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修士論文 - 奈良先端科学技術大学院大学附属図書館

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修士論文 - 奈良先端科学技術大学院大学附属図書館
NAIST−IS−MT9951062
修士論文
データ解釈のための情報アニメーションに関する研究
高嶋章雄
2001年3月16日
奈良先端科学技術大学院大学
情報科学研究科情報処理学専攻
本論文は奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に
修士(工学)授与の要件として提出した修士論文である0
高嶋章雄
審査委貞:井上克郎教授
関浩之教授
中小路久美代助教授
松本健一助教授
データ解釈のための情報アニメーションに関する研究*
高嶋章雄
内容梗概
本論は,情報に隠されている意味を見出し解釈することを目的として,情報視
覚化の一手法であるアニメーションの効果とその利用法について考察するもので
ある.情報アニメーション,すなわち実体のない情報を視覚化して表現する際の
アニメーションの利用に関するノウハウの報告はほとんど見られない.そのため,
視覚化された情報を理解する際に有用とされる表現とのインタラクションについ
ても知見がないのが現状である.
そこで本研究では,情報を視覚化する手法としてアニメーションに着目し,(1)
動きのある表現が人間にもたらす認知的効果,および(2)ユーザが情報アニメー
ション表現と行うインタラクションの形態,という2点を論点と▲して,実際に情
報をアニメーションとして表現し表やグラフ表現と比較すること,また情鱒アニ
メーションとインタラクション可能なツールを構築することによって,ユーザ観
察を行い考察を行った.
その結果・インタラクティブな情報アニメーション環境においては,(1)変化
する情報のコンテキスト,(2)アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト,(3)
時間的,空間的なコントロール,という3つの側面が重要であることが知見とし
て得られた.
キーワード
情報アニメーション,データマイニング
*奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報処理学専攻修士論文,NAIST−IS−
MT9951062,2001年3月16日.
1
Information Animation
forUnderstandingData*
AkioTakashima
Abstract
Thegoalofthisresearchistoexploretheroleande鮎ctsoftheuseofanima−
tioninexploratorydataunderstanding・Despitetheexistenceofalargebodyof
researchoninformationvisualization,therehasbeenlittleknownregardinghow
andwhenoneshoulduseandhowtointeractwithinformationanimation.This
thesisha5eXploreqtheissuefromtwoaspects‥(1)whatcognitivee鮎ctsani−
mationhasinunderstandingdata,and(2)whatinteractionspeoplewouldhwe
withinformationanimationwhenunderstandingdata・Ihwefirstconducteda
userstudycomparlngefrbctsofrepresentationsamOngtables)graPhsandanimar
tions.Ithenha.vedevelopedaninteractiveinformationanimationenvironment
andconductedtheseconduserstudytoobservehowauserinteractswiththe
animationinunderstandingtheevolutionofobject−Orientedprogram1ibrariesaB
acaseexample.Throughthestudies,IhavefoundthreerequlrementSforinter−
activeinformationanimationenvironments:(1)toprovidecontextforchanging
information,(2)toprovidecontextalongtheplaying−time,and(3)toprovide
hands−OnCOntrOlovertimeandspace.
Keywords:
informationanimation,datamlnlng
*Master,sThesis,DepartmentofInformationProce8Slng,GraduateSchoolofInformation
Science,NaraInstituteofScienceandTechnologylNAIST−IS−MT9951062,March16,2001・
11
目次
1.序章
1
2.関連研究
4
2.1可視化による情報の理解‥.
4
2.2 インタラクティブな視覚化表現
4
2・2・1dynamicquery.‥.....................
5
2.2.2 0VerView+detai1...............‥....‥.
5
2.2.3 払cⅦS+context.‥‥‥‥..‥‥‥.‥‥‥.
6
2.3 アニメーションを用いた視覚化 ‥‥.‥‥.‥..‥.‥
6
2.3.1実在する物体の動きの表現‥.‥...‥‥.‥.‥
7
2.3.2 形のない情報の変化の表現.‥..‥‥‥.‥.‥.
7
2.4 インタラクティブな情報アニメーション.‥.‥.‥‥.‥
8
3.ユーザ観察1:アニメーションの認知的効果
10
3.1実験手法‥‥...‥‥‥‥‥.‥.‥.‥‥‥‥
10
3.2 仮説 ‥‥‥‥.‥‥‥..‥.‥.‥‥..‥‥.
13
3.3 結果 ‥‥.‥..‥‥.‥‥‥‥.‥‥‥‥.‥
13
3.3.1被験者毎の特徴‥‥‥...‥‥..‥...‥..
13
3.3.2 3種類の表現形態に対するユーザの反応の違い.‥‥‥
15
3.4 考察..‥‥‥‥‥.‥‥.‥‥‥‥.‥‥.‥
16
3.4.1表現毎の利用形態‥.‥‥.‥..‥.‥‥.‥.
16
3.4.2 データ解釈のための着眼点.‥.‥..‥.‥.‥.
20
3.5 アニメーションの認知的効果
24
3.6 まとめ ‥..‥.
26
4.ユーザ観察2:アニメーション表現におけるインタラクションの形態
28
4.1アニメーション制作環境.‥‥.‥.‥.‥‥‥
28
4.2 利用データ
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
30
4.3 動的視覚化
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ●
111
31
4.4 実験手順...‥.‥.‥.‥‥‥‥‥‥‥
33
4.5 結果および考察.....‥‥.‥‥‥・・・・‥
34
4.6 まとめ.‥ ‥.‥‥‥.‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥
39
5.考察:インタラクティブ情報アニメーション環境構築に向けて
40
5.1変化する情報のコンテキスト ………・‥‥
41
5.2 アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト...‥.
43
5.3 時間的,空間的なコントロール
44
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
48
5.4 まとめ ‥‥ ‥...‥ ‥
6.今後の課題
49
7.まとめ
51
謝辞
52
参考文献
54
付銀
57
A.ユーザ観察1における実験データ
57
B.発表文献リスト
59
1V
図目次
1 静的表現と動的表現の対比....‥‥
9
2 データⅠの例 ‥‥.‥‥‥..‥
11
3 データⅠⅠの例 ‥.‥.‥.‥‥‥
11
4 アニメーション化における変化軸の取り方
25
5 アニメーションの例
29
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
6 表による表現....‥.‥‥‥‥..
32
7 空間の奥行きを時間軸にしたグラフ...‥
32
8 プロジェクト毎のグラフアニメーション..
33
9 差分の表現 ‥...‥.‥‥.‥.‥.
35
10 グラフ上方からの透視投影‥‥...‥‥
38
11色の変化と透明度によるコンテキストの表現.
42
12 具象的なオブジェクトによる表現‥.‥‥
43
13 日盛り付きスライダ.‥.‥.‥...‥
45
14 スナップショット付きスライダ.‥..‥‥
45
表目次
1 課題の提示順序..‥.‥.‥‥...‥‥
12
2 データ解釈のための着眼点とそれを表現する発話例
21
Ⅴ
1.序章
古くから,様々な情報をより直感的に理解させることを目的として,絵やグラ
フなどの視覚的な表現が多く用いられてきた【17ト近年では,計算機の普及およ
び性能の向上に伴い,計算機上で多種多様の視覚的な情報表現が可能となり,ま
たそれらの表現とインタラクションを行うことによって様々な視点からみた可視
化表現を動的に構築することが可能となった.しかし,それぞれの表現方法がも
つ効果をよく理解せずに利用することによって,情報が歪められて伝わることや,
焦点が曖昧になってしまうという問題がある【15ト より高皮な表現方法を上手く
利用するためのノウハウを知ることが,情報視覚化における初期段階での基本的
かつ重要な要素であるといえる.
本論は,情報に隠されている意味を見出し解釈するための手法として,情報視
覚化の一手法であるアニメーションの効果とその適切な利用法について考察する
ものである.ここでいうアニメーションとは,情報を動的に変化させて表現する形
態を指す.Disney[6]に代表されるアニメーション映画(animatedcartoon)の制
作に関しては,効果的な動きを表現する知見が多数報告されている【1外 しかし,
情報アニメーション,すなわち,実世界に存在しない情報を視覚化して表現する
際のアニメーションの利用に関するノウハウの報告はほとんど見られない【8トま
た,テレビや映画といった従来のアニメーション技術では,受け手は動的に変化
する可視化情報を受動的に見るだけであったが,アニメーションを計算機上で構
築することによって,コンピュータゲームに見られるように,ユーザがアニメー
ションと動的にインタラクションすることが可能となった.
そこで本研究では,情報を視覚化する手法としてアニメーションに着目し,
(1)動きのある表現が人間にもたらす認知的効果,および
(2)ユーザが情報アニメーション表現と行うインタラクションの形態
という2点を論点として,実際に情報をアニメーション表現すること,また情報
アニメーションとインタラクション可能なツールを構築することによって,ユー
ザ観察を行い考察した.
具体的には,まず,アニメーションの持つ認知的効果を調べるために,数値情
報を,(a)表,(b)棒グラフ,(c)一軸を時間軸にとりアニメーション化した棒グ
1
ラフ,という3つの表現形態でコンピュータディスプレイ上に表した.計14個
のデータセットを用いて,3名の被験者にこれらの表現における数値データの印
象の違いを発話してもらいその様子をビデオで記録した.これらの結果から,ア
ニメーション表現が効果的に作用するのは,
(1)データの変化に着日したい場合と,
(2)軸を固定して変化を見たい場合,
であることがわかった.
次に,インタラクティブな情報アニメーション作成環境を構築し,利用者がど
のようにアニメーション表現とインタラクションをおこなうかについて観察した.
上述の実験の結果より得られたアニメーション表現が効果的に作用する2点の性
質を有するデータとして,オブジェクト指向プログラミングによるソフトウェア
開発におけるクラスライブラリの進化を例題として用いた.360個余りのバージョ
ンごとの,クラス数,クラスメソッド数,およびインスタンスメソッド数をそれ
ぞれ3次元空間における棒グラフとし,バージョンの変化および時間の変化に応
じてアニメーションを作成した.この環境においては,再生制御機能,視点変更
機能,変化値表示機能を利用して,ユーザは,インタラクティブに表現を操作し,
値を読み取ることができることとした.被験者として,実際にこのクラスライブ
ラリ開発に携わったメンバーを用い,データの理解を目的としてどのようにイン
タラクションを行うかの様子をビデオで撮影し発話を記録した.その結果被験者
は,空間に対するインタラクションと,変化する時間に対するインタラクション
を以下のような目的のために行うことがわかった.
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
(2)特定の時刻の検索
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
これらの結果をもとに,インタラクティブな情報アニメーション環境において,
以下のような側面が重要であると考えられる.
