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「森林・林業の指導普及は有効に機能しているか」
持続可能な森林経営研究会 第 20 回セミナー 2009 年 9 月 24 日 議事概要 「森林・林業の指導普及は有効に機能しているか」 講師:鋸谷 茂氏 (フォレストアメニティ研究所副所長) ※この議事概要は、事務局でとりまとめたものであり、発言によっては、趣旨を取り違え ていることもありえますので御容赦下さい。 1.要旨 森林・林業の普及指導は有効に機能しているか 《人工林の普及現場から》 フォレストアメニティ研究所 鋸 谷 茂 これまでの普及活動 林業の普及指導は、昭和24年に始まり40年代までは人工林造成のための普及が 行なわれた。50年代には、造林地の経済性を高めるための優良材生産の普及が行な われ、枝打ち、間伐などの技術は有名林業地の事例を参考にその技術普及が行われた。 60年代に入ると間伐の普及が主となった。しかし、間伐の理論的な技術が確立され ていないために、人工林整備に対する技術普及は停滞気味となった。一方、このころ から一般市民の森林への関心が高まり、それに対する普及活動が増加し森林ボランテ ィア活動などに大きな普及成果を上げている。 数年前からは、スギ・ヒノキ等の間伐材利用に目が向けられ、その搬出技術の普及 が必要となった。しかし、この分野も日本式の理論と技術が確立されていないため、 現在は先進事例の技術を参考にした普及が行なわれている。 林業の普及指導の原点は林業技術の普及であり、日本の森林、特に人工林を整備す るための技術普及が、林業の普及指導の中心でなければならない。 普及活動に必要な技術の確立 国民と林業経営者が求める森林の管理方法を普及するには、理論的な技術基 準が必要である。しかし、人工林の風害、雪害に対する抵抗力を判定する理論 的な数値基準すらないのが日本林業の現状である。このことが、林業の普及活 動が十分に機能しない原因であり、現在の人工林問題の根源でもある。 これまでの普及活動は、「風害、雪害に強い人工林を造るための間伐」など 論理に基づく普及活動であったが、これからは風害、雪害に強い人工林を造る ための理論的な技術基準に基づく普及活動が必要である。 経営的かつ生態的に持続可能で、時代の社会情勢にも対応可能な森林の理論 的な技術基準の確立が、林業の普及指導を十分に機能させる唯一の方法であろ う。一日も早い技術基準の確立が必要である。 当研究所が開発を進めている胸髙断面積合計や樹冠長率などの人工林の状態を 表す 6 項目をグラフ化し、林分の健全度を判定するシステムはその先駆けになると考 えている。これは、現在の健全度を判定するとともに、風雪害に対する抵抗力が低 下した林分をどのような方法で間伐し、どの立木密度を保てば何年後に健全な 林分に再生するかなどを予測するものとなっている。 長伐期施業の課題 現在、国を挙げて人工林の長伐期への移行が進められているが、長伐期の大径材を 何の用途に使うのか、無垢材として使うのであれば乾燥と材面割れ等の問題をどのよ うに解決するのか、大径材が大量に出回るまでにこれらの課題を解決しなければ、大 径材がラミナーに挽かれ集成材に加工されることになりかねない。長伐期を普及する ためにも解決しなければならない重要な課題である。 2.講演 ・昭和 50 年代~。技術は特に確立されてい なかったので有名林業地の事例を紹介し た。しかし、地域差があるため、なかな か定着しなかった。 ・現在。技術普及はされていない。現場で は間伐木選木の指導すらできる人はほと んどいない。 ・木材価格 2~3 万円/㎥の頃は見向きもされ なかった間伐材は、1 万円/㎥に下落した 途端に注目され始めた。 ・数値化することで、きちっとした指導が できる。 ・林業では、林家の人は山を育てるだけが 仕事だと思っており、材になった途端、 見向きもしない。 ・間伐の遅れ、どの程度が危険かが説明で きない。 ・どのくらいの林なら長伐期化できるのか、 あるいはできないのか、の技術基準が確 立されていない。そんな状態の中現場で 頑張れと言われても、普及指導員は頑張 れない。 ・指導員が、質問に対する答えを持ってい ない。 ・ 「除間伐」という補助金の出方なので、除 伐と 3 割間伐の両方をやらないといけな い。