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管内と畜場でみられた豚サルモネラ症 [PDFファイル/357KB]

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管内と畜場でみられた豚サルモネラ症 [PDFファイル/357KB]
管内と畜場でみられた豚サルモネラ症
宮城県食肉衛生検査所
○川村健太郎
中田
聡
平塚雅之
田原亜希子
西村
肇
小野聡美
1.はじめに
豚サルモネラ症は敗血症や下痢症を主徴とする感染症であり,Salmonella Choleraesuis(以下
SC とする),S.Enteritidis,S.Typhimurium,S.Dublin を原因とするものは,家畜伝染病予防法
に基づく届出が必要であるとともに,と畜場法に基づく全部廃棄の対象となる.また,サルモネ
ラはヒトの代表的な食中毒の原因菌であり,さらに急性胃腸炎や敗血症のような感染症を起こす
原因となることが知られることから,家畜衛生と公衆衛生の両方において重要な危害因子といえ
る.
一方,と畜場に搬入されるサルモネラ感染豚は,臨床症状を認めず,解体検査において肝臓病
変等により発見されることが多い.
今回,管内と畜場において同一農場から搬入された豚でサルモネラ症を疑う症例が多発し,細
菌学的検査および病理組織学的検査を実施したので,その概要を報告する.
2.材料および方法
(1)材
料
H21 年 10 月から H22 年 1 月に搬入された豚のうち,内臓検査において豚サルモネラ症を疑い
精密検査を実施した 18 症例を対象とした.18 症例すべてが同一農場から搬入された.
(2)方
①
法
細菌学的検査
肝臓および肝リンパ節,腎臓,脾臓,腸間膜リンパ節,肺リンパ節,内側腸骨リンパ節を採材
し,定法によりサルモネラ分離検査を実施した.
ⅰ)増菌培養:ハーナ・テトラチオン酸塩培地(栄研)で 42℃,22±2 時間培養した.
ⅱ)選択分離:クロモアガーサルモネラ(CHROMaggar),XLD 寒天培地(OXOID)で
37℃,22±2 時間培養した.
ⅲ)性状試験:TSI 培地(Difco), LIM 培地(栄研)により生化学性状を確認した.
ⅳ)血清学型別試験:市販のサルモネラ免疫血清(デンカ生研)を用い,スライド凝集反応に
より O 抗原を,試験管凝集法により H 抗原を決定した.
②
パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)
制限酵素 BlnⅠおよび XbaⅠで 37℃,2 時間処理後 19 時間泳動し,バンドパターンを比較
した.
③
薬剤感受性試験
ドライプレート(栄研)を用いて,微量液体希釈法により 17 薬剤について実施した.
供試薬剤
アンピシリン(ABPC),ピペラシリン(PIPC),セファゾリン(CEZ),セフォチアム(CTM),セフタジジム(CAZ),セファクロル(CCL),フロモキ
セフ(FMOX),セフポドキシム(CPDX),アズトレオナム(AZT),イミペネム(IPM),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),アミカシン
(AMK),ミノサイクリン(MINO),ホスホマイシン(FOM),スルファメトキサゾールトリメトプリム(ST),レボフロキサシン(LVFX)
④
病理組織学的検査
肝臓および肝リンパ節について肉眼的に観察した後,HE 染色および Gram 染色を実施し組織
学的に検索した.
3.結
①
果
細菌学的検査
肝臓病変を認めた 18 症例を検査した結果,8 症例より 22 株のサルモネラ菌が分離された.血
清型はすべて硫化水素非産生性の SC であり,豚サルモネラ症と診断した(表1)
.
②
遺伝子学的検査
4 症例から分離された SC10 株について実施したところ,BlnⅠおよび XbaⅠ処理いずれにおい
ても同一パターンを示した(図1)
.
③
薬剤感受性試験
3 症例から分離された SC 3 株について実施したところ,いずれもミノサイクリン(MINO)に対
して耐性を示し,他の 16 薬剤に対しては感受性を示した.