(1)変化する情報のコンテキスト
(2)アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト
(3)時間的,空間的なコントロール
2
これらの要件を情報アニメーション環境に取り入れることによって,情報のよ
り深い解釈が可能となると考えられる.
本論文の構成は以下の通りである.2章では関連研究として,視覚化による情
報解釈を支援する技術について概観したのち,特にインタラクティブな視覚化を
行う研究について述べる.次に,情報を視覚化するためのアニメーション表現に
着目し既存のアニメーションの特徴と利用のされ方について説明する.3章では,
アニメーション表現の持つ認知的特性を調査するために行った,静的な表現(表・
棒グラフ)とのデータ解釈における認知的効果の違いに関するユーザ観察につい
て述べる.4章では,実験から得られた結果をもとに作成したインタラクティブ
な情報アニメーション構築環境について説明する.そしてオブジェクト指向プロ
グラミングによるソフトウェア開発におけるクラスライブラリの進化を題材とし
て制作したアニメーションを用いて行った,ユーザ観察実験について報告しアニ
メーション表現とのインタラクションについて述べる.5章ではインタラクティ
ブな情報アニメーションとしての表現について考察する.6章で今後の課題を述
べ,7章でまとめる.
3
2.関連研究
本章では情報の視覚化(可視化)に関する研究分野について述べ,代表的ない
くつかのシステムについて説明した後,本研究が目的とする問題領域について述
べる.
2.1可視化による情報の理解
古くから,様々な情報をより直感的に理解させることを目的として,絵やグラ
フなどの視覚的な表現が多く用いられてきた【17】.
図による表現は,現実の事象をそのまま表現したものではない.そのため,図
表現に関する研究では事象に含まれる特定の意味内容をより理解しやすくするた
め,あるいは何らかの意味を見出しやすくするために,対象となる情報やデータ
群とそれらとの関係状態を,捉えやすく表現することが重要とされている.また,
直観的な理解だけでなく,言語では語り得ない事柄を表現し,思考を整理し,発
展させるために図形を用いること,新たな表現方法を生み出すことを目的として
今もなお多くの研究がなされている【9ト
2.2 インタラクティブな視覚化表現
近年では,計算機の普及および性能の向上に伴い,計算機上で多種多様の視覚
的な情報表現が可能となり,またそれらの表現とインタラクションを行うことに
よって可視化表現を動的に扱うことが可能となった.本節では
(1)dynamicquery
(2)overview+detai1
(3)focus+context
という3つの技法について説明する.
4
2.2.1dyna皿Cquery
視覚化された表現に対する効果的なインタラクションの利用法として,dynamic
queryが挙げられる・これは,大量のデータの中からあるデータを検索する際に・
スライダバーを調節するなどの計算機とのインタラクションによってクエリーを
生成し,同時に結果を表示するものである.ユーザはクエリーの変化による結果
を瞬時に見ることができ,動的な検索が可能となる.リアルタイムでのフィルタ
リングにより,特定のデータを捜し出すだけでなく情報をしぼり込む際に有効で
ある.
例えばFilmFinder[1】は,映画データの様々な属性を視覚化して表現し,リア
ルタイムフィルタ1)ングによる検索を行うシステムである.ユーザはFilmFinder
を用いることで,映画の属性をもとに特定の映画情報を捜し出すことや,フィル
タリングにより不必要な映画情報を排除して表示することができる.ここでの目
的は,データを捜し出すことあるいは放り込むことであり,データ空間を理解し
ょうとするものではない.本研究では,特定のデータを探すことよりもデータ空
間自体の理解の支援に着目しており,この点でFilmFinderと目的を異にする.
2.2.2 0VerView+detail
次に,データ空間を探索するためにインタラクションを用いる方法として,
。VerView+detailと呼ばれる手法について述べる.構造の決まったデータ空間を
視覚化して情報を理解しようとする際に,ある一部分に注目して情報を見たいと
いうニーズがある.しかし,注目する部分のみを拡大して表示すると,それが全
体の構造のどの部分であるかを知ることができなくなる.overview+detailでは,
複数構造の概観と詳細をそれぞれ別のウインドウに分けて同時に表示し,焦点を
当て詳細を表示するウインドウが,全体を概観するウインドウのどの部分に対応
しているかを表示することで問題を解決している.ユーザが注目点を自由に変更
することができ,全体像を見ながら情報空間を探索することが可能となる・
例えばPDQTree−browser[11】は階層的な構造を持つ大量のデータを2次元の
ツリー構造として視覚化し,概観と詳細に分けて2つのウインドウに表示するも
のである.さらに,注目していない部分の枝を刈り込むことで,情報の探索が効
5
率良く行えることを確認している.
2.2.3 払cus+context
OVerView+detai1と目的を同じくする手法にfocus+contextがある.overview+
detailのように複数のウインドウにまたがって情報を理解しようとする場合,情
報の関連性を見失なったときに情報探索の効率が落ちるという問題点があり,そ
れを解決するために1つのウインドウ内に概観と詳細を表示するアプローチを
取ったテクニックが払ⅢS+contextである.代表的な手法としては,魚眼レンズ
を模して中心部分だけを拡大することで詳細を表し,中心から離れるにつれて情
報空間を歪めることで情報の概観も損なわずに表示するものが挙げられる【7】.
この手法により作成されたシステムにHyperbolicBrowser[12】がある.自由に
視点を移動させることで,詳細と概観の表示が同期して変化し,情報空間を理解
するのに役立っている.また,Cone−T代e【16】では階層構造をもつ情報を3次元ツ
リー構造で表し,注目したい部分を3次元空間の手前に,それ以外の部分を奥に
配置することで払cⅦS+contextを実現し,インタラクティブな視覚化を行っている.
本研究ではoverview+detailおよびfocus+contextと同様に,詳細まで見よう
として注目する部分と,それ以外の概観を保つ部分の重要性について考察を行う.
しかし,本研究では情報の一軸をアニメーションの変化軸として捉えるため,概
観と詳細を表す対象は,これらの技法が対象とするような構造の決まったデータ
空間のみではなく,変化軸お‘よび変化するデータそのものとなる.
2.3 アニメーションを用いた視覚化
前節で述べた視覚化システムでは,ユーザとのインタラクションに応じてシス
テムが表示している情報を動的に変化させており,一種のアニメーションと捉え
ることもできる.本節では,情報が持つ一軸を変化軸と考え,対象とする情報を
システムが自動的に変化させる様子をアニメーションとして表現することに着目
する.アニメーション表現の対象として,
(1)実際に存在する物体の動きを表そうとするもの,および
6
(2)形のない情報の変化を表そうとするもの
の2種類が考えられる.以下にそれぞれの分野での研究を紹介する.
2.3.1実在する物体の動きの表現
まず,アニメーションとして物体の動きを表現するものとしては,テレビや映
画のような従来のアニメーション技術が挙げられる.Disney[6]に代表されるアニ
メーション映画(animatedcartoon)の制作に関しては,効果的な動きを表現す
る知見が多数報告されている.たとえば物体の早さを表現するために残像や土煙
を残したり,擬人化した無機質な物体を人間らしく表す動作などの,独特の手法
が数多く存在する.
同様に,計算機上でも人間やネズミ,ボールといった実世界に存在するものの
動きを,CGでリアルに,時には誇張して表現するものがあり,効果的かつアニ
メーションでしかできない表現に関するノウハウも提案されている【13ト また,
サイエンティフィツクビジュアリゼーションの分野においては,流体の流れや分
子の動きなどの科学的な現象を解明するため,時間軸に沿って変化する物体をア
ニメーションとして視覚化する研究が広く行われている.
2.3.2 形のない情報の変化の表現
形のない情報を可視化したものの変化をアニメーションで表現するものとして,
InformationAnimation[19]と呼ばれる比較的新しい研究分野がある・ここでは,
情報をアニメーションで表すことによりデータ分析や意志決定タスクに役立てる
ことを目的としている.
例えばW上ight【19]は証券取り引き等の時々刻々と変化する情報を,動的な棒グ
ラフに似た表現としてリアルタイムでアニメーション化し,意志決定を促進させ
るのに利用している.また,同様に実体のない数字を対象としたアニメーション
表現を行うシステムにBreathingEarth[3]がある.これは,地球上で実際に観測
された地震のマグニチュードの大きさを半球状のオブジェクトの大きさにマッピ
ングし,3次元で表された地球の表面に配置している.実際の時間を短縮したも
のをアニメーションの変化軸としており,地震の発生した時刻になると,発生し
7
た場所の一点が徐々に半球状にふくらみ,あたかも地球の表面の一部が飛び出し
たかのような印象を与える.
本研究でアニメーションの対象とするものは,2.3.2節で述べたような,数億な
どのもともと実体を持たないものである.アニメーションを用いて表現すること
は,静的な表現と非常に異なった印象を与えることがあり,ユーザに新たな視点
から情報を捉えさせる可能性を秘めている.しかし,上述の2つのシステムのよ
うな先駆的な研究があるものの,一般にこのようなInformationAnimationの分
野では効果的なアニメーションの利用に関するノウハウはほとんどない.
2.4 インタラクティブな情報アニメーション
本研究では前節で述べた通り,形のない情報を対象として,アニメーションで
表現することについて研究を進める.そこでは,アニメーションの持つ認知的効
果や特性を知ることが,第一の,かつ重要な課題である.図1では,静的な2次
元グラフと動的な1次元グラフの対比,および静的な3次元グラフと動的な2次
元グラフの対比を表している.ほぼ同一の情報を扱っていたとしても,見るもの
にとって非常に異なる印象与えるであろう.グラフに限らず,視覚化された情報
をアニメーションを用いて表現する場合には,その長所や短所を十分に理解した
上で利用することが重要である.
また,既存の視覚化に関する研究から,表現されたものとのインタラクション
が,情報空間を理解する上で非常に重要な役割を担っていることが報告されてい
る【5ト情報アニメーションの分野においては,その表現手法に関するノウハウが
少ないのと同様に,インタラクション手法についても知見がほとんどない.
そこで本研究では,情報を視覚化する手法としてアニメーションに着目し,
(1)動きのある表現が人間にもたらす認知的効果,および
(2)ユーザが情報アニメーション表現と行うインタラクションの形態
という2点を論点として,ユーザ観察を行った.以下3章で認知的効果を探るユー
ザ観察を,4章でインタラクションの形態を探るためのユーザ観察についてそれ
8
職
■■■i錮
場
図1静的表現と動的表現の対比
ぞれ述べる.
9
⊥一
3.ユーザ観察1:アニメーションの認知的効果
本章では,情報を静的な表現と動的な表現で表した際の違いに着目し,アニ
メーションの認知的効果を探る事を目的として実施したユーザ観察実験について
報告し,その結果について分析する.この実験では,数値リストを,表,グラフ,
アニメーションの3種類の手法で表現し,そこから得られる印象の違いや,情報
の解釈の違いについての観察を行い,特にアニメーション表現の特性や特徴に着
日して結果をまとめる.
