Comments
Transcript
No.36 / 2011.2 - SQUARE - UMIN一般公開ホームページサービス用
実験動物医学 Japanese Association for Laboratory Animal Medicine (JALAM) NO.36 / 2011.2 日本実験動物医学会 事務局 (株)アドスリー内 〒164-0003 東京都中野区東中野4-27-37 TEL.03-5925-2840, FAX.03-5925-2913 URL http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/ 主な内容 ●巻頭言………………………………………………………………………………1 ●学会案内(学術集会委員会) 日本実験動物医学会の日程………………………………………………………2 ●委員会報告 1.認定委員会………………………………………………………………7 2.実験動物学教育委員会…………………………………………………8 3.学術集会委員会:平成22年度ウェットハンド研修会報告…………8 4.情報・編集委員会………………………………………………………13 5.日本実験動物医学会・学会賞選考委員会……………………………13 6.試験小委員会……………………………………………………………13 ●JCLAMからのニュース…………………………………………………………… 15 ●特集1 ニホンザル血小板減少症の原因究明について………………………18 ●特集2 動物愛護管理法の見直しに関する最近の動向………………………20 ●事務局だより………………………………………………………………………24 ●編集後記……………………………………………………………………………25 ●日本実験動物医学会 ホームページ……………………………………………25 巻 頭 言 東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設 笠井 憲雪 現在環境省を中心にして行われている動物愛護管理法の見直しについて、前回の巻頭言につづ いて言及したい。 実験動物分野において今回の見直しのテーマとして挙がっているのは、前回に詳しく書いたよ うに、「届出制等の検討(届出制又は登録制等の規制導入の検討)」と「3Rの推進(代替法、使用数 の削減、苦痛の軽減の実効性確保の検討)」である。これらはそれぞれ重要なテーマであるが、こ こでは視点を変えて、我々実験動物に携わる獣医師の立場から、考えてみたい。 我々が問題としなければならないことは、「動物の愛護及び管理に関する法律」はもとより、 この法に基づいて定められている「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平 成18年4月28日環境省告示第88号)」において、獣医師はもとより獣医に関する記載が全くなく、 家庭動物等の飼養及び保管に関する基準および展示動物の飼養及び保管に関する基準には明確に 獣医師の役割が記載されているのとは対照的であることである。特に実験動物基準は4年ほど前 に改正されたにもかかわらず、獣医師の役割について全く言及していない。さらにはこの改正を 受けて制定された文部科学省、厚生労働省および農林水産省の「動物実験に関する基本指針」に おいても、一切、獣医師の役割が書かれていない。このように獣医師の専門性及び役割が曖昧な ままにおかれている現状は、実験動物に係る動物の愛護及び健康保全、人の安全確保の観点から 考えた時、極めて不十分であると言わざるを得ない。 国際的には、現在改正されようとしているいわゆるCIOMSの原則(医学生物学領域の動物実験に 関する国際原則)にはもちろん、先ごろ改正された米国のILARの指針にはいずれも実験動物の獣 医学的な配慮と獣医師のかかわりについて明確に言及されていることは言うまでもない。CIOMS の原則(案)には、実験動物の健康と福祉には獣医師を含む資格者による獣医学的管理を行なう 事、苦痛の緩和について鎮静薬、鎮痛薬、麻酔薬の使用等について獣医師への相談が必要である との記載がなされている。また、社会からこの分野を眺めた時に、そのルールに獣医師のかかわ りが全く言及されていない状況は深く憂慮する事態であると思われる。 我々本学会会員は実験動物に関わる獣医師の集団として、この問題をしっかりと認識し、関係 各方面にアピールするとともに、今後の粘り強い働きかけでこの状況を改善するための努力をし ていきたいと考える。 1 学 会 案 内 (学術集会委員会) 第151回日本獣医学会学術集会・日本実験動物医学会関連の日程 第151回日本獣医学会学術集会 会 期:平成23年3月30日(水)~4月1日(金) 会 場:東京農工大学(東京都府中市) ●理事会 座長:池 日時:平成23年3月29日(火)15:00~17:00 1. US Harmonization of Lab Animal Health 会場:東京農工大学府中キャンパス Monitoring (HM) 連合農学研究科棟4階 William R. Shek, DVM, PhD (Charles River) 第一会議室 郁生(理研バイオリソースセンター) 2. International harmonization of health ●実験動物医学会総会 monitoring for laboratory rodents 日時:平成23年3月30日(水)13:00~15:00 Werner 会場:第3会場 Cancer Research Center) ●実験動物医学専門医の会 ●公衆衛生・実動医 共催シンポジウム 日時:平成23年3月30日(水)17:00~18:00 「動物愛護法: 検証と次期改正に向けて(提 場所:第3会場 言)」 Nicklas, DVM, DipECLAM (German 日時:平成23年3月31日(木)15:30~18:30 ●実動医シンポジウム1 会場:第6会場 「実験動物福祉の国際的な動向」 座長:佐藤 日時:平成23年3月30日(水)10:00~12:00 浦野 会場:第3会場 1. 動物福祉: 動物のニーズと飼い主責任 座長:安居院高志(北大院・獣) 山口千津子 ((社)日本動物福祉協会獣医師 1.OIEの実験動物福祉綱領 調査員) 黒澤 2. マイクロチップによる所有明示・個体識別 努(阪大・医) 至(岩手大)、能田 淳(酪農大)、 徹(熊本大) 2.Guide for the Care and Use of Laboratory 措置の現状 Animals 第8版について の現状など) 鈴木 四宮勝之(日本獣医師会事務局) 真(沖縄科学技術研究基盤整備機構) ((社)日本獣医師会での取り組み 3. 動物愛護管理制度に係る最近の動向: 動 ●実動医シンポジウム2 物取扱業の業態と課題を中心に 「微生物モニタリングの国際ハーモナイゼー 今川正紀(環境省自然環境局総務課動物愛護管 ション」 理室) 日時:平成23年3月30日(水)15:00~17:00 4. 動物愛護法の実験動物学における問題点 会場:第3会場 笠井憲雪(東北大学動物実験センター) 2 JALAM教育シンポジウム抄録 日本実験動物医学会シンポジウム1 「実験動物福祉の国際的な動向」 日時:平成23年3月30日(水)10:00~12:00 会場:第3会場 座長:安居院高志(北大院・獣) 1.OIE の実験動物福祉綱領 黒澤 努(大阪大学医学部) 2010 年は実験動物福祉関連の国際的な文書が種々公表された。その嚆矢として2010 年6 月に はOIE の総会が開催され、実験動物福祉に関する初めての国際標準となる文書がOIE 加盟176か国 が参加した総会で承認された。