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2015 REGULATORY FIELD GUIDE
2015 REGULATORY FIELD GUIDE REGULATORY FIELD GUIDE Contributors: Stephen Bruel Vice President Derivatives Product Management +1 617 772 0075 [email protected] Chris Craddock Vice President Global Tax Services +44 207 6142 493 [email protected] Niamh Gibson Assistant Vice President Market Intelligence Group +353 1 603 6364 [email protected] Rebecca Gilding Assistant Vice President Fund Administration +1 617 772 2134 [email protected] Matthew Hodges Vice President Strategic Planning Group +1 617 772 1671 [email protected] Nathan McConarty Assistant Vice President Fund Administration +1 617 772 2015 [email protected] George Rapalje Assistant Vice President Global Tax Services +1 617 772 2424 [email protected] Michael Sahra Vice President Global Tax Services +44 207 614 8682 [email protected] Designed by: BBH Creative Services 当資料はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コー及びその関連会社 ( “BBH” ) が一般的な情報提供を目的として提供している資料であり、 当資料の受領者が欧州経済領域 ( “EEA” ) にいる 場合には、 プロ顧客 (Professional Clients) 及び適格取引先 (Eligible Counterparties) に対し提供されています。 当資料は、 法律、 税務、 あるいは投資に関する助言を行うものではなく、 証券 や金融商品の売り出しや勧誘を意図するものではありません。 税金に関する情報においては、 米国内国歳入法 (U.S. Internal Revenue Code) の罰則回避の目的や、 第三者に対する促進、 マーケティング及び推奨等の利用を意図しているものではありません。 当資料は信頼できると考えられる情報に基づいて作成されており、 要請に応じて情報基を開示致します。 当資料は契約の 申し出を行うものではありません。 当資料で述べられている見解は事前通知無しで変更される事があります。 当資料又は当資料に含まれる情報をBBHの文書による事前承諾を得ることなく無 許可で使用する事や第三者へ配布する事は禁止させていただいております。 当資料のEEA加盟国における配布に関しては、 英国当局により認可、 規制を受けるブラウン・ブラザーズ・ハリマン・ インベスター・サービス・ リミテッドが認可を受けております。 BBHは米国やその他の国において登録のあるブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コーの商標です。 © Brown Brothers Harriman & Co. 2015. 1/2015 IS-2015-01-20-0855 当資料はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・インベストメント ・サービス株式会社 ( “BBHISJ” ) が、 BBHの発行した資料の翻訳として作成されたものです。 当資料のみで解釈されるべきものではないこ とに留意された上で、 原文資料をご要望の際は担当者までお問合わせください。 BBH及びBBHISJは、 当資料に含まれる情報の正確性、 完全性を保証するものではなく、 それら情報の利用、 あ るいは翻訳を用いたことに関連して生ずるあらゆる損害について、 BBH及びBBHISJは一切責任を負いません。 なお、 当資料に含まれる情報は規制改正や市場慣行の変更等により事前通知 なしに変更される場合がございます。 2 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 目次 政策論議 資産運用機関は 「大き過ぎて潰せない」 のか?.................................................................................................. 6. 資産運用を巡るシステミック・リスクの問題は2015年に重要な世界的政策論議を巻き起こす予想 資産運用規制:バランスの取れたアプローチ.................................................................................................... 8. SECが資産運用業界内で認識されているリスクへの注目を強めているが、 その目的はすべてのリスクを排除する ことではなく、 すべての投資家にとって公平となるようバランスを取ること EUのマネー・マーケット・ファンド改革:安定的NAV型ファンドの縮小?..................................................... 9. 新たなEUマネー・マーケット・ファンドの改革案では、安定的NAV型ファンドの利用可能性を大幅に低下させる可能性も 税務情報交換の新時代 ....................................................................................................................................10. オフショア口座を利用した米国人の租税回避に対処するために米国主導の取り組みとして始まった制度が、 政府間協力と税務報告のための新たなグローバル・プラットフォームに発展 EUの金融取引税:困難な局面 .........................................................................................................................11. EU金融取引税の2015年の導入でEU加盟諸国は引き続き課題に直面 規則制定と導入 規制、デリバティブ、証拠金:危機から多くの年月が経過したが、さらに多くの規制が導入される見通し.........................13. 規制当局がデリバティブ市場を再構築する中、 企業は担保管理業務の大幅な調整が必要に アジアにおける規制の発展:未来への道筋.....................................................................................................15. 2014年に中国へのアクセスを求める投資家が利用できる選択肢が拡大 米国のマネー・マーケット・ファンド改革:長い回り道 ..................................................................................17. 新規則の大半は2016年まで施行しないが、 今年中に十分な計画が必要 PRIIPs:KIDと複雑性..........................................................................................................................................19. PRIIPsは銀行、 保険、 証券セクターの規制に対して、 更に統合されたアプローチに向かっている MiFID 2:大規模規制に備える ........................................................................................................................20. MiFID 2が規制の範囲を拡大する中で、 それが本当に最終投資家の利益になるのか、 それとも禁止によって助言が 分かりにくくなり、 そのコストが高くなるのかはまだ不明 UCITSの進展:トンネルの先の光.....................................................................................................................22. 4年に及ぶ議論の末、 UCITS 5は2016年3月に施行される予定で、 2015年は資産運用業界が規制導入に向けた 準備に使える 「つなぎ」 の年に 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 3 あらゆる投資計画や大規模事業と同様、 今後 の規制面の課題も過小評価すべきではありま せん。 「我々はまだゴールにたどり着いていな いが、 そこに近づきつつある」 のです。 ” 4 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 A LETTER TO OUR READERS 親愛なるお客様へ 新たな年を迎え、2014年を振り返る際に思い出したことがあります。 それは、アイルランドの鉄道会社イルンロード・エールンが21世紀へ の変わり目に展開した広告キャンペーンです。