4) まさに協議の場
会議では、遠慮なく意見を交わせる。したがって、場合によっては、事務局案がひっくり返る
こともある。このことは、責任ある発言につながっているとともに、具体的な根拠に基づいた判
断が行われることにもなっている。まさに、意見を交わしながら全員で協議し、合意を得た上で
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決定していく仕組みである。これを実現しているのは、事務局の柔軟性と意志決定能力のおかげ
であろう。
5) 地域との信頼関係
再編計画案は、パブリックコメントにかける。第 2 次事業計画案に対しては、170 件もの意見
が寄せられた。これらの意見に対しては、1 つ 1 つに会議としての対応を示し、地域にフィード
バックするとともに、HP でも公開している。住民は、自分の意見への対応を知り、行政に信頼
感を抱くことになろう。
6) 地域の関心
当会議には、数名の傍聴者がいることが通例となっている。多いときには 10 名を数える。こ
の数は、地域の関心の高さを表しているが、一方で、地域に開かれた会議になっていることを意
味する。会議情報の公開と各委員からの地域への情報伝達が,地域の関心を高めているといえる
だろう。
7) 担当者の熱意
担当者らの熱意には頭が下がりっぱなしである。調査から会議資料の準備に至るまで、全て自
前でこなしている。時には、朝から晩までバスに乗り込み、誰がどこから何の目的で利用してい
るかを調査する。利用していた人が乗らなくなった理由までつかんでいる。このようなバス担当
者の熱意は、誰にでもまねできるものではないが、実は、地域公共交通成功の鍵であろう。
このように、亀山市における地域公共交通会議の運営やバス再編の検討過程には、見習うべき
点が多い。これを実現可能にしたのは、もちろん、バス担当者らの並々ならぬ努力と地域に対す
る想いがあってこそのことである。担当者らは、これに甘んじることなく、地域の将来を見据え
て、“亀山モデル”をさらに発展させることを企てているようである。
地域で、公共交通のあるべき姿を描ける時代になった。地域が望む公共交通の実現も夢ではない
。地域にふさわしい公共交通は、人々の生活交通を担うだけではなく、人々の QOL を向上させ、
地域の活性化につながっていく。そして、まちの姿を持続可能なかたちへと変えていく。そのた
めにも、地域公共交通会議を形骸化させてはならない。地域からの信頼を失ったり、期待を裏切
ったりすることも許されない。地域公共交通会議を活きたものにし、○○モデルと自信を持って
呼べるような素晴らしい仕組みが,地域交通コーディネーターの皆様の支えで生み出されていく
ことを期待する。
“コミュニティバス&タクシー:グループインタビュー調査のエピソード”
株式会社地域科学研究会
(2009.8)
緑 川 冨 美 雄
私はコンサルタントとしてコミュニティバスやコミュニティタクシーなどの住民の日常生活
交通づくりをお手伝いしています。そのスタートは、1992(平成 4)年の「武蔵野市市民交通シス
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テム検討委員会」のワーキングで、そこで初めて、本格的なコミュニティバス・ムーバスの基本
計画を策定しました。実施計画策定、住民説明会開催、事業化を経て 1995(平成 7)年 11 月にム
ーバス 1 号路線が運行し、間もなくフォローアップ調査を実施して、市民や利用者の評価や効果
を検証し改善策を検討しました。翌年度からは 2 号路線の計画づくり、事業化の支援、フォロー
アップ調査を担当しました。当時はまだ「P→D→C→A」の考え方を地域交通分野に応用していま
せんでしたが、武蔵野市はその必要性を認識していました。その後、中部圏では、鈴鹿市を初め
として掛川市や、島田市、東員町などのお手伝いをしています。全てに共通しているのは、基本
(実施)計画策定のための住民(市民)ニーズの把握やフォローアップ調査の利用者(市民)の
評価・効果の検証では、グループインタビュー調査を実施していることです。
そこで、コミュニティバス&タクシーの計画づくりや評価・検証プロセスのエピソードをいく
つかご紹介します。第一は、どうしてもムーバスになります。計画(案)の議論に参加した検討
委員の一人が、計画(案)を見て「これはバスでない」と発言したのです。一体だれが乗るのか、
何人乗るのかと聞かれました。その疑問は他の委員や武蔵野市にも当然あったと考えています。
そのためには、需要予測をしなければならないのではないか、ということになりました。調査を
し検討を重ねて出した数字が 850 人/日でしたが、その根拠に確信があった訳ではありません。
しかし、検討委員や行政、そしてバス会社も、初めてのことですので、
「とにかくこれで進めよ
う」ということになり、事業収支計算は 840 人×0.9 で行いました。運行開始間もなく、850 人/
