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特集1 スポーツ立国の実現 2 (PDF:1906KB)
12 トップアスリートと身近に接することは,多くの人々がスポーツの楽しさを実感し,スポーツをする きっかけになるものと考えられます。 また,運動をする子どもとしない子どもの二極化傾向に歯止めをかけ,子どもの体力向上にもつなが ることが期待されます。 このため,文部科学省では競技団体の協力を得て,全国の小・中学校に様々なスポーツ選手を派遣す る取組を行っています。 トップアスリートが自らの豊かな経験や卓越した技術を基に,講話や実技指導等を行うことにより, 参加した子どもからは,「運動は全部苦手だと思っていたけど,この授業を受けたらちょっとは出来るこ とがわかりました」 (小学5年生・男子),「運動が苦手な私にとって貴重な体験でした。今日の体験で少 しは運動ができるようになったと思います」(中学3年生・女子)等の声が寄せられるとともに,スポー ツをすることが楽しいと感じる比率や,今後スポーツをしたいと思う比率が増加するなどの成果が見ら れています。 今後は,様々な世代の人々が スポーツに親しむきっかけとな るよう,総合型地域スポーツク ラブにも引退後のトップアス リートを派遣することとしてい ます。 サッカー 体操 (イ)大学を活用した分散型強化・研究拠点ネットワークの構築 トップアスリートの育成は日本オリンピック委員会,中央競技団体が中心に実施し,国や日本ス ポーツ振興センターが支援していますが,大学や実業団(企業)が強化活動に多大な貢献をしている 競技も少なくありません。 今後,国際競技力のさらなる向上を図るためには,こうした競技も含め,先端的な研究や強化を 行っている大学などとの連携による国全体としての強化・研究体制の構築など,ジュニア期からト ップレベルに至る戦略的・体系的な強化体制を構築することが必要と考えられます。 このため,文部科学省では,国全体で戦略的にトップアスリートの強化や競技力向上に向けた研 究活動を促進するため,高度なトレーニング施設や研究活動を通じてトップアスリートの競技力向 上に貢献している大学を 「分散型強化・研究活動拠点」と位置づけ,ナショナルトレーニングセンタ ー,国立スポーツ科学センター,中央競技団体などとのネットワーク化を図ることとしています。 また,大学が有するソフト・ハードの資源(トレーニング環境,コーチやトレーナーなどの指導者, 研究者等)は,地域のスポーツ活動にとっても貴重な社会的財産です。このため,競技力の向上は もとより,大学を拠点とした総合型地域スポーツクラブの運営や大学による地元のジュニアアスリ ートに対する育成活動などの地域貢献活動も支援することとしています。 ②ライフステージに応じたスポーツ機会の創造 人々が多様な形でスポーツに参画できる環境を実現するためには,国民の誰もが,それぞれの体 力や年齢,興味,関心などに応じて日常的にスポーツに親しむことのできる機会が確保される必要 があります。 このため,スポーツ立国戦略では,国民のスポーツ活動の現状と課題を考慮し,総合型地域スポ ーツクラブを中心とした地域スポーツ環境の整備やライフステージに応じたスポーツ活動の推進, 文部科学白書 2010 51 スポーツ立国の実現 トップアスリートが地域のスポーツ指導で活躍 特集1 No. 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 そして学校における体育・運動部活動の充実などの取組を進めることとしています。 (ア)国民のスポーツ活動の現状と課題 (ⅰ)子どもの体力の現状と課題 人間が発達・成長し,創造的な活動を行っていくために体力は必要不可欠なものであり,子ども の体力は「人間力」の重要な要素です。 しかしながら,文部科学省が昭和 39 年から行っている「体力・運動能力調査」によると,60 年ご ろをピークに子どもの走る力,投げる力,握力などは,全年代において長期的に低下傾向にありま した。 こうした状況を受け,文部科学省では, 「スポーツ振興基本計画」において「子どもの体力向上」を 政策課題に掲げ,子どもの体力の重要性に関する普及啓発や,運動やスポーツに親しむ機会の提供 などの取組を行ってきました。 これまでの多様な取組により,我が国の子どもの体力は,最近 10 年間では,小学校低学年では 横ばい,小学校高学年以上では緩やかな向上傾向を示し,昭和 60 年頃からの長期的低下傾向に歯 止めがかかっており,一定の成果が見られました。 しかし,体力水準の高かった昭和 60 年頃に比べると,依然として低い水準にとどまっています(図 表 1-1-13)。 図表1-1-13 (秒) 8.5 子どもの体力・運動能力の年次推移 (m) 35 50m走 ソフトボール投げ 9.0 7歳男子 7歳女子 9歳男子 9歳女子 11歳男子 11歳女子 9.5 10.0 10.5 7歳男子 7歳女子 9歳男子 9歳女子 11歳男子 11歳女子 25 15 11.0 11.5 S49 54 59 H元 6 11 16 21(年度) 5 S49 54 59 H元 6 11 16 21(年度) (出典)文部科学省「平成21年度 体力・運動能力調査」 また,近年では,子どもの体力低下とともに,運動をする子どもとそうでない子どもの二極化傾 向が見られます。特に中学校女子では,体育の授業を除く1週間の総運動時間が 60 分未満の生徒 が3割を超えるなど,運動をほとんどしない子どもも多く,運動やスポーツへの関心や自ら運動す る意欲,運動の楽しさや喜び,その基礎となる運動の技能や知識など,生涯にわたって運動やスポ ーツに親しむ資質や能力の育成が十分に図られていないことが懸念されます (図表 1-1-14)。こう した状況の下,子どもが生涯にわたって運動やスポーツに親しむ基礎をつくる学校体育・運動部活 動の重要性が一層高まっています。 52 文部科学白書 2010 1週間の総運動時間の分布 中学校男子 中学校女子 所属していない 所属している 30% 25% 25% 20% 20% 1週間の総運動時間 60分未満 9.3% 15% 15% 10% 10% 5% 5% 0 300 600 900 1週間の総運動時間 60分未満 31.1% 1,200 1,500 1,800 2,100 2,400 (分) 0% 0 300 600 900 1,200 1,500 1,800 2,100 2,400 (分) (ⅱ)成人のスポーツ活動の現状と課題 成人の週1回以上のスポーツ実施率は,平成 21 年度時点で 45.3%まで上昇しています (図表 1-1-15)。 スポーツ日数の年次推移(図表 1-1-16)を見ると,スポーツを「年に1∼3日」 「3か月に1∼2日」 とまれにしか行わなかった層の減少傾向は緩やかである一方で,「月に1∼3日」が大きく減少し, 「週に1∼2日」「週に3日以上」が大きく増加していることが分かります。このことから,成人の 週1回以上のスポーツ実施率の上昇には,これまで一定程度スポーツを行っていた層が,健康やス ポーツへの関心の高まりからさらに実施頻度を上げたことが影響していると推測されます。 成人の週1回以上のスポーツ実施率を世代別に見ると,特に 20 代男性や 30 代女性で低くなって いることが分かります (図表 1-1-17)。また,70 歳以上の者については,実施率が5割を超える一 方で,1年間に 「運動・スポーツはしなかった」とする者が 39.9%と,加齢とともに二極化が進む傾 向が見られます。 