同社は鉄道網の改良 と近代化を目的とした壮大な計画に乗り出し、あらゆる投資計画と同 じく、避けられない遅延や不一致に直面しました。そこで、この計画 に対する国民のイメージを改善するために、 「我々はまだゴールにた どり着いていないが、そこに近づきつつある」というスローガンを掲 げたキャンペーンを展開したのです。目先の規制環境を展望すると、 このスローガンは金融危機後の規制改革の今後一年を適切に表現 しているように思われます。 昨年は世界中で規制上の重要な節目となる進展が数多くありまし た。米国では、米証券取引委員会(SEC)がマネー・マーケット・ファ ンド改革に関する作業を完了し、外国口座税務コンプライアンス法 (FATCA)体制が始動しました。一方、欧州では欧州連合(EU)が、 オルタナティブ投資ファンド運用会社指令(AIFMD)の導入など、多く の新たな金融サービス規制を施行しました。最後にアジアでは、昨夏 末、東南アジア諸国連合(ASEAN)の集団投資スキームのファンド・ パスポート制度がスタートし、11月には上海と香港の証券取引所の相 互接続プログラムが開始されました。金融危機後の規制改革における 多くのイニシアチブが導入段階に入る中で、規制面の圧力が弱まりつ つあり、規制変更のペースが減速しているという好ましい感触があり ます。 しかし、我々が2014年の夏に発表したレポート「Eye of the Hurricane」で警告した通り、一見すると平穏な規制状況は当てに ならないものかもしれません。資産運用業界は誤った安心感を抱く べきではありません。間近に迫る規制変更への準備をお手伝いする ために、BBHは2015年版REGULATORY FIELD GUIDEをご 用意しました。このガイドでは当社の多くのエキスパートによる洞察を 取り上げ、今後の主な課題に焦点を当てています。 あらゆる投資計画や大規模事業と同様、今後の規制面の課題も過小 評価すべきではありません。 「我々はまだゴールにたどり着いていない が、そこに近づきつつある」のです。 Sean Tuffy Senior Vice President Head of Regulatory Intelligence [email protected] +353 1 603 6316 For insights on the latest regulatory developments throughout the year visit www.bbh.com or follow me @SMTuffy. 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 5 資産運用機関は 「大き過ぎて潰せない」 のか? By: Sean Tuffy 2014年に資産運用業界にとって最も大きな問題の一つとなった のは、資産運用機関が金融システムにもたらし得る潜在的なシス テミック・リスクに関する政策当局の調査でした。こうした調査は 2013年の米財務省金融調査局(OFR)による報告書の公表に端 を発するもので、金融安定化理事会(FSB)の2014年の諮問文 書によって注目を集めました。 リスクの波及 両文書とも、特に「資産運用はシステミック・リスクをもたらす可能 性がある」という基本的な考え方によって、賛否両論と激しい論争 を巻き起こす結果となりました。規制当局は、資産運用機関が金融 システムにリスクを波及させ得る経路は二つあると考えています。 6 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 波及リスク:資産運用機関または資産運用活動に対する債 権者、カウンターパーティ、投資家、その他の市場参加者のエ クスポージャーによって引き起こされる 混乱リスク: 投資家の解約を受けた投げ売りによって引き起 こされる 資産運用業界はこうした規制当局の見解に激しく反論し、 「銀行と資 産運用機関には根本的な違いがある」と主張しました。銀行と異なり、 資産運用機関は一般的に自己ポジションを取らず、顧客に代わって資 金を投資します。 また、資産運用機関はすでに証券、コモディティ、銀 行に関する様々な法律の下、広範囲にわたり規制監視の対象となっ ているのです。 銀行のシステミック・リスクに関する最大の懸念の一つは、銀行が損 失を吸収するのに十分な資本を有しているか否かです。 しかし、こう した懸念は資産運用機関には当てはまりません。資産運用機関が破 綻しても顧客資産の喪失にはつながらないからです。原則として、資 産運用機関が吸収することになる損失は市場損失だけであり、市場 損失が金融規制当局の政策課題となったことは一度もありません。 焦点のシフト 資産運用業界の議論を受け政策当局は方針を転換し、資産運用機関 とファンドに焦点を当てるのは正しいことではなかったと認めたようで す。こうした方針転換は資産運用業界から歓迎されましたが、これは システミック・リスクに関する調査の終了を意味するわけではありま せん。実際、焦点は資産運用機関とファンドから、資産運用活動と運 用商品にシフトしています。金融安定化理事会は今年初めにこうした 変更についての詳細を示す二回目の諮問文書を発表する予定です。 政策当局が「資産運用に伴う何らかのシステミック・リスクがある」と 考えていることは明白ですが(政策当局の諮問文書は多くの場合、正 当化を後回しにした結論であるように読めます)、大きな未知数は、 リ スクが特定された分野に対処するために、いかなる規則が策定される のかということです。特定分野のリスクに対処するために政策当局が どのような行動を取るかは不確かであるとはいえ、米国のマネー・マー ケット・ファンドに関する最近の規則変更が一つの指針となるかもしれ ません。その主な要素の一つは、ファンドの取締役会が、市場に緊張が 生じた際に解約停止や解約手数料を導入する権限を持つようになる ことです。こうした政策手段は、システミック・リスクをもたらすと見な される他の商品にも適用し得るでしょう。 政策当局(中でもニューヨーク連邦準備銀行)にとって懸念材料と なっているもう一つの分野は、ハイイールド債ファンドです。その懸 念とは、通常は毎日解約が可能なファンドと、流動性の低い投資へ のエクスポージャーを持つ可能性がある投資戦略の間に、流動性 のミスマッチが生じかねないというものです。大規模な解約のリスク を軽減する一つの方法は、マネー・マーケット・ファンドの改革に追随 し、ハイイールド債ファンドに解約停止の規定を設けることでしょう。 システミック・リスクと資産運用の問題は、重要な世界的政策論争の 的になるとみられ、2014年の事例からすると、その議論は白熱した ものになると思われます。 システミック・リスクへの対応に関する重要な年月 金融安定化理事会とバーゼル銀行監督委員会の主導により、 マクロ・プルーデンス規制当局は「大き過ぎて潰せない」金融機 関の問題を特定し、これに対処するための政策措置と基準を採 用しています。 •• 2013年9月:金融安定化理事会が、証券監督者国際機 構(IOSCO) と協力して国際金融システム上重要な金融機 関(G-SIFIs) と見なされる資産運用機関を特定するための 手法を考案すると発表。 •• 2013年10月:米財務省金融調査局が、資産運用機関 が金融システムの安定性にもたらす脅威について評価す る報告書を公表し大きな議論を呼ぶ。 「資産運用機関がシステ •• 2013年12月: 欧州議会が、 ミック・リスクをもたらすか否か」について欧州委員会に 調査させる決議を採択。 •• 2014年1月:金融安定化理事会が銀行および保険会社 を除くG-SIFIsの認定に関する諮問文書を公表し、この問 題への関心が大きく高まる。金融安定化理事会の文書は、 焦点を資産運用機関から投資ファンドへと初めてシフトさせ たという点でも注目すべきものであった。 「金融システム上 重要」と認定される基準の一つとして提案されたのは、規 模であり、資産規模が1,000億ドルを超えるあらゆるファ ンドは、金融システム上重要と見なされることになった。 •• 2014年4月:イングランド銀行(BoE)のアンドリュー・ ホールデン理事が「資産運用の時代」と題した講演で、資産 運用の潜在的なリスクに関する主な懸念を明確に述べる。 •• 2014年5月:米金融安定監督評議会(FSOC)が資産 運用に関する公開会議を開催し、システミック・リスクの問 題について議論。 「米金融安定監督評議会は引き続き状 況を見極める」という結論。 •• 2014年11月:米財務省金融調査局が2014年の年次 報告書を発表。その中で、資産運用の潜在的なシステミッ ク・リスクを評価・監視するうえでの主な問題として「デー タ・ギャップ」が取り上げられる。 •• 2014年12月:米金融安定監督評議会が流動性、レバ レッジ、オペレーション、破綻処理という四つの主要分野 に焦点を当てて資産運用に関する意見聴収を開始する と発表。 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 7 資産運用規制: バランスの取れた アプローチ By: Nathan McConarty 米証券取引委員会(SEC)のメアリー・ジョー・ホワイト委員長は、2014 年12月11日にニューヨーク・タイムズ/ディールブックが開催したコン ファレンスにおける講演で、米証券取引委員会が資産運用業界内で 認識されているリスクへの注目を強めており、こうしたリスクを2015 年の規制、ルールの策定およびその実施対象としていることを示唆し ました。またホワイト委員長は、 「(これらのリスクを)単に特定、監視、 評価するだけでは不十分である1」と述べ、米証券取引委員会はポー トフォリオ構成やオペレーショナル・リスクなど最も注目が必要な分野 に加え、デリバティブ、ポートフォリオの流動性、 レバレッジへのエクス ポージャーに関する懸念にも積極的に対処する意向であると説明し ました。米証券取引委員会が今後重視する分野は以下の通りです。 •• データ・レポーティングの改善 レポーティング制度の特定分野は、資産運用業界の進展に後れ を取っています。 •• 流動性およびデリバティブに関する懸念への対応 米証券取引委員会は広範なリスク管理プログラムとともに、こうした プログラムの包括的な監督を可能にするプロセスも検討しています。 •• 移行計画とストレス・テストの強化 米証券取引委員会はすべての投資顧問業者に移行計画の策定 を求める方針です。 また、 ドッド・フランク法に従い、米証券取引 委員会は規模の大きいファンドを対象に適切なストレス・テストの 要件を定める意向です。 •• システミック・リスクの特定 先般の景気後退を受けて、規制の不十分な証券市場が規制当局の 焦点となっています。米証券取引委員会はシステミック・ リスクに取組 むとともに、 「システミック」 と見なすべきリスクを特定する方針です。 8 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 結局のところ、米証券取引委員会の目的はすべてのリスクを排除す ることではなく、すべての投資家にとって公平となるようバランスを 取ることなのです。 2015年1月6日、米金融業規制機構(FINRA)は、2015年の 規制および調査の優先順位を示す文書を公表しました。この 文書の中で、米金融業規制機構が規制および調査活動によっ て取組む以下五つの「繰返し問題となる課題」について概要 を述べました。 1. 2. 3. 4. 5. 企業と顧客の利益の不一致 倫理的行動よりも短期的利益を重視 不十分な監督およびリスク管理手順 効果的でない新商品およびサービスの提供プロセス 効果的でない利益相反の特定および管理 資産運用機関にとって特に関心を引くのは、米金融業規制機構 がオルタナティブ・ミューチュアル・ファンド (リクイッド・オルタナテ ィブ)に焦点を当てていることでしょう。多くの資産運用機関は、 リクイッド・オルタナティブを投資家がヘッジ・ファンドのようなプ ロテクションを利用する方法であるとしていますが、米金融業規 制機構はこうした商品の顧客への提供方法はファンドの目論見 書に記載されている表明や戦略と整合していない可能性がある とみています。米金融業規制機構は、 リクイッド・オルタナティブ の投資家は、ファンドが様々な市場環境の下でどのように運用さ れ、またファンドアドバイザーがそうした環境の変化にどのよう に対応するかを理解していない恐れがあると懸念しています。 1 米証券取引委員会、 資産運用業界のリスクモニタリングの強化及び規制による予防措置、 2014年12月 11日ホワイト委員長による講演 EUのマネー・マーケット・ファンド改革: 安定的NAV型ファンドを縮小? By: Sean Tuffy 米国は2014年に新たなマネー・マーケット・ファンド規制をまとめまし たが、EUではこの問題になお決着がついておらず、白熱した議論の 対象となっています。政策当局は、2013年に欧州委員会が初めて 提案した新たなマネー・マーケット・ファンド規制について、2014年4 月の欧州議会解散までに合意することができませんでした。そのた め、この問題は棚上げされ、新しい欧州議会に持ち越されました。新 議会は2014年秋にその作業を開始しています。 安定的NAV型ファンドは存在すべきか 議論の内容は昨年以降ほとんど変わらず、当初の提案が依然として 公式のものとなっています。 資本準備金 適格金融資産 分散化要件 安定的NAV型のマネー・マーケット・ファンドは、 ファンドの総資産合計の最低3%を現金資本準 備金として積み立て、維持しなければならない。 マネー・マーケット・ファンドが投資できる金融資産 は、短期金融市場商品、与信金融機関への預金、 金融デリバティブ、売り戻し条件付き取引(リバー スレポ取引) とする。 マネー・マーケット・ファンドは分散化ルールとし て、同一機関が発行する短期金融市場商品や 同一の与信金融機関への預金に対する投資を 資産の5%以下にすること。 この問題の核心は、安定的NAV型ファンドの存在が認められるとす れば、どの程度まで容認されるべきであるかということです。欧州理 事会と欧州議会は代替案を提示しており、両者の調整が図られてい ます。いずれの案でも、資本準備金に関する要件をある程度軽減する よう提案されています。欧州議会の代替案は、資本準備金を維持する 一方で、それに例外規定を設けるというものです。例外規定対象の一 つ目は個人投資家向けファンド、二つ目は総資産の80%以上をEUの 公共債に投資しているファンドです。欧州理事会の代替案は、提案さ れている資本準備金を廃止し、一方で、安定的NAV型ファンドの範囲 を主に個人投資家に販売されるファンドに限定するという内容です。 どちらの提案もEUにおける安定的NAV型ファンドの利用可能性を大 幅に低下させるでしょう。EUのマネー・マーケット・ファンド業界の構造 からして、個人投資家向けファンドを対象から除外しても実際的なメリ ットはほとんどないと思われます。なぜなら、この業界は機関投資家が 中心であり、資産の大半がEU以外の地域から流入してくるためです。 安定的NAVの擁護者にとっての問題の一つは、新たに採用された米 国のマネー・マーケット・ファンド規制が、個人投資家向けには安定的 NAV型ファンドの存続を認め、変動NAV要件を機関投資家向けのプ ライム・マネー・マーケット・ファンドのみに適用していることです。欧州 議会と欧州理事会の代替案は、EUのルールと米国のルールを整合さ せる試みと解釈できます。この種の規制統合は一般に業界が推奨する ものですが、ルールが統合されたとしても、市場構造は統合されませ ん。 したがって、EU市場にははるかに大きな混乱が生じる恐れがあり、 推計では安定的NAV型ファンドの廃止により最大50%の資産がEU のマネー・マーケット・ファンドから流出する見通しです2。 EUが最終的な妥協案の成立を試みる中で、2015年第1四半期に は激しい交渉が予想されます。 まだ何も確実なところは分かりません が、安定的NAV型ファンドにとってはやや厳しい道のりが始まりつつ あるようです。 2 https://www.moodys.com/research/Moodys-Regulatory-reforms-will-transformMMF-industry-and-drive-growth--PR_244404 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 9 税務情報交換の新時代 共通報告基準(CRS) に基づいた政府間税務情報交換の推進につ いて、これまでに、およそ100の国々が署名あるいは実施を誓約し ています。この多国間協定は米国の外国口座税務コンプライアンス 法(FATCA) に続く国際社会の取り決めであり、2015年以降、グロ ーバルな金融機関に新たな課題をもたらすでしょう。 FATCAの発展 FATCAはオフショア口座を利用した租税回避に対する米国の対応 策です。基本的にその創設当初から報告制度であり、外国金融機関 (FFI) に対して米国人についての情報を米国政府に報告するよう 求めています。FATCAへの参加を促すために、不参加FFIには重い 源泉徴収税が課せられます。 FATCAに対する世界の反応は当初は意欲的とは言い難いものでし た。単独行動主義や治外法権という認識に、現地法に直接抵触する という点も相まって、FATCAに対する世界的な抵抗が強まりました。 米財務省は欧州数ヵ国との協議の後で、代替的なコンプライアンス体 制を推進するための政府間アプローチを発表しました。このアプロー チはFATCAによって生じる特定の負担を軽減する一方、FATCAの核 心である報告義務を維持したものとなっています。 100ヵ国以上がこの政府間協定(IGA)の条項に署名または実質的に 合意する中、IGAはFATCAの支配的なコンプライアンス体制へと形 を変えています。こうした国の大半がこの協定のモデル1に署名してい ます。モデル1の下でFATCAの報告目的を達成するには、FFIが米国 人口座保有者に関する情報を自国政府に報告することに加え、当該国 と米国との政府間情報交換が求められます。その結果、各署名国は各 協定が要求している情報収集・交換のために、新たな国内税務報告イ ンフラを構築するか、既存のプロセスを強化しなければなりません。 税務情報交換の新時代 IGAの運用面・法律面の枠組みを踏まえ、また自国の税務コンプラ イアンス問題や税収の必要性がきっかけとなって、多くの国が金融 口座情報を自動交換するための国際基準の導入を提唱し始めまし た。G20、G8、欧州理事会からの高まる需要と支持を受けて、経済 協力開発機構(OECD)に自動情報交換の国際基準の策定という 任務が課せられました。 OECDは2014年初めに自動情報交換の国際基準の第1弾を発表し、 そこにCRSが含まれました。CRSはIGAのモデル1と同じように機能す るよう策定された最低基準であり、金融機関に対して他のCRS参加国 の納税居住者顧客に関する情報を自国の税務当局に報告するよう求 めています。CRSの早期導入国(およそ50ヵ国)は2016年の適用開 始と2017年の報告開始を約束しており、遅れて導入する国は2017 年の適用開始と2018年の報告開始を約束しています。 10 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 By: George Rapalje and Chris Craddock 今後の課題 CRSへの注目が高まる中、今後の潜在的な課題を認識することが重 要です。 第一に、CRSは単なる基準に過ぎず、強制力のある法制度ではありま せん。各導入国は自動情報交換の義務を果たすために個別に国内法 を施行する責務を負っています。 したがって、多数のCRS導入国に拠 点を持つグローバルな金融機関は、単一の強制力を持つ規則から恩恵 を受けるわけではありません。 第二に、各国はこの基準に従うとはいえ、自国の方針に基づいて特定 の要件や重要な定義を定めることができます。その結果、CRSは意図 されているよりも複雑なものになる可能性があります。 第三に、米国はまだCRSに署名していないため、正式な長期的立場は 依然として不明です。CRSがFATCAに取って代わることを望んでい る向きは期待を裏切られるかもしれません。また、いずれの制度からも 影響を受けるグローバルな金融機関は、少なくとも2つの異なるコンプ ライアンス体制を維持する必要があるでしょう。