そこに生えている密度に関わらず 3 割間伐してしまっている現状があるが、 これに対し指導員は駄目と言えない。 ・何のためか分からない間伐が現場で行わ れているのが現状。 ・理論的な概念はあるが、基準がない。 ・指導員は、基準(樹冠長率や形状比)を 考えたことが無いから答えが分からない。 ・言葉の表現では理解されない。 ・数値基準は、研究者の方に作って頂きた い。 ・ 「鋸谷式間伐」の本では胸高断面積合計だ けで説明したが、1 つの数値だけでは駄 目だろうと批判を受けたので、このよう な図を作った。 ・ 「太い木を何に使うのか」というのは、よ く受ける質問である。 ・一般人のイメージは、木材は割れない、 である。これは集成材を示しており、無 垢材は我々にとっては割れがあるのが当 たり前だが、一般人はそれを認めてくれ ない。無垢材の技術改良をしないと使っ てもらえない。20 年後には、無垢の大径 材が出てくる。 ・どう使うかまで PR することが必要であ る。 ・太い材を使うとどうしても材面割れが出 てくる。当たり前のことだが、消費者は それを許してくれない。 3.ディスカッション (発言者の表記について: 説明者→説、委員→委、アドバイザー→ア) 委:技術の数値化ができていない、基準が明確でないとの話だった。県の指導員は試験研 究機関と協力してやってくれということになっていると思うが、どこに問題があった と思うか。問題提起がされて、他の県も含めて対処するという議論があってしかるべ きではないか。なぜ問題提起がされてこなかったのか。 説:現場の指導員は、林業は結果が出るのが遅く、すると本当に結果が出るのは主伐期だ から間伐をどのくらいしていいのか分からない、と言う。これはただの逃げだ、と私 は思う。が、これが林業界にはびこっている。全て言い訳で対応してきた結果が現在 の林業の根底にあるように思う。この辺りの林業の体質にメスを入れないと、変わっ てこないのでは。 委:指導員が現状を当たり前だと思って対応してきてしまったということか。 説:その通り。職員の中に、自分が普及指導を行った結果を検証した人はいないと思う。 検証しない、検証基準すらない。農業には基準があるから検証できている。林業には 無い。これでは何をやっても前に進まない。 委:現場の普及員が適切な指導ができていないという問題が提起されたが、その中身を構 造的に分解して見ると、技術が研究者側から提供されていない、あるいは技術が現場 に合っていない、普及指導員を指導できるように育てていく仕組みがない、制度が整 備されていない、といったものが挙げられる。それぞれの部分の問題を指摘頂きたい。 説:林業の勉強をしたいと言っても、技術的な教科書があるにはあるが、現場で使えるも のがない。密度管理理論などはあるが、現場では使えない。現場で使うと、矛盾がい っぱい出てくる。また、指導員育成の段階で、林学を出てきた人達でも林業の常識の 言葉など色々なことが分かっていないという実情がある。収量比数などは、昔から間 伐理論の根底にあったはずなのに、その言葉すら知らない林学出身者が多い。我々が 若い人たちを指導する時は、大学を出ている人に対してもゼロからの指導になる。樹 冠長率も胸高断面積合計も形状比も知らない。これが、今の林学出身者の姿である、 という現実。だから、普及指導員の教育という事から考えると、どうやったらいいの か私にも分からない。どこから手をつけたらいいのか。指導員は役所の人間だが、事 務的なことばかりやって現場が分からない、ただ林学を出たというプライドだけはあ ってなかなか勉強してくれない。 委:2~3 週間前に鋸谷氏にうちの山を見ていただいて、間伐のグラフを作成した。これから しばらく使っていって、若い人に勉強させようと考えている。現場でやっている人、 普及員、学者研究者、これらの連携が全然取れていないように思う。横の関係がない。 これまで間伐してきて、あれこれ指摘してくるのは地元の林業をよく知っている人。 他の人に言われたことない。森林組合に入った 22 年前当時は、間伐の仕方が悪いと指 摘してくる職員さん、普及員さんが数名だがいた。その人達が退職してしまって、指 摘できる人がいなくなってしまった。知らないから現場に来ない、現場に来ないから 覚えられない、の悪循環が起こっている。 数値基準が何故これまでできてこなかったかという話について。