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VoIP 網における呼レベルのダイナミックルーティングと 輻輳制御の研究

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VoIP 網における呼レベルのダイナミックルーティングと 輻輳制御の研究
04―01031
VoIP 網における呼レベルのダイナミックルーティングと
輻輳制御の研究
山 本 尚 生
武蔵工業大学工学部教授
はじめに
従来の電気通信網とコンピュータネットワークの違いの一つとして,その交換(多重化)原理が挙げられる。
すなわち,回線交換(時分割多重)とパケット交換(パケット多重)である。通信サービスの単位として,前者
には“呼び”という概念が最初から定着していて,常に呼びを単位として,品質(通話品質,接続品質,公平性
など)を考えてきたが,後者においては,その用途の生い立ちからして,常に“パケット”あるいは“トランザ
クション”レベルでの損失や遅延が評価の対象であり,呼という単位での考え方は極めて希薄であった。ユーザ
の視点に立てば,本来目的達成に必要なサービス利用単位での品質評価なりトラヒック制御が必要となる。特に,
VoIP(Voice over IP:音声双方向の会話通信を IP 網上で提供する技術)では,電話サービスに近いサービス
単位の概念,すなわち呼(call)としてのトラヒックの扱いの必要性が顕在化しつつあり,キャリヤ規模の本格
的な音声会話サービスを展開するには多くの課題が残されている。
本研究では,この中で,1.特定対地へ集中するトラヒック(集中過負荷)の規制制御や接続完了呼の通話品
質維持のための仕組み,および,2.平常時のトラヒック変動を効率よく吸収するために行う迂回ルーテイング
へ対応したトラヒック制御法とそのシステム化の検討を目的とした。本報告では,1.の研究の後半部分につい
て2005年度前半に行った検討の概要を示し,2.について提案した制御アルゴリズムとシステム構成および性能
評価結果の一部を報告する。評価は,標準的に使われているネットワークシミュレータ“OPNET”に提案アル
ズムを組み込んだ評価環境を立ち上げて実施した。
1
1.1
VoIP ネットワークにおける呼レベルのトラヒック規制制御とその大規模シミュレーション評価
品質満足完了呼の評価と接続公平性への新しいコンセプトの導入
IP-NW における通信品質の制御手法は,主にパケットレベルの制御(ex. IntServ,DiffServ)が対象になっ
ているが,本研究では呼単位での品質保証を行うために,呼受付け制御(CAC:Call Admission Control)によ
る方法に重点化している。
品質満足完了呼の評価について:IP-NW においては,ある呼の接続が,その呼のみならず他の通話中の呼の
通話品質低下を招く可能性がある。本検討では,従来の「呼の接続」をもって完了呼としていた考え方と異なる
完了呼を定義し,品質評価の尺度とする。すなわち通話が一定の品質(具体的にはパケット転送遅延時間やパ
ケット損失率)を維持しつつ終了した呼として完了呼を定義しこれを「品質満足完了呼(Quality Satisfied
Completed Call:QSCC)」と呼ぶ。全国規模の集中過負荷を想定して,平常時と輻輳時の各々に適するトラ
ヒック規制制御アルゴリズムを開発し,計算機シミュレーションによる特性評価行った。評価に用いた網モデル
と得られた評価特性を図1,2に示す。
接続公平性について:設計呼量を基準とした従来の考え方から脱却して,現実に加わっている呼量に応じて疎
通量を配分する新しい公平性(発生呼量指向の公平性 CROF:Originated Call Rate Oriented Fairness)の考え
方を提唱した。CROF を実現するための制御アルゴリズムとして,特定対地への集中過負荷が発生したときに
着側ゲートウェにおいて総呼量から一律に規制を行える手法を考案した。本検討では制御アルゴリズムの詳細化
を終え,計算機シミュレーションによる特性評価を進めた。
― 344 ―
GW3
GW5
GW1
Router 1
Router 2
GW2
GW8
IP network
PSTN
GW4
GW6
GW7
