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留学生獲得のための入試広報戦略‐オールジャパンと個々の大学の戦略

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留学生獲得のための入試広報戦略‐オールジャパンと個々の大学の戦略
ウェブマガジン『留学交流』2013 年 12 月号 Vol.33
留学生獲得のための入試広報戦略
‐オールジャパンと個々の大学の戦略‐
明治大学国際日本学部・教授
横田 雅弘
Y OK O TA M a s ah i ro
キーワード:広報戦略、オールジャパン、入学選考
はじめに
2 01 3 年 4 月 の ウ ェ ブ マ ガ ジ ン『 留 学 交 流 』で 取 り 上 げ ら れ た「 留 学 生 の 獲 得 戦 略 ① 」
では、静岡大学安全保障輸出等管理室学術研究員の河合孝尚氏による「安全保障輸出
管 理 と は ? –外 国 人 留 学 生 受 入 れ に 係 る 問 題 点 -」 な ら び に 立 命 館 ア ジ ア 太 平 洋 大 学 ア
ド ミ ッ シ ョ ン ズ・オ フ ィ ス の 篠 崎 裕 二 氏 に よ る「 日 本 留 学 の リ ク ル ー テ ィ ン グ の 課 題 –
諸 外 国 の 先 進 事 例 を ふ ま え て -」の 2 本 の 論 文 が 掲 載 さ れ た 。前 者 は 、大 学 に 設 置 さ れ
ている安全保障輸出等管理室の立場から、留学生への教育を安全保障貿易に関する制
度から検討し、トップレベルの科学技術の海外流出・拡散や大量破壊兵器の開発に悪
用される可能性について注意を喚起している論文である。これまであまり取り上げら
れてこなかったものとして注目すべき内容であった。後者は、諸外国の事例と立命館
ア ジ ア 太 平 洋 大 学 (A P U ) の 事 例 を 具 体 的 に 取 り 上 げ 、 懸 命 の 努 力 に よ り 、 如 何 に APU
が 世 界 か ら 直 接 留 学 生 を 受 け 入 れ て い る の か が よ く 理 解 で き た 。 A PU で さ え 、 世 界 の
熾烈な留学生獲得競争の中では決して先端を走っているわけではないという現実を見
ると、これから大学就学人口の減少が始まろうとしている日本の一般の大学はどうな
るのだろうかと心配になる。非常に有益な論考であり、まだご覧になっていない方が
おられれば、是非ともご一読をお勧めしたい。さて、このテーマの第2回にあたる本
号 で は 、広 報 と 入 学 選 考 を 中 心 に 、留 学 生 の 獲 得 戦 略 に 何 が 必 要 か を 具 体 的 に 考 え る 。
1.
広報戦略 : 留学希望者は日本留学をどのように意思決定するのか
1-1. 国 を 決 め て か ら 大 学 を 決 め る ‐ オ ー ル ジ ャ パ ン の 広 報 戦 略 ‐
留 学 生 が ど の よ う に 留 学 先 を 意 思 決 定 す る か に つ い て は 、 豪 州 の 調 査 ( E du W or l d 、
2 0 0 1) も シ ン ガ ポ ー ル 大 学 が 実 施 し た 調 査 (H o K o n g C ho n g, B re n da Ye o h a n d oth e r s、
2 0 1 2) も 同 じ 結 論 を 出 し て い る 。す な わ ち 、留 学 先 の 決 定 は 第 一 に 個 別 の 大 学 が 選 ば れ
るのではなく、まず国が選ばれ、しかる後に大学が選ばれるのである。この点から、
個別の大学による広報の前にオールジャパンでの広報について考えてみよう。ここで
は、①日本の経済力や社会・文化から見た国力や魅力、②生活のしやすさ、③留学に
関する国レベルの広報力という観点を考える。
①については、日本の経済力は長期低迷をなかなか脱することができないが、とは
言え現在も世界第3位の経済規模を持つ国であるから、高度経済成長期の勢いは無い