林業は、師匠がいて、 見て覚えろという世界。これには問題があって、間伐した後数年後にどうなったか、 というのを何十と経験してこないと学べない。数値を作ろうと考えてきた人が今まで いなかったのではないか、研究者が考えていたとしても、現場に伝わっていないので はないか。林業には暗黙値があったはずなのに、なくなってしまっている。最終的に はマニュアルなしで判断できるようにならないと生きた林業にはならないが、まずボ トムアップの術として数値化というのはあっても良いと思う。 説:まず数値で示さないと、最近の人は良い悪いが分からない。良い山にするための真髄 の技術の所は篤林家などが研究して伸ばしていけばいいと思うが。 委:今日の論点を整理すると、研究機関と現場普及と現場の関係の問題になる。それぞれ の部門がどうなっているか、というところ。研究機関は現場に役立つ研究をどれだけ やってきたか、それをどこまで体系化させてきたのか。そもそも、研究機関のミッシ ョンが極めてあいまいで、その場その場の研究に没頭して今までやってきてしまった。 現場普及の人は基準がなくて頑張り方が分からないと言うことだったが、理論的な共 通部分が整理されていないと現場で判断できない。今の制度そのものが 2~3 年でどん どん転勤するシステムだから、こうしたらああなるという成果が現場で確認できなく なっている。また、今の現場は補助金を見てしか仕事しないので(3 割間伐など)、ど うあるべきかを整理して明らかにする必要がある。その為にはやはり、現場で使える 教科書が最低限必要。前にドイツからフォレスターが来た時に、彼はノートを持って いて、地位と樹種を見ればどういう施業でどう育つか知っていた。科学で予見できる ようになってきているから、それを使うべき。 委:大学の教育の問題、研究の問題についてはどうか。 委:今日の講演は、もっともな話だと思った。うちの大学を卒業した人が各県の林業職員 として採用されているから、厳しい指摘で耳が痛かった。それでも採用されてしまう システムに問題があるのでは、とも思う。正直に言うと、旧林学を卒業しなくても県 の林業職員として採用されてしまうとか、公務員になりたい人にとって林業職がいち ばん簡単だというのが常識になっているとか、問題はある。教員スタッフの専門性の アンバランスも顕在化している。従来の林学の部門を全て学ばずに卒業している人も 多いのではないか。 補助金の獲得が目的となり、何のために間伐しているのかルール的に判定できない仕 組みになっている。これでいいのかな、と疑問に思っても、補助金が出るか出ないの か方に判断基準が行ってしまって、森を作るための保育とかい離してきてしまってい る。 産官学のつながりがないというのもごもっとも。今から 15 年くらい前、かつての日本 林学会の方でも林業と木材産業のかい離をどうしたらいいかというテーマの話があっ た。それ以降も、林業に貢献するための研究は時間がかかったり形になりにくくてさ れてこなかった。こういう状態、つまり日本の林業を何とかしようという方向から離 れてしまったのは、かつては拡大造林で資源を育てる時代だったからでは。ここ数年 でようやく材が使えるようになり役立てるようになってきている、かつて疎遠になっ て意識が遠のいていたかもしれないが、今その意識を取り戻せる時代に来ているので は。 委:教育のレベルの低さがあっさり認められてしまった。そういう学生が卒業して県に入 ってくる。となると、普及員の育成をどうすればいいかということになってくるが、 それについてどうか。 説:正直、そういう状況で県に入ってくる人たちにどう教えていいか分からない。何かを 研究してきたというプライドは高い。だから、現場での木の見方や 2 本の木があった らどちらを伐るべきかという事は自分の仕事ではない、とはねつける人がいるのが現 実。そういう人をどうしていいやら。中には研究熱心な者もいる。道づくりの失敗例 を見たいから現場を見せてくれ、というような新人がいた。自分から勉強したいと言 ってくれる者には対応できるが、自発的でない子の教育には何もできない。 委:県の研修プログラムはどうなっているのか。 説:定期的、年に 4 回くらい普及指導員の研修はやっている。内容は、うまく指導してい る所の事例を見学して歩くというもの。 委:技術は身についているという前提で研修を行っているが、実際は技術が身についてい ないから研修も身にならない。 