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WAN Vol.1, No.3 フロイト先生,アドラー先生,スキナー
Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 本日のテーマ フロイト先生,アドラー先生,スキナー先生, ユング派スピリチュアルカウンセラーとの対話 研究会の進め方 アドラー心理学の理論体系を明確にするために,即興劇を行った。 台本を用いず,研究生がそれぞれフロイト,アドラー,スキナー,ユン グ派スピリチュアルカウンセラーを演じ,クライアントの悩みを解決 するという形式のロール・プレイングを試みた。 主なディスカッション Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ フロイト,ユング,アドラー,スキナーの概略 精神分析学とは 行動療法と認知行動療法とは ロール・プレイングによる問題解決アプローチ まとめ WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 Ⅰ フロイト,ユング フロイト ユング,アドラー ユング アドラー,スキナーの概略 アドラー スキナーの概略 フロイト(Freud,Sigmund,1856-1939)は,オーストリアの神経学者,精 神医学者であり,精神分析の創始者。神経症やヒステリーの臨床研究を 続ける中で無意識に着目するようになり,精神症状が無意識の影響を受 けて生じていると考える精神分析を創始した。フロイトによれば,夢は人 間の願望を満たすためのものであり,全ての夢は何らかの意味のあるも のだとした。厳格な決定論者でもあり,人間の行動はある原因によって生 ずると考えた。人間の心を「機械」のようなものだと説明し,欲望を充足し ようとする「エス」,欲望を抑圧しようとする「エゴ」両者を調停しようとする 「スーパーエゴ」の相互作用として捉えた。 ユング(Jung,Carl G.1875-1961)は,スイスの心理学者,精神科医。当 初フロイトとともに精神分析の研究に打ち込むが,後に独立し,分析心理 学またはユング心理学といわれる学派を興した。ユング心理学は個人の 意識,/無意識の分析をする点ではフロイトの精神分析学と共通している が,フロイトが個人的な無意識に着目したのに対し,ユングは個人を超え 人類に共通しているとされる集合的無意識(普遍的無意識)の分析も 行った。 1 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 Ⅰ フロイト、ユング、アドラー、スキナーの概略 スキナー(Skinner,Burrhus F.1904-1990)は,アメリカの新行動主義心 理学者。フロイトやユングとは対照的に,行動を説明するのに人間の心の 内部に言及することをしなかった。フロイトの理論は,苦悩しているクライア ントと接触した経験に基づいているが,スキナーは,実験室での動物実験か ら導き出されたアイデアを,人間の水準までに拡張した。環境に働きかける 生体の自発的反応であるオペラント行動に着目し,オペラント条件づけを定 式化した。そして,刺激(S)―反応(R)の結合(レスポンデント条件づけ)に 対して反応とそれに随伴する結果(刺激)との関係に着目し,行動の原因と して外的条件を強調した。 アドラー(Adler,Alfred,1870-1937)は,ウィーンの精神科医。フロイトの 「夢判断」を支持して仲間になるが,フロイトの過去の心的外傷や生物学的 要因の重視を否定して精神分析の立場から離れた。フロイトが人間の心を 「機械」のようなものだと説明したのに対し,アドラーは,人間は諸要素の集 合としてではなく,それ以上分割できない個人としてとらえた。したがって,ア ドラー心理学では,心と身体,意識と無意識,感情と思考などの間に矛盾や 葛藤,対立を認めていない。人間は目的のために行動するという,目的論の 立場をとり,上記のフロイト,ユング,スキナーが原因論の立場であることと決 定的に異なっている。以上、(坂野,2000),(ロバーツ・D・ナイ,1995)より。 2 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 Ⅱ 精神分析学とは フロイトが創始した「精神分析学」とはどういうものだろうか。狭義にはフ ロイトによって創始された一大体系をもった理論であるが,現在,精神分析 学理論という場合,フロイトの系統を引く学説の全体を指すことが多い。ア ドラーやユングもこれに含まれる。 ■精神分析療法の特質と特徴 ①フロイトによって発見された人間の心の研究法 ②人間の行動に関する知識の体系 ③心の疾患に対する治療の体系 以上の3領域に分類することができる。