Quality Satisfied Completed Call Rate
(QSCCR)
図1 シミュレーションに用いたネットワークモデル
100
with control
%
only with DAC
50
without control
0
0
2
4
6
Load
8
10
(㬍base load)
図2 トラヒック負荷に対する品質満足完了率(QSCCR)
2
2.1
疎通性能の安定化とトラヒック変動への適応性を考慮した VoIP 網接続方式
品質資源留保法
2.1.1
提案の背景
IP 網はある新たな呼の接続がその呼だけでなく他の通話中の呼の品質低下を招く可能性がある。よって,本
検討では通話品質を満足して完了する呼を増やすことを目的とし,CAC により,新たな呼および通話中の呼の
品質維持が困難と判断される状況においては新たな呼の接続要求を拒否する(呼損とする)制御を前提とする。
また,本論では,品質の安定化とトラヒックエンジニアリングの観点から MPLS 等のラベルスイッチング技
術により通話中のパケット転送ルートが呼毎に特定のルート(VC:virtual circuit)に固定化することを前提と
する。この場合,対地間のトラヒック需要の短期間変動を吸収するために呼毎の迂回ルーティングを行う必要が
あるが,迂回による接続を無秩序に増やしてしまうと本来疎通すべき呼を圧迫してしまいネットワーク全体での
疎通量の低下と不安定化が起こることが知られている[10]。そのような現象を抑制する仕組みとして品質資源留
保法(QRR 法:Quality Resources Reservation scheme)を提案する[8]。
2.1.2
QRR 法概要
QRR 法の基本動作を説明するために,呼とルートに関する次の用語を図3のように定義し,接続状態から見
た呼と評価指標を下記に定義する。
本来ルート(primary root),迂回ルート(alternate root),本来リンク(primary linc)
迂回リンク(alternate linc),本来呼(home call),迂回呼(away call)
― 345 ―
“ᵿᶊᶒᶃᶐᶌᵿᶒᶃᴾᶐᶍᶍᶒ” ᶄᶍᶐᴾᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵡᵇᵊ
ᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵡᵇᴾᶇᶑᴾ“ᵿᶕᵿᶗ ᶁᵿᶊᶊ”ᵌ
ᵠ
“ᵿᶊᶒᶃᶐᶌᵿᶒᶃᴾᶐᶍᶍᶒ” ᶄᶍᶐᴾᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵠᵇᵊ
ᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵠᵇᴾᶇᶑᴾ“ᵿᶕᵿᶗ ᶁᵿᶊᶊ”ᵌ
ᵡ
ᵟ
“ᶎᶐᶇᶋᵿᶐᶗᴾᶐᶍᶍᶒ” ᶄᶍᶐᴾᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵠᵇᵊ
ᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵠᵇᴾᶇᶑᴾ“ᶆᶍᶋᶃᴾᶁᵿᶊᶊ”ᵊ
ᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵡᵇᴾᶇᶑᴾ“ᵿᶕᵿᶗᴾᶁᵿᶊᶊ”ᵌ
“ᶎᶐᶇᶋᵿᶐᶗᴾᶐᶍᶍᶒ” ᶄᶍᶐᴾᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵡᵇᵊᴾᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵡᵇᴾᶇᶑᴾ“ᶆᶍᶋᶃᴾᶁᵿᶊᶊ”ᵊᴾ
ᶁᵿᶊᶊᵆᵟᵋᵠᵇᴾᶇᶑᴾ“ᵿᶕᵿᶗᴾᶁᵿᶊᶊ”ᵌ
図3 ルートと呼の定義
接続された呼を次のように区別する。
接続完了呼(Connection Completed Call:CCC):各対地間で生起した呼のうち,網内に接続が許可され接続
された呼。
品質満足完了呼(Quality Satisfied Completed Call:QSCC):CCC のうち,保留時間中に一定水準の通話品質
を満たして終了した呼。通常,顧客への課金対象となる。
品質満足完了率(QSCC Rate:QSCCR):CCC 数に対する QSCC 数の割合を表し,以下のように定義する。
