...

地域イノベーション研究会報告書

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

地域イノベーション研究会報告書
資料1
地域イノベーション研究会報告書(案)
(仮称)「地域発イノベーション加速プラン」
平成20年4月
地域イノベーション研究会
はじめに
昨年来の米国に於けるサブプライム問題を契機とする世界的な景気後退の波は我が国を
も襲い、今日、急激な円高、株安現象に反映され、景気の後退が懸念されている。この10年
間の我が国の経済成長率は低いとはいえ戦後最長を記録し、平均的には好景気であったと
いえるが、しかし、首都圏と地域、大手と中小企業間などにいわゆる 格差 を招き、上述した
世界景気の後退が更なる格差の拡大をもたらすのではないかと懸念されている。これを克服
していくには、地域ごとの経済実態を正確に認識し、そのポテンシャルを活用して活性化を図
る総合的政策の実施が不可欠である。
このような視点から、昨年11月に発表された「地域再生戦略」政策に地域イノベーションの
必要性が謳われ、総合科学技術会議において福田総理より、「科学技術による地域活性化
戦略を春までにつくるように」との指示があった。
このような流れにあって本年1月に、経済産業省の地域経済産業審議官の私的な研究会
として、「地域イノベーション研究会」が設置された。本研究会では、地域イノベーションを実
現・展開して新事業・新産業を創出し、結果として地域の自立的経済発展を促し、グローバル
経済下における国際競争力を強化できるような 仕組みづくり の支援施策を検討することと
した。具体には、地域に於ける産学官連携共同研究開発、事業化支援、人材、大学の機能、
イノベーション・インフラ、法制度改革等について検討してきた。
経済のグローバル化、人口減少・少子高齢化、財政的制約といった厳しい構造的な環境
変化の下で、如何に地域ポテンシャルを引き出し、地域発イノベーションを加速するかという
観点から、中央政府のみならず、自治体、大学等研究教育機関、公設試、産業支援財団、
商工会議所、産業界、金融など、地域の産学官の関係者が協働し、それぞれが担うべき役
割・機能についても検討した。
今日、クラスター政策が、地域活性化の手段として世界の潮流となる中、改めて、地域クラ
スター施策を 地域発イノベーション創出の中核 として位置づけ、大学等の基盤を最大限活
用した イノベーション創出拠点 として形成し、研究開発資源の相互活用や広域的な利用開
放、イノベーションを担う産業支援人材の「質」の向上、「スーパー・テクノイノベーション特区
(仮称)」を初めとするイノベーションを加速する制度改革などについて詳述した。
本研究会の検討結果が、政府や自治体等における施策立案・実施に活用され、より実効
性のある具体に昇華されることを期待している。
末筆ながら、積極的に参加・審議いただいた委員各位ならびに事務局に対して深甚の謝
意を表する次第である。
地域イノベーション研究会
2
座長
古川 勇二
目
次
5
1.地域の現状
5
(1)地域を取り巻く現状認識
① グローバル化、人口減少・少子高齢化、財政的制約の中での地域経済
② 地域発イノベーション創出による地域経済活性化
6
(2)地域に存在するイノベーションのリソース
① 多様な地域資源
② 多数の研究人材と研究機関
③ 地域に拠点を置くグローバルトップ企業
7
(3)地域イノベーション関連施策の現状
① 国、地方における科学技術関連予算の状況
② 産業クラスター計画と地域イノベーション創出
③ 産学連携(TLO等)
2.地域発イノベーション創出の課題
20
(1)産学官連携ネットワーク一層の充実が必要
21
(2)既存組織・行政区域の垣根
22
(3)イノベーション・インフラの劣化・不足
25
(4)イノベーションを担う産業支援人材の不足
28
(5)研究開発成果の評価機能の不足
29
(6)科学技術や社会の変革に対する制度的取り組みの遅れ
30
3.先進的事例から学ぶ地域イノベーション施策のヒント
(1)産業クラスター計画で構築されつつある事業化支援の仕組み
31
31
① 大手企業と中小・ベンチャー企業との常設の商談支援の仕組み
② クラスター間連携によるバイオベンチャーの経営支援、ビジネス展開支援
③ 海外展開事例『成長著しい中国に対する環境ビジネスの促進』
④ 都市エリア(文科省)の研究成果を産業クラスター計画(経産省)で事業化
⑤ 地域企業等の協働による新受注体制の構築∼世界最速試作センター∼
⑥ 試験研究・生産設備の相互利用の促進∼バーチャルラボラトリーシステム∼
(2)大学を中核とした地域イノベーション拠点の形成
① 地域のビジョンの共有とコミットメントによる地域イノベーション拠点の形成
3
37
② 地域の産学官によるグランドデザインと一体的推進
③ 大学を中心とした関係研究機関の集積による相乗効果
④ 大学のサテライト研究センター等を核とした地域産業活性化
⑤ 自治体主導による構想・計画
(3)コーディネータ人材による産学連携コーディネート、起業家支援、事業化支援
43
① 大学・TLO等における産学連携体制の強化
② 市行政の産業振興策と民間出身の常駐コーディネータによる企業支援
③ ビジネス・インキュベータによる入居から卒業までの一貫支援
46
(4)公設試の先進的取り組み
① 愛媛県紙産業研究センター、高知県立紙産業技術センター
② 岐阜県生活技術研究所
③ 独法化による柔軟な経営の実現と企業ニーズに合致したサービスの充実
4.地域発イノベーション創出に向けた政策の基本的考え
50
○ 「連携」、「オープン」、「集中」をキーワードとする地域発イノベーション
創出の加速 ∼ 「(仮称)地域発イノベーション加速プラン」の推進 ∼
(1)地域クラスター施策の更なる推進と成長
51
(2)大学等のポテンシャル(知財含む)を活かした地域活性化の推進
53
(3)地域の研究開発資源のオープン化の推進
57
(4)地域イノベーションを担う産業支援人材の発掘・育成・交流
59
(5)実効ある「選択と集中」、「競争と協創」を実現する制度改革等
61
(参考) 諸外国における取り組み
65
「地域イノベーション研究会」委員等名簿
73
4
1.地域の現状
(1)地域を取り巻く現状認識
① グローバル化、人口減少・少子高齢化、財政的制約の中での地域経済
グローバル化の波は、国内のあらゆる地域に容赦なく押し寄せている。中国、イ
ンド等新興諸国の経済成長は著しく、韓国、台湾をはじめアジア諸国の追い上げは
激しい。自動車、エレクトロニクス関連産業をはじめとして、国内各地域に展開する
我が国製造業も海外との厳しい国際競争の状態にあり、生産・開発機能の国際的
な最適配置等グローバルな戦略が不可欠になっている。各地域が国境を越えて直
接世界各地域と向き合い、競い合う時代となっている。
また、地域においては、国際的に競争力を有し、輸出関連産業が多く立地する
地域と一次産業比率が高い地域では景況感に差が見られる。公共事業の縮減、
地方財政の逼迫が進んだこともあって、地方圏における経済基盤が揺らいでいる。
すでに、我が国においては人口減少社会に突入しており、団塊世代の大量の退職
と少子化により、労働人口の減少が見込まれ、現状のままでは、人口減少の大き
い地域経済は多大な影響を受けざるを得ない。石油危機、バブル経済崩壊といっ
た苦難を乗り越えてきた我が国の経済社会にとっても初めての経験となる。こうした
中、地方から都市へと移動し、戦後の高度経済成長を支え、新しい文化とトレンドも
生みだした団塊世代が、今後地域にいかなる関わりを持つことになるのか、地域の
再活性化の観点からその動向が注目される。
② 地域発イノベーション創出による地域経済活性化
地域ごとの産業構造の相異等の構造的な要因を背景として、地域間格差の問
題が生じており、地域経済の再生・活性化は、喫緊の課題となっている。地域の強
み・特徴を活かしつつ、地域の持てる潜在力を最大限引き出し活用することが、地
域経済活性化の最重要課題である。地域発イノベーションによる新事業・新産業の
創出は、地域に新たな雇用と所得を生み、地域の自律的・内発的経済発展の基盤
をつくりだすものであり、また、我が国の技術開発政策推進の一翼を担うものであり、
国をあげた取り組みが求められる。
地域には、大学、高専、公設試といった研究教育機関、商工会議所、商工会、
産業支援財団などの経済団体、産業支援を担う機関、地銀、信金、VCなどの金融
機関、商社や大手企業、国の出先機関や自治体などの行政機関など地域産業を
支援する様々な機関が存在する。これらの地域に存在する産学官の持つ資源を活
5
かすクラスター政策が世界的な潮流となる中、我が国においても、産業クラスター
計画をはじめとする地域の産学官の連携の推進により各地において地域イノベー
ションを活発化させ、地域経済の再生・活性化、更には我が国の経済・産業の活性
化を図ることが極めて重要となっている。
(2)地域に存在するイノベーションのリソース
① 多様な地域資源
地域には極めて多様なイノベーションの素材が存在する。特に、各地域には、そ
の地理的、気候的特性故の多様な一次産品資源やものづくりを支える産業や技術
の集積等があり、これまでも、こうした地域資源を活用し様々な研究開発と事業化
が行われ、大きな成果を上げている。こうした各地域に存在する地域資源(人材、歴
史と共に培われてきた技術、文化、自然環境等を含む)は、地域の有力な競争力の
源泉であり、イノベーションに欠かせない貴重なリソースである。
② 多数の研究人材と研究機関
現在、我が国には、大学等の研究機関が約1,600機関あり、その主要な研究
者数も約14万3千人に上る。その内訳をみると、機関では約8割、研究者で約7割
が首都圏の1都3県以外に存在するなど、ほぼ全国各地に分布している。
本研究会事務局が実施した調査 1 によれば、新事業創出・既存技術の高度化で
活用したい機関は、公的な産業支援機関や公設試に比べ、大学への期待がもっと
も大きく、その内容は、大学の研究者が有する知見、経験等を通じた技術的サポー
ト、大学における試験・検査・評価機能、大学が保有している試験器機や研究施設
の利活用、優秀な人材の輩出などである。
③ 地域に拠点を置くグローバルトップ企業
各地域には、高い技術力を持ってグローバル市場で高いシェアを確保する数多く
のグローバルトップ企業が存在する。例えば、「元気なモノ作り中小企業300社」
(2006年)のうち約半数は、海外または国内で特定製品についてトップシェア級で
あり、その本社の所在地は、全国各地に分散している(首都圏の1都3県を除く企
業が78%)。こうした企業は、絶えざる技術革新を行いつつ、高い付加価値と良質
1
地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査(実施:2008年2月、対象:
産業クラスター計画参画企業3,000社))。
6
な雇用機会を創出しており、地域経済の牽引力となっている。地域には、イノベー
ションの担い手となる有力な中小企業が多数存在している。
このような各地のイノベーションのリソースは、地域経済を支える屋台骨であると
同時に、我が国の産業競争力の根幹を支える重要なプレイヤーと言える。地域発
イノベーションの創出を議論する上では、省庁や自治体等の関係機関がこれまで
のような組織毎のアプローチに必ずしも縛られずに、こうした豊富なリソースの潜在
的な能力を最大限に引き出していくための実効ある手法を検討し、地域資源の最
大燃費効率を追求していく必要がある。
図表1−1 地域の大きな潜在力
○地域には多様な地域資源(一次産品から産業技術集積)、多様の研究人材と研究機関、地域に
○地域には多様な地域資源(一次産品から産業技術集積)、多様の研究人材と研究機関、地域に
拠点を置くグローバルトップ企業が存在。
拠点を置くグローバルトップ企業が存在。
大学・公設試
(約1,600機関)
事業所
(約573万箇所)
九州・
神奈
沖縄
東京 川・埼
四国
玉・千
12%
葉
中国
茨城・
栃木・
近畿
群馬
九州・沖縄
東京
四国
12%
茨城・栃木・
群馬
九州・沖縄 東京
9%
中国
神奈川・埼玉・
千葉
茨城・栃木・
群馬
東海
東北
北海道
大学発ベンチャー
(約1,600社)
神奈川・埼玉・
千葉
茨城・栃木・
群馬
東北
東海
中国
北陸・甲信越
北海道
近畿
東京
24%
東海 北陸・甲信越
(600社)
四国
九州・沖縄
四国
近畿
北海道
東北
近畿
東海
神奈川・埼玉・
千葉
中国
東北 北海道
北陸・
甲信越 元気なモノ作り中小企業
大学・公設試主要研究者
(約14万3,000人)
北陸・甲信越
九州・
沖縄
四国
中国
東京
神奈
川・埼
玉・千
葉
近畿
茨城・
栃木・
東海
東北 群馬
北陸・
北海道
甲信越
25%
出典:元気なモノ作り中小企業300社2006年版・2007年版(経済産業省)等
(3)地域イノベーション関連施策の現状
以上のように、地域には特色ある大学・公設試を中心とする研究設備や人材、国
内外の市場で活躍する競争力ある企業が数多く存在する。こうした地域の資源を活
用して、地域からの自律的・内発的なイノベーションが生まれ、地域経済を牽引する
事業・産業の育成が求められている。
次に、こうした観点を念頭に置き現在の施策をレビューしてみる。
7
① 国、地方における科学技術関連予算の状況
平成20年度の政府の科学技術関連予算の総額は3兆5,708億円(人文科学を
含む)となっており、平成19年度の総額3兆5,113億円から増額となっている。この
うち、地域イノベーションに係る各府省の予算は751.9億円であり、総額から大学等
の基盤的経費・基礎研究費を除いた2兆988億円の約3.6%に留まる。
また、地方自治体の科学技術関連予算は近年減少傾向にあり、平成12年度から
平成17年度にかけて約4,900億円から約4,300億円と、14%の減少となってい
る。このうち、地域の中小企業の技術支援において重要な役割を果たす公設試験研
究機関の予算は、同期間において約2,200億円から約1,800億円と、減少率は1
7%を超える。鉱工業系の試験研究機関についてみると、平成10年度から平成15
年度にかけて、予算総額は18%超の減少(586億円→479億円)、設備費に関して
は50%超の減少(92億円→41億円)となっている。
図表1−2 国の地域科学技術振興予算
所管府省
制度名
沖縄イノベーション創出事業
沖縄科学技術大学院大学
戦略的情報通信研究開発推進制度
総務省
最先端の研究開発テストベットネットワー
クの構築
知的クラスター創成事業(第Ⅰ期)
知的クラスター創成事業(第Ⅱ期)
文部科学省 都市エリア産学官連携促進事業
地域イノベーション創出総合支援事業
地域結集型共同研究事業
(独)医薬基盤研究所
厚生労働省
※クラスター関連予算はこの一部
先端技術を活用した農林水産研究高度化
事業
農林水産省
新たな農林水産政策を推進する実用技術
開発事業
地域新生コンソーシアム研究開発事業
地域新規産業創造技術開発費補助事業
広域的新事業支援ネットワーク等補助金
広域的新事業支援連携等推進委託費
地域イノベーション協創プログラム
経済産業省
創造的産学連携体制整備事業
地域イノベーション創出共同体形成事業
地域イノベーション創出研究開発事業
大学発事業創出実用化研究開発事業
地域資源活用型研究開発事業
内閣府
20年度科学技術関連予算内訳
総額:3兆5,708億円
うち地域イノベーション関連
751.9億円(3.58%)
大学等基盤的経費、
基礎研究
1兆4,720億円
政策課題対応型
研究開発
1兆7,465億円
システム改革等
(大学運営費交付金、科研費等)
(重点推進等8分野)
(このほか、
人材育成、知財等)
3,523億円
国土交通省 建設技術研究開発助成制度
環境省
平成20年度予算政府案額
270 百万円
10,744 百万円
2,573 百万円
4,006 百万円
1,566
7,530
4,600
11,025
1,300
11,283 百万円
0 百万円
5,200 百万円
0
0
1,139
62
10,804
464
1,116
7,474
1,750
1,706
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
500 百万円
環境技術開発等推進費
地域の産学官連携による環境技術開発
基盤整備モデル事業
合計
836 百万円
44 百万円
75,188 百万円
出典:第73回総合科学技術会議、総合科学技術会議基本施策推進専門調査会第1回地域科学技術施策WG資料
8
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
図表1−3 都道府県等の科学技術関連予算の推移
● 自治体の商工予算、科学技術関連予算は、減少傾向。
● 鉱工業系公設試においては、予算、設備費ともに著しく減少。
都道府県等の科学技術関連予算の推移
鉱工業系公設試の予算総額及び設備費の推移
(百万円)
(億円)
6000
70000
4.9千億円
4.3千億円
5000
(▲14.0%)
4000
(▲18.3%)
40000
設備費
予算総額
科学技術
予算合計
30000
2000
公設試験
研究機関
20000
92億円
10000
1.8千億円
0
(▲17.3%)
41億円
(▲55.3%)
10
年
度
11
年
度
12
年
度
13
年
度
14
年
度
15
年
度
12
年
度
13
年
度
14
年
度
15
年
度
16
年
度
17
年
度
0
2.2千億円
479億円
50000
3000
1000
586億円
60000
(出典:平成18年度都道府県等における科学技術
に関連する予算調査(文部科学省))
(出典:公設試経営の基本戦略(経済産業省中小企業庁、
平成17年))
② 産業クラスター計画と地域イノベーション創出
○ 産学官のネットワーク形成
平成13年度から推進している産業クラスター計画では、我が国産業の国際競争
力の強化及び地域経済の活性化を図るため、地域の特性を活かした地域の中堅
中小企業・ベンチャー企業、大学等の研究機関、各種産業支援機関等が参加する
産学官の広域的なネットワーク形成に取り組んでいる。これによりイノベーションの
「苗床」が整備され、参加者の知的資源、経営資源等の相互活用により新産業・新
事業が数多く創出されつつある。
産業クラスター計画は第Ⅰ期から第Ⅲ期までのフェイズに分けて実施している。
第Ⅰ期(平成13年度∼17年度)は立上げ期として位置づけられ、19のプロジェ
クトで産業クラスターの基礎となる「顔の見えるネットワーク」が形成された。このネッ
トワークをベースに、ビジネスマッチングや産学官連携による研究開発プロジェクト
が活発に展開された。例えば、この間開催されたビジネス交流会等は2,123件、
延べ参加人数188,919人、セミナー等は2,238件、延べ参加人数251,608
人、ビジネスマッチング会は745件、参加人数249,057人、ビジネスマッチング会
の個別面談等の件数は18,314件、マッチング成立件数は1,874件に達してい
9
る。これらの活動の結果約5万件の新事業が創出され、828件の創業(第二創業
を含む)がなされた。また、大学発ベンチャー1,503社の内、約3割の425社が産
業クラスターに参画し、その内11社が株式上場を果たした(平成17年度までの累
計)。なお、この間の産業クラスター参画企業に対するアンケート結果では、「行政
の支援施策等の情報収集や産学官のネットワーク形成の面では成果を上げている
が、販路開拓・人材確保・資金調達等については期待度が高いものの、まだ十分な
メリットを享受できるまでには至っていない」との指摘がなされている。
第Ⅱ期(平成18年度∼平成22年度)は成長期として位置づけられ、平成19年
10月には、九州地域のバイオ関連分野の高いポテンシャルを活かし、「九州地域
バイオクラスター」が新たに誕生するなど、IT、バイオ、環境、ものづくりの各分野に
おいて産業クラスターの形成を目指し、18のプロジェクトが展開されている。現在
約10,700社の中堅・中小企業、ベンチャー企業と、約290の大学、約230の金
融機関、96の公設試験研究機関、約400の産業支援機関などの産業クラスター
のサポーター約2,450の参加を得、産学官連携に係る人的ネットワークが拡大し
ている。第Ⅰ期の形成期の基盤の上に、大手企業と中小・ベンチャー企業との常設
のビジネスマッチングシステムの構築、クラスター間連携等ネットワークの広域化、
事業化支援機能の強化など新たな取り組みがされている。例えば、関西フロントラ
ンナープロジェクトの「情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)」(関西の大手16社と
中小・ベンチャー企業との常設の商談支援の仕組み)が新たに誕生し、北海道バイ
オ産業クラスターと近畿バイオクラスターのビジネスマッチングなどのクラスター間
連携が進みつつある。海外のクラスターとの交流も活発化している。韓国、台湾、イ
ンドネシア、タイ、ベトナム等のアジア諸国、フランス、イタリア、ドイツ等のEU諸国
が、我が国の産業クラスターの活動に関心を示しており、諸外国政府と経済産業省
にて意見交換が行われ、また、プロジェクトベースでも、イタリア、フランス等海外の
クラスターと連携が進められている。
産業クラスター計画は、こうした活動を通じ新事業、新産業の創造を目指すもの
であり、いわば地域イノベーション創出の中核的施策と位置づけられる。今後とも
広報活動を工夫し、参加メンバーを増やしていくとともに、その施策と成果について
検証を行いつつ、引き続き強力に推進することが求められる。
10
図表1−4 産業クラスター計画(第Ⅱ期)18プロジェクト
• 全国で世界市場を目指す中堅・中小企業10,700
社、連携する大学(高専を含む)約290大学が、
広域的な人的ネットワークを形成
• 公設試、産業支援機関、金融関係機関、商社等、
約2,450の機関・企業が産業クラスターを支援
◇北海道地域産業クラスター計画
(IT、バイオ)
◇OKINAWA型産業振興プロジェクト
(IT、健康、環境、加工交易)
◇TOHOKUものづくりコリドー
(モノ作り、医工連携、環境、IT)
◇次世代中核産業形成プロジェクト
(モノ作り、バイオ、IT)
◇循環・環境型社会形成プロジェクト
◇地域産業活性化プロジェクト
(首都圏西部(TAMA)、中央自動車道沿線、
東葛川口つくば、三遠南信、首都圏北部、京浜)
◇首都圏バイオ・ゲノムベンチャーネットワーク
◇首都圏情報ベンチャーフォーラム
◇九州地域環境・リサイクル産業
交流プラザ
◇九州シリコン・クラスター計画
◇九州地域バイオクラスター計画
◇東海ものづくり創生プロジェクト
◇東海バイオものづくり創生プロジェクト
◇北陸ものづくり創生プロジェクト
