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第2号(平成26年度 1/2) - 国立大学法人 弘前大学 北日本新エネルギー

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第2号(平成26年度 1/2) - 国立大学法人 弘前大学 北日本新エネルギー
弘前大学
北日本新エネルギー研究所 年報
第2号
(2013.4.1~2014.3.31)
2014年8月
目
次
-巻頭言北日本新エネルギー研究所の本格的展開に向けて
所長
村岡
洋文 ・・・・・・・・・・・・・・1
北日本新エネルギー研究所の組織(平成 26 年 3 月 31 日現在)・・・・・・・・・・・・・3
エネルギー材料工学部門の活動報告
古屋
泰文、伊高
健治 ・・・・・・・・・・・4
エネルギー変換工学部門の活動報告
阿布
里提、官
地球熱利用総合工学部門の活動報告
村岡
洋文、井岡
電動システム工学部門の活動報告
島田
宗勝、久保田
国清 ・・・・・・・・・・・・8
聖一郎
健
・・・・・・・・・12
・・・・・・・・・・16
~新エネルギー産業創造及び実証研究~
地中熱利用に関する 実証研究と実用化等
南條
北日本新エネルギー研究所のこの 1 年(年表)
新エネルギープロジェクト企画検討委員会
兼任教員(学内他部局から)
特任研究員名簿
戦略委員名簿
宏肇・・・・・・・・・・・・・・21
・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
成果物の記録(資料編)
エネルギー材料工学部門の成果一覧
古屋
泰文、伊高
エネルギー変換工学部門の成果一覧
阿布
里提、官
地球熱利用総合工学部門の成果一覧
村岡
洋文、井岡
電動システム工学部門の成果一覧
島田
宗勝、久保田
新エネルギー産業創造及び実証研究等の成果一覧
編集後記
健治
国清
・・・・・・・・・28
神本
・・・・・・・・・・31
聖一郎 ・・・・・・ ・・39
健
正行
・・・・・・・・・47
・・・・・・・・52
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
― 巻頭言 ―
北日本新エネルギー研究所の本格的展開に向けて
北日本新エネルギー研究所長
村岡
洋文
(在任期間:平成25 年4 月1 日~)
北日本新エネルギー研究所の創成期
弘前大学が低炭素社会の実現を目指して、北日本新エネルギー研究センターを発足させた
のは 2009 年 3 月 23 日のことでした。この研究センターが教授 4 名、准教授 4 名の定員のう
ち、7 名を揃えたのは 2010 年 10 月 1 日のことであり、これが実質的な発足となりました。
このとき、当研究センターは弘前大学の一部局となり、名称を北日本新エネルギー研究所に
改めました。その直後の 2011 年 3 月 11 日には M9.0 という未曽有の東日本大震災が起こり、
我が国が国家的危機に直面しました。エネルギー危機もその一つであり、図らずも当研究所
設立の先見性が証明されました。しかしながら、4 研究部門に各種の教育・研究設備が導入
され、本格的な研究体制が整ったのは、さらに後の 2013 年度(平成 25 年度)のことです。
つまり、2010 年度から 2013 年度までの 4 年間は、北日本新エネルギー研究所の創成期と言
うことが出来るでしょう。私たち北日本新エネルギー研究所はいままさに基礎固めの時期を
終えました。これからは何としても本格的な成果を出して行かなければなりません。
北日本新エネルギー研究所を構成する 4 部門
北日本新エネルギー研究所はそれぞれ教授 1 名と准教授 1 名が運営する 4 つの研究部門か
ら構成されています。エネルギー材料工学部門では太陽電池シリコン製造プロセスや振動発
電や熱電発電など、先進材料技術の研究によって新エネルギーを創出しようとしています。
エネルギー変換工学部門では地域に豊富なバイオマス資源をガス化するなどの化学的プロセ
スを研究し、これを燃料電池に利用する技術を創出しようとしています。地球熱利用総合工
学部門では地域に豊富な地熱資源を地熱発電や直接熱利用に活用するために、地熱資源を探
査し、評価し、利用する技術を創出しようとしています。電動システム工学部門では北日本
向きの電気自動車を研究開発し、三方を海に囲まれた青森県の地の利を生かして、海流や潮
力や波力による発電技術を創出しようとしています。
北日本新エネルギー研究所の使命
世界に例を見ない少子高齢化の中で、大学の運営は厳しさを増しており、とくに地方の国
立大学法人は明確な特徴を問われています。北日本は厳寒の冬や豪雪という特有の苦難を抱
えております。もし、これを克服するような、革新的な新エネルギーインフラを研究開発す
ることが出来るならば、これは大きな福音となるでしょう。当研究所はまさに、そのような
高邁な使命を目指して設立されました。
「北日本」と「新エネルギー」とを冠した当研究所は、
1
数ある国内外の大学附置研究所の中にあっても、明確にユニークな存在です。このように、
北日本新エネルギー研究所の使命を端的に表すならば、それは「地域貢献」に他なりません。
ここで当研究所が目指す原点としての「地域貢献」に、およその定義を与えておきましょ
う。
『弘前大学北日本新エネルギー研究所の地域貢献とは、狭義には青森県、広義には東北地
方や北海道地方といったいわゆる北日本を対象として、そこに新しいエネルギー源構築のシ
ーズを創出し、これに関連する産業のシーズを創出し、これに関連する雇用のシーズを創出
し、これに寄与する人材を育成し、これに関連する知識を広く市民に提供することによって、
対象地域の活性化に資することである』と定義することが出来るでしょう。
「新エネルギー創造工学コース」の新設
2013 年度(平成 25 年度)4 月、理工学研究科博士前期課程に「新エネルギー創造工学コー
ス」が新設されました。本コースは当研究所の教員が担当するため、2013 年度(平成 25 年
度)には一挙に当研究所の教育・研究設備を充実させることが出来ました。今後は若い人材
を育てつつ、彼らとともに新エネルギーの研究を進めて行くことが出来るようになりました。
謝辞
当研究所が今日の姿になるまでには、戦略会議委員の先生方に多くのご指導を頂きました。
