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page201-300 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
90 60 Laser wavelength ArF Nd:YAG 4ω Nd:YAG 3ω 50 Nd:YAG 2ω Penetration depth [nm] 80 70 XeCl KrF 40 30 Graphite 20 Optical data taken from Handbook of Optical Constants of Solids II, edited by E.D. Palik 10 F2 0 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 Wavelength [nm] 図Ⅲ-2-2-1-3-3 照射前 図Ⅲ-2-2-1-3-4 グラファイト中の光の侵入深さとレーザ波長の関係 照射後 UV レーザ照射前後 の SEM 像と電子放出パターン 図Ⅲ-2-2-1-3-5 Nd:YAG4 次高調波照射時 の電子放出特性 図Ⅲ-2-2-1-3-4 にUVレーザ照射前後のカソードSEM像と電子放出パターンを示す。レー ザ照射後にカソード表面が起毛し、電子放出サイトとなっていることが分かる。図Ⅲ -2-2-1-3-5 にNd:YAGの 4 倍高調波(266 nm、5 ns)照射による電子放出特性の変化を示す。 20 mJ/cm2(4MW/cm2)のレーザ照射により、電子放出開始電界が 1.2 V/μmとなり放出電 流密度が 20 mA/cm2 (6 V/μm)と 4 桁増大していることが分かる。 130 3-2-1 レーザ波長依存性・エネルギー密度(パワー密度)依存性・照射雰囲気依存性 図Ⅲ-2-2-1-3-6 に照射パワー密度(エネルギー密度)を変えたときのKrFエキシマーレー ザ(248 nm、20 ns)による表面処理後の電子放出特性を示す[10,11,13]。レーザパワー密度 (エネルギー密度)が 4 MW/cm2(80 mJ/cm2 )で、電子放出開始電界が 0.7 V/μmと最低と なることが分かる。図v7 にXeClエキシマーレーザ(308 nm, 22 ns)照射による電子放出 特性の変化を示す。電子放出開始電界は、6MW/cm2(132 mJ/cm2 )のパワー密度(エネル ギー密度)で 1.2 V/μmと最低となっている。このように、レーザが長波長となり、レー ザフォトンのエネルギーが小さくなると、最適処理に必要となるエネルギー密度(パワー 密度)が増大する。図Ⅲ-2-2-1-3-8 に、電子放出開始電界のレーザパワー密度依存性を示す。 KrFエキシマーレーザのほうが、低いパワー密度で、低い電子放出開始電界が得られるこ とが分かる。 1 -20 2 3MW/cm2 4MW/cm2 5MW/cm2 6MW/cm2 7MW/cm2 8MW/cm2 9MW/cm2 -1 10 2 ln(I/V )(A/V ) Emission Current (mA/cm ) 10 -3 2 10 -5 3MW/cm2 4MW/cm2 5MW/cm2 6MW/cm2 7MW/cm2 8MW/cm2 9MW/cm2 10 -7 10 0 1 2 3 4 -28 -32 -9 10 -24 5 -36 0 5 10 図Ⅲ-2-2-1-3-6 15 20 25 1000/V (1/V) Electric Field (V/μm) KrF レーザ処理後の電子放出特性 1 -20 3MW/cm2 4MW/cm2 5MW/cm2 6MW/cm2 7MW/cm2 8MW/cm2 9MW/cm2 -1 10 10 -5 3MW/cm2 4MW/cm2 5MW/cm2 6MW/cm2 7MW/cm2 8MW/cm2 9MW/cm2 10 -7 10 0 1 2 3 4 -24 -28 -32 -36 -9 10 2 -3 2 ln(I/V ) (A/V ) 2 Emission Current (mA/cm ) 10 5 0 5 10 Electric Field (V/μm) 図Ⅲ-2-2-1-3-7 15 1000/V (1/V) XeCl レーザ処理後の電子放出特性 131 20 25 2.5 100 KrF XeCl 2 Before (Air) After (Air) Before (N2) 10-1 E TH (V/μm) 10-2 After (N ) 1.5 2 10-3 Before (O2) After (O ) 10-4 105 Pa 1 10-5 2 10-6 0.5 10-7 0 0 2 4 6 8 10-8 10 1 図Ⅲ-2-2-1-3-8 2 3 4 5 6 7 Electric Field (V/ μm) 2 Power density (MW/cm ) 電子放出開始電界のパワー 図Ⅲ-2-2-1-3-9 密度依存性 電子放出電流密度のレーザ 照射雰囲気依存性 図Ⅲ-2-2-1-3-9 に、異なった雰囲気で、CNTカソードを Nd:YAG レーザ 4 倍高調波により 照射した結果を示す[9,12]。大気や酸素雰囲気のレーザ照射では、電子放出電流密度が 2 桁から 3 桁上昇しているのに対して、窒素雰囲気では、殆ど変化していない。これは、窒素雰囲気で のレーザ表面処理に比べて、酸素雰囲気および大気での表面処理が効果的であることを示して いる。エキシマーレーザ照射でも、真空中に比べて大気もしくは酸素雰囲気が処理効果が促進 されることを確認している。 3-2-2 レーザ照射による温度上昇と処理機構 図Ⅲ-2-2-1-3-10 に、パルスレーザ照射による標的の温度上昇を与える式と、CNT(グラフ ァイト)基板の温度パラメータおよびレーザ照射パラメータを示す。CNTカソードは、一様 なグラファイト層であると仮定すると、4 から 7MW/cm2 のレーザパワー密度では、グラファイ トが熱アブレーションを起こす温度(3500℃)には達しないことが分かる。図v11 に、電子放 出開始電界のレーザパワー密度依存性と温度上昇見積もりを示す。電子放出開始電界が最初に 最低になる 3MW/cm2の照射パワー密度では、CNT表面は 841℃程度まで温度上昇するが、熱 アブレーションには至らない。12 MW/cm2 以上では、表面温度は熱アブレーションが起こる 3500℃に達する。図Ⅲ-2-2-1-3-12 に、電子放出開始電界のレーザパワー密度依存性と表面状態 の変化および電子放出パターンを示す。電子放出開始電界が最初に最低になる 3MW/cm2の照射 パワー密度では、光分解による結合解離による起毛が起こり、12 MW/cm2付近では、熱アブレ ーションが起こり、再び電子放出開始電界が下がっていることが分かる。大気中や酸素雰囲気 では、この効果がさらに増速されると考えられる。 132 0 < t <τ 2εI 0 T(t) = K ⎧ I 0 :レーザーパワー密度[W / cm 2 ] ⎪ ⎪⎪ε : 光吸収率 ⎨ K : 熱伝導率[W / cm・℃] ⎪κ : 熱拡散率[cm 2 / s ] ⎪ ⎪⎩τ : パルス幅[ s ] κt π t >τ T(t) = 2εI 0 K κ π ( t − t−τ ) ε=0.47 K=0.8 [W/cm・℃] CNT(グラファイト)の各パラメーター κ=9 [cm2 /s] τ=20×10 -9 [s] KrFレーザーの各パラメーター I0 =4,7 106 × 2500 Temperature (oC) 2000 1500 7 MW/cm 2 4 MW/cm 2 1000 500 0 0 20 40 60 80 100 120 Time (ns) 図Ⅲ-2-2-1-3-10 短パルスレーザー照射による表面温度上昇 6000 4 Temperature (oC) Turn on Field (V/μm) 5000 3 2 1 841℃ 0 0 図Ⅲ-2-2-1-3-11 3000 2000 1000 3500℃ 5 10 15 2 Laser Power Density (MW/cm ) 4000 0 20 0 5 10 15 2 Pawer Density (MW/cm ) 電子放出開始電界のレーザパワー密度依存性と 短パルスレーザ照射による表面温度上昇 133 20 Turn on Field (V/μm) 4 3 2 1 0 0 5 10 15 2 Laser Power Density (MW/cm ) 20 20 μm 20 μm 図Ⅲ-2-2-1-3-12 電子放出開始電界のレーザパワー密度依存性とカ ソード表面形状および電子放出パターン 3-2-3 ストライプビーム照射[10.11,13] 対角 20 から 60 インチの大型 FED パネルのための大面積CNT電子源処理には、レーザビー ムをストライプビーム状に成形して高速処理をする必要がある。本研究課題では、2-2-3 -3「①-3-3 表面処理装置及びプロセスの開発」で述べるストライプビーム光学系を持ったレ ーザ表面処理装置を設計し、これを用いた表面処理を行った。図Ⅲ-2-2-1-3-13 に、電子放出開 始電界のストライプビーム走査ステップ幅依存性を示す。放出開始電界は、300μm ステップ で最低となり、350μm 以下の走査ステップ幅で、一様な電子放出パターンが得られている。 表Ⅲ-2-2-1-3-2 に市販のストライプビーム照射装置を用いたときの対角 20~60 インチのCNT カソード表面処理時間の見積もりを示す。ストライプ形 365 mmx0.4 mm で 100 Hz のエキシマ ーレーザ処理により、対角 20~60 インチのCNTカソード表面処理が、10~92 秒で可能であ ることが分かる。 6 5 4.5 200 μm 250 μm 300 μm 350 μm 400 μm 450 μm th E (V/μm) 5.5 4 3.5 3 150 200 250 300 350 400 Stripe Step (μm) 450 500 図Ⅲ-2-2-1-3-13 電子放出開始電界のビームストライプステップ依存性と放出パターン 134 表Ⅲ-2-2-1-3-2 Display size (inch) レーザ表面処理のタクトタイム 200 mm length stripe 365 mm length stripe processing time (s) processing time (s) 20 16 10 30 36 24 40 60 40 50 95 57 60 138 92 Laser frequency 100 Hz, Stripe step 0.4 mm (a) (b) 5 μm 図Ⅲ-2-2-1-3-14 3-2-4 5 μm ガラスフィラー有(a)無(b)のCNTカソード SEM 像の比 電子源プロセスに対応した表面処理(ガラスフィラー有無と RIE 有無)[14,15] 実際の 3 極構造の電子源プロセスに即した表面処理として、CNTペーストにフィラーとし てガラスを入れた場合と、絶縁膜加工プロセスである反応性イオンエッチング(RIE)過程を 入れた場合の表面処理プロセスを検討した。 図Ⅲ-2-2-1-3-14 に、1 μm径のガラス球フィラー有無のCNTカソードSEM像の比較を示す。 ガラスフィラーが表面に残留していることが分かる。図Ⅲ-2-2-1-3-15 に、ガラスフィラー有無 のカソードについての電子放出特性を示す。3.75 MW/cm2 のレーザ処理により、ガラスフィラ ー無しでは、放出開始電界が 1.2 V/μmとなるのに対して、ガラスフィラー入りでは、0.34 V/ μmとなっている。また、10 mA/cm2の放出電流密度が得られる電界は、ガラスフィラー無しで 4 V/μm、ガラスフィラー入りで 2.2 V/μmである。これらの値は、本研究開発項目の最終達成 目標値を実現している。 135 -15 0 7MW 6MW 5MW 4MW 3.75MW 3.5MW 3.25MW 3MW 2.75MW 2.5MW 2.25MW 2MW -20 7MW 6MW 5MW 4MW 3.75MW 3.5MW 3.25MW 3MW 2.75MW 2.5MW 2.25MW 2MW 10-4 10-6 2 2 10-2 ln(I/V ) (A/V ) Emission Current (mA/cm2) 10 -25 -30 10-8 -35 0 1 2 3 4 5 6 7 8 0 2 4 6 8 10 12 14 1000/V (1/V) Electric Field (V/μm) a)ガラスフィラー無 -15 4MW 3.75MW 3.5MW 3.25MW 3MW 2.75MW 2.5MW 2.25MW 2MW 100 -20 2 ln(I/V ) (A/V ) 10-2 2 2 Emission Current (mA/cm ) 102 4MW 3.75MW 3.5MW 3.25MW 3MW 2.75MW 2.5MW 2.25MW 2MW 10-4 10-6 -30 10-8 0 2 4 6 8 -25 -35 10 0 2 4 6 Electric Field (V/μm) 8 10 12 14 1000/V (1/V) b)ガラスフィラー有 図Ⅲ-2-2-1-3-15 ガラスフィラー有無のCNTカソードの電子放出特 図Ⅲ-2-2-1-3-16 に、電子放出開始電界のレ ーザパワー密度依存性を示す。ガラスフィラ 2 Energy Density (mJ/cm ) ー入りのカソードでは低いパワー密度で、遙 20 40 60 80 100 120 140 160 5 かに低い電子放出開始電界が得られている。 with glass fillers Electric Field (V/μm) これは、図Ⅲ-2-2-1-3-17 に示すように、ガラ スフィラー入りでは、溶融ガラスに付着し起 毛したCNTが多く存在するためであると考 えられる。 4 without glass fillers 3 2 1 0 図Ⅲ-2-2-1-3-16 1 電子放出開始電界のガラ スフィラー有無依存性 136 2 3 4 5 6 2 Power Density (MW/cm ) 7 8 X 500 x 2,000 x 50,000 50 μm a) ガラスフィラー無し 10 μm 50 μm b) 図Ⅲ-2-2-1-3-17 500 nm 10 μm 500 nm ガラスフィラー有り レーザ処理後のカソードSEM像 (KrF 3 MW/cm2 ) 図Ⅲ-2-2-1-3-18 にRIE(CF4+O2 )処理有無 2 の電子放出開始電界のレーザパワー密度依存 4 0 50 Energy Dencity (mJ/cm ) 100 150 200 250 300 350 400 性と図Ⅲ-2-2-1-3-19 に電子放出パターンの比 Turn on Field (V/μm) 較を示す。RIE処理の無いカソードでは、レ ーザ処理により電子放出開始電界が 2 回下が り、3~4 MW/cm2が最適レーザパワー密度で あるが、RIE処理後ではこの依存性が無く、7 ~14 MW/cm2の広いレーザパワー密度領域で 同じ電子放出開始電界を示す。これは、RIE 3 2 0 表面処理の影響で表面の凹凸および損傷が増 えているためと考えられる。このように、RIE RIE処理後 RIE処理前 1 0 5 10 15 2 Laser Power Density (MW/cm ) 図Ⅲ-2-2-1-3-18 処理によるカソードでは、レーザ処理のプロ RIE 処理有無の電子放 出開始電界のレーザパワー密度依存性 セス許容窓が広くなっている。 137 20 3 MW/cm2 7 MW/cm2 14 MW/cm2 18 MW/cm2 RIE処理 RIE 処 理 無し 図Ⅲ-2-2-1-3-19 RIE 処理有無のカソードからの電子放出パターンの比較 RIE を行いゲート構造を作製した電子源のレーザ表面処理では、図Ⅲ-2-2-1-3-18 や図Ⅲ -2-2-1-3-19 で得られた結果と同じように、広いレーザパワー密度で良好な処理効果が得られた。 (4)目的に照らした達成状況 印刷法により成膜されたCNT膜の均質な電子放出特性を実現するCNT膜表面の処理技術 をプラズマ処理およびレーザ処理について開発した。 プラズマ処理では、Arプラズマを用いてキャリアガス圧、プラズマイオンエネルギー、処理 時間について調べ、3~5 分間のArプラズマ処理により、電子放出開始電界を 2V/μm以下にし、 電子放出サイトを増加させることが出来たが、均一な電子放出サイトを持ち、4V/μm以下の電 界で、10 mA/cm2の電流放出密度を達成するまでには、至らなかった。 レーザ処理については、紫外域の波長のレーザ照射によるフォトンエネルギー、照射雰囲気 およびレーザパワー密度(エネルギー密度)を最適化するとともに、大面積電子源のためのス トライプビーム形成と、走査幅とレーザパワー等の最適照射パラメータのプロセスウィンドウ 決定を行い、大面積CNT電子源の高速均質化処理技術を完成した。その結果、達成目標とし ていた電子放出開始電界強度 2V/μm以下(0.34 ~ 1.5 V/μm)、4 V/μm以下(2.2 V/μm)の電 界強度で 10 mA/cm2の放出電流密度を実現した。 (5)参考文献 [1] A. Sawada, M. Iriguchi, W.J. Zhao, C. Ochiai, and M. Takai, “Emission Site Control in Carbon Nanotube Field Emitters by Focused Ion and Laser Beam Irradiation”, J. Vac. Sci. Technol. B21, 362 (2002) [2] W. Zhao, A. Sawada, and M. Takai, “Field Emission Characteristics of Screen-Printed Carbon Nanotube After Laser Irradiation”, Jpn. J. Appl. Phys.41, 4314 (2002) [3] W. J. Zhao, N. Kawakami, A. Sawada, and M. Takai, “Field Emission From Screen-Printed Carbon 138 Nanotubes Irradiated by Tunable Ultraviolet Laser in Different Atmospheres”, J. Vac. Sci. Technol. B21, 1734 (2003) [4] M. Takai, W. J. Zhao, A. Sawada, A. Hosono and S. Okuda, “Surface Modification of Screen-Printed Carbon Nanotube Emitter for Large Diagonal Field Emission Displays” Proc. of Information Display 2003 (SID03), May 18 – 23, 2003, Baltimore, USA, Society of 18-1. (invited) , p.794. [5] W. Rochanachirapar, Y. Kanazawa, W. J. Zhao and M. Takai, “Effect of Laser Irradiation to CNT -Cathodes in Different Atmospheres”, the 10th Intern. Display Workshops, December 3 – 5, 2003, Fukuoka, Japan, p.1207. [6] K. Shibayama, A. Hosono, S. Nakata, S. Okuda, Y. Imai, T. Iwata and M. Takai, “Improvement of the Pixel Uniformity in Carbon-Nanotube Lighting Tubes Used for Large-Scale Tiled Displays”, the 10th Intern. Display Workshops, December 3 – 5, 2003, Fukuoka, Japan, p.1239. [7] W.J. Zhao, W. Rochanachivapar and M. Takai, “Field Emission From Carbon Nanotube Mat”, J. Vac Sci. & Technol. B 22, (3), 1315 (2004) [8] Y. Kanazawa, T. Oyama, K. Murakami and M. Takai, “Improvement in Electron Emission From C NT Cathodes after Ar Plasma Treatment”, J. Vac Sci. & Technol. B22 (3), 1342 (2004) [9] W. Rochanachirapar, K. Murakami, N. Yamasaki, S. Abo, F. Wakaya, M. Takai, A. Hosono and S. Okuda, “Influence of Gas Atmosphere during Laser Surface Treatment of CNT Cathode”,The 17th International Vacuum Nanoelectronics Conference (Cambridge, Massachusetts, USA, July 11-16, 2004). [10] W. Rochanachirapar, K. Murakami, N. Yamasaki, S. Abo, F. Wakaya, M. Takai, A. Hosono and S. Okuda, “Laser Surface Treatment of CNT Cathode For Large Diagonal FEDs”,The 17th International Vacuum Nanoelectronics Conference (Cambridge, Massachusetts, USA, July 11-16, 2004). [11] K. Murakami, W. Rochanachirapar, S. Abo, F. Wakaya and M. Takai,“Laser Irradiation to CNT Cathodes for Large Diagonal FEDs”,The 11th International Display Workshop (Toki Messe, Niigata Convention Center, Niigata, JAPAN, December 8-10, 2004) (invited). [12] W. Rochanachirapar, K. Murakami, N. Yamasaki, S. Abo, F. Wakaya, M. Takai, A. Hosono and S. Okuda, “Influence of Gas Atmosphere during Laser Surface Treatment of CNT Cathode”, J. Vac. Sci. Technol. B 23, 762 (2005). [13] W. Rochanachirapar, K. Murakami, N. Yamasaki, S. Abo, F. Wakaya, M. Takai, A. Hosono and S. Okuda, “Laser Surface Treatment of Carbon Nanotube Cathodes for Field Emission Displays with Large Diagonal Size”, J. Vac. Sci. Technol. B 23, 765 (2005). [14] T. Honda, C. B. Oh, K. Murakami, K. Ohsumi, S. Abo, F.Wakaya and M. Takai, “Surface Treatment of CNT Cathodes Using Krf Excimer Laser for Field Emission Displays”, The 12th International Display Workshops in conjunction with Asia Display 2005, 1647. [15] T. Honda, C. B. Oh, K. Murakami, W. S. Kim, S. Abo, F. Wakaya, and M. Takai、”Surface Treatment of Carbon Nanotube Cathodes with Glass Fillers Using Krf Excimer Laser for Field-Emission Displays”, J. Vac. Sci. Technol. B24(2), 1013 (2006) 139 2-2-3-2 「①-3-2 表面処理によるCNTの電子放出特性改善の物理現象の 解明」 京都大学 (1)目標 CNT及びレーザ照射されたCNTの電子放出特性を S-K チャートを用いて解析し、レー ザ照射による電子放出特性改善が何に起因するのかを明らかにする。 (2)内容 三菱電機株式会社より提供されたCNTエミッタ(レーザ照射有および無)の電子放出特 性を測定し、その結果を S-K チャートを用いて解析する。具体的には以下の内容からなる。 (a) 超高真空中におけるCNTからの電子放出特性の詳細解析 CNTからの電子放出特性を評価するに当たって、従来の S-K チャートの手法が利用でき るかどうかを検討する。また、S-K チャートを用いた構造解析法を開発する。 (b) 異なるレーザ照射条件で処理したCNTからの電子放出特性の解析 レーザ照射条件とCNTの形状の関係を電子放出特性から類推される照射条件と形状の関 係と比較し、S-K チャートを用いた構造評価方法の妥当性を検討する。 (c) ガス雰囲気でのCNTからの電子放出特性の解析 各種ガス雰囲気におけるCNTの電子放出特性を S-K チャートにより評価し、ガス分子の 吸着等による仕事関数変化について議論する。 (d) CNT-FED デバイスの特性に関するフィードバック 得られた知見を元に、三菱電機株式会社が開発中の FED の特性のばらつきに関してその原 因等、性能改善の上で重要な情報となるコメントを提供する。 (3)結果と考察 (a) 超高真空中におけるCNTからの電子放出特性の詳細解析 実験は、KrF エキシマレーザを照射したCNT試料 2 種を使用した。比較のために、レー ザ照射しないものも使用した。試料の詳細を表Ⅲ-2-2-1-3-3 に示す。 表Ⅲ-2-2-1-3-3 試料の詳細 --------------------------------------------------------------------------試料番号 処理 --------------------------------------------------------------------------#1 無処理 #2 KrFエキシマレーザ照射 86.4 mJ cm-2 #3 KrFエキシマレーザ照射 704 mJ cm-2 --------------------------------------------------------------------------- 140 10-7 Pa程度の超高真空中でタングステン針(先端曲率約 0.5μm)をコレクタとして用いて 電子放出特性を測定した。エミッタ・コレクタ間隔dECは機械式直線導入機とピエゾ素子によ る電気的微小変位制御を組み合わせた精密制御を行った[1]。エミッタ・コレクタ間の印加電 圧を調整して一定電流を放出させながら、電極間隔を縮めていくとエミッタ・コレクタ間の 電位分布の概形を知ることができる。この方法できわめて電極間隔の小さくなるところまで 測定を繰り返し、エミッタ・コレクタが接触しそうになる程度まで近づけた後は、上記で得 られる電位分布を外挿することで、電極間隔のゼロ点を得ることができる。1.5μmから 30μ mの電極間隔で測定を行い、S-Kチャートを作成した。図Ⅲ-2-2-1-3-20 に 1.5μmの場合の3種 類のCNTの電子放出特性の (a) Fowler-Nordheim プロット(F-Nプロット)、(b) S-K プロ ットを示す。 図から明らかなように、F-N プロットは直線となり、S-K プロットが可能なことがわかる。 また、S-Kプロットした結果、同一エミッタからの異なる電子放出特性はS-Kプロットすると S-Kチャート上で直線的に分布した。これらは、従来の金属のエミッタの示す傾向[2]と合致 している。金属のエミッタの場合は、これまでこれらの異なるF-NプロットがS-Kチャート上 で分布する直線の傾きが、巨視的な電圧-電界変換係数β macroと仕事関数φに大きく関係する ことが明らかとなっている。ここで巨視的な電圧-電界変換係数とは、電圧-電界変換係数の うち、先端曲率半径rの効果を除去したものと定義する。すなわち、電圧-電界変換係数βは しばしば β = 1 / kr .......................................................... (1) –8 0 –10 Slope of F–N plot (V) Log10(ICVEC–2) dEC: 1.5um Laser irrad. (#3) 704mJcm–2 –12 Laser irrad. (#2) 86.4mJcm–2 –14 Virgin (#1) –16 0 10 20 30 40 50 Reciprocal voltage ( kVEC–1 ) #3 –500 #2 Laser irrad. –1000 #1 Virgin –1500 dEC: 1.5um –2000 –10 –8 –6 –4 –2 0 Intercept of F–N plot (decade) (a) 図Ⅲ-2-2-1-3-20 Laser irrad. (b) エミッタ・コレクタ間隔 1.5μm の場合の (a) F-N プロットと (b) S-K プロット。 とあらわされるが、このうちβ macro = 1/ k の部分を指す。より具体的には、直線分布の 作る傾き A は、 141 A = b φ 3/2 k rn ....................................................... .(2) と表すことができる[2]。ここで、 b = 8π√(2m)/3he であり、m は電子の質量、h はプ ランク定数、e は電気素量である。また rn は距離の次元を持つパラメータで、Spindt 型Pt エミッタの場合、1.04 nmの値をとる[2]。Aの値は試料#1 では -116 V、#3 では-41.7 Vであ る。試料間の A の差異を仕事関数に帰着させようとすると、その差はあまりに大きく現実的 でない(たとえば、#1 の仕事関数を 5 eVとすると #3 の仕事関数は 2.5 eVとなってしまう)。 このため、レーザ照射による電子放出特性改善の主たる要因は構造変化であるということが できる。以下では、まず、仕事関数の変化はないものという仮定をした上で議論を進める。 エミッタ・コレクタ間隔 dEC を変化させて電子放出特性を評価した。得られた A 値を電極 間隔の関数として表したものが図Ⅲ-2-2-1-3-21 である。図Ⅲ-2-2-1-3-22 から明らかなように A 値はエミッタ・コレクタ間隔にほぼ比例している。西田、岩津、森川[3]は、S-Kプロット の直線的な分布のなす傾きは、動作電圧であると述べているが、そのことを考慮するとエミ ッタ・コレクタ間の電界が平行平板に近いことを示している。また、図Ⅲ-2-2-1-3-22 で得ら れる各点をフィットした直線がゼロ点を通らないのはゼロ点付近では平行平板モデルからは ずれることによる。 Slope of S–K plot (V) 1000 800 #1 Virgin 600 #2 Laser irrad. Emitter Collector Apex radius r 400 #3 Laser irrad. 200 0 0 10 20 30 Emitter–collector spacing (um) 図Ⅲ-2-2-1-3-21 A 値のエミッタ・ l 図Ⅲ-2-2-1-3-22 dEC 電極構造のモデル。 コレクタ間隔依存性。 以上の結果を元に、電子放出しているCNTの構造的パラメータすなわち、CNTの長さ を評価することを試みる。エミッタ・コレクタ間隔 dEC に対して高さ l、曲率半径 r のC NTが一本孤立して立っている場合を考える(実際にレーザ照射した場合の起毛したCNT は密集してはおらず、また、コレクタとして針を使用しているため、この仮定は現実的と考 える)。