◇関西バイオクラスタープロジェクト
◇関西フロントランナープロジェクト
(モノ作り、エネルギー)
◇環境ビジネスKANSAIプロジェクト
◇四国テクノブリッジ計画
(モノ作り、健康・バイオ)
図表1−5 産業クラスター計画のネットワーク形成の状況
約2,450の機関・企業が産業クラスターを支援
450の機関・企業が産業クラスターを支援
販路開拓支援
商社 98
研究開発支援
大企業 692
金融支援
支援
大学 290
金融機関 153
支援
研究機関 54
公設試 96
支援
産業クラスター参画企業
10,700社
VC 59
証券会社 15
医療機関 14
支援
産業支援
専門家 91
自治体 233
産業支援機関 404
商工会議所 114
商工会
54
BI施設 79
11
図表1−6 産業クラスター計画のこれまでの成果
○ 地域を対象とした研究開発事業
産業クラスター計画推進の上で大きな手段となっているものが、地域を対象とし
た、国の研究開発事業であり、今まで、地域新生コンソーシアム研究開発事業を実
施してきた。この事業は、民間企業や大学、公設試等からなる共同研究体(地域新
生コンソーシアム)による、地域における新産業・新事業創出に向けた実用化研究
開発を実施するものである。平成9年度から平成18年度の実績累計で、1,065
件のプロジェクトを採択・実施しており、そのうち、約73%は共同研究体参画メンバ
ーが複数の都道府県にまたがった広域的な連携によるものとなっている。参加大
学はのべ約1,500校、参加企業はのべ約3,200社(うち中小企業は約74%)に
のぼる。研究開発事業に投入した予算は約930億円、平成18年度までに終了し
たプロジェクトの実用化率は43.1%、事業化率は22.8%である。
また、平成19年度に地域資源活用型研究開発事業を創設し、地場の一次産品
や、地域固有の技術等である地域資源を活用した実用化研究開発を実施してい
る。
平成20年度からは、地域新生コンソーシアム研究開発事業に代わって、地域イ
12
ノベーション協創プログラムの一貫として、地域イノベーション創出研究開発事業を
開始することとしている。本研究開発事業は、地域新生コンソーシアム研究開発事
業と同様のスキームで、民間企業や大学、公設試等からなる研究体による研究開
発を支援するものであるが、農商工連携枠の創設や研究開発事業の規模に柔軟
性を持たせるなどの制度改善を行い、事業化率の向上を目指し、地域発のイノベ
ーション創出を強力に支援しようとするものである。
図表1−7 地域新生コンソーシアム研究開発事業
(1) 地域コンソの現状(平成9年度∼平成18年度の実績集計)
● 累計で1,065件のプロジェクトを採択・実施している。
● 実施プロジェクトのうち約73%が複数の都道府県にまたがる広域的な連携によるもの
● 参加大学はのべ約1,500、参加企業はのべ約3,200社(うち中小企業は約74%)に達する。
● 投入した予算は約930億円(決算ベース)。
● 18年度までに終了したプロジェクトの実用化率は43.1%、事業化率は22.8%。
(15年度までに終了したプロジェクトについてはそれぞれ50.6%、31.3%)
(2) 地域コンソをめぐる主な課題
● 他の研究開発支援施策(競争的資金等)との連携強化方策。
● 研究開発終了後の事業化に向けたフォローアップ体制のあり方。
図表1:研究実施体制の地域的な広がり
図表2:実用化・事業化件数の年度別推移
件数
1000
過去の採択案件1,065件のうち73%が複数の都道府県にまたがる研究実施体制を採っている。(全
体のうち45%が地方局の管轄を超えた広域的な連携)
実用化件数
800
27%
478 件
900
終了件数
900
研究開発終了後3年を経過したプロジェクト (平成10
年度∼15年度に終了したプロジェクト) について
事業化件数
・51%が実用化を達成
・31%が事業化を達成
700
289 件
600
45%
563
500
388
400
28%
285
300
231
205
13
117
24
12
H1
8
35
16
1
(H
10
∼
H1
8)
44
41
合
計
77
60
24 19
H
17
43
H
15
27 17
(H
10
∼
H1
5)
49
132
88
合
計
複数都道府県にまたがるPJ
(複数局管轄)
38
1
H
14
複数都道府県にまたがるPJ
(単一局管轄内)
1
H
12
単一都道府県で完結するPJ
58
1
H
10
0
H
13
100
H
11
298 件
176
146
98
93
H
16
200
研究開発
終了年度
図表1−8 地域イノベーション協創プログラム
目 的
地域における景気回復のばらつきを解消し、裾野の広い持続的な経済成長を可能とするため、企業と大学等との産学官の共同研究開
発を促進することによって地域発のイノベーションを次々と創出し、地域経済の活性化を図る。
ポイント
○各研究機関が有する設備機器や人材等の相互活用や企業等への利用開放の促進。
○企業が抱える技術課題の相談や適切な研究機関への紹介等のワンストップサービスの提供。
○大学の潜在力を最大限に引き出すための、大学やTLOにおける産学連携体制の強化。
○産学官の共同研究の支援による新産業・新事業の創出。 等
事業内容
①イノベーション創出基盤形成事業
②イノベーション創出研究開発事業
○地域イノベーション創出研究開発事業(経済産業局)
○大学発事業創出実用化研究開発事業(NEDO)
○地域イノベーション創出共同体形成事業
研究機関の相互連携、企業への技術支援等
地域の大学等の研究機関及び企業等による産学官の共同研究を提案公募
方式に
より支援。
○創造的産学連携体制整備事業
TLO等への専門人材の配置等による産学連携体制の強化。
地域の企業等
○設備機器の利用開放
○技術相談等のワンストップサービス
○大学やTLOにおける産学連携体制の強化
○産学官の共同研究
NEDO
NEDO
TLO
TLO
経済産業局
or
NEDO
関係機関
関係機関
産総研
産総研
研究機関等による
強固な共同体の構築
大学
大学
共同研究体
公 募
公設試
公設試
研究機関
民間企業
支 援
公益法人等
イノベーション創出基盤の整備
(試験設備機器・人材等の相互利用等の協働)
①イノベーション創出基盤形成事業
②イノベーション創出研究開発事業
新事業・
新産業の
新事業・
新産業の
創出
創出
産業クラスター計画
研究機関の体制整
研究機関の体制整
備・連携強化
備・連携強化
商談会等の
商談会等の
マッチング機会の提供
マッチング機会の提供
産学官のリスクの高い
産学官のリスクの高い
共同研究開発の支援
共同研究開発の支援
企業の技術課題の解決、
企業の技術課題の解決、
共同研究の促進
共同研究の促進
インキュベーショ
インキュベーショ
ン施設の整備
ン施設の整備
2:実用化・事業化
に向けた研究開発
1:研究機関等の体制整備
3:事業化・販路開拓支援等
4:地域経済の活性化
図表1−9 地域資源活用研究開発事業
地域での新事業創出のため、地域資源を活用した新商品開発等を目指した、企業と大学等との連
携による実用化研究開発を実施する。
○スキーム
経済産業
省
提
案
経済産業
局
委
託
企業、大学、
公設試、高専等
の共同研究体
○事業期間及び委託金額 : 2年以内(初年度目:3000万円以内、2年度目:2000万円以内)
○対象経費等 : 人件費、設備費、材料費、調査費等を経済産業局から委託
研究開発の例
【テーマ名】業界初の食洗機に対応した高級色絵磁器の開発
産
研究開発内容
【地域資源】京焼・清水焼の原料・釉薬配合、
焼成に関する技術・技法
京焼・清水焼の「原料・釉薬の配合及び
焼成に係る技術・技法」という地域の強
みに粉末射出成形技術と釉薬の無鉛化
技術を融合させ、食洗機に対応した繊細
で色鮮やかな高級色絵磁器の研究開発
を行い、製品化・事業化をはかる。
成果目標
・共和碍子株式会社
・三幸製陶有限会社
・株式会社たち吉
・財団法人京都高度
技術研究所
食洗機に対応した繊細で色鮮やかな高
級色絵磁器の製品化・事業化
地域において産学官連携に
よる共同研究を実施
学
官
・国立大学法人京都工
芸繊維大学大学院
14
・京都市産業技術研究所
工業技術センター
製品イメージ
○ ビジネス・インキュベーション施策
経済産業省が設置を支援したインキュベーション施設は、全国に176施設(平成
19年3月時点)あり、これらのインキュベーション施設においては、平成16年度か
ら平成18年度における卒業企業(事業拡大のために施設を退去する企業)の累計
は673件に上っている。入居中に構築した地元企業等とのネットワークを活用し、
地域内で事業を継続する卒業企業も多く、地域産業の活性化に貢献している。
このうち、(独)中小企業基盤整備機構は、主に、各地大学の構内・近隣地、各
地の産業集積計画の拠点に、29のインキュベーション施設を整備(さらに4施設を
整備中)(平成20年1月末)している。平成16年度以降に開設された施設が、29
施設のうち、24施設であるところ、その卒業企業数の実績を評価するのは時期尚
早と考えられるが、産学等共同研究数、特許取得件数では高い値となっており、入
居企業の今後の発展が期待される。
図表1−10 中小機構のインキュベーション施設(33施設)(平成20年3月現在)
京大桂(北館・南館)
CC京都御車
立命館
神戸健康
北海道大
同志社
神戸医療
彩都1、2
東北大
CC東大阪(北館・南館)
福岡LSI
CC福岡
いしかわ
岡山大
本庄早稲田
和光
CC名古屋
ながさき
東大柏
東京農工大
MINATO
千葉大
船橋
熊本大
名古屋医工 浜松 慶応藤沢 東工大
CCかずさ、かずさバイオ
※ 赤字の4施設は、現在整備中
成功しているインキュベーション事業(オンキャンパスに限定しない)の特徴を見
ると、優秀なインキュベーションマネージャーの存在、大学との強固な連携関係の
15
構築、大学を中心として関連施設の集積が見られるという「ロケーション」、大学を
初めとする「産学官のネットワーク形成支援」の充実等があげられる。
なお、(財)日本立地センターが経済産業省の補助事業として行った「ビジネス・
インキュベータ基礎調査」(平成19年3月経済産業省地域経済産業グループ、平
成18年10月に調査実施)では、アンケート調査で回答のあった323施設のうち、
起業家育成に必須であるインキュベーションマネージャーによる支援を提供してい
る等の取り組みを実施していると回答した施設は190施設であった。残りの133施
設はインキュベーションマネージャー等の支援担当者が配置されていないなどソフ
ト支援機能が未だ立ち後れている。また、定義を満たす190施設についても、イン
キュベーションマネージャーの身分が不安定であり、雇用期間が短かったり、権限
が不明確だったりすることにより、継続的・効果的な企業支援が困難、ビジネス・イ
ンキュベータ相互や他の支援機関との連携が不十分等の課題が指摘されている。
図表1−11 成功しているインキュベーション事業の例
(特徴)「ロケーション」や「ネットワーク形成支援」が充実している。
インキュベーション
施設
ロケーション
ネットワーク形成支援
東大柏ベンチャー
プラザ
・東京大学(柏キャンパス内)に隣接
・隣接して、東葛テクノプラザが立地
・周辺には、東京大学、千葉大学、国立がんセン
ター等が立地し、産学官連携に適したロケーショ
ン
・東京大学をはじめ、地域の大学(千葉大学、東
京理科大学)等との産学官連携を推進
・入居企業に加え、地域企業の支援やBIネット
ワーク形成活動等を展開
【関連する産業クラスター計画】
・東葛川口つくば(TX沿線)ネットワーク支援活動
・首都圏バイト・ゲノムベンチャーネットワーク
京大桂ベンチャー
プラザ(北館、南
館)
・京都大学(桂キャンパス内)に隣接
・桂イノベーションパーク(KIP内)に立地
・施設内に、「開放型実験室」(京大サテライトラ
ボ)、「京都市イノベーションセンター」(京都市が
設置)を併設
・KIP内には、JSTイノベーションプラザ京都等も
立地し、産学官連携に適したロケーション
・京大をはじめ、地域の大学と地域企業等との
ネットワーク形成、産学官連携を推進する「桂CO
T事業」を実施
【関連する産業クラスター計画】
・関西バイオクラスタープロジェクト
慶応藤沢イノベー
ションビレッジ
・慶応義塾大学(湘南藤沢キャンパス内)に立地
・慶応義塾大学をはじめとした、地域の大学等と
の産学官連携を推進
【関連する産業クラスター計画】
・首都圏情報ベンチャーフォーラム
上田市産学官連携
・信州大学(上田キャンパス内)に立地
支援施設
・信州大学をはじめ、地域の教育機関(長野高
専、長野県工科短大)との産学官・産産連携を推
進
・製造中小企業187社とのネットワーク
【関連する産業クラスター計画】
・中央自動車同沿線ネットワーク支援活動
・センターは花巻第一工業団地内に立地
・岩手ネットワークシステム(INS)への参画を通じ
花巻市起業化支援
・センター内に岩手大学複合デバイス技術研究セ
た大学・公設試等との幅広いネットワークの構築
センター
ンターを立地
【関連する産業クラスター計画】
花巻市ビジネスイ
・センターと駅前に立地するビジネスインキュベー
・TOHOKUものづくりコリドー
ンキュベータ
タが連携
16
③ 産学連携(TLO等)
我が国においては、産学連携を推進するため、平成10年に「大学等における技術
に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」が制定された。以来、
大学等の研究成果の特許性・市場性の評価、特許化、情報提供やマーケティング等
により企業への技術移転を担うTLOが全国に設置され(48承認TLO)、技術移転が
進められてきた。また、平成13年からは、産業クラスター計画や知的クラスター創成
事業が企画・実施され、地域における産学連携の枠組みや関係者のネットワークも形
成されてきた。さらに、平成16年の国立大学の法人化に伴い、研究成果の社会還元
等の社会貢献が教育・研究と並ぶ大学の重要な役割の一つとして位置付けられ、産
学連携の取り組みが進められつつある。
図表1−12 承認TLO(48機関)の分布(平成20年4月現在)
信州TLO(信州大)
承認TLO(48機関)の分布
承認TLO(48機関)の分布
新潟ティーエルオー(新潟大)
北海道ティー・エル・オー(北大)
金沢大学ティ・エル・オー(金沢大)
☆東北テクノアーチ(東北大)
☆東京大学TLO(東大)
☆日本大学産官学連携知財センター(日大)
筑波リエゾン研究所(筑波大)
早稲田大学産学官研究推進センター(早大)
慶應義塾大学知的資産センター(慶大)
東京電機大学産官学交流センター(電機大)
タマティーエルオー(創価大、都立大)
明治大学知的資産センター(明大)
よこはまティーエルオー(横国大、横市大)
生産技術研究奨励会(東大)
農工大ティー・エル・オー(農工大)
キャンパスクリエイト(電通大)
日本医科大学知的財産・ベンチャー育成(TLO)センター
(日医大、日獣医大)
東京理科大学科学技術交流センター(理科大)
オムニ研究所(長岡技大)
千葉大学産学連携・知的財産機構(千葉大)
☆東京工業大学産学連携推進本部(東工大)
群馬大学研究・知的財産戦略本部(群馬大)
東海大学産官学連携センター(東海大)
技術移転センター(東京医科歯科大)
産学官連携研究推進機構(山梨大)
富山大学知的財産本部(富山大)
☆関西ティー・エル・オー(京大、立命館大)
新産業創造研究機構(神大)
大阪産業振興機構(阪大)
岡山県産業振興財団(岡山大)
奈良先端科学技術大学院大学産官学連携推進本部
(奈良先端大)
神戸大学支援合同会社(神戸大)
ひろしま産業振興機構(広島大)
☆山口ティー・エル・オー(山口大)
産学連携機構九州(九大)
北九州産業学術推進機構(九工大)
佐賀大学TLO(佐賀大)
長崎TLO(長崎大)
くまもとテクノ産業財団(熊本大)
浜松科学技術研究振興会(静岡大)
鹿児島TLO(鹿児島大)
みやざきTLO(宮崎大)
( )内は主な提携大学☆はスーパーTLO
☆名古屋産業科学研究所(名大)
三重ティーエルオー(三重大)
豊橋キャンパスイノベーション(豊橋技科大)
大分TLO(大分大)
テクノネットワーク四国(四国地域の大学等)
出所:経済産業省作成
近年の変化として、企業においては、投資資金の回収期間の短期化や投資リスク
の増大等に伴い、従来のような「自前主義」による研究開発から、研究資源を大学等
の外部に求める形でイノベーションを志向するビジネスモデルへと変化してきている。
また、大学においても、教員の知的財産の原則機関帰属化、知的財産本部の整備、
17
知財ポリシー・利益相反ポリシー等の整備により、産学連携を巡る環境は進展してき
ている。このような中で、企業と大学等との共同・委託研究は増加しており、大学の特
許取得件数や企業への技術移転件数も増加傾向にある。また、大学における研究成
果を事業化していくものとして「大学発ベンチャー」があげられるが、平成18年度末時
点で1,590社が活動している。
しかしながら、産学連携の成果を図る指標として、大学、TLOの活動によるライセン
ス収入を米国のライセンス収入と比べると、我が国は米国よりも2桁程度小さい額で
あり、ライセンス収入の観点から見ると大学の潜在力を十分に活用できているとは言
えない。
また、産学連携では、企業側と大学側の橋渡し役(コーディネータ)として、技術移
転業務を含む産学連携活動を担う人材が技術移転の成否や産学双方が享受する利
益の大きさと密接に関係する場合が少なくない。このような産学連携人材には、研究
成果の発掘から、企業と大学等とのニーズやウォンツと大学等のシーズのマッチング、
研究開発の企画、マーケティングやライセシング等までを一貫して行える機能を有す
ることが望ましいことから、その機関を支える産学連携人材においても、これらの役割
を担えるような幅広い能力が求められる。このため、若手研究者等をTLOや大学知
的財産本部等の産学連携機関等の現場に派遣し、実際の業務を経験する機会を提
供することを通じて産学連携を担う人材に養成する取り組み(「NEDO産業技術フェロ
ーシップ事業」や、TLOにおいて産学連携を担う人材を育成する取り組み「スーパーT
LO事業」等が行われてきているが、企業や大学の多様化する産学連携ニーズに応え
ていくためには、このような産学連携人材を育成する取り組みをさらに進めていくこと
が必要とされている。
18
図表1−13 TLO(産学連携)
TLO法施行以後、TLOの設置、
TLO立ち上げ期の技術移転活
動等に対する支援、大学知財本
部の設置等により、大学から産
業界への技術移転が進展
技術移転件数
1200
1000
800
600
400
200
0
H11年度
TLOの技術移転件数及びロイヤリティ収入の推移
H12年度
H13年度
H14年度
H15年度
技術移転件数
H16年度
H17年度
ロイヤリティ収入
3,000,000
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
H18年度
ロイヤリティ(千円)
しかし、我が国の産学連携規模はなおアメリカの100分の1。我が国大学の学術研究のレベルは世界でも
有数のものであることから、大学の研究開発の成果が社会に十分に還元されていないといえる。
論文数(自然科学・工学)のシェア
(1999年∼2005年累計)
技術移転活動の日米比較(単年度)
大学+TLOの実績
日本
アメリカ
特許取得件数
535件
3278件
実施料収入
大学等 8.0億円
TLO 6.9億円
13.9億ドル
・日本の特許取得件数は、特許庁調べ(2006年)
・日本の大学等の実施料収入は文部科学省調べ(2006年)
・日本のTLOの実施料収入(大学等・発明者に還元された額
を含む)は経済産業省調べ(2006年)
・米国の数字は(“AUTM License Survey 2005FY”より)
その他
34.3%
論文被引用回数(自然科学・工学)
のシェア(1999年∼2003年累計)
5位 フランス
6.9%
1位 米国
31.8%
その他
13.2%
1位 米国
48.3%
4位 日本
8.8%
5位 フランス
6.5%
2位 日本
4位 英国 3位 ドイツ
10.2%
8.5%
8.7%
3位 ドイツ
10.9%
2位 英国
11.9%
出典:文部科学省「文部科学統計要覧」平成17年版
我が国大学に対する産業界からの不満(「技術移転を巡る現状と今後の取組について」経済産業省)
○関係窓口が多すぎる。 ○ TLO、知財本部、共同研究センター等の間の役割分担が不明確であり、複数の部局との
交渉が必要 ○事務手続きが煩雑 ○知的財産権の内容に関わらずロリヤリティ率が一定である等、契約が硬直的
○意志決定に時間がかかりすぎる。
19
2.地域発イノベーション創出の課題
地域には、優れた技術を持った企業、知の拠点である大学、地域の中小企業を支
える公設試、様々なスキルを有する人材、技術力のある中堅・中小企業の集積など
の個性豊かなリソースが存在しているが、地域の総合力としてのその潜在的な能力
が最大限に活用されているかに関しては、勿論地域によって大きく状況は異なるもの
の、総じて言えばまだまだ途半ばという評価になるだろう。
その要因としては、
①
イノベーションの担い手である産・学・官の地域内及び地域を越えた広域的な
連携が、更に必要との声が中堅・中小企業を中心に根強いこと。特に、事業化
支援機能(具体的には、国内外市場における事業化のためのパートナー探し
等)が脆弱であること、
②
イノベーション創出の基盤となるインフラや研究開発資源の活用が、既存組織、
行政区域内に留まっており、既存組織の垣根が越えられないこと、
③
強固な産学連携を可能としたり、サポートを必要とする企業が駆け込むことが
できるイノベーション創出の基点となる産学連携拠点(研究開発やインキュベ
ーションのための拠点)、公設試等のイノベーション・インフラが不足、劣化して
いること、
④
特に市場のウォンツ(真のニーズ)に精通し、事業化のノウハウにも長けた有
能なコーディネータ人材が不足していること、また、組織や専門分野、地域等
の異なるコーディネータと連携、協働できる場が乏しいこと、
などがあげられる。
20
図表2−1 不足、充実すべき支援内容(アンケート)
不足、充実すべき支援内容(n=1,056)
0
10
(%)
20
30
40
マーケティング・販売に関する支援
事業化までの一貫した支援
資金調達に対する支援
事業パートナー・専門事業者などの他社の紹介
マッチング機会の提供などのコーディネート
相談・アドバイス
研究開発コンソーシアムなどのプロジェクトマネジメント力
大学等研究機関の紹介
不足あるいは充実すべき点はない
利用経験なし
その他
無 回 答