3.1実験手法
本節では,アニメーションの認知的効果を探るために行ったユーザ観察実験の
タスクおよび被験者,実験手順について説明する.
本実験では,実験データの数値リストとして次の2種類を用意した.
・データ群Ⅰ:10個の値を持つ項目1つ(A)から成るデータ(図2一(1))
・データ群ⅠⅠ:10個の値を持つ項目3つ(ABC)から成るデータ(図3−(1))
値は0から100までの5きざみの数字をランダムに配列したものであり,これ
らのデータの項目や備に特定の意味は持たせてはいない.
これらの2種類の数値情報を,それぞれ
・(a)表
・(b)棒グラフ
・(c)データの一軸を時間軸として作成した棒グラフのアニメーション
という3つの表現形態でディスプレイ上に表した.
(b)の棒グラフ表現としては,データⅠに対して2次元の棒グラフを(図2−(2)),
データⅠⅠには3次元の棒グラフを(図3−(2))それぞれ使用した.アニメーション
では,それぞれの項目の持つ10個の値のそれぞれを,データⅠでは1本の棒グラ
フとして(図2一(3)),データⅠⅠでは,ABCそれぞれに対して計3本の棒グラフと
10
主
+∴∵ ++
(1)
(3)
(2)
図2 データⅠの例
禁鷹柁
立
聖_ _ _関._.
:..目
。堅固巳
(2)
(1)
図3 データHの例
11
P)
表1課題の提示順序
順序
データセット
1st. 2nd. 3rd.
1 表 グラフ アニメーション
2 表 アニメーション グラフ
3 グラフ 表 アニメーション
4 グラフ アニメーション 表
5 アニメーション 表 グラフ
6 アニメーション グラフ 表
7 同時
して(図3−(3))表示し,時間経過と共に10個の値が順次動的に表示されるように
した.なお,本実験で使用した表およびグラフ表現はMicrosoft社製Exce12000
を利用し作成した.アニメーションは,Adobe社MacromediaDirector8を利
用して制作した・また,アニメーションの再生にはAppleComputerQuickTime
Player4を使用した.
表現形態が及ぼす認知的効果を考慮するためには,表・グラフ・アニメーショ
ンの提示順序が重要となる.そこで順序の影響を排除するため,可能なすべての
6通りの順序で表現形態を提示することとし,さらに3種類の表現形態を同時に
見せる場合も加えて,データⅠ,ⅠⅠそれぞれに対して,計7通りの数値データを
準備した.実験に用いた数値データを付録Aに示す.それぞれの数値には,同
程度のばらつきを持たせるよう配慮した.
データⅠ,ⅠⅠ,のそれぞれについて7通り,計14通りの提示を,被験者3名に
対して行った.表現形態の提示の順序を,表1に示す.まずデータⅠの種類の各
データをこの順序で提示し,次にデータⅠⅠの種類の各データをこの順序で提示し
た.被験者は大学院生と大学院スタッフで,コンピュータを日常的に使用してお
り操作方法を熟知している.実験で利用した表現のうち,3次元のグラフ表現で
12
は視点を自由に変えてグラフを見ることができる.また,アニメーションには再
生ボタンの他に,アニメーションをコントロールするスライダがあり,被験者は
自由にアニメーションを前後させて見ることができる.
実験はThinkAloudProtocolで行い,被験者にはそのとき考えていることや
感じたことを発話してもらった.その様子を録画し,後に分析を行った.また,
実験後被験者全員に一堂に会してもらい,実験中に採取したメモをもとに実験時
に気づいた点などをディスカッションしてもらった.
3.2 仮説
実験に際して,各表現形態の認知的効果として以下のような仮説を立てた.
(1)表の数値は具体的な値を知りたいときに有効である
(2)グラフは全体の流れを捉えたいときに有効である
(3)アニメーションは債の変化に注目したいときに有効である
実験結果を考察するにあたっては,これらの仮説が成立するか否かに着目した.
それと同時に,特にアニメーション表現についてそれがデータ解釈において有効
となるようなデータの性質についても考察を行うこととした.
3.3 結果
本節では,上述の実験より得られた結果について,まず3人の被験者毎の特徴
をまとめ,次に,3種類の表現形態に対するユーザの反応の違いの概要を,3つ
の表現形態を同時に提示した場合の観察より得られた結果を用いて論じる.各表
現形態に対する詳細な考察は,次節で行う.
3.3.1被験者毎の特徴
観察を行った3人の被験者に対して,それぞれ観察された特徴をまとめる.
13
被験者a:
被験者aは,全般的にデータを連続的なものであると捉えがちであった.また,
表やグラフを見るのにかける時間に比して,それよりはるかに長い時間をかけて
アニメーションを見ていた様子が観察された.さらに,アニメーションを見る際
にはスライダを多用して変化をコントロールする傾向があり,一定速度の再生を
繰り返して行うことは少なかった.
特に,データⅠの各データに対しては,その全体の流れを掴むのにグラフを多
用していたのに対し,データⅠⅠの各データの項目ABC間の比較をする際には,
アニメーションを多く利用していた.そして,データが読み取りにくいことと操
作性の悪さから,データⅠⅠの3次元棒グラフによる情報の解釈に対して消極的
であった.
提示データには何の意味もないと教示していたにも関わらず,データⅠⅠの各
データの情報に対して勝手に意味を持たせ,例えば「ここでAがBに逆転される」
といった,変化に沿ったストーリーを作成することで解釈する傾向も見られた.
被験者b:
被験者bは,実験の初期の段階ではデータを離散的なものと捉えていたが,実
験を進めるにしたがって連続値として捉えるようになった.グラフとアニメーショ
ンを時間をかけてじっくりと見る傾向も観察された.アニメーションのスライダ
はほとんど利用せず,一定速度での再生を繰り返すことが多かった.
また,データⅠのアニメーション表現に対して,その動きにのめり込んで自分
の体も動かしそうになるという特徴も観察された.データⅠⅠに関してはABCの
変化を捉えるのにアニメーションが有効としながらも,ABCの比較に関しては
グラフによる表現を中心として情報を解釈しようとしていた.
被験者c:
被験者cは,実験全体を通して常に与えられた情報をグラフとしての視覚的イ
メージに変換しようとする様子が観察された.グラフで表現された値とアニメー
ションによる値の変化を,それぞれ塊として認識する傾向が多くみられた.
14
アニメーション表現に対しては初めに何度か再生を繰り返した後,スライダの
端から端まで(アニメーションの最初から最後まで)を順方向,逆方向に進ませる
操作を繰り返した.
3次元棒グラフが最初に提示された際に自分が最も理解しやすい視点(斜め上
方から見下ろす視点)を見出し,以後全てその視点に固定してグラフを見ていた・
3.3.2 3種類の表現形態に対するユーザの反応の違い
3人の被験者のそれぞれの特徴を上述した.ここでは,データⅠおよびデータ
ⅠⅠのそれぞれについて,表,グラフ,アニメーションの3種類の表現を同時に見
せるデータセット7を提示した際に得られた観察結果について概観する.表現毎
に観察された認知的効果の違いの詳細は次節で述べる.
観察において被験者全員が,グラフやアニメーションで表されたデータの値を,
表に記述されている数値を見ることで確認する,というプロセスを辿った・これ
は特にデータⅠにおいて顕著であった.データⅠⅠでも,被験者aを除くと同様の
プロセスが観察された.上述したように,被験者aは3次元グラフを理解しにく
い表現形態であるとコメントし,データⅠⅠに関してはグラフの利用をほとんど
行わなかった.
アニメーションは,主にグラフからは得られにくい変化の様子やその速度を感
じとるのに利用されていた.データⅠに関してはグラフが中心でありあまりアニ
メーションは用いられなかった.データⅠⅠに関しては,特に被験者aがアニメー
ション表現を中心にデータの理解を行おうとしている様子が観察された.
被験者bおよびcは,3種類の表現を同時に見ることが情報の理解には直接関
係しないと述べた.特に被験者cは,データⅠおよびデータⅠⅠに共通して,グラ
フを中心に情報を解釈しようとし,グラフの補助として,具体的な値を知りたい
ときには表を,変化の傾きを知りたいときにはアニメーションを利用していた・
これらの特徴は,順序を変えてデータを提示した際に観察された表現毎の利用の
特徴と一致するものであった.
15
3.4 考察
本章の後半では,実験で得られたプロトコルおよび前節でまとめた結果をもと
に,3・2節で挙げた仮説を検証すると共に,表現形態毎の認知的効果,特にアニ
メーションをデータ解釈に利用する際に有効となるようなデータの性質を探るこ
とを目的とする.
まず続く3・4・1節で表,グラフ,アニメーションという表現形態それぞれが,ど
のように被験者によって利用されていたかを考察し,その認知的効果について論
じる.次に3.4.2節で,データ解釈というタスクにおいて,どのような着眼点で
被験者が視覚表現を利用していたかについて論じる.
3.4.1表現毎の利用形態
表,グラフ,アニメーションという3種類の表現形態がどのように利用されて
いたかを論じる.
表:
以下に,被験者のプロトコルから観察された,データ解釈における表を利用す
る場合の特徴を列挙する.
●データの具体的な値を知ることができる.
●連続値としても離散値としても認識できる.被験者の多くが連続的に見て
いる様子が観察された.
・要素(項目)間の比較,特に同じ値が連なる箇所に注目することができる.
・情報量が増えるとデータを理解(イメージ)するのが困難になり,理解しよ
うとさえしなくなる.
・表現形態提示の順序の影響として,最初の表現として表を見たとき(表1に
おけるデータセット1,2)には平均値や最大・最小値などの統計的なデー
タを算出するために用いるのに対し,グラフやアニメーション表現の後で
16
見た場合(表1におけるデータセット4,6)は,表現されていた値を確かめ
るために表を用いる.
表による表現においては,正確な数字として情報が表現されているため,具体
的な値を見ようとするのは至極当然である.しかし一方で,被験者はほとんどの
場合,表からグラフをイメージしようとしていた.つまり,全体像や流れを捉え
ようとする際,表の数値から直接理解することが困難であり,グラフのような視
覚的表現へとマッピングして理解しようとしていたといえる.
また,表の中から同じ値が連なっていることを認識する際にも,催そのものを
比較するより,まずは数値をビジュアルイメージとして捉えることが連なりを知
るきっかけになっていた.特に,1桁で表される「0」や,3桁で表される「100」
は,その他の2桁の数字と同時に表示される場合,視覚的に非常に目立つために
注意を引かれるという発話が全被験者から得られた.