青森県や青森市からも、委託研究等多岐に渡るご支援をいただいております。学内では遠藤
正彦前学長や佐藤敬学長を初め、多くの役職員の方々からご支援を賜りました。創成期にあ
って、五里霧中の出航時から当研究所を確かな進路に導かれた神本正行初代所長には深甚な
る御礼を申し上げる次第です。さて、青森キャンパス事務部がこれまでの貢献によって、佐
藤学長から表彰されました(図 1,2)。事務部の皆様の滅私の貢献には、この場をお借りし
て御礼申し上げる次第です。当研究所はエネルギーに関するセンター・オブ・コミュニティ
を目指し努力して参りますので、引き続き関係各位のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。
図 1 平成 25 年度までの実績に対し学長表
彰を受けた青森キャンパス事務部天坂係長
図 2 青森キャンパス開設の貢献が称えられた青
森キャンパス事務部の表彰状
2
弘前大学
北日本新エネルギー研究所の組織(平成 26 年 3 月 31 日現在)
研究組織
専任教員(教授会メンバー)
エネルギー材料工学部門
教授
古屋
泰文
准教授 伊髙 健治
エネルギー変換工学部門
地球熱利用総合工学部門
教授
阿布
里提
准教授 官
国清
教授
洋文(所長)
村岡
准教授 井岡聖一郎
電動システム工学部門
教授
島田
宗勝(副所長)
准教授 久保田
兼任教員(学内他部局から)
健
(p.26 に氏名記載)
特任研究員
本学からの委託を受け、新エネルギー研究開発に関する調査、企画、調整、助言等の業務に
従事(p.26 に氏名記載)
学長特別補佐
南條
宏肇(青森キャンパス担当)
[~26.1.31]
神本
正行(北日本新エネルギー研究所担当)
北日本新エネルギー研究所戦略会議
研究所長の諮問に応じて,弘前大学における新エネルギーの研究開発等に関する重要事項につ
いて審議し,必要に応じて研究所長に助言を行うための会議。委員名簿は p.26 に記載。
3
エネ
ネルギー材
材料工学部門の活動報
報告
教
授
准
准教授
古屋
屋 泰文
伊髙
伊 健治
概要
エネル
ルギー材料工
工学部門では、先進材
材料によるエ
エネルギー変
変換をコア技
技術とした、再生可
能でスマ
マートな社会
会システムの実現に貢
貢献すること
とを目標にし
して、研究開
開発と人材育
育成(教
育)を実
実施してきて
ている。特に、基盤技
技術となるエ
エネルギー変
変換材料につ
ついて、材料
料開発か
らデバイ
イス設計とそ
その応用までの関連技
技術にわたっ
って、研究・開発を進め
めている。具
具体的に
は、1)ケイ素資源
源を有効活用した太陽
陽電池用シリコン製造プ
プロセスの開
開発、2)磁
磁歪・発
電合金開
開発とその環
環境発電(エネルギー
ーハーベスト
ト)とその適
適用試験、3
3)熱電変換
換材料と
システム
ム応用を中心
心に進めている。太陽
陽電池級のシ
シリコンを大
大量かつ低コ
コストで供給
給するた
めには、
、従来法であ
ある炭素還元+シーメ ンス法でな
なく、シリカ
カの状態で高
高純度化する
る高純度
炭素還元
元法が必要不
不可欠であると考え、 このプロセ
セスの開発を
を進めている
る。また、熱
熱電材料
では新し
しい材料を探
探索するためにコンビ
ビナトリアル
ル手法を導入
入した材料探
探索システム
ムの構築
を進めて
ている。高効
効率な弾性磁
磁気エネル
ルギー変換材
材料として、従来とは異
異なる非希土
土類系・
鉄基の高
高感度の磁歪
歪素材を開発
発し、その
の逆磁歪効果
果(漏れ磁束
束)から環境
境発電デバイ
イス適用
を産学連
連携で目指している。また、これ
れらエネルギ
ギー変換材料
料からは外界
界変化に応じ
じた電気
信号が抽
抽出できるの
ので、省エネ機器稼働
働や安心安全
全社会にモニ
ニタリングに
に必須となる
る複合機
能的なス
スマートセン
ンサ・デバイ
イスの可能
能性を研究し
している(図
図1参照)
。
図1. エネ
ネルギー材料工学部門にお
おける研究内
内容
4
研究事例
例1)
太陽
陽電池用シリコン製造
造プロセスの
の開発
1.背景
景
エネ
ネルギー問題
題や環境問題の観点か
から
太陽光を
をエネルギー
ー変換できる太陽電池
池が
注目され
れている。太陽電池材料
太
料の研究では
は、
現在も主
主流で今後も増えていくと考えら
られ
るシリコ
コン太陽電池
池をターゲ
ゲットとして
て、
デバイス
スそのものではなく、シリコン原
原料
を低コス
ストにする技
技術の開発
発に取り組ん
んで
いる。太
太陽電池級のシリコン
ンを大量かつ
つ低
コストで
で供給するには、従来
来法である炭
炭素
還元+シ
シーメンス法
法ではなく、シリカの
の
高純度化
化+高純度炭
炭素還元法という新し
し
いプロセ
セスでの還元
元プロセスの開発を行
行
図 2. 高純度シリコ
高
ンの製造プロ
ロセス(上)従来法
(下)我
我々が開発中のプロセス
っている
る。
主な太
太陽電池の原
原料であるシリコンは
は、珪石から
ら金属シリコ
コンを経て、 シーメンス
ス法で高
純度化さ
される。この
のシーメンス法は、半
半導体集積回
回路用の高純
純度(11N) Si 精製には
は向いて
いるが、太陽電池用
用シリコン(6N 以上) にはエネル
ルギーコスト
トが大きく、 収率も低い
いという
問題があ
ある。このプ
プロセスでは、原料シ
シリカ(珪石
石)を一度、炭素で還元
元してから塩
塩化し、
さらにも
もう一度水素
素で還元するという2 回の還元反
反応が必要で
である。
そこで
で、我々は、
、この還元反応を1回
回だけで行うプロセスの
の開発を進め
めている。原
原料シリ
カを酸化
化物の段階に
において溶液的手法で
で高純度にし
し、炭素で一
一度に還元す
するプロセス
スを開発
している
る。我々が開
開発しているプロセス を図2に示
示す。化学溶
溶液的手法で
で高純度化し
したシリ
カを原料
料としてシリコンを得ることによ り、エネル
ルギーコスト
トを下げ、収
収率・反応速
速度を向
上させる
るプロセスの
の開発を行っている。 本開発プロ
ロセスのキー
ーテクノロジ
ジーは、高純
純度化さ
れたシリ
リカを収率よ
よく還元する工程にあ る。
2.炭素
素還元の反応
応経路の考察
察
珪砂(シリカ、SSiO2)を炭素
素還元法に よりシリコンを還元す
