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- 1 - 当院における 10 年間の めまい患者の臨床統計 白戸耳鼻咽喉科

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- 1 - 当院における 10 年間の めまい患者の臨床統計 白戸耳鼻咽喉科
当 院 に お け る 10 年 間 の
めまい患者の臨床統計
白戸耳鼻咽喉科めまいクリニック
白戸
勝
Clinical Study of the Patients with Vertigo
for the Past Ten Years.
Masaru Shirato
Shirato ENT Clinic (Hakodate)
はじめに
当 院 は 北 海 道 函 館 市 に あ っ て 、開 業 は 平 成 4 年 10 月 で あ る 。当 時 、北 海 道 内 の 診 療 所 で
「 め ま い ク リ ニ ッ ク 」を 掲 げ た 医 院 は 初 め て で あ っ た 。10 年 を 経 過 し 、こ れ ま で の め ま い
疾患の動向を見極めるために、今回、臨床的集計を行った。
対
象
1.対象症例
平 成 5 年 1 月 か ら 14 年 12 月 ま で の 10 年 間 に 当 院 を 受 診 し た め ま い・平 衡 障 害 の 患 者 を
対象とした。
2.対象地区
当 院 は 函 館 市 ( 人 口 284,000 人 ) の 中 心 部 か ら や や 東 寄 り の 、 住 宅 地 と 商 業 地 域 が 混 在
し た と こ ろ に あ る 。臨 床 統 計 上 の 様 々 な 分 析 に 当 た っ て は 、医 院 か ら 半 径 2Km 圏 内 に 住 む
住 民 が ど れ ほ ど 当 院 を 訪 れ る か と い う こ と を 考 え た 。2Km と い う 数 字 は 何 と か 徒 歩 で も 通
院可能な距離ということで設定したものである。住民基本台帳に基づく数字では、半径
2Km 圏 内 に 77,300 人 、従 っ て 他 の 函 館 市 内 に は 約 207,000 人 、周 辺 の 道 南 地 区 に は 229,000
人が居住している。
結
果
1.受診動態について
平 成 5 年 1 月 か ら 14 年 12 月 ま で の 10 年 間 、め ま い・平 衡 障 害 を 訴 え て 初 診 し た 患 者 数
は 4,546 人 で あ っ た 。 患 者 数 は 徐 々 に 増 加 し 、 こ の 3 年 間 は コ ン ス タ ン ト に 年 間 600 人 前
-1-
後を維持している。これを全体の新患数
人数
との割合でみると、開院当初の平成 5 年
1600
は 約 9% で あ っ た も の が 、 14 年 に は 35%
1400
めまい疾 患
他疾患
1200
に増加している(図1)。
1000
地 域 別 の 受 診 動 向 を み る と 半 径 2Km 圏
800
からの初診者数はここ数年は頭打ちであ
600
るが、他地域からの受診者は確実に増加
400
している(図2)。医療関係者への理解
200
0
が深まったことと患者さんの口コミでの
平成 5
6
来院者が増えてきている。
7
8
9
10 11 12 13 14 年
図1 めまい新患数の推移
他院からの紹介患者の割合をみると、
紹 介 状 を 持 参 し て 来 院 し た 患 者 数 は 27%
であった。その内訳は脳神経外科からが
700
48% 、内 科 か ら が 44% で あ っ た( 図 3 )。
600
しかし、患者さんの話しを聞くと医師や
500
看護師から当院受診を口頭で勧められた
400
患者さんも少なからずおり、間接的な紹
300
介を含めると半数以上にのぼるのではな
200
いかと思う。開業医からの紹介は勿論の
100
こと、一般病院からの紹介患者も多い。
0
人数
近郊町村
函館市内
半径2Km圏
平成 5
逆の意味での病診連携とでも言うべきで
6
7
8
9
10 11 12 13 14 年
図2 地域別のめまい新患数
あろうか。めまい診療にあたっては病診
連携や診診連携は重要である。特に脳神
経外科、神経内科、循環器内科との連携
が欠かせない。脳神経外科領域では脳血
3%
管障害や脳腫瘍など頭蓋内の器質的疾患
27%
紹介あり
の除外が重要であるし、脳循環不全の治
療には高血圧症、高脂血症、糖尿病など
の基礎疾患のコントロールが重要であ
21%