が、国力は依然として大きい。確かに、留学生の就職という点では、高度経済成長期
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にあってもよかったわけではない。安いアルバイトとしては日本語学校生や留学生が
使 わ れ て い た が 、 正 規 雇 用 と い う 形 で は ハ ー ド ル は 高 か っ た 。 現 在 で も 、 J AS S O の 外
国人留学生進路状況調査によれば、進路が確認できた学位取得者のうち日本国内で就
職 す る 率 は 2 01 1 年 度 に お い て 3 5, 5 79 人 中 7 , 910 人 の 22 .2 % で し か な い 。同 年 度 で 私
費 留 学 生 の う ち 52 .2 % が 「 日 本 に お い て 就 職 す る 」 を 希 望 し て い る こ と か ら 、 決 し て
高 い 就 職 率 と は 言 え な い (芦 沢 、 2 0 13 ) 。 し か し 、 こ こ 数 年 で グ ロ ー バ ル 人 材 と し て 国
内 の 留 学 生 の 就 職 環 境 は 確 か に 上 向 き に な り つ つ あ る 。社 会・文 化 の 魅 力 に つ い て は 、
伝統的な日本文化に加えて現代のポップカルチャーが多くの若者の心を捉えている。
すなわち、①に関しては、以前と比べて勢いはないが、卒業後その社会で働いてもら
うことを前提に受け入れているシンガポールなどとは比べものにならないとしても、
必 ず し も 他 の 留 学 生 受 け 入 れ 諸 国 と 比 べ て 見 劣 り す る と は 言 え な い だ ろ う 。も ち ろ ん 、
今後アジア諸国の経済力が間違いなく急発展していく中で日本企業がグローバル化に
対応できなければ、当然比較優位性を失っていくことになる。ただし、現状では日本
企業の産業構造の転換はかなり進んでおり、日本企業自体が中小下請けもセットでア
ジアに進出し、生産、サービス事業を全面展開させる流れは止まらない。それに対応
して日本の大学が養成すべき中堅職業人材は、留学生か日本人かにかかわらず、これ
までのように国内向け人材としてではなく、アジアで(あるいは正にグローバルな場
で)対応できる(言葉を含め多様性を理解する)人材でなければならない。留学生の
就職可能性は、企業の動向故、大学ではコントロールできないところではあるが、大
学がどのような人材を育成できるのかが問われるところでもある。
②については、日本ほど安全な国はないと日本人は考えているし、確かに安全な側
面はある。しかし、この見方は必ずしも世界に浸透しているわけではない。中国の都
市部の日本語を学んでいない大学生、同じく日本語を学んでいる大学生、そして日本
の日本語学校生を対象に、米国・英国・豪州・韓国・日本についてどのようなイメー
ジ を も っ て い る か を 聞 い た ア ン ケ ー ト 調 査 (横 田 ほ か 、 20 0 9 )に よ る と 、 中 国 の 一 般 大
学生にとって日本の「生活の安全」イメージは米国、韓国とともに一番低かったが、
中国で日本語を学ぶ大学生と日本の日本語学校在学生は日本を圧倒的に安全だと評価
していた。安全といった基本的な情報も海外の一般的な大学生には伝わっていないの
である。確かに、調査後に起こった震災と原発事故、さらに領土問題をめぐる中国や
韓国との政治的軋轢など、日本の安全神話は日本の中ですら崩れつつある。特に中国
や韓国では、子どもが日本留学を望んでも、親はいろいろな意味で危険であるという
理 由 で 日 本 留 学 は さ せ た く な い と 考 え る ケ ー ス が 多 い 。む し ろ こ れ ら の 国 に つ い て は 、
父母への丁寧な説明が必要になっている。しかしながら、自然災害など如何ともしが
たいものもあるとは言え、犯罪率などを比べれば日本は依然として安全な国であり、
このような基本情報はもっと広報されてしかるべきだろう。
「生活のしやすさ」については、先のアンケート調査で、中国で日本語を学んでい