出典:地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査(企業対
象)(平成20年2月実施)
(1) 産学官連携ネットワークが依然脆弱
○ 大手企業との連携不足
平成13年度から開始した産業クラスター計画により、地域における産学官のネ
ットワークが形成され、所期の目標は達成されつつある。今後は、より強力なネット
ワークづくりに向けて質的充実が大きな課題である。特に、大手企業とのネットワー
クは未だ十分とは言えない。多くのベンチャー、中堅・中小企業は、新たな安定的な
販路開拓、シーズの事業化、技術、資金面での連携等、新たな事業展開のために、
絶えず有力なパートナーを求めている。特に、クラスター計画に参加している多くの
中堅・中小企業は、新規事業、新規産業創造への意欲が高く、強力なビジネスパ
ートナーを求めている場合が多い。クラスター計画参加企業にとって、多様な経営
資源を有しグローバルに展開している大手企業とのビジネスマッチングは、大きな
チャンスであり、期待であり、課題である。他方、大手企業も競争環境の激化のな
か中堅・中小企業の有する技術力等外部資源の最大活用は、大きな課題である。
現在の産学官のネットワークを質的に一層充実したものにするため、大手企業との
ネットワーク構築が、必要不可欠である。
21
○ 広域連携の不足
これまで、産業クラスター、知的クラスター等においては、地域ブロック内での産
学官の人的ネットワークを形成し、産学共同研究の推進が促進されてきたところで
あるが、産学連携を進める場合、その地域内に、企業ニーズに応えることができる
研究シーズを持った研究機関や研究者がいるとは限らず、反対に、研究機関の優
れた研究シーズを事業化できる企業・団体がいるとも限らない。そのため、産業クラ
スター計画では、関西バイオクラスタープロジェクトがイギリス、フランスとの連携を
行っている現状があるように、より広域での連携、場合によっては海外との連携が
必要である。
しかしながら、距離の離れた産学あるいは産産のベストなマッチングを実現する
ためには、それぞれのクラスター支援機関が、クラスターマネージャー等による大学、
企業等のシーズ・ニーズに関する徹底した事前調査や調整、具体的な連携の進め
方に関する関係者の共通認識の醸成が不可欠であるが、こうした広域連携を可能
とする「場」も存在していない。地域ブロック内と地域間の産学官ネットワークをより
強化し、地域発イノベーション創出を促進する観点から、関係機関間の連携を強化
する全国のクラスターを束ねる支援組織の設置の検討が求められる。
○ 事業化支援機能が脆弱
シーズ創出から事業化に至るまでには、大学、TLO、企業、金融機関、関係府省、
自治体、産業支援財団等様々な組織が関わっているが、研究開発と事業化支援を行
う支援機関の連携が必ずしも取れておらず、そのため、研究開発段階に事業化の観
点からの検討がなされない、あるいは、研究開発の成果が事業化につながらないなど、
研究開発段階と事業化段階との間の連携が悪いとの指摘が多くある。特に、研究開
発終了後の事業化支援機能が脆弱などの課題が指摘されている。
22
図表2−2 産業クラスター計画の参画メリット(効果)・期待度
効果:[非常にあった+多少あった]
期待:[非常に期待+多少期待]
20
0
40
68.7
79.5
業界・市場動向・顧客ニーズの把握
47.3
72.7
大学・公的研究機関とのネットワークづくり
47.2
72.4
官公庁・自治体とのネットワークづくり
44.3
67.9
技術・特許動向情報の入手
42.9
67.2
異業種企業とのネットワークづくり
41.8
技術・研究面での相談機会
56.8
28.9
既存研究開発のてこ入れ・新規研究開発への着手・進展
61.2
26.9
既存製品・サービスのてこ入れ、新製品・サービスの開発
24.7
新規顧客、新規販路
24.5
商社等販路企業とのネットワークづくり
17.3
金融機関とのネットワークづくり
16.1
研究分野における人材の育成・獲得
16.1
研究機関からの技術移転・特許取得等
15.9
必要資金の調達
15.6
情報収集・
ネットワーク
形成面で効
果は高く、期
待度も高い。
67.0
31.2
マーケティング・広報機会
事業・経営分野における人材の育成・獲得
69.0
38.8
同業種企業とのネットワークづくり
80 (%)
60
行政の支援策(補助金等)の情報入手
58.4
59.2
研究開発、製品開
発面、販路開拓は
一定の効果あり。
期待度は高い。
62.6
52.8
商社・金融機関との連携、
資金・人材の確保は未だ
不足。しかし、期待度は高
い。
43.8
51.5
53.1
48.9
14.1
49.0
出展:産業クラスター計画モニタリング調査(平成19年3月)
(2) 既存組織・行政区域の垣根
地域企業によるイノベーションをサポートする立場にいる関係機関(大学や公設
試、産業支援財団、ビジネス・インキュベータ等)は、これまでの地域プラットフォー
ム事業や産業クラスター計画等を通して緩やかなネットワーク形成を図ってきては
いるものの、依然各機関は、それぞれの事業目的や活動領域の中で縦割り的に自
己完結型の事業を展開する場合が少なくなかった。その結果、事業内容やリソース
の重複や競合、連関性の欠如などといった事態もまま見られたのが実情である。
そのため例えば、地域の企業から研究開発や生産技術、耐久性能検査等といっ
た分野で相談を受けた公設試が、これに応じる能力や余力を有していなかった場
合、仮に隣県の大学にはその能力があっても、当該公設試から隣県の大学に企業
の相談が引き継がれるようなケースは稀なのが実態であった(その結果当該企業
からの相談は、その時点で引き受け手を失うことになる)。
このような状況において地域として適切に企業をサポートする体制を構築してい
くためには、行政区域や組織の壁を超えて各機関が連携、協働するためのルール
を整備していくことも重要であるが、先ずはその前提として各機関が「協調できる分
23
野では競争せず、一致団結して地域企業の支援に当たる」との認識を共有し、互い
の信頼醸成を進めていくことが必要不可欠となる。
図表2−3−1 今後取り組みたい産業支援内容(民間支援機関)(アンケート)
今後取り組みたい産業支援内容(複数回答)
<民間支援機関>
金融機関(都銀、地銀、信金、信組等)(n=91)
0
10
20
30
40
50
(%)
ベンチャーキャピタル(n=22)
70
0
60
個別企業のニーズに対応したオーダー型支援
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
他の公的な支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
販売やマーケティング支援の強化
販売やマーケテ ィング支援の強化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
プロジェクトメイキングの充実
コーディネート能力の向上
コーディネート能力の向上
10
20
(%)
30
40
50
60
30
40
50
60
70
マッチング機能の強化
マッチング機能の強化
その他
その他
現状のまま で、特にない
現状のままで、特にない
無 回 答
無 回 答
(%)
産業支援・イノベーション支援サービスを提供している事業者(n=13)
0
10
20
30
40
50
商工会議所(n=65)
60
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
0
10
20
(%)
70
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
他の公的な支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
販売やマーケティング支援の強化
販売やマーケテ ィング支援の強化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
プロジェクトメイキングの充実
コーディネート能力の向上
コーディネート能力の向上
マッチング機能の強化
マッチング機能の強化
その他
その他
現状のま まで、特にない
現状のままで、特にない
無 回 答
無 回 答
図表2−3−2 今後取り組みたい産業支援内容(公的機関)(アンケート)
今後取り組みたい産業支援内容(複数回答)
<公的機関>
(%)
行政(n=215)
0
10
20
30
40
50
60
個別企業のニーズに対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
(%)
大学あるいは大学関連の機関(n=207)
70
0
10
20
30
40
50
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
販売やマーケティング支援の強化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
販売やマーケティング支援の強化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
大型の研究開発助成制度の獲得
コーディネート能力の向上
マッチング機能の強化
大型の研究開発助成制度の獲得
コーディネート能力の向上
マッチング機能の強化
その他
現状のま まで、特にない
無 回 答
その他
現状のままで、特にない
無 回 答
(%)
産業支援機関(n=35)
0
10
20
30
40
50
60
70
(%)
公設試験研究機関(n=127)
0
80
10
20
30
40
50
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
個別企業のニーズ に対応したオーダー型支援
他の公的な支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
他の民間支援機関との連携
販売やマーケティング支援の強化
販売やマーケテ ィング支援の強化
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
目利き能力の向上とそれによる支援対象の選別化
プロジェクトメイキングの充実
大型の研究開発助成制度の獲得
コーディネート能力の向上
大型の研究開発助成制度の獲得
コーディネート能力の向上
マッチング機能の強化
マッチング機能の強化
その他
その他
現状のま まで、特にない
無 回 答
現状のま まで、特にない
無 回 答
出典:地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査
(公的機関対象)(平成20年2月実施)
24
60
70
図表2−4 公設試験研究機関における域内・域外利用者の扱いの差(共同体アンケ
ート)
域外企業は利用できな
い, 1.6%
無回答, 3.2%
一部支援メニューを域外
企業は利用できない,
4.8%
域内企業を優先する,
4.8%
域外企業は利用料金を
割高に設定している,
27.4%
域内・域外利用者の扱い
の差なし, 58.1%
域内・域外の差あり
計38.7%
出典:地域における公的研究機関・大学等の活用状況に関する意識調査(公的研究機関対象)
(平成20年2∼3月実地)
(3) イノベーション・インフラの劣化・不足
海外主要国では、大学と中心としてイノベーション創出拠点が形成されている例
が多くみられるが、我が国においてはこうした拠点形成が不十分である。国立大学
の国立大学法人への移行後、各大学は、産学共同研究への取り組み強化、地域
課題解決に向けた地域経済界との連携強化等に取り組んでいるところであるが、こ
うした取り組みを支える大学と産学連携等の施設は依然不足している。大学は、
「知」の創造拠点であるが、この「知」を最大限活用し地域活性化につなげることが
極めて重要であり、大学の「知」の創造という機能と空間を活用した産学連携施設
等のインフラ整備が重要である。
中小企業の研究開発支援で重要な役割を担う公設試の質の劣化が深刻である。
自治体財政が逼迫化しており、自治体の科学技術関係経費、中でも公設試験研
究機関にかかる予算は年々減少している。その結果として、基盤的な設備の更新、
人材の採用が進まないという事態を招いている。なお、国の競争的研究資金に参
加した場合に機器購入は可能であるが、当該試験研究に目的が限定され、企業の
利用ニーズがあっても、広く利用が進まないという問題もある。
25
図表2−5 大学に求めている役割・機能等
大学に求めている役割・機能等(n=1,056)
0
10
(%)
20
30
40
50
大学が保有している試験機器や研究設備の利活用
大学の研究者が有する経験等を通じたアドバイス
大学における試験・検査・評価機能
優秀な人材の輩出
産学連携による公的な研究開発資金の獲得
大学や研究者の持つネットワーク
大学の研究者が有する研究シーズ
大学との連携による知名度や信頼性の向上
大学に求める役割や機能はない
その他
無 回 答
出典:地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査(企業対
象)(平成20年2月実施)
図表2−6−1 地域の公設試験研究機関が抱えている問題(民間支援機関)
(アンケート)
地域の公設試験研究機関が抱えている問題(複数回答)
<民間支援機関>
金融機関(都銀、地銀、信金、信組等)(n=91)
0
10
20
ベンチャーキャピタル(n=22)
(%)
30
40
0
試験・検査機器等の老朽化
試験・検査機器等の老朽化
相談件数の増加によるサービスの低下
相談件数の増加によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
予算の減少によるサービスの質の低下
予算の減少によるサービスの質の低下
研究業務が十分にできない
10
(%)
20
30
40
50
研究業務が十分にできない
職員の能力が、ニーズに対応できない
職員の能力が、ニーズに対応できない
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
地域の企業から相手にされなくなっている
地域の企業から相手にされなくなっている
その他
その他
問題はない
問題はない
無 回 答
無 回 答
商工会議所(n=65)
産業支援・イノベーション支援サービスを提供している事業者(n=13)
0
10
20
30
40
50
(%)
0
60
試験・検査機器等の老朽化
試験・検査機器等の老朽化
相談件数の増加によるサービスの低下
相談件数の増加によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
予算の減少によるサービスの質の低下
予算の減少によるサービスの質の低下
10
20
30
(%)
40
研究業務が十分にできない
研究業務が十分にできない
職員の能力が、ニーズ に対応できない
職員の能力が、ニーズに対応できない
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
地域の企業から相手にされなくなっている
地域の企業から相手にされなくなっている
その他
その他
問題はない
問題はない
無 回 答
無 回 答
出典:地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査(民間支
援機関対象)(平成20年2月実施)
26
図表2−6−2 地域の公設試験研究機関が抱えている問題(公的機関)
(アンケート)
地域の公設試験研究機関が抱えている問題(複数回答)
<公的機関>
行政(n=215)
0
10
20
大学あるいは大学関連の機関(n=207)
(%)
40
30
0
試験・検査機器等の老朽化
10
20
30
(%)
50
40
試験・検査機器等の老朽化
相談件数の増加によるサービスの低下
相談件数の増加によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
予算の減少によるサービスの質の低下
予算の減少によるサービスの質の低下
研究業務が十分にできない
研究業務が十分にできない
職員の能力が、ニーズに対応できない
職員の能力が、ニーズ に対応できない
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
地域の企業から相手にされなくなっている
地域の企業から相手にされなくなっている
その他
その他
問題はない
問題はない
無 回 答
無 回 答
産業支援機関(n=35)
0
10
20
30
40
50
公設試験研究機関(n=127)
(%)
60
0
10
20
30
40
50
60
70
(%)
80
試験・検査機器等の老朽化
試験・検査機器等の老朽化
相談件数の増加によるサービスの低下
相談件数の増加によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
職員数の減少によるサービスの低下
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
相談内容が難しくなることにより十分な解決策を提示できない
予算の減少によるサービスの質の低下
予算の減少によるサービスの質の低下
研究業務が十分にできない
研究業務が十分にできない
職員の能力が、ニーズ に対応できない
職員の能力が、ニーズ に対応できない
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
コーディネート的な業務の増加に対し、経験やノウハウが不足
地域の企業から相手にされなくなっている
地域の企業から相手にされなくなっている
その他
その他
問題はない
問題はない
無 回 答
無 回 答
出典:地域における新事業創出や技術の高度化、イノベーション促進に関する意識調査(公的機
関対象)(平成20年2月実施)
図表2−7 公設試を取り巻く状況
(百万円)
自治体の商工予算の推移
60,000,000
9.00%
8.00%
50,000,000
7.00%
40,000,000
6.00%
5.00%
30,000,000
4.00%
商工費以外
商工費
商工費比率
3.00%
20,000,000
2.00%
10,000,000
1.00%
0.00%
0
10 11 12 13 14 15 16 17
4.3兆円
3.1兆円(▲28%)
(出所:地方財政統計年報(総務省))
(当該資料はRIETI Statistics Data Bankを使用しての作成 )
出典:経済産業省「公設試経営の基本戦略」
27
(4) イノベーションを担う産業支援人材、開発人材の不足
産学連携コーディネータ、クラスターマネージャー、インキュベーションマネージャー
などいろいろな呼称で呼ばれているコーディネータは、企業からの技術面から経営面
にわたる様々な相談やアドバイス、産学連携のコーディネートや事業化支援、経営支
援などイノベーション創出に重要な役割を担っているが、シーズ発掘から事業化に至
る優秀な産学連携を促進する人材が不足している。
その背景には、まず、産業支援人材の置かれている環境があげられる。産業支援
人材の多くは、①1年契約以内の非常勤、②個人の経験や資質に負うところが大きく、
採用後に研修がないまま業務についている、③評価システムが確立していない、④業
として産学連携を担う機関が少ないなどにより、企業等のOB人材に頼らざるを得な
い状況にある。若年・中堅の産業支援人材の場合、短期雇用契約の下、生活設計の
中長期展望がないまま、不安を抱えながら就労しているのが現状である。そのため、
企業等OB人材を前提とした雇用環境を改善し、若年・中堅層も能力を発揮できる環
境を整備することが必要である。
また、現在活躍している産業支援人材へのヒアリングによると、「このようなやりが
いのある職場があるとは知らなかった。」と回答する者が多く、偶然や限られた人脈の
中で発掘されており、新事業開発、産学官連携や社会貢献、地域貢献に関心を有し
ている者も潜在的に存在するにもかかわらず、こうした職場の存在が知られていない
ため、能力を発揮できる人材と活躍できる職場との間でミスマッチングがある。
さらに、産業支援人材が直面する案件は多岐にわたり、自らの専門分野だけでは
解決できない場合も発生する。課題解決の経験やノウハウの蓄積と人脈の形成は非
常に重要であるが、産業支援人材は、様々な機関にわたっており、産業支援人材間
のネットワークができておらず、また、産業支援人材として身につけるべき知識やスキ
ルを習得できる実践的な人材育成が強く求められている。
また、大学等の研究シーズなどを、新商品・サービスに結びつけ事業化を担うのは、
地域の技術開発型の中堅・中小企業、ベンチャー企業であるが、こうした中堅・中小
企業、ベンチャー企業は、優れた技術開発力を有していても、新商品・サービスの開
発に従事させる技術者不足に悩んでいる。
28
図表2−9 事業化支援人材の現状(アンケート)
①雇用形態について
②雇用契約期間について
なし その他、
2年 6.7% 不明
2.2%
4.5%
3年以上
3.5%
その他
22.1%
出向
5.1%
嘱託
49.0%
n=761
1年未満
6.2%
正職員、
正社員
6.0% 派遣
7.5%
1年
76.9%
臨時
10.2%
③採用後の研修について
あり
23.5%
n=761
その他、
不明
1.7%
④評価方法
169
特に行っていない
定性的な目標値を定め、
達成したかどうかを評価
98
定量的な目標値を定め、
達成したかどうかを評価
n=761
なし
74.8%
71
その他
59
55
0
50
100
150
200
出典:地域事業化支援人材調査(平成19年1月∼20年2月実施)
(5) 研究開発成果の評価機能の不足
研究開発に要する費用は、一般的に事業化に近くなるほど多くの資金が必要であ
るため、研究開発に取り組む中小・ベンチャー企業の中には、優れた技術の芽を有し
ていながら資金調達に苦労しているケースが多い。
これは、研究開発費は費用として計上され、研究開発の結果得られた技術や知財
といった資産はオフバランス化されるため、研究開発に取り組むほど当該企業の財務
諸表は悪化することとなり、金融機関からの資金調達が円滑に受けられずに、途中で
開発を中断してしまうことが考えられる。
また、資金を供給する金融機関においても、金融機関が自ら技術の価値を評価す
ることは難しく、また、第三者による技術評価コストも高額であることから、融資判断に
技術面での評価結果を取り入れることが現実的に困難といった事情がある。
このように、イノベーションの種が早期に摘まれてしまうことを避けるためには、安価