するプロセス
スの素反応に
には、中
間生成物
物(SiC や SiO)の介在
在が不可欠で
であり、素反
反応を詳しく理解する ことが重要
要である。
Si が得られる反応式には、中
中間生成物の
のみしか含ま
まれていない
い。つまり、 反応の最終
終段階で
は、原料
料である SiOO2 や C は含ま
まれていない
いことから、
、反応制御に
には中間生成
成物が重要で
である。
熱力学的
的には、SiCC は非常に安
安定であるた
ために、必要としている Si ではな
なく、SiC が出来て
が
しまうこ
ことが容易に
に起こりうる。そのた
ために投入炭
炭素量や中間
間生成物の制
制御が必要不
不可欠で
ある。
5
熱力学
学計算によれ
れば、1 気圧
圧 2000℃の
の反応温度の
の範囲内
では、CC が存在する
ると、優先的
的に SiC が
が生成してし
しまうこ
とがわか
かった。その
のために、原
原料を SiO2 と C の混合
合体と中
間生成物
物である SiiC を層状に繰り返して
て投入するこ
ことによ
って効率
率良くシリコ
コンが生成す
することが わかった。図 3 に
得られた
たシリコンを
を示す。以前のものよ り、スケー
ールアッ
プするこ
ことによって
ておよそ6倍
倍程度であ る 30g のシ
シリコン
を得るこ
ことに成功した。今後は
は、収率や副
副生成物であ
ある SiC
の抑制条
条件の探索を
を進めていく。
図 3. 炭素還元
元法で得られ
れた高純度シ
シ
リコン(30g)
研究事例
例2)磁歪・発電合金開発とその 環境発電(
(エネルギー
ーハーベスト
ト)応用
高磁歪
歪、強度(ロ
ロバスト性)
)と機械加 工性を併せ
せ持つ、新鉄
鉄基・非希土
土類系“Co 過剰型F
過
eCo磁
磁歪合金”
(
(69≦Co≦
≦73at%、大学
学シーズ:特
特開 2013-177664)の開
開発に成功した(図
4参照)。
図4. 振動発電
電デバイスの概
概観図とその
の特性
6
また、特殊鋼メーカと共同でこの素材の量産化、低コスト化プロセスを進めている。
今後、逆磁歪・大発電効果を用いて、次世代“自補給電型ワイヤレスセンサ”を開発する。
1)エネルギー変換効率を上げた振動発電素子、2)電子回路集積化(パルス整流後の内蔵
ボタン電池への補給電機能)、3)ワイヤレス送信モジュールを結合設計させたデバイスで、
日常生活での繰返し負荷・振動環境下で作動する。今後、需要が増すモバイル機器(人歩行)
や自動車走行モニター(ITS)用のフィールド実証試験に適用、競合する圧電素子との差
別化・優位性を有する商品化モデルを提示する。
その他、エネルギー変換材料からは外界変化に応じた電気信号が抽出できるので、省エネ
機器稼働や安心安全社会にモニタリングに必須となるスマートセンサ・デバイスの可能性を
研究している。さらに、ペロブスカイト系酸化物(誘電体材料・機能膜材料)、高性能・高効
率センサ・アクチュエータ用材料(アク
ティブ
マテリアル)の開発、それらの
機能を複合・融合化させた、知能(イン
テリジェント)材料・デバイス実現への
独創的研究に展開することにも挑戦し
ている。光発電・振動発電・熱電発電を
用いた未利用エネルギーの有効活用を
通して、地域に立脚した実証デバイスを
開発して、地域貢献を目指す。また、国
内外との関連分野の連携型研究を目指
してアラブ・アジアサステナブルエネル
ギー国際シンポ(3rd AASEF 2014 in
Hirosaki )を実施した(図5)。本会議
は、第1回を 2011 年 4 月に弘前で開催
準備していたものの、東日本大震災が発
生したために名古屋開催に変更となっ
た経緯があり、今回、東日本の復興の意
味も込めて開催された。会期を通して
140 名を超える参加者があり、日本を含
めてアルジェリア、チュニジア、サウジ
アラビア、ドイツ、韓国、台湾など8カ
図5. 第3回アジア・アラブサステイナブルエネルギーフォ
国から参加があり、活発な議論がなされ
ーラム開催案内
た。
7
エネルギー変換工学部門の活動報告
教
授
准教授
阿布
里提
官
国清
概要
エネルギーは人類の運命に関わる大きな課題であり、エネルギー資源の8割以上を海外に
依存する日本にとっても、再生可能な自然エネルギーの利用を大幅に促進することが不可欠
である。しかし、再生可能エネルギーは、環境性に優れているもののエネルギー密度が低く
コストが高い。また、現在の生活様式を継続する中でエネルギー需要をまかないきれるもの
ではない等の欠点もあり、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー社会システムの構築
には相当な時間を要すると考えられる。さらに、国や地域によって気候条件が大きく異なり、
再生可能エネルギー資源やエネルギー消費構造も異なることから、化石燃料依存型社会から
自立した地域循環型社会へ転換するには、地域特性に応じた適正技術の選択・開発及び最適
なバランスを有するエネルギーベストミックス利用システムの構築も不可欠である。
本研究部門では、地域資源を活かし、北国に対応した持続可能な低炭素エネルギー社会の
実現を目標として、研究開発を効率的・加速的に推進するため、国際・産学官連携の推進を
図るとともに、バイオマスと燃料電池を柱とする基礎研究からエネルギーのベストミックス
利用システム技術の研究まで一貫した研究開発(図.1)を展開し、寒冷地特有の新エネルギー
システムに関する研究・教育・実践を通じて、国際社会にも通用する新エネルギー人材の育
成と産業創出の支援、さらに、地域に見合った未来エネルギーについて地域住民と調査・検
討活動を行っている。以下に、この1年間の活動内容の一部を紹介する。
図.1 積雪寒冷地に対応した地域資源活用型エネルギーシステム
8
エネルギー変換工学部門の成果
教
授
准教授
阿布
里提
官
国清
1. 教育研究の国際化・高度化への取り組み
4月 ■JST 戦略的国際(日中)科学技術協力推進事業 8月 阿布教授が中国西安交通大連大学に招聘さ
れ学術交流
「マイルド熱分解とエクセルギー再生に基づく
低品位炭有効利用プロセスの開発」が採択
■インドネシアから 3 名の日本政府国費留学生が 10月 ■タイから 1 名の日本政府国費留学生受入
博士後期課程に受入
■バイオマスエネルギー利用国際フォーラ
ムを青森で開催.