模式図を図Ⅲ-2-2-1-3-22 に示す。この場合、エミッタ先端の電界強度 F は平行平板 の電界強度 F0を用いて 142 F = ( 3 + l / r ) F0 = ( 3 + l / r ) V / dEC ........................... (3) と表すことができる[4]。 今、3 と比較して l / r は十分大きいので、3 を無視すると、 F = ( l / r ) V / dEC = ( l / dEC ) V / r = V / k r .................... (4) となるから、 k = dEC / l .......................................................... (5) となる。先に、A と k の間には(2)式が成り立つから、結果として l = dEC b φ 3/2 rn / A .................................................. (6) を得る。平行平板モデルの変形から導き出されることを考慮すると、長さ l の評価をする にはより平行平板モデルに近い、エミッタ・コレクタ間隔 30μm の結果を用いるのがよかろ う。長さの評価のためには仕事関数を仮定する必要があるが、ここでは 5eVとした。また、 rnの値として、Spindt型Ptエミッタと同様の 1 nm を用いた。結果を表Ⅲ-2-2-1-3-4 に示す。 表から、レーザ照射したもののほうが、長いことがわかる。また、得られた数値は、SEMなど で観察した場合のCNTの長さにほぼ合致しており、電子放出特性の改善が主として構造変 化によるものということができる。 また、従来の金属エミッタでは仕事関数が低いと放出電流の変動も低いという結果も得ら れている[5]。本研究でも電流変動の雑音電力を求めたが、レーザ照射の有無にかかわらずお おむね -5 dB から -15 dB 程度の値となっており、大きな変化は見られなかった(あるいは 若干悪化した)。CNTは電界の印加によって振動するという報告もあるため、金属エミッタ と同様に論ずることはできないが、少なくともレーザ照射による安定性の改善はあまり大き くは見られず、従ってこの点からも仕事関数の変化については肯定的な証拠は得られなかっ た。 表Ⅲ-2-2-1-3-4 S-K プロットの直線分布より評価したCNTの長さ --------------------------------------------------------------------------試料 A@30μm 評価した k 値 評価した l --------------------------------------------------------------------------#1 -900 V 12.4 2.4 μm #2 -650 V 8.9 3.9 μm #3 -450 V 6.1 4.9 μm --------------------------------------------------------------------------- 143 上記のように、今回新たに考えたCNTの長さ評価方法は有効であると考えられるが、 モデルにはひとつ問題がある。それは、平行平板電界 F0 に対して、高さ l、曲率半径 r の 突起がある場合の電界強度の計算式の妥当性である。もともと、3 + l / r の補正は、CN Tのような細長い突起を前提とはしていない。従って、この点を確かめておく必要がある。 また、上記では、電極間隔 30μm で評価したが、常にこの位置で評価できるわけでもない。 従って、電極間隔が変化した場合に、どの程度の範囲内ならば、上記の計算式を利用するこ とができるか、ということは明らかにしておかなくてはならない。このため、特定の形状の CNTに対する電位計算を行い、補正項の妥当性とそれが成り立つ電極間隔範囲について見 積もった。計算は差分法を用いた。CNTの大きさに対して十分小さい格子を取って電位計 算するのが本来であるが、今回は概算であるため、1 格子を 25nm間隔とし、回転対称座標系 を前提に計算を行った。結果の詳細はここでは割愛するが、おおむね以下のような結論を得 ている。 ・l / r 値と実際の電界強度補正係数の比はおおむね 1 から 2 程度であり、限られた条件 で 4 程度の値となる。 ・r が小さくなると、l / r の値と実際の電界強度補正係数の比は大きくなるが、電極間 隔 3~30μm ではほぼ一定の値となる。 (b) 異なるレーザ照射条件で処理したCNTからの電子放出特性の解析 ここでは、KrF エキシマレーザ照射と YAG レーザの二倍高調波(SHG-YAG)照射した試料の電 子放出特性を評価し、レーザ照射条件の最適化に関する情報を供することを目指した。試料 の詳細を表Ⅲ-2-2-1-3-5 に示す。また、試料表面の SEM 像を図Ⅲ-2-2-1-3-23 に示す。図Ⅲ -2-2-1-3-23 はそれぞれ倍率が若干異なることに注意するべきであるが、未照射のものでは起 毛したものが少ないこと、KrF レーザ照射したものでは、ナノチューブと考えられる細い針 状の突起が分散して見られること、YAG レーザ照射では、ナノチューブを含む膜がめくれ上 った構造をとっていることがわかる。三菱電機での分析では、YAG レーザ照射のものにみら れる帯状の構造物も、CNTの寄り集まったものであることがわかっている。 表Ⅲ-2-2-1-3-5 試料の詳細 --------------------------------------------------------------------------処理 条件 --------------------------------------------------------------------------未照射 KrFエキシマレーザ照射 320, 480, 640 mJ cm-2 (直径 5μm円形ドット) 同上 180, 320, 480, 640 mJ cm-2 (直径 50μm円形ドット) SHG-YAGレーザ照射 160-500 mJ cm-2 (25μm幅ストライプ) --------------------------------------------------------------------------- 144 (b) KrFレーザ 320 mJ cm-2 (5μm) (a) 未照射 (c) KrFレーザ 320 mJ cm-2 (50μm) 図Ⅲ-2-2-1-3-23 (d) YAGレーザ 320 mJ cm-2 レーザ照射表面の SEM 像。(a) 未照射のもの、 (b) KrFレーザ 320 mJ cm-2 (5μm)、 (c) KrFレーザ 320 mJ cm-2 (50μm)、(d) YAGレーザ 320 mJ cm-2。 電子放出特性の測定に際しては、コレクタは先の実験同様、タングステン針のコレクタを 使用した。この実験でも電極間隔は精密に制御し、ここでは間隔を 3.0μmとした。電極間隔 を短くした理由は、これらの試料は概して高い印加電圧を必要としたため、離れた位置での 測定が難しかったことによる。10 nAの電流を放出する電圧を閾値電圧と定義した。閾値電圧 の照射条件依存性を図Ⅲ-2-2-1-3-24 に示す。5μm円形ドットのKrFレーザ照射では、300 mJ cm-2 程度で一旦閾値電圧が下がった後、徐々に閾値電圧は増大している。50μm円形ドットのKrF レーザ照射では、エネルギーの増大に伴って、徐々に閾値電圧が低下している。YAGレーザ照 射では、300 mJ cm -2 程度で閾値電圧がもっとも低くなり、その後大きな変化は見られない。 145 (a) (b) 図Ⅲ-2-2-1-3-24 (c) 0 密度依存性。(a) KrF レーザ(5μm)、 (b) KrF レーザ(50μm)、(c) YAG レーザ。 KrF dEC=3.0µm 0 –2000 –4000 –5000 –6000 –20 Virgin –2 320 mJ cm –2 480 mJ cm 640 mJ cm –16 –12 –2 dEC=3.0µm –2000 –3000 –4000 –5000 –8 –4 –6000 –20 0 Intercept of F–N plot (a) 図Ⅲ-2-2-1-3-25 YAG2ω –1000 Slope of F–N plot Slope of F–N plot –1000 –3000 閾値電圧の照射レーザ Virgin –2 160 mJ cm –2 300 mJ cm 500 mJ cm –2 –16 –12 –8 –4 Intercept of F–N plot (b) レーザ照射CNTの S-K プロット。(a) KrF レーザ照射(5μm)、 (b) SHG-YAG レーザ照射。 146 0 これらの試料の S-K プロットを図Ⅲ-2-2-1-3-25 に示す。いずれの試料も複数回の測定に対 して F-N プロットはばらつき、S-K チャート上でほぼ直線状に分布した。興味深いことに、 S-K プロットの直線分布は異なる照射エネルギーのデータが同一の点を通ることである。こ の詳しい理由は現時点では明らかではない。 これらの結果から求められるCNTの長さのレーザ照射条件依存性を図Ⅲ-2-2-1-3-26 に示 す。図Ⅲ-2-2-1-3-26(a)をみると、5μm円形ドットのKrFレーザ照射では、320 mJ cm-2 のとき に、CNTの長さが最大、 2μmであるのに対し、それ以外の照射条件のものでは 1μm 程度 と短い値となった。50μm円形ドットのKrFレーザ照射では、やはり 320 mJ cm-2 のときCN T長さが最大の 3 μm であり、高い照射エネルギーでもさほど短くなっていない。これら と比較して、SHG-YAGレーザ照射では、CNT長さはほぼ 1μm 以下となっている。 閾値電圧との関係で見ると、KrFレーザ照射では、5μm円形ドットでは 320 mJ cm-2 とい う最適値があり、これ以上のエネルギーで閾値電圧が高くなったことは、CNTの長さが若 干短くなったということに対応しているものと考えられる。また、50μm円形ドットでは閾値 電圧がじわじわと低下したことと、320 mJ cm -2以上のエネルギーで 5μm円形ドットの場合と 比較して CNT長さがあまり短くなっていないことが対応しているものと考えられる。 SHG-YAGについては、300 mJ cm-2 以上で閾値電圧がやや低いことと、CNT長さが長めであ ることが対応しているとも考えることができる。 以上の議論をより詳細に検討するために、SEM 像を詳細に解析した。異なる SEM 像数枚 から画面上に見られるCNTについて、その長さを計測し、ヒストグラムを作った。この結 果を図Ⅲ-2-2-1-3-28 に示す。 5μmドットのKrFレーザ照射の場合は、いずれの照射エネルギーの場合も最大長さは 2~ 2.5μm となっている。320 mJ cm-2 の試料と比較すると、400 mJ cm-2 の試料では最大長さ が若干短く、また分布のピークは 1.0~1.5μmに分布している。640 mJ cm-2 の試料は分布 の概略は 320 mJ cm-2 と類似しているが、2μm付近のものがわずかに少なく、1μm付近の長 さのものが比較的多い。640 mJ cm-2 では、長いCNTからのエミッションを測定できてい なかったか、あるいは、短めのCNTが多く存在することで、多少の電界低減効果があった ことが考えられる。50μmドットのKrFレーザ照射の場合は、320 mJ cm-2のものからエネルギ ーが上るにつれて、長いCNTが多くみられるようになり、エネルギーが高いほど長いとい う傾向が見られる。320 mJ cm-2のもののCNT長さはS-Kプロットからは 3μmと見積もられ ているが、SEMではそのようなものはみられていない。電子放出特性の測定では、非常に限ら れたものを見ていた可能性がある。これよりエネルギーの高いものでは、SEMの長さ 2.5μm ~3.0μm、3.0μm~とS-Kプロットで求めた値(2~3μm)は比較的よく合致しているが、SEM 像の長さの方が若干長い。長いものからは電子放出していないか、今回はその部分からの電 子放出がなされていない可能性がある。SHG-YAGレーザ照射では、SEM像ではきわめて長い構 造が観察されているのに対して、評価されたCNT長さが一桁近く小さい。このことは、現 在仮定しているモデルが孤立した一本のCNTを基礎としており、SHG-YAGレーザ照射試料の 電極構造をうまく表現しているとはいえないため、と考えることができる。 147 (a) (b) 図Ⅲ-2-2-1-3-26 (c) S-K プロットから求めたCNT長さ。 (a) KrF レーザ(5μm) (b) KrF レーザ (50μm) (c) SHG-YAG レーザ 図Ⅲ-2-2-1-3-27 CNT長さのヒストグラム。(a) 5μm ドット KrF、 (b) 50μm ドット KrF、(c) SHG-YAG。 以上の結果をまとめると、今回開発したCNTの長さを評価する方法は、SEM 像観察によ るCNT長さの分布の範囲内に入っており、有効な方法と考えることができる。 148 (c) ガス雰囲気におけるCNTからの電子放出特性の解析 ガス雰囲気におけるCNTからの電子放出特性の測定は、ゲート構造を有する、FEDの一部 分とでも呼べる構造の試料を用いて行った。試料は 250 mJ cm-2のSHG-YAGレーザ照射を施し たものを用いた。図Ⅲ-2-2-1-3-28 にそのSEM像を示す。この素子に対して別にコレクタ電極を 配置し、コレクタに流れる電流を測定した。また、コレクタを蛍光塗料を塗布したITOつきガ ラス基板に交換して、O2ガス、CH 4ガス導入時のエミッションパターンの観測も行った。 図Ⅲ-2-2-1-3-28 ガス雰囲気における電子放出特性を評価した素子の SEM 像。 導入したガスは、窒素(N2)、酸素(O2)、ネオン(Ne)、メタン(CH4)、水素(H2)の5種類であ る。あらかじめ超高真空まで排気した真空槽内に上記のガスを 10-4 Pa程度まで導入し、30 ~60 分間程度電子放出させた。その後、ガスを導入したまま、電子放出特性を測定し、ガス を抜いて超高真空(10-7 Pa)に戻した状態で再び電子放出特性を測定した。図Ⅲ-2-2-1-3-29 に 各ガス雰囲気におけるCNTの電流電圧特性を示す。N2雰囲気では、超高真空と比較して、 やや特性が劣化するものの、超高真空に戻すと、特性も元に戻っている。O2の場合もほぼ同 様である。Neの場合は超高真空、ガス導入時でまったく変化がなかった。CH4 の場合は、CH 4 導入時に特性が向上し、超高真空に戻しても改善された特性は失われなかった。H2 の場合は、 ガス導入時に特性が向上したが、超高真空に戻すとその特性は失われた。 図Ⅲ-2-2-1-3-30 にそれぞれのガス雰囲気における電子放出特性のS-Kプロットを示す。た だし、Neについては、まったく変化がなかったので省略している。N2、O2については、S-Kプ ロットはやはり直線状に載ることがわかる。このことから、N2やO2のガス雰囲気において、C NT表面にはこれらのガス分子が吸着しているものの、仕事関数の変化はあまり見られない、 ということがわかる。電子放出サイトの減少(面積の低下)が主たる要因と見受けられる。 これに対してCH4の場合、S-Kプロットの並びは、超高真空とガス雰囲気では異なり、またそ の傾きも異なることがわかる。仕事関数ないしは電圧電界変換係数の変化が原因と考えられ る。ガスを排気した後もこの変化は不可逆的であり、CH4 分子の化学吸着ないしはCNTエミ ッタ先端の構造変化を表しているものと考えられる。H2 の場合もCH4同様、若干仕事関数が低 下する挙動を示している。しかし、超高真空に戻すことでこれらの変化は元に戻っているこ とから、一時的な吸着が原因と考えられる。また、放出面積の極端な減少は見られないこと から、放出面全体に水素の吸着が見られ、その結果、電子放出特性が改善しているものと考 149 えられる。 (a) (b) (c) (e) (d) 図Ⅲ-2-2-1-3-29 ガス雰囲気における電子放出特性。 (a) N2、(b) O2、(c) Ne、(d) CH4、(e) H2 。 150 (a) (b) (c) (d) (e) 図Ⅲ-2-2-1-3-30 ガス雰囲気における電子放出特性 S-K プロット。 (a) N2、(b) O2、(c) Ne、(d) CH4、(e) H2。 151 エミッションパターンの観測からは以下のような結果が得られた。CH4ガス導入では、蛍 光板上の輝点が増加し、電子放出部位が増加したことを示唆していた。O2ガス導入では、蛍 光板上の輝点の増加は顕著ではなく、むしろ全体に輝度が低下していた。今回のエミッショ ンパターンの観測では、個々のエミッタの像を反映したものとはなっていないため、細かい ことはわからないが、CH4ガス導入では、エミッタ先端に炭素原子が付着するなどして電子放 出しやすい点が増加したことが推察される。 CH4の導入により、CNTの電子放出特性が改善したことはCNT-FEDとしては有利 な点であり、FEDにわずかな量のCH4を封入することで、特性の改善、ないしは劣化の防止に 役立つ可能性がある。 以上の結果からは、CNTの表面はガス吸着等に対して概して安定であり、仕事関数の変 化も少ないと考えることができる。従って、レーザ照射による電子放出特性の改善は構造変 化が主たる要因であるということはほぼ明らかである。 (d) CNT-FEDへのフィードバック 平成 17 年 5 月 25 日に三菱電機株式会社の FED のデータを受け取り、上記の知見を元に デバイスの特性のばらつきについてコメントした。比較したデータを S-K プロットすると、2 つに大別される特性それぞれが別の直線に乗っていたが、傾きが同じで切片が異なることか ら、形状や仕事関数のばらつきではなく、電子放出部位の数のばらつきであると判断した。 (4)目標に照らした達成状況 本研究の目的は、S-K チャートを用いてレーザ照射したCNTの電子放出特性改善の要因 を探ることであった。一連の研究を通じて ・S-K チャートのCNTに対する有効性を示すことができ、 ・これにより、CNTの電子放出特性改善が主として構造変化に基づくものであることを 明らかにしたうえで、 ・構造の具体的な特徴(CNTの長さ)を抽出するところまで進むことができた。 ・またガス導入などによってもCNTの仕事関数が容易には変化しないことも示し、 ・このことが逆に先に示した「電子放出特性の改善は主として構造変化」の傍証としても 成り立つ、 ことを示すことができた。以上のことから、目標を十分達成したものと考える。 (5)参考文献 [1] Y. Gotoh, T. Kondo, M. Nagao, H. Tsuji, J. Ishikawa, K. Hayashi, and K. Kobashi, J. Vac. Sci. Technol. B18 (2000) 1018. [2] Y. Gotoh, M. Nagao, D. Nozaki, K. Ustumi, K. Inoue, T. Nakatani, T. Sakashita, K. Betsui, H. Tsuji, and J. Ishikawa, J. Appl. Phys. 95 (2004) 1537. [3] 西田和史、岩津文夫、森川浩志、真空 48 (2005) 115 . [4] G. Forbes, C. J. Edgcombe, and U. Valdre, Ultramicroscopy 95 (2003) 57. 152 [5] Y. Gotoh, M. Nagao, M. Matsubara, K. Inoue, H. Tsuji, J. Ishikawa, Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) L1297. 153 2-2-3-3 「①-3-3 表面処理装置及びプロセスの開発」 三菱電機株式会社 (1)目標 本研究開発項目では、CNT膜の電子放出特性を改善するための手段であるレーザ照射方式 を大面積に適用するための表面処理技術を開発する。更に、例えばレーザ等でCNT表面を 処理した結果として発生する付着物を処理しなければカソード電極と引出電極間の電気的な ショートが発生する等の不具合が生じることも考えられるため、このような付着物を除去す る手段を開発する。本研究開発項目の最終達成目標は、CNT膜の電子放出特性として、電 子放出開始電界強度が 2V/μm以下で、10mA/cm2の電流密度を 4V/μm以下の電界強度で実現し、 引出電極等の電子源構成部材に影響を与えず、CNTに選択的に作用する表面処理技術、及 びプロセスの開発を行う、ことである。 (2)内容 平成 15 年度においては導入した表面処理装置を用いて大面積CNT膜の表面処理のために 必要である光学系を実現するための基礎検討を行った。 また、均一な電子源を実現するために必要と思われる表面処理技術の事前検証を行うために、 数mm角のサイズのCNT膜を形成しレーザを用いた表面処理を行った。以上の試験を行う ことで、必要表面処理条件、大面積化時に課題となる重なり部分の影響等について検討を実 施した。CNT膜の電子放出特性の一様性を評価するために、基板上に数百個のCNT膜を 形成後に表面処理を行い、同一ロットの電子放出特性のバラツキを定量的に評価した。 平成 16 年度においては大阪大学にて導入したUVストライプビーム照射装置と組み合わせ てカソード全面をスキャニングしながら処理する装置を開発した。また、研究開発項目①-4 微細エミッタ作製技術の開発で得られた三極構造の微細孔中のCNT膜へのレーザ照射を実 施した。表面処理後のCNTの高分解能分析を行い、レーザ照射が微細構造物に影響を与え ないプロセスを構築した。 平成 17 年度においては、平成 15 年度、16 年度で開発された技術を用いて大面積FEDカ ソード基板の試作を行い、微細エミッタ作製技術で開発した絶縁材料の微細孔形成プロセス に対応した表面処理技術を開発した。 以下の節では、まず開発されたレーザ表面処理装置の概要を説明し、次に実際のカソードに 適用した結果について報告する。 (3)結果と考察 (3)-1 レーザ表面処理装置 ここでは、FED用のCNT膜のレーザ表面処理を行うために開発した装置について以下の 順に説明する。 (1)レーザ表面処理装置仕様 (2)光学系の設計 154 (3)ビームプロファイル特性 本レーザ表面処理装置の主なスペックを表Ⅲ-2-2-1-3-6 に示す。最大でサイズ 400×300mm の基板がセットでき、その基板中のFED画面サイズに相当する対角約 10 インチの領域に対 してレーザを照射し処理できるような構成になっている。 表Ⅲ-2-2-1-3-6 ワークサイズ 等 ユーティリテ レーザ表面処理装置スペック ワーク寸法 400mm (X)×300mm (Y) レーザ照射範囲 203mm (X)×152mm (Y) 電源電圧 AC200V±10% 3相 60A 50/60Hz 兼用 ィ エアー源 0.5 MPa 以上 エアー消費量 エアーブロー使用時 30 リットル/分 また、本装置は発振器部分を取替え可能としており、エキシマレーザ等の各種レーザを用い ても実験できるようになっている。また、光学系に関しても、レーザ表面処理方法の条件等 の変更に対して対応できるように汎用性をもたせた。 レーザ表面処理時の基板の移動に関しては、ストライプビームのラインスキャン照射や、マ スク転写による微細パターンのタイリング照射に対応できるようにした。また、レーザ処理 に際して、照射パターンとCNT膜のμm レベルでの位置合わせのため、アライメントマー クを基に自動的に位置あわせできるようにした。ステージの位置精度は±2μmである。 実際に本装置を用いて照射する際の加工パターンは、 DXF形式(Data eXchange Format)1 で設定している。 DXF形式で書いた直線/ドットに対応し、最短経路で 加工するアルゴリズムを搭載している。 レーザ表面処理時に発生するスミヤ等の汚染物質等が CNT膜に再付着することを抑制するために、 (1)イオン化されたガスの試料へのブロー (2)局所排気 の機能を付加している。 図 1-3-3-1 開発した表面処理装置の全景 導入したレーザ表面処理装置の主要部の図面および開発した装置の写真を図Ⅲ-2-2-1-3-31 に示す。 1 Autodesk社のCAD、AutoCADで使われているデータファイルフォーマット。2次元や3次元データを交換するため の事実上の業界標準になっている。大抵のCADや3次元グラフィックスソフトウェアでは、最低でもこのDXFフォーマット でのデータの受け渡し程度はできるようになっている。 155 図Ⅲ-2-2-1-3-32 にストライプビーム処理を行うために開発した光学系の概略図を示す。Kr Fレーザ発振器より発したレーザ光 をホモジナイザーで均一化した後に レンズ系によりストライプビームを 形成する構成となっている。図中の H1, H2 FL1 45° M H1、2、3、4 はビームの均一性を改 H3 善するためのホモジナイザー、FL1, 2 はストライプビームを形成するた H4 めレンズ系である。また、ビームの FL2 均一性を評価するためにビームアナ ライザも配置されている。この光学 系を表面処理装置にセットし表面処 理を実施した。 この光学系を用いて形成したKr Fストライプビームのプロファイル の例を図Ⅲ-2-2-1-3-33 に示す。左図 Beam Analyzer 図Ⅲ-2-2-1-3-32 ストライプビーム光学系 はストライプビームを 2mm スキャンした場合の照射エネルギー分布を示しており、右図はス トライプビームの長手方向のビーム強度分布を示している。図よりこの光学系を用いること で約 52mm の範囲で±5%以下の均一なレーザ光が形成されていることがわかる。 2mm 52mm 52mm 図Ⅲ-2-2-1-3-33 (3)-2 KrF エキシマレーストライプビームのプロファイルの一例 CNT膜の表面処理 本節では、前節のレーザによる表面処理装置を実際のCNT膜に適用した結果について説明 する。内容は以下に示される項目についての試験結果であり、以下の節で随時説明を行う。 (1)レーザ照射によるCNT膜の電子放出特性改善とバラツキの低減 (2)レーザ光の重なりの影響 (3)表面処理のCNTに対する影響の解析 (4)微細孔中のCNTへの表面処理 156 レーザ表面処理によるCNT膜の電子放出特性改善とバラツキの低減 ここでは、CNT膜の電子放出特性改善およびバラツキ低減のためにレーザ照射条件につい て以下の項目について検討した結果について述べる。 (1)照射エネルギー密度とターンオン電界強度依存性 (2)パターン照射時の境界長と電子放出特性 レーザ処理条件(波長、照射エネルギー密 KrFエキシマレーザ(φ5μm) 度)とCNT膜の電子放出特性の関係を測 YAG3倍波レーザ(φ25μm) 7 0.3μA放出電界(V/μm) 定した。使用したレーザは、KrFエキシマ レーザ、YAG三倍波レーザ(λ=355nm)、 YAG二倍波(λ=532nm)及びYAG基本 波(λ=1064nm)である。 図Ⅲ-2-2-1-3-34 に、2mm角のCNTカソー ドに対してレーザ処理を行った際の照射エ YAG2倍波レーザ(w30μm) 6 5 4 3 2 1 0 ネルギー密度と、2mm角のCNT膜から 0.3 0 μA(電流密度 7.5μA/cm2)の電子放出が 200 400 600 照射エネルギー密度(mJ/cm2) 図Ⅲ-2-2-1-3-34 起こる電界強度(以下ターンオン電界強度 800 各種レーザ処理における照射エ ネルギー密度とターンオン電界強度の比較 とする)の関係を示す。照射したレーザ光 のパターンは以下のとおりである。 KrFエキシマレーザ :φ5μm、ピッチ 10μm のドット照射 YAG三倍波レーザ :φ25μm、ピッチ 40μm のドット照射 YAG二倍波レーザ :幅 30μm、ピッチ 40μm のストライプ照射 図に示される様に、全てのレーザにおいて、照射エネルギー密度が強くなるに従い、ターン オン電界強度が低くなり、極小値を示した後照射エネルギー密度の増大に伴って徐々に高く なるといった特性を示している。 また、YAG二倍波レーザとYAG三倍波レーザにおいては、200 から 350mJ/cm2の照射エ ネルギー密度の範囲でターンオン電界強度が低い値を示しているのに対し、KrFエキシマ レーザでは、これらより強い照射エネルギー密度である 400 から 600mJ/cm2の範囲でターン オン電界強度が低くなっている。ターンオン電界強度が最も低い条件下での値を比較すると、 YAG二倍波レーザが 1.8V/μmと最も低く、YAG三倍波レーザとKrFエキシマレーザで は同程度の 2.5V/μmであることが分かる。 また、全てのレーザにおいてターンオン電界強度が最も低くなる領域付近では、照射エネル ギー密度依存性が比較的小さいことが分かる。例えばターンオン電界強度の 10%変動を許容 値とするならば照射エネルギー密度の許容範囲はYAG二倍波レーザ、三倍波レーザ、エキ シマレーザでそれぞれ 200~350mJ/cm2、150~400mJ/cm2、300~600mJ/cm2、となる。 このことはレーザの出力等が変動した場合においても、ターンオン電界強度に大きな相違が 生じないといったプロセス上のマージンが広く取れることを意味している。 以上のように、ある範囲内のレーザ照射エネルギー密度であれば電子放出特性に大きな影響 を与えないことが分かった。 157 以下では、更に特性を改善する目的でパターン状にレーザを照射した結果について記載する。 このような表面処理を行った場合、SEMの観測などによりCNTの起毛が、パターン状に 照射されたレーザの境界領域に現れる。従って各種比較を行う場合、照射パターンの境界の 長さの総和(境界長)をパラメータとして評価することにした。 また、バラツキは、同一基板上に形成したCNT膜(2mm 角)48~256 個の電子放出特性を 測定しターンオン電界強度の標準偏差/平均で評価した。 図Ⅲ-2-2-1-3-35 に各種 レーザ照射 KrFエキシマレーザ(φ5μm) を行ったCNT膜における境界長と YAG3倍波(φ7μm) 実験ではレーザの照射エネルギー密 度は各レーザでターンオン電界が最 も小さくなるエネルギー密度で実施 した。具体的には、KrFエキシマ レーザでは 480mJ/cm2 、YAG三倍 波では 200mJ/cm2 、YAG二倍波で 0.3μA放出電界(V/μm) ターンオン電界強度の関係を示す。 は 270mJ/cm2 、YAG基本波では、 400mJ/cm2で実施した。図に示すよう 4.5 YAG2倍波(w30μm) 4 3.5 YAG基本波(楕円) 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0.1 1 10 境界長(mm) 100 1000 に、境界長が長くなった際のターン オン電界強度の低下の傾きは、レー 図Ⅲ-2-2-1-3-35 各種レーザにおける境界長 とターンオン電界強度 ザの種類によらずほぼ同様の傾きで 低下している。 同一の境界長で比較した場合には、ターンオン電界強度がYAG二倍波、YAG基本波、Y AG三倍波、KrFエキシマレーザの順で 高くなる傾向にある。但し、YAG三倍波 KrFエキシマレーザ(φ5μm) YAG3倍波(φ7μm) とKrFエキシマレーザでは大きな相違は また、図Ⅲ-2-2-1-3-36 に示す各種レーザ照 射における境界長とターンオン電界強度の バラツキを見ると、全てのレーザで境界長 が長いほど小さくなる傾向にあるが、境界 長の変化に伴うバラツキ改善の傾きが異な 標準偏差/0.3μA放出電界平均 見られない。 0.25 っている。 YAG2倍波(w30μm) 0.2 YAG基本波(楕円) 0.15 0.1 0.05 0 0.1 1 YAG三倍波やKrFエキシマレーザの 場合境界長が長くなるに従ってバラツキが 図Ⅲ-2-2-1-3-36 改善されている。一方で、YAG基本波と 10 境界長(mm) 100 1000 各種レーザにおける境界長 とターンオン電界強度の関係 YAG二倍波では、境界長の増大に伴うバ ラツキ改善の傾向が他と比較すると小さく改善効果が現れてこない。 今回用いた評価方法では、得られたターンオン電界強度のバラツキに、CNT膜とアノード 158 間のギャップバラツキが含まれており、特にバラツキの小さい領域では、ギャップバラツキ の影響を受けCNT膜の特性差が測定されない可能性がある。 これまでは、電子放出特性として主にターンオン電界強度に着目して述べたが、次に各種レ ーザ表面処理後のCNT膜の電子放出特性(VI 特性)を比較した結果について述べる。