②
病理学的検査
組織検索を実施した,豚サルモネラ症 4 症例すべてにおいて,肉眼で認めた肝臓小葉内の白色
結節病巣に肉芽腫性炎を認めた.また,このうち 3 症例においては肝リンパ節にも同様の壊死性
病変を認め,肝臓および肝リンパ節内の病巣の一部でグラム陰性桿菌を認めた.
一方,豚サルモネラ症と診断されなかった 7 症例では,肉眼的にその多くが白色結節病変周囲
に間質の増生を伴う限局性の間質性肝炎であり,組織像ではグリソン鞘に結合組織の増生と著し
い好酸球の浸潤を認めた.その他,肝臓全体のグリソン鞘に線維増生をみる間質性肝炎や,び漫
性に肝細胞の壊死と線維化,炎症細胞浸潤をみる慢性肝炎像を認めるものもあった(表2)
.
また,豚サルモネラ症と診断されたものであっても,SC が分離されなかった肝臓(検体 No.8,9)
および肝リンパ節(検体 No.9)で肉芽腫性炎が認められたものや,反対に SC が分離された肝リ
ンパ節(検体 No.8)で肉芽腫性炎が確認できなかったものがあった.
4.考
察
同一農場から搬入された豚においてサルモネラ症を疑い精密検査を実施した 18 頭のうち 8 頭か
ら SC が分離され,サルモネラ症として全部廃棄処分とした.
今回分離された SC は宿主適応性が高く,豚で急性敗血症を起こすことが知られている.急死
例を除き,主に肝臓の混濁腫脹,チフス結節,主要リンパ節の腫脹・充出血,カタル性腸炎,腸
粘膜の充出血,肺の水腫・充血をみる1)とされ,中でも肝臓の巣状病巣であるチフス結節は,ほ
とんどの豚サルモネラ症罹患豚に発現する重要な所見である2)とされる.
今回,豚サルモネラ症と診断された症例においても全ての肝臓に小葉内結節性病巣を認めた.
一方,豚サルモネラ症ではないと診断された症例の多くは、間質の増生を伴う寄生性肝炎像であ
り,肝小葉内の巣状壊死病変を認めなかったことから,と畜検査においては,この巣状壊死病変
の確認をもって本症を疑うことの有用性が改めて示された.
また,肉眼的に異常を認めなかった肝リンパ節からも,組織検索では高率に壊死性病変を認め
たことから,サルモネラ症の病理組織学的検査の際には肝臓とともに肝リンパ節も検索すること
が有用であると思われる.
一方,豚サルモネラ症と診断された症例において,肝臓や肝リンパ節から菌分離の無い検体で
も肉芽腫性炎を認めた例があったことから,複数臓器からのサルモネラ菌分離を実施すると共に,
凍結切片等による迅速組織診断を併用することで,確定診断の一助となるものと思われる.
今回,同一農場の豚において分離された SC は PFGE 法による分子疫学解析の結果から,同一
菌由来であることがわかった.このことは,当該養豚場に何らかのルートで侵入した SC が農場
内で蔓延したことにより,継続的に豚サルモネラ症が発生していることが示唆される. また,SC
では多剤耐性株の報告3)もあるが,今回分離された SC は多くの薬剤に感受性を示した.以上の
ことから今回得られた検査結果のフィードバックにより,農場での衛生対策が講じられ,より安
全な食肉の生産につながるものと期待している.
参考文献
(1)見上彪.丸山務監修.文永堂出版:獣医感染症カラーアトラス.1999
(2)郡信高ほか.と畜場でみられた豚サルモネラ症.日本獣医師会雑誌 36. 1983.
(3)辻本洋介.Salmonella Choleraesuis の薬剤感受性について.横浜市食肉衛生検査所年報.2006.
