Comments
Description
Transcript
東アフリカ陸上(ウガンダ、ケニア、南スーダン)
更新日:2013/7/25 調査部:竹原 東アフリカ陸上(ウガンダ、ケニア、南スーダン)における石油開発と輸出パイプライン 構想 これまで原油生産の空白地帯であった東アフリカが数年後には産油国となる見通しである。 ウガンダ西部のリフト堆積盆で 2005 年以降油田が発見されている。原油輸出パイプラインと製油所 の建設についてウガンダ政府と事業者(Tullow、Total、CNOOC)の意見が食い違い、開発は予定よ り遅れたが、ウガンダ政府は輸出パイプラインと市場規模に見合った製油所の建設に同意。中国に よるインフラ投資や公的融資の後押しも加わり進展の気配を見せている。 ケニアでは 2012 年以降 Tullow が西部陸上のリフト堆積盆において複数の有望構造を発見してい る。ケニア西部で生産した原油はウガンダからケニアやタンザニア向けの輸出パイプラインまで支 線を建設し、接続するオプションが考えられる。 南スーダンは 2011 年 7 月の独立後にスーダンにおける油田生産の 75%が帰属した一方で、パイプ ラインなどの出荷インフラは全てスーダンにあり、出荷に課題を抱えている。パイプライン使用料な ど独立前から未解決の問題を巡りスーダンとの関係が悪化し、南スーダンは 2012 年 1 月下旬に油 田生産を停止した。両国は一時武力衝突にまで発展したが、国連による制裁圧力を受け和平合意 を締結した。南スーダンは 2013 年 4 月に生産を再開し、6 月にスーダンからの出荷を再開した。 南スーダンの現在生産している原油についてはスーダンの現行パイプラインを利用することが当面 両国にとり経済的かつ和平維持につながる選択であると思われる。しかしスーダンと南スーダンの 関係は安定的とは言えず、8 月以降再び生産が止まるリスクがある。 南スーダンはこのまま新規発見が無ければ減退により 10 年程度で生産が半減する見通しである。 同国南部(ケニア、ウガンダ寄り)には未開発かつポテンシャルの高い BlockB がある。現在は南ス ーダン政府の方針が定まらず、探鉱開発は依然として進んでいないが、BlockB のオペレーターは ウガンダ発見鉱区オペレーターのTotalである。BlockBで発見があった場合、スーダンのパイプライ ンまで支線を建設するのではなく、ウガンダからケニア向けのパイプラインまで支線を建設し、接続 するオプションが考えられる。 ウガンダの原油輸出パイプラインはケニアや南スーダンなど東アフリカ各地で生産される原油を取 り込むハブパイプラインとなり得る。ファイナンスや輸送原油の安定確保につながる上流事業者を輸 送事業に介在させることで事業が安定する。また資源国、通過国政府の参加によるカントリーリスク 低減効果が期待できる。 東アフリカ産原油が世界の需給に与える影響は大きくないが、スーダン・南スーダン原油同様低硫 黄の原油であり、日本(発電向け燃料)を始めアジアで好まれている。低硫黄原油の代替として低硫 黄重油の存在感も高まってはいるが、アジア市場では一定の市場価値があると思われる。 1 はじめに. これまで原油生産の空白地帯であった東アフリカが数年後には産油国となる見通しである。アフリカは 世界の原油生産の約 1 割を占めるが、生産の多くは OPEC 加盟国である西アフリカ(ナイジェリア、アン ゴラ)、サハラアフリカ(アルジェリア、リビア)によるものであった。ところが 2005 年以降東アフリカ大地溝 帯(Great Rift Valley)の西側(ウガンダ)と東側(ケニア)のリフト堆積盆において油田が発見されている。 図1:アフリカにおける原油埋蔵量、生産分布図 図2:東アフリカ大地溝帯(Great Rift Valley)の西側(ウガンダ)と東側(ケニア) 出所「活発化する東アフリカ・リフト堆積盆の探鉱」(藤井、JOGMEC 石油天然ガスレビュー2010 年 9 月) 2 1. ウガンダにおける石油開発の状況 (1)アルバートリフト堆積盆で油田発見、開発に向け政府と交渉中 ウガンダは現在原油・天然ガスともに商業生産を行っていない。しかし、ウガンダ西部のアルバートリ フト堆積盆において中小独立系企業が 2005 年以降油田を発見した。アルバートリフト堆積盆は東アフリ カ大地溝帯の西側に位置し、ウガンダとコンゴ民主共和国の両国(スーダンとウガンダの国境付近からア ルバート湖を経てエドワード湖まで南北は約 500km、東西は最大約 45km)にまたがっている。第三紀以 降に形成(リフティング)した厚さ 5km に及ぶ湖沼性堆積物が存在し、良好な根源岩と砂岩の貯留層が確 認されている。同堆積盆では 1998 年頃から中小独立系の加Heritage Oil(以下、Heritage)や豪Hardman が地震探鉱を実施しており、2005 年以降 3 鉱区 Exploration Area(以下、EA)1、EA2、EA3A において Jobi、Mputa、Kingfisher などの油田が発見された。ウガンダ政府はアルバートリフト堆積盆における推定 埋蔵量を 25 億バレルとしている。 図 3:ウガンダのアルバートリフト堆積盆における発見鉱区 出所:「活発化する東アフリカ・リフト堆積盆の探鉱」JOGMEC 石油天然ガスレビュー2010 年 9 月 3 写真①BlockEA1(Tullow) (2)発見 3 鉱区の探鉱開発現状 2012 年 2 月に Tullow Oil が保有鉱区を Total と CNOOC に 29 億ドルでファームアウトした。