フロイトは,人間が意識できる心 の領域はごくわずかであり,その下に広がる意識できない領域である「無 意識」によって人間の行動の多くが発現されているとした。また,心の疾患 は,意識するには耐えられないような体験が無意識の領域に「抑圧」され て,それが不安や葛藤を引き起こすために生じると考えた。したがって,精 神分析療法は無意識にあるものに気づき,それを「洞察(意識化)」するこ とによって行われることになる。 Ⅲ 行動療法と認知行動療法とは ■行動療法の定義と特徴 精神分析療法と同じ,心理療法のひとつ。スキナーはこれに含まれる。 行動療法とは,実験的に明らかにされている学習理論,行動理論を基盤と し,不適応に陥っている行動の治療改善を図ることを目的とした治療技法 の体系で、精神分析療法のような原因探求的な方法とは一線を画す。 3 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 ■具体的な特徴 行動理論を基礎原理とする。 治療の目的を明確にし,客観的測定や制御が可能な行動のみを 治療対称とする。 症状を不適応行動の学習あるいは適応行動の未学習としてとらえる。 治療の焦点を過去ではなく今現在に当てる。 治療の最終目標を行動のセルフコントロールとする。 ■行動療法の原理と治療手続き ある反応が生じる刺激場面でその反応と相容れない反応を生じさ せれば反応は制止され,反応と刺激場面との結びつきは弱まる逆制 止を用いて不適応行動の変容を行うなどの「古典的(レスポンデン ト)条件づけ」に基づく治療。 一定の条件反応をすることで報酬を与えたり,有害な刺激を回避さ せたりすることによって行動変容を促進する「道具的(オペラント)条 件づけ」に基づく治療。 モデルの示した行動が観察者に生じる観察学習(新しい反応の習 得),反応促進(獲得していた反応の触発)などの効果をもつモデリン グなどによって行動変容を狙う「社会的学習」に基づく治療。 自己教示(自己の取るべき行動の言語化)など,人間が自分の行動 をどのように制御しているかという視点を重視した「セルフコントロ ール」に基づく治療。 以上,(坂野2000)より。 4 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 Ⅳ ロール・プレイングによる問題解決アプローチ ケース1:職場での上司とのトラブル(20代女性,会社員): 女性の多いコールセンターに勤務。気の合わない上司に,仕事上でのミ スがあった時,執拗に注意されることが苦痛であり,精神的にストレスを感じ ている。同僚が同じミスをしても,注意されないのに,なぜ自分だけが注意さ れるのかがわからず,そのことを考えると気分が落ち込んでしまう。 上司からいじめを受けているように感じているが,仕事を辞めるつもりは ない。 <フロイト先生のアプローチ> その上司には何かトラウマがあるのですね。あなたの雰囲気や行動が 彼女のトラウマを刺激する何かを持っているのですね。もしかすると,幼少 時代の母親を投影しているか,母親に関わりたいという無意識の欲求のあ らわれかもしれませんね。 <スキナー先生のアプローチ> あまり気にしないようにしてください。上司の行動について,なぜそのよう な行動をするのか一度話をしてみましょう。同僚に対しての上司の態度と 自分に対しての上司の態度の違いは、あなたが感じているだけであって, 実際には上司は同じ行動をとっているのかもしれません。まずは,周囲の 人にあなたと同じように感じているか確認をして,上司の注意の回数を測定 し,検証してみるところから始めてみましょうか。 5 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 <アドラー先生のアプローチ> 注意を甘んじて受けているあなたの目的は何ですか? あなたには自分を変えたくないという目的があるのかもしれませんね。 その方が安心できるのかもしれないですね。もしかしたら会社を辞めた方 がいいのかもしれないのに,会社を辞めたくない,上司の小言を聞かなけ ればならないという目的があるのかもしれませんね。 「何でわたしにだけ注意するのですか?」と,はっきり聞いてみてもいい のではないですか。 上司には,「あなたの気を引きたい」,「弱みをにぎりたい」等の目的があ るのかもしれませんね。また,上司がある特定の人にだけ厳しい場合は,そ の人を昇格させたいというような目的があり,期待しているからこそ意図的 にやっている場合もありますね。 <ユング派スピリチュアルカウンセラーのアプローチ> すべてのことには意味があり,今起きていることはシンクロニシティです。 