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航空機等に関する研究関係の動向 - 公益財団法人 航空機国際共同開発

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航空機等に関する研究関係の動向 - 公益財団法人 航空機国際共同開発
(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要 16-4-4】
この解説概要に対するアンケートにご協力ください。
航空機等に関する研究関係の動向
1
背景
航空機関連分野の工学研究においては、産学官の連携が非常に重要であると認識されて
いる。しかし、我が国ではこれまでのところ連携が必ずしも充分には進んでおらず、今後
の技術展開にその強化が急務であると考えられる状況にある。
ここでは、まず主として米国における航空機関連技術の研究開発プロジェクトの最新状
況を概観し、その中で大学がどのように参画しているかを調査して現状を明らかにする。
続いて、各国の大学における研究活動として近年極めて活発になっている“小型/超小型
無人機に関連する研究活動”を、加えて日本の学会の国際活動として注目されている“最
近のアジア地域を対象とする活動の活発化”について紹介する。
最後に、我が国の代表的な研究機関である宇宙航空研究開発機構・総合技術研究本部に
おける航空関連の研究動向について述べる。
2
NASA における航空関連研究プログラムの再編
2.1 新たなプログラムの構成
米国ではブッシュ大統領が 2004 年 1 月に新たな宇宙開発計画を発表した。NASA は、この
新たな計画を遂行するために組織の改革を行い、航空関係では新計画の研究開発を実施す
る部局の“Office of Aeronautics”を設置した。この部局が実施する航空機関連のプログ
ラムを総称して“Vehicle Systems Program”と呼び、Vehicle Integration, Strategy, and
Technology Team と称する企画グループによって、
その短期・長期の計画が策定されている。
(1)Vehicle Integration, Strategy, and Technology
この Vehicle Integration, Strategy, and Technology は、次の 6 つのサブグループに
分かれ、それぞれの内容を管掌する。
① 亜音速輸送機 (ST:Subsonic Transport)
② 超音速飛行機 (SSA:Supersonic Aircraft)
③ 超短距離離着陸機 (ESTOL:Extreme Short Takeoff and Landing)
④ 回転翼機 (RC:Rotorcraft)
⑤ 個人向け航空機 (PAV:Personal Aircraft Vehicle)
⑥ 無人航空機 (UAV:Uninhabited Air Vehicle)
(2)Vehicle Systems Program
この Vehicle Systems Program では、長期的な資本投下研究課題として、次の 6 つの重
点研究課題が挙げられている。
①環境適合型クリーン燃焼エンジン
: 高性能を維持しつつ有害排出物を大幅に削減する知的タービンエンジンを実現
するための革新技術を開発。
②新しい航空機エネルギー源と管理
: ゼロエミッションと新たな航空機の概念に向けた新エネルギー源および知的管
理手法を開発。
③環境適合性のある静粛航空機
1
:
すべての地域環境に適合する騒音低減技術の開発と統合。
④燃料効率向上のための空力性能改善
⑤航空機の重量低減と地域環境適合
: 超軽量スマート材料・構造、空力概念、軽量システムを開発し、高高度・長時
間航行機、惑星航空機、先進短距離離着陸機及び更に先進的な航空機を検討。
⑥スマート航空機と自律制御
: 人間による操縦要素の削減あるいは無人化した航空機、様々な飛行環境に対し
て最適飛行を実現する航空機等の開発
又、それぞれの研究プログラムは、5 年の期間に区分され、期間ごとの目標が設定されて
いる。最初の 5 年間には、次の 7 つの中核プロジェクトが設定されている。
・Ultra-Efficient Engine Technology (UEET)
・Quiet Aircraft Technology (QAT)
・Low Emissions Alternative Power (LEAP)
・Integrated Tailored Aero Structures (ITAS)
・Efficient Aerodynamic Shapes and Integration (EASI)
・Flight and Systems Demonstrations (F&SD)
・Autonomous Robust Avionics (AuRA)
代表事例として、以下に中核プロジェクトの中から 2 件、その他のプロジェクトを 1 件
紹介する。
2.2 Ultra-Efficient Engine Technology プログラム
前述の2.1項の中核プロジェクトに含まれる Ultra-Efficient Engine Technology (以
下 UEET)プログラムは、従来の UEET プログラムが 2004 年から 2007 年までのプロジェクト
として再計画されたものである。
ここでは、知的タービンエンジンの実現を可能にする技術を開発して、高性能を維持し