現在 3 社 がそれぞれ1鉱区のオペレーターを務め、3鉱区の統合開発を計画している。3社は当初2015 年頃の生 産開始を目指していたようだが、製油所建設を巡るウガンダ政府との意見の食い違いなどによりは遅れ ている。現在は 2015 年頃の最終投資決定(FID)と 2018 年頃の生産開始を目指している。3 鉱区の推定 埋蔵量は 18~22 億バレル、生産プラトーは 22~23 万バレル/日である。生産井と水圧入計約800 坑を 掘削し、各鉱区に CPF(Central Processing Facillities)を設置し、Nimasa から輸出パイプラインにより出荷 を行う計画である。 【EA1】 EA1 のオペレーターは Total である(EA-1A 鉱区を保有していたが 2013 年 2 月に契約は終結した)。 EA1 では Jobi-Rii、Ngiri、Mpyo、Gunya、Jobi East 油田などが発見されている。Total は 2012 年から 2014 年にかけて 20 坑以上の評価井掘削やテスト、3D 地震探鉱のデータ取得を行う計画である。 【EA2】 EA2 のオペレーターは Tullow である。同鉱区では Kasamene、Wahrindi、Waraga、Nsoga、Kigogole、 Ngege、Ngara 油田が発見されている。2012 年から 2013 年にかけて評価井掘削と生産テストを実施して いる。 【EA3】 EA3 のオペレーターは CNOOC である。CNOOC は 2013 年に Kingfisher 油田の評価を引き続き行う 4 計画である。CNOOC は Kanywataba prospect area のライセンスを保有していたが 2012 年 8 月に失効し た。2012 年 5 月に探鉱井 Kanywataba-1 を掘削したが残念ながら対象層は水層であった。 鉱区名 オペレ-ター パートナー 現状 EA1 (Jobi-Rii) Total33.3% Tullow Oil 、 CNOOC 発見、評価中 他 EA2 (Buliisa、 Kaiso Tonya) Tullow Oil 33.3% Total、CNOOC 発見、評価中 Tullow Oil、Total 発見、評価中 EA3A CNOOC33.3 (Kingfisher) % 表1:ウガンダアルバートリフト堆積盆発見鉱区 (2)輸出パイプラインならびに製油所建設を巡り政府と事業者が対立 3 社はパイプラインや出荷施設を含めた総事業費を 180~220 億ドルと見積もっており、その 5 割(90 ~110 億ドル)は外部からのファイナンスを計画している。ファイナンスを円滑に進めるためにウガンダか らケニアあるいはタンザニアの港湾まで原油輸出パイプライン(総延長 1,200~1600km、輸送能力 20~ 25 万バレル/日、パイプ口径 24 インチ~32 インチ〈600~810mm〉)の建設を計画した。2012 年 3 月時 点に以下の 3 ルートを検討していると報じられた(表 2 参照)i。ケニア1は油田のあるアルバート湖近傍の ホイマからウガンダの首都カンパラを通りモンバサ港に至る 1,268km のパイプラインである。鉄道ルート 沿いであることが利点とされるが、最大標高が 2,600m と3ルート中最も高くコスト上昇(経済性悪化)につ ながる。また人口密集地を避けて土地収用を行う必要がある。ケニア2はホイマからケニアのナイロビを 通りモンバサ港に至るルートである。ケニア1に比べ標高は低いが、やはり人口密集地を避けて土地収 用を行う必要がある(最近はナイロビなど人口密集地を迂回するルートや過密状態のモンバサから少し 離れた場所に出荷設備を建設することについて検討されている模様である)。タンザニアに向かうルート はホイマからタンザニアのダルエスサラームに向かう総延長 1,586km のパイプラインである。標高は 3 ル 5 ート中最も低いが、ビクトリア湖を迂回(南下)するために総距離が最も長くなる。この他、LAPSET(ケニ ア(ラム)と南スーダンおよびエチオピアを結ぶ交通回廊)の一部とケニアのリフト堆積盆発見鉱区を含 むパイプラインとの接続についても検討されている模様である。2012 年 1 月にケニアと南スーダン両政 府は両国を結ぶパイプライン建設で合意している。ただしファイナンスの担保や供給原油など詳細は未 定である。LAPSET ルートはケニアのリフト堆積盆で複数鉱区のオペレーターを務める Tullow にとり追加 供給が容易となり望ましいルートと思われるが、総距離が長くなるため経済性では劣る。 表2:ウガンダからの原油輸出パイプライン案 ルート、距離 特徴 ケニア1 ホイマ~カン 鉄道ルート沿い: パラ~モン ○ バサ1,268km 標高:△(最大標 高2,600m) 土地収用:△ ケニア2 ホイマ~ナイ 標高:○(①よりケ ロビ~モン ニア区間標高が バサ1,229km 低い) 土地収用:○ タンザニア ホイマ~ダ ルエスサ ラーム 1,586km LAPSSET、 南スーダン ケニアリフト ~ホイマ~ との接続 ケニア・トル カナ北部~ ラム 標高:○(最も低 い) 距離:△ インフラ:△ Tullow:○ 距離:△ International Oil Dairy 他にもとづき作成 2012 年 7 月に Tullow、Total、CNOOC は輸出パイプラインを含む油田開発計画をウガンダ政府に提 出した。しかし、ウガンダ政府は輸出パイプラインではなくウガンダに製油所を建設し、周辺国に供給す ることを主張した。