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地域間交通部門における 炭素税と技術革新を伴う低炭素

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地域間交通部門における 炭素税と技術革新を伴う低炭素
地域間交通部門における
炭素税と技術革新を伴う低炭素化戦略の効果分析手法
~日本と大メコン河流域圏への適用~
三室 碧人
地域間交通部門における
炭素税と技術革新を伴う低炭素化戦略の効果分析手法
~日本と大メコン河流域圏への適用~
A Method for Evaluating Low-Carbon Strategies
by means of Carbon Tax and Technological Improvement
in Inter-Regional Transport Sector
~ An Application to Japan and the Greater Mekong Subregion~
三室
碧人
MIMURO, Aoto
名古屋大学大学院環境学研究科
2014 年
博士(工学)
|i
要旨
現在,交通起源の二酸化炭素排出量が増加傾向である.国際エネルギー機関(IEA,
2012)によると,世界全体の二酸化炭素排出量のうち 22%が交通起源であり,2009 年か
ら 2010 年の一年間で総排出量が 3%増加している.さらに,エネルギー起源で整理する
と , OECD 諸 国 の 交通起 源 二 酸化炭 素 排 出量の 96%は石 油 起 源であ る と さ れ ,
(WBCSD,2004),非持続的な交通体系から低炭素な交通体系への転換が求められている.
その原因は,旅客交通においては長距離交通部門で航空業界の規制緩和による航空利
便性向上を受けた「経済効率性重視型インフラ活用モデル」の発展が要因であり,貨物
交通においては経済成長による貨物輸送を道路交通インフラによって支える「道路依存
型産業開発モデル」が要因である.しかし,今後は交通分野における低炭素化戦略は持
続的発展に不可欠であり,「経済効率性追求型」の成長から「経済効率性と環境効率性
の同時追求型」を意識した交通政策の転換が求められる.そのためには,経済効率性と
して市場メカニズムを活用した低炭素化の取り組みとして「炭素税」の導入に加え,環
境効率性の改善に大いに期待される技術革新の導入が考えられる.これらは,それぞれ
環境費用増加要因,低下要因であることから,施策導入量の違いにより低炭素化効果は
変化することが予想される.従って,地域間交通部門において「炭素税」と「技術革新」
の効果バランスを評価可能とする低炭素化戦略分析手法の開発が急務の課題である.
本研究では,地域間交通部門を対象として,旅客・貨物交通それぞれに対して低炭素
化施策による影響を評価する低炭素化戦略分析手法を構築する.特徴は,環境費用増加
要因である炭素税と環境費用低下要因である技術革新の施策効果バランスを比較可能
とするようモデル化を行う点である.
さらに,本研究では各種低炭素施策が与える効果の表示法として,「四象限追跡法」
を新たに開発する.これは貨物交通を例とすれば,四象限追跡法に対して,各軸に経済
成長,貨物発生量,貨物輸送量,道路輸送依存度,二酸化炭素排出量を設定することで,
施策効果がその傾き変化として現れるだけでなく,項目間の影響波及効果が一目で分か
りやすくなるという利点をもたらす.さらに,この四象限追跡法を開発することで,専
門外の方へも低炭素施策導による効果への理解を支えることで貢献することを期待す
る.
| ii
本論文は,全 7 章で構成されている.
第 1 章では,交通起源二酸化炭素排出量の増大傾向,及び 2050 年までの交通起源エ
ネルギー使用量の増大予測などのデータを用いながら,今後も交通起源二酸化炭素排出
量の増大が懸念されることを述べる.その上で,日本と諸外国の総交通輸送量データな
どを用いながら,本研究における地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化の考え方につい
て説明する.具体的な低炭素化施策としては二つを検討し,一つは環境費用を上昇させ
ることで環境負荷を低減しようとする「炭素税」であり,二つ目は環境費用を低減する
ことで環境負荷を低減しようする「技術革新」である.この二つの施策効果バランスを
考慮した分析手法の構築が急務であることを説明する.
第 2 章では,地域間旅客・貨物交通部門に関する研究レビューを行い,本研究の位置
づけを明確化する.特に,本研究では旅客交通は今後の航空規制緩和が予想される日本
を対象に,貨物交通は今後の経済成長が予測されるアジア新興国の中でも,特にメコン
河流域で陸続きになっている大メコン河流域圏を対象として研究のレビューを行う.
旅客交通においては,交通サービス供給者サイドの分析モデル化が進展している一方
で,規制緩和による競争激化の状況が未考慮である現状,さらに炭素税や技術革新とい
った低炭素化戦略に関する研究領域は研究途上であることを述べる.その上で,本研究
では,日本における航空規制緩和が視点した状況を表現する手法として,独占的競争理
論を適用することを説明する.
貨物交通においては,既往研究から道路を中心とした先進国型産業開発に関する研究
領域の発展が進んでいる一方で,本研究が狙いとする低炭素化に関する視点が現在の研
究では十分に考慮されていない課題について整理する.そして,道路依存型産業開発か
らの脱却方策として交通需要抑制施策(AVOID),交通手段転換施策(SHIFT),技術革
新(IMPROVE)を組合せることで,二酸化炭素排出量の削減が期待できることを示し
ている.さらに,それらの結果表示の方法として,四象限追跡法を新たに用いることで,
施策間の関係性をより理解しやすい手法の必要性を述べる.
| iii
第 3 章では,分析対象地域である日本の旅客交通部門,及び貨物交通の大メコン河流
域圏地域の特徴について整理している.
旅客交通においては,日本の幹線交通網整備状況について述べた上で,イギリス,フ
ランス,米国のデータを用いて,地域間旅客交通部門の特性について説明している.
貨物交通においては,大メコン河流域圏の基礎情報として人口分布や賃金水準等の特
徴を説明した上で,今後の経済成長の見込みや現在策定及び検討されている交通インフ
ラ整備に関する特徴について述べる.重要な前提理解のポイントとして,現在の地域間
貨物交通は既に低炭素であるという認識である.これは,大メコン河流域圏の都市は沿
岸部に隣接して発展を遂げており,貨物の大部分は道路よりも低炭素な海運を利用した
交通体系となっているからである.しかし,海運は運航速度が時速 20-30km/h 程度と遅
いため,現在重点が置かれている道路を軸とした内陸開発・経済回廊開発によって道路
交通の速度向上は高炭素化への懸念が大きい状況となっていることを説明する.これは,
第1章で述べた先進国型の道路依存型産業開発の踏襲であり,将来の高炭素化が懸念さ
れる理由を述べる.
これらの整理から,本研究が対象としている地域間旅客交通・貨物交通部門の低炭素
化方策の研究が急務の課題であることを,現在の政策トレンドとの対比で明らかにする.
第 4 章では,研究全体のフレームワークと分析モデルについて説明する.本研究では,
地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化戦略を検討し,施策を総合的かつ定量的に評価す
る分析手法を構築する.低炭素化施策を整理し,それらと評価システムおよび分析モデ
ルの関係を数式化することで,定量評価を可能とする.
分析モデルの構造について詳細に説明をする.本研究で構築する分析モデルは 4 つで
構成され,それぞれ ①交通ネットワークモデル,➁地域間経済モデル,➂交通輸送量
推計モデル,④二酸化炭素排出量推計モデルである.
①交通ネットワークモデルでは,炭素税,技術革新導入による交通費用変化をモデル
化する.交通費用の構成は輸送費用,時間費用,環境費用の三つである.新興国に適用
する際には,今後の経済成長に伴う大規模な交通インフラ整備の進展が予想されるため,
交通インフラ整備による輸送費用,時間費用変化を反映するようモデル化を工夫する.
②地域間経済モデルは,経済成長が著しい新興国適用の際に用いるモデルである.将
| iv
来の GDP 成長シナリオを外生的に与えた場合の地域間経済取引の変化を,①交通ネッ
トワークモデルで算出した交通費用変化を反映して地域間経済取引金額を算出する.
③輸送量推計モデルでは,交通費用変化による交通需要変化を計算し,交通手段別交
通需要量を算出する.
④二酸化炭素排出量推計モデルでは,交通手段別の技術革新シナリオを反映し,C)
輸送量推計モデルからアウトプットされた交通手段別輸送量と二酸化炭素排出原単位
を乗じることで交通手段別二酸化炭素排出量をアウトプットする.
第 5 章では,本研究で用いるデータセットについて説明する.具体的には,地域間旅
客交通分析を日本に適用して分析する際に用いるデータ,及び地域間貨物交通分析を大
メコン流域圏に適用する際に用いるデータについて説明する.旅客交通に関しては,日
本の幹線旅客純流動調査を基礎データとしている.他方で,貨物交通に関しては,経済
取引デーア,交通費用データ,技術革新データなどを GTAP,世界銀行,JETRO 調査な
どを元に設定している.また,地域間貨物交通分析においては,長期変化に関する分析
を行うことから,各種長期変化シナリオの設定方法についても述べる.これらのデータ
セットを踏まえた上で,第 4 章で構築したモデルにおいてパラメータ設定を行う.
第 6 章では,第 4 章で構築したモデルを用いて,旅客交通は日本へ,貨物交通は大メ
コン河流域圏へ適用してそれぞれ分析を行った.
旅客交通に関しては,炭素税のみ導入した場合,及び炭素税と技術革新を組み合わせ
て導入した場合の二つのケースについて分析を行った.炭素税のみ導入した場合におい
て,本研究で独自に構築した独占的競争モデルによる結果考察を加えた上で,技術革新
導入による変化を考察する流れとなっている.
貨物交通に関しては,低炭素化戦略として、炭素税,および技術革新導入に加え,長
期の経済成長に伴う大規模交通インフラ整備が進むことを前提とした交通インフラ整
備シナリオを導入している.具体的には、始めに鉄道整備、鉄道未整備による二酸化炭
素排出量削減効果の定量分析を行い、鉄道整備による効果を分析する。次に、鉄道整備
に貨物の高付加価値化による貨物量減少を通じた低炭素化への効果を定量化した。最後
に、鉄道整備と貨物の高付加価値化に加え、炭素税を用いた需要抑制型の低炭素化戦略
|v
による効果と技術革新による効果比較を行った。これらの結果から、低炭素化戦略にお
ける施策の組合せによる効果を定量化でき、施策群の組合せの重要性が明らかになる。
第 7 章では,各章のまとめ及び今後の展望について述べる.
| vi
1 目次
1. 序論........................................................................................................................ 1
1.1 背景 ................................................................................................................... 1
1.1.1 日本・アジア新興国における地域間交通部門の高炭素化懸念 ................... 1
1.1.2 先進国における経済効率性追求型地域間交通整備の非持続性 ................... 3
1.1.3 アジア新興国における道路依存型産業開発パターン踏襲の非持続性......... 4
1.1.4 地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化戦略分析手法構築の必要性 ........... 8
1.2 目的 ................................................................................................................ 13
1.3 論文の構成...................................................................................................... 13
2 既往研究および本論文の位置づけ ....................................................................... 19
2.1 地域間旅客・貨物交通に関する研究アプローチの分類 .................................. 19
2.2 地域間旅客交通に関する既往研究................................................................... 20
2.2.1 地域間旅客交通と環境効率性向上に関する既往研究................................ 20
2.2.2 地域間旅客交通と経済効率性向上に関する既往研究................................ 21
2.3 地域間貨物交通に関する既往研究................................................................... 23
2.3.1 地域間貨物交通の研究手法の分類 ............................................................ 23
2.3.2 地域間貨物交通と経済効率性・環境効率性に関する既往研究 ................. 24
2.4 本論文の位置づけ............................................................................................ 25
3 ケーススタディ地域の特徴 .................................................................................. 29
3.1 日本における地域間旅客交通の概要 ............................................................... 29
3.2 大メコン河流域圏における経済と交通の概要 ................................................. 33
3.3 大メコン河流域圏における道路依存型産業開発パターンの進展 .................... 35
3.4 経済成長・交通網整備・二酸化炭素排出量増大メカニズムの整理................. 37
3.5 中国・インドとの比較による大メコン河流域圏の貨物鉄道整備の特徴 ......... 38
4 地域間交通分析モデルのフレームワーク ............................................................. 44
4.1 地域間交通分析モデルの全体構造................................................................... 44
4.2 日本および大メコン河流域圏への適用におけるモデル改良の特徴................. 45
4.2.1 交通ネットワークモデルの特徴 ................................................................ 46
4.2.2 新興国適用時のみに利用する地域間経済モデルの特徴 ............................ 46
4.2.3 交通輸送量推計モデルの特徴 ................................................................... 47
4.2.4 二酸化炭素排出量推計モデルの特徴......................................................... 48
| vii
4.3 日本の旅客交通へ適用する場合の詳細モデル構造.......................................... 49
4.3.1 地域間旅客分析モデルの開発手法 ............................................................ 49
4.3.2 交通ネットワークモデル .......................................................................... 51
4.3.3 交通輸送量推計モデル .............................................................................. 53
4.3.4 二酸化炭素排出量推計モデル ................................................................... 66
4.4 大メコン河流域圏の貨物交通へ適用する場合の詳細モデル構造 .................... 68
4.4.1 地域間貨物分析モデルの開発手法 ............................................................ 68
4.4.2 交通ネットワークモデル .......................................................................... 69
4.4.3 地域間経済モデル ..................................................................................... 70
4.4.4 交通輸送量推計モデル .............................................................................. 72
4.4.5 二酸化炭素排出量推計モデル ................................................................... 74
5 地域間交通分析に用いるデータセット及びパラメータ推定と原単位長期変化シナリ
オの設定 ............................................................................................................... 76
5.1 日本の地域間旅客交通分析におけるデータセット・パラメータ推定 ............. 76
5.1.1 データセット ............................................................................................ 76
5.1.2 地域間旅客交通モデルのパラメータ推定結果 .......................................... 78
5.2 大メコン河流域圏の地域間貨物交通分析 ........................................................ 80
5.2.1 データセット ............................................................................................ 80
5.2.2 地域間貨物交通モデルのパラメータ推定結果 .......................................... 87
5.3 地域間貨物交通分析の大メコン河流域圏適用における各種原単位の長期変化シナ
リオ(2005 年から 2050 年) .............................................................................. 90
5.3.1 交通インフラ整備シナリオ ....................................................................... 91
5.3.2 交通費用原単位シナリオ .......................................................................... 92
5.3.3 時間費用シナリオ ..................................................................................... 94
5.3.4 炭素税率シナリオ ..................................................................................... 95
5.3.5GDP シナリオ............................................................................................ 96
5.3.6 貨物発生原単位シナリオ .......................................................................... 98
5.3.7 分担率シナリオ ......................................................................................... 99
5.3.8 環境費用原単位シナリオ ........................................................................ 100
6 地域間交通分析モデルを用いた低炭素化戦略の効果分析 .................................. 105
6.1 地域間交通分析のフロー ............................................................................... 105
6.2 地域間旅客交通モデルを用いた日本における低炭素化戦略の分析............... 107
6.2.1 炭素税のみ導入による需要サイドの変化(交通手段別交通需要量) ........ 107
6.2.2 炭素税のみの導入による供給サイドの変化(運航便数と運賃の変化) ..110
| viii
6.2.3 炭素税と技術革新の導入による交通需要変化 .........................................112
6.3 地域間貨物交通モデルを用いた大メコン河流域圏における低炭素化戦略の分析
.....................................................................................................................115
6.3.1 分析基準年次における取引構造の把握 ....................................................115
6.3.2 高速貨物鉄道整備による影響評価 ...........................................................117
6.3.3 高速貨物鉄道整備における貨物の高付加価値化による影響評価 .............119
6.3.4 高速貨物鉄道整備における炭素税導入と技術革新効果の比較 ............... 121
6.4 分析結果のまとめ.......................................................................................... 125
7 結論 .................................................................................................................... 128
7.1 まとめ ........................................................................................................... 128
7.2 今後の課題 .................................................................................................... 131
謝辞 ...................................................................................................................... 133
論文目録 ................................................................................................................. 136
| ix
図表一欄
(図一欄)
第一章
図 1-1: 経済成長と貨物部門からの二酸化炭素排出量増加の関係
2
図 1-2: 交通起源エネルギー使用量の長期予測
2
図 1-3: 交通起源二酸化炭素排出量の推移と予測
2
図 1-4: 日本における幹線旅客交通の総需要量変化(1990-2010)
4
図 1-5: 日本における幹線旅客交通起源の二酸化炭素排出量変化(1990-2010)
4
図 1-6: 経済成長と道路輸送依存度の上昇傾向の関係
5
図 1-7: 経済成長と貨物発生量の推移
7
図 1-8: 東南アジアにおける低賃金の傾向
7
図 1-9: 交通起源 CO2 排出増大メカニズムの整理(林の四象限追跡法)
9
図 1-10: 四象限追跡法による地域間旅客交通の経済・交通・環境の関係
11
図 1-11: 地域間旅客交通部門の低炭素化戦略のアプローチ
11
図 1-12: 四象限追跡法による貨物交通の二酸化炭素増大メカニズム
12
図 1-13: 地域間貨物交通部門の低炭素化戦略のアプローチ
12
第二章
図 2-1: 交通起源二酸化炭素排出量削減に向けた研究アプローチの分類
19
図 2-2: 地域間旅客交通に関する研究対象領域
20
図 2-3: 地期間旅客交通分析フレームワーク(航空市場分析)の系譜
22
図 2-4: 地域間貨物交通研究の二大アプローチと本研究の違い
22
図 2-5: 既往研究と本研究の対象領域の違い
26
第三章
図 3-1: 日本の幹線旅客交通インフラ整備状況(1962 年時点)
30
図 3-2: 日本の幹線旅客交通インフラ整備状況(2010 年時点)
30
図 3-3: 日本の地域間旅客交通における距離帯別分担率(2010 年)
31
図 3-4: アメリカの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2001 年)
31
図 3-5: イギリスの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2006 年)
32
図 3-6: フランスの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2008 年)
32
図 3-7: 世界の地域別経済成長率(2050 年/2005 年)
33
図 3-8: アジアの都市別人口
34
図 3-9: 中国・インド・東南アジアにおいて既に提案されている経済回廊
35
図 3-10: アジア開発銀行が提案する大メコン河流域圏の道路ネットワーク
36
|x
図 3-11: アジア新興国における経済成長・交通需要増大・CO2 排出量増大の関係図
37
図 3-12: 中国の二階建て貨物鉄道路線
39
図 3-13: インドの貨物専用線構想
39
図 3-14: 大メコン河流域圏で提案されている貨物鉄道ネットワーク
40
図 3-15: タイの鉄道沿線状況
40
図 3-16: タイの幹線鉄道の状況
40
図 3-17: ラオスの首都駅
41
図 3-18: ラオスの首都駅ホーム内
41
第四章
図 4-1: 地域間交通分析のフレームワーク
44
図 4-2: 評価システムフローに関する先進国・新興国適用の違い
45
図 4-3: 評価システムにおける交通ネットワークモデルの構造
46
図 4-4: 評価システムにおける地域間経済モデルの構造
47
図 4-5: 評価システムにおける輸送量推計モデルの構造
48
図 4-6: 評価システムにおける二酸化炭素排出量推計モデルの構造
48
図 4-7: 地域間旅客交通分析モデルの計算フロー
50
図 4-8: 独占的競争理論と航空市場の関係性
56
図 4-9: 評価システムにおける交通ネットワークモデルの構造
59
図 4-10: CES 型効用関数
60
図 4-11: ラグランジュの未定乗数法を用いた解法のフローの例
62
図 4-12: 地域間貨物交通分析モデルの計算フロー
69
第五章
図 5-1: 2005 年の運航便数と航空分担率
76
図 5-2: 2005 年の新幹線路線と鉄道分担率
76
図 5-3: 三つのキャリブレーションアプローチ
76
図 5-4: 初期交通インフラネットワーク(2005 年)
81
図 5-5: 一次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
89
図 5-6: 二次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
89
図 5-7: 三次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
89
図 5-8: 交通インフラ整備シナリオ
91
図 5-9: 三つの炭素税シナリオ
95
図 5-10: 中国・日本の GDP 推移(2005 年-2050 年)
97
図 5-11: 大メコン河流域圏各国の GDP 推移(2005 年-2050 年)
97
| xi
図 5-12: 1,000km 以上の分担率シナリオ(バンコク-ハノイ)
99
図 5-13: 1,000km 未満の分担率シナリオ(バンコク-ヤンゴン)
99
図 5-14: 日本の CO2 排出原単位シナリオ
100
図 5-15: 中国の CO2 排出原単位シナリオ
100
図 5-16: 大メコン河流域圏各国に適用される CO2 排出原単位シナリオ
101
第六章
図 6-1: 愛知県発総交通需要量の減少率
107
図 6-2: 愛知県発総交通需要量の減少量
107
図 6-3: 愛知県発の航空需要量の減少率
108
図 6-4: 愛知県発の鉄道需要量の上昇率
108
図 6-5: 愛知県発の交通断念指数の結果
109
図 6-6: マークアップと運航便数の関係
110
図 6-7: 愛知県発の航空の減便率(%)
111
図 6-8: 愛知県発マークアップの上昇率
111
図 6-9: 愛知県発の航空運賃の上昇額
111
図 6-10: 愛知県発の総交通需要量の上昇率
112
図 6-11: 愛知県発の航空便数の増便率
113
図 6-12: 航空運賃の減少額
113
図 6-13:地域間貨物分析結果のフロー
115
図 6-14: 現在の大メコン河流域圏における経済取引構造(総取引金額)
116
図 6-15: 現在の大メコン河流域圏における経済取引構造(取引地域シェア)
116
図 6-16: 鉄道整備と鉄道未整備における二酸化炭素削減効果の比較
118
図 6-17: タイから各国への交通手段別交通一般化費用(2050 年)
117
図 6-18: 鉄道整備と貨物高付加価値化の組合せによる CO2 削減効果
120
図 6-19: 鉄道整備下における炭素税効果と技術革新効果の比較
122
図 6-20: 炭素税と技術革新の二酸化炭素削減効果の比較
123
図 6-21: 炭素税と技術革新の組合せ低炭素化戦略の分析結果
124
| xii
(表一欄)
第三章
表 3-1: 大メコン河流域圏各国の概要
33
第四章
表 4-1: 独占的競争理論と他理論の相違点
53
表 4-2: 国別代表地点
72
第五章
表 5-1: パラメータ推定とバラエティの設定
77
表 5-2: バンコク-ヤンゴンルート間(JETRO,2013)
80
表 5-3: 距離あたり交通費用
81
表 5-4: 距離あたり交通費用
81
表 5-5: 貨物時間費用原単位
82
表 5-6: 大産業分類に調整をした貨物時間費用原単位
82
表 5-7: 産業連関表の国分類,産業分類
83
表 5-8: 日本の品目別貨物発生量
84
表 5-9: 初期分担率
85
表 5-10: 技術革新シナリオ(最大の場合)
85
表 5-11: 現在の交通手段別 CO2 排出原単位(g-CO2/トンキロ)
85
表 5-12: 一次産業の実績値・推計値
87
表 5-13: 一次産業のパラメータ推定結果
87
表 5-14: 二次産業の実績値・推計値
87
表 5-15: 二次産業のパラメータ推定結果
87
表 5-16: 三次産業の実績値・推計値
87
表 5-17: 三次産業のパラメータ推定結果
87
表 5-18: 輸送費用シナリオ(2005-2050)
91
表 5-19: 距離あたり交通費用(高速貨物鉄道の場合)
91
表 5-20: トラックの時速変化シナリオ
92
表 5-21: 鉄道の時速変化シナリオ
92
表 5-22: 海運の時速シナリオ
93
表 5-23: 本研究で用いる貨物時間費用シナリオ
93
表 5-24: 長期 GDP シナリオ(2005 年-2050 年)
96
表 5-25: 日本の品目別貨物発生量
97
表 5-26: 最適交通手段産出のシナリオ
99
表 5-27: 高速貨物鉄道の二酸化炭素排出原単位
100
| xiii
第六章
表 6-1: 地域間交通分析のフロー
104
表 6-2: 炭素税と技術革新効果の比較
113
表 6-3: 地域間貨物交通分析1のシナリオ設定条件
116
表 6-4: 地域間貨物交通分析 2 のシナリオ設定条件
122
表 6-5: 二酸化炭素削減率(2050 年/2005 年)
123
表 6-6: 地域間貨物交通分析 3 のシナリオ設定条件
124
表 6-7: 炭素税と技術革新効果の比較
125
表 6-8: 地域間旅客・貨物交通分析結果のまとめ
128
|1
1. 序論
1.1 背景
1.1.1 日本・アジア新興国における地域間交通部門の高炭素化懸念
現在,アジア地域において交通起源の二酸化炭素排出量が増加傾向である.国際エネ
ルギー機関(IEA, 2012)1)によると,世界全体の二酸化炭素排出量のうち 22%が交通起源
であり,2009 年から 2010 年の一年間で総排出量が 3%増加している.総二酸化炭素排
OECD
出量のうち 80.37%が道路交通起源であり 1),これをエネルギー起源で整理すると,
諸国の交通起源二酸化炭素排出量の 96%は石油起源である(WBCSD,2004)
2).このよう
な二酸化炭素排出量増加の傾向は,経済成長と関係がある.図 1-1 は,経済成長 3)と交
通起源二酸化炭素排出量 4)の関係を示しており,米国,EU,日本,中国とも共通して右
肩上がりの傾向にある.GDP 当たりの二酸化炭素排出量は,米国では 1960 年には 238
(Million-ton/trillion)であったのに対し,2007 年には 136(Mtillion-tontrillion)と 42.9%改善
している.同様に,EU では,1960 年から 2010 年で 13.2%,日本では 1960 年から 1990
年で 5.3%改善するなど,国・地域によってその改善状況は異なるが,全体的に経済成
長に伴う二酸化炭素排出量は増加する傾向がある.
WBCSD2)によれば,世界全体の交通起源エネルギー使用料が 2050 年まで年率 2%で
上昇する可能性を指摘している(図 1-2).さらに,その主要因は自動車と航空であると
される.地域別に捉えた場合,欧州では年率 0.4%の交通起源エネルギー使用量の増加
が見込まれる.他方で,中国,インドは年率 4.7%,タイ,インドネシア,マレーシア
などの東南アジア地域では 3.0%の上昇が見込まれるなど,先進国と新興国における交
通起源エネルギー使用量増大の傾向には大きな差があることがわかる.これは,二酸化
炭素排出量ベースで捉えた場合(図 1-3, IPCC,2007)5)においても,同様の傾向を示し
ており,二酸化炭素排出の抑制には道路交通起源の抑制,及び航空起源の抑制が特に重
要であることが分る.地域別に捉えた場合,2000 年時点で非 OECD 諸国の交通起源二
酸化炭素排出量の割合は,世界全体の交通起源二酸化炭素排出量の 36%であるが,2050
年には 46%まで上昇することが予測されており,先進国・新興国の両方において交通
起源二酸化炭素排出量の増加が懸念され,低炭素化に向けた取り組みが求められている.
|2
図 1-1: 経済成長と交通起源二酸化炭素排出量増加の関係
図 1-2: 交通起源エネルギー使用量の長期予測(WBCSD,2004)
図 1-3: 交通起源二酸化炭素排出量の推移と予測(IPCC,2007)
|3
二酸化炭素排出量増大の背景を理解するには,交通の移動距離によって分類される対
象交通行動を明確化して議論することが有用である.ここでは,通期圏を超えるような
移動距離の長い交通(地域間交通)を対象として,過去から現在に至る経済成長と交通
需要増大,および二酸化炭素排出量の関係を考察する.その際,地域間旅客交通は,デ
ータ整備が豊富である日本を対象に,地域間貨物交通は米国,EU,日本,中国のデー
タを比較しながら,その傾向を把握することする.
1.1.2 先進国における経済効率性追求型地域間交通整備の非持続性
地域間旅客交通部門における二酸化炭素排出量増大の背景として,100km から 300km
の近離帯における乗用車利用の増加と,700 ㎞以上における航空利用の増加が主因とし
て考えられる 6),7),8).
図 1-4 は,1990 年から 2010 年までの 10 年毎のデータであるが,横軸に GDP(千億
ドル)3),縦軸に総地域間旅客流動量(億人)6), 7), 8)を示している.これを見ると,経済
成長が進むにつれて,一貫して地域間旅客流動量は増加をしている.他方で,図 1-5 は,
経済成長と地域間旅客交通起源の二酸化炭素排出量の関係性を示しており,横軸に時間,
縦軸に二酸化炭素排出量(百万 ton-CO2)をとっている.これによれば,経済成長が進
むにつれて,2000 年をピークに二酸化炭素排出量が減少している.この減少傾向は,
航空需要の減少に起因している.2000 年から 2010 年にかけて,乗用車起源二酸化炭素
胚珠る量は増加する一方で,航空起源二酸化炭素排出量が減少することで,総量として
減少している.しかし,2010 年は特異な年度であると考えられるため,考察が必要と
なる.それは,2008 年 9 月 15 日にリーマンショックが発生し,その後の世界的な景気
後退を受け,2010 年 1 月 19 日に日本航空が経営破たんした後の幹線旅客純流動調査結
果(調査日:2010 年 11 月 28 日,及び 12 月 1 日)8)であることと関係がある.日本航
空の破たんにより,2010 年 4 月 28 日に地方航空路線における 3 割の事業規模削減(座
席キロベース)が打ち出され,2009 年度の事業縮小策と合わせて合計で 50 路線(うち,
8 地点撤退)が削減されている 9).