これにより、今後も必 然的に業界全体のコンプライアンス資源に負担がかかる見通しです。 こうした動向は国際金融業界にとって困難な状況を示唆しています。 米国人によるオフショア口座を利用した租税回避に対処するための 米国主導の取り組みとして始まった制度が、政府間協力と税務報告 のための新たなグローバル・プラットフォームへと発展しているので す。2015年のCRS強化に伴い、金融機関は社内プロジェクトに多く の資源を割く必要に迫られるでしょう。金融機関は残るFATCAの優先 事項に注力するだけでなく、グローバルな口座保有者を特定してその 情報を報告する作業の影響を測定するとともに、より広範なCRS要件 を満たす体制を整えなければなりません。実際、多くの金融機関は当 面の間、複数の基準を上手く調整し、競合するニーズ間のバランスを 取らざるを得ない状況に直面するでしょう。 税務情報交換の新時代が始まっていることは明らかです。 EUの金融取引税: 困難な局面 By: Michael Sahra 欧州連合(EU)加盟諸国がEU金融取引税(EU FTT)の合意と導入 を目指す中、ここでは政策当局の対応の遅れを引き起こしている問題 と2015年に予想される動向を考察します。 2013年2月に発表されたEU FTT指令の草案は依然として最新の 提案であり、株式と債券については0.1%、デリバティブについては 0.01%の最低税率を定めています。この指令は金融取引への間接税 に関する法律の統合と、金融機関が公正かつ十分に確実に寄与する ことを目的としています。 与える可能性が高いことや、年金基金の退職貯蓄や集団投資ファンド を利用する貯蓄者に打撃となるであろうことを浮き彫りにしています。 迂回行為を回避するため、EU FTTの草案は発行地原則によって支 れ、居住地原則によって補完されています。 発行地原則 金融市場への影響 EU FTTは現在、各取引のそれぞれの要素に個別に適用され、金融 仲介機能に対する非課税措置がないという意味で、他の取引ベー スの税よりも広範に機能するよう意図されています。そのため、取 引がベンダー、ブローカー、清算会員、ファンドといった様々な当事 者を経るのに伴い、取引全体に適用される税が膨らみます。それぞ れの当事者が証券の購入と売却に課税されることから、税は当事者 ごとに2回、また一つの取引のライフサイクル全体を通じて複数の 段階で賦課されます。 欧州委員会によると、EU FTTは取引(特に高頻度取引)の頻度の低 下、 リスク・エクスポージャーの減少、より受動的で慎重なリスク・ヘッ ジ、需要の縮小につながる見込みです。欧州委員会独自のモデルは、 株式と債券の取引高が15%減少し、デリバティブと「投機的な金融商 品」の取引高が75%落ち込むことを示唆しています。 また、独立機関 の予測はさらに悲観的な見通しを示しています。 実体経済への影響 ロビー活動は、EU FTTが実体経済に与える影響と、非金融サービス 企業に及ぼすとみられる意図せぬ影響を指摘しています。例えば、この 税の導入対象として考えられていない航空会社が、原油先物の購入と 保有を通じて燃料費をヘッジする場合、この取引にはEU FTTが課さ れるのです。こうした事例は、EU FTTが非金融サービス企業に影響を 金融機関またはあらゆる取引当事者は、ある参加国 内で発行された金融商品に関わる金融取引を実行 した場合、当該参加国で設立されたと見なされる。 • 例えば、米国と香港の銀行がドイツの証券を取 引した場合、 (両行とも参加国の居住者でないと しても) この税の対象となる。 • この発行地原則は、証券など「発行」が可能な 金融商品にのみ適用でき、デリバティブ商品に は適用できない。 居住地原則 金融取引が課税対象となるには、取引当事者のうち の一者が参加国で設立され、参加国に財務的実体 を持っていなければならない(これには参加国で設 立された金融機関の世界各国の支店が含まれる)。 • 例えば、米国の金融機関がドイツに支店を持ち、 この支店を通じて課税対象となる特定の取引を 実行している場合、この金融機関は参加国で設 立されたと見なされる。 現在の状況 一般的に、2014年にはEU FTTについてあまり進展がなかったと認 識されていますが、次の点が確認されました。 上場企業株式の取引はこの税の対象となる見通しです。非上場企業 株式の取引に関しては、自国での課税を巡る一部の参加国の懸念に 対処すると同時に、他の参加国による課税を認めるために、解決策が 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 11 提案されています。加えて、参加国はEU FTTの段階的な導入を進め るとの合意を相次いで確認しています。こうした段階的な導入により、 参加国はEU FTTの適用範囲を広げる前に、この税が金融市場に与え る実際の経済的影響を評価することができるでしょう。 もっとも、参加国が自ら定めた期限である2014年12月31日までに 合意は成立しませんでした。懸念材料となっている主な問題は以下 の通りです: •• デリバティブの範囲 EU FTTの対象となるデリバティブの範囲の特定については、著 しい進展があったとはいえ、なお大きな意見の隔たりが残ってい ます。ロビー活動と各中央銀行による抗議がこうした対立に拍車 をかけています。参加国の意向に応じて、また2014年5月の共 同声明に従い、範囲の相違が認められる可能性があると考える のが妥当です。 これまでさほど議論されていないEU FTTの重大な側面は、取 引後の徴税、納税、報告の手続きです。欧州委員会は外部機関に 委託して、考えられる納税・報告手続きの選択肢を検討しました。 特定された4つの大まかなメカニズム 1. 自己管理 金融機関が納税額を決定し、報告する。 2. 委託モデル 金融機関はなお納税と報告の義務を負うが、取引に関与し た他の金融機関にその実務を委託できる。 3. 中央清算機関または中央決済機関 EU FTTは既存の中央清算プロセスまたは中央決済プロセ スによって管理される。 4. 新たな中央機関 規制環境を視野に入れた報告・徴税の実行を目的として設 立される機関がデータを取りまとめ、報告を標準化する。 •• 基本的な課税原則 今後のEU FTTの基本となる課税原則(つまり居住地原則や発行 地原則) についてさらなる検討が必要です。 今後の見通し •• EU FTTの妥協案 妥協案に関する今後の作業は、徴税メカニズム(すなわち納税、税 務報告、徴税)の側面を取り扱う必要があるでしょう。 EU FTTが今年の優先事項になるかは明らかではありません。2015 年前半にはラトビアが、後半にはルクセンブルクがEU理事会の議長国 を務めます。両国ともEU FTTを支持していないため、その議論で積 極的な役割を果たす可能性は低いでしょう。 12 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 規制、 デリバティブ、証拠金:危機から多くの年月が 経過したが、 さらに多くの規制が導入される見通し By: Stephen Bruel 2008年の金融危機と、この危機においてデリバティブが果たした役 割を受けて、規制当局はデリバティブ市場の構造を全面的に見直さざ るを得なくなりました。規制当局は市場を再構築するため、数年(おそ らくは数十年)に及ぶ取組みになお注力しており、 ドッド・フランク法、欧 州市場インフラ規制(EMIR)、バーゼル3などの大規模規制はそうした 過程の一環です。規制当局は信用危機の前でさえ、デリバティブ市場 が十分な透明性を有するとも十分に標準化されているとも考えていま せんでした。2005年の市場状況と規制当局が望む状況とのギャップ は依然として大きなままです。新しい指令から次々と打ち出される役 割に企業が適応する中、変化は今後数年も急ピッチで進むでしょう。 規制の焦点はあらゆる分野に当てられています。具体的には、取引 報告、スワップの電子取引での取引執行、流動性基準、スワップの中 央清算、ポートフォリオの照合や、その他多くの分野が対象となって います。資産運用機関にとっては、これはスワップの取引・執行サイク ルの大部分が変化することを意味します。資産運用業界はこれまでこ うした規制の一部には上手く対応してきましたが、それ以外の分野で は応急的な措置を講じるにとどまっています。特にスワップの中央清算 と非中央清算スワップの証拠金規則に関しては、今後さらなる規制が 導入される予定です。 大まかに言うと、以下のタイプのデリバティブは、 ドッド・フランク法やそ れに類する他の規制が施行される前から存在していました。 •• 先物やオプションなど、証券取引所で上場・取引されているデリバティブ •• 店 頭取引(OTC)で執行されるが中央清算されない相対取引(ス ワップを含むが、それに限定されない) 規制では三つ目の分類として清算スワップが追加されています。こう したスワップは中央清算機関(CCP) によって清算されなければなら ず、CCPは売り手にとっての買い手、買い手にとっての売り手となり ます。CCPはカウンターパーティーの信用リスクを軽減する効果的 な方法と考えられているため、スワップの清算は規制面の優先事項 となっています。 今後の担保管理 デリバティブ業界が直面している多くの問題のうち、最も差し迫ってい るものの一つが今後の担保管理です。スワップを取引する事業体は、 規制当局がデリバティブ全般、特に担保に注目していることから、担保 管理業務の大幅な変更と、そうした変更をサポートする投資が必要に なることを理解しなければなりません。新たな規制環境では、担保コス トを含むスワップ取引の総コストは増加するでしょう。これに対応して、 一部の資産運用機関は増大する担保義務を回避するために、 トレー ディング戦略を変更するかもしれません。 また、その他の資産運用機 関はデリバティブをポートフォリオの一部として維持できるように、こ うしたコストを最小化する方法を探るでしょう。 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 13 “ 産運用機関は増大する担保義務を 資 回避するために、トレーディング戦略 を変更する可能性もあります。