で金融機関でも活用できる技術評価手法の確立が必要である。現在でも企業が保有
する特許について、技術分野や業界の中における相対的評価を安価で行うサービス
29
事業者が生まれつつあるが、研究開発型中小・ベンチャー企業によるイノベーションを
創出していくためには、財務情報からデフォルト率を数理的に自動計算するCRDシス
テムのように、特許の質と量を自動計算により評価するようなシステムの普及が必要
である。
(6) 科学技術や社会の変革に対する制度的取り組みの遅れ
技術開発が法規制によって、「試作」「実証」段階で足踏みし、イノベーションに結び
つかない場合がある。技術を実際に適用できる場がない場合、事業化に必要なデー
タの取得が難しい。例えば水循環の技術では、法規制のために浄化槽の改造等を行
うたびに認可が必要とされ、実証事業を円滑に進捗させるためにも、制度の改善が必
要になっている。
また、最先端医療等の研究開発は、これまで関係各省がそれぞれの観点から助成
を行ってきたため、支援に一貫性が十分に取れていない状況にある。優れた研究開
発成果を生み出し、又、当該成果を実用化・事業化していくためには、府省官の協調
による政策ツールの集中的投入が必要である。
規制の創設当初には予定しなかった事象の発生や技術革新の進展などにより、規
制がイノベーションを生み出すための障害として作用したり、関係府省の連携が不十
分で、研究開発のスキームとして一貫性が足りないという課題が残る。したがって、政
策間の適切な調整が図られるメカニズムの構築が必要である。
30
3.先進的事例から学ぶ地域イノベーション政策のヒント
地域発イノベーション創出に取り組んでいる先進的な事例を示す。これらの事例は、
それぞれの地域の特徴や強さ等を活かすとともに、様々な工夫により成功したと考え
られる。他の地域でそのまま導入しても成功するとは限らないが、なぜ成功事例が成
功事例となり得たかを各地域が自ら考え、自らの目標とモデルを築くためのヒントとす
ることは有益である。
(1) 産業クラスター計画で構築されつつある事業化支援の仕組み
① 大手企業と中小・ベンチャー企業との常設の商談支援の仕組み
中小・ベンチャー企業では、製品企画や技術開発が行われているが、実際に商
品として量産化、パッケージ化を図ろうとすると、費用やリスク面が障害となり実現
することが困難である場合が多い。一方、大手企業では、市場での更なる国際競
争力を確保するため、先進技術をもった中小・ベンチャー企業等を求めているが、
技術力、信用力等の見極めが困難であることが多い。
関西フロントランナープロジェクトでは、このように双方の抱えるジレンマを解消し、
中小・ベンチャー企業、大学等の研究機関と大手企業(関西圏大手16社)が実効
性のあるスムーズな連携を図る常設のマッチングシステム「情報家電ビジネスパー
トナーズ(DCP)」を構築し、事業化支援を実施している。
当該システムは、(1)中小、ベンチャー等が技術提案を書面によりDCP事務局
に提出し、システムに参加している大手企業が第一次マッチング、その後個別面談
への第二次マッチング、(2)さらに有望な案件については、希望すれば守秘義務契
約を締結して大手企業との個別交渉に進む、(3)不採用でも大手企業から評価の
フィードバックを受ける、(4)これら支援のため公的機関が有望案件の発掘、推薦
に協力、(5)全国・全世界からの申請を受け付ける窓口を設置し、広域の連携を可
能とする仕組みを形成などさまざまな工夫がこらされている。この結果、システム開
始15ヶ月で個別企業との面談件数も160件を超えるものとなっている。
31
図表3−1 情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)
概要
■関西圏の大手企業(16社)とベンチャー企業・大学との常設マッチングシステム。
■書面による打診から実面談に進む2段階提案方式を採用。不採用でもレポートをフィードバック。
■公的機関が推薦することにより発掘とフィルタリング機能を実現。全国・全世界にネットワーク。
■ビジネスプラン・技術の発表会(スポット的なマッチング)も開催。
提案企業
推薦機関
受入企業16社
DCP事務局
提案書
ベンチャー
大学、研究機関
海外企業
(国内担当)
クラスター機関
公的産業支援機関
海外の協力機関
相談
クラスター推進機関(KIIS)
(海外担当)
大阪商工会議所
推薦書
提案
面談(不採用の場合は報告書)
参加
プレゼン
【ビジネスフォーラム】
技術・ビジネスプランの発表
参加
サポート企業23社
三洋電機
シャープ
幹事30万円/年
松下電器産業
アイコム
エスペック
NTTドコモ関西
大阪瓦斯
参加10万円/年
オムロン
京セラ
サイレックス・テクノロジー
住友電気工業
大日本スクリーン製造
ピクセラ
日立製作所
船井電機
村田製作所
<資金・販路支援>
りそな銀行、京都信用金庫、
阪和興業、日本ベンチャーキャピタル
など (5万円/年)
② クラスター間連携によるバイオベンチャーの経営支援、ビジネス展開支援
北海道バイオ産業クラスターは、平成15年度よりバイオ分野における関西地域
とのビジネス交流を促進するため、関西バイオクラスター他関連機関との連携によ
る「札幌BIOビジネスマッチング in 関西」を実施している。また、平成19年度は四
国クラスターとも連携し、事業を実施するなどクラスター間連携も広がりを見せてい
る。
マッチングを成功させるカギは、牽引役となるキーマンの存在(クラスター・マネー
ジャー)であり、企業等のニーズに関する徹底した事前リサーチ、企業間の事前調
整、プレゼンテーション力向上のための勉強会等事前準備を行うことで、商談成功
率を飛躍的に向上させ、4年間で20億円を超える商談成立額を達成している。
また、クラスターマネージャーがネットワークの結節点となり、北海道地域と大阪、
神戸といった関西地域との交流が活発となって、事業実施後にも様々な機会で協
力することで新たな商談が成立するなど効果が出てきている。
※札幌&四国BIOビジネスマッチングの成果
平成18年度(大阪) 出席者199名(127機関) プレゼン企業数…バイオ関連企業15社
(神戸) 出席者228名(119機関) プレゼン企業数…バイオ関連企業15社
32
図表3−2 産業クラスターのネットワーク事例(バイオ分野)
【成功の鍵】 牽引役となるキーマンの存在(クラスター・マネージャー)
∼ネットワークの結節点となり、バイオベンチャーの経営支援、ビジネス展開の支援を実施∼
【成 果】
北海道バイオ産業クラスターと関西バイオクラスターのビジネ
スマッチング事業をクラスターマネージャーが中心となり実施。
企業等のニーズに関する徹底した事前リサーチ、企業間の
事前調整等を行うことで、商談成功率が飛躍的に向上。
15
16
17
101名
180名
189名
14社
11社
14社
成約・交渉
継続案件
13件
16件
9件
18
199名
18社
11件
年度 参加人数 企業数
産業クラスター
参画企業(217社)
大学・研究機関
(22大学等)
大学・研究機関
(118大学等)
クラスターマネージャーと事前調整
遠山 伸次
近畿バイオインダストリー振興会議
専務理事
(元塩野義製薬(株) )
商社、金融、VC等
(271社等)
北海道A,B,C社のニーズ等を
商社、金融、VC等
(111社等)
1.9億円
近畿D,E,F社のニーズ等を
クラスターマネージャーと事前調整
クラスター・マネージャー
土井 尚人氏
株式会社ヒューマン・キャピタル・マネジメント
代表取締役社長
行政機関等
(29機関)
2.7億円
2.3億円
3.6億円
4年間で
約11億円の
商談が成立
産業クラスター
参画企業(459社)
企業等による自立的
活動のネットワーク
(59社等)
商談成約額
行政機関等
(21機関)
【具体的なマッチングの事例】
◎札幌A社が開発した家畜飼料添加物と販売を手がける関西D社が特約店契約を締結。
◎治験を行っている関西E社が、札幌B社の機能性素材を活用した治験を実施。
◎札幌C社が関西F社と共同開発契約し、世界の製薬企業に向けた販売契約を締結。
③ 海外展開事例 『成長著しい中国に対する環境ビジネスの促進』
九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ(K−RIP)では、環境・リサイクル産業
分野におけるクラスターを展開している。今般、持続可能な経済成長のためには環
境との調和は必要不可欠であり、世界トップ水準の環境技術を有する九州の環境
クラスタープロジェクト(会員企業約300社)は、平成19年度からジェトロRIT事業
を活用して成長著しい中国の大連市(環境保護産業協会約170社)との3カ年に
わたる地域間の環境産業交流事業を開始するなど、中国を基盤としたアジア市場
への販路拡大を促進している。
平成20年3月には、ビジネス交流のために「九州・大連市環境ビジネス商談ミッ
ション」を派遣し、日本側19社、大連側18社によりのべ95件の商談を実施し、3月
19日時点で商談継続16件のうち5件の成約が見込まれる。K−RIPでは、今後も、
環境産業の振興とともに地球環境保護の一助となれるよう、九州の環境関連企業
のアジア展開を積極的に支援していく予定である。
このように、ニーズがあり、地政学的に優位な中国を初めとするアジア諸国と交
際連携を図ることは、更なるクラスター形成の拡大に効果をあげるものである。
33
図表3−3 海外展開事例
九州環境・リサイクル産業交流プラザ(K-RIP)
■中国大連市環境保護産業協会などと連携し、K-RIP会員と大連市環境関連企業との連携を支援。また、韓国
産業団地公団(KICOX)とMOUを締結。九州環境関連企業のアジア市場進出を目指す。
中国(大連市)
韓国(韓国産業団地公団)
・九州経済産業局と韓国産業資源部との定期会議の枠組み
の中で、2005年よりK-RIPと韓国産業団地公団(KICOX)
の交流が開始。
・K-RIPとKICOXによるビジネス交流を重ねる中で、2006年、
両機関交流の今後の更なる深化・進展を目指して、 KICOX
よりMOUの締結の提案あり。
・2007年11月、熊本市内にて両機関のMOUが締結された。
・大連市環境保護産業協会と連携し(JETROのRIT事業を活
用) 、大連市における環境産業のニーズ調査や、在九州企業を
対象とした中国進出ニーズ調査を行うとともに、中国の環境ビジ
ネスについてより詳細な情報を得るための「中国環境ビジネス
セミナー」を実施。2008年3月には、両国のビジネス交流を具
体化させるための「九州・大連市環境ビジネスミッション」を同市
に派遣した。
<<協力合意内容>>
・商談会やセミナー等の共同開催、技術交流並びに人材派遣事業等の
交流事業の実施
・その他実務協力によって合意された共同事業等の実施
・相互交流の発展のため、両地域の関係者がより多く参加できる協力
基盤の形成
◆フォーラム開催
2回
◆ビジネスマッチング
・商談113件
・成約9件
(商談継続中含む)
④ 都市エリア(文科省)の研究成果を産業クラスター計画(経産省)で事業化
文部科学省の都市エリア産学官連携促進事業において、研究開発したイカの高鮮
度輸送技術により、細胞レベルで生きた状態の高鮮度イカを提供することに成功した。
また、地域に特有なコンブ(ガゴメコンブ)に含まれる機能性成分を活用した新製品開
発を行った。
一方、経済産業省で実施している産業クラスター計画において当該研究開発成果
の事業化を支援するため、市場調査を実施するとともに「BIOジャパン」等の展示会に
出展し販路開拓事業を展開している。
※活イカの高鮮度輸送技術は、都市エリア事業 一般型(平成15∼17年)で開発。
※ガゴメ関連製品の18年度売上は約3億3千万円(18年10月15日プレス資料より)
※市場調査:道外の公設市場、卸問屋、小売業者、メーカー等に対して調査し、技術・用途・市場
を把握して新製品開発・販路開拓に結びつけている。
34
図表3−4 バイオと水産・食品との連携
都市エリア(文科省)の技術開発の成果を産業クラスターで事業化
イカの輸送技術を開発し、高鮮度なイカを生産販売
都市エリア産学官連携促進事業(文科省)
水揚げ直後に、イカの頭と胴をつなぐ神経を切断し活き締めにし、無菌海水と酸素を入
れた包装パックに入れて冷水輸送する
独自技術を開発。最長56時間の生存に成功。
鮮魚では、細胞レベルで生きたまま輸送する技術を開発。
事業化
産業クラスター計画(経産省)
研究開発の成果を事業化するために、市場調査、
Bioジャパン等に出展し、販路開拓を展開。
首都圏の通常の5倍の高値で取引。
[函館エリア]
・北海道大学大学院水産科学研究院
・道立工業技術センター
(函館地域産業振興財団が管理・運営を受託)
・(株)古清商店(水産物卸売)
⑤ 地域企業等の協働による新受注体制の構築 ∼世界最速試作センター∼
中央自動車道沿線クラスター活動では、独自技術を持った企業群が協力し合い、
高速情報通信網を活用して、スーパーデバイスの開発試作、量産試行までを世界
最速で行う産業集積を目指した検討を実施した。この検討に基づき、平成16年4
月には株式会社世界試作センターが諏訪地域企業10社の出資により設立した。
本センターでは、地域企業が保有する超精密加工技術と大学・公設試が保有す
る評価・分析技術を融合させ、センターのコーディネータ(地域企業OB)が中心とな
り、適切な協働受注・開発体制を構築することにより、デバイスの開発から試作品、
量産試行までをワンストップで提供することを可能とした。
会社設立から4年間に、域外から約1500件の引き合いがあり、600件を越える
受注の実績をあげている。
35
図表3−5 世界最速試作センター
成功の鍵
独自技術を有する地域企業及び研究機関が協働し水平的ネットワークを構築
概要
●産業クラスター活動をきっかけに、諏訪地域の産業集積を活かした、超精密部品やユニット等を最短
納期で提供する(株)世界最速試作センターを、地域の中小企業が中心となり平成16年に設立。
●各企業が保有する独自技術と大学・公設試が保有する専門技術を融合、人的ネットワークをベースに
水平的かつ柔軟な産業協働体を構築することにより、デバイスの開発から試作、量産試作まで最短納
期で提供。
●設立当初はクラスター推進機関である財団からの資金援助を受けたが、平成17年度より黒字を達成。
長野県工業技術
長野県工業技術
総合センター
総合センター
お客様
お客様
地域への経済波及効果
受託・供給
付帯業務
●加工型中小企業がネットワークを
活用して柔軟な共働体を組織するこ
とにより、個別企業の限界を超えて
受注機会が拡大
●顧客志向・IT・産学官連携をキー
ワードにしたグローバル時代を勝ち
抜く「産業クラスターモデル」の実現
●㈱世界最速試作センター売上高
:約3億円(平成19年度)
諏訪東京理科大
諏訪東京理科大
信州大学
信州大学
㈱世界最速試作センター
A社
B社
C社
D社
E社
山梨大学
山梨大学
F社
G社
技術 技能 技術 技能 技術技能 技術 技能 技術 技能 技術 技能 技術 技能
コラボレータ群
世界最速試作センター
ネットワーク
地域を代表する優
れた企業群
<主な関係機関>
長野県工業技術総合センター、
諏訪東京理科大学、信州大学、
山梨大学、(財)長野県テクノ財団
⑥ 試験研究・生産設備の相互利用の促進 ∼バーチャルラボラトリーシステム∼
TAMA協会((社)首都圏産業活性化協会)では、会員である中小企業による、周
辺の公設試、大学、大手企業等が保有する高度な試験研究設備や生産設備の活
用を促進することを目的に、「TAMAバーチャルラボラトリーシステム」を構築。開放
又は受託等の形態で利用可能な試験研究設備等をデータベース化し、HP上で公
開。現在までに23機関451台の設備が登録され、研究開発力の強化や新製品開
発の促進に寄与している。
36
図表3−6 バーチャルラボラトリーシステム
TAMAバーチャルラボラトリーシステムは、大学・大
企業・公設試験研究機関・有力中堅中小企業等に
整備されている試験研究設備や生産設備のうち、開
放又は受託等の形態で利用可能なものをデータ
ベースとして整備。これら設備の相互利用を促進し、
会員企業皆様の研究開発力の強化に資する目的で
構築したシステム。本システムには、現在、22機関、
407台の設備が登録。
機関区分
機関名称
登録数
学校関係
東洋大学
117
中央大学・理工学研究所
創価大学他3機関
材料・組成試験
50
材料試験機器
富士電機(株)他10社
国公立研究機関
(財)機械振興協会技術研究所
他2機関
71
機械加工
公設試験研究機関
多摩中小企業振興センター
神奈川県産業技術センター
47
全般
22機関
DBへアクセス
利用申請
利用許可
利用者
全般
民間企業
合計
機器登録
(コンテンツ整備)
主な装置
11
111
TAMA協会
TAMA協会
TAMAバーチャル
ラボラトリーシステム
試験・試作の実施
機械加工、組成試験等
新技術・新製品の開発
新技術・新製品の開発
407
(2) 大学を中核とした地域イノベーション拠点の形成
① 地域のビジョンの共有とコミットメントによる地域イノベーション拠点の形成
北海道では、北大北キャンパスを中心に、北海道の自治体、経済界、大学が「知
の創造」と「知の活用」を一貫して推進する体制である「北大リサーチ&ビジネスパ
ーク構想」を推進している。
平成16年7月、北海道大学、北海道庁、札幌市、北海道経済連合会、北海道
経済産業局の5機関により地域連携協定が締結され、北海道内の産学官が連携
して、それぞれの機関が持つ研究開発から事業化までの各種施設と仕組みを集中
的に整備、構築し、既存組織の垣根を越えた一大地域イノベーション拠点が形成、
拡大している。
平成15年度から平成17年度を第1ステージとして、インキュベーションモデル事
業やコア・コーディネータの設置、R&Bサテライト・ステージの創設等を行い、基盤機
能の整備を行った。平成18年度から平成22年度を第2ステージとして、事業化フ
ォーラムの運営等を行う等、パークとしての一層の機能の強化・事業化に取り組ん
でいる。
北海道大学の共同研究数が平成15年度に比べ平成18年度には約1.8倍(2
03件→362件)に増加し、北大発のベンチャー企業が39社設立され、民間企業に
37
よる共同研究施設が設立されるといった成果が出ている。
国内外から注目される中核的研究開発拠点の形成、大学等と地域のコラボレー
ション(産学官連携)拠点の形成、大学等の知的財産の活用による経済の活性化
という本構想の目的が各機関で共有、コミットメントされ、地域イノベーションの拠点
を形成したことが上記の成果につながったと考えられる。
図表3−7 北大R&Bパーク
成功の鍵
道内産学官が、連携と集中により「北大R&Bパーク構想」を推進
概要
●北大北キャンパスを中心に、北海道内の産学官が連携して、それぞれの機関が持つ研究開発から事業化までの
各種施設と仕組みを集中的に整備、構築。既存組織の垣根を越えた一大地域イノベーション拠点が形成、拡大中。
●当該エリアには、学(北海道大学の「創成科学共同研究棟」、「次世代ポストゲノム研究棟」、「人獣共通感染症
リサーチセンター」)、官(道の「道立試験研究機関」、国の「JSTイノベーションプラザ北海道」、「中小機構ビジネス
インキュベーション(BI)(20年開設)」)、産(北海道産学官協働センター(コラボほっかいどう)、民間共同研究施設)
の研究施設、産業支援施設等が集積中。
地域への経済波及効果
北大R&Bパーク推進協議会
●北大共同研究数の
増加(15年度203件
→18年度362件)
北大北キャンパスの研究拠点をソフト面で
支援する組織。(平成15年12月設立)(参
画11機関、事務局:ノーステック財団)
●地域連携協定(平成16年7月)
北海道大学、北海道、札幌市、北海道経済
連合会、北海道経済産業局の5機関により
協定締結。
●具体的取り組み
第1ステージ(平成15年度∼17年度)
・R&BPサテライト・ステージの運営
・インキュベーションモデル事業
・コア・コーディネータ設置 等
第2ステージ(平成18年度∼22年度)
・事業化フォーラムの運営(事業化プロ
ジェ クトの発掘と支援) 等
●北大発ベンチャー企
業 39社
●民間企業によるニコ
ンイメージングセン
ター、創薬共同研究施
設(塩野義製薬㈱)の
設置。
② 地域の産学官によるグランドデザインと一体的推進
福岡県は、九州から、上海、新竹(台湾)、香港、シンガポール等の東アジア地域
を結ぶシリコン・シーベルト構想として、先進的なシステムLSI拠点形成を、九州大
学、九州工業大学等とともに、推進している。中核的な拠点施設として、「福岡シス
テムLSI総合開発センターを平成16年11月に整備し、人材育成、ベンチャー育
成・支援、研究開発支援、交流・連携促進及び集積促進を5本柱として一体的に推
進していることが特徴である。
福岡システムLSI総合開発センターには、九州大学のシステムLSI研究センター
38
が研究開発支援のため入居しているほか、福岡システムLSIカレッジにより、日本
初の産学官共同によるシステムLSI技術者を養成している。センター内には、ベン
チャー企業向けのインキュベートルームやベンチャー育成・支援のための設計ツー
ルからテスト検証ツールまでを備えた共用試作・検証ラボを備え、52社のベンチャ
ー企業が入居している。研究開発については、知的クラスター創成事業により、組
み込みソフトウエアや車載半導体等のアプリケーション開発が行われている。
隣接地には、JSTイノベーションプラザ福岡も立地して、連携して支援を展開して
いる。
今までに、福岡システムLSIカレッジは、4,000名を越える技術者を養成し、福
岡県内のシステムLSI設計関連企業が5年間で5倍の110社が集積するまでに成
長している。
地域の産学官が協働してグランドデザインを描き、一体となって活動したことが
成功につながったと考えられる。
図表3−8 シリコンシーベルト福岡プロジェクト
成功の鍵
地域の産学官がグランドデザインを描き、一体で推進している点。
概要
●東アジア地域(京畿道(韓国))、九州、上海、新竹(台湾)、香港、シンガポール等を結ぶシリコン
・シーベルト地帯における先進的なシステムLSI開発拠点を構築する構想 。
●中核的な拠点施設として「福岡システムLSI総合開発センター」を整備(16年11月)し、人材育成、ベ
ンチャー育成・支援、研究開発支援、交流・連携促進及び集積促進の5本柱で取り組み中。
福岡システムLSIカレッジ
知的クラスター
創成事業(第Ⅱ期)
人材育成
人材育成
組込ソフトウェアや車載半導
体等のアプリケーション開発
九州大学システムLSI
研究センター
研究開発
研究開発
支援
支援
システムLSIフロンティ
ア創出事業
共同研究
集積
集積
促進
促進