図表1-1-15 週1回以上運動・スポーツを行った者の割合の推移 50.0 全体 男性 女性 週3回以上(全体) 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 31.5 27.9 40.2 31.9 27.0 28.0 26.3 24.7 23.1 20.0 45.4 60 63 38.5 36.6 26.7 12.0 昭和57 37.9 37.2 36.4 21.7 25.0 15.0 10.0 29.1 27.9 30.6 29.9 29.3 35.2 34.7 34.2 平成3 44.4 43.4 18.3 18.2 9 12 46.3 45.3 44.5 23.5 20.0 13.3 6 16 18 21 (年) (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」に基づく文部科学省推計 文部科学白書 2010 53 スポーツ立国の実現 所属していない 所属している 30% 0% 特集1 図表1-1-14 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 図表1-1-16 スポーツ実施日数の年次推移 (%) 40 30.0 31.4 月に1 ∼ 3日 (年12日∼ 50日) 32.2 31.6 29.5 週に1 ∼ 2日 (年51日∼ 150日) 30.1 27.9 30 22.0 22.9 24.0 24.2 20.0 20 21.4 19.8 13.1 13.5 17.1 14.5 10 10.4 10.0 3.1 10.7 10.3 年に1 ∼ 3日 1.5 1.4 14.6 8.8 0.6 0.3 28.1 8.8 平成 0.3 年 9 月調査 21 月調査 8 7.3 年 2 月調査 10 18 10.7 平成 0.1 年 16 23.4 3か月に1 ∼ 2日 (年4日∼ 11日) 9.6 平成 10 10.4 12 年 月調査 10 21.9 9.4 わからない 0.8 0.9 平成 10 22.9 月調査 10 29.1 年 10 9 30.2 27.2 9.1 平成 3 月調査 月調査 63 年 年 年 月調査 年 月調査 10 60 23.0 週に3日以上 (年151日以上) 12.4 10.9 8.3 6 57 26.8 24.4 平成 平成 昭和 昭和 昭和 年 月調査 0 2.4 18.2 16.3 25.5 24.8 30.5 29.3 (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月) 図表1-1-17 世代別の週1回以上のスポーツ実施率 0 10 20 30 40 50 60 70 (%) 27.7 20 ∼ 29歳 24.4 30.7 全体 男性 女性 35.6 40.2 30 ∼ 39歳 32.1 40 ∼ 49歳 41.7 40.2 42.8 50 ∼ 59歳 48.0 47.9 48.1 54.7 55.9 53.7 60 ∼ 69歳 52.1 55.5 70歳以上 49.1 (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」に基づく文部科学省推計 なお,世論調査から「運動・スポーツを行わなかった理由」を見ると,「仕事(家事・育児)が忙し くて時間がない」が 45.9%と最も高く,特に 20 代∼ 50 代では6割を超えていますが,70 歳以上で は「体が弱いから」 ・「年をとったから」が大きな割合を占めており(図表 1-1-18・図表 1-1-19), こうした世代間の違いを考慮した対応が成人の週1回以上のスポーツ実施率向上の伴ともいえま す。 一方で,同調査において,今後スポーツを 「行ってみたい」とする者の割合は 86.5%と高く,スポ ーツの実施意向自体が低下しているわけではありません。スポーツ立国戦略に掲げる目標の達成に 向けて,成人の週1回以上のスポーツ実施率をさらに上昇させるためには,例えば 30 代女性が参 加しやすい子育て支援とスポーツ活動の融合や,体力が低下している高齢者の取り組みやすい運動・ スポーツの普及など,現代人のライフスタイルやニーズに対応したスポーツ振興方策により,人々 のスポーツへの関心や実施意向を活かしていくことが必要です。 54 文部科学白書 2010 運動・スポーツを行わなかった理由 0 10 20 30 40 60(%) 50 45.9 仕事(家事・育児)が忙しくて時間がないから 51.6 スポーツ立国の実現 24.0 体が弱いから 17.8 19.8 17.4 年をとったから 11.2 10.4 運動・スポーツは好きではないから 7.7 仲間がいないから 4.2 5.8 4.2 金がかかるから 5.4 4.7 場所や施設がないから 指導者がいないから 1.6 0.8 平成21年9月調査 平成18年8月調査 4.9 3.6 その他 3.5 機会がなかった 5.5 6.8 6.8 特に理由はない わからない 0.2 0.2 (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月) 図表1-1-19 (世代別)運動・スポーツを行わなかった理由 その他 % 45.9 % 24 % 19.8 % 11.2 % 7.7 % 5.8 % 5.4 % 1.6 % 4.9 % 3.5 % 6.8 % 0.2 66.7 66.7 66 61.4 43.6 20.8 4.2 6.4 19.3 27.4 40.8 8.5 10.8 18.8 40 20.8 18.2 17 9.6 12 5.6 12.5 6.1 10.6 12 6 4.8 12.5 12.1 8.5 7.2 5.1 1.6 12.5 3 6.4 8.4 6.8 0.8 4.3 4.8 0.9 - 4.2 3 2.1 2.4 1.7 11.2 2.1 2.4 6.8 3.2 8.3 6.1 6.4 4.8 7.7 7.2 2.1 - 計 指導者がいないから わからない 場所や施設がないから 特に理由はない 金がかかるから 機会がなかった 仲間がいないから (この1年間に「運動やスポーツはしなかった」,「わからない」と答えた者に,複数回答) 運動・スポーツは 好きではないから 年をとったから 体が弱いから 人 429 24 33 47 83 117 125 仕事︵家事・育児︶が 忙しくて時間がないから 該当者数 総数 〔年齢〕 20 ∼ 29歳 30 ∼ 39歳 40 ∼ 49歳 50 ∼ 59歳 60 ∼ 69歳 70歳以上 特集1 図表1-1-18 (M.T.) % 136.8 141.7 115.2 140.4 143.4 136.8 136.0 (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月) (イ)総合型地域スポーツクラブを中心とした地域スポーツ環境の整備 (ⅰ)総合型地域スポーツクラブの拠点化に向けた体制整備 総合型地域スポーツクラブは,地域住民が自主的・主体的に運営し,身近な学校・公共施設など で日常的に活動する地域密着型のスポーツ拠点であり,生涯スポーツ社会の実現に寄与するほか, 地域の子どものスポーツ活動の場の提供,家族のふれあい,世代間交流による青少年の健全育成, 地域住民の健康維持・増進などの効果も期待されています。 文部科学省では,クラブ育成アドバイザーの巡回指導や設立事例の情報提供などにより総合型地 域スポーツクラブの設置を支援し,その全国展開を推進してきました。 こうした取組の成果もあり,総合型地域スポーツクラブの数は平成 14 年度から 22 年度の過去8 年間で 5.8 倍に,総合型地域スポーツクラブが設置されている市町村の数は 2.9 倍に増加しています。 文部科学白書 2010 55 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 また,クラブ設置率(全市区町村数に対する総合型地域スポーツクラブが設置されている市区町村 数の割合)は,22 年度には 71.4%に達しています(図表 1-1-20)。 図表1-1-20 総合型地域スポーツクラブの設置状況 (平成22年7月1日現在) (設置率(%)) 80.0 総合型地域スポーツクラブ数の推移(H14 ∼ 22) (クラブ数) 3,500 3,114 3,000 2,905 2,768 2,555 2,416 2,500 71.4 64.9 60.0 57.8 2,155 2,000 70.0 50.0 48.9 40.0 42.6 1,500 33.0 1,117 833 1,000 22.5 541 クラブ数 (創設準備中を含む) 30.0 クラブ設置率 20.0 17.4 500 10.0 13.1 0.0 22(年度) 0 平成14 15 16 17 18 19 20 21 (出典)文部科学省調べ 一方で,「平成 22 年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果」によれば,総合型クラ ブの現在の課題として,「会員の確保」が第一に挙げられています(図表 1-1-21)。 会員の確保や定着を図るためには,総合型地域スポーツクラブにおいて,地域住民のニーズを踏 まえた魅力あるプログラムを提供していくことが伴となると考えられます。