日をクリアし、年末には雪が降ったこともあって、1,000 人/日以上となりました。雨か雪が降
れば利用者は増えると見込んでいたのですが、その通りになり安堵しました。
エピソードの第二は、鈴鹿市C-BUSです。住民グループインタビュー調査で、調査参加者
とインタビュアが冗談をまじえながら意見を聞き取っている時に、私の席の近くの高齢女性が隣
の人と「息子夫婦と孫が休日に出かける話を聞き逃さないようにしている」つまり「聞き耳を立
てている」と話している声が聞こえました。外出予定がわかったら、間髪を入れずに「私もその
店に行きたかった」と伝えて乗せていってもらうのだそうです。隣や周囲の人も、思わずその言
葉に頷いていたのです。C-BUSは、そのような高齢者を初めとした移動制約者の生活のダイ
ヤに合ったコミュニティバスのダイヤを設けることを大切にして、運行システムを検討しまし
た。
エピソードの第三は、島田市コミュニティバス大長線のニーズ調査をした時のことです。大
長・伊久身地域は大井川支流の伊久美川沿線にあり、起終点間は約 22 ㎞、自主運行バスが走っ
ていました。その山間部で高齢女性と主婦を対象にグループインタビュー調査を実施しました。
30~40 歳代の主婦が、マイカーがないと生活設計ができない上に、子ども(特に高校生)と高齢
者の送迎が負担になっていることなどから、「自分の娘には、この地域に嫁がせたくない、息子
が跡を継がないと言っても止められない、私の代で我が家も終わるかも知れない」といった大変
に厳しい悲しいことを話すのです。それにはどう対処すればいいのか、と聞くと、もっと便利で
気軽に(特に運賃を安く)利用できるバスがあれば助かる、街に出かけやすいということでした。
そこで、1時間ヘッドのダイヤ、運賃はゾーン制(100 円と 200 円)に、小型の新しい車両を投入
するという計画をつくりました。
最後に面白いエピソードがあります。ムーバス2号路線近くに住む高齢女性(80 歳代)のグル
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ープインタビュー調査での話です。ムーバスが走るまでは、外出が困難なために家に居る日が多
かった。夫と二人で一日中家に居ると、必ず夫婦喧嘩をしていたが、ムーバスが走ってからは、
2人で外出して気晴らしや時間消費(遠回りでも一周する)ができるために、ほとんど夫婦喧嘩を
しなくなった。1回外出すると2人で 400 円かかるが、ムーバス(武蔵野市)には感謝してもしき
れない、ありがたいと嬉しそうに話をしていたことは、忘れがたいこととして印象に残っていま
す。
“地域公共交通が「仕分け」を乗り越えるために”
(2009.12)
名古屋大学大学院環境学研究科 加 藤 博 和
我々はついつい、税金を「取られる」ものと考えてしまうが、本来は「納める」ものでなけれ
ばならない。「取られる」発想では、なるべく取られないようにすることを望んでしまい、税金
の対価として得られる公共サービスをより付加価値の高いものにすべきという考えに至らない
からである。その意味で、日本が立ち直るための条件の 1 つは、国民が納税者意識をきちんと持
つことであると私は考えている。さもなければ、いつまでたっても選挙はショーであり、マニフ
ェストはその場しのぎであり、予算は分捕り合戦であり、公務員は大して働いていないと思われ
続けるであろう。
市場主義は、市場に任せていれば必要なものが必要なだけつくられ、必要なところに行き渡る、
というミクロ経済学の基礎理論に基づく。しかし、実際の世界はそれが無条件に成立するほど都
合良くはできていない。道路のように不特定多数の人が利用し、料金徴収が困難な公共財は、市
場に任せていては十分に供給できない。公共交通は利用者から料金を徴収できるが、利用者以外
にも広く便益を与え、その人たちがいわば「ただ乗り」になる点で公共財的である。そこで、公
共財を必要な分だけ供給することが政府・自治体の存在意義の 1 つである。その財源として国民
から広く税金を集めるが、その使途や費用対効果は厳しく吟味されるべきである。その意味で、
公共として実施する必要のない事業を見直したり、ムダを省いたりすることで、減税や給付金な
どの財源を生み出すのは至極妥当である。しかし、必要な事業までカットするとなれば本末転倒
である。
2009 年の流行語トップテンにも選ばれた「事業仕分け」では、公共交通確保・支援策も俎上
に載った。結果、バス運行対策費補助のうち路線維持費補助(欠損補助)は重要とされ継続と判
定されたものの、車両購入費補助は廃止、そして地域公共交通活性化・再生総合事業は「各自治
体の判断に任せる」となった。この結果を私なりに例えると、「重病人に点滴は打つが、投薬も
手術もしなくてよい。どうしたら治るか自分たちで考え努力しろ」となる。病気から回復させる
ためには、早く適切な治療を施さなければならない。それを怠り、延命措置を講じるだけでは、