る大学生は生活しやすいと淡い期待をもっていたが、日本に来て日本語学校で学ぶ学
生 は 大 き く 評 価 を 落 と し て い た 。日 本 で は 許 可 を 取 れ ば 週 28 時 間 の ア ル バ イ ト が 可 能
で、それ故に留学費用を稼ぎながら勉強もできると考えて来るのであるが、生活する
ことはできてもその両立は大変であり、物価も高いので、決して生活しやすいわけで
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はなかろう。これに日本人からの偏見や疎外感というようなことも加わってくるので
はないかと思われる。
③として掲げた留学に関する国レベルの広報力の弱さはこれまでにも指摘され続け
てきた大きな課題であるが、これは本企画のテーマであり、次節でインターネットを
利用した広報とフェイス・トゥ・フェイスの広報に分けて詳しく論じる。
1-2. イ ン タ ー ネ ッ ト を 利 用 し た 広 報 (空 中 戦 )と フ ェ イ ス ・ ト ゥ ・ フ ェ イ ス の 広 報 (地
上戦)
留学生獲得のための広報戦略は、インターネットを利用した広報、いわば空中戦と
フェイス・トゥ・フェイスの広報、すなわち地上戦に分けて考えられる。図表1は、
在日本の日本語学校生に日本留学の情報入手先がどのようなものであったかを複数回
答 可 で 答 え て も ら っ た 結 果 で あ る (横 田 ほ か 、 20 0 9 )。 こ れ を 見 る と 、 基 本 的 な 情 報 は
やはりホームページから入手している。この段階ではまだ日本語も初中級程度の人が
少なくないと思われるので、多言語での対応は必須であろう。ネット環境はこの調査
当 時 ( 2 00 8~ 2 0 0 9 年 ) よ り も よ く な っ て い る か ら 、現 在 は さ ら に ホ ー ム ペ ー ジ の 役 割 は
大きくなっていると思われる。また、日本の留学関係諸機関、日本留学フェアや代理
店などからの入手も3割前後となっている。
0%
10%
20%
30%
40%
35%
1日本広報センター
29%
2.日本留学フェアー
28%
3.留学代理店
45%
4.ホームページ
7%
5.日本留学経験者から
9%
6.学校に直接問い合わせ
7.留学関連の出版物
4%
8%
8.母国の政府教育機関へ問合せ
9.母国の学校や先生に相談して
19%
10.母国の日本語学校の紹介で
19%
11.在日の親戚・知人から
12.その他
50%
3%
2%
図 表 1 : 日 本 留 学 情 報 の 入 手 先 (横 田 ほ か 、 2009)
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1-2-1. イ ン タ ー ネ ッ ト を 利 用 し た 広 報 (空 中 戦 )
1-2-1-1.
オールジャパンの空中戦
オ ー ル ジ ャ パ ン の ネ ッ ト に よ る 広 報 で 現 在 主 要 な も の は 、J A SS O の ホ ー ム ペ ー ジ ( ト
ッ プ ペ ー ジ は 1 5 か 国 語 、 日 本 留 学 ポ ー タ ル サ イ ト の Ga te w a y to S tu d y i n Ja pa n は 4
か 国 語 )、 外 務 省 の ホ ー ム ペ ー ジ S t ud y i n J ap a n C o m pr e he ns i v e G ui de ( ト ッ プ ペ ー ジ
は 10 か 国 語 )、そ し て (財 )ア ジ ア 学 生 文 化 協 会 (A B K )と (株 ) ベ ネ ッ セ コ ー ポ レ ー シ ョ ン
の 開 発 し た ポ ー タ ル サ イ ト J a p an St ud y Su p po rt ( J PS S )(4 か 国 語 )な ど が あ る 。 入 り
口がたくさんあることは必ずしも悪いことではないし、それぞれの特徴が生かされて
いるということには利点がある。しかし、利用者からすると、情報が部分的にしか提
