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開業10周年を迎えたゆいレール

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開業10周年を迎えたゆいレール
Report レポート
開業10周年を迎えたゆいレール
仲吉 良次
沖縄都市モノレール株式会社
代表取締役社長
NAKAYOSHI Ryoji
はじめに
十年一昔とは、よく言ったものであ
る。沖縄に都市モノレール
(ゆいレール)
が開通し、この10年で那覇のまちづく
りは進んだ。沿線で人、物、情報の交
流が創出された。昨年あたりから、外
国人観光客のゆいレール利用が目立つ
ようになった。県観光政策課が公表し
た
『平成24年度外国人観光客満足度調査
報告書』
によると、航空機利用外国人観
光客の34.8%、クルーズ船利用も11.2%
がゆいレールをご利用になっている。
世界的な旅行口コミサイトの
『トリップ
アドバイザー』では、旅行者が評価す
る那覇市内の観光名所ランキングの中
で、ゆいレールが1位の評価を頂いて
いる。また海外から英語や中国語など
の口コミ投稿でも高い評価を得ている。
順調なゆいレールだが、それは難産
の末に生まれたものだった。その嚆矢
となったのは1965年、高良一那覇市議
会議長のモノレール構想であった。そ
の後1972年に沖縄振興開発計画で
「新交
図−1 ゆいレールに関する年ごとの経済効果
通システムの導入について検討する」
として今日まで41年経った。2003年の開業まで
あった。
(図-1)
は、沖縄県知事も那覇市長も三代に渡る長期事
○ゆいレール建設による経済効果 1,855億円
業となった。その間、沖縄開発庁や沖縄振興開
○ゆいレール運営による経済効果 456億円
発金融公庫から開業に向けた課題が示され、関
○駅周辺建築物建設による経済効果 5,473億円
係者の努力の積み重ねによって解決し、開業に
合計で7,784億円の経済効果となった。この調
こぎ着けた。
査で分かったのは、都市モノレール事業は運輸
では、都市モノレールの整備は成功だったの
事業よりもそれに関連する駅周辺建築物建設の
か。㈱りゅうぎん総合研究所と㈱国建が、本年
経済効果が遙かに大きいことであった。それ以
6月に共同でまとめた
『ゆいレール整備による経
外にも、ゆいレールの利便性による観光消費額
済効果調査』によると、平成8年度の着工から
や商業施設での売上増加などの経済効果もある
平成24年度までの16年間に、以下の経済効果が
であろう。ゆいレールへの評価は、運輸事業単
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体としてよりも、様々な分野への好影
表−2 駅別乗客数 年度比較表(1日当り平均)
響も含めて多面的に行うべきものであ
る。
ゆいレールは公共事業として、大成
功した事例である。また、
沿線へのコー
ルセンター進出、外国人観光客利用の
増加、土地区画整理地区への順調な入
居状況などを見ると、国、県、那覇市
の施策とも連動して、成果を上げてい
ることが分かる。
が続く那覇空港駅が12.7%増、ホテルが進出し
ゆいレール開業に向けては、関係者が「口角
た壺川駅が13.4%増、再開発の一部完成とホテ
泡を飛ばして」議論されたと伺っている。それ
ルが進出した旭橋駅が13.8%増となっている。
らの努力とご苦労に、改めて感謝申しあげる。
(表-2)
現在の乗客数は、2012年1月に策定した中長
乗客数の推移
期経営計画での目標値を上回っている。
開業当時は戦後初の軌道系交通を体験しよう
と、多くの方がご利用された。北部からの乗車
経営の状況
ツアーもあったので、さながら観光スポットで
ゆいレールの経営状況について、これまで
もあった。
は度々赤字体質との報道がなされてきた。当社
その後、順調に乗客数は伸びていったが、
の貸借対照表を読むと、簿記をやられている
2008年のリーマンショック、その後の新型イン
方なら、赤字の原因が減価償却累計額である
フルエンザや東日本大震災による社会的不安要
と、ひとまず安心すると思う。減価償却費は固
因で、他の産業同様に落ち込んだ。