しかし,近年の格安航空会社(LCC:Low-Cost Carrier)の台頭を背景に,今後の航空
業界はさらなる規制緩和が予想され,航空需要の増大が懸念され,「経済効率性」の追
求と同時に,
「環境効率性」の向上を検討することが求められている.
|4
図 1-4: 日本における幹線旅客交通の総需要量変化(1990-2010)
※除外:
都市内交通,通勤圏交通
図 1-5: 日本における幹線旅客交通起源の二酸化炭素排出量変化(1990-2010)
1.1.3 アジア新興国における道路依存型産業開発パターン踏襲の非持続性
地域間貨物交通部門における二酸化炭素排出量増大の背景として,先進国では経済発
展期において大規模な工業団地開発を行い,増大する貨物輸送量を支えるために道路交
通網の整備を進めてきたことで,道路依存型の交通輸送体系が構築されたことが起因し
ていると考えられる.日本 4)米国 4)及び欧州 4)の交通起源二酸化炭素排出量データを観
察すると,経済成長が進展するにつれて交通起源二酸化炭素排出量は右肩上がりで上昇
してきた(図 1-1) .米国では 1960 年から 2007 年の 47 年間で 2.7 倍,日本は 1960 年か
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ら 2004 年の 46 年間で 3.73 倍,欧州では 1960 年から 2010 年の 50 年間で 4.17 倍増大し
ている.これは,経済成長につれて貨物輸送の道路依存上昇による影響が主因である(図
1-6)
10), 11), 12), 13),.米国,欧州はデータ制約から
1990 年以降のみプロットしているが,
経済成長に伴う道路依存度の増加傾向が見て取れる.さらに,日本は 1961 年から 2003
年において,経済成長率に道路依存上昇度を意味する傾きが,米国・欧州の 0.15%, 0.11%
の上昇率に対して 0.79%の上昇率を示している.これにより,米国は大陸であり長距離
陸上輸送が発生しやすいことは想像できるが,日本の貨物交通起源二酸化炭素排出量が
米国よりも大きく増大した原因が,この道路依存上昇度によるものであることが理解で
きる.したがって,経済成長に伴う道路依存型産業開発モデルは環境負荷を急激に増加
させ,非持続的な成長経路であることは明らかであり,非持続的成長経路からの脱却が
求められる.このような非持続的な発展に対し,IPCC(2007) 5)は第四次報告書において
地球全体の気温上昇を 2 度以内に抑制するには 2050 年までに二酸化炭素排出量の半減
が必要と警鐘を鳴らす.このような状況を踏まえ,アジア新興国における地域間貨物交
通部門の低炭素化戦略の検討が必要になる.
図 1-6: 経済成長と道路輸送依存度の上昇傾向の関係
|6
だが,アジア新興国は今後も人口増加
14),15)に伴う経済成長が期待され,貨物輸送の
増大が懸念される地域である.そのため,増大する貨物輸送を支える大規模貨物交通イ
ンフラ需要が飛躍的に高まっている.既に中国においては,既に経済成長 3)に伴う貨物
輸送
13)が爆発的に増加しており,1998
年から 2011 年のわずか 3 年間で 2.9 倍に達し
ている(図 1-7) .さらに,中国では低賃金を求めた内陸への工業開発が進んでおり,大
消費地である沿岸部への大量貨物輸送の発生が予想される.これが道路依存型貨物輸送
体系で支えられれば,米国,欧州よりも約 4 倍の人口を持つ中国では二酸化炭素はさら
に増大することが懸念される.さらに,低賃金を求めたグローバルな経済活動は中国国
内から東南アジアのより低賃金な国へと生産拠点を移動させる傾向にある(図 1-8) 16).
他方で,アジア新興国の中でも,東南アジアの特に中国雲南省からタイにかけたメコ
ン川流域圏の地域への潜在的進出可能性が高まっている.この地域は大メコン河流域圏
(Greater Mekong Subreiong: 通称 GMS) 17)とも呼ばれ,多国小国で構成されているこ
とが特徴である.そのため,500km 以上のような交通インフラ整備を検討した場合,
多くの場合国境を跨ぐ交通となるため,整備に向けた意志決定プロセス及び資金負担な
ど国家間での調整が発生し,整備遅延に陥りやすい状況となっている.実際,アジア開
発銀行(ADB)などが支援する現在の交通整備プログラムの大半は道路整備事業となっ
ており,経済回廊も道路利用を前提として構築が進められている.
これは,先進国が経済発展時に歩んできた「道路依存型産業開発モデル」の踏襲を意
味し,非持続的な経済成長経路を続けることが懸念され,道路依存型産業開発モデルか
らの脱却が急務の課題となっている.
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図 1-7: 経済成長と貨物発生量の推移
図 1-8: 東南アジアにおける低賃金の傾向
(出典:東洋経済 2013.5 月 13 日号,pp30 を参考に,筆者作成)
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1.1.4 地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化戦略分析手法構築の必要性
地域間交通部門における低炭素化の実現には,旅客・貨物交通の両方において,「経
済効率性追求型」の成長から「経済効率性と環境効率性の同時追求型」への転換が求め
られる.そのためには,経済効率性追求型における市場メカニズムに活用した低炭素化
の取り組みとして「炭素税の導入」と,環境効率性の改善に大いに期待される「技術革
新」の双方を考慮した低炭素化戦略の策定が重要である.
なぜ,「炭素税」と「技術革新」を同時に検討する必要があるかと言えば,航空分野
の環境規制と技術革新のパラドクスを参考にすると理解が容易である.例えば,EU の
航空分野では二酸化炭素排出量の削減を目的として排出権取引制度を構築し,環境に関
する外部費用の内部化に向けた取り組みを加速している.その中で,航空分野の低炭素
化施策として燃費向上は急務の課題であり,積極的な技術革新やバイオ燃料の利用など
が試験運用の段階まできている.しかし,航空業界は石油依存の交通手段のため,積極
的な技術革新の導入は燃料費用の削減に繋がる施策であり,航空会社としては費用削減
となり運賃を下落させる作用がある.そのため,利用者の視点からすると航空利便性が
向上することでより航空を利用するインセンティブが上昇する.しかし,地域間交通部
門における抜本的な低炭素化を行うためには,航空部門のみにおける環境効率化ではな
く,より低炭素な交通手段である鉄道利用への積極的な転換が必要である.
上記のことから研究課題としては,技術革新の必要性は認めながらも,地域間交通部
門全体の低炭素化戦略を検討する上では,技術革新施策に代表される個別最適な結果に
陥らないためにも,技術革新と炭素税導入による交通手段変化などを統合的に捉えて,
全体として二酸化炭素排出削減を実現するために必要な施策を検討するアプローチが
求められる.したがって,日本・新興国の地域間交通部門における低炭素化施策導入の
影響を定量的に評価できる分析手法の開発が急務の課題である.
これらの複合的・総合的な低炭素化施策の組合せを検討するには、経済成長、貨物量
増大、輸送量増大、二酸化炭素排出量増大の各指標間の関係を明示的に示す表示方法が
理解を助けると考える。したがって、ここでは林の四象限追跡法を用いて、各指標化の
因果関係、そして低炭素化施策との関係性を整理することとする(図 1-9)。このよう
な施策導入による分析手法,交通分野を専門としない方への理解促進を支援するもので
もある。
|9
図 1-9: 交通起源 CO2 排出増大メカニズムの整理
(林の四象限追跡法)
.図 1-10,図 1-12 は,それぞれ地域間旅客交通部門,地域間貨物交通部門における
経済成長,輸送量増大,分担率変化,二酸化炭素排出量変化のメカニズムを,実データ
を用いて図化したものである.本稿では,この四象限に分解して経済成長から二酸化炭
素排出変化に至る経路を図化する表示法のことを,Hayashi(2013)18)を参考に「四象限
追跡法」と呼ぶ.図 1-10,図 1-12 とも共通して,第一象限横軸は経済成長(GDP),第
二象限縦軸は旅客量(人)・貨物量(ton),第三象限横軸は総旅客交通輸送量(人-km)
・総
貨物輸送量(ton-km),第四象限縦軸は旅客航空輸量(Air 人 km)・貨物道路交通輸送量
(Truck ton-km),第四象限横軸は二酸化炭素排出量(ton-CO2)である.図 1-10 は,日本
の幹線旅客純流動調査結果(1990-2010 年)のデータを用いた地域間旅客交通起源二
酸化炭素排出量変化である.特徴は,前述のように第四象限において 2000 年から 2010
年にかけて二酸化炭素排出量が減少していることである.これは,第三象限において航
空分担率低下と関係があることがわかる.従って,地域間旅客交通部門の低炭素化には
航空分担率の変化が鍵となることが読み取れる.
| 10
図 1-12 は実際の中国,日本,アメリカ,欧州共同体(EU)のデータを用いて,貨物交
通起源の二酸化炭素増大メカニズムを図化したものである.図 1-12 の赤線のように中
国と日本を同じ GDP 水準において比較をすると,中国は日本の 4.1 倍の貨物量が発生
し(第一象限),これらを低賃金の内陸から大消費地である沿岸部へ長距離輸送をする
ことで総貨物輸送量が増大する(ton-km,第二象限).さらに,これらの貨物は道路を利
用して輸送されることから道路輸送量(truck ton-km)が増加し(第三象限),結果とし
て日本と同じ GDP 水準でありながら二酸化炭素排出量は日本の 2.4 倍となっているこ
とが分かる.このことから,アジア新興国における今後の経済成長の進展下において,
道路依存型貨物輸送体系を構築することは二酸化炭素増大を予測させるものである.
このように整理することで,経済成長に伴う交通輸送量増大,及び航空・道路依存型
の高炭素輸送交通体系による高炭素化の傾向が一目で理解可能となる.この四象限追跡
法を用いて低炭素化を検討するには,図 1-11,図 1-13 が示すように各象限に低炭素化
戦略を対応させて考えることが有用である.具体的には,第二象限は交通需要抑制策
(AVOID)であり,第三象限は交通手段転換策(SHIFT)であり,第四象限は技術革新施策
(IMPROVE)である.従って,各象限における低炭素化方策を検討し,
「炭素税」導入お
よび「技術革新」,さらに新興国においてはインフラ整備まで考慮して,低炭素化に影
響する施策の効果を定量的に分析することが求められる.
以上より,研究課題としては,地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化戦略の主軸であ
る炭素税と技術革新の効果を定量評価できる分析手法を開発し,四象限追跡法を用いて
施策効果を明らかにしていくことである.
| 11
図 1-10: 四象限追跡法による地域間旅客交通の経済・交通・環境の関係
図 1-11: 地域間旅客交通部門の低炭素化戦略のアプローチ
| 12
図 1-12: 四象限追跡法による貨物交通の二酸化炭素増大メカニズム
図 1-13: 地域間貨物交通部門の低炭素化戦略のアプローチ
| 13
1.2 目的
日本・アジア新興国の地域間旅客・貨物交通部門においては,今後の航空市場の規制
緩和傾向,アジア新興国における高い経済成長を要因とした高炭素化が懸念され,非持
続的な交通の発展方法からの転換が求められている.そのためには,経済効率性として
市場メカニズムを活用した低炭素化の取り組みとして「炭素税」の導入に加え,環境効
率性の改善に大いに期待される「技術革新」の導入が考えられる.しかし,各施策は環
境費用増加要因,低下要因であることから,施策導入量の違いにより低炭素化効果は変
化することが予想される.従って,地域間交通部門において「炭素税」と「技術革新」
の効果バランスを評価可能とする低炭素化戦略分析手法の開発が急務の課題である.
そこで本研究では,日本・アジア新興国の地域間旅客・貨物交通部門に着目し,低炭
素化戦略を定量評価する分析手法の開発を研究目的とする.その際,低炭素化戦略手法
の中でも,特に市場メカニズムを活用した「炭素税」による環境費用上昇効果と,「技
術革新」による環境費用低減効果の影響バランスを評価できるようにモデル開発を工夫
する.これらを日本と大メコン河流域圏へ適用し,低炭素化戦略導入による影響評価を
行う.さらに,本研究では各種低炭素施策が与える効果の表示法として,「四象限追跡
法」を新たに開発する.この四象限追跡法を開発することで,専門外の方へ低炭素施策
導による効果への理解を支えることで貢献することを期待する.
ケーススタディとして,本研究では旅客交通は,特に今後の航空規制緩和による高炭
素化が懸念される日本を,貨物交通は著しい経済成長が予測されるアジア新興国の中で
も特にメコン河流域にある国々を総称した大メコン河流域圏に適用し,低炭素性評価を
行う.
1.3 論文の構成
本論文は,全 7 章で構成されている.
第 1 章では,交通起源二酸化炭素排出量の増大傾向,及び 2050 年までの交通起源エ
ネルギー使用量の増大予測などのデータを用いながら,今後も交通起源二酸化炭素排出
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量の増大が懸念されることを述べる.その上で,日本と諸外国の総交通輸送量データな
どを用いながら,本研究における地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化の考え方につい
て説明する.具体的な低炭素化施策としては二つを検討し,一つは環境費用を上昇させ
ることで環境負荷を低減しようとする「炭素税」であり,二つ目は環境費用を低減する
ことで環境負荷を低減しようする「技術革新」である.この二つの施策効果バランスを
考慮した分析手法の構築が急務であることを説明する.
第 2 章では,地域間旅客・貨物交通部門に関する研究レビューを行い,本研究の位置
づけを明確化する.特に,本研究では旅客交通は今後の航空規制緩和が予想される日本
を対象に,貨物交通は今後の経済成長が予測されるアジア新興国の中でも,特にメコン
河流域で陸続きになっている大メコン河流域圏を対象として研究のレビューを行う.
旅客交通においては,交通サービス供給者サイドの分析モデル化が進展している一方
で,規制緩和による競争激化の状況が未考慮である現状,さらに炭素税や技術革新とい
った低炭素化戦略に関する研究領域は研究途上であることを述べる.その上で,本研究
では,日本における航空規制緩和が視点した状況を表現する手法として,独占的競争理
論を適用することを説明する.
貨物交通においては,既往研究から道路を中心とした先進国型産業開発に関する研究
領域の発展が進んでいる一方で,本研究が狙いとする低炭素化に関する視点が現在の研
究では十分に考慮されていない課題について整理する.そして,道路依存型産業開発か
らの脱却方策として交通需要抑制施策(AVOID),交通手段転換施策(SHIFT),技術革
新(IMPROVE)を組合せることで,二酸化炭素排出量の削減が期待できることを示し
ている.さらに,それらの結果表示の方法として,四象限追跡法を新たに用いることで,
施策間の関係性をより理解しやすい手法の必要性を述べる.
第 3 章では,分析対象地域である日本の旅客交通部門,及び貨物交通の大メコン河流
域圏地域の特徴について整理している.
旅客交通においては,日本の幹線交通網整備状況について述べた上で,イギリス,フ
ランス,米国のデータを用いて,地域間旅客交通部門の特性について説明している.
| 15
貨物交通においては,大メコン河流域圏の基礎情報として人口分布や賃金水準等の特
徴を説明した上で,今後の経済成長の見込みや現在策定及び検討されている交通インフ
ラ整備に関する特徴について述べる.重要な前提理解のポイントとして,現在の地域間
貨物交通は既に低炭素であるという認識である.これは,大メコン河流域圏の都市は沿
岸部に隣接して発展を遂げており,貨物の大部分は道路よりも低炭素な海運を利用した
交通体系となっているからである.しかし,海運は運航速度が時速 20-30km/h 程度と遅
いため,現在重点が置かれている道路を軸とした内陸開発・経済回廊開発によって道路
交通の速度向上は高炭素化への懸念が大きい状況となっていることを説明する.これは,
第1章で述べた先進国型の道路依存型産業開発の踏襲であり,将来の高炭素化が懸念さ
れる理由を述べる.
これらの整理から,本研究が対象としている地域間旅客交通・貨物交通部門の低炭素
化方策の研究が急務の課題であることを,現在の政策トレンドとの対比で明らかにする.
第 4 章では,研究全体のフレームワークと分析モデルについて説明する.本研究では,
地域間旅客・貨物交通部門の低炭素化戦略を検討し,定量的に評価する分析手を構築す
る.低炭素化施策を整理し,それらと評価システムおよび分析モデルの関係を数式化す
ることで,定量評価を可能とする.
分析モデルの構造について詳細に説明をする.本研究で構築する分析モデルは 4 つで
構成される.
①交通ネットワークモデル
➁地域間経済モデル
➂交通輸送量推計モデル
④二酸化炭素排出量推計モデルである.
①交通ネットワークモデルでは,炭素税,技術革新導入による交通費用変化をモデル
化する.交通費用の構成は輸送費用,時間費用,環境費用の三つである.新興国に適用
する際には,今後の経済成長に伴う大規模な交通インフラ整備の進展が予想されるため,
交通インフラ整備による輸送費用,時間費用変化を反映するようモデル化を工夫する.
②地域間経済モデルは,経済成長が著しい新興国適用の際に用いるモデルである.将
来の GDP 成長シナリオを外生的に与えた場合の地域間経済取引の変化を,①交通ネッ
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トワークモデルで算出した交通費用変化を反映して地域間経済取引金額を算出する.
③輸送量推計モデルでは,交通費用変化による交通需要変化を計算し,交通手段別交
通需要量を算出する.
④二酸化炭素排出量推計モデルでは,交通手段別の技術革新シナリオを反映し,C)
輸送量推計モデルからアウトプットされた交通手段別輸送量と二酸化炭素排出原単位
を乗じることで交通手段別二酸化炭素排出量をアウトプットする.
第 5 章では,本研究で用いるデータセットについて説明する.具体的には,地域間旅
客交通分析を日本に適用して分析する際に用いるデータ,及び地域間貨物交通分析を大
メコン流域圏に適用する際に用いるデータについて説明する.旅客交通に関しては,日
本の幹線旅客純流動調査を基礎データとしている.他方で,貨物交通に関しては,経済
取引デーア,交通費用データ,技術革新データなどを GTAP,世界銀行,JETRO 調査な
どを元に設定している.また,地域間貨物交通分析においては,長期変化に関する分析
を行うことから,各種長期変化シナリオの設定方法についても述べる.これらのデータ
セットを踏まえた上で,第 4 章で構築したモデルにおいてパラメータ設定を行う.
第 6 章では,第 4 章で構築したモデルを用いて,旅客交通は日本へ,貨物交通は大メ
コン河流域圏へ適用してそれぞれ分析を行った.
旅客交通に関しては,炭素税のみ導入した場合,及び炭素税と技術革新を組み合わせ
て導入した場合の二つのケースについて分析を行った.炭素税のみ導入した場合におい
て,本研究で独自に構築した独占的競争モデルによる結果考察を加えた上で,技術革新
導入による変化を考察する流れとなっている.
貨物交通に関しては,低炭素化戦略として、炭素税,および技術革新導入に加え,長
期の経済成長に伴う大規模交通インフラ整備が進むことを前提とした交通インフラ整
備シナリオを導入している.具体的には、始めに鉄道整備、鉄道未整備による二酸化炭
素排出量削減効果の定量分析を行い、鉄道整備による効果を分析する。次に、鉄道整備
に貨物の高付加価値化による貨物量減少を通じた低炭素化への効果を定量化した。最後
に、鉄道整備と貨物の高付加価値化に加え、炭素税を用いた需要抑制型の低炭素化戦略
| 17
による効果と技術革新による効果比較を行った。これらの結果から、低炭素化戦略にお
ける施策の組合せによる効果を定量化でき、施策群の組合せの重要性が明らかになる。
第 7 章では,各章のまとめ及び今後の展望について述べる.
| 18
参考文献
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edition, pp.9
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development Facts and Trends, 2004
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関別流動表,年間(旧手法),1990
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関別流動表,年間(旧手法),2000
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available October 2005.
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(15) The World Bank: Population Estimates and Projections,2013
(16) 週刊東洋経済 2013 年 5 月 13 日発売号:特集メコン, pp30
(17) Asia Development Bank: http://www.adb.org/countries/gms/main
(18) Yositsugu Hayashi: “Signs of Leapfrog to Reverse Transport Visions for Future Earth”,
Transport Day 2013 and WCTRS/NU-BCES joint Symposium, COP19, Warsaw, Poland,
2013
| 19
2
既往研究および本論文の位置づけ
2.1 地域間旅客・貨物交通に関する研究アプローチの分類
上記のように,交通起源二酸化炭素排出量が増大する傾向の中で,その原因を探るに
は,図 2-1 のように研究アプローチを構造化することが有用である.これは,全三段階
で構成され,対象交通範囲,対象交通行動,対象地域である.対象交通範囲は通気圏を
対象とした都市内交通と長距離交通を対象とした地域間交通に二分され,それぞれ旅客
交通,貨物交通によって構成される.さらに,対象地域が先進国と新興国に分類できる.
本研究では,地域間交通の旅客・貨物交通に着目をする.地域間交通は,歴史的に長
年取り組まれてきた都市内交通に比べて研究途上である(奥村,2013)1)といわれる分野
である.これは,往々にして大規模調査の困難さ,それによるデータ整備不足など,定
量評価を行うことが容易でなかったことが背景にあるとされる.したがって,本研究で
は地域間交通を対象とし,対象地域に関しては,
「旅客交通は先進国」を対象に,
「貨物
交通は新興国」を対象として研究を展開する.以下,それぞれの対象領域における既往
研究を整理する.
図 2-1: 交通起源二酸化炭素排出量削減に向けた研究アプローチの分類
| 20
2.2 地域間旅客交通に関する既往研究
これまでに取り組まれてきた地域間旅客交通部門における研究領域は,三室・奥田
(2012)2)を参考に,図 2-2 の点線で囲まれた二か所が中心的であり,環境効率性・経済
効率性のどちらか一方を軸にしていたと整理することができる.ここでは,まず地域間
交通における環境効率性評価の事例を整理し,次項で経済効率性の観点から整理する.
図 2-2: 地域間旅客交通に関する研究対象領域
2.2.1
地域間旅客交通と環境効率性向上に関する既往研究
まず,EU における航空市場の環境問題を扱った事例として,Karen ら(2007) 3)は,UK
を対象に航空燃料税への課税による観光への影響を国内線と国際線を両方取り入れて
分析をした.他にも,Anger(2010) 4)では,Energy – Environment – Economy Model という
動学モデルを用いて EU-ETS 導入による航空産業全体への影響を分析した.また日本に
おいても,服部ら(2010) 5)などにより地域間超高速旅客鉄道の導入効果などが検討され
ている.ただしこれらの研究課題は,環境政策導入後も供給サイドの行動は現状維持を
仮定したモデル構造となっているため,今後のより規制緩和が加速した競争条件下での
影響は分析できない点である.さらに,Anger (2010)
4)では一国モデルであるため,地
域別の影響は不明である.しかし,規制緩和下における炭素税の導入は,前述のように
悪循環を生み出す懸念があるため,需要サイドのモデル化だけではなく,路線別に供給
サイドの行動をモデル化することで循環メカニズムを考慮したモデル構築が重要な研
究課題となる.
| 21
2.2.2
地域間旅客交通と経済効率性向上に関する既往研究
一方,経済効率性の観点から地域間交通市場を対象にした研究事例は多数存在し,そ
の研究系譜や課題について奥村(2004)
6)や奥村ら(2005) 7)において詳細に整理されてい
る.中でも,本研究が焦点を当てる航空市場を対象にした研究は,供給サイドの行動特
性に着目をした研究が行われてきた(図 2.3).一連の特徴は,供給サイドのモデル化を,
経済理論に則って発展させてきたことにある.以下は村上らの著書(2006) 8)を参考に,
その系譜と課題について説明する.
まず,航空研究の初期における問題意識は,巨大な固定費用と需要の少なさに起因す
る自然独占の発生にあり,現状を説明するために不完全競争理論の一つである独占理論
を適用した研究が盛んに行われた.しかし,経済発展に伴う需要増加が著しくなるにつ
れ,独占による非効率性が目立つようになり,航空市場の効率化に向けた方策の検討が
始まった.その際に活用された理論が,参入退出の自由化などを想定したコンテスタブ
ル市場理論である.その帰結は,
「ある 7 つの仮定が全て成立すれば,航空市場は規制
緩和できる(村上ら 2006) 8)」ということであった.この理論を元にして,アメリカでは
航空市場の規制緩和に踏み切った.しかし,理論上設定された 7 つの仮定を全て満たす
ことは実現可能性が極めて低く,規制緩和の結果は市場における寡占や複占を生み出す
というものであった.この現実に対応するため,モデル開発においても寡占・複占理論
を基にしたモデル構築へ移行してきた.特に,航空会社間の戦略的相互依存関係に着目
をした分析が行われた.例えば,短期的には価格のみを調整できると仮定するベルトラ
ン競争,一方,長期では供給座席量を調整すると仮定するクールノー競争などである.
しかし課題として,これらの理論や分析モデルは,好循環の創出と現実の対応を重視
してきたため,今後の環境効率性の追求という問題意識は考慮されていない.また,寡
占・複占モデルでは供給サイドの競争条件を表現することに主眼が置かれており,供給
サイドの行動変化による需要サイドの行動変化といった一連の循環メカニズムについ
ては重要視されていない.しかし,今後は規制緩和が更に進むことが想定され,低価格
航空会社(いわゆる LCC)のような新規参入が加速する可能性も高い.それは,需要者の
視点からすれば選択肢が増えることを意味し,供給サイドの行動によって需要サイドの
行動が変化し得ることとなり,循環メカニズムを表現するモデルへの対応が不可欠であ
る.一方,非効率路線では撤退する可能性がより高くなり,航空市場の競争条件が今以
| 22
上に厳しくなれば,「炭素税」導入による需要減少と「技術革新」導入による需要増大
への転換は両者のバランスに依存するものである.したがって,モデル開発においても,
より競争的な市場環境における循環メカニズムに着目をした構築手法の検討が求めら
れる.
図 2-3: 地期間旅客交通分析フレームワーク(航空市場分析)の系譜
| 23
2.3 地域間貨物交通に関する既往研究
2.3.1
地域間貨物交通の研究手法の分類
地域間貨物輸送における研究方法は下記二つのアプローチに分けることができる.
① 地域や輸送ルート,輸送品目などを特定して詳細データを考察することで貨物輸
送の特徴を把握するアプローチ
② オペレーションズ・リサーチ(OR)などの数学的手法を用いて貨物量予測などを解
析的に分析するアプローチ
本研究では,大メコン河流域圏における貨物量,貨物輸送量,二酸化炭素排出量の把
握をねらいとすることから,後者のアプローチに分類される(図 2-4).
図 2-4: 地域間貨物交通研究の二大アプローチと本研究の違い
| 24
2.3.2 地域間貨物交通と経済効率性・環境効率性に関する既往研究
前述の前者のアプローチ例として,Fujimura(2004)
9)では,中国からラオス・タイに
かけた越境交通改善による効果において,中国-タイ間における工業製品輸送の増大を
指摘する一方で,ラオスにおける工業生産は限定的であり,農産品輸送が成長の鍵であ
ると指摘する.他方で,大メコン河流域圏における後者のアプローチの変遷としては,
次の三段階に整理される.
A) 海運貨物輸送推計研究の重点的取り組み
B) 陸上貨物輸送推計研究の重点的取り組み
C) 海運・陸上交通の双方を扱う研究領域の発展
これは,大メコン河流域圏の地域特性を反映しており,都市が沿岸部で発展してきた
ことで初期には海運輸送に着目をされたが,内陸の陸上交通網整備計画が視点を始めて
からは陸上交通を考慮した研究領域が求められてきた背景を反映している.
実際,Limao and Venables(2001) 10)では,経済理論において大消費地への海上交通輸送
費用が新興国との経済取引量を説明する上で重要であると指摘している.これは,大メ
コン河流域圏域の大都市が沿海部で発達していることとも関係する.
陸上交通の開通が地域間経済取引を増加させる実証研究として,Christopher et
al(2006)
11)では,国境を越える道路交通に着目し,1981
年から 2003 年までのデータを
用いて重力モデルから越境道路交通開通により 0.6 から.1.4%の経済取引増加の通発効
果があったと述べている.Stone(2009) 12)では,大メコン河流域圏の陸上輸送に着目し,
現在検討されている道路依存型経済回廊構築による施策効果を,GATP データを用いて
分析している.しかし,ここでは陸上交通でも道路貨物輸送のみに焦点を当てており,
鉄道整備は考慮されておらず,環境負荷に関する言及もされていない.
海上・陸上貨物交通の双方を扱う研究としては,Kumagai et al(2008) 13)及び Kumagai et
al(2009)
14)がある.ここでは
ASEAN+バングラディシュの地域に着目し,2005 年から
2030 年までの海運および道路交通インフラ整備変化の双方を考慮した地域間物流量の
推計を独自に構築した分析モデル(IDE/ERIA-GMS model)を用いて実施している.他に
も Iwata and Kato(2010)
15)では,道路輸送と海運輸送の両方を考慮し,大メコン河流域
圏を対象に Global Trade Analysis Projects(GTAP)モデルを用いて道路輸送開通による経
済への影響分析を 2020 年まで推計している.さらに,柴崎・渡部(2009)
16)では,国際
| 25
コンテナ貨物流動モデル(MICCS)を用い,海上輸送と陸上輸送の双方を考慮し海上物流
において港湾選択をモデル化している点が特徴である.しかし,これらの研究でも鉄道
整備や環境負荷に関しては言及されていない.
上述のような大メコン河流域圏全体における貨物輸送量推計に加え,輸送ルートなど
のケーススタディにおいて詳細な分担率推計やルート代替効果の分析なども行われて
いる.例えば,Isono(2011) 17)では,タイ-ベトナム間における道路輸送ルートを 2 パタ
ーン設定した場合の経済への影響を分析している.さらに,交通手段選択の特徴に関す
る研究として,Tamura et.al(2010) 18)ではタイとミャンマーの交通を対象に,交通機関選
択の特徴として,現在は輸送費用より信頼性が重要であることを指摘している.また,
花岡ら(2010)19)では,バンコク-ハノイ間をケーススタディとして,貨物交通における
インターモーダル輸送によるエネルギー節約効果を明らかにするために,エネルギー消
費量,輸送時間,輸送料金の多目的最適化問題を解くことで,分担率を予測するモデル
開発を行っている.
しかし,これらの研究では現在の交通整備計画を将来に向けて分析するものであり,
将来の低炭素化に向けた検討は考慮されていない.四象限追跡法表現法を用いて説明す
れば,経済成長,貨物量,貨物輸送量の推計を行うことで第三象限までの分析は,海運・
道路輸送の二つの交通手段を考慮して取り組まれてきたが,環境負荷削減を判断する第
四象限までの研究領域へは発展してきていないと言える.さらに,経済効率性のメカニ
ズムを活かした環境施策である「炭素税」と,環境効率性の向上が大いに期待される「技
術革新」の導入バランスによる環境負荷への影響は検討されていない.そのため,大メ
コン河流域圏の経済成長期における各種施策の低炭素化への転換は急務の課題である
ことから,第四象限の環境負荷削減への影響まで考慮をした地域間貨物交通における低
炭素化戦略導入による影響を定量的に評価する分析モデルの開発が求められる.
2.4 本論文の位置づけ
以上のように,地域間交通部門においては旅客交通,貨物交通ともに低炭素化に向け
た取り組みの研究は少なく,特に炭素税と技術革新施策のバランスを考慮した施策効果
分析は行われていない.他方で,地域間交通部門における低炭素化は急務の課題であり,
| 26
施策導入による影響を定量的に評価できるモデル構築を通じて,施策効果を明らかにす
ることが求められている.
このような考えから,本研究では日本・アジア新興国の地域間旅客・貨物交通部門に
着目し,低炭素化戦略を定量評価する分析手法の開発を研究目的とする.
本研究と既往研究の研究領域の差別化は,四象限追跡法を用いることで,図 2-5 のよ
うに整理できる.本研究は,既往研究で取り組まれてきた経済成長と交通量推計,交通
手段別推計を行う点では共通アプローチであるが(第一象限から第三象限),第四象限
における低炭素化に向けた施策を扱うだけでなく,炭素税と技術革新の効果比較を可能
とするモデル構築を行う点が特徴できある.さらに,地域間旅客分析モデル構築におけ
る航空市場の競争状況をモデル化する点,および地域間交通分析モデルを新興国に適用
する際に低炭素化戦略手法の一つとして鉄道貨物輸送を考慮して交通手段別貨物輸送
量を推計する点は,これまでアジア新興国を対象として行われてき既往研究に対しては
新しい視点である.以降,地域間交通分析モデルの構造,モデルを適用する地域の特徴
について説明する.
図 2-5: 既往研究と本研究の対象領域の違い
| 27
参考文献
(1) 奥村誠:都市間旅客交通研究小委員会,活動趣旨,土木計画学研究委員会 HP
(2) 三室碧人,奥田隆明: 独占的競争理論を応用した都市間旅客交通部門の分析手法
の開発~今後の環境税導入を見込んで~, 土木学会論文集 D3(土木計画
学),Vol.68,No.5(土木計画学研究・論文集第 29 巻), pp.I_1005-I_1012, 2012.12
(3) Karen Mayor and Richard S.J. Tol(2007) : THE IMPACT OF THE UK AVIATION
TAX ON CARBON DIOXIDE EMISSIONS AND VISITOR NUMBERS, Working
Paper FNU-131
(4) Anger, A(2010): Including Aviation in the EU ETS: impacts on the industry, CO2
emissions and macroeconomic activity in the EU, Journal of Air Transport Management
No.16, 2010, pp100-105
(5) 服部有里・森本涼子・柴原尚希・加藤博和・伊藤友佳(2010):地域間超高速旅客・
貨物輸送システムの LCA を用いた評価,土木計画学研究・講演集,Vol.41,
CD-ROM(28)
(6) 奥村誠(2003):都市間交通に対する研究アプローチ(スペシャルセッション
No.805)
,土木計画学研究・講演集 Vol.27, CD-ROM
(7) 奥村誠・中川大・山口勝弘・土谷和之・奥村泰宏・日野智・塚井誠人(2002):都
市間交通の分析と評価の課題スペシャルセッション)
,土木計画学研究・講演集
Vol.25, CD-ROM
(8) 村上英樹・高橋望・ 加藤一誠・ 榊原胖夫(2006):航空の経済学,pp75-121, ミネ
ルヴァ書房
(9) Manabu Fujimura: Corss-Border Transport Infrastructure, Regional Integration and
Development, ADB Institute Discussion Paper No.16 2004.11
(10) Limao,N , A.J Venable: Infrastructure Geographical Disadvantage- Transport Costs and
Trade, World Bank Economic Review, Vol. 15, pp451-479
(11) Christopher Edmonds, Manuba Fujmura: Impact of cross-border road infrastructure on
trade and investment in the Greater Mekong Subregion, Ehird LAEBA Annual Meeting,
2006. 10
(12) Stone Susan, Sttutt. Anna: Transport Infrastructure and trade facilitation in the Greater
| 28
Mekong Subregion, Asian Development Bank, Working Paper series, No.130, 2009
(13) Satoru Kumagai, Gokan Toshitaka, Ikumo Isono, Souknilanh Keola, and Kazunobu
Hayakawa: Predicting Long-term Effects on Infrastructure Development Projects in
Continental South East Asia – IDE Geographical Simulation Model-, ERIA Discussion
Paper Series, 2008.02
(14) Satoru Kumagai, Gokan Toshitaka, Ikumo Isono, Souknilanh Keola, and Kazunobu
Hayakawa: Geographical Simulation Analysis for Logistic Enhancement in East Asia,
ERIA Research Project Report, No.7-2, 2009
(15) Takafumi Iwata, Hironori Kato: Impact of International Transportation Infrastructure
Development on a Londlocaked Country: Case Strudy in the Greater Mekong Subregion,
Proceedings of the 3rd International Conference on Transportation and Logistics