説:その通り。 委:指導員のミッションが明確になっていないまま行う研修では意味がない。 委:鋸谷氏の様な人がいる県はいいが、そうでない県が多い。いま新入社員の話になって いるが、中堅社員も問題。評価基準がばらばらなのがいけない。会計検査に引っかか らない・上司に怒られない・補助金をきちんと使う、というのが県の職員の基準。給 料がもらえること、が現場の基準。自分が評価されること、が研究者の基準。そうす ると、いま現場で必要とされていることがどこかに行ってしまう。今年、うちの山で ナラ枯れがひどい。困っているが、どうすればいいか、誰に相談すればいいか分から ない。本来は 3 者とも日本の森林がよくなる事が評価基準であるはずだが、ばらばら になってしまっている。そこが問題。 委:数年前に普及指導員の制度が変わった。かつては AG と SP がおり、AG が現場にいて SP が AG を指導するという形だったが、SP に一本化された。受験科目が分かれてお り、それぞれの科目で試験を受けて受かると林業普及指導員に認定される。しかし、 その時点で試験区分の区別がなくなり、ひとたび SP になるとオールマイティな仕事が 要求される。AG がなくなって全体数は減った。明らかに普及指導員と現場との距離が 離れた、というのが今回の制度改正の結果。予算の関係とか色々あったのだと思うが、 制度に問題がある。虫やらシカやらを専門に学び入ってきた職員が間伐指導しろと要 求される、というようなことが現場で起こっているように思う。 委:普及指導員に自分は何を求めていたか、考えてみた。技術的な所を求めたことはない。 補助金関係のことが主である。例えば、こういう道をつけたいけど何かいい補助金は ないか、などという相談をしていた。技術的な相談をしたことがない。これからは所 有者すなわち林業家ではなくなるから、そういう人達には技術的な指導が必要になっ てくると思う。森林所有者が林業に関心のない場所で、どう山を維持管理して行くか 考えると県の普及指導はよりしっかりしないといけない。県と森林組合が協調してや るのがいいと思うが。県の普及指導に携わる人にもっと林家に近いところまで来ても らう必要がある。いま見ていると、普及指導員には所有者を回る時間的余裕がない。 だいたい 3 年くらいで担当が変わってしまうので、人間関係も作れないまま終わって しまう。そういうところに問題があるのではないか。 委:講演のスライド 2 枚目で、 「現場の補助金検査時が最高の技術指導の時」だが「行政事 務が多く普及指導ができない」とのことだった。市町村森林整備計画の普及のために 設置された指導員が、普及に特化せずに補助事業の仕事も行うということだったが、 分化していくべきなのか、統合的に携わるのか、現場を知れば補助のことも分かると いう風に専門性が高まって行くのか、背反する問題だと思うが、意見をお聞きしたい。 説:普及指導だけを特化する必要はないと思う。特用林産だったり、間伐モデルを考えた りと特化している人間も数人いるが、補助金の事務をしながら現場に行く方が効率的 な普及ができると思う。特化しても、それだけの仕事はない。 委:ヨーロッパのフォレスターの事例でも、補助金のこともフォレスターの仕事もやって いる。両方やる方がいいのだろうと思う。 ア:講演では、間伐の数値基準が強調された。確かに必要だと思う。林分の健全度グラフ として様々な要素を総合的に表現できるものが紹介されたが、これも参考になると思 う。ただ気になるのは、数値基準を定義して、それぞれの数値の関連性、意味をきち んと表現することが重要だと思う。どういう木を作ることを目指すために、葉量がど のくらい必要で、そのためにどういう間伐が良くて、それを判断するために樹冠長率 や収量比数がある。ストーリーというか考え方を引き出せる数値基準でないと駄目だ と思う。最終的には、難しいが、判断するという技術者の力が求められる。そのため に必要な考える材料として数値基準があると良い、と思う。ストーリーを作らないと。 もう一点。樹冠長率は大事。間伐前と直後、10 年後の樹冠長率と見ていけると思うが、 間伐してから 10 年でどのくらい樹冠長率伸びたか、を評価することが間伐の意義を問 う上でも必要。つまり、途中のストーリーも大事。健全度グラフに採用する数値要素 も何を採用すべきか精査が必要。