事態はどんどん悪化し、最終的には手の施しようがなくなるであろう。
そもそも、地域公共交通活性化・再生法や総合事業は「延命措置ではラチがあかない。根本治
療が必要」という認識から生まれた制度である。地域公共交通は今や収益事業ではなく公益事業
である。その維持発展には、便益の大半を得る地域自身が考え取り組むのが妥当であると、私自
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身もかねがね主張してきているところである。しかしながら、現段階でいきなりほうり出されて
も、うまくできる自信がある自治体は皆無に近いだろう。原因が何か、どんな薬を飲めばよいか、
どの医者にかかればよいか、全く分からないからである。したがって、今は地域・自治体や交通
事業者を中心に、関係者が協働して病気のメカニズムを解明し、治癒への方向を見いだせるよう
にすることが必要であり、そのための「過渡的措置」として国がサポートする制度が地域公共交
通活性化・再生法や総合事業なのである。
ところで、先ほど「延命措置」と評したバス運行対策費補助も、実は地域が主体となって公共
交通を活性化・再生することに使えるスキームであることをご存じだろうか? 都道府県は地域
協議会を設け、生活交通路線維持確保 3 カ年計画を策定することができる。この計画に位置付け
られた路線の維持に対し都道府県が補助を行うと、国は自らが持つ補助要件に合う部分につい
て、都道府県と同額の補助を協調で出す、というものである。考えてみれば、これは地域公共交
通活性化・再生総合事業と全く同じ仕組みであり、国からの補助率まで同じである。言い換えれ
ば、国の補助要件にとらわれない発想で路線網のあり方を真剣に議論し、3 カ年計画を組み上げ
ていけば、地域協議会も活性化・再生法定協議会のように活動できるのである。その意味で、国
県補助という言葉も、正確には県国補助と言い換えられるべきである。
しかし、一般的な認識は、国の補助要件に合う路線をリストして 3 カ年計画にまとめると、国
が欠損の半額を出してくれるので、都道府県もそれにつきあえばよく、市町村にも負担がいかな
いのでありがたい、バス事業者も骨格路線が維持できて好都合、というところである。2000 年
代のいわゆる規制緩和まで長年に渡り、地域公共交通に対して地域・自治体はモラルハザード状
態にあった。したがって、規制緩和とともにできた地域協議会の制度がこのようにしか使われな
かったのは仕方ないかもしれない。しかし、いまだにこのような体たらくでは話にならない。国
が決めたことしかやらない都道府県なら付加価値ゼロ、すなわち不要であると仕分け人から言わ
れかねない。
一方、交通事業者の意識改革も急がれる。ある市が、域内バス路線の運賃体系を統一するべく
国県補助路線の運賃に手をつけようとしたら、補助金申請のための計算が面倒になるからやめて
ほしいと事業者に言われたという。税金が投入されている路線でこんな利用者・地域不在が許さ
れていいはずがない。事業仕分け人が細かい実情を見てくれないために、理不尽に?カットされ
ることに業を煮やしている人は多いが、バスの場合は見てくれていなくて助かったと言うべきだ
ろう。公共交通政策に沿った路線を補助金を得て運行する事業者には、補助金を「地域が支払っ
てくれる一種の料金」ととらえ、その効果を最大化する取組が求められる。京都府京丹後市では
国・府補助路線において上限 200 円運賃が導入された結果、利用者は 2 倍近く増え、運賃収入も
増加したため補助額も減少したという。いや、もし補助額が増えたとしても、多くの人に利用さ
れ、地域にさらに貢献できる路線となれば、税金を投入する意味もあると納税者を説得できるだ
ろう。利用者増加に伴い、バス事業者や運転手のモチベーションも著しく向上しているという。
この成功体験こそまさに、固定観念と敗北主義にとらわれる中で利用者も存在意義も低下の一途
をたどってきた公共交通を活性化・再生する道ではないか。
改めて確認したい。今回の事業仕分け結果がそのまま国の予算として反映されれば、地域公共
交通は先細りを早めるであろう。後に残るのは、何となく地域内を網羅してはいるが、サービス
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レベルが低く、移動制約者にとっても不便な巡回型バスやデマンド交通だけの「公共交通ぺんぺ
ん草地域」である。こうならないようにするために、地域や事業者の自主的な取組も、国の支援
制度も、使えるものは何でも取り込み、地域公共交通網を費用効率的でかつ「地域の」
「地域に
よる」「地域のための」役に立つ存在へとつくりかえていく、自治体のビジョンと行動、そして
アピールが求められる。今まで、地域・自治体は、公共交通の病を自分たちで治そうとする努力
を怠ってきた。国が処方箋を示してくれても、薬の用法用量を守り、さらに不摂生を改める態度