QSCCR=(QSCC 数/CCC数)
×100[%]
QRR 法の基本的な目的は,ある特定の呼を他の種類の呼に対して優先的に接続することである。前者が本来
呼で後者が迂回呼の場合,これによって迂回呼の無秩序な接続と前述した玉突き現象の発生を抑制できる。基本
的な考え方は回線交換網における回線留保法[10]と同じであるが,優先接続の判断基準(閾値)が回線留保法で
は空き回線数であり,QRR 法では品質資源,すなわち「パケット損失率」か「遅延時間」の量を閾値(品質閾
値)とするところが異なる。ルートごとの品質測定値と品質閾値を比べ接続可否を判断する。閾値は本来呼用
(本来呼閾値)と迂回呼用(迂回呼閾値)の2種類設定されていて,迂回呼には本来呼よりも厳しい閾値を設け
る。この QRR 法を直接,呼ごとの接続制御に適用した場合の効果は参考文献[7][18]に示されている。
2.2
大規模 VoIP 網を対象とした接続方式
2.2.1
システム構成への要件
本論では,大規模 VoIP 網の制御とシステム構成への要件として以下の事項を想定する。
① QSCC 呼量最大化と QSCCR 最大化の両立
② 性能低下のない安定的なネットワーク状態の保持
③ 短期的なトラヒック変動への柔軟な適応性(網資源配分の自動化)
④ ゲートウェイルータや中継ルータにおける呼接続処理負荷の軽減。
⑤ 中長期的な需要変動に備えたトラヒックエンジニアリングの可能な仕組。
①②に関して,電話のようなサービスを考えるならば,呼毎のルートの固定化や CAC を行うことが望ましい
ことは前述した通りである。また同様に③に関しても,迂回ルーテイングの導入とその不安定化を防ぐための品
質資源留保法の導入が期待できる。しかし,これらは GW や中継ルータにおける呼接続処理負荷の増大を意味
し④に反する。呼接続は実時間性が要求されるので GW や中継ルータにおける処理は単純であることが望まし
い。⑤に関しては,大規模網を考えた場合,設備の故障やトラフィックの変動に対して,ネットワーク全体を把
握した効率の良い対応が必要となる[15]。
2.2.2
システム構成
提案するシステムの構成を図4に示す。MPLS[16]によって対地間に本来ルートの VC(Virtual Circuit)と迂
回ルートの VC の形成が可能となり,呼単位での迂回ルーティングを簡易に実行できる[17]。システム構成は品
質資源管理センタ(Quality Resource Management Center:以下 QRM センタ)と呼処理ゲートウェイルータ
― 346 ―
(以下 GW)および中継ルータから成り,センタによる集中管理とルータによる分散制御を組み合わせたハイブ
リット型の構成である[18][19]。
以下,GW および QRM センタで行う処理の概要を示す。
[GW での処理]
GW は QRM センタの処理により割り当てられた VC を保持しその数をもとに CAC を行う。ある対地間の接
続完了率があらかじめ設定された基準値を下回る場合には QRM センタへ新たな VC の配分を要求する(VC 要
求処理)。また,保持している各対地間の VC 数に対して特定の本数(余裕保持 VC 数)を設定し,呼の終了ご
とに同時接続中の VC 数と比較する。余裕保持 VC 数を上回って VC が過剰に余っている対地間は,あらかじ
め設定された定数の VC を QRM センタへ戻す(VC 返納処理)。また,周期的な処理として,各出方路(リン
ク)の品質資源状況すなわちパケットの遅延時間を測定し,QRM センタへ転送する。
VC addition processing
Allocating additional VCs
between origination GW
and destination GW.
Quarity resource
management center
㧔QRM center㧕
VC requirement processing
Demanding additional VCs
when the VC resource is lucked.
MPLS
network
Gate way rooter
(GW)
Call admission control㧔CAC㧕
Judging call admission by the
idle VC situation.