ながら、有害排出物を著しく低減する環境適合型クリーン燃焼エンジン技術を向上させる
ことを目的としている。
・亜音速:NOx 低減、Thrust Specific Fuel Consumption(以下 TSFC)向上、
推重比向上
・超音速:高性能空気取入口
・回転翼機:先進駆動システム
又、今回新たに設定されたサブプロジェクトは以下の通りである。
・低排出物燃焼器
・システムインテグレーションとデモエンジン
・高負荷軽量圧縮機およびタービン
・高機能空気取入口
・大重量回転翼機用先進駆動システム
・知的システム基盤技術
2.3 Quiet Aircraft Technology プログラム
前述の2.1項の中核プロジェクトに含まれる Quiet Aircraft Technology(QAT)プロ
グラムは、航空機の環境騒音の低減を目指すプログラムで、以下の目標を掲げている。
2
・2007 年までに 1997 年レベルの騒音に比べて 10dB から半分に低減
・2007 年以降、1997 年レベルより 20dB 削減
又、これらを実現するため、次の 3 つの研究分野を掲げている。
・航空機の音源での騒音発生低減:エンジン、機体、装備効果
・環境への騒音インパクト緩和:実在効果、飛行経路変更
・室内騒音低減
これら各分野で強調されているのは、物理に基づくモデル化と騒音評価という視点であ
る。かつては、航空機騒音の低減といえば“エンジン騒音”のみを対象としていたが、最
近では“機体発生騒音”も無視し得ず、これらを含めた航空機全体の騒音を総合的に低減
する技術の必要性が強く認識されている。
2.4 Quiet, Efficient Subsonic Transport プログラム
Quiet, Efficient Subsonic Transport(QuEST)プログラムは、低騒音、低排出物、高効
率輸送機の実現を目指すプログラムである。
ゼネラル・エレクトリックの GE90 エンジンを搭載したボーイング B777 を現在の代表機
種とし、これと比較して、CO2 の 50%削減、NOx の 90%削減、55 マイル以内の騒音の 65dB 低
減を目標に掲げている。又、性能については L/D を 25 に高めること、TSFC を 0.51 まで下
げること、搭載エンジンの推力自重比を 5.75 に上げること、等を目標としている。
3
欧米におけるプロジェクト研究への大学の参画状況
3.1 米国・カナダにおける大学関係の状況
米国の Federal Aviation Administration(以下 FAA)によって、航空輸送に関する Center
of Excellence(以下 COE)が設立されている。FAA は、この制度に基づいて、米国の大学
や企業と共同して、航空安全、環境負荷と効率、空域および空港の計画と設計、に関して
研究を行う。
(1)先進材料に関する航空輸送 COE
FAA は、2003 年に先進材料に関する航空輸送 COE を立ち上げた。COE は、Washington 州
立大学とカンザス州 Wichita 州立大学に設置されており、参画している大学は、これら 2
校を中心として、Northwestern 大学、Oregon 州立大学、Purdue 大学、Tuskegee 大学、UCLA、
Delaware 大学、Edmonds Community College である。
この COE では、先進複合材を高い信頼性をもって大型民間機に適用することを目指して
研究開発を行っている。FAA は、この COE に対して初年度に 50 万ドル、続く 2 年度に少な
くとも 30 万ドルを拠出する。又、ボーイングとその契約企業 6 社もこの COE に予算を供出
することになっている。
Washington 大学には、ボーイングのドリームライナー(以下 B787)プログラムにおける
CFRP 複合材の試験と開発のために、100 万ドルの連邦予算が支給された。この COE は、技
術開発だけでなく、航空機企業技術者や次世代のエンジニアへの教育という目標も持って
いる。又、大学研究者と企業との間の協力と技術移転も大いに促すであろう。
(2)FAA によるその他の COE
FAA は、上述の航空輸送 COE の他に、航空機構造の計算モデリング、オペレーションズリ
サーチ、排出物低減など、6 つの COE を設立している。
3
(3)その他の大学等が参画する研究プログラム
①カナダのマニトバ州は、B787 の設計・生産を担当する技術者の教育のために、2004 年
8 月に 53 万 7000 ドルを拠出した。この予算によっておよそ 20 名のエンジニアやワーカー
が訓練された。
②米国オハイオ州では、2003 年に推進関係の研究センターとして Ohio Center for
Advanced Propulsion and Power (以下 OCAPP)が設立された。このセンターには、オハイオ
州の Third Frontier Project の一貫として、1080 万ドルの予算が計上された。この予算は、
州内の大学における航空推進技術関係の研究と開発設備の充実にあてられている。このプ
ログラムを通じて、米国内における推進機関メーカーの競争力を高めるとともに、将来の
労働力を育成教育することが目指されている。この予算による設備購入を通じて、OCAPP は、
NASA、米空軍、GE Aircraft Engine 社などの先端的な航空宇宙分野のパートナーに貢献す