ウガンダが加盟している東アフリカ共同体(EAC)は 2008 年 2 月に域内の製油所開発 計画“PRDS”(Regional Refineries Development Strategy)を承認しており、製油所計画はこの PRDS に基 づいている。東アフリカに限った話ではなく、アフリカは製油所の不足あるいは老朽化に悩まされている 6 (アフリカは石油消費の4割を輸入に頼っている)。EACは2001年に発足した。加盟は5か国(ウガンダ、 ケニア、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ)で 2005 年に関税同盟を締結した。EAC 域内で唯一操業中の Kenya Petroleum Refineries (KPR)のモンバサ製油所(7 万バレル/日)は老朽化で効率が低下しており、 閉鎖や貯蔵ターミナルへの転換を検討中である。 2012 年 11 月に東京で開催されたセミナーで、ウガンダ鉱物開発省のカサンデ副コミッショナーはホイ マに 1 期2 万バレル/日規模の製油所を建設し、ベースケースで 6 万バレル/日に拡張する。さらに追 加発見に伴い 12~18 万バレル/日に拡張し、東アフリカ域内に供給する計画であると述べた。2010 年 には米大手エンジニアリング企業の Foster Wheeler に輸出パイプラインまで含めた予備スタディを委託 した。また米独立系投資銀行の Taylor-DeJongh (コーポレートファイナンスのスペシャリスト)をアドバイ ザーに迎え、事業の資金構造や調達などについて検討した模様である。油種は API20~33 度、ワックス 分が高く、残油分は約 30%、低硫黄(0.1~0.2%、平均 0.1%) 、軽油需要が高いため軽油ガソリン比を 2:1 とする。周辺地域の需要は約 20 万バレル/日あり、年率 7%成長として 2030 年の製品需要は 45 万バレ ル/日に達すると述べている。 しかし Tullow をはじめとする油田開発事業者はその規模の製油所を建設することはファイナンスが難 しく、事業そのものが成立しないと主張(Total CEO は “No Pipe, no project”と明言)し、2~3 万バレル /日の製油所建設を提案した。 (3)中国によるインフラ投資や公的融資による後押しで事業進展か? ウガンダ政府は事業者からの油田開発計画を受領後、関係閣僚と事業者による委員会を設立した。両 者は協議を重ねた結果、製油所の規模を 2~3 万バレル/日程度と市場規模に見合ったものとすること で基本的に合意した模様である。7 月初旬に Tullow はウガンダ政府と開発計画(油田開発、輸出パイプ ライン建設、“市場の需要に見合った”製油所建設)について数週間以内に MoU を締結する見通しと表 明したii。 ウガンダ政府を小規模製油所建設に翻意させたのは中国のインフラ投資と公的融資かもしれない。今 年 3 月に南アフリカのダーバンで開かれた BRICS 首脳会議の際、ムセベニ大統領と習近平国家主席が 発電所や道路建設などのインフラ整備について枠組み合意をした。7 月にムババジ首相が訪中したが、 その際 CNOOC 本社を訪問している。CNOOC の王宜林会長はウガンダ政府による油田開発計画の早 期承認ならびに製油所ならびに輸出用パイプラインの速やかな建設について双方の意見が一致したと 述べているiii。また、同首相はウガンダの経済発展に必要なインフラ整備について中国の融資に期待し ており、返済は原油・天然ガスの売上を想定していると語った。 7 (4)開発から生産に至る課題 事業者は 2015 年頃の最終投資決定(FID)と 2018 年頃の生産開始を目指しているが、原油生産までの 課題は山積している。投資決定(FID)を行うまでに油田、パイプライン、製油所それぞれの開発計画を 立て、ウガンダ政府の事業承認を得る必要がある。基本設計(FEED)や設計・調達・建設(EPC)につい てもそれぞれ進めなければならない。総事業費 180~220 億ドルとされるファイナンス(5 割程度は外部 からの資金調達)を行う必要がある。またパイプラインを建設するための土地収用や資材を運ぶ道路や 電気などのインフラ整備を行う必要がある。環境に配慮した開発計画を立案し、現地コミュニティへの説 明を行うことや社会貢献・人材育成事業についても実施していく必要がある。 図4:開発から生産に至る課題 2. ケニア陸上、エチオピア South Omo 鉱区における石油探鉱開発の状況 ケニアは現在原油・天然ガスともに商業生産を行っていない。しかし東アフリカ大地溝帯東翼に位置 するケニア西部陸上からエチオピア北西部にかけて Lokichar、Omo、Anza など 10 以上のリフト堆積盆が 存在し 2012 年以降 Tullow Oil が、リフト堆積盆で有望な構造を発見した。ウガンダのアルバートリフト堆 積盆と地質的に近く、API25~35°でワックス分の高い低硫黄原油を確認している。 2012 年 3 月、Tullow およびパートナーの加 Africa Oil はケニア陸上 Lokichar 堆積盆 Block 10BB Ngamia-1 井(第三系砂岩層)で有効層厚 20m(同年 5 月 100m 超に上方修正)の油層を確認した。テスト では API30°でワックス分の高い低硫黄原油が得られた。Tullow は 12 年 11 月に隣接する Block13T の Twiga South-1 において有効層厚 30m の油層を確認した。テストの結果、API37°でワックス分の高い低 硫黄原油を確認したiv。現在両油田を合わせた推定資源量(mean associated resources)は 2.5 億バレル である。 