OIE はWTO の動物関連標準文書を作成する役割を担っているとさ れ、実質的な取り決め違反には力を持たないが、WTO への提訴としてその実効を担保している。 我が国はBSE および口蹄疫さらには鳥インフルエンザなどの対応でOIE の国際標準を用いてきた 経緯から、実験動物文書も同様な扱いとすることが求められよう。 標準文書はTerrestrial animal health code と称し、疾病蔓延時の安楽死法なども定めている 文書である。この第7.8 章としてUse of animals in research and education が追加された。 OIE はすでに動物福祉を動物の健康に直結しているとして種々の文書を作成しているが、動物福 祉委員会の中にWG を新たに設立し、文書作成が2008 年から開始された。委員は全世界の5 地域 の専門家と国際的実験動物関連団体(ICLAS, AAALAC International 及びIACLAM)の代表が選任 された。演者は策定WG の委員としてこれを解説する。 動物福祉条項はすでに公表されているので、原則は実験動物にも適用される。しかし、実験動 物には他の動物とは違って福祉に関しては特別な規定が必要とのことで文書が作成されることと なった。親規定にはすでに5つのfreedom が必要であるとの規定があり、実験動物にもこれらの 規定は適用される。 前文では動物実験の重要性を認める一方、加盟各国の実験動物福祉の法的整備を勧告している。 また獣医師の動物実験における重要な役割を明記している。第1,2 章で用語の定義と適用範囲 が述べられ、第3 章が3Rs、動物実験代替法への言及である。さらに監視体制の枠組み、訓練と 適格性の確認、獣医学的愛護の提供、動物の由来、物理的施設および環境条件が規定され、最後 に飼養が規定されている。監視体制の枠組みでは動物実験委員会の役割が規定され、そのメンバ ーとして、研究者、獣医師および市民を代表する3 名を最低任命するよう求めている。計画書の 審査項目が規定され、さらに委員会の内部査察を義務付け、その査察項目も規定している。訓練 は研究者、獣医師、実験動物技術者、学生さらに動物実験委員会委員に分けて詳細が規定されて いる。獣医学的愛護では獣医師の臨床責任、死後検案、獣医学的記録、人獣共通感染症、外科手 術と術後管理、鎮痛、麻酔、安楽死、および人道的エンドポイントの規定がある。 3 2.Guide for the Care and Use of Laboratory Animals 第8 版について 鈴木 真(沖縄科学技術研究基盤整備機構) 2010 年に実験動物資源局(Institute of Laboratory Animal Resources: ILAR)のガイドライ ン(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals: Guide)が改訂された。1996 年に改 訂されて以降の改訂であるためか、内容の抜本的な見直しが行われた。まず、第7 版では序文と して記載されていた内容が、第一章「Key Concepts」として内容を充実することにより4章であ った構成が5 章になった。また、第7 版では「研究所の規範と責任」として第一章を構成した 章が、第8 版では「動物の飼養と使用に関するプログラム」と改題され、研究機関における動物 実験施設の運営に関わるプログラムについて、より詳細に記載されるものとなった。他の三章、 「動物の環境、住居および管理」「獣医学的管理」、「施設」については、改題はされていない が、記載内容については同様に詳細なものとなった。 「動物の愛護と管理に関する法律」は2005 年に改訂(2006 年に施行)されたが、この改訂は実 験動物の原則である3R に言及するものであった。これを受けて、日本学術会議は2006 年にガイ ドライン「適切な動物実験の実施に向けて」を公表し、日本における動物実験の進め方は、研究 機関が自主的に管理して実施すべき事柄としている。その上で機関等の責任体制ならびに動物実 験委員会、動物実験操作・実験動物の選択、実験動物の飼養・保管、健康管理、施設等および安 全管理、教育訓練、自己点検・評価および検証ならびに情報公開に関して記述している。米国に おける動物実験の進め方も、日本と同様に自主管理を基本としていることから、ILARのGuide 第 7 版には、日本学術会議のガイドラインと類似した記述が散見される。このことは、ILAR のGuide が改訂されたことは、日本学術会議のガイドラインにも少なからず影響を与えることが予想され る。 ILAR のGuide は、第三者認証組織であるAAALAC International が動物実験施設を認証する際 の、判断基準の拠り所にしている。国内の動物実験施設でも、この認証を取得している、或いは 準備している組織においては、改訂内容に配慮した運用が求められることになる。AAALAC では、 すでに改訂内容を検討して、2010 年の米国実験動物学会において変更点に対する見解を示し、 2011 年以降の然るべき時期から第8 版に準じて施設訪問・調査を実施することを明言している。 本シンポジウムでは、ILAR の第8 版Guide に書き改められた重要なポイントを紹介すると共 に、AAALAC が示した見解を参考にして改訂された内容の背景や意図する点について言及する。 4 日本実験動物医学会シンポジウム2 「微生物モニタリングの国際ハーモナイゼーション」 日時:平成23年3月30日(水)15:00~17:00 会場:第3会場 座長:池 郁生(理研バイオリソースセンター) 実験用げっ歯類の国際間授受に必要な微生物モニタリングの地域間すり合わせについて、欧米 それぞれで今後の方針に大きな影響を持つお二人に話をしていただく、非常に貴重な機会を設け ました。多くの関係者の参加を期待します。 1.US Harmonization of Lab Animal Health Monitoring (HM) William R. Shek, DVM, PhD (Charles River) Most diagnostic laboratories (Dx labs) in the US (and internationally) are part of companies and academic institutions where animals are produced or used for research. Lab animal resource (LAR) departments frequently outsource HM to commercial Dx labs to control expenses and to avoid the complications of managing an internal lab and of developing and maintaining sophisticated assays, e.g., PCR, not available in kit form. Lab animal resource (LAR) departments select Dx labs based on the experience, reputation and credentials of the lab’s staff, the breadth, speed and quality of services, the ease with which services, results and professional support can be accessed, and pricing. The US doesn’t have a central laboratory like the Japanese CIEA