このため,文部科学省 では,平成 23 年度から拠点クラブに引退後のトップアスリートなどの優れた指導者を配置すると ともに,周辺の複数の総合型地域スポーツクラブなどを対象に巡回指導を実施するなど,総合型地 域スポーツクラブにおいて魅力あるスポーツサービスを提供するための体制を整備することとして います(参照:本節 (1)①(ア))。 図表1-1-21 総合型地域スポーツクラブの現在の課題 0 法人化 既存団体との関係 活動拠点施設の確保(維持) 会員の確保(増大) 会費の設定(徴収) 指導者の確保(養成) クラブマネジャーの確保(養成) 事務局員の確保 財源の確保 クラブハウスの確保・維持 活動種目の拡大 会員の世代の拡大 学校部活動との連携(学校関係者の理解) 相談窓口(身近なサポート機関)の確保 クラブ経営に関する情報収集 他のクラブとの情報交換 行政との調整(理解) 大会(試合)への参加機会の確保 競技力向上を目指す活動内容 その他 10 20 30 40 60 70 25.9 26.0 70.7 22.6 51.9 21.8 27.5 55.0 22.6 35.4 39.9 23.0 4.8 15.8 17.4 25.9 10.0 10.5 5.6 (出典)文部科学省「平成22 年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果」 56 文部科学白書 2010 50 9.5 80(%) が全体の約半分を占めています(図表 1-1-22)。 「平成 22 年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果」において,「財源の確保」も大き 少なくとも活動に見合った財源を確保することが必要です。 そのためには,会員の確保を通じた会費収入の拡充はもとより,地域の企業や商店などからの寄 附金を受け入れることも重要です。 このため,文部科学省では,多くの総合型地域スポーツクラブが寄附税制(認定特定非営利活動 法人制度)を有効に活用し,幅広い寄附金を受け入れるための取組を推進していきます。 図表1-1-22 総合型地域スポーツクラブの自己財源率 0 5 10 15 91 ∼ 100% 13.9 51 ∼ 70% 14.5 31 ∼ 50% 17.1 11 ∼ 30% 21.5 1 ∼ 10% 0 25 (%) 16.3 71 ∼ 90% 1%未満 20 13.6 0.8 2.2 (出典)文部科学省「平成22 年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」 文部科学省では,こうした取組を通じ,会員や指導者,そして財源の確保といった課題を抱える 総合型地域スポーツクラブの自立を支援し,総合型地域スポーツクラブが,「新しい公共」宣言(平 成 22 年6月4日「新しい公共」円卓会議)にも記載されているように「地域住民が出し合う会費や寄 附により自主的に運営する NPO 型のコミュニティスポーツクラブ」として,地域の課題(学校・地 域連携や子育て支援など)の解決も視野に入れて主体的に地域のスポーツ環境を形成していくこと を支援することとしています。 (ⅱ)身近なスポーツ活動の場の確保・充実 総合型地域スポーツクラブの活動場所をはじめ,地域住民が身近にスポーツに親しみ,交流する 場を確保するため,スポーツ立国戦略では, 「身近なスポーツ活動の場の確保」に取り組むこととし ています。 我が国の体育・スポーツ施設数は,ピークであった昭和 60 年度に比べ,平成 20 年度には約7万 か所減少しています。 他方で,スポーツ活動を行わなかった理由として,場所や施設の不足を挙げる割合を見てみると, 昭和 60 年度から平成 21 年度の間に2倍以上に増加しており,身近なスポーツ活動の場である体育・ スポーツ施設の減少が,国民のスポーツ活動にマイナスの影響を与えている様子がうかがえます(図 表 1-1-23)。 文部科学白書 2010 57 スポーツ立国の実現 な課題の一つに挙げられているように,総合型地域スポーツクラブが持続的に運営されるためには, 特集1 また,総合型地域スポーツクラブの自己財源率を見てみると,自己財源率が 50%以下のクラブ 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 図表1-1-23 我が国の体育・スポーツ施設数の推移と国民の意識 (施設数) (場所や施設数がないから%)) 6 300,000 292,117 5.4 280,000 4.0 4 239,660 240,000 3.1 218,631 220,000 229,060 222,533 3.2 200,000 2.6 188,224 2.1 2.5 2.4 3 2 2.0 180,000 160,000 5 4.7 258,026 260,000 1 148,059 140,000 S44 50 55 57 60 63 H2 3 6 8 9 12 14 16 18 20 0 21(年度) (出典)内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」及び文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」に基づき文部科学省作成 我が国では,学校体育・スポーツ施設と公共スポーツ施設が全体の8割以上を占めています(図 表 1-1-24)。これらの施設数の推移を見ると,いずれも減少傾向にあり,特に学校体育・スポー ツ施設については,ピークであった平成2年度から 20 年度までの間に2万か所を超える大幅な減 少となっています(図表 1-1-25・図表 1-1-26)。 施設数が減少した背景には,①少子化に伴う学校の統廃合などによる学校数の減少,②地方公共 団体の厳しい財政状況の下,既存の施設が閉鎖されたり,新たなスポーツ施設の整備が抑制された ことなどがあると考えられます。 こうした体育・スポーツ施設の減少への対応としては,最も身近なスポーツ施設である学校体育・ スポーツ施設を,地域住民にこれまで以上に有効に活用してもらうことが方策の一つと考えられま す。 現在,屋外運動場の約 80%,体育館の約 87%,水泳プールの約 27%が地域住民に開放されてい ます。しかしながら,施設開放は行っているものの定期的ではない,利用手続が煩雑である,利用 方法などの情報が不足しているなど,地域住民のニーズに十分対応しきれていない面も見られます。 このため,今後,学校体育・スポーツ施設はこれまでの単に場を提供するという「開放型」から, 学校と地域社会の「共同利用型」へと移行し,地域住民の立場に立った積極的な利用の促進を図って 図表1-1-24 設置者別施設数(平成20年度) 民間スポーツ施設 (7.8%) 17,323(箇所) 職場スポーツ施設 (3.1%) 6,827(箇所) 公共スポーツ施設 (24.1%) 53,732(箇所) 学校体育・ スポーツ施設 (61.2%) 136,276(箇所) 大学・高等専門学校体育施設 (3.8%) 8,375(箇所) (出典)文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」(平成22年3月) 58 文部科学白書 2010 学校体育・スポーツ施設数の推移 特集1 図表1-1-25 (施設数) 160,000 140,000 156,548 152,083 149,063 136,276 135,170 130,000 120,098 120,000 110,000 100,000 101,672 S44 50 55 60 H2 8 14 20(年度) (出典)文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」 図表1-1-26 公共スポーツ施設数の推移 (施設数) 70,000 60,777 62,786 65,528 60,000 56,475 53,732 50,000 40,000 29,566 30,000 19,835 20,000 10,193 10,000 0 S44 50 55 60 H2 8 14 20(年度) (出典)文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」 いくことが重要です。 文部科学省では,地域のスポーツ施設整備を支援するとともに,学校体育・スポーツ施設の地域 との共同利用を促進するため,地域住民が利用しやすい施設づくりの取組の推進や,更衣室を備え たクラブハウス・温水シャワーなどの整備の支援,また,休・廃校となった学校体育・スポーツ施 設を有効活用するために必要な施設設備の整備の支援などに取り組むこととしています。 (ウ)ライフステージに応じたスポーツ活動の推進 成人の週1回以上のスポーツ実施率の向上に向けて,本節②(ア)で述べたような世代間の違いを 考慮した上でスポーツ活動を推進する観点から,スポーツ立国戦略では,子どもに目安を持って運 動やスポーツに取り組む習慣を身に付けさせるための指針の策定や,成人のスポーツ参加機会の拡 充,高齢者の体力つくり支援など,ライフステージに応じたスポーツ振興策を掲げています。 このため,文部科学省では,平成 23 年度から,幼児期の運動指針を作成し,具体的な運動例を 示すなどの取組や,成人の週1回以上のスポーツ実施率の低い 20 代男性・30 代女性や高齢者など 各世代のスポーツ実態を調査分析し,スポーツ参加を促進するなどの取組を行うこととしています。 また,文部科学省では,国民が各自の興味・関心に応じてスポーツに親しみ,日常生活の中にス 文部科学白書 2010 59 スポーツ立国の実現 148,995 150,000 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 ポーツが定着することを目的として,全国スポーツ・レクリエーション祭(第 23 回大会は平成 22 年 10 月に富山県内各地で開催)や, 「体育の日」を中心とした体力テストや各種スポーツ行事の実施, また,毎年 10 月を「体力つくり強調月間」として,広く国民に健康・体力つくりの重要性を呼び掛 けるなどの運動を展開しています。 さらに,多年にわたり地域や職場において,スポーツの振興に功績のあった人や団体に対し,そ の功績をたたえるため,生涯スポーツ功労者及び生涯スポーツ優良団体として文部科学大臣が表彰 を行っています。 (エ)学校における体育・運動部活動の充実 (ⅰ)新学習指導要領の完全実施 本節②(ア)(ⅰ)で見てきたように,子どもの体力の低下や,運動をする子どもとそうでない子 どもとの二極化傾向が続く中,学校体育の重要性は一層高まっています。 学習指導要領においては,体育・保健体育は,心と体を一体としてとらえ,運動についての理解 と合理的な実践を通して,生涯にわたって運動に親しむ資質・能力を育てることや体力の向上を図 ることをねらいとしています。 文部科学省では,平成 20 年1月の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び 特別支援学校の学習指導要領等の改善について」を受け,20 年3月に小・中学校の学習指導要領を, 21 年3月に高等学校学習指導要領を改訂しました。併せて,小・中学校の体育科・保健体育科の 年間標準授業時数は 90 時間から 105 時間に増加することとしました(小学校高学年は 90 時間のま ま。)。 新学習指導要領には,小学校低学年からの体つくり運動の実施や中学校における武道・ダンスの 必修化などが盛り込まれています (図表 1-1-27)。この新学習指導要領は,小学校は平成 23 年度 から,中学校は 24 年度から完全実施される予定です。また,高等学校は 25 年度から年次進行で実 施される予定です。 文部科学省では,新学習指導要領の円滑な実施に向けて,中学校で必修となる武道を安全かつ円 滑に実施できるよう,中学校武道場の整備について重点的に取り組むなど,必要となる施設・用具・ 指導者の充実を図ることとしています。 図表1-1-27 学校段階ごとの体育の分野における改訂のポイント (小・中・高等学校共通) ・各運動領域について,具体的な指導内容を明示。 (現行は,一部の領域について,運動種目等のみ規定。) ・「ゲーム」(小・中学年),「ボール運動」(小・高学年),「球技」(中・高等学校)については, 「ゴール型」,「ネット型」, 「ベースボール型」として,類型で規定。 (現行は,バスケットボール,サッカーなどと規定。) (小学校:体育「運動領域」) ・低学年・中学年においても,高学年と同様に,6領域で内容を構成。 (現行は,低学年2領域,中学年5領域。) ・低学年・中学年においても,領域の1つとして「体つくり運動」を規定。 (中学校:保健体育「体育分野」) ・目標及び内容を「第1学年及び第2学年」と「第3学年」に分けて示す。 ・第1学年及び第2学年を通じ,選択であった「武道」,「ダンス」を含めて,すべての領域を必修とする。 ・「体つくり運動」に各学年7単位時間以上,「体育理論」に各学年3単位以上を配当することを規定。 (高等学校:保健体育「科目体育」) ・入学年次では,「器械運動」,「陸上競技」,「水泳」,「ダンス」の中から1以上を, 「球技」,「武道」の中から1以上を選 択,その次の年次以降では,「体つくり運動」と「体育理論」を除くすべての領域から2以上を選択。 ・「体つくり運動」に各年次7∼ 10単位時間程度,「体育理論」に各年次6単位時間以上を配当することを規定。 60 文部科学白書 2010 小学校では,体育の専科教員を置いている学校は少なく,指導体制の充実が求められています。 また,体育の専門性を重視した指導の取組をしていない学校が,約半数近くあることも課題です 図表1-1-28 (%) 50 体力の専門性を重視した取組 体育の専門性などを重視した指導を実施していますか(複数回答可) 45.6% 40 30 28.0% 20 18.7% 12.7% 10 5.6% 3.4% 0 体育専科教員を 配置 外部人材を 活用 ティーム・ ティーチングを実施 交換授業を実施 その他 していない (出典)文部科学省「平成21年度 全国体力・運動能力,運動習慣等調査」 このため,文部科学省では,小学校全体の体育授業や体育的活動を計画したり,担任とティーム・ ティーチングで体育授業に取り組む 「小学校体育活動コーディネーター」の配置や,体育授業・運動 部活動における外部指導者の充実など,地域との連携による指導体制の充実のための取組を行うこ ととしています。 (ⅲ)運動部活動の支援 運動部の活動は,スポーツに興味と関心をもつ同好の生徒が,より高い水準の技能や記録に挑戦 する中で,スポーツの楽しさや喜びを味わい,豊かな学校生活を経験する活動であるとともに,体 力の向上や健康の増進にも極めて効果的です。平成 22 年度においては,中学生の 64.1%,高校生 の 40.9%が運動部活動に参加しています(図表 1-1-29)。 今回の中学校・高等学校の学習指導要領の改訂では,部活動を新たに総則に規定するとともに, その意義,教育課程との関連,運営上の工夫を行うなどの配慮事項について記載しました。 図表1-1-29 平成22年度運動部所属生徒数 運動部所属生徒数(人) 生徒数(人) 所属率(%) 男子 女子 計 男子 女子 計 男子 女子 計 中学校 1,359,597 921,646 2,281,243 1,817,273 1,740,893 3,558,166 74.8 52.9 64.1 高等学校 936,204 441,208 1,377,412 1,703,397 1,665,296 3,368,693 55.0 26.5 40.9 区分 (出典) 生徒数は文部科学省「学校基本調査報告書」, 運動部所属生徒数は中学校:日本中学校体育連盟調べ, 高等学校:全国高等学校体育連盟及び日本高等学校野球連盟調べ しかし,近年の児童生徒数の減少などにより学校の運動部活動に参加する児童生徒数が減少して いることに伴って,単独校によるチーム編成ができないなど,競技種目によっては,その活動を継 続することが困難な状況が生じています(図表 1-1-30・図表 1-1-31)。 このため,文部科学省では,運動部活動などの指導における外部指導者の活用や複数の学校でチ ームを編成する複数校合同の運動部活動等を促進するための事業を実施しています。 文部科学白書 2010 61 スポーツ立国の実現 (図表 1-1-28)。 特集1 (ⅱ)小学校体育活動コーディネーターの配置 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 また,文部科学省では,運動部活動の在り方に関し,生徒のスポーツ機会を充実する観点から, 全国中学校体育大会や全国高等学校総合体育大会(インターハイ)などの大会について,地域のスポ ーツクラブで活動する生徒や複数校で組織するチームなどに参加資格を認めたり,地域のクラブの 大会との交流を実施することについて,主催する団体における検討を促すこととしています。 