6月 上記日中国際科学技術事業に基づき、中国太原理
工大学の黄教授ら 3 名が本学を訪問、北日本新エ
■韓国ソウル科学技術大学裵在根教授来校
ネルギー研究所と中国太原理工大学間で研究交
流協定締結
11月 阿布教授が大連理工大学にて学術交流
7月 ■本所と交流協定を基に、中国太原理工大学から
12月 ■本所の交流協定締結校、タイの Thammasat
10 名の教職員が本学を表敬訪問
University から 1 名の短期留学生受入
■本学の交流協定校、中国大連理工大学からエネ
■阿布教授が中国新疆工程大学に招聘され
ルギー研究院の宋院長が本学を表敬訪問、博士前
学術交流
期課程の集中講義実施
■官准教授が中国西北大学・四川大学に招聘され
学術交流
大連理工大学エネルギー研究院の
宋永臣院長来校
JBIC の「環境保全・人材育成支援」事業
に採択された太原理工大学訪問団来校
バイオマスエネルギー利用国際フォーラムを青森市で開催
韓国ソウル科学技術大学裵在根教授来校
9
2. 研究高度化の進展
■外部資金獲得実績(件数と金額)が近
年増加しつつある。
■質の高い論文数や論文の被引用回数は年々増
加している。
➜研究内容は成果物の記録(資料編)へ
➜研究実績は成果物の記録(資料編)へ
■件数
■金額(千円)
最近の外部資金獲得件数と金額の推移
最近の論文数と被引用回数の推移
3. 教育力の向上
本研究部門では、研究開発を効率的・加速的に推進するため、国内外の大学・研究機関と
連携し、学生教育の国際化も積極的に推進している。これまでは3カ国から5名が文部科学
省の国費留学生に採択される他、外国政府派遣留学生を含め、計 9 名の留学生が大学院博士
前期・後期課程に在籍し、学外から一定の評価を受けている。
H25 年度は教育力向上を図るために、外部資金による教育環境の改善や教育内容の充実
等を図った。その成果としては、査読を経た高インパクトファクターの国際的な学術誌に投稿
した論文数や国内外学会で発表件数は増加した他、化学工学会学生賞受賞や弘前大学学生表
彰を受賞した。
国際連携により教育研究体制を強化
10
3 名の学生が弘前大学学生表彰受賞
4名の学生が学会にて受賞
4. 地域貢献活動の強化
本研究部門では、地域・社会のニーズに対応した研究・教育活動を通じ、持続可能なエネ
ルギー社会を構築するために、地域や生活に密着した活動を積極的に行っている。
H25 年度の主な活動内容は下記の通りである。
■産学連携共同研究や受託研究を通して研究成果を地域社会への還元。
■公共団体・市民団体・企業・個人等への技術相談、技術指導・助言等の実施。
■一般市民向け講演・出前授業・セミナー・勉強会・見学会等の実施。
■H23 年度発足した「
(NPO)青森未来エネルギー研究会」を通し、地域エネルギー産業創出
推進等の活動継続・・・等。
➜共同研究・受託研究等の社会貢献関する実績は成果物の記録(資料編)へ
研究室見学会
地域連携勉強会
11
地球熱利用総合工学部門の活動報告
教
授
准教授
村岡
洋文
井岡聖一郎
概要
地球熱利用総合工学部門は、資源小国といわれる我が国が、世界に誇る豊富な資源である
地熱資源を北日本のエネルギーインフラ構築に活用するために、地熱資源の調査研究、地熱
資源量評価の研究、地熱資源特性の研究、そして、地熱資源利用法の研究まで、幅広く研究
することによって、究極的には地熱カスケード利用社会の実現を目指している。北日本の地
熱カスケード利用社会に関する模範的事例は人口 33 万人のアイスランドに実現されており、
地熱発電設備容量においてすでに日本を抜き、90%の家庭で地熱熱水暖房を実現し、一種の
地熱ユートピアを実現している。地熱カスケード利用社会を実現するためには、最上流側に
蒸気フラッシュ型地熱発電所が必要である。しかし、青森県にはまだ、蒸気フラッシュ型地
熱発電所が一つもない。そのため、当部門は先ず、青森県において蒸気フラッシュ型地熱発
電所の建設に貢献することを最大の目標としている。
平成 25 年度のトピックス
1.弘前市の地熱開発理解促進支援事業に協力して、当研究所がアイスランドやインドネシア
から地熱専門家を招くシンポジウムを企画し、平成 25 年 11 月 17 日に、市民約 200 名に地
熱の利点や世界的動向を伝える国際シンポジウムを開催した。
2.日本地熱学会平成 25 年学術講演会(千葉幕張大会)において、教員 2 名、大学院生 3 名の
全員が口頭発表を行い、日本地熱学会平成 26 年学術講演会(弘前大会)案が承認された。
3.むつ市と当研究所が平成 26 年 3 月 27 日に再生可能エネルギーの促進に関する連携協定を
締結し、とくに地熱開発理解促進支援事業や陸奥燧岳の地熱資源の調査研究を先行的に行
うこととした。
4.補正予算によって、熱水の化学成分や同位体比の分析設備を充実させ、熱水流動系の調査
研究を可能にした。
5.岩木山南西部の地熱資源調査を行った。
6.八甲田山西部の地熱資源調査を行った。
7.温泉や地熱調査井を中心とする青森県の地熱資源データベースを構築した。
8.青森市受託事業として、小型温泉発電設備を取得した。
9.地熱技術開発株式会社の環境省温泉発電研究開発において松之山温泉地域を調査した。
10.青森市や田舎館村において、地中熱観測井の温度検層の季節変化を観測した。
このように、当部門は平成 25 年度から、地域貢献に焦点を定め、市民への地熱普及活動や
本格的な地域貢献のための地熱研究活動等を開始した。次節で 1~4 を教育普及トピックス、
5~9 を地域研究トピックス、10 を地中熱関係トピックスとして紹介する。
12
地球熱利用総合工学部門:教育普及トピックス
教
授
村岡
洋文・准教授
井岡聖一郎
1.地熱発電国際シンポジウム in 弘前
経済産業省は平成 25 年度に地熱開発理解促進支援事業を地方経産局経由で公募した。弘前
市は嶽温泉地域において JOGMEC の地熱資源開発調査事業を進めており、市民の理解を得る必