胸高直径だけでなく樹高も考えるべき、とか。樹冠 長率がなぜ大事かというと、木にとっての生産工場が葉でありその量を表現するのが 樹冠長率だから。さらに、冠雪害や台風に対する強さにも関係してくる。やはり樹冠 長率を軸において他の数値との関係がどうであるかを見ると良いのでは。そして、現 在と 10 年後を考えると言うストーリーを盛り込んでいただければ。研究機関とのタイ アップを活かして充実した数値基準を作って頂きたい。 説:ご指摘の通りで、健全度グラフでは樹冠長率を最も重視している。樹冠長率をどこま で回復させるかが間伐の指標と言ってもいいくらい。そして、それを判断するのが胸 高断面積合計。これがどう動くかで将来の樹冠長率に関わってくる。その 2 要素が軸 となると考えている。他の要素(立木密度、形状比、相対幹距、胸高直径)はさほど 重要ではない。樹高を入れていない理由は、人間がコントロールしにくい要素だから である。 ア:樹冠長率が大事なのは、間伐では密度管理に頭がいくが、選木と密度の話を両方でき るのが樹冠長率だから、というのもある。そういう点からも間伐の話においては樹冠 長率を軸に進めて頂きたい。 説:間伐の選木の際には、樹冠長率の大きいものを残すしかない。特に、間伐遅れの林分 では。あばれ木は伐る、といったことは現実的にできていない。まずは、あばれ木も 含めて樹冠長率の大きいものを残し、次回の適切な間伐であばれ木を処理する、とい う形になっている。年林幅の細かいものを作りたいのか、あるいは粗くてもいいのか、 といったこともシミュレーションできる仕組みが出来上がっている。 ア:もう一点。ある林がどういう経緯をたどって今の状態になっているか、この後どうし たいのかを見て健全度を判断すべきだと思う。数値だけでなくシチュエーションをた どることも必要で、シミュレーションすると言ってもそれは参考で技術者がストーリ ーと合わせて判断すべき、それができる技術者を育成しないと。 説:30 年後まで健全度を予測できるようにしている。かつての経緯も要素として入れて、 それと樹冠長率から今後どのくらいの年林幅を刻むことができるか想定している。10 年後の状態、間伐後の状態も予測できるようにしている。どの時期で健全度を判断す るか、まだ一般的に使える形にはなっていない。 委:どうすればどうなるか、どうして今こうなったか、という人工林の成長動向を数値化 する技術ができて、それが誰にでも使えるようになれば、という話だった。その通り だと思う。一方で、現在は数値目標もないしそれを理解できる技術者もないというひ どい状態だ、とのことだった。失望した。原因は色々あると思う。私は北海道の職員 と少し接触したことがあるが、その人は優秀で、今回のような問題提起もしていた。 そういう人は少ないのだろうけれども。原因は、数値目標がないこと、県に入ってき た林学出身職員に知識がないこと、と話されていたが、私はこれについて納得できな い。いまの林学の教育が駄目だとは思っていない。育林技術を学ぶ科目は森林経理学 とか測樹学といった分野だと思うが、詰めて考えると学生は各科目 1 週間で学んでい る。昔の学生の方が熱心だったか、いや違う、今の学生の方が勉強している。指導者 の熱心さもしかり。必ずしも今の学生が駄目だという所に原因を求めてはいけないと 思う。職員になって、数年現場で働いて、学校よりも数倍の知識を学べるはず。そこ がうまく機能していない。そっちの方が問題。 数値基準がなっていないという問題について。数値基準を作るのも普及指導員の仕事、 その能力を身につけてほしいと思う。大学でどこにでもあてはまる基準を作るのでは なくて、その地域・現場に合わせて指導員が数値基準を作ればいいと思う。 もう一点。今日の講演は人工林の森づくりについての林だったが、これからは不良造 林地や広葉樹林、水源涵養林など多様な森づくりが求められる。1 本 1 本の木の大きさ ではなくて、林分単位で考える、予測する必要が出てくる。その技術が新しく普及指 導員に求められると思う。 委:大学教育の問題については次回のセミナーで議論したいと思う。大学卒業以降の、普 及指導員となった者をどう育てるか。大学で全て覚えてくるわけではないから、働き 始めてからの育成が重要。そこが育成になっていない、育成を受ける側のモチベーシ ョンが高くないなどの問題がある。普及員がどういう役割を果たしていくか。 