図表1-1-30 中学校における主な競技別運動部数の推移 男子 女子 競技名 軟式野球 バスケットボール 卓球 サッカー 陸上競技 バレーボール バスケットボール ソフトテニス 陸上競技 卓球 平成12年 平成22年 増△減数 増△減率(%) 8,992 8,919 △ 73 △ 0.8 7,511 7,176 △ 335 △ 4.5 7,212 6,903 △ 309 △ 4.3 7,085 6,909 △ 176 △ 2.5 7,250 6,336 △ 914 △ 12.6 9,087 8,962 △ 125 △ 1.4 7,765 7,456 △ 309 △ 4.0 7,696 7,252 △ 444 △ 5.8 7,138 6,242 △ 896 △ 12.6 6,270 5,928 △ 342 △ 5.5 (出典)日本中学校体育連盟調べ 図表1-1-31 高等学校における主な競技別運動部数の推移 男子 女子 競技名 硬式野球 バスケットボール サッカー 陸上競技 卓球 バレーボール バスケットボール 陸上競技 バドミントン 剣道 平成12年 平成22年 増△減数 増△減率(%) 4,183 4,115 △ 68 △ 1.6 4,406 4,553 147 3.3 4,267 4,185 △ 82 △ 1.9 4,337 4,377 40 0.9 3,864 4,265 401 10.4 4,347 4,159 △ 188 △ 4.3 3,976 4,064 88 2.2 4,040 3,961 △ 79 △ 2.0 3,386 3,845 459 13.6 3,320 3,043 △ 277 △ 8.3 (出典)全国高等学校体育連盟及び日本高等学校野球連盟調べ (2) 世界で競い合うトップアスリートの育成・強化 ①我が国の国際競技力の現状と課題 平成 23 年は日本体育協会及び日本オリンピック委員会の創立 100 周年,平成 24 年は我が国がオ リンピック競技大会に初めて参加してから 100 周年に当たります。過去のオリンピック競技大会に おける我が国のメダル獲得状況を見ると,1964(昭和 39)年の東京オリンピック以降徐々に低下し はじめ,1996(平成8)年のアトランタオリンピックではメダル獲得率(オリンピック競技大会にお けるメダル獲得数/当該大会における総メダル数)・数ともに低調な結果に終わるなど,主要各国 と比較して,我が国の国際競技力は長期的・相対的に低下傾向にありました。 一方,近年に目を移すと,2004(平成 16)年のアテネオリンピックでは過去最多のメダル 37 個 を獲得し,2008(平成 20)年の北京オリンピックでは,過去5回の夏季大会でアテネオリンピック に次ぐメダルを獲得するなど,一時期の低迷状態を脱しつつある傾向がうかがえます(図表 1-1-32 (1)∼図表 1-1-33(2))。 しかしながら,平成 22 年現在, 「スポーツ振興基本計画」において目標としているメダル獲得率(直 近に開催された夏季及び冬季オリンピック競技大会におけるメダル獲得数/それらの大会における 総メダル数の合計数)3.5%に達しておらず,また,メダル獲得数では,アジアにおけるライバル 国である中国,韓国の後塵を拝している状況です(図表 1-1-34)。 62 文部科学白書 2010 特集1 図表1-1-32 (1) オリンピック競技大会におけるメダル獲得率の推移 (夏季) (%) 25 20 20.4 17.9 19.2 17.9 15 13.3 10.1 12.7 10 9.9 6.6 5.8 4.1 4.5 1.0 0.8 3.8 1.9 1.9 3.6 5 0.6 0 '64 東京 米国 13.7 15.3 '76 '88 モントリオール ソウル 3.6 3.3 2.7 12.0 11.0 10.2 7.7 7.5 5.9 4.9 3.2 1.7 11.5 10.4 9.9 6.8 9.5 6.4 6.3 6.1 3.0 5.3 5.2 3.98 3.2 1.9 '92 '96 '00 バルセロナ アトランタ シドニー '04 アテネ 7.5 4.8 4.3 3.2 2.6 中国 ロシア オーストラリア ドイツ 韓国 日本 '08 北京 (注)1.ドイツについては,ソウル大会までは東西ドイツの合計獲得数。 2.ロシアについては,ソウル大会までは旧ソ連,バルセロナ大会はCISの獲得数。 (出典)文部科学省調べ 図表1-1-32 (2) オリンピック競技大会におけるメダル獲得率の推移 (冬季) (%) 25 23.9 20 21.0 18.1 15.4 15.2 15.2 14.3 15 13.1 13.5 10 7.1 0.7 2.9 6.4 3.3 2.3 1.8 4.1 1.6 0.6 2.7 '88 '92 '94 カルガリー アルベールビル リレハンメル 6.3 4.9 3.9 2.9 8.7 5.6 4.4 4.4 3.4 0.5 '98 長野 11.6 9.9 1.7 0.9 0.9 0.8 0.4 米国 ドイツ 11.5 8.8 4.4 '72 札幌 14.5 12.6 7.6 5 0 14.2 5.8 5.4 4.3 1.9 1.2 ロシア 韓国 中国 日本 オーストラリア '02 '06 '10 ソルトレークシティ トリノ バンクーバー (注)1.ドイツについては,カルガリー大会までは東西ドイツの合計獲得数。 2.ロシアについては,カルガリー大会までは旧ソ連,アルベールビル大会はCISの獲得数。 (出典)文部科学省調べ 図表1-1-33(1) オリンピック競技大会における メダル獲得状況(夏季) 開催年 開催都市(国) 1976 1988 1992 1996 2000 2004 2008 モントリオール(カナダ) ソウル(韓国) バルセロナ(スペイン) アトランタ(米国) シドニー(オーストラリア) アテネ(ギリシャ) 北京(中国) 金 9 4 3 3 5 16 9 メダル獲得数 銀 銅 計 6 10 25 3 7 14 8 11 22 6 5 14 8 5 18 9 12 37 6 10 25 図表1-1-33(2) オリンピック競技大会における メダル獲得状況 開催年 開催都市(国) 1972 1988 1992 1994 1998 2002 2006 2010 札幌(日本) カルガリー(カナダ) アルベールビル(フランス) リレハンメル(アメリカ) 長野(日本) ソルトレークシティ(米国) トリノ(イタリア) バンクーバー(カナダ) 金 1 0 1 1 5 0 1 0 メダル獲得数 計 銀 銅 3 1 1 1 1 0 7 4 2 5 2 2 4 10 1 2 1 1 1 0 0 5 2 3 文部科学白書 2010 63 スポーツ立国の実現 21.0 19.0 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 オリンピック競技大会における日本・中国・韓国のメダル獲得状況 図表1-1-34 100 夏季大会 15 100 冬季大会 14 日本 80 12 中国 韓国 11 11 メダル獲得数 メダル獲得数 63 60 59 50 9 8 8 6 40 6 37 20 5 31 30 28 27 11 10 4 25 3 18 14 0 2 1996 アトランタ 2000 シドニー 2004 アテネ 0 2008 北京 1 1998 長野 2002 ソルトレークシティー 2006 トリノ 2010 バンクーバー ②トップアスリートの強化活動の充実 (ア)一貫指導システムの構築 文部科学省では,これまで日本オリンピック委員会や国立スポーツ科学センター,中央競技団体 などと連携しながら,「地域におけるタレント発掘・育成事業」を行ってきました。 本事業は,小・中学生のように比較的早い段階において,運動やスポーツを実施していない子ど もも含めた幅広い中から,特定のスポーツ種目に必要な素質を持つ人を選抜し,最適な競技の選択 や指導を行うことを支援するものです。 文部科学省では,ジュニア期から個人の持つ特性や発達段階に応じて一貫した指導理念や指針に 基づく指導を行うことで,世界で活躍できるトップアスリートへと組織的・計画的に育成していく 体制の整備を推進しています(図表 1-1-35)。 