(T-LOG 2010), CD-ROM, 2010.09
(16) 柴崎隆一,渡部富博:東・東南アジアにおけるマルチモード国際物流モデルの構
築とアセアン物流インフラ施策の評価, 国総研報告, No.40, 2009
(17) Ikumo ISONO: Possible Alternative Routes for Further Connectivity in the Mekong
Region, Bangkok Research Center, Research Report, No.6, 2011
(18) Kocihiro TAMURA, Tsuneaki YOSHIDA: Reginalization and Cross-Border Transport:
-Empirical Study on Thailand and Malaysia-: Journal of the Eastern Asia Society for
Transportation Studies 8(0), pp867-882, 2010
(19) 花岡信也,タクシム・ハスナイン,川崎智也,ピシェ・クナダムラクス:イン
ターモーダル輸送によるエネルギー節減効果の計測-タイを事例として-, 運
輸政策研究 Vol.12, No.4, pp24-31, 2010 Winter.
| 29
3
ケーススタディ地域の特徴
3.1 日本における地域間旅客交通の概要
日本の幹線旅客交通は,1963 年 7 月 16 日に名神高速道路の開通を機に,1964 年 10
月 1 日には世界で初めての高速鉄道である東海道新幹線が開通した.その後,高速道路,
高速鉄道,空港はそれぞれ独自の国家予算を背景に整備が進み,現在に至っている.図
3-1 は,日本の 1962 年における高速道路 1),高速鉄道 2),空港 3)の整備状況を示してい
る.他方で,図 3-2 は 2010 年における整備状況 1),
2), 3),を示している.周知のように,
日本は世界に先駆けて高速鉄道を整備してきた歴史から,東京を起点とした地域間交通
手段として鉄道利便性が高いのが特徴である.実際,図 3-3 から図 3-6 は日本(2010 年)
4),
,アメリカ(2001 年)5),,イギリス(2006 年)6),,フランス(2008 年)7),における地域間交通
の距離帯別分担率を示している.日本においては,300-700km 帯において,特に鉄道
分担率が高いことが分かる.他方で,米国は高速鉄道整備が遅れていることから,日本
において鉄道が担っている分担率の部分を自動車と航空で担っている状況であり,非常
に高炭素な地域間交通システムとなっていることが推測される.他方で,イギリス,フ
ランスでは,国土構造が日本と異なり四角形に近いことに加え,道路整備網も整ってい
ることから,500km 帯の交通においても,自動車の占める割合が非常に高い状況となっ
ている.
このように,世界比較をすると,日本の地域間旅客交通は比較的低炭素な交通システ
ム体系であると考えられる.しかし,今後は航空業界における規制緩和の加速が予想さ
れ,格安航空会社(LCC: Low Cost Carrier)の参入加速も相まって,長距離帯におけ
る鉄道から航空への転換可能性が増大している.そのため,航空市場における競争激化
した状況において,低炭素化の取り組みが求められ,炭素税と技術革新の双方の導入に
よる影響は,鉄道との代替性が変化するなど二つの施策導入水準に応じて結果が異なる
と考えられる.そこで,定量的に評価できる分析モデルが必要となり,本研究で地域間
旅客交通部門を対象とした低炭素化戦略を定量的に評価可能とする分析手法を構築す
る.
| 30
図 3-1: 日本の幹線旅客交通インフラ整備状況(1962 年時点)
図 3-2: 日本の幹線旅客交通インフラ整備状況(2010 年時点)
| 31
日本(2010年)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0‐100km
100‐200km
航空
200‐300km
鉄道
300‐500km
乗用車
その他
500‐750km
750‐1000km
1000km‐
図 3-3: 日本の地域間旅客交通における距離帯別分担率(2010 年)
アメリカ(2001年)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
80‐240km
240‐400km
航空
鉄道
400‐800km
乗用車
その他
800‐1600km
1600km‐
図 3-4: アメリカの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2001 年)
| 32
イギリス(2006年)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
80‐120km
120‐160km
航空
鉄道
160‐240km
乗用車
240km‐400km
その他
400‐560km
560km‐
図 3-5: イギリスの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2006 年)
フランス(2008年)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
100klm
100‐200km
航空
200‐399km
鉄道
乗用車
400‐599km
その他
600‐799km
800km‐
図 3-6: フランスの地域間旅客交通における距離帯別分担率(2008 年)
| 33
3.2 大メコン河流域圏における経済と交通の概要
大メコン河流域圏(Greater Mekong Subregion:通称 GMS)とは,アジア開発銀行
(ADB) 8)の支援によって 1992 年から開始された経済開発プログラムの対象地域の名称
である.大メコン河流域圏の構成国は,中国雲南省および広西チワン族自治区に跨るメ
コン川流域からラオス,ミャンマー,ベトナム,タイ,カンボジアである.今後,2050
年までの長期を見据えた際,国立環境研究所(河瀬・松岡,2012)9)によれば各地域の経
済成長率は中国,インド,東南アジアの地域が最も大きいことが分かる(図 3-7).中
国は 2050 年に 2005 年比で 9.0 倍,インドは 7.9 倍,東南アジアでは 5.4 倍と高い経済
成長が予想される一方で,米国は 1.7 倍,EU は 1.8 倍,日本は 1.4 倍とアジア新興国に
比べて低成長が予想されている.図 3-8 より,人口規模 10)においてもアジア新興国は,
多国小国が多いため,経済成長において地域間格差是正も重要な政策課題となっている.
そのため,大メコン河流域圏の開発目的は,経済成長の促進に加え,内陸開発を軸と
した地域間格差是正も大きな課題である 11).これらの地域では,表 3-1 に示すように,
タイが急激な経済成長を遂げため一人当たり所得 5,480(US$/capita)と高水準にあるが,
他の地域(ベトナム,カンボジア,ラオス,ミャンマー)はタイと比較して低水準にあ
ることから,地域間格差の是正を通じて地域の安定を保つことが狙いとされている.
図 3-7: 世界の地域別経済成長率(2050 年/2005 年)
出典:河瀬・松尾を参考に,筆者作成
| 34
図 3-8: アジアの都市別人口
表 3-1: 大メコン河流域圏各国の概要 10),12),13),14).15)
一人当たり
一日 2 ドル
一人当たり
一人当たり
GDP
以下人口割合
道路延長
鉄道延長
千万人
$US/capita
%
km/人
km/人
(2012)
(2012)
(2010)
(2010)
(2010)
人口
国名
タイ
6.68
5,480
9.7
16,908
797
ベトナム
8.88
1,596
37.8
33
290
カンボジア
1.49
946
55.0
30
438
ラオス
0.66
1,399
64.0
61
5
ミャンマー
5.28
835
-
26
1,074
中国
135.10
6,188
18.2
28,578
674
日本
12.8
46,720
-
93,941
2,138
| 35
3.3 大メコン河流域圏における道路依存型産業開発パターンの進展
経済成長と地域間格差是正の両立が求められる大メコン河流域圏では,アジア開発銀
行の支援による産業開発プログラムが進展している.図 5-3 は,大メコン河流域圏周辺
において現在提案・検討されている経済回廊構築プログラムである.これによれば,大
メコン河流域圏以外にも,インドのデリー・ムンバイ産業大動脈,メコン・インド産業
大動脈,インドシナ経済回廊などが含まれている.しかし,低賃金の労働力を求めて産
業が中国から大メコン河流域圏へ移転する傾向下では,大メコン河流域圏内に閉じて検
討するだけでなく,中国との取引も注目をして産業開発を検討することが重要となる.
現在,大メコン河流域圏における GMS 総合開発プログラムとして,産業開発を経済
回廊として構築する動きがある(図 3-9)16).ここでは,東西南北に経済回路の構築を目
指し,生産活動を活発化させることで,経済成長と内陸開発を促進させる狙いがある.
しかし,この産業開発プログラムの課題は,経済回廊を道路交通網で支えようとしてい
る点である.
図 3-9: 中国・インド・東南アジアにおいて既に提案されている経済回廊 16)
出典:
経済産業省資料をもとに,筆者作成
| 36
図 3-10: アジア開発銀行が提案する
大メコン河流域圏の道路ネットワーク
Source: Association of Southeast Asian Nations's Fact Sheet - www.aseansec.org17)
図 3-10 は,大メコン河流域圏における道路交通網整備計画である(ADB).道路網を
活用した内陸開発の促進により陸上輸送の費用逓減が期待され,現在は海運輸送が支配
的な貨物輸送体系から,より利便性の高い道路輸送への転換を促進することで,産業立
地の内陸化により雇用機会の創出をもくろむものである.しかし,このような道路依存
型産業開発は非持続的な経済成長アプローチであり,環境問題への対応という観点から
すれば二酸化炭素排出量増大が懸念される.
| 37
3.4 経済成長・交通網整備・二酸化炭素排出量増大メカニズムの整理
このように大メコン河流域圏では,道路交通依存型産業開発モデルの踏襲が懸念され
ている.
図 3-11 は,アジア新興国における経済成長,交通需要増大,CO2 排出量増大の関係
を簡易的に示したものである.経済成長加速の観点において,アジア新興国では 1967
年のバンコク宣言によって東南アジア諸国連合(ASEAN)が設立以来,EU のように
域内経済協力・統合の強化へ力点を置いた取り組みがなされてきた.現加盟国はタイ,
インドネシア,シンガポール,フィリピン,マレーシアであり,後にブルネイ,ベトナ
ム,ラオス,ミャンマー,カンボジアが加盟し,現在は 10 ヵ国で構成されている.よ
り一層の統合強化に向けて,2015 年には経済共同体(ASEAN Economic Community:
通称 AEC)の実現が目標設定され,域内関税の撤廃,投資自由化,非関税障壁の撤廃
などが議論されている(ASEAN,2010)18).他にも,社会・文化・共同体(ASCC),
政治・安全保障共同体(APSC)の構築も宣言されており(ASEAN,2010) 18),域内経済
取引の増大による経済成長加速が期待されている.このような国家間の障壁撤廃は投資
の増加を通じて生産設備増強による生産増加が見込まれる.
図 3-11: アジア新興国における経済成長・交通需要増大・CO2 排出量増大の関係図
| 38
交通需要増大という観点からすると,ASEAN 域内の生産増加によって国家間経済取
引の増加が予想され,需要増大に対応する地域間交通インフラの整備が急務の課題とな
っている.前述のように,この時に交通インフラ整備は道路中心となっており,鉄道投
資が進まない構造から,相対的に道路輸送の利便性が向上し,道路依存型の産業立地行
動が懸念される.一度,このメカニズムに陥ると,鉄道輸送を利用するインセンティブ
は一層低下することで,鉄道投資をしても利用が促進されず,投資に見合った効果がよ
り見込まれなくなり,さらに投資が遅れるという状況が発生する.
3.5 中国・インドとの比較による大メコン河流域圏の貨物鉄道整備の特徴
中国・インドでは,産業開発において,鉄道整備も進めてきている.二国の特徴とし
ては三点上げられる.
(1) 人口でそれぞれ 13.4 億人,12.4 億人を抱える巨大大国でありインフラ整備に必
要な財源を国内だけで調達しやすい点
(2) インフラ投資順序の決定プロセスは国内政治問題であり国際的問題よりも意
志決定プロセスが容易である点
(3) 上記二点の特徴から,意志決定プロセスに制度的問題はあるにせよ,大規模イ
ンフラ投資の早期実施を加速させる上では効果的に作用する点
このような大国としてのメリットを活かし,中国,インドでは貨物専用線の構築,及
び貨物鉄道を軸とした経済回廊開発の検討が既に動き始めている.図 3-12,図 3-13 は
中国,インドにおける貨物鉄道整備の状況を示している
19), 20).例えば,中国では鉄道
貨物輸送の効率化を目的に,アメリカの貨物輸送を参考に 2004 年から北京-上海間の
約 1,000km の区間において,二階建てコンテナ輸送鉄道 (Double Container-Stack
Freight Railway)の運行を開始している.房・花岡(2011) 21)によれば,二階建てにする
ことで 33%のエネルギー使用削減効果,及び 25-40%程度の輸送費用低減効果がある
とする.また,インドにおいては,中国のように鉄道輸送の効率化だけでなく,貨物鉄
道を軸とした経済回廊(Dedicated Freight Corridor: DFC)の構想を打ち立て,現在
2017 年の開業を目指した取り組みが行われている.
| 39
図 3-12: 中国の二階建て貨物鉄道路線
図 3-13: インドの貨物専用線構想
他方で,大メコン河流域圏は多国小国で構成される地域である.そのため,大メコン
河流域圏において中国・インドのような 1,000km 以上の交通インフラ整備を検討した
場合,必ず国境を跨ぐ交通となるため,財源負担・調達の調整,及びインフラ投資順序
の国家間調整が不可避であることから意志決定プロセスも複雑であり,大規模インフラ
整備が遅延しやすい地理的特性を抱える地域である.その結果,国家間での調整に時間
を要し整備遅延に陥りやすい状況となっている.実際,現在検討されている鉄道構想も
存在するが 22),現在は図 3-14 のように沿岸部を 1,000mm ゲージの鉄道網で構築する構
想が立てられている程度で,具体化に向けた取り組みは進んでいないのが実情である.
さらに,大メコン河流域圏は前述したように,低賃金な労働力を背景とした産業進展
が考えられ,それを大消費地隣国で中国へ輸送する地域構造の発達が考えられる.その
際,経済成長が進むについて時間費用が上昇することで速達性はより重要視されるよう
になる.そのような状況において低炭素な地域間貨物輸送体系を構築するには,道路輸
送よりも速達性が高く,かつ低炭素であることが求められる.そこで,大メコン河流域
圏における地域間貨物交通の低炭素化を考える上では,長距離の高速貨物鉄道の整備が
重要な施策オプションとなる.したがって,本研究では高速貨物鉄道整備に着目をして,
大メコン河流域圏の地域間貨物交通部門の低炭素性能評価を行うことが重要な視点と
なる.
| 40
図 3-14: 大メコン河流域圏で提案されている貨物鉄道ネットワーク 15)
(出典:ASEAN)
なお,本研究を行うに当たり,タイ,ラオスにおける現地視察を行っている.図 3-15
から図 3-18 は 2011 年当時の鉄道状況である.タイにおいては鉄道沿線に低所得者層が
定住しており,鉄道の停車場所も駅以外の場所で停車を乗客の乗降をするなど,鉄道利
用文化は非常に遅れていた.さらに,ラオスにおいては 2009 年に初めての鉄道が僅か
3.5km 整備されたのみであり,利便性は大変低い状況であった.
図 3-15: タイの鉄道沿線状況
図 3-16: タイの幹線鉄道の状況
(2011.09,現地視察時点)
(2011.09,現地視察時点)
| 41
図 3-17: ラオスの首都駅
図 3-18: ラオスの首都駅ホーム内
(2011.09,現地視察時点)
(2011.09,現地視察時点)
以上のように,アジア新興国の中でも特に大メコン河流域圏おいては,多国小国であ
る地域特性から鉄道整備遅延の悪循環すでに陥りつつあると考えら得る.そのため,非
持続的経済成長経路から脱却をするには,早急に道路依存型産業開発モデルから鉄道重
視型産業開発モデルへの転換求められる.したがって,アジア新興国を対象とした地域
間貨物交通部門における低炭素化戦略策定の検討が急務の課題であり,本研究で低炭素
化施策の検討,及びその評価法の構築を行うものである.
| 42
参考文献
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http://www.ne.jp/asahi/expressway/dataroom/, 2014.01 時点
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Transport and Rail Transport, 2010 道路・鉄道延長:(ただし,中国の道路長は総務
省統計局(世界の統計 2012),鉄道長は中国鉄道統計公報 2010)
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| 43
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http://dfccil.org/dfccil_app/home.jsp
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http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/asia/sw_asia/data/DMIC.pdf
(21) 房小琳, 花岡伸也.:中国鉄道コンテナ貨物輸送の課題と将来需要推計, 土木計画
学研究・講演集, No.43, 2011,05
(22) ASEAN Secretariat, SKRL(The Singapore-Kunming Rail Link)
Factsheet, 2007
| 44
4
地域間交通分析モデルのフレームワーク
4.1 地域間交通分析モデルの全体構造
本研究では,地域間旅客・貨物交通部門における炭素税と技術革新を中心とした低炭
素化戦略を定量的に評価することを目的とした分析手法を開発する(図 4-1).分析手法
のは全四段階で構成される.初期インプットは,低炭素化戦略施策(炭素税,技術革新
を中心とした策:交通需要抑制施策,交通手段転換施策,技術革新施策)の導入である.
第二段階は,施策の影響を反映した定量的施策効果評価システムである.第三段階は,
評価システム分析によるアウトプットを,四象限追跡法を用いた表示を行うために,四
象限のそれぞれの設定軸へ値をインプットすることを目的に,交通量,総交通輸送量,
交通手段別交通輸送量,地域間旅客・貨物輸送起源の二酸化炭素排出量をアウトプット
する.最後に,各種施策と二酸化炭素削減目標の達成の関係を考察する.
図 4-1: 地域間交通分析のフレームワーク
| 45
4.2 日本および大メコン河流域圏への適用におけるモデル改良の特徴
本研究で開発する地域間交通分析モデルは,全部で四つのサブモデル(①交通ネット
ワークモデル,②地域間経済モデル,③交通輸送量推計モデル,④二酸化炭素排出量推
計モデル)で構成される(図 4-2).
①交通ネットワークモデルでは,炭素税,技術革新導入による交通費用変化をモデル
化する.交通費用の構成は輸送費用,時間費用,環境費用の三つである.新興国に適用
する際には,今後の経済成長に伴う大規模な交通インフラ整備の進展が予想されるため,
交通インフラ整備による輸送費用,時間費用変化を反映するようモデル化を工夫する.
②地域間経済モデルは,経済成長が著しい新興国適用の際に用いるモデルである.将
来の GDP 成長シナリオを外生的に与えた場合の地域間経済取引の変化を,①交通ネッ
トワークモデルで算出した交通費用変化を反映して地域間経済取引金額を算出する.
③交通輸送量推計モデルでは,交通費用変化による交通需要変化を計算し,交通手段
別交通需要量を算出する.
④二酸化炭素排出量推計モデルでは,交通手段別の技術革新シナリオを反映し,③輸
送量推計モデルからアウトプットされた交通手段別輸送量と二酸化炭素排出原単位を
乗じることで交通手段別二酸化炭素排出量をアウトプットする.
以下,四つの分析モデルの日本・大メコン河流域圏適用における相違点を整理する.
図 4-2: 評価システムフローに関する先進国・新興国適用の違い
| 46
4.2.1 交通ネットワークモデルの特徴
交通ネットワークモデルでは,交通一般化費用算出を目的に,輸送費用,時間費用,
環境費用の三つの変化を反映する(図 4-3).日本適用,および大メコン河流域圏適用に
共通するものは炭素税と技術革新変化である.それぞれ環境費用に左右するようにモデ
ル化を図る.他方で,大メコン河流域圏に適用する際には,今後の高い経済成長を背景
とした大規模交通インフラ整備の進展が予想されるため,交通インフラ整備による交通
費用変化を扱うこととする.交通インフラ整備により,輸送費用が変化するだけでなく,
輸送時間の短縮も発生することから時間費用も変化するようにモデル化をしている.
図 4-3: 評価システムにおける交通ネットワークモデルの構造
4.2.2
新興国適用時のみに利用する地域間経済モデルの特徴
地域間経済モデルは,今後の高い経済成長が予想される新興国へ適用する際に用いる
分析モデルある.ここでは,前述の交通ネットワークモデルで算出した交通一般化費用
変化を受けて,地域間の経済取引地域選択が変化するようにモデル化を図る.これは,
交通インフラ整備により相対的に交通一般化費用が低下する地域間が発生すると考え
られ,市場競争が厳しい状況下では交通費用低下の影響は地域選択にも影響を及ぼす可
| 47
能性があることを示している.さらに,大メコン河流域圏適用時には,隣国の中国が巨
大な消費市場のため,大規模な消費地とは交通費用変化だけでは取引構造変化には影響
は少ないと考えられるため,取引地域選択には交通費用変化に加え取引相手先の生産規
模を導入するよう工夫する(図 4-4).
図 4-4: 評価システムにおける地域間経済モデルの構造
4.2.3 交通輸送量推計モデルの特徴
交通輸送量推計モデルでは,4.2.1 における交通一般化費用変化,新興国においては
交通一般化費用変化による 4.2.2.の地域間経済モデルを介した経済取引変化を受けて,
交通需要量変化,分担率変化を受けた交通手段別交通需要量変化を算出する(図 4-5).
先進国適用時において,本研究で特に対象とする日本の場合は,航空市場の競争激化
をモデル化するために,経済学の分野で開発されてきた独占的競争理論を応用する.こ
れまで,航空市場を対象とした分析モデルは航空会社のモデル化を工夫することを軸に
発展してきたが,そこでは寡占状態などを想定し,競争的な市場環境を表現することは
甘利行われていない.しかし,本研究では格安航空会社(LCC)の台頭などを年頭に,非
常に競争的な市場環境になった場合を想定したモデル化へ展開することの必要性を考
え,独占的競争理論を用いることとした.これにより,炭素税および技術革新導入によ
る影響を競争自由化が進んだ航空市場と鉄道の分担率変化を通じて表現可能となる.
| 48
図 4-5: 評価システムにおける輸送量推計モデルの構造
4.2.4 二酸化炭素排出量推計モデルの特徴
二酸化炭素排出量推計モデルにおいては,4.2.3 項の交通輸送量推計モデルで算出し
た交通手段別輸送量を用いて,技術革新導入の影響を反映した上で,交通手段別二酸化
炭素排出量を算出する(図 4-6).
図 4-6: 評価システムにおける二酸化炭素排出量推計モデルの構造
| 49
4.3 日本の旅客交通へ適用する場合の詳細モデル構造
4.3.1 地域間旅客分析モデルの開発手法
第 4.3 節では,Mimuro and Okuda(2013)1)を参考に,炭素税と技術革新を考慮した
地域間交通部門の低炭素化戦略を分析するための方法として,地域間旅客交通を対象と
した「地域間旅客交通モデル」の開発を行う.モデル開発は,以下の三段階で行われる.
①
交通ネットワークモデル
③
交通輸送量推計モデル
3-a. 独占的競争理論の理論特性の整理
3-b. 供給サイドモデル
3-c. 需要サイドモデル
3-d. 需給均衡条件式
④
二酸化炭素排出量推計モデル
A)交通ネットワークモデルにおいて,地域間旅客交通の交通費用算出モデルを述べる.
その後,B)交通輸送量推計モデルにおいて,本研究で想定する航空市場の競争激化状態
を表現するために用いる独占的競争理論の理論的特性および航空市場適用における解
釈を説明する.その上で,具体的な方程式の展開を行う.その際,A)交通ネットワーク
モデルとの関係性から,交通一般化費用変化を受けた交通サービス提供者の行動変化モ
デル(供給サイドモデル)を構築し,供給者の行動編化を受けた交通需要者の行動変化
モデル(需要サイドモデル)を構築する.そして,需給均衡条件を説明する.最後に,
c)二酸化炭素排出量推計モデルにおいて,B)交通輸送量推計モデルから算出された交通
手段別交通需要量を用いて二酸化炭素排出原単位を掛け合わせることで二酸化炭素排
出量を算出する.
本研究で構築する分析モデルにおいて使用する文字を説明する. iは出発地, j は到
着地, k は交通手段であり,航空または鉄道のどちらか一方である.他にも,交通とそ
の他の財,または航空と鉄道の間の代替性は  で表される.さらに,独占的競争理論を
Air
適用するに当たり,航空運航便数として n を用いる.例えば, qij は区間 ij を航空で移
Air
動する総航空需要量であるが,似た文字として用いる qijn は,区間 ij を航空で移動する
各便に搭乗する需要量を意味する.
| 50
図 4-7 は,簡単に計算フローを述べる.まず,炭素税および技術革新の導入によって,
航空事業者が変化し,運賃(航空)が変化する.そして,時間費用を考慮した航空交通
Air
Rail
一般化費用( cij )の変化,および鉄道交通一般化費用( cij
)の変化を受け,合成交通
費用( c ij )が変化する.そして,合成総費用が ci も変化することで,所得 Ii は一定のた
め効用 u i が変化する.ここまでが交通ネットワークモデルで説明される範囲である.
次に,交通輸送量推計モデルにおいて,効用を最大化するように,交通 xij またはそ
Air
Rail
の他の財 x i を選択し,交通の中はさらに二分され,航空 xij か鉄道 x ij
の交通手段を
選択することになる.なお,本研究では航空分野に対して独占的競争モデルを適用して
いるため,航空需要量の変化を受けて初期状態でゼロであった利潤関数がゼロとはなら
なくなる.すると,利潤関数がゼロという受給均衡条件を満たさなくなるため,運航便
数 n によって需給均衡に達するまで運航便数が調整される.すると航空会社における競
争度合を示すマークアップが変化し,再計算に入る.最終的に,利潤関数がゼロになる
時に計算は終了し,交通手段別交通需要量が求まり,交通需要量に対して二酸化炭素排
出原単位を掛け合わせることで,二酸化炭素排出量を算出する.以下,計算フローの詳
細について順に述べていく.
図 4-7: 地域間旅客交通分析モデルの計算フロー
| 51
4.3.2 交通ネットワークモデル
4.3.2(a) 交通一般化費用
ここでは,交通需要者の交通行動に影響する交通費用について説明する.本研究では,
時間費用を考慮した交通一般化費用を用いる.具体的な交通一般化費用は,以下の式で
表すことができる(式 4.1, 式 4.2) .
cijk  pijk  Tijk  Envijk
(4.1)
Tijk αpijk
(4.2)
ここで,
pijAir :運賃, T ijk :時間費用, Env ijk :環境費用, α:運賃に対する時間費用の割
合である.交通一般化費用の一般的な表現方法は,運賃と時間費用,環境費用を和の形
で定式化することである.しかし,本研究では独占的競争理論を応用したモデル開発を
行うことため,交通一般化費用の表現方法は,和で表示する以外の方法としては一般的
な Iceberg 型で採用する.そのため,交通一般化費用において時間費用は運賃の一定割
合とする構造になる.したがって,運賃の変化に対して時間費用も変化することになる.
4.3.2(b) 炭素税導入と交通一般化費用モデルの改良
ここでは,地域間旅客交通部門の低炭素化戦略手法の一つとして,炭素税を導入した
場合のモデル改良方法を説明する.特徴は,炭素税導入による影響は燃料価格上昇とし
て反映されることである.これは,本研究において日本を対象に分析を行うことから,
詳細なデータ取得が可能であったため,式(4.1)における運賃(Pijk)を燃料費用とその他
費用に分割し,炭素税課税を燃料費用上昇として表現可能できるようモデル改良を工夫
する.まず,運賃は以下のように二分することができる.
pijk  wak aijk  wbk bijk
(4.3)
| 52
a ijk :単位生産量当たりの燃料以外の費用投入量(個/Seat)
bijk : 単位生産量当たりの燃料費用投入量(個/Seat)
w ak :燃料以外の可変費用で,単位生産量当たりの価格(円/個)
w bk :単位生産量当たりの燃料価格(円/個)
ここで,第一項は,燃料以外の運行費用,第二項は燃料費用である.
次に,炭素税導入による影響は,式(4.3)の第二項の燃料費用を上昇させることから,
式(4.3)は以下のように書き換えることができる.
pijk  wak aijk  1  ijk wbk bijk
(4.4)
Envijk  ijk wbk bijk
(4.5)
ここで,  ij は, 0  ij を満たし,上流課税導入によるジェット燃料価格への影響
k
Air
度と解釈される.ポイントは,航空事業者にとって上流課税の影響は燃料調達価格の上
昇となるだけであり,モデルを複雑に変更しないで良い点である.したがって,分析対
象年次において航空会社が購入するジェット燃料価格を 1.0 と仮定した場合,炭素税の
割合  ij
Air
を求めることによって課税後のジェット燃料価格を容易に算出することが可
能となる.この時,交通一般化費用の式(4.1)における環境費用は,式(4.5)に相当する.
4.3.2(c) 技術革新導入による交通一般化費用モデルの改良
ここでは,技術革新が導入された場合を評価するための分析モデルの改良方法につい
て説明する.技術革新の導入は,モデル上では事業者の費用関数を変化させることと同
じであるため,式(4.4)の運賃における燃料費用に関する項を修正することとなり,具
体的には以下のように修正する.
pijk  wak aijk  1  ijk wbk zbijk 
z :燃費改善率である.
(4.6)
| 53
ここで,0<z<1 を満たすものとする.技術革新導入に伴うモデル改良は,式(4.4)の
k
技術率 bij を小さくすることを意味する.ただし,技術改善は具体的な中身については
問わないため,例えば航空の場合は,技術改善効果がエンジンの高効率化が要因なのか,
主翼の端に装着するウイングレットによる効果なのかは定かではない.
以上より,本研究の地域間旅客交通部門で用いる交通一般化費用は式(4.7)としてま
とめることができる.
cijk  wak aijk  wbk zbijk   Tijk  ijk wbk zbijk 
(4.7)
ここで,第一項は燃料費用以外の運行費用,第二項は燃料費用,第三項は時間費用,
第四項は環境費用を意味する.交通一般化費用の変化を受けて,後述する交通輸送量推
計モデルを用いて交通手段別需要量を推計する.
4.3.3 交通輸送量推計モデル
4.3.3(a) 独占的競争理論の発展経緯と特徴
ここでは,独占的競争モデルの開発方法を述べる前に,独占的競争理論が経済学の理
論分野で発展してきた経緯について簡単の説明を加える.その後,独占的競争理論の航
空市場への適用時における理論解釈について整理した上で,具体的な方程式展開へと進
めることとする.
まず始めに,独占的競争理論の発展は,完全競争・収穫一定技術を基本とする伝統的
な貿易モデルへの批判から展開された.それは,「企業の存在を生産関数として曖昧に
扱うことから生じる理論の帰結の大まかな解から脱却が不可欠である(菊池,2006) 2)」と
いうことを意味していた.そこで,Krugman(1979) 3)や Helpman ら(1990) 4)によって,規
模の経済と不完全競争を導入した新貿易理論(New Trade Theory)の構築が行われた.独
占的競争という概念の最初の提唱者は Chamberlin(1933) 5)と言われているが,Krugman
らはそれをモデル化したことが評価され,ノーベル賞受賞に繋がったとされる.ここで
は,藤井(1994) 6)や菊池(2006) 2)等を参考に,一般的な独占的競争理論の特徴について簡
| 54
単に説明をする.表 4-1 は独占的競争理論と他理論との違いを示しており,項目は大き
く分けて 4 点あり,1)多数の企業,2)参入・退出の自由,3)内部的規模の経済,4)財の
水平的差別化である.以下,その理論的な特徴について,項目別に説明する.
・仮定 1) 多数の企業
多数の企業が競争していると仮定することで,寡占・複占理論で複雑にモデル化
される,相手企業の影響が自らの意思決定に組み込まれる戦略的相互依存関係は捨
象されることになる.また,一企業一生産と仮定される.ただし,多数とは具体的
に何社なのかという厳密な定義は,経済学上も明らかになっていない.
・仮定 2) 参入・退出の自由
ポイントは,「企業は代替製品を生産する多数の企業と競争的な市場環境に晒さ
れている」という市場の状態を想定することである.ここで,競争的な市場環境と
は,競争相手として既存企業に加え潜在的な新規参入企業も想定されている.した
がって,企業は製品の差別化と価格設定のバランスを取らなければ市場から退出さ
せられることになる.このように新規参入の可能性を認めることで,長期的には超
過利潤がゼロになるまで競争が続くという現象を表現できるようになる.一方,超
過損失が発生していれば利潤がゼロになるまで撤退が続く.
表 4-1: 独占的競争理論と他理論の相違点
| 55
・仮定 3) 内部的規模の経済
内部的規模の経済とは,企業レベルにおける固定費用の存在を認めることである.
これにより,仮定 2)参入・退出の自由化の影響も受け,長期均衡状態では平均費用
と価格(運賃)が一致するようになる.限界費用と限界収入が一致する点で運賃を決
めた後に,差別化に必要な固定費用を回収するための生産量(以下,マークアップ)
の度合いを決定することになる.
・仮定 4) 製品の差別化
ポイントは,「個々の企業は他社の行動から独立した個別の右下がりの需要曲線
に直面する」という経済理論の考え方である(菊池,2006)2).自動車産業に例えれば,
中型車という財市場において,“プリウス”という財を供給する会社がただ一つあ
り,同じ中型車ではあるが差別化された“カローラ”だけを供給する会社が一つ,
同様に“インサイト”だけを供給する会社が一つだけ存在すると考える.このよう
に,中型車という財市場で各企業は競争を行っている.各社は利益を獲得するため
に差別化をし,高い収入を得ようと,できるだけ高い価格付けをしようと行動する.
ただし,中型車市場全体としては右下がりの需要曲線になっているため,企業が極
端に高い価格付けを行えば消費者から受け入れられず需要を失うことになる.
4.3.3(b) 独占的競争理論の航空市場への適用における理論解釈
ここでは,前述した独占的競争理論と本研究の対象となる航空市場の関係性について,
理論の解釈に重点を置いて説明する(図 4-8).
・仮定 1)多数の企業
本研究では一企業一生産の仮定を,“一企業一便生産”と解釈する.すると,運航便
数が多数存在することを認めることになる.しかし,地方路線における運航便数は一
日一便の場合もあり,一企業一便生産の仮定からすると参入企業はただ一社となるた
め,多数の企業が存在すると解釈することは困難である.したがって,本研究では少
数の運航便数を扱う場合でも独占的競争モデルの延長上で評価できるようにモデルを
工夫する.ただし,独占的競争理論の枠組みからは逸脱しないことを付記しておく.
・仮定 2)参入・退出の自由
1)の一企業一便生産の仮定より,参入は航空一便の増便,退出は航空一便の減少と解
| 56
釈する.したがって,競争の厳しい市場環境において便数の調整を表現可能となる.
・仮定 3) 内部的規模の経済
固定費用は,仮定 1)の一企業一便生産を考慮すると,一便運航に要する機材費や整
備費と解釈できる.航空市場では,この固定費用を如何に効率的に利用するかが経営
課題であるため,本研究でも固定費用を考慮した分析を行なえるようになる.
・仮定 4)財の水平的差別化
一企業一便生産の仮定より,事業者(一便生産のみ行う)は航空需要者に対して他の便
と差別化されたサービスを供給し,差別化に要した費用を回収できるように運賃を設定
すると解釈できる.さらに,需要者も各便でサービスが異なっていることを,運賃を介
して判断することができる
図 4-8: 独占的競争理論と航空市場の関係性
4.3.3(c)供給サイドモデル
A) 供給利潤関数
ここで,地域間交通サービスを供給する航空事業者の行動を表現するために,供給サ
イドモデルの構築手法について説明する.供給サイドモデル構築にあたり前述の独占的
競争理論を適用する.供給サイドモデルの基本構造は Dixit-Stiglitz Model(1977) 7)に準拠
する.ポイントは,利潤関数は一便当たりの収入と費用の関係で表現されることである.
具体的な式は以下のように示される.ここで,式の煩雑さを避けることを目的に,環境
税,及び時間費用は付記しない一般的な式展開を行う.後に,運賃の詳細な説明をする
際に,炭素税,技術革新による効果を踏まえた費用関数を提示する(式 4.8).
| 57
Air Air
qijn  wFAirFijAir
 n  pijnAirqijnAir  waAira Air  wbAirbMC
MC
(4.8)
ここで,各種文字について整理する.
Air
qijn
:バラエティ毎の需要量
Air
a MC
:単位生産量当たりの可変費用投入量(個/Seat)
Air
b MC
:
単位生産量当たりの燃料費用投入量(個/Seat)
FijAir:固定費用(円)
w aAir :燃料以外の可変費用で,単位生産量当たりの価格(円/個)
w bAir :単位生産量当たりの燃料価格(円/個)
wFAir :単位固定費用の価格(円/個)
上述のように利潤関数(式 4.8)の特徴は,4.3.3 項の仮定 1)で説明した“一企業一便生
産”を前提として定式化されているため,航空機一便当たりの収入と費用の関係が示さ
れていることである.また,可変費用を燃料とそれ以外の費用に分割してあるのは,前
述の交通一般化費用の変化を反映しているためである.式(4.8)の具体的な中身は,右
辺第一項が収入であり,各便の運賃と需要量の積である.一方,右辺第二項以下が費用
であり,左から順に,燃料以外の可変費用,燃料費用,そして固定費用となっている.
ただし,Dixit-Stiglitz Model では,各バラエティは対称に差別化されていると仮定する
ため,ここでは航空会社間での生産性の格差も捨象されることになる.
B) 利潤最大化問題
ここででは,A)供給利潤関数で説明した式(4.8)の利潤関数を用いて,利潤最大化条
件を適用することで費用関数を導出する.具体的には,式(4.8)に対して,利潤最大化
   qijnAir )に対して偏微分すると以下のようになる.
の一階条件を適用し,両辺を生産量( q i
 q i  pi  