次世代を担うLSI関連研究
開発型企業群創出支援
交流・連携
交流・連携
(10/10以内補助、2千万円
以内/年、2年以内
インキュベーション
促進
促進
ルーム(52社入居)
<主な関係機関>
(推進組織)福岡県先端シ
ステムLSI設計開発拠点
推進会議
(関係機関)九州半導体イ
ノベーション協議会
日本初、産学官共同によ
るシステムLSI技術者育
成機関
ベンチャー
ベンチャー
育成・支援
育成・支援
共用試作・検証ラボ
日本初!設計ツールから
テスト検証ツールまでを揃
えたベンチャーのための
ラボ
連携
九州シリコン・クラスター計画
(九州半導体イノベーション協議会)
39
地域への経済波及効果
●福岡システムLSIカレッジ
・4,000名を超えるシステム
LSI関連技術者を養成
●福岡県内のシステムLSI
設計関連企業が5年間で5倍、
110社集積。
・中小・ベンチャー企業は9社か
ら89社集積
・システムLSI分野の全国約2
0%の研究者集積。
○隣接地には、JSTイノベーショ
ンプラザ福岡も立地し、連携し
て支援を展開
③ 大学を中心とした関係研究機関の集積による相乗効果
京大桂ベンチャープラザは、桂イノベーションパークに立地しているインキュベー
ション施設で、床面積が約5,000㎡、レンタルスペースが67室となっている。近隣
には、京都大学工学部やJSTイノベーションプラザが立地しており、相互に連携し
あいながら、先端・シーズ研究、商品・事業化促進研究等を行っている。
京大桂ベンチャープラザ内に、「開放型実験室(京大サテライトラボ)」や「京都市
イノベーションセンター」が併設しており、京大桂ベンチャープラザのインキュベーシ
ョンマネージャーが中心になって、京大をはじめ、地域の大学と地域企業等とのネ
ットワーク形成、産学官連携等を推進する「桂COT事業」を実施している。
京大桂ベンチャープラザのインキュベーションマネージャーが、入居企業からの
新規事業の相談を受けた際、JSTコーディネータとマッチングすることにより、JST
の「シーズ発掘試験」に採択された。他にも数件このような事例があり、近隣する施
設間の連携により具体的な成果が出ている。
企業と企業または企業と大学等をつなぎ合わせるIMという仕掛けが成果につな
がったと考えられ、IMの能力を向上させるBIC研修を新たに実施している。
図表3−9 京大桂イノベーションパーク
成功の鍵 京大新キャンパス建設、産学公連携体制、知的クラスター事業
概要
●世界でも有数の工学系大学院の桂新キャンパスへの移転、産学連携施設の寄贈、国支援施設
●先端・シーズ研究から、商品・事業化促進研究、ベンチャー起業インキュベーションの一連事業
●産学公連携組織形成、知的クラスター事業、ナノテク総合支援プロジェクト等の連携事業活発化
京大桂新キャンパス⇒産学連携施設の寄
贈⇒産学公連携組織の形成⇒国関連施
設の誘致・連携プロジェクトの推進⇒イノ
ベーション拠点として国内外の注目大
地域への経済波及効果
●知的クラスター事業及び産
業クラスター計画による
新産業創出(試作品54件、
京都大学ローム記念館 新商品30件、ベンチャー創
業8社、知的財産・特許200
(企業寄贈)
件)、各種先端計測機器の
京大桂ベンチャープラザ北
開発
館・南館(
館・南館(中小機構)
中小機構)
イノベーションプラ ●KIPへの民間企業の誘致
(3社:雇用総数約150名)、
<主な関係機関>
ザ京都(JST
)
ザ京都(JST)
ベンチャー等インキュベー
京都大学(桂キャンパ
ション事業(約40社、150名)
ス)、京都府・市・商工
会議所、JST、中小機
桂イノベーションパーク(KIP) ●京大での海外も含む産学
構、ASTEM、民間企
連携事業の促進・加速化、
当初、民間分譲予定であった地域を大
業・ベンチャー群
地域連携活動の活性化
学・自治体が連携し、テクノパークとし
て国・民間施設を誘致
京都大学工学研究
科桂インテックセン
科桂インテックセン
ター
40
④ 大学のサテライト研究センター等を核とした地域産業活性化
北上市は企業誘致により、工業集積を高めたが、下請依存型企業が多く存在し
ており、地域企業の自立創造型企業への展開を支援するため、岩手大学と連携を
行った。
岩手大学は、平成15年2月、国立大学初の金型に関する研究施設である工学
付属金型技術研究開発センター基礎研究部門を設置し、北上市からの寄附により、
平成15年5月に同センター新技術応用展開部門を北上市にサテライトとして設置
した。業務内容としては、基礎研究部門では、金型に関する基礎的な要素研究を
実施し、新技術応用展開部門では、共同研究を進めることで地域企業における研
究開発の推進、地域企業のニーズに合った展開研究を共同で進め、具体的商品
の開発を実施する。
5年間で地域企業との共同研究が100件超、金型技術研究センター発ベンチャ
ー企業が2社創設、地域企業との共同研究による実用化製品6件といった成果が
出ている。
地域活性化への貢献を大学が強く意識し、地域の技術ニーズに対応したサテラ
イトを設置するといった自治体との相互協力を行ったことが成功につながったと考
えられる。
図表3−10 岩手大学工学部付属金型技術研究センター
成功の鍵 国立大学法人と地方自治体(北上市)の相互協力
概要
●北上市は企業誘致により工業集積を高めたが下請依存型企業が多く存在。
●地域企業の自立創造型企業への転換を支援するため北上市と岩手大学が連携。
●国立大学(岩手大学)に工学部附属金型技術研究開発センター「新技術応用展開部門」を日本で初
の地方自治体(北上市)からの寄附(地財法の特例)で平成15年5月に設置。
地域への経済波及効果
国立大学において金型に関する初
めての研究施設
地域金型企業
技術ニーズ
基礎研究部門
(工学部)
・新商品の研究開発
・新製造プロセスの展開
岩手大学工学部附属
金型技術研究センター
新技術応用展開部門
(北上市)
金型技術センターは地域とともに
世界をリードする金型技術の開発拠点を目指します
<主な関係機関>
・岩手大学
・北上市
・INSいわて金型研究会
・岩手県
研究成果
地方自治体からの寄
附(地財法の特例)に
よる研究部門
41
●地域企業との共同研究
が100件超(5年間)
●地域企業との大型プロ
ジェクト(地域新生コンソ
等)実施6件
●金型センター(大学)発
ベンチャー企業2社
●地域企業との共同研究
による開発実用化製品6件
●大学院工学研究科金
型・鋳造工学専攻平成18
年開設(金型専攻15名)
⑤ 自治体主体による構想・計画
地域産業の高度化と新産業創出の拠点形成のため、北九州市により、平成13
年に北九州学術研究都市が開設された。
国公私の理工学系の大学等の研究機関及び企業の研究部門の集積や産学連
携の中核機関として、(財)北九州産業学術推進機構の設置し、地域産業の頭脳と
なるべき知的基盤の整備を行っている。
図3−11 北九州学術研究都市
成功の鍵
市の強力なリーダーシップ発揮と産学官によるビジョンの共有と実践
概要
●地域産業の高度化と新産業創出の拠点形成のため、平成13年に北九州学術研究都市を開設。
●国公私の理工学系の大学、研究機関及び企業の研究部門の集積や産学連携の中核機関としての
(財)北九州産業学術推進機構の設置により地域産業の頭脳となるべき知的基盤を整備。
●中国のトップ大学をはじめ、アジアとの橋渡しとなる留学生が多数在籍。アジアの頭脳の集積により、
アジアの中核的な学術研究拠点を形成。(教授陣、研究者、学生等で約3,000名)
早稲田大学大学
院情報生産シス
テム研究科
北九州市立大
学大学院
国際環境工学
研究科
産学連携センター
第Ⅰ期キャンパ
スゾーン(35ha)
九州工業大
学大学院
生命体工
学研究科
情報技術高度化センター
共同研究開
発センター
事業化支援センター
産学連携ゾーン
地域への経済波及効果
●北九州学術研究都市へ
の進出等企業数52社(う
ち、ベンチャー企業11社)
●特許出願数392件以上、
移転件数114件
●知的クラスター創成事業
による新事業創出(試作数
133件、新商品15件、ベ
ンチャー創業5社)
●アジアに近いという地理
的優位性もあり中国の清
華大学が研究室を開設
<主な関係機関>北九州市立大学、九州工業大学、早稲田大学、福岡大学、
北九州市、研究機関(9機関)、民間企業・ベンチャー群(52社)
理工系の大学等の研究機関、企業の研究部門を同一のキャンパスに集積、進
出大学の教育・研究理念の共通化、キャンパスの一体的な運営、施設の共同利用、
研究者・教員・学生相互の交流と連携といった特徴がある。
アジアに近いということもあり、アジアの橋渡しとなる留学生が多数在籍し、中国
の精華大学が研究室を開設する等、アジアの頭脳の集積により、アジアの中核的
な学術研究拠点の形成が推進しつつある。
民間企業52社(うち、ベンチャー企業11社)が進出し、特許出願数392件以上、
移転件数114件になる等といった成果が見られる。
42
市の強力なリーダーシップによる構想と計画と産学官の関係者がその構想・計
画に賛同し、ビジョンと目標を共有したことにより、上記の成果に結びついたと考え
られる。
(3) コーディネータ人材による産学連携コーディネート、起業家支援、事業化支援
① 大学・TLO等における産学連携体制の強化
立命館大学は理工学部の移転を契機として、1995年に、大学初の産学官連携
を専任で行う組織であるリエゾンオフィスを設置し、窓口の一本化と研究関連業務
を一元化したワンストップサービスが提供できる体制を整えた。また、教員と職員が
一緒に企業を訪問し、積極的にニーズを取り込み、大学のシーズとマッチングさせ
る「コンサルティング型」産学官連携のスタイルを確立した。
図表3−12 立命館大学
成功の鍵 ワンストップの産学官連携組織の設置と30∼40代の文系出身コーディネータの活躍
概要
●1995年に大学初の「リエゾンオフィス」を設置。教員と職員が一緒に企業を訪問し、積極的にニーズ
を取り込み、大学のシーズとマッチングさせる「コンサルティング型」産官学連携のスタイルを確立。
●「産官学連携支援機能」に加え、「知的財産マネジメント機能」「インキュベーション機能」「研究支援機
能」を「リエゾンオフィス」に集結。現在は「理工リサーチオフィス」として総勢約100名の体制で「ワンス
トップサービス」を推進中。
ニーズや資金を導入し、研究高度化に寄与
立命館大学
産業界
理工リサーチ
オフィス
◆先進的産官学連携組織モデル
<主な関係機関>
・滋賀県
・草津市
・(独)中小企業基盤整備機構
多様な形態で技
術移転を推進・
新産業を創出
地域への経済波及効果
●産官学連携型研究累計2,395件、大学発
ベンチャー24社 ⇒雇用創出182名
●BKCインキュベータ入居ベンチャー企業
20社⇒累計従業員数約200名、特許の活用・移
転件数24件等。
●産官学連携を研究の一層の高度化に結び
つけ、21世紀COEプログラム4拠点採択
等「成長指向型の私立大学」「研究拠点の
自律的成長モデル」を具現化。
●《大学等に対する産業界からの評価》(経済産業
省調査)において、2年(2004-2005)連続トップ。
平成18年年4月、産学官連携支援機能としてのリエゾンオフィスを知的財産マ
ネジメント機能、インキュベーション機能、研究支援機能を集結させた理工リサーチ
オフィスとして改組し、研究の入口から出口までを1つの組織で一貫として取り扱う
43
ことになった。総勢約100名体制の規模に拡充し、また、産学官連携のプロフェッ
ショナル「テクノプロデューサ」の養成にも取り組み、20∼30代の文系出身コーディ
ネータが活躍している。
外部研究資金の獲得額の増加やベンチャー企業入居数が増加する等の成果が
出ている。また、経済産業省が行った調査(大学等に対する産業界からの評価)に
おいて、平成16年度、平成17年度に連続トップになる等、立命館大学の産学官連
携活動は産業界からの評価も高い。
上記の成果の要因としては、ワンストップサービスのための窓口の設置、教員と
職員の協働とテクノプロディーサの活躍であると考えられる。
② 市行政の産業振興策と民間出身の常駐コーディネータによる起業支援
花巻市起業化支援センターは、経営・技術・営業等の専門知識を伴った支援と
異動により阻害される継続的な支援の確保を狙いとして、開設当初(平成8年)から、
民間企業からスピンアウトした常駐コーディネータを配置した。
図表3−13 花巻市起業化支援センター
成功の鍵
「先進的な常駐コーディネーターの配置」と「市行政と一体となった地域企業支援」
概要
●開設当初(H8年)から民間企業スピンアウト(当時40歳)の常駐コーディネーターを配置。
(⇒「経営・技術・営業等の専門知識・経験を伴った支援」及び「異動により阻害される継続的な支
援」の確保が狙い)
●「入居型のインキュベーション施設」であると共に「市の内発型の産業振興策」の中核的機能を担う。
●開設10年を迎え、新機能として研究施設(岩手大学複合デバイス技術研究センター)を設置。
岩手大学花巻サテライトを開設し、地域企業への
研究開発支援機能を追加(H19.2∼)
花巻市
∼ 産業振興策 ∼
企業誘致
有機的な連携
内発型
産業振興策
<主な関係機関>
・花巻市(開設者)
・JANBO
・岩手大学
施
策
展
開
花巻市起業化
支援センター
3名の常駐コーディネータ
ー(全て民間企業スピンアウ
ト)による総合的な支援
花巻市ビジネス
インキュベータ
花巻市賃貸工場
製造業&都市型産業(IT・福
祉)のインキュベート
(平成12年度補正で、整備)
企業誘致及び支援セ
ンター退所後のセカ
ンドステージ
地域への経済波及効果
●退所企業の市内展開
(退所企業数32社のうち、 市内
に自社工場展開4社、賃貸施設に
移転7社。定着率は約35%)
●新規雇用の創出
(延べ300人を超える雇用を創
出。入居企業の従業員は、常に
総勢100名程度。)
●市産業振興策の牽引役
(市施策「内発型振興(地場企業
支援)」の実行部隊として産学
連携の発掘・マッチング等)
●花巻市の「広報塔」
(先進的な取組に対する視察受入
は過去3年間で約3,000名
各種メディア掲載もあり市のP
R効果に資し、企業誘致に貢
献)
入居型のインキュベーション施設であるとともに、市の内発型の産業振興策の中
44
核的機能を担っている。花巻起業化支援センター、花巻市ビジネスインキュベータ、
花巻市賃貸工場の3施設が連携し、3名の常駐コーディネータによる総合的な支援
を行っている。平成19年2月には、岩手大学の花巻サテライトを開設し、地域企業
への研究開発支援機能を追加した。
卒業企業32社のうち、市内に自社工場を展開した企業が4社、賃貸施設に移転
した企業が7社と市内定着率は約35%で、新規雇用はのべ300人を越える雇用
を創出しており、入居企業の従業員は、常に総勢100名程度となっている。
民間出身の3名の常駐型コーディネータの配置による総合的な支援の実施、市
行政による地域企業支援(支援ステージが異なる3機関の連携)により、上記の成
果につながったと考えられる。
③ ビジネス・インキュベータによる入居から卒業までの一貫支援
大阪市都市型産業振興センターでは、国、大阪市の助成を受け、創業期まもな
い研究開発型企業を支援する島屋ビジネス・インキュベータを1990年7月に開設
した。貸室数31部屋で、スタートアップ期の経費負担軽減に配慮した傾斜家賃制
度を導入している。
図表3−14 島屋ビジネスインキュベーションセンター
成功の鍵 民間出身の同一IMによる入居から卒業までの長期的育成プログラムの提供
概要
●1990年7月に開設された日本で歴史のあるインキュベータの一つであり、既存施設を改修
●貸室数31部屋で、傾斜家賃制度を導入
●研究開発型インキュベータであり、経営担当と技術担当の2名の常勤IMによる密着型育成
地域への経済波及効果
卒業企業を中心とす
る島屋ハイテクフロ
ンティア企業交流会
が構築され、大阪市
のハイテクベン
チャー成長の活動を
実践
<主な関係機関>
大阪市
大阪産業創造館
大阪市立大学
大阪市立工業研究所
テクノシーズ泉尾
経営担当IMは在職8年目であり、生
存し続ける企業になるよう、起業家の
顔をみながらデータに基づいた育成
を実施
45
●入所企業数 22社(平均
入所期間4年)
●入所企業の雇用創出数
99名(入所後増加数)
●入所企業の売上高増加額
12.9億円(昨年1年間の
増加額:2億円)
●卒業企業数 76社
●卒業企業の市内定着率
57.9%(生存企業数で
は69.8%)
経営担当と技術担当の2名の常勤インキュベーションマネージャー(IM)による密
着型の育成(担当IMが起業家の顔を見ながらデータに基づいた育成を実施)して
いる。を行っている。特に、経営担当のIMは民間出身であり、同一IMによる入居か
ら卒業までの一貫した長期的育成プログラムの提供が行われ、以下の成果につな
がったと考えられる。
入所企業数は22社であり、入所企業の売上高増加額は、12.9億円(平成18
年度1年間の増加額は2億円)という成果が出ている。卒業企業は76社、大阪市
内定着率は57.9%(生存企業数では、69.8%)といった地域への経済波及効果
も出ている。
(4) 公設試の先進的取り組み
① 愛媛県産業技術研究所紙産業技術センター、高知県立紙産業技術センター
全国に4つの自治体(静岡県、岐阜県、愛媛県、高知県)が紙関連公設試機能
を持っているが、愛媛県産業技術研究所紙産業技術センター、高知県立紙産業技
術センターは紙関連産業支援に特化した公設試である。
四国には、四国の全産業の11%、全国紙産業の12%を占める紙産業の集積
があり、ニッポン高度紙工業(株)や阿波製紙(株)といった、ニッチ市場でシェアがト
ップクラスとなっているニッチトップ企業の存在がある。
そうした産業集積の特徴にあわせ、自治体が公設試への設備投資等の拡充を
行った結果、両公設試は、年間数千件の依頼試験を実施しているが、そのうち半
数を県外企業が占め、全国から頼られる存在となっている。平成18年度実績では、
愛媛県紙産業研究センター2が1,377件の依頼試験実績のうち、県外が568件
(49%)であり、高知県立紙産業技術センターが2,710件の依頼試験実績のうち、
県外が1,169(43%)である。
また、紙産業が必要とする技術の研究に対しては、大学等では体系的な教育・
研究機能がないため、公設試で行う研修 3には、四国内外の企業や印刷局の職員
の受講者が多いことなど、特化した公設試の技術蓄積、設備、研修等への期待が
大きい。
全国の紙産業を支える公設試となるという成功につながった要因として考えられ
るのは、自治体が特定産業の集積を背景に特化した公設試整備を継続し続けたと
2
平成20年4月1日、「愛媛県紙産業研究センター」から「愛媛県産業技術研究所紙産業技術センター」に名称
変更。
3
(社)愛媛県紙パルプ工業会が実施機関。
46
である。
図表3−15 愛媛県産業技術研究所紙産業技術センター、
高知県立紙産業技術センター
成功の鍵 自治体が特定産業の集積を背景に公設試整備を継続し続けたこと
概要
●全国4自治体が紙関連公設試機能を持つ。独立した公設試では愛媛県と高知県のみ
●年間数千件の依頼試験のうち半数が県外企業、全国から頼られる存在
●大学等では体系的な教育・研究機能がなく、特化した公設試の技術蓄積、設備、研修等への期待大
【依頼試験実績】
愛媛県 16年度 1129件 うち県外568件(50%)
18年度 1377件 うち県外669件(49%)
高知県 16年度 3267件 うち県外1923件(59%)
岐阜県産業技術センター紙研究部
(和紙、洋紙、機能紙等)
18年度 2710件 うち県外1169件(43%)
地域への経済波及効果
愛媛県産業技術研究所紙産業技術センター
(機能紙、不織布、加工紙、洋紙等)
●四国の製造品出荷額の1割
強を占める紙産業
シェア:四国全産業の11%、全国紙産業の12%
●ニッチトップ企業の存在
静岡県工業技術研究所富士工業技術支援センター
(洋紙、機能紙、古紙処理等)
ニッポン高度紙工業㈱ 電解絶縁紙
阿波製紙㈱ 自動車用濾紙
●製造中核人材事業の自立化
業界と公設試が主体で自立化
高知県立紙産業技術センター
(機能紙、不織布、手漉き和紙、文化財修復等)
四国内外の企業や印刷局職員も受講
② 岐阜県生活技術研究所
岐阜県生活技術研究所は、家具・装備品製造業への技術支援等を行う公設試
であり、従来から、地域企業の要望等により、家具強度試験器やダブルチャンバー
式環境試験室等の製品評価のための機器を先導的に導入してきた。
全国各地での講演や技術相談・指導の希望にも対応しており、また、依頼試験
や試験施設開放の県外の希望者に対しても、体制の整っている限り対応している。
依頼試験では、全利用者のうち、20%が県外企業であり、開放試験施設では全利
用者の50%が県外企業である。
県外企業からの技術相談や依頼試験等の対応により、業界の課題、動向の情
報を得られ、また、依頼試験への対応は、部品メーカーが多い岐阜県内企業の取
引先への支援にもつながっている。
木材、家具への焦点の絞り込みと積極的な県外企業の受入を行ったことが、他
47
地域との差別化や先進・先導性の確保といった地域産業への大きな寄与という成
功につながったと考えられる。
図表3−16 岐阜県生活技術研究所
成功の鍵 木材、家具への焦点の絞り込みと積極的な県外企業の受入
概要
●岐阜県生活技術研究所では、従来より地域企業の要望などにより製品評価のための機器を先
導的に導入。
●他県からの技術相談や依頼試験にも対応、現在技術相談や依頼試験の約3割が県外企業。
●その理由としては、全国的に試験評価装置がある第三者機関が少ないことが上げられる。
岐阜県生活技術研究所が行う全国の家具・装備品製造業への技術支援の実施状況
∼県外からの依頼試験、開放試験施設利用者の地域ごとの割合∼
製品評価のための機器の先導的導入
■家具強度試験機 : JIS対応→ISO対応機種
(日本初開発・導入)
■ダブルチャンバー式環境試験室
+ レーザー変歪測定器
: ドア・テーブル天板の計測→簡便で早く
■業界の課題、動向の情報を得られる。
■業界の課題、動向の情報を得られる。
■県内企業の取引先の支援にもなる。
■県内企業の取引先の支援にもなる。
<主な関係機関>
岐阜県生活技術研究所
(岐阜県高山市)
北陸
10%
関東
10%
関西
20%
愛知
30%
三重
30%
依頼試験や試験施設開放の希望者も県外であっても
依頼試験や試験施設開放の希望者も県外であっても
体制の整っている限り対応。
体制の整っている限り対応。
広島、会津、鎌倉など
広島、会津、鎌倉など
全国各地で講演や技術相談・指導の希望にも対応。
全国各地で講演や技術相談・指導の希望にも対応。
地域内産業への寄与
★安全で使いやすく、使い心地の良い製
品群
★他地域との差別化
★先進・先導性の確保
地域への経済波及効果
●他県からの依頼・相談にの
ることで、業界の共通的課