これらの特徴は,データⅠにもデータⅠⅠにも共通して見られた.どちらか一方
のデータに特徴的な表の利用の様子は観察されなかった.
このように,表による表現形式であっても,被験者は必ずしも数値情報のみを
獲得利用しているわけではなく,視覚的な情報も多く利用していることがわかる・
グラフ:
以下に被験者のプロトコルから観察された,データ解釈のためにグラフを利用
する場合の特徴を列挙する.
●平均値や最大・最小値を視覚的に理解するのに有効である.
●いくつかの値をひとまとまりにして,塊として認識することができる.
.連続値としても離散値としても認識されたが,連続値として見ている場合
が多い.
●全体の流れを掴むのに非常に有効である.
●変化の速度や傾き(割合)を理解しようとはしない・
17
これらは,データⅠおよびデータⅠⅠに共通して得られた特徴であった.これに
対して,データⅠⅠ,すなわち3次元表示のグラフに対しては,以下のような利用
の特徴があった.
●概観を見て,何かを見つけたらそれを確認しやすい角度に視点を変える.
●視点移動の最中はグラフが表示されず,コンテキストが失われる.
●連続値としてみる際,グラフの長軸を変化軸として見てしまう.
・情報が多すぎ,要素(項目)3つを同時に理解,比較することが困難である.
本実験で得られた発話から,被験者は多くの場合,表やアニメーションから情
報を解釈しようとするときに,頭の中にグラフをイメージしようとすることが分
かった.まず情報の全体像を捉えて概観を掴むことが情報理解の上で重要である
と考えられる.これはデータⅠにおいては3名の被験者全員に共通して見られた
特徴であったのに対し,データⅠⅠ,つまり3次元グラフを用いた表現については
個人差がみられた.被験者cはデータⅠⅠに対しても3次元のグラフイメージを
頭の中に構築しようとしている様子がプロトコルから得られたが,逆に被験者a
は,データⅠⅠに関してはグラフイメージを描こうとする様子は皆無であった.
このようにデータの全体像を掴むためにグラフ表現は有効であるが,そこから
変化の度合いや傾きを理解しようとするようなプロトコルは,どの被験者からも
観察されなかった.一方,隣り合って表示されている棒グラフのいくつかをまと
めて,1つのチャンクとして認識するプロトコルを発話する被験者もあり,ある
値だけを単体として見るのではなく近辺の情報も同時に解釈しようすることが分
かった.
アニメーション:
以下に,被験者のプロトコルから観察された,データ解釈におけるアニメーショ
ンを利用する場合の特徴を列挙する.
●値を連続値としてみる.
18
●値の変化のみを捉えるのに非常に有効である.
●変化するパタンを塊として見る.
●一方向からの変化しか見ることができない.
●グラフの動きにのめり込む.
●全体像を捉えるのには不向きである.
●何かを見つけたらスライダを利用して変化を再確認できる.
以上は,データⅠおよびデータⅠⅠに共通して得られた特徴であったが,特に
データⅠⅠに関しては,以下のような特徴が観察された.
●複数の値が複雑に変化する様子をみるのに有効である.
上述したように,グラフの利用においては変化の度合を見るようなプロトコル
は観察されなかったのに対し,アニメーションの利用においては,値の変化 も
しくはその様子や度合いを見る際に有効であるという発話が多く観察された.
またアニメーション利用の特徴として,全ての被験者が表現された値を連続値
として認識していた.と同時に,元のデータが連続的な意味を持たない場合アニ
メーションをする意味が無いという発話も得られた.
アニメーション表現からは全体の流れを捉えることは困難であるとの発話が多
く見られたが,一方で,特にデータⅠⅠに関して,複雑な値が同時に変化していく
様子を観察するのに非常に有効であるとした被験者もいた.
これは言い替えれば,余計な情報を排除し変化だけを際だたせる,あるいは要
素間の関係を見せるのに役立つと考えられる.アニメーションはデータの一軸を
時間軸としてとるため,ある時刻に表示されるデータの量を少なくすることがで
きる.例えばデータⅠⅠの場合,1コマに表示されるのはABCに対応する3つの
値であり,スライダを動かすことで,ABCのそれぞれの値の変化を見てとるこ
とができる.実験に用いたデータの場合,10個の数値の並び,という軸が時間軸
にマッピングされたことで,視点が固定され,ABCそれぞれの値を連続値とし
た表現が被験者に提供されたことになる.逆に,このアニメーション表現におい
19
ては,10個のそれぞれの値がABCという項目間でどのように変化したか,とい
う見方は,被験者にとっては自然でない視点であったとも考えられる.
このように,連続的な意味を持つ情報をアニメーションで表現することによっ
て変化の様子や意味を強調できる一方で,連続値としての意味があるかどうかが
不明な場合にも,ある軸を固定していわば強制的に値を連続値として見せてしま
うという側面があることがわかった.
3.4.2 データ解釈のための着眼点
前節では,表現形態毎にデータ解釈がどのように行われるかについて考察を
行った.本節では視点を変えて,被験者がどのような着眼点でデータ解釈を行う
かについて考察する.
表2に,着眼点の一覧とそれを表す代表的な発話例を示す.
●データのチャンク化
グラフでは隣り合うデータの表す値を,アニメーションでは変化の様子を,
塊あるいはパターンとして捉えようとした.
視覚的な表現では特定の値を単体で理解しようとするよりも,その前後の
コンテキストも含めて解釈しようとする傾向がある.
・値の解釈の視点(連続値/離散値)
情報の性質を探るために,アニメーションでは値を連続値として解釈した.
表とグラフでは,連続値,離散値の両方で解釈可能という発話も得られた
が,ほとんどの場合連続値として認識されていた.
アニメーション表現ではそれを作成する際に何を変化軸とするかが決定し
ているため,決められたデータの繋がりを強制的に見せられ,連続値であ
ると認識すると考えられる.
●全体把握
20
表2データ解釈のための着眼点とそれを表現する発話例
着眼点 発話例
データのチャンク化
山がいくつあるとか,波がいくつ来る,みた
いに塊として捉えてしまうね.
値解釈の視点(連続値/関係ないかも知れないのに,流れとして見て
離散値) しまいますね・
ABCそれぞれの流れを見ようとするけど,み
全体把握
んな変動してて良くわからない.
予測/予感
上がって,下がって,上がって,下がったか
ら,次は上がりそう.
なんだか,棒グラフの気分になって,一緒に
伸びそう.
関係/比較
この3つが同時に100なんだ.
ABCの関係がわからない.
統計的解析
グラフだと計算しなくても,ビジュアルで平
均とかがわかりますね.
情報の放り込み
このグラフは比較できないね.
アニメは見方が固定されてるから比較にはい
いかも.
21
ほとんどの被験者がまず,データの概観を捉えようとしていた.そして,そ
の際には表やアニメーションを見ていたとしても,静的なグラフを頭の中
に思い描いて把握しようとしていた.
まず情報の全体像を捉えて概観を掴むことが情報理解の上で重要であると
考えられる.グラフ表現が全体把握にはもっとも適しており,他の表現形
態で表示された場合でも,被験者は頭の中でグラフイメージを構築するこ
とにより全体把握を行なおうとする.
●予測/予感
アニメーション表現では画面内には特定の時点でのデータしか表示されな
いにも拘らず,その後に続く値を予想していた.例えばグラフが伸びて縮
む動きを繰り返していたら,その後も伸縮を繰り返すのでは,と予測した
り,伸縮の加速度からその後の変化を予測していた.
アニメーション表現から情報の概観を掴むためには,前述したようなグラ
フを想像することによるものだけでなく,変化の様子からも付近のコンテ
キストを捉えられることがわかる.
●関係/比較
データⅠⅠにおいて項目毎の関係を調べたり比較を行う際には,アニメーショ
ンとグラフ表現が多く用いられた.3次元グラフは全ての情報が詰め込まれ
やや繁雑であるが,自由に視点を移動できるため,項目の関係を最も見や
すい位置から見ようとする傾向があった.アニメーションでは一時点での
関係を読み取りやすいだけでなく,それぞれの項目が示す棒グラフの動き
を見ることで,同期して似たような動きをすることがわかるという発話も
得られた.表では同じ値が連なっている箇所が注目された.
アニメーション表現では,実際の時間を使って変化軸を表すため,ディス
プレイ空間上に表示させる情報が少ない.そのために,データの関連性を
理解しやすくなると考えられる.
●統計的解析
22
全ての被験者は表とグラフによる表現から,平均値や最大・最小値などの
統計的な情報を見出そうとしていた.
全体の傾向を数値や数式として表現し理解する上で,統計的手法を用いる
ことは有益である.特に,グラフでは視覚的に平均や最大値,極大値など
がわかり,おおよその値であるならば表をもとに計算するよりも容易に値
を特定できる.アニメーションにおいても,漸次的に増加する,といった
傾向をスライダの移動により見てとることは可能であるが,動きを記憶す
ることが必要となり,現時点ではグラフ表現ほど統計的解析との対応が明
確でない.
●情報の絞り込み
データⅠⅠに関して,表およびグラフによる表現が非常にわかりにくいとい
う発話が多く得られた.
大量のデータの中から何らかの情報を得ることは,不可能ではないものの
認知的負荷の大きいものとなる.本実験で用いたアニメーション表現は,グ
ラフ表現の一軸を時間軸に固定して見せるものであり,グラフで表される
情報の一部分を時間に沿って小出しにするものとも考えられる.前述した
ように,アニメーションは項目の比較が用意であるという発話が得られた
のもこのような理由からであると考えられる.
以上の考察を通して,以下の3つの仮説が検証された.
(1)表の数値は具体的な値を知りたいときに有効である・
具体的数値があるため統計的な解析を行い,傾向を理解することも可能で
ある.
(2)グラフは全体の流れを捉えたいときに有効である・
全体把握をする際には最適であり,他の表現形態で与えられたとしても,グ
ラフを頭の中にイメージしそれをもとに全体把握をしようとする.
23
(3)アニメーションは値の変化に注目したいときに有効である.
特に複雑なデータの変化を見る際には時間軸という視点がひとつ固定され
ることにより値の絞り込みが容易となり,要素間の関係や変化も捉えやす
くなる.
次節では,特にアニメーションの認知的効果についてさらに考察を行う.
3.5 アニメーションの認知的効果
前節までの考察を通して,表やグラフによる静的な表現との比較を行うことで,
アニメーション表現が以下の5つの着眼点からデータ解釈を行う際に,特に有効
であることがわかった.