が見られなければ、そのうちサジを投げられるだろう。これは公共交通のみならず、自治体の業
務全般に言えることである。
公共交通網を利用者のみならず地域住民の移動を保障し、さらに地域を魅力あるものにする公
共財ととらえ、公的支援の考え方を欠損補助からまちづくりへの投資に切り替え、住民・事業者
と協働しながら、試行錯誤を経てその付加価値を高めていく。このプロセスこそが、税金を「納
める」ものと考える住民を増やし、政府や自治体のパフォーマンスを高め、この国をよい方向に
転換させることにつながると信じている。
“交通計画屋の領分と需要予測”
(2010.2)
財団法人豊田都市交通研究所
山 崎 基
浩
12 年間連れ添ってきた妻からも未だによく言われる。
「あなたの仕事はよく解らない」と。確
かに人に「交通の調査、研究、計画をやっています」と話しても、
「そんな仕事があるのですね」
という返事が大多数。土木という分野では、例えば橋梁やダムなど目に見える社会基盤の設計や
建設に携わっているのならば「これが俺の仕事だ」と胸を張れるのではないか?などと羨望の眼
差しを構造屋に送ることもこれまでしばしばあった。なにしろ「目に見えるもの」というのは解
りやすい。
しかしここ数年、地域公共交通に関わる研究や業務が増えたことで、若干であるが、仕事を人
に説明しやすくなったように思う。バスは目に見える。特に自治体が関与するコミュニティバス
の類は、地域住民に愛着を持って「守り、育てて」頂けるようにと、愛称と独自のデザインを備
えているので解りやすくて都合がよい。私が所属する(財)豊田都市交通研究所が平成8年度か
ら今日までサポートさせて頂いている「みよし市」のさんさんバスは、平成 13 年4月の本格運
行開始から9年が経とうとしているが、住民の間にその存在が随分と浸透しているようだ。最も
乗降客の多い「アイモール・ジャスコ三好店」バス停で夕暮れ時に、女子高生達が「もうすぐ、
くろまつくんが来るよ!」などと会話しているのを聞いた時には、目頭が熱くなった。連れてい
た我が子に「ほら、このバスはお父さんが云々・・・。
」と、自分の関わった仕事を得意気に話
すことができた初めての瞬間であった。
さて、みよし市のさんさんバスは、試行運行時に市(当時は町)の中心部近くに先述の大規模
商業施設が開店したことや安定的に転入による人口が増加したことなどにより、比較的多くの利
用者を確保している。この状況は計画段階に予測されていたのか、と言うと、そうでもない。運
行に至るきっかけが民営路線の廃止代替ということもあり、民営路線の利用実績や実験運行の調
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査結果などから大雑把に「これくらい乗るだろう」という数字は弾いていたものの、精緻な需要
推計は行わなかった。
一方、隣の豊田市では平成 18 年度に「豊田市公共交通基本計画」を策定し、これに基づきバ
ス交通サービスの拡充に努めているが、ここでも同計画の基本方針に則ったサービス水準を提供
しているものの細かな需要推計は行っていない。
しかし、これらの事例に携わってきた者の一人としては、言い訳するようであるが、精緻な需
要推計は本当に必要なのだろうか?などと呟くと「何を言うか!計画屋たるもの、需要推計こそ
本業中の本務であろう!?」という声も聞こえてきそうである。
いや、
「当たる」推計値であれば良いのであるが、数値が一人歩きした時に批判の的となる可
能性をはらんでいるという危険な面もある(それはバスに限ったことではないが)
。気をつけな
ければならないのはその使途であろう。例えば、当該地域に「これくらいのポテンシャルがある」
場合、住民が「これくらいは使う」という意志を持っているのなら「これくらい」の利用者を確
保できるバスにしよう!といった具合に、バス維持のための目標値として地域の関係主体間で共
通の意識を持つための道具として使うことが望ましいのではないか。
現在、私が携わっている、豊田市上郷地区における地域バスの導入検討業務では、対象エリア
の全世帯(約 14,000 世帯)に対してアンケート調査を実施した。その中では現状の交通行動を
把握すると共に、利用意向に関しては時間軸を考慮した質問を設けた。今後、全世帯調査による
啓発効果を期待しつつ、これを用いて需要推計、いや、目標値を設定していく予定である。
ところで、土木学会の土木計画学研究委員会下に生活交通サービスに関する小委員会が設置さ
れているが、その中で鳥取大学の谷本圭志先生を中心に「路線ポテンシャルと顕在化率について
学会としての基準値を導出しよう」という動きもある。やはり自治体の担当者や技術者の間に、
需要推計の拠り所となるものに対して高いニーズがあることは事実であろう。
(題名なし)
(2010.7)
中部大学工学部都市建設工学科 磯 部 友 彦
みなさん。空を見上げると何が見えますか。昼間ならば、太陽、雲、鳥、空高く飛ぶ飛行機、
