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68359114___1__IP Newsletter _Japan__ October
October 18, 2011
連邦巡回控訴裁、地裁の判断を取り消し、単離された DNA 配列に「特許性あり」との判決を
下す
Ass’n for Molecular Pathology v. U.S. Patent and Trademark Office et al.事件、 No.
2010-1406 (2011 年 7 月 29 日連邦巡回控訴裁) において下された最近の判決で、連邦巡回控
訴裁は、単離された DNA 配列が、米国特許法第 101 条(35 U.S.C. § 101)に基づく特許対象
としての適格性を有するとの判断を示した。
経緯
2009 年 5 月 12 日、American Civil Liberties Union (「ACLU」;米国自由人権協会)は、い
くつかの医師会、擁護団体、医師、研究者及び個人を代理して、乳癌発症遺伝子 BRCA1/2 に関
する Myriad 社の特許が無効かつ違憲であるとして、米国特許商標局(「USPTO」)及び
Myriad Genetics 社 (「Myriad 社」)らを相手に、確認判決を求める訴訟を提起した。
とはいえ、Myriad 社の特許は、USPTO の現行の規則・手続き及び裁判所の判例において、何も
珍しいものではない。USPTO はこれまで、単離又は精製された遺伝子が、複雑な構造を有して
いるとはいえ化合物であることには変わらず、この結果、組成物としての特許性を有しうると
の立場をとってきた。つまり、USPTO の立場は(自然界に存在する)自然の産物は特許の対象
にはならないとしながらも、自然の産物が単離・精製された場合は、特許の対象とみなすとい
うものであった。このため、1975 年以降、USPTO は、クレームに「遺伝子」という用語を含む
15,000 件以上の特許を発行しており、これまでに約 50,000 件の遺伝子に関する特許を発行し
てきたと考えられている。
ACLU は、Myriad 社の遺伝子特許の無効性を訴える中で、これまでに発行されたすべての遺伝
子特許の少なくとも実質的な部分は違法であると主張した。具体的には、ACLU は訴状におい
て、「すべての人間の肉体には、両親より受け継いだヒトの遺伝子が存在する。すべての人間
の肉体の構造及び機能は、ある程度これらの遺伝子により決定される。従って、本訴訟 では、
あらゆる人間の個人的特徴の最も基本的な要素であるものに対して特許を発行するということ
の違法性及び違憲性を訴えるものである。」と述べ、USPTO の現行の手続き及び裁判所の判例
に異議を申し立てたのだ。
1
地裁の判決
2010 年 3 月 29 日、ニューヨーク南地区連邦地裁は、ACLU の訴えを認め、単離された乳癌の発
症に関する BRCA1/2 遺伝子についてのクレームを無効とする判断を示した。
米国特許法第 101 条は、特許対象な主題として、「新規かつ有用ないかなる方法 (process)、
機械 (machine)、製造物(manufacture) もしくは組成物 (composition of matter)、又はその
新規かつ有用ないかなる改良」を規定している。米国最高裁が述べたように、第 101 条の「
製造物」及び「組成物」という文言は、包括的な「いかなる」という言葉に修飾されているた
め、「広義に解釈できる用語」であり、「第 101 条全体の文言は広範囲に適用できる」。実際、
最高裁は、以前に第 101 条を、「人間が作り出した地上のありとあらゆるもの」を含むと広義
に解釈している。(Diamond v. Chakrabarty 事件、 447 U.S. 303,309 (1980 年))
とはいえ、第 101 条の広義な解釈に制限がないということではない。最高裁は、第 101 条の解
釈において、本条の規定の対象とはならないものとして、「自然法則 (laws of nature)、物
理的現象 (physical phenomena)及び抽象的な概念(abstract idea)」の 3 つのカテゴリ
ーを特定している。(Bilski v. Kappos 事件、 130 S.Ct. 3218, 3225 (2010 年)) 地裁の
Robert W. Sweet 判事はその意見書において、BRCA 遺伝子は自然界に存在するため、特許性が
ない自然法則の一部にあたり、このことにより無効であると申し立てられた Myriad 社のクレ
ームは、特許適格性がない主題を包含すると述べた。
連邦巡回控訴裁の判決
連邦巡回控訴裁は、控訴審において Sweet 判事の判断を取り消し、単離された DNA 配列は、第
101 条に基づく特許対象としての適格性を有するとの判決を下した。
地裁の判決を検討するにあたり、連邦巡回控訴裁はまず最高裁が過去の重要な判例(Diamond
v. Chakrabarty 事件, 447 U.S. 303 (1980)、及び Funk Brother Seed Co. v. Kalo
Inoculant Co 事件、 333 U.S. 127 (1948))により確立してきた特許可能な主題についての
法的枠組みを示した。これらの判決で最高裁は、「第 101 条における自然の産物と人間が作り
出した発明との違いは、クレームされた組成のアイデンティティが、自然界に存在するものと
比較して変更が加えられているかにある」と述べている。結果、連邦巡回控訴裁はこれらの過
去の判決に依拠し、Myriad 社のクレームは「自然に存在する分子とは、著しく異なる特性—す
なわち、際立った化学的同一性ならびに特性—を有する分子をその対象としており」、このこ
とにより第 101 条に基づく特許対象としての適格性を有すると考えられると論じた。