(1)データのチャンク化:変化の様子をパターンとして捉える
(2)連続的な値の解釈:アニメーションが作成される際に時間軸として採られ
た軸から見た連続値として値を見る
(3)予測/予感:データ値の変化率や連続性を予測する
(4)関係/比較:実時間を利用することでディスプレイ上の表示を1次元減ら
すことができ,関係の発見や比較が容易になる
(5)情報の絞り込み:次元の減少により,注目すべき点の絞り込みが容易になる
逆に,以下のような着眼点からデータ解釈を行う際にはアニメーションは有益
な手法ではないことがわかった.
(1)全体把握:全体の傾向を理解するためには,何度もアニメーションを繰り
返しみることによって,全体の動きを記憶し,それによりグラフイメージ
を構築する必要がある.
(2)統計的解析:データ全体の特徴量を理解するための解析的データとアニメー
ションの動きとを関連づけて理解することは現時点では困難である.
24
以上のようなアニメーションの認知的効果を考慮すると,アニメーションを視
覚表現として用いるべきデータの特徴として,
(1)データの変化に着日したい場合
(2)軸を固定して変化を見たい場合
という2点を挙げることができる.
アニメーションを利用した表現の最大の特徴は,1つの軸に沿ってデータの変
化を際立たせることにある.グラフなどの静的な表現からデータの変化を読み取
るよりも,変化している様子をより直観的に見せることができる.さらに,変化
の軸や変化する順番を強制して表示することから,情報を見る視点(情報の見方)
を固定してユーザに情報を与えることができる.
100
丁5
50
25
0
叫
図4 アニメーション化における変化軸の取り方
たとえば図4のような3次元グラフをアニメーションとして表現する際にも,3
つの方向を変化軸として捉えることができる.どの軸を基点としてデータ解釈を
行いたいかが自明でない場合には,すべての軸についてアニメーションを作成す
るか,ないしは全体を表示するグラフ表現が適切であり,ある単一の軸に固定し
たアニメーション表現はこの場合適当ではない.
25
情報をアニメーションで表現することで,変化を際立たせて情報を与えること
が可能であるが,一方でアニメーションを用いないで表現した場合の利点を損な
うともいえる.予備実験では,空間内にすべての情報を表現できるデータに対し
て,空間内の一軸を変化軸としてアニメーションを作成したが,そのために全体
を一度に表示することができずに流れを把撞しづらくなっている.
特に実験で用いたデータⅠに対しては,被験者全員がアニメーションよりもグ
ラフを好む傾向が見られた.この場合アニメーションで表されたデータは1種類
の数値データであり,情報を絞り込む必要性が全くない程度の複雑度であったた
めであると考えられる.一方,データⅠⅠに対しては3種類の数値データを同時
に表示するため,3つのデータの比較や変化の相関関係を探る際に,空間内に表
されたグラフよりもアニメーションのほうがわかりやすいという意見が多く得ら
れた.
以上のことから,アニメーション表現は,あらゆる種類のデータを解釈する際
に有効というわけではないことがわかった.しかし,データの特徴を理解し,適
切にアニメーション表現を利用することで,従来の表形式やグラフによる表現よ
りも,より有効にデータ解釈を支援することができる可能性が示された.
3.6 まとめ
本章では,
(1)データの変化に着目したい場合
(2)軸を固定して変化を見たい場合
という2つの特徴を有するデータ解釈のためにはアニメーション表現が適切であ
ることを,ユーザ観察実験の結果および考察を通して論じた.
しかし,本章で説明した実験でも明らかであったように,ユーザはアニメー
ションを受動的に見るだけのことは少なく,スライダを制御するなど能動的にア
ニメーション表現とインタラクションを行う様子が観察された.上述の2つの特
徴は,アニメーション表現がふさわしいデータの特徴をあげているに過ぎず,実
26
際にどのようにアニメーションを表現し,ユーザはどのようにその表現とインタ
ラクションをすべきか,という知見が必要である.
そこで次章では,インタラクティブ可能なアニメーション作成環境を実際に構
築し,ユーザがどのようにその環境とインタラクションを行うかのユーザ観察を
行うことで,インタラクティブな情報アニメーション表現を構築するための要件
を探る.実験においては,上述したアニメーション表現が効果的に作用する2点の
性質を有するデータとして,オブジェクト指向プログラミングによるソフトウェ
ア開発におけるクラスライブラリの進化を例題とする.
27
4.ユーザ観察2:アニメーション表現におけるインタラ
クションの形態
前章では,ユーザ観察として,表現方法の違いによってデータ解釈における認知
的効果が異なることについて触れ,アニメーションの認知的効果およびアニメー
ション表現を行うのに適切なデータの特徴について述べた.
2章でも述べたように,表現されたものとのインタラクションが,情報空間を
理解する上で非常に重要な役割を担っていることが報告されている【5トそこで本
章では,ユーザがどのようにアニメーション表現とインタラクションを行うかを
探る.
そのためにまず,インタラクティブな情報アニメーション作成環境を構築し,
ユーザ観察1の結果より得られたアニメーション表現が効果的に作用する性質を
有するデータとして,オブジェクト指向プログラミングによるソフトウェア開発
におけるクラスライブラリの進化を例題に,ユーザ観察用のアニメーションを制
作した.次に,実際にこのクラスライブラリ開発に携わったメンバーを被験者と
してユーザ観察を実施した.
本章では,アニメーション制作環境およびそれを用いたユーザ観察について説
明し結果を述べた後,そこで行われたインタラクションについて考察する.
4.1アニメーション制作環境
本実験で使用した情報アニメーション環境は,オープンソースソフトウェア3
次元グラフィックライブラリ「じゅん(JⅧ)」【20】を利用して構築した.
構築した情報アニメーションは,3次元棒グラフのそれぞれの値を,変化軸に
沿って動的に表現するものである(図5左).
このアニメーション環境の機能は,以下のような特徴を有する.
●再生制御機能
アニメーションの流れは,既存の動画ビューアと同様に,スライダによっ
てコントロールすることができる.再生スピードの変更や範囲を指定した
28
図5 アニメーションの例
ループ再生などの機能を持つ.
●視点変更機能
ウインドウ内に表示されたグラフは,再生しながらでもマウス操作による
インタラクティブな視点(対象)の変化が可能で,ズームやパン,投影法の
変更も行うことができるものとした.表示されているウインドウの持つ視
点の位置や視野角,視線の方向などを捉えたメタなビュー(ビューポーり
を別ウインドウで開くことができ,対象の見方に対するコンテキストを保
持することも可能である(図5右).
●変化値表示機能
前章で述べたユーザ観察から,アニメーションを用いてユーザは情報の変
化に着日し,値の変化を予期したり予想しがちであるという要件が得られ
たため,1コマとしてのスナップショットにはその時点での億とその前後の
値もオーディオ製品に見られるレベルメータに似た表現で表示することと
した.これにより,1コマの表示であってもその中に直前の値と直後の値が
29
表示され,直観的に変化の度合を知覚できやすいようにした.
データの可視化を行う際には,この他にも描画の属性,例えば線や面の色相,
彩度,明度であるとか,太さやテキスチャなどが影響することが報告されている
が,本論ではこれらの属性については今後の課題とする.
4.2 利用データ
前章で述べたように,情報アニメーションが有効にデータ解釈を支援するのは,
●変化に着目したいデータである場合,および
●軸を固定してその変化を見たい場合
という2つの要件を見たす場合であった.
そこで本実験では,オブジェクト指向ソフトウェア開発におけるクラスライブ
ラリの進化の過程をデータとし,前節で説明したアニメーション環境を用いて表
現することとした.
ソフトウェア開発ではバージョンが不規則な時間間隔でリリースされ,かつそ
れぞれのバージョンが単体で多くの複雑な情報を有している.これらのバージョ
ン間の関係は,時間軸(バージョン軸)を固定することで連続値として強制的に見
せることができ,その変化を理解することで,開発の歴史,あるいは進化の動向
を把握することが可能となる.つまり,前章で述べたアニメーション表現が効果
的に作用する性質を有しており,実験の題材として適当であると考えられる.
今回対象としたのは,Smalltalk用クラスライブラリの5つの開発プロジェク
トである.この内1つはベースとなるクラスライブラリであり,あと4つはベー
スとなるライブラリと並行して開発されたアプリケーションライブラリである.
これら5つのライブラリのうち,ベースとなるクラスライブラリおよび1つのラ
イブラリの進化は現在もなお続いている【2ト
利用したデータはそれぞれのプロジェクトのクラスライブラリのバージョン
データベースである.各データベースは,それぞれのライブラリのバージョンご
との情報をデータ項目としたその集合である.各データ項削ま,以下の属性から
成る.
30 /
●バージョンナンバー
●リリース日時
●クラスの総数
●クラスメソッドの総数
● インスタンスメソッドの総数
本実験では,これらのライブラリ毎のバージョンデータベースを元データとし
て,クラス数,クラスメソッド数,およびインスタンスメソッド数の進化の様子
を理解することを目的とした.
ベースとなるクラスライブラリのバージョンデータベースの情報を,表形式で
表したものを図6に,および空間の1軸を時間軸とした3次元棒グラフで表した
ものを図7に示す.
ベースとなるクラスライブラリの開発プロジェクトは,4年以上の歳月をかけ
て300以上のバージョンがリリースされており,どちらの表現手法でも,全バー
ジョンを通しての開発の流れや,個々のバージョン内でのデータの関係を同時に
読み取ることが困難であることがわかる.
次節では,これらの情報をどのようにアニメーションとして表現したかの手法
について説明を行なう.
4.3 動的視覚化
アニメーション作成においては,時間軸を決定し,1コマの単位を決定する必
要がある.
前節で説明したデータをアニメーション化する際,進化を変化としてとらえる
ために,リリースされた時刻(日付)をベースとして時間軸とする方法と,バー
ジョンを時間軸の単位としてアニメーション化する方法が考えられる.
本実験のために,それぞれに応じて以下の2種類のアニメーションを制作した.
(1)変化軸として時間を表したもの:1コマを実時間での1日に対応
31
軸 _■ 仁0払Il血涙甜肋蜘
山間・、喋打 岬 沌瀾
1巧
還≡ヨ野望雲芸
叫王
書中
‖池
‖
=
‖1
†1ヨ
J∫l力引=柑蹟〝H′‖■:日月敵飢
血相¢1瑚/=伽 巧.紛缶
刷tl・卿t・花81雫坤
J畑佗1由州励 博1き臆
J力α伯1紳ノ日加1.丁酬.
劇81嶺覿拙び如し1敵由古
山戚柏1ぬ〟柁ノ管7 =丁魚
山側 抑勺パき
、山購 肋匂乃○
山値鞘lわ:也勺帯丁
、山珊 醐巧/8
山頑嘲l由卸∽坤
山ゆ嘲トわ抱侃如■
山脇剰仁わぬ鳳凰
的卸W浄
血通如上如ぬ胤な
J頗l 獅わバ
l枕.