夜ならば、月、星座、流れ星、ときにはUFO?がみえるかも。でも、何かしら視界を妨げるも
のがありませんか。
「電線」です。最近は、地中化事業が進み、大都市の都心部や幹線道路では
電線を見ることがなく、すっきりとした空となっています。しかし、電線が人々の生活空間の空
に張り巡らされている状況は、多くの町での見慣れた風景です。電線は決して悪ものではありま
せん。都市生活に不可欠なライフラインです。
私が小学生の時のこと。2階のベランダへの出入り口にある台を勉強机にしていました。その
机の前に座ると、窓外の風景に一本の電柱があり、その電柱に対して非常に大きな存在感を感じ
ていました。大きな変圧器が顔、水平方向に伸びた電線が腕、各家庭への配線が髭、そして、ま
っすぐ伸びた電柱が胴体と足にみえ、そこにじっと立っている巨人に見えました。
今、生家に戻り、再び窓外に目をやると、巨人も木柱からコンクリート柱へと代替わりしてい
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ます。しかし、子供時代に感じた威圧感がなくなっているのです。私が成長したのか、電柱より
も背の高い建物が増えたのか。いや、電柱の姿勢が悪くなっているからです。すこし傾いている
のです。巨人も老いてしまったのか?よく見ると電線の数が増えています。かつては、その巨人
が中心にいて、周りの電線を支えていました。今は、逆に電線に引っ張られていたり、支えられ
ていたりしているようです。なぜ、このように電線が増えたのでしょうか?
これまで、「電線」と呼んでいましたが、よく見るといろいろな種類があります。電力用のも
の、通信用のもの、その他に電線のように見えますが電柱と電柱とを力学的に支えあうためのケ
ーブルもあります。また、電柱もいくつか集類があり、電力会社が送電・配電を目的に設置する
電力柱、通信会社が通信用ケーブルを支持することを目的に設置する電信柱、電力と通信の共用
の共用柱などがあります。私の前にいる巨人は電力柱です。電信柱も近くにありますが、その背
は低く、巨人の家来のようです。しかし、腕や髭は電信柱の方が増えています。その原因は我が
家にあるかもしれません。
かつては、電力線は三相3線式交流200ボルト配電線(3本の平行線、巨人の腕)の電力を
変圧器で単相100ボルトに変えて、2線式引き込み線(巨人の髭)で家庭へ配電していました。
今は、200ボルトの引き込み線もあるそうです。一方の電信柱は、かつては銅製の電話線(メ
タル線)だけをつないでいたものが、テレビの難視聴対策のための共聴アンテナからの配線も支
えるようになりました。そして、我が家ではインターネットのために光ファイバー(光線)を導
入しました。その線も電信柱についています。電力線では絶縁が必要ですが、通信線ではその必
要がなく、かなり密な状態で複数の通信線が我々の町の空にあります。
NTT がかつて独占していた電話事業の開放で、メタル線の利用が他社でもできるようになり
ました。既設線が社会インフラとなり、他社(第二種電気通信事業者)の発展を支えてきました。
しかし、光線の場合は、同業他社のそれぞれが自社の占有線を張り巡らすという状況です。また、
電力会社も光通信事業を始めましたので、電力柱にも光線がつながっています。光線はピンと張
ったワイヤの周りをらせん状になって電柱間をつないでいる線です。また、電信柱のところに小
さな箱があり、そこからも髭がいっぱい出ています。これは光線を分岐させて家庭への引き込み
線を出しているもので FTTH(Fiber To The Home)方式といわれています。この春、我が家で
は光線を利用して地デジの信号を受けることにしました。一度引いた光線を活用しようというこ
とです。ついでに固定電話も光にしました。これで共聴アンテナ線が不要になり、メタル線も不
要になるので、すっきりとなるはずでした。
地デジ信号の工事の日、また、新たに光線を張り直しているではないですか。光線の容量不足
かなと尋ねたところ、FTTH ボックスの容量不足(つまり、髭の数が増やせない)のため光線を
追加した(自社での複線化)ということでした。まるで、駅の容量不足のために新線を引く鉄道
のようです。また、
「電線」が増えました。共聴アンテナ線は、ご近所全部が不要になれば取れ
ますが、今はまだです。メタル線も同じで、我が家では不要となりましたが、まだ、はずせませ
ん。我が家だけでは、インフラ部分の変化は困難です。
気持ちを変えて、道路上が電線でにぎやかでいいことだと考えましょう。これらの電線も道路
上を活用しているという意味では交通と同じです。交通と電線は縁遠い存在では決してありませ
ん。技術革新と人々の需要により、新たなモードがいろいろと出てくるということは頼もしい限
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りです。
いや、待ってください!