供されていなければ、いろいろなサイトに飛ばないと全体を把握したり検索したりす
ることができない。留学希望者に必要な全ての情報がトータルに、きめ細やかに、具
体的に提供されているということがやはりオールジャパンのサイトの条件である。そ
の意味では、統合的なものがある方が利用者にとっては使いやすい。
現 状 で は 、 外 務 省 の St u dy i n Ja p an C o m pr e he ns i v e G ui de は 外 国 人 の 入 国 審 査 関
係について詳しく、留学については一応ポータルサイトとなっているが大学の検索な
ど は で き な い 。 JASSO の ホ ー ム ペ ー ジ は 、 文 部 科 学 省 の 取 組 や 日 本 語 能 力 試 験 と 日 本
留学試験、日本の留学生全体の統計データなどが詳しい。留学のポータルサイトとし
て は G a te wa y to St ud y in Ja pa n を 持 っ て い る が 、 こ れ も 大 学 の 検 索 は で き な い 。
そ こ で 、 日 本 留 学 に 関 心 の あ る 者 は 、 日 本 留 学 の 大 ま か な 概 要 を J AS SO 等 の ポ ー タ
ルサイトやホームページで掴み、その上で具体的にどのような学問領域にどのような
大 学 が あ る か を J P SS で 探 す 形 に な っ て い る と 思 わ れ る 。 JP S S は 、 各 教 育 機 関 の 入 学
形態と入試に関する具体的な情報がほぼ網羅されており、登録している大学について
は リ ン ク が 張 ら れ 、 入 試 要 項 の ダ ウ ン ロ ー ド が 可 能 で あ っ た り 、 W EB 出 願 シ ス テ ム を
持つ大学等については実際のアプリケーションと検定料のクレジット決済にまでつな
が っ て い る 。J PS S の 開 発 に は 筆 者 の 所 属 す る 明 治 大 学 も 参 加 し た の で 、少 し 宣 伝 の よ
うに聞こえるかもしれないが、利用者の目線に立った使い勝手の良さという点では群
を 抜 い て お り 、 20 13 年 4 月 1 日 か ら 7 月 31 日 ま で の 4 か 月 間 の 総 ペ ー ジ ビ ュ ー は 9 6
万 PV で 、新 規 訪 問 率 も 6 3% に 達 す る (外 国 人 留 学 生 受 け 入 れ 志 望 動 向 研 究 会 、2 0 13 ) 。
補 足 的 な こ と で あ る が 、J PSS の 国 別 ア ク セ ス 数 を 2 01 2 年 の 8 月 か ら 2 01 3 年 の 7 月
までの1年間で見ると、国内外からは約半数で、海外からはやはり中国が多いが、日
本 語 学 習 者 が 中 国 (約 1 0 5 万 人 ) に つ い で 第 2 位 の イ ン ド ネ シ ア ( 約 8 7 万 人 ) が 急 速 に 伸
ばしてすでに韓国の倍近いアクセスを示している。また、日本語学校入学者の爆発的
増 加 を み せ て い る ベ ト ナ ム が 第 7 位 に 登 場 し て い る (外 国 人 留 学 生 受 け 入 れ 志 望 動 向
研 究 会 、2 01 3 )。ア セ ア ン の ネ ッ ト 環 境 も 急 速 に 整 っ て く る こ と を 考 え れ ば 、今 後 は ア
セアンに向けた言語対応も必要になってくるだろう。
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国別アクセスランキング
全体比率
1
日本
50.92%
2
中国
12.69%
3
インドネシア
5.08%
4
韓国
2.69%
5
米国
2.57%
6
台湾
2.47%
7
ベトナム
1.34%
8
メキシコ
1.21%
9
タイ
1.15%
10
インド
1.00%
図 表 2 : JPSS へ の 国 別 ア ク セ ス ラ ン キ ン グ
※ JPSS サ イ ト デ ー タ よ り
1-2-1-2.