or an authoritative association similar to FELASA that prescribes or disseminates pathogen lists, test methods, sampling regimens and report formats. Nevertheless, communication and competition have promoted a high degree of harmonization among Dx labs and the HM programs of lab animal vendors and LAR departments. A Dx lab for routine testing of colonies was established at Charles River in the 1960s. In the early 1980s, this laboratory, now Charles River Research Animal Diagnostic Services (CR-RADS), began doing commercial testing. In recent years, CR-RADS expanded to include Dx labs in France and Japan. Harmonization of testing among these labs is accomplished by sharing assay methods, systems and SOPs. We rely on common LIMS to standardize results analysis and reporting, and to define and harmonize HM programs internationally. 2.International harmonization of health monitoring for laboratory rodents Werner Nicklas, DVM, DipECLAM (Microbiological Diagnostics, German Cancer Research Center, Heidelberg, Germany) Infections of laboratory animals may have severe effects on research results. It is therefore vitally important that proper health surveillance is conducted to evaluate their microbiological status. Reliable and comprehensive health information is necessary when animals from external sources are introduced into a facility, and health reports became increasingly important since genetically modified laboratory rodents are frequently exchanged between research institutions worldwide. Health information provided for laboratory animals is not always satisfactory for various reasons such as finances available for testing, but also inadequate competency of responsible persons may lead to inappropriate sample selection and testing performance. 5 Very few regulations devising health monitoring procedures for laboratory rodents exist internationally; recommendations have been issued for European countries. However, similar practices evolved during the last decade in several parts of the world regarding agents to test, testing frequency, or methodologies, but further harmonization of health monitoring procedures and reporting would be advantageous. Given the increased significance of accurate health information when exchanging animals, research institutions and universities would benefit from universal standards, which would also help scientists as well as reviewers and readers of publications to better assess the validity of research results. 公衆衛生・実動医 共催シンポジウム 「動物愛護法:検証と次期改正に向けて(提言)」 日時:平成23年3月31日(木)15:30~18:30 会場:第6会場 座長:佐藤 至(岩手大)、能田 淳(酪農大)、浦野 徹(熊本大) 1. 動物福祉: 動物のニーズと飼い主責任 山口千津子 ((社)日本動物福祉協会獣医師調査員) 2. マイクロチップによる所有明示・個体識別措置の現状 ((社)日本獣医師会での取組みの現状など) 四宮勝之(日本獣医師会事務局) 3. 動物愛護管理制度に係る最近の動向: 動物取扱業の業態と課題を中心に 今川正紀(環境省自然環境局総務課動物愛護管理室) 4. 動物愛護法の実験動物学における問題点 笠井憲雪(東北大学動物実験センター) 6 委員会報告 1.認定委員会 1)2010年度(平成22年度)日本実験動物医学会専門医認定審査並びに専門医資格更新について 第三回認定専門医(2000年度認定)および第八回認定専門医(2005年度認定)の方々の資格更新の 申請と審査が行われ、9名の方の更新が認められました。また、2010年度新規認定者として2名 が認められました。 その結果、2010年度において専門医総数70名となっています。これからもますます多くの方の 参加を希望します。 下記URLに専門医の認定規則が出ています。申請に必要な資格単位等の詳細が書かれていますの で、専門医申請を考えられている方は是非ご確認下さい。 http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/nintei/ninteikisoku.pdf 2)実験動物医学専門医資格認定単位対象プログラム 第 151 回 日 本 獣 医 学 会 ( 平 成 23 年 3 月 31 日 ~ 4 月 1 日 ま で 東 京 農 工 大 学 に て 開 催 http://www.meeting-jsvs.jp/)における下記シンポジウムをJALAM主催研修会とし、それらへの 出席を専門医認定資格単位と致します。 