態ではないのでしょうか?
電線の中を本当に通信が走っているのでしょうか?
ガラガラの状
それとも混雑で悲鳴をあげているのでしょうか?
その混雑は昼
間なのでしょうか、深夜なのでしょうか?
外観ではわからないのが通信です。素人には分からない言葉や内容が多いと感じます。一方、
外観からでも中身がよく見えてしまうのが交通です。ですから、誰でも交通のよしあしを議論し
たくなるというものです。
通信の世界では「ユニバーサルサービス」の概念が定着しつつあり、実際にそのための料金徴
収がされています。通信料全体からみれば微々たるものですが。交通にもその考え方が適用でき
ないでしょうか。いや、既になされているという考えもあります。公費による助成などです。し
かし、通信のユニバーサルサービス料は税金ではなく、利用者が均等に負担し、使途もサービス
確保のためということです。交通に適用すると、利用者や利用するかもしれない人が均等に負担
すること、または、住民が均等に負担すること、立地企業が均等に(または事業規模に応じて)
負担することなどが考えられる。
空を見上げて、電線を見ながらいろいろと考えてみました。交通・運輸と通信は代替関係であ
るのか補完関係であるのかがよく議論されます。かつての日本政府の逓信省は、その名前の通り
に運輸と通信を所管していました。いま一度、先祖がえりして、事業制度、費用負担、国民・住
民の要望など、運輸と通信を比較しながら検討していくことを試みることも大事なことかもしれ
ません。
“なぜ、人は移動するのか?”
(2010.11)
名古屋大学大学院環境学研究科 福 本 雅 之
各地の公共交通に関する仕事をお手伝いする中で、
「なぜ、人は移動するのか?」という根本的
な疑問を、ふと思うことがある。
「移動抵抗」という言葉があるように、移動というのはそれに伴って、何かしらの費用や時間や
苦痛を生じるものであり、できれば避けたいと考えるのが一般的な理解であろう。
実際、公共交通によるものか、自家用車によるものかを問わず、移動には幾ばくかの費用と時間
と苦痛がついてまわる。環境負荷も発生する。にもかかわらず、都心部では満員電車に押し込め
られて、地方では疲れていても運転をして、人々は移動をする。
では、「なぜ、人は移動するのか?」。
もちろん、人間、生きていくためには職場に通勤したり、買い物をしたり、病気をしたら通院し
たりしなければならない。しかし、これらの活動が絶対に移動を伴うものかというと、現在は過
渡期であるとはいえ、情報化の進展で多くのことがそうではなくなりつつある。実際、私自身の
生活を振り返ってみても、ネット通販で本や CD を買うことは珍しくないし、電話一つで家電製
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品の修理を頼むこともある。ネット環境が整っていれば(あと、上司が許せば)在宅勤務ができ
るという人も大勢いるだろう。
身体的な能力が低下しつつあるお年寄りには、往診を充実させた方が良いという考え方もあるだ
ろうし、移動販売車や宅配サービスといった新しい販売形態によって日常的な買い物を満足させ
るという考え方もあるだろう。また教育も、将来的には e-ラーニングの方が費用効率的に授業を
行えるかもしれない。高齢者や子供の移動を減らすことは、交通事故防止の観点から見ても有効
な面があるだろう。
であれば、情報技術を駆使した自動車の安全システムの開発や、往々にして利用者が少ないとい
う批判の的にさらされる公共交通の維持に躍起になるよりは、
「移動を減らしつつもサービスは
維持する」というコンセプトに基づいた、在宅サービスの技術・運用方法などの開発に注力した
方が効果的かも知れない。
『どこでもドア』は、
「行きたいところへすぐ行ける」夢のような道具だが、それが何らかのサ
ービスを受ける際に、極限まで移動抵抗を減らす道具であると考えると、今や、パソコンとイン
ターネット(電話という、より広範なユーザーに使いやすいデバイスでも良い)を使えば、
「欲
しいサービスをすぐ注文(場合によっては、即座にダウンロード)できる」という、限りなく『ど
こでもドア』に近い状態が既に存在するのである。もはや、
「移動」は必然ではなくなりつつあ
るのか。
否、そんなことはなかろう。「移動」には「抵抗」の側面もあるが、
「娯楽」的な面も存在する。
その最たるものは旅行(極端な例は、内田百閒、阿房列車冒頭の「なんにも用事がないけれど、
汽車に乗つて大阪へ行つて来ようと思う」
)であるが、そこまで大げさではなくても、買い物な