集 計 期 間 : 2012.08.01~ 2013.07.31
個別大学のホームページ
上記のようなオールジャパンのホームページと大学のホームページとはその役割
が大きく違う。もちろん、各大学のホームページに入ればその大学の情報は一番詳し
く掲載されているのではあるが、必ずしも留学を希望する外国人にわかりやすく掲載
されていないことや、多言語対応が遅れているなどの問題も少なくない。また、大学
のホームページは、そもそもその大学を候補の一つに選んでもらえなければ見てもら
うことのできない受身のツールであり、日本の大学全体についてある程度の認識を持
った者が選択肢を考える段階で初めて機能するものである。その意味からは、オール
ジャパンのネット広報から入ってもらい、そこで自分に合う研究分野やレベルを確認
し 、そ の 後 該 当 す る 個 々 の 大 学 の ホ ー ム ペ ー ジ に 入 っ て い く の が 自 然 な 流 れ で あ ろ う 。
ただし、大学のホームページにはオールジャパンのホームページにはできない広報
力がある。その一つの例として、ここでは留学に関する直接的な情報ということでは
なく、大学の授業の中身を知らせるという意味で、大学の授業をそのままネットで放
映 す る オ ー プ ン コ ー ス ウ ェ ア の 広 報 と し て の 活 用 を あ げ た い 。 米 国 の MIT の ホ ー ム ペ
ージで無料で見られる大学授業の動画映像の多さには驚かされる。中には英語の字幕
付きの映像もあり、英語を母語としない留学生には非常にありがたいものである。近
年米国では、授業時間には講義をせずに、学生があらかじめ自宅で教員の講義を映像
で 見 て 、 教 室 で は デ ィ ス カ ッ シ ョ ン や 質 問 を 受 け る と い う 反 転 授 業 ( f li p t e a ch i ng)
が 行 わ れ た り 、学 生 が グ ル ー プ デ ィ ス カ ッ シ ョ ン で 対 話 を 通 し て 学 ぶ ( p ee r l e a rn i n g )
ためのコーチを教員が担うことが求められているという。入学する大学でどのような
授業が行われているかを一部であるとは言え実際に見ることができるのは広報的にも
説得力のある方法である。
以上をまとめると、図表3のようになる。オールジャパンの政府系サイトから入っ
て日本留学とはどのようなものかについての概要を掴み、次にオールジャパンの大学
検索で具体的に領域検索を行ったり入試情報を入手して比較し、最後に各大学のサイ
トを詳しく調べて申請するのである。しかしながら、実際には申請するところまです
べてネットの情報だけというケースは少ないだろう。
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図表3 : 日本留学希望者が見るサイトの構造
1-2-2. フ ェ イ ス ・ ト ゥ ・ フ ェ イ ス の 広 報 (地 上 戦 )
1-2-2-1.
留学を決定させる重要情報
ホームページが基本的な情報の入手方法として効果を発揮しているのに対して、図
表 4 は 最 も 有 用 だ っ た 日 本 留 学 情 報 の 入 手 先 を 示 し て い る (横 田 ほ か 、 2009)。 ご 覧 の
とおり、こちらでは空中戦ではなく地上戦が有効であることが分かる。まず圧倒的に
影響力があるのは「日本留学の経験者から」である。米国の大学では、帰国した元留
学 生 を ピ ッ ク ア ッ プ し て そ の 地 域 の 広 報 マ ン に な っ て も ら っ て い る 例 も あ る (筆 者 も
一 時 期 そ の 広 報 マ ン で あ っ た ) 。実 際 の 経 験 者 の 言 葉 は 信 頼 度 が 高 く 、日 本 留 学 希 望 者
本 人 だ け で な く 、そ の 父 母 に も 安 心 感 を 与 え る 情 報 に な る だ ろ う 。広 報 戦 略 と し て は 、
どこにどのような卒業生がいるかを把握して、帰国留学生会などとも連携して積極的
に活用してはどうだろうか。
「 日 本 留 学 の 経 験 者 か ら 」 に 比 べ る と 半 分 程 度 で し か な い が 、「 日 本 留 学 フ ェ ア 」、
「母国の日本語学校の紹介」
「 留 学 代 理 店 」の 情 報 も 効 果 的 で あ る 。日 本 留 学 フ ェ ア の
ス タ ッ フ と し て 現 地 在 住 の 卒 業 生 (あ る い は 休 暇 で 国 に 戻 っ て い る 在 学 生 ) に 参 加 し て
も ら う 大 学 が 時 々 見 ら れ る が 、通 訳 と し て の 意 味 と い う よ り も 、
「日本留学の経験者か
ら」という意味がフェアに加わると考えれば、これはたいへん効果的なことだと思わ
れる。特に海外の留学フェアには親の参加が多いことを考えれば、留学経験者の一言
が決め手となる可能性が高い。
ただし、実際には海外の留学フェアに出向いても、受験は日本に来て受けて下さい
と言わざるを得ないことが多いし、英語で受け入れるプログラムが充実していなけれ
ば海外で日本語力が十分に身についているケースは韓国を除けば少ないので、日本語
学校を経由せずに直接受け入れることのできないケースが多い。こうなると、さした
る商品も持たずに展示即売会に参加することにも似た、滑稽な状況が出現してしまう
のである。
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実数
(% )
日本留学の経験者から
83
25%
日本留学フェア
42
13%
母国の日本語学校の紹介で
36
11%
留学代理店
35
11%
在日の親戚・知人から
31
9%
ホームページ
29
9%
日本の広報センター
19
6%
学校に直接問い合わせ
11
3%
母国の学校や先生に相談して
11
3%
母国の政府教育機関へ問い合わせて
5
2%
留学関係の出版物
3
1%
その他
7
2%
未回答
21
6%
333
100%
計
図 表 4 : 最 も 有 用 だ っ た 日 本 留 学 情 報 の 入 手 先 (横 田 ほ か 、 2009)
1-2-2-2.