それ以外 は、デリバティブをポートフォリオの一 部として維持できるように、こうしたコ ストを最小化する方法を探るでしょう これらの変化は重大な影響を及ぼすでしょう。 優良担保の不足 新たな担保要件を満たすためにより多くの資産を確保しておく 必要があり、運用部門がこうした資産を利用してポートフォリオ・ リータンを生み出す能力が制限されます。優良担保は貴重な資 源と見なされ、企業内で担保利用の優先権を巡って競合が起 きるでしょう。 スワップを取引する資産運用機関は、クレジット・サポート・アネックス (担保契約)に基づくスワップの有担保化には精通しています。 しか し、スワップの清算と、相対取引スワップに関する新しい規則により、 新たな専門知識と対応能力が必要になるでしょう。 •• 清算 清算スワップは、非清算(相対取引)スワップとは大きく異なり、評 価、会計、証拠金などの変更を余儀なくするものです。例えば、オペ レーションの観点から見ると、CCPは完全有担保化を要求してお り、そのため最低引渡担保額の概念はなくなります。 •• 非清算スワップの証拠金 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)と証券監督者国際機構 (IOSCO)は、非清算(相対取引)スワップの担保管理に関する 一般的な枠組みを公表しました。この規則は組織のデリバティブ 勘定の規模に応じて段階的に実施され、企業にとって不慣れと も考えられる要件が導入されます。 スワップに関する日次での証拠金要件により、担保移動の規模は拡大 するとみられ、こうした証拠金要件の頻度にCCPの厳格なリスク管理 慣行とBCBS/IOSCOの規則が相まって、差し出さなければならない 担保の価値(適格)が高まる可能性があります。 14 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 オペレーションの圧迫 ストレート・スルー・プロセッシング(Straight Through Processing)が優先事項になるでしょう。証券保管振替機関 (Depository Trust & Clearing Corporation)の推計で は、担保差入れ高が1000%増加する可能性も示唆されてい ます。 こうした規模に対応できなければ、担保管理がまさに軽 減するはずのカウンターパーティーの信用リスクが増大する恐 れがあります。 過去には、担保が運用部門の取引判断の制約要因になることはさほ どありませんでしたが、これは変化する可能性があります。規制によ り、主要な担保分析、指標、プロセスの透明性ニーズが高まります。 そのため、担保管理業務と運用部門とのコミュニケーションを拡充 することが必要です。 担保管理はなお変化しています。規制の導入は完了していないた め、必要な変更を実施している資産運用機関はほとんどありませ ん。それでも、適切な専門知識と能力を身につけた資産運用機関 は規制の影響を軽減できるでしょう。そうした資産運用機関は、担 保管理業務が提供すべきこととして、担保の規模拡大と処理の複 雑化に対処するための「オペレーションの効率性」と、規制がポー トフォリオのパフォーマンスに与える影響を最小化するための「証 拠金の効率性」に焦点を当てなければなりません。 アジアにおける規制の発展: 未来への道筋 By: Matthew Hodges 昨年は、規制当局が注力すればいかにして変化を主導し、さらなる市 場革新を促すことができるかが示された年でした。以前は、中国への アクセスを求める資産運用機関は適格外国機関投資家(QFII)制度を 通じて中国への対外エクスポージャーを得るのが唯一の方法だった 一方、中国の投資家は適格国内機関投資家(QDII)制度を利用して 海外市場にアクセスするしかありませんでした。 しかし、状況は変化 しています。中国へのアクセスを求める投資家には今や幅広い選択 肢があるうえ、このような選択肢は近い将来に拡大される見通しです。 上海・香港株式市場の相互接続(ストック・コネクト) : 始まったばかり 氏が2014年11月にフィナンシャル・タイムズに語ったように、 「ス トック・コネクトは架け橋です。今後何年も続く制度ですから、まった くあわてる必要はないのです」3。 ストック・コネクトは他の市場と上海市場との相互接続の先駆けになる かもしれません。中国本土の深圳証券取引所は、次にストック・コネクト のプラットフォームに加わる取引所として頻繁に話題に上っています。 また、台湾証券取引所も将来的に参加する可能性があります。台湾証 券取引所はすでに日本およびシンガポールの証券取引所との相互接 続を検討しています。このプログラムが台湾や他の市場にまで拡張さ ストック・コネクトのメリット 2014年4月に初めて発表された「上海・香港株式市場の相互接続」 (ストック・コネクト)は、クロスボーダー取引の自由化を一段と促進 する可能性があることから、大いなる興奮と期待とともに市場に迎え られました。 香港 • 幅広い投資家を引き付ける • 中国本土からの対外投資や中国 • 分散化の新たな機会を提供する •中 国の国際金融センターとしての 上海の発展を促進する この新しいスキームが7ヵ月後にスタートした時には、証券及びキャッ シュ口座を合算して50万元以上ある機関投資家を対象としていまし た。ストック・コネクトを利用することにより、香港のブローカーは上海 証券取引所で取引されている適格株式を顧客に直接提供することが でき、中国のブローカーは香港証券取引所で取引されている適格株 式を顧客に直接提供することができます。 中国本土と香港の規制当局は、人民元の国際化を促すさらなる取組 みを進めることで、中国A株に対する関心の高まりを活かしたいと考 えています。ストック・コネクト開始当初は、とりわけ香港から中国本土 に多くの資金が流入しましたが、資金フローはすぐに減少しました。 もっとも、香港証券取引所チーフ・エグゼクティブ、チャールズ・リー 中国本土 • 人民元の国際化と資本市場の解放 に向けたさらなる経路となる 本土への投資を求めている海外 の投資家にとっての玄関口として の香港の重要性をアピールする • 新たな人民元センターが出現す る中で、主要なオフショア人民 元センターとしての香港の地位 を強化し、市場の流動性を高める • このスキームが成熟するにつれ、 他の資産クラスの相互市場アク セスのモデルとなる可能性がある (出所:香港証券取引所「上海・香港ストック・ コネクト (北上投資)」2014年7月) 3 2014年11月19日付フィナンシャル・タイムズ「中国ストック・コネクトの需要低迷」 “ このような制度はすべて、経済開放へ の道筋において漸進的な政策スキー ムを試そうとする規制当局の積極的 な姿勢を表しています。 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 15 れれば、香港の特権的地位は一時的なものに終わるかもしれません。 相互承認:市場への浸透は緩慢 中国・香港ファンド相互承認制度は、その進展を示す多くの声明があ るにも関わらず、大方の予想ほど速いペースでは市場に浸透してい ません。このファンド・プラットフォームは中国本土と香港の間の双方 向の資金の流れに関して許可・促進することを狙ったものですが、地 域の成長を刺激し、より幅広い投資選択の経路を構築したいという 中国の願望の表れでもあります。 この相互承認制度によって、香港でファンド戦略を展開し始めようと している資産運用機関は中国本土での販売機会を利用できるよう になります。 これは効率的な商品戦略になるかもしれません。 (欧州 籍ファンドにとって)香港での登録にあたって負担となる欧州での多 くの規制変更は、香港籍のファンドには適用されないからです。中国 本土での販売がもたらし得る潜在的な規模は、徐々にコストの低下 につながるとともに、投資家にとってのファンドの選択肢を広げる機 会を生み出すでしょう。 相互承認制度は、当初は香港と中国に焦点を当てたものになると思 われますが、次の必然的な段階として考えられるのは台湾への拡大 です。このプラットフォームがより広範なアジア・ファンド制度の始まり になり得ると示唆する向きもありますが、この制度が最終的に向かう先 を推測するのはあまりにも時期尚早です。もし成功すれば、相互承認 ファンド・プラットフォームは、アジアと欧州の投資ファンド環境を変え る可能性があります。香港籍ファンドの選択肢が広がる結果、QDII制 度は取り残されかねないでしょう。アジアを越えて欧州に目を向けれ ば、相互承認制度は、UCITS商品を香港で登録する際に課題となる かもしれません。何故なら、資産運用機関はUCITS商品を香港で登 録する代わりに、一つのビークルで香港の投資家と大規模な中国市 場の両方へのアクセスを得られる香港籍のファンドの設立を選択す るかもしれないからです。 中国・香港相互承認制度には将来性があるとはいえ、香港が主要な ファンド拠点になる可能性に影響を与えると思われる不確定要素が 数多くあります。規制当局はこのプラットフォームを段階的に導入す るとみられます。世界の投資家が投資割当てを中国にシフトし、中国 国内の投資家がグローバルミューチュアル・ファンドを通じて分散化 を求める中、需要を牽引する要因が続くか否かという問題がこの業 界にとって極めて重要です。最終的には、こうした需要要因がどの 程度強いかによって、グローバルなクロスボーダー・ファンドの拠点 としての香港の将来が決まるでしょう。このプラットフォームは資産 運用機関にとって、アジアの成長に投資するもう一つの場になり得 ると思われます。 ASEAN集団投資スキーム: アジアにおけるUCITSへの影響 アジアにおけるUCITS制度の長期的な成功を受け、アジア全域にま たがる競合する投資ビークルがいくつか議論されており、その一つが 2014年に実現しました。2014年8月、マレーシア、シンガポール、タ 16 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 イにまたがるクロスボーダーでのミューチュアル・ファンド販売を促進す るため、アジアで新しい枠組みが導入されました。東南アジア諸国連 合(ASEAN) を土台として、この制度は上記の三ヵ国でスタートしまし たが、地域内の他の国の参加も可能になっています。 