48%
紹介なし
73%
る 。ま た 、当 院 は 無 床 診 療 所 で あ る の で 、
脳神経外科病院
一般病院内科
内科医院
耳鼻科医院
眼科医院
整形外科医院
その他
23%
めまいが強く入院が必要な患者さんは、
医師会病院や近くの脳神経外科病院、循
図3 紹介元医療機関の内訳
環器内科医院などにお願いしている。
2.疾病構造について
10 年 間 の 全 症 例 4,546 人 の 初 診 時 の 年 齢 分 布 を み る と 、 60 歳 代 が 最 も 多 く 、 全 体 の 23
% で あ っ た 。 50 歳 代 か ら 70 歳 代 ま で で 58% を 占 め 、 い わ ゆ る 高 年 齢 層 に め ま い 患 者 の 多
い こ と を 示 し て い る 。 性 別 で は 女 性 が 男 性 の 約 1.9 倍 で あ っ た ( 図 4 ) 。 年 齢 分 布 に つ い
ては概ね従来の報告と大差ない。高齢化に伴い、めまいを訴える患者さんが増えている印
象がある。性別では明らかな男女差はみられないとの報告が多い。当院はいわゆるビジネ
-2-
ス街とは離れており、男性の受診者が少
ないものと考えている。
め ま い 疾 患 を 末 梢 性 疾 患 、中 枢 性 疾 患 、
そ の 他 に 分 類 し た 。 そ の 頻 度 は 末 梢 性 78
% 、 中 枢 性 15% 、 そ の 他 7% で あ っ た 。
800
人数
男
女
700
600
500
400
詳 細 を 図 5 に 示 し た 。 末 梢 性 疾 患 3,535
300
例のなかではメニエール病確実例(以下
200
「 メ 」病 と 略 す )、メ ニ エ ー ル 病 疑 い 例 、
100
0
前庭型メニエール病、遅発性内リンパ水
0
10
腫を含めたメニエール病関連疾患が最も
20
30
40
50
60
70
80
90 歳代
図4 めまい患者の年齢分布
多 く 、1,124 例( 24.7% )で あ っ た 。「 メ 」
病 は 13.8% で あ っ た 。 次 い で 良 性 発 作 性
頭 位 め ま い 症 ( BPPV) が 7.4% 、 突 発 性
2%
3%
難 聴 を 含 む 急 性 感 音 難 聴 が 4.0% 、中 耳 炎
メニエール病関連疾患
良性発作性頭位めまい症
急性感音難聴(含む突難)
中耳炎・後遺症
前庭神経炎
外傷性前庭障害
その他の内耳性
その他の末梢性
24%
8%
関 連 疾 患 が 3.7%の 順 で あ っ た 。 前 庭 神 経
炎が少ないのは激しいめまいのために入
院設備のある他病院を受診し、そのまま
7%
入院となるケースが多いためであろう。
4%
中 枢 性 疾 患 662 例 の 内 訳 は 椎 骨 脳 底 動
4%
椎骨脳底動脈循環不全
小脳・脳幹循環障害
脳循環障害
脳出血・梗塞後遺症
その他の中枢性
非前庭性
脈 循 環 不 全 ( VBI) が 373 例 ( 8.2% ) を
占 め 、次 い で 小 脳・脳 幹 部 循 環 障 害 が 3.4
図5 めまい疾患の内訳
% 、脳 循 環 障 害 が 1.5% で あ っ た 。こ の よ
うな疾患頻度は施設によってかなり異なるものと思われる。脳神経外科では脳血管障害に
伴うめまいが多く、そういう患者さんは勿論当院には受診しない。また、総合病院などで
脳神経外科とタイアップしてめまい患者をみている耳鼻咽喉科では中枢性疾患の頻度が多
い。
3.発症年齢について
「 メ 」 病 、 BPPV、 VBI の 3 疾 患 に つ い
て発症年齢を調べてみた。患者さんから
160
問診により一番最初のめまい発作が何歳
140
人数
「メ」病
BPPV
VBI
120
の時であったかを聞き出したものである
100
( 図 6 ) 。 「 メ 」 病 は 40 歳 代 に 多 く 、 最
80
年 少 9 歳 、最 高 齢 86 歳 、平 均 46.8 歳 で あ
60
っ た 。BPPV は 最 年 少 22 歳 、最 高 齢 94 歳 、
40
平 均 56.0 歳 で あ っ た 。 VBI は 最 年 少 22
20
0
歳 、 最 高 齢 91 歳 、 平 均 66.4 歳 で あ っ た 。
0
この結果は他の報告でも概ね同じ傾向で
10
20
30
40
50
60
70
図6 代表疾患の発症年齢
ある。
-3-
80
90 歳代
4.発病率について
末梢前庭疾患の代表疾患である「メ」
人数
病 と BPPV に つ い て 年 度 毎 の 人 口 10 万 人
50