題・動向把握が可能。
●県外企業からの依頼対応
は取引先となりうる県内企業
への支援にもなる。(部品
メーカーの多い岐阜県ではこ
の例が多い)
●現在、依頼試験では全利
用者のうち20%が県外企業、
開放試験施設では全利用者
の50%が県外企業である。
③ 独法化による柔軟な経営の実現と企業ニーズに合致したサービスの充実
岩手県工業技術センターは、知事の主導により、平成18年4月に全国初の公務
員型の地方独立行政法人に移行した。
独立行政法人となったことで、理事長の裁量権が増え、技術環境の変化に応じ
た予算の執行、タイムリーな競争的外部資金へ応募が可能になった。裁量権の拡
大は、同時に自立やチャレンジ、存続への危機意識につながり、職員等の意識改
革が行われた。競争的外部資金への応募が可能となったことで、競争意識が働き、
自己収入の増加により、マンパワー、設備、研修の強化につながった。
また、開館時間の延長や研究員派遣、受託・共同研究の開始時期の随時化、複
数年契約が可能になる等、企業へのサービス対応が柔軟になった。
そうしたサービスの拡充により、年間来所者が平成14年度に比べ、独立行政法
人化した平成18年度は約1.5倍(7,466人→11,197人)となり、外部資金獲
48
得額が増加する等、着実に成果があがりつつあるといえる。
また、平成19年度に岩手県工業技術センターが、顧客企業に対してのアンケー
ト調査を行ったところ、独立行政法人になる前に比べて「悪くなった」という答えはな
く、「良かった」と「どちらとも言えない」の回答が合わせて約97%となる等、着実に
企業支援の強化につながっているものと考えられる。
独立行政法人化を行ったことにより、職員が存続への危機意識と自立心を持っ
たこと、知事の前向き姿勢により、「企業様支援の強化」といった目標の達成につな
がり、大きな成果をあげていると考えられる。
図表3−17 岩手県工業技術センター
成功の鍵 存続の危機意識、知事の前向き姿勢。その狙いは『企業様支援』の強化。
概要
●裁量権拡大:意識改革(自立、チャレンジ、マーケットイン)、スピードアップ
●資金獲得と企業様サービス向上:外部資金・自己収入増 → マンパワー・設備・研修の強化
●公務員型メリット:一体的県政課題対応、県と人事交流、モラールアップ
(サポイン、地域コンソ、地域資源等)
情報提供
依頼試験
パフォーマ
ンス向上
独法化で県の
強力な機関に
報告
産業振興
県政課題解決
地域への経済波及効果
無回答
3%
H19.2企業様アンケート調査
良かった
64%
33%
「独法化は?」
どちらとも
言えない
悪くなった: 0 %
競争的外部資金
H19年:18件
1億200万円
・機器貸付の定額料金制
連携と支援
・料金の後払い制
・販売促進、市場拡大支援
岩手県議会
岩手県議会
岩手県庁
岩手県庁
1億2,800万円
・中期目標
・交付金(人件費・事業費)
・人事交流で支援
49
15
16
164社
H20経済効果調査へ
17
平 成
18
19
直接
センター
企業様へ 管理分
【サービス向上メニューの新設、改廃】
イノベーション創出
独法化
・機器の時間外貸出
市場化支援
設備開放
・期日指定依頼試験
人材育成
・受託研究の年度中途実施
技術相談
自己収入
技術支援
研 究 開 発
外部資金
お客様サービス向上
独法センター 理事長
【独法化のメリット】
・タイムリーな外部資金への応募、
管理法人としての参画が可能に
・予算繰越、経費区分変更、組織改編
・一時的雇用(実験助手等)
4.地域発イノベーション創出に向けた政策の基本的考え方
○ 「連携」、「オープン」、「集中」をキーワードとする地域発イノベーション創出の加速
∼ 「(仮称)地域発イノベーション加速プラン」の推進 ∼
人口減少と少子高齢化が進み、国や自治体の財政的制約が高まる中にあって、地
域経済の活性化は、喫緊の課題である。中でも、地域発イノベーション創出は、地域
において国際競争力ある新事業・新産業の創出を促し、内発型の経済成長に寄与す
ることから、期待が大きい。
地域発イノベーション創出を牽引するのは、中小・ベンチャー企業を初めとする企業
である。その企業に「知」の付加価値を吹き込み、イノベーション創出のシーズを提供
し、技術的課題の解決の糸口を提供するのは、大学、公設試等の教育研究機関であ
る。その有する人材、研究試験設備等の研究開発資源を、従来にも増して効率的に
活用することが必要である。また、研究シーズの発掘から、研究開発、事業化に至る
までには、支援機関、金融機関、行政など様々な主体が関わっている。これらの産学
官の関係者がそれぞれの役割を果たし、地域発イノベーション創出に協創する必要
があるが、それぞれの組織が異なる目的と機能を持つが故に、産学官連携は、言葉
でいうほど容易なことではない。
こうした制約を克服し、地域活性化を実現していくためには、研究機関や支援機関
等の各関係機関が従来のような縦割りを排除し、地域それぞれの特徴を活かした「強
み」に資源を集中させつつ、「弱み」を互いに補完し合う関係となるよう、地域に存在す
る資源の「選択と集中」を推進することにより、地域発イノベーション創出を地域自ら
促進することが重要である。また、各地域は人口、産業、技術、自然、歴史、文化など
極めて多様な特徴を持っている。したがって、地域自身が、それぞれの地域の特徴を
踏まえた主体性のある「地域の構想」を共有することが求められている。そして、国は、
こうした地域の主体的な取り組みを、強力に後押ししていくべきである。
このような認識の下、地域発イノベーション創出を加速するため、
① 【連携】産学官連携ネットワークの一層の充実、
② 【オープン】既存組織の垣根を越えた研究開発資源(研究試験設備、人材等)
の地域企業・ベンチャー等への利用開放の促進、
③ 【集中】持てる潜在力の最大活用と結集
を施策の柱に、以下の施策をパッケージ・プログラムとして推進し、施策の「最大燃費
効率」と政府、自治体等関係者が協働して、持続的・自立的な地域経済活性化を実
50
現していくべきである。
(1) 地域クラスター施策の更なる推進と成長
地域から自律的、連続的なイノベーション創出を促進していくためには、地域の特
色や強みを活かした産学官の連携による国際競争力あるクラスター形成が必要不可
欠である。世界各国の成功事例を見れば明らかなように、クラスター形成は、一朝一
夕に形成されるものではなく、20年、30年という長い期間を要する。したがって、我が
国のクラスター施策の推進にあたっては、短期的な成果のみを追求するだけでなく、
中長期的視点に立った取り組みが必要である。
今後の課題の一つとして、各地において、規模は小さくとも、研究シーズと市場ニー
ズの両方を把握した研究開発能力と事業化能力を備える企業の発掘を一層進めるこ
とが重要である。このような企業が、自律的なクラスター形成の中心的な担い手企業
となるとともに、効果的なイノベーション創出に貢献することが期待できる。こうした企
業を中心として、産学間、企業間の連携仲介機能を強め、また、研究シーズ型のベン
チャー企業への事業化支援機能を強化することにより、クラスター機能を強化する。
この際、地域内の資源が不足する場合には、他地域、海外も含めたより広域的な
クラスター間のネットワークを含めて実現していく。そのため、地域の関係機関がシー
ズ創出から事業化に向け、地域の強みに合わせ様々な施策を活用しつつ重層的に
展開していき、イノベーション創出の「苗床」機能を高めていくことが極めて重要である。
また、地域の中小企業への課題・ニーズに対して対応する全国約300カ所に設置さ
れる地域力連携拠点に持ち込まれる中小企業の産学連携の研究開発や大学等研
究機関とのマッチングなど技術的相談については、的確に対応できるよう密接な連携
をとるべきである。
さらに、研究開発の成果をイノベーション創出につなげ、ビジネスの拡大、経済成長
を実効あるものとしていくためには、地域における研究開発を、より社会が求めるニー
ズに根ざしたものとして行く必要がある。このため、知的クラスター施策(文部科学省)
と産業クラスター施策(経済産業省)のより緊密な連携や、ポスドク人材等の大学から
企業への中長期派遣の仕組みを検討すべきである。
○ 大企業と中小・ベンチャー企業とのマッチング強化
産学連携や中小企業間の連携を今後とも促進していくとともに、優れた技術やア
イデアを持ちながら、資金不足や販路不足に悩む地域の中小企業とパートナーと
なる大手企業を結びつけるための実効ある仕組みを主要業種において構築する。
51
これにより地域の中小企業等が大企業に対して商談する機会を持つことが可能に
なることにより、地域・中小企業の円滑なビジネス展開を促進する。
具体的には、情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)のような大手企業と中小・
ベンチャー企業との常設の商談支援の仕組みを、地域の持つ技術・資源ポテンシ
ャルを踏まえ、主要業種において構築をしていくことが重要である。ただし、大企業
と中小企業の単なる下請的な関係にならないシステムに配慮して構築する必要が
ある。
○ 産業クラスター計画の広域的・国際的展開
産業クラスター計画は、主に地域内において、中堅・中小企業、ベンチャー企業
等と大学等の研究機関との人的ネットワーク形成に資する事業を推進し、イノベー
ション創出の「苗床」を形成してきた。現在では、地域内の産学官連携に留まらず、
地域を超えた広域的な連携のニーズが高まってきており、バイオ、情報家電、環境
などの分野で、同じ分野におけるクラスター間連携が進みつつある。
このような広域連携は、各産業クラスター・プロジェクトが目標・戦略を設定した
上で、それぞれの強み・弱みを相互補完し、全国的にネットワークが広がることから、
「産業クラスター計画」は、「ナショナル・イノベーション・システム」の一翼を担ってい
る。各地に存在する産業支援機関、各クラスターの推進機関、研究開発支援機関
等産業クラスター計画に参画する各機関、産学の有機的連携を一層強化し、新規
事業、新規産業の創出を担う強力な全国ネットワークとすべきである。
また、近年各国から我が国の産業クラスターへの関心が高まる中、グローバルな
展開が重要である。海外のクラスターとの連携施策について検討し、国際的クラス
ター交流を強化することが求められる。今後、JETROとの連携強化のもと、その海
外事務所や支援事業を活用し、海外クラスター機関との交流促進、海外への情報
の発信、国内外企業とのビジネスマッチング等重点的に推進すべきである。
また、海外の販路拡大に向け、産業クラスターと海外のユーザーとの連携強化
の推進を図る。
○ 知的クラスターと産業クラスター等との連携強化による事業化までの支援
産業クラスター計画は、平成14年から文部科学省が実施している知的クラスタ
ー創成事業等と合同成果発表会、産業クラスター会員企業に対する知的クラスタ
ーで生み出された技術のプレゼン発表会、地域クラスター推進協議会等を開催し
ている。
52
知的クラスターと産業クラスターの連携により、成果を出していくには、産業クラ
スターの参加企業のニーズにマッチした知的クラスターの研究開発テーマを発掘し
たり、企業のニーズを研究開発に反映させることが重要であるため、両クラスター
の中核を担っている者による定期的なキーマン会議等による情報交換を行う等、一
層の連携強化を図るべきである。
そうした両クラスターの中核的人物を介した交流により、連続的なイノベーション
創出の仕組みを作っていくべきである。
図表4−1 強力な事業化支援の展開
【大手企業と中小・ベンチャー企業との常設の商談支援の仕組みの例】
現状・課題
・産学官のネットワーク
受入企業
提案企業 ①相談 仲介事務局 ④提案
・産学官のネットワーク
は形成。しかしながら、
は形成。しかしながら、
大手企
国内外
研究開発成果の事業化
業各社
研究開発成果の事業化
②フィ
の
が依然難しい。
の技術
③構想を
が依然難しい。
ルタリ
中堅・
開発、商
ブラッシュ
・特に地域の中小企業
ング
・特に地域の中小企業
中小、
品開発、
アップ
は、優れた技術やアイデ
ベン
は、優れた技術やアイデ
購買担
アを持ちながら、大手企
チャー
当者等
アを持ちながら、大手企
業への取引などの販路
業への取引などの販路
開拓が難しい。
⑤実面談・商談へ(不採用の場合はその理由
開拓が難しい。
やアドバイス等を記述した報告書を送付)
施策の例
強力な事業化支援の展開
・優れた技術やアイデアを持ちながら、資金不足や販路(チャンネル)不足に悩
む地域・中小企業と、大手企業を結びつける実効ある仕組みを主要業種(バイ
オ等)において展開する。
(参考) 「情報家電ビジネスパートナーズ」(近畿の産業クラスターにおける関西
大手企業16社と中小・ベンチャーとの常設の商談支援)
(2) 大学・公設試等のポテンシャル(知財含む)を活かした地域活性化の推進
地域においては、大学は「知の拠点」でありイノベーション創出の拠点である。国内
外の先進事例を見ても、イノベーション創出の拠点として大学が果たす役割は大きい。
地域の大学等は従来にも増して、地域の特色や強み、社会のウォンツ等に目を向け
つつ、企業等との共同研究等の積極的な実施等によって、地域の活性化に対してよ
り大きな役割を果たすべきである。その際、大学の研究開発リソースを一方的に提供
するだけではなく、研究開発に参画する大学の研究者の教育・研究の能力向上に資
53
するような連携を行うことが重要である。また、大学の有する知的財産を地域資源とし
て有効に活用していく上では、TLO等の産学連携機関が重要な役割を果たすことか
ら、TLOも地域活性化における組織間連携の一翼を担うことが重要である。また、公
設試は、地域の中小企業の技術力向上と技術・製品の開発に貢献しているが、地域
の中小企業のニーズにより的確に応えるため、特色ある公設試の機能向上が重要で
ある。
○ 大学を中心とした産学連携集積拠点の形成
地域の最大の知的リソースである大学は、産業界、地域との連携強化を模索し
ている。特に、旧国立大学は国立大学法人への移行後、その多くが特色と競争力
ある大学づくりに向けその動きを加速している。産業界は、グローバル競争の激化
の中、先端技術開発分野における大学との連携強化を図ろうとしており、地域は、
地域活性化を目指し、大学の有する各種リソース等(人材、シーズ、施設等)に対し
て大きな期待を寄せている。このように大学、産業界、地域の目指す方向は概ね一
致し、産学連携強化に向けた環境は醸成されつつあるが、現実には、大学等の知
見を産業に活用するための産学連携施設の不足等から産学連携は未だ十分とは
言えない。また、大学も財政的制約等から地域から要請のある、地域課題解決の
ための研究人材活用、大学の有する機器の利用開放等を十分行えない状況にあ
る。今後、大学を中心として産学官の地域イノベーション機能を結集し、研究開発
から事業化までの一体的連携・支援体制を構築するため、次のような産学連携集
積拠点形成に向けた取り組み強化が必要である。
① 大学と連携し産学連携の拠点となる施設を重層的に整備
大学が主体的に進める特色ある産学連携構想を支援するため、国は、大学の
敷地内に、産学の共同研究施設やインキュベーション施設等産学連携の拠点と
なる産学連携関連施設を重層的に整備する。これにより、我が国の産学連携基
盤を抜本的に強化する。
また、地域の持てる潜在力の最大活用と結集のためには、大学を中心とする
一定の地域に大学や企業の研究所、産業支援機関、公設試等が近接して立地
し、集積の効果を最大限発揮する産学官連携集積拠点形成への視点が重要で
ある。その際、北海道大学の先進的事例に見られるように、大学、地域経済界、
自治体等地域の主要関係者が一体となって、「大学を中心とした一定の地域に、
各種施設の集中的整備を図り、地域イノベーション拠点の形成と集積効果の最
54
大化を目指す」という、地域イノベーション拠点形成についての「地域の構想」を、
地域の関係者が共有することが極めて重要である。かかる主体的な構想が共有
され、提示される地域については、国は、その取り組みを強力に後押する。
② 地域活性化の拠点となる大学の施設充実
大学が、地域企業に対しその有する試験研究機器の利用解放を促すためのオ
ープン・ファシリティや地域課題解決のための現地リサーチラボ等を整備する場
合、制度的、財政的制約があるが、その解決に向けて支援を強化する。
図表4−2 大学を中心とする産学官連携集積拠点の形成
先進的事例
現状・課題
北大創成科学共同研究機構
・地域の最大の知的リソースである大学
・地域の最大の知的リソースである大学
オープンファシリティー
は、独法化の下、地域、産業との連携強
は、独法化の下、地域、産業との連携強
民間研究所
北大各種研究センター
化を推進中
化を推進中
道立工業試験所
・産業界は、先端技術開発分野における
・産業界は、先端技術開発分野における
・衛生研究所等4機関
大学との連携を強化中。地域は、大学の
大学との連携を強化中。地域は、大学の
(財)北海道科学技術総合振興センター
有する各種リソース等(人材、シーズ、施
有する各種リソース等(人材、シーズ、施
設等)に対する期待大
JSTイノベーションプラザ
設等)に対する期待大
・共同研究施設、インキュベーション、
・共同研究施設、インキュベーション、
中小機構インキュベーション
オープンファシリティー等の産学連携の
オープンファシリティー等の産学連携の
空間が不足
空間が不足
北海道大学北キャンパス一帯
施策の例
○ 産学連携の拠点となる施設を大学と連携し重層的に整備
大学の敷地内に、大企業も含めた産学の共同研究施設、インキュベーション施設等、産学
連携の拠点となる施設を重層的に整備(中小機構による産学連携施設整備)
現状 :約10大学から要望有り。
○ 地域活性化の拠点となる大学の施設支援
大学が、地域企業に対しその有する機器の利用解放を促すためのオープンファシリティー、
地域課題解決のための現地リサーチラボ等を整備する場合支援
○ 地域の中小企業の技術的課題・ニーズに対応する公設試の機能向上
公設試は地域の中小企業に対する技術指導、技術相談、依頼試験等の基本的
サービスを通じて中小企業の技術力向上と技術・製品の開発に貢献している。こう
した活動を通じて、地域の中小企業の技術レベルと地域企業固有のニーズを把握
しており、今後さらに顧客となる中小企業を増加させるとともに、中小企業を巻き込
んだ産学官連携において公設試がコーディネータ役を果たしていくことが期待され
る。
55
例えば、農商工連携推進のために農林水産系、環境衛生系、鉱工業系の公設
試が連携する、ものづくり基盤技術の開発で公設試間の協力により地域をまたが
るプロジェクトの形成を行うといった新たなネットワークづくりが、地域によっては予
算・人員の制約を受けている公設試の新たな事業展開につながると思われる。
国においても、(1)基本的機能のフルライン指向を排し、「選択と集中」により地域
固有の要請に対応した特色のある公設試の実現に向けた機能強化、(2)基礎シフト
を脱し、実践指向の支援への転換、(3)試験等設備に依存するのではなく、コーディ
ネータ役を果たすなどのソフト支援手法を高度化させニーズに対応、という動きを
支援していくことが重要である。
このため、地域のニーズを踏まえた特色ある産学官連携プロジェクトの形成にお
いて、公設試が中小企業、大企業、大学、支援機関等が連携する際のコーディネ
ータ役を果たし、事業化に至るまでに必要なソフト支援、取得設備の研究開発終了
後の活用等を地域の拠点として担うことにより、技術の事業化までの中小企業支
援環境(人材・設備)の整備も行えるような支援策を国も推進すべきである。
公設試が地域ニーズに的確に応えていくためには、公設試間の連携だけでなく、
大学、産総研、中小機構等の支援機関とのつながりの強化も重要である。平成20
度より開始される地域イノベーション創出共同体形成事業に、地域の中小企業支
援に重要な役割を担う公設試が参加することにより、地域での研究開発資源の相
互活用と企業へのきめ細かな支援サービスの強化が図られる。
公設試自体も経営努力により人材、設備を含む事業環境の整備を行い、中小企
業向けのワンストップサービス(「地域力連携拠点」事業等)においても、引き続き、
中小企業に密着して技術的支援を担う重要な機関として機能を果たすべきである。
○ 幅広い課題に対応する公設試の人材育成及び知的基盤の充実
上記のような課題に公設試が応えていくためには、研究員、職員の幅広い知見、
組織を越えた人的ネットワークが必要となるが、自治体単独ではこうした幅広い知
見を習得、組織を超えた人的ネットワーク形成を可能とするような人材育成の実施
は困難である。
国の研修機関である中小企業大学校を活用し、経営・技術の両面における幅広
い知見を習得する研修は有効であり、一定期間全国公設試の若手研究員が会す
ることで、横断的な人的ネットワークが形成され、広域的な連携構築のきっかけとな
ることも期待される。
産業技術の幅広い分野に関して最先端の研究を実施している産総研の研究員
56
と共同して研究開発を実施することにより、公設試研究員の自己研鑽と人的ネット
ワークの形成を図ることが有効である。そのため、産総研が新設した公設試研究員
の数ヶ月までの短期の招聘を含む共同研究開発制度を充実させることは重要であ
る。また、欧米への製品輸出に対する中小企業の技術ニーズとして、ものづくりプロ
セスに対する検証可能性(トレーサビリティー)の確立が重要な課題となっている。
このため、産総研の計測・標準に関する技術ポテンシャルを活用した公設試研究
員へ技術研修を実施し、公設試研究員が地域イノベーションに挑戦する中小企業
のトレーサビリティーの確立に貢献することは極めて有効である。
図表4−3 特色ある公設試の機能向上
現状・課題
・・ 地域の中小企業の技術的課題
地域の中小企業の技術的課題
の対応では、公設試が重要な役
の対応では、公設試が重要な役
割を果たしている。
割を果たしている。
・・ 具体的には、企業のニーズに
具体的には、企業のニーズに
応じて、技術相談、依頼試験、受
応じて、技術相談、依頼試験、受
託・共同研究、人材育成、情報
託・共同研究、人材育成、情報
提供等の各種業務を実施。
提供等の各種業務を実施。
・・ 一方、現在公設試は予算・資源
一方、現在公設試は予算・資源
等の制約の中での、機能向上が
等の制約の中での、機能向上が
課題。
課題。
公設試の機能向上が課題
連携プロジェクト形成におけるソフト面の
支援
若手研究員を始めとした人材育成の充実
施策の例
○国の委託で取得した研究機器を、公設試が企業への利用開放できるよう所要の見直しを行う
○公設試等による地域の特色を活かした産学官連携プロジェクト形成と人材・設備の拡充
・中小企業を中心とする農商工連携案件等のプロジェクト形成を支援し、プロジェクトの中で技術の