専門医認定を考えられている方、また、現在専門医の方は更新時の資格に用いられますので、 会場入り口にて出席名簿への記載を御願いします。 ●実験動物医学 シンポジウムI「実験動物福祉の国際的な動向」 日 時:平成23年3月30日(水)10:00~12:00 場 所:東京農工大学、第3会場 認定単位: 更新申請者: 新規申請者:必須分野で申請する場合 10単位 選択分野で申請する場合 5単位 第一分野で申請する場合 10単位 第二分野では申請出来ない ●実験動物医学 シンポジウムⅡ「微生物モニタリングの国際ハーモナイゼーション」 日 時:平成22年3月30日(水)15:00~17:00 場 所:東京農工大学、第3会場 認定単位: 更新申請者: 新規申請者:必須分野で申請する場合 10単位 選択分野で申請する場合 5単位 第一分野で申請する場合 10単位 第二分野では申請出来ない ●公衆衛生・実験動物医学共催シンポジウム 「動物愛護法: 検証と次期改正に向けて(提言)」 日 時:平成23年3月31日(木)15:30~18:30 場 所:東京農工大学、第6会場 認定単位: 更新申請者: 新規申請者:必須分野で申請する場合 10単位 選択分野で申請する場合 5単位 第一分野で申請する場合 10単位 第二分野では申請出来ない 7 2.実験動物学教育委員会 第 149 回及び 150 回日本獣医学会開催時に2回の委員会を開催しました。下記に第2回委員会 の議事録を掲載します。第1回委員会議事録は JALAM News Letter 第 35 号をご覧下さい。 平成 22 年度第2回実験動物学教育委員会議事録 日時:平成22年9月18日(土)10:00~11:00 場所:第 151 回日本獣医学会、第 11 会場(帯広畜産大学、31 番講義室) 出席者:安居院高志(委員長、北大)、久和 茂(東大)、猪俣智夫(麻布大)、岡田利也(大阪府 大)、佐々木宣哉(北大) 欠席者:斎藤 徹(日獣大)、横須賀 誠(日獣大)、高橋寿太郎(岩手大)、湯川眞嘉(日大) 、 佐藤雪太(日大)、二上英樹(岐阜大)、長谷川善久(北里大)、竹内崇師(鳥取大) 議題 1. 委員の入れ替えについて 任期終了まで半年という時期ではあったが、下記2委員の大学転出のための退任、及び1委員 の新規就任が了承された。 退任:吉川泰弘(東大) 、加藤啓子(大阪府大) 新任:竹内崇師(鳥取大) 2. コアカリキュラムについて 久和委員より現在進められているコアカリキュラム事業について実験動物学講義(2次案)、及 び実習(1次案)についての説明があり、意見を交換した。 3. 各大学での実験動物学教育について 安居院委員長より前委員会に引き続き現在北大と帯広畜産大学で進められている獣医学共同教 育課程についての進捗状況の説明があった。 3.学術集会委員会 日本獣医学会(春、秋)及び日本実験動物学会の際のシンポジウムの企画を行った。また、秋 の獣医学会(帯畜大)の開催に合わせ、北海道大学大学院獣医学研究科においてウェットハンド 研修会「げっ歯類及びウサギの獣医学的管理」を行った。 平成22年度ウェットハンド研修会報告 「げっ歯類及びウサギの獣医学的管理」 ◆日程:平成22年9月15日(水)9:00~17:00 平成22年9月16日(木)9:00~15:00 ◆場所:北海道大学大学院獣医学研究科(〒060-0818 札幌市北区北18条西9丁目) ◆受講料:10,000円 ◆講師:安居院高志(北大院獣医学研究科)DVM, Ph.D., DJCLAM 佐々木宣哉(北大院獣医学研究科)DVM, Ph.D., DJCLAM 鳥越大輔(北大院獣医学研究科)DVM, DJCLAM 池 郁生(理研バイオリソースセンター)Ph.D. 関 あずさ(ハムリー株式会社)DVM, Ph.D. ◆受講者(申込順): 8 山添裕之(住友化学)、矢野一男(旭化成クラレメディカル)、黒木宏二(大日本住友製薬)、 土屋 貴(協和発酵キリン)、松尾公平(大日本住友製薬)、岡村匡史(国立国際医療研究セン ター)、南 晃司 (阪大微生物研究会)、平松 澪(中外医科学研究所)、竹田三喜夫(エー ザイ)、古賀哲文(第一三共)、落合雄一郎(中外医科学研究所)、中村眞太郎(テルモ)、池 田たま子(自治医科大学) ◆研修内容 第1日目 午前:講義 ・専門医の心構え ・げっ歯類及びウサギの麻酔,鎮痛,安楽死 ・ACLAM教育プログラムを用いたマウス、ラットのウイルス感染症講義 午後:げっ歯類及びウサギの吸入麻酔法実習 ・吸入麻酔の説明(スライド) ・労働安全、保守点検等の概論 ・気管挿管の実技 ・吸入麻酔のデモ 夕方:懇親会 北海道大学構内レストランポプラ 第2日目 午前:げっ歯類の感染症モニタリング実習、マウスの麻酔・採血・安楽死・採材 ・ELISA、結果判定 ・培養、結果判定 ・寄生虫検査概要(スライド) 午後:感染症モニタリング実習(続き)、模擬試験 ◆実習風景 9 ◆感想文(順不同) 氏名:竹田三喜夫 今回で3回目、ブタ・イヌ(鹿児島大)、サル(滋賀医大)であり、一通りの研修を終えた。他 の研修に比べ今回は、事務局、業者の手順(連絡)が悪く、ラットの気管挿管については場当り 的な感があった。もう少し予め打ち合わせをしておけば、全員挿管に関しては技術が習得できた のではと思う。私は、本年3月に専門医として認定されたが、今後もウェットハンドは貴重な卒 後教育の場として活用してゆきたい。 又、意見交流会では、TG マウスが洗浄室で発見された場合カルタヘナ法に違反するか否かにつ いて激論をし、一定の結論が出た事は大収穫であった。 安居院先生や教室の皆様の全面的な協力に感謝するとともに、少し辛口のコメントとなったこ とは、ウェットハンドが重要であると考えている事の裏返しなので、お許し願いたい。 氏名:山添裕之 分かりやすい研修の場をお与え下さりありがとうございました。 特に池先生の研修では、画像(スチル・ビデオ)を多用いただき、非常に分かりやすいもので した。これをまとめて本(DVD)にして出版していただければと思ってしまいました。なかなかよ い検査本がなく、また従事者指導用教材もないので、是非 JALAM としてもご検討いただければ幸 いです。 検査手技の研修というところから、管理者としてどう考えるかというところまで織り交ぜてご 指導いただいたと思いますが、「こういう微生物がバリアで、あるいはコンベで発見された場合、 ○×という条件なら△△したらよい」などというようなケーススタディが出来ると、さらに現場 に役立つと思います。過去事例などでもよいと思います。IACUC の獣医師として適切な判断(= 検査結果の解釈、施設/運用/目的から見た対応〈淘汰、隔離、治療、清浄化など〉)が出来るよ うご指導をお願いいたします。 氏名:古賀哲文 講義と実習の組み合わせは非常におもしろいと思った。しかしながら、実習の中味に関しては 10 検討の余地があると思う。今回、ラットの気管挿管の実習では、指導される方の技術も低く、器 具の数も少なかった。準備は大変だったと思うが、出席者は出来るだけ技術を取得したいと思っ ており、今後に生かして頂ければと思います。実習の時に色んな方と気さくに話せる雰囲気があ り、情報交換もでき、非常に為になりました。 実験動物講座の献身的なサポートには頭が下がります。2日間の為に準備、指導、後片付けを やって頂き、感謝しています。 氏名:矢野一男 安居院先生、佐々木先生をはじめ北大実験動物学教室のみなさま、関先生と池先生の献身的な 研修指導に感謝します。 座学にとどまらず、マウスおよびラットの麻酔方法と気管挿管の実習、さらに細菌検査、ウイ ルス検査、寄生虫検査のモニタリング業務の実習を体験させていただき、今後の業務に役立てた いと思います。 実験動物医学専門医の取得を目指しているものとして、今後もイヌとブタ、さらにサルのウェ ットハンド研修を受講するつもりです。