Air
Air
  waAir a MC
 pi 1 
 wbAir bMC
0
qi 
pi  qi  

ここで,マークアップ を以下のように定める.
(4.9)
| 58

q ( i )  p (i )
p (i )  q (i )
(4.10)
したがって,運賃と限界費用の関係(以下,費用関数)は,次のように導出される.
pijnAir 

1
Air
Air
waAir a MC
 wbAir b MC
1 

(4.11)
完全競争理論を用いて運賃を算出した場合,運賃は限界費用と一致するが,独占的競
争モデルでは式(4.11)のように,限界費用がマークアップ の影響によって増加した価
格と運賃が等しくなるように記述される.これは,航空市場の競争状況を反映したもの
であり,競争が激しいほど供給サイドの独占利潤が低下するメカニズムを,マークアッ
プ指数を用いることで表現していることとなる.具体的なマークアップ の導出過程は,
次項で説明する.
式(4.11)では,炭素税や技術革新による効果は反映されていないため,4.3.2 項で説
明した交通ネットワークモデルにおいて説明した式(4.7)を反映する.従って,式(4.11)
は以下のように書き換えることができる(式 4.12).
p ijnAir 


1
Air
Air

w aAir a MC
 (1   ijAir ) w bAir zb MC
1 
(4.12)
ここで,交通ネットワークモデルのとの関係性を再整理すると,独占的競争理論を適
用したことによって,交通一般化費用は単純な輸送費用,時間費用,環境費用の和では
なく,それらの和に競争度合指標を掛け合わせることで求まることになる(図 4-9)
.
| 59
図 4-9: 評価システムにおける交通ネットワークモデルの構造
C) マークアップ式の導出
ここでは,マークアップ の導出方法について説明する.ポイントは,マークアップ
が運航便数の関数形として表現されることである.
具体的な導出方法の前に,まずマークアップ  の定義式を確認する.具体的には,
後述する式(4.31)で定式化されたように,バラエティ別の需要量 x i  を運賃 p i  で偏微
分したものとされている.方程式展開を進めると,以下のマークアップと運航便数の関
係式を求めることが可能となる.ここで,方程式展開は複雑なため,詳細な計算過程は
付録に示すので,そちらを参照されたい.

 1
  Air
 3  nij
1
 1



  1   1  1  S ijAir 
 

 2  3  1  2 
(4.13)
ここで, S ijAir :交通予算に占める航空予算のシェア
式(4.13)のポイントは,マークアップ が運航便数 n の関数となることである.この
式(4.13)を用いることで,減便と運賃上昇という関係性を表現できるようになった.た
だし,式(4.13)において n を無限大にすれば は代替弾性値  3 の逆数に対して一定に
なり,一般的な独占的競争理論で定義される仮定を満たすということを付記しておく .
| 60
4.3.3(d) 需要サイドモデル
A) CES 型効用関数
ここでは,一般的な需要サイドモデル構築の第一段階として,効用関数について説明
する.本研究では,交通需要者の交通行動を表現する方法として,経済学の理論で使用
される CES 型効用関数を用いる.この関数を用いるメリットは,交通手段間の代替性
を考慮できる点である (図 4-10).
図 4-10: CES 型効用関数
具体的な構造は,まず出発地域 i の交通需要者の効用を ui と設定し,ui を交通 xij とそ
の他の財 xi の二つに分割する.その他の財とは,交通以外の全ての財を総称するもので
あり,これは本モデルが地域間交通モデルに着目したモデル構築を行うために用いる表
Air
Rail
現方法である.以下,同様に交通 xij が,航空 xij と鉄道 xij に分割される.
CES 型効用関数,および CES 型交通需要関数は,以下のような式で示すことができ
る(式 4.14, 式 4.15).
1
1
1
1 1
1 1 1 1


1

ui  aij xij 1  ai 1 xi 1 
 j

(4.14)
2
1
 2 1
1
 2 1  1
 2

x ij   a ijAir  2 x ijAir  2  a ijRail  2 x ijRail  2 


(4.15)
| 61
ここで,ij , i , ij , ij は,CES 型関数のスケールパラメータ,xij :総交通需要量,x i :
Air
Rail
Air
Rail
ニューメレル財, xij :航空需要量, x ij
:鉄道需要量である.
交通需要者は,効用を最大化するように交通手段を選択することになる.それぞれの
交通手段がどの程度の割合で変化するかは,代替弾性値  2 の値に依存する.例えば,
2
が大きければ,交通費用の変化に対して容易に交通手段を転換できることを意味し,一
方で  2 が小さければ交通手段の転換は難しいことを意味する.この代替弾性値は,既
存の交通データを用いてキャリブレーションを行って決定するものであり,詳細は第 5
章で説明する.また, x i はニューメレル財であり,その他の消費財全てを一つの市場
と仮定した場合に用いられる表記方法である.
B) 予算制約式
ここでは,交通需要者の交通行動に影響を及ぼす予算制約について説明する.予算制
約式は,以下のように表現される.
x c
k k
ij ij
j
 xi ci  Ii
k
(4.16)
ここで, Ii :地域 i の消費者の総所得.
左辺第一項は,交通需要と交通一般化費用の積である.つまり,地域 iを出発地点とす
る交通需要者が,交通に費やす全ての交通費用を表すことになる.
左辺第二項は,地域 iを出発地点とする交通需要者が,交通以外の消費財に費やす金
額である.また ci を基準価格( ci  1.0 )と設定することで,交通費用は ci に対する相対価
格として表現される.
最後に右辺第一項は,地域 iを出発地点とする交通需要者の総所得である.本モデル
構築では,交通需要は代表発着交通地点を基準に行動をすると仮定しているため,個々
人の所得ではなく細分化地域 iの総所得として表現することが必要になる.具体的には,
各都道府県の平均所得に,地域 iを居住地としている人口を掛け合わせることで総所得
Ii を導出している.
| 62
C) 効用最大化問題
ここでは,前述した CES 型効用関数と交通需用者の予算制約式を用いて,交通需要
関数を導出する方法を説明する.
本モデルにおける交通需要関数の導出方法は,経済学の理論で利用される消費者行動
理論に則って計算される.消費者行動理論とは,ある予算制約下において効用を最大化
するように財の選択を行うことである.本研究では,地域 iの総所得という予算制約の
中で,交通需要者が効用を最大化するように鉄道,航空,またはその他の財を選択する.
このような仮定を踏まえた上で,具体的な導出過程について説明する.
計算の流れは二段階である.まずは,式(4.14)と式(4.16)をラグランジュの未定乗数
法を用いて解くことで,交通需要関数及びその他の財の需要関数を導出する.次に,式
(4.15)と式(4.16)を同様に解くことで,航空及び鉄道双方の交通需要関数が求められる.
図 4-11 は,具体的な計算のフローである.
図 4-11: ラグランジュの未定乗数法を用いた解法のフローの例
ラグランジュの未定乗数法を解いて得られる交通需要関数は,以下のようになる.
c
x ij   ij  ij
 ci
x
Air
ij
x
Rail
ij



 1
Ii
ci

Air
ij
 c ijAir

 c
 ij




 
Rail
ij
 c ijRail

 c
 ij




(4.17)


2
x ij
(4.18)
x ij
(4.19)
2
| 63
ただし,交通一般化費用と間接効用関数は以下のように示される.
c ij 

Air
ij
ci 

1 1
ij ij
ui 
c
Air 1   2
ij
c

  i ci
Rail
ij

1
1  2 1 
2
c 
Rail
ij

1
1  1 1 
1
Ii
ci
(4.20)
(4.21)
(4.22)
D) 独占的競争理論適用による需要サイドモデルの拡張
ここでは,本研究の特徴である独占的競争理論の導入による需要サイドモデルの拡張
方法について説明する.具体的な拡張個所は,図 4.10 の青色で囲まれた部分である.
独占的競争モデルにおける需要サイドモデルの表現方法は,Dixit-stiglitz Model(1977)
6)に従うとする.具体的には,以下の需要関数および予算制約式によって記述される.
1
xijAir
3 
 n
 3
  xi  
 i1

(4.23)
n
 xi ci  Y
(4.24)
i 1
ここで, x i  :バラエティ毎の需要量,n :バラエティの数,  3 :代替弾性値,c i  :
バラエティ毎の交通一般化費用, Y:航空に費やされる総費用.
Dixit-Stiglitz Model では,個々の企業は対称に差別化された財を供給すると仮定する.
したがって,需要者の立場からすると,各バラエティ(航空一便)を代替弾性値  3 の関係
性で選択することになる.そこで,総航空需要量は,式(4.23)のように CES 型関数の
形式で表現される.
ここでも,同様に消費者行動理論に則り,式(4.23)及び式(4.24)を用いて効用最大化
の一階条件を適用すると,以下の関係式を導出することができる.
| 64
1

 n
 n

  3
    x i  3      x i c i   Y 
 i 1

 i 1

1
 3
1  n


  x (i )  3 
 x (i )  3  i 1

x (i ) 
(4.25)
1
 3 x (i ) 
3
1
  c (i )
(4.26)
xijAir
 c(i )
3
(4.27)
3
ここで,ラグランジュ乗数 λ は,以下のように定義される.
=


   c(i )1 3 
 i 1

n
1
Air
ij
c

1
1 3
(4.28)
ただし, cij は航空交通一般化費用の合成価格である.さらに,航空予算 Yは次式
Air
で表される.
Y  xijAircijAir
(4.29)
Air
式(4.29)を式(4.27)の xij へ代入し整理すると,交通需要関数を以下のように得る.
x (i ) 
Y
3
c (i ) cijAir
1 3
(4.30)
さらに,式(4.30)の航空予算 Yに対して,式(4.29)を再度適用し整理すると,式(4.30)
の交通需要関数を以下のように書き換えることができる.
 c i  
x i    Air 
 c ij 
 3
x ijAir
(4.31)
| 65
式(4.31)のポイントは,交通需要関数としての形状が,式(4.17)及び式(4.18)と同様
に一定の代替弾性値に対して,右下がりの需要曲線になることである.これは,仮定
2)財の差別化で説明したように,独占的競争をしている事業者は常に個別の右下がりの
需要曲線に直面するという,理論的な仮定を数式で表現したことになる.
   cijnAir となるため,式を展開すると以下のよ
また式(4.28)において,均衡状態では c i
うになる.
Air
ij
c
1
13 Air
ijn
n
(4.32a)
c
Air
Air
cijn
 pijn
(1 Tijk )
(4.32b)
ここでは,常に  3  1 が仮定されているため,式(4.32a)では,運航便数 n が減少す
Air
ると合成価格 cij が上昇することを意味する.また,交通一般化費用は,一便当たりで
表記すると式(4.32b)となる.
4.3.3(e) 需給均衡条件式
A) 均衡条件のポイント
本モデルの均衡条件は,課税後における式(4.8)の利潤関数がゼロとなる時である.
 n  pijAir qijnAir  waAir a Air  (1   ijAir ) wbAir b Air qijnAir  w Air FijAir
MC
MC
F
(4.33)
なぜなら,独占的競争理論では独占利潤の獲得はできず,利潤獲得機会が存在すれば
利潤がゼロになるまで新規参入が続くと仮定されているためである.したがって,本研
究における上流課税が実施された場合,事業者の費用は増加し,マークアップを通じて
費用回収を行おうとすれば運賃が上昇して需要が低下し,市場が縮小する.その結果,
航空事業者は赤字を抱えるため,ゼロ利潤を満たす水準まで運航便数が減少する.
| 66
B) 運航便数の導出
ここでは,上述の均衡条件が満たされた時の運航便数 n の導出過程を整理する.運航
便数 n を求めるには,以下の二つの式,利潤関数,マークアップを用いる.
 n  pijAir qijnAir  waAir a Air  (1   ijAir ) wbAir b Air qijnAir  w Air FijAir  0
MC

 1
  Air
 3  n ij
1
MC
F
 1
1 1
1  Air 




S
  2  3   1  2  ij 




(4.34)
(4.35)
これらを式展開することで,課税後の運航便数が求まる.計算過程の詳細は付録を参
照されたい.
Air
ijn
n



 3 a Air  1    Air b Air qijnAir  F Air
 Air
F  3  1  a Air  1   Air b Air qijnAir
ij
ij
MC
MC
MC
ij
ij
MC
1

1 1
1
    S ijAir 
 
 2  3   1  2 

(4.36)
4.3.4 二酸化炭素排出量推計モデル
ここでは,二酸化炭素排出量の推計方法について述べる.計算方法は,上述の均衡条
件式を満たした時点における交通手段別交通需要量に交通 OD 間の距離を掛け合わせ
て(人 km)にする.その後,交通手段別二酸化炭素排出原単位を掛け合わせることで
排出量を算出する.具体的には式(4.37)となる.
r ,k
,k
E passenger
 xij,k  Disijk  eCO
2
ここで,
Epassengerr,k
:地域 i,地域 j 間における旅客交通起源二酸化炭素排出量
xjk:
:地域 i,地域 j の交通手段別旅客輸送量(人)
Disijk
:地域 i,地域 j 間における距離(km)
eco2,k
:交通モード別 CO2 排出原単位
(4.37)
| 67
上記で構築した各分析モデルを用いることで,地域間旅客交通部門における低炭素化
施策の定量分析が可能となる.次節では,地域間貨物交通部門における低炭素化施策を
定量評価する分析方法の詳細な構造について説明をする.
| 68
4.4 大メコン河流域圏の貨物交通へ適用する場合の詳細モデル構造
4.4.1
地域間貨物分析モデルの開発手法
地域間貨物交通部門における分析モデルの構造は,旅客交通部門における基本構造は
共通である(図 4-12).しかし,大きな違いとしては,地域間経済モデルを新たに導入す
ること,及び交通インフラ整備をシナリオ化して交通一般化費用変化をモデル化してい
る点である.以下,具体的な構造について簡潔に説明をした上で,詳細なモデル構造の
説明へ展開する.
①交通ネットワークモデルでは,炭素税と技術革新に加え,交通インフラ整備シナリ
オに応じた国間の交通一般化費用を算出する.本研究で対象とする交通手段は,道路,
鉄道,海運の三つであり,費用項目としては輸送費用,時間費用,環境費用を用いる.
これにより,インフラ整備による輸送費用変化,速度変化による時間費用の変化,およ
び環境税・技術革新の環境制約導入による環境費用変化を表現可能とする.これらの交
通一般化費用を国家間のマトリクスとして整理し,それぞれの OD 間毎に分担率を乗す
ることで国家間の統合交通一般化費用を産出し地域間経済モデルへの入力変数とする.
②地域間経済モデルに関する重要なポイントとして,地域間貨物交通部門の低炭素化
を検討する上でなぜ(1)地域間経済モデルを構築するかといえば,大メコン河流域圏は
これから経済成長を遂げるため基幹交通インフラ整備の影響を受けて経済取引の空間
構造も大きく変化することが見込まれるためである.したがって,これらの関係性を組
み込んだ地域間経済モデルを独自に構築することで,本研究が狙いとしている低炭素な
基幹交通インフラ整備による経済への影響を内生化することが可能となる.これは,(1)
交通ネットワークモデルで構築した統合一般化交通費用を入力変数とすることで,結果
として交通インフラ整備シナリオに応じた各国の生産額及び国間の取引金額の変化を
独自に産出可能となる.
③交通輸送量推計モデルでは,(1)地域間経済モデルから産出された国家間の経済取
引金額に貨物発生原単位を乗ずることで総貨物量(ton)を算出し,輸送距離(km)および分
担率を乗ずることで国家間の交通手段別貨物輸送量(ton-km)を算出する.
| 69
④二酸化炭素排出量推計モデルでは,(3)貨物量産出モデルで求めた交通手段別貨物
輸送量(ton-km)に交通手段別 CO2 排出原単位(g-CO2/ton-km)を乗ずることで,国家間の
交通手段別二酸化炭素排出量を求める構造となっている.
図 4-12: 地域間貨物交通分析モデルの計算フロー
4.4.2 交通ネットワークモデル
交通ネットワークモデルでは,地域間貨物交通部門の交通一般化費用の算出を行う.
交通一般化費用(crs)は次の三項から構成される.第一項は輸送費用,第二項は時間費用,
第三項は二酸化炭素排出量に対する環境負荷費用である.
具体的には,式(4.38)のように記述される.
rs,k
rs,k
r rs,k
transfer
  e _ tax  Ddisrs,ktan ce
c rs,k  cCost
Ddis
tan ce  w t time  t time
ここで,
crs,k
:地域 rs 間の貨物交通における交通一般化費用($)
k
:交通手段(トラック,鉄道,海運)
(4.38)
| 70
crs,kcost
:地域 rs 間・交通手段 k による単位貨物輸送費用($/km)
Ddistancers,k:
:地域 rs 間・交通手段 k の距離(km)
wr
:地域 r の貨物を単位時間輸送するのにかかる時間費用($/hour)
ttimers,k
:地域 rs 間・交通手段 k の輸送時間(hour)
ttimetransfer
:国境を越える際の通関時間(hour)
e_tax
:環境費用($/ton-km)
式(4.38)で求めた交通手段別交通一般化費用は,交通手段別分担率によって重み付け
して足し合わせることで,統合し交通一般化費用を算出する.
4.4.3 地域間経済モデル
アジア新興国を分析対象とする地域間経済モデルに求められる要件は,データ量が極
めて少ないアジア新興国を対象とすることから,少量のデータセットでも消費・生産の
空間構造取引構造を表現できることが必要である.したがって,本研究では消費・生産
の取引関係をモデル化した中村ら(1983)8)において開発された CALUTAS モデルの一部
を応用することで,アジア新興国における消費・生産の取引構造を定式化する.さらに,
本研究の評価対象である低炭素交通施策を評価可能とするために,交通費用変化による
空間構造変化を表現できるモデル構造の構築が不可欠である.そこで,地域間経済モデ
ルには地域間交易係数を導入し,地域間の取引費用変化を表現可能としている.具体的
な式は式(4.39)である.