要があることから、これに応募し、採択された。弘前市はその一環として、市民が地熱に理
解を深めるためのシンポジウムを計画し、その企画を当部門に要請した。これは重要な地域
貢献のため、当部門は北日本における地熱利用の模範であるアイスランドからの地熱専門家
招へいを含めてプログラムを立案し、200 名の市民が地熱の理解を深めた(図 1、図 2)。
図 1 平成 25 年 11 月 17 日弘前市地熱シンポ
図 2 平成 25 年 11 月 17 日弘前市地熱シンポ
2.日本地熱学会弘前大会に向けて
平成 25 年度から新エネルギー創造工学コースが開設され、博士前期課程 1 年の大学院生を
3 名指導することとなった。半年間の指導によって、これらの学生は同年 11 月の千葉幕張大
会で研究発表を実現した。また、当コースの学生に最高の教材を提供するために、同学会に
働きかけ、平成 26 年大会を本学内で行う弘前大会とすることが承認された。
3.むつ市との連携協定
むつ市と当研究所が平成 26 年 3 月 27 日に再生可能エネルギーの促進に関する連携協定を
締結した。とくに地熱については先行的に、地熱開発理解促進支援事業への応募を試み、陸
奥燧岳において地熱資源の調査研究を進めることとした。
4.熱水分析機器の充実
補正予算によって、水や熱水の化学成分や同位体比に関して、基本的な分析機器を導入し
た。そのため、今後は熱水流動系の本格的調査研究が可能となった。
13
地球熱利用総合工学部門:地域研究トピックス
教
授
村岡
洋文・准教授
井岡聖一郎
1.岩木山南西部
弘前市は平成 25 年度から、岩木山南西部の嶽温泉地域において JOGMEC の地熱資源開発調
査事業を進めている。当部門はこの事業に寄与するため、熱水の分析による熱水流動系の解
析や地化学温度計の解析の研究を進めた。
2.八甲田山西部
大林組・川崎重工・JR 東日本は平成 25 年度から、八甲田山西部地域において JOGMEC の地
熱資源開発調査事業を進めている。この地域の最大の課題は有望な透水性の高い断裂が見い
出されていないことである。当部門はこの事業に寄与するため、断裂系の調査研究を進めた。
3.青森県地熱資源データベース
青森県にはまだ一つも地熱発電所が開発されていない。そのため、広域的な地熱資源評価
の必要性があり、青森県の地熱資源データベースを作成した。これは 35 坑の地熱調査井、510
の温泉井、26 の自然湧出泉からなっており、温度情報と地化学的情報からなっている(図 1)
。
図 1 青森県地熱資源
データベース
の表示例:活動
度指数マップ
4.青森市温泉発電受託研究
青森市受託事業として、小型温泉発電設備を取得した。
5.環境省松之山温泉発電研究開発プロジェクト
地熱技術開発株式会社の環境省松之山温泉発電研究開発プロジェクトにおいて松之山温泉
地域を調査し、地熱資源の特性を評価した。
14
地球
球熱利用総合
合工学部門
門:浅層地盤
盤における
る鉛直地下水温プロフ
ファイルの評価
准教授 井岡聖一郎
郎・教授 村岡洋文
村
1.はじめ
めに
青森県
県における地
地中熱利用の普及には
は,地中熱交
交換井の掘削
削深度抑制と
と熱資源安定
定採取へ
の必要最
最小限の坑井
井深度の決定
定を組み込 んだ,掘削長
長抑制低コスト化技術
術開発が重要
要である。
それには
は,浅層地盤
盤の熱伝導率や熱交換
換量を確実に
に評価する必
必要がある。 しかし,明
明瞭な季
節変化を
を示す地下水
水面深度,地下水流束
束の変化と浅
浅層地盤にお
おける見かけ
け熱伝導率と
との関係
は明らか
かになってい
いない。さらに,青森
森県下におけ
ける浅層地盤
盤の地下水温
温度分布も明
明らかに
なってい
いない。そこで,現在浅層地盤に
における地下
下水温度分布
布,見かけ熱
熱伝導率と地
地下水面
深度・地
地下水流束の
の季節変化との関係解
解明,さらに
に資源として
ての熱交換量
量の定量的評
評価を実
究は科研費
施してい
いる。本研究
費基盤(C)代
代表井岡により,弘前
前大学,秋田
田大学共同で
で,2013
年度から
ら 2015 年度
度の 3 年間で
で実施中であ
ある。
2.研究対
対象地域・方
方法
研究対
対象地域は,
,青森県田舎館村であ
ある。田舎舘
舘村は,浅瀬
瀬石川扇状地
地の中流域か
から下流
域にかけ
けて位置して
ており,地下水流動が
が活発である
ると考えられ
れる。また, 青森県地中
中熱・温
泉熱利用
用ポテンシャ
ャル調査事業において
て実施された
た温度応答試
試験において
ても,加熱試
試験時に
おける温
温度上昇が抑
抑制されてお
おり,
地下水
水流動が活発
発であると推
推定されてい
いる。2013 年度は,
年
地下水状
状況を把握す
するため,地質観察,
地
観
観測井 3 本の
の設置,地下
下水観測を毎
毎月 1 回実施
施した。
3.研究結
結果・考察
地下水
水観測の実施
施項目の 1 つである鉛
鉛直地下水温
温プロファイ
イルを示す。 地下水流動
動が活発
でないと
と考えられる
る青森市の鉛
鉛直地下水 温プロファイルを比較
較のために同
同時に示す。
地下水
水温の鉛直
直分布と
地下水流
流動との関係
係は,古
くから報
報告されてお
おり(谷
口,19887),田舎館
館村の地
下水温は
は,水平方向
向の地下
水流動が
が活発な場
場合の鉛
直分布に
に類似し,青森市は
青
地下水流
流動が活発
発でない
鉛直一次
次元の熱伝
伝導によ
る鉛直分
分布と一致
致してい
る。この
の結果からも
も田舎館
村の地下
下水流動の
の活発さ
図 1 地下水温鉛直
地
直プロファイ
イル
が示唆さ
される。
引用文献
献:谷口真人
人(1987)
:長岡
岡平野におけ
ける地下水温
温の形成機構
構,地理学評
評論,60-11,725-738.