オールジャパンの海外広報拠点を抜本的に再検討する
一方、オールジャパンの海外広報拠点という意味では、日本は大きな弱点をもって
いる。まず国を決めてから大学を選ぼうとする各国の留学希望者にきちんと対応する
こ と が 必 要 な の だ が 、 先 の 篠 崎 論 文 (2 0 1 3) に も 示 さ れ て い る よ う に 、 日 本 の 留 学 推 進
支 援 機 関 ( 主 な 機 関 は J A S S O ) の 海 外 拠 点 数 は 他 国 と 比 べ て 一 桁 も 二 桁 も 違 う 。し か も 、
筆 者 が タ イ の J A S S O 事 務 所 を 訪 れ た 時 の ヒ ア リ ン グ ( 横 田 ほ か 、 20 05 ) で は 、 主 な 来 訪
者は国費留学生希望者であり、それ以外の来訪者はあまりないとのことであった。し
かも、事務所に送られてきている資料のほとんどは日本語で、これから国費留学生に
なりたい高校生はそれらを読むことができない。同時にヒアリングしたオーストラリ
ア の タ イ 事 務 所 (I DP ) が カ ウ ン セ リ ン グ デ ス ク を い く つ も 並 べ て 丁 寧 に 一 人 ひ と り 対
応し、同じカウンセラーが4回も5回も会ってオーストラリア留学を決意してもらう
ま で 支 援 し て い る の を 見 る と 、な ん と も 言 葉 を 失 っ た 。国 際 交 流 基 金 や J I CA の オ フ ィ
スなどもあるのだから、連携して統合的なサービスをオールジャパンとして提供でき
ないのか。これは留学政策にかかわる誰もがこれまでずっと疑問に思っていることで
ある。海外拠点はやはり公的な機関に担っていただくのがよいが、国費留学生のため
の広報拠点に留まらず、日本語教育機関や高等専門学校、そして大学、大学院に関す
る 最 新 の 資 料 を 積 極 的 に 収 集 し て 、 オ ー ス ト ラ リ ア の ID P の よ う に プ ロ の ア ド バ イ ザ
ーをそれらの拠点に配置するくらいのことが必要であろう。
実 は 、 JASSO に は 、 海 外 広 報 の 拠 点 の 脆 弱 性 と い う 問 題 に と ど ま ら ず 、 専 門 的 な 機
能 を 大 幅 に 強 化 す る 必 要 は 他 の 意 味 か ら も 大 い に あ る 。 J AS SO に は 調 査 ・ 研 究 の 機 能
も し っ か り 持 っ て も ら い た い の で あ る 。 先 の 篠 崎 論 文 (2 0 1 3) で は 、 A PU が 如 何 に 苦 労
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し て 各 国 の 高 校 等 の デ ー タ を 収 集 し て い る か が 示 さ れ て い る が 、 公 共 的 な J AS S O の 性
格からしてランキングなどはできないにしても、各種データを提供してもらえれば、
そ こ か ら お よ そ の 状 況 が わ か る も の で あ る 。 AP U は オ ー ス ト ラ リ ア の A EI (A u s tr a l i a
E d u ca t io n I n te r na ti o n al )か ら 情 報 を 得 て い る と 先 の 論 文 に 述 べ ら れ て い た が 、 米 国
の W ES ( Wo rl d Ed u ca ti o n S e rv ic e s )や 中 国 の C D GD C( 中 国 教 育 部 学 位 与 研 究 生 教 育 発 展
中 心 ) な ど と 連 携 し 、各 国 の 拠 点 事 務 所 か ら の 情 報 も 集 め て 、こ れ を 日 本 語 で 各 大 学 に
発信する機能を果たしてもらいたい。大学が個別にこれらの作業を行うのはあまりに
も 負 担 が 大 き く 、 全 く 非 合 理 的 で あ る 。 そ の 意 味 で は 、 現 在 の JA S S O の 国 際 教 育 交 流
の 部 門 は 以 前 の AI EJ ( A ss o ci at i o n o f In t e rn a ti on a l E d uc at i o n, Ja pa n / 日 本 国 際 教