図 Ⅲ-2-2-1-3-37 に、未処理カソードで比較的電子放出したものと、KrFエキシマレーザ処理 CNT膜、YAG三倍波レーザ処理CNT膜、YAG二倍波レーザ処理CNT膜の代表的な 電子放出特性を示す。 また、電子放出開始電界強度は、要求される電流密度(10mA/cm2)の 1/10000(コントラス ト 10000:1)の電流密度 0.001mA/cm2の電子放出時の電界で定義した。 この図から、未処理CNT膜では、比較的特性の良い場合においても電子放出開始電界強度 各種レーザ処理後の電子放出特性 放出電流密度(mA/cm2) 10 YAG2倍波 YAG3倍波 KrFエキシマ 未処理 1 0.1 表面処理前 0.01 電子放出開始電流定義レベル 0.001 0.0001 0 1 2 3 4 5 引出し電界(V/μm) 6 7 表面処理後 図Ⅲ-2-2-1-3-37 各種レーザ処理後の電子放出特性と表面処理によるCNTの状態変化 が 3V/μm である。それに対して、レーザ処理したCNT膜においては、KrFエキシマレー ザ処理で 1.9V/μm、YAG三倍波レーザ処理で 2.0V/μm、YAG二倍波レーザ処理で 1.7V /μm である。このように、いずれにおいても達成目標である 2V/μm 以下を実現しており、 レーザ処理することで電子放出開始電界強度が 1~1.2V/μm 小さくなっている。 また、10mA/cm2放出時の電界強度に関してもKrFエキシマレーザ処理およびYAG三倍波 レーザ処理で 4V/μm、YAG二倍波レーザ処理で 3.6V/μmと達成目標(4V/μm)を満足して いる。 図中にSEM写真が掲載されているが、表面処理前のCNT膜においてはCNTが膜面に対 し起毛していないのに対し、表面処理を行うことで起毛構造を形成しCNT先端が膜面より 突出した状態となっていることが分かる。 以上のように、レーザを用いパターン状の照射を行い、照射エネルギー密度の最適化をすれ ば目標値をクリアーできることが示された。また、表面処理に用いるレーザの種類に関して は、大きな依存性がないことも分かった。 159 レーザ光の重なりの影響 大面積FED用電子源に対してレーザによる表面処理を行う場合には、処理のスループット を考えなければならない。この場合、ストライプビームを電子源に対してスキャンして処理 することが最も効果的である。 しかしながら、図Ⅲ -2-2-1-3-38 に示すよう ビームの広がり ストライプビーム長さ 重複照射される領域 にストライプビームの 2回目のスキャン 1回目のスキャン 長さが電子源サイズに 対して短い場合、電子 源に対してスキャン位 置をずらしながら複数 図Ⅲ-2-2-1-3-38 大面積へのストライプビーム照射の概念図 回照射する必要がある。 レーザ光はある程度広がりを有するので、重複して照 3.5 た場合における、電子放出特性への影響について測定 した。 照射する レーザとしてYAG二倍波ストライプレー ザ を用いた。照射エネルギー密度は 270mJ/cm2 とし、 レーザ光が重複照射されていないサンプルから最大 5 回まで重複照射したサンプルを作製し、ターンオン電 界強度の重複回数依存性を測定した。 0.3μA放出電界(V/μm) 射される領域が出てくる。そこで、重複して照射され 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 1 2 図Ⅲ-2-2-1-3-39 図Ⅲ-2-2-1-3-39 に、レーザ光の重複回数とターンオン 3 重複回数 4 5 重複照射によるター ンオン電界強度変化 電界強度の関係を示す。図に示されるように、1 回の 重複まではターンオン電界強度に殆ど増加は見られないが、2 回以上の重複でターンオン電 界強度が 3V/μm まで急激に劣化する。 以上の結果から、図Ⅲ-2-2-1-3-38 に示したように大面積照射を行った場合の重複照射は1回 であるので、電子放出特性に与える影響はないことが示された。 表面処理のCNTに対する影響の解析 ここでは、レーザ照射による表面処理のCNTに与える影響について示す。 レーザ処理を行うことでCNTが起毛し、電子放出特性が改善されるが、レーザ照射による ダメージや、レーザ照射による生成物がCNTに付着し電子放出を阻害している可能性があ る。 そこで 、三次元ナノ空間分光顕微鏡(ラマン分光器:空間解像度 0.2μm)を用いて、レー ザ照射前後でのCNTの結晶性の変化を調べた。図Ⅲ-2-2-1-3-40 にレーザ処理前後のCNT カソードのラマンスペクトルを示す。照射したレーザはYAG二倍波であり 300mJ/cm2の照 射エネルギー密度である。CNTのラマンスペクトルは、CNTを構成する完全なグラファ イト成分に起因するGバンドピークと、グラファイトの欠陥もしくは端部やアモルファス成 160 6 分に起因するDバンドピークが見られる。 CNTの結晶性を評価する際には、 レーザ照射によるラマンスペクトル変化 このGバンドピークとDバンドピー 5 クの比(G/D比)で評価する手法 4 をDバンドピークで規格化して示し ているが、図に示されるように、レ ーザ照射によりG/D比が低下して いることが分かる。この結果は、C 規格化強度 程CNTの結晶性が良いとされてい る。図のラマンスペクトルは、縦軸 レーザ処理 3 2 Dバンド 1 0 NTがレーザ照射によりダメージを 受け欠陥が発生しているか、レーザ 0 500 1000 1500 2000 -1 波数(cm-1) 照射によりCNTが破壊されグラフ ァイト微粒子やアモルファスカーボ Gバンド 未処理 が一般的であり、G/D比が大きい 図Ⅲ-2-2-1-3-40 レーザ処理前後の CNT カソー ドのラマンスペクトル ンが生成されていることを示してい る。 図Ⅲ-2-2-1-3-41 はレーザ処理後の起毛した CNTの先端を高分解能 SEM(走査型電子顕 微鏡)で観察した結果である。この写真より 起毛したCNTの周囲に粒状の物質が付着し ていることが分かる。この様な粒状の付着物 はレーザ処理前のCNTにおいては観察され ない。従って、この付着物はレーザ処理によ り生成されたと考えられる。 このレーザ処理により生成さ れた付着物お 図Ⅲ-2-2-1-3-41 レーザ照射したCNTの先端部 よびCNTの先端の状態をより詳細に調べる 分の高分解能 SEM写真 ために、高分解能TEM(透過型電子顕微鏡) 観察を実施した。得られたTEM写真を図Ⅲ-2-2-1-3-42 に示す。(a)に示されるようにレー ザ処理前のCNTには付着物は観察されないが、レーザ処理後は(b)に示すように図Ⅲ -2-2-1-3-41 のSEM写真と同様にCNTの周囲には付着物が観察される。この付着物をより 高倍率で観察した結果、グラファイトの微粒子、アモルファスカーボンであることが判明し た。従って、これらの付着物はCNTにレーザ照射することでCNTが破壊され形成された と考えられる。また、レーザ処理していないCNTやレーザ処理したCNTの先端 161 先端の崩れ CNT CNT 正常なCNTの先端 付着物 (a) レーザ処理前のCNT (c) レーザ処理により崩れた CNTの先端 (b) レーザ処理により発生した 付着物 図Ⅲ-2-2-1-3-42 (d) 正常なCNTの先端 レーザ処理前後のCNTの高分解能TEM写真 の大部分は(d)に示されるようにCNTの先端が開いた状態(正常な状態)となっていた が、レーザ処理したCNTの一部においては、(c)に示すように先端のグラファイト構造 が崩れアモルファス化しているようなCNTも観察されている。 この様なレーザ処理によりCNT先端への不純物カーボンの付着や先端部のアモルファス 化はCNT本来の電子放出特性を劣化させている。そこで、通常の表面処理に使用するレー ザの照射エネルギー密度より弱いレーザを照射することで、不純物カーボンやアモルファス 化した先端の除去を行った。 図Ⅲ-2-2-1-3-43 に照射エネルギー 密度 300mJ/cm2 のYAG二倍波スト 0.3μA放出電界 称する)を実施した場合の照射エネ ルギー密度とターンオン電界強度及 びバラツキの関係を示す。図に示さ れるように、通常の表面処理でCN Tの起毛が形成される照射エネルギ CNT起毛形成閾値 2 ターンオン電界強度は、ポスト処理 を 行 わ な い 場 合 と 比 較 し て 0.3~ 0.15 1.5 0.1 1 0.05 0.5 CNT 起毛閾 0 ー密度の閾値 150mJ/cm2より弱い 40 ~120mJ/cm2 でポスト処理を行うと 0.2 標準偏差/0.3μA放出電界平 均 追加レーザ照射(以下ポスト処理と 0.3μA放出電界(V/μm) 処理をしたCNTカソードに対し、 ばらつき 2.5 ライプビームスキャンで通常の表面 0 50 100 150 0 200 ポストレーザ処理照射エネルギー密度(mJ/cm2) 図Ⅲ-2-2-1-3-43 ポスト処理による電子放出特性変化 0.5V/ μ m 低 下 す る 。 し か し 、 120mJ/cm2よりも強い照射を実施すると、ターンオン電界強度は増加する。この原因は重複照 射による電子放出特性劣化の原理と同じであり、120mJ/cm2を超えた照射の場合には1回目で 起毛したCNTが、ダメージを受け飛散してしまうためである。 バラツキに関しては、40~100mJ/cm 2 でポスト処理行った場合に 0.05 まで改善するが、 100mJ/cm2以上では増大する傾向がある。 162 この様にCNT起毛の閾値よりも弱いレ ーザ照射でポスト処理を行うことで電子放 5.0 出特性が改善されるとともに、バラツキも 4.5 レーザ処理前 レーザ処理後 ポスト処理後 4.0 小さくなることが判明した。この原因が、 3.5 当初期待したCNT先端の付着物、アモル 強度 3.0 ファス化したCNTの除去効果によるもの 2.5 2.0 か否かを調べるために、ラマンスペクトル 1.5 の変化を調べた。結果をポスト処理時の照 1.0 0.5 2 射 エ ネ ル ギ ー 密 度 80mJ/cm を 例 に 図 Ⅲ 0.0 -2-2-1-3-44 に示す(縦軸は、Dバンドピー 1000 1500 波数(cm-1) クで規格化している)。図Ⅲ-2-2-1-3-44 に示 されるようにポスト処理時により完全では 図Ⅲ-2-2-1-3-44 ないもののG/D比が回復していることが 2000 ポスト処理によるラマンスペ クトルの変化 分かる。 図Ⅲ-2-2-1-3-45 にポスト処理後の起毛 したCNTの先端を高分解能SEM観察 した結果を示す。図に示されるように、 ポスト処理した場合には、処理前(通常 のレーザ処理後のCNT:図Ⅲ -2-2-1-3-41 参照)に見られたような付着 物が見られないことが分かる。 以上の結果から、ポスト処理することで、 少なくともレーザ処理により付着したグ 図Ⅲ-2-2-1-3-45 ポスト処理後のCNTの SEM写真 ラファイト微粒子やアモルファスカーボ ン微粒子がポスト処理により除去され、G/D比が改善されること、これら付着物の影響が 除去され電子放出特性が改善されバラツキも小さくなったと考えられる。 微細孔中のCNTへの表面処理 これまでは、印刷法で形成したCNT膜に対するレーザによる表面処理の効果について述べ てきた。 本節では、FEDに使用するCNT膜に対するレーザ照射による表面処理効果および表面処 理の電子源構造に与える影響について述べる。 163 まず、実際に三極構造の電子源に対してレーザ照射による処理を行い、電子放出特性および 電極構造に対する影響について調べた。 図Ⅲ-2-2-1-3-46 に 1.5 インチ電子源に対しレーザ処理をおこなった場合における照射エネ ルギー密度と電子放出開始電圧の変化を示す。 図に示さ れるように、50mJ/cm2 では 180 170Vと 高 い電 子 放 出 電圧 を 示 す が、 160 圧が 75V程度まで低下する。それ以上 の照射エネルギー密度においては、 125mJ/cm2 までの範囲ではバラツキは あるもののほぼ 70Vの一定の値をとる。 更に 150mJ/cm2 と照射エネルギーを高 電子放出開始電圧(V) 80mJ/cm2 の照射により電子放出開始電 140 120 100 80 60 40 くすると電子放出開始電圧は 95Vと増 20 大する。この結果から、三極構造電子 0 源においては 80mJ/cm2から 125mJ/cm2 0 の範囲で電子放出開始電圧が小さくな っている。図Ⅲ-2-2-1-3-47 に表面処理 した 1.5 インチ電子源の発光状態を示 50 100 照射エネルギー密度(mJ/cm2) 図Ⅲ-2-2-1-3-46 150 三極構造電子源における照射エネ ルギー密度と電子放出開始電圧の関係 す。図に示されるように表面処理を行 うことで電子源全面にわたり発光が観察される。 次に、レーザ照射による表面処理の微細孔中のCNTおよび電子源構造に与える影響につい て調べた結果について述べる。影響として考えられるのは 1)三極構造に対する構造的なダメージ 2)アブレーションしたCNTによる引出電極とカソード間 耐電圧劣化 であり、以下にその結果について説明する。 表面処理時のレーザの照射エネルギー密度が、電子放出開始 電界が改善される領域で最も強い 125mJ/cm2(図Ⅲ-2-2-1-3-46 参照)で照射した電子源について処理前後のSEM写真を図 Ⅲ-2-2-1-3-48 に示す。図に示すように表面処理を行うことで、 微細孔中のCNTは図Ⅲ-2-2-1-3-47 に示したのと同様にCN Tの起毛構造が形成されることがわかる。また、照射前後の 引出電極および絶縁膜に変化が見られないことから、電子源 図Ⅲ-2-2-1-3-47 構造にダメージを与えることなく処理できていることが分か 電子源の発光状態 る。 164 1.5インチ 表面処理前 表面処理後 図Ⅲ-2-2-1-3-48 表面処理前後の電子源のSEM写真 次に、レーザ照射により表面処理を行った場合 のアブレーションしたCNTによる引出電極と CNTカソード間の耐電圧劣化および対策を検 討した結果を示す。 図Ⅲ-2-2-1-3-49 に 90mJ/cm2で処理した 1.5 イ ンチ電子源の発光状態を示す。図に示されるよ うに、この電子源においては引出電極-CNTカ ソード間(G-K間)ショートに起因するライン 欠陥が発生している。このショート箇所を特定 し、顕微鏡観察を行った結果の一例を図Ⅲ 図Ⅲ-2-2-1-3-49 G-K ショートが発生して いる 1.5 インチ 電子源の発光写真 -2-2-1-3-50 に示す。ショートが発生し ていた 4 箇所のうち 2 箇所については、 図に示されるような引出電極上に多数 引出電極端部に付 着しているCNT の飛散したCNTが見受けられた。ま た 4 箇所ともに図に示されるような引 出電極端部に飛散したCNTの付着が 見受けられた。この様な局所的に集中 した多数のCNTの飛散は、表面処理 飛散したCNT 前には観察されていないことから、表 面処理に用いたレーザ処理により飛散 図Ⅲ-2-2-1-3-50 165 引出電極上に飛散したCNT したと考えられる。 そこで、このカソードで発生した飛散したCNTを除去しショート箇所を無くす目的で、引 出電極上に粘着テープを貼り付けて剥がす処理(ピーリング処理)を行い、再度電子放出特 性評価を実施した。 図Ⅲ-2-2-1-3-51 に図Ⅲ-2-2-1-3-50 と同一箇所をピーリング処理後に観察した結果を示す。図 に示されるように、ピーリング処理することで、引出電極上のみならず引出電極端部に付着 したCNTに関しても除去できていることが分かる。他の 3 箇所についても同様に飛散した CNTの除去がなされていることが確認された。 この飛散したCNTを除去した電子源の発光状態を図Ⅲ-2-2-1-3-52 に示す。図に示されるよ うに、付着物を除去したことでG-K間ショートに起因するライン欠陥が見られないこと、発 光均一性についても改善していることが分かる。 図Ⅲ-2-2-1-3-51 ピーリング処理によりCNT飛散 図Ⅲ-2-2-1-3-52 付着物除去した電子 源の発光パターン 物を除去した後の電子源写真 (4)まとめ CNT-FEDの電子放出特性改善および発光均一性改善のためのレーザ照射による表面 処理について、表面処理装置の開発、表面処理技術(処理条件の最適化)およびプロセスの 開発を行った。 CNT膜に対しレーザ処理を行うことで、CNTの起毛構造が形成され電子放出特性が改善 されるとともに発光均一性が改善されることを実証した。その結果として、達成目標として いた、電子放出開始電界強度 2V/μm以下、4V/μm以下の電界強度で 10mA/cm2の電子放出特性 が実現できた。 更に、研究開発項目「①-4微細エミッタ作製技術」で得られた三極構造電子源に本手法を 適用し電子放出特性が改善できることを実証した。また、本手法が電子源構成部材に影響を 与えず微細孔中のCNTに対して処理できることを実証できた。 166 2-2-4 「①-4 微細エミッタ作製技術の開発」 研究開発内容を「①-4-1 微細エミッタ構造作製技術の開発」及び「①-4-2 微 細孔中の低温CVD-CNT成長技術の開発」の二つに分けて実施した。「①-4-1 微 細エミッタ構造作製技術の開発」は三菱電機株式会社が実施した。均質なCNT膜の形成技 術及び表面処理技術と三極構造の微細加工技術を組み合わせて高画質な画像表示が実現で きるFED用の電子源を開発した。従来の電子源は、画素あたりの電子放出箇所を多くとる ことができず、電子放出特性のバラツキを統計的に抑えるのに不十分であった。本研究開発 項目ではCNT膜上に電子放出箇所を多数個形成することで一様な電子放出を実現するた めの技術を開発した。 「①-4-2微細孔中の低温CVD-CNT成長技術の開発」は大阪府立大学が実施 した。CNTを電子源とした実用的なFEDを製作するにあたって、避けて通れない課題は、 画素間の輝度ばらつきと 1 画素の時間的な輝度揺らぎの低減である。これまで発表されてい る 2 次元CNT電子源は、CNTの突出長さや太さが不揃いであり、また、電子放出点の構 造に特段注意が払われていない。したがって蛍光体発光特性は、上記何れの課題もクリアさ れていない。本研究開発では、ガラス基板の微細孔中に 550℃以下の低温で化学気相成長 (CVD)法により高品質のCNTを作製し、その電子放出特性の安定化を目指した。 2-2-4-1 「①-4-1 微細エミッタ構造作製技術の開発」 三菱電機株式会社 (1)目標 本研究開発項目は、これまでに説明された均質なCNT膜の形成技術及び表面処理技術と 三極構造の微細加工技術を組み合わせて高画質な画像表示が実現できるFED用の電子源を 開発することにある。 特にFEDの市場として最も有望である 30 インチで垂直解像度 768 本のFEDを念頭に置 き、0.6mm ピッチ程度の画素サイズ(サブピクセルサイズ 200µm(水平)×600µm(垂直))に 用いられる電子源の開発を行ない、長寿命で信頼性が高く、均質で低電圧駆動が可能な電子 源、より具体的には 1 ドットあたりの定格電流1μAに対する駆動電圧が 80V 以下、画素間 の電子放出特性差 2%以下、10,000 時間後の放出電流初期比 70%以上、放出電流の時間揺ら ぎ 10%以下を満たす電子源を実現することを目標とする。 従来の電子源は、画素あたりの電子放出箇所を多くとることができず、電子放出特性のバ ラツキを統計的に抑えるのに不十分であった。本研究開発項目ではCNT膜上に電子放出箇 所を多数個形成することで一様な電子放出を実現するための技術を開発する。 167 (2)内容 微細エミッタ加工装置を用いて広い面積のCNTに一様な電界を印加するに効果的 なアスペクト比の高い微細孔を形成する技術開発を平成15年度に実施した。微細孔 中へのCNT形成方法については、カソード基板上にカソード電極パターンを形成し、 積み上げ法により三極構造を試作し問題点を明確にした。 ここで、積み上げ法とは、CVD法または印刷法により成膜されたCNT膜上に絶 縁層、引出電極層を形成後、微細孔を形成する手法である。 積み上げ法を行なうには、平坦なCNT膜が必要となる。カソード形成プロセスの 検討を行いCNT電子源作製用研磨装置を導入し、平坦なCNT膜を大面積にわたり 一様に形成できる技術の開発を行なった。 カソード電極と引出電極間に形成する絶縁層として、絶縁耐力、耐熱性、加工性、 大面積の成膜特性に優れ、CNTの寿命に大きく影響を与えるガス放出量の小さいシ リコンラダーポリマーを用いた三極構造を実現した。 積み上げ法の課題としてCNT膜の汚染による特性劣化が考えられる。このため 加工後のCNT膜の表面分析を行ない、影響を定量的に評価した。また、電子放出特 性の測定とも合わせて許容される加工工程を確立した。 その後、大型基板エミッタ作製装置、マイクロスプレイ塗布装置、プラズマプロセ スモニタを導入し大面積化及び成膜プロセスの最適化を行い、均質な絶縁膜及び微細 0.1 200 画素 0.5 0.1 150 240 0.3 ゲート配線 300 カソード配線 画素領域 (a)基板全体図 図 Ⅲ -2-2-1-4-1 0.03 (b)画素部分詳細図 FED基板の平面図 構造の形成技術を確立した。 以上の加工技術と表面処理技術を組み合わせることで、多数の電子放出箇所(具体 的 に は 、 画 素 毎 に 10,000 個 程 度 の 電 子 放 出 箇 所 ) を 形 成 し た 。 こ れ に よ り 統 計 的 な 効 果により画素間の電子放出特性のバラツキを低減した均質な電子源を実現した。電子 放 出 特 性 の 一 様 性 の 解 析 の た め に 、 平 成 15 年 度 に 導 入 し た 二 次 元 電 子 放 出 特 性 評 価 装 置を用いて表面処理技術で形成された電子放出箇所の局所的な特性評価を行い、CN T膜形成/微細加工/表面処理の最適化を行った。 168 また、信頼性検証装置により長時間電子を放出しているCNT表面の観測を行ない 電子放出部の形状変化を測定するとともに、ガス導入部を追加改造した二次元電子放 出特性評価装置を用いて雰囲気ガス依存性を測定することにより長寿命を実現できる CNT構造についての検討を行なった。 これらのプロセス技術を用い、研究開発項目①-2 項で開発された均質なCNT膜の 形成技術と①-3 項で開発されたCNT膜の表面処理技術を組み合わせ、最終達成目標 を実現した。 以下の節で、個別の技術開発内容について詳細に記する。 (3)結果と考察 以下、検討結果の詳細について説明する。 積 み 上 げ 法 に よ る F E D 基 板 の 平 面 図 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-1 に 示 す 。 ま た 三 極 構 造 の 作 成 プ ロ セ ス を 図 1-4-1-2 に 基 づ き 説 明 す る 。 工 程 は 以 下 に 分 類 さ れ る 。 ( 1) カ ソ ー ド 電 極 形 成 ITO電極成膜、パターニング ( 2) 下 層 誘 電 体 形 成 スクリーン印刷、パターニング、焼結 ( 3) C N T 膜 形 成 スクリーン印刷、表面研磨、焼成 ( 4) 絶 縁 層 形 成 PPSQ膜成膜、熱処理 ( 5) ゲ ー ト 電 極 形 成 純ALスパッタ成膜、パターニング ( 6) 絶 縁 層 微 細 孔 加 工 PPSQドライエッチング ( 7) 表 面 処 理 カソード電極成膜(ITO) パターニング 写真製版 下層誘電体印刷 ゲート電極WETエッチ パターニング、焼成 CNT印刷、研磨 PPSQエッチング CNT焼成 PPSQ成膜、熱処理 表面処理、ポスト処理 ゲート電極成膜(AL) 図 Ⅲ -2-2-1-4-2 パネル化工程へ 積み上げ法によるカソード基板作成フロー概念図 CNT膜平坦化検討 169 使 用 し た 基 板 は 2.8mm 厚 の 高 歪 点 ガ ラ ス で あ る 。 I T O に よ る カ ソ ー ド 電 極 パ ターンを形成後、CNTカソードを形成する。 積み上げ法による場合、絶縁層形成のためにCNT表面には高い平坦度が要求さ れる。そこで、CNT表面平坦化法を検討した。ITOパターンを形成した基板上に スクリーン印刷法を用いて下層誘電体層を形成する。下層誘電体材料には感光性ペー ストを用いており、露光現像工程を経てCNT画素に相当する部分を開口する。その 後、焼成工程を経ることで感光性ペースト中の樹脂成分等を焼き飛ばし、稠密な誘電 体膜となるよう焼結させる。そのあと画素領域全面にCNT含有ペーストをスクリー ン印刷し、乾燥後、CNT電子源作製用研磨装置を用いて表面研磨を実施する。CN T表面から徐々に研磨していき下層誘電体表面が削りだされた時点で研磨を停止する ことで、下層誘電体の開口部のみにCNTペーストが埋め込まれた形状を形成するこ とができる。この方法によるCNT/下層誘電体境界付近の表面形状測定結果を図Ⅲ2-2-1-4-3 に 示 す 。 C N T / 下 層 誘 電 体 段 差 は 0.24μ m で あ り 、 段 差 の 少 な い C N T 膜 を 得 る こ と が 可 能 と な っ た 。 さ ら に 研 磨 テ ー プ の 番 手 を 適 正 化 す る こ と で 、 図 Ⅲ -2-2-14-4 に 示 す よ う に C N T 表 面 粗 さ Ra が 0.04µm と な る ま で 平 坦 化 す る こ と が で き た 。 R a の 表 示 領 域 内 分 布 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-5 に 示 す が 、 面 内 全 域 に わ た り R a は 0.05μ m を 下 回 り、一様に平坦化されていることがわかった。これにより、上部に均一な絶縁層膜を 形成することが可能となった。 CNT/下層誘電体段差=0.24um Ra=0.042um 観察領域 下層誘電体 CNT膜 CNT領域 下層誘電体 下層誘電体膜 (a)CNT膜の光学顕微 図 Ⅲ -2-2-1-4-3 (b)表面粗さ観測結果 研磨処理後の表面形状測定結果 170 0.5 表面粗さRa(μm) 0.4 0.3 0.2 0.1 0 研磨処理(#2000) 研磨処理(#1000) 研磨なし 図 Ⅲ -2-2-1-4-4 研 磨 処 理 に よ る C N T 表 面 粗 さ Ra の 改 善 60 CNT表面粗度Ra(nm) 50 平均 Ra=42.9nm 40 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 測定箇所 20 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 画素領域内測定箇所 図 Ⅲ -2-2-1-4-5 表示領域内 9 点におけるCNT表面粗さRaの分布 Ph 絶縁層形成 以上の工程で得られた平坦面上に絶縁 HO O O 膜を形成する。絶縁膜としては絶縁耐力、 耐熱性、加工性、大面積の成膜特性に優れ、 Si Ph HO Si Si O Ph 図 Ⅲ -2-2-1-4-6 171 H O Si 真空中でのガス放出量の小さいPPSQ ( Polyphenylsilsesquioxane) を 採 用 し た 。 O O n H Ph PPSQ の 分 子 構 造 PPSQは側鎖に有機基であるフェニル基を持ち、主鎖に無機系のシロキサン骨 格(-O-Si-O-)を梯子状に有する無機高分子材料、いわゆるシリコーンラ ダ ー ポ リ マ ー の 一 種 で あ る ( 図 Ⅲ -2-2-1-4-6)。 特 に P P S Q は 厚 膜 形 成 が 可 能 で 、 熱 分 解 開 始 温 度 が 500℃ と 高 い 、 脱 ガ ス 性 が 低 い と い う 特 性 か ら 、 400℃ 前 後 の 高 温 の 封 着 工程および真空封止が必須なFEDの絶縁層として最適である。以下ではマイクロス プ レ イ 精 密 塗 布 装 置 ( ノ ー ド ソ ン 製 ) で 、 10 イ ン チ 基 板 へ 平 坦 性 の 高 い P P S Q 膜 形 成技術の開発結果を述べる。マイクロスプレイ精密塗布装置は塗布ガンがXYZの直 交精密三軸ロボットにより、プログラムで設定された領域をスキャンするシステムで ある。この装置により、溶液を微粒化できる特殊なノズルを有する塗布ガンを用いて、 基 板 上 に 成 膜 す る 。 溶 液 と し て は PPSQ ワ ニ ス に 高 沸 点 溶 媒 で あ る ベ ラ ト ロ ー ル を 添 加 す る こ と に 特 徴 が あ る 。 高 沸 点 溶 媒 を 使 用 し な い 場 合 は 図 Ⅲ -2-2-1-4-7( a) に 示 す よ う に 膜 厚 不 均 一 と な る が 、 高 沸 点 溶 媒 を 用 い た 場 合 に は ( b) に 示 す よ う に 塗 布 均 一 性 の 高い透明膜を再現よく得られることがわかった。また塗布のスキャンプログラムの変 更で膜厚の制御も可能であることがわかった。成膜後はホットプレート上で比較的低 温 ( 75℃ ) で ゆ っ く り 仮 乾 燥 さ せ た 後 、 窒 素 気 流 下 で 350℃ ま で 昇 温 さ せ 、 そ の 温 度 で 2 時間保持し、室温近くまで除冷する。 172 (a) 低沸点溶媒使用時 図 Ⅲ -2-2-1-4-7 (b) 高沸点溶媒使用時 PPSQの溶媒の違いと成膜後の膜表面状態 図 Ⅲ -2-2-1-4--8 に 10 イ ン チ 基 板 ( 300mm×400mm) に 成 膜 し た 場 合 の 膜 厚 分 布 を 示 す 。 平 均 膜 厚 10.4μ m に 対 し 、 面 内 均 一 性 は 0.9% と 、 良 好 な 結 果 を 得 た 。 微細孔形成 上記の方法で成膜、熱処理したPPSQ膜の上にゲート電極として純ALをス パ ッ タ 成 膜 す る 。 使 用 し た 装 置 は ア ル バ ッ ク 製 S I H - 3030 で あ り 、 AL 膜 厚 は 500nm ~ 1000nm で あ る 。 そ の 後 、 写 真 製 版 技 術 と A L の ウ エ ッ ト エ ッ チ ン グ を 用 い て 、 ゲ ー ト電極配線および配線内の微細孔形状をパターニングする。 ALパターニング後に、微細エミッタ加工装置(サムコインターナショナル研究 所 製 、 R I E - 4800N ) を 用 い て 、 絶 縁 層 の 微 細 孔 加 工 を 実 施 し た 。 こ の 装 置 は 平 行 平 板 型 リ ア ク テ ィ ブ イ オ ン エ ッ チ ン グ 装 置 で 、 反 応 室 は 640mmφ で あ り 、 300×400 基 板 が設置できる。下部電極にはスパッタ保護用の石英シートが設置されており、その上 にワークを設置する。標準的なエッチング条件としては、エッチングガスとしてCF 4 + O 2 = 75+ 50( sccm) の 混 合 ガ ス を 使 用 し た 。 12 10 膜厚(um) 8 6 4 平均 σ σ/平均 2 10.40 0.09 0.9% 0 0 50 100 150 200 250 300 測定位置(mm) 図 Ⅲ -2-2-1-4-8 マイクロスプレイ精密塗布装置による絶縁層膜厚分布 173 0.7 横レー ト/縦レー ト 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 50 100 150 圧力(Pa) 図 Ⅲ -2-2-1-4-9 ドライエッチングのレート縦横比とエッチング槽内圧力の関係 処理開始直後はレジストパターンをエッチングマスクとして使用するが、レジス ト自身が上記エッチング条件でエッチングされるため、レジストがエッチングされて しまった後は、ALパターンをエッチングマスクとしてPPSQがエッチングされる。 この場合エッチングパターンの微細化を図るには、エッチングレートの縦横比を向上 させる(すなわち縦方向のレートに対して、横方向のレートを低く抑える)ことが必 要 で あ る 。 エ ッ チ ン グ 条 件 検 討 の 結 果 、 図 Ⅲ -2-2-1-4-9 に 示 す よ う に エ ッ チ ン グ 槽 内 圧 力 を 低 く す る と 、 縦 横 比 が 向 上 す る こ と が 判 明 し た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-10 に は 、 槽 内 圧 力 が 2P a の 場 合 と 、 100P a の 場 合 の エ ッ チ ン グ 結 果 の 断 面 S E M 像 を 示 す 。 2P a で 実 施 し た 場 合 、 P P S Q 膜 の エ ッ チ ン グ は 縦 方 向 に は 7μ m 程 度 進 行 し て い る が 、 横 方 向 に は ほ と ん ど 進 行 し て い な い 。 