7
15
電動システム工学部門の活動報告
教
授
島田 宗勝
准教授
久保田 健
概要
当部門における平成 25 年度の研究および取り組みを括ると次のようになる。尚、項目(1)
は当年より新たに着手したものであって、項目(2)、(3)は従前より取り組んでいる継続
研究である。
(1) 電動車の搭載エネルギー源の補強・増大、ならびに農・畜産・漁業向け可搬電力源とし
てのメタンガスエンジン駆動式小型発電機の開発研究を実施した。
(2) 各種電気・電子機器における電力変換損失の大幅な低減に寄与する高性能な軟磁性合金
材料の開発を、他大学や民間企業との共同研究により実施した。
(3) 上記開発の合金素材について、トランス、リアクトル、モータ、磁気シールドを実用化
出口と想定した各種の性能評価を実施した。
以下では、青森県における海洋エネルギー利用と積雪寒冷地向け電動車の創成および周辺要
素技術の開発研究について、取り組み内容を紹介する。
16
電動システム工学部門の成果
青森県における海洋エネルギー利用と積雪寒冷地向け電動車の創成
および周辺要素技術の開発研究
教
授
准教授
島田
久保田
宗勝
健
1.はじめに
化石燃料の枯渇危機が深刻化し地球環境保全の機運が高まる中、自動車産業では低燃費化
と温暖化ガス排出抑制の方策としてハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の普及が進ん
でいる。しかしながら、これら電動車を積雪寒冷地にて使用する場合において、解決すべき
技術課題が山積しているのが実情である。また、青森県は三方を海に囲まれており、海洋エ
ネルギー視点からみればそのポテンシャルは国内有数である。しかしながら、県下のみなら
ず国内において海洋エネルギーを利用する発電の取り組みは未だ成熟した分野とはいえない。
本電動システム工学部門では、積雪寒冷地という青森の地域性に根差した電化車の実現に向
けた研究開発、ならびに青森の地域性を活かしたエネルギー産業の創出を理念に掲げての海
洋エネルギー利用にむけた取り組みを行っている。また、それらミッションを達成するため
に、各種個別の要素技術開発にも着手しており、主として、バイオメタンガス燃焼式の小型
エンジン発電機、高力率モータや変圧器などに用いる素材開発とデバイス試作、さらにはシ
ステム検討と実証試験までの一連した研究、および、産学民官の協同体制の構築に取り組ん
でいる(図1)
。
図 1.電動システム工学部門の研究ミッションと成果ターゲットのコンセプトイメージ
17
2.研究成果・進捗状況
(1)海洋エネルギー開発への取り組み状況
弘前大学では約 10 年以上前から、津軽海峡の潮流発電研究開発への取り組みを開始してい
た。また、弘前大学には海洋と名のつく学科はないものの、10 名以上の教員が海洋関連の研
究教育を手掛けてきている。平成 24 年度には国より海洋エネルギー実証フィールドの公募が
あり、海洋エネルギー開発への機運が盛り上がってきたこと、米国メーン州立大学において
潮流発電研究開発が本格化していることがわかり、連携を開始したことなどを契機に当グル
ープが核となり、弘前大学の海洋エネルギー開発を再開加速することとした。
7 月には海洋エネルギー開発の促進を図るため、海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)
の副会長である梅田厚彦氏を特任研究員として迎えた。8 月には地元の港湾土木を手掛けて
いる企業、数社の参加のもとに、漁業連携海洋エネルギー利用開発促進研究会を立ち上げた。
第 2 回海洋エネルギー国際シンポジウムのため 9 月にメーン州立大を訪問し、情報交換を
行った。また、メーン州にあるファンディー湾での潮流発電プロジェクトを、メーン州立大
と連携して進めている ORPC(Ocean Renewable Power Company)社も訪問した。ORPC 社は
潮流発電で 10 年以上の実績を有するベンチャー企業である。そして、日本の環境省潮流発電
実用化促進事業に次年度、連携して公募することを取り決めた。
11 月には、第 2 回新エネルギーフォーラム「海洋開発における北日本新エネルギー研究所
および弘前大学としての取り組み--- 海洋エネルギーと水産業 ---」を開催した。
青森県港湾土木事業協同組合より「浅海洋上風力発電事業による漁業・養殖・観光事業創
成」における地域産業振興調査を受託し、平成 26 年 2 月に報告書を発行した。
青森県より「海洋エネルギー利用可能性調査業務」を受託し平成 26 年 3 月に報告書を発行
した。この業務の中では竜飛崎における流速測定も実施した。青森県とは連携して海洋エネ
ルギーの利活用による地域振興を目指している。
以上が平成 25 年度の主な取り組みである。県、漁協、地元企業等と連携し規模はともあれ、
3 年後を目途に発電実証の開始を目指している。
(2)メタンガスエンジン駆動式小型発電機の開発
電気自動車(Electric Vehicle: EV)は電気を動力源とするため、走行において温暖化ガ
スを排出しないエコカーの典型である。昨今、環境保全の機運や石油資源問題を背景として、
国内においても大手メーカー系純正車ならびに中小企業による改造キットを用いた既存車を
EV 化した電化車を市街地で見かけるようになった。しかしながらその使用において、特に冬
季の積雪寒冷地の場合は、暖房・解氷に多くの電力を要すること、恒常的な低速走行と慢性
的な渋滞によって単位時間の移動距離が短いこと、さらには、気温影響によって限られたバ
ッテリー容量を充分に活用しきれないことなどに起因し、満充電一回あたりの実走行距離は
カタログ記載値の 50%に達することさえ稀である。換言すれば、一晩、またはそれ以上の長
い時間をかけて EV を満充電したとしても、冬季の積雪寒冷地では 100km 以上の走行が困難で
あって、EV の実使用には多くの制限が付帯する。
18
EV が動力として搭載するモータは、従来のガソリンや軽油等で駆動する内燃式エンジンと