図表1-1-35 地域におけるタレント発掘・育成事業一覧 美深町(2005) 美深町タレント発掘・育成支援プロジェクト 冬季種目転向型(エアリアル) 秋田県(2009) AKITAスーパーわか杉っ子発掘プロジェクト 種目特化型(フェンシング) 京都府(2011) 京のこども「夢・未来」チャレンジステージ(仮称) 種目特化型(フェンシング・バドミントン) 名寄市・美深町・下川町・中川町・音威子府村(2009) 上川北部広域タレント発掘・育成事業 冬季種目特化・市町村連携型 (スキージャンプ・モーグル・クロスカントリー・アルペン) 山形県(2009) 山形県スポーツタレント発掘事業 YAMAGATAドリームキッズ 適正種目選択・短期集中型 岩手県(2007) いわてスーパーキッズ 発掘・育成事業 適正種目選択型 山口県(2008) YAMAGUCHIジュニアアスリートアカデミー 種目特化型(セーリング・レスリング) 福岡県(2004) 福岡県タレント発掘事業 適正種目選択型 長野県(2009) 長野県SWANプロジェクト 冬季種目特化型(スキー・スケート・ ボブスレー・リュージュ・カーリング) 和歌山県(2006) 和歌山県ゴールデンキッズ 発掘プロジェクト 適正種目選択型 東京都(2009) 東京都ジュニアアスリート発掘・育成事業 種目特化・種目転向型(レスリング・ウエイトリフティング・ ボート・ボクシング・自転車・アーチェリー・カヌー) ※2011年4月現在 (イ)トップアスリートに対する多方面からの高度な支援の実施 英国やオーストラリアなど世界のスポーツ強豪国では,国家戦略として競技種目のターゲットを しぼり,トップアスリートに対して疲労回復方策や最高品質の競技用具の開発など強化・サポート 64 文部科学白書 2010 我が国においても,メダル獲得の可能性が高い種目にターゲットを設定し,トップアスリートに 対するスポーツ医・科学・情報などを活用したトータルサポートや,日本の科学技術を活かした最 的・包括的に実施しています(図表 1-1-12)。 (ウ)女性アスリートの支援 スポーツ立国戦略では,女性アスリート特有のニーズを考慮した支援方策を打ち出しています。 図表 1-1-36 に示されているとおり,1996(平成8)年以降,各オリンピック競技大会では,男 子の競技種目数が頭打ちである一方で,女子の競技種目数は拡大し,メダル (種目)数が増加してい ます。 この期間に開催されたオリンピック競技大会における日本人選手の参加率を見ると,女子が男子 より高い状況となっており,メダル獲得率についても女子が男子を上回っています(図表 1-1-37)。 図表1-1-36 オリンピック競技大会における女子メダル(種目)数の増加 夏季大会 500 男子 女子 400 メダル数 300 496 511 200 505 502 388 382 367 298 100 0 1996 アトランタ 2000 シドニー 2004 アテネ 2008 北京 ※ 男女の区別がない競技は除く。 図表1-1-37 オリンピック競技大会における日本人選手のメダル獲得率(性別) 夏季大会 (%) 5.0 25 20 4.0 15 3.0 10 2.0 5 0 7人 7人 1996 アトランタ 5人 13人 2000 シドニー 20人 17人 2004 アテネ 13人 12人 2008 北京 メダル獲得率 メダル獲得数 獲得数(男子) 獲得数(女子) 獲得率(男子) 獲得率(女子) 1.0 0.0 ※ 男女の区別がない競技は除く。 文部科学白書 2010 65 スポーツ立国の実現 先端の競技用具・トレーニング機器などの開発を行い,多方面からの専門的かつ高度な支援を戦略 特集1 戦略の総合展開を既に行っており,このような方策は今や世界の標準になりつつあるといえます。 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 また,オリンピック競技大会以外でも,2011(平成 23)年の女子ワールドカップサッカー大会で 女子サッカー日本代表チーム(なでしこジャパン)が優勝し,同年8月には,内閣総理大臣から国民 栄誉賞が贈られるなど,女性トップアスリートが活躍しています。 こうしたことから,メダル獲得数のさらなる増加のためには,近年,その活躍が目覚ましい女性 トップアスリートの能力開発に注力することが効果的と考えられます。 このため,文部科学省では,女性のライフサイクルに着目し,男女の性差を考慮した研究開発な どの取組を重点的に実施していくこととしています。 No. 13 2012ロンドンオリンピック強化支援の検討に関する懇談会 (2012ロンドンオリンピック強化タスクフォース) 文部科学省では, 「スポーツ立国戦略」で,オリンピック競技大会の新たな目標として「過去最多を越 えるメダル数」の獲得を掲げているところですが,2012ロンドンオリンピックに向けた対策について は,早急な対応が求められています。 このため,我が国のトップアスリートが世界の強豪国のアスリートに伍し,メダルを獲得できるよう に支援するための具体的な改善方策について,「プレイヤーズ・ファースト」の観点から,現場のニーズ に即した迅速な検討を行う, 「2012ロンドンオリンピック強化支援の検討に関する懇談会(2012ロンド ンオリンピック強化タスクフォース) 」(鈴木寛文部科学副大臣主催,実行委員長:岡田武史文部科学省 参与)を平成23年3月15日に設置しました。 4月11日には第1回の会議を開催し,現場のニーズに即した迅速な強化支援の改善方策や,女性アス リートの戦略的な強化支援方策などについて検討を行っています。 No. 14 オリンピアンを支える「マルチサポート」 トップアスリートに対して,スポーツ科 スポーツ科学 医 学 学,医学,栄養学,心理学,生理学,情報 戦略などあらゆる分野の専門スタッフがサ 栄養学 情報分析・評価 ポートする「アスリート支援」に加え,日 本が得意としている科学技術を活かした最 先端の競技用具やトレーニング機器などの バイオメカニクス /マテリアル 心理学 「研究開発」を行う,こうした包括的・戦 略的なサポートにより国際競技力を向上さ 生理学 マネジメント せるための仕組みが「マルチサポートシス テム」です。 情報戦略 〈「アスリート支援」の例〉 ○強化合宿での映像分析サポートや栄養サポート ○競技大会でのリカバリー・コンディショニングサポートやメンタルサポート ○トーナメント方式の競技大会での対戦相手の試合映像の撮影・分析・即時フィードバック ○強豪国の選手や戦略の情報収集・分析・フィードバック 66 文部科学白書 2010 特集1 〈「研究開発」の例〉 ○競技特性にあった革新的ウェアの開発 ○日本人の体格・パワーにあった自転車の開発 また,競技大会では,選手がその時点で持っている能力をどこまで発揮できるかが重要なポイントと なるため,競技者のパフォーマ ンスの最大限の発揮に焦点を当 てた,選手村外のサポート拠点 である「マルチサポート・ハウ ス」を設置します。 こうした「国際競技力の向上」 と「最大限化」を支援すること により,オリンピック競技大会 医科学サポートスタッフによるコンディ ショニングチェック 情報戦略スタッフによる情報分析 でのメダル獲得を目指していま す。 ③トップアスリートのための強化・研究活動等の拠点構築 (ア)国立スポーツ科学センター 日本と同様に,メダル獲得数が低迷していたオーストラリアが 1981(昭和 56)年に AIS(Australian Institute of Sports)を設立し,メダル獲得数を伸ばしたことや,1982(昭和 57)年アジア競技大会 (ニューデリー)で中国に,1998(平成 10)年アジア競技大会(バンコク)で韓国にもメダル獲得数で 抜かれたことなどがきっかけとなり,平成 13 年 10 月に国立スポ ーツ科学センター(JISS)が設立されました。 JISS は,科学的な分析に基づく効果的なトレーニング方法の 開発やスポーツ障害などに対する医学的なサポート,スポーツに 関する各種情報の収集・分析・蓄積・提供などを一体として行い, オリンピック競技大会をはじめとする国際競技大会における我が 国のメダル獲得率の向上に寄与しています。 フェンシングにおける JISS のサポート (イ)ナショナルトレーニングセンターの整備 トップレベル競技者の強化に当たっては,競技ごとの専用練習場や宿泊施設などを備え,集中的・ 継続的にトレーニングを行うことができる拠点の整備が不可欠となっています。米国,ロシア,中 国,オーストラリア,ドイツ,フランス,韓国など,オリンピックのメダル獲得上位国のほとんど で,既にこうした機能を持つナショナルトレーニングセンター(NTC)が整備されており,競技力 の向上に大きく貢献しています。