表1
検体 NO.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
(
サルモネラの分離成績
と畜年月日
H21.10/22
H21.10/28
H21.10/29
H21.10/29
H21.10/29
H21.11/11
H21.11/16
H21.11/17
H21.11/17
H21.11/27
H21.11/27
H21.11/27
H21.11/27
H21.11/27
H21.12/8
H21.12/8
H22.1/8
H22.1/8
SC 分離株計
+:サルモネラ分離
:サルモネラ陽性検体)
肝臓
肝 Ly
腎臓
脾臓
腸管膜 Ly
肺 Ly
内腸骨 Ly
+
-
+
-
-
+
-
-
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
4
-
-
+
-
+
+
-
+
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
5
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
NT
NT
NT
NT
0
+
-
-
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
2
+
+
+
-
+
+
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
6
-
-
+
-
-
+
-
+
+
-
+
-
-
-
NT
NT
NT
NT
5
-
-
-
-
-
-
-
-
-
NT
NT
NT
NT
NT
NT
NT
NT
NT
0
-:サルモネラ分離せず
SB 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 SB
M
M
669
SB 1 2 3 4 5 6 7 8
9
10 SB
485
388
398
291
242.5
194
310
145.5
217
97
167
48.5
104
54.7
BlnⅠ処理
XbaⅠ処理
レーン 1~3:検体 NO.1(肝・脾・腸間膜リンパ由来株)
レーン 4
:検体 NO.2(腸間膜リンパ由来株)
レーン 5~8:検体 NO.3(肝門リンパ・肝・腸間膜リンパ・肺門リンパ由来株)
レーン 9~10:検体 NO.5(肝門リンパ・腸間膜リンパ由来株)
DNA マーカー / M:ラムダラダー SB:サルモネラ標準株(Salmonella Braendrup H9812 株)
図
表2
病理検査成績(
:サルモネラ陽性検体)
肉眼所見
検体
No
SC の PFGE パターン
肝臓
肝リンパ節
組織所見
その他
肝臓
肝リンパ節
6
・退色
・小葉単位の出血
・小葉内白色結節
・充出血
・腸粘膜出血
・膀胱炎
・肉芽腫性炎
・マクロファージ,リンパ球浸潤
・肉芽腫性炎
・好酸球浸潤
7
・白色斑状病変
・著変なし
・腸粘膜出血
・好酸球浸潤
・寄生虫性肝炎
・好酸球浸潤
・出血
8
・小葉単位の出血
・小葉内白色結節
・白色斑状病変
・著変なし
・腸粘膜炎症
・肉芽腫性炎
・マクロファージ,リンパ球浸潤
・好酸球浸潤
9
・腫大
・小葉内白色結節
・著変なし
・腸粘膜炎症
10
・白色斑状病変
・充出血,腫大
・著変なし
11
・腫大
・小葉内白色結節
・白色斑状病変
・充出血,腫大
・肺炎
・充出血,腫大
・腎壊死
・脾臓腫大
・著変なし
・SEP 肺炎
12
13
・全体の硬化
・小葉単位の出血
・白色斑状病変
・白色斑状病変
・小葉単位の出血
14
・著変なし
・著変なし
17
・白色斑状病変
・著変なし
18
・白色斑状病変
・著変なし
・肺炎
・脾臓うっ血
・大小腸膨満
・SEP 肺炎
・腎炎
・盲腸粘膜炎症
・著変なし
・肉芽腫性炎
・マクロファージ,リンパ球,
多核巨細胞出現
・好酸球浸潤
・寄生虫性肝炎
・肉芽腫性炎
・マクロファージ,リンパ球浸潤
・肝細胞壊死と線維増生(肝硬変)
・好酸球浸潤
・寄生虫性肝炎
・好酸球浸潤
・寄生虫性肝炎
・著変なし
・間質性肝炎
・好酸球浸潤
・寄生虫性肝炎
・肉芽腫性炎
・好酸球浸潤
・好酸球浸潤
・出血
・肉芽腫性炎
・好酸球浸潤
・出血
・好酸球浸潤
・出血
・好酸球浸潤
・出血
検体なし
・好酸球浸潤
検体なし
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