VC return processing
Remaining VCs are
returned to QRM center
図4 システム構成と処理概要
[QRM センタでの処理]
QRM センタでは,各対地間に対して本来ルートと迂回ルートの VC 経路を形成し,GW からの VC 要求処理
に応じて必要な数の VC を各発 GW に割り当てる(VC 追加処理)。VC 追加処理の際に,各 GW から収集され
ている各リンクの遅延時間に関するデータを用いた品質資源留保法に基づいて本来ルート用 VC 数の追加を迂
回ルート用 VC 数の追加に比べて優先的に行う。また GW の VC 返納処理によって対地間の余っている VC を
回収し,VC 数が不足している対地間への VC 追加処理に備える。余裕保持 VC 数および返納 VC 数の値を決
めるパラメータを GW へ指示する。
QRM センタにおいて,各対地間に割り当てる VC 数を算出する段階で QRR 法が適応される。これにより各
GW での呼毎の CAC では QRR 法を行わず,その時点で使用できる VC 数を確認するだけの簡単な処理となり,
GW の処理負荷を軽減できる。
以下,制御アルゴリズムの詳細を示す。
2.2.3
制御アルゴリズム
QRM センタと GW 間で行われる VC 返納処理・VC 追加処理・VC 要求処理の3つの制御処理の動作を説明
するために以下のことを定義する。
・対地 ij 間の任意ルート k に与えられる VC 数:Sk (ij)
・対地 ij 間の全 VC 数: TS (ij) = !Sk (ij)
k
・対地 ij 間での優先経路(本来ルート)の VC 数:Sd (ij)
・対地 ij 間の余裕保持 VC 数: R (ij) =TS (ij) # a
(パラメータ a (0 < a≦1) は QRM センタより与えられる。)
― 347 ―
・対地 ij 間の優先経路(本来ルート)の同時接続 VC 数: Nd (ij)
・対地 ij 間の全同時接続 VC 数:TN (ij) = ! Nk (ij)
k
[GW における処理アルゴリズム]
GW では対地間の経路ごとに VC と余裕保持 VC を管理し,呼接続を制御する。
¸
CAC 処理
対地間 ij の呼接続要求に際して,本来ルート d の VC に空きがあれば(Sd (ij) - Nd (ij)> 0),本来ルートで接
続を行い,無ければ迂回ルートの空き VC を検索する。迂回ルートの検索はあらかじめ決められた順位で行う。
本論のモデルでは迂回ルートは全て2リンクで優先度を等しくしているので,その中から空き VC 数の最も多
い迂回ルートで接続する。空き VC が無ければ呼損とする。
¹
VC返納処理
呼の終了時に
TN (ij)< TS (ij) - R (ij)
となれば対地 ij 間の優先順位が低いルート,すなわち迂回ルートの VC から一定の VC 数を返納して行き全体
で
R (ij) # r
(r はパラメータ 0 < r E 1 で QRM センタより与えられる。)
を返納する。
º
VC 要求処理
呼接続要求時に,最終選択経路(k (ij))においても空 VC がなければ(TN (ij) = TS (ij))呼損とし,定期的に
計算する呼損率が一定値以上になれば QRM センタへ VC の追加を要求する。このとき,呼損率データも送る。
»
品質測定処理
周期的な処理として,各出方路(リンク)の遅延時間を測定し,QRM センタへ転送する。本論では,遅延変
動は伝送路への送出バッファでしか発生しないネットワークを想定し,ルータが5秒間隔で測定したバッファで
生じる遅延時間の標本12個の加重移動平均の値を遅延時間として用いている。
[QRM センタにおける処理アルゴリズム]
¸
VC 追加処理
先ず,VC 要求を受けた対地間 ij に,この処理で追加する VC 数の上限を設定する。これには,GW からの
呼損率データと現在割り当て中の VC 数(TS (ij))から算出する方法と固定値を設定しておく方法が考えられる。
GW から周期処理で送られてくる各リンクの遅延時間データと QRR 法を用いて,リンクごとの仮想的な接続可
否判定に基づく経路構築を行う。まず優先経路である本来ルート上で行い,構築できなければ非優先経路である
迂回ルート上を調べる。上記の上限値の範囲内で VC 構築を繰り返す。VC 構築が終了したら,追加する VC を
構築したルート k ごとに,
S k (ij) = S k (ij) + a k
(a k はルート k に新たに追加される VC 数)
として要求のあった GW へ送信する。
¹
VC 返納処理の受付
GW からの VC 返納処理を受けた場合,当該対地間 ij に与えている VC 総数のデータを変更する。
TS (ij) ! TS (ij) - R (ij) # r
2.3
性能評価
2.3.1
網モデルと制御パラメータ
評価に用いたネットワークモデルは図5に示す5ノードモデルであり,これに QRM センタを加えている。
その他の設定値は表1の通りである。
余裕保持 VC 数は,シミュレーションⅠでは割当済み VC 数の 30[%](a = 0.3)とし,シミュレーションⅡ
では10[%](a = 0.1)とした。また返納 VC 数は,シミュレーションⅠ・Ⅱ共に余裕保持 VC 数の20[%]
(r = 0.2)とした。各 GW が不要な VC を多く保持しないようにするためには,余裕保持 VC 数をなるべく小さ
― 348 ―
い値とし,返納 VC 数を大きく設定することが望まれるが,QRM センタへの VC 返納処理や VC 要求処理の
発生頻度は多くなり双方の処理負荷が増加する。実際には処理能力やトラヒック変動の特性を考慮して運用で妥
当な値を設定することになる。
Gate way rooter
㧔GW㧕
Call source
図5 5ノードモデル
表1 シミュレーション設定値
2.3.2
VoIPࡄࠤ࠶࠻ࠨࠗ࠭
200[byte]㧔ࡋ࠶࠳
40[byte]㧕
VoIPࡄࠤ࠶࠻ㅍା㑆㓒
0.02[s]
1ኻ࿾㑆⸳⸘๭㊂
240[erl.]