桝
一石
芸
孤野
拇8丁
2878
りき
118
†10
相即郎打
鱒石
釧
818
慧
1q芦
10Iち
兜こ汚
印旛
52急8
1
胱
あ車重
怒
一別詮1l.
†11
慧璽
発禁
8別掲
遥・‥
1†1
1疇引
重
油
1攣12
1嘲6
日引
】昭1零
lゼ1
1 5t.
図6表による表現
喜喜
§
悦
※幣+詣
国
芸所
十∵÷++匹
感 伊 F−、.
日。団l目 ≡
ll転lミ
野一−
Ⅷ ■ q
挨戎国。・日日圏一目目
、.ヽ、\・\ヽ
図7空間の奥行きを時間軸にしたグラフ
32
専
国
盛
目
玉三三.坤
目
図8 プロジェクト毎のグラフアニメーション
(2)変化軸としてバージョンを表したもの:1コマが1バージョンに対応
アニメーションの1コマに対応したバージョン毎に,そのバージョンにおける
クラス,インスタンスメソッド,クラスメソッドの稔数が棒グラフで示され,同
時に,4.1で説明した変化値表示機能により,前バージョンおよび次バージョン
でのそれぞれの総数がレベルメータ状に表示される.
また,現在表示されているクラスライブラリのバージョンナンバーとリリース
された日付・時刻が,グラフ下部に表示されるようにした.さらに,制作した時
間を変化軸とした表現では5つの開発プロジェクトのグラフアニメーションを,
日付を基準に同期して再生可能とした(図呵.
これにより,1プロジェクトのアニメーション内だけでなく,複数のアニメー
ション問でのデータの変化の関係を理解することが可能であるようにした.
4.4 実験手順
制作したグラフアニメーションを,実際にクラスライブラリ開発に携わったメ
ンバー1人に見せ,データの理解を目的として,自由にアニメーション表現との
インタラクションをしてもらった.
被験者には,クラスライブラリの進化をアニメーションとして表現したものを
見て気づいたことや感じたことを発話してもらった.同時にその場で観察者3人
によるインタビューおよび3人を交えたフリーディスカッションを行い,その発
話プロトコルとインタラクションの様子をビデオで記録した.
実験セッションはディスカッションも交えて計90分であった.
33
4.5 結果および考察
本節では,上述のアニメーション制作環境上にクラスライブラリの進化データ
をアニメーション表現し,上記ユーザがどのようにインタラクションを行うかを
観察した結果および考察について論じる.
本研究でのアニメーション環境では,以下の2種類のインタラクションが可能
である.
●空間に対するインタラクション
3次元棒グラフの表されている空間に対する,視点の移動やズーム,パン,
投影法の変更など
●変化する時間に対するインタラクション
3次元棒グラフの変動(アニメーション)に対する,再生や一時停止,再生
スピードの調整,または変化軸にマッピングされるスライダバーの移動に
より,表示されるグラフを変動させることなど
観察全体を通して被験者は常に,何らかのインタラクションを行おうとしてい
た.被験者の発話やインタビュー,ディスカッションなどから,主に以下の3つ
の目的のためにインタラクションを行っていたことがわかった.
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
(2)特定の時刻の検索
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
以下に,これら3つのインタラクションそれぞれについて,観察結果,インタ
ビュー,およびディスカッションに基づいて考察を行う.以下に示す発話プロト
コルでは,文頭に#がついているものがインタビュアーの発話,無印が被験者の
発話である.
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
34
前章で述べたユーザ観察1からもわかるように,アニメーション表現では変
化を際だたせて見せることができる反面,情報全体の概観を捉えることが困難で
ある.
しかし本研究で作成したアニメーション構築環境では,1コマにある時点の値
とその前後の値を表示することによって差分を表現している.このため,データ
の全体の概観は行えないが,1コマ毎に表現される億の前後の値を知ることによ
り,局所的なコンテキストを理解することが可能となっている.
観察実験では,表示されたデータの値と前バージョンおよび次バージョンの億
を見ることにより,その間の差分が大きい場所を繰り返し見つけようとすること
がわかった(図9).
由山i叫”l臨【□声叩一甲。l司一
団目
髄
愛
R
国
国
■
l
■
■
…目口 //■
室
毒
ロー如由副咄耐囲鞠l円l□
十÷+∴÷∴※÷十++∴++十††++ +++++十叫十十十 ÷ 十+
図9 差分の表現
35
Protoco101:
#赤とか青の影(前後のバージョンの値)がビヨビヨで
てる甲斐があるんですか?
あるある.だって前のと必ず比べられるもんね.
#さっき減ったか伸びたかを,ですね.
ほっ,ここかあ.いつやねんて.
#ああ,一気に差が増えるとこですか.
やっぱりこの差を見つけにいきますよ.
#これはexcel(による奥行きを時間軸とした3次元グ
ラフ表現)のほうがわかりやすいかも知れません.
でも,eXCelってこんな風にできないじゃないですか.こ
んな差を見るような感じは.
#自分で見よう見ようとシミュレーションしないと.
そうそう.後ろのやつと,この前のやつとのグラフの長
さを比べて,自分で見なければいけないけど.でもこれ
は,なんというか1ドラッグで,これだけでとりあえず
見えるから.
変化の進み具合を自分でコントロールするだけでなく,1スナップショット内
に前後の倦も表示されていることが,大きな変化が現れる時点を容易に特定する
のに役立っていた.アニメーションを用いずに空間内の軸の1つを時間軸とする
場合は,注目しているデータと前後のデータを意識的に見比べてシミュレートし,
差分をイメージする必要があるため,認知的負荷が大きいともいえる.1スナッ
プショット内にその時点での備に加えて,前後の時刻の倦も付加することによっ
てある程度のコンテキストが表現され,アニメーションの流れを捉えたり,値の
増減を予測するのに役立ったと考えられる.
(2)特定の時刻の検索
被験者は,画面内に表示されたバージョンナンバーとリリース日時を確認し,
36
当時の状況を思い出そうとしていた.アニメーションで表現されている時間のう
ち,特定の時刻を探し出すためにスライダを操作していた.観察実験から,変化
する情報のコンテキストだけでなく変化軸に対するコンテキストも必要とされて
いることがわかった.本システムには図5右に示したように,表示されている空間
に対しては,視点や視野角,視線の方向を捉えるため空間的なメタビュー(ビュー
ポート)を表現する機能がある・
ProtocolO2:
これ(ビュー)が自分でフォーカスしてると思うと,こ
れ(ビューポート)がもうひとつメタへ上がったコンテ
キストを押さえているじゃないですか.やっぱアニメー
ションにもそういう視点いるんじゃないですかね.なん
かそんな気がします.そうするとよくわかりますよね.
このように,アニメーションにも時間的なコンテキストを保持するためのメタ
ビューが必要ではという発話が得られた.現在表示されている内容が何であるか,
全体のうちどの部分を指しているのかを,常に把握しておきたいことと考えれら
れる.
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
観察実験では被験者は様々な方向からグラフを見るためにインタラクションを
行った.透視投影による表現で棒グラフを上から見下ろすような見方をすると,
数値の正確な値はわからなくなるものの,値の変動や,他の要素との関連をより
強く感じられた.かぶりついたような視点になり,手前に来るものほど大きく見
え,変化が顕著に現れた(図10).
37
図10 グラフ上方からの透視投影
PmtocolO3:
Perspect行eをかけて上から見てるほうが認識しやすい
可能性がありますね.どうしてもチャートやグラフにな
ると,横から見てしまうっていうのを学校教育で習いす
ぎてますよね.で,伸びてくるのはバードビューで見て
て,グイーンって自分に近づいてくるのがpe甲tive
であると,近いとこが大きくなったとかちいさくなった
とか…そういうほうが良さそう…
手前にあればあるほど大きくなるから…なんだろう,顕
著に見える‥・
#VRM皿のグラフの中を歩く,没入感みたいなのに似
てますね.
そうだよね.
#いま3Dのビューのコントローラは完全に自分はここ
に止まってて,相手を動かす感じですよね
38
アニメーション停止時,再生中に拘らず,空間内の視点を移動したり投影法を
変更することにより,臨場感あふれる表現を”体感”することが可能であった.こ
れにより,具体的な値はわかりづらくなるものの,他の要素との関係を感覚的に
捉えるという点では重要な要素であるといえる.
透視投影による表示は,日常生活で物体を見るのに近い表現の方法であり,表
現対象を知覚しやすい.自由に視点を変えて対象物を見ることが,VRなどでオ
ブジェクトを配置した空間内を歩き回るのに似た効果をもたらすだけでなく,対
象物自体が動くことによってユーザに積極的に働きかける表現を体感(体験)さ
せることができる.
4.6 まとめ
本節では,制作した情報アニメーション環境を用いて施行した,オブジェクト
指向ライブラリの進化をデータとしたデータ解釈のユーザ観察を通し,ユーザが
情報アニメーションとどのようにインタラクションを行うかについて論じた.
その結果,ユーザは,(1)空間に対する制御と,(2)変化する時間に対する制御
をうまく混在させながら,
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
(2)特定の時刻の検索
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
という3つの作業を行うためにインタラクションを行うことが観察された.
次章では,前章で得られたアニメーション表現のデータ解釈における認知的効
果とあわせて,情報アニメーションを構築する上での要件について考察する.
39
5.考察:インタラクティブ情報アニメーション環境構築
に向けて
本章では,3章で述べたアニメーション表現の持つ認知的効果と,4章で述べ
たインタラクションの目的についてまとめ,それらをもとに,インタラクティブ
な情報アニメーション環境に重要となる側面について考察を行う.
3章における,アニメーションの認知的効果を探るためのユーザ観察の結果か
らアニメーション表現が効果的に作用するのが
(1)データの変化に着目したい場合と,
(2)軸を固定してその変化を見たい場合,
であることがわかった.
また4章では,その結果をもとにアニメーションが効果的に作用する2点の性
質を持つデータを用いて,ユーザがアニメーション表現とどのようにインタラク
ションを行うかについて観察を行った.その結果被験者は,空間に対するインタ
ラクションと,変化する時間に対するインタラクションを以下のような目的のた
めに行うことがわかった.
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
(2)特定の時刻の検索
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
これらの結果をもとに,効果的に情報をアニメーションとして表現し,情報の
より深い解釈のためのインタラクティブ情報アニメーション環境には,以下のよ
うな側面が重要であると考えられる.
(1)変化する情報のコンテキスト
(2)アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト
40
(3)時間的,空間的なコントロール
これらの要件を情報アニメーション環境に取り入れることによって,情報のよ
り深い解釈が可能となると考えられる.