具体的に単離された DNA 配列については、連邦巡回控訴裁はその多数派意見において、これら
の分子は、天然の分子ならば持っている他の遺伝物質との化学的結合を失っていることを指摘
し、「本件においては、共有結合の存在が、1 つの化学種をその他の化学種と区別する」と述
べた。さらに、連邦巡回控訴裁の多数派意見においては、「PTO が、30 年近くにわたって DNA
分子に関する特許を発行してきた」ことが強調され、第 101 条の広範囲の適用性から DNA 発明
を排除するための法律の改正は、裁判所ではなく、米国議会の決定を経るべきであると述べた。
2
ただし、連邦巡回控訴裁は、単離された DNA 配列の特許性についての地裁の判断を取り消した
ものの、診断方法に関する Myriad 社のいくつかのクレームの特許性に関する地裁の判断は支
持するに至った。連邦巡回控訴裁は特に、配列の“比較”又は“分析”に関するクレームは、
抽象的かつ精神的な工程を記載しているに過ぎず、この結果、有名な Biliski 最高裁判決に基
づき、第 101 条に含まれるものではないと判断した。
今般の連邦巡回控訴裁の判決の結果、単離された DNA 配列は、特許対象としての適格性を今後
も有することになる。しかし連邦巡回控訴裁は、機械の使用又は対象の変換(machine or
transformative) の要件を満たさない診断方法クレームを無効とした地裁の判断を支持した。
この意見書のコピーは、 http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinionsorders/10-1406.pdf.で入手可能です。
連邦巡回控訴裁より差し戻された Lucent v. Microsoft 事件で、Lucent がまたもや全体市場
のルールを適切に適用していないと地裁が判断
長期にわたって争われている Lucent Technologies, Inc. v. Microsoft 訴訟において、今年
の 7 月、カリフォルニア南地区連邦地裁(Huff 判事)(事件 No. 07-CV-2000)は、
Microsoft が Lucent 社の専門家による補足報告書に対して行った証拠異議の申立て(motion
in limine)の一部を認め、一部を退けた。この意見は、Lucent Techs., Inc. v. Microsoft
Corp.事件、2011 WL 2728317 (2011 年 7 月 13 日)で閲覧することができるが、地裁は、同意
見において、Lucent 側の損害賠償額専門家の見解のうち、被疑ソフトウェア製品の全体市場
価値をその根拠とするものについては排除した。しかし地裁は、Lucent 社が被疑ソフトウェ
ア製品の 1 ユニット当たりの価格を意味のある形で配分すれば、この決定をトライアルにおい
て再検討する用意があることを述べた。
経緯
本事件は、Lucent 社が、 “Day 特許”を侵害しているとして Gateway 社を提訴したことに端
を発する。連邦巡回控訴裁は、Day 特許を、「基本的にはコンピューター・スクリーン上のフ
ィールドにキーボードを使用せずに情報を入力するための方法に関する特許」と説明している。
Microsoft はこの訴訟に自発的に参加、その後、カリフォルニア南地区連邦地裁で、陪審によ
る裁判が行われた。このトライアルにおいて Lucent 社は、Microsoft の 4 製品が、Day 特許を
間接的に侵害していると主張し、リーズナブル・ロイヤルティ(適正実施料)の損害賠償とし
て、「被疑製品であるソフトウェア[の売り上げ]に対する 8%のロイヤルティに基づく」5 億
6190 万ドルの支払いを要求した。これに対し Microsoft は、「650 万ドルの一時金の支払い」
が、Lucent 社への補償としては十分である主張したが、陪審は、3 億 5 千万ドル以上のロイヤ
ルティを一括で支払うことを Microsoft に命じる評決を下した。Microsoft はこれを不服とし
て、かかる評決が、全体市場価値ルールの不適切な適用に基づいており、実質的証拠
(“substantial evidence”) に支持されていないとして控訴。そして、2009 年 9 月 11 日、
連邦巡回控訴裁は Lucent Techs. v. Gateway, Inc., 580 F.3d 1301 における意見書で、損害
賠償額を 3 億 5 千万ドルとした裁定を取り消し、原評決が実質的証拠に支持されていないとし
て損害賠償額についてのみ新たなトライアルを行うよう事件を差し戻した。
3
損害賠償額の算定
地裁への差し戻しを受けて両当事者は、損害賠償額について、連邦巡回控訴裁の意見書を踏ま
えた新たな報告書を提出し、いずれの当事者も、2010 年 12 月 7 日にもう一方の当事者の損額
賠償額についての報告書に対して証拠異議の申立てを行った。そして、ちょうど地裁がこれら
の申立ての検討をしている最中に、Uniloc USA, Inc. v. Microsoft Corp 事件., 632 F.3d
1292 (2011 年連邦巡回控訴裁)における連邦巡回控訴裁の意見書が出された。
連邦巡回控訴裁は Uniloc 判決で、特許化された特徴が、消費者需要を喚起する根拠又は実質
的な根拠であるということを示さずに、単に十分に低いロイヤルティ・レートを主張するだけ
では、当該製品の全体市場価値を適用するには不十分であるとの判断を示した(参照:Uniloc,
632 F.3d at 1319–20)。また連邦巡回控訴裁は、「ランニング・ロイアルティの計算におい
ては、当該レートが証拠に基づいて決定された許容範囲内である限り、いつでも商業的実施例
全体の価値をかかる計算のベースとすることができる」(参照:Lucent Techs., Inc. v.