定資産の目減り分を帳簿上計上しているが、現
その間、2011年の運賃値上げもあったが、運
実に経費が出ていくわけではない。減価償却
行本数の増便や運賃の多様化などに取り組み、
費を除いた決算では、毎年黒字を続けている。
平成23年度から上昇に転じ、平成24年度は過去
それでは、設備更新費用が気になるところだ
最高の乗客数となった。
(表-1)
が、現在、国から地域の公共交通機関への支援策
各駅の乗客数は周辺の開発状況と連動してお
が手厚くなっているので、支援策を活用していく。
り、再開発事業の完成やホテルやコールセン
それでも長期借入金約256億円が大きな負担
ターなどの立地が、乗客数を押し上げている。
としてある。2011年に借入先である沖縄県、那
平成23年度と24年度を比較すると、LCCの進出
覇市及び沖縄振興開発金融公庫と金融支援に関
表−1 沖縄都市モノレール㈱1日平均乗客数
する協定を結んだ。これまで年額約13
億円の返済が4億5千万円に軽減され
る支援が5年間続く。
平成24年度の損益計算書で、当期純
損失は約6億1千万円あるが、減価償
却費約13億円を差し引くと約6億8千万
円の黒 字 である。 現 実に年度 末のフ
リーキャッシュフローも約6億円あった。
また、中長期経営計画や需要喚起ア
クションプロクラムに基づき、目標と
する収支に向けて様々な取り組みを
行っている。
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安全とサービス向上への取り組み
れ、ニライカナイカードを所持する方への運賃
モノレールは構造上、非常に安全な乗り物で
割引を行っている。
ある。構造上安全であっても、それを扱うのは
自動車から公共交通機関への転換を促進する
人であり、日々の業務で安全が確保されなけれ
ため、運転免許自主返納者で運転経歴証明書を
ばならない。当社では、
安全管理規程、
安全方針、
持っている方への運賃割引を行っている。
安全管理体制を定め、2 ヶ月に1度、社長が委
沖縄独自の文化を発信するため、駅でウチ
員長となる安全対策委員会を開催し、PDCAで
ナーグチ
(沖縄語)による案内放送を行ってい
安全確保に努めている。また社員の研修や訓練、
る。
内部監査や職場点検などで安全レベル向上を
図っている。
浦添ルート延長への期待
ゆいレールは開業以来無事故を継続している
2019年春の開通を目指し、浦添への延長工事
のが評価され、2012年10月17日に
「鉄道及び軌
が始まる。前述の
『ゆいレール整備による経済
道の運転無事故沖縄総合事務局長表彰」を授与
効果調査』により、ゆいレールによる様々な効
された。これを栄誉として、更なる安全意識向
果が明らかになり、それは延長区間でも確実に
上に努めていく。
(写真-1)
期待されるものだ。
延長区間には4つの駅が設置される。駅周辺
や沿線では、区画整理などによる建築物の増加
や定住人口増加が期待され、経済波及効果やま
ちづくり促進が期待される。新聞報道によれば、
延長区間でのマンション販売が順調に完売し、
沿線物件への不動産関係者の期待が大きいとの
ことである。
写真−1 開業以来の無事故で総合事務局長表彰を受ける
地域以外からの交流人口も生じることであろ
う。まず最終駅である浦西駅
(仮称)は、沖縄自
運行の安全確保の他にも、様々なサービス確
動車道と結節し、1,000台のパーク&ライド駐
保に努めている。まず2011年8月にダイヤを改
車場を設置する。これにより北部と那覇がゆい
正し、平日、休日とも運行本数を増便し、首里
レールを通じて通勤圏内に収まることになり、
駅始発を早めた。これにより、通勤通学のラッ
浦西駅は多くの利用が見込まれ、利用者を対象
シュ時は6分間隔から5分間隔に短縮し、那覇
とした多様な展開の可能性を持っていると言え
空港で早朝勤務の方が利用できるようになっ
る。また首里を京都とすれば、浦添は奈良にあ
た。
たり、沿線には浦添城、琉球のシェークスピア
フリー乗車券の有効期限を24時間単位にし、
玉城朝薫の墓など様々な文化遺産がある。現在
1日券が実質2日券となり、発売枚数が大きく
首里駅まで、多くの観光客がお越しいただいて
伸びている。また隣駅までの運賃を100円
「おと