X ir ,t 1   i   aijs X ijr ,tTi rs ,t  FD rs ,tTi rs ,t   idammy
 s j

ここで,
r
:発地域
s
:着地域
i
:地域 r における産業の業種
j
:地域 s における産業の業種
(4.39)
| 71
t
:分析の対象年次(年)
Xir,t+1
:t+1 期における地域 r 産業 i の生産額
Xir,t
:t 期における地域 r 産業 i の生産額,
αij r:
:投入係数
FDrs,t
:地域 s における地域 r からの最終需要
Tirs
:地域間交易係数
α
:パラメータ
地域間経済モデルの構造は,第一項が中間需要を,第二項が最終需要を,第三項が地
域別のダミー変数となっている.これにより,将来の GDP シナリオを最終需要変化と
して外生的に与えた際に,地域間取引量の変化,及び地域別の総生産額を算出可能とな
る.
本研究では地域間取引の関係の強さを表す指標として地域間交易係数を設定する.一
般的な地域間交易係数は,式(4.40)に記述される.
Ti
rs,t

exp(c rs )
exp(c
rs
)
(4.40)
s
ここで,
Tirs,t
:産業 i・地域 rs 間・期間 t の地域間交易係数
crs
:地域 rs 間の旅客における交通一般化費用
γ
:距離低減パラメータ
本係数は,交通整備シナリオによる地域間の関係変化を表するために,交通費用を説
明変数として用いる.さらに,本研究の特徴として式(4.40)の地域間交易係数に,集積
効果を反映するモデル化を行う点が挙げられる.集積効果を導入する理由は,アジア新
興国では経済成長の過程でこれまで先進国が辿ってきた経済発展パスよりも急激な人
口・産業の集積が発生していることから,集積の効果を導入することが必要なため用い
ることとした.そこで,本研究では交通抵抗に取引相手先の生産額を掛け合わせ,集積
の大きな地域との取引が増加するように表現されるモデル構造を構築する.具体的には
| 72
下記の式(4.41)のようになる.
Ti
rs ,t

X is exp(c rs )
X
s
i
exp(c rs )
(4.41)
s
4.4.4
交通輸送量推計モデル
4.4.4(a) 貨物発生量
本研究では,4.4.2 項で構築した地域間経済モデルから産出される地域間取引金額か
ら,貨物量を算出する.貨物発生量推計におけるポイントは,2050 年までの長期分析
を行うに当たり,貨物の高付加価値化を考慮する点である.貨物発生量の既往研究とし
て,例えば渡部ら(2011) 9)では港湾の国際間取引に特化した貨物量推計モデルを構築し
ているが,長期の貨物高付加価値化は言及されていない.具体的には,次のように定式
化している.
Tonijrs  wightit  tradeijrs
(4.42)
ここで,
Tonijrs
:地域 rs 間・産業 ij 間の貨物量(ton)
weightit
:t 期における産業 i 発の貨物発生量原単位(ton/$)
tradeijrs
:地域 rs 間・産業 ij 間の経済取引金額($)
これにより,交通ネットワークの整備シナリオによる経済取引構造の変化に応じた地
域間貨物量を算出可能とする.さらに貨物発生原単位は,産業の高度化が進むことによ
って軽薄短小化していくことで,取引金額に占める貨物量が減少するメカニズムは,5
章のシナリオ設定において具体的に説明をする.式(4.42)は四象限追跡法において,第
一象限縦軸の説明変数である.
| 73
4.4.4(b) 貨物輸送距離
本研究では,国間の経済取引に着目しているため,貨物輸送距離は各国の代表地点間
で固定値を使用する.距離マトリクスは道路・鉄道・海運それぞれ設定する(表 4-2)
.
ここで,四象限追跡法の関係として,代表地点間の輸送距離は固定しているが,地域
間経済モデルにおいて交通整備シナリオに応じて交通一般化費用が変化することで経
済取引対象地域が変化していることから,四象限追跡法の二象限の値は整備シナリオの
相違を反映する結果が表示されることになる.
表 4-2: 国別代表地点
国名
都市名
中国
上海
タイ
バンコク
ベトナム
ハノイ
ラオス
ヴィエンチャン
ミャンマー
ヤンゴン
カンボジア
プノンペン
マレーシア
クアラルンプール
シンガポール
シンガポール
4.4.4(c) 交通手段別分担率(外生シナリオ)
本研究では,貨物分担率は外生シナリオとして与える.ここでは,大メコン河流域圏
を対象とした地域間貨物交通の低炭素化に必要な分担率算出を行った花岡ら(2013)
10)
の既往研究を参考にしている.花岡ら(2013) 10)では,道路,鉄道,海運の三つの交通手
段を対象として二酸化炭素削減目標を所与として,交通時間短縮目標と交通費用上昇影
響のシナリオを与えた際の最適分担率を算出している.詳細は,5.9 節の分担率シナリ
オについて説明する.
4.4.4(d) 交通手段別貨物輸送量(トンキロ)
交通手段別貨物輸送量(トンキロ)は,式(4.42)で算出した地域 rs 産業 ij 間の貨物
量(ton),平均輸送距離(km),及び外生シナリオとして与える交通手段別分担率(%)をか
| 74
け合わせることで算出する.具体的には,式(4.43)となる.
Freightijrs,k  Tonijrs  Disrs  Sharers,k
(4.43)
ここで,
Freightijrs
:地域 r 産業 i と地域 s 産業 j の交通手段別貨物輸送量(ton-km)
Tonijrs
:地域 r 産業 i と地域 s 産業 j の総貨物輸送量(ton)
Disrs
:地域 r と地域 s の輸送距離(km)
Sharers,k
:地域 r と地域 s の交通手段別分担率(%)
これにより,地域 rs 産業 ij 間の交通手段別貨物輸送量(ton-km)が算出可能となる.
これは,第一章で説明した四象限追跡法の三象限・四象限の値を決める式となる.
4.4.5 二酸化炭素排出量推計モデル
最後に,貨物輸送量(ton-km)から二酸化炭素排出量を算出する二酸化炭素排出量推計
モデルを構築する.ここでは,式(4.43)で計算された地域間の総取引量(ton-km)に
対して,交通手段別二酸化炭素排出原単位を掛け合わせることで排出量を算出する.具
体的には式(4.44)となる.
rs,k
E r,k  Freightijrs,k  eCO
2
(4.44)
ここで,
Er,k
:地域 r における貨物交通からの CO2 排出量
Freightijrs:
:地域 r 産業 i と地域 s 産業 j の交通手段別貨物輸送量(ton-km)
eco2rs,k
:交通モード別 CO2 排出原単位
上記で構築した各分析モデルを用いることで,地域間貨物交通部門における低炭素性
能評価を行う.以降,分析に使用するデータ整理について述べる.
| 75
参考文献
(1) Aoto Mimuro, Takaaki Okuda: Impact Analysis of environmental tax and technological
improvement on intercity transport in Japan -Based on monopolistic competition theory-,
Selected Proceedings of the 13th World Conference on Transport Research Society,
pp.F4-6-0286, 2013.7
(2) 菊池徹(2006):独占的競争貿易理論の新展開,國民經濟雜誌 194(2), pp77-92
(3) Paul.R.Krugman(1979) : Increasing Returns, Monopolistic Competition and International
Trade, Journal of International Economics, Vol.9, pp.469-479
(4) Helpman, Elhanan(1990):onopolistic Competition in Trade Theory, Special Paper in
International Finance, No.16
(5) Chamberlin, E.H(1933).: The Theory of Monopolistic Competition, Cambridge, Mass. :
Harvard University Press,Vol.8,
(6) 藤井秀昭(1995):独占的競争における規制緩和と社会的厚生,エネルギーシステム・
経済・環境コンファレンス講演論文集,Vol.11, 13-18
(7) Dixit A, Stiglitz JE(1977) : Monopolistic competition and optimum product variety.
American Economic eview Vol.67: 297-30
(8) 中村英夫・林良嗣・宮本和明:広域都市圏土地利用交通分析システム,土木学会論
文集報告集, No.335, pp131-153, 1983.11
(9) 渡部富博・井山繁・佐々木友子:国際間の貿易・産業構造を考慮した輸出入港湾貨
物量推計モデル構築, 国土技術政策総合研究所研究報告 -(49) (-), 1-68,巻頭 1-2,
2011-12-00
(10) 花岡伸也・加藤智明・中道久美子:大メコン河流域圏の地域間貨物輸送における環
境を考慮した機関分担率の算出, 第 48 回土木計画学研究発表会, CD-ROM No.252,
2013.11
| 76
5
地域間交通分析に用いるデータセット及びパラメータ推定と原単位長期変
化シナリオの設定
本研究では,地域間交通部門における低炭素化戦略施策の定量分析を行うに当たり,
地域間旅客交通分析モデルを日本へ適用し,地域間貨物交通分析モデルを経済成長著し
い大メコン河流域圏へ適用する.以下,それぞれの適用にあたり使用する分析基準年
(2005 年)におけるデータセット,及び分析基準年におけるパラメータ推定結果を旅
客,貨物の順に示す.また,本研究では貨物交通に関しては,基準年の 2005 年から 2050
年までの長期分析を行うことから,各種原単位が長期的に変化する傾向を反映すること
を目的に,原単位の長期変化シナリオを設定する.
5.1 日本の地域間旅客交通分析におけるデータセット・パラメータ推定
5.1.1 データセット
ここでは,分析に用いるデータについて整理する.本研究は 2005 年のデータに基づ
いて分析を行う.
図 5-1: 2005 年の運航便数と航空分担率 図 5-2: 2005 年の新幹線路線と鉄道分担率
(愛知県発)
(愛知県発)
| 77
図 5-1,図 5-2 は,2005 年における日本の地域間旅客交通を支える交通インフラネッ
トワークである.ここでは,愛知県を例として掲載している.図 5-1 は,地方路線の現
状として,2005 年秋における愛知県発の各路線への一日当たりの運航便数(矢印)と,航
空需要のシェア(灰色の円)を表している.ただし,愛知県発に利用する空港は, 2005 年
時点では中部国際空港のみとしている.傾向としては,長距離ほど航空需要のシェア(灰
色の円)は増加し,運航便数も相対的に多くなっている.一方,他の路線では一日当た
りの運航便数は 1~3 便程度と非常に少ないことがわかる.また,図 5-2 は 2005 年秋に
おける新幹線ネットワークである.これらのネットワークを踏まえた上で,課税および
技術革新の効果について検討していく.
次に,交通需要量に関するデータは全国幹線旅客純流動調査(国土交通省 2005 年版) 1)
から代表交通機関別の需要量を用いた.また,交通ネットワークは JTB 時刻表(2005) 2)
から求めた.この交通ネットワークに基づいて,航空運賃や鉄道費用,交通一般化費用
を,国土交通省の NITAS(National Integrated Transport Analysis System) 3)を用いて
導出した.ただし運賃は全て正規運賃であり,クラス別運賃は適用されず,一路線一運
賃で運航されると仮定した.
その他のデータとしては,航空便数および機材容量は,JTB 時刻表(2005 年) 2)のデ
ータを用い,ロードファクターは便数,機材容量および需要量から計算をして求めた.
航空事業者の可変費用として,燃料費用とその他の費用の割合は,全日本空輸株式会社
(ANA) と株式会社日本航空インターナショナル(JAL) の有価証券報告書(2005 年)
4),5)
から燃料費用を 25%と設定した.CO2 排出原単位は,国土交通省が引用しているデー
タ 6)を用い,航空で 111(g- CO2/人・km),鉄道で 11(g- CO2/人・km)とした.OD 区間
距離は,NITAS の分析結果を用いている.
ここでは,地域間交通部門における低炭素化施策の定量評価モデルを日本および大メコ
ン河流域圏へ適用するに当たり,各種パラメータ設定を行う.以下,地域間旅客交通モ
デル用パラメータ推計,地域間貨物交通モデル用パラメータ推計の順に,具体的なパラ
メータ推計結果について説明する.
| 78
5.1.2 地域間旅客交通モデルのパラメータ推定結果
5.1.2(a) 代替弾性値の推定
ここでは,代替弾性値のキャリブレーションについて説明する.ここでは,簡単にキ
ャリブレーションの方法を説明する.交通需要関数の分析モデルのパラメータ推定は,
以下の二式を用いて行う.
ln
ln
x ij
xi
 ln
x ijrail
x ijair
c
 ij
  1 ln ij
ci
i
 ln
 ijrail

 ijair
2
(5.1a)
ln
パラメータ推定は,図 4-10 の 
c ijrail
(5.1b)
c ijair
表 5-1: パラメータ推定とバラエティの設定
を求めることであり,式(5.1a)は
交通とその他の消費財,式(5.1b)
は鉄道と航空の代替関係を示す式
である.これらの式を既知のデー
タを用いて回帰分析を行うことで,
代替弾性値  1、  2 を求めることができる.結果は,表 5-1 の通りである. 1 および 
2
7)
は,三室・奥田(2009) と同様の値をそのまま用いている.ただし  3 は,独占的競争理
論を導入するにあたり,新たに用いられる代替弾性値である.  3 は,各航空便間の代
替性を意味するものでありデータが存在しない.そのため,  1 や  2 と同様にキャリ
ブレーションをすることができず,  3 は他の式とも関連してくるため,次項で詳細に
説明する.
5.1.2(b) 三パターンのキャリブレーション方法と本研究の設定
ここでは,独占的競争理論を用いた場合のキャリブレーション方法を説明する.以下
は,路線別に行われる.その際,二つの方程式に対して三つの変数( , Fij
Air
,3 )が存在
するため,キャリブレーション方法としては三通りの選択肢がある.具体的な二式は以
下の通りである.
| 79
pijnAir qijnAir  wFAir FijAir

(5.2a)
 1  1

1 1
1
    SijAir 
  Air  
 3  nij  2  3  1  2 

1
(5.2b)
ここで,式(5.2a)は,利潤関数の式(4.8)に費用関数の式(4.11)を代入して求めている.
図 5-3: 三つのキャリブレーションアプローチ
キャリブレーションの変数としては,1)マークアップ  ,2)固定費用 Fij
Air
,3)代替
弾性値  3 である.これら三つの変数を特定するためには,図 5-1 に示す三通りが存在
Air
する.パターン A は,一便毎の固定費用 Fij
をデータから取得した上で,式(5.2)の
マークアップ  を定め,式(5.1)の  3 を定める手法である.パターン B は,マークア
ップ  を外生的に与え,式(5.1)から固定費用 Fij
Air
,式(5.2)から  3 を定める手法で
ある.最後にパターン C は,代替弾性値  3 を外生的に与え,式(5.2)からマークアップ

Air
を定め,式(5.1)から固定費用 Fij
を定める手法である.
本研究では,上記三つのキャリブレーション方法のうち,パターン C を採用する.
Air
なぜなら,パターン A では,航空の路線別に一便当たりの固定費用 Fij
のデータを取
得することが困難であり,パターン B では分析結果としてマークアップの値を求めた
いため,キャリブレーションにおいても  は内生的に求まる構造にすべきと考えるか
らである.具体的な  3 の値は,武田(2007)8)などを参考に,独占的競争モデルでは一般
的に  2 よりも大きな値を設定するため,本研究では 10.0 を設定した.
| 80
5.2 大メコン河流域圏の地域間貨物交通分析
5.2.1 データセット
地域間貨物交通分析モデルを大メコン河流域圏へ適用するにあたり,分析基準年は 2005
年とし,下記の八つの点から初期値を定める.
(1) 交通ネットワークモデル関連
① 交通インフラ整備
② 交通費用原単位
③ 時間費用原単位
④ 環境費用原単位
(2) 地域間経済モデル関連
① 産業連関表
(3) 交通輸送量推計モデル関連
① 貨物発生原単位
② 分担率
(4) 二酸化炭素排出量モデル関連
① 環境費用原単位
| 81
5.2.1(a) 交通インフラ整備
2005 年時点における大メコン河流域圏における交通インフラネットワークは,図
5-4 を想定する.つまり,2005 年時点において地域間貨物交通を支えるのは,水運と
道路のみである.以降,費用,速度等について説明をする.
図 5-4: 初期交通インフラネットワーク(2005 年)
5.2.1(b) 交通費用原単位
交通費用は,交通一般化費用の輸送費用,及び時速に該当する.
5.2.1(b-1)
輸送費用原単位シナリオ
本研究では,輸送費用原単位の値を設定するに当たり,JETRO(2013) 9)よるバンコ
ク-ヤンゴンルートの実走輸送調査結果を用いる.
表 5-2: バンコク-ヤンゴンルート間(JETRO,2013)9)
陸路
海運
輸送費用($)
2000
400
その他($)
300
30
輸送距離(km)
実走行時間
869.5
62.4(時間)
3,500
※1
15(日)
※1:海運距離データのみ,google earth を用いて筆者算出
| 82
表 5-2 より,距離当たり交通費用が算出可能である(表 5-3).
表 5-3: 距離あたり交通費用
距離当たり費用($/km)
陸路
海運
2.31
0.11
鉄道の輸送費用原単位データは入手不可のため,本研究では厲・武藤(2008) 10)を基に,
日本の輸送距離データを与える.
表 5-4: 距離あたり交通費用(出典:鉄道総研)
鉄道
距離当たり費用($/km)
0.81
これらの鉄道,海運,陸路の交通輸送費用に対して,年間 1%の交通費用削減が進む
と仮定して,2005 年まで割り戻して初期値として利用する.
5.2.1(b-2)
時速原単位シナリオ
次に,交通手段別の時速データを設定する.まず,トラック輸送に関して,タイ,ラ
オス,ベトナムに関しては,JETRO(2012)11)による実走走行調査結果において平均時
速が明記されているため,
これを 2010 年の値として利用する.ミャンマーに関しては,
JETRO(2013)9) の実走行調査結果の値を 2010 年の値として用いる.カンボジアは
JETRO(2013)12)のレポート値を用いる.中国は JETRO(2013)13)のレポートに記載され
た値を用いる.最後に,マレーシア,シンガポールに関してはデータ入手が困難であっ
たため,マレーシアはタイと同じ値を,シンガポールは中国の値と仮定して導入する.
5.2.1(c) 時間費用原単位
本研究では,低炭素な長距離貨物輸送交通手段として高速貨物鉄道の効果を分析する
ことから,速度変化による効果を明示的に扱う工夫が必要である.ここでは,貨物の時
間費用を設定し,移動時間短縮による時間費用削減効果を反映できるようにする.
貨物原単位に関しては,村田ら(2005)14)の推計結果を参考とする.村田ら(2005)によ
れば,2005 年現在の貨物原単位は表 5-5 とされる.
| 83
表 5-5: 貨物時間費用原単位
(出典:村田ら(2005)を参考に,筆者作成)
時間
価値
現況
再現性
(円/トン・分
-
食料品
その他の農産
林産品
鉱産品
金属
金属製品・機械
自動車・車両
化学工業品
紙・パルプ
繊維工業品
4
7
10
9
36
36
12
52
60
45
0.876
0.919
0.97
0.099
0.975
0.962
0.956
0.955
0.873
0.958
食料工業品
17
0.91
日用品
52
0.963
2005年時点
農水産品
一次産業
林産品
鉱産品
金属・機械製品
化学工業品
軽工業品
二次産業
雑工業品
特殊品
製造工業品
6
0.941
特種品
11
0.994
取合せ品
36
0.992
特徴として,二次産業は一次産業に比べて時間費用が高いことが分かる.ここで,本
研究で用いる産業分類は一次・二次・三次の大分類であることから,村田ら(2005)の結
果に対して,貨物輸送統計による品目別輸送実績(ton)15)による重み付けを行って大分類
の時間費用を算出した.表 5-6 は,品目別貨物輸送実績と重み付けをした一次・二次産
業の貨物時間費用である.さらに,財務省の為替レート(88 円/ドル,2005 年)16)を用いて
為替換算を行い,ドル表示としている.これにより産業別貨物時間費用を算出している.
表 5-6: 大産業分類に調整をした貨物時間費用原単位
時間
価値
2005年時点
一次産業
農水産品
林産品
鉱産品
金属・機械製品
化学工業品
二次産業
現況
再現性
品目別総トン
数
ton
総トン数
シェア
ton
%
(円/トン・分
-
食料品
その他の農産
林産品
鉱産品
金属
金属製品・機械
自動車・車両
化学工業品
紙・パルプ
繊維工業品
4
7
10
9
36
36
12
52
60
45
0.876
0.919
0.97
0.099
0.975
0.962
0.956
0.955
0.873
0.958
131,565
42,141
177,272
784,341
212,738
543,780
760,589
124,305
20,439
350,978
350,978
350,978
4,631,198
4,631,198
4,631,198
4,631,198
4,631,198
4,631,198
4,631,198
食料工業品
17
0.91
454,690
4,631,198
1.5
0.8
5.1
1.5
1.7
4.2
0.0
8.5
1.6
0.2
軽工業品
特殊品
為替レート
(2005年)
(円/トン/分)
円/$
7.39
日用品
52
0.963
294,410
4,631,198
3.3
製造工業品
6
0.941
97,495
4,631,198
0.1
特種品
11
0.994
1,337,818
4,631,198
3.2
取合せ品
36
0.992
593
4,631,198
0.0
単位調整
総トン数
単位調整
($/トン/時間)
ton
($/トン/
時間)
4.04
350,978.00
14.25
4,631,198.00
109.64
26.04
1.7
雑工業品
重みづけ後の
時間価値
13.53
| 84
5.2.1(d) 産業連関表
大メコン河流域圏における経済取引構造の変化を分析するために産業連関表を用い
る.データは,Global Trade Analysis Project (GTAP)Ver.8 17)を利用している.国分類,
及び産業分類は以下の通りである(表 5-7).ここで,経済データセットは将来の分析拡
張性を考慮して大メコン河流域圏より広域のアジア全域でセットしている.セットした
国は全 17 ヵ国で,中国,香港,日本,韓国,モンゴル,台湾,その他東アジア,カン
ボジア,インドネシア,ラオス,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ベト
ナム,その他東南アジア(ミャンマー),その他である.産業分類は 2050 年の長期推
計を行うことから三次産業分類で行っている.
表 5-7: 産業連関表の国分類,産業分類
国分類
R1
R2
R3
R4
R5
R6
R7
R8
R9
R10
R11
R12
R13
R14
R15
R16
R17
中国
香港
日本
韓国
モンゴル
台湾
その他東アジア
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
その他東南アジア
その他
縦軸
A1
A2
A3
V1
V2
V3
XR
1次産業
2次産業
3次産業
労働
資本
生産
生産額
横軸
B1
B2
B3
F1
XR
1次産業
2次産業
3次産業
最終需要
生産額
5.2.1(e) 貨物発生原単位
表 5-8 は,国土交通省による日本の品目別貨物発生量の原単位推移
18)である.これ
によると,金額当たりの貨物発生量は減少傾向にある.例えば,農林水産業(一次産業)
では,1998 年から 2010 年にかけて 43%も原単位が改善されている.他方で,二次産
業は鉱産品では変動はあるものの,長期的にはほとんど変化がないとされる.同じ二次
産業でも機械品は 1998 年から 2010 年で 62.5%の改善である.このように金額当たり
の貨物発生量は長期的に低減傾向にあるため,大メコン河流域圏において長期の分析す
る場合もこの傾向を考慮することが重要となる.
| 85
表 5-8: 日本の品目別貨物発生量
単位:10kg/万円
1980年
農林水産
品
鉱産品
金属・金
属製品
機械
窯業・土
石製品
石油・石
炭製品
化学工業
品
軽工業品
雑工業品
合計
1985年
1990年
1998年
2010年
2020年
2030年
2040年 2050年
20.7
17.8
16.0
15.7
13.1
11.4
9.9
8.6
7.6
429.1
380.7
451.7
467.9
449.6
449.6
449.6
449.6
449.6
7.9
7.4
7.5
6.1
5.0
4.2
3.6
3.0
4.0
3.2
2.8
2.1
1.5
1.1
0.8
0.6
2.6
0.4
67.9
58.4
62.8
56.8
62.5
62.5
62.5
62.5
62.5
24.3
22.7
27.5
28.2
28.9
28.9
28.9
28.9
28.9
10.0
8.2
6.6
5.4
4.1
3.1
2.4
1.8
1.4
8.1
18.2
19.4
8.0
16.4
15.0
7.9
15.2
14.6
9.6
15.9
12.8
9.5
13.0
9.9
10.0
11.3
7.4
10.4
9.6
5.4
10.9
8.0
4.0
11.4
6.3
3.0
出典:全国貨物純流動調査報告書(国土交通省)
そこで,まず日本のデータを 2005 年において円からドル(1 ドル=88 円,財務省 16))
へ変化し,2050 年までの長期変化を設定する.一次産業は農林水産業の値を用いる.
他方で,二次産業の値は,大メコン河流域圏の国家間の地域間貨物交通部門を分析する
ことから,超長距離での鉱産品輸送は分析の対象外と考え,二次産業は鉱産品を除いた
値の平均値を用いる.また,三次産業の貨物輸送は主に倉庫業などの国内産業のため,
本研究で扱う国間貨物輸送では発生しないと仮定する.
次に,大メコン河流域圏へのデータ適用を考える場合,日本のデータをそのまま適用
することは各国の経済水準などを反映していないことになるため,可能な限り調整する
必要がある.そこで本研究では,各国の国内総貨物発生量(ton)のデータ 19),20)を活用し,
国内取引金額に日本の原単位を掛け合わせることで総国内貨物量を算出し,実績値との
乖離に対してパラメータを掛けることで調整を行う.これにより,各国の貨物発生原単
位が基準年においては各国の現況を反映する値として利用可能となる.ただし,シンガ
ポールの国内貨物量データは取得できなかったため,日本の原単位を用いている
5.2.1(f) 交通手段別分担率
本研究では,花岡ら(2013)21)の研究を参考に,分担率をシナリオとして与える.花岡
ら(2013)では,大メコン河流域圏における初期分担率はデータ取得困難性から,下記の
ように設定する.本研究においても同様の値を採用する.
| 86
表 5-9: 初期分担率(花岡ら,2013)
鉄道
海運
道路
0%
95%
5%
初期分担率(2005 年)
5.2.1(g) 環境費用原単位
本研究では,交通手段別 CO2 排出原単位の長期変化に関して,技術革新シナリオを
元に設定する.技術革新シナリオは,環境省の地球温暖化対策に係る中長期ロードマッ
プ
22)を用いる.ロードマップにて対象とされている交通手段は,トラック,鉄道,水
運であり,2030 年までの最大技術革新水準が下記のように提示されている.
表 5-10: 技術革新シナリオ(最大の場合)22)
トラック
2030 年における
2005 年比の
燃費水準
ここで, 現在の日本
20%減
(CO2 ベース)
鉄道
水運
12%減
15%減
(エネルギー消費
(エネルギー消費
ベース)
ベース)
23),中国 24)及びデータ入手が可能なベトナム 25)の交通手段別
CO2 排出原単位は,下記の通りである
表 5-11: 現在の交通手段別 CO2 排出原単位(g-CO2/トンキロ)(2011 年)
トラック
鉄道
水運
日本
130.0
24.0
40.0
中国
204.9
31.2
22.9
ベトナム
140.0
25.0
42.0
表 5-11 より,データ取得可能であったベトナムのデータを大メコン河流域圏各国へ
適用することとする.そして,表 5-10 の 2005 年から 2030 年への変化率を用いて,表
5-12 の値を 2005 年まで割り戻すことによって,2005 年の値を設定している.
| 87
5.2.2
地域間貨物交通モデルのパラメータ推定結果
本研究では,式(4.38)において産業別のパラメータを推計する.