この新たなスキームの下では、運用機関は一参加国で活動しながら、 簡素化された認可手続きを経て、他の参加国の個人投資家に集団 投資スキーム(CIS) を提供することができます。ASEAN市場の統 合は、国境を越えてファンドを販売するより効率的な手段を生み、運 用機関が世界でも有数の高い貯蓄率を誇る市場にアクセスすること を可能にします。 ASEANパスポートは資産運用機関と投資家にとって恩恵をもたら す可能性があるものの、その早期の成長を妨げかねないいくつかの 難題があります。 •• 市場をまたいだ整合性のある規制基準の欠如 •• 基礎となる政治的課題の不在 •• 共通通貨の不在 •• 特定の租税問題を巡る明確性の欠如 参加する市場が増え、市場間の不整合が手当てされるにつれ、この制 度によってシンガポールのようにファンドの登録の多い市場でUCITS が徐々に後退するかもしれません。 アジア地域ファンド・パスポート: ASEAN集団投資スキーム(CIS)に続く アジア全域にまたがるミューチュアル・ファンド・スキームとしてもう一 つよく議論されているのは、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、 シンガポールの財務相が主導しているものです。この四ヵ国はそれぞ れ、2013年9月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC) の財務相会合の場で「アジア地域ファンド・パスポート (ARFP)創設 のための趣意書」に署名しました。 タイとフィリピンも後にこのグルー プに加わり、ARFPは2016年に参加国に導入されることが計画さ れています。 ASEAN主導の制度と同様に、ARFPの目的は運用ファンド商品のア ジア全域におけるクロスボーダー販売の促進です。 このスキームに よって、集団投資商品は一つの国での販売に加え、他国の投資家へ 販売も可能になります。現在、 ミューチュアル・ファンドは組成、販売、管 理がそれぞれの国内でのみ可能となっており、国をまたいで取引する ことができません。ASEAN CIS制度が最初に市場に導入されたこと を踏まえ、多くの関係者はARFPの市場への導入に関しては、最適な 手段をASEAN CIS 制度の例から教訓を得ていると見込んでいます。 このような制度はすべて、経済開放への道筋において革新的な政策 スキームを試そうとする規制当局の積極的な姿勢を表しています。 また、こうしたスキームが市場に導入されるスピードは、変化の訪れ が予想よりもかなり早い可能性が高いことも示しています。資産運用 機関や外国人投資家にとって、それぞれの投資スキームが急速に発 展しているアジア市場にアクセスする新たな機会を与えてくれます。 米国のマネー・マーケット・ファンド改革: 長い回り道 By: Rebecca Gilding 2014年7月23日、米証券取引委員会(SEC)はマネー・マーケット・ ファンドに適用される規則の改正案を採択しました。新たな規則は、 白熱し難解な議論によってしばしば中断された三年半に及ぶ作業の 末に採択されました。最近の大半の規制と同様、この新たな規則は金 融危機によって促されたものです。米財務省は金融危機を受けて、一 部のマネー・マーケット・ファンドについて安全装置を導入せざるを得 ないと考えたのです。新たな規則の主な目的は、市場の緊張時にお けるマネー・マーケット・ファンドの脆弱性に対処し、マネー・マーケッ ト・ファンドに関連するリスクの透明性を高め、潜在的なシステミッ ク・リスクを軽減することです。 新たな規則で最も注目されている点は、一部のマネー・マーケット・ ファンドに安定的NAVの採用を廃止するよう求めていることです が、それ以外のいくつかの規則の内容は、マネー・マーケット・ファン ド業界により広く影響を及ぼすでしょう。また、これら規則の施行日 が異なっています。新たに作られたフォームN-CRの施行日は2015 年7月14日で、2015年に施行される唯一の改正です。 「重大な事 象」が発生した場合には、このフォームを一日以内に米証券取引委 員会に提出することが求められています。 重大な事象として報告する事項には以下が含まれます。 •• 流動性課金あるいは払戻し停止措置の導入または撤廃とその決 定に際して取締役会が考慮した主な事項や要因 •• ポートフォリオに組み入れた証券のデフォルト •• スポンサーまたは関連先による支援(支援額、および支援の理由 に関する簡潔な説明を含む) •• 個人投資家向けマネー・マーケット・ファンドと政府債マネー・マー ケット・ファンドに関して、市場ベースの1口当たりNAVが0.9975 ドルを下回った場合 •• 市場ベースの1口当たりNAV •• 流動性課金賦課あるいは払戻し停止 •• 関連スポンサーからの支援の利用 この強化されたウェブサイト開示ルールでは、6ヵ月前に遡って開示 することが求められます。つまり、情報は2015年10月時点から計算 され始め、記録されていく必要があります。 今回の改正は以下のとおり、多くの項目を取り上げています。 フォームN-MFP • ネー・マーケット・ファンドはリスク評価に関連する マ 追加情報を月次ベースで報告するよう求められる。 • ォームN-MFPのデータに60日間の開示の遅れは フ 適用されない。 プライベート・リクイディティ・ ファンド報告(フォームPF) • 新たな法令遵守義務および報告義務を回避するた め、登録マネー・マーケット・ファンドからプライベート・ リクイディティ・ファンドへシフトすることが予想され る。そのため、改正ではフォームPFに変更が加えら れた。それらの変更では、フォームN-MFPのパートC の大半の質問(ただし、規則2a-7がリクイディティ・ ファンドには適用されないことを反映するために、一 部の質問は変更されている)が新たにフォームPFに 含まれた。 分散化要件 • 規則2a-7のマネー・マーケット・ファンドの分散化規 定への改正は、同一発行体の資産がファンドの総資 産に占める割合の5%の上限を遵守しているかどう かを判断する際に、ファンドの取締役会の裁量によ り、ファンドが特定の関連事業体を「単一の発行体」 として取り扱うよう求めている。 日次の開示事項 新たな規則の次の施行日は2016年4月14日で、それ以降マネー・ マーケット・ファンドの運用機関はウェブサイトで以下の情報を日次 で開示することが求められます。 •• 日次および週次の流動資産レベル •• 株主の純流出入数 ストレス・テストの強化 • 非課税マネー・マーケット・ファンドを除くすべての マネー・マーケット・ファンドは、保証人や買取保証人 (Demand Feature Provider)についても、10% の上限を適用しなければならない。 • 非課税マネー・マーケット・ファンドについては、この 上限を15%とする。 • ファンドは、週次の流動資産比率を10%以上に維 持できることを定期的に検査することと、特定の想 定イベントに対する元本のボラティリティを最小化 することを求められる。 • マネー・マーケット・ファンドの投資助言会社は、テス ト結果をファンドの取締役会に報告することを引き 続き求められる。 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 17 将来の要件 新たな規則の最終的な施行日は2016年10月14日です。この日から 新規則に関して最も論争を引き起こしている事項が施行となり、変動 NAV、流動性課金、払戻し停止といった事項が必須となります。この 時点で機関投資家向けプライム・マネー・マーケット・ファンド (機関投 資家向け地方債マネー・マーケット・ファンドを含む)は、ポートフォリオ を構成する証券の現在の市場価値に基づき、申込みと払戻しにおい て変動NAVの採用が義務付けられます。さらに、機関投資家向けプ ライム・マネー・マーケット・ファンドは1口当たり価格を四捨五入して 0.01%単位で表示すること (basis point round) も求められます。 政府債マネー・マーケット・ファンドと個人投資家向けマネー・マーケッ ト・ファンドは、従来の償却原価法による固定価格やセント単位価格 方式を維持できます4。 新たな規則の下では、マネー・マーケット・ファンドの週次の流動資産レ ベルがファンド総資産の30%を下回った場合、ファンドの取締役会に は、1)すべての払戻しに最大2%の流動性課金を賦課、2)払戻しを一 時的に停止する、という2つの選択肢があります。いずれの選択肢も、 ファンドの取締役の過半数が「そうした措置はファンドの最善の利益に なる」と判断した場合にのみ適用することができます。 18 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 さらに、マネー・マーケット・ファンドの週次の流動資産レベルがファンド の総資産の10%を下回った場合、ファンドはすべての払戻しに1%の 流動性課金の賦課を求められます。ただし、ファンドの取締役の過半数 が「そうした措置はファンドの最善の利益にならない」と判断した場合 を除きます。ファンドの取締役会には、ファンドの最善の利益になる場 合には賦課する流動性課金を引き下げたり、引き上げたり (最大2% まで)する選択肢があります。払戻しの停止は10営業日以内に解除 する必要があり、90日期間で10営業日を超えることはできません。 規則の大半は2016年まで施行されませんが、すべての新規則につい て2015年の内に十分な計画を立てておく必要があります。新たな規 則がマネー・マーケット・ファンドのシステミック・リスクの軽減に寄与す るか否かを判断するには、もう少し時間がかかりそうです。 4 政府債マネー・マーケット ・ファンドは、 「ファンドの総資産の99.5%以上を、 現金、 政府債、 およ び政府債または現金で担保された買い戻し条件付き取引 (レポ取引) に投資するファンド」 と定義されています。個人投資家向けマネー・マーケット ・ファンドには、 すべての受益権所有 者を自然人に限定するように適切に策定された方針と手順があります。 