いるので、浦添まで呼び込む仕掛けが必要とな
なりきっぷ」としたことは、潜在需要の掘り起
るであろう。
こしにつながった。
自動車からゆいレール利用へ転換することに
ゆいレールは高齢者や障がいのある方のご利
より、所要時間の短縮、二酸化炭素や窒素酸化
用も多く、駅員のサービス介助士2級資格取得
物減少の効果も出る。
を進めている。
建築物増加や定住人口増加で、浦添市の税収
企業の社会的責任を果たすため、本年6月全
も増えることであろう。
駅にAEDを設置し、駅周辺でのご利用も呼び
ゆいレールの延長は、関連する多くの方面に
かけた。8月現在、駅周辺から2件のAED借
良い波及効果を与えることが見込まれる。
用要請があった。東日本大震災で沖縄に避難さ
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今後の課題
ある。
なんと言っても、バスと連携し、公共交通全
収支状況だけを見ると、不安に思われるかも
体の底上げを図らなければならない。平成26年
知れないが、これまで述べたようにゆいレール
度、沖縄県の施策でバスとの共通IC乗車券が導
はまちづくりや経済と結びついており、県全体
入される。一つのICカードでバスとモノレー
に大きな波及効果がある。ゆいレールの評価に
ルの運賃支払ができることで利便性の向上を図
ついては、幅広い視点と長い目で考えていただ
り、乗り継ぎ割引を実現することで乗り継ぎの
ければと思う。
抵抗感を軽減したい。また県全体でモビリティ・
マネジメントに取り組んで、子どもの頃から公
最後に
共交通利用の意識を芽生えさせることも重要で
かつての那覇は那覇港の周辺であった。那覇
ある。
港周辺は、沖縄戦直後米軍が占領し、市民が戻
次に、ゆいレールの利便性や魅力を更に向
れなかったので、仕方なく壺屋やかつては原野
上させることも重要である。本年9月から11月
だった国際通り周辺からまちが形成されていっ
に、
“はな金ダイヤ”
(秋季繁忙期臨時ダイヤ)を
た。無計画に作られたまちとアメリカからの自
スタートさせる。1週間のうちで金曜日が最も
動車文化によって、交通渋滞が酷く、人の移動
乗客数が多く、また秋は一番乗客数が増える季
や経済に悪影響を与えていた。また、復帰当時
節なので、増便している。平日ダイヤの増便も
は那覇市域の約30%が米軍基地で、市の発展を
計画している。
阻害していた。
パーク&ライド駐車場は安里駅、古島駅、小
ゆいレールの整備は、交通渋滞を緩和すると
禄駅にあり、需要が高いので更なる展開が必要
共に、米軍基地跡地の開発地を結ぶことにより、
である。
沖縄戦がまちと経済に与えた負の影響を取り除
浦添延長については、沿線のまちづくりが進
いていった。
み、定住人口と交流人口が増加することと、中
東京はオリンピックを境にまちが変わった
北部からの需要を確実に取り込むことが重要で
と、よく言われる。那覇はゆいレールの整備が
ある。人、物、情報の流れを那覇空港からゆい
沿線の開発とセットで進められ、まちを変えて
レールを通じて中・北部まで拡大する。
きた。今後浦添延長により、延長区間の新たな
ゆいレールの成功は、浦添以降の延伸、那覇
街づくりに貢献していく。
市内での循環線の可能性を秘めている。それは
今後も、ゆいレールは沖縄発展の牽引車とし
沖縄本島縦貫鉄軌道構想とも関連して、公共交
ての役割を、果たしていく。
(写真−2)
通の更なる充実につながるであろう。
これらの課題に取り組むことによって、累積
債務を解消していかなければならない。今後浦
添延長により、1日約1万人の乗客が増えるこ
とを想定しており、それによって収支状況を改
善していく。
中長期経営計画では、浦添延長を前提として、
次のような見通しを立てている。
まず、単年度損益好転年次、つまり損益計算
書で当期純損失が当期純利益に変わるのが、平
成30年度を予定している。債務超過解消年次、
つまり貸借対照表の純資産合計がプラスになる
のが平成37年度を予定している。債務超過解消
年次は延長なしに比べて、7年早まる見込みで
写真−2 レールの先に沖縄の未来が広がる
2013. mi-nishi
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