るものと位置付けられている。予算が向けられる技術分野としては、ターボ機械、燃焼、
及び圧縮機技術であり、将来の民間機推進技術から軍用推進技術まで広範囲にわたる。特
に超高速飛行における環境負荷や、Microelectrical Mechanical Systems(以下 MEMS)に基
づく新しいエンジン制御デバイスに関する研究は重点課題として実施しようとしている。
この OCAPP は、革新プログラムのためのオハイオ州ライトセンターの傘下における共同に
よって実現した教育研究アライアンスであり、パートナーとして以下の各大学、研究所、
会社が名を連ねている。
・オハイオ州立大学、シンシナティ大学、デイトン大学、ケースウェスタンリザーブ
大学、アクロン大学
・空軍研究所、ライトパターソン空軍基地研究所
・NASA Glenn 研究所
・GE Aircraft Engine 社
・その他のサプライヤー会社
3.2 ヨーロッパその他の地域の状況
(1)英国では、シェフィールド大学とヨークシャー州によって、複合材および先進材料
技術センターが南ヨークシャーの先進製造技術パークに設立された。このセンターは、複
合材と合金マトリックスの機械加工と結合に関する英国の国立センターとなる。産業側の
パートナーとしては、ボーイング、TWI、Messier Dowty、Smith Industries などの会社が
参入している。
(2)ボーイングとオーストラリアの Forest Lake College は、ボーイングの設計チャレ
ンジプロジェクトで協力関係にある。ボーイングが B787 の機体各部の設計資料を提供し、
仮想ネットワーク及び実際に面会することによって、ボーイングの技術者が学生の飛行機
設計図の指導を行っている。
4.大学を中心とする UAV/MAV の研究動向
近年、欧米やアジア諸国では、大学を中心として無人小型飛行機の研究・開発が盛んに
なって来ている。これらは Unmanned Air Vehicle(以下 UAV)、Micro Aerial Vehicle (以
下 MAV)と呼ばれ、MAV は概ね翼幅が 200mm 以下のものを指す。
これらの無人小型飛行機は、高度な制御系を搭載して自律飛行を目指し、種々の観測活
4
動等を行うもので、小型化に必要となる各種先端要素技術だけでなく、システム統合技術
を要するという点で、大学における教育研究活動に新たな局面を拓く分野である。
(1)米国では、例えばマサチューセッツ工科大学で、MEMS 技術を応用した超小型ガスタ
ービンを搭載して手の平サイズの飛行機を実現する試みなどが先駆的に行われている。最
近ではこれよりやや大きなサイズの UAV を学生が製作し、大学間で性能を競う国際大会も
開催されている。
(2)韓国でも、政府のサポートでこのような活動が活発に行われており、30 チーム以上
が参加して国内大会が行われている。また、超小型推進システムに関する学術的な研究も
盛んに行われている模様である。
(3)又、日本でも UAV/MAV の研究が盛んになりつつある。東京大学では、文部科学省の
COE の一つである「機械システムイノベーション」COE の中で、Innovative Aerial Robot
Project というプロジェクトが実施されており、UAV/MAV を実現するための各種要素技術
や制御法、通信技術などの基礎研究が幅広く行われている。
尚、2004 年 12 月には当該 COE の国際シンポジウムが開催され、日本国内だけでなくヨー
ロッパ及びアジアの関連研究者が多くの研究発表を行った。この研究発表の中で関連する
研究分野の例としては以下のようなものが挙げられる。
・小型化に伴う低レイノルズ数あるいは臨界レイノルズ数領域における空気力学
・昆虫の飛行における空気力学、飛行力学
・小型構造、小型アクチュエータなどを実現するスマート構造技術
・MEMS などの製造技術
・自律飛行の制御技術
・最適設計システム
・マイクロガスタービン
・超小型推進のための新しいエンジン技術と熱力学
・レーザー推進
・革新エネルギー伝送技術
・システムインテグレーション技術
この分野の研究・開発は、大学での教育研究ともマッチングしており、もの作り教育の
重要性が高まっていることもあって、今後益々発展して行くものと思われる。
MAV/UAV 実験機(東京大学 鈴木・土屋研究室提供)
5
5
国内学会のアジア域における活動の活発化
航空学に関連する日本の諸学会では、アジア地域を対象とする講演会の開催など、アジ
アにおける情報・人材交流が、近年活発になってきている。
5.1 日本航空宇宙学会
日本航空宇宙学会では、原動機推進部門による航空原動機宇宙推進講演会が衣替えして
Asian Joint Conference on Propulsion and Power となって、2004 年 3 月にその第 1 回会
合がソウルで開催された。これは、日本航空宇宙学会と韓国推進工学会との合同講演会で、
双方の年会をジョイントで行ったものであるが、中国からの参加もあった。このシンポジ
ウムは毎年持ち回りで開催されることになり、
第 2 回は 2005 年 1 月に北九州で実施される。
又、同学会の飛行機シンポジウムでは、毎年国際セッションが設けられているが、2002 年
度にこのセッションを韓国航空宇宙学会と共催したことを皮切りに、両者の協力関係が進
展し、2004 年度の国際セッションを、もともとの飛行機シンポジウムから切り離して、韓
国で開催した。