ᐔဋ଻⇐ᤨ㑆
120[s]
ᐔဋ᦭㖸⛮⛯ᤨ㑆
1.5[s]
᦭㖸₸
38.53[%]
࡝ࡦࠢᏪၞ
10[Mbps]
品質資源留保方式の特性評価
2.3.2[Ⅰ]シミュレーションⅠの設定内容
シミュレーションⅠでは,QRM センタでの QRR によって迂回ルーテイングの安定化が達成されるかどうか
を把握する。対地間に加わる呼量は一様負荷とし,ネットワーク全体に加わる総呼量を 2500[erl]から最大
5000[erl]まで増加させて QSCCR と CCC 数の推移を評価した。QRR で用いる品質閾値を表2に示す。
「CACwithQRR」では迂回ルートの VC 追加のための品質閾値(迂回呼閾値)を,本来ルートの VC 追加のた
めの品質閾値(本来呼閾値)より厳しく設定してその抑制を行い,「CACwithoutQRR」では両方共に同じ品質
閾値を用いて扱う。「Without CAC」は CAC をおこなわない,すなわち全ての VC 追加要求を受け付ける形態
である。
表2 シミュレーションⅠにおける品質閾値
ᧄ᧪๭㑣୯
ㄤ࿁๭㑣୯
CACwithQRRᣇᑼ
20[ms]
15[ms]
CACwithoutQRRᣇᑼ
20[ms]
20[ms]
withoutCAC
㧙
― 349 ―
㧙
2.3.2[Ⅱ]シミュレーションⅡの設定内容
シミュレーションⅡでは,より実際的なトラヒック状況での特性を確認するために設計呼量からランダムに乖
離したアンバランスなトラヒックパターンへの適応性とその変化への追従性の評価を行う。各対地間に加わる呼
量を,その設計呼量に対して上下 50∼90[%]の範囲で一様乱数を用いてランダムに設定することによってア
ンバランス負荷パターンを構成した。負荷パターンの変化への追従性を確認するために異なる2つのアンバラン
ス負荷パターンを構成し,シミュレーションの途中で切り替えて評価を行った。設計呼量はネットワーク全体の
総呼量で 2500[erl],QRR の品質閾値は,各リンクの平均遅延時間を用いて本来呼用:10[ms],迂回呼用:
1[ms]とした。
2.3.3
評価結果
2.3.3[Ⅰ]品質資源留保法(QRR)による VC 割当ての効果
図6では,CACwithQRR と CACwithoutQRR を比較すると,発生呼量を増加させていってもどちらも CCC
数は設計呼量の約95[%]に抑制されている。このことから各 GW においてセンタより割当てられた VC 数に
よる CAC が機能していることを確認できる。ここで,CACwithQRR と CACwithoutQRR の差はわずかであり,
品質閾値が厳しく設定されている迂回呼が制限されている分だけ CACwithQRR の CCC 呼量が低くなってい
る。一方,QSCC 呼量の推移をみると,総呼量を増加させても約2000[erl]で定常する。CACwithoutQRR の
場合は総呼量の増加に対して減少し続け,設計呼量の約2倍の過負荷(5000erl.)において CACwithQRR に比
べて15[%]近く減少していることが確認できる。これにより,CACwithQRR では,QRM センタからの VC
割り当て時に QRR を適用することによって,過負荷時の過度の迂回ルーテイングを抑制して QSCC 呼量を維
[erl.