こうした状況の下,我が国においても NTC の整備が強く求めら れてきました。 このため,文部科学省では,JISS が所在する東京都北区西が丘地区に NTC を整備し,平成 20 年 1 月から供用を開始するとともに,NTC(西が丘)では対応できない冬季競技などについては既 存の施設を競技別強化拠点として指定し,NTC(西が丘)とのネットワーク化を図っていくことに しました。(図表 1-1-38)。 (ⅰ)NTC(西が丘) 文部科学省では,平成 16 年度からトップアスリートが同一の活動拠点で集中的・継続的にトレ ーニングを行うための NTC の整備を進めてきました。本施設は,屋内トレーニングセンター,陸 上トレーニング場,屋内テニスコート,宿泊施設(アスリートヴィレッジ)から成り,20 年1月か 文部科学白書 2010 67 スポーツ立国の実現 ○体幹部を効果的・効率的に鍛えることができるトレーニング・マシンの開発 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 ら全面的に供用を開始しました。平成 23 年3月末日には宿泊施設の増築棟が 竣 工し,ロンドンオ リンピックに向けてさらに充実した環境が整備されました。 (ⅱ)競技別強化拠点 冬季,海洋・水辺系,屋外系のオリンピック競技,高地トレーニングについては,既存のトレー ニング施設を競技別強化拠点に指定し,医・科学サポートや連携機関とのネットワーク化を図るな ど,強化拠点として高機能化を図るための事業を実施しています。 平成 19 年度から冬季競技など 20 競技等について,「NTC 競技別強化拠点施設」に指定して,積 極的に活用しています。 図表1-1-38 我が国のトレーニング拠点の状況 我が国のナショナルトレーニングセンター (NTC) NTC (東京都北区西が丘) トップレベル競技者が同一の活動拠点で, 集中的・継続的にトレーニング・強化活動を行うための施設。 屋内トレーニングセンター 陸上トレーニング場 アスリートヴィレッジ 屋内テニスコート ●陸上 ●テニス ●ボクシング ●体操 ●レスリング ●ハンドボール ●柔道 ●バレーボール ●バスケットボール ●ウェイトリフティング ●卓球 ●バドミントン ●競泳 ●シンクロナイズドスイミング ●フェンシング ●新体操 ●トランポリン 国立スポーツ科学センター (J I SS) ネットワーク 冬季競技 ●スキー ●スピードスケート ●ショートトラック ●フィギュアスケート 海洋・水辺系競技 ●ボブスレー・リュージュ ●アイスホッケー ●バイアスロン ●カーリング ●ボート ●セーリング ●カヌー 屋外系競技 ●サッカー ●ホッケー ●自転車 ●馬術 高地トレーニング ●ライフル射撃 ●クレー射撃 ●アーチェリー ●投てき NTC競技別強化拠点 冬季,海洋・水辺系,屋外系のオリンピック競技及び高地トレーニングについては,既存のトレーニング施設を活用し, 競技別のNTCに指定。 NTC競技別強化拠点に指定された施設では,ナショナルチームの強化やジュニア競技者の計画的な育成を行うための 施設の優先・専有利用やトレーニング場の競技条件の向上,科学的なトレーニングを行うための医・科学サポートや情報 ネットワーク化を図り,施設を活用した事業を実施。 連携協力 国立スポーツ科学センター(JISS) NTCでトレーニング・強化活動を行っている競技者 スポーツ医・ スポーツ医・ スポーツ診療 事業 に対して,スポーツ医・科学・情報の側面から総合 科学支援事業 科学研究事業 的支援を実施。 スポーツ情報 事業 ④企業スポーツへの支援 我が国のトップアスリートには,企業のスポーツチームに所属しながら競技活動を行っている者 も多く,企業はこうしたトップアスリートの生活全般を支援するとともに,安定した練習環境を与 えるなど,我が国の競技力の向上について重要な役割を担ってきました。 しかし,近年の厳しい経済状況の影響などにより,企業が所有するスポーツチームが休廃部に追 68 文部科学白書 2010 います。 こうした状況を受けて,文部科学省では,日本スポーツ振興センターを通じ,国内トップレベル グ運営の安定化や活性化を図ることを目指したトップリーグ運営助成を実施しています。 また,平成 22 年度に,オリンピックメダリストの輩出などに貢献した企業などの団体を表彰す る「スポーツ団体表彰」を創設し,第1回目の表彰を行いました(写真)。 ○受賞企業と所属選手(敬称略) 学校法人関西大学(髙橋大輔),学校法人梅村学園(浅田真央), ダイチ株式会社(田畑真紀,穂積雅子),日本電産サンキョー株 式会社(長島圭一郎,加藤条治),財団法人上月スポーツ・教育 財団(長島圭一郎,加藤条治,髙橋大輔),綜合警備保障株式会 社(吉田沙保里),学校法人天理学園(穴井隆将),学校法人山梨 学園(浅見八瑠奈),三井住友海上火災保険株式会社(上野順恵) ⑤国際・国内競技大会の支援 (ア)オリンピックなどの国際競技大会の開催 2010(平成 22)年ワールドカップサッカー大会での男子サッカー日本代表チームの活躍など,国 際競技大会における日本人選手の活躍は,国民に夢や感動を与え,国際社会における我が国の存在 感を高めるものです。 このような中で,我が国でのオリンピックをはじめとする国際競技大会の開催は,日本のトップ アスリート強化につながることはもとより,世界のトップアスリートの競技を目の当たりにするこ とにより多くの国民に夢や感動を与えるなど,スポーツの振興や国際親善などに大きく寄与します。 また,観光立国の推進・地域活性化にも資するなど,大きな意義や様々な波及効果を有するものです。 文部科学省では,国際競技大会の招致・開催が円滑に行われるよう,準備運営団体や関係省庁と の連絡調整を行い,必要な協力・支援を行っています。 平成 22 年度においては,2022(平成 34)年ワールドカップサッカー大会の日本招致への支援を 行いましたが,開催地はカタールに決定しました。また,ラグビーワールドカップの日本招致にも 協力し,2019(平成 31)年には日本で開催されることが決定しています。 (イ)国民体育大会の開催 国民体育大会は,広くスポーツを普及し国民の体力向上を図るとともに,地域のスポーツと文化の 振興を図ることを目的として,文部科学省,日本体育協会,開催地都道府県が共同して主催し,都 道府県対抗方式により毎年開催されている我が国最大の総合スポーツ大会です。 平成 22 年の第 65 回大会では,冬季大会・本大会合わせて 40 競技が実施され,約2万 4,000 名 の都道府県代表選手が天皇杯・皇后杯を目指し競い合いました(図表 1-1-39)。 図表1-1-39 第65回国民体育大会(平成22年) 競技種目及び選手・監督数 季別(開催地) 正式競技 公開競技 冬季大会 3競技 スケート・アイスホッケー・スキー なし (北海道) 2,937名 本大会 2競技 高等学校野球・トライアスロン 37競技 陸上競技・水泳等 (千葉県) 467名 20,973名 2競技 40競技 計 467名 23,913名 (出典)文部科学省調べ 文部科学白書 2010 69 スポーツ立国の実現 のリーグを運営する組織に対して,マネジメント(運営管理)能力のある人材を配置するなど,リー 特集1 い込まれる事例が多くなっており,企業所属のトップアスリートの活動基盤に深刻な問題が生じて 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 国民体育大会の充実・活性化と大会運営の簡素・効率化を図るため,現在までに,既存施設や近 接県の施設の活用,トップレベル競技者の参加促進,卒業した中学校又は高等学校の所在地からの 出場が可能となる「ふるさと選手制度」の導入,夏・秋大会の一本化,大会規模の適正化(参加者の 15%削減)などの改革が進められてきました。また,冬季大会の安定した開催を図るため,開催地 のローテーション化の実現にも取り組んでいます。 さらなる改革を目指し,日本体育協会は,平成 22 年6月に「国民体育大会活性化プロジェクト」 を設置し,現状の国体が抱える課題や問題点を整理し,より魅力ある国民体育大会の在り方につい て検討を行っています。 ⑥トップアスリートが安心して競技に専念できる環境の整備 アスリートの引退後のキャリアパスが確立していることは,アスリートが安心して競技に打ち込 めるだけではなく,才能あるより多くの青少年がスポーツの世界へ進むことを後押しすることとな り,我が国の国際競技力の向上にとって大きな意義を有しています。 