5.2 日本ガスタービン学会
一方、日本ガスタービン学会では、従来 4 年に一度ガスタービン国際会議(以下 IGTC)
を開催してきたが、このほどその中間の年にアジア域を対象として、IGTC より小規模の国
際会議をアジア各国との協力で実施する計画が具現化し、Asian Congress on Gas Turbines
として第 1 回を 2005 年 11 月にソウルで開催する運びとなった。
これらの活動は、欧米に対する第 3 極として、アジア地域の研究開発活動を活発化させ
ようという動機に基づいている。又、航空機・エンジンおよび関連技術の市場開拓にはア
ジア地域との協調が是非必要であるという認識も働いている。
今後、航空輸送のアジア域の動向とも合わせ、この地域での学会活動の重要性は増して
いくものと思われる。大学や学会を介した学術・情報・人材の交流もこれまで以上に活発
化させて行くことが求められている。
6
6
宇宙航空研究開発機構
総合技術研究本部における航空関連研究動向
6.1 全機プロジェクト
平成15年10月に発足した宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部(以下JAXA総研)は、
旧航空宇宙技術研究所の諸プロジェクトを引き続き実施している。JAXA総研での多少大き
な規模の航空技術関係の全機運航を伴う研究プロジェクトは、現在のところ“次世代超音
速機プロジェクト”及び“成層圏プラットフォームプロジェクト”の2件で、これをJAXA総
研がその主要業務の一つとして実施している。
以下にこれらプロジェクトの現況について紹介する。
(1)次世代超音速機プロジェクト
本プロジェクトについては、固体ロケットを用いて打上げてMach 2で滑空する方式の実
験機(通称ロケット実験機)の第1回の飛行試験が2002年7月14日に豪州ウーメラ実験場で実
施された。しかし、その結果は、報道等で周知のとおり、点火直後に実験機がロケットか
ら脱落し、失敗に終わった。その後詳細な事故調査が行われて、原因が飛行制御回路の初
等的電気的問題にあったことが特定された。現在、今後の飛行再開に向けての設計方針の
再設定、細部設計の変更などがほぼ終了し、試験計画を策定中である。
(2)成層圏プラットフォームプロジェクト
成層圏プラットフォームプロジェクトは、無動力の“成層圏滞空試験”と動力を有して
風に逆らって定点に滞留する“定点滞空試験(高度4km)”の2種類の試験から構成されてい
る。このうちの成層圏滞空試験については、2003年7月から8月にほぼ成功裡に終了した。
これに引き続く定点滞空試験も2004年秋にほぼ成功裏に終了した。現在、本プロジェクト
の報告会が予定されている。
定点滞空試験の飛行パターン(pattern №.P3-3)と、定点滞空試験を終えて降下中の写真
を図1及び図2に示す。
図1 成層圏滞空試験の飛行軌跡
図2 定点滞空試験を終えて基地に
[於 北海道 十勝平野 南方 大樹町周辺]
7
向う試験機の写真
6.2 大型要素研究プロジェクト
宇宙航空三機関の統合に伴って、今後の航空技術の研究をどのように実施すべきかにつ
いて、科学技術・学術審議会に航空科学技術委員会が設置されて審議を行い、「航空科学技
術に関する研究開発の推進方策について」とする報告書が平成15年5月に公開された。この
報告書に基づいて、平成16年度から大型要素研究プロジェクトがいくつか立ち上がった。
ここでは、その主なものについて紹介する。
まず、上記報告書では、航空科学技術に関する内外の動向を調査・分析するとともに、
それに基づいて航空科学技術分野の研究開発の必要性と意義を考察し、航空機産業の活性
化をはかるためには航空科学技術の研究開発を推進し、ひいては我が国の航空輸送の発展
に資する基盤技術を強化する必要がある、と結論づけている。
重要研究開発領域としては、
「社会からの要請に応える研究開発」
、
「我が国が得意とする
先行的基盤技術の研究開発」
、「次世代を切り拓く要素技術の研究開発」及び「試験研究設
備の整備と基盤技術の研究開発」の4つの領域が挙げられている。
以下に各領域について紹介する。
(1)社会からの要請に応える研究開発
この研究開発項目では、更に次の3つのサブテーマが挙げられている。
・ 国産航空機開発に貢献する研究開発、
・ 安全運航に貢献する研究開発、
・ 安全・安心な社会の実現に資する航空科学技術の研究開発、
尚、ここでは「国産航空機開発に貢献する研究開発」を中心に紹介することとし、残り2
件のサブテーマについては割愛する。
①国産航空機開発に貢献する研究開発
このサブテーマをさらに細かく分けると、次の3項目にブレークダウンされる。
・設計・製造の低コスト化・効率化に資する技術
:具体的テーマとして、複合材構造の低コスト化に資する構造設計技術及び製造・修
理技術、数値シミュレーションによる空力形状設計の効率化 が名指しされている。
このうち、
“低コスト複合材構造・製造技術の研究”については、後述する。
・安全性の向上に寄与する技術
:具体的テーマとして、衝撃吸収構造の設計技術が挙げられている。
・環境保全に貢献する技術
:具体的テーマとして、排出ガスを低減するエンジン技術、及びジェットエンジンの
低騒音化技術、が挙げられている。
JAXA総研では、この報告書の趣旨を反映して、経済産業省/NEDOで一昨年度から開始さ
れた「環境適応型高性能小型航空機研究開発」に直接参画・協力するとともに、その次の