す な わ ち AL 電 極 パ タ ー ン と 同 一 形 状 の 微 細 孔 が 形 成 で き て い る 。 一 方 100P a で 実 施 し た も の は 、 エ ッ チ ン グ が 基 板 面 ま で 到 達 し た 時 点 で 横 方向にも縦方向と同量だけエッチングが進行し、隣接画素との隔壁が過度にせばまっ ている。このような違いは、槽内の反応ガス種が異なるために発現する。すなわち槽 内圧力が低い場合はプラズマ中のイオン寿命が長くなるためイオン主体のイオンエッ チングモードとなり異方性が高くなる。一方槽内圧力が高い場合はイオン寿命が短く なり、ラジカル主体のプラズマエッチングモードとなり等方的となる。 (a) 2Pa 図 Ⅲ -2-2-1-4-10 (b) 100Pa ドライエッチングのレート縦横比とエッチング槽内圧力の関係 174 隔壁が狭まった構造では、後の表面処理工程のレーザ照射時に問題が生ずる。すな わちひさし状のゲート電極にレーザが照射された場合に変形が生ずる。したがって エッチングレートの縦横比が良好な、低圧でのエッチングが望ましい。 以上はエッチング加工形状に留意した場合の結果であるが、以下はCNT面への 影響を検討した結果を示す。実際に積み上げ方式で三極構造を作成する場合はPPS Q膜の下部にはCNT膜が存在するため、エッチング加工がCNTへもたらす影響を 検 討 す る 必 要 が あ る 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-11 は 、 基 板 上 に C N T 単 膜 を 成 膜 し た も の と 、 2P a お よ び 100P a の エ ッ チ ン グ 条 件 下 に 曝 露 さ せ た も の の S E M 像 で あ る 。 100P a の も の は 、 C N T の 絡 ま る 様 子 が 確 認 で き 、 エ ッ チ ン グ 前 の 表 面 形 状 に 近 い が 、 2P a の ものは、CNTは細分化され、表面に堆積物が観察できる。この堆積物の元素分析を し た 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-12 に 示 す 。( a) は エ ッ チ ン グ 処 理 前 、( b) は 2 P a で エ ッ チ ン グ 処 理 し た も の で あ る 。( b ) で は C N T 由 来 の 炭 素 以 外 に 、 フ ッ 素 ピ ー ク が 見 ら れ る。これはエッチングガス(CF 4 )に起因する生成物がCNT表面に堆積しているこ と を 示 し て い る 。 以 上 の 結 果 か ら 、 C N T が 露 出 す る 部 分 で は 、 100P a 付 近 の 高 圧 で のエッチング条件が必要であることがわかった。これらの結果を、CNTのエミッ シ ョ ン 能 力 の 観 点 で 評 価 し た 結 果 が 図 Ⅲ -2-2-1-4-13 で あ る 。 2P a の エ ッ チ ン グ 条 件 に 曝露されたCNTはターンオン電界強度(電子放出させるために必要な最低電界)が 5V/ μ mを 上 回 っ て い る の に 対 し て 、 100P a の エ ッ チ ン グ 条 件 の も の は エ ッ チ ン グ 処 理 を 実 施 し な い も の と 同 じ 2V/ μ mを 維 持 で き て い る 。 エッチング前 エッチング後 2Pa エッチング後 100Pa 図 Ⅲ -2-2-1-4-11 エッチング処理後のCNT表面 形状と槽内圧力の関係 175 x 104 x 10 4 4 Count Rate (count / sec) Count Rate (count / sec) (b) C (a) 3 O 2 C O 1 0 4 1000 500 Binding Energy (eV) 0 3 F 2 C F O O 1 0 1000 500 0 Binding Energy (eV) (a) RIE (a)befire before 図 Ⅲ -2-2-1-4-12 C (b) after RIE (2Pa) 低圧エッチングによるCNT表面堆積物の元素分析 以上のように、エッチング加工形状の改善とCNTへの影響低減を両立させる為 に、2 段階エッチングの手法をとった。すなわちCNTが露出するまでは比較的低圧で エッチングを実施し、CNTが露出する直前からは比較的高圧でのエッチングに条件 切り替えするものである。 2 段階エッチングに際して、前段と後段の条件切り替えの時期は、エッチング状態 を逐次観測しながら精度よく判断する必要がある。エッチング槽内状態、絶縁層膜厚 分布に起因して切り替え時期が異なってくるためである。エッチング状態の観測手段 と し て プ ラ ズ マ プ ロ セ ス モ ニ タ ( サ ム コ イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル 研 究 所 製 、 C 7460) を 使 用した。この装置は、エッチング時のプラズマ発光のスペクトルを解析してエッチン グ状態を逐次観測できるもので、プログラムをあらかじめ設定しておくことで、エッ チ ン グ 装 置 に 対 し て 次 ス テ ッ プ へ 移 る よ う 命 令 を 発 す る こ と が 可 能 で あ る 。 図 Ⅲ -2-2-14-14 に 2 段 階 エ ッ チ ン グ し た も の の 微 細 孔 付 近 の 断 面 S E M 写 真 を 示 す 。 ブ リ ッ ジ 部 の細りが改善されていることが確認できる。 ターンオン電界強度(V/μm) 後段エッチングの停止時期もプラズマプロセスモニタを使用して検知した。後段 6 5 4 3 2 1 0 RIEなし 2Pa 100Pa RIE条件 図 Ⅲ -2-2-1-4-13 図 Ⅲ -2-2-1-4-14 エッチング条件とターン オン電界強度 176 2 段階エッチ ングによる微細孔加工形状 エッチングの終了は、CNT膜上すべてにおいてPPSQを残存させないことが必要 であるため、エッチング超過時間を設定する必要がある。その場合、早くエッチング が終了する領域ではCNT膜がプラズマに曝露されることになる。しかし前述したよう に 後 段 エ ッ チ ン グ は 槽 内 圧 力 100P a で 実 施 し て い る た め 、 2 分 の 超 過 時 間 で も C N T へ の ダ メ ー ジ は 発 生 し な い こ と が 確 認 で き て い る 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-15 は C N T に 対 し て 10 0P a の プ ラ ズ マ を 照 射 し た 場 合 の タ ー ン オ ン 電 界 強 度 の 劣 化 を 、 ド ラ イ エ ッ チ ン グ 時間を変化させて評価した結果である。3 分まではターンオン電界強度に大きな劣化が ないことがわかる。 以 上 の 手 順 で PPSQ エ ッ チ ン グ す る こ と で 良 好 な 微 細 孔 形 状 を 実 現 し つ つ C N T 表 面 への損傷を抑制することができた。 以 上 の 工 程 を 経 て 、 10 イ ン チ カ ソ ー ド 基 板 を 作 成 し た 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-16 に 示 す 。 エミッション特性ばらつきに影響するゲート開口バラツキと絶縁層膜厚バラツキはい ずれも1%を下回り、良好な結果を得た。 4 ターンオン電界強度( V/ μm) 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 2 4 6 8 10 ドライエッチン グ時間(100Pa) (min) 図 Ⅲ -2-2-1-4-15 100P a で の エ ッ チ ン グ 時 間 と タ ー ン オ ン 電 界 強 度 の 関 係 σ/平均 ゲート開口バラツキ 0.4% 絶縁層膜厚バラツキ 0.9% 図 Ⅲ -2-2-1-4-16 微細孔形成後のカソード基板写真 177 表面処理およびエージング処理 以上述べたような積み上げ方式により微細孔中に均一にCNT膜を形成する技術 を 開 発 す る と と も に 、 開 発 項 目 ① -3 で 開 発 さ れ た C N T 膜 の 表 面 処 理 技 術 を 組 み 合 わ せ る こ と で 、 図 Ⅲ -2-2-1-4-17 に 示 さ れ る よ う な 電 子 源 を 作 製 す る こ と が で き た 。 図 は 、 1 サブピクセル分の電子源の断面を斜めから観察した写真とCNT膜部分の断面を観察 した結果を示している。図に示すように、ガラス基板上に形成された微細孔中にCN T膜が形成されており、表面処理を施すことでCNTが起毛構造を形成していること が 分 か る 。 更 に 、 C N T 膜 の 断 面 観 察 の 結 果 か ら 、 電 子 放 出 箇 所 と な る 高 さ 1μ m以 上 の C N T の 起 毛 が 1μ m 以 下 の ピ ッ チ ( 密 度 で 1 個 /μ m 2 以 上 ) で 形 成 さ れ て い る こ と がわかる。微細孔中でCNT膜が露出している領域の面積は、サブピクセルあたり 10,000μ m 2 で あ る こ と か ら 、 形 成 さ れ た 電 子 放 出 箇 所 の 数 は 約 10,000 個 と な る こ と が 分かる。 1μm 引出電極 CNT膜 1μm 絶縁膜(PPSQ) ガラス基板 図 Ⅲ -2-2-1-4-17 ガ ラ ス 基 板 上 に 形 成 さ れ た C N T 電 子 源 の SEM 写 真 ま た 、 図 Ⅲ -2-2-1-4-18 に 表 面 処 理 お よ び エ ー ジ ン グ 処 理 に よ る 発 光 状 態 の 変 化 を 示 す 。 表 面 処 理 に よ り 、 高 さ 1μ m 以 上 の C N T の 起 毛 が 形 成 さ れ る こ と に よ り 、 表 面 処 理 前 に お い て は 2m m 角 の 領 域 で 数 点 の 発 光 し か 得 ら れ て い な い が 、 表 面 処 理 を 施 す こ と で 2m m 角 領 域 全 面 に 渡 り 発 光 が 観 察 さ れ る よ う に な る 。 更 に エ ー ジ ン グ 処 理 を 行 う こ と で 発 光 均 一 性 が 改 善 さ れ 2m m 角 領 域 全 体 に 渡 り 均 一 に 発 光 す る よ う に な っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-19 に エ ー ジ ン グ 処 理 後 の 発 光 の 輝 度 分 布 を 測 定 し た 結 果 に つ い て 示 す 。 輝 度 の 分 布 の 測 定 は 、 実 際 に は 20μ m 角 領 域 ご と に 行 っ た が 、 図 は 1 サ ブ ピ ク セ ル サ イ ズに換算した結果として示している。図に示されるようにエージング後の輝度のバラ ツ キ は 平 均 輝 度 を 1 と し た 場 合 に 標 準 偏 差 は 1.8% と な り 、 達 成 目 標 で あ る 画 素 間 の 電 子 放 出 特 性 差 2% 以 下 を 達 成 で き て い る こ と が 分 か る 。 この様に、表面処理およびエージング処理により発光均一性が大きく改善されたが、 そ の 効 果 を 信 頼 性 試 験 装 置 ( Omicron 社 製 P E E M ; Photo-emission Electron 178 Microscopy) で 評 価 し た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-20 は 表 面 処 理 前 後 お よ び エ ー ジ ン グ 処 理 後 の CNT表面のPEEM像である。 エージング後 2mm 900 800 700 σ=1.8% 個数 600 表面処理前 表面処理後 エージング後 500 400 300 200 1.08 1.06 1.04 1.02 1 0.98 0.96 0.94 0.92 0 0.9 100 輝度(平均を1とした相対値) 図 Ⅲ -2-2-1-4-18 輝度分布 処理による 発光状態変化 表面処理前 図 Ⅲ -2-2-1-4-19 発光輝度の分布 表面処理後 エージング 処理後 図 Ⅲ -2-2-1-4-20 表 面 処 理 前 後 お よ び エ ー ジ ン グ 処 理 後 の CNT 表 面 の PEEM 像 PEEMにおいては、仕事関数が低く、電子放出がしやすい領域が明るい輝点とし て現れる。表面処理前は輝点数が少なく、表面処理後も輝点数が増加しPEEM強度 は強くなっているが、暗部もかなりの領域を占めている。一方、エージング処理を実 179 施したものは暗部が減少し、一様性が向上している。 図 Ⅲ -2-2-1-4-21 で は こ れ ら の 輝 度 分 布 の 度 数 分 布 を 占 め す 。 最 大 度 数 を 1 に 規 格 化 しているが、エージング後は高輝度側の分布が中央に移動し、極端に輝度の高い点が 減少しており、エージングの効果が確認できる。 1.2 after peeling エージング処理前 after aging エージング処理後 counts (Normalized) 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 50 図 Ⅲ -2-2-1-4-21 100 150 Intensity 200 250 300 エージング処理前後のCNT表面のPEEM強度の度数分布 1.4 1.2 σ/平均 =5.6% 輝度(相対値) 1 輝度測定領域 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 100 200 300 400 時間(sec) 500 600 700 パネルの輝度の時間変化 図 Ⅲ -2-2-1-4-22 輝度の時間的な揺らぎの測定 電子放出の時間的な揺らぎ FEDの画質に影響を与える電子放出の時間的な揺らぎを輝度の揺らぎとして測 定 し た 際 の 測 定 系 の 概 略 図 と 測 定 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-22 に 示 す 。 輝 度 の 揺 ら ぎ は 、 1.5 イ ン チ パ ネ ル に 対 し 、 図 中 に 示 さ れ る よ う な 1 画 素 の 領 域 の 輝 度 の 時 間 変 化 を 約 11 分 測定することで求めた。図に示されるように輝度は時間的に変動しているが、輝度の 時 間 平 均 を 1 と し た 場 合 に 輝 度 の 揺 ら ぎ は 標 準 偏 差 で 5.6% と な っ て お り 、 目 標 と し て い た 電 子 放 出 の 時 間 的 揺 ら ぎ を 10% 程 度 に 抑 制 で き る 三 極 構 造 電 子 源 が 実 現 さ れ て い ることが分かる。 180 電子源の駆動特性 図 Ⅲ -2-2-1-4-23 に 作 製 し た 三 極 構 造 電 子 源 の 電 子 放 出 特 性 の 1 ド ッ ト 当 た り の 平 均 を 示 す 。 今 回 試 作 し た 電 子 源 に お い て は 、 1 ド ッ ト 当 た り の 放 出 が 1μ A の 時 に 想 定 し て い る 発 光 輝 度 が 得 ら れ る よ う な 設 計 と な っ て い る 。 こ の 1μ A を 定 格 電 流 と し 、 コ ン ト ラ ス ト 1/10,000 と し た 場 合 の 電 流 値 0.0001μ A(0.1n A)を 電 子 放 出 開 始 電 流 と 定 義 し、これらの電流を放出する引出電極電圧をそれぞれ定格電流放出電圧、電子放出開 始 電 圧 と し た 。 図 に 示 さ れ る よ う に 電 子 放 出 開 始 電 圧 は 38V、 定 格 電 流 放 出 電 圧 は 78V と な っ て お り 、 両 者 の 差 で あ る 駆 動 電 圧 は 40V で あ り 、 目 標 と し て い た 現 行 の PDP の 駆 動 IC で 駆 動 可 能 で あ る 電 圧 80V 以 下 を 実 現 で き て い る こ と が 分 か る 。 ドットあたりの放出電流(uA) 10 1 定格電流 0.1 0.01 0.001 駆動電圧40V 0.0001 0.00001 0 電子放出開始 (定格に対し1/10000の電流値) 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 引出電極電圧(V) 図 Ⅲ -2-2-1-4-23 三極構造電子源の電子放出特性 電子放出の経時変化 一般に、CNTを含めた電界放出型電子源の寿命特性は、パネル内の真空度に大き く影響され、真空度が悪いほど寿命特性は劣化する。 そこでCNTからの電子放出特性に対する真空中の残留ガスの影響を調べるため、 追加改造され微量のガス導入が可能になった二次元電子放出特性評価装置と、表面処 理 を 行 っ た 2mm 角 C N T 膜 を 用 い て 、 ガ ス 雰 囲 気 中 測 定 評 価 を 行 っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-24( a) に 高 真 空 中 (4.1×10 - 8 Pa)、( b) に 1×10 - 6 Paま で 、( c) に 1.2× 10 - 4 Paま で O 2 を 導 入 し た も の の エ ミ ッ シ ョ ン 分 布 を 示 す 。 印 加 電 圧 は 一 定 と し て お り 、 こ の と き 放 出 電 流 量 は 高 真 空 中 の 170μ Aに 対 し て 、 60μ A(1×10 - 6 Pa)、 40μ A(1.2×10 4 Pa)と な り 、 ガ ス 導 入 に 伴 い 減 少 し て い る こ と が 分 か る 。 し か し な が ら 、( a)、( b) よ り 高 真 空 か ら 1×10 - 6 Paま で ガ ス 導 入 し た と き に 、 電 子 放 出 点 数 は ほ ぼ 変 わ ら ず 、 ま た 、 飛びぬけて多く電子放出してしまう点の電流量がその他の点の電流量に近づき、均一 性が向上していることが分かる。これは放出電子量のイオン化した導入ガス分子が特 に電子放出しやすいCNTに衝突することにより、CNTの先端形状の変化や吸着物 質 の 脱 離 な ど に よ り 、 電 子 放 出 特 性 が 変 化 し て い る た め で あ る 。 し か し 、 1.2×10 - 4 Pa ま で 導 入 す る と ( c) エ ミ ッ シ ョ ン 分 布 で 示 さ れ る よ う に 電 子 放 出 点 数 が 大 幅 に 減 少 し 181 ていることが分かる。これは、ガス分子が多いために、上に述べたイオン化ガスの衝 (a)O2導入なし(4.1x10-8Pa) (b)O2導入(1.0x10-6Pa) (c)O2導入(1.2x10-4Pa) 図 Ⅲ -2-2-1-4-24 酸素導入による電子放出分布の変化 突 が 、 そ の 必 要 の 無 い CNTに ま で 起 こ っ て い る こ と を 示 し て い る 。 こ れ ら の 結 果 よ り 、 電 子 放 出 を す る 際 の 真 空 度 は 10 - 5 Pa以 下 に 保 つ 必 要 が あ る こ と が 判 明 し た 。 次 に 、 パ ネ ル 内 部 を 真 空 に 封 止 し た 1.5 イ ン チ パ ネ ル に お け る 寿 命 特 性 を 図 1-4-125 に 示 す 。 経 時 変 化 の 測 定 は 、 デ ュ ー テ ィ ー 1/ 64 と 実 デ バ イ ス で の デ ュ ー テ ィ ー 1 / 768 の 約 12 倍 の 加 速 試 験 で 実 施 し た 。 図 の 横 軸 は 、 こ の 加 速 条 件 を 考 慮 し 実 デ バ イ ス を想定した際の換算動作時間で示している。図に示されるように、アノード電流は時 間 の 経 過 と と も に 減 少 す る が 、 10,000 時 間 経 過 後 に お い て も 初 期 値 の 70% を 保 っ て い ることが分かる。また、先に述べたガス導入による放出電流の劣化比較試験および真 空 度 と 放 出 電 流 の 劣 化 の 関 係 の 試 験 よ り 、 図 に 示 し た よ う な 10,000 時 間 で 初 期 比 70% 以上の放出電流を維持するためには、排気工程で電子源およびパネル構成部材からの 十分なガス出しを行うとともに、真空封止後に放出されるガスをゲッタにより吸着す る こ と で パ ネ ル 内 の 真 空 度 を 10 - 5 Pa台 以 下 に 保 つ こ と が 必 要 で あ る 。 アノード電流(相対値) 1 0.8 0.7 0.6 0.4 0.2 0 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 20000 換算動作時間(時間) 図 Ⅲ -2-2-1-4-25 三極構造電子源の電子放出の経時変化 182 10 イ ン チ 電 子 源 試 作 に お い て 新 た に 明 ら か と な っ た 課 題 こ こ で は 、 10 イ ン チ 電 子 源 の 試 作 を 行 う 上 で 新 た な 課 題 と し て 出 て き た C N T カ ソ ー ド の 電 子 放 出 特 性 以 外 の 特 性 の ば ら つ き に つ い て 述 べ る 。 10 イ ン チ 電 子 源 試 作 に おいては、面積が大きいことから試作ロット毎にCNTカソードを形成するために使 用 す る CNT ペ ー ス ト の ロ ッ ト が 変 更 さ れ て い た 。 こ の CNT ペ ー ス ト の ロ ッ ト に よ り C NTカソードの特性が大きくばらついていることが分かった。 図 Ⅲ -2-2-1-4-26 に ペ ー ス ト ロ ッ ト の 異 な る CNT カ ソ ー ド の 焼 成 後 の 顕 微 鏡 写 真 を 示 す 。 焼 成 は 470℃ の 大 気 中 で 実 施 し て い る 。 こ の 焼 成 条 件 は 1.5 イ ン チ 電 子 源 を 試 作 す る上で決定された条件である。図に示されるように、カソード A においては、焼成後 に お い て も カ ソ ー ド 表 面 が 黒 く CNT が 十 分 に 残 っ て い る が 、 カ ソ ー ド B に お い て は 、 焼 成 後 の カ ソ ー ド 表 面 は 褐 色 に な っ て お り 焼 成 に よ り CNT の 多 く が 焼 失 し て し ま っ て いる。 こ れ ら の 2 種 類 の カ ソ ー ド の 電 子 放 出 特 性 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-27 に 示 す 。 図 に 示 さ れ る よ う に 焼 成 後 に お い て も 十 分 に CNT が 残 存 し て い る カ ソ ー ド A に お い て は 、 タ ー ン オ ン 電 界 強 度 が 1.8V/μ m で あ る の に 対 し 、 CNT の 多 く が 焼 失 し て い る カ ソ ー ド B に お い て は タ ー ン オ ン 電 界 強 度 が 2.5V/μ m と 高 い こ と 、 3V/μ m に お け る 放 出 電 流 密 度 も カ ソード A と比較してカソード B では 2 桁程度小さいことが分かる こ の 様 な CNT カ ソ ー ド 中 の CNT の 燃 焼 特 性 の 詳 細 を 調 べ る た め に 、 こ れ ら の カ ソ ー ド の 熱 重 量 変 化 測 定 ( TG) を 行 っ た 結 果 を 図 Ⅲ -2-2 - 1-4-28 に 示 す 。 図 に 示 す よ う に カ ソード A とカソード B では重量変化を示す曲線に明確な相違があり、図中に示すよう に 時 差 熱 測 定 ( DTA) に よ っ て 求 め た カ ソ ー ド 中 の CNT の 燃 焼 開 始 温 度 が 、 カ ソ ー ド A で は 500℃ で あ る の に 対 し 、 カ ソ ー ド B で は 450℃ と 50℃ も 大 き く 異 な っ て い る こ と が 分 か る 。 こ の 結 果 か ら も カ ソ ー ド B を 470℃ で 焼 成 す る と CNT が 焼 失 し て し ま う こ と が 分かる。 カソードA 図 Ⅲ -2-2-1-4-26 カソードB 1mm CNTカソード焼成後の状態のカソードロットによる相違 183 10 放出電流密度(mA/cm2) カソードA カソードB 1 0.1 0.01 0.001 0 1 重量(% ) 図 Ⅲ -2-2-1-4-27 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2 3 電界(V/μm) 4 5 カソードロットによる電子放出特性の相違 カソードA カソードB 燃焼開始温度差50℃ カソードA 燃焼開始温度500℃ カソードB 燃焼開始温度450℃ 100 200 300 400 500 600 温度(℃) 図 Ⅲ -2-2-1-4-28 カソードロットによる燃焼特性の相違 両者のカソードの耐熱性の大きな相違を調べた結果、それぞれのカソードに使用し た C N T ペ ー ス ト に 含 ま れ る C N T 自 体 の 製 造 ロ ッ ト が 異 な っ て い る こ と 、 CNT の 製 造 ロ ッ ト に よ り 表 Ⅲ -2-2-1-4-1 に 示 さ れ る よ う に 、 C N T 自 体 の 耐 熱 性 が 大 き く 異 な っ て おり、耐熱性の悪いカソード B に使用したCNTの燃焼開始温度、燃焼ピーク温度と も に カ ソ ー ド A で 使 用 し た C N T よ り 25℃ 程 度 低 い こ と が 分 か っ た 。 この結果は、現状ではCNT自体の製造ロットが変化した場合にCNTカソードの 燃焼特性が大きく変化することを示しており、CNT自体の製造ロット間のバラツキ を無くすことが必要である。 184 表 Ⅲ -2-2-1-4-1 CNTの製造ロットによる燃焼特性の相違 TG DTA CNTカソード CNTロット 燃焼開始 5%減耗温 95%減耗 燃焼終了 ピーク温 温度(℃) 度(℃) 温度(℃) 温度(℃) 度(℃) 465 486 572 581 560 カソードA CNTロットA 439 459 550 584 533 カソードB CNTロットB 残渣 (wt.%) 4.9 8.7 また、同一ロットのCNTを用いた場合においても、CNTカソードロット間の密 着 性 に バ ラ ツ キ が 発 生 し 、 密 着 性 の 相 違 に 起 因 す る 10 イ ン チ 電 子 源 に お け る 引 出 電 極 とCNTカソード間のショート発生に差が生じた。 図 Ⅲ -2-2-1-4-29 に 同 一 製 造 ロ ッ ト の C N T を 用 い て ペ ー ス ト 化 を 行 っ た が 、 ペ ー ス ト 製 造 ロ ッ ト の 異 な る カ ソ ー ド A と カ ソ ー ド C を 用 い て 試 作 し た 10 イ ン チ 電 子 源 に おける引出電極とCNTカソード間のショートの発生数を比較した結果を示す。カ ソードAを用いた場合には、ショート箇所が最も多い電子源においても 3 箇所である の に 対 し 、 カ ソ ー ド C を 用 い た 場 合 に は 、 シ ョ ー ト 箇 所 が 30 箇 所 以 上 発 生 し て お り 、 更 に シ ョ ー ト 発 生 数 の バ ラ ツ キ が 大 き く 、 シ ョ ー ト 数 が 3 箇 所 以 下 と 少 な い も の と 20 箇所以上と多いものに分布が分かれた。 4 カソードA カソードC 頻度 3 2 1 31~40 21~30 11~20 6~10 5 4 3 2 1 0 0 ショート箇所数 図 Ⅲ -2-2-1-4-29 カソードロットによるショート発生の相 両者のショート発生状態の相違について調べるために、CNTカソードの密着性の 相 違 を テ ー プ 剥 離 試 験 で 調 べ た 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-30 に 示 す 。 図 に 示 さ れ る よ う に カ ソード A においては、テープ剥離試験後においてもCNT膜は均一に残っているが、 カソード C においては、剥離状態が不均一で場所によってはCNT膜がほぼ剥離して し ま い 基 板 が 露 出 し て し ま う よ う な 状 況 に な っ て い る 。 こ れ ら の カ ソ ー ド の TG 曲 線 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-31 に 示 す が 、 両 者 の T G 曲 線 に 大 き な 相 違 が 見 ら れ ず 両 者 の 耐 熱 性 に は 大きな相違は見られないことが分かる。この様にCNTの製造ロットが同一で、カ 185 ソード耐熱性が同様の特性を示している場合においても、ペーストの製造ロットによ り C N T カ ソ ー ド の 密 着 性 に 相 違 が 発 生 し 、 10 イ ン チ 電 子 源 に お け る 引 出 電 極 と C N Tカソード間のショート発生の状況が大きく変化した。 カソードC カソードA 重量 (% ) 図 Ⅲ -2-2-1-4-30 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 カソードロットによる密着性の相違 カソードA カソードC 100 200 300 400 500 600 温度(℃) 図 Ⅲ -2-2-1-4-31 カソードAとカソードBのTG曲線 以上述べたように、現状ではCNT製造ロットおよびペースト化ロットによりCN Tカソードの耐熱性および密着性に大きなバラツキが発生しており、安定した電子源 の試作を行うためには、これらの問題を解決する必要がある。 (4)まとめ 以上の開発を行った結果以下の結果が得られた。 ( a) 無 機 高 分 子 系 絶 縁 膜 を 用 い た 積 み 上 げ 方 式 の 電 子 源 形 成 方 法 を 用 い る こ と で 、 微 細 孔 中 に C N T 膜 を 形 成 す る こ と が で き た 。 そ の 結 果 1 ド ッ ト あ た り の 定 格 電 流 1μ A に 対 す る 駆 動 電 圧 40V の 低 電 圧 駆 動 を 達 成 し た 。 ( b) 表 面 処 理 と エ ー ジ ン グ 処 理 を 行 う こ と で 発 光 均 一 性 を 改 善 し 、 画 素 間 の 電 子 放 出 特 性 差 1.8% を 達 成 し た 。 186 ( c ) パ ネ ル 内 の 高 真 空 化 を 実 現 す る こ と で 、 電 子 放 出 の 時 間 的 揺 ら ぎ 5.6 % 、 10,000 時 間 経 過 後 の 電 子 放 出 の 初 期 比 70% の 安 定 駆 動 を 実 現 し た 。 187 2-2-1-4-2 「①-4-2 微細孔中の低温CVD-CNT成長技術の開 発」 大阪府立大学 (1)目標 低 温 プ ロ セ ス ( 550℃ 以 下 ) で 高 品 質 配 向 C N T を 微 細 孔 中 に 作 製 す る 。 ま た 、 C NT合成プロセスと後処理を最適化することにより、CNTの電界放出における安定 性と均一性を狙う。下記の電界放出目標を達成する 1) 画 素 間 の 空 間 的 な 輝 度 ば ら つ き を 2% 以 内 に す る 。 2) 一 画 素 の 時 間 的 な 輝 度 揺 ら ぎ を 5% 以 内 に す る 。 (2)内容 目標を達成するため、下記の内容で研究開発を行った。 1 高品質CNTの低温合成 1-1 CNTの低温合成の要素技術の探索 1-1-1 合 成 シ ス テ ム の 構 築 −予 熱 効 果 と 炭 化 処 理 効 果 1-1-2 二元と多元触媒の選定 1-1-3 触媒の最適化条件 1-1-4 CVD 条 件 の 最 適 化 1-2 2 微細孔中へのCNTの低温合成 電界放出の安定性 2-1 CNT電界放出安定性の要素技術探求 2-1-1 直径の大きさと電界放出の関係の究明 2-1-2 電界放出安定性の圧力および電流依存性の究明 2-1-3 後処理と電界放出の改善 2-2 低温合成したCNTの電界放出特性の評価 2-2-1 パターン化したCNTからの電界放出特性 2-2-2 MgO コ ー ト に よ る 電 界 放 出 特 性 の 改 善 (3)結果と考察 1 高品質CNTの低温合成 今 ま で 、 C N T の 低 温 合 成 に は プ ラ ズ マ CVD が 用 い ら れ て き た 。 