ア:5 月まで関東森林管理局にいた。参考になればと思い、そこでの取り組みを紹介する。 若手の森林官向けに『間伐等の手引』を作った。樹冠長率や形状比や樹冠粗密度とい った要素を指標に間伐について説明した。現場で判断できるための小さな手引が作成 された。森林総研の人も招いて検討会も開いた。数値基準を織り込んだ現場で使える ものとして参考になるのではないかと思う。自分は完成を見ていないが、関東森林管 理局の計画課で使っている。 説:ぜひそれを公表していただきたい。 委:10 年程前まで大学で林学を学んでいた個人的な体験から。90 年代に大学は改革し、こ れからは環境だ、という感じになった。大学の先生は研究をして評価される、論文を 書かないと次のポストに行けないというプレッシャーを感じている。体系立ったプロ グラムがあるのではなく、研究室ごとに自分が研究していることを中心に教える、そ れが研究室のリクルートにもなっている、という現実が、自分の大学にはあった。研 究志向が強い大学はそうなのではないか。また、会社に入ってから森林・林業の仕事 をしていたが、2006 年に岐阜に行った時に初めて、現場を見て判断できる人がいてそ れを指導でいる人がいる、ということを知った。問題は、そういう人が周りにいない 環境で試験勉強だけして職員になる人。鋸谷氏のようになりたいと思った時に、どう すればいいのか。現状の中で何をすればそういう人になれるのか。 説:山が好き、というだけで私はやってきた。林家の人の質問に答えるにはどうすればい いか、というのを常に考えてきた。勉強したわけではなく、現場で山の木の形を調べ てそれをまとめた、ということ。本来は研究者の方にやって頂きたい。研究者は広い 知識を持っていると思うし、先行研究をどう引き出せばいいかも知っているはず。林 業馬鹿になることは大事かもしれない。普及員は、業務の中だけではなれない。3 年間、 鋸谷式間伐が定着するように指導したことがあるが、それだけでは定着しない。その 後治山に異動してからも 2 年間、間伐指導を継続して行った。1 つのことを定着するた めには仕事以上のことをやらなければいけない、というのが現実。 委:質問。AG,SP の制度改正があった時に、各都道府県で規制が解除され、その結果普及 員の数が減って行った。普及員の行政事務も増えた。AG,SP 廃止によって普及指導に 専念できるはず、という方針で制度改正は行われたと思うが、実態はそうなっていな い。これについてどうか。 説:うちの地域(福井県)では、3~4 人が指導専門で試験場の中に詰めて試験研究をしなが らやっている。それ以外に各出先に 1~2 人程度の指導員を配置して、彼らが指導に当 たっている。実際は、指導員という名をもらっていない人も同じことをやっている。 補助金を出すには、正しい間伐をすること。そのための技術的指導が必須になる。ま た、小学校などでの林業教室も 1~2 人の指導員だけでできるものではないから、指導 員以外の職員も一緒に行って手伝っている。人数が少なくなったとは言ってもやって いることは変わらない。試験場に詰めているのが昔でいう SP、出先にいるのがかつて の AG、となっており、体制は変わらない。 委:普及指導員という特別な制度を作らずに一般職員全員がそのような業務をやる方がい いのか。 説:それでもいいかと思う。例えば特用林産を担当したり造林を担当したりといった、治 山や林道以外をやっている人は業務を一緒にするという手は考え得る。 委:技術をきちんと持つ人は一部林業試験場にいて、あとは一般職員が同じようにやる、 という可能性もあるということか。 説:可能性はある。その方が現実的とも思える。職員の中で、指導員という肩書をもらっ ている人といない人は半々。その区別も実際的にはないのが現状。 委:専門技術員は、専門知識と専門技術を持っているものだと思っていた。が実際は機械 に乗ったこともないのに機械の専門だと言っている人がいた。そもそも専門技術員と はどういう位置づけなのか。プロではないのか。 説:ご指摘の通り。チェーンソーのエンジンが掛けられない人間でも試験には受かる。試 験制度だから、ペーパー試験だけで通る。とってから勉強しなさい、という世界。 委:専門技術員は何かの専門でないとおかしい。機械の使い方、問題点、どういう機械が 良いかまで知っていて欲しい。 