本章では,以下にそれぞれの側面に対する考察を行い,インタラクティブ情報
アニメーション環境構築へ向けての要件とする.
5.1変化する情報のコンテキスト
ユーザ観察2から,表示されたデータの値と前バージョンおよび次バージョン
の値を見ることにより,その間の差分が大きい場所を繰り返し見つけようとする
ことがわかった.変化するデータのコンテキストを捉えることが,データの変化,
および情報の概観を把握するために有効であることがわかった.
変化を捉えるためには,その前後の値や傾向との比較が必要である.つまり,
表示されている値がどのような「コンテキスト」に位置しているかを理解する必
要があるのである.
そこで,情報の概観を捉えるために有用と思われるコンテキストを,どこに保
持するかについて考慮する必要がある.ここでは以下の2種類の「場所」におけ
るコンテキスト保持について考察する.
(a)画面の中
(b)記憶の中
(a)はoverview+detailやfocus+contextのような空間の全体像を表そうとす
る表現手法と同様に,データが変化する様子を画面内に表示するものである・本
研究のアニメーション環境では,ある瞬間のデータを表示する際に同時に前後の
データ倦も表示している.これは,その時点までに変化してきたデータの余韻や
残像を表す,ないしはそこから変化していくデータを予感させるために表現した
ものである.
画面内に同時に表示することにより,アニメーションの再生中に常にその前後
のコンテキストを表現するだけでなく,動きを無くした(時間を止めた)状態で
41
も前後の億との差分を確認することができ,変化する様子を窺い知ることができ
る.アニメーション映画でも,人問などの物体が高速で移動する場合などに,意
図的に残像や土建などを表示することで,変化を表現する手法が用いられており,
本研究のアニメーション環境においてもこれと同程度の効果が得らていると考え
られる.
今回の表現方法では,ある時点での億とその前後1つずつの値によるコンテキ
ストを表したが,変化の完全な全体像を捉えることは困難である.ただ単純に,
同時に表示する前後の値の数を増やすだけでは表現が煩雑になり,注目している
時点の催さえ読み取ることが難しくなると予想される.そこで,色の変化と透明
度によってコンテキストを表す表現方法の一例を図11に示す.
同様に全体像を完全に捉えることは困難ではあるが,注目しているデータ以外
の透明度を上げることで,情報が繁雑になるのを防いでいる.このようにある部
分に注目し,それ以外の情報のコンテキストを保持しようとする際にはどれだけ
の情報をユーザに与えるか,情報の絞り込みについても考慮しなければならない.
図11色の変化と透明度によるコンテキストの表現
(b)では,何度か見た動きのある表現を,いかにユーザの脳裏に焼き付けるかを
42
考える.記憶の中にデータの変遷を完全に残すことができれば,ある時点のデー
タを見ている際に,そのデータの前後あるいは全体との関連を把挺したまま,そ
れに注目することができる.情報の量や複雑さにも依存するが,実際にデータの
変遷を完全に記憶するのは不可能に近いと思われるものの,表現の方法によって
は印象を強く与えることも可能であると考えられる.今回扱った3次元棒グラフ
でも,抽象的な立方体として表現するのではなく,例えば自分の住んでいる家や
その周辺のビルやマンションといった身近な建物で表現し(図12),それらが増築
されたり取り壊されたりする様子をアニメーションにすれば,そこにストーリー
を見出すことができ,より強い印象となって記憶されるのではと考えられる.
図12具象的なオブジェクトによる表現
5.2 アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト
ユーザ観察から,被験者は画面内に表示されたバージョンナンバーとリリース
日時を確認し,当時の状況を思い出していた仁現在表示されている内容が何であ
るか,全体のうちどの部分を指しているのかを,常に把握しておきたいことと考
えれられる.スライダバーの上のスライダ(つまみ)の位置を見ることによって,
43
おおよそではあるが,表示されているシーンが全体のどの辺りのものであるかを
知ることができる.
つまり,アニメーションを表示している動画ビューアのスライダ自体をアニメー
ションの変化軸として利用していると考えることができる.さらにスライダに目
盛りをつけ,変化の対象になっている情報(日付,時刻など)を表記すれば,時
間を操作する際のメタなビューとして捉うことができる(図13).
また,図14に示したように,再生あるいは操作を行う際に,映画のフイルムを
のような連続したスナップショットを同期してスクロールさせると,表示されて
いるシーンの位置関係と同時に,表現されている対象自体の前後のコンテキスト
も表すことができる.
アニメーションによる表現は,全体の情報を少しずつ小出しに表示する手法で
あると捉えることができる.表示された情報以外の情報をユーザが必要としたと
きに,自然に情報を得られ,かつ表示されているものに着目することの妨げとな
らないように表現することが重要である.
5.3 時間的,空間的なコントロール
ユーザ観察2において,常に被験者は変化するアニメーションの時間をコント
ロールしたり,視点の移動などの空間をコントロールし続けた.特にある一定の
時間幅(スライダ幅)で,時間を行ったり来たり(早送り・巻き戻し)することで,
値の差の変動を繰り返し見ようとする傾向があった.次に示すインタビューから
も,時間軸をコントロールすることが重要であることがわかる.
44
目田
−−−..・由
竺竺==二_____________________
99/12
00/01
00/02
V¢r.001
V6r,020
V6r.03$
図13 日盛り付きスライダ
図14 スナップショット付きスライダ
45
心
ProtocolO4:
#ゆっくりした再生だからいいのでしょうか?普通に再
生されてるときよりはちょっとづつ動かされてるときの
ほうが…
そうそう.これが通常に再生されているときよりも,
#自分でコントロールできるから.
自分でコントロールできると,これ(バージョン情報)
とこれ(各要素の値)との関連を見つけやすいですよね.
#だから,自分で時間のコントロールができるのがいい
んですね.
うん,たぶん.このバージョンを見るときはそれが一番
いいような気がするなあ.
#絶対,でも,コントロールしたいんですね.
コントロールしたいよねえ.なんか,アニメーションの
良さって,これ,流すよりも,自分でコントロールでき
るところに良さがあるのかもしれない.
ユーザ観察全体を通してこのような時間のコントロールに関する発話が頻繁に
行われ,時間を自由に操作したいという要求が非常に強いことがわかった.情報
の変化をアニメーションで表すことの利点のひとつは,データが持つ変化の流れ
の速さにとらわれず任意の速度で再生ができることであるが,さらに一時停止さ
せたり,データに大きな変動が見られる付近の時間を進めたり遅らせたりしつつ
繰り返し見ることで,より詳細まで情報を理解することが可能となる.時間をコ
ントロールして見ることによって,全体の流れや,ある時刻の周辺でどんな動きを
するかを見つけることができ,ただ単に一定のスピードで再生するよりも,デー
タ間の関連を見つけやすいことがわかる.
変化軸をコントロールする理由としては,次の2点が挙げられる.
(a)注目したいデータを持つ時点(位置)を探す
(b)注目したい時刻周辺,あるいは全体を,新しいアニメーション(動き)と
46
して表現する
(a)では,単に場面を移動するためにスライダを利用していると考えられる・こ
こではスライダの移動の速さ(時間の早さ)は特に重要ではなく,探し出したい
シーンが現れる一瞬を見つけることが要求される.つまりデータの動的な変化の
流れを理解する必要はない.ビデオを再生したまま,早送りや巻き戻しをして特
定のシーンを探し出すのに似ている.しかし,探し出すシーンが,その前,あるい
は後の画像と比べて異なる特徴を有するものであった場合,スライダの移動の速
さ(時間の進め方の早さ)は効果的に利用できる.検索の初期段階では高速に時
間を進ませ,探し出したいシーンのおおよその位置を把握した後,スライダの移
動速度を遅くしながら場面を特定することができ,効率の良い検索が可能になる.
ビデオ編集などで利用されるジョグシャトルと同様の効果があると考えられる.
(b)では,スライダを移動して時間を変化させる操作を,動きを持つ表現を新
たに作成していることとみなすものである.表示されるデータの種類や情報量に
よって,その変化を理解するのに適したアニメーションの再生速度は異なり,そ
れぞれのユーザによっても同様に異なる.そのため,今回のような一定速度でし
か再生できないアニメーションでは,それを繰り返し再生することが可能であっ
ても,データの変化を理解しようとするユーザの欲求を満たしていない.また,
再生速度を一様に変えるだけでなく,注目していない(例えば変化の小さい)部
分は早めに時間を進ませたり,注目したい(例えば変化の大きい)部分はゆっく
り再生して注意深く見るというように,時間の進ませ方を変化させ得ることも重
要な機能である.
ユーザが思い通りの変化時間の範囲や速度で情報に動きを持たせることが,そ
のユーザにとって情報理解のための最適なアニメーション(動き)となると考え
られる.今回のアニメーション環境のように,スライダをマウスでドラッグして
時間の流れをコントロールする場合は,ユーザの手の移動距離と速度が,時間の
範囲とデータ変化の速度にマッピングされており,動きのある表現を直感的に作
り出すことを可能にしている.
また,変化の時間軸をコントロールすることによって,例えば劇的な変化を捉
えやすくすることができるのと同様に,空間をコントロールすることによっても
47
データの変化の様子や要素間の関連などを見つけやすくなることがわかった.ユー
ザ観察2で被験者が劇的な変化を見るために没入感の得られる視点に移動したよ
うに,ユーザが自由に空間をコントロールできることも,情報の解釈を行う際に
重要な役割を果たすと考えられる.
5.4 まとめ
本章では,(1)変化する情報のコンテキスト,(2)アニメーションに伴う変化軸
のコンテキスト,(3)時間的,空間的なコントロール,という3つの側面が,イ
ンタラクティブな情報アニメーション環境において,情報のより深い理解・解釈
のために重要であることを述べた.次章ではこれらの要件を踏まえて今後の課題
について論じる.
48
6.今後の課題
本章では今後の課題について述べる.
本研究で行ったユーザ観察は,少人数でインフォーマルに行われたものである.
そこで,(1)アニメーション観察実験を繰り返し,(2)得られた知見を蓄積して,
(3)それをもとにアニメーション作成のためのシステムを構築する,ことを今後
の課題とし,様々なドメインにおいて,インタラクティブな情報アニメーション
表現をどのように活用できるかを探って行く必要がある.
(1)観察実験:現在までのユーザ観察実験は少人数で行われたため,そこで
得られた結果を一般化するのは困難である.観察実験を繰り返すことにより,ア
ニメーションの持つ特徴や性質,効果などを明らかにすることができ,さらに情
報を解釈する上でユーザがどのようなインタラクションを望んでいるかを知るこ
とができると考えられる.特にアニメーションという表現手法はユーザの視覚に
積極的に働きかけるため,視線追跡装置などを用いユーザが注目している箇所を
追うことによって,発話プロトコルなどではわからない結果が得られると期待さ
れる.