事業化を睨んだ中小企業支援環境(人材・設備)の整備を推進。
○公設試研究員のための中小企業大学校、産総研を活用した人材育成の充実
(3) 地域の研究開発資源のオープン化の推進
○ 研究開発資源の結集・共有化
地域における大学・高専、独法研究機関、TLO、公設試等の各研究関連機関が、
従来のような縦割りを排除し、それぞれが持つ研究開発資源の有効活用と地域と
しての強みを発揮できる分野を特定して、戦略的な「選択と集中」と「競争と協創」
ができるための相互の信頼醸成が不可欠となる。
57
そのため、「2.地域の現状」で喫緊の課題であると述べたとおり、先ずは短期間
でパートナーシップのメリットを具体化するため、地域の関係研究機関が、設備機
器や人材等研究開発資源の相互融通や企業へのサービスの「ワンストップ化」を
実現する体制の構築を図る。平成20年度新規事業として開始する「地域イノベー
ション協創プログラム」の一貫として、地域イノベーション創出共同体形成事業によ
り、各地域ブロックに、(仮称)地域イノベーション共同体が形成されるが、本事業を
第1段階として、共同体の参加機関が、まず、関係機関相互の信頼醸成を進め、よ
り本質的な「選択と集中」に向けた認識の共有とその実現を図っていくなどのアプロ
ーチが現実的である。
図表4−4 地域イノベーション創出共同体形成事業
平成20年度地域イノベーション創出共同体形成事業 (20年度: 11.2億円)
地域のイノベーション創出
ユーザ(地域企業)
ユーザ(地域企業)
地域・中小企業の研究開発力を底上げ
相談・依頼
イノベーションに関する研究開発支援
のワンストップ化の実現
z 各機関が研究開発リソース(設備や人
材等)を共有、オープン化し地域に還元
z
JST
運営協議会事務局
(協働の規約)
地域の大学
技術コーディネータ
機器オペレータ
産総研センター
農業系公設試
○研究機関の紹介、技術相談への対応
(企業からの照会や相談に対するワンストップでの対応)
○オープン・リソースの地域企業に対する開放
(設備機器や人材の相互融通等)
○地域のニーズに即した試験評価方法の開発、及び提供
TLO
地域の研究機関が大同団結して産業界
の研究開発を支援
工業系公設試
地域イノベーション創出共同体
TLO
地域イノベーション創出共同体
(各ブロック毎に関係研究機関が設置する運営協議会が「共同体」を構成。)
なお、研究開発資源の利用開放にあたっては、先進事例(北大オープンファシリ
ティ)のように、当該地域に限定するのではなく、全国レベルで企業への開放利用
を進めることが重要である。全国への広域的利用開放が、当該機関の機能を更に
高め、地域の強み・特徴を発揮できるようになり、地域の得意とする分野をより強化
する方向に働くことから、ホスト機関のコスト等の負担を考慮しつつ、制度設計を行
い、全国的に「オープン」していくべきである。そうすることで、イノベーション創出を
支える新しいインフラとして我が国全体の国際産業競争力強化と地域経済活性化
58
が車の両輪となる。
また、地域のイノベーションを加速するには、地域の実情に応じ、地域に散在す
る研究開発資源とインフラを大学、公設試、ビジネス・インキュベータ等へ集約・共
用設備化し、イノベーションの燃費効率を最大限高めることが必要である。
(4) 地域イノベーションを担う産業支援人材の発掘・育成・交流
○ コーディネータ人材支援ネットワークの形成と全国のコーディネータ市場の「見
える化」の実現及び実践的研修の実施
地域イノベーションの促進を担う産業支援人材は、様々な機関で、活躍している
が、「質の高いコーディネータがいない(巡り会えない)」との地域の声は依然大き
い。
その背景には、
(1)
地域に様々な呼称のコーディネータが関係機関に散在し、支援機関のニ
ーズと人材が的確にマッチされる仕組みがない。
(2)
質の高いコーディネータが適正に評価され、流通する人材市場が確立さ
れていない。
(3)
各地のコーディネータ間で、スキルやノウハウ、人脈等を共有する仕組
みが確立していないため、コーディネータの活動は依然属人的な能力、
人脈に依存している。
(4)
産業支援人材の社会的地位の確立、ステータスを高めるシステムが構
築されていない。
こうした実情を解決するためには、地域の各関係機関に存在するコーディネータ
人材を全国レベル、地域レベルでつなぐネットワークを構築し、スキルやノウハウ等
の共有、蓄積を図るとともに、お互いに専門分野を補完しあう関係を構築し、地域・
企業等からの相談や要請に、コーディネータが適切に対応できる支援体制を実現
してくことが必要である。
具体的には、地域ブロック毎にコーディネータ人材間のハブとなりうる「つなぎ役
コーディネータ」を配置したコーディネータ・ネットワークを構築することにより、各地
に散在しているコーディネータ人材を支援する体制を全国レベルで整備することが
考えられる。
また、全国レベルでの人材流通を実現させるため、コーディネータ人材に関する
ポストやニーズに係る情報を、志望者と雇用者の双方で共有できる仕組みを構築
59
することで、コーディネータ市場の見える化を図る。
実践力を有した質の高いコーディネータ人材を確保、育成するため、より高度で
広範な専門的知識、経験を強化するOJTやインターンシップ等を通じた高度な研修
を実施する。その際、コーディネータが「経営・事業上の意味合いも位置づけた技術
評価の手法」等を身につけられるように研修内容の充実を図る。さらに、研修終了
者を高度なコーディネータ人材として評価、認証する制度を検討するとともに、高度
なコーディネータ人材について、社会的地位、知名度向上のため統一的呼称の使
用など優秀なコーディネータ人材が評価され、認知され、ステータス向上を高めて
いく仕組みが必要である。
○ ポスドク人材等若手研究人材の企業への中長期派遣の推進
ポスドク人材等若手研究人材を中小企業の研究開発を担う人材として有効活用
できれば、中小企業の基礎的技術力の向上に資するものと考えられる。大学から
企業への短期間のインターンシップは従来から行われているが、大学にいる人材、
特に理工系のポスドク人材等若手研究人材の中長期の受入のニーズが企業から
出ている。製品開発型の中小・ベンチャー企業は、新事業創出・既存技術の高度
化を行う案件を有していても、技術開発等を担う技術者の不足を課題として感じて
おり、大学院生やポスドク等若手研究人材を中長期的に、地域の企業へ派遣する
ことで、企業ニーズと大学シーズのマッチング率を高め、産学連携による事業化へ
の取り組みを促進することが可能である。具体的には、ポスドク等若手研究人材と
技術開発型の中小・ベンチャー企業とのマッチングの仕組みを、産業クラスター・プ
ロジェクトの1つとして試行的に開始し、課題を抽出・検討・解決した上で、具体的な
仕組みに仕上げていくことが現実的である。
例えば、近畿においては、産学官の交流会議を開催し、経済省の施策を活用し
つつ、①人材データベース(企業人材版、大学の高度研究人材版)の作成、②高度
研究人材と中小企業のマッチング、インターンシップなどの促進といった提言を実
施することを予定している。
また、企業における技術者不足に対応するため、外国人留学生の国内企業へ
の積極的採用も検討すべきである。
○ 各機関(大学、TLO、企業、商社、金融等)人材交流の促進
大学等の研究機関の研究成果から事業化までには多くの機関の支援が必要と
なる。そのため、大学、TLO、企業、商社、金融等の相互の人材交流により、各機
60
関との連携を強化し、それぞれの強みを活かして、研究成果から事業化までを連
続的に支援可能な体制な整備が重要である。
図表4−5 コーディネータ人材のネットワーク化と実践的研修実施による人材の「質」
の抜本的向上
【支援人材に必要とされる資質 】
現状・課題
519
専門的知識
・地域には様々なコーディネータが
・地域には様々なコーディネータが点在している
点在している
が、どこにどんな人材がいるかが分からない。
コーディネート力
が、どこにどんな人材がいるかが分からない。
・ニーズと人材がマッチされる仕組みがないため、
・ニーズと人材がマッチされる仕組みがないため、
ネットワーク力
コーディネータ人材の市場も確立されていない。
コーディネータ人材の市場も確立されていない。
・各地に点在するコーディネータ間のネットワーク
交渉力
・各地に点在するコーディネータ間のネットワーク
がない。
がない。
社会全般に係る知識
・専門知識があっても、コーディネート力、ネット
・専門知識があっても、コーディネート力、ネット
その他
ワーク力は、簡単には、身に付かない
ワーク力は、簡単には、身に付かない
503
417
192
162
0
施策の例
n=761
22
100 200
300 400 500 600
•実績のあるコーディネータを「つなぎ役」とした全国コーディネータ人材支援ネットワーク構築
•実績のあるコーディネータの下でのOJTやインターンシップ等による実践的育成研修
•コーディネータのキャリアパス形成を可能とする人材マッチングの仕組みの構築等
•ポスドク人材の企業への中長期派遣推進
(5) 実効ある「選択と集中」、「競争と協創」を実現する制度改革等
○ 研究開発の成果が実証されるような取り組みのための新たな対応
イノベーションの加速には、優れた技術を生み育てるとともに、その技術の社会
への受容の障害となっている制度の改革を図る必要がある。このため、特定地域
において、研究開発の推進と併せ、制度的課題を解決する先駆的取り組みを行う
「スーパー・テクノイノベーション特区」の創設を検討する。
我が国が戦略的に取り組む技術分野において、内外の優秀な人材を集約し産
学官連携で行う研究開発のテーマと主体を公募により選定し、関係各省が連携し
て資源の重点配分を行うとともに、生み出された技術の国際標準(デファクト、デジ
ュール)の創成や、実証エリアにおける住民の実証事業への参加を募る等の取り
組みを実施する。併せて、実証事業を進める上であらかじめ必要となる制度的課題
の解決に向けて技術の開発者と制度所管官庁との間で継続的に調整を行い、特
許の早期審査制度の活用、様々な行政手続の迅速化等を図ることで社会への定
着、開発した技術を用いたビジネスモデルの確立を図る。こうして、特定のテーマ、
61
地域への「選択と集中」を進め、当該地域がその技術の研究開発に関するメッカと
なること、他地域との差別化された技術を追求しつつ、地域における産学官連携に
よる「競争と協創」を実現することで、イノベーションの更なる加速を目指す。
図表4−6 「スーパー・テクノイノベーション特区(仮称)」プロジェクトの検討
現状・課題
技術的
課題
制度的
問題
研究
改革
制度的問
題のため、
そもそも研
究開発が
着手され
ない
・科学技術発展のためのインフラの水準が
・科学技術発展のためのインフラの水準が
高くても、法規制が障害となって研究開発
高くても、法規制が障害となって研究開発
が進まない可能性がある。
が進まない可能性がある。
・技術的には対応可能な状態となっていても、
・技術的には対応可能な状態となっていても、
社会の中で実現にたどり着けずにとどまり、
社会の中で実現にたどり着けずにとどまり、
諸外国に後れをとってしまう。
諸外国に後れをとってしまう。
制度的問
題のため
に実証・
実用化で
きず、技
術が死蔵
・イノベーションを創出するためには、技術
・イノベーションを創出するためには、技術
的な課題の解決のみならず、制度的課題
的な課題の解決のみならず、制度的課題
の克服向けた取組も必要。
の克服向けた取組も必要。
研究開発成果が社会に適用されるには、
技術的課題に加え制度的課題も克服する必要
実証
社会への適用
技術的課題と、制度的問題を同時に解決する
新しいイノベーションモデルを創出
施策の例
○
イノベーション実現のため、特定地域において、研究開発の推進と併せ、
○イノベーション実現のため、特定地域において、研究開発の推進と併せ、
制度的課題の解決に向けて加速的に実証。
制度的課題の解決に向けて加速的に実証。
・・ 内外の優秀な人材を集約し、産学官で行う研究開発テーマと主体を公募により選定。
内外の優秀な人材を集約し、産学官で行う研究開発テーマと主体を公募により選定。
・・ 制度所管官庁との間で継続的に調整を行い、特許の早期審査制度の活用、様々な行政手続きの迅速
制度所管官庁との間で継続的に調整を行い、特許の早期審査制度の活用、様々な行政手続きの迅速
化等を図る。
化等を図る。
・・ 生み出された技術の国際標準(デファクト・デジュール)の創製や、住民参加を募る。
生み出された技術の国際標準(デファクト・デジュール)の創製や、住民参加を募る。
→ 技術を磨き、世界最速の実用化を目指す
→ 技術を磨き、世界最速の実用化を目指す
<検討例>
道路交通分野や医療分野、水循環技術の分野における実証を想定。
○ 国が研究開発委託事業で取得した機器の有効活用
国が研究開発委託事業(例えば、「地域新生コンソーシアム研究開発事業」等)
で所得した機器の一部は、事業の受託者だけでなく、地域の企業、研究機関等か
らも利用の要望がある。しかし、「物品の無償貸付及び譲与等に関する法律」等の
法令で、国から公設試、大学、産総研等への機器の譲与は禁止されているため、
公設試等を通じた企業、研究機関等の利用開放は現状では困難である。国の委
託で取得した研究機器を、大学、公設試等が、地域のベンチャー企業、研究機関
等への利用開放を行うことができるよう所要の見直しを行うことで、国の財産の有
効活用と研究開発能力の向上による地域のイノベーション創出を後押しすることが
必要である。
62
図表4―7 研究開発のオープン・ファシリティの推進
現状・課題
【委託で取得した研究機器等の有効活用イメージ】
・政府研究開発委託費で購入した物
・政府研究開発委託費で購入した物
品(国有財産)であって、委託事業終
品(国有財産)であって、委託事業終
了後、事業者の手元に引き続き、
了後、事業者の手元に引き続き、
「無償貸付」をされているものが多数。
「無償貸付」をされているものが多数。
国
企業
研究
機関
無償貸付
委託事業終了後
※
※ これらの機器のうち、約200機器の
これらの機器のうち、約200機器の
利用開放が可能であり、約6,000社等
利用開放が可能であり、約6,000社等
への有効活用が見込まれる(※)。
への有効活用が見込まれる(※)。
・しかしながら、法令等の規定により、
・しかしながら、法令等の規定により、
これらの機器を大学、公設試、産総
これらの機器を大学、公設試、産総
研等の利用開放が可能な機関等に
研等の利用開放が可能な機関等に
譲与することが出来ない。
譲与することが出来ない。
研究開発
委託
有効活用
大学
公設試
産総研等
(管理できる機関)
集約
補完研究の
ため
地域の企業等のた
めに利用広く開放
技術力の向上
企業
利用開放
研究機関
企業
施策の例
○
国の委託で取得した研究機器を、大学、公設試等が地域のベンチャー企業、研究機関等
○国の委託で取得した研究機器を、大学、公設試等が地域のベンチャー企業、研究機関等
への利用開放を行うことが出来るよう制度面の見直しを行う(無償貸与制度の構築)。
への利用開放を行うことが出来るよう制度面の見直しを行う(無償貸与制度の構築)。
○
大学、公設試に極力集約し、地域企業の研究開発・事業展開を支援。
○大学、公設試に極力集約し、地域企業の研究開発・事業展開を支援。
<国の財産の有効活用と研究開発能力の向上による地域のイノベーション創出を後押し>
<国の財産の有効活用と研究開発能力の向上による地域のイノベーション創出を後押し>
○ 国立大学法人等の出資規定の緩和
地域発のイノベーションを創出していく上で、国立大学法人や産総研等の独法研
究機関における最先端の研究成果の実用化が期待されている。研究成果の実用
化を行う上で、ベンチャー企業の役割は非常に大きい。ただし、大学発、産総研等
の独法研究機関発のベンチャー企業の大きな問題は、創業間もないことから資金
調達が厳しい点である。このため、研究成果の普及及び活用の促進の観点から、
国立大学法人や産総研等の独法研究機関の研究成果を活用したベンチャー企業
等に対しては、国立大学法人や産総研等の独法研究機関の出資に関する関連法
令等を見直し、知財や設備の現物出資を含めた総合的な支援ができるような仕組
みの検討が必要である
○ エンジェル税制の活用による地域ベンチャーの活性化
平成20年度税制改正の要綱においては、平成20年度のエンジェル税制の抜
本拡充改正によって、投資時点において、投資額の一定金額をまで、その年の総
所得金額等からの控除が可能となる制度が措置されることとなっている。ベンチャ
ー企業の成長は、地域の新事業・新産業の創出や雇用の拡大に大きく寄与するも
63
のである。地域の投資家にとってはベンチャー企業への投資インセンティブとなり、
また、潜在的な投資家の顕在化も期待される。あり、エンジェル税制の活用により、
地域の潜在的な投資家が、地域のベンチャー企業への投資インセンティブにもなる
ものであり、地域のベンチャー企業にとっても、資金調達環境の改善に寄与する。
このように、エンジェル税制の抜本拡充によって投資家とベンチャー企業双方に対
しての支援が施されることにより、し、いわゆる「地金地投」(地域の金が地域に投
資され、地域活性化に好循環をもたらす)が期待され、地域発イノベーション創出が
期待される支援となる。
64
(参考) 諸外国における取り組み
(1)各国のクラスター(地域クラスターは、世界の潮流)
1990年代後半以降、欧州ではクラスター政策が盛んとなってきた。この背景として
は、EU統合によるボーダーレス化を背景として、一国よりも小さい地域的単位で地域
発展を図ることがかえって重要になってきたことがある。この動きは、ますます拡大し、
2000年代以降は米国の諸州、アジア諸国においてもクラスター政策への取り組み
が始まっている。
一般にクラスター政策は、一定の地域的範囲において、イノベーションの創出環境
を改善するための政策である。具体的には、大学や研究機関、企業の集積をもとに、
相互の連携・交流の場づくり、研究開発資金の投入、対象分野に則した VC の設置、
企業に対する相談サービスの提供、企業・人材誘致など総合的に政策を講じながら、
クラスターとしての競争力を高めることになる。
世界のクラスター政策の事例において対象分野はハイテク分野、ローテク分野等
様々であり、旗振り役も自治体、大学、産業団体など様々である。政策の重点につい
ても、国全体のイノベーションの活発化、特定地域の地域振興など多様である。国外
へのアピールを積極的に行っているクラスターも多い。
図表5−1−1 海外の代表的クラスター(ハイテク型)の事例1
国
地域
主な
分野
経済規模
(面積、人口等)
主要大学・研究機関
主要企業・ベンチャー
発展の経緯
(中核的な機関・人材の役割含む)
米
国
シリコンバ
レー
情報通
信、
バイオ
南北50km東西15km程
度
人口約170万人(サンタ
クララ郡)*1
スタンフォード大学
(やや離れてUCバーク
レー、UCSF)
極めて多数のVCの存
在
ハイテク企業約5000社
(製造業約1500社、研究
開発・サービス業約2000
社) *5。HP、インテル、
オラクル、サンマイクロシ
ステムズ等
1950年代、サイエンスパークの設立。S大が企業
に土地をリース、研究開発型企業が集積。フェア
チャイルド社からのスピンオフ。 1990年代、世界
の大企業が研究所を立地。 S大・UCバークレー
は人材供給源となり、S大発ベンチャーは過去数
十年の間約2500社創業。VC、経営コンサルタン
ト、法律・会計事務所、支援協会などが集積する。
オースチ
ン(テキサ
ス州)
情報技
術、情
報通信
人口 約57万人
ハイテク関連就業者約
12.6万人*4
テキサス大学オース
ティン校をはじめ7大学
デル、IBMなどハイテク関
連企業数:約2,000社*4
1976年コズメツキー氏はIC²研究所を設立。1980年
代に半導体研究機関セマテックやMCCを誘致し、
IT企業が多数集積。1990年代テキサス大、商工
会議所などによってオースチン・テクノロジーイン
キュベータやTNCが設立、ベンチャー企業育成。
ボストン都
市圏
医療機
器、バ
イオ
Route 128沿線に集中
人口 約70万人(ボスト
ン市+ケンブリッジ市)
*3
MIT,ハーバード大学、
ボストン大など。マサ
チューセッツ総合病院
などの主要病院。
バイオ関連企業:250社
(全米の18%)。*5 うち
ベンチャー65社。医療デ
バイス企業100社。
Biogen、Genzyme。
70年代から80年代にかけ、ハーバード・MIT
の研究者が相次いでバイオベンチャーの起
業。
リサーチト
ライアング
ル・パーク
医薬バ
イオ、
情報通
信
ローリー、ダーラム、
チャペルヒルの3都市
(およそ東西30㎞、南北
20kmに囲まれた範囲)
就業人口約5万人
ノースカロライナ州立、
デューク、ノースカロラ
イナの3大学。
国立環境科学研究所
など119の研究所。*2
グラクソ・スミス・クライン
の米国における中核研
究施設。
バイオ関連企業約160社
*1
1959年パーク設立。 60年代に州がリサーチパー
クを整備。IBMや研究所を誘致。州政府主導で発
展。
90年代、GSKからのスピンオフ起業が増加。3大
学はライセンシング支援を行い、州立のバイオテ
クノロジーセンターは研究・ビジネス・教育を支援。
ケンブリッ
ジ
バイオ
ケンブリッジ中心から半
径50km範囲内
バイオ系就業者1万、ラ
イフサイエンス2万5千
人*1
ケンブリッジ大学
Cambridge Science
Park
St. John's Innovation
Park
ハイテク企業3500社。*1
バイエル、グラウソ・スミ
ス・クライン、
MerckSharpe&Dohmeの
大規模研究所立地
1970年代ケンブリッジ大学がサイエンスパークを
設立。80年代にケンブリッジ大学からのスピンオ
フが相次ぐ。98年にケンブリッジネットワークが設
立され、産学連携を推進。またバイオテクノロ
ジー機構は、バイオ産業とその関連産業の相互
交流を行っている。
北東イングラ
ンド
ナノテ
ク
(新興)
人口約260万人
(ハイテク関連新事業で
創出した雇用は13000
人ほど)
Durham, Newcastle,
Northumriaなど5大学。
COEプロジェクト。
(ノースカロ
ライナ州)
英
国
出典:各種資料をもとに三菱総合研究所作(2008年リバイス)
−
1999年、北東イングランド経済開発公社設
立。5大学との連携でナノテクなど5分野の
ハイテク企業をベンチャーキャピタルの
NStarと連携して創業支援。
*1 2008年 *2 2006年 *3 2004年 *4 2001年 *5 1997