育 協 会 )の よ う な 専 門 組 織 に 戻 し て 、大 学 な ど か ら 専 門 の 研 究 員 を 受 け 入 れ て プ ロ を 育
て、日本の国際教育・国際交流については大学をリードし、アドバイスするくらいの
組織になって欲しいものである。
な お 、 グ ロ ー バ ル 30 の 試 み と し て 、 各 地 域 に 指 定 を 受 け た 大 学 が 事 務 所 を 設 置 し
て、そこを他大学にも開放して広報も行うといった施策が打ち立てられたが、筆者に
は 、設 置 し て い る 大 学 は と も か く 他 の 大 学 に と っ て は 機 能 し て い る と は 思 え な か っ た 。
ライバル関係にもある他大学の事務所を借りて入試説明会を開催したり、リクルート
に係る情報をやり取りすることはあり得ないからである。それならばむしろ、民間企
業にビジネスとして守秘義務を守って担ってもらう方がまだ可能性があるのではなか
ろうか。
1-3. 国 に よ る 学 期 の 違 い と 効 果 的 な 広 報 の 時 期
JPSS を 運 営 す る (財 )ア ジ ア 学 生 文 化 協 会 (ABK)と ベ ネ ッ セ コ ー ポ レ ー シ ョ ン に よ る
外国人留学生受け入れ志望動向研究会では、アジアを中心とした主要各国のアカデミ
ッ ク・カ レ ン ダ ー 、国 内 統 一 試 験 の 時 期 と J P S S に ア ク セ ス し た 件 数 の 多 い 月 の 分 析 か
ら、図表5のような効果的な広報の時期を推定している。入試の時期は国公私立で違
うだけでなく、秋入学も増えてくるとますます複雑になり、複数の大学を受ける受験
生にはわかりにくい。しかし、どの国にどの時期に広報をかければ一番効果的は重要
な 情 報 で あ り 、 入 試 に 求 め る 情 報 (統 一 試 験 の 成 績 な ど ) が 何 か 、 母 国 の 大 学 入 試 が い
つでその結果はいつ分かるかなどによって戦略を立て、それによって入試の時期その
も の も 検 討 し な け れ ば な ら な い 。 実 は こ の よ う な 情 報 に つ い て も 、 J A SSO が オ ー ル ジ
ャパンのために収集してくれるとありがたい。
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図表5 : 効果的な広報の時期
外 国 人 留 学 生 受 け 入 れ 志 望 動 向 研 究 会 、 2013
※ JPSS サ イ ト デ ー タ よ り 作 成
集 計 期 間 : 2012.08.01~ 2013.07.31
2. 入 学 選 考 の 方 法
日本の高等教育機関の入試は、大学で実施する学部独自の試験で学力を審査し、合
格 者 を 決 定 す る シ ス テ ム で あ る 。書 類 審 査 と 面 接 を 主 体 と す る い わ ゆ る A O 入 試 や 指 定
校からの推薦入試もあるが、欧米の主要大学に見られるような書類審査のみの入試制
度をとっている大学は最近までほとんど見られなかった。留学生に対しても、基本的
にはこの入試制度に対応できる学生のみを受け入れてきた。結果として、日本語学校
にいる学生が主な対象とならざるを得なかったのである。しかし、このような制度で
は、書類審査を主体とする欧米の入学選考に比べて受験者に経済的、精神的、時間的
に大きな負担を強いることになる。各大学は、丁寧に入試を行えば大学の特徴にあっ
た質の高い学生を受け入れられると考えているかもしれないが、実のところ入学前に
これだけ高いハードルを課すことは、留学先としての日本の魅力を低下させるだけで
な く 、学 力 的 に も 優 秀 な 学 生 の 獲 得 を 困 難 に し て い る の で は な か ろ う か( 芦 沢 2 01 3 )。
筆 者 は 、留 学 生 の 入 試 を 簡 単 に し て 入 り や す く す る こ と を 推 奨 し て い る の で は な い 。
実 際 、 篠 崎 ( 20 1 3)に は 、 む し ろ 入 試 が 厳 し い ほ ど 良 い 学 生 が 集 ま る と も 述 べ ら れ て い
る 。 た だ 、 M I T ( マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 工 科 大 学 )の よ う に 、 20 人 も の 入 試 専 門 職 の 職 員 を