世代の航空機開発に応用される技術を開発し、さらに遠い将来を見越した革新的な技術の
芽を出させるべく「国産旅客機高性能化技術の研究開発」と「未来型航空機技術の研究開
発」を平成16年度から開始した。このうち、前者の「国産旅客機高性能化技術の研究開発」
に関する対象技術の目標値などをまとめた図を次ページの図3に示す。
8
「国産旅客機高性能化技術」の研究開発 ~目標 ~
将来技術と目標
安全性向上(クラッシュ時乗客保護)
•衝撃吸収構造技術
コスト/重量の低減
(構造安全性向上型座席/衝撃吸収胴体構造様式)
•低コスト複合材構造/製造技術
•空力弾性アクティブ制御(ACT)技術
•高効率非破壊検査技術
•CFDによる空力最適化技術
目標 (現状航空機と比較して)
•コスト(機体価格+DOC)の20%減
•重量の 20%減
•機外騒音の 20%減
•重大事故の死亡率の 20%減
機外騒音の低減
•低騒音最適設計技術
(音源探査技術、CFDによる最適化)
図3 「国産旅客機高性能化技術の研究開発」の目標
②低コスト複合材構造・製造技術の研究
上述の重要研究開発領域「社会からの要請に応える研究開発」の中で、今年度から本格
的に開始された低コスト複合材構造・製造技術の研究について、ここで相当の紙面を割い
て解説する。
本技術開発は、NEDOを中心として開発が進められようとしている小型国産航空機の後継
型または発展型へ採用されることを目標に、その時点でも十分に価格競争力を持つ低コス
ト型複合材の製造と設計技術を開発するために計画されたものである。
JAXA総研の中の新型航空機技術開発センターと先進複合材評価技術開発センターとが協
力して研究開発を進めている。
この研究計画の狙いと目標を次ページの図4に、そのコストと重量の削減の数値目標値
を図5に、又、その技術課題を図6に示す。
これらの要点について簡単に解説すると、まず達成技術の数値目標値としては、コスト
削減では最大値として25%の低減の可能性があるが、本研究開発では20%の低減を目標値と
している。
重量軽減の最大値としては、30%の可能性があるが、本研究開発では20%の軽減を目標値
としている。
この最大可能性と目標値の違いは、最大の重量軽減を与える解と最大のコスト低減を与
える解の内容は異なるので、両方の目標を両立した場合は最大削減を達成できないことを
考慮したものである。
9
図4 低コスト複合材構造・製造技術の研究開発の狙いと技術移転のシナリオ
• コストの現状
重量軽減目標;20%
再発コスト
120
コスト比率 (%)
100
コスト低減目標 ; 20% 100
100
成形
80
30%
オートクレーブ
重
量
比
率
(%)
75
部品製造
60
構造組立
40
材料
20
0
その他.
複合材料適用化率の
ほぼ上限の場合。
金属
材料
複合
材料
金属
材料
(80%)
(20%)
0
プリプレグ+ オートクレーブ
(現在技術)
RTMなど液相樹脂成形
金属構造と複合材料を最大限適用した構造の重量比較
(Resin Transfer Molding)
図5 低コスト複合材構造・製造技術の研究開発の達成数値目標値
技術課題
(1)軽量化のために・・・・・・・・・・(層間強度と衝撃強度が低く性能を十分発揮できない)
●板厚方向(層間)の強度向上
・2次元積層から3次元強化へ
(二つの候補基礎技術Z-Anchor, スティッチング)
(2)低コスト化のために・・・・・(プリプレグは高価、3次元繊維は樹脂含浸が必要)
●樹脂のリキッドモールディング
・RTM
・RFI
(Resin Transfer Molding)
(Resin Film Infusion)
(3)RTMなどの液相成形の強度保証ルート確立
FAA,
FAA, 航空局との連携
航空局との連携
(4)実用的数値解析技術の確立
(5)基本的特性の評価
長期耐久性・疲労特性 取得
図6 低コスト複合材構造・製造技術の研究開発の技術課題
10
これらを達成するための技術課題には、次の二つの要素がある。
一つは三次元的な繊維を利用する層間の強化であり、候補技術としては、二次元織物を
縫い合わせるスティッチング技術と、針状のもので織物をつついて繊維を絡め合わせる
Z-anchor®技術が挙げられている。
もう一つは、従来のプリプレグ複合材技術と異なり、このように樹脂のない三次元繊維
強化体に後から液相樹脂を注入する技術との組み合わせによって、軽量低コスト複合材構
造を実現することである。
これに派生して出てくる重要技術課題として、現在では実現していない液相成形複合材
構造の航空当局(例えば米国 FAA など)による強度保証のルート・方法の確立がある。
本 研 究 開 発 で は 、 FAA か ら こ の 種 の 権 限 を 一 部 委 譲 さ れ て い る DER ( Designated
Engineering Representative)と連携して、強度保証方法の確立に向けた検討を実施する
ことにしている。
本研究開発計画の計画線表を図7に示す。
項 目
15
下期
16
上期
17
下期
上期
18
下期
上期
19
下期
上期
下期
備 考
(ステッチ、ニードリング)開発、
RTM、RFI工法最適化
1 成形プロセス設定
選定した材料・プロセス改善フェーズ
2 基本特性の取得
・基本力学特性
平板、型材成形(NHT,NHC,OHC,CAI 等)
・長期耐久データ
平板(環境、疲労、FAI 等)
3 構造要素試作・評価
4 材料/成形プロセス決定
材料/プロセス決定
材料/プロセスを選択・決定する。
