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ESOP(従業員持株制度)について
2001.2. No.394 目 次 ESOP(従業員持株制度)に ついて ESOP(従業員持株制度)について 1.はじめに ご参照) 現在、自民党の証券市場等活性化対策特命委 具体的な制度運営の流れは、次のようになり 員会(相沢英之委員長)を中心に、最近の急激 ます。 な株価の下落に歯止めをかけ、わが国証券市場 まず、制度を実施する企業が、信託の仕組み の活性化を図るための方策(いわゆる“株価対 に基づく従業員の持株組織である「ESOP」を 策” )が検討されています。 設立します。そして、このESOPに対して、当 具体的には、企業の自社株の取得・保有を自 該企業が自社株または現金を拠出します。 由化する金庫株の解禁、日本版401K(確定拠 ESOPは、従業員の個人口座へ各人の対象報酬 出年金)法案の早期成立、自社株を主な運用対 の一定割合等に応じて自社株を定期的に分配 象とする企業年金制度である「ESOP(従業員 し、従業員は退職時に限り、自社株または現金 持株制度)」の導入等、自社株関連の規制緩和 で引き出すことができます(【図2】をご参照) 。 を図り、多様で魅力ある株式関連商品を提供す なお、制度運営の過程で企業が拠出する資金 る内容が示されています。 (自社株または現金)や自社株に対する配当等 今月号では、これらの内容のうち、米国で既 については、税制上の優遇措置が与えられます に普及し、わが国でも新しい制度の選択肢とし (後述) 。 て注目されている「ESOP(従業員持株制度)」 わが国では「従業員持株会」という制度があ について説明します。 りますが、これは従業員が税引後の所得から任 意に自社株の積立貯蓄を行い、会社が一定の補 2.米国のESOPについて 助を行うものであり、従業員は随時現金化が可 (1)ESOP(従業員持株制度)とは 能となります。これに対し、ESOP(従業員持 ESOPとは、Employee Stock Ownership 株制度)は、従業員の引き出しを退職時に限定 Plan の略であり、「従業員持株制度」と訳され することにより、退職後の所得保証制度として ます。米国の確定拠出プランの一形態であり、 の機能を持たせています。 マネーパーチェス年金制度、利益分配制度、節 (2)ESOP(従業員持株制度)の要件 約貯蓄制度、株式賞与制度と並んで、一般的な ESOP(従業員持株制度)が「税制適格な従 企業年金制度として普及しています。(【表1】 業員持株制度」として認められ、税制上の優遇 −1− ESOP(従業員持株制度)について 措置を受けるためには、以下で説明する各項目 なお、制度の加入者が年齢55歳以上かつ加 について、さまざまな要件を満たす必要があり 入期間10年以上を満たした最初の制度年度に ます。 続く5年間については、反対に投資を分散する ●税制上の制度分類 権利を与える必要があります。具体的には、事 確定拠出プランが、税制適格として認められ 業主の有価証券以外に3種類の投資の選択肢を るためには、エリサ法に規定される基本的適格 提供し、各年について、従業員の勘定残高総額 要件を満たす必要があります。適格な従業員持 の25% (5年目は50%) まで他の投資の選択肢へ 株制度は、適格な株式賞与制度であるか、適格 の移し替えが認められなければなりません。 な株式賞与制度と適格なマネーパーチェス年金 ●株式賞与制度としての要件 従業金持株制度は、株式賞与制度についての 制度との組み合わせでなければなりません。こ 4つの要件を満たさなければなりません。 のため、従業員持株制度は、株式賞与制度と (該当する場合)マネーパーチェス年金制度に ①加入者は、事業主の有価証券により給付が支給 適用される全ての要件を満たすことが必要とな される権利を有すること。 ②事業主の有価証券が市場で容易に取引できない 場合、公正価格で事業主に売却する権利(プッ ります。 ●投資に関する制度 ト・オプション)を加入者へ与えること。 ESOP(従業員持株制度)では、総資産の ③通常退職年齢以降の退職、障害、死亡の場合は、 その年度終了後1年以内に給付の支給を開始する 50%以上を事業主の有価証券へ投資する必要 こと(それ以外の退職の場合は6年以内) があります。(ここで、「事業主の有価証券」と ④5年以内(勘定残高が50万ドル超の場合は延長可 は、事業主または同一企業グループの発行する 能)の期間にわたりほぼ同額の給付が定期的に 普通株式か優先株式のうち、国内歳入法に規定 支給されること。 (3)ESOP(従業員持株制度)の税制 される一定の要件を満たすものを指します。) ●拠出金 このため、実際はほとんどの従業員持株制度 従業員持株制度における事業主拠出の年間損 が普通株式を使用し、一時的な現金投資以外は 金算入額の上限は、制度に加入する従業員の年 全て事業主の有価証券に投資されています。 【表 1】米国の主な確定拠出プラン 制 度 種 類 制 度 の 概 要 ★マネーパーチェス年金制度 (Money Purchase Plan) ・事業主掛金が、制度規約に定められた掛金算定式に基づき、定期的に拠出される制度。 ~~~~~~~~~~~ ★利益分配制度 (Profit Sharing Plan) ・事業主掛金が、企業の当期(又は累積)利益に応じて拠出される制度。 (→定期的な拠出が行われる保証のない制度。) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・ただし、掛金は必ずしも利益と関連する必要がなく、実質的にはマネーパーチェス年金制 度と区別できない場合もある。 ★節約貯蓄制度(従業員貯蓄制度) ・任意拠出の従業員掛金が主体となり、事業主が補助(マッチング拠出)を行う制度。 ・従業員掛金が利益分配を基準とする場合は、利益分配制度の一形態となる。 (Thrift Plan) ★株式賞与制度 (Stock Bonus Plan) ・基本的な仕組みは、利益分配制度と同じ。ただし、給付が事業主の株式によって支給される。 −2− 間総報酬額の15%となります。この範囲内で、 額(指数調整のない150,000ドルか指数調整 制度へ拠出する現金または株式の時価に相当す のある112,500ドル(1988年価格)を上回る る金額を損金算入することができます。 額)がある場合も15%の特別税が課せられる また、個人勘定に拠出できる年間拠出額の上 こととなります。(→中途退職で給付を受ける 限が別途設定されており、確定給付型年金制度、 場合でも、給付をIRA(個人退職勘定)に移管 マネーパーチェス年金制度、利益分配制度、従 すれば追加所得税は課せられません。) 業員貯蓄制度および従業員持株制度への拠出額 なお、給付金に事業主の有価証券が含まれる を合算して、当該従業員の年間総報酬額の 場合は、有価証券の含み益(=支給時点の市場 25%または3万ドルのいずれか小さい方の額ま 価格−取得時点の購入費用)が課税対象所得か でとなります。 ら控除されますが、当該有価証券の売却時に、 ●運用収益、所有株式の配当 売却益(=売却価格−取得時点の購入費用)が、 給付受領者の課税対象所得に含められます。 従業員持株制度における運用収益は非課税と なります。(企業が株主に対して支払う株式配 当は、通常は損金算入できませんが、従業員持 3.レバレッジドESOP (借入型従業員持株制度) 株制度が所有する株式に支払われる株式配当に レバレッジドESOP(借入型従業員持株制度) ついては、例外として事業主に損金算入が認め とは、事業主の有価証券の購入資金を銀行等の られます。 ) 金融機関から借り入れる従業員持株制度のこと ●給付 です。 具体的な制度の仕組みは、【図3】に示す通 給付は、現金または事業主の有価証券により りです。 一時金として支給され、課税対象所得となりま す(→税の算出方法は、複雑なため省略)。ま まず、制度の下で設定された信託の信託受託 た、通常の課税に加えて、59.5歳以前の支給 者(ESOP)が、銀行等の貸出機関から借入を には10%の追加所得税が課せられ、超過支給 行い(①) 、その借入金を元手に自社株を購入 【図2】ESOP(従業員株主制度)の仕組み 制度実施企業 現金又は 自社株で拠出 信託受託者 (ESOP) 自社株購入 株式市場 自社株取得 自社株を 定期的に配分 従業員口座 退 職 者 給 付 −3− ESOP(従業員持株制度)について 【図3】レバレッジドESOP(借入型従業員株主制度)の仕組み 制度実施企業 ④現金掛金 貸出機関 (銀行等) ①借入(ローン) ⑥返済 信託受託者 (ESOP) ②自社株購入 株式市場 ③自社株取得 ⑤自社株を配分 配当の実施 従業員口座 退 職 者 ⑦給 付 (②) 、信託受託者が株式を取得のうえ所有しま 度であり、年金給付を前提とするわが国の企業 す(③) 。制度実施企業は毎年、上限枠の範囲 年金制度へダイレクトに持ち込めるかという点 内で現金を拠出し (④) 、加入者への拠出の実行 や、自社株を主な投資対象とする制度であるた に応じて徐々に自社株を従業員口座へ分配(⑤) め、制度実施企業の倒産や株価が下落した場合 します。そして、借入金(返済利息を含む)は、 は、給付額が減少してしまい、老後の所得保証 信託受託者を通じて事業主の現金掛金から返済 機能に対する不安が大きいという点などです。 されます (⑥) 。従業員が退職した場合は、給付 さらに、そもそもの制度実施のインセンティブ は事業主の有価証券または現金で行われます が、事業主サイドに大きく傾斜しているのでは (⑦)。(なお、株式配当は、従業員口座へ直接、 ないかという指摘もあります。 あるいはESOPを経由して各従業員に支払われ そのため、全く新しい日本版ESOPの導入検 るか、借入金の返済に充てられます。 ) 討だけではなく、確定拠出年金制度の拡充 (例:自社株のみの投資を認める)により、あ 4.おわりに る程度の代替が可能ではないかといった観点か 米国のESOPの概要はすでに説明した通りで らも検討が必要と思われます。 すが、同制度のわが国への導入を考えた場合、 以上 多くの問題が予想されます。 [参考文献] ダン・M・マックギル他「企業年金の基礎(改版)第12章」 (㈱ぎょうせい)1998年 例えば、ESOPは一時金給付を前提とした制 企業年金ノート No.394 平成 13年 2月 大和銀行発行 年金・法人信託企画部 〒541-0051 大 阪 市 中 央 区 備 後 町 2 ー 2 ー 1 TEL. 06 (6268) 1810 年金・法人信託企画部(東京) 〒100-0004 東京都千代田区大手町 2 ー1 ー1 TEL. 03 (5202) 5415 大和銀行はインターネットにホームページを開設しております。 【http://www.daiwabank.co.jp/】 大和銀行は、インターネットを利用して企業年金の各種情報を提供する「ダイワ企業年金ネットワーク」を開設しております。 ご利用をご希望の場合は、年金・法人信託企画部までお問い合せ下さい。 (TEL 06(6268)1810) −4−