持する効果が得られていることがわかる。
㪉㪌㪇㪇
CCC(CACwithQRR)
CCC and QSCC traffic density
㪉㪋㪇㪇
CCC䋨CACwithoutQRR䋩
㪉㪊㪇㪇
㪉㪉㪇㪇
㪉㪈㪇㪇
QSCC䋨CACwithQRR)
㪉㪇㪇㪇
QSCC䋨CACwithoutQRR)
㪈㪐㪇㪇
㪈㪏㪇㪇
䋨
䋺95% confidence interval 䋩
㪈㪎㪇㪇
㪉㪌㪇㪇
㪊㪇㪇㪇
㪊㪎㪌㪇
㪋㪌㪇㪇
㪌㪇㪇㪇
Total offered load [erl.]
図6 負荷に対する CCC と QSCC の変化
2.3.3[Ⅱ]トラヒック変動への追従性
ここでは最も激しい変化でその追従性を確認するために,シミュレーションの途中(9500[sec]の時点)で,
加えているアンバランス負荷パターンを異なるパターンに一挙に切り替えて,CCC 呼量(図7)と QSCCR
(図8)の推移を確認した。各リンクの設計呼量が約 120erl. であるので,負荷パターンのアンバランス度(設
計呼量からの乖離率)は両パターンとも約65%とした。シミュレーションでは,負荷パターンを 9500[sec]の
時点でパターンAからパターンBに切り替えて評価を行った。
CCC 呼量は負荷パターンが変化した直後に大きく減少し,30%以上の低下が確認された。負荷パターンが極
端に変化したため,その時点で各 GW に割当てられている VC 数がトラヒック負荷から大きく乖離したからで
あり,その後緩やかに CCC 呼量を回復し定常状態となった。これは VC 要求処理,VC 追加処理,VC 返納処
理が有効に機能していることを示している。
図7の CCC 呼量の変化と同様に,図8の QSCCR の推移でも,負荷パターン変化前後の定常状態が約 90∼
― 350 ―
100[%]で高い水準を維持している。
しかし,負荷パターン変化直後の QSCCR は低下せずにほぼ 100[%]を示し
ているが,網内の呼量が一旦大きく減少するので,各リンクにおける負荷が減るため,その時点で接続中あるい
は接続された呼のほとんどが品質を満足する状態になるからである。その後 VC 返納処理・VC 追加処理・VC
要求処理が機能し,VC の返還と再割り当てが頻繁に行われる過程で,やや不安定な期間を経て,CCC 呼量の
回復とともに(図7)序々に定常状態に達し安定化する。以上の推移状況から,提案したシステム構成における
GW 機能と QRM センタ機能の連携によって,トラヒック負荷パターンの変化に対してもシステムが柔軟に追
CCC throughput [erl.]