し か し 、 FED の 作 製 には大面積化と均一化をクリアしなければならないという課題がある。本研究では容 易 に C N T を 大 面 積 化 し 、 均 一 に 作 製 で き る 熱 CVD を 使 用 し 、 低 温 合 成 の 要 素 技 術 を 確立すると共に、CNTエミッタを直接基板上に作製するプロセスを開発した。 1-1 1-1-1 C N T の 低 温 合 成 の 要 素 技 術 の 探 索 [1] 合 成 シ ス テ ム の 構 築 −予 熱 効 果 と 炭 化 処 理 効 果 図 Ⅲ -2-2-1-4-32 に C N T の 合 成 シ ス テ ム の 概 略 図 を 示 す 。 CVD 法 に よ る C N T を 低 温で成長させるため、炉内の温度を A と B 二つのゾーンに分けてそれぞれ独立して温 度 制 御 で き る 炉 を 導 入 し た 。 原 料 ガ ス 予 熱 ゾ ー ン の 温 度 を 700℃ 、 C N T 成 長 ゾ ー ン の 188 温 度 を 550℃ 以 下 に 設 定 す る 。 こ の シ ス テ ム の 有 効 性 を 確 認 す る た め 、 シ リ コ ン 基 板 上 に 蒸 着 し た 4nm の 鉄 薄 膜 を 予熱ゾーン 700℃ A Inlet 成長ゾーン 550℃ B Quarts tube Outlet Sample 図 Ⅲ -2-2-1-4-32 CNT 合 成 シ ス テ ム の 概 略 図 触 媒 と し 、 ア セ チ レ ン を 60sccm、 ヘ リ ウ ム を 200sccm 流 し 、 CVD を 行 っ た 。 合 成 時 間 は 10 分 と し た 。 ま た 、 前 駆 体 の 調 整 に は 、 触 媒 を 500℃ 及 び 550℃ で そ れ ぞ れ ア セ チ レ ン に よ る 炭 化 を 行 っ た 。 炭 化 処 理 条 件 は ア セ チ レ ン が 30sccm 、 ヘ リ ウ ム が 230sccm で 時 間 は 30 分 で あ っ た 。 まず、反応ガスの予熱効果を調べた。反応ガス予熱なしの場合には、CNTが成長 せず、予熱ありの場合には、CNTが成長することを確認した。これは反応ガスであ る ア セ チ レ ン は 700℃ に 予 熱 す る こ と に よ り 触 媒 と の 反 応 活 性 が 増 し 、 よ り 効 率 的 に 触 媒に取り込まれることによると考えられる。また、予熱ゾーンが長くなった場合、成 長したCNTの密度が高くなることが分かった。これはガス予熱の時間が長くなるに つれ、ガスの温度が高くなることによると考えられる。 続い て、炭化効 果について 調べた。図 Ⅲ -2-2-1-4-33 に 500℃で炭化 処理した触 媒と し ない触媒を用いて CVD した後成長したCNTの SEM 写真を示す。写真から、炭化処理なし の場合、CNTが成長したが、密度が低く、垂直配向しない。炭化処理したもののみ部分 的に垂直配向したCNTが成長することが分かった。これは低温で炭化処理することによ (a) (b) 図 Ⅲ -2-2-1-4-33 4nm 厚 の Fe 触 媒 を 用 い て 合 成 し た CNT の SEM 像 (a)炭 化 処 理 な し の 場 合 と 、 (b) 500℃ で 炭 化 処 理 し た 場 合 189 り 触 媒 の 活 性 が 増 加 し た た め だ と 思 わ れ る 。 ま た 、 550℃ で 炭 化 処 理 し た 後 合 成 し た C N Tは、500℃の場合と大きな差異がなかった。ただし 550℃ではより短い時間で炭化する可 能性があることを示唆している。 以上の予備実験から、ガスの予熱効果と触媒の炭化処理効果がCNTの低温成長に 有効な手段であることが確認できた。 1-1-2 二 元 と 多 元 触 媒 の 選 定 [2] 二元金属のそれぞれの特性(触媒作用、融点、固溶性等)を利用し、組み合わせる ことにより触媒の活性を向上させることが期待される。そこで、まず触媒作用を持つ 遷 移 金 属 と 低 融 点 金 属 の 組 み 合 わ せ と し て 典 型 的 な Fe-Al 系 を 使 用 し た 。 こ の 系 で は 、 Al の 低 融 点 特 性 に よ る Fe 触 媒 の 低 温 微 粒 化 と 凝 集 防 止 作 用 が 期 待 で き る 。 ま た 、 遷 移 金 属 に 固 溶 し 難 い 金 属 と の 組 み 合 わ せ を 検 討 す る た め 、 Fe/Ti お よ び Co/Ti の 積 層 薄 膜 を 作 製 し 、 触 媒 金 属 Fe お よ び Co と Ti と の 固 溶 度 の 違 い に よ る 微 粒 化 効 果 と 触 媒 活 性 度への影響も調べた。 1-1-2-a Fe-Al 触 媒 を 用 い る 場 合 の C N T 作 製 ま ず Fe/Al 触 媒 を 450 、 500 、 550 ℃ で 炭 化 処 理 を 行 い 、 FE-SEM と 原 子 間 力 顕 微 鏡 ( Atomic force microscopy : AFM) に よ っ て 微 粒 子 の 状 態 を 測 定 し た 。 Fe/Al 触 媒 は 鉄触媒のときと同様、炭化処理温度を上げるにつれて微粒子が凝集していくのがわか る。しかし、鉄触媒と比べると微粒化が促進され、凝集も抑制され、粒子密度が増え て い る こ と が わ か る 。 Fe-Al 触 媒 系 で は 微 粒 化 が よ り 進 む の で 、 炭 化 反 応 が 効 率 よ く 起 こることによると思われる。 図 Ⅲ -2-2-1-4-34 に 成 長 し た C N T の SEM 像 を 示 す 。 Fe-Al 触 媒 の 場 合 に 、 450℃ と 500℃ で 前 処 理 を 行 っ た 試 料 は ど ち ら も ブ ラ シ 状 の C N T が 成 長 し た 。 こ れ は 微 粒 化 と 炭 化 の 効 果 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ れ に 対 し て 、 Fe 触 媒 の み の 場 合 、 C N T は 成 長 し たが密度が低く、部分的にしかブラシ状CNTは成長しなかった。いずれの試料表面 も、非晶質カーボンと見られるものに覆われているが、これは低温での炭化処理によ り生成したタールの再反応によるものではないかと考えられる。 (a) (b) 図 Ⅲ -2-2-1-4-34 Fe/Al 触 媒 を 用 い て 合 成 し た CNT の SEM 像 ( a) 炭 化 処 理 な し と ( b) 炭 化 処 理 あ り の 場 合 190 Fe/Al 触 媒 の 炭 化 処 理 し た も の と し て い な い も の を 用 い て 、 ガ ス を 予 熱 し て CVD を 行 っ た 。 炭 化 処 理 の 条 件 は 流 量 C 2 H 2 : 30sccm、 He: 230sccmで 炭 化 処 理 温 度 450℃ 、 時 間 を 30 分 と し た 。 ま た 、 CVDは 流 量 C 2 H 2 : 60sccm、 He: 200sccmで 予 熱 温 度 を 700℃ 、 C N T 合 成 温 度 を 550℃ と し 合 成 時 間 は 10 分 と し た 。 炭 化 処 理 を し な か っ た Fe/Al 触 媒 で は 垂 直 配 向 し な か っ た が ラ ン ダ ム な C N T が 成 長 し た 。 し か し 、 Fe 触 媒 の み の と き と 比 べ る と 明 ら か に 高 密 度 の 成 長 が 認 め ら れ た 。 ま た 、 炭 化 処 理 を 行 っ た も の は Fe 触 媒 で は C N T が 一 部 し か 成 長 し な か っ た が 、 Fe/Al 触 媒 で は 全 体 か ら 垂 直 配 向 し た 。 こ れ ら は 低 融 点 の Al 膜 に よ る Fe 触 媒 の 低 温 微 粒化の促進と微粒子の凝集防止の相乗効果によると考えられる。 Fe/Al 触 媒 系 に お い て も Fe 触 媒 の と き と 同 様 に 、 成 長 し た C N T の 表 面 が 非 晶 質 カ ー ボ ン に 覆 わ れ た 。 そ こ で 非 晶 質 カ ー ボ ン を 除 去 す る た め に CVD 装 置 内 で 排 気 を 行 い な が ら 、 大 気 中 で 熱 酸 化 を 行 っ た 。 600℃ 1 分 の 条 件 で 熱 酸 化 を 行 っ た と こ ろ 、 表 面 の 非 晶 質 カ ー ボ ン が 殆 ど 除 去 さ れ た こ と が 確 認 さ れ た 。 こ の 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-35 に 示 す 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-34 と 比 べ き れ い な C N T の み が 残 っ て い る こ と が 分 か っ た 。 (a) (b) 500n 1μm 図 Ⅲ -2-2-1-4-35 CVD 合 成 し た C N T 表 面 を 熱 酸 化 ( 大 気 中 、 600℃ 、 1 分 ) し 、 非 晶 質 カ ー ボ ン を 除 去 し た 後 の 状 態 。 (a)と (b)は 倍 率 が 異 な る 1-1-2-b Fe-Ti お よ び Co-Ti 触 媒 を 用 い る 場 合 の C N T 作 製 Si 基 板 上 に Ti 薄 膜 を 下 地 と し て Fe あ る い は Co 薄 膜 を 形 成 し 2 層 構 造 と し た 。 膜 厚 は い ず れ も 4nm で あ る 。 500℃ で 炭 化 処 理 を 行 っ た も の と 行 っ て い な い も の を 準 備 し 、 CVD( ア セ チ レ ン : 60sccm、 He: 200sccm、 550℃ ) を 10 分 間 行 い 、 以 下 の 結 果 が 得 ら れた。 ま ず Co/Ti の 場 合 に 、 炭 化 処 理 し た 触 媒 を 用 い て CVD を 行 っ た と こ ろ 、 垂 直 配 向 し た C N T の 成 長 が 見 ら れ た 。 成 長 し た C N T の 長 さ は 2 ~ 5・ m で 、 直 径 は 10~ 20nm で あ っ た 。 ま た 、 図 Ⅲ -2-2-1-4-36 に 炭 化 処 理 を し て い な い 触 媒 を 用 い た 場 合 の C N T の 成長状態を示した。垂直配向CNTの成長が見られ、非晶質カーボンの堆積が少ない ことが分かる。 Co/Ti 触 媒 の 場 合 、 炭 化 処 理 を 行 わ な く て も 垂 直 配 向 C N T が 成 長 し 、 炭 化 処 理 に よ る 優 位 性 は 見 ら れ な か っ た 。 プ ロ セ ス の 簡 略 化 の 観 点 か ら Fe/Al 触 媒 よ り Co/Ti 触 媒 の 方 が 望 ま し い と 考 え ら れ る 。 Fe 触 媒 を 用 い た 場 合 に は 、 薄 膜 を 形 成 し た 後 大 気 中 に 191 出 す と す ぐ に 酸 化 さ れ る た め 、 CVD の 初 期 段 階 で 還 元 過 程 が 必 要 で あ る が 、 炭 化 処 理 は こ の 還 元 作 用 と 同 時 に 触 媒 の 活 性 化 に も 効 果 が あ っ た と 思 わ れ る 。 一 方 、 Co の 場 合 は 酸化が少ないため、還元過程は不必要であり、最初から触媒活性が高いと推察される。 Fe/Ti 触 媒 の 場 合 、 550℃ で は 基 板 上 に は 微 粒 子 状 の も の は 確 認 で き た が 、 炭 化 処 理 ありなしにかかわらずCNTの成長は認められなかった。 (a) 図 1-4-2-5 (b) 炭 化 処 理 し て い な い Co-Ti 触 媒 を 使 用 し て 合 成 し た CNT の SEM 像 (a)と (b)は 倍 率 が 異 な る Fe/Ti と Co/Ti と の 差 異 は 、 Ti の 固 溶 限 度 の 違 い に よ る も の と 考 え ら れ る 。 バ ル ク 状 態 の 相 図 に よ る と 、 Fe の 場 合 は 550℃ で 3% で あ り 、 Co で は 1% で あ る 。 薄 膜 の 場 合 こ の 数 値 を そ の ま ま 適 用 で き な い が 、 相 対 関 係 は 維 持 さ れ る と 考 え る と 、 Fe は Ti に よ く固溶するため、触媒機能が損なわれたと考えることができる。 以 上 の 実 験 結 果 を 表 Ⅲ -2-2-1-4-2 に ま と め て い る 。 こ の 表 か ら 以 下 の こ と が 分 か っ た 。 ( 1 ) 予 熱 に よ る ガ ス 反 応 性 の 向 表 Ⅲ -2-2-1-4--2 ガス予熱: ● 実 験 条 件 と 合 成 し た CNT の 状 態 炭化処理: ● 項目 Fe/Ti Fe/Al Fe Co/Ti 上 と 炭 化 処 理 に よ る 触 媒 の 手段 る。 ● 炭化 活 性 化 の 効 果 が あ 予熱 CNTの 成長状態 ( 2 ) Fe 、 Fe/Al 触 媒 は 予 ● ● ● × △ ● ● ● × ◎、 ○:垂直配向した ○ ● ● ● ● - - ● ◎ △ △:やや垂直配向した ×:垂直配向しなかった -:成長せず 熱効果と炭化処理を行なうことで垂直配向したCNTを得ることができる。 ( 3 ) Co/Ti 触 媒 は 低 温 で の 活 性 度 が 高 い た め 、 予 熱 効 果 の み で 垂 直 配 向 し た C N T を得ることができる。 192 こ の 結 果 、 Co/Ti 触 媒 の C N T の 低 温 成 長 に 対 す る 有 効 性 が 明 確 に な っ た 。 1-1-2-c 三元金属(下地金属)の探索 三 電 極 型 FED を 作 製 す る 際 に は 下 地 電 極 が 必 要 で あ る 。 こ の た め Co/Ti 触 媒 に 適 応 する下地金属の探索が必要となる。また、下地金属を使用することによりCNTと基 板との密着性の向上も図る。 ま ず 、 下 地 金 属 と し て Mo、 Alを 検 討 し た 。 Si基 板 上 に Alお よ び Moを 、 そ れ ぞ れ 50nm 蒸 着 し た 後 、 Co/Ti=0.5nm/0.5nm、 4nm/10nmを 蒸 着 し た 。 C N T 合 成 条 件 と し て 、 ガ ス 流 量 を C 2 H 2 : 30sccm と He : 230sccm 、 供 給 時 間 を 5 分 間 、 C N T 成 長 ゾ ー ン の 温 度 を 550˚Cと し CVDを 行 っ た 。 そ の 結 果 を 表 Ⅲ -2-2-1-4-3 に 示 す 。 表 か ら 電 極 材 料 と し て は Moよ り Alの 方 が 適 し て い る こ と が わ か っ た 。 表 Ⅲ -2-2-1-4-3 Mo と Al を 下 地 金 属 と し て 用 い た 場 合 の C N T の 成 長 状 態 Co/Ti 下地金属 Mo Al 0.5nm/0.5nm 4nm/10nm 成長しない 成長あり、配向無し 配 向 成 長 あ り (膜 厚 3.5・ m) ま た 、 下 地 金 属 に Al を 用 い た 配 向 成 長 あ り ( 膜 厚 3・ m) 予熱あり 場合に、ガス供給時間を 5 分から 予 熱 な 550 10 秒に短縮し CVD を行った。成長 したCNTの状態を観測した結果、 ガス供給時間を 10 秒にしてもCN Tの垂直配向成長ができ、C N T の長さにほとんど違いがないこと 500 が 分 か っ た 。 つ ま り 、 550 ℃ の 低 温でもCNTの高速成長が行われ ていることが確認された。また短 5μm 時間成長により非晶質カーボンの 被覆の少ない高品質なCNTを合 450 成できるようになった。 1-1-4 CVD 条 件 の 最 適 化 非晶質カーボンの堆積を防ぎ、 ガス利用効率を向上させるため、 1μm ア セ チ レ ン の 流 量 を 60sccm か ら 30sccm に 減 少 さ せ 、 供 給 時 間 を 10 分 か ら 5 分 に 短 縮 し た 。 こ の 図 Ⅲ -2-2-1-4-37 異なる合成温度と予熱の 有無に対するCNTの成長状態 ようにして成長したCNTは垂直 配向でしかも非晶質カーボンが殆ど堆積していないことが分かった。このことから炭 化処理プロセスをなくし、アセチレンガスの供給量を減少させることにより、非晶質 カーボン堆積を抑制することが可能であることが分かった 193 次 に 合 成 温 度 お よ び ガ ス 予 熱 が C N T の 成 長 に 与 え る 影 響 を 調 べ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-437 に 合 成 温 度 が そ れ ぞ れ 550℃ 、 500℃ 、 450℃ の 場 合 、 予 熱 あ り と 予 熱 な し の 条 件 で 合 成 し た C N T の SEM 写 真 を 示 し た 。 写 真 か ら 、 合 成 温 度 を 低 く す る に つ れ 、 成 長 し たCNTの長さは短くなり、密度も低くなることが分かった。また予熱の有無を比較 すると予熱を行ったものは行わなかったものよりもCNTの長さは長くなることが分 かった。ただし、予熱なしでも垂直配向したCNTが成長することが確認された。また、 こ れ ら の C N T 試 料 の ラ マ ン ス ペ ク ト ル か ら 、 予 熱 あ り の 場 合 は 予 熱 な し に 比 べ 、 G/D 比が高く、結晶性は良いことがわかった。これらは予熱を行うことによりガスの反応 性が上がったためであると考えられる。 194 1-1-3 触媒の最適化条件 Co と Ti 触 媒 の 膜 厚 を そ れ ぞ れ 4 、 2 、 1 、 0.5nm と 変 化 さ せ 、 成 表Ⅲ -2-2-1-4-4 Co/Ti 二層触媒の各膜厚と 成長した CNT の長さ 長 ゾ ー ン を 550℃ 、 ガ ス 供 給 時 間 を 5 分 で CVD を 行 っ た 。 Co/Ti Co Ti 0.5nm 触媒の膜厚変化によるCNTの 0.5n 12.5μ 成 長 長 さ の 違 い を 表 Ⅲ -2-2-1-4-4 1nm 6.1μm に 示 し た 。 Ti が 0.5~ 2nm と 薄 い 2nm と き は Co が 薄 い 方 が C N T の 長 4nm 1nm 2nm 4nm 10n 5.7μ 3.4μ 1.7μ 3.2μ 2.4μ 4.1μ 3.4μ 3.3μ 3.2μ 3.0μ 3.5μ 7.7μ 3.6μ さ は 長 く な っ て い る が 、 Ti が 4nm と 厚 く な っ て い く と ほ と ん ど 長 さ は 変 わ ら な い 。 10nm で は Co が 厚 い 方 が C N T の 長 さ は 長 く な っ た 。 さ ら に Co、 Ti が と も に 薄 い 場 合 に C N T は 長 く な る 傾 向 が あ る 。 つ ま り 触 媒 の 膜 厚 を 変 化 さ せ る こ と に よ り C N T の 長 さ を 制 御 で き る 。 ま た 、 Ti が 厚 く な る に つ れ 、 C N T は 短 く な る が 、 基 板 と の 密 着 性 は 強 く な っ た 。 Ti の 膜 厚 が 10nm の 場合、CNTをピンセットで擦った際に、基板上にCNTが多く残り、基板との密着 性 が 向 上 し て い る こ と が 分 か っ た 。 C N T 長 さ と 基 板 と の 密 着 性 両 面 か ら 、 Co/Ti の 最 適 膜 厚 は 4nm/10nm で あ る 。 成 長 し た C N T の 結 晶 性 を 評 価 す る た め 、 ラ マ ン 分 光 測 定 を 行 っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-438 に 低 温 成 長 し た C N T の ラ マ ン ス ペ ク ト ル を 示 す 。 C N T の 結 晶 性 の 目 安 と な る G/D 比 を 確 認 す る と 触 媒 膜 厚 を 変 え た こ と に よ る G/D 比 の 大 き な 違 い は 見 出 せ な か っ た 。 550℃ で 合 成 し た C N T を 700℃ で 合 成 し た も の と 比 べ る と G/D 比 は や や 低 い も の と なっている。これは低温合成によってCNTの結晶性が低下したためである。 D band G Co/Ti (550 o C) band intensity (a.u.) 0.5/0.5(nm) 1.15 2/2(nm) 1.21 4/4(nm) 1.18 (700 o C) ratio 4nm 1400 1600 1.18 1/1(nm) Fe 1200 G/D ratio G/D 1.33 1800 Ramanshift (cm-1) 図 Ⅲ -2-2-1-4-38 各 種 膜 厚 の Co/Ti 二 層 触 媒 を 用 い て 低 温 合 成 し た CNTのラマンスペクトル 195 20nm 10nm 図Ⅲ -2-2-1-4-39 Co/Ti 触媒を用いて 550℃の低温で合成したCNTの TEM 像 550℃ で 合 成 し た C N T の TEM 写 真 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-39 に 示 す 。 写 真 か ら C N T 特 有 の 中 空 と グ ラ フ ェ ン シ ー ト の 層 間 格 子 像 が 確 認 で き る 。 ま た 、 C N T の 直 径 は 20nm 或 いはそれ以下程度であることが分かった。 1-2 微細孔中にCNTの低温合成 以 上 の Si基 板 上 で の C N T 作 製 の 最 適 条 件 を 3 電 極 用 ガ ラ ス 基 板 の 微 細 孔 内 で の CNTの作製に適用した。三菱電機 (株)から提供を受けた微細孔パターン基板 ( 微 細 孔 以 外 は レ ジ ス ト 膜 で 被 覆 ) に Alを 下 地 金 属 と し て 、 Co/Ti触 媒 を 4nm/10nm蒸 着 し た 後 、 レ ジ ス ト を 剥 離 し 、 そ の 後 、 低 温 CVD でCNTの合成を行った。CNTの合成条件 は 、 ガ ス 流 量 を C 2 H 2 : 30sccm お よ び He : 230sccm、 ガ ス 供 給 時 間 を 10 秒 、 合 成 温 度 を 500℃ と し た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-40 に ガ ラ ス 微 細 孔 に 成 長 し た C N T の SEM写 真 を 示 す 。 長 さ は 約 2μ mの CNTが垂直配向して成長している。ただ、 図 Ⅲ 2-2-1-4-40 アセ チレンガ ス を10s間 供 給 して微 細 孔 内 に合 成 したCNTのSEM像 成長したCNTの密度が高く、表面が非晶質 カーボンに覆われている。そこで、非晶質 カーボンを除去するため、空気中での熱処理 法 を 検 討 し た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-41 に 試 料 を 大 気 中 で 500℃ 、 45 分 熱 処 理 し た 後 の SEM観 測 写真を示した。図から、熱処理することによ り、CNTの密度が低くなり、長さも短く なっていることが分かる。また、C2H2の流量 を 30sccmか ら 10sccmと 減 少 さ せ る と 成 長 し たCNTが短くなり、均一性が悪くなってし まった。また、非晶質カーボンも依然CNT 196 図 Ⅲ 2-2-1-4-41 図 Ⅲ 2-2-1-4- 40 の CNT を 500 ℃ 、 45 分 間 大 気 中 熱 処 理 した後 のSEM像 上 に 存 在 し て い る 。 ガ ス 供 給 時 間 を 10sか ら 3sと 減 少 さ せ る と 成 長 し た C N T (図 Ⅲ 2-2-1-4-42) は 非 晶 質 カ ー ボ ン に 覆 わ れないが、長さが非常に低くなり、 100nm 程 度 と な っ た 。 ま た 、 合 成 温 度 を 500℃ か ら 550℃ に 上 昇 さ せ た と こ ろ、密度の高いCNTとなり、非晶質 カ ー ボ ン が 少 な く 、 か つ 長 さ も 1・ m 程度となった。この状態で、ガス供給 時間、供給量を減少させることで、電 界放出に適したCNTの合成が可能で あると思われる。しかしながら、今回、 合 成 し た サ ン プ ル に は CVD 後 、 ゲ ー ト 図 Ⅲ -2-2-1-4-42 ア セ チ レ ン ガ ス を 3s 間 供 給 し て 微 細 孔 内 に 合 成 し た CNT 電極と下部電極間の絶縁膜にクラック Video Recorder が生じ、絶縁不良となった。このため Top View port エミッション測定ができなかった。 500 ℃ 前 後 で ク ラ ッ ク を 生 じ な い 絶 縁 ITO Glass Phosphor 層の作製が重要な課題である。 e- V 2 Side View port 電 界 放 出 の 安 定 性 [3] 2-1 CNT放出安定性の要素技術 Ion Pump の探求 I Electromultimeter C N T -FED の 電 子 源 か ら の 放 出 均 一性と安定性を追求するため、個々の 放出サイトの構造とその電子放出特性 との関係を把握することが必要である。 図 Ⅲ -2-2-1-4-43 電界放出型顕微鏡 装置の模式図 本研究は電子源の単純化を図るため、 タングステン針に単一のCNTを取り 付けて実験用の電子源とした。また、 電 界 放 出 型 顕 微 鏡 (FEM)( 図 Ⅲ -2-2-14-43) を 用 い て 単 一 C N T か ら の 放 出 150V 特性と放出安定性について調べた。 2-1-1 430V 直径の大きさと電界放出の 関係の究明 先鋭化したタングステン先端に、 一 本 の 二 層 C N T ( DWNT) と 一 本 の 多 層 C N T ( MWNT) を 取 り 付 け 、 そ れ ぞ 図 1-4-2- 13 れ FEM に よ り そ の 電 界 放 出 特 性 を 測 定 孤 立 し た DWNT と MWNT の 電 界 放 出 時 の I-V 特 性 し た 。 用 い た DWNT と MWNT の 外 径 は 約 3nm と 10nm で あ っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4197 44 に は 測 定 し た 電 界 放 出 電 流 —電 圧 特 性 を 示 す 。 図 か ら MWNTの 放 出 立 ち 上 が り 電 圧 が 430V で あ り 、 放 出 電 流 値 は 10 - 6 Aに 到 達 し た 時 の 電 圧 が 850Vと 大 き な 値 に な る 。 そ れ に 対 し 、 DWNTの 放 出 立 ち 上 が り 電 圧 は 150V と な り 、 360V で 放 出 電 流 値 は 10 - 6 Aに 到 達 す る こ と が 分 か っ た 。 こ れ は DWNTの 先 端 曲 率 半 径 が 小 さ い た め 、 先 端 に 電 界 を 集 中 し MWNT DWNT 7.2 % 36.1% 31.2 % 13.2 % 26.3 % 0.7 % 19.6 % 1.5 % 11.1 % 1.7 % 図 Ⅲ -2-2-1-4-45 孤 立 し た MWNT と DWNT の 放 出 安 定 性 と 放 出 電 流 レ ベ ル の 関 係 10-7 Pa 2.0% 10-5 Pa 10-6 Pa 0.2% 10-4 Pa 22.8% 37.7% 1分子の吸 脱着の影響 図 Ⅲ -2-2-1-4-46 孤 立 し た MWNT の 放 出 安 定 性 と 背 景 圧 力 の 関 係 や す く 、 ま た P軌 道 が 延 び て い る こ と に よ る と 考 え ら れ る 。 こ の 結 果 か ら DWNTは MWNTよ り優れた電界放出を有することが明らかになった。 2-1-2 放出安定性の圧力、電流依存性の究明 198 単 一 の MWNTと DWNTの 放 出 電 流 変 動 率 を 測 定 した。様々なオーダーにおける放出電流の変 動 率 を 図 Ⅲ -2-2-1-4-45 に 示 す 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 MWNTに 比 べ 、 DWNTの 電 流 変 動 率 が 低 い こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 DWNTの 場 合 に は 、 10 - 8 A以 下 の 放 出 電 流 は 非 常 に 安 定 で あ る こ と が 分 か っ た 。 10 - 7 A 以 上 で 電 流 変 動 が 増 加 する原因はまだ明らかではないが、電界放出 時の放出電流に伴うCNT先端の温度上昇が 関係していると考えられる。これについては 今後検討する必要がある。以上の結果より、 C N T を 電 子 源 と し た FEDで は 、 1 本 あ た り の 放 出 電 流 値 を 10 - 7 Aを 超 え な い よ う に 設 計 図 Ⅲ -2-2-1-4-47 孤 立 し た MWNT の I-V 特 性 と そ れ に 15nm 厚 の MgO を 被 覆 し た 後 の I-V 特 性 する必要があることを示している。 ま た 、 C N T の 放 出 電 流 の 圧 力 依 存 性 を 調 べ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-46 に そ の 結 果 を 示 す 。 10 - 7 Paの 高 真 空 で は 、 残 留 ガ ス 分 子 の 吸 脱 着 に よ る ゆ っ く り と し た 周 期 の 階 段 状 変 動 が 現 れ る 。 一 方 、 圧 力 を 10 - 5 Pa台 に 上 昇 さ せ る と 、 複 雑 な 電 流 揺 ら ぎ が 増 加 す る 。 つ ま り大きなうねりと小刻みの変動、さらにスパイク状ノイズが重畳して起きるのが観測 された。これは圧力上昇に従い、分子の吸脱着、イオン衝突が頻繁になったためと考 え ら れ る 。 こ の 結 果 は 、 C N T を 電 子 源 と し た FEDで は 、 動 作 圧 力 を 10 - 5 Pa以 下 に 設 定 すれば安定した電界放出が得られることを示す。 2-1-3 後処理と電界放出の改善 電 子 放 出 の 安 定 性 と 均 一 性 向 上 を 目 的 に 、 MgO の 高 い 二 次 電 子 放 出 特 性 に 着 目 し 多 層 C N T の 表 面 に MgO を 成 膜 す る こ と に よ っ て 、 電 界 放 出 特 性 の 変 化 を 調 べ た 。 図Ⅲ2-2-1-4-48 図Ⅲ2-2-1-4-47の二つのCNTの各電流値における放出電流の時間変動 先端を先鋭化したタングステン線の先端に単一の多層CNTを接続し、超高真空 チ ャ ン バ ー 内 に て FEM 像 を 観 測 す る と 共 に 、 電 流 - 電 圧 特 性 を 測 定 し た 。 そ の 後 同 一 サ ン プ ル に 15nm 厚 の MgO を 被 覆 し 、 そ の 特 性 の 変 化 を 観 測 し た 。 199 図 Ⅲ -2-2-1-4-47 に MgO 被 覆 す る 前 と 後 の C N T か ら の 放 出 電 流 - 電 圧 特 性 を 示 し た 。 立 ち 上 が り 電 圧 は MgO を 15nm 被 覆 す る こ と で 放 出 開 始 電 圧 が 350V か ら 500V に 上 昇 し た 。 