委:無茶苦茶な機械を作っておきながら、専門技術員とはどういうことか。 説:今は専門技術員という制度はない。 委:専門がなくなって、試験に受かれば 1 本化される。専門を追求できないという問題が ある。 委:そもそも、指導員の役割は何なのか。今のどこに問題があるのか。人数が少ないのか。 指導員が直接林家に指導するのは現実的ではないのではと思うが。指導員と森林組合 と所有者の位置づけをどのようにすべきなのか。例えばヨーロッパでは、フォレスタ ー制度があり、一人 1500ha くらい担当を持って広い分野をカバーして所有者のサポー トをしたり森林管理をしたり、という制度になっている。それと比較して日本ではど ういう働き方があり得るか。 説:新制度のことはよく分からないが、林業の指導員の主は技術指導だと思う。農業の方 は、生活指導まで含まれている。林業ではなぜ無いのか、疑問に思ったことがある。 ア: 「技術」とは何か。管理技術なのか、作業技術なのか。日本では、技術は座学で学んで おり、作業技術が軽視されているのではないか。学者が扱っている技術は理論。普及 技術員は管理技術と作業技術を一体化すべきだと思うが。人によって、思い浮かべて いる「技術」がばらばらなように思う。 説:おっしゃる通り、一体化した技術を求めている。 委:その体制をどう作るべきか。 説:県の職員は現場に出て作業技術を指導する能力がない。 委:機械に乗るテクニックという話ではなく、その機械の働きを知らないことが問題。最 低限、自分で動かす経験はする必要がある。 ア:作業した経験のない人は、その機械の働きも理解できない。理論構成する人も実際に 機械を動かす経験をしないと。 委:研修の場でよく聞かれるのは、どの機械を買うべきか、ということ。そういう判断を、 現場をよく知る指導員ができて欲しい。 説:そういう技術については、個人の向学心に任されているのが現実。間伐や枝打ちの仕 方を私が作業員に徹底して書いてもらったことがある。私はチェーンソーも使えるし 枝うちができるので、作業員の道具を借りてその場で講釈しながらゆっくりやった。 それをやると、作業員の見る目が変わり、言う事を聞くようになる。作業員が 10 人い たある市町村の作業システムを、3 年間かかって全て変えたことがある。枝打ちや間伐 ばかりやっていたが、作業員の平均年収が、1 年目で 100 万円上がった。2 年目、3 年 目も同様に 100 万円ずつ上昇した。 3 年間で平均 300 万円年収が上がったことになる。 それだけ作業の無駄が多かったということ。技術の部分は、現場で教えられることが 重要だが、今はそのような人材がほとんどいない。 委:どうすればいいのか。 説:分からない。 委:指導員は必要なのか、必要ならどういう人がいいのか、そこがあいまいである。理論 面は研究機関、というが、誰がやるべきなのか。公務員制度も改革するとすれば、ど ういう姿がよいのか。多少現実と離れても、あるべき論を教えていただきたい。 説:数値基準化をすべきである。国の試験研究機関、都道府県の試験研究機関がそれをや って欲しい。 委:普及指導は何のためか、それは技術指導だ、という話があった。それでは半分だと思 う。現場で技術は必要だが、何のための技術か、というところが抜けている。個人的 な向学心や自助努力が入る余地がある。一方で、行政が入る時に、公共のためとか安 全のためとか、大義名分が必要。昭和 30 年代に資源造成のために普及指導が始まった が、現在の成熟期に伐る事が目的になってきて、個人の財産形成などという目的のた めの指導に行政がどのくらい入ってくるか、という問題がある。篤林家はそれぞれ技 術を確立していて、SP からは指導を仰がない。ターゲットがもう少しはっきりするべ き時代、集中と選択の普及時代なのでは。たとえば原因不明のスギの大量枯死が発生 したとかシカ害が重大だとかになった時には力を借りることがあるかもしれない。普 及指導員制度が公共性や公益性に焦点を当てた仕組みになっていて、現場のニーズが それとは違った方に向いているのではないか。 委:深い方へ議論が進んでいった。普及する目的とは何か、そこが不明確だから普及員の モチベーションが上がらない。ミッションが希薄である。そこを高めるにはどうすれ ばいいか考えないといけない。普及員と指導員の仕事を明確化しないと。そこがいま どんどん重なってきている。