JCLAM の人数が増え、ACLAM、KCLAM、ECLAM の専門医と肩 を並べ、グローバルに活躍出来るようになりたいと考えております。 氏名:池田たま子 入会したばかりで知り合いもおらず、不安ながらの参加でしたが、皆さんとても熱心で、私も 大変勉強になりました。 基本的なことですが、動物の扱い方の講習会などを、自分の研究施設で講師をつとめられる様 になれたら良いので、次回はそういうものを多くとりあげてもらえると助かります。ただ、全て 行うには2日間では時間が短かった様に思いました。 一つのアイディアなのですが、JCLAM の HP 内(メンバーのみでパスワードをかけるなどして) で、技術講習会、講義の内容をビデオでいつでも見られる様に出来たら、勉強の機会が広がりそ うです。 今回、認定医の重要性・責務を勉強して、認定医の必要性が少し分かりました。自分もきちん とした認定医になれるように頑張りますので、よろしくお願いします。 氏名:岡村匤史 動物施設の管理・運営は、施設毎に異なることが多いため、新しい知識の吸収と情報(意見) 交換を目的に、研修会に参加しました。マウス・ラットへの鎮痛剤や抗炎症薬投与は、これまで 積極的にすすめてきませんでしたが、今後は実験の目的を損なわない限り、積極的に使用するよ う指導していきたいと思います。教科書は古い情報も多いため、今後も研修会に参加し、新しい 技術と知識を習得していきたいと思います。 講師の先生方、どうもありがとうございました。 氏名:中村眞太郎 小動物の導入、麻酔管理に関する手技を学ぶため、今回初めて参加させていただきました。 講習を通して感じたことは、実験動物学という視点が、企業や臨床とは根本から異なるという ことです。AAALAC 認証について安居院先生からご意見をいただく他、研修に参加された先生方の お考えを聞かせていただくことで、日頃社内では触れることがない動物福祉の考え方を得ること が出来たということが、今回の研修での一番の収穫であったと思います。 気管挿管等、当初の目的である麻酔法についての実習も大変勉強になりましたが、出来ること であれば参加者の先生方の講義もお聞きしたく思います。 11 また、動物管理のための施設整備、教育制度の立ち上げ等、各先生方が御自身の組織で行われ た実体験、苦労された点について、今後の研修でお聞かせいただければ、今後自社で活動を行う 上で非常に助かります。 氏名:平松 澪 初めて参加しましたが、盛りだくさんの講義や多くの方々との出会いに大きな刺激を受けまし た。ラットやマウスへの気管挿入法は VTR で観ると容易に出来ると感じましたが、いざ自分が手 を動かしてみると全然できず…悔しい思いをしました。いつ需要があるかわからない技術の1つ だと思うので、習得したいと思います。微生物統御の講義では、実物(マウス)や写真、動画を 使ってあり、わかりやすかったです。 モニター検査では“いない”と思いがちで見逃す可能性もゼロではないのですが、定期的にこ のような講義を受けることで気を引き締め直すことができて良いと思います。 休憩時間や操作の待ち時間に、今まで自分の実験操作等で疑問に思っていたり改良したいと思 っていたりした点について、他の方々に相談できアドバイスをもらえたことはとても大きな収穫 でした。 最後になりましたが、主催していただいた安居院先生はじめ多くの先生方、ありがとうござい ました。 氏名:松尾公平 今回初めてウェットハンド研修会に参加させていただき、動物実験機関における獣医師の役割 が多岐多様であることを改めて認識させられたとともに、自分の知識の間違いや実践すべきこと が多くあること、非常に有意義であったと思われる。 また普段日常業務の中で実施している吸入麻酔や疾病モニタリングにも、動物福祉の向上や適 正な診断に役立つこともあることに気付かされた。 氏名:黒木宏二 教科書的な講義ではなく、現在進行形の知識および実技をご教示いただき、大変勉強になりま した。少人数での研修会ならではの和やかな雰囲気もあり、常日頃の疑問を先生のみならず参加 者の方にもご教示頂き、大変有意義な2日間でした。 氏名:土屋 貴 普段、管理業務に携わっていると、実際に動物を扱う機会が少ない。 (それではいけないのだが …) その為、今回はよいチャンスと思い参加させていただきました。 日程と器具の関係で全てを実施することは難しかったが、陽性検体を用意していただき、自分 の目で確かめることが出来た。また、多くのユニークな方との交流も楽しめた。 初日の件。 実際にやる内容と提供していただいた動物の数があっていなかった。この集まりでの事だけに 少し残念な気がしました。 準備~片づけまで色々ありがとうございました。 氏名:南 晃司 マウスの微生物モニタリング法など基礎的なところから丁寧に教わることが出来てとてもため になった。鎮痛の必要性をデータとして示してもらえて理解しやすかった。 他の企業の人達と、実習中や懇親会で意見交換できたことは、普段の生活ではなかなか出来な 12 いことなので、貴重な機会を頂けて良かった。 専門医試験も機会があれば挑戦してみたい。 氏名:落合雄一郎 今回からウェットハンド研修会に参加させていただきました。 会社では、動物管理者ではなく実験者ですので、研修会に参加された先生方の実験動物に対す る考え方は、とても新鮮に感じました。今後も、定期的に研修会に参加し、実験者として動物を 用いた実験を行うに際し、獣医師として何を考え、行動すべきかについて、じっくりと学んでい きたいと思います。 4.情報・編集委員会 委員長:三好一郎(名古屋市立大学) 委 員:山添裕之(住友化学㈱)、阪本浩和(㈱カネカ) (1)JALAM NEWS LETTER「実験動物医学」を発行した。 ・No.34/2010.2 担当:山添 http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/jalam/JALAM34.pdf ・No.35/2010.9 担当:三好 http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/jalam/JALAM35.pdf (2)日本実験動物医学会のホームページを随時更新した。 ・http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/ 5.日本実験動物医学会・学会賞選考委員会 平成22年度日本実験動物医学会、学会賞(前島賞)の選考を行い、以下の会員を候補者に決定した。 前島賞候補者:西野 智博氏(北海道大学) 研究課題:C57BL/6Jマウスの遺伝的背景は腎糸球体硬化症に抵抗性である 選考経緯:第150回日本獣医学会における実験動物分科会の一般演題の中から、研究の独創性及び 新規性、科学的重要性、関連分野への貢献、将来への期待を考慮して採点し、その結 果を全委員で審議し最高得点者を候補者として選考した。 選考理由:候補者は、腎糸球体硬化症(GS)のモデルであるICGNマウスの遺伝的背景をC57BL/6J としたコンジェニックマウスを作製し、GSの病態を血液性状、腎機能、病理組織の解 析により比較検討した。その結果、C57BL/6Jの遺伝的背景はGSに対する抵抗性を誘導 することを明らかにした。先行研究によりICGSマウスのGS発症の原因となる候補遺伝 子はすでに同定されており、本研究の結果と併せて、今後、GS発症を修飾するmodifier gene の探索に向けて、大いに研究の発展が期待できる。よって、西野智博氏を前島賞 候補者として決定した。 6.