PRIIPS:KIDと複雑性 By: Niamh Gibson 個人投資家向けの保険ベースパッケージ型投資金融商品(Packaged Retail and Insurance-based Investment Products(PRIIPs)) 制度は元来、個人投資家が投資商品と保険商品を理解・比較しやすく するために策定されました。 これは、銀行、保険、証券セクターの規制に 対して、 より統合されたアプローチを取ろうとする欧州委員会の試みの 典型的な例です。PRIIPs制度案は、主要情報文書(Key Investment Document(KID)) によってこれを達成することを提案しています。KID は3ページ以下の単独の文書で、平易な言葉で記述され、重要な商品 情報としてPRIIPsのコスト、 リスク、パフォーマンスに関する一般的質 問に対する答えを投資家に提供するものです。 主な義務 この規制は二つの主な義務を導入しており、一つは販売会社、もう 一つは商品の組成者を対象としています。販売会社は、個人投資家 にPRIIPsを契約する前にKIDを提供することを、商品組成者はKID を作成してそれをウェブサイトに掲載することを義務付けられること になるでしょう。 PRIIPsのKIDは、譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)の主要投 資家情報文書(KIID) と似ていますが、対象は、ストラクチャード商品や 保険商品を含む広い範囲の個人投資家向け商品に及びます。欧州証 券市場監督局(ESMA)、欧州保険・企業年金監督局(EIOPA)、欧州 銀行監督機構(EBA) といった欧州の監督当局が、KIDのレイアウトや 内容に関する要件の策定について責任を持ち、2014年11月、監督当 局はKIDのフォーマットについての業界に意見を求めるディスカッショ ン・ペーパーを公表しました。また、2016年初めには規制のテクニカル・ スタンダードを欧州委員会に提出することになっています。PRIIPs規 制はESMAのスティーブン・マイヨール長官によって2015年の主な優 先事項に指定されていますが、PRIIPsのKIDは2016年半ばまで施行 されません。UCITSファンドについては、PRIIPsのKIDの施行後5年 間はこれを作成する義務がありません。 さらに、PRIIPsのKIDは個人投資家に販売される特定の投資商品 について「理解難度に関する警告(Comprehension Alert)」の 利用を提案しています。政策当局は、一部のUCITSファンドが個人 投資家にとって複雑すぎることにますます懸念を抱くようになって います。PRIIPs制度案によると、個人投資家向けファンドが三つの 基準(右の表を参照)のうちいずれか一つを満たす場合には、その PRIIPsのKIDで以下を表示しなければなりません。 「あなたの購入しようとしている商品は単純ではなく理解するのが 難しい可能性のある商品です。」 投資家が購入しようとしている商品を明確に理解していることを確実 にするため、投資助言を提供する会社は個人投資家に「複雑なファン ド」を販売する際に適切性テストを実施するよう求められます。これに より、投資家が商品を購入する際のハードルが多いほど、商品の魅力 が低下するという問題が生じます。その結果、資産運用機関はこの種 の商品の需要の減少に見舞われる恐れがあります。 共通の情報開示フレームワークの構築 PRIIPsは銀行、保険、証券セクターを横断するもので、欧州連合(EU) 全域にまたがる共通の情報開示フレームワークの形成と販売慣行の 規制を目的としています。新しい規制の大半がそうであるように、通 常は規制遵守に伴うコストが発生します。PRIIPsの場合はKIDの作成 と配布が義務付けられることで、商品組成者の管理コストが増えるで しょう。こうした変化が個人投資家向け商品の販売における公平な競 争環境を生み出し、より競争的な価格でより多くの選択肢が投資家に 提供されることになるのかどうかは、まだ分かりません。 PRIIPSの「理解難度に関する警告 (COMPREHENSION ALERT)」基準の提案 以下に該当する商品は、理解が難しく単純でなはないものと 見なされるべきである。 1. 個人投資家が通常投資しない原資産に投資するもの 2. 投資の最終収益がいくつもの異なる過程を経て計算され るもの 3. 個人投資家の誤解を招くリスクが大きくなるもの、または優 遇レートの後にはるかに高い変動条件レートや循環式フォー ミュラを提供するといった個人投資家の行動傾向につけ込 んだ要素が投資収益源に含まれているもの 出所:PRIIPsのKIDに関する欧州議会および欧州理事会の規制(2014年10月) 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 19 MIFID 2:大規模規制に備える By: Niamh Gibson 金融商品市場指令(MiFID)は、欧州連合(EU)の資本市場の機能 を統治する重要な法律です。MiFIDは2007年に施行されて以来、 投資サービスや投資活動の提供に関する規則の整合性を図ってい ます。この法律は、より競争的かつ透明で統合された欧州金融市場 の構築に寄与していますが、MiFIDの施行以降、市場自体が大きく 変化しています。アルゴリズム取引や高頻度取引の増加といった技 術進歩に、新たな取引プラットフォームの開発などに見られる金融 市場の進化が相まって、規制フレームワークを厳格化する必要性が 浮き彫りになっています。 長年にわたる交渉の末、欧州議会と欧州理事会は2014年に金融商 品市場に関するルール改正に合意しました。MiFID 2と総称される新 たな規則は、現行のMiFID指令の改正と新規制である金融商品市場 規制(MiFIR) を通じて導入されるものです。MiFID 2は2017年に導 入される予定で、投資家保護、透明性、ガバナンス、市場構造といっ た分野において規制の範囲が拡大されています。 MiFID 2の主な規定を以下に示します。 インセンティブの禁止 •• 独立ベースで提供されるポートフォリオ・マネジメントおよび投資 助言に関するインセンティブは禁止されています。独立した金 融アドバイザーは、商品プロバイダーではなく助言を受ける顧客 から報酬を受領します。独立したアドバイザーがそれでも金銭的 インセンティブを受領した場合には、それを直ちに投資家に渡さ なければなりません。 •• 透明性向上策として、規制対象機関は顧客にすべての費用や手 数料の合計額を提供しなければなりません。項目別の内訳は要求 に応じて提供されます。 •• 英国の規制当局の先例にならい、欧州の政策当局は取引手数 料体系を改善しようとしています。MiFID 2では顧客の資金で リサーチの対価を支払うことがより厳格に規制される見通しです 20 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 が、欧州証券市場監督局(ESMA)は手数料の完全な分離を断念 しました。ESMAのテクニカル・アドバイス(欧州委員会はまだこれ を承認していません)では、投資会社が第三者のリサーチに直接 対価を支払う場合、または顧客への特定の課金によって賄われる 分離されたリサーチ勘定から対価を支払う場合には、投資会社が そのようなリサーチを採用することを認めるよう提案しています。 適切性テスト •• ストラクチャードUCITS及びUCITSではないファンドは複雑性を 有するものと見なされるでしょう。複雑性を有すると分類された ファンドは、取引執行のみまたは助言なしで個人投資家に販売す ることはできません。 •• 投資家が購入しようとしている商品を明確に理解していることを 確実にするため、投資を提供する会社はこうした商品を販売する 際に適切性テストを実施するよう求められます。 高頻度取引に対する制限 •• アルゴリズム取引に従事している機関と高頻度取引手法を利用し ている機関には、新たな規則が導入されます。 •• こうした機関は有効なシステムおよび統制体制を導入しなければ なりません(価格変動があまりに大きくなった場合に取引プロセス を停止するサーキット・ブレーカーなど)。 •• 高頻度トレーダーは投資会社として登録することが義務付けら れ、アルゴリズムは実用される前に制御された環境でテストされ なければなりません。 •• 発注されたすべての注文(キャンセルされた注文を含む)の記録は 保管され、要求に応じて提供されなければなりません。 新たな取引施設 •• 規制された取引所での取引を促す目的で、MiFID 2は株式以外の 商品のために、新たな多角的取引施設である「組織化された取引 施設(Organized Trading Facility (OTF)」を導入しています。 コモディティ取引の制限 •• 商品デリバティブのポジションには限度額が設定される見通しで す。ESMAがこうした限度額を計算するための手法の開発を担当 し、限度額は各国の規制当局によって適用されます。 •• 非金融機関の場合、商業的なヘッジ目的で使われるポジションに 限度額は適用されません。 最良執行 •• 投資会社は、前年に顧客注文を執行した上位五つの施設を金融 商品のクラス別にまとめ、公表しなければなりません。 MIFID 2に関する時系列タイムライン 2007 2007年11月 MiFID施行 2010年12月 MiFIDの改正に関する 諮問 2009 組織的要件 •• MiFID 2は投資会社に関する新たなコーポレート・ガバナンス・ルー ルを定めています。新たな規則には以下が含まれます。 1. 一人が兼任できる役員数を制限すること 2. 取締役会がその役割を果たすために必要な集団的能力、経 験、知識を備える必要があること 3. 取締役会の集団的な思考を避けるために十分な多様性を持 つことの奨励 投資会社はインセンティブ(誘引報酬)の禁止に注意を払わなければな りません。これは、商品供給の過程で、投資家にとって不利益となりう る利害の対立に対応する、より大規模な規制改革イニシアチブの一環 です。インセンティブ体系(誘引報酬)の再編は、独立系の金融アドバ イザーの重要な収入源を断ち切ることになります。支払いシステムは 見直しを迫られ、独立系の金融アドバイザーとの販売契約は再交渉し なければならないでしょう。インセンティブ(誘引報酬)の禁止が本当に 最終投資家の利益になるのか、それとも禁止によって助言が分かりに くく、そのコストが高くなるのかはまだ分かりません。