(2)知見の蓄積:表現された情報を解釈するための効果的なアニメーションの
利用方法はデータのドメインに特有のものである.どのようなドメインに,どの
ようなアニメーションが,またはその表現に村するどのようなインタラクション
が適しているかを探り,表現方法の枠組みや知見をライブラリとして蓄積するこ
とも重要な課題である.
(3)システム作成:数値データなどをもとに,情報をアニメーションとして頭
の中に思い描くことは,静的な棒グラフや線グラフを予想するのに比べ困難であ
る.であるからこそアニメーションを実際に見た時点で新たな発見があることが
ユーザ観察実験からわかった.そこで実際に情報をアニメーションとして表現し
ようとしたときに,手軽に作成できる環境が必要であると考え,ライブラリの枠
組みなどをもとにシステムの構築を進めていくことを計画している.
以上のように,(1)観察実験,(2)知見の蓄積,(3)システム作成,という3者
のサイクルから,様々なドメインにも応用可能な知見を得る必要がある.そして
情報アニメーションという新しい表現方法が人間にどのような認知的効果をもた
49
らすのか,また,人間がアニメーションに対してどのようなインタラクションを
行い情報を理解しようとするのかを探ることが重要であると思われる.
50
7.まとめ
本論では,情報に隠されている意味を見出し解釈するための手法としてアニ
メーションを用いた表現に着目し,
(1)動きのある表現が人間にもたらす認知的効果,および
(2)ユーザが情報アニメーション表現と行うインタラクションの形態
という2点を論点として,実際に情報をアニメーション表現すること,また情報
アニメーションとインタラクション可能なツールを構築することによって,ユー
ザ観察を行い考察した.
アニメーションの持つ認知的効果を調べるためのユーザ観察では静的な表現と
の比較を行い,その結果からアニメーション表現が効果的に作用するのは,
(1)データの変化に着目したい場合と,
(2)軸を固定して変化を見たい場合,
であることがわかった.
次に,インタラクティブな情報アニメーション作成環境を構築し,利用者がど
のようにアニメーション表現とインタラクションを行うかについて観察した.そ
の結果,空間に対するインタラクションと,変化する時間に対するインタラクショ
ンを以下のような目的のために行うことがわかった.
(1)変化が顕著に現れる箇所の特定
(2)特定の時刻の検索
(3)知覚的な理解のための没入感の獲得
これらのユーザ観察の結果をもとに,効果的に情報をアニメーション表現する
ためには,以下のような側面が重要であると考えられる.
(1)変化する情報のコンテキスト
(2)アニメーションに伴う変化軸のコンテキスト
(3)時間的,空間的なコントロール
これらの要件を情報アニメーション環境に取り入れることによって,情報のよ
り深い解釈が可能となると考えられる.
51
謝辞
本研究を遂行するにあたり御指導いただいた方々,お世話になった方々に感謝
の意を表したいと思います.
指導教官である井上克郎教授に対し,厚く御礼を申し上げたいと思います.研
究者としての心構えや考え方を広く深い視野から御指導いただきました.深く感
謝いたしております.
副指導教官である関浩之教授には,研究の本質に関わる事柄について鋭い御指
導,御指摘をいただきました.心より感謝いたしております.
松本健一助教授には,本研究について一歩離れたところから冷静な鋭い御指摘,
御意見をいただきました.研究生括のみならず,研究を離れた場面においても様々
な御指導をいただきました.心より感謝いたします.
中小路久美代助教授には,研究に対する姿勢を含め常に鋭い御意見,数々の適
切な御助言をいただきました.抽象的なアイデアや考えであっても真蟄に受け止
めて下さり,アイデアを具現化するために多大なる御助言をいただきました.い
ただいた御指導,御指摘は本研究を行う上で欠かすことができないものでした.
深く感謝いたします.
蔵川圭助手には,本研究に関する間邁について幾度となく長時間に渡る議論に
おつき合い下さり,たくさんの御指導,御助言をいただきました.いただいた御
指摘,御忠告は非常に示唆に富むものでした.また,議論の中から生まれたアイ
デアは本研究に十分に生かすことができました.深く感謝いたします.
(株)SRA青木淳氏には本研究を遂行する上で必要不可欠であるアニメーショ
ン環境の構築に際して多大なる御助力をいただきました.本研究の目的に対して
も理解していただきたくさんの有用な御助言をいただきました.青木淳氏の御助
力,御助言なしには本研究は成し得ませんでした.心より感謝いたしております.
TwinbearResearch社のBrentN.Reeves博士は来日された折りには研究室に
お立ち寄り下さり様々なアイデアを聞いて下さいました.的確な御意見は本研究
に十分に活かすことができました.また,システム構築の初期段階においてもた
くさんのご協力をいただきました.深く感謝いたします.
慶應義塾大学の高田眞吾講師には,本研究が目指すところを理解していただき,
52
様々な有益な御助言をいただきました.心から感謝いたします.
飯田元助教授には,本研究について一歩離れたところから冷静な鋭い御指摘,
指導をいただきました.深く感謝いたします.
門田暁人助手には,研究生括においても研究以外の場においても多くの御助言
をいただきました.心より感謝します.
(株)SRAの岸田孝一氏は実務の立場から本研究に建設的な御意見をいただき
ました.ありがとうございました.
認知科学講座の先輩である山本恭裕氏には日頃より適切かつ貴重なアドバイス
をいただきました.本研究を行なうにあたっても非常に有益なアドバイスやコメ
ントをいただきました.心より感謝いたします.
ソフトウェア計画構成学講座の森崎修司氏,大和正武氏には研究生括において
も研究以外の場においても様々なアドバイスをいただきました.深く感謝いたし
ます.
認知科学講座の先輩である大平雅雄氏には本研究に関して様々な議論をして頂
きました.実験に際しては被験者として快く参加して下さいました.深く感謝し
ます.
認知科学講座の中川渉氏,駒形伸子君,田中洋君とは本研究に関して様々な議
論をしてもらいました.深く感謝します.
最後になりましたが,本研究を影より支えて下さいました鳥居宏次副学長に心
より感謝いたします.
53
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56
付録
A.ユーザ観察1における実験データ
データ群Ⅰ
データセット1 データセット2 データセット3 データセット4
EL [AJ L IAl =E Al llAl
1 75 1100
1 0
1 10
2 50 2 80
2 15
21125
3 75 3 75
3 25
31100
4 25 4 50
4 75
4 25
5 50 5 75
5 50
5100
6 75 6 75
6 90
6 50
7100 7 25
7100
7 25
8 75 8 50
8 10
81130
9 50 9160
91125
10 25 10 75
10 50
9 50
10 0
テしタセット5 テしタセット6 データセット7
「】r Al 【llAl lllA1
1 25 1 50 1 25
2 15 2 75 2 50
3 0 3 0 3160
4 75 4 25 4 25
5 50 5 25 5 50
6 70 6 50 6 75
7 95 7 0 7100
8100 8 30 8 75
9100 9160 9 0
10 25 10 25 10 25
57
データ群H
データセット1
ー ▲ i
データセット2
データセット3
[]
[ニコ
A
B
1
25 75 50
1
O l00 75
2
50 50 25
2
3
100 75 0
3
4
75 25 10
4
50 80 75
25 75 0
10 50 10
5
0 50 25
5
100 75 25
6
25 75 40
6
75 75 10
7
25100 50
7
60 25 10
8
50 75 65
8
50 50 25
9
50 50 75
9
50 60 50
9
10
75 25 85
10
25 75 25
10
1
2
3
4
5
6
7
●
[コ
25 0
75
100 15
100
50 25
25
75 75
50
10 50
25
25 90
100
40100
0 25
100
10
75
0 50
50
8 20 10
データセット4
データセット5
L 】A B C
= A B
1 40 10 25
1 75 25
75
1 25 50 0
2 50 25 25
2100 15
25
2 0 75 75
3160100 50
3 0 0
75
3100 0 50
4 75 25 70
4 50 75
50
4 75 25 40
51(X)1(X)100
5 25 50
00
5 15 25 0
6190 50 30
6125 70
75
6 25 50 0
7 75 25 50
7 25 95
50
7 0 0 50
8 50 30 75
8 501(X)
25
8 75 30 75
9 40 50 50
9 50100
10 75 25
10 75 0 25
データセット6
C
1
1
データセット7
= A 目
1100
25
50
2 50
50
100
90
3100
60
4 75
25
10
5 0
50
75
6 50
75
25
7 25
100
50
8 75
75
100
9 50
0
75
10 75
25
00
1
58
」二 A B C
00
9 50 60 50
75
10 25 25100
B.発表文献リスト
●高嶋章雄,蔵川圭,山本恭裕,中小路久美代,時間的変化を伴うデータのため
の情報アニメーション,電子情報通信学会ヒューマン情報処理研究会,Ma∫Ch
(2001)(toappear)・
●高嶋章雄,蔵川圭,山本恭裕,中小路久美代,時間的変化を伴う複雑な事象
の表現手法に関する研究,情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会,
2001−HI−92,Pp.31−38,January(2001)・
●A.Taknshima,Y.Yamamoto,K.Naknkoji,AReportonEmpiricalStudies
ofWbbSearchProcesses,ProceedingsoftheInternationalSymposiumon
FutureSoftwareTechnology(ISFST−00),Guiyang,China,SoftwareEngi−
neersAssociates,Tokyo,Japan,pp.255−260,Angust(2000)・
●高嶋章雄,山本恭裕,蔵川圭,中小路久美代,知識ベース画像検索システム
IAM−eMMaにおける学習の分析,人工知能学会知的教育システム研究会,
SIG−IES−9903−9,PP.47−52,March(2000)・
●A.Aoki,K.Hay誠hi,K.Kishida,K.Nakakoji,Y・Nisinaka,B・Reeves,
A.Taknshima,Y・YamamOtO,ACaseStudyoftheEvolutionofJun:an
Object−OrientedOpen−Source3DMultimediaLibrary,Proceedingsofthe
InternationalConferenceon SoftwareEngineering(ICSE,2001),Toronto,
Canada.(2001)(toappear)・
●K.Nakakoji,M.Ohira,A.Taknshima,Y・YamamOtO,AComputational
ToolforLifelongLearnlngThroughExperienclngBreakdownsandUnder−
standingtheSituations)ProceedingsoftheInternationalWorkshoponNew
TbchnologiesforCollaborativeLearn1ng,Hyogo,Japan,PP・99−107,Novem−
ber(2000)・
59
・中川渉,高嶋章雄,山本恭裕,蔵川圭,中小路久美代,実演奏における演
奏表情情報の抽出と適用,情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会,
2000−H−8針10,pp・65イ2,J山y(2000).
60
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