Gateway, Inc., 580 F.3d 1301, 1338–39 (2009 年連邦巡回控訴裁))との主張を却下した。
特許権者が、全体市場価値ルールの適用要件を充足できない場合、「いかなる場合においても、
特許権者は、被告の利益と特許権者の損害額を、特許化された特徴と特許化されていない特徴
それぞれに対して、区別又は配分しているとの証拠を示さなくてはならない」と述べた。
(Uniloc, 632 F.3d at 1318)すなわち、構成要素について損額賠償を求める特許権者は、全
体市場価値の適用要件を充足していない限り構成要素を包含する製品全体の全体市場価値をロ
イヤルティ・ベースとして使用することはできないということである。
Uniloc 事件の意見書を踏まえ、地裁は、各当事者がそれぞれの損害賠償額専門家による報告
書を改訂することを許可した。そして、両当事者が、Uniloc 判決を踏まえて修正した専門家
報告書を提出、その後の 2011 年 3 月 31 日に、いずれの当事者も、相手方当事者の報告書に対
して、再び証拠異議の申立てを行った。これを受けて地裁は、2011 年 6 月 16 日に、かかる申
立ての一部を認め、一部を却下する命令を発した。裁判所は、Lucent 社による損額賠償額の
算出について発した命令の中で、「要約すれば、裁判所の結論としては、Lucent 社は、
Microsoft Outlook の特許化された特徴と特許化されていない特徴を区別して損害賠償額を配
分するように計算を行っていないということである。従って、 Lucent 社は、その損害賠償額
の計算のための適切なロイヤルティ・ベースを算出するために、さらなる配分を行わなくては
ならない。もし、Lucent 社が、ベースとして Outlook のすべての侵害品からの全収益を使用
したいと考えるのならば、全体市場価値ルールの適用のための 3 つの要件を満たさなくてはな
らない」と述べた。そして、ルーセント社側の損害賠償額専門家は、2011 年 6 月 23 日に、損
額賠償額に関する補足報告書を提出した。Microsoft はこの報告書に対しても、Daubert 判決
及び全体市場価値ルールに違反しているとして、証拠異議の申立てを行った。
地裁は、「全体市場価値ルールにおいては、特許化された特徴が “消費者需要を喚起する根
拠である”又は “構成要素の価値を実質的に創出している” 場合(Uniloc, 632 F.3d at
1318)、あるいは “特許化された特徴が、構成要素の価値を実質的に創出するほどの決定的
な重要性を有している”(Rite-Hite Corp. v. Kelley Co., 56 F.3d 1538, 1549 (1995 年連
邦巡回控訴裁))場合にのみ、特許権者は、被疑製品の市場全体価値に基づいて損害賠償額を
計算することができる」というこを再確認した。Microsoft は、Lucent 社側の専門家による補
4
足報告書が、依然として適正な配分を行っていないと主張し、地裁はこの主張に同意した。
Lucent 社の損害賠償額についての補足報告書では、製品の全売上げに対してではなく、ユニ
ットごとの分析を行ったとされていたものの、地裁は、特許権者が、構成要素が消費者需要の
根拠又は実質的な根拠であったことを立証できない限り、「いかなる場合においても、特許権
者は、被告の利益と特許権者の損害額を、特許化された特徴と特許化されていない特徴それぞ
れに対して、区別又は配分しているとの証拠を示さなくてはならない」ことを強調した
(Uniloc, 632 F.3d at 1318)。
地裁は、Lucent 社によるユニットごとの分析が、依然として Outlook の製品 1 個当たりの価
格(67.39 ドル)のみに基づいており、消費者によって使用される Day 特許の技術以外の特許
化されていない特徴(Day 特許に記載された方法との併用を含む)を考慮した配分が行われて
いないと判示した。これに対して Lucent 社は、Outlook の全体市場価値を適用することは許
可されるべきであると主張し、その理由として、このことを考慮要素とすることは Microsoft
のライセンス慣行等に基づいていることを挙げた。しかしながら地裁は、これらのライセンス
が Georgia-Pacific 判決で示された適正実施料の算定のためのいくつかの考慮要素と関連性が
あったとしても、Lucent 社はいずれにしても、何らかの方法で、本事件の事実関係及び経済
的な現実を、特許化された特徴と特許化されていない特徴それぞれに対して、区別・配分しな
くてはならないとの判断を示した。最終的に地裁は、Lucent 社がかかる配分を行うことを怠
ったとして、Lucent 社側の専門家による損害賠償額に関する報告書の当該部分を削除するに
至った。
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