英国の個人向け 金融商品販売制度改革(RDR)の影響を参考にしてみると、独立した 助言を提供するアドバイザー数の減少と、プラットフォームの利用拡大 が予想できます。それでも、投資会社はこの新たな体制を不可避なも のとして受け入れ、要件に準拠するよう販売およびマーケティング戦 略の見直しに着手しなければなりません。 ESMAは2014年12月に欧州委員会へのテクニカル・アドバイスを公 表しており、欧州委員会は今それを承認するか否かを決める必要があ ります。MiFID 2では、現在EUで法制化に向けて取り組みが進んで いる他のいくつかの規制(欧州市場インフラ規制(EMIR)、市場濫用 指令(Market Abuse Directive)、保険仲介者指令2 (Insurance Mediation Directive 2)、UCITS) に触れています。資産運用機関 は、コストを最小化するとともに二度手間を避けるため、規制ニーズ に対して包括的アプローチを取り、重複した要件を特定しなければな りません。2017年は遠い先のように思えるかもしれませんが、MiFID 2がもたらす広範な影響を考えると、資産運用機関は直ちに組織的な 準備を始める必要があります。 2008 2011年10月 法令の草案 2013年9月 三者協議の開始 2010 2014年4月 MiFIDの改正に関する 諮問 2011 2014年6月 2014年5月 欧州議会がMiFID 2を 承認 EU官報でMiFID 2の 内容を公表 2012 2014年7月 MiFID 2施行 2013 2014年12月 •ESMAが委任に関する 規 則 の 内 容に関 する 欧州委員会へのテクニ カル・アドバイスを発表 2014 •ESMAが規制テクニカ ル・スタンダード (RTS) およ び 導 入 テクニ カ ル・スタンダード(ITS) の草案に関する諮問文 書を発表 2015 2015年半ば 2016年1月 ESMAがITSの草案を 欧州委員会に提出 •欧 州 委 員 会 が委 任に 2016 関する規則を採択 •E SMAがRTSの草案 を欧州委員会に提出 2017年1月 MiFID 2施行 2017 2015 | BBH Regulatory Field Guide | 21 UCITSの発展: トンネルの先の光 By: Sean Tuffy 四年に及ぶ議論の末、UCITS 5は2014年4月に最終化されました。 最新の指令は2016年3月18日に施行される予定で、2015年は資産 運用業界が規制導入に向けた準備に使える「つなぎ」の年になります。 当然のこととして、新たなUCITS 5の報酬規則は資産運用機関の最 も高い関心を集めています。残念ながら、ESMAはこれらのガイドライ ンについての諮問を予定していません。代わりに、オルタナティブ投資 ファンド運用会社指令(AIFMD)の規定をガイダンスの土台とする見 込みです。UCITS 5の報酬規則が2015年秋より前に公表されること はないでしょう。その間、前もって計画したい資産運用機関は、適切な ロードマップとしてAIFMDの報酬規則を利用できます。 運用機関の 報酬に関する ルール 制裁措置 内部告発制度 な概念 新た Dをベース FM I に A UCITS 5の基本要素 預託機関に 関するルール 資産運用業界が2016年に向けて備える中、欧州証券市場監督局 (ESMA)は新たな指令を支える専門的詳細の策定に注力すること になります。 この作業の多くはすでに始まっており、ESMAは2014 年11月、預託機関要件の二つの要素に関するテクニカル・ガイダン スの草案を公表しました。 •• 保護預りを外部委託する場合の支払い不能に対するUCITS 資産の保護 預託機関がカストディをサブカストディアンに委託する場合に講じ るべき措置についてのガイダンスを提供。提案された規則は、サブ カストディアンと預託機関の両方に適用される。 •• 独立要件 資産運用機関と預託機関が同一の大企業体の一部である場合の 事例に対処。このガイダンスは、二つの事業体間の独立性を確保 するためのルールを提案している。 ESMAは、制裁措置/内部告発制度に関するテクニカル・スタンダード にまだ取組んでいません。これらに関する諮問は2015年前半になる と予想されています。こうした概念はいずれもUCITSフレームワーク では新しいものであり、諮問は最近のUCITS 5の預託機関に関する 諮問よりも詳細なものになるでしょう。これは特に内部告発制度に当 22 | BBH Regulatory Field Guide | 2015 てはまり、この諮問は欧州連合(EU)全体をカバーする内部告発制度 を創設するための最初の試みです。 UCITS 5の後にも、UCITS 6の脅威が残っています。 しかし、EUの 政策当局はUCITSフレームワークのさらなる改正議論を一時的に 中断する可能性を示唆しています。短期金融市場改革や長期投資な ど、当初のUCITS 6に含まれていた分野の多くが他の規制で議論 されているからです。 UCITS改正の一時的な中断は歓迎すべきものとはいえ、資産運用業 界は警戒を緩めてはなりません。ファンドの複雑性は依然としてEUの 政策当局にとって重要な問題であり、MiFID 2と個人投資家向けの保 険ベースパッケージ型投資金融商品(PRIIPs)規制はいずれもその 表れです。正式なUCITS 6はなくなるかもしれませんが、ファンドの 複雑性や、場合によっては一部の投資戦略の適切性に関する議論は 継続されるでしょう。これらの議論はUCITSフレームワークの将来像 に影響を与える可能性があります。 “ CITS 5の報酬規則が2015年秋前に U 公表されることはないでしょう。その 間、前もって計画したい資産運用機関 は、適切なロードマップとしてAIFMD の報酬規則を利用できます。” 規制優先順位マトリックス (BBH GLOBAL REGULATORY PRIORITIZATION MATRIX) 本ガイドで詳述している通り、資産運用業界は引き続き厳しい規制 環境に直面しています。 より緻密な調査が必要になる規制を特定す る一助として、BBHは規制優先順位マトリックスを作成しました。グ ローバルな資産運用機関はこのマトリクッスを利用することで、どの 規制の重要性が最も高く、どの問題についての取り組みが必要であ り、変化する規制環境にどのように備えるべきなのかをより的確に判 断できるでしょう。 軸の目盛りで、施行日が最も近いものは右端、最も先のものは左端 に示されます。 影響度 縦軸は規制の相対的な影響度を示しています。影響の評価は定量 的データと定性的データの組み合わせであり、組織が規制変更によ ってどのような影響を受けるのか、様々な問題を考慮したものです( 運営上の影響、規制導入に伴う費用、規制の複雑性、変更の範囲、 脅威や事業機会など)。 考慮事項 このマトリックスは、二つの別個の基準である施行時期と影響を軸に、 各規制をプロットしています。 施行時期 横軸は規制の施行予定日を示しています。横軸は左から右への時間 影響大 FTT Funds as SIFIs UCITS 6 AML 4th Directive AIFMD (Non-EU AIFMs) UCITS 5 EU MMFR EMIR Central Clearing HK/China Mutual Recognition PRIIPs MiFID 2 Solvency 2 US MMFR Global FATCA 施行日が先 EU SFTR T2S 施行日が近い ARFP SLD CSDR ELTIF EUSD 2 提案段階 MAR 規制案がまだ承認 さ れていない段階 BEPS Barnier Rule Volcker Rule (DF) 規則策定段階 規制案が承認され、当 該規制を補完する規則 を草案している段階 施行段階 規則が最終承認されて いる規制段階 影響小 . REGULATORY FIELD GUIDE RECENT REGULATORY ARTICLES AND WHITEPAPERS The US ETF Market, Time for Some Rules November 2014 Redrawing the Global Cross-Border Fund Map October 2014 Will Cross-Border Funds Be Collateral Damage in the Fight Against Corporate Tax Evasion? September 2014 The Next Battleground in Money Market Reform: Europe September 2014 Eye of the Hurricane July 2014 UCITS: The Road Ahead June 2014 OTHER PUBLICATIONS FROM INVESTOR SERVICES Exchange Traded Funds: ETF.com and BBH Annual Advisor Survey October 2014 Exchange Thoughts: The Rise of Currency Hedging June 2014 Alternative Funds: The End of the Unregulated Fund October 2014 Greater China: New Port of Call: Hong Kong as a Channel to Mainland China’s Fund Market April 2014 Collateral Management: Evolution of Collateral Management: Adapting to the Overhaul of the Industry March 2014 NEW YORK BEIJING BOSTON CHARLOTTE CHICAGO DENVER DUBLIN GRAND CAYMAN HONG KONG KRAKÓW LONDON LUXEMBOURG NEW JERSEY PHILADELPHIA TOKYO WILMINGTON ZÜRICH WWW.BBH.COM 39_15