あなたは以前から心の中で変わりたいという思いがあったのですが,今ま では変わるきっかけがなかっただけなのかもしれません。今の状況が変 わるきっかけをあなたに与えてくれたと考えることによって,すべてがうまく いくでしょう。相手を変えるのではなく,次の人生のステージに向かうため に,自分や環境を変えるのです。それによってあなたの魂が向上できるで しょう。あなたは職場がここしかないと思い込んでいますが,新しい仕事を 探しだせば答えは必ずみつかります。 人間関係において相性というものは,非常に大切なものです。相性の悪 さからストレスがたまり,体の調子も悪くなるので,上司との相性も一度見て みる必要があるかもしれませんね。 6 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 ケース2:買い物依存症(40代,主婦): ショッピングに出かけると特に必要もないのに次々と買い物をしてしまう。 気がつけば月に100万円も使っていた。このままでは,家計の危機になり かねないので,必要のない買い物をやめたいが,やめたくてもやめられない。 <フロイト先生のアプローチ> あなたには満たされない何かがあるのですね。物を買うことで,満たされ ない何かを満たそうとしている。その満たされない何かをあなた自身が見 つけることができれば,問題は解決できるでしょう。自由連想法でカウンセリ ングをすることをお勧めします。 <スキナー先生のアプローチ> まずは,毎月使う金額を決めましょう。それ以外は使わないことにして,ク レジットカードを10枚持っているならば,1枚だけを使うことにしてみましょう。 買い物したくなる場所に,外出することはやめましょう。家からでない,仮に 外出するとしても,お友達とお茶をする,図書館に行く,Eスクールで勉強する など忙しくすることによって,買い物をする暇をなくすこともいいかもしれま せんね。 <アドラー先生のアプローチ> あなたは買い物をすることで,ご主人から「何でこんな物を買ってきたん だ。」と,叱られるために買い物しているのかもしれませんね。叱られてもご 主人があなたのことを気にかけてくれていることに喜びを感じているのかも しれません。または,あなたの劣等感の解消のために,買い物をすることに よって優越感を得たいのかもしれませんね。 あなたの目的が劣等感にあるのか,ご主人との関係をよくすることにある のか,生活全体を見直してみましょう。カップルカウンセリングを受けてみら れるといいかもしれませんね。 7 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 Ⅴ まとめ フロイト先生,アドラー先生,スキナー先生、ユング派スピリチュアルカウン セラーの役割を演じ,ロール・プレイングを行なったことによって,それぞれ の技法を易しく学ぶことができ,それぞれの技法の良いところを取り入れる ことの素晴らしさに気づくことができた。 フロイトの精神分析療法,スキナーの行動療法を実際のカウンセリング形 式で行うことで,アドラーとの違いが明確になり,アドラー心理学への理解も より深まった。 また,どのような療法であっても,クライエント自身が自ら決心をして,そこに たどり着き,自らの意思で行動を起こすことが最も重要であるということも, 今回のロール・プレイングでの大きな学びであったといえるだろう。 【引用・参考文献】 坂野雄二 2000 臨床心理学キーワード 有斐閣双書 ロバーツ・D・ナイ. 河合 伊六 (監訳) 1995 臨床心理学の源流 フロイト・ スキナー・ロージャズ 二瓶社 8 WASEDA University WAN Individual Psychology ● Waseda Adler News ● ● ● ● Vol 1,No.3 2011.10.22 以上,第16回アドラー心理学研究会の報告でした。 いかがでしたでしょうか。 研究会の内容を,できるだけわかりやすく再現してみました。 みなさまの忌憚ないご意見・ご感想,心よりお待ちしております。 Waseda Adler News Vol.1,No.3 編集担当 小田 真理子 早稲田アドラー心理学研究会よりご案内 ・研究会へはどなたでも参加できます。 ・研究会へのお問い合わせ・参加希望はメールで、[email protected] までどうぞ。 日本アドラー心理学会:http://adler.cside.ne.jp/ アドラーギルド:http://adler.cside.com/ ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/wiki/ アドラー心理学 9 WASEDA University WAN