8 Tullow の発見を受け、2012 年 10 月には米 Marathon が中小独立系の Africa Oil の鉱区にファームイ ンした。Marathon は 3,500 万ドルで Anza 堆積盆Block9 の 50%、Turkana 堆積盆Block12A の 15%を取得、 さらに今後 3 年間の Africa Oil の探鉱コストを最大 4350 万ドル負担することで合意した。Marathon は商 業発見後オペレーターシップを取得するオプションを保有している。この他 Simba Energy や Afren、 Vanoil などの中小独立系がケニア東部の別の堆積盆で掘削を計画しており、ケニアの探鉱は活性化し ている。 図 5:ケニアリフト堆積盆における主な鉱区 Tullow 資料にもとづき JOGMEC 作成、オレンジ色はリフト堆積盆 9 鉱区名 オペレ-ター パートナー Block9A Marathon50% Africa Oil Block L10A Tullow50% Africa Oil、Afren Block L10BA Tullow50% Africa Oil Block L10BB Tullow50% Africa Oil Block12A Tullow65% Africa Oil、Marathon Block12B Tullow50% Swala Energy Block13T Tullow50% Africa Oil Block14T 国営NOCK100% South Omo (エチオピア) Tullow50% Africa Oil、Marathon 表3:ケニアリフト堆積盆における主な事業者 Tullow は採算ラインの 3~5 億バレルの埋蔵量確認に向けて 2013 年から 14 年にかけて Lokichar 堆 積盆3 鉱区(13T、10BA、10BB)において探鉱井と評価井を計12 坑掘削する計画である。3~5 億バレル の埋蔵量では単独のパイプラインを建設することは経済性の点で成り立たず、ウガンダからのパイプライ ンに接続することになると思われる。つまりウガンダの油田開発が進まないことにはケニアの油田開発も 進まないということだ(パイプラインの輸送能力はポンプステーションの増設により増量することが可能で あり、追加供給については問題がない)。 Tullow は、ケニア・エチオピアはウガンダよりポテンシャルが高いと見ている。しかし現在のところ掘削 キャンペーンの結果は複雑である。2013 年 3 月に Block 10A の Paipai-1 についてグロス 55m の砂岩層 (Anza Basin、白亜系)で炭化水素の胚胎を確認した。砂岩層は 200m の厚さの根源岩を覆っており有効 なシールを形成していた。しかし貯留層における流体のサンプル採取はホールコンディションが悪く数 度試みたが成功しなかった。またエチオピアの Lokichar 堆積盆 Block South Omo の Sabisa-1 では砂岩 層で炭化水素を確認した。しかしサイドトラックを複数回試みたが、地質が複雑でホールコンディションを 保つことが難しかった模様である。2013 年 7 月には Block10BB の Etsuko-1(Auwerwer および Upper Lokhone 砂岩層)において有効層厚 40m の油層を確認した。 Tullow の財務悪化を懸念する声がある。ガーナ Jubilee 油田のプラトー生産の遅れや北海油田の生産 10 トラブルを受け株価が下落、財務が悪化している。2012 年にバングラデッシュなど非中核資産の売却を 行ったが今後キャッシュをねん出するために生産中鉱区を放出する可能性がある。 写真②:Kenya Block10BB Etsuko-1 Source:Tullow 3. 南スーダンにおける石油探鉱開発の状況 (1)南スーダンの独立からスーダンとの係争、生産停止まで スーダンは 1980 年代に米企業が南部 Muglad 盆地で油田を発見した。内戦や米国・国連に制裁に伴 い欧米企業が撤退した後に、アジア国営企業(中国 CNPC、インド ONGC、マレーシア Petronas)が油田 開発に参加、1993 年に産油国になった。2011 年の生産量は 45 万バレル/日である。南スーダンは 2011 年 7 月にスーダンから独立した。南スーダン独立前、石油はスーダンの収入の 6 割、輸出収入の 95%を占めていたが、生産中油田の 75%(約35 万バレル/日)は南スーダンに帰属した。しかし製油所や パイプライン(Block1/2/4 から Port Sudan 間 1,617km、輸送能力 45 万 b/d、Block3/7 から Port Sudan 間 741km)などの出荷設備は北に位置しており、南スーダンは輸出や精製についてスーダンに頼らざるを 得ない状態である。南スーダンはパイプライン使用料等未解決の問題を巡りスーダンとの関係が悪化し、 2012 年 1 月下旬に原油生産を停止した(南スーダン独立から油田生産停止に至る経緯については拙稿 「南スーダン油田生産停止の波紋」2012 年 2 月石油天然ガス資源情報をご参照下さい)。2012 年の生産 量はスーダンが 8 万 2000 バレル/日、南スーダンが 3 万 1000 バレル/日、計 11 万 3000 バレル/日 にとどまっている。中国はスーダン・南スーダンから計約 5 万バレル/日を輸入した(前年比約 80%減)。 日本はスーダンと南スーダンから 1 万 2300 バレル/日を輸入した(前年比約 75%減)。 