従し,品質資源留保法の効果を発揮して QSCC の維持,安定化を図るように動作していることが確認できる。
㪈㪐㪇㪇
㪈㪏㪇㪇
Change of Traffic pattern
㪈㪎㪇㪇
㪈㪍㪇㪇
㪈㪌㪇㪇
㪈㪋㪇㪇
㪈㪊㪇㪇
pattern A
pattern B
㪈㪉㪇㪇
㪈㪈㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
㪏㪌㪇㪇
㪈㪈㪌㪇㪇
㪈㪋㪌㪇㪇
㪈㪎㪌㪇㪇
㪌㪌㪇㪇
㪈㪊㪇㪇㪇
㪈㪐㪇㪇㪇
㪈㪇㪇㪇㪇
㪈㪍㪇㪇㪇
㪎㪇㪇㪇
㪫㫀㫄㪼㩷㪲㫊㪼㪺㪴
pattern A
pattern B
㪨㪪㪚㪚㪩
㪲㩼㪴
図7 トラヒック負荷パターン変化時の CCC 呼量
㪌㪌㪇㪇
㪎㪇㪇㪇
㪏㪌㪇㪇
㪈㪇㪇㪇㪇
㪈㪈㪌㪇㪇
㪈㪊㪇㪇㪇
㪫㫀㫄㪼㩷㩷㪲㫊㪼㪺㪴
㪈㪋㪌㪇㪇
㪈㪎㪌㪇㪇
㪈㪐㪇㪇㪇
㪈㪍㪇㪇㪇
図8 トラヒック負荷パターン変化時の QCCCR
3 まとめ
本研究では,VoIP によるサービスが大規模に提供される状況を想定して,呼レベルの輻輳制御の必要性を述
べ,負荷状態に適した制御アルゴリズムとシステム構成を提案した。
先ず,IP 網の特質に即した呼接続の公平性に関するポリシーと品質満足完了(QSCC)の考え方を整理した。
初期の過負荷状態においては,品質を満たして終了する呼(品質満足完了呼 QSCC)の数を最大にすることが
重要な制御目的である。接続公平性に関して,発生呼量指向の公平性 CROF(Call originate Rate Oriented
Fairness)を規律を提唱した。これらについて,8発着 GW と2中継ルータからなる6万呼/時間(2000erl)
規模のネットワークモデルを用いた計算機シミュレーションにより制御特性の評価を行い,実効性の確認を得た。
次に,キャリヤ規模の VoIP 網の運用を想定して,網リソースの管理と運用に適した制御システムの構成を示
した。先ず,迂回ルーテイング網の安定的な運用を行うために,従来の回線交換網に適用されていた回線留保法
に相当する品質資源留保法を導入することを提案した。次に,対地間の VC 割り当て状態を計算する品質資源
管理センタ(QRM センタ)と割り当てられた VC 数に基づいて呼受け付け制御(CAC)を行うゲートウェー
ルータ(GW)から成る制御システムの基本構成を提案した。このシステム構成の狙いは,「通話品質を満足し
て完了する呼(品質満足完了呼)数の維持とトラヒック変動の効率的な吸収を実現し,且つ網リソースを効率的
に活用できるシステム」の実現である。5ノード,2500∼5000[erl]規模のネットワークシミュレーションに
― 351 ―
よりこれらの効果を確認した。GW 機能と QRM センタ機能の連携動作によりトラヒック負荷パターンの変化
に動的に適応して VC 割り当て状態を変更し,安定した接続品質を維持できることを示した。
サービスの品質満足完了は利用者としては必須条件である。パケット転送レベルの QoS 技術に関する研究開
発も重要であるが,本論で扱ったように,現状の IP ネットワークの QoS 技術を前提として,呼レベルの受付
け制御による制御技術を導入していくことも現実的な方向であると考えられる。
文 献
[1] http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050608_6.html
[2] 間瀬憲一,“インターネットにおけるスケーラブルなアドミッションコントロール方式”信学誌 Vol.85
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〈発 表 資 料〉
題 名
掲 載 誌 ・ 学 会 名 等
発 表 年 月
疎通性能の安定化とトラヒック変動への適
応性を考慮した VoIP 網接続方式
電子情報通信学会 論文誌 B
投稿処理中
VoIP 網におけるスループット向上と安定
化の検討
電子情報通信学会 通信ソサイエティ大会
B-11-21
2005年9月
VoIP 網におけるハイブリッド型動的経路
選択制御方式
電子情報通信学会 通信ソサイエティ大会
B-11-26
2005年9月
VoIP 網迂回ルーテイングにおける品質資
源留保方式の性能評価
電子情報通信学会 信学技法 CQ2005-80
pp.7-12
2006年2月
トラヒックエンジニアリングを考慮した
VoIP 接続方式 ―トラヒック変動への適
応と網効率の向上―
電子情報通信学会 信学技法 CQ2005-79
pp.1-6
2006年2月
VoIP ネットワークにおける呼レベルのふ
くそう制御アルゴリズムとその大規模シ
ミュレーション評価
電子情報通信学会 論文誌 B Vol.J88-B
No.8 pp.1578-1579
2005年8月
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