5 部分構造試作・評価
1m級サイズ部分構造
6 主翼サブスケールの試作
6m級サイズサブスケール構造
・主翼構造設計
構造様式/分割方式/製造設計
・製造/組立
7 主翼サブスケール構造試験
・静強度試験
・疲労試験
平成19年以降、継続する可能性あり。
図7 低コスト複合材構造・製造技術の研究開発の計画線表
平成 19 年度に向けて、まず製造技術プロセスの選択・決定を実施し、その製造法による
材料基礎データを取得するとともに、部分構造供試体を製作して評価を続けながら、最終
的には主翼構造を模擬した相当の大きさの供試体を製作・評価する、という全体計画であ
る。この中で数値解析技術・設計技術の研究も実施する。最終的に製造を計画している供
試体のイメージを次ページの図8に示す。
事情が許せば二体を製作して、静荷重試験と疲労試験を実施する予定である。
11
ストリンガー
ランアウト
2.5 m
アクチュエータ4本
対称翼型、単曲率
金属ダミー翼
JAXA
反力壁
6.0 m
図8 低コスト複合材構造・製造技術の研究開発で予定している最終供試体の概要
以下、本研究開発の候補技術に関する成果の一部を紹介する。
a.Z-Anchor(商標名)技術
主候補技術として上に少し説明した、繊維束ないし織物を特殊な針で突き刺して層と層
の繊維を絡める Z-Anchor(商標名)技術の概略イメージと供試体断面写真を図9に示す。
低コストかつ容易に層間を強化
耐損傷性やCAI強度の向上期待
繰り返しさす
0°
特別な針
45°
45°
繊維相互の絡合い
0.5 mm
0°
45°
基材: ノンクリンプ織物
45°
0.5 mm
図9 低コスト複合材の研究開発の基礎候補技術の一つであるZ-anchor®のイメージ
次に、この技術を用いて製作した複合材板が、複合材の一般的弱点である層間剥離と衝
撃後圧縮強度に対して、どのように優れた特性を発揮するかを調べた結果を次ページの図
10に示す。この図10の左には 6.7J/mm の落錘衝撃を与えた場合の層間剥離面積の減少
状況を表す超音波探傷映像を、又、右にはその約半分の 3.3J/mm の衝撃を与えた後に面内
圧縮を行った場合の強度低下(CAI 強度)が Z-anchor®施工回数の増加とともに上昇するこ
とを示す。
12
6.7 J/mm の衝撃後の
超音波Cスキャナの映像
CAI 試験状況写真
350
250
160
140
200
120
100
150
80
60
40
100
50
CAI Strength
(Type A)
Elastic Modulus (GPa)
Z-anchor-1
CAI Strength (MPa)
Z-anchor-0
200
180
300
20
0
0
CAI Strength
(Type B)
Elastic Modulus
(Type A)
Elastic Modulus
(Type B)
Zanchor-0 Zanchor-1 Zanchor-2 Zanchor-4
Z-anchor-2
Z-anchor-4
Z-anchor 加工サイクル数とCAI強度(3.3J/mm)
図10 Z-anchor®の施工回数(0:施工なし, 1: n回, 4: 4n回)と衝撃損傷面積低減の
状況(左図)と、衝撃後圧縮強度(CAI)試験向上の状況(右図)
このように、Z-anchor®は、複合材の弱点である対損傷性と、衝撃後圧縮強度の向上には
相当の効果があることが明らかとなった。しかし、簡単に想像できるように、Z-anchor®施
工により炭素繊維が絡まるということは、主荷重を分担する面内繊維が損傷することも意
味しており、多数回の施工は、最も重要な面内強度の低下を招く恐れがある。現在、この
強度低下特性を疲労特性も含めて取得中であるが、やはり回数増加により強度が低下する
傾向が取得されている。これから、衝撃後圧縮強度の向上と面内強度低下のトレードを行
って、最適なZ-anchor®の施工回数を決定する必要があることが想定される。これらの作業
を近日中に実施して、基礎となる材料プロセスの決定・スペック固定を行い、補強平板等
の製作に進む予定である。
b.スティッチング(縫合)技術
もう一つの候補技術であるスティッチング(縫合)技術については、予備研究が進んでお
図11 スティッチング(縫合)技術による衝撃後圧縮(CAI)強度の向上
13
り、前ページの図11のような衝撃後圧縮強度(CAI)の向上などのデータが既に取得されて
いる。このCAI強度向上の鍵を握る複合材層間破壊靱性の向上についても、各種の知識が集
約されてその挙動が明らかとなってきた。基本的には、図12に示すように、縫合糸の体
積含有率を増やす、すなわち縫合密度を上昇させていくと、モードI層間破壊靱性値がほ
ぼ線形に向上することが判明した。さらに遡ったメカニズムの解明、すなわち縫合糸の破
壊と引き抜けのメカニズムを解明し、靱性向上の数値シミュレーションを実施した研究の
成果も最近公知となったが、ここでは少し詳細に過ぎるので、記述を省略する。縫合技術
素材についても材料成形プロセスの固定を行い、サイズを向上させた板の成形に取り組む。
すべて実験値
12
GI[N/m m ]
10
8
Series of Specimen
I (60 tex)
II (80 tex)
III (111 tex)
IV (80 tex OSS-A)
IV (80 tex OSS-B)
y=6.56x+0.80
111 tex
CF stitching
6
Kevlar
y=2.88x+1.11