試験小委員会 (1)試験小委員会 委員:浅野淳、阿部敏男、上村亮三、金井孝夫、佐々木宣哉、高橋英機、鳥居隆三、 中井伸子、橋本道子、鈴木真 委員会開催:平成22年12月27日 議題:平成22年度認定試験のための試験問題の検討 (2)新規認定審査のため筆記試験の実施 日時:平成23年1月22日(土) 会場:北海道大学(北海道地区)、監督員:佐々木、鳥越 慶應義塾大学(首都圏地区)、監督員:橋本、下田 13 大阪大学(京阪神地区)、監督員:中井、黒澤 鹿児島大学(九州地区)、監査員:上村、鈴木 平成22年度認定審査のための筆記試験に向け、専門医から問題を公募すると共に、小委員会委 員が作成した問題を基に、検討を重ねて試験問題を作成した。また、試験小委員はそれぞれの試 験会場の試験監督員として会場を提供していただいた専門医と協力して試験を実施した。 14 JCLAMからのニュース 黒澤努(JCLAM 担当理事、副会長) 1.JCLAM が所属している IACLAM(国際実験動物医学専門医協会)では国際的な実験動物関連学 会に積極的にポスターを出すなどして活動の広報に努めている。2010 年 11 月に台北で開催 された AFLAS にもポスターを出した。内容は傘下の各専門医協会の性格を示す総括表と専門 医の他の学位の取得状況および今後の各専門医の退職予定者の比率などであった。まとめと して現行の実験動物医学専門医は 24 か国 1020 名である。しかし、その 40%弱がここ 10 年 以内に退職予定である。したがって国際的に実験動物獣医師が貢献できることは叶わなくな ってゆく。専門獣医師のリクルートと維持はきわめて重要であるとした。(図1) 2.2011 年6月 13 日から 15 日まで開催されるICLASの総会への招待状がIACLAMに寄せられてい る。会場はイスタンブールであり詳細は、http://www.iclas2011istanbul.org/ を参照され たい。(図2) 3.IACLAMはWVAのメンバーであるが、WVAはOIEとともに獣医学教育開始 250 年を祝って様々なキ ャンペーンを行っているが、その一環として 2011 年5月 13 日―15 日にフランスのリヨンで 獣医学教育の国際会議を開催するとしている。その招待状が回覧されている。詳細は、 http://www.wcve2011.org/ を参照されたい。IACLAMはここでも活動内容を発表する予定で ある。 4.WVA は定期的にニュースレターを発行しているが、現在はこれを website で閲覧可能である。 最新号は 2011 年2月号であり以下の website を参照されたい。 http://www.worldvet.org/docs/WVANewsletter25.pdf 5.OIE の実験動物福祉綱領はすでに発効されたが、次の問題として実験動物輸送に関する規定 を追加するとして議論が始まっている。OIE の実験動物福祉綱領は OIE の website 上で閲覧 可能である ( http://www.oie.int/international-standard-setting/terrestrial-code/access-online /)。 陸生動物保健綱領の第7章第8節を(Chapter 7.8. Use of animals in research and education)を参照されたい。 以上 JCLAM の活動のうち IACLAM 関連の国際的ニュースをお伝えした。 15 (図1)The International Association of Colleges of Laboratory Animal Medicine: A Global Demographic Survey of Diplomate Practices and Trends Across Colleges 16 (図2)ICLAS 案内状 17 ニホンザル血小板減少症の原因究明について 京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター 岡本宗裕 京都大学霊長類研究所では、この10年間で2回、血小板の急激な減少という症状でニホンザル が死亡する事例があった。いったん発症すると致死率は極めて高く、第1期の2001-2002年の約1 年間に7頭発症して6頭が死亡し、6年間をおいて、第2期の2008年3月から2010年11月までの 間に42頭発症して41頭が死亡(安楽死の処置を含む)した。血小板数の激減、それに続く赤血球 ならびに白血球(特に顆粒球)の減少が発症個体全頭に共通してみられる。死亡時には血小板数が 0になるケースがほとんどであり、これが本疾病のもっとも大きな特徴となっている(霊長類研 究, 26, 69-71; Nature, 466, 302-303)。 本疾病について、病因が全く未知であった2010年7月の報告(霊長類研究, 26, 69-71)の時点 では、仮称ではあるが「ニホンザル出血症」という病名を用いた。しかし、後述するように、病 名をその原因を冠して呼ぶならば、「ニホンザル・サルレトロウイルス関連流行性血小板減少症」 (英名:SRV-associated Infectious Thrombocytopenia in Japanese monkeys、 略称:「ニホン ザル血小板減少症」)とするのが妥当と思われる。そこで、以下は「ニホンザル血小板減少症」 と称する。ニホンザル血小板減少症の病因究明は、京都大学霊長類研究所、社団法人予防衛生協 会、国立感染症研究所、大阪大学微生物病研究所、京都大学ウイルス研究所の5つの研究機関で、 相互に連携をとりながら進めてきた。以下、これまでの研究から得られた結果について概略する。 第2期のアウトブレイクにおける病気の広がり方から、何らかの感染症が疑われた。そこで、ま ず、Ebola(エボラ出血熱), Marburg(マールブルグ病), Lassa(ラッサ熱), CCHF(クリミア コンゴ出血熱)等のヒトが感染すると重篤な出血性の症状を呈する病原体に対する抗体の有無を 調べたが、いずれも陰性であった。炎症性マーカーであるCRPはいずれの発症個体でも上昇してい ないこと、白血球数の減少が見られること、抗生物質の投与が無効なことから、細菌感染ではな く、ウイルス性の感染症であることが強く示唆された。また、発症した場合、その症状が全身性 で重篤なことから、原因病原体は全身的に存在している可能性が高いと考えられた。そこで、上 述の国内の5つの研究機関が連携して血漿中のウイルスを中心に原因病原体の解明を進めてきた。 RDV法、次世代シークエンサーによるメタゲノム解析、病原体特異的なPCRあるいはRT-PCR、電子 顕微鏡による観察、培養試験、抗体検査等を駆使し、複数の発症個体について解析をおこなった。 その結果、霊長類研究所で発生したニホンザルの病気は、SRV-4(サルレトロウイルス4型)と 深い関連があるという証拠が得られた。症状を呈したニホンザルの血漿中には、このSRV-4のウイ ルス遺伝子が確認され、血漿、糞便、骨髄等からSRV-4が分離された。一方、発症したサルとまっ たく接点のないサルでは、いずれもSRV-4ウイルス遺伝子は検出されなかった。興味深いことに、 発症した個体について抗SRV抗体の有無を調べたところ、解析した全ての例で抗SRV抗体は検出さ れなかった。このことから、我々は、何らかの要因により抗SRV抗体が産生されないニホンザル個 体がおり、このようなサルではウイルスをコントロールできず、その結果ウイルスが骨髄細胞を 傷害し血小板減少を呈したものと考えている。 約10年前の第1期アウトブレイクのときに、すでに原因のひとつの可能性としてSRV(当時は SRV-4は未知)を疑っていた。しかし当時は、技術的にこのウイルスに対する抗体検査しか実施す ることができず、ウイルスRNAやプロウイルスDNAを検出することができなかった。SRV-4ウイルス の塩基配列が解明されたのは、ごく最近のことであり(Virology, 405, 390-396)、我々もこの 論文のプライマーを利用して後述の検査を実施している。 