11 図 6:スーダン・南スーダンにおける主要鉱区、パイプライン Block(鉱区) Block1/2/4 独立前の契約形態 独立後の契約形態 油種、生産(推計) 上段:スーダンとの契約 主な油田 下段:南スーダンとの契約 Greater Nile Petoroleim GNPOC Nile Blend Operating Co.(GNPOC) 6万バレル/日 CNPC(中国)40%、Petronas Heglig、Bamboo、Neem、 (マレーシア)30%、ONGC(インド) Canar、Diffra 25%、スーダン国営Sudapet5% Greater Pioneer Operating Nile Blend Co.(GPOC) 7万バレル/日 CNPC(中国)40%、Petronas Toma South、El-Nar、El(マレーシア)30%、ONGC(インド) Toor、Munga、Unity 25%、南スーダン国営Nilepet5% Block3/7 Petrodar: CNPC41%(オペレーター) Dar Oil Co(変更契約) Dar Blend Petronas40%、Sudapet8%、 CNPC41%(オペレーター) 27万バレル/日 Sinopec6%、Al Thani(UAE)5% Petronas40%、Nilepet8%、 Adar Yale、Palogue Sinopec6%、Al Thani(UAE)5% Block5A Petronas68%(オペレーター) ONGC24% 、Sudapet8% Petronas68%(オペレーター) ONGC24% 、Nilepet8%(変更 契約) CNPC95%(オペレーター) CNPC95%(オペレーター) Sudapet5% Sudapet5% Block6 Nile Blend 1万バレル/日 Thar Jath Dar Blend 6万バレル/日 Fula、Abu Ghabra 表4:スーダン、南スーダンにおける生産中鉱区(生産量は独立当時の推計) 12 (2)武力衝突から和平合意、生産再開まで アフリカ連合(AU)が両国の仲裁を行ったが不調に終わり、南北国境付近で武力衝突が頻発した。 2013 年 4 月上旬に南スーダンが国境付近の油田を占拠したが、国連が介入し停戦に至った。4 月 30 日 に国連安全保障理事会が制裁決議を行った。即時停戦と 2 週間以内の交渉再開、3 カ月以内の妥結(期 限は 8 月 2 日)を求めた。8 月 4 日に南北スーダンはパイプライン使用料ならびにスーダンへの移行補 償費で基本的に合意した。合意内容は 2012 年 1 月下旬にアフリカ連合(AU)が提示した仲裁案にほぼ 沿う形であった。AU 仲裁案は石油輸出収入の 75%を失ったスーダンに対し 2014 年までの約 3 年間で 65 億ドル( “補償”26~54 億ドルおよびタリフ 11 億ドル/年)を支払うよう南スーダンに提案していた。 2012 年 8 月 4 日の基本合意を受け、CNPC は南スーダンプロジェクトについて油田復旧前の現場検 査を実施した(8 月 27 日に Dar Oil Co(Block3/7 鉱区南スーダン操業会社)の6名の作業員が空路で現 場に行き、現場検査を実施)v。 2012 年 9 月 27 日、スーダンと南スーダンは未解決な問題に関する包括的な問題(石油輸出再開と国 境の非武装地帯(緩衝地帯)設置を含む)について9件の合意文書に調印した。しかし履行されず、生産 は再開しなかった。 半年後の 2013 年 3 月 12 日に両国は 2 週間以内の原油生産再開と 4 月 5 日までの国境からの完全 な軍隊撤収で合意した。そして南スーダンは 2012 年 1 月の生産停止から 15 か月後の 4 月中旬によう やく生産を再開した。再開後の初カーゴは 6 月最終週にスーダンから出荷した。初カーゴは上ナイル州 に位置する Block3/7(オペレーターは CNPC)Palogue 油田生産の Dar Blend100 万バレルであった。南 スーダンの生産停止前の水準は 32 万バレル/日だが 6 月12 日現在南スーダンの生産量は 22 万5000 バレル/日まで復旧しており、そのうち 8 割(18 万 5000 バレル/日)がダールブレンドとのことである。 参考①:南北スーダンの合意内容(2012 年 8 月) パイプライン使用料:約 9 億ドル/年 Nile Blend(11 ドル/バレル):Heglig~Port Sudan パイプライン使用料 8.4 ドル/バレルおよび企業に対 し処理費 2.6 ドル/バレル (試算 8.4 ドル×3,650 万バレル≒3 億ドル) Dar Blend(9.1 ドル/バレル):Petrodar パイプライン使用料 6.5 ドル/バレルおよび企業に対し処理費 2.6 ドル/バレル(試算 6.5 ドル×9125 万バレル≒6 億ドル) 移行補償費(package of transitional financial assistance):3.5 年で 30 億ドル 南スーダンは独立に伴い油田資産の 3 分の 2 を失ったスーダンに対し、移行補償費として 2014 年まで に 30.28 億ドルをスーダンに支払う。(試算(年 10 億ドル/年):合意時点の 1 億 2775 万バレルの場合 ≒8 ドル/バレル、6 月の生産量 8,030 万ドルの場合約 12 ドル/バレル) 13 なおパイプライン使用料等の実態はわからない。南スーダンによると 6 月から 8 月にかけて 640 万バ レルの原油を出荷し、5 億ドルの収入を得るが、その約 3 分の1の 1 億 5000 万ドルはスーダンにパイプ ライン使用料その他で支払わなければならないとしているvi。