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アルベルティ『絵画論』再考

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アルベルティ『絵画論』再考
10 月 9 日(日)10:00-10:30 【若手研究者フォーラム】
〈分科会 3〉芸術理論
アルベルティ『絵画論』再考
――規範、再現/表象、循環――
島田 浩太朗(京都大学)
初期ルネサンスの人文主義者レオン・バッティスタ・アルベルティ(1404-1472)は、
『絵画論』
(1435/36)
において、古典古代の数学、幾何学、修辞学、そして中世の光学論をその基礎としつつ、絵画における遠
近法、構成、歴史/物語を再検討することで、新しい芸術と芸術家の規範を提示した。とりわけ遠近法に着
目してみると、絵画空間の構成要素を点・線・面といった最小限にまで還元するとともに、視点と対象の
間に視的ピラミッドを構成することでその一裁断面を窓に見立て、その窓枠の向こう側にある三次元の対
象を二次元に精確に写し取るためにヴェール(ブラッチャ)を考案した。彼は観察・分析を通して、自然
現象や経験についての理論的再検討を行うことで、主体と客体、具体と抽象、実と虚のあいだの往還を繰
り返し、自然と人工といった二元論を超えた普遍的な再現/表象システムそのものをつくりだした。
このラディカルな再現/表象システムは、芸術家の創造行為の過程において、二次元と三次元、想像世界
と現実世界の間をシームレスに行き来することを容易にするだけでなく、絵画空間内における視点の移動
を伴った経験的シークエンスをも含む、イメージと擬似体験の間の「循環」的特徴を持つ。この特質は、
制作者だけでなく鑑賞者をもその絵画空間へと引き込み、もうひとつの仮想世界へと没入させる力を絵画
に与えることに成功した。つまり、遠近法とは目の前の三次元の対象を二次元に忠実に再現するための方
法であると同時に、その間を自由に往還する「循環」のための方法でもある。発表者は、このような特異
性を同論考にもたらした最大の要因は、彼が建築家でもあったことに起因すると考える。すなわち、夢想
と現実のあいだをインタラクティブに行き来する、その終わりなき建築的思考にその本質があるのだ。
以上のことから、本発表では同書を字義通りの「絵画論」として読むだけでなく、建築論、すなわち分
野を超えた総合芸術論として、あるいは宗教・芸術・科学といった諸領域が原初的で未分化な状態のまま
浮遊し、時間と空間が過去・現在・未来に対して開かれた、知覚の原論として読み直すことを試みる。と
りわけその数学的・光学的な特質に着目することで、新しい芸術の再現/表象のための規範という枠を超え
て、観察-分析-再現を無限に繰り返すことによってつくりだされる、自然と模倣(あるいは人工)の間を「循
環」する現象的・生態学的な芸術の有り様について考察する。かつてアルベルティが同書において古典古
代からの引用を縫い合わせつつ、それらの資料に時空を超えて新たな意味を付与するアナクロニズムの方
法によって古代のテクストを現代(近代)の問題として適用する術を検討したように、発表者は現代にお
ける同書のアクチュアリティについて再検討したい。
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