SRV-4は、実験動物として飼育されているカニクイザルからのみ確認されているウイルスで、我 18 が国でも筑波の霊長類センターから報告されている。ただし、霊長類センターのウイルスは、霊 長類研究所のニホンザル由来のものとは遺伝子レベルで2~3%異なっている。このウイルスが カニクイザルに感染してもほとんどの場合無症状だが、免疫抑制による慢性の下痢や個体によっ てはまれに軽度の血小板減少症を呈することがある。しかし、人を含めたニホンザル以外の霊長 類では、このSRV-4感染により急性の血小板減少症を起こした例は、霊長類研究所を含めて全く知 られていない。今回、発症したニホンザルから検出されたSRV-4は、カニクイザルに由来するもの と推定している。ニホンザルも、カニクイザルも、アカゲザルも、同じオナガザル科マカク属の サルで、進化的に近い関係にあるが、自然界では、日本だけにすむニホンザルと他のマカク属サ ルが出会うことはまったくない。しかし、霊長類研究所という特殊な施設では、両者が出会うこ とがある。たとえば、病気やケガのサルは種類が異なっても治療のために同じ病室に集めていた し、研究上の要請で、異なる種類のサルを同じ室内で飼育していた時期もある。過去のこうした 事態が契機となって、近縁なサル類のあいだでSRV-4の個体間伝播が起こり、血小板減少症の発症 に到ったと考えている。ただし、SRV-4がこの病気の原因であるということを最終的に証明するた めには、コッホの原則にあるように、実験感染による病態の再現が必要である。現在、京都大学 ウイルス研究所の協力のもと、感染実験を準備中である。 今回の原因究明を受けて、現在霊長類研究所で飼育しているすべてのマカク属サルについて、 同ウイルス感染の有無を検証している。その結果、発症ザルと同室等、何らかの関連のあったニ ホンザルには、抗体陽性、ウイルス遺伝子陽性の個体が散見されている。また、カニクイザル全 30頭を検査したところ、13頭で、抗SRV抗体が陽性であった。さらに、ニホンザル以外のマカク属 サルにも、わずかだがウイルス遺伝子陽性の個体が認められている。検査で陽性だったニホンザ ル、および複数の発症個体と長期間同室していた経験があり、そのことで感染の危険性があると 考えられるニホンザルは、現在すべて隔離し、獣医師の管理のもとで飼養している。また、ウイ ルスRNAが陽性と認められた個体は、必要に応じて京都大学動物実験委員会の承認の上で、安楽死 の処置をおこなっている。その他のサルの飼育に際しても、飼育担当者による感染拡大を防止す るため、ビルコンによる消毒を徹底する等配慮している。最近では、2010年9月と11月に発症例 があるが、これらはいずれも隔離個体での発症であり、疾病の封じ込めは十分に機能していると 思われる。今後とも注意深く見守る必要はあるが、流行はほぼ終息したと考えている。 SRVの人への感染は何例か報告されているが、これまでに病気としての発症例はない(Journal of Virology, 75, 1783-1789; 第11回レトロウイルス日和見感染会議要旨、2004年2月8日~11 日、サンフランシスコ)。また、霊長類研究所を含めた国内外のサル飼育施設、さらに複数種の マカク属が生息している東南アジアの国々からも、感染例の報告はない。SRV-4の人への感染性は 極めて低いと思われる。 なお、本報告は、2010年7月1日にオンライン公刊された「ニホンザルの出血症(仮称)につ いて」(霊長類研究, 26, 69-71) 、および2010年11月11日にプレスリリースされた第3者委員 会による「ニホンザル血小板減少症の原因究明についての報告」、霊長類研究所による「ニホン ザル血小板減少症の今後の対策に関する報告」をまとめたものである。これらの資料ならびに本 件に関するQ&Aは、京都大学霊長類研究所のホームページに公開されているので、詳細を知りたい 方は参照されたい。(http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/pub/press/20100712/index-j.html) 謝辞 今回のニホンザルの病気の原因究明にあたっては、社団法人予防衛生協会、国立感染症研究所、 大阪大学微生物病研究所、京都大学ウイルス研究所の方々に多大なご協力を頂いた。ここに深く 感謝の意を表したい。また、環境省の環境研究総合推進費「高人口密度地域における孤立した霊 長類個体群の持続的保護管理」ならびに京都大学グローバルCOE プログラム「生物の多様性と進 化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで」の支援を受けた。銘記して感謝の意を表する。 19 動物愛護管理法の見直しに関する最近の動向 熊本大学生命資源研究・支援センター 浦野 徹 1. 我が国がめざす実験動物の福祉向上と動物実験の適正化の枠組み 現在の我が国は、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下「動物愛護管理法」と略す)、 「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」を踏まえて、適正な動物実験を実施 するために、例えば大学においては文部科学省から告示された「研究機関等における動物実験等 の実施に関する基本指針」及び日本学術会議が策定した「動物実験の適正な実施に向けたガイド ライン」に従い、各大学の学長の責任の下に、機関内規程の策定、動物実験委員会の設置、教育 訓練、ホームページ等で情報公開、自己点検・評価、さらに平成21年から相互検証(外部評価) を行っているところである。すなわち、動物実験については表1に示すように各大学や研究機関 ごとに適正に自主管理している。また、我が国がめざす実験動物の福祉向上と動物実験の適正化 の枠組みを構築したのは、今を遡る約5年前の平成18年当時、自民党を中心とした議員、環境省 や文部科学省等の省庁関係者、日本学術会議等の科学者、実験動物と動物実験に係わる専門家等 が検討して合意した結果によるものである。以上のことを、まず理解しておいて戴きたい。 2. 動物実験については機関ごとの自主管理が重要 上述の動物実験に関する規制についての動きは、文部科学省を初めとして厚生労働省及び農林 水産省からそれぞれごとに提示された基本指針に基づき、研究機関ごとに機関内規程を策定して 適正に自主管理している。表2には、自主管理をめぐる最近の動きの事例として、私の所属する 熊本大学について時系列に示す。すなわち、最初に機関内規程である「熊本大学動物実験等に関 する規則」を策定し、それに基づき動物実験委員会を発足させて活動を開始し、教育訓練、動物 実験施設等の調査、動物実験計画書の審査、情報公開、自己点検・評価、相互評価を段階的に行 なってきた。これらの一連の作業は、恐らく大学の中では熊本大学が最もスピーディーに実施し ていると思われるが、現在これらを実施している途上にある機関においては、本学の動きなどを 参考にして、できるだけ速やかに外部評価にいたるまで進めて戴きたい。このうち、自主管理を 適切に実施していることを一般の人に対して強くアピールする意味から、ホームページ上での情 報公開を積極的に実施して戴きたい。また、相互評価あるいは第三者評価については、文部科学 20 省関係では国立大学法人動物実験施設協議会と公私立大学実験動物施設協議会の合同による動物 実験に関する相互検証プログラム、厚生労働省関係ではヒューマンサイエンス振興財団における 第三者評価事業、農林水産省関係では日本実験動物協会による第二期実験動物生産施設等福祉調 査が行なわれているので、積極的に評価を受けて戴きたい。 