単純に計算すると約 20 ドル/バレルとなる。 2012 年 8 月のパイプライン利用に関する合意によるとパイプライン使用料および企業への処理費は約 10 ドル/バレルであり、残りの約 10 ドル/バレルは港湾における貯蔵・出荷費用ならびに移行補償費 ではないかと思われる(移行補償費(年 10 億ドル相当)を独立後の南スーダンの生産量 35 万バレル/ 日で計算すると、約8 ドル/バレルとなる、6 月時点の生産量22 万バレル/日で試算すると約12 ドル/ バレルとなる)。 (3)パイプライン閉鎖、生産再停止のリスク浮上 スーダンと南スーダンの関係は安定しなかった。2013 年 6 月、バシル大統領は南北国境(南コルドフ ァン州とブルーナイル州)で活動する武装勢力を南スーダンが支持していることを非難し、6 月 7 日から 60 日以内(8 月 7 日まで)に武装勢力の支持をやめなければ原油輸出パイプラインを閉じることを決定し、 南スーダンに正式に通告した。南スーダンはスーダン政府が武装勢力を支持していると応酬している。 7 月 1 日に両国は二日間の交渉を経て、3 月締結の和平合意を実行すると共同声明を発表した。しか し 7 月 20 日、南スーダンは 8 月 7 日の生産停止に先駆け生産を停止する可能性を示唆、7 月 16 日から 生産量を減らしている。7 月 23 日にはサルバ・キール(Salva Kiir)大統領が大統領令(presidential decree)によりスーダンとの交渉担当である副大統領 Riek Machar ならびに与党 SPLM 書記長(Secretary General)Pagan Amum 氏を含む全閣僚を更迭した。 (4)スーダン迂回パイプライン構想 南スーダンはスーダン迂回パイプライン建設を進め、スーダンのインフラ依存からの脱却を図りたいと 考えている。複数のパイプラインルート案(南スーダン~ケニア(LAPSET 回廊の一部)、エチオピア経由 ジブチ、ウガンダ~南スーダン~ケニア)を検討している。ケニア、エチオピア、ジブチとは政府間合意 を締結している。しかし政府間合意だけで外部のファイナンスを得ることは難しく、南スーダンのパイプラ イン建設には懐疑的な見方がある。最大の課題はファイナンスだが生産減退も問題である。南スーダン はこのまま新規発見が無ければ減退で 10 年以内に生産量は半減すると見られている。 現在南スーダンで生産中の鉱区については南スーダン原油についてはスーダンの現行パイプライン を利用することが当面両国にとり経済的かつ和平維持につながると思われる。スーダンの 2012 年の輸出 収入は 2010 年に比べ 3 分の1の約 34 億ドルに減少した。また 2012 年通年の消費者物価指数(CPI)は 14 35%で深刻なインフレに直面しており、南スーダンからのパイプライン収入と移行補償費により一息つけ ると思われる。 南スーダン南部(ケニア、ウガンダ寄り)には未開発かつポテンシャルの高い BlockB がある。南スーダ ン政府の方針が定まらず、探鉱開発は依然として進んでいない。BlockB の現在のオペレーターはウガ ンダ発見鉱区のオペレーターである Total であり、発見時の状況やウガンダパイプラインの利用量(タリ フ)の設定によるが、新規油田はスーダンのパイプラインと接続するパイプラインを新たに建設するよりも ウガンダからケニア向けのパイプラインと接続するパイプラインを建設するオプションに経済合理性があ るかもしれない。 4.東アフリカ原油パイプライン建設に向けて ウガンダからケニアあるいはタンザニア向けの原油輸出パイプラインはケニアや南スーダンなど EAC 各国で生産される原油を取り込むハブパイプラインとなり得る。EAC はスーダンの加盟申請を却下した が、南スーダンの加盟については審議中である1。 今回パイプラインの建設が予定されている東アフリカ地域は英米豪のような民間のパイプライン事業 者は存在せず、ロシアの Transneft のような国営のパイプライン事業者も存在しない。このような場合、輸 送会社(あるいは共同事業体〈JV〉)を設立することになる。 複数国にまたがるパイプライン建設は容易ではないが、本稿では東アフリカパイプラインを成功に導く ための方策について、アフリカにおける二本のパイプライン(チャド-カメルーンパイプラインおよびエ ジプトのスメドパイプライン)とアフリカではないが民間(上流事業者)主体の BTC パイプライン(カスピ海 の原油をアゼルバイジャンのバクーからトルコのジェイハンまで輸送)を事例に考察したい。 1 The East African 2012/12/8 15 チャド~カメルーン パイプライン スメッド パイプライン BTC パイプライン 区間 チャドChari~カメルー ンKribiターミナル 1,070km エジプト・アイン・シュ クナ~シディ・ケール 320km(スエズ運河 迂回) アゼルバイジャン・バ クー~グルジア・トビリ シ~トルコ・ジェイハン 1,768km 供給油田 チャドDoba油田 サウジアラビア (タンカー輸送) カスピ海油田(アゼリ、 チラグ、グナシリ) 稼働 2003年 1978年 2006年 輸送能力 22.5万b/d 250万b/d 100万b/d 輸送会社 上流事業者、資源国、 通過国政府 資源国政府、Aramco 上流事業者他 資金調達 42億ドルのうち6割を上 AramcoがOAPECの 流事業者、残りは世銀、 投資機関Apicorpか IFC、EIBなど ら1億ドル借入 34.9億ドルのうち26億 ドルをプロジェクトファ イナンス。