X ir ,t 1   i   aijs X ijr ,tTi rs ,t  FD rs ,tTi rs ,t   idammy
 s j

(4.38)
式(4.38)のパラメータ推計を行うに当たって,左辺の生産額(Xir,t+1)及び右辺の生産
,初期最終需要 (FDrs)には,産業連関表の初期生産額(2005 年)を与える.また,
額(Xijr,t)
投入係数(aijs)は,同じ産業連関表から算出した値を用いる.また,地域間交易係数(Tirs,t)
は式(4.39)を用いる.
Ti rs,t 
X is exp(c rs )
X
s
i
exp(c rs )
(4.39)
s
ここで,
Tirs,t
:産業 i・地域 rs 間・期間 t の地域間交易係数
crs
:地域 rs 間の旅客における交通一般化費用
γ
:距離低減パラメータ
使用データは,5 章で設定した交通費用原単位データを基に地域間の交通一般化費用
を算出し,生産額(Xis)には産業連関表(2005 年)を用いる.産業別のパラメータ推定の結
果は,表 5-3 から表 5-8 に示す通りである.表 5-12,表 5-14,表 5-16 は一次・二次・
三次産業の実績値(産業連関表)と,式(4.38)および式(4.39)を用いて算出された推計値
である.これに対して式(4.38)のパラメータα及びダミー変数をパラメータ設定した結
果が表 5-13,表 5-15,表 5-17 である.結果の特徴としては,産業連関表データにおい
て国分類 17 番目のその他世界が大きな値を占めるため,ラオスやカンボジアなどの小
国の変動が大きくなることから,ダミー変数で調整している.パラメータ推定で得たα
およびダミー変数を用いて,式(4.38)に再度生産額と最終需要を与えて得た推計値と実
績値(産業連関表,2005 年)との乖離率を示したのが図 5-5,図 5-6,図 5-7 である.
| 88
表 5-12: 一次産業の実績値・推計値
中国
香港
日本
韓国
モンゴル
台湾
その他東アジア
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
その他東南アジア
(ミャンマー)
その他
実績値
(初期生産額)
553,441
12,443
135,982
56,786
438
32,934
3,927
2,927
58,860
1,580
16,383
15,797
1,801
30,311
14,572
推計値
(中間需要小計)
339,475
10,395
77,556
34,435
268
25,823
1,875
1,523
22,920
350
7,631
5,189
1,790
17,297
7,363
表 5-13: 一次産業のパラメータ推定結果
推計値
(最終需要小計)
67,225
6,561
17,301
7,027
124
2,996
1,058
399
6,665
427
522
1,646
264
2,255
1,561
5,430
1,612
78
2,122,480
1,766,776
607,519
回帰統計
係数
重相関 R
0.999998
切片
872
重決定 R2
0.999996 算出中間需要(α)
1.00
補正 R2
0.999993 算出最終需要(β)
0.83
標準誤差
14287.76
世界ダミー
-1.2E+07
観測数
17
日本ダミー
-84,292
中国ダミー
-441,312
ラオス
-6,773
カンボジアダミー
-4,323
表 5-14: 二次産業の実績値・推計値
中国
香港
日本
韓国
モンゴル
台湾
その他東アジア
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
その他東南アジア
(ミャンマー)
その他
実績値
(初期生産額)
3,346,250
推計値
(中間需要小計)
3,058,557
表 5-15: 二次産業のパラメータ推定結果
推計値
(最終需要小計)
871,279
84,880
66,680
30,730
3,332,725
840,977
998
416,311
10,904
5,533
268,292
1,897
234,951
95,060
151,846
204,322
56,459
2,613,013
703,499
898
358,418
8,685
5,857
187,588
1,573
215,846
75,072
147,533
181,442
52,338
962,655
173,559
334
48,325
3,773
3,758
59,760
7,501
31,314
13,070
23,499
31,605
15,485
16,509
10,918
828
22,830,427
24,915,148
11,865,416
表 5-16: 三次産業の実績値・推計値
中国
香港
日本
韓国
モンゴル
台湾
その他東アジア
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
その他東南アジア
(ミャンマー)
その他
実績値
(初期生産額)
1,385,478
325,468
5,015,606
661,745
2,358
294,507
32,822
3,528
181,616
1,107
122,394
66,237
144,916
126,828
24,847
推計値
(中間需要小計)
706,252
204,084
2,160,296
298,448
1,683
96,108
20,242
1,804
73,773
529
74,488
26,020
91,630
53,891
12,068
t
0.158
14.271
2.791
-6.177
-0.676
-5.212
-0.437
-0.282
推計値
(最終需要小計)
672,384
51,419
2,075,253
363,097
2,449
97,227
8,264
2,374
78,711
2,301
21,852
50,296
39,686
49,205
17,597
13,466
7,131
1,620
34,538,416
24,472,025
20,920,609
回帰統計
係数
t
重相関 R
0.999998
切片
872 0.1582119
重決定 R2
0.999996 算出中間需要(α)
1.00 14.271242
補正 R2
0.999993 算出最終需要(β)
0.83 2.7912385
標準誤差
14287.76
世界ダミー
-1.2E+07 -6.177397
観測数
17
日本ダミー
-84,292 -0.675502
中国ダミー
-441,312 -5.211942
ラオス
-6,773
-0.43651
カンボジアダミー
-4,323 -0.282128
表 5-17: 三次産業のパラメータ推定結果
回帰統計
重相関 R
0.999996
切片
重決定 R2
0.999992 算出中間需要(α)
補正 R2
0.999983 算出最終需要(β)
標準誤差
34695.34
世界ダミー
観測数
17
日本ダミー
ラオス
モンゴルダミー
カンボジアダミー
ベトナムダミー
ミャンマーダミー
係数
25,487
1.228
0.745
-1.1E+07
790,848
-26,745
-27,020
-25,944
-28,573
-21,984
t
1.735
6.048
3.731
-7.550
6.785
-0.709
-0.717
-0.689
-0.759
-0.586
| 89
実績値
(生産額)
中国
553,441
香港
12,443
日本
135,982
韓国
56,786
モンゴル
438
台湾
32,934
その他東アジア
3,927
カンボジア
2,927
インドネシア
58,860
ラオス
1,580
マレーシア
16,383
フィリピン
15,797
シンガポール
1,801
タイ
30,311
ベトナム
14,572
その他東南
アジア
5,430
(ミャン
マー)
その他
2,122,480
推計値
(生産額)
554,486
25,732
131,302
58,696
438
41,369
6,426
2,927
42,708
1,580
16,383
11,718
1,801
28,856
14,518
乖離率
0%
107%
-3%
3%
0%
26%
64%
0%
-27%
0%
0%
-26%
0%
-5%
0%
4,674
-14%
2,122,480
0%
図 5-5: 一次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
中国
実績値
(生産額)
3,346,250
推計値
(生産額)
3,346,250
香港
84,880
93,160
10%
日本
3,332,725
韓国
840,977
モンゴル
998
台湾
416,311
その他東アジア
10,904
カンボジア
5,533
インドネシア
268,292
ラオス
1,897
マレーシア
234,951
フィリピン
95,060
シンガポール
151,846
タイ
204,322
ベトナム
56,459
その他東南
アジア
16,509
(ミャン
マー)
その他
22,830,427
3,332,725
849,583
2,048
400,011
12,701
5,533
238,362
1,897
243,075
86,918
168,158
208,851
66,147
0%
1%
105%
-4%
16%
0%
-11%
0%
3%
-9%
11%
2%
17%
12,495
-24%
22,830,427
0%
乖離率
0%
図 5-6: 二次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
実績値
(生産額)
中国
1,385,478
香港
325,468
日本
5,015,606
韓国
661,745
モンゴル
2,358
台湾
294,507
その他東アジア
32,822
カンボジア
3,528
インドネシア
181,616
ラオス
1,107
マレーシア
122,394
フィリピン
66,237
シンガポール
144,916
タイ
126,828
ベトナム
24,847
その他東南
アジア
13,466
(ミャン
マー)
その他
34,538,416
図 5-7: 三次産業の実績値(横軸)と推計値(縦軸)
推計値
(生産額)
1,393,807
314,385
5,015,606
662,570
2,358
215,959
56,499
3,528
174,735
1,107
133,229
94,925
167,571
128,330
24,847
乖離率
1%
-3%
0%
0%
0%
-27%
72%
0%
-4%
0%
9%
43%
16%
1%
0%
13,466
0%
34,538,416
0%
| 90
5.3 地域間貨物交通分析の大メコン河流域圏適用における各種原単位の
長期変化シナリオ(2005 年から 2050 年)
本研究では,地域間貨物交通分析モデルを大メコン河流域圏へ適用するにおいて,分
析基準年の 2005 年から 2050 年までの長期推計を行う.そこで,長期推計を行うに当
たり,以下の八つのシナリオ設定を行う.
(5) 交通ネットワークモデル関連シナリオ
5.3.1
交通インフラ整備シナリオ
5.3.2
交通費用原単位シナリオ
5.3.3
時間費用原単位シナリオ
5.3.4
炭素税シナリオ
(6) 地域間経済モデル関連シナリオ
5.3.5
GDP シナリオ
(7) 交通輸送量推計モデル関連シナリオ
5.3.6
貨物発生原単位シナリオ
5.3.7
分担率シナリオ
(8) 二酸化炭素排出量モデル関連シナリオ
5.3.8
環境費用原単位シナリオ
以降,各シナリオ設定,及びデータについて項目別に説明をする.
| 91
5.3.1 交通インフラ整備シナリオ
本研究では,大メコン河流域圏における交通インフラ整備シナリオとして,道路,鉄
道,海運の三つの交通手段を検討する.本研究で設定する交通ネットワークは図 5-8 の
通りである.本研究では鉄道インフラ整備シナリオ変化による効果を分析の中心に据え
る.その際,2050 年の長期を見据えて,道路・水運の交通状況(例えば時速)が改善
されていることも考慮する.道路ネットワークに関しては,現在検討されている経済回
廊が全て構築された状態を想定してネットワークをセットする.海運に関しては,現在
と将来で多少の運行航路に変化はあるかもしれないが,大きなルート変更はないと想定
する.最後に,鉄道ネットワークに関しては,現在の大メコン河流域圏には国家をまた
いだ貨物鉄道ネットワークはほぼ機能していない.このような状況で水運よりも輸送速
度が速い道路網が整備されれば,道路輸送の増大が懸念される.そこで本研究では,現
在計画されている道路網を代替するように道路よりも輸送速度の速い「高速貨物鉄道」
の新たな鉄道ネットワーク整備を検討する.輸送費用や環境負荷原単位などの詳細な原
単位設定は後述する.
図 5-8: 交通インフラ整備シナリオ
| 92
ポイントとしては,高速貨物鉄道は道路や水運よりも低炭素な交通手段であることか
ら,鉄道分担率が上昇をすれば低炭素化が容易に実現するように思える.しかし,日本
の新幹線を考えみると,新幹線は航空や乗用車よりは低炭素であるが,在来線よりは高
炭素な交通手段であることから,大メコン河流域圏おいて高速貨物鉄道を整備すると在
来線よりも高炭素になる可能性もある.ただし,世界に高速貨物鉄道を導入している実
績はないため,どのような技術水準が実現可能かは本研究では推察できない.そこで,
日本の新幹線と在来線の二酸化炭素排出量の原単位比率を参考に,大メコン河流域圏の
在来線貨物鉄道の二酸化炭素原単位から高速貨物鉄道の原単位を求めて,分担率変化や
技術革新による影響の差異を比較・検討する.
5.3.2
交通費用原単位シナリオ
5.2.1(b)において設定した輸送費用は 2010 年の値として用い,長期シナリオを設定
するにあたり,距離当たり費用の変化率データ入手困難なため,本研究では年間 1%改
善が進むと仮定して設定する.そこで,外生的に与える輸送費用原単位は表 5-18 にな
る.
表 5-18: 輸送費用シナリオ(2005-2050)
$/km
2005年 2010年 2020年 2030年 2040年 2050年
海運
0.12
0.11
0.10
0.09
0.08
0.07
道路
2.55
2.31
2.06
1.82
1.58
1.34
鉄道
0.89
0.81
0.74
0.66
0.59
0.51
新規貨物鉄道
0.93
0.85
0.78
0.70
0.62
0.54
ここで,高速貨物輸送を考える上で,高速化は交通費用も上昇することが考えられる.
しかし,世界で高速貨物鉄道が走行した実績値が存在しないため,本研究では距離当た
り費用の増加割合を 1.05 倍と仮定して設定をする。
表 5-19: 距離あたり交通費用(新規貨物鉄道の場合、2010 年)
新規貨物鉄道
距離当たり費用($/km)
0.85
| 93
そして,2050 年までの長期推移としては,日本の貨物輸送の最高速度は 80km/h で
制限されていることから,この値を最高速度として設定する.この場合,2030 年頃ま
でに現在の計画されている道路網は全て開通することから,2030 年までに 80km/h に
達すると仮定する.結果,トラックの時速シナリオは表 5-20 になる.
表 5-20: トラックの時速変化シナリオ
km/h
タイ
ラオス
ベトナム
ミャンマー
カンボジア
マレーシア
シンガポール
中国
2005年
56.40
41.50
36.70
40.53
40.00
56.40
77.00
77.00
2010年
56.40
41.50
36.70
40.53
40.00
56.40
77.00
77.00
2020年
68.20
60.75
58.35
60.27
60.00
68.20
78.50
78.50
2030年
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
2040年
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
2050年
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
80.00
次に,鉄道の時速について説明する.実績値が入手可能であったのはタイと中国であ
る.タイは JETRO(2013)9) のレポートから 39(km/h)とし,中国は高(2008)26) から
70(km/h)と設定する.その他の国に関しては貨物鉄道の実績値を入手困難であったため,
各種仮定をおいて設定する.ミャンマーは鉄道整備が未発達であり旅客輸送ですら
15(km/h)(JICA)27)であることから,10(km/h)と仮定した.またベトナムやカンボジ
アに関して,鉄道整備状況はタイよりも低水準であることから,参考としてインドの値
(22km/h,JICA)28)を設定する.マレーシア,シンガポールはタイと同じ値を仮定して
設定する.2050 年までのシナリオ設定としては,国によっては目標時速を定めている
ため,その値を用いる.具体的に設定しているのはタイであり 60(km/h)29)である.た
だし,中国は既に 70(km/h)となっているため,
中国の将来目標値は 90(km/h)と仮定し,
タイとそれ以外の国はタイの目標値とする.従って,各国の 2050 年までの鉄道時速変
化シナリオは表 5-21 になる.
表 5-21: 鉄道の時速変化シナリオ
km/h
2005年
2010年
2020年
2030年
2040年
2050年
タイ
ラオス
39
39
50
60
60
60
0
0
30
40
50
60
ベトナム
22
22
30
40
50
60
ミャンマー
10
10
20
30
45
60
カンボジア
22
22
30
40
50
60
マレーシア シンガポール
39
39
39
39
50
50
60
60
60
60
60
60
中国
70
70
80
90
90
90
| 94
最後に,海運の時速に関しては,花岡(2013)30)から 38.9(km/h)とする.また,海運の
運行速度は年 0.5%改善されると仮定し,表 5-22 のように設定する.
表 5-22: 海運の時速シナリオ
全対象国
2005年
37.93
2010年
38.89
2020年
40.88
2030年
42.97
2040年
45.17
2050年
47.48
5.3.3 時間費用シナリオ
次に,日本の 2005 年における貨物時価価値をアジアへ適用する.ただし,貨物時価
価値に関する日本の研究は 2005 年と 2010 年の値のみが存在する程度で,算出方法が
確立されていない.そのため,ここでは時間費用は経済成長に伴って上昇することから,
本研究では 2005 年の日本の貨物時間費用原単位はアジアの 2030 年の値となると仮定
する.また,年率 5%の時間費用上昇を仮定し,2005 年から 2050 年までの時間費用を
設定する.
表 5-23: 本研究で用いる貨物時間費用シナリオ
$/hour・ton
一次産業
二次産業
2005年
0.94
2010年
1.52
2020年
2.48
2030年
4.04
2040年
6.59
2050年
10.73
3.30
5.37
8.75
14.25
23.21
37.81
| 95
5.3.4 炭素税率シナリオ
本研究では,環境負荷削減の手段として炭素税を導入する.税率シナリオは,2050
年の税率をシナリオとして設定し,2020 年から課税が開始することを想定して、2020
年から 2050 年まで線形で税率が変化するものと仮定する.
シナリオ(a):
2,500 ($/t-C)
(2050 年)
図 5-9: 炭素税シナリオ
ここで,日本で議論されている炭素税率は 2,400 円/t-C である (環境省,2008)31).
そのため、本研究で設定する税率は高めの水準にある。また、課税に対する考え方とし
ては、「セクター別アプローチ」として、交通部門への課税のみを想定する。課税によ
る影響波及経路としては,技術革新による効果として交通一般化費用の一部である環境
費用に影響を与えるよう定式化している.具体的な環境費用の関数は式(5-1)である.こ
れにより,5.5 節で説明した技術革新の効果は,炭素税導入による税負担軽減効果とし
て作用することになる.
rs , k
e _ tax rs  eCO