3. 動物愛護管理法の見直しが環境省においてスタート さて、現在の動物愛護管理法は平成17年に改正されており、その附則第9条において、「政府 は、この法律の施行後5年を目処として、新法の施行の状況について検討を加え、必要があると 認めたときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」とされている。これに基 づけば、平成18年6月の改正法施行5年後に当たる平成23年度を目処として施行状況の検討を行 い、その後必要があれば平成24年の通常国会において法改正を行なうこととなる。 このような経緯により、今回、環境省の中にある中央環境審議会動物愛護部会のもとに愛護部 会小委員会(表3)が設置され、その小委員会において本年の平成22年7月から月1~2回の割合 で順次議論を行い、平成23年の9月目処で小委員会報告書としてとりまとめ、当該内容に基づき、 必要があれば平成24年の通常国会に改正法案を提出することとなった。小委員会のメンバーをご 覧戴ければ分かると思うが、動物を愛護する立場の委員がかなり含まれている。 21 環境省の愛護部会小委員会での審議内容において、我々に直結する主たる課題としては次の2 点がある。 (1)動物取扱業においては、現在、実験動物関連業は適用除外になっているが、今回、適用除 外を止めて他の動物取扱業と同列に扱うべく業種の追加を検討する。また、実験動物関連業 以外の動物取扱業については現在の登録制を再検討して、登録制から許可制に強化する必要 性が検討される。 (2)動物取扱業以外の、動物実験施設等における届出制等の検討(届出制又 は登録制等の規制 導入の検討)、及び3Rの推進(代替法、使用数の削減、苦痛の軽減の実効性確保の検討)。 4. 実験動物と動物実験については見直す必要はない 上述の二つの審議事項については、様々な団体から要望書が提出されている。このうち動物を 愛護する立場の団体から提出された要望書では、実験動物と動物実験に関連する機関については 届出制、登録制あるいは許可制とすることを求めて、動物愛護管理法の見直しを要望している。 それに対して、実験動物と動物実験に関連した12の団体(国立大学法人動物実験施設協議会、公 私立大学実験動物施設協議会、国立大学医学部長会議、厚生労働省関係研究機関動物実験施設協 議会、日本実験動物学会、日本神経科学会、日本生理学会、日本免疫学会、日本再生医療学会、 日本実験動物協同組合、日本実験動物協会、日本製薬工業協会)からは、各機関において行って いる動物実験に関する自主管理が適切に実施されていることを主たる理由として、動物愛護管理 法の見直しは必要ではない、すなわち届出制等の導入については反対する要望書が提出されてい る。このうち、国立大学法人動物実験施設協議会と公私立大学実験動物施設協議会からは、表4 に示すような内容で環境大臣宛に、さらに環境省中央環境審議会動物愛護部会の部会長宛にも同 様の内容の要望書が提出された。その他の団体から提出された要望書もほぼ同じ内容である。実 験動物領域から要望書が提出されるに至った経緯は、表4にも示されているように、我々が現在 実施している自主管理が適切に実施され、このことが我が国の動物実験を適正に実施していくこ とに大きく貢献をしており、また現時点では動物実験については国民生活に社会的不利益が生じ ていないことから、動物愛護管理法について見直す必要性がないことにある。 表5に現在の動物愛護管理法におけるペット等の動物取扱業での登録制の状況を示したが、現 22 在の法律で規制されている内容を参考にして推測すると、仮に、動物を愛護する立場の団体から の要望に従って動物愛護管理法が見直され、実験動物と動物実験に関連する機関について登録制 や許可制が導入されたとすると、実験動物領域においても、動物愛護推進員の協力のもとに都道 府県の動物愛護担当職員による立入り検査が行なわれることとなる。このような事態になれば、 これまでの自主管理、すなわち実験動物と動物実験の専門家によるピアレビューの方法をこのま ま推進することは困難となり、我が国の実験動物を用いた動物実験を適正に実施できなくなるこ とが懸念される。 繰り返しになるが、平成18年前後に、国会議員、関連省庁、日本学術会議、実験動物と動物実 験に係わる専門家等が、我が国がめざす実験動物の福祉向上と動物実験の適正化の枠組みについ て検討し、その結果構築されたのが上述の法律等の各種規制であり、さらには自主管理の道であ る。現在、我々はこの枠組みをきっちりと構築している途上にあり、従って現時点で動物愛護管 理法を見直す必要性は全く見当たらない。 5. 今後の動き 今回の動物愛護管理法の見直しにおいて、実験動物と動物実験に関連する機関について届出制、 登録制あるいは許可制を導入することの是非は、本年の5月の環境省の愛護部会小委員会におい て審議される予定である。このことについては我々として極めて重要な案件であることから、小 委員会で審議されるにいたるまで他人任せにすることなく、実験動物領域の全関係者が種々の角 度から検討されることを切望する。なんらかのご意見や情報があれば私宛てに連絡戴きたくお願 いする次第である。 23 事務局だより 会費納入のお願い 昨年より、ニュースレターや総会等を通じて会費の納入を皆さんにお願いして参りました。 その結果、多くの会員の方々から未納分の会費を納入して頂きました。しかしながら、未だに 21名(平成23年1月11日現在)の会員の方が、3年以上にわたり会費を滞納されております。 本会会則には「3年以上本学会の会費を滞納されている方については、退会したとものとする」 とあります。そのため来年3月29日に開催予定の理事会において、3年以上の会費滞納者の方 は退会されたものとして事務処理をさせて頂きます。また2年以上会費を滞納されている方も 31名(平成23年1月11日現在)おられます。そのため本学会に引続き加入を希望される意志の ある方は、早急に未納分の会費をお支払い頂く様にお願い申し上げます。なお未納分の会費に 関するお問い合わせは、会計・事務局担当理事 池田([email protected])まで、メー ルにてお問い合わせください。 会費納入先: 加入者名:日本実験動物医学会 口座番号:00190-3-715229 24 〈編集後記〉 我々獣医師が関わる話題が連日のように報道されています。口蹄疫の感染拡大の際もそうで したが、 「○○万羽殺処分」というような見出しをよく目にします。一般消費者には数字だけし かインプットされませんが、実際現場で対応されている畜産農家の方や獣医師は、その数字を 目の当たりにしているわけで、想像を絶する光景だろうと推察しています。現場で尽力されて いる獣医師には及びませんが、小生も企業に勤める獣医師として、感染症対策に貢献できる技 術の研究開発はできないものかと思いを巡らせております。昨今の人や動物の感染症の断続的 発生を最小限に食い止めるために、いま獣医師の存在意義が問われているものと思います。本 号では、京大霊長類研究所の岡本先生に、サルの血小板減少症に関する貴重な情報をご提供い ただきました。また昨今、感染症ワクチンの研究開発が後押しし、実験用サルの需要が欧米で 高まっており、この状況に応じて、中国が実験用サルの世界最大の輸出国になっているという 情報も耳にします。このような状況下で、我々、動物実験に携わる者や獣医師は、動物実験施 設やフィールドでのズーノーシスの発生を警鐘と捉え、学際を越え、様々な分野から知恵を出 し合うことで少しでも防疫に貢献すべく、日々精進していくべきと考えています。 (情報・編集委員 日本実験動物医学会 ホームページ http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/ 25 阪本)