企業連合、 IFC、EBRD、JBIC、米 輸銀、民間銀行他 表 5:石油パイプラインの事例 「パイプラインの政治経済学」塩原 俊彦氏(2007 年)付表1 主要石油パイプラインの概要にもとづき作 成(一部加筆) 事例①チャド~カメルーンパイプライン チャド~カメルーンパイプラインはチャド Chari 鉱区Doba 油田で生産する原油をカメルーン Kribi ター ミナルから出荷する総延長 1,070km のパイプラインである。2003 年に稼働した。輸送能力は 22 万 5000 バレル/日である。このパイプラインは上流事業者と資源国政府により運営されている。上流(Doba 油 田)事業者は ExxonMobil(オペレーター:40%)、パートナーは Petronas(35%)と Chevron(25%)である。 輸送会社は チャド区間(180km)における輸送会社 Tchad Oil Transportation Co. (TOTCO)と カメル ーン区間(890km)における輸送会社 Cameroon Oil Transportation Company (COTCO)で構成されてい る。TOTCO の出資比率は ExxonMobil(40.19%)、Petronas(30.15%)、Chevron(21.54%)、チャド政府 (8.12%)である。COTCO の出資比率は ExxonMobil(41.06%)、Petronas(29.77%)、Chevron(21.26%)、 カ メルーン政府(5.17%)、チャド政府(2.74%)である。事業費 42 億ドルのうち 6 割は上流事業者である ExxonMobil、Petronas、Chevron が出資比率に応じ負担、残り 40%は世銀、IFC(国際金融公社)、EIB、民 間銀行による融資及び米国輸銀による輸出信用等で調達した(塩原 2007)。 16 図 7:チャド~カメルーンパイプライン 石油収入管理を巡る世銀とチャド政府の係争で輸出が一時停止するトラブルがあったが、現在の問題 は Doba 油田の減退である。Doba 油田は 2005 年をピークに減退しており、輸送能力 22 万 5000 バレル /日に対し現行輸送量は約 12 万バレル/日にとどまっている。 そのような中、2012 年 8 月にチャドの Permit H で操業中の CNPC が 200km(10 万バレル/日)のパイプラインを建設し、ExxonMobil のチャド ~カメルーン石油パイプラインと接続させることについて Tchad Oil Transportation Co. (Totco) と合意し た。CNPC の油田から CNPC とチャド政府と合弁の Djarmaya 製油所(2 万バレル/日)向けのパイプライ ンは 2011 年 5 月に完成しているが、CNPC は生産中油田の輸出を行い、経済性を高めたいと考えてい る。接続ラインは 2013 年稼働を目指している。CNPC のタリフは 5 ドル/バレル程度となる模様であるvii。 参考②:石油収入管理を巡る世銀とチャド政府の係争 世銀は、チャド~カメルーンパイプラインプロジェクトに対し 1 億 2400 万ドルの資金を提供した。石油 収入は、特定エスクロー勘定に回され、世銀の協力で制定された同国の「石油収入管理法(Petroleum Revenue Management Law)」により管理(①収入の 80%を健康・教育・社会サービス、農村開発、インフラ・ 環境および水資源開発に使用する。②5%を地場(ドバ地域)の開発プロジェクトに使用する③15%を政府 予算に充当)することになっていた。しかし 2005 年 12 月にチャド政府は石油収入管理法を改定し、政府 取り分を 30%に引き上げた。2006 年 1 月、世銀はシティバンク(ロンドン)にあるチャドの石油収入管理口 17 座ならびに新規融資 1 億 2400 万ドルを凍結。これに対し、チャド政府は石油輸出の停止で応じた。 2006 年 7 月に世銀は政府取り分 30%の増加を認め、チャド政府と和解。チャドは資源予算の 70%を貧 困撲滅に使う。また、チャドと世銀は石油売り上げ余剰分についてファンドを設立すること、石油収入の 使い道の監視について強化することについて合意した。 事例②スメドパイプライン スメドパイプライン(Sumed;Suez-Mediterranean pipeline)はエジプト国内アイン・シュクナターミナルと シディ・ケールターミナル間を結び、スエズ運河を通らずに地中海に向かう 320km のパイプラインである。 1978年に稼働した。輸送能力は250万バレル/日でサウジアラビアなどが生産する原油を輸送している。 このパイプラインは資源国政府により運営されている。輸送会社はアラブ石油パイプライン会社(Arab Petroleum Pipeline Company)でエジプト政府 50%、サウジアラビア政府(現在は Aramco)が 15%、クウェ ート政府 15%、UAE 政府 15%、カタール政府 5%である。Aramco がアラブ輸出国機構(OAPEC)の投資機 関 Apicorp から 1 億ドル調達したが、国際機関からの借り入れは行っていない(塩原、2007)。 図 8:スメドパイプライン 出所:米国エネルギー省資料をもとに加筆 事例③BTC パイプライン BTC パイプラインはアフリカではないが、上流事業者他民間企業で構成されているパイプラインであ り、参考までに紹介したい。