どのいわゆる「おでかけ」は、出かけた先での目的達成もさることながら、外の景色を楽しんだ
り、家族や友人と会話をしたり、考え事をしたりと、移動中の過ごし方も含めて、外出そのもの
を楽しむという意味を持っているからこそ、
「おでかけ」という言い方をするのだと思う。
実際、地方の路線バスやコミュニティバスに乗ってみると、乗客同士が楽しそうに会話をしてい
る姿、移ろいゆく車窓を眺めている姿を目にすることができる。そして「買い物に行くのは楽し
い」というのと同じくらい、「バスに乗るのは楽しい」という声を聞くことができる。これすな
わち、移動を含む「おでかけ」が楽しいことの証左であろう。
これは公共交通に限ったことではなく、ドライブが娯楽の一つであるように、自家用車による移
動にもあてはまるだろう。そして、この移動に起因する楽しさは、上述の在宅サービスでは実現
しがたいと思われる。
ゆえに、
「なぜ、人は移動するのか?」に対する私なりの答えは、
「それでも人は移動する」とい
うことになる。根本的に人は移動することが好きなのだろう。それが便利で快適で楽しければ申
し分がない。
そんなわけで、より便利で快適なだけでなく、より楽しい公共交通であれば、もっと多くの人に
振り向いてもらえるのではないかと思うのだが、この点は日本の公共交通であまり顧みられてこ
なかったのではないだろうか。それどころか、最近ではコスト削減・合理化の流れにより、その
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傾向に拍車がかかっているようにさえ思える。
成熟社会の公共交通は、もっと遊び心があっても良いのではないだろうか。乗ることで楽しくな
る公共交通を、少しずつだけれども、いろんなところで提案していきたい(悪ふざけと思われて
却下されるかも知れないが)ように思う、今日この頃である。
(題名なし)
(2011.2)
京福バス株式会社経営推進室
矢 部 良
智
さて、私は民間のバス会社で事業計画等の策定や自治体との調整などを主に担当しており、そ
の関係で各自治体の地域公共交通会議などの構成メンバーになっています。
会議においては、事業者という立場からの意見を求められるのですが、コミュニティバスに関
しては、意見というよりも事務局や地域とどういう調整を図ってきたかというところを中心にお
話させていただいているところです。一方、路線バスについてはそれほど議題になることはなく、
市民の皆さんの路線バスへの関心がどんどん薄れていっているという点を、危機感を持って受け
止めなければならないと感じているところです。
コミュニティバスは市民のもの、路線バスはバス会社が運営しているもの(もう当地域ではと
っくにその域は超えていますが)、という認識なのか、あるいは身近すぎて空気のような存在に
なっているのか、残念ながらある自治体では、「何故路線バスのことが議題に上がるのか」とい
う意見が出るほどで、果たしてこれで「地域公共交通」会議なのか?という場面もあり、どうす
ればもっと関心を持っていただき、活発に議論をしていただけるのか悩ましいところです。
もちろん、事業者として所謂利用者目線での営業が足らなかった点は大いに反省すべきではあ
りますが、過疎路線を多く抱え旅客数が年々減少していく中では、人件費を中心とした経費削減
によって何とか路線を維持するだけで精一杯であったというのが実状です。
いずれにしても、まずは地道に市民の皆さんとコミュニケーションを図っていくところから始
めていくしかないと考え、継続していくことの難しさを感じながらも、色々な活動をさせていた
だいております。
今のところは先方から頂いたご要望などをきっかけとしたお付き合いが大半ですが、それでも
ここ 2.3 年で多くの方々にご協力をいただき、郊外の商業施設と連携した新規路線の開業、NPO
法人や鉄道事業者と連携したカーフリーデーの取り組み、地元商工会など地域イベントへの参
加、あるいは中学校 PTA と協働してスクールバスと路線バスを一体利用できるように行政に提案
し実現するなど(その節は色々支局にご無理をお願いしましたが・・・)、少しずつ前進しつつ
あります。こうした取り組みは各地共通だと思いますが、積極的に活動を続けて、公共交通への
関心を高めていただきながら、活性化につなげてゆくことが、事業者の責務でありますし、コー
ディネーターの役割だと思っています。
ここ数年で、この会議の存在によって様々な案件が柔軟に対応していただけるようになりまし
たし、これを活かすためにも、従来のバス屋発想にとらわれることなく、前向きにがんばってま
いります。皆様本年もよろしくお願いいたします!