比して、源エネルギーから動力エネルギーの取り出せる割合、つまりエネルギー変換効率に
ついては、エンジンを凌駕する。また、低速域でのトルク性能についてもモータはエンジン
と比して優れる。
本研究部門では、EV 特有のモータドライブを活かし EV のエコカーとしての意義を具備し
た新しいシステムとして、バイオメタンガス燃焼式エンジン発電機を補助電力源とした、い
わゆるシリーズハイブリッド型電動車の開発研究に着手している。バイオメタンガス燃焼式
エンジン発電機の開発コンセプトは、ローテク・低コスト・高汎用性であり、町工場や整備
工場でも整備できることである。これと平行して、バイオガスを燃料とした小型で持ち運び
可能な発電機としての意義にも着目しており、発電機そのものを完成形とした農業・畜産業・
漁業等の1次産業における簡易電源や非常時用の電源として検討も行っている。
これまでに、他大学との連携や民間企業との共同研究によって開発体制を整備し、メタン
ガス以外を燃料とする既存のエンジンのメタンガス運転と電力生成・取り出しまでを達成、
燃料として用いるガス種の差異による排気ガスの成分の変化や燃料と大気(酸素)の混合比
による発電量変化について調査を行った。今後も本課題を継続し、排気ガス観点からの燃焼
効率と電力生成観点からの運転効率の最適化、工業用メタンガスから都市ガスやバイオマス
ガスへと切り替えた場合の検証、電力変換・出力用インバータの設計、蓄電、可搬性、製作
コスト等について調査を進めてゆく。
(3)低電力損失を可能とする軟磁性合金材料の開発と応用化研究
軟磁性材料の用途は発電機、発動機(モータ)、変圧器や磁気シールドなど多岐に亘り、身
の回りの電力を使用する至るところに用いられると言っても過言ではない。省エネ効果に注
目すれば、軟磁性材料は、動力-電力間または電力-電力間のエネルギー変換システムに組
込まれるデバイスの一種であって、材料特性の優劣はそのシステムのエネルギー変換効率に
強く影響を及ぼす。電動車においてもリアクトルや各種モータを多数搭載しており、また発
電分野、例えば風力発電や海流・潮流・河川水力発電で用いられる発電機と電力変換機器に
も軟磁性材料は用いられており、エネルギー変換損失の低減化は重要な技術課題である。現
在、金属製の軟磁性材料の主流は電磁鋼板
であって、その市場シェアは 95%程度に上
る。この理由は、鉄と珪素から製造できる
ため安価、飽和磁束密度が高い、100 年の長
期にわたる研究で材料の性能を極限近くま
で引き出していることに由来する。しかし
ながら、電気・電子機器の高性能化や高速
駆動化、ならびに省エネ機運によって、電
機系および鉄鋼生産系メーカーを中心とし
た産業界からは、現行の電磁鋼板と比して
図 3.開発したナノ結晶材料トロイダルコアおよ
び既存軟磁性材料における鉄損特性
19
より高性能な材料の創製と実用化が切望さ
れている。
これまでに本研究部門では、東北大学金属
材料研究所と連携し、飽和磁束密度におい
てアモルファス合金比で 20%増、鉄損にお
いて無方向性電磁鋼板比で 10 分の 1 以下
(1.7T、50Hz にて)と、高飽和磁束密度と
低鉄損の両立を可能する鉄-半金属系の軟
磁性ナノ結晶合金の開発に成功している。
本軟磁性合金材料の開発は、現在、文部科
学省の「東北発 素材技術先導プロジェクト」
における超低損失磁心材料技術領域として、
東北大学を拠点に実施しており、本部門で
は素材開発研究とデバイス試作・評価研究
図 4.Fe83.3(SixByPz)16Cu0.7(at%)系ナノ結晶合金の
保磁力分布を視覚化した擬 3 元状態図(単位: A/m)
において参画している。本開発合金の一部の組成については、既に実用化に供するに値する
寸法の素材化に成功、その鉄損特性は素材大寸法化後においても劣化することなく極めて優
れた低鉄損、省エネ性能を保持することを突き止めている。(図 3)
また、それ以外にも、本合金系の高性能化に向けた合金組成の再設定や熱処理プロセスの
見直し等による素材の最適化(図 4)や、デバイスのインバータ駆動を想定した高周波帯域
の磁気特性、モータが応力下にて使用されることで生じる圧力と磁気特性の関係に関する
種々の実験検証を行った。発電と電力変換における高効率化ならびに高性能新規デバイスの
創成に資するとの理念から、平成 26 年度においても本課題には継続して取り組むが、実用観
点からの性能評価に注力してゆく計画である。
3.おわりに
電動システム工学研究部門では、積雪寒冷地で快適に使用できる電動車の開発ならびに県
下における海洋エネルギー利用実現を目標とし、各種要素技術について研究を実施した。平
成 26 年度はこれまでの研究を土台とし、それら研究をより高い次元へ移行させ、実証研究さ
らには実用化のための足掛かりを構築するため、下記に大別する 3 項目について重点に取り
組む計画である。
(1) 海洋エネルギー利用にむけた各方面との連携強化、個別課題の基礎検証。
(2) バイオメタンガス燃焼式小型ガスエンジン発電機における基礎研究としての燃焼効率
と発電運転効率の最適化、実用化研究としての生成電力の整流と蓄電プロセス検証。
(3) 軟磁性合金コア材における応用側面からの磁気的、機械的性質の検証と改善・向上に関
する研究、ならびにデバイス試作とその性能評価。
20
~新エネルギー産業創造及び実証研究~
地中熱利用に関する実証研究と実用化等
学長特別補佐
南條
宏肇
概要
2013 年 2 月より、北日本新エネルギー研究所担当から、食料科学研究所を含めた青森キャ
ンパス担当に変わり、勤務場所が青森市役所柳川庁舎に移った。
研究開発は、弘前大学発ベンチャー企業、弘星テクノ株式会社「再生可能エネルギー実用
化推進研究所」所長として、弘星テクノと北日本新エネルギー研究所との共同研究として、
引き続き地中熱を利用した融雪および農業の両面について研究を行ってきている。
また海洋エネルギー開発として、電動システム工学部門の島田教授、久保田准教授ととも
に、連携協定を結んでいるアメリカメーン州立大学および、ORPC 社と共同で潮流発電の研究