2
44
 tax t
12
ここで,
taxt
e_taxrs
:環境費用($/ton-km),
eco2rs,k
:交通手段 k の技術水準(t-CO2/ton-km),
:t 期における炭素税率($/t-C)
(5-1)
| 96
5.3.5
GDP シナリオ
本研究では,2050 年までの経済成長を考慮した地域間貨物交通部門の低炭素化を検
討することを目的に,将来シナリオとして経済成長を外生的に与える.利用するデータ
は,河瀬・松岡による「計量経済的手法を用いた GDP の推計」32)である.この推計デ
ータは 2005 年から 2050 年までの国別 GDP の長期推計を算出しており,本研究で対
象とする 2050 年までの将来シナリオを表現するのに適していると考える.
ただし,河瀬・松岡の分析では,カンボジア・ミャンマー・ラオス・ブルネイが一国
として統合して推計をされているため,本研究では独自にデータ補正を行っている.具
体的には,アジア開発銀行による 1995 年から 2018 年までの ASEAN 各国の GDP 実
績・推計に関する統計 33)を利用して,カンボジア(38.4%)・ラオス(43.2%)・ミャンマー
(18.3%)の GDP 比率を 23 年間で平均し,河瀬・松岡のカンボジア・ミャンマー・ラオ
ス・ブルネイの統合された値に乗ずることで GDP 推計結果を分轄した.ここで,アジ
ア開発銀行のデータを用いても,ブルネイの値は入手困難であったため,ミャンマーの
値にはブルネイの値も含まれていることに注意されたい.
上記の作業結果を踏まえて,本研究で外生的に与える GDP シナリオは,図 5-10 に
中国と日本を,図 5-11 に大メコン河流域圏各国(タイ,ラオス,カンボジア,ミャン
マー,ベトナム,マレーシア,シンガポール)の GDP を示している.結果によれば,
中国が 2050 年の成長率が 2005 年比で 8.9%と最も成長率を示している一方で,日本は
低成長であり,同比 1.4%となっている(図 5-10).また,大メコン河流域圏各国では,
タイ,マレーシア,ベトナムが,それぞれ 2050 年の成長率が 2005 年比で 4.5%,4.8%,
6.6%と高い値を示している.さらに,経済規模の絶対値は小さいが,内陸部のラオス
やミャンマーも 6.9%と高い値を示しており,中国と国境を接する各国が成長をしてい
くことが見て取れる.なお,各国の 10 年毎の GDP 数値は表 5-24 の通りであり,
| 97
図 5-10: 中国・日本の GDP 推移(2005 年-2050 年)8)
出典:河瀬・松岡を参考に,筆者作成
図 5-11: 大メコン河流域圏各国の GDP 推移(2005 年-2050 年) 8)
出典:河瀬・松岡を参考に,筆者作成
表 5-24: 長期 GDP シナリオ(2005 年-2050 年)8)
(出典:河瀬・松岡を参考に,筆者作成)
2005年
2010年
2020年
2030年
2040年
2050年
成長率
50年/05年
中国
2,429
4,115
8,278
11,910
16,242
21,709
8.9
香港
182
186
222
243
253
262
1.4
日本
4,543
4,649
5,544
6,067
6,282
6,501
1.4
韓国
806
977
1,443
1,802
2,100
2,340
2.9
3
3
3
3
4
4
1.4
台湾
354
434
671
849
990
1,093
3.1
その他東アジア
32
32
39
42
44
46
1.4
カンボジア
11
15
25
38
56
77
6.9
インドネシア
284
378
656
978
1,384
1,879
6.6
ラオス
12
17
28
43
63
87
6.9
マレーシア
131
156
236
337
469
622
4.8
Billion US$
モンゴル
フィリピン
97
117
175
258
361
466
4.8
シンガポール
112
138
197
225
236
234
2.1
タイ
176
208
332
461
614
797
4.5
ベトナム
53
71
116
164
237
352
6.6
その他
東南アジア
(ミャンマー)
5
7
12
18
27
37
6.9
30,759
33,280
42,303
50,870
60,611
71,622
2.3
その他
| 98
5.3.6 貨物発生原単位シナリオ
本研究では,2050 年までの長期分析を行うに当たり,
「貨物の高付加価値化」を考慮
する点が特徴的である.
表 5-25 は,国土交通省による日本の品目別貨物発生量の原単位推移 18)である.これ
によると,金額当たりの貨物発生量は減少傾向にある.例えば,農林水産業(一次産業)
では,1998 年から 2010 年にかけて 43%も原単位が改善されている.他方で,二次産
業は鉱産品では変動はあるものの,長期的にはほとんど変化がないとされる.同じ二次
産業でも機械品は 1998 年から 2010 年で 62.5%の改善である.このように金額当たり
の貨物発生量は長期的に低減傾向にあるため,大メコン河流域圏において長期の分析す
る場合もこの傾向を考慮することが重要となる.
表 5-25: 日本の品目別貨物発生量
単位:10kg/万円
1980年
農林水産
品
鉱産品
金属・金
属製品
機械
窯業・土
石製品
石油・石
炭製品
化学工業
品
軽工業品
雑工業品
合計
1985年
1990年
1998年
2010年
2020年
2030年
2040年 2050年
20.7
17.8
16.0
15.7
13.1
11.4
9.9
8.6
7.6
429.1
380.7
451.7
467.9
449.6
449.6
449.6
449.6
449.6
7.9
7.4
7.5
6.1
5.0
4.2
3.6
3.0
4.0
3.2
2.8
2.1
1.5
1.1
0.8
0.6
2.6
0.4
67.9
58.4
62.8
56.8
62.5
62.5
62.5
62.5
62.5
24.3
22.7
27.5
28.2
28.9
28.9
28.9
28.9
28.9
10.0
8.2
6.6
5.4
4.1
3.1
2.4
1.8
1.4
8.1
18.2
19.4
8.0
16.4
15.0
7.9
15.2
14.6
9.6
15.9
12.8
9.5
13.0
9.9
10.0
11.3
7.4
10.4
9.6
5.4
10.9
8.0
4.0
11.4
6.3
3.0
出典:全国貨物純流動調査報告書(国土交通省)
そこで,まず日本のデータを 2005 年において円からドル(1 ドル=88 円,財務省 16))
へ変化し,2050 年までの長期変化を設定する.一次産業は農林水産業の値を用いる.
他方で,二次産業の値は,大メコン河流域圏の国家間の地域間貨物交通部門を分析する
ことから,超長距離での鉱産品輸送は分析の対象外と考え,二次産業は鉱産品を除いた
値の平均値を用いる.また,三次産業の貨物輸送は主に倉庫業などの国内産業のため,
本研究で扱う国間貨物輸送では発生しないと仮定する.
.
| 99
5.3.7
分担率シナリオ
本研究では,花岡ら(2013)21)の研究を参考に,分担率をシナリオとして与える.花岡
ら(2013)では,大メコン河流域圏において目標として定める CO2 排出量削減目標の達成
に必要な道路・鉄道・水運の分担率を算出している.図 5-12,図 5-13,表 5-26 は花岡
らの研究で算出された分担率を参考に筆者が作成したものである.ケーススタディは下
記にルートである.
(1) 1,000km 以上のルート(バンコク-ハノイ:)
(2) 1,000km 未満のルート(バンコク-ヤンゴン)
図 5-12: 1,000km 以上の分担率シナリオ(バンコク-ハノイ)
出典:花岡ら(2013)を参考に筆者作成
図 5-13: 1,000km 未満の分担率シナリオ(バンコク-ヤンゴン)
出典:花岡ら(2013)を参考に筆者作成
| 100
表 5-26: 最適交通手段産出のシナリオ
(出典:花岡ら(2013)を参考に筆者作成)
二酸化炭素削減目標
交通費用上昇
時間短縮
シナリオ 1
10%削減
BAU シナリオ
10%短縮
シナリオ 2
20%削減
10%上昇
20%短縮
シナリオ 3
40%削減
20%上昇
35%短縮
ここで,大メコン河流域圏の初期分担率は,花岡ら(2013)34)でも言及されているが,
現状の国間交通手段別分担率データは入手が困難なため,海運 95%,道路 5%,鉄道 0%
と仮定をして計算を行うこととする.2050 年までの長期推移は,各シナリオの最終値
を 2050 年の目標分担率として設定し,2005 年から線形で推移すると仮定して分析を
行う.なお本研究では、表 5-26 におけるシナリオ 1 を使用している。
5.3.8
環境費用原単位シナリオ
長期シナリオにおいては,大メコン河流域圏各国においても日本と同じ技術シナリオ
を適用することとする.ただし,2030 年から 2050 年においては,2005 年から 2030
年における減少率を線形で延長した技術革新の値を用いることとする.従って,2050
年までの技術シナリオは,図 5-14 から図 5-16 のように設定する.
図 5-14: 日本の CO2 排出原単位シナリオ
図 5-15: 中国の CO2 排出原単位シナリオ
| 101
図 5-16: 大メコン河流域圏各国に適用さ
れる
CO2 排出原単位シナリオ
※ベトナムの値を適用
また,本研究では高速貨物鉄道導入を検討するため,高速貨物鉄道の二酸化炭素排出
量原単位の設定が必要である.しかし,世界において高速貨物鉄道の導入実績がないこ
とから,本研究では次善の策として日本の新幹線と在来線の排出量原単位の比率を用い
て,現在の在来貨物鉄道の原単位を修正する.用いる原単位は,吉舗ら(2003)34)に記載
された値を用い,新幹線が(221 g-CO2/人 km),在来線が(15 g-CO2/人 km)である.2050
年までの低減率は表 5-10 と同じシナリオを適用する.
表 5-27: 高速貨物鉄道の二酸化炭素排出原単位
g-CO2/ton-km
高速貨物鉄道
2005年
38.60
2010年
36.83
2020年
35.07
2030年
33.38
2040年
31.78
2050年
30.25
| 102
参考文献
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(2)
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(4)
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(5)
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の再分配の評価,地球環境研究論文集,Vol.17, pp61-67, 2009.7
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間輸送(バンコク-ハノイ)調査, 2012.12
(12) 日本貿易振興機構(ジェトロ):メコン地域越境物流の実態, 2013.08
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(14) 村田洋介・青山吉・中川大・柄谷友香・白柳博章:新幹線ネットワークによる
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(16) 財務省貿易統計:外国為替相場月平均・年平均レート, 2005
(17) Input- Output table: Global Trade Analysis Project, Ver.8
(18) 国土交通省:交通需要推計検討資料
http://www.mlit.go.jp/road/kanren/suikei/juyou.html
| 103
(19) ASEAN – JAPAN Transport Partnership, Statistics http://www.ajtpweb.org/statistics
(20) China: National Bureau of Statistics of China, No.16-9, Freight Ton, 2005
(21) 花岡伸也・加藤智明・中道久美子:大メコン河流域圏の地域間貨物輸送におけ
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(22) 環境省:地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ, 現時点でのとりまとめ参考
資料, 自動車 WG, 2009.12 http://www.challenge25.go.jp/roadmap/
(23) 国土交通省:運輸部門における二酸化炭素排出量(貨物), 2011
(24) Green IT Promotion Council Survey and Estimation Committee: Energy Saving in
Society by IT Solutions How to Quantify the Contribution of “Green by IT” Practical
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学, Vol.47, No.3, pp123-146, 2008.09
(27) 独立行政法人国際協力機構: ヤンゴン都市圏開発プログラム経済準備調査(都市
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(28) 株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行:インドの投資環境, 2008.11
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(32) 河瀬玲奈・松岡譲:計量経済的手法を用いた GDP の推計, 環境省総合推進費 S-6
「アジア低炭素社会研究プロジェクト」データ情報(本プロジェクトで用いた将
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(33) Asian Development Bank: Statistics and Data table, Key Indicators for Asia and the
Pacific 2012
| 104
(34) 吉舗幸太郎,金山洋一,依田淳一: 幹線交通における環境改善便益の計測手法に
関する研究, 土木計画学研究・講演集(CD-ROM) 巻 Vol.25, pp 28, 2003.11
| 105
6
地域間交通分析モデルを用いた低炭素化戦略の効果分析
6.1 地域間交通分析のフロー
6 章では,
本研究で構築した地域間交通分析モデルを用いた分析結果について述べる.
地域間旅客交通分析モデルにおいては,炭素税,技術革新を下記のように設定し分析し
た.他方で地域間貨物交通分析モデルにおいては,炭素税,技術革新を下記のように設
定し分析し,貨物交通においてはインフラ整備シナリオも導入した分析を行った.
表 6-1: 地域間交通分析のフロー
結果 1
6.2.1 項
節・項
6.2.2 項
炭素税:
交通分析
技術革新:
結果 4
6.2.3 項
6.3.2 項
6.3.3 項
-
-
炭素税:
炭素税:
4,000 円/t-C
技術革新:
5%燃費改善
なし
-
結果 3
炭素税:
4,000 円/t-C
地域間旅客
結果 2
-
地域間貨物
交通分析
2,500 $/t-C
技術革新:
0 $/t-C
技術革新:
なし
5%,15%改善
また,地域間貨物交通分析においては下記三つのシナリオ変化にて分析を行っている.
(1) 高速貨物鉄道整備よる影響評価
(2) 高速貨物鉄道整備における貨物の高付加価値化による影響評価
(3) 高速貨物鉄道整備における炭素税導入と技術革新効果の比較
(1)の鉄道整備による効果としては、2020 年、2030 年に高速貨物鉄道整備がされた
場合を想定し,鉄道未整備の場合と鉄道整備による貨物量,輸送量,二酸化炭素排出量
| 106
の変化について比較をしている.
(2)の貨物の高付加価値化シナリオにおいては,炭素税を導入しない状況で,高速貨
物鉄道整備が 2030 年に実現された場合を想定し,貨物の高付加価値化によって削減さ
れる二酸化炭素排出量を算出する。
(3)の炭素税と技術革新の同時導入シナリオにおいては,高速貨物鉄道整備が 2020 年、
2030 年に実現された場合を想定し,課税による貨物量,輸送量,二酸化炭素排出量削
減への影響を分析している.この時,炭素税導入による二酸化炭素削減と技術革新に期
待した削減の結果を比較し,同程度の排出削減を目指す場合,それぞれ必要となる税率,
技術革新水準を整理している.これにより,政策思考の違いによる二酸化炭素削減効果
への影響変化を,貨物量,輸送量への波及効果も考慮して検討可能となる.
以下,各分析結果について述べる.
| 107
6.2 地域間旅客交通モデルを用いた日本における低炭素化戦略の分析
6.2.1
炭素税のみ導入による需要サイドの変化(交通手段別交通需要量)
6.2.1 項では,を参考に,独占的競争モデルを用いて上流課税による影響を分析した結
果について,需要サイドの変化について説明する.ここで,上流課税に設定される炭素
税率は 4,000(円/t-C)と設定し,環境省の提案する 2,400(円/t-C)よりもやや高い値を設定
している.
環境省では,2009 年から炭素 1 トンあたり 2,400 円の炭素税を導入した場合,
2020 年には,何も対策を取らなかった場合に比べて,一国全体で約 5%の二酸化炭素の
排出削減効果があると試算しており,本研究の 4,000(円/t-C)の場合を簡単に試算すると
一国全体で 2020 年に約 8.5%の削減を想定することとなる.
図 6-1 は,上流課税が導入された場合を,独占的競争モデルで評価した総交通需要量
の減少率であり,図 6-2 は総交通需要量の減少量である.図 6-1 において,総交通需要
量の減少率が大きいのは,岩手県着で約 7.2%,青森県着で約 6.3%といなっている.ま
た,大都市着の OD を見ると,北海道着では約 2.8%,福岡県着では 2.2%であるが,東
京都着では僅か 0.2%の減少率になっている.一方,減少量で判断すると,図 6-2 のよ
うに北海道着で 19,000(人/年),福岡県着で約 12,000(人/年),
東京都着で約 15,000(人/年),
となり,減少率が大きい地域とは異なっていることがわかる.東京都は元々の総交通需
要量が大きいために,減少量は大きく試算されることになる.
図 6-1: 愛知県発総交通需要量の減少率
図 6-2: 愛知県発総交通需要量の減少量
| 108
図 6-3: 愛知県発の航空需要量の減少率
図 6-4: 愛知県発の鉄道需要量の上昇率
次に,総交通需要量の減少に関して,航空需要量の減少と鉄道需要量の上昇がどのよ
うに関係しているのかについて考察する.図 6-3 は愛知県発の航空需要量の減少率を示
し,図 6-4 は同発の鉄道需要量の上昇率を示している.図 6-3 によると,各地域の航空
需要量の減少率は,青森県着で 10.7%,岩手県着で 19.3%,山形県着で 24.7%,徳島県
着で 10.7%となっている.青森県や岩手県は総交通需要量の減少率も大きい地域である
が,徳島県や山形県では総交通需要量の減少率はあまり大きく試算されていない.徳島
県着の OD では,課税前の航空分担率が約 16%と他の地域に比べて小さいため,航空
需要量の絶対数が少ない.これは,航空需要量が一人減少することを減少率という割合
で判断すると,その影響は大きくなることが原因となる.しかし,山形県では図 6-4 の
ように鉄道需要量の上昇率が大きくなっており,同じ航空需要量の減少率でも原因が異
なることが分かる.
そこで,総交通需要量が減少する原因を判断するために,交通断念指数という概念を
導入する.この指標により,課税による航空需要量の減少を,鉄道への代替によって補
完することができているのか否かを判断することが可能となる.ただし,この交通断念
指数が適用できるのは,航空路線が存在する OD のみであることに注意されたい.具体
的な指数は,式(6.1)のようにして求める.
| 109
交通断念指数 
総交通需要量の減少量(人 / 年)
航空需要量の減少量(人 / 年)
(6.1)
式(6.1)の解釈は次のようになる.まず,本研究では航空と鉄道に代替性を認めている
ため,課税による影響が相対的に大きい航空では需要量が大きく減少する一方で,影響
が相対的に軽微である鉄道では,航空からの代替で需要が増加するようになる.そのた
め,総交通需要量の減少量は鉄道への代替が発生することで,航空需要量の減少量より
も必ず小さくなる.
例えば,総交通需要量の減少量が 100 人だとしても,その内訳は航空需要量の減少量
が 150 人で鉄道需要量の上昇量が 50 人といった場合が一般的である.したがって,交
通断念指数は必ず 1.0 以下となり,1.0 に近似するほど鉄道への代替ができず,課税に
よる航空需要の減少が,交通の断念を意味するようになる.このような地域は,課税の
影響が深刻であると判断できる.ただし,航空路線が存在しない場合は,航空需要量の
減少量がゼロとなるため,影響判断指数は無限になってしまうため指数の適用外とする.
その結果を示すのが図 6-5 である.これによると,愛知県発・北海道着や九州南部,
沖縄地方での交通断念指数が大きいことが分かる.理由は,元々の航空分担率が 100%
に近いため,課税によって鉄道への代替が困難なため課税の影響が大きいことを意味す
る.一方,岩手県着の OD では,図 6-3 のように課税によって航空需要を大きく減少さ
せるが,図 6-4 のように鉄道需要量の上昇率が高いため,代替困難性を原因とした総交
通需要量の減少とは意味合いが異なる.
図 6-5: 愛知県発の交通断念指数の結果
| 110
6.2.2
炭素税のみの導入による供給サイドの変化(運航便数と運賃の変化)
6.2.2 項では,6.2.1 項で述べた課税による需要者への影響が発生した理由について,
供給サイドの変化に重点をおいて説明する.項目としては,運航便数の変化,それによ
るマークアップの上昇および運賃の変化を取り扱うことにする.
まず,供給サイドの行動変化として,図 6-7 から,愛知県発の航空運航便数の減少率
が変化していることが分かる.例えば,山形県着で 13.7%,岩手県着で 9.1%,秋田県
着で 6.1%となっている.ただし,北海道や九州南部では減便率は約 1.5%程度である.
一方,図 6-8 は,運航便数の減少による航空事業者の価格設定力の高まりを意味するマ
ークアップの上昇率を示している.上昇率が顕著な地域は,岩手県(3.2%),山形県(2.6%),
青森県(1.9%)などである.マークアップが上昇する地域は,図 6-6 のように,初期の運
航便数が 1 便のような極めて利便性の悪い路線であり,減便率が上昇することでマーク
アップも大きく上昇することになる.ただし,秋田県では,初期の運航便数が一日 3 便
あるため,減便率が大きくてもマークアップの上昇率は抑制された.
図 6-6: マークアップと運航便数の関係
| 111
図 6-7: 愛知県発の航空の減便率(%)
図 6-8: 愛知県発マークアップの上昇率
図 6-9: 愛知県発の航空運賃の上昇額
次に,航空便数の減便とマークアップが上昇したことにより,結果として航空運賃は
図 6-9 のように上昇した.例えば,岩手県着で約 1,400(円/人),山形県および青森県着
で約 1,000(円/人)である.その他の地域では,約 400(円/人)の運賃上昇が発生した.
最後に,6.3.1 項及び 6.3.2 項のケーススタディの結果をまとめる.本研究では上流課
税導入による悪循環メカニズムを表現するために独占的競争モデルを構築したことで,
6.3.2 項のような航空の減便,マークアップの上昇,運賃の上昇という供給サイドの変
化を明確に表現できるようになった.この運賃上昇を通して,需要サイドである消費者
の交通手段選択にも影響を及ぼし,課税による総交通需要量の減少が鉄道への代替困難
性に起因する地域は偏在することが明らかになった.
| 112
6.2.3 炭素税と技術革新の導入による交通需要変化
6.2.3 項では,炭素税と技術革新の双方を導入した場合の効果について分析する.
ここでは,前述の炭素税のみが導入された状況を所与として,技術革新が導入された
場合の評価を行う.具体的には,前項と同様に炭素税としての上流課税を 4,000(円 t-C)
課税するが,ここでは炭素税に加えて,全ての航空路線で航空機のエンジン燃費が 5.0%
向上した場合も合わせて考慮する.この分析により,将来の技術革新を考慮した場合に,
炭素税の導入が与える効果について把握可能となる.ただし,ここでは鉄道の技術革新
は考慮しないため,航空のエンジン技術の改善が及ぼす効果だけを分析することに注意
されたい.結果の考察は,総交通需要量,航空便数,航空運賃の変化の三つの観点から
行う.ケーススタディは,前項と同様に愛知県発の OD を対象とする.
まず,図 6-10 は課税のみの場合を基準にした総交通需要量の上昇率を表している.
課税のみの場合と大きく異なる点は,4,000(円/t-C)の課税下で航空燃費が 5.0%改善する
ことで,航空路線がある地域では課税前よりも総交通需要量が増加することである.例
えば,岩手県着や青森県着では,課税前よりも約 2.0%の航空需要量の増加が発生し,
課税後の既に航空需要量が減少した場合を基準にすると約 8.5%の改善となった.ただ
し,鉄道には技術革新が導入されていないため,鉄道分担率が高い地域では総交通需要
量は減少傾向のままである.
図 6-10: 愛知県発の総交通需要量の上昇率
(課税後を基準として図化)
| 113
このように,総交通需要量が改善された理由は,図 6-11(課税前を基準に図式化)にあ
るように航空便数が増加したことに起因する.例えば,岩手県,秋田県,山形県では課
税前よりも平均 3.0%の増便となっている.また,図 6-12(課税前を基準に図式化)は航
空運賃の低下額を示している.
例えば,
岩手県では約 320(円/人)の運賃低下が発生する.
以上を総括すると,技術革新による燃費改善の効果は,次のメカニズムによって説明
できる.まず,マークアップと運航便数に関する式(4.13)から,運航便数が増加すると
マークアップは低下する構造になっているため,運賃は低下する傾向を示す.さらに,
費用関数の式(4.12)からも分かるように,マークアップの上昇と燃費改善の度合いによ
って,運賃が上昇するか否かを定めるようになっている.6.4 節の結果から判断すると,
4,000(円/t-C)の上流課税による限界費用の上昇よりも,5%の燃費改善技術による効果の
方が大きくなり,結果として運賃が低下した.そして,運賃が低下することで航空を利
用するインセンティブが高まり,航空需要が増加することで航空便数も増加した.
また,5.0%の燃費改善によって,航空の CO2 排出原単位(111(g-CO2/人・km))も 5.0%
改善したと仮定した場合,CO2 排出量の削減量は 23.0(t-CO2/年)となり,課税のみの場合
よりも 3.0(t-CO2/年)の増加となった.また,原単位の改善率は 3.0%だった場合は,課税
のみの場合よりも 15.0(t-CO2/年)の増加となる.ただし,技術革新の導入後も,課税前
の CO2 排出量よりも減少しているということに変わりはない.したがって,炭素税導入
によって環境効率性を高め,技術革新によって経済効率性を向上できる可能性があると
分かった.
図 6-11: 愛知県発の航空便数の増便率
図 6-12: 航空運賃の減少額
(課税前を基準として)
(課税前を基準として)
| 114
表 6-2: 炭素税と技術革新効果の比較
二酸化炭素削減効果
炭素税
炭素税&技術革新
(4,000 円/t-C)
(4,000 円/t-C, 5%改善)
4.23%
3.89%
炭素税と技術革新の組み合わせ結果を整理すると,表 6-2 になる.結論からすると,
炭素税のみ導入された場合に比べ,技術革新も導入されることで二酸化炭素排出量の削
減量は減少することとなる.これは,技術革新導入に伴い,炭素税導入による運賃増加
圧力が低下することで,総交通費用が低下した結果,交通需要量が増加することで,削
減量が減少することとなった.
| 115
6.3
地域間貨物交通モデルを用いた大メコン河流域圏における低炭素化
戦略の分析
6.3 節では、地域間貨物交通モデルを用いて、大メコン河流域圏に適用して低炭素化戦略
の定量分析を行う。分析結果は、図 6-13 のように整理する。
図 6-13:地域間貨物分析結果のフロー
ここでは、四段階で低炭素化戦略の効果を分析する。まず始めに、鉄道導入有無による
効果分析を行い、鉄道整備効果を定量化する。その後、鉄道導入に加えて貨物の高付加価
値化による効果を分析する。次に、鉄道と貨物の高付加価値化を所与として、本研究で対
象としている炭素税と技術革新に着目し、その効果比較を行う。
以下、まず始めに現状の取引構造を説明した上で、各分析結果について説明する。
6.3.1 分析基準年次における取引構造の把握
分析を始めるに当たり,現在の大メコン河流域圏における取引状況について説明する.
図 6-15 と図 6-14 は,2005 年における地域間経済取引金額のその地域別シェアにつ
いて記載している.これによれば,現在はシンガポール・マレーシア・タイから中国に
向けた取引金額が多く,1,000km 以上の長距離輸送の低炭素化が非常に重要になるこ
とが分かる.他方で,金額は小さいが,取引地域のシェアとしてはミャンマーやラオス
でタイとの取引が多く,カンボジアもベトナムとの取引シェアが大きい.
経済取引状況に対して,設定した初期分担率は,海運 95%,道路 5%のため,その
| 116
ほとんどの貨物輸送は海運で支えられている.二酸化炭素排出量の観点からすると,二
酸化炭素排出量原単位としては,2005 年初期に於いて例えばベトナムではトラック
(140 g-CO2/ton-km),海運(42 g-CO2/ton-km),鉄道(25 g-CO2/ton-km)であることか
ら,鉄道整備が遅延している状況下でも既に低炭素な貨物輸送体系である点が特徴であ
る.
図 6-14: 現在の大メコン河流域圏における経済取引構造(総取引金額)
図 6-15: 現在の大メコン河流域圏における経済取引構造(取引地域シェア)
| 117
6.3.2 高速貨物鉄道整備による影響評価
ここでは,大メコン河流域圏の地域間貨物交通における低炭素化施策として,高速貨
物鉄道整備による影響評価を行った.ここでは、鉄道整備による低炭素化効果の把握を
目的に、分担率シナリオに着目し、鉄道未整備の場合(BAU)と鉄道整備の二つの効
果を比較する。鉄道整備時期に関しては、前述の通り、2020 年に大メコン河流域圏の
中での大国(中国、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム)が整備され、2030
年にその他の国々が整備されるとする。なお、BAU シナリオにおいては、鉄道整備が
進まず、日本並の分担率になった場合を想定する。
表 6-3: 地域間貨物交通分析1のシナリオ設定条件
No.
シナリオ名
固定
1
GDP
2050 年まで外生的に与える
2
貨物発生原単位
無し
3
交通費用原単位
2050 年まで外生的に与える
4
環境原単位
同上
5
炭素税
無
6
時間費用
2050 年まで線形上昇
7
分担率
-
8
交通インフラ整備
-
変動
シナリオを二つ適用
(BAU、鉄道整備)
2020 年、2030 年に
高速鉄道整備
分析結果を四象限追跡法に表示すると,図 6-16 のようになる.青線が鉄道未整備
(BAU)シナリオ,紫線が鉄道整備シナリオの結果を表している.シナリオ間の結果
を比較すると,第一象限においては、鉄道整備によって地域間貨物量が鉄道未整備の場
合に比べて 6.16%増大している。これは、図 6-17 に示すように、鉄道輸送の一般化費
用は、道路輸送一般化費用よりも小さいため、鉄道が整備されることで地域間の経済取
引費用が低下し、地域間での経済取引が活発化することに起因する。したがって、第二
象限の総貨物輸送量(ton-km)においても、貨物量が 6.16%増大したことにより、総輸
送量も 6.09%増加している。しかし、第三象限に着目すると、鉄道整備によって鉄道分
担率が上昇することから、高炭素な道路輸送分担率の上昇が抑制される。
| 118
図 6-16: 鉄道整備と鉄道未整備における二酸化炭素削減効果の比較
図 6-17: タイから各国への交通手段別交通一般化費用(2050 年)
| 119
実際、鉄道整備によって鉄道分担率は約 6.1%向上している。第四象限に着目すると、
鉄道整備によって鉄道分担率が上昇したことから二酸化炭素排出量は鉄道未整備の場
合に比べて、6.1%削減されることが明らかになった。
以上より、鉄道整備による効果を整理する。道路より輸送一般化費用が安い鉄道が整
備されることで、地域間の経済取引費用が低下し、地域間の経済取引がより活性化され
ることで地域間の貨物輸送量増大を誘発することが明らかになった。しかし、増大する
貨物輸送は低炭素な鉄道によって輸送されることで、鉄道整備によって貨物量は増大し
ても二酸化炭素排出量は抑制されることが明らかになった。
6.3.3
高速貨物鉄道整備における貨物の高付加価値化による影響評価
次に,6.3.2 項で分析した鉄道整備導入を所与として,低炭素化戦略の AVOID に該
当する貨物の高付加価値化による低炭素化への効果を分析した。ここでは、貨物の高付
加価値化(取引金額当たりの貨物発生量の低減)をシナリオとして与え、鉄道整備と貨
物の高付加価値化の組合せによる低炭素効果を、鉄道整備のみの場合と比較して整理す
る。分析結果は図 6-18 である.
表 6-4: 地域間貨物交通分析 2 のシナリオ設定条件
No.
シナリオ名
固定
1
GDP
2050 年まで外生的に与える
2
貨物発生原単位
-
3
交通費用原単位
2050 年まで外生的に与える
4
環境原単位
同上
5
炭素税
無
6
時間費用
2050 年まで線形低減
7
分担率
シナリオ適用
8
交通インフラ整備
2020 年、2030 年に
高速鉄道整備
変動
2050 年まで線形推移
| 120
図 6-18: 鉄道整備と貨物高付加価値化の組合せによる CO2 削減効果
図 6-18 において、紫線は前述の鉄道整備導入による結果に相当し、赤線が鉄道整備
に貨物の高付加価値化が組み合わさった場合の結果を示している。これによれば、鉄道
が整備されることで増大する地域間経済取引だが、貨物が高付加価値化することで貨物
の発生量が 5.81%抑制されることが明らかになった。第二象限は、貨物が高付加価値
化することで地域間を輸送される貨物の重量が低下することから、総輸送トンキロも減
少し、5.74%の低減になっている。第三象限は、二つの結果とも鉄道整備は共通シナリ
オとして与えていることから同じ分担率になっていることから傾きは等しい。しかし、
貨物量が減少することで道路輸送の貨物トンキロも 5.76%減少する。最後に、第四象
限においては、貨物が高付加価値化することによる貨物輸送量減少が寄与し、二酸化炭
素排出量は 5.75%減少することになった。ここで、前日の BAU シナリオからの二酸化
炭素排出量の削減率を計算すると、11.85%となる。
従って,大メコン河流域圏における地域間貨物交通部門の抜本的な低炭素化を実現す
るには,鉄道整備だけでなく、より付加価値が高い製品を作るような政策を組み合わせ
て導入することで、低炭素な貨物輸送体系構築がさらに進む可能性を示唆していること
が明らかになった.
| 121
6.3.4
高速貨物鉄道整備における炭素税導入と技術革新効果の比較
次に,前項で分析した鉄道整備と貨物の高付加価値化を所与として,これらに炭素税
や技術革新が寄与した場合の効果を分析する。ここでは、炭素税率、及び技術革新の進
展水準を設定し、その効果比較を行う(表 6-6).
表 6-6: 地域間貨物交通分析 3 のシナリオ設定条件
No.
シナリオ名
固定
1
GDP
2050 年まで外生的に与える
2
貨物発生原単位
2050 年まで線形低減
3
交通費用原単位
同上
4
環境原単位
-
5
炭素税
-
6
時間費用
2050 年まで線形低減
7
分担率
シナリオ適用
8
交通インフラ整備
変動
技術革新
(現行比 5%.15%改善)
炭素税シナリオ
(税率:2,500 $/t-C)
2020 年、2030 年に
高速鉄道導入
ここでは,まず炭素税を 2050 年に 2,500($/t-C)となると仮定し、2005 年、2010 年
は課税無し、2020 年から課税を開始すると設定し、2050 年まで線形比例させて課税す
る場合を想定する。その際、環境原単位は既に設定している現行環境原単位の課税シナ
リオを適用している.仮説として、炭素税導入の影響は,環境費用を増加させることで
交通一般化費用の上昇を通じて、地域間の経済取引構造を変化させる作用があると考え
られる.次に、技術革新シナリオの設定としては、既に設定している現行の技術改善シ
ナリオに対して、追加で改善される技術改善率(5%、15%)を設定する。本研究では、
炭素税と技術革新で同等の二酸化炭素排出量の削減が可能となる水準を繰り返し計算
することで算出も行っている。
以下、図 6-19 に炭素税、技術革新をそれぞれ導入した四象限追跡法の結果を、図 6-20
に、二酸化炭素削減効果をより詳細に把握することを目的に図 6-19 の第四象限を拡大
したものを記載している。
| 122
まず、図 6-19 において、紫線は鉄道のみ導入された場合、赤線は鉄道整備に貨物の
高付加価値化が組み合わされた場合、黄緑線は鉄道整備と貨物の高付加価値化に加えて
炭素税が導入された場合を示している。また、橙線は技術革新による効果を示している。
第一象限において、炭素税のみが追加施策として導入された場合、鉄道整備のみの場
合と比較すると貨物発生量は 13.6%低下している。これは、炭素税が導入によって交
通一般化費用が上昇することから、地域間経済の取引費用が増加した結果として地域間
の貨物輸送量が減少することに起因する。実際、貨物輸送量の減少は第二象限をみても
貨物減少量よりも大きく(15.5%)減少していることから、炭素税導入によって経済取
引の短距離化が発生していることが分る。その結果、第三象限においては道路輸送量も
減少し、第四象限において二酸化炭素排出量も 15.3%抑制されていることが明らかに
なった。
図 6-19: 鉄道整備下における炭素税効果と技術革新効果の比較
| 123
図 6-20: 炭素税と技術革新の二酸化炭素削減効果の比較
次に,炭素税導入による低炭素化の効果と,技術革新による低炭素化の効果を比較す
る.図 6-20 は、炭素税(2,500 $/t-C)の導入と技術革新を三パターン(5%、15%改善、
炭素税と同等の削減率になる技術革新水準)である。図 6-24 の右側から、鉄道整備の
み(紫線)、薄い橙色(鉄道整備+貨物の高付加価値化+技術革新 5%)、橙色(鉄道整
備+貨物の高付加価値化+技術革新 10.1%)
、濃い橙色(鉄道整備+貨物の高付加価値
化+技術革新 15%)を示している。ここで注目すべき点は,地域間貨物交通起源の二
酸化炭素排出量削減の効果として,炭素税と技術革新の比較を、四象限追跡法を用いる
ことで二酸化炭素排出量以外への影響も考慮した上で比較可能になることである.表
6-7 は,この結果を整理したものである.
表 6-7: 炭素税と技術革新効果の比較
| 124
分析の結果、技術革新が 5%追加で進んだ場合、鉄道整備のみの場合に比べて二酸化炭素
排出量は 10.5%削減され、15%の場合は 19.9%の削減になることが明らかになった。前述
のように、炭素税のみ導入された場合の二酸化炭素排出量の削減効果は 15.3%であること
から、炭素税と技術革新が同等の二酸化炭素排出量削減効果を発揮する技術革新水準は 5%
~15%改善の間に入ることが想定される。ここで、同等の削減効果となる技術革新水準を
算定するために繰り返し計算を実施した。その結果、技術革新水準を 10.1%改善すること
で炭素税のみの場合と同等の二酸化炭素排出量削減効果になることが明らかになった。
最後に、炭素税と技術革新の組合せ分析を行った。結果は、図 6-21 である。ここでは、
炭素税率(2,500$/t-C)に対して、技術革新は現行シナリオ比 10%と設定した。分析の結
果、炭素税率が非常に大きいことから、技術施策による効果はあまり大きくないことから、
第一象限の貨物発生量の抑制、及び第二象限の輸送量、第三象限の道路輸送量は大きく変
化していない。しかし、第四象限の二酸化炭素排出量に関しては、炭素税と技術施策の組
合せにより、炭素税のみの場合よりも CO2 排出量の削減量は大きくなり、22.8%となった。
図 6-21:炭素税と技術革新の組合せ低炭素化戦略の分析結果
| 125
本研究では分析まではしていないが,これらの結果を比較する際に議論すべき点の例
としては下記の点が考えられる.
1.
貨物量減少に伴う輸送頻度低下問題
2.
炭素税の課税主体問題
3.
税収の使途
これにより,政策思考の違いによる二酸化炭素削減効果への影響変化を,貨物量,輸
送量への波及効果も考慮することが可能となった.
6.4 分析結果のまとめ
ここでは,6.2 節,6.3 節の結果を整理する.表 6-8 は,地域間旅客分析,地域間貨
物交通分析の分析シナリオ設定条件,及び分析期間,二酸化炭素排出量を示している.
旅客交通に関しては,基準年 2005 年に対して,政策変数(炭素税,技術革新)のみ
が変化した場合を想定,2005 年の単年度の影響を分析した.分析の結果,結果 1 にお
いては炭素税のみ導入した場合の二酸化炭素削減率を分析し,4.23%の削減効果が明ら
かになった.他方で,結果 2 においては,炭素税と技術革新の両方が導入された場合を
想定し,分析の結果,二酸化炭素削減率は 3.89%と,炭素税のみ導入される場合より
も低下することが明らかになった.これは,本研究において炭素税と技術革新の施策を
評価できるようにモデル化を工夫したからこそ算出できた結果と言える.ここでは,同
じ炭素税率を導入したとしても,技術革新の導入より運賃への転嫁率が減少することで
相対的に交通一般化費用が低下し,航空需要が増加したことが起因している.このよう
に,技術革新は二酸化炭素排出量削減に大きく期待される施策であるが,炭素税との関
係,及び交通手段転換なども考慮すると,鉄道に比べて相対的に大きな技術革新が進め
ば,低炭素化交通手段である鉄道から航空への転換が発生することも考えられることが
明らかになった.また,将来の炭素税率を議論する場合は,将来の技術革新動向を把握
した上で,技術革新効果による運賃転嫁度合の変化を考慮することが,最終的に地域間
交通部門全体からの二酸化炭素排出量に寄与するかを判断する際に重要となることが
明らかにすることができた.
| 126
表 6-8: 地域間旅客・貨物交通分析結果のまとめ
貨物
先進国
(税のみ)
先進国
(税×技術)
炭素税
炭素税
(4,000 円 /t‐C)
炭素税
( 4,000 円 /t‐C)
技術
技術施策
技術施策
(無し)
(現行+5%改善)
2005年
-2050年
2005年
2005年
炭素税
技術
旅客
分析
期間
CO2
削減率
開始年
(2005年)
基準比
新興国
(税のみ)
新興国
(技術のみ)
新興国
(税×技術)
炭素税
(2,500 $/t‐C)
炭素税
( 0 $/t‐C)
炭素税
(2,500 $/t‐C)
技術施策
技術施策
技術施策
(現行シナリオ)
(現行+10.1%改善)
(現行+10%改善
2005年
-2050年
2005年
-2050年
15.3%減
15.3%減
22.8%減
4.23%減
3.89%減
(鉄道整備のみ)
(鉄道整備のみ)
(鉄道整備のみ)
(2005年)
(2005年)
炭素税
&技術施策
炭素税
のみ
炭素税
のみ
技術施策
のみ
炭素税
&技術施策
貨物交通においては,経済成長著しいアジア新興国の中でも,特に今後の陸上輸増大
が懸念される大メコン河流域圏を対象に,2005 年から 2050 年における長期変化を考
慮した分析を行った.結果 3 では,炭素税のみを導入した場合の効果を分析し,結果 4
では技術革新のみが導入された場合を分析した.二酸化炭素削減効果はそれぞれ 15.3%
と 10.5%となった.結果 3,結果 4 の解釈としては,炭素税のみによる二酸化炭素削減
を目指す場合は,2,500($/t-C)という非常に高い値の課税が必要になる.ここで,日本
の環境省が提案する炭素税率は 2,400(円/t-C)であり,現在の為替レート(1 ドル=103
円,2014 年 1 月時点)で換算をすると約 23.3($/t-C)となることから,2,500($/t-C)という
値が非常に高いことが分かる.つまり,経済成長がそれだけ大きい要因であることを意
味する.他方で,技術革新に期待する場合は,現行改善シナリオより 10.1%の技術革
新を進めることで,炭素税率 2,500($/t-C)と同程度の二酸化炭素削減効果があることが
明らかになった.そして、炭素税と技術革新を組み合わせることで、さらに二酸化炭素
排出量は削減でき、炭素税率 2,500($/t-C)と技術革新 10%の組合せでは 22.8%の二酸
化炭素排出量が削減されることが明らかになった。
以上より,本研究において炭素税と技術革新を考慮した低炭素化戦略を分析可能とす
る地域間交通分析モデルを構築したことにより,様々な低炭素化施策を統合的に、定量
的に評価することが可能となった点が本研究の成果である。得られた知見としては、ア
| 127
ジアにおける鉄道整備を考慮した分析モデル構築を行ったことにより、鉄道整備は単な
る低炭素化手段ではなく、貨物輸送増大への影響も発生しうることを明らかにした。他
方で、日本の分析では、国をさらに細分化した分析であることから、炭素税や技術革新
による地域間格差の影響を分析したとも解釈できる。従って、本研究により、アジア交
通部門における低炭素化を促進するには、鉄道整備に加え、炭素税、技術革新の複合的
導入の必要性を把握したことに加え、これらの導入による地域間格差への配慮、及び是
正の必要性を明らかにした点が成果である。
| 128
7
結論
7.1 まとめ
本研究では,経済効率性と環境効率性の同時追求が求めらえる地域間交通部門に着目
をし,炭素税と技術革新を伴う低炭素化戦略を定量評価可能とする地域間交通分析モデ
ルを構築した.さらに,各種低炭素施策が与える効果の表示法として,
「四象限追跡法」
を新たに開発し,地域間貨物交通分析モデルの適用先である大メコン河流域圏の分析結
果表示に活用した.
分析の結果,地域間旅客交通部門において,日本を対象に分析行い,炭素税 4,000 円
/t-C を導入した場合,二酸化炭素排出量は 4.23%削減されることが明らかになった.ま
た,炭素税 4,000 円/t-C の導入と同時に,技術革新として 5%の航空燃費改善が行われ
た場合,3.89%の二酸化炭素排出量の削減となることが明らかになった.
他方で,地域間貨物交通部門において,大メコン河流域圏における地域間貨物交通部
門の低炭素施策の中心として高速貨物鉄道整備を行う場合,高速化は二酸化炭素排出源
単位の悪化がもたらされることから,過度な鉄道分担率上昇は二酸化炭素排出量の増大
が明らかになった.その上で,2050 年で 2005 年比の CO2 排出量を同水準に抑制するに
は,高速貨物鉄道の二酸化炭素排出原単位は現行変化シナリオ比よりも 30%の改善が
求められることが明らかになった.そして,炭素税による交通需要抑制施策との対比を
行った結果,高速貨物鉄道の技術水準を現行比 10%改善効果と同等の CO2 削減効果に
必要となる炭素税率は 2,500($/t-C)であることが明らかになった.
さらに,地域間貨物交通分析においては,結果表示方法として提案した「四象限追跡
法」での表示を行った.これにより,同じ二酸化炭素排出削減を目指すにおいても,炭
素税を重視する政策思考と技術革新を重視する政策思考で貨物量,貨物輸送量への影響
が異なっていることが一目で分かるようになった.従って,大メコン河流域圏における
地域間貨物交通部門の低炭素化には,高速貨物鉄道整備の導入だけでは不十分であり,
現行比 30%以上の技術革新と炭素税導入の組合せが不可欠であることを明らかにした.
以下,各章のまとめを行う.
| 129
第 1 章では,交通起源二酸化炭素排出量増大の傾向について述べた上で,地域間旅
客交通,及び地域間貨物交通の二つに焦点を絞り,具体的な高炭素化傾向について説明
した.地域間旅客交通においては,航空業界の積極的な規制緩和傾向を受けて,今後も
高炭素化懸念が高まる可能性を述べた.他方で,地域間貨物交通においては,アジア新
興国における「道路依存型産業開発モデル」踏襲の懸念と産業開発モデル転換の必要性
について説明した.ここでは先進国のデータを整理しながら,道路依存型産業開発モデ
ルでは,経済成長による道路依存型の地域間貨物輸送量の増大,それに伴う二酸化炭素
排出量の増大傾向があることを明らかにした.これらの二酸化炭素排出量増大懸念を踏
まえ,地域間交通部門における低炭素化戦略を定量的に評価できる分析モデルの必要性
を述べ,本研究の目的を明確化した.
第 2 章では,地域間交通に関する既往研究を整理した.地域間旅客交通においては,
高炭素化をもたらす航空規制緩和を受けたサービス供給サイドの定式化が発展したき
たことを延べた上で,本研究ではより規制緩和が進んだ状況を想定した場合に表現可能
とするモデルが存在しないことを明らかにした.そこで,独占的競争理論を応用した新
たなモデル開発を取り組むことを説明した.他方で,地域間貨物交通においては,大メ
コン河流域圏における大メコン河流域圏における経済評価に関する研究,及び地域間貨
物交通に関する研究をレビューし,既往研究から,道路を中心とした先進国型産業開発
に関する研究領域の発展が進んでいる一方で,本研究が狙いとする低炭素化に関する視
点が現在の研究では十分に考慮されていない課題について整理した.以上より,本研究
の位置づけとして,地域間交通部門における低炭素化戦略として炭素税と技術革新の導
入効果バランスを定量評価可能とする新たな分析モデル構築が特徴的であることを延
べた.
第 3 章では,本研究で構築する地域間交通分析モデルを適用する日本,及び大メコン
河流域圏における経済・交通の概要について説明した.地域間旅客交通分析モデルは日
本へ適用することから,日本の幹線旅客純流動調査結果等を用いながら,日本の地域間
旅客交通の現状について整理した.他方で,地域間貨物交通分析モデルは,経済成長著
しい大メコン河流域圏へ適用する.この地域の貨物交通の実情として特徴的な点は,道
| 130
路が未発達であることから海運利用が多く,既に低炭素であるという認識である.しか
し,今後の道路を軸とした内陸開発・経済回廊開発の進展により,高炭素な道路貨物輸
送の増大をもたらすことが懸念されることを述べた.これらの整理から,本研究が対象
としている大メコン河流域圏における地域間貨物交通部門の低炭素化方策の研究が急
務の課題であることを,現在の政策トレンドとの対比で明らかにし,具体的な施策とし
て高速貨物鉄道整備の効果に着目することを述べた.
第 4 章では,研究全体のフレームワークと分析モデルの構造について説明した.フレ
ームワークは,地域間旅客・貨物交通部門における低炭素化施策を評価可能とするため
に,施策整理,評価システム,四象限追跡法指標の因果関係を構築した.そして,評価
システムに組み込まれる分析モデルの構造は全四段階で構成し,それぞれ (1)交通ネッ
トワークモデル,(2)地域間経済モデル,(3)交通輸送量推計モデル,(4)二酸化炭素排出
量推計モデルとした.
第 5 章では,本研究で用いるデータセット,及びパラメータ推定結果,そして地域間
貨物交通分析における長期分析に活用する各種原単位の長期変化シナリオ設定を行っ
た.地域間旅客交通においては,幹線旅客純流動調査,及び JTB 時刻表などを用いて
初期値を定め,交通手段転換を左右する代替弾性値を設定した.他方で,地域間貨物交
通においては,データセットは全 9 項目について説明した.特に基準年次 2005 年から
長期的な 2050 年までの分析を検討するに当たり,長期的な各種原単位推移の考え方,
設定根拠などを述べた.特徴は,貨物発生量の高付加価値化原単位の設定,と高速貨物
輸送鉄道の二酸化炭素排出源単位・輸送費用原単位の設定である.高速貨物鉄道は世界
で実績がないため,二酸化炭素排出原単位や輸送原単位の値を取得できないため,日本
の旅客新幹線と在来線の関係を参考に,高速化をすることで二酸化炭素排出原単位が上
昇するよう設定した.
第 6 章では,第 4 章で構築した地域間交通分析モデルを用いて,地域間旅客交通分析
モデルを日本へ,地域間貨物交通分析モデルを大メコン河流域圏へ適用して分析を行っ
た.分析の結果,地域間旅客交通部門において,日本を対象に分析行い,炭素税 4,000
| 131
円/t-C を導入した場合,二酸化炭素排出量は 4.23%削減されることが明らかになった.
また,炭素税 4,000 円/t-C の導入と同時に,技術革新として 5%の航空燃費改善が行わ
れた場合,3.89%の二酸化炭素排出量の削減となることが明らかになった.
他方で,地域間貨物交通部門において,大メコン河流域圏における地域間貨物交通部
門の低炭素施策の中心として高速貨物鉄道整備を行う場合,高速化は二酸化炭素排出源
単位の悪化がもたらされることから,過度な鉄道分担率上昇は二酸化炭素排出量の増大
が明らかになった.そして,炭素税による交通需要抑制施策との対比を行った結果,高
速貨物鉄道の技術水準を現行比 10.1%改善効果と同等の CO2 削減効果に必要となる炭
素税率は 2,500($/t-C)であることが明らかになった.
以上より,本研究において炭素税と技術革新を考慮した低炭素化戦略を分析可能とす
る地域間交通分析モデルを構築したことにより,様々な低炭素化施策を統合的に、定量
的に評価することが可能となった点が本研究の成果である。得られた知見としては、ア
ジアにおける鉄道整備を考慮した分析モデル構築を行ったことにより、鉄道整備は単な
る低炭素化手段ではなく、貨物輸送増大への影響も発生しうることを明らかにした。他
方で、日本の分析では、国をさらに細分化した分析であることから、炭素税や技術革新
による地域間格差の影響を分析したとも解釈できる。従って、本研究により、アジア交
通部門における低炭素化を促進するには、鉄道整備に加え、炭素税、技術革新の複合的
導入の必要性を把握したことに加え、これらの導入による地域間格差への配慮、及び是
正の必要性を明らかにした点が成果である。
7.2 今後の課題
今後の課題として,下記の点を検討することが必要である.

本研究では,少数データから大メコン河流域圏の分析を行うためにシナリオを
多用している点が課題である.このため,シナリオのモデル化が求められる.

特に高速貨物鉄道導入による分担率変化は重要なファクターのため,分担率モ
デルの構築が必要である.
| 132

また,高速貨物鉄道の原単位(輸送費用,二酸化炭素排出量)の設定において,
機械に関する専門家などからアドバイスを受けながら更新することが求めら
れる.