抱 え て 多 様 な 選 抜 を 全 学 生 対 象 に 実 施 す る (朝 日 新 聞 、2 01 3 年 1 0 月 24 日 朝 刊 )と い う
のは雲の上の話としても、留学生を受け入れる目的の一つが日本にはなかなかいない
多様性のある学生を受け入れてキャンパスの活性化を図ることでもあると考えるなら
ば 、 国 際 人 材 枠 と で も 呼 べ る よ う な (そ の 意 味 で は 日 本 人 学 生 も 含 ま れ る だ ろ う が ) 多
様な観点から評価するユニークな入試があってもよいのではないかと考える。
も う 一 点 指 摘 し た い の は 、 芦 沢 (2013)が 述 べ る よ う に 、 優 秀 な 人 材 を 獲 得 す る た め
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ウェブマガジン『留学交流』2013 年 12 月号 Vol.33
には、入試広報、留学生リクルート、選抜方法、奨学金制度に一貫した戦略が必要だ
ということである。広報課と入試課と国際課が別々で、その間の連携がとられていな
ければ留学生のリクルートは難しい。しかも、それらの上には、どのような留学生を
どのような国々からいつまでにどのくらい、どういう目的でとりたいのかというトッ
プのビジョンがしっかりなければならないことは言うまでもない。
拙稿では、主に入試広報について論じ、入学選考の方法やあるべき姿については十
分に論じることができなかった。しかし、今や先進諸国だけでなく、これまでは送出
しだけであった国々も経済的な発展を見据えて留学生の獲得にも動き始めた。この世
界的な学生モビリティに対応していくためには、個々の大学のみならず、日本全体と
してもシステマティックな方策を打ち出していかねばならないだろう。
【参考文献】
朝 日 新 聞 、「 M I T 流 学 生 の 選 び 方 」 米 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 工 科 大 学 入 学 者 選 抜 責 任 者 S t u a r t
Schmill 氏 イ ン タ ビ ュ ー 、 2013 年 10 月 24 日 朝 刊 .
芦沢真五、
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外 国 人 留 学 生 受 け 入 れ 志 望 動 向 研 究 会 、「 外 国 人 留 学 生 受 け 入 れ 志 望 動 向 研 究 会 」 財 団 法
人 ア ジ ア 学 生 文 化 協 会 /ベ ネ ッ セ コ ー ポ レ ー シ ョ ン 共 催 の 研 究 会 資 料 、 2013.
篠 崎 裕 二 「 日 本 留 学 の リ ク ル ー テ ィ ン グ の 課 題 –諸 外 国 の 先 進 事 例 を ふ ま え て -」 ウ ェ ブ
マ ガ ジ ン 『 留 学 交 流 』 2013 年 4 月 .
横 田 雅 弘 ほ か 、『 ア ジ ア 太 平 洋 諸 国 の 留 学 生 受 け 入 れ 政 策 と 中 国 の 動 向 』 文 科 省 科 学 研 究
費 補 助 金 (基 盤 B)報 告 書 (研 究 代 表 者 :横 田 雅 弘 )中 間 報 告 書 、 2005.
横 田 雅 弘 ほ か 、『 外 国 人 学 生 の 日 本 留 学 へ の ニ ー ズ に 関 す る 調 査 研 究 』 文 科 省 先 導 的 大 学
改 革 推 進 経 費 委 託 研 究 報 告 書 (研 究 代 表 者 :横 田 雅 弘 )、 2009.
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Japan Study Support(JPSS) : http://www.jpss.jp/ja/
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http://www.studyjapan.go.jp/jp/toj/toj09j.html
2013 年 11 月 23 日 閲 覧
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