アゼルバイジャン・バクー~グルジア・トビリシ~トルコ・ジェイハン間 18 1,768km で輸送能力は 100 万バレル/日である。2006 年に稼働した。アゼルバイジャンの ACG 油田 (Azeri-Chirag-Gunashli)などで生産する原油を輸送するパイプラインである。事業費約 34.9 億ドルのう ち 26 億ドルをプロジェクトファイナンスで調達した。企業連合、IFC、EBRD、JBIC、米輸銀、民間銀行他 多数の関係者が携わっている。BTC パイプラインはパイプラインに流す優先権を定める通油権 (Capacity Right)や油種混合の減損を回避することが可能なクオリティバンク(油種混合により価値の低 下で損失を被った輸送委託者に対し、混合により価値が上がった輸送委託者から現金あるいは原油現 物の形で損失を補てん)などの仕組みが導入されている(通油権やクオリティバンクの詳細については 「カスピ海地域のエネルギー開発と輸送 -現状と今後の見通し-」篠原建仁、JOGMEC 石油天然ガ スレビュー2011 年 7 月をご参照ください)。 (2)東アフリカハブパイプラインを成功に導くための方策 上流事業者の輸送会社への参加 事例①のチャド~カメルーンや事例③の BTC パイプラインのように、上流事業者を輸送事業に介在さ せる(②のスメドパイプラインについても供給国のサウジアラビア Aramco が参加している)ことでファイナ ンスや原料の確保が担保されることがわかる。 資源国・通過国政府の輸送会社への参加 また、事例①のチャド~カメルーンは輸送会社を国別に設立し、資源供給国と通過国双方が輸送会 社に参加している。また、資源供給国側であるチャドが通過国側の輸送会社にも参加している。ウガンダ からケニア向けのパイプライン建設にあたり供給国・通過国の双方が通過料収入を得られる仕組みであ る。資源国・通過国政府の輸送会社への参加はパイプラインの安定につながる方法ではないかと思わ れる。 通油権・クオリティバンクなど追加供給に関する規定 事例①のチャド~カメルーンパイプラインは供給源である Doba 油田の減退により余剰能力が発生し ていたが中国 CNPC がチャドで生産する油田からの新規供給が加わり経済性向上につながると思われ る。ウガンダパイプラインはケニア向けのルートが 3 本とタンザニア向けのルートが検討されているが、ケ ニア北西部リフト堆積盆における石油発見や南スーダン BlockB の可能性を考えると、ケニアルートが新 規供給につながるため選好されるルートになると思われる。また、ケニアのリフト堆積盆発見鉱区と南ス ーダン BlockB のオペレーターはウガンダと同じ(ケニアは Tullow と南スーダン Block B は Total)であり、 19 油種も類似(API25~30 程度で Waxy)という特徴がある。Tullow と Total がウガンダの原油パイプライン輸 送会社に参加する可能性は高く、新規供給も同じ事業者で、油種も類似という点はパイプラインのファイ ナンス組成の上で強みになると思われる。とはいえ、ウガンダ 3 鉱区の生産原油に次ぐ優先権について 通油権(Capacity Right)やクオリティバンクなどの仕組みを整備しておくことは重要と思われる。ウガンダ の鉱区は BTC パイプラインに参加している Total がオペレーターであり、資源国・通過国の支持が得ら れれば BTC のスキームを活用することが可能である。 図 9:東アフリカ石油パイプライン さいごに. 東アフリカから 20 万バレル/日前後の原油が市場に新規供給されることによる需給への影響は大きく はない。しかしウガンダやケニアの原油はスーダンのナイルブレンドに近い、低硫黄でワックス分の高い 20 原油である。低硫黄原油は日本を始めアジアで好まれている(日本では火力発電所の燃料として主に用 いられる)。低硫黄原油の代替として低硫黄重油の存在感も高まってはいるが、低硫黄原油の市場規模 は小さいがアジア市場では一定の市場価値があると思われる。新興産油国となるウガンダは上流開発か らパイプライン建設に至るまで課題は多いが、政府と事業者の協調の下で順調な開発に向かうことを期 待したい。 主な参考資料 ・「パイプラインの政治経済学」塩原俊彦、法政大学出版局(2007 年) ・「カスピ海地域のエネルギー開発と輸送 -現状と今後の見通し-」、篠原建仁 JOGMEC 石油天 然ガスレビュー2011 年 7 月 ・Tullow Oil 2013 Trading and oparational update、Annual Report2012 ・「活発化する東アフリカ・リフト堆積盆の探鉱」藤井、JOGMEC 石油天然ガスレビュー2010 年 9 月 「南スーダン油田生産停止の波紋」2012 年 2 月石油天然ガス資源情報 i International Oil Dairy 2013/3/20 ii Upstream2013/7/3、PON2013/4/16 http://www.cnooc.com.cn/data/html/news/2013-07-01/chinese/341696.html iii iv http://www.tullowoil.com/index.asp?pageid=137&category=&year=Latest&month=&tags=&newsid=83 3 v CNPC2012 年 9 月 4 日 http://news.cnpc.com.cn/system/2012/09/04/001390787.shtml vi PON2013 年 7 月 24 日 vii IOD2012/8/31 21