に取り組んできた。この潮流発電開発研究の一環として、2013 年 6 月に急流速で知られる、
竜飛崎の流速測定を行い、そのデータを基に調和解析を行い、年間発電量推定の基盤を確立
した。これらの結果に基づき、環境省公募「潮流発電技術実用化推進事業」に応募する。
21
外部委託事業等
1.2013 年
青森
森県海洋エネ
ネルギー利用
用可能性調査
査
500 万円
円
この事
事業の一つとして、竜飛
飛崎の潮流
流流速測定を
を行った。内
内容詳細につ
ついては島田
田教授の
報告を参
参照。
右図に
に測定結果の
の一部
を示す。最大流速 7 ノット
(3.5m//s 黄色)が測定
された。
下図に
に 15 日間の
の定点観
測と 24 時間の移動
動観測デ
ータによ
よる各点の調
調和解
析の結果
果を示した。
。この
15 日間の流速分布により
年間の発
発電量が推定
定され
る。
22
2.貯留
留型融雪装置
置開発・販売
今
今までの弘星
星テクノと共
共同で開発 してきた地
地中熱利用融
融雪は、ロー
ードヒーティ
ィング方
式が
が主であった
たが、近年豪
豪雪が続き また高齢化
化が進んできていること
とにより、除
除雪より
排雪
雪の需要がに
にわかに高ま
まってきた。
。既に 10 年前に開発し
年
した、下図に
に示すような
な地中に
埋め
めた貯留槽に
に水を貯め、
、雪を投入し
して溶かして
て側溝に水を
を流す方式に
による「融雪
雪層」(写
真)を 2014 年度
度より売り出
出すことと した。
社会活
活動等
青森県
県エネルギー
ー産業振興戦
戦略推進会 議委員(20
011 年~)
「青森
森県地中熱利
利用普及研究
究会」
委員
(2012
2 年~)
「青森
森市地球温暖
暖化対策地域
域協議会」 会長(2013
3 年)
「青森
森県再生エネ
ネルギーロー
ード選定委 員会」会長
長(2013 年)
青森
森市「雪対策
策懇話会」委
委員(2013 年
年~)
弘星
星テクノ(株
株)再生可能エ
エネルギー 実用化推進
進研究所所長
長(2013~)
23
弘前大学北日本新エネルギー研究所のこの 1 年(年表)
2013 年(平成 25 年)4 月 1 日
・理工学研究科博士課程(前期)に「新エネルギー創造工学コース」を設置
2013 年(平成 25 年)6 月 9 日
・中国太原理工大学化学化工学院及び石炭化工研究所と協定
締結
国際交流により得られる両大学の相互利益を認識し,教育
・研究協力に関することに同意し協定を交わした
2013 年(平成 25 年)9 月 16 日
・米国メーン州立大学潮力発電イニシアティブ(MTPI)主催「第 2 回海洋エネルギー国際シン
ポジウム」へ参加
2013 年(平成 25 年)10 月 4 日
・バイオマスエネルギー利用国際フォーラム「平成 25 年度 NJRISE 第 1 回新エネルギーフォ
ーラム」を開催
2013 年(平成 25 年)11 月 13 日
・海洋開発における北日本新エネルギー研究所および弘前大学としての取組み「平成 25 年度
NJRISE 第 2 回新エネルギーフォーラム」を開催
2013 年(平成 25 年)11 月 17 日
・常盤野地区における温泉と地熱発電の共生を図る「地熱発電シンポジウム in 弘前」を共催
2014 年(平成 26 年)1 月 10 日
・北日本新エネルギー研究所戦略会議を開催
2014 年(平成 26 年)2 月 6 日
・研究所年次報告・青森市委託研究報告会「平成 25 年度 NJRISE 第 3 回新エネルギーフォー
ラム」を開催
2014 年(平成 26 年)3 月 27 日
・青森県むつ市と協定締結
相互の発展に資するため両者が包括的な連携のもと再生可
能エネルギーの資源調査,資源開発,再生可能エネルギー
産業の分野において相互に連携・協力することに同意し協
定を交わした
24
新エネルギープロジェクト企画検討委員会
研究成果の社会への還元・産業化、さらには新エネルギー利用による低炭素社会構築、地
域における新産業創造、雇用の場創出を促進することを目的として、研究発表・プロジェク
ト企画立案を実施している。本委員会を市民に広く開かれたものとするため、平成 23 年度よ
り名称を「新エネルギーフォーラム」として開催している。
2013 年
(平成 25 年)
10 月 4 日
平成 25 年度
NJRISE 第 1 回 新エネルギーフォーラム
2013 年
(平成 25 年)
11 月 13 日
平成 25 年度
NJRISE 第 2 回 新エネルギーフォーラム
2014 年
(平成 26 年)
2月 6日
平成 25 年度
NJRISE 第 3 回 新エネルギーフォーラム
25
兼任教員(学内他部局から)平成 26 年 3 月 31 日現在
嶋
恵一
人文学部
教授
金藤 正直
人文学部
准教授
宮永 崇史
理工学研究科
教授
丹波 澄雄
理工学研究科
准教授
佐藤 裕之
理工学研究科
准教授
麓
耕二
理工学研究科
准教授
張
樹槐
農学生命科学部 教授
園木 和典
農学生命科学部 准教授
特任研究員名簿
・平成 25 年度
平成 25 年 7 月 1 日~平成 26 年 3 月 31 日
梅田
厚彦 ((一社)海洋エネルギー資源利用推進機構
副会長)
戦略委員名簿
・平成 25 年度
加藤 陽治 (弘前大学
理事)
南條 宏肇 (弘前大学
学長特別補佐)
神本 正行 (弘前大学
学長特別補佐)
吉澤 篤
(弘前大学大学院
佐々木長市 (弘前大学
上田 晃
理工学研究科長)
農学生命科学部長)
(富山大学理学部
教授)
岡田 健司 ((財)電力中央研究所社会経済研究所
上席研究員)
佐藤 和雄 ((地独)青森県産業技術センター理事長)
鯉沼 秀臣 (東京大学大学院新領域創成科学研究科
松田 從三 (北海道大学
客員教授)
名誉教授)
湯原 哲夫 (キヤノングローバル戦略研究所
26
研究主幹)
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