65
図表5−1−1 海外の代表的クラスター(ハイテク型)の事例2
国
地域
ド
イ
ツ
ミュンヘン周辺
(特にマーティン
スリード地区)
フ
ィ
ン
ラ
ン
ド
主な
分野
経済規模(面積、人口
等)
主要大学・研究機関
主要企業・ベン
チャー
発展の経緯
(中核的な機関・人材の役割含む)
バイオ
ミュンヘン市は人口約
130万人。ドイツにおけ
るバイオ分野の就業者
の20%が集中。特に
ミュンヘン郊外マーティ
ンスリードにバイオベン
チャー集積。
ミュンヘン工科大学、マキシミ
リアン大学
マックスプランクバイオ化学、精神医
学、神経生物学研究所、環境
健康研究センターなど
中小バイオ企業90社
及びほぼ同数の大
企業(Amgen、
Aventis、BMSなど)
の子会社、製薬会社、
研究機関が立地。
*1
マックス・プランク協会の研究所集積を
ベースに、1996年にドイツのバイオ産業
発展を促進するクラスター政策「ビオレギ
オ」が開始された。90年代後半、BioM社、
バイオテクノロジー・イノベーションセン
ターの支援機関が設立した。
オウル
情報通信、
情報技術
人口約12.4万人*2
うち、Technopolis入居
企業で働いているのは
9000人以上。*1
オウル大学、オウル応用科学
大学、国立技術研究センター
(VTT)、フィンランド技術庁、テ
クノポリス社。
テクノポリスに入居し
ているハイテク企業
は約700社。ノキアの
関連企業など。*1
1980年にVTT所長がサイエンスパークに
よるオウル市振興構想。それを受け、テ
クノポリス社によるインキュベート活動。
大学は人材供給源に。
フ
ラ
ン
ス
ソフィア・アンティ
ポリス
情報関連、
環境・生
命科学
約24平方キロメートル
従業員2.3万人。
国立科学研究所、ニース大学
科学研究所、パリ鉱山大学大
学院など
IBM,エールフラン
ス、フランステレコム
など約1100社。
構想は、1960年代。72年に国家プロジェ
クトに指定。1990年代からベンチャー出
現。SAEM社がサイエンスパークの建設
運営を担っている。
韓
国
大徳専門研究
團地
情報通信
大田広域市の70.2平方
㎞団地内に博士5.8千、
修士6.6千人が就業(韓
国全体の1割)
政府系研究機関26機関、民間
系研究機関が32と5つの大学
が立地する。
先端産業振興財団がベン
チャー企業を支援。*2
ベンチャー企業数
630社。研究者によ
る創業が多い。サム
ソン、LG、SK、韓化
など。
1973年より団地の建設が始まり、政府系
研究機関が集積。2002年に先端医療振
興財団が産業基盤を構築し、ベンチャー
企業を支援。03年以降研究機関の研究
者によるスピンオフが活発化。
中
国
中関村(北京市
西北部)
情報通信
北京北西部の340平方
㎞のエリア
企業には36万人以上
が勤める。*3
精華大学、北京ほか大学57校、
研究機関232機関、30万人以
上の学生と40万人以上の科
学技術人材。*2
1.4万社のIT関連企
業が集積。連想集団、
四通公司、北大方正
など。*2
1980年にインキュベータを設立し、地域
の大学のシーズをもとにハイテク企業が
次々と誕生。03年には39の各種インキュ
ベーターが設立し、パーク管理委員会と
連携し、創業支援策を提供。
台
湾
新竹科学工業
園区
電気電子、
情報通信
台湾の北西部の600ヘ
クタール
区内従業員は11.5万人
*2
清華大学、交通大学、中華大
学。工業技術研究院(ITRI)、
電子工業研究所、放射光研究
センターなど。
21社の精密機器メー
カーが立地。パーク
内には335国内企業
と49の多国籍企業が
入居。*2
1950年代日米の工業生産拠点。70年代
に政府が半導体産業発展を構想。80年
にサイエンスパークを設置し、園区管理
園区管理
局は園区の管理以外にも研究会・セミ
ナーを開催しネットワーク作りなどで支援。
ITRIは共同研究、人材育成を通じ連携。
参考:米国競争力委員会では、M・ポーターの指導のもと2001年にリサーチトライアングルほか4地域について、ケーススタディを行っている。
文部科学省科学技術政策研究所「地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究」では、ミュンヘン、ボストン、中関村、大徳を取り上げている。
シリコンバレーとボストン都市圏は、サクセニアン「現代の二都物語」以降、クラスターの事例として頻繁に紹介されている。
出典:各種資料をもとに三菱総合研究所作成(2008年リバイス)
*1 2006年 *2 2004年 *3 2002年
(2)地域における大学・研究機関企業間のシナジーの発揮 ―ドイツ・フラウンホーフ
ァー協会等―
ドイツでは、地域の大学、公的研究機関等が比較的近接して立地し、技術面、人材
面で活発に連携、交流し、地域クラスター形成のコアとして機能している。
ドイツには、代表的な公的研究機関としてマックスプランク協会に属する研究所群、
フラウンホーファー協会に属する研究所群などがある。これらの研究所は、特定の分
野で専門性を有しており、全国数十箇所の都市圏に分散配置されている。
このうち、企業からの受託研究を多く行う応用研究機関であるフラウンホーファー協
会の研究所は、地域における大学・公的研究機関・企業のハブ的な機能を果たして
いる点で注目できる。ドイツ国内に58の研究所を擁しており、一つ一つの研究所が地
元大学の研究者とも連携しつつ特定の研究分野に特化している(例:アーヘンのレー
ザー技術研究所)。1箇所当たりスタッフは100∼300人程度、総勢12,700名であ
る(2004年)。
66
図表5−2 ドイツ・フラウンホーファー協会
成功の鍵 専門性の高い公的研究機関が研究面、人材面で地域クラスターの中核として機能
概要
●専門性の高い研究所を各地に立地−ドイツ全国40箇所(57研究所)1箇所100∼300人。
●企業への貢献の重視 −応用研究重視で、企業からの受託研究が多い(1/4)
●地域クラスター構想の核となる場合が多い、また、大学内あるいは大学近隣に立地。
●人材流動化のハブとして機能 −−任期付き職員が活躍。
同協会のミッション、運営形態
人材活用の仕組み
○民間企業等に直接役立つ応用研究を実施
することが使命。
○任期付き職員のキャリアパス
として位置づけられている。
○運営・研究資金の約4分の1が企業からの
受託研究資金。政府からの機関助成資金は、
各研究所の受託研究額に連動して配分。
○大学教員と兼任するスタッフも
多い。
同協会の研究分野と主な機関
出典:MRI
研究分野
研究機関名(所在地)
素材・材料特性
レーザー技術研究所(アーヘン) 他10機関
情報・通信工学
画像処理研究所(ダルムシュタット)他5機関
生産技術
生産技術自動化研究所(シュツッツガルト)他6機関
マイクロデバイス
集積回路研究所(エアランゲン)他6機関
センサ・検査技術
応用光学精密機械研究所(イエナ)ほか3機関
プロセス工学
環境・安全・エネルギー研究所(オーバーハウゼン)他4機関
エネルギー・建設等
太陽エネルギーシステム研究所(フライブルク)他4機関
技術マネジメント
システム技術イノベーション研究所(カールスルーエ)他3機関
地域への経済波及効果
●地域クラスターの核とし
て機能
・中堅企業等からの受託研究
・1拠点に専門化した100∼300人
の研究者(日本の工業系公設試
は広く薄く50∼100人程度)
●研究成果等も多い。
・2003年特許申請532件(ドイツ国
内23位)
・同協会集積回路研究所はMP3
の開発で主導的役割を果たした。
●地域における研究人材
育成のコアとして機能
同協会が地域イノベーションにおいて果たす役割として、以下の点に注目できる。
・ 人材の流動による産と学の技術移転
同協会の研究所は、それぞれ地元の大学と強いつながりを持っており、大学教
員が教職と兼任している場合、学生が勉強を兼ねて勤務している場合も多い。そ
のために、大学と公的研究機関との間での技術面、人材面での交流がスムーズ
である。こうした協力体制により、大学での基礎研究を顧客へのサービスに反映す
ることが可能になり、他方大学側から見ると企業からの受託研究を通じて、業界に
おける研究ニーズの把握が可能になる。
・ 人材のプール、育成機能
同協会の職員は任期付き採用が基本であり、数年の勤務をした後は大学や企
業等に転身する。同協会の研究所はそうした人材の受け皿、産業界に近い人材
育成の場として機能している。
・ 大学との隣接、連携
同協会の多くの研究機関は大学に隣接しており、交通の面で、人の行き来がし
やすい環境にある。
67
・ 企業の研究アウトソーシングに対応する受託研究
同協会は企業からの受託研究を重視しており、受託の約半数が中小企業から
のものである。そのため、企業における研究開発のアウトソーシング先の受け皿と
して研究開発のスピードアップに寄与している。
(3)企業的経営による産業支援サービス ―フィンランド・オウル―
フィンランド・オウルでは、サイエンスパークの運営は民間企業としてテクノポリス社
が設立され、インキュベート活動を行う。テクノポリス社には起業家経験のある人材が
CEOとなり、企業に実践的な業務支援を実施している。公的機関が「役所的でない」
運営を協力に推進したことがサイエンスパークとしての成功要因である。
図表5−3 フィンランド・オウル
成功の鍵
公的機関が「役所的でない」運営を強力に推進
概要
●サイエンスパーク運営のための民間企業としてテクノポリス社が設立され、サイエンスパ
ークでのインキュベート活動を行う。
●起業家経験のある人材がCEOとなり、企業に役立つ業務支援を実施。
オウルの
概要
テクノ
ポリス社
フィンランド
の特徴
人口
主要産業
主要企業
主要大学
支援機関
:
:
:
:
:
約12.4万人(2003年)。
情報通信機器、ソフトウェア
ノキア、ポラール(心拍計)、エレクトロビット(ワイヤレス関連)等
オウル大学、オウル応用科学大学
インキュベート施設運営機関 テクノポリス社
1982年設立
研究機関 VTT(フィンランド技術研究センター)
1974年設立
資金提供機関 TEKES(テケス フィンランド技術庁) 1983年設立
経営アドバイス機関 オウルテック
1994年設立
1982年設立。フィンランド最大のサイエンスパーク運営会社。
オウルの他、ヘルシンキ近郊のオタニエミ地区、国際空港近くのヴァンター市でも
サイエンスパークを運営。
設立時にオウル市が50%を出資、現在でも筆頭株主として 6.7%の株式を持つ。
インキュベーション専門会社であるテクノポリスベンチャーズ社(オタニエミ)、
オウルテック社(オウル)を子会社に持ち、クラスター・プログラムの運営主体でもある。
○高等教育が無料で、高学歴の人材が多く、働きながら学ぶのが珍しくない。産学
○高等教育が無料で、高学歴の人材が多く、働きながら学ぶのが珍しくない。産学
連携が進みやすい。
連携が進みやすい。
○一方、大学予算への国家支出は5∼6割で、残りをアカデミーオブフィンランドや
○一方、大学予算への国家支出は5∼6割で、残りをアカデミーオブフィンランドや
テケス、民間企業から調達しなければならない。
テケス、民間企業から調達しなければならない。
地域への経済波及効果
●情報通信、特にワイヤレス
技術の中心地となり、北極
のシリコンバレーとも言われ
る。
●サイエンスパークには約700
社が入居、約9,000人が働い
ている。
●テクノポリス社は、売上
2,880万ユーロ、利益760万
ユーロ、従業員95人(2004
年)。 1997年ヘルシンキ証
券市場に上場。
(4)地域におけるベンチャー支援の民間ネットワーク ―米・オースチン―
米国・オースチンにおいては、地域の旗振り役(コズメツキー氏)の下、1970年代
から起業家支援コースの設置、半導体研究機関の誘致、オースチン・テクノロジーイ
ンキュベータの設置などを進めた結果、1990年代にはIT企業が多数集積するように
68
なった。さらには、地域の民間投資家のネットワークを組織し、ベンチャー企業への投
資の循環の仕組みを構築することに成功した。
図表5−4 米国・オースチン
成功の鍵 リーダーの存在と大学を中心とする産学官連携による起業家支援体制の構築
概要
●コズメツキー教授の協力なリーダーシップ。
●MCC、SEMATECHの誘致成功。
●テキサス大を中心として、IC2研究所、ハンズオンのインキュベータとしてATIを設置。
●地域住民等による投資家ネットワークの結成。
コズメツキー教授の活躍
1976年 コズメツキー教授が私費で、テキサス大学に、教育研究機関IC2研究
所(Inovation Creativity Capital)を設置。
1984年 オースチン校の学生だったマイケル・デルがコズメスキー教授の指導
の下に創業。
1986年 米国の半導体研究コンソーシアムSEMATECHの誘致に成功。
1989年 IC2研究所の下部組織として、起業家支援をハンズオンで行うテクノ
ロジーインキュベータATIを設置。
1990年 企業とVCのマッチングサービスとしてTCI (The Capital Network)
を設置。
その他 の特徴
○ATIには、大学が施設を無料提供。オフィス賃貸、ビジネスプラン作成、
○ATIには、大学が施設を無料提供。オフィス賃貸、ビジネスプラン作成、
専門家・投資家の紹介を行う。
専門家・投資家の紹介を行う。
○ATIの入居者へは、人材リストからニーズに合った人材を紹介し、企業と
○ATIの入居者へは、人材リストからニーズに合った人材を紹介し、企業と
契約させる形で提供。
契約させる形で提供。
○ビジネスプランコンテストで入賞すると、1年間無料でATIに入居できる。
○ビジネスプランコンテストで入賞すると、1年間無料でATIに入居できる。
○VCにとっては、共同でファンドを組むパートナーを探す場にもなっている。
○VCにとっては、共同でファンドを組むパートナーを探す場にもなっている。
地域への経済波及効果
●MCC、SEMATECH、IBM、
TI、モトローラ、デル等の大
企業からのスピンオフが多
い。
●デルは、オースチンでは2.3
万人を雇用(2001年)。
●ATIでは、10年間で95社を
支援、うち50社が卒業、こ
れら企業は1,900人の雇用
創出、7億ドルの売上を上
げている。
(5)世界中から人材を集める仕組み ―米・シリコンバレー―
米国シリコンバレーは、情報通信技術分野のみならず、近年ではバイオ分野等へ
の進出も活発であり、引き続き高い成長力を有している。
同地域のような世界的なメッカを目指すのは困難であるが、人的ネットワーク構築
の仕方には参考にすべき点が多くある。
同地域では、企業人としてのネットワークだけでなく、私人としてのNPO等の人的ネ
ットワークが発達しており、ビジネス以外(社会活動、趣味等)での人的交流がビジネ
ス面での人的交流を円滑化させている。
また、国外との人的ネットワークが構築されている点も注目できる。同地域はシリコ
ンバレーに中国系、インド系エンジニアが多数居住しており、1990∼98年に設立さ
れた起業の27%は中国人とインド人による。彼らが米国・本国とつなぎつつビジネス
を実施しており、本国に帰国した者も同地域との関連を持ってビジネスを展開してい
69
る。
図表5−5 米国・シリコンバレー
成功の鍵
スタンフォード大学が「知」の創出拠点。様々な人的ネットワークが充実
概要
●スタンフォード大学敷地内に企業向けの用地、大学の隣接地にリサーチパークがあり、
HPなどが立地。産学が密接に連携。
●企業人としてのネットワークだけでなく、私人としてのNPO等の人的ネットワークが発達。
ビジネス面での人的交流を円滑化させている。
●中国系、インド系エンジニアが多数居住。米国・本国とつなぎつつビジネスを実施。
○ジョイントベンチャー・シリコンバレー・ネットワーク(JVSVN)は、産官学のジョ
イントベンチャーで福祉・教育・環境等の問題を解決し、新企業の創業や高度
情報化への対応により、地域の再活性化を図る。93年に設立された。
日本
韓国
全 米 の 4割 の
V Cマ ネ ー
デバイス
・材 料
大 手 エレクトロ
ニクス メーカー
ウ ェア
シリコン
バレー
開発
中国
ンド
U SA
東海岸
リー
発
ウ
開
ファ
ソフ
半
導
トウ
体
設
ェア
計
開
発
●ハイテク企業を中心に、5000
社(製造業1500社、研究開
発・サービス業2000社)、多数
のVCが集積する。
●90∼98年に設立された起業
の27%は中国人とインド人に
よる
●90年代には世界中の大企業
が研究所を建設した。
、
フ
トウ
ェ
ア
台湾
欧州
品化
託
ソフト
組立工場進出
最終製
委
も の づ くり
企業集積
地域への経済波及効果
ソ
イスラエル
●近年、ITからバイオ系の投資
が増加。
インド
出典:MRI
(6)大学をコアとするリサーチパークの機能複合化 −米国の大学リサーチパーク−
わが国ではまだ例が少ないが、米国や欧州では大学を核としたリサーチパークが
多く、地域イノベーションの拠点として機能している。その役割は歴史的に変遷してい
る。
米国では大学隣接型のリサーチパークの長い歴史がある。1960、70年代までは
テナントとしての企業の招致を重視していたが、現在では Grow Our Own と言われる、
インキュベーションや起業家支援に力点を置いている。800近い企業がパークインキ
ュベーター出身で、1/4の企業はパーク内に留まる。事業失敗は13%のみで、地域
を離れるのも10%以下である。
近年の傾向としては、過去30年間安定したペースでリサーチパークは成長してい
る。パークの多数は校外にできているが、都心での開発も増加している。リサーチパ
ークは地域発のビジネス拡大、残留を促す効果的なツールとして位置づけられ始め、
さらなるサポート機能の強化に取り組んでいる。
70
(7)博士課程学生と企業との連携 −英国・CASE(Cooperative Awards in Science
and Engineering)−
わが国では、欧米に比べ大学人と企業人との間の人材の交流が少ないと指摘され
る。一方、英国では博士課程学生が企業において研究を行い、学生、企業ともメリット
発揮する仕組みが存在する。
英国のCASEという制度は、学生は大学と企業の監督下で研究し、博士号を得る
制度であり、産学官の連携により大学院レベルにおける学生支援の主要なプログラ
ムである。背景としては、大学院生とポスドクの水準を向上させること、研究者が不足
し採用が困難となっている重要分野での人材を増やす狙いがあった。また、研究の能
力や経験を必要とするキャリアを目指す学生、院生がより相応しいトレーニングを受
ける機会を増やすことによって、企業にとっての彼らの魅力を増すことも考慮された。
学生にとってのメリットは、財政的な支援を得られると同時に、企業での経験をつか
むことによりエンプロイアビリティを高めることである。企業にとっては、将来採用する
学生を確保することにつながる。大学にとっては財政基盤の拡充のみならず、教育、
研究を産業や社会の要求によりよく応えるものにすることができる。
(8)アジアにおける産学連携、クラスター形成 -中国中関村における企業・人材誘致
と優遇措置アジアでは企業誘致、人材誘致に関して思い切った措置を講じ、成功している例が
あり、今後、わが国の地域が海外からの企業・人材誘致を誘致しつつ、地域イノベー
ションの推進体制を強化するために参考にする必要がある。
例えば、中国の中関村技術園である。当地は中国最大のIT企業である聯想集団を
始め多数のIT産業や研究所が集積し、中国のシリコンバレーと呼ばれている。1988
年に北京新科学技術産業開発試験区が設立されて以来、ハイテク・センターとして発
展し、2001年の従業員数は約35万人に達している。同年、北京市はサイエンスパ
ーク条例を施行し、税制優遇や戸籍緩和策などで起業・投資の促進や優秀な人材の
確保を図っている。例えば、以下のような措置が講じられている。
①税制優遇:設立の年度から3年間は免税、その後3年間は半減納税(三免三減)。
企業が利益を計上後、2年間は法人所得税を免除、その後3年間は50%に減額
(二免三減)。
②人材優遇:承認された技術者や、海外から戻った留学生に「仕事居住証」を与える。
この証を持つと一般北京市民と同じの福祉厚生を利用可能。外国籍者を有する中
国人創業者2年有効の外国人登録書と自由の入国許可。外国で取得した資格を
71
中国資格に替える。中関村で設けた合法的な収入は全部外貨に替えられ、外国に
持ち出し可能、等。
72
地域イノベーション研究会 委員等名簿
(◎座長、○副座長)
<委員>
◎古川 勇二
○原山 優子
青木 邦章
阿部 健
小原 満穂
樺澤 哲
川分 陽二
川崎 暢義
児玉
鈴木
鈴木
土井
中野
野坂
樋口
福富
三木
宮沢
村上
脇本
東京農工大学大学院技術経営研究科長 機械システム専攻教授
東北大学大学院工学研究科 技術社会システム専攻教授
株式会社スペースクリエイション代表取締役
岩手県商工労働観光部長
独立行政法人科学技術振興機構審議役 (産学連携事業本部担当)
松下電器産業株式会社コーポレート R&D 戦略室チームリーダー
フューチャーベンチャーキャピタル株式会社代表取締役社長
日本有機株式会社代表取締役会長
(社団法人鹿児島県工業倶楽部会長)
俊洋 京都大学経済研究所教授
孝男 独立行政法人中小企業基盤整備機構理事長
直道 財団法人日本立地センター理事長
尚人 株式会社ヒューマン・キャピタル・マネジメント代表取締役社長
和久 株式会社サイエンス・クリエイト代表取締役専務
雅一 読売新聞社論説委員
一清 信州大学経営大学院教授 イノベーション研究・支援センター長
治
株式会社愛媛銀行営業統括部担当部長
俊克 有限会社山口ティー・エル・オー取締役 山口大学副学長
和男 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構理事
正紀 立命館大学副総長
眞也 独立行政法人産業技術総合研究所理事
<オブザーバ>
平下 文康 内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付参事官(横断的事項担当)
永山 賀久 文部科学省高等教育局国立大学法人支援課長
佐伯 浩治 文部科学省科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(地域科学技術担当)
田口 康
文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課長
川本 憲一 農林水産省農林水産技術会議事務局産学連携研究推進室長
鈴木 良典 農林水産省農林水産技術会議事務局産学連携研究推進室長
清水 喬雄 独立行政法人日本貿易振興機構産業技術部長
小澤 慶和 日本新事業支援機関協議会代表幹事
73
Fly UP