本研究では総貨物輸送量の経路配分は行っていないが,採算性の議論を行うに
は経路配分を行うことで,より具体的に貨物輸送が集中するのかを明らかにす
ることが求められる.

さらに,本研究では全ての貨物輸送は輸送可能としているが,貨物鉄道輸送の
キャパシティー問題も存在することから,断面交通量の許容値などを設定する
ことは重要である.

炭素税と技術革新の関係性について整理する必要がある。炭素税導入の利点は、
一般的に「価格インセンティブ効果」、「財源効果」、「アナウンスメント効果」
が言われている。特に、技術革新との関係では、「価格インセンティブ効果」
との対応関係整理が必要となる。しかし、地域間交通部門において、航空や鉄
道、海運における価格インセンティブ効果による影響は定かではないため、こ
れらの因果関係整理が求められる。

さらに、炭素税と技術革新にはパラドクスを含む点に考慮が必要である。自動
車税制グリーン化の議論では、低燃費車への優遇税制導入により自動車の燃費
は改善したが、その分、走行距離が伸びるなどの副作用の影響により、二酸化
炭素排出量の抑制効果としては賛否が分かれる点でもある。本研究では、石油
依存度の高い航空部門において炭素税が導入されれば、短期的には課税効果に
よって需要抑制効果が働く可能性があるが、中長期的には航空分野における技
術革新が自動車部門が歩んできたように著しく改善される可能性もある。これ
は、航空利便性を高める方向に働く作用であり、鉄道への転換が進まず、航空
部門としての低炭素化は実現できたとしても、交通部門としての抜本的低炭素
化には資さない可能性も含んでいると考えられる。従って、これらの関係性整
理、及びその影響の定量評価は長期分析を行うことは、より長期の視点、かつ
総合的な視点からの低炭素化への議論を助けることへ綱がると期待するもの
である。
| 133
謝辞
本論文をまとめるに当たり,まず主査である林良嗣教授(名古屋大学大学院環境学研
究科)に深く感謝申し上げます.また,副査をお受け頂いた,森川高行教授(名古屋大
学大学院環境学研究科)
,加藤博和准教授(名古屋大学大学院環境学研究科)
,奥田隆明
教授(南山大学大学院ビジネス研究科)には,貴重なご助言を賜り,重ねて感謝申し上
げます.
林教授には,博士後期課程に入学したから直接ご指導を賜りました.最初に直接お話
をさせて頂いたのは学部 3 年生の時に,当方から面会のコンタクトをとり学食で食事を
一緒にさせて頂いた時でした.博士進学後,林先生とは,本当に多くの国内外の出張に
同行させて頂き,多くの方と挨拶をする機会を設けていただけました.これも林先生の
学生であったからこそ得られた貴重な経験です.このように多様は専門分野の方と多く
知り合う機会を頂けたからこそ,各種委員会等へもお声かけ頂くことができたと感謝し
ております.その関係で,研究室の活動が疎かになってしまう時期もあったことは反省
をしております.出張の際には,パワーポイント資料の作成を手伝わせて頂き,読み手
や聞き手が分かりやすい資料作り(色を極める)の神髄を学ばせて頂きました.3 年間
で何枚のスライドを作成したか分からないほどの資料作りの経験は,今回の論文執筆に
おいて非常に重要な基礎力となっております.また,国際シンポジウムの運営経験は,
運営を円滑に進めるために必要な準備,当日の対応など,今後の人生に必ず役立つ厳し
いご指導を頂けたことも貴重な財産です.本論文を執筆する上で,特に私が研究に行き
詰まった時には,休日の深夜でも相談に対応していただき,内容だけでなく気持ちを前
向きに進める言葉をかけて頂くなど,全力で論文作成に取り組める環境作りをして頂け
たことが,今回論文を書き上げることができた最大の要です.
森川教授には,本論文を執筆するに当たり,全体構成だけでなく詳細なモデル構造に
関する点など,分析結果を左右する点に関するご指摘を頂戴し,本論文を改善すること
に大変お世話になりました.特に,炭素税と技術革新の効果比較結果に関しては,細部
に至る点まで一緒になってご考察いただき,多くのことを学ばせて頂きました.改めて
御礼申し上げます.
加藤准教授には,博士後期課程入学後から直接の指導を受けさせて頂きました.特に,
学会論文投稿の際には,夜を徹して完璧なまでに誤字脱字の添削をいただき大変感謝し
| 134
ていると共に,毎回自分の確認不足でご面倒をおかけしていることが申し訳ない気持ち
でいっぱいでした.また,グローバル COE プログラムでは,博士課程二年時から伊勢
湾 ORT への参加にお声かけ頂き改めて感謝申し上げます.伊勢湾 ORT では,他専攻の
博士学生と知り合えたことが貴重な財産であるだけでなく,現場に飛び出し,住民や行
政の方々と共に作業をできたことは,今後の仕事をしていくうえでも大変貴重な経験と
なりました.本論文を作成する上では,休日でも相談にのっていただき,構成の組み方
や小見出しの付け方など細部までもご指導いただきありがとうございます.特に構成の
組み方に関しては加藤先生のアドバイスがなければ書き上げることができなかったと
改めて感じております.
奥田教授には,学部時代から 6 年間続けてご指導いただき大変感謝しております.学
部や修士時代には,当方の家庭の事情もあり研究スケジュールをご配慮いただきました
ことを改めて感謝申し上げます.おかげさまで,学部・修士時代を研究と家庭を両立す
ることができましたことは他には代えがたい時間を過ごさせて頂くことができました.
また,指導面においては,
一回の打ち合わせが 2 時間から 3 時間もかけて頂くことも多々
有り,当方の至らなさ故に,返答に行き詰まりながらも常に質問を浴びせ続けて頂いた
ことで,しっかりと物事を考える大切さを身につけさせて頂きました.また博士後期課
程に入学以降,先生が御転籍されてからも継続的にご指導いただけましたこと,改めて
御礼申し上げます.本論文は,6 年の奥田教授のご指導が無ければ書くことは決してで
きませんでした.先生の貴重な時間を当方の研究指導に割いていただけたことは,論文
を書くことだけでに留まらず,私の研究や物事の進め方などの一つ一つの礎になってお
ります.
上記の主査・副査の方々以外にも,私が本論文を執筆する上では,本当に多くの方に
支えて頂きました.
林加藤研究室の柴原尚希助教,中村一樹研究員,森田紘圭研究員には,研究内容につ
いてゼミ等で厳しいコメントをいただき誠にありがとうございます.質問に答えられな
い自分に歯がゆさを感じる日々も多々ありましたが,その経験が,最後まで諦めずに論
文を書ききるという原動力になっていました.また,特に柴原先生におかれましては,
本論文の提出に必要な資料作成等に大変ご尽力いただき,ここで改めて感謝申し上げま
す.他にも,秘書室の竹内裕子さん,臺信尚子さん,服部有里さんにはいつも笑顔で励
| 135
まして頂きありがとうございます.秘書室でおしゃべりをしている時間は気分転換にな
り,研究活動へ集中できる環境をいつも作って頂きました.また出張の手配,事務資料
など,学生の分まで作成,提出等をしていただけましたことも,研究活動へより専念す
る上で非常に助かっておりました.重ねて御礼申し上げます.他にも,既に卒業をした
後輩を含め,研究室の学生には突然のお願いごとをするばかりで迷惑をかけたかと思い
ますが,いつもサポートしてくれて本当にありがとう.一緒にご飯に行く時間なども全
て貴重な思い出です.
また,名古屋大学グローバル COE プログラム「地球学から基礎・臨床環境学へ展開」
では,本当に多くの先生方にお世話になりました.ありがとうございます.
最後に,私の博士課程までの進学を常に支えてくれた両親,家族に心より感謝致しま
す.
本論文は今後の人生の第一歩に過ぎません.今後,どのような仕事の場面でも,本論文
執筆でまなんだことを活かし,スライド作りにおける「色を極める」道を私も後輩へ引
き継いでいきたいと思います.以上で,本論文の謝辞と致します.ありがとうございま
した.
2014 年 2 月吉日
三室碧人
| 136
論文目録
(査読あり)
1. 三室碧人,奥田隆明: 地域間旅客交通部門におけるボーモル・オーツ税導入と
その再分配の評価,地球環境研究論文集,Vol.17, pp61-67, 2009.7,
2. Aoto Mimuro, Takaaki Okuda: A study on introduction environmental tax in intercity
transport sector and redistribution of the tax revenue in Japan, Selected Proceedings of
the 12th World Conference on Transport Research Society, pp.F4-02133, 2010.7
3. 奥田隆明,三室碧人: CO2 排出削減目標設定下における都市鉄道投資の便益計
測 ~ 通 勤 交通 を 対 象 にし て ~ , 土木 学 会 論 文集 G( 環 境 ) ,Vol.67,No.5 ,
pp.I_151-I_160,
2011.9.
4. 三室碧人,奥田隆明: 独占的競争理論を応用した地域間旅客交通部門の分析手
法の開発~今後の炭素税導入を見込んで~, 土木学会論文集 D3(土木計画
学),Vol.68,No.5(土木計画学研究・論文集第 29 巻), pp.I_1005-I_1012, 2012.12
5. Takuya Togawa, Aoto Mimuro, Hirokazu Kato, Yoshitsugu Hayashi, Satoshi Nishino
and Tsuyoshi Takano: Evaluation, Post-Disaster Reconstruction and Improvement
Management from QOL Standards in Disasters, The Proceedings of the IESL-SSMS
Joint International Symposium on Social Management Systems 2011, pp.362-369,
Colombo, Sri Lanka.2011.9
6. Tsuyoshi Takano, Hiroyoshi Morita, Takuya Togawa, Masayuki Fukumoto, Aoto
Mimuro, Naoki Shibahara, Hirokazu Kato and Yoshitsugu Hayashi: Evaluation of
Living Environment for Refugees after the Great East Japan Earthquake in Each
Detailed District,CUPUM (Computers in Urban Planning and Urban Management)
2013 Conference papers (Reviewed)
7. Aoto Mimuro, Takaaki Okuda: Impact Analysis of environmental tax and technological
improvement on intercity transport in Japan -Based on monopolistic competition
theory-, Selected Proceedings of the 13th World Conference on Transport Research
Society, pp.F4-6-0286, 2013.7
(その他)
1. 三室碧人,奥田隆明: 地域間旅客交通部門におけるボーモル・オーツ税の導入
について,日本環境共生学会第 12 回学術大会,2009,9
2. 奥田隆明,三室碧人: バックキャスティングに基づく都市鉄道投資の便益計測,
土木学会土木計画学研究発表会・講演集, Vol 40( CD-ROM,(40) 2009.10,
3. 奥田隆明,三室碧人: Backcasting に基づく公共投資の便益計測~鉄道投資を例
にして~, 日本地域学会年次大会学術発表論文集(CD-ROM),Vol.46,2009
| 137
4. 奥田隆明,三室碧人: 国内排出権取引の応用一般均衡分析, 日本地域学会年次
大会学術発表論文集(CD-ROM),Vol.47,2010
5. 奥田隆明,三室碧人: 国内排出権取引の応用一般均衡分析 ~地域経済への影響
評価~,第 24 回応用地域学会年次発表大会,2010,12
6. 三室碧人,奥田隆明: 地域間旅客交通部門における炭素税導入の影響評価~独
占的競争理論を用いて~, 平成 22 年度土木学会中部支部研究発表会,2011,3
7. 三室碧人,奥田隆明: 独占的競争理論を応用した地域間旅客交通部門の分析手
法の開発~今後の炭素税導入を見込んで~, 土木学会 土木計画学研究・講演集,
Vol.43, CD-ROM(68), 2011.5
8. Aoto Mimuro, Takaaki Okuda: Impact analysis of environmental tax on aviation
market in Japan, International symposium on EcoTopia Science(ISETS), Session
10E08-07(7153), 2011.12
9. 三室碧人,奥田隆明,林良嗣:途上国における空間構造変化と地域間交通システ
ムによる CO2 削減効果~タイを事例として~,土木学会 土木計画学研究講演集,
Vol.46, CD-ROM(37), 2012.11
10. 三室碧人,藤田将人,奥田隆明,林良嗣: 途上国における空間構造変化と地域
間交通システム導入による CO2 削減効果~タイを事例として~, 平成 24 年度
土木学会中部支部研究発表会,2013,3
11. 三室碧人,奥田隆明,林良嗣:低炭素地域間交通システム導入による経済・交
通・CO2 排出量への影響分析,日本環境共生学会第 16 回地域シンポジウムポ
スターセッション,P-16,2013.6.
【受賞】
1. 三室碧人, 劉晨, 林良嗣, 黒田由彦, 髙野雅夫,李全鵬, 王蕾娜:都市化の診断
と治療~自然科学と社会科学の新たな共通アプローチの試み~, 日本環境共生
学会第 14 回研究発表大会学生発表賞, 2011.9
| 138
付録
Appendix1 交通一般化費用と交通費用の関係
交通需要関数は,以下の通りである(再掲).
 c i  
x i    Air 
 c ij 
 3
x ijAir
(A.1.1)
また,交通一般化費用は,次の通りである(再掲).
cijAir  pijAir (1 TijAir )
(A. 1.2)
c(i)  p(i)(1  TijAir )
(A. 1.3)
ここで,式(A.1.2)および式(A.1.3)を式(A.1.1)へ代入すると,
 p i 1  TijAir  
x i    Air
Air 
 p ij 1  Tij 
 3
x ijAir
(A. 1.4)
すると,
 p i  
x i    Air 
 p ij 
 3
x ijAir
(A. 1.5)
となり,交通一般化費用から運賃を用いた方程式へ変換することができた.
次に,マークアップの導出方法について,詳細な計算の流れを示す.まず,交通需要関
数は,以下を用いる.
 p i  
x i    Air 
 p ij 
 3
x ijAir
(A.1.6)
ここで,式(A.1.6)から逆需要関数を導出すると
 x i  
p i    Air 
 x ij 

1
3
(A.1.7)
p ijAir
式(A.1.7)の両辺に対して,自然対数をとると,
ln pi  
1
3
ln xijAir 
1
3
ln xi   ln pijAir
次に,式(A.1.8)の両辺を ln x i  で偏微分すると,
(A.1.8)
| 139
Air
x ijAir p ijAir x i  x ijAir
 ln p i  1 x i  x ij
1



 ln x i   3 x ijAir x (i )  3 p ijAir x ijAir x ijAir x i 
(A.1.9)
したがって,式(A.1.9)の右辺第3項を整理すると,
Air
Air
Air
 ln p i 
1 x i  x ij
1
x i  p ij x ij



 ln x i   3 x ijAir x (i )  3 p ijAir x ijAir x i 
(A.1.10)
となる.ここで,バラエティに関する式は
1
x ijAir
3
 n
  3
   x i  
 i  1

(A.1.11)
となっているため,式(A.1.10)の右辺第三項の
1
 x ijAir

1  n
3  3

  x i  
 x i   3  i  1

1

 n
  3
   x i  3 
 i 1

 x ijAir 


 x i  


x 


 x i  


1
※3 
1  3
Air
ij
1
1   3 
xijAir / xi
 3 x i 1  
は,以下のように展開できる.
3
x i 
1  3
1  3
(A.1.12)
1
3
ここで,式(A.1.12)に,式(A.1.7)を代入すると,
 x ijAir
 x i 

p i 
p ijAir
(A.1.13)
となる.式(A.1.13)を式(A.1.9)へ代入すると,
Air
 ln p i  1 x i  p i  1
x i  p ij p i 



 ln x i   3 xijAir p ijAir  3 p ijAir xijAir p ijAir
さらに,式(A.1.9)の右辺第三項を調整すると,
(A.1.14)
| 140
Air
Air
x i  pij p i  xij
 ln p i  1 x i  p i  1



 ln x i   3 xijAir p ijAir  3 p ijAir xijAir pijAir xijAir
(A.1.15)
Air
Air
1 x i  p i  1
x i  p i  p ij xij



 3 xijAir pijAir  3 xijAir pijAir xijAir pijAir
となる.ここで,以下の仮定を置く.

Air
ij

xijAir pijAir
(A.1.16)
pijAir xijAir
また,Dixit-Stiglitz Model では対称均衡を仮定するため,均衡状態では,以下の関係
が成り立つ.
1 Air
x ij
n
p i   p ijAir
x i  
(A.1.17)
そのため,式(A.1.16)と式(A.1.17)を用いると,式(A.1.15)は以下のようにかきかえら
れる.
1  1  1
1
 ln pi 
      Air
 3  n   3  ij
 ln xi 
ここで,マークアップ
 





(A.1.18)
の定義式は,次のようになっていることを再確認する.
q (i )  p (i )
p (i )  q (i )
(A.1.19)
すると,式(A.1.19)を修正することで,以下の関係式を導出できる.
 
q (i )  p (i )
ln p i 

p (i )  q (i )
ln x i 
(A.1.20)
したがって,式(A.1.18)を式 A.(1.20)にしたがって書き換えること,
  
ln p i 
1
1 
 1  1
 
    Air 
 3  n    ij
 3 
ln x i 
ただし,式(A.1.16)で仮定した
 ijAir
(A.1.21)
は,航空需要に対する価格弾力性を現しており,式
の形が式(A.1.20)における中央の式と同じである.したがって,
 ijAir
に対しても,同様の
| 141
計算を与えることで, 1 および  2 だけで示せる式の形に転換することが可能である.具体
的には,以下の式展開から始まる.
1
 ijAir
 p ijAir x ijAir
 
(A.1.22)
 x ijAir p ijAir
ここで,航空の需要関数は,以下のようになっている.
x
Air
ij

Air
ij
 c ijAir

 c
 ij




 2
x ij
(A.1.23)
そこで,式(A.1.23)を交通一般化費用
x
c ijAir  
 x
 ij




Air
ij

1
2
 1
 Air

 ij





cijAir
について解くと,次のようになる.
1
2
(A.1.24)
c ij
以下,式(A.1.24)を,式(A.1.8)と同様に展開する.まず,式(A.1.24)の両辺を自然対数
をとる.
ln c ijAir 
1
2
ln x ij 
1
2
ln x ijAir  ln c ij 
次に,式(A.1.25)の両辺を
ln cijAir
ln xijAir
ln xijAir
1
2
ln  ijAir
(A.1.25)
で偏微分する.
Air
 cij xijAir
1  xij xij


 Air
 xij cij
 2  2  xijAir xij
1


1
2
1
2

Air
 cij  xij xij xijAir
1  xij xij

 xij  xijAir cij xij
 2  xijAir xij

Air
 cij  xij xijAir
1  xij xij

 xij  xijAir cij
 2  xijAir xij
(A.1.26)
ここで,式(A.1.26)を整理すると,以下のように式(A.1.22)と関連性を導くことができ
る.
ln c ijAir
ln x ijAir


 c ijAir x ijAir
 x ijAir c ijAir
 c ijAir  p ijAir x ijAir p ijAir
 p ijAir  x ijAir p ijAir c ijAir
(A.1.27)
| 142
また,本研究では交通一般化費用を,以下の Icebarg 型で仮定している.

cijAir  pijAir 1  TijAir

(A.1.28)
式(A.1.28)の両辺を運賃
 c ijAir

 1  T ijAir
 p ijAir
pijAir
で偏微分すると,以下のようになる.

(A.1.29)
以上より,式(A.1.29),式(A.1.28)を式(A.1.27)に代入し整理する.
ln c ijAir
ln x
Air
ij

 1 T

Air
ij
 p ijAir x ijAir
 x
Air
ij
p
Air
ij
1
1  TijAir


 p ijAir x ijAir
(A.1.30)
 x ijAir p ijAir

1
 ijAir
したがって,式(A.1.26)を展開することで,式(A.1.22)を求めることが可能であること
が分かる.ここからは,式(A.1.26)を整理する.まず,交通需要関数は,以下の CES 型で
定式化されている.
2
1
1
 2 1
 2 1  1

 2
x ij   ijAir  2 x ijAir  2   ijRail  2 x ijRail  2 


ここで,式(A.1.31)の両辺を,航空需要量
 xij
x
Air
ij
xijAir
(A.1.31)
で偏微分すると,以下のようになる.
2
1
 1 
 2  Air 1 Air  1
Rail 
Rail  




x
x


ij
ij
ij
 2  1  ij

2
2
2
2
2
2
2
2 1
1
 2  1 Air 1 Air  1 1
 ij
xij
2
2
2
1
1
1
 2 1
 2 1  1 

 2 2 Air 1 Air  1
2
  ijAir  2 xijAir  2   ijRail  2 xijRail  2 
 ij 2 xij


 xij
  Air
x
 ij
1
  2 Air 1
  ij  2


式(A.1.32)に,式(A.1.24)を代入すると,
2
xij / xijAir
の関係式を得られる.
(A.1.32)
| 143
 x ij
 x ijAir

c ijAir
(A.1.33)
c ij
式(A.1.33)を,式(A.1.27)へ代入し,整理する.
Air
Air
cijAir xijAir  cij xij
1 cij xij



 2  2 cij xij
cij xij  xij cij
ln cijAir
1
ln xijAir
(A.1.34)
 1
 cij xij  cijAir xijAir





 2   2  xij cij  cij xij
1
ここで,以下の仮定を置く.
S
Air
ij
c ijAir x ijAir

 ij  
c ij
(A.1.35)
x ij
 xij cij
(A.1.36)
 cij xij
式(A.1.35)の
SijAir
は,交通予算に占める航空予算の割合である.また,式(A.1.36)の
 ij
は,交通需要の価格弾性値である.したがって,式(A.1.35)および式(A.1.36)を式(A.1.34)
へ代入すると,次の関係式が定式化される.
ln c ijAir
ln x ijAir
 
 1
1  Air


S

 ij
 2  ij 
1
2
(A.1.37)
さらに,式(A.1.30)の関係から,
1
 ijAir
 
ln c ijAir
ln x ijAir

1
2
 1
1  Air


S

 ij
 ij  2 
(A.1.38)
を得る.そこで,式(A.1.38)を式(A.1.21)へ代入すると,
 
1

3  n
1
 1
1
1  Air
  1
S ij




   2  3   ij  2 
最後に,式(A.1.36)で仮定された
c
x ij   ij  ij
 ci




 ij



(A.1.39)
を解く.ここでは,以下の交通需要関数を用いる.
 1
ui
(A.1.40)
| 144
式(A.1.40)を,交通一般化費用
 x ij 
c ij   
u 
 i 

1
1
 1


 ij





c ij
について解くと,
1
1
(A.1.41)
ci
ここで,式(A.1.41)の両辺に対して,対数をとる.
ln cij 
1
1
ln ui 
1
1
ln xij  ln ci 
1
1
ln ij
さらに,式(A.1.42)に対して,両辺を
 ln cij
 ln xij

1
1

ln xij
(A.1.42)
で偏微分する.
1 u i xij ci xij

 1 xij u i xij ci
(A.1.43)
1 u i xij ci u i xij xi



 1  1 xij u i u i xij xi ci
1
ここで,CES 型効用関数は,以下のように設定されている.
1
 1 1
 n
u i     ij  1 x ij  1   i
 i 1
式(A.1.44)の両辺を,
ui
1 

  ij 1 xij
xij  1  1  i1
n
u
 i
x
 ij
1
 1 1
1
1
1
x ij
xi
1
  1 1


(A.1.44)
について偏微分する.
 1 1
1
1
  i 1 xi
1 1
1



1
1
 1 1
 1  1 1 11
 x
 1 ij ij
1
1
1
(A.1.45)
1
 1 1
  ij 1


また,式(A.1.41)を式(A.1.45)へ代入し整理する.
ui cij

xij ci
(A.1.46)
式(A.1.46)を式(A.1.43)へ代入すると,次の関係式を得る.
 ln c ij
 ln x ij

1
1

1 c ij x ij x i c i c ij x ij

 1 c i u i c i u i c i x i
ここで,次の仮定をおく.
(A.1.47)
| 145
S ij 
cij xij
(A.1.48)
ci u i
i  
xi ci
ci ui
(A.1.49)
したがって,式(A.1.48)および式(A.1.49)を式(A.1.47)へ代入する.
 ln c ij
 ln x ij

 1
1
 
  S ij
1 1 i 
1
(A.1.50)
ここで,式(A.1.36)の関係より,
1
 ij

cij xij
xij cij

 ln cij
 ln xij

1
1 
    S ij
1  i 1 
1
(A.1.51)
となる.以上より,式(A.1.51)を式(A.1.39)へ代入し整理する.
 
 1  1
1
1 
1  Air 
 1  1
 S ij 
  


  
S 
 3  n    2  3   1   i  1 
 2  ij 
1
(A.1.52)
以上より,マークアップの導出関係式を導出できた.
ただし,本研究は地域間旅客交通部門のみを分析対象とするため,各都道府県の平均所
得と人口の積から得られる総所得に対して,地域間旅客交通に費やす予算は愛知県発の例
で僅か 0.000045 と極めて小さい.そのため,式(A.1.52)の
S ij
S ij
に 0.000045 を代入すると,
の積となる項はほぼゼロとなる.以上の理由より,本研究では式(A.1.52)を以下のよう
に書き換える.
 
1
3
 1
1
1  Air 
 1  1
  



 S ij 
 n  2  3  1  2 

(A.1.53)
本研究では,式(A.1.53)を用いて,マークアップと運行便数の関係を表現することにな
る.
(導出は以上で終了)
| 146
Appendix2 運行便数 n の導出
ここでは,運航便数 n の求め方について説明する.まず,導出に当たって,以下三つの
式を用いる.
  pijnAir qijnAir  waqijnAir  F   0
(A.2.1)


 1  1


  1   1  1  SijAir 

 3  nijAir  2  3   ijAir  2 

1

Air
pijn

(A.2.2)
1 Air
aijn w
1 
(A.2.3)
ここで,説明の簡易化のために,利潤関数は可変費用を一つとして計算する.本研究で
は可変費用を二つとして分析を行うが,式(A.2.1)および式(A.2.3)の可変費用を二つとし
て計算すれば同様に適用できることを付記しておく.
まず,式(A.2.3)を式(A.2.1)に代入すると,以下の関係式を得る.
   Air Air

 aijn wq ijn  wF  0
1  
さらに,式(A.2.4)をマークアップ

(A.2.4)

について整理すると,以下のようになる.
F
a
Air
ijn
(A.2.5)
q ijnAir  F
次に,式(A.2.2)を説明の簡易化のために,以下のように書き換える.

1

3
 1
  Air
n
 ij

A


(A.2.6)
ただし,
A
1

2

 1
1 
  Air  2  S ijAir

 
  ij
1
と仮定する.ここで,式(A.2.5)と式(A.2.6)をマークアップ

 1
  Air
 3  nijn
1
(A.2.7)
3

F
A 
Air Air

a ijn q ijn  F


について整理すると,
(A.2.8)
| 147
となる.したがって,式(A.2.8)を運航便数
Air
nijn
について解くことで,運航便数を導出で
きる.
Air
ijn
n
 3 aijnAir qijnAir  F 

Air Air
F  3  1  aijn
qijn
以上で,導出は終了.
 1
1  1
1  Air 



 S ij 

 2
 3   ijAir  2 


(A.2.9)
| 148
産業連関表(2005 年)の初期値(中間需要)
14
0
1
9
0
0
1
1,537
24,444
33,004
0
0
0
3
375
19
0
54
5
15
1,596
130
46
1,135
109
2
6
167
7
1,287
100
30
479
40
0
0
1
29
198
1
5
39
0
1
3
0
0
0
0
0
16
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
34
184
44
0
0
0
0
0
0
0
4
0
1
6
0
0
0
0
0
1
0
0
1
0
0
0
0
0
0
1,412
7
39
121
0
11
9
0
0
0
0
3
49
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
283
565
276
0
1
0
0
0
0
0
12
0
7
17
0
0
0
1
1
3
0
0
3
0
0
0
0
1
0
281
340
485
3
0
59
0
0
4
0
0
0
0
0
24
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
274
100
0
0
0
0
0
0
0
6
0
0
8
0
0
0
0
0
2
0
0
1
0
0
0
0
0
0
16,383
3,701
5,531
7,152
192
36
102
1
8
10
0
3
3
0
336
741
0
0
0
1
1
0
0
47
54
0
0
0
0
1,167
1,685
1,588
1
46
0
30
266
5
122
180
3
3
3
11
16
249
4
11
106
2
0
0
0
31
86
234,951
18,078
38,552
178,321
3,624
119
3,983
23
26
404
9
10
119
1
1,123
28,981
9
1
13
11
3
9
1
158
2,097
9
0
0
0
3,898
65,912
29,995
4
1,781
8
100
10,388
97
407
7,034
49
10
116
215
53
9,736
70
37
4,154
42
0
0
1
105
3,374
122,394
23,120
27,618
71,656
4,361
22
849
28
5
86
10
2
25
1
203
6,178
11
0
3
14
0
2
1
29
447
11
0
0
0
704
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B1
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0
0
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B3
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B2
B2
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B1
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B3
B1
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S8
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0
0
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0
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S7
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0
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0
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5
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1
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0
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0
0
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S6
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0
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0
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0
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B1
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1,097
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139
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32
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1
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0
0
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B3
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S5
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13
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3
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B2
B1
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25
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25
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B1
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1,082
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10
12
0
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110
58
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23
13
152
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S4
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0
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S3
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120
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10
9
0
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1,385,478
S2
1,226
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B1
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S1
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R2
V1
V2
A1
A2
A3
A1
A2
A3
A1
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A2
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A3
A1
A2
A3
A1
A2
A3
A1
A2
A3
A1
A2
A3
A1
A2
A3
Total
Produciton
| 149
産業連関表(2005 年)の初期値(最終需要)
F1
R1
R2
R3
R4
R5
R6
R7
R8
R9
R10
R11
R12
R13
R14
R15
R16
R17
A1
A2
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A3
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A3
A1
A2
A3
A1
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A1
A2
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A1
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F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F10
F11
F12
F13
F14
F15
F16
F17
Total
58,310
1,062
1,677
681
29
101
161
43
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2
72
135
159
98
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32
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90
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302
29
4
231
0
38
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22
255
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1
0
18
149
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22
4
5
8
18
0
0
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0
2
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9,122
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539
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29
355
1
169
283
1,286
394
95
25
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480
151
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96
0
68
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2
31
0
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24
16
41
51
2
117,469
135,982
25,468
5,048
1,082,272
13,393
45
11,552
162
49
3,725
9
2,479
2,930
3,470
6,557
1,274
116
2,174,177
3,332,725
1,822
286
1,947,366
1,871
2
647
33
4
213
0
55
34
1,095
146
44
12
3,061,976
5,015,606
502
191
181
7,589
2
43
11
10
132
0
7
47
20
26
172
7
47,848
56,786
18,855
2,153
8,291
188,616
41
3,295
36
38
1,385
8
1,058
1,024
1,060
1,177
1,174
80
612,687
840,977
483
130
1,742
289,289
2
123
10
1
86
0
33
21
197
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