こ れ は 誘 電 体 で あ る MgO を C N T 先 端 に 被 覆 す る た め 、 C N T 先 端 の 電 界 強 度 が 減 少 さ れ る こ と に よ る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 MgO の 被 覆 前 後 の FEM を 比 較 す る と 、 MgO 被覆前の多層CNTでは、発光点が5箇所から6箇所に比較的まとまって明確な形で 存 在 し て い る の に 対 し て 、 MgO を 被 覆 す る と 円 周 部 分 も 発 光 す る こ と に よ り 、 電 子 放 出 するサイトが増加し、発光部分が拡散している様に見える。 一 方 , 図 Ⅲ -2-2-1-4-48 は C N T へ の MgO被 覆 前 後 の 各 電 流 値 に お け る 電 流 の 時 間 変 動 を 示 し て い る 。 放 出 電 流 値 10 - 6 A付 近 に お け る 電 流 の 時 間 変 動 を み る と 、 MgOコ ー テ ィ ン グ に よ り 変 動 率 は 25.5%か ら 9.1%へ と 大 き く 低 下 し た 。 ま た 、 10 - 7 A付 近 に お い て も 変 動 率 が 39.1%か ら 4.1%へ と 大 き く 減 少 し た 。 MgO被 覆 に よ る 放 出 電 流 の 安 定 化 は 次のように考察できる。放出電流の揺らぎの要因の一つに先端への分子吸着がある。 吸 着 分 子 に よ っ て 急 激 で 大 き な 電 子 放 出 が 誘 発 さ れ る と MgO内 で は 有 効 に 二 次 電 子 ( α 電 子 ) が 作 ら れ 、 大 き な 電 流 が 流 れ る こ と に な る 。 そ の 結 果 、 MgOは 低 抵 抗 状 態 に な り 、 MgOに か か る 電 位 が 低 く な る 。 そ う す れ ば 、 α 電 子 の 生 成 量 が 減 少 す る 。 こ う な れ ば 、 今 度 は MgOが 高 抵 抗 状 態 に な り 、 電 界 が か か る よ う に な る こ と で 、 α 電 子 の 生 成 量 が 増 加する。このような帰還が自動的にかかり、放出電流が安定化されると考えられる。 2-2 低温合成したCNTの電界放出特性 の評価 2-2-1 パターン化したCNTからの電界 放出特性 400#ス テ ン レ ス メ ッ シ ュ を マ ス ク と し 、 シ リ コ ン 基 板 上 に 30μ m間 隔 で 30μ m角 の 触 媒 パターンを電子ビーム蒸着法で直接形成した。 触 媒 は Co/Ti を 用 い 、 4nm/10nm の 厚 さ で 蒸 着 し た 。 こ れ ら の 基 板 を 用 い て 、 C2H2 流 量 : 30sccm 、 He 流 量 : 230sccm 、 ガ ス 供 給 時 間 10s、 成 長 温 度 550℃ の 条 件 で CVDを 行 っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-49 に 示 す よ う に 触 媒 の パ タ ー 1 μm ン 上 に 長 さ 1μ m強 の 比 較 的 密 度 が 低 い C N Tが成長した。この試料を用いて電子放出測 定 を 行 っ た 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-50 に 測 定 し た IV特 性 を 示 す 。 図 か ら 立 ち 上 が り の 閾 値 電 圧 図 Ⅲ -2-2-1-4-49 (a) Si 基 板 上 成 長 し た CNT ア レ イ , (b) (a)の 拡 大 像 が 430V と な り 、 比 較 的 低 い 値 が 得 ら れ た 。 ま た 、 1500V で は 1mA/cm 2 の 放 出 電 流 密 度 と な っ た 。 蛍 光 体 の 発 光 観 測 か ら 、 4mm角 の 範囲内全面に放出が行き渡っていることが観測され、放出サイトが均一に分布してい る こ と が 分 か る 。 図 Ⅲ -2-2-1-4-51 に 放 出 電 流 安 定 性 と 1 画 素 ( 30・ m相 当 ) の 輝 度 の 経時変化を示す。 200 10-2 2 Current density (A/cm ) 図 か ら 、 4mm 角 の 放 出 範 囲 内 で の 放 出 電 流 の 揺 ら ぎ は 2.9%と 比 較 的 安 定 で あ る こ と が 分 か っ た 。 ま た 輝 度 の 揺 ら ぎ は 6.3%と 見 積 も る こ と が で き 当 初 の 目 標 値 の 5%よ り や や 大 き い が 、 一 般 的 な 40 イ ン チ FED で 用 い ら れ る 画 素 サ イ ズ 200・ m×600・ m に 換 算 す る と 、 積 算 平 均 化 に よ り 5%以 内 の 目 標 を 達 成 している。さらに、異なる放出点の輝度分布 10-4 10-6 10-8 10-10 0 を 統 計 す る と 、 空 間 的 な 輝 度 バ ラ ツ キ は 34% 500 1000 1500 2000 Voltage (v) で 、 画 素 サ イ ズ 200・ m×600・ m に 換 算 す る と 2.9%と な り 、 目 標 で あ っ た 2%を ほ ぼ 達 成 図 Ⅲ -2-2-1-4-50 している。しかし、未放出のサイトがまだ多 Co/Ti=4nm/10nmで 合 成 し た CNT く存在することが問題であり、放出の均一性 アレイからの電子放出特性と の更なる改善が必要である。 1 mA/cm2時 の 蛍 光 体 ( 4mm角 ) の 触媒膜厚 5 5000 (a) 4 Brightness (a. u.) 2 Current density (mA/cm ) 発光状態 3 2 1 0 0 300 600 900 (b) 4000 3000 2000 1000 1200 1500 0 0 30 Time (s) 図 Ⅲ -2-2-1-4-51 60 90 120 150 180 Time (s) 触 媒 膜 厚 Co/Ti=4nm/10nm で 合 成 し た CNT ア レ イ か ら の (a) 放 出 電 流 と (b)蛍 光 体 の 発 光 輝 度 の 時 間 変 化 2- 2-2 MgO コ ー ト に よ る 電 界 放 出 特 性 の 改 善 [4] 2-1-3 に 示 す よ う に 、 孤 立 し た C N T 表 面 に MgO を 被 覆 す る こ と に よ り 、 電 界 放 出 特 性 、 特 に 放 出 安 定 (a) 性 が 改 善 CNTパターン (b) さ れ た 。 こ の 知 見 を 配 向 成 100 μm 長 し た C N T ア レ イ に 適 用 し 、 そ の 図 Ⅲ -2-2-1-4-52 1µm (a) 10nm 厚 の MgO 膜 を 蒸 着 し た C N T パ タ ー ン と (b) そ の 拡 大 SEM 像 201 効果を調べた。 パ タ ー ン 化 成 長 し た C N T ア レ イ の 上 に 2nm、 5nm、 10nm、 20nm と 4 種 類 の MgO を 成膜して、成膜前後の電流電圧特性を比較した。 図 Ⅲ -2-2-1-4-52 は MgO を 10nm 成 膜 し た C N T パ タ ー ン と そ の 拡 大 写 真 で あ る 。 こ の SEM 写 真 か ら C N T の 表 面 を 約 10nm の 厚 さ で 、 MgO が 覆 っ て い る こ と が 判 る 。 MgO の 成 膜 厚 み を 変 え た 時 に も 、 ほ ぼ こ の SEM 写 真 に 近 い 形 状 で MgO が C N T の 表 面 を 覆っていることが観察された。 こ れ ら の サ ン プ ル と 、 ITO 付 き ガ ラ ス 基 板 の 表 面 に グ リ ー ン 蛍 光 体 を 塗 布 し た ア ノ ー ド を 150μ m の ス ペ ー サ を 挟 ん で 対 抗 さ せ 、 ア ノ ー ド 側 に 正 電 圧 を 印 加 し て 、 電 子 放 出 させた。 図 Ⅲ -2-2-1-4-53 に は 個 々 の サ ン プ ル の 電 界 放 出 時 の 電 流 —電 圧 特 性 を 示 し た 。 こ の 図 か ら 明 ら か な 様 に 、 MgO を 10nm 被覆したものが最も放出開始電圧 が低くなり、被覆していないもの に 比 べ て 、 約 116V も 低 下 す る こ と が分かる。 図 Ⅲ -2-2-1-4-54 は 、 MgO を 被 覆 した場合の放出電流の変動を観測し た も の で あ る 。 こ の 図 か ら 、 MgO が 被覆されていないCNTの電流変動 MgO厚 閾値電圧 なし 2 nm 5 nm 10 nm 20 nm 170 V 200 V 168 V 116 V 165 V 率 が 31%と か な り 大 き な 変 動 が あ る の に 対 し て 、 MgO の 被 覆 し た 場 合 、 その厚みにかかわらず変動は減少す 図 Ⅲ -2-2-1-4-53 異 な る 膜 厚 の MgO を 被 覆 したCNTアレイからの電界放出特性 る 。 MgO の 厚 さ が 5nm、 10nm、 20nm で そ れ ぞ れ 24%、 9%、 18%に 減 少 し て お り 、 10nm の 場 合 に は 、 変 動 率 が 最 MgO:20nm 放出電流揺らぎ:18% MgO:10nm 放出電流揺らぎ:9% MgO:5nm 放出電流揺らぎ:24% MgOなし 放出電流揺らぎ:31% も低く、被覆していない場合に比べ て 1/3 以 下 に 減 少 す る こ と が わ か る 。 ま た 、 図 Ⅲ -2-2-1-4-55 は ア ノ ー ド 電 圧 500V の 際 に 、 C N T の み か ら 電 子 放 出 さ せ た サ ン プ ル と 、 MgO を 10nm 被 覆 し た サ ン プ ル に つ い て 発光状態を比較したものである。 C N T 上 に MgO を 10nm 被 覆 し た サ ンプルの方が同じ電圧では明らか に電子放出電流値が多くなり、全 体の発光分布も多く且つ輝度も高 いことが判る。 図 Ⅲ -2-2-1-4-54 異 な る 膜 厚 の M g O を 被 覆 し た CNTアレイから放出し た電流の揺らぎ 202 電 界 放 出 の MgO 膜 厚 依 存 性 を 以 上 の 実 験 結 果 と 有 限 要 素 法 に よ る シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の結果を合わせて以下のように 印加電圧:500V 検 討 し た 。 MgO 膜 厚 が 2nm の と きは、電子はトンネリングによ り MgO 膜 を 通 り 抜 け る 。 し か し 、 実効仕事関数がCNTの仕事関 数より大きいため、電子放出特 性はCNTだけのものより低下 CNT(被覆なし) す る 。 一 方 、 20nm の と き は 、 MgO 内 の 電 界 が 低 く 2 次 電 子 増 倍が充分行われない。しかも実 図 Ⅲ -2-2-1-4-55 CNT(MgO被覆10nm) MgO を 10nm 被 覆 し た サ ン プ ル と 被覆していないサンプルの蛍光体発光状態の比較 効仕事関数がCNTより大きい ことから良い特性が得られな か っ た 。 そ こ で 、 そ の 中 間 膜 厚 で あ る 10nm と し た と こ ろ 、 有 効 に 電 子 が 加 速 さ れ 効 率 よくα電子を作り、しかも実効仕事関数が高くならないので優れた特性が発現した。 以 上 の こ と よ り 、 MgO 膜 は 10nm の も の が 最 適 で あ る と 考 え ら れ る 。 (4)目的に照らした達成状況 FED の C N T 電 子 源 の 直 接 低 温 合 成 ( 550℃ 以 下 ) プ ロ セ ス の 開 発 を 目 指 し て 1)基板上CNTアレイ成長の最適条件 2)微細孔中にCNTの作製 3)孤立CNTの電界放出特性の安定性 4 ) 低 温 CVD で 作 製 し た C N T の 電 界 放 出 特 性 について検討し、以下のことを明らかにした。 1 ) 低 温 成 長 に 有 効 な 触 媒 Co/Ti は 4nm/10nm の 厚 さ で あ り 、 こ の 触 媒 厚 み で 成 長 し たCNTは基板との接触状態が良く、最も良い電子放出特性を示した。 2)平面上にCNTを成長させる技術を元に、微細孔中に垂直配向したCNTの低 温成長に成功した。空気中での熱処理や反応ガス供給時間の短縮によって、非晶質 カーボンの堆積を抑制でき、かつ電子放出に好都合の低密度化も期待できる。課題と して残った電極間の絶縁問題を克服できれば、均一かつ安定した電子放出が可能とな ることがわかった。 3 ) 孤 立 し た C N T の 電 子 放 出 特 性 を 調 べ た 結 果 、 放 出 電 流 が 10 - 7 A/本 以 下 の 場 合 電 界 放 出 が 安 定 で あ る こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 FEDの 操 作 圧 力 を 10 - 5 Pa以 下 に 設 計 す れ ば、より安定した電界放出が可能であることが明らかになった。 4 ) C N T の 表 面 に MgO( 最 適 膜 厚 は 10nm) を コ ー テ ィ ン グ す る こ と に よ り 、 電 界 放出の立ち上がり電圧が減少し、放出電流の安定性が増加した。 以 上 の 研 究 を 通 し て 、 低 温 CVD で 合 成 し た C N T の 電 界 放 出 特 性 を 評 価 し た 。 そ の 結 果 、 空 間 的 な 輝 度 バ ラ ツ キ が 2.9%で あ り 、 当 初 目 標 で あ っ た 2%以 内 を ほ ぼ 達 成 し た 。 ま た 、 画 素 ( 30・ m 角 に 相 当 ) の 輝 度 揺 ら ぎ が 7%で あ り 、 当 初 目 標 の 5%に 僅 か 及 ば な か っ た が 、 プ ロ ジ ェ ク ト の 目 標 で あ っ た 10%は 達 成 し た 。 203 低温合成プロセスは簡便であり、CNT電子源の均一性が優れることから、CNT− FED へ の 実 用 化 が 期 待 で き る 。 (5)参考文献 [1] G. Takeda, L. Pan, S. Akita and Y. Nakayama, Vertically Aligned Carbon Nanotubes Grown at Low Temperature for Display Usage, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 44, No.7B, pp5642-5645 (2005). [2] Y. Nakayama, L. Pan and G. Takeda, Low-Temperature Growth of Vertically Aligned Carbon Nanotubes for Field Emission , Jpn.J.Appl.Phys. Vol. 45, No. 1A, pp.369-371 (2006). [3] 小 西 康 元 , 田 中 博 由 , 潘 路 軍 , 秋 田 成 司 , 中 山 喜 萬 , カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ か ら の 電 界 放 出 電 流 に お け る 安 定 性 , Proc. the 30 t h Fullerene-Nanotubes General Symposium. [4] S. Chakrabarti, L. Pan H. Tanaka and Y. Nakayama, Field Emission Properties of MgO Coated Multiwalled Aligned C N T s , Proc. the 12 t h International Display Workshops (IDW2005). 204 2-2-2 「② パネル化及びディスプレイ性能評価技術の開発」 研究開発内容を「②-1 パ ネ ル 化 技 術 の 開 発 」、「 ② - 2 ディスプレイ性能評 価技術の開発」二つに分けて実施した。 「②-1 パネル化技術の開発」は旭硝子株式会社と三井化学株式会社が実施し、 更に「②-1-1 び「②-1-3 「②-1-1 高真空パネル構造開発」と「②-1-2 低温封着技術開発」及 低温封着技術開発」に分けて実施した。 高真空パネル構造開発」では、箱型のフロントガラスと板状のリ アガラスと金属部材から構成された、新しいスペーサフリーパネル構造を考案した。 また、ガラス新組成、部分物理強化法、及び無鉛の低温封着材料等を開発した。その 結果、これらの新技術を集積することにより、軽量且つスペーサフリーのFED容器 を開発した。 「②-1-2&3 低 温 封 着 技 術 開 発 」 で は 、 F E D 用 と し て 250℃ で も 優 れ た 強 度を有する、熱硬化型ポリイミド樹脂とガラスファイバーを複合化した新しい気密封 着 材 料 を 開 発 し た 。 本 封 着 材 は 350℃ か つ 窒 素 雰 囲 気 下 で の 封 着 や 高 温 で の 排 気 を 可 能としている。また、そのような低温での封着は CNTや多層構造電極の熱的損傷を 防止する。 「②-2 ディスプレイ性能評価技術の開発」では、均質電子源の開発で得られた カソード基板をパネル化したFED用の駆動装置、評価システム、表示制御回路を開 発 し た 。 ス ペ ー サ フ リ ー パ ネ ル と 低 温 封 着 材 料 を 用 い て 10 - 5 Paの 真 空 度 を 有 す る 封 止 パ ネ ル を 実 現 し た 。 以 上 の 技 術 を 用 い て 、 10 イ ン チ F E D パ ネ ル の 性 能 評 価 を 行 い 、 発 光 効 率 が 7 ル ー メ ン ( 1m) / W以 上 で あ る こ と を 検 証 し た 。 2-2-2-1 「 ② -1 パ ネ ル 化 技 術 の 開 発 」 2-2-2-1-1 「 ② -1-1 高真空パネル構造の開発」 旭硝子株式会社 a. 開 発 の 目 的 電子放出源の多種多様な開発に比べると、実用的なパネル構造や容器材料について は、高真空のパネル容器内部にスペーサ(支柱)を立てることのみの検討に終始して きて十分ではなかった。スペーサの存在は、高真空下で電子線を加速させる原理に基 づ く FED が 有 す る 高 画 質 、 高 信 頼 性 、 低 コ ス ト 等 の 優 位 性 を 損 な う 要 因 と な っ て い る 。 特 に 、 ス ペ ー サ の 存 在 が 加 速 電 圧 を 10k V 以 下 に 事 実 上 制 限 し て お り 、 LCD や PDP に 対 す る 高 輝 度 の 優 位 性 を 発 揮 し 得 な い 点 は 、 FED の 商 品 性 を 左 右 す る 懸 念 材 料 と し て ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ て い る 。 こ の た め 、 ス ペ ー サ を 除 去 し た 構 造 の 実 現 が 、 FED が 本 来有する性能を発揮する上で不可欠であると判断した。 本研究の目的は、大画面化が容易であり、スペーサを不要とするパネルの基本構造と そ の 製 造 技 術 を 確 立 し て 、 高 画 質 と 低 コ ス ト が 両 立 可 能 な FED パ ネ ル 構 造 を 実 現 す る ことである。具体的には、スペーサフリーパネルの容器コンセプトを確立し、容器 205 構造の基本設計、材料および製法に関する要素技術の開発を実施することである。 さらに、これらの要素技術を集積して、フロントガラスの試作、パネル容器の組立て、 特性評価を行い、パネル容器構造の実用性についての実証を行なうことである。 b. ス ペ ー サ フ リ ー パ ネ ル 構 造 の 開 発 コ ン セ プ ト ス ペ ー サ が な い 大 型 の FED パ ネ ル 容 器 構 造 で は 、 特 に 機 械 的 長 期 信 頼 性 と 重 量 の 点 に課題がある。従来技術のみでは、これらの課題の解決をなし得ず、スペーサフリー パネルを実現できなかった。即ち、従来の技術のみで容器を組立てた場合、排気によ り発生する引張応力、いわゆる真空応力が、パネルの封着部において封着材料の強度 の十倍程度となり、ガラスの肉厚を実用的範囲とすると有効画面の周辺においてガラ スの強度の数倍程度となる。また、真空応力を設計上の許容応力以下に低減しようと すると、非現実的な重さとなる。一方、軽量化のために薄くしようとすると、前記真 空応力に耐えられるように、物理強化法等によりガラス強度の向上が必要となる。し かし、物理強化法を採用した場合、後工程の熱プロセスによって発生するガラス特有 の熱収縮、いわゆるコンパクションが増大する問題を生じる。さらに、コンパクショ ン を 低 減 す る た め に は 、 従 来 の 440℃ 程 度 の 封 着 温 度 よ り 大 幅 に 下 回 る 低 温 で の 封 着 が必要となる。しかし、実用的な特性を具備した封着材料は供与されていなかった。 即 ち 、 従 来 技 術 で 実 用 的 な 大 型 の ス ペ ー サ フ リ ー FED パ ネ ル を 実 現 す る こ と は 困 難 で あ り 、 新 し い 技 術 コ ン セ プ ト を 導 入 す る 必 要 が あ っ た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-1 に 、 模 図 的 に スペーサフリーパネル容器を構成する技術コンセプトを示す。 最初に、スペーサフリーパネルの基本容器構造として、封着部における真空応力を 大幅に低減可能な耐圧機能と気密封着機能を分離する構造を新たに考案した。この基 本構造は、板状のリアガラス、箱型形状のフロントガラス、周辺補強部材、金属製の リアプレートから構成される。 リアガラスは、電子源形成の高温プロセ スが不可避なため、従来と同様に板状の高 歪点ガラスを採用した。他方、フロントガ ラスとしては、スペーサフリー構造の強度 スペーサフリーパネル構造 耐圧と気密封着機能の分離 高歪点板状 リアガラス 箱型形状フロントガラス (プレス成型) 上有利な、枠部分も含めて一体化した箱型 低歪点ガラス新組成 [熱膨脹合わせ] 熱膨脹合わせ]) 形状を採用した。ただし、容器内を排気し 易強化/低密度ガラス新組成 た後ガラスが撓むという問題への対処の必 要性から、フロントガラスのフェース部に 周辺補強部材 新物理強化法 [NTPQ] (強化応力向上 ⇔熱収縮抑制) リアプレート(サンド イッチハニカムパネル) 低温封着材料 (350~ 350~400℃ 400℃封着) は、その撓み分を予め補正した非球面曲面 を採用した。さらに、電子源から蛍光体ま 図Ⅲ-2-2-2-1-1 スペーサフリーパネル で の 距 離 が 高 々 2、 3mm 程 度 と 極 め て 内 高 が 容器を構成する技術コンセプト 浅い特殊形状のため、それに適したプレス 成型技術の開発を実施した。 一方、高歪点ガラスを用いて、プレス成型法により箱型のフロントガラスに成型す るには種々の難点があり実用性に乏しいと判断した。また、蛍光体画素を形成するフ 206 ロントガラスは、リアガラスと比較すると、その熱処理プロセス上大きなコンパク ションにはならず、高歪点ガラスである必要性は必ずしもなかった。これらのことを 総 合 的 に 判 断 し 、 成 形 性 を 確 保 す る た め に 新 た に FED フ ロ ン ト ガ ラ ス 用 の 低 歪 点 ガ ラ ス 組 成 を 開 発 し た 。 加 え て 、 更 な る 軽 量 化 の 達 成 を 意 図 し た 易 強 化 /低 密 度 ガ ラ ス 組 成をも開発した。 また、実用的なガラス厚みのフロントガラスを実現するために、新たなガラスの高 強度化手法の導入が必要であったが、本プロジェクトでは、低コンパクションという 長所を有する新たな物理強化法を開発した。 加えて、コンパクションを実用的なレベル内に抑制するためには、低温での封着が 必須であった。しかし、既存の封着材料を用いて低温で封着した場合、強度が全く不 足し、可能性を見出せなかった。このため、後述する低温封着材料が実用的なスペー サフリーパネルの実現に不可欠の要件となっている。 他方、リアガラスは、幾重のエミッタ形成プロセスをも経ることから利便性を考慮 し ガ ラ ス 厚 み は 2.8mm 以 下 に 設 計 し た 。 し た が っ て 、 フ ロ ン ト ガ ラ ス と 同 様 に 、 排 気 後のリアガラスの撓みを抑制する手段が必要であった。このため、リアガラスの背後 に補強板として金属性のリアプレートを設けたが、その重量の容器全体に占める割合 が無視できないことから、軽量化を目的とするサンドイッチハニカムパネルを導入し た。 c. ス ペ ー サ フ リ ー パ ネ ル の 基 本 構 造 スペーサフリーパネル構造を設計面で検討する最大の目的は、封着部に発生する真 空応力を大幅に低減した実用的な容器構造を具体化することである。このため、有限 要 素 法 に よ り 、 真 空 応 力 の 解 析 を 行 い 、 少 な く と も 封 着 部 の 応 力 が 20MPa 以 下 に な る 構造を探索した。 100 を 超 え る 種 々 の モ デ ル に つ い て 構 造 解 析 し た 結 果 、 最 終 的 に は ス ペ ー サ フ リ ー パネル構造として耐圧と気密封着の機能分離型の構造を考案し、封着部の最大真空応 力 を 従 来 の 96MPa か ら 8MPa 以 下 に 低 減 で き た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-2 に 、 基 本 構 造 の 1/4 部分、周辺構造、モック リアプレート アップモデルの写真を示す。 耐圧支持 図のように、パネル容器は、 配線用ゲート 補強部材 フロントガラス、リアガラ ス、リアプレート、周辺補 強部材で構成されているが、 主にガラス部材とその封着 気密封着 電子放出空間 周辺構造イメージ 部が気密封着機能を、主に フロントガラス 周辺補強部材が耐圧機能を リアガラス 担っている。即ち、気密封 基本構造イメージ(1/4部分) 着されたガラス容器の外側 において、リアプレートを 図 Ⅲ -2-2-2-1-2 207 スペーサフリーパネルの基本構造 リアガラスに接着して補強し、フロントガラスの周辺部に周辺補強部材を接着材を介 在させて拘束し、さらに周辺補強部材をリアプレートに剛接した構造である。 図 Ⅲ -2-2-2-1-3 に 、 外 径 40 吋 の 容 器 で の 封 着 部 の 真 空 応 力 の 計 算 結 果 を 示 す 。 図に示したように、周辺補強部材が無 い場合には、封着部の最大真空応力が (a) 周辺補強部材有 96MPa 程 度 と 大 き く 、 一 方 、 周 辺 補 強 (b) 周辺補強部材無 部材を設けた場合には、封着部の最大 真 空 応 力 が 8MPa ま で 低 減 で き た 。 ま た 、 の最大真空応力が負荷されている。し かし、金属の接合強度から判断すると 許容範囲内である。即ち、封着域に発 生する曲げモーメントをガラス接合部 50 引張 真空応力 (MPa) て い る 金 属 接 合 部 分 に は 、 25MPa 程 度 (a)-2 0 -50 と金属接合部に分担させることにより (b)-1 (a)-2 (b)-1 (a)-1 0 (a)-1 100 圧縮 周辺補強部材をリアプレートと接合し 0 5 10 封着部内端および接合部内端からの距離(mm) ガラス封着部の最大真空応力を低減し、 図 Ⅲ -2-2-2-1-3 外 径 40 吋 の 容 器 で の 許容レベル以下に抑制できた。 封着部の真空応力計算結果 但 し 、 図 Ⅲ -2-2-2-1-4 に 示 す よ う に 、 周辺補強部材を設けることによって、 フェース端部に発生する真空応力は、周 40MPa 57MPa 辺補強部材がフロントガラス周辺部を強 く拘束するため、周辺補強部材がない場 合に比べて 4 割程度増加する。したがっ て、少なくとも真空応力が高いフェース 周辺部のガラス強度を大幅に高めること が必要であった。 (a)周 辺 補 強 部 材 無 ( b) 周 辺 補 強 部 材 有 図 Ⅲ -2-2-2-1- 4 周辺補強部材の有無 によるフェース端部での真空応力の違い d. 易 強 化 ・ 低 密 度 ガ ラ ス 組 成 従 来 、 FEDに 用 い ら れ る ガ ラ ス 基 板 に は 、 エ ミ ッ タ を 形 成 す る リ ア ガ ラ ス も 画 素 を 形成するフロントガラスも同種類のガラス組成を用いてきた。本開発においては、ス ペーサフリー容器構造を実現する必要上、画素形成基板として用いるフロントガラス を前述のように底が浅い箱型形状にしている。プレス成型法を用いた場合、既存の高 歪点ガラスでは、かなり高温での溶解や成型を要し種々の問題を生じる。これらの課 題を解決することを目的に、第一段階として膨張係数をリアガラスと整合させたまま で フ ロ ン ト ガ ラ ス を 低 歪 点 化 し た 組 成 を 開 発 し た 。 今 回 、 10 イ ン チ 画 面 表 示 用 と し て 試作したフロントガラスには、第一段階で開発した組成を用いている。ところで、軽 量化の観点からは、極力低密度化することが重要である。他方、プレス成型後に強化 を 開 始 す る と 既 に ガ ラ ス 粘 度 は 10 1 1 dPa・s程 度 に ま で 上 昇 し て お り 内 部 の 応 力 緩 和 が 生じにくいため、必然的に付与される強化応力は小さくなる。また、粘性の低い領域 208 から強化を開始する場合に比較して、一時的に発生して強化途中の割れの原因となる 引張応力(以降、一時引張応力と呼ぶ)が急上昇することから割れ易いという問題が あり、大きな表面圧縮応力を付与することが困難であった。このため、第二段階とし て、低密度化と大きな強化応力を確保するための易強化を目的として、ガラス組成を 開発した。 基本的には、三元アルカリ酸化物を含むアルカリ-アルカリ土類-シリケートガラ スの開発であるが、高い絶縁特性と耐電子線ブラウニング特性を確保するため、アル カ リ 酸 化 物 に つ い て は Li 2 O、 Na 2 O、 K 2 Oか ら 成 る 三 元 系 と し た 。 ま た 、 高 温 粘 性 お よ び 低温粘性を適正な範囲内に入れるため、主にアルカリ土類酸化物で調整した。 一方、易強化という概念を確立するため、組成に対して表面に残留する圧縮応力と 一時引張応力の依存性を確認する目的で、組成を変えたガラス数十種類の特性を評価 し、その中から絞り込んだガラス組成について平板ガラスを作製し強化試験、各種物 性データに基づく強化シミュレーション(粘弾性解析)を行った。 表 Ⅲ -2-2-2-1-1 に 、 最 終 的 に 候 補 組 成 と し て 選 定 し た 低 歪 点 / 低 密 度 ガ ラ ス 組 成 ( NFL)、 第 一 段 階 で 選 定 し た 低 歪 点 /高 密 度 ガ ラ ス 組 成 ( FH)、 お よ び リ ア ガ ラ ス の 高 歪 点 ガ ラ ス 組 成 ( RH) の 主 な 物 性 値 を 示 す 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-1 最終候補組成とその他のガラスの主な物性値 各種物性 リアガラス 高 歪 点 、 RH 熱 膨 脹 率 (10 7 /℃ ) 密 度 ( g/cm 3 ) 歪 点 (℃ ) 徐 冷 点 (℃ ) 軟 化 点 (℃ ) ヤング係数 (MPa) ポアソン比 ブリトルネス (μ m - 1 / 2 ) 83 フロントガラス 低 歪 点 /低 密 低 歪 点 /高 密 度 、 FH 度 、 NFL 84 83 2.8 570 620 830 76 3.0 498 541 724 73 2.5 478 522 715 73 0.24 7.8 0.21 8.5 0.19 7.3 図 Ⅲ -2-2-2-1-5 に 、 表 Ⅲ -2-2-2-1-1 の 候 補 組 成 の 物 性 デ ー タ に 基 づ く 強 化 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 結 果 を 示 す 。 