80 tex
60 tex
4
y=2.33+1.10
2
0
0
0.5
1
Volume Fraction of Stitch Thread[%]
1.5
炭素繊維縫合: より高いGI とその増加率
図12 スティッチング(縫合)糸の体積含有率とモードI層間破壊靱性の関係
(2)我が国が得意とする先行的基盤技術の研究開発
この重要研究開発領域では、計算流体力学(CFD)、複合材等先進材料技術、アビオニクス
技術が例示されている。
近未来に実施すべき研究開発として、
“コンピュータによる先進設計技術の飛行実証に関
する研究開発”のみが記述されているが、ここではこれについての記述を省略する。
(3)次世代を切り拓く要素技術の研究開発
本年度は、将来実現が期待されているナノテクノロジー等の新分野の研究を盛込んだ“未
来型航空機技術の研究開発”の実施に着手した。
(4)基盤技術の研究開発と試験研究設備の整備
これについては、旧航技研がこれまで蓄積した努力を、質を向上させて引続き実施すべ
きとされている。一つ特徴的なことは、
「研究成果をデータベースとして確実に残し、
」
「規
格・設計基準の策定に必要となる基盤技術の研究開発にも積極的に取り組む。」という表現
があり、次項に述べる先進複合材評価技術の研究開発の中での先進複合材データベースの
構築や試験法標準化は、まさにこの精神を具現化しているものである。
14
6.3 JAXA総研における機械・航空機産業に貢献する技術研究の動向
(1)ボーイングB787及びエアバスA380に適用する複合材技術
最近脚光を浴びている我が国の機械・航空機工業の動向として、ボーイングのB787及び
エアバスのA380の開発進行が注目され、これらの大型部品製造に我が国の企業が深く関与
していることが挙げられる。この我が国の企業の関与の技術基盤として、JAXA総研・先進
複合材評価技術開発センターの研究成果が活用されているので、ここで、両機の開発動向
と研究成果の関連を中心に展望する。
最近の航空機の機体技術において、燃料消費の低減化、大型機実現の不可欠要素として
の軽量化の観点から、先進複合材技術は枢要の位置を占めており、新規航空機を開発する
際には、先進複合材の使用の巧拙がその機体ミッションの達成可能性、機体の経済性など
を決定する事態になっている。このため、A380とB787の二大民間機プロジェクトにおいて
は、旧来の民間機よりも相当大量の先進複合材を使用する計画となっている。
A380における複合材の使用部位の計画を図13に、又、機体構造における複合材の使用
比率を図14に示す。
Application of Glass Fiber Composites/
Metal Laminate (GLARE)
Rear Pressure Bulk Head:
Monolithic CFRP
Empennage &
Un-pressurized
Fuselage:
Monolithic CFRP
Upper Deck Floor Beams:
Monolithic CFRP
Center Wing Box:
Monolithic CFRP
Courtesy of Airbus
図13 エアバスA380における先進複合材の適用部位
図14 エアバスA380の全体構造に対する各材料の使用比率
15
A380で特筆すべき部材へのCFRP適用としては、図13に示した航空機構造の中で最も伝
達荷重の大きい部位である主翼中央翼(キャリースルー)のCFRP化であり、このような重要
部位にCFRPが使用されているのは、材料への信頼の現われと、少しでも構造を軽量化した
いという意図の現れと言える。また、我が国の機械・航空機産業との関連で言えば、同じ
く図13に特記されている、本機の特徴である総二階建て部分の床のビーム(梁)が複合材
化され、それが独自の低コスト製造法を開発したジャムコ㈱によって生産されることが注
目される。この他にも尾翼の複合材部品など、我が国で生産される複合材部品が本機に適
用される予定となっている。これらの結末として本機での複合材の適用率は、図14では
GLAREという金属とのハイブリッド複合材を加えて20%となっているが、最新の情報では23%
まで増加している。いずれにしても、超大型機を実現させるには、先進複合材料を多用し、
軽量化を極限まで実施しなければならないことがわかる。
A380より後に開発着手が宣言されたB787では、さらに大量の先進複合材料が適用される
構想となっている。この機体への先進複合材の適用の計画と全構造に対する先進複合材の
占める重量の比率を図15に示す。
Building on Proven Materials
Steel
10%
Other
5%
Titanium
15%
Carbon laminate
Carbon sandwich
Fiberglass
Composites
50%
Aluminum
20%
Aluminum
Aluminum/steel/titanium pylons
Courtesy of Boeing
図15 B787における先進複合材の適用部位と適用比率
この図15に示されるように、本機のゴールとしては構造重量の50%ものCFRPを使用する
設計が進んでいる。本機での最大特徴は、主翼と胴体の全てをCFRP化することである。本
機の製造後、塗装の前に見ることができたら、ほとんどの表面はCFRPの色である黒色に見
えることとなる。しかも、本機の先進複合材部材の生産には、我が国の機械・航空機産業