対の発症率を求めた(図7)。対象とし
40
194 197
た の は 半 径 2Km 圏 か ら 来 院 し た 症 例 で
ある。この地区からの人であれば概ね当
30
院を受診するであろうという推測に基づ
20
203
「メ」病
BPPV
全症例
217
186
203
177 169
132
119
いている。
10
初診した患者が全て新たな発病例とは
0
限らない。そこには初回発作例、以前か
平成 5
らめまい発作を反復している再発例や持
6
7
8
9 10 11 12 13 14 年
図7 人口10万人対の発症率
続例も含まれている。そこでめまいを初
めて起こした発症年を問診から聞き出し、その年を発症年として年間の発症者数を算出し
た 。 住 民 基 本 台 帳 に よ る 当 該 地 区 の 人 口 は 約 77,300 人 で あ る 。 こ の 数 値 を も と に 人 口 10
万 人 対 の 発 症 率 を 単 純 に 換 算 し た も の で あ る 。ま た 、対 象 期 間 は 10 年 間 で あ る の で 、め ま
いを起こしてもまだ当院を受診していない患者さんもいるであろうし、他院で治療を受け
ている患者さんもいるであろうから、ここに示した数値は最低限のものと理解していただ
きたい。
年 度 に よ り 差 は あ る が 、 10 年 間 の 平 均 で は 「 メ 」 病 の 発 症 率 は 20 人 、 BPPV は 14 人 で
あった。しかし、前半 5 年間と後半 5 年間では差がみられる。「メ」病の前半 5 年間の発
症 率 は 平 均 26 人 で 、 後 半 5 年 間 の 平 均 は 17 人 で あ っ た 。 こ れ に 対 し 、 BPPV の 前 半 5 年
間 は 平 均 10 人 で 後 半 5 年 間 は 19 人 で あ っ た 。 発 症 し て も い ま だ 当 院 を 受 診 し て い な い 患
者 さ ん が い る と は い え 、 最 近 は BPPV 症 例 が 増 え て い る よ う に も 感 じ て い る 。 従 来 の 疾 患
頻 度 の 報 告 で は 「 メ 」 病 が 第 1 位 で あ る と い う 報 告 が 多 い が 、 最 近 の 報 告 で は BPPV が 1
位であるという報告も少なからずみられる。疾患構造の変化なのか今後の検討を要する課
題であると言える。
図7には全めまい症例についてもスケール五分の一の折れ線グラフで示しているが、年
間 の 発 症 率 は 平 均 で 180 人 で あ り 、最 近 5 年 間 で は 200 人 に 達 す る 。か な り 多 く の 人 が め
まいを患っていると考える。また、めまいは少なからず再発・持続する例も多い。これら
を 含 め た 年 間 の 有 病 者 数 は 発 症 者 数 の 3~ 4 倍 に の ぼ り 、そ れ だ け 多 く の 患 者 さ ん が め ま い
で医療機関を訪れていることになる。
ま
と
め
平 成 5 年 1 月 か ら 平 成 14 年 12 月 ま で の 10 年 間 、当 科 を 受 診 し た め ま い 症 例 4,546 例 に つ
き臨床的検討を行った。
1 ) 初 診 時 の 年 齢 分 布 を み る と 、 60 歳 代 が 最 も 多 く 、 全 体 の 23% で あ っ た 。 50 歳 代 か
ら 70 歳 代 ま で で 58% を 占 め 、 い わ ゆ る 高 年 齢 層 に め ま い 患 者 が 多 か っ た 。
2)めまい疾患を末梢性疾患、中枢性疾患、その他に分類した結果、疾患頻度は末梢性
78% 、 中 枢 性 15% 、 そ の 他 7% で あ っ た 。
-4-
3 )代 表 疾 患 の 発 症 年 齢 で は メ ニ エ ー ル 病 が 40 歳 代 に 多 く 、良 性 発 作 性 頭 位 め ま い 症 が
50 歳 代 、 椎 骨 脳 底 動 脈 循 環 不 全 が 60 歳 代 に 多 か っ た 。
4 ) 発 病 率 の 年 間 平 均 で は 、 メ ニ エ ー ル 病 が 人 口 10 万 人 対 20 人 、 良 性 発 作 性 頭 位 め ま
い 症 が 14 人 、全 め ま い 症 例 で は 180 人 で あ っ た 。近 年 、良 性 発 作 性 頭 位 め ま い 症 が 増 加 し
ている傾向がみられた。
-5-
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