な お 、 計 算 は 風 冷 時 の 熱 伝 達 係 数 が 180 W/m 2 Kの 場 合 で 、 強化により残留する表面圧縮応力と一時引張応力は表面圧縮応力の応力の最大値で正 規 化 し て い る 。 図 中 の FHは 低 歪 点 /高 密 度 ガ ラ ス 組 成 、 Glass Aは 低 密 度 ガ ラ ス 組 成 で は あ る が 低 密 度 ガ ラ ス 組 成 の NFLと 異 な る 組 成 を 表 す 。 粘 性 は 強 化 開 始 時 点 の 粘 性 を 表す。 209 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 図 Ⅲ -2-2-2-1-5 1.0 ▲FH ●NFL ◆Glass A 7 8 9 10 11 12 粘性 (log η [dPa・s] ) 0.0 13 基準化した表面の一時引張応力 基準化した残留 する表面圧縮応力 1.0 候補組成の物性データに基づく強化シミュレーションの結果 図 に 示 す よ う に 、 プ レ ス 成 型 後 の ガ ラ ス 粘 性 が 10 1 1 dPa・s以 上 で あ る こ と か ら 、 強 化 圧縮応力の組成依存性は小さくなり、逆に一時引張応力の組成依存性が高くなる。こ れより、大きな強化圧縮応力が得られる組成を最優先に選別するよりは、むしろ強化 時の割れを防ぐために一時引張応力を可能な限り小さくできる組成の方が望ましいこ とがわかる。選択する組成で、一時引張応力が小さい分、大きな強化応力を付与でき る 。 従 っ て 、 最 終 候 補 組 成 と し て 、 最 も 一 時 引 張 応 力 が 小 さ く な る NFLを 選 定 し た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-6 に 、 候 補 組 成 の 密 度 と 割 れ 難 さ の 指 標 と し て ブ リ ト ル ネ ス と の 関 係 を 示 す 。 図 中 の Glass A と Glass B は 、 そ れ ぞ れ 低 密 度 ガ ラ ス 組 成 で NFL と 異 な る 組 成 を 示 す 。 図 は 、 NFL が 最 も ブ リ ト ル ネ ス が 小 さ い こ と を 示 し て い る 。 つ ま り 、 NFL は最も割れが生じ難いことから、最も風冷の強度を高めるためことが可能であり、付 ブリトルネス (μm-1/2) 与可能な強化圧縮応力が最も大きくなることを示す。 ●NFL ●Glass A ●Glass B ◆RH ▲FH 2.4 2.6 2.8 3 密度 (g/cm ) 3.0 図 Ⅲ -2-2-2-1-6 候 補 組 成 の 密 度とブリトルネスとの関係 4. フロントガラス高精度成型技術 極めて底が浅い箱型形状を有するフロントガラスの成型技術として、プレス成型法 を選択し、内面曲率等に要求される高精度化のためのプレス技術の基本条件を確立し た。 210 底の浅い箱型形状フロントガラスは、プレス成型が難しいと予測されていたが、プ ロ ジ ェ ク ト 当 初 よ り 2005 年 6 月 ま で 数 次 に 亘 る 各 種 の 予 察 試 験 を 経 て 最 終 的 に は 、 2005 年 9 月 に 旭 硝 子 高 砂 工 場 の 量 産 設 備 に て 本 試 作 を 実 施 し 、 目 標 と す る フ ロ ン ト ガ ラス高精度成型技術を確立した。 予察試験では、欠点なく所定の形 3 状を得るための成型条件の最適化 2.5 図 7 に、予察試験 2 から得られたデータの一例として 1.5 金型温度と相対変位量との関係を 示す。相対変位量は、フェース中 央を基準とした場合のコーナー部 相対変位量[mm] に注力した。 の変位量である(相対変位量は、 内 面 曲 率 精 度 を 表 す )。 ま た 、 金 型温度は、ゴブを投下する直前の 下金型の対角部の温度である。図 のように、内面曲率精度と 2004/9/6 2004/10/12 2004/11/16 2004/12/7 2004/12/9 2005/2/1 2005/3/22 2005/3/24 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 400 450 500 550 600 金型温度[℃] 図 Ⅲ -2-2-2-1-7 金型温度と相対変位量との関係 金型温度との相関性が得られた。 この他の検討からは、フロントガラスの形状を安定化させるために、金型上でのゴブ を扁平化する成型条件の確立と金型の嵌合精度を高めることが重要であると判明した。 こ れ ら の 結 果 を 踏 ま え て 本 試 作 時 に 対 策 を 講 じ て 、 表 Ⅲ -2-2-2-1- 2 に 示 す よ う な 仕 様 のフロントガラスを試作した。試作サンプルの内面曲率精度は、試作途中のサンプル を 抜 き 出 し 、 3 次 元 測 定 機 で 調 べ た 結 果 、 ±0.075mm を 達 成 し て お り 実 用 レ ベ ル に あ る こ と を 確 認 し た 。 な お 、 外 径 13 吋 の フ ロ ン ト ガ ラ ス を 別 途 試 作 し 、 電 子 源 評 価 用 フ ロントガラスとして三菱電機殿に供与した。 表 Ⅲ -2-2-2-1-2 MM 外 径 [mm] 中 央 肉 厚 [mm] 全 高 [mm] シ ー ル エ ッ ジ 外 径 [mm] シ ー ル エ ッ ジ 幅 [mm] 内面形状 外面形状 強化応力 試作フロントガラスの仕様 376.00x276.00x452.17 (17.80inch) 10.00 13.15 375.00x275.68x451.86 17.10x17.10x18.88 RD: R160000, RH: R100000, RV: R55000 R56000 フ ェ ー ス 端 部 の 圧 縮 応 力 80 [MPa]以 上 e. NTPQ 法 に よ る 部 分 強 化 フ ロ ン ト ガ ラ ス ( 1 ) 高 強 度 化 手 法 の 選 択 と NTPQ 法 高強度化の手法の導入にあたり、ガラスを急冷して表面に圧縮応力を残留させる物 211 理強化法と、イオン半径の大きいイオンに交換しガラス表面に圧縮応力を形成する化 学強化法(平行研究として開発していた電界アシスト型部分強化法)の両高強度化手 法を比較検討したが、コスト的に優位にあることと信頼性の観点から比較的厚い強化 層厚みが得られることを重視し、物理強化法を開発することとした。 プレス成型後に強化を実施する場合、強化開始時の粘性が高くなり応力緩和が限ら れ従来の物理強化法では、より大きな強化圧縮応力を付与することが困難であった。 これを解決するために、従来の一様に表面全体を冷却する物理強化法と異なる部分強 化 法 ( N on-uniform T empering by P artial Q uenching、 以 降 は NTPQ法 と 呼 ぶ ) を 考 案 した。 NTPQ 法 は 、 割 れ の 原 因 と な る 真 空 応 力 が 大 き い フ ェ ー ス 端 部 に 選 択 的 か つ 部 分 的 に より大きな強化応力を付与することが可能である。したがって、比較的高い粘性領域 からでも大きな強化応力を得ることが可能で、さらにコンパクションを低減できる長 所を有する。 最初に、予察的に強化および冷却変形評価装置を製作し平板ガラスを用いた部分冷 却実験を行い、冷却開始粘性と得られる表面圧縮応力の関係を確認した。その結果、 NTPQ法 に よ っ て 、 ガ ラ ス の 板 厚 が 5mmの 場 合 、 強 化 開 始 時 の ガ ラ ス 粘 性 が 10 1 1 dPa・s 程 度 で も 、 熱 伝 達 係 数 が 100 W/m 2 K程 度 で 80MPa程 度 の 表 面 圧 縮 応 力 が 導 入 可 能 で あ る と判明した。 (3)強化フロントガラスの試作とその強化応力分布 予 察 検 討 結 果 に 基 づ い て 、 NTPQ 法 に よ る 外 径 18 吋 の フ ロ ン ト ガ ラ ス の 試 作 を 実 施 し そ の 有 効 性 を 確 認 し た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-8 に 、 NTPQ 法 の 強 化 装 置 本 体 の 概 略 を 示 す 。 図のように、フロントガラス外面(強化装置下側)のフェースの短軸端、長軸端に、 NTPQ 用 に ス リ ッ ト か ら 空 気 が 出 る タ イ プ の 冷 却 ノ ズ ル を 設 け た 。 また、フロントガラス内面(強化装置上側) のコーナー部には、表面での引張応力の発生 を防ぐための円筒状の冷却用ノズルを設けた。 フロントガラスは、外面コーナーの4点で、 耐熱性がありガラスとの温度差の付き難い材 料 で 支 持 し た 。 冷 却 時 の 熱 伝 達 係 数 は 、 120 ~ 150 W/m 2 K、 冷 却 開 始 粘 性 は 10 1 1 dPa・s以 上 、 冷 却 時 間 は 120~ 300 秒 と し た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-8 フロンガラス の強化装置 NTPQ 法 に よ る 形 成 さ れ た 強 化 圧 縮 応 力 分 布 は 、 折 原 製 作 所 製 の バ ビ ネ 型 の 表 面 圧 縮 応 力 計 BTP-M を 用 い て 評 価 し た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-9 に 、 NTPQ 法 と 従 来 の 全 体 を 一 様 に 冷 却する方法(全体冷却)により付与された表面圧縮応力分布の比較を示す。図中には、 フ ェ ー ス の 1/4 部 分 に 発 生 す る 真 空 応 力 分 布 を 示 し た 。 赤 線 の 四 角 で 囲 っ た 部 分 に 大 きな真空応力(引張応力)が形成されているので、その領域において部分的に冷却を 強めている。 212 y 部分冷却領域 短軸 真空応力分布[引張] (1/4部分を表示) 長軸 x 160 160 140 140 120 NTPQ法 100 80 部分冷却領域 60 40 全体冷却 20 表面圧縮応力 [MPa] 表面圧縮応力 [MPa] 0 NTPQ法 120 部分冷却領域 100 80 60 40 全体冷却 20 0 0 0 50 100 150 長軸(x)からの距離(短軸上)[mm] 図 Ⅲ -2-2-2-1-9 0 50 100 150 短軸(y)からの距離 [mm] NTPQ 法 と 全 体 冷 却 に よ り 付 与 さ れ た 表 面 圧 縮 応 力 分 布 の 比 較 図に示すように、従来の全体冷却の場合、表面圧縮応力はフェース全体でほぼ一様で あ る の に 対 し 、 NTPQ 法 の 場 合 に は 真 空 応 力 の 大 き な 領 域 ( フ ェ ー ス 端 部 ) に の み 十 分 大きな表面圧縮応力を付与できる。即ち、フェース端部での表面圧縮応力は、フェー ス 端 部 の 真 空 応 力 に 基 づ い て 機 械 的 長 期 信 頼 性 を 維 持 す る こ と と 、 NTPQ 法 に よ る 強 化 応 力 付 与 レ ベ ル を 確 認 す る た め に 設 定 し た 目 標 の 80MPa を 大 き く 上 回 る 150MPa 以 上 を 付 与 で き た 。 な お 、 NTPQ 法 に よ る 構 造 評 価 用 フ ロ ン ト ガ ラ ス の コ ン パ ク シ ョ ン 特 性 については、次のパネル開発と特性評価で説明する。 (4)フロントガラスのコンパクション特性 一般に急冷して強化応力を残留させる強化ガラスの場合、ガラス転移領域を通過す る際の冷却速度が大きいことから、より高温の構造が凍結された、言い換えれば平衡 状態から大きくかけ離れた非平衡のガラス構造を有する。このため、熱処理を受けた 際に安定な構造に緩和しようとしてコンパクション(熱収縮)が大きくなる問題を生 じ る 。 試 作 し た NTPQ 法 に よ る 試 作 サ ン プ ル に つ い て 、 熱 処 理 条 件 と コ ン パ ク シ ョ ン 量との関係を把握すると共に実用的な封着温度領域を確認した。 コンパクション量は、サンプルのフェース外面の2点に圧痕を打ち、熱処理前後で の圧痕の間隔の差を測定することによって、コンパクション量を測定した。 213 図 Ⅲ -2-2-2-1-10 に 、 NTPQ 法 と 600 全体冷却での熱処理温度とコンパ 各熱処理温度において、サンプル を1時間保持した。図中の説明欄 に記載した数値は、フェース端部 で測定された表面圧縮応力値であ る 。 ま た 、 図 中 の 全 体 冷 却 ( フ ェー ス 500 コンパクション量(ppm) クション量との関係を示す。なお、 ■ □ ● ○ ▲ NTPQ (フェース端部=93MPa) 全体冷却(フェース端部=93MPa:推定) NTPQ (フェース端部=68MPa) 全体冷却(フェース端部=58MPa) 徐冷 (フェース端部= 3MPa) 400 300 200 100 端 部 93MPa : 推 定 ) は 、 そ の 他 の コンパクションと表面圧縮応力の 0 300 測定結果に基づいて外挿によって 求めたものである。図において、 350 400 熱処理温度(℃) NTPQ サ ン プ ル ( フェース端 部 =68MPa) 図 Ⅲ -2-2-2-1-10 の熱収縮曲線と全体冷却サンプル 処理温度とコンパクション量との関係 450 NTPQ法 と 全 体 冷 却 で の 熱 ( フ ェ ー ス 端 部 =58MPa ) の 熱 収 縮 曲 線 を 比 較 す る と 、 NTPQ サ ン プ ル の 場 合 、 フ ェ ー ス 端 部 で の 表 面 圧 縮 応 力 が 全 体 冷 却 サ ン プルの場合に比べて大きいにもかかわらず、熱処理温度に無関係にコンパクション量 は 相 対 的 に 小 さ い 。 即 ち 、 NTPQ 法 は フ ェ ー ス 端 部 を 選 択 的 に 急 冷 し て い る こ と か ら 端 部の収縮は大きいが、フェース中央部は冷却が比較的弱く収縮は小さくなる。コンパ クションそのものは平均値として観測されるのでフェース全体に必要な強化応力を一 様に付与した場合に比べて、コンパクションが小さくなる。また、フェース端部の表 面 圧 縮 応 力 が よ り 大 き い 場 合 、 つ ま り NTPQ サ ン プ ル ( フェース端 部 =93MPa: 推 定 ) の 熱 収 縮 曲 線 と 全 体 冷 却 サ ン プ ル ( フェース端 部 =93MPa) の 熱 収 縮 曲 線 を 比 較 す る と 、 両 者 の コ ン パ ク シ ョ ン の 差 が 顕 著 で あ る 。言 い 換 え る と 、 表 面 圧 縮 応 力 が 大 き け れ ば 大 き い ほ ど 、 NTPQ 法 に よ る コ ン パ ク シ ョ ン 低 減 効 果 が 大 き い 。 他 方 、 従 来 の 半 田 ガ ラ ス に よ る 封 着 を 想 定 し た 場 合 の 熱 処 理 温 度 440℃ に お い て は 、 強化サンプルのいずれもが、色ずれなどで問題とならない許容限度と想定される 100ppm を 大 き く 超 え る 300ppm 以 上 と な る 。 NTPQ 法 の 熱 収 縮 曲 線 か ら は 、 NTPQ の 場 合 で も 封 着 温 度 を 高 く て も 370℃ 未 満 に し な け れ ば 目 標 と す る 100ppm 以 下 の コ ン パ ク シ ョ ン を 達 成 で き な い こ と が 容 易 に 判 る 。 以 上 に よ り 、 NTPQ 法 が コ ン パ ク シ ョ ン 上 有 利であることを実証できたが、実用レベルのコンパクションに抑えるためには、 370℃ 未 満 で の 低 温 封 着 を 組 み 合 わ せ る こ と が 必 須 で あ る と 判 明 し た 。 f. パ ネ ル 容 器 製 作 と 特 性 評 価 ( 1) パ ネ ル 容 器 の 組 み 立 て 容 器 の 組 立 て 工 程 と し て は 、( 1 ) フ ロ ン ト ガ ラ ス と リ ア ガ ラ ス と の 接 着 、( 2 ) リ ア ガ ラ ス と リ ア プ レ ー ト と の 接 着 、( 3 ) フ ロ ン ト ガ ラ ス 、 リ ア ガ ラ ス 、 リ ア プ レ ー ト が 一 体 に な っ た も の と 周 辺 補 強 部 材 の 接 着 と 接 合 が 必 要 と な る 。 特 に 、( 1 ) の 工 程 で は 封 着 部 の 気 密 性 確 保 、 (2) の 工 程 で は 大 面 積 接 着 の 信 頼 性 確 保 と 割 れ の 防 止 、 214 (3)の工程では各部の反りと割れの防止が課題となる。なお、割れの防止と反りの 防 止 は 、( 1 ) の 工 程 で も 注 意 す る 必 要 が あ る 。 こ れ ら の 課 題 に 対 し て 検 討 し 、 基 本 的な組立てプロセスをした。なお、プライマー処理、樹脂塗布方法の詳細内容につい ては、後述する低温封着技術開発で報告する。 図 Ⅲ -2-2-2-1-11 に 、 容 器 組 立 て プ ロ セ ス の フ ロ ー を 模 図 的 に 示 す 。 フロントガラス リアガラス ゲッター用電極 プライマー1 プライマー2 プライマー2 排気管 ペースト塗布 貼り合わせ プリベーク リアプレート プライマー1 プライマー2 プライマー2 ペースト塗布 ペースト塗布 ペースト塗布 貼り合わせ 周辺補強部材 プリベーク プリベーク プライマー2 貼り合わせ(位置決め) ポストベーク ポストベーク プライマー2 ペースト塗布 図 Ⅲ -2-2-2-1-11 貼り合わせ ポストベーク ペースト塗布 容器組立てプロセスのフロー フロントガラスとリアガラスとの接着での気密性確保については、真空度劣化の要 因となるゲッター用電極の近傍の泡を抑制し、ゲッター電極との濡れ性を確保した。 前者については、フロントガラスのシールエッジのゲッター電極と接する部分を溝加 工し、ゲッタ電極をその溝に埋め込むことにより、荷重が加わるようにして脱泡効果 を高めて抑制した。後者については、予め電極に高温で低粘度のペーストをプレコー トする工程を設けた。 リアガラスとリアプレートとの大面積接着については、未接着部分を発生させない ようにした。特に、両者を貼り合わせるプロセスを考慮して、接着材を塗布した貼り 合わせの表面が十分に平滑である必要性と、厚膜化と塗布の容易性から、ブレード コーター法を選択した。また、封着材料の開発途中で、高温強度を高める必要性から 樹脂の溶融粘度を大きくしたことが、樹脂の流動性を低めて未接着部分を発生し易く した大きな要因となっていた。このため、貼り合わせプロセスとプリベークプロセス との順序を入れ替え、さらにプリベークの時間を延長した。一方で、最初に両者を貼 り合わせるため、ペースト分散媒が残存し、発泡する問題を生じたが、プリベーク時 に分散媒除去のための焼成ステップを付け加えることで解決した。パネル容器特性を 評 価 す る た め 、 本 プ ロ セ ス を 用 い て 外 径 18 吋 の 容 器 を 試 作 し た 。 (2)パネル容器の機械的長期信頼性と機械的安全性の評価 FED 容 器 は 高 真 空 容 器 で あ る こ と か ら 、 使 用 中 に 疲 労 破 壊 が 起 こ ら な い こ と と 衝 撃 によって容器が破壊しても安全性が確保されることが不可欠である。 機 械 的 長 期 信 頼 性 に 関 し て は 、 圧 力 試 験 容 器 を 用 い て 18 吋 容 器 サ ン プ ル の 耐 水 圧 試 215 験を実施した。なお、試験前に、ディスプレイとして使用期間中に付加される傷と等 価 で あ る と 考 え ら れ て い る #150 の 紙 や す り に よ る 加 傷 を フ ロ ン ト ガ ラ ス 前 面 に 施 し た 。 ま た 、 昇 圧 速 度 は 、 約 0.005 MPa/s と し た 。 耐 水 圧 試 験 の 結 果 は 、 全 て が 0.24 ~ 0.32MPa の 範 囲 の 強 度 に あ り 、 長 期 信 頼 性 の 観 点 か ら は 十 分 で あ っ た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-12 に 、 耐 水 圧 試 験 を 実 施 し た サ ン プ ル の 亀 裂 パ タ ー ン を 示 す 。 一 方 、 衝 撃 に 対 す る 機 械 的 安 全 性 の 評 価 の た め に 、 国 際 的 に CRT の 安 全 規 格 と し て 運 用 さ れ て い る 新 IEC 規 格 で の 試 験 を 実 施 し た 。 試 験 で は 、 直 径 40mm、 質 量 260g の 鋼 球 を 容 器 の フ ェ ー ス 前 面 に 、 位 置 エ ネ ル ギ ー 5.5J に 相 当 す る 高 さ か ら 落 下 さ せ て 打 撃 す る 。 各 容 器 の 構 成 部 材 は 耐 水 圧 試 験 の 場 合 と 同 じ で あ る 。 打 点 は 、 NTPQ 法 に よ っ て高強度化しているフェース端部である。 衝撃試験の結果は、危険な破壊直後に大量のガラスの破片がパネル前面に飛び出る 爆 縮 現 象 は 発 生 せ ず 、 ガ ラ ス の 飛 散 も 少 な く 安 全 性 を 実 証 で き た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-13 に、衝撃試験を実施したサンプルを示す。 図 Ⅲ -2-2-2-1-12 耐水圧試験サン プルの亀裂パターン 図 Ⅲ -2-2-2-1-13 衝 撃 試 験 サンプルの亀裂パターン 7.パネル容器の大型化と軽量化に関する検討 (1)大画面用パネル容器の検討 前 述 し た よ う に 、 外 径 18 吋 の 容 器 を 試 作 し 、 そ の 諸 特 性 の 評 価 の 結 果 、 本 開 発 の スペーサフリーパネル容器構造が十分実用性を有することを実証できた。本容器構造 が 、 大 型 化 ( 40 吋 相 当 以 上 ) し た 場 合 に も 適 用 可 能 か ど う か 、 外 径 40 吋 の フ ロ ン ト ガラスからなる容器仕様について検証した。 検討にあたっては、適正な範囲のプレス圧力による成型の可否、必要な強化応力導 入のための強化開始温度範囲がポイントとなる。このため、数値解析によって、フロ ントガラスの形状を考慮してプレス時の加圧力を求める計算、フロントガラスと金型 の成型中での各温度履歴を求める計算、その温度履歴と冷却条件に基づく強化によっ て残留する表面圧縮応力と前述した強化途中の割れの原因となる一時引張応力を求め る計算の3種を実施した。 解 析 の 前 提 と な る 、 外 径 40 吋 の フ ロ ン ト ガ ラ ス の 仕 様 は 、 中 央 肉 厚 13mm 程 度 、 シ ー ル エ ッ ジ 幅 9mm以 上 、 表 面 圧 縮 応 力 150MPa程 度 と し た 。 こ の 仕 様 に 対 し て 、 既 有 プ レ ス 機 の 加 圧 能 力 か ら は 中 央 肉 厚 10mm程 度 ま で の プ レ ス は 可 能 と 推 定 で き た 、 ま た 、 216 高強度化のためになるべく高い温度で強化を開始する必要があるが、成型終了後の強 化 開 始 時 の ガ ラ ス 温 度 が 570℃ 程 度 で 表 面 圧 縮 応 力 150MPa程 度 が 得 ら れ る 可 能 な こ と も判明した。また、強化処理の際に一時的に発生し破壊の原因となる引張応力(一時 引 張 応 力 ) が 問 題 と な る が 、 冷 却 能 が 熱 伝 達 係 数 100~ 150 W/m 2 Kの 冷 却 条 件 で 、 一 時 引 張 応 力 は 40MPa以 下 で 、 表 面 圧 縮 応 力 150~ 160MPaの 強 化 応 力 が 得 ら れ る こ と が わ かった。以上のように、フロントガラスの要素技術として開発した成型技術と高強度 化技術は、大型化容器の場合にも適用可能であることを確認した。 (2)軽量化に関する補完的検討 スペーサフリーパネル容器構造を実用化する上で、更なる軽量化が不可欠であると 判断し、リアプレート用のサンドイッチハニカムパネルの導入と、フロントガラスの 低密度化によって、どの程度の軽量化が可能か推定した。 特に、容器全体の重量に対してリアプレートが占める割合が大きいことからリアプ レートの軽量化が必須であった。このた め、十分な剛性を維持し、かつ軽量化に コア 面材 枠材 有効なサンドイッチハニカム構造を導入 した。サンドイッチハニカムパネルは、 図 Ⅲ -2-2-2-1-14 に 示 す よ う に 、 面 材 2 枚とその間に存在するコア部、さらにプ レート周辺の枠材から構成される。コア 材は、ハニカム構造で、蜂の巣状断面の ハニカムコア 図 Ⅲ -2-2-2-1-14 サ ン ド イ ッ チ ハニカムパネルの断 面とハニカムコア 効果によって面に垂直な方向の力に対して強く、薄い材料を用いることが可能なこと から大幅な軽量化が可能である。サンドイッチハニカムパネルの曲げ剛性は、2枚の 面材の断面積と、面材間距離で決まる。コアの高さを大きくすると、面材の厚みは小 さくても剛性を維持でき軽く出来るが、プレート全体の厚みが大きくなってしまう。 一方で、コアの高さを小さくすると、剛性を維持するための面材の厚みは大きくなり、 奥行は小さいものの軽量化効果が弱まる。今回、ハニカム構造、特に厚みと重量の関 係を実用性のある範囲でバランスすることが必要であった。解析結果を参考にしてサ ンドイッチハニカムパネルを試作したが、リアガラスの熱膨脹率に合わせたニッケル 合 金 を 、 コ ア 材 と し て 軽 量 化 を 考 慮 し て ア ル ミ 合 金 を 用 い た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-15 に 、 構 造 解 析 に よ っ て 求 め た 外 径 40 吋 容 器 用 の サ ン ド イ ッ チ ハ ニ カ ム パ ネ ル と 板 厚 と 重 量との関係を示す。図中には、リアプレートとしてニッケル単板を用いた場合の板厚 と重量についても示した。図より、サンドイッチハニカムパネルを使うことによって、 大幅な軽量化が可能となる。実用レベルの容器重量と奥行を考えると、リアプレート と し て 10kg程 度 、 板 厚 5cm以 下 が 望 ま し い と 考 え ら れ る 。 試 作 し た サ ン ド イ ッ チ ハ ニ カ ム パ ネ ル の コ ア の 高 さ は 16.8mm( か さ 密 度 0.0836 g/cm 3 )、 面 材 の 厚 み は リ ア ガ ラ ス と 接 着 す る 方 が 、 1.15m m 、 反 対 側 が 0.5mmで 全 厚 18.75mm、 周 辺 の 枠 材 の 厚 み は 0.8mm、 重 量 が 2.5kgで あ る 。 他 方 、 サ ン ド イ ッ チ ハ ニ カ ム パ ネ ル と 同 等 の 剛 性 を 有 す る 10mmの ニ ッ ケ ル 単 板 の 重 量 は 11kgで あ っ た 。 た だ し 、 試 作 パ ネ ル で は 、 コ ア 高 さ に製作上の制約があったため、軽量化率が計算値程ではない。 217 なお、リアガラスと接着する方 90 の面材は、接着後の平坦度が重要 用フロントガラスとを封着温度 350 ℃ で 組 立 て た 結 果 、 面 材 、 コ ア材の損傷は見られず、また、リ 重量(kg) なため、反対側の面材よりも厚く した。試作したパネルと構造評価 ニッケル単板 80 70 60 50 40 サンドイッチハニカムパネル 30 20 10 0 アガラスと接着される側の面材も 0 1 2 平坦性を維持した。特性評価のと ころで示したように、耐圧試験を 3 4 板厚(cm) 5 6 7 図 Ⅲ -2-2-2-1-15 外 径 40 吋 容 器 用 の サンドイッチハニカムパネル の板厚と重量との関係 実施してもサンドイッチハニカム 部の異常は発生せず、耐水圧強度 も十分であった。 ま た 、 フ ロ ン ト ガ ラ ス の 低 密 度 化 組 成 の 検 討 結 果 、 本 試 作 時 の ガ ラ ス の 密 度 3.0 g/cm 3 を 2.5 g/cm 3 に 低 減 で き た こ と か ら 、 フ ロ ン ト ガ ラ ス の 重 量 は 、 当 初 の 重 量 の 83%に 出 来 る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 フ ロ ン ト ガ ラ ス を 易 強 化 組 成 に し た こ と は 、 急 冷の強度を高められ、付与可能な強化応力を増大させ、更なる薄肉化の余地がある。 更には、周辺補強部材がについても、現状では金属の削り出しによる中実体であり、 板状部材の組み合わせ等により剛性を維持しつつ軽量化を達成できる余地がある。 表 Ⅲ -2-2-2-1-3 に は 、 各 構 成 部 材 の 重 量 と そ れ ら の 従 来 技 術 を 用 い た 場 合 の 見 積 も り重量に対する比率を示す。これより、従来技術で容器を構成した場合の重量に対し て 、 1/4 程 度 の 重 量 に ま で の 大 幅 な 軽 量 化 が 可 能 で あ る こ と が わ か っ た 。 無 論 、 更 な る 軽 量 化 は 必 要 と 判 断 し て い る が 、 こ の 推 算 結 果 は 、 同 サ イ ズ の CRT の 1/3 程 度 の 重 量 か つ PDP セ ッ ト 並 の 重 量 で あ り 実 用 的 範 囲 内 で あ る 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-3 外 径 40 吋 の ス ペ ー サ フ リ ー パ ネ ル 容 器 重 量 ( 計 算 ) 重 量 [kg] 従来技術を適用の場合に対する重量比 フロントガラス 13 0.27 リアガラス 4 ― リアプレート 10 0.12 リムブリッジ 3 ― 合計 30 0.22 218 2-2-2-1-2 低温封着技術開発(1) 2-2-2-1-3 低温封着技術開発(2) 旭硝子株式会社 三井化学株式会社 1 .開 発 の 目 的 CNT-FED 作 製 時 の 封 着 に 従 来 の 低 融 点 ハ ン ダ ガ ラ ス を 用 い る と 、 450℃ 程 度 の 高 温 中 で の 熱 処 理 を 必 要 と す る た め 、 CNT エ ミ ッ タ ー の 酸 化 に よ る エ ミ ッ シ ョ ン 特 性 の 劣 化 や 熱膨張特性の異なる多層膜電極の熱的損傷といった不具合が生じる。また、封着温度が 高いほどガラスの大きな熱収縮を引き起こし、画質の劣化を招く可能性がある。さらに は、従来の低融点ハンダガラスは鉛分を多量に含有することから、環境への配慮という 点 で 無 鉛 材 料 化 へ の 社 会 的 要 請 も あ る 。 本 研 究 で は 、 前 述 の 諸 問 題 を 解 決 す べ く 350~ 400℃ の 比 較 的 低 温 で 、 且 つ 窒 素 雰 囲 気 下 で の 封 着 を 可 能 と す る 無 鉛 低 温 封 着 材 料 の 開 発と封着技術の確立を目的とした。 具 体 的 に は 、 400℃ 以 下 の 低 温 封 着 を 実 現 す る に は 無 機 系 材 料 で は 困 難 と 判 断 し 、 耐 熱 性の有機系樹脂をベースに特性付与のための無機フィラーを添加した複合化材料の開発 と本封着材の特性や使い勝手に適合する封着プロセスの確立を目的とした。 2 .ベ ー ス 樹 脂 開 発 2.1 ベ ー ス 樹 脂 の 選 定 (旭 硝 子 株 式 会 社 、 三 井 化 学 株 式 会 社 ) 封 着 温 度 が 400℃ 以 下 で あ る と と も に 高 温 曲 げ 強 度 が 30MPa( 250℃ ) 以 上 の 目 標 を 達成する可能性のある有機系材料の探索を最初に実施した。接着剤用途として用いられ て い る 有 機 系 材 料 の 中 か ら 、 FED 用 途 と し て の 可 能 性 の あ り そ う な も の に つ い て 、 FED 用封着材料の主要な必要特性である室温曲げ強度、高温曲げ強度、熱分解性、気密性、 電気的特性等に絞り込んだ評価を行った。 特に、熱分解性については有機系 -4.0 材料を封着材として選択する上で最 シリコン樹脂 も懸念される特性である。