が深く係る事になっており、最大の技術的焦点である複合材主翼は三菱重工が製造するこ
とになっており、左右の主翼を結合して曲げ荷重を伝達する中央翼キャリースルー構造は
富士重工が、又、大型旅客機として史上初めて先進複合材を採用する胴体構造の一部は川
崎重工が生産することになっている。この他、二次的部品まで含めると我が国での生産比
率は1/3を越え、我が国の航空機工業へのインパクトは相当のものである。使用者側として
は、全日空が本機開発を決定するキックオフカスタマーとして50機の発注を決定し、日本
16
航空も30機の発注を宣言する等、本機は製造・使用の両面で我が国の航空機業界と深い繋
がりを持つこととなる。
(2)対応するJAXA総研における技術研究の動向
①先進複合材データベース「JAXA-ACDB」の構築
上述の開発機体に適用する先進複合材の設計、使用を後押しするものとして、JAXA総研・
先進複合材評価技術開発センター(以下ACE TeC)が構築している先進複合材データベース
「JAXA-ACDB」がある。これは、2002年1月にインターネットを通じて関係者に登録制で無
料公開されているもので、これらの開発機体の関連複合材料の強度等のデータが納められ
ている。その後の数回のバージョンアップを経て、2004年12月にはやや大幅なバージョン
アップが実施され、データの検索構造・データ量の増大、ユーザー属性の解析などを可能
にしたVer.04-1が公開されている。現在の登録者は約800人であり、ヒット数は約11000件
である。今後はデータ数をさらに増加させるとともに、絶え間のない改善を実施する予定
である。
今回改訂されたバージョンのトップページの二画面を図16に示す。
図16 先進複合材データベース JAXA-ACDBのトップ画面(Ver04-01)
②複合材強度試験法の標準化
又、ACE TeCでは、上述の先進複合材データベース構築とともに、そのデータ取得の際に
使用する複合材強度試験法の標準化にも取り組んでいる。
まず、ターゲットとする先進複合材試験法を選択し、それについて同一の試験片を多機
関に配布し、同種の試験を実施して結果を比較する手法(ラウンドロビン試験)によって試
験法の標準化を実施していく。最初の試験法として選択したのは、目違い切欠き圧縮法に
17
よる層間せん断試験法である。既にJIS試験法原案の審議を終了し、日本規格協会に提出さ
れた。その次のJIS化目標として選択した有孔圧縮試験法(以下OHC)は、複合材の各種強度
の中で一番重要性の高いものの一つであり、このOHC についてもラウンドロビン試験を終了
し、JIS試験法原案の審議を実施している。ここでの特徴は、現在の実行上(de facto)の世
界標準となっている米国のSACMA法に加えて、旧航空宇宙技術研究所で提案された治具
(NAL-III)を使用する方法を含む規格が制定されることである。
③その他
ACE TeC では、一部上述した未来型航空機の技術の“ナノテクノロジー応用複合材技術”
、
航空機部品の形状を自由に変える“モルフィング技術の基礎研究”等を実施している。
(3)その他の要素技術分野の研究
前述以外の JAXA 総研における要素技術分野の研究を簡単に展望することは容易ではない
が、以下にごく手短に言及する。
①風洞技術開発センターでは、低速から極超音速までの 10 風洞において ISO9001 規格に
適合した品質マネジメントシステムを機能させ、顧客満足の向上と事故の無い風洞運用を
図っており、成果を上げている。又、国産小型航空機の開発のための遷音速風試で JAXA の
感圧塗料(PSP)技術を用いた我が国初の実用 PSP 試験を行う等、同技術は実用化に向けて
着実に進展しつつある。空間速度場計測(PIV)技術では、低速流での実用化を達成し、大
型・中型の低速風洞での適用実績を重ねた。更に、高速流への実用化に向け、2m×2m 遷音
速風洞での技術確認試験を実施する段階に達した。
②IT センターでは、スーパーコンピュータの運用及び数値シミュレーション技術開発を
実施している。高揚力装置を対象とした複雑形状まわりの流れ解析の信頼性向上の研究を
進めるとともに、騒音解析に必要な計算技術開発を進めた。これらの技術は、NEDO による
小型機開発に適用されている。ヘリコプタの騒音低減化技術に関しては、ブレードの変形
の影響を評価するため、空力-構造連成シミュレーション技術の開発を進めている。又、
ネットワーク上の仮想研究環境である ITBL を利用した空力-構造連成計算、風洞試験の遠
隔モニタリング環境を構築、評価し、その有効性を確認した。
③飛行試験技術開発センターでは、飛行試験の企画・立案を含め実験用航空機(固定翼
機 2 機、回転翼機 1 機)と飛行シミュレータとの連携を一層進めてきた。特に、内外部ニ
ーズの研究開発に対応した「自律制御支援システム評価飛行」
、「環境観測飛行」、
「風観測
センサ/後方乱気流評価飛行」等評価飛行試験が実施された。又、飛行シミュレータでは
「トンネル型表示装置の開発」の技術移転が進捗したことと、国産小型旅客機プロジェク
トにおける「操縦システム評価試験」に一応の目処をたてた。
尚、航空原動機分野の研究展望については、他に資料にもあるので、ここでは省略する。
以上
KEIRIN
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
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