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地域公共交通コーディネーターとは
地域の公共交通をよりよくするためには、地域においてコーディネーター役を務め
る人材の活動が重要であり、こうした人材に関する情報発信を行い、地域での公共交通
活性化のための活動がより活発となるよう支援していくことが重要となっています。
このため、中部運輸局では、地域の公共交通に関する地域内外でのコミュニケーシ
ョンを支援する仕組みづくりを行っており、具体的には、各地域における公共交通に関
する活動を行っている方を把握し、地域公共交通コーディネーターとして選定し、より
よい地域公共交通の実現に向け、地域公共交通コーディネーターと連携した取り組みを
進めています。
中部運輸局における地域公共交通コーディネーターとの連携
中部運輸局
地域交通データベース
キーパーソン
人材の発掘
入力
変更
検索
コーディネーターとして登録
有識者
育成・連携
運輸局
担当者
Web公開用
データ
情報交換・活動支援
自治体
担当者
メ ー ルマガジン
△△△大学
○○教授
情報の発信
キーパーソン情報
コ ー ディネーター会議
□□交通㈱
○○バス
交通事業者情報 地域交通事例情報
(運行情報等)
会議の開催
コーディネーター情報など
運輸局ホームページにて公開
http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/ts
ukuro/joho/coordinator/index.htm
l
コーディネーターを通じたベストプラクティスや、
公共交通会議Live情報のDB化
各種活動
情報提供
地域での情報共有の強化
小冊子
62
公共交通
事業者
公共交通会議の有効活用
<地域公共交通コーディネーター名簿(H23.3 現在)>
※コーディネーター本人より公表の同意を得た方のみ掲載
氏
名
青木 保親
浅沼 美忠
石川 良文
磯部 友彦
板谷 和也
伊豆原 浩二
伊藤 浩之
岩崎 恭典
内田 桂嗣
笠原 正嗣
加藤 博和
川上 洋司
河田 英樹
川本 義海
倉内 文孝
小池 秀幸
佐藤 静正
篠田 賢人
島
洋
嶋田 喜昭
鈴木 文彦
高木 朗義
高野 裕章
竹田
治
辻本 勝久
筒井 康史
中平 恭之
永井 靖之
西尾 育夫
橋本 成仁
廣畠 康裕
福本 雅之
前田 欣也
牧田 博之
増岡 義弘
松本 幸正
水谷 香織
緑川 冨美雄
宮川 潤次
森喜
駿
矢部 良智
山崎 基浩
所属団体等・役職
岐阜市企画部交通総合政策課 管理監
福井県立大学経済学部経営学科 准教授
南山大学総合政策学部 准教授
中部大学工学部都市建設工学科 教授
財団法人運輸調査局調査研究センター 副主任研究員
名古屋産業大学環境情報ビジネス学部 教授
公共交通利用促進ネットワーク 路線図ドットコム担当
四日市大学総合政策学部 教授
NPO法人ふくい路面電車とまちづくりの会 会長
皇學館大学社会福祉学部 准教授
名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 准教授
福井大学大学院工学研究科建築建設工学専攻 教授
羽島市市民部防災交通課 担当主任
福井大学大学院工学研究科 准教授
岐阜大学工学部社会基盤工学科 准教授
法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻
株式会社帝国開発コンサルタント 理事
関市市長公室企画政策課 主査
えちぜん鉄道株式会社 取締役
大同大学工学部都市環境デザイン学科 准教授
交通ジャーナリスト
岐阜大学工学部社会基盤工学科 教授
富士宮市都市整備部都市計画課 主幹兼係長
NPO法人バスネット津 理事長
和歌山大学経済学部 准教授
三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究開発第2部都市・文化政策グループ
主任研究員
近畿大学工業高等専門学校総合システム工学科 准教授
愛知県タクシー協会 専務理事
伊賀市医療業務課 主幹
岡山大学大学院環境学研究科社会基盤環境学専攻 准教授
豊橋技術科学大学建築・都市システム学系 准教授
名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 研究員
ランドブレイン株式会社名古屋事務所技術部 部長
株式会社国際開発コンサルタンツ名古屋支店 次長
NPO法人ひと育て・モノづくり・まちづくり達人ネットワーク 事務局長
名城大学理工学部建設システム工学科 教授
パブリック・ハーツ株式会社 代表取締役
株式会社地域科学研究会 代表取締役
静岡文化芸術大学デザイン学部空間造形学科 教授
同志社大学まちづくり観光研究会 会長
京福バス株式会社経営推進室 部長
公益財団法人豊田都市交通研究所研究部 主席研究員
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コーディネーターからのメッセージ
~地域の取り組み事例等からみるヒント~
発
平成23年3月
行:中部運輸局『地域公共交通コーディネーター会議』
問合せ先:国土交通省中部運輸局自動車交通部旅客第一課
〒460-8525
名古屋市中区三の丸 2-2-1 名古屋合同庁舎第1号館
TEL:052-952-8035
FAX:052-961-0816 URL: http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/
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