そこで、 プルを所定の熱処理後、昇温脱離ガ ス分析する手法により評価した。図 log圧力(Pa) シリコンウエハー上に採取したサン -5.0 Ⅲ -2-2-2-1-16 に 結 果 を 示 す 。 エ ポ キシ系樹脂、シリコン系樹脂は比較 -6.0 ホ ゚リシ ラ ザン -7.0 ハ ンダガラス ( CRT 用 封 着 材 ) -8.0 的低温からガス放出が認められたが、 0 100 200 300 400 500 600 温度(℃) ポ リ イ ミ ド は CRT 封 着 用 途 に 用 い られているハンダガラスとほぼ同等 ポ リイ ミド エポキシ樹脂 図 Ⅲ -2-2-2-1-16 各サンプルの昇温脱離ガス 分析結果 の温度まで脱離ガスのほとんどない ことが判明した。 以上の結果から、特に耐熱性に優れ、強度的にも可能性が高いと考えられるポリイミド 219 系材料をベース樹脂として選択した。 ポ リ イ ミ ド の 基 本 骨 格 構 造 設 計 と 熱 可 塑 型 樹 脂 開 発 (三 井 化 学 株 式 会 社 ) 2.2 予察検討の結果、ポリイミド樹脂をベース樹脂として選択したが、その構造により特 性が大きく変化する。そこで、目標とする特性を得るためのベース樹脂骨格構造の基 本 設 計 を 行 な っ た 。 図 Ⅲ-2-2-2-1-17 に ポ リ イ ミ ド の 合 成 反 応 式 を 、 図 Ⅲ-2-2-2-1-18 に合成フローを示す。 O H2N X NH2 + O O H2N O C COOH O テトラカルボン酸二無水物 C X Nn O H Y X HOOC O ジアミン O Y H N NH2 ポリアミド酸 O O H2N X N Y N O X n NH2 + 2H2O O ポリイミド 図 Ⅲ -2-2-2-1-17 ポリイミド合成反応 ポリイミドはジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重縮合により得られる。 図 Ⅲ -2-2-2-1-17 に は 、 合 成 し た ポ リ イ ミ ド 分 子 末 端 が ア ミ ン の 構 造 の も の を 示 す が 、 耐熱性を向上させるために更にこのアミン末端をジカルボン酸無水物と反応させる。ジカ ルボン酸無水物には通常 無水フタル酸などを用いる。 溶剤 溶剤 (分子末端基と反応させる ジアミン ジアミン テトラカルボン 酸 酸二 二無 無水 水物 物 末 末端 端封 封止 止剤 剤 ジカルボン酸無水物を末端 封 止 剤 と 呼 ぶ 。) そ の 後 、 イミド化反応を完結させ、 冷却後、貧溶媒で析出及び 精製を行ない、乾燥、粉体 ポリアミド酸反応 昇温 → 200℃ イミド化反応 状のポリイミドを得る。こ のポリイミドを良溶剤に再 溶解したワニス、貧溶媒に 冷却 析出、精製 分散させたペーストとし、 あるいは粉体のまま供試し た。 図 Ⅲ -2-2-2-1-18 220 ポリイミド合成フロー ポ リ イ ミ ド 構 造 の 基 本 設 計 は 、 原 料 の 分 子 構 造 ( 図 Ⅲ -2-2-2-1-17 の X と Y ) を 選 択 す ることにより行なった。最初に、封着や排気プロセス等の高温での熱処理を考慮して、耐 熱性に優れる芳香族系の原料を選択した。 原 料 の 分 子 量 ( ベ ン ゼ ン 環 の 数 )、 芳 香 環 間 の 構 造 ( 直 結 、 - O- 、 - CO- な ど )、 芳 香 環置換位(メタ位、パラ位)及び得られるポリイミドの分子量などから、ポリイミドの耐 熱性(ガラス転移点、耐熱分解性)と接着性(加熱時の樹脂の溶融性)を考慮してジアミ ンと酸無水物の組合せを決定した。 樹 脂 選 定 時 に 使 用 し た ポ リ イ ミ ド の 室 温 曲 げ 強 度 は 10~ 70MPa で あ り 、 十 分 な 曲 げ 強 度を発現できる可能性を有している。しかし、接着試験を実施したところ、その接着層に 無数の気泡が存在した。気泡の原因としては溶媒の残存、焼成時の反応等に伴う発生ガス が想定された。種々の組成について気泡の評価を実施した結果、樹脂中のイミド基含有量 の低減が気泡抑制に効果があると判明した。焼成時の樹脂粘度が低下し、接着層から脱泡 しやすくなったものと考えられる。しかし、イミド基含有量を低下させたことで接着強度 も低下した。極性部であるイミド基の減少が原因と推定された。同時にガラス転移温度 ( Tg) も 低 下 し た た め 、 高 温 曲 げ 強 度 へ の 悪 影 響 が 懸 念 さ れ た 。 高 溶 融 性 ( 低 粘 性 化 ) と 高 Tg の 観 点 か ら 再 度 組 成 を 見 直 し た 結 果 、 酸 無 水 物 に 剛 直 構 造 を 導 入 す る 事 に よ り 、 耐 熱 性 ( Tg= 175℃ ) と 溶 融 性 を と も に 向 上 さ せ た 組 成 「 N 」 を 見 出 し た 。 組 成 「 N 」 の 骨 格 構 造 を 図 Ⅲ -2-2-2-1-19 に 示 す 。 O O O N O N O O N n O O 図 Ⅲ -2-2-2-1-18 組 成 「 N」 の 骨 格 構 造 し か し 、 組 成 「 N」 の 樹 脂 は FED 用 封 着 材 と し て 特 に 高 温 強 度 な ど 十 分 な 特 性 を 示 す も のではなく、次節以降で述べる様々な改良を加えた。 2.3 熱 硬 化 型 樹 脂 の 開 発 (三 井 化 学 株 式 会 社 ) 組 成 「 N」 は 熱 可 塑 型 で あ り 、 そ の Tg は 200 ℃ 以 下 で あ る 。 従 っ て 目 標 と す る 250℃ 近 傍 で の 排気時に軟化してしまい、必要な 接合強度を発現しないと判断した。 そこで主組成の接着時の溶融性を 維持し、且つ排気に必要な高温で O O N N O 末端MA 図 Ⅲ -2-2-2-1-20 の軟化、溶融を防ぐために、接着 時に架橋する熱硬化性基の導入を検討した。 221 O 末端PEPA 末端構造 FED パ ネ ル 内 部 汚 染 の 観 点 か ら は 熱 硬 化 反 応 に よ り 多 量 の ガ ス を 放 出 す る の は 好 ま し くない。このため熱硬化反応として脱水縮合反応などガス放出を伴わない架橋基として 図 Ⅲ-2-2-2-1-20 に 示 す MA( 無 水 マ レ イ ン 酸 ) お よ び PEPA( 4 - フ ェ ニ ル エ チ ニ ル フ タ ル 酸 無 水 物 ) を 選 択 し 、 組 成 「 N」 の 分 子 末 端 に 導 入 し た 。 そ の 結 果 、 末 端 に マ レ イ ン 酸 を 導 入 し た 「 NM10」 の 熱 硬 化 後 の Tg は 200℃ に 、 末 端 に PEPA を 導 入 し た 「 NE10」 の 熱 硬 化 後 の Tg は 205℃ に な っ た 。 熱 可 塑 型 「 N」 の Tg は 175℃ で あ る こ と か ら 、 熱 硬 化 型 に す る こ と に よ っ て Tg が 25~ 30℃ 上 昇 し 、 耐 熱 性 の 向 上 が 確 認 さ れ た 。 1.E+06 温 度 依 存 性 を 図 Ⅲ -2-2-2-1-21 1.E+05 に 示 す 。 「 NM10」 は 最 低 溶 融 粘 1.E+04 度 を 示 し た 温 度 が 約 250℃ と 低 く、この温度領域から熱硬化反 η (Pa・s) また各サンプルの溶融粘度の 1.E+03 応が起きていると考えられる。 1.E+02 そ の 最 低 溶 融 粘 度 は 10 3 Pa・s以 1.E+01 上であり、接着試験では樹脂の N NE10 NM10 1.E+00 流動性が悪く、十分接合できな 200 250 300 かった。 350 400 450 Temp (℃) 一 方 、「 NE10」 の 最 低 溶 融 粘 度 は 10 2 Pa・sを 下 回 っ て お 図 Ⅲ -2-2-2-1-21 熱硬化型と熱可塑型樹脂の溶融粘度 り、十分な流動性を示した。 最低溶融粘度を示した温度は 変性品と比較して良好な熱安 定 性 を 示 し た 。「 NE10」 の 曲 げ強度の温度依存性を図Ⅲ2-2-2-1-22 に 示 す 。 200℃ 以 上の高温領域では熱可塑型ポ 曲げ強度(MPa) 約 340℃ と 高 く 、 マ レ イ ン 酸 リ イ ミ ド (Tg=214℃ )と 比 較 し 60 熱硬化型(NE10) 50 高強度熱可塑型 40 30 20 10 0 0 てより高い強度を得た。しか 50 し、目標とする室温強度や高 温強度には達しなかった。 2.4 図 Ⅲ -2-2-2-1-22 100 150 200 測定温度(℃) 250 300 350 熱硬化型と熱可塑型樹脂の強度特性 ア ル コ キ シ シ リ ル 基 変 性 樹 脂 の 開 発 (三 井 化 学 株 式 会 社 ) 熱 硬 化 型 樹 脂 「 NE10 」 を 試 作 し た が 、 Et O 室温及び高温強度曲げ強度が目標に達して O N いないことから、その課題解決のため、ガ ラスとの親和性が高いと考えられるアルコ O 図 Ⅲ -2-2-2-1-23 222 O Et O キシシリル基のポリイミド分子中への導入 を 検 討 し た 。 (図 Ⅲ -2-2-2-1-23 参 照 ) Si Et 末端アルコキシシリル基の構造 アルコキシシリル基としては、反応性基を有するシランカップリング剤を用いた。具 体的にはアミノプロピルトリエトキシシランをポリイミド合成時に添加することにより ア ミ ノ 基 と 酸 無 水 物 を 反 応 さ せ て エ ト キ シ 基 を 導 入 し た 。 具 体 的 に は 組 成 「 N」 の 分 子 末 端 を 50mol% 変 性 し た ポ リ イ ミ ド 「 NS5」 を 合 成 し た 。 し か し 、「 NS5」 単 体 で は ア ル コキシシリル基同士の反応が速いため、十分な溶融性を確保できず接着ができなかった。 こ の た め 末 端 PEPA の 熱 硬 化 型 樹 脂 NS 混 合 系 の 曲 げ 強 度 表 Ⅲ -2-2-2-1-4 「 NE10」 と の 混 合 サ ン プ ル の 検 討 を 行 っ た 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-4 に NS 混 合 系 の 曲 げ 強 度 の 結果を示す。曲げ強度はプリベーク条件で大 き く 変 化 し た 。 特 に 「 NS5」 混 合 系 で は プ リ ベーク温度が低い方が強度は高くなり、混合 プリベーク 温度(℃) 250 225 200 NE10/NS5 9/1 18 21 61 10/0 18 37 20 8/2 0 12 33 比9:1で室温強度としては十分な強度を示した。 高 Tg 化 樹 脂 開 発 (三 井 化 学 株 式 会 社 ) 2.5 「 NE10」 と 「 NS5」 の 混 合 系 は 、 良 好 な 室 温 曲 げ 強 度 を 示 し た が 、 250℃ に お け る 高 温 曲 げ 強 度 は 約 20MPa と 目 標 の 30MPa に 到 達 し な か っ た 。 こ の た め 、 骨 格 構 造 を 変 更 す る こ と に よ り 高 Tg 化 す る 手 法 を 導 入 し た 。 第 一 段 階 と し て 、 高 Tg を 示 す 原 料 を 用 い て ポ リ イ ミ ド を 合 成 し 、 Tg と 接 着 性 の 評 価 を 行 っ た 。 結 果 を 表 2 に 示 す 。 各 種 高 Tg 化 候 補 材 料 に 関 す る 評 価 表 Ⅲ -2-2-2-1-5 O O O O O O NTDA O S O H2 N ③ ND ND 溶融せず NH 2 O O S O O O O O PSDA O O O O O O PMDA O O BPDA O O O O O BTDA O O C O O O O O O O O O O O O ODPA 278℃ 精製困難 256℃ 精製困難 DAPS ND 溶融せず O H 2N C NH 2 - 合成困難 251℃ 合成困難 244℃ 精製困難 DABP H 2N O O NH 2 265℃ 良好 ND 溶融せず 244℃ 良好 m-BP O H2 N O NH 2 242℃ 合成困難 205℃ NE10 (表示例) Tg コメント APB ( こ こ で N D は Tg 未 検 出 で あ る こ と を 示 す ) 即 ち 、 高 Tg 化 し 且 つ 溶 融 性 を 保 持 し て い る 組 成 を 探 索 し た 結 果 、 表 中 の m-BP と BPDA か ら な る 組 成 が 良 好 な 溶 融 性 と 高 Tg( 244℃ ) を 示 し た 。 更 に 高 Tg 化 す る た め に 酸 無 水 物 に PMDA を 添 加 す る こ と に よ り Tg が 265℃ の 「 PE10」 を 得 た 。「 PE10」 に よ り 本 プ ロ ジ ェ ク ト の 目 標 値 で あ る 250℃ 高 温 曲 げ 強 度 30MPa を 達 成 し た 。 第 二 段 階 と し て 、 更 に 高 温 で の 接 着 強 度 を 確 保 す る た め に 「 PE10」 を 更 に 高 Tg 化 す る検討を行なった。2 核体ジアミンの導入を検討するとともに、溶融性を確保するために 223 低 分 子 量 化 し た 。 ジ ア ミ ン の 一 部 を 変 更 し た 「 QE10」 に よ り 250~ 300℃ に お け る 高 温 曲げ強度が さらに向上した。 高 Tg 化 し た サ ン プ ル の 曲 げ 強 度 を 図 Ⅲ -2-2-2-1-24 に 示 す 。 曲げ強度(MPa) 60 Tg=265 50 40 Tg=309 30 Tg=205 20 QE10 PE10 NE10 10 0 0 50 100 150 200 250 300 350 測定温度(℃) 図 Ⅲ -2-2-2-1-24 2.6 高 Tg 化 品 の 高 温 曲 げ 強 度 気 泡 対 策 (三 井 化 学 株 式 会 社 、 旭 硝 子 株 式 会 社 ) 開発過程で、高温強度と気泡抑制の両立が大きな課題としてクローズアップされた。 特 に 、 本 プ ロ ジ ェ ク ト で 採 用 し た ゲ ッ タ ー 用 電 極 の 厚 み が 100μm と 接 着 層 の 平 均 厚 み 70μm よ り か な り 厚 い た め 、 そ の 周 辺 で は 気 泡 が 連 鎖 し 易 く 、 真 空 リ ー ク の 懸 念 が あ っ た。そこで、気泡生成を抑制する方法を確立した。 GC-MS( ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ 質 量 分 析 装 置 ) 等 に よ り 気 泡 を 解 析 し た 結 果 、 合 成 及 び 精 製 に 使 用 し て い た ク レ ゾ ー ル 及 び 未 反 応 の PEPA の 残 留 が 気 泡 の 主 原 因 で あ る と 判 明 した。このため、ワニスの使用を中止して粉体での接着を実施し、更に精製溶剤及び洗 浄回数を変更することで残存クレゾール量を大幅に低減して気泡発生を抑制できること を 見 出 し た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-25 に 対 策 前 後 の 気 泡 状 態 を 示 す 。 対策前 図 Ⅲ -2-2-2-1-25 対策後 対策前後の気泡発生状況の比較 224 2.7 ペ ー ス ト タ イ プ の 導 入 (旭 硝 子 株 式 会 社 ) 前述のようにワニスタイプはプリベーク後にクレゾールが残存しやすく、気泡の原因 となることが判明した。また、真空容器を封着する際に溶媒であるクレゾールは、容器 内に吸着ガスとして残存しやすく、排気後に高真空を維持する必要上問題があった。そ こ で 、 気 泡 対 策 、 吸 着 ガ ス 対 策 を 目 的 と し た 、 ポ リ イ ミ ド 樹 脂 を 溶 解 し な い 有 機 溶 媒 (分 散 媒 )に 分 散 さ せ た ペ ー ス ト タ イ プ の 開 発 を 行 な っ た 。 最 初 に 、 分 散 媒 を 選 定 す る た め 、 沸 点 が 100℃ 以 上 か つ 樹 脂 の 熱 変 形 温 度 以 下 で あ る 一 般的な有機溶剤をペースト化し、予察検討に用いた。乾燥速度が速くペーストとして取 り 扱 い が 困 難 と 判 断 し 、 沸 点 が 100℃ 以 下 の も の は 検 討 か ら 除 外 し た 。 混 合 比 率 を 変 化 させながら予察的に混練を行い、ペースト化できたものについて乾燥後の状態観察及び ガラスとの接合状態を観察した。また、候補の溶媒については熱分析を実施した。その 結果、ジヒドロターピネオールが比較的良好な特性を示したので、これを分散媒として 選定した。 ペーストタイプに変更することと樹脂精 16 により真空容器封着時に内面に吸着する ガ ス 量 を 低 減 で き た 。 10 イ ン チ パ ネ ル を ワニスタイプとペーストタイプでそれぞ れ封着し、ガス分析計を装備した排気装 置で室温にて排気した。初期に排気され る ガ ス を 分 析 し た 結 果 が 図 Ⅲ -2-2-2-1-26 のチャートである。図に示したようにワ ニスタイプで封着した トータル圧力に対するクレゾー ル(108)分圧の比率(%) 泡の生成を低減した。また、ペースト化 100 ペースト・18(H 2 O) 14 12 ワニス・18(H 2 O) ワニス・108(クレゾール) 8 60 50 40 ペースト・108(クレゾール) 30 4 20 2 0 80 70 10 6 90 トータル圧力に対する H2O(18)分圧の比率(%) 製方法の改良によりクレゾール起因の気 10 排気時間(初期) 図 Ⅲ -2-2-2-1-26 0 室温排気初期の ガス分析結果 したサンプルでは初期に大量のクレ ゾールが検出されているのに対し、 ペーストタイプで封着したサンプルではクレゾールは最初からバックグラウンドレベル であった。 2.8 プ ラ イ マ ー 処 理 (旭 硝 子 株 式 会 社 ) 次に接着強度及び耐水性向上を目的とするプライマー層導入の検討を実施した。前述 したようにガラスと樹脂の接着強度を向上させる手法としてアルコキシシリル基を樹脂 に導入するのが効果的である。ただし、樹脂中にアルコキシシリル基が多く存在すると 架橋反応やフィラーとの相互作用により、溶融時の流動性の低下を引き起こし、接合部 の強度が低下する。そこで、プライマーとしてアルコキシシリル基を導入した樹脂を使 用する方法について検討した。いくつかの組み合わせの接合部を作製し、強度評価を実 施 し た 。 耐 水 性 に つ い て は 温 度 80℃ 湿 度 85% の 雰 囲 気 下 に 一 定 期 間 曝 露 し た 接 合 部 の 強 度 を 評 価 す る こ と に よ り 行 っ た 。 結 果 を 表 Ⅲ -2-2-2-1-6 に 示 す 。 シ ラ ザ ン 及 び ア ル コ キ シ シ リ ル 基 を 導 入 し た 樹 脂 PS5 で 構 成 さ れ た プ ラ イ マ ー 層 が 最 も 接 着 強 度 及 び 耐 水 性 225 向上に有効であると判明した。 表 Ⅲ -2-2-2-1-6 樹脂 NB2E10 NB2E10 NB2E10/NS5(=9/1) PE10 PE10 PE10 各プライマー処理による強度向 プライマー1 (ガラス側) 無 シラザン シラザン シラザン 無 シラザン プライマー2 (封着材側) 無 無 無 無 PS5 PS5 室温強度 (MPa) 23 44 43 51 43 51 曝露後強度(MPa) 72hrs後 144hrs後 未 2 11 1.2 21 未 5 未 6 3 45 46 3 .複 合 化 (旭 硝 子 株 式 会 社 ) ポ リ イ ミ ド 系 材 料 の 場 合 、 熱 膨 張 係 数 (α )は そ の 骨 格 や 分 子 量 等 に よ っ て 変 わ る が 、 約 40~ 60ppm/℃ で あ り 被 着 体 で あ る ガ ラ ス と の 差 は 大 き い 。 封 着 や 排 気 に お け る 高 温 プ ロ セスを考慮すると、熱的な割れを防止する意味合いから、封着材料としての熱膨張係数 を ガ ラ ス に 整 合 さ せ る こ と が 求 め ら れ る 。 一 方 、 FED の 長 期 信 頼 性 の 観 点 か ら 、 ガ ス バ リア性に関しても極力向上が必要であり、このため、無機フィラーとの複合化による両 特性の向上を図った。具体的には、フィラー構成、フィラーの表面処理方法および複合 化プロセスについて特性を評価しながら適正化した。 ベース樹脂としてワニスタイプのポリアミド酸、ポリイミドについても検討したが、 ワニスタイプでは気泡を除くことが困難であることが判明したため、ペーストタイプ封 着材に適した複合化技術開発についてのみ記す。 ワニスタイプの検討では、溶媒に起因して発生する気泡量が多かったため、フィラー がどの程度気泡に対して影響を与えているのかを特定することができなかった。しかし、 ポ リ イ ミ ド 起 因 の 気 泡 が な く な っ た ペ ー ス ト タ イ プ ( NB2EP ) で 評 価 を 行 う と 、 フ ィ ラーの種類に気泡発生量が依存すると判明した。そのため、各種のフィラー候補材料に ついて気泡試験を実施し評価した。 複 合 化 ペ ー ス ト を 板 ガ ラ ス の 両 面 に 塗 布 後 、 225℃ で 2 時 間 プ リ ベ ー ク を 行 い 、 接 合 し て 、 100g/cm2 の 圧 力 を 加 え な が ら 375℃ で 1 時 間 焼 成 し 、 気 泡 発 生 量 の 判 定 と 流 動 面 積 を 測 定 し た 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-7 に 気 泡 試 験 及 び 流 動 性 試 験 を 行 っ た 結 果 を 示 す 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-7 気泡および流動性評価 フィラー種 組成 未添加 Mg3Si4O10(OH)2 タルク LiAlSiO4 ユークリプタイト SiO2/Al2O3/CaO+MgO/B2O3/R2O=54/14/13/10/8.5/0.5wt% ガラスファイバー NaMg2.5Si4O10F2 マイカ Al2O3・2SiO2・2H2O カオリン 2LiO・2AL2O3・4H2O スポジュメント SiO2・CaO ワラストナイト 溶融シリカ SiO2 *タルク、カオリンは不純物としてNa2O分を約5wt%含む 226 気泡 ○ × × ○ × × × △ ○ 流動面積 100 55 86 100 86 105 70 70 76 (相対値) 気 泡 が 発 生 し な か っ た も の を ○ 、 発 生 し た も の を ×と 表 記 し た 。 流 動 性 は 未 添 加 の ポ リ イ ミ ド の 流 動 面 積 を 100 と し た 場 合 の 相 対 値 を 記 し た 。 ガ ラ ス フ ァ イ バ ー ( 以 下 GF と 略 す ) と 溶 融 シ リ カ を 用 い た 場 合 に の み 、 未 添 加 の 場 合 と 同 様 に 気 泡 が 発 生 し な い も の が 得 ら れ た 。 GF と 溶 融 シ リ カ 以 外 の フ ィ ラ ー は ア ル カ リ 金属の含有量が多く、アルカリ金属がポリイミド分解反応の触媒として働いたためと考え ら れ る 。 理 由 は 明 確 で な い が 、 溶 融 シ リ カ で は 流 動 性 の 低 下 が 見 ら れ た の に 対 し 、 GF を 添加した場合にはほぼ未添加の場合と同等の流動性が得られた。最終的には、異方形状の フ ィ ラ ー の ほ う が 熱 膨 張 低 減 効 果 も 大 き か っ た た め 、 GF を フ ィ ラ ー と し て 選 定 し た 。 次 に GF の 表 面 処 理 、 ア ス ペ ク ト 比 お よ び 添 加 量 に つ い て 検 討 し た 。 フ ィ ラ ー を 塩 基 性 材料で表面処理することがポリイミドとの相溶性において好ましいことが判ったので、更 に 、 GF を 塩 基 性 の 異 な る 四 種 類 の シ ラ ン カ ッ プ リ ン グ 剤 AS( ア ミ ノ シ ラ ン 、 二 官 能 、 1 級 、 2 級 )、 BS( ア ミ ノ シ ラ ン 、 一 官 能 、 1 級 )、 CS( ア ミ ノ シ ラ ン 、 一 官 能 、 2 級 )、 DS (イミダゾールシラン、一官 45 40 理剤による性能の差異を評価し 35 た。 図 Ⅲ -2-2-2-1-27 に 異 な る 表 面 処 理 剤 で 処 理 し た GF を ポ リ 曲げ強度(MPa) 能)で表面処理を行い、表面処 30 25 20 15 イ ミ ド ペ ー ス ト ( NB2EP ) に 10 20wt% 添 加 し た と き の 曲 げ 強 5 度を示す。塩基性の比較的弱い 0 未処理 AS BS シランカップリング剤で処理し た方が曲げ強度が高くなる傾向 CS DS 表面処理剤 図 Ⅲ -2-2-2-1-27 表面処理による曲げ強度への影響 が あ り 、 CS を 処 理 し た も の で は 未 処 理 に 比 べ て 約 2.3 倍 の 曲 げ 強 度 を 得 た 。 次 に GF 60 比の違いに 異について 調 べ た 。 GF と し て GF2 ( 繊 維 径 10 μ、平均繊 維 長 20 μ )、 GF4 ( 繊 維 50 曲げ強度(MPa) よる特性差 34 32 40 30 30 28 20 曲げ強度 α 10 26 0 24 2 4 6 8 10 GFアスペクト比 径 10μ 、 平 均 繊 維 長 40 CTE(ppm/℃) アスペクト GF ア ス ペ ク ト 比 と 曲 げ 強 度 お よ 図 Ⅲ -2-2-2-1-28 び膨張特性 μ )、 GF7 227 ( 繊 維 径 10μ 、 平 均 繊 維 長 70μ )、 GF10( 繊 維 径 10μ 、 平 均 繊 維 長 100μ ) の 四 種 類 を CS で 表 面 処 理 を 行 い 、 NB2EP に 35wt%添 加 し て 曲 げ 強 度 を 評 価 し た 。 ま た PE10 に 30wt%添 加 し て 熱 膨 張 係 数 を 評 価 し た 。 そ の 結 果 を 図 Ⅲ -2-2-2-1-28 に 示 す 。 曲 げ 強 度 は GF2 を 添 加 し た 場 合 に 低 か っ た が 、 GF4、 GF7、 GF10 の 添 加 で は ほ と ん ど 差 異 が な か っ た 。 熱 膨 張 係 数 に つ い て は 、 GF の ア ス ペ ク ト 比 が 大 き く な る に つ れ て 、 小 さ く な る 傾 向 に あ る 。 そ の た め ア ス ペ ク ト 比 の 最 も 大 き い GF10 を 用 い る こ と と し た 。 フ ィ ラ ー と し て ア ス ペ ク ト 比 10 の GF を CS で 表 面 処 理 し た GF10-CS を 選 定 し た 。 次 に GF の 添 加 量 と 特 性 の 関 係 に つ い て 調 べ た 。 図 Ⅲ -2-2-2-1-29 に 20℃ お よ び 250℃ で の 曲 げ 強 度 、 図 Ⅲ -2-2-2-1-30 に Ar ガ ス 透 過 係 数 ( 相 対 比 較 ) と 熱 膨 張 係 数 の GF 添 加 量 依 存 性 を 示 し た 。 曲 げ 強 度 は 20wt%の GF 添 加 時 に 最 大 値 を 示 す が 、 30wt%添 加 で も 未 添 加 の ポ リ イ ミ ド と 同 等 の 曲 げ 強 度 を 有 し て い て 、 高 温 で も 30MPa 以 上 の 曲 げ 強 度 が 得 ら れ た 。 一 方 、 Ar ガ ス 透 過 係 数 と α は GF の 添 加 量 に 従 い 低 減 し た 。 以 上 の 結 果 か ら GF の 添 加 量 を 30wt%と す る こ と と し た 。 1.2 20℃ 60 250℃ 50 40 30 20 10 70 Ar透過係数 α 1 60 50 0.8 40 0.6 30 0.4 20 0.2 10 0 0 0 10 20 30 40 0 0 50 10 20 30 40 50 GF含有量 (wt%) GF含有量 (wt%) 図 Ⅲ -2-2-2-1-29 α (×1E-6/℃) 70 Ar 透過係数 (相対比較) 曲げ強度 (MPa) 80 図 Ⅲ -2-2-2-1-30 GF 添 加 量 と 曲 げ GF 添 加 量 に よ る Ar ガ ス 透 過 係 数 及 び 熱 膨 強度の関係 張係数への影響 4. 封 着 材 料 の 材 料 特 性 と 封 着 部 特 性 (旭 硝 子 株 式 会 社 、 三 井 化 学 株 式 会 社 ) 開 発 し た 封 着 材 料 (複 合 化 サ ン プ ル PI-EFP: ベ ー ス 樹 脂 70%PE10& フ ィ ラ ー 30%GF10)、 その封着部及び封着した容器の特性について評価した。 表 Ⅲ -2-2-2-1-8 に 封 着 材 料 の 特 性 一 覧 表 を 示 す 。 密 度 、 TG 減 、 比 熱 、 耐 熱 性 は 粉 体 に より測定し、他の特性はフィルム化した後に測定した。ガス透過係数は後述するガス封入 したサンプルからの漏れ量を測定し、算出した値であるが、界面からのリークはほとんど 無 視 で き た の で 、 材 料 特 性 と し て 記 載 し た 。 特 に 記 載 の な い 限 り 、 プ リ ベ ー ク は 225℃ 120 分 保 持 、 本 焼 成 は 350℃ 120 分 で 実 施 し て い る 。 高 Tg 化 し た こ と に よ っ て 、 250℃ まで弾性率が室温とほぼ変わらない点、また、耐電圧強度が十分に大きく、絶縁性に優れ 228 ていることなどが確認された。 一 般 的 な 材 料 特 性 の 評 価 に 加 え て 、 FED 容 器 と し て 十 分 封 着 部 が 機 能 す る か と い う 実 用 的 な 評 価 が 最 終 的 に は 重 要 で あ る 。 そ の 結 果 を 表 Ⅲ -2-2-2-1-9 に 示 す 。 表 Ⅲ -2-2-2-1-8 項目 3 4 5 6 7 低温封着剤 PI-EFP 単位 封着材料 1 密度 2 弾性率 g/cm 3 GPa ×10 -6 /℃ ℃ ℃ ℃ J/g℃ 熱膨張特性 転移温度 1%TG減 5%TG減 比熱 封着材特性一覧表 1.7 3.3 2.7 2.9 0.12 26.7 265 457 508 0.94 RT 200℃ 250℃ 300℃ RT-200℃ 8 熱伝導率 W/m℃ 0.8 9 耐電圧強度 kV/mm 264 10 吸湿率 % 0.57 11 吸水率 % 1.2 12 耐水性 % 96 % 110 % 46 耐酸性 (10%HNO3) 耐アルカリ性(10% 14 NaOH) 15 耐熱性 13 ハンダガラス同等 ml・mm/ m 2 24hr・atm 16 ガス透過係数 Heガス 表 Ⅲ -2-2-2-1-9 項目 封着部 17 曲げ強度 18 曝露後曲げ強度 4 電気特性(リーク電 流) RT 250℃ 10インチパネル 21 耐水圧強度 22 封止後の真空度 VFD 23 輝度評価 54 31 54 MPa 伸び示さず。 nA フィルム化して、DMSにより 測定 フィルム化して、TMAにより 測定 DTA-TGにより測定 DSCにより測定(JIS-K7123) フィルム化してプロブ法によ り測定 フィルム化して耐電圧試験装 置により測定 重量変化(50℃75%24hr s) 重量変化(23℃純水24hrs 浸漬、ASTM-D750) フィルム引張強度保持率(純水、 室温10日間浸漬) フィルム引張強度保持率(10% HNO3,室温10日間浸漬) フィルム引張強度保持率(10% NaOH、室温10日間浸漬) 昇温脱離ガス分析 ガス封入サンプルからのリーク量を 測定の上、算出 低温封着剤 PI-EFP 19 クリープ特性 20 比重瓶によるアルキメデス法 封着部及び容器特性 単位 MPa 測定方法 25kV 0 35kV 0 MPa Pa 0.29 -5 10 初期はハンダガラス 同等 229 測定方法 短冊状(5×8×60mm)の接合部 の4点曲げ強度 80℃85%3日間曝露後の強度 3気圧相当の応力負荷、 1400hrs リーク電流測定装置により測 定 耐水圧試験機での測定 真空ゲージ 試作