平成 22 年3月現在,日本オリンピック委員会強化指定選手及び日本トップリーグ機構加盟リー グに所属するチームのアスリートの平均年齢は男子 25.4 歳,女子 22.4 歳であり,20 代が男子 72.6%, 女子 64.8%とその多くを占めています。こうした若いアスリートにとって,引退後のセカンドキャ リアをどのように築くのかということは,各々の人生設計における重要な課題です。 また,昨今の我が国の経済低迷を受け,企業チームの多くが活動を休止しており,企業チームに 所属するアスリートのセカンドキャリア支援については社会的な関心も高まってきています。 企業チームにおけるセカンドキャリアに関する支援を行っている割合について見てみると,平成 13 年度と比較して平成 20 年度では増加しており,支援を行う企業が増えている一方で,半数の企 業が支援を行っていないことが分かります(図表 1-1-40)。 また,「セカンドキャリアに関する意識調査」(複数回答)では,日本オリンピック委員会強化指 定選手などの約半数が引退後の就職先に不安を抱えており,その他,「ビジネス社会で,自分の能 力が通用するのか」,「職場に復帰して,自分の能力がついていけるのか」,「引退後も競技にコーチ やスタッフとして関わっていけるのか」などの不安を感じていることが分かります(図表 1-1-41)。 このように,アスリートの引退後のキャリ ア形成支援については,依然として厳しい状 況にあり,日本オリンピック委員会の「キャリ アアカデミー事業* 1」など各団体が進めるキャ リア形成支援のための取組を今後更に進めて いくことも必要です。 一方で,「セカンドキャリアに関する意識調 査(平成 22 年日本オリンピック委員会)」(複 図表1-1-40 (%) 100 90 80 55 70 60 40 30 ついてかなり具体的に考えていると答えたア 20 スリートが 30.7%にとどまっており,キャリ 10 アデザインの重要性がまだまだ現役アスリー 0 って,現役中からキャリアデザインの重要性 に関する啓発を進めていくことも必要です。 80.2 50 数回答)によると現役中にセカンドキャリアに トに浸透していないことも事実です。したが 企業チームにおけるセカンドキャリア支援の有無 45 19.8 平成13年度 何らかの支援を行っている 平成20年度 特に支援は行っていない (出典)文部科学省「JOC強化指定選手が所属するチーム及 び日本トップリーグ機構加盟リーグに所属するチームに 関する実態調査」(平成21年) このため,文部科学省では,キャリアデザ *1 キャリアアカデミー事業 トップ選手の将来の生活設計をサポートするとともに,そのキャリアの社会還元を進めるため,選手のためのキャリア研修や, 競技を通じて培った経験が社会に活かされるようなプログラムの企画・運営を実施。 70 文部科学白書 2010 引退後の不安 0 10 20 30 40 50 (%) 47.4 39.2 自分の能力が通用するのか 36.8 自分の能力がついていけるのか 33.7 引退後もコーチやスタッフとして関わっていけるのか 17.7 今までと同額の収入を得られるか 15.3 人生設計のアドバイザーがいるのか 11.6 その他 (出典)JOC「JOC強化指定選手・オリンピアンのセカンドキャリアに関する意識調査」(平成22年) インの重要性などについての啓発活動や大学院を活用したキャリア形成のためのプログラム開発に 対する支援,修学資金の援助などを行い,トップアスリートが安心してスポーツに取り組める環境 の整備を進めています。 (3) スポーツ界における透明性や公平・公正性の向上 ①スポーツ団体のガバナンスについて 近年,一部のスポーツ団体における理事間対立,指導者による競技者に対する暴力事件,競技者 の薬物犯罪などがメディアに取り上げられています。 こうした一部のスポーツ団体における不祥事は,スポーツに対する国民の信頼を失わせる可能性 があり,スポーツ団体の判断や対外的説明には,非常に大きな社会的責任が伴うようになっています。 博問題や八百長問題といった不祥事は,日本相撲協会だけ にとどまらず,社会的な問題と捉えられるに至っています。繰り返される不祥事の背景には,日本 相撲協会の組織改革が不十分であることが指摘されています。 また,代表選手選考やドーピング違反による資格停止処分などをめぐる日本スポーツ仲裁機構に おける紛争処理も存在しています。 こうしたことから,近年のスポーツ界においては,社会から信頼されるスポーツ団体の運営の在 り方,すなわち「ガバナンス」強化の必要性が高くなってきています。 このため,文部科学省では,スポーツ団体のガバナンス強化に対する取組を支援するとともに, スポーツ団体の組織運営体制の在り方についての指針となるガイドラインを策定することとしてい ます。 ②スポーツ紛争の迅速・円滑な解決支援 スポーツ団体の決定は,全ての競技者の活動に関わるものであることから,広く公共性が求めら れ,その決定の際には全ての競技者にとって適正かつ公平な措置が求められます。 このため,文部科学省では,日本オリンピック委員会,日本体育協会に加盟しているスポーツ団 体などに対し,スポーツ仲裁自動受託条項の採択をはじめとしたスポーツ紛争の迅速・円滑な解決 のための取組を求めるとともに,スポーツ紛争の迅速・円滑な解決支援のための体制整備を図るた め,紛争解決手続に関する団体・アスリートなどの理解増進,仲裁人・調停人の人材育成など,日 本スポーツ仲裁機構の機能強化を支援しています。 文部科学白書 2010 71 スポーツ立国の実現 就職先があるのか 例えば,日本相撲協会における野球 特集1 図表1-1-41 第1部 スポーツ立国の実現/教育と職業 ③ドーピング問題について ドーピングとは,競技者の競技能力を向上させるため,禁止されている薬物などを使用すること を言います。ドーピングは,1.競技者に重大な健康被害を及ぼす,2.フェアプレーの精神に反 し,人々に夢や感動を与えるスポーツの価値を損ねる,3.優れた競技者によるドーピングが青少 年に悪影響を与える,などの問題があり,世界的規模での幅広い防止活動が求められています。 1999(平成 11)年にドーピングの撲滅に向けて世界ドーピング防止機構が設立され,国際的な活 動の推進体制が整備されたことに続き,我が国では,平成 13 年にドーピング検査を中立的に行う 国内機関として日本アンチ・ドーピング機構が設立されました。 2005(平成 17)年には,世界ドーピング防止機構を中心としたドーピング防止活動を強化するた め, 「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」 (国際規約)がユネスコ総会で採択され, 我が国は平成 18 年に同規約を締結し,19 年には 「スポーツにおけるドーピングの防止に関するガ イドライン」を策定して日本アンチ・ドーピング機構を国内ドーピング防止機関に指定するなどの 体制強化を行ってきました。 ドーピング検査活動については,日本アンチ・ドーピング機構や中央競技団体で行われています。 我が国におけるドーピング検査数は日本アンチ・ドーピング機構設立後の平成 14 年時点における 2,829 件から 22 年時点では 5,514 件に増加し,英国や米国などオリンピックメダル獲得上位国の水 準(19 年時点で平均約 7,500 件)に近づきつつあり,検査実施体制の整備は着実に進んできています (図表 1-1-42)。 図表1-1-42 ドーピング検査件数の推移 9,000 8,532 8,000 7,577 日本のドーピング検査件数 7,545 7,000 6,000 5,449 5,514 H21 H22 オリンピック 米国 英国 メダル獲得 (H20) (H20) 上位国9か国平均 4,940 5,000 4,141 4,473 4,000 3,000 2,829 2,269 2,000 2,342 1,926 1,000 0 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 (出典)文部科学省調べ 一方で,依然として風邪薬の服用などによる,意図しないと思われるドーピング違反が多いなど, 競技者・指導者などにドーピングに関する知識が十分に普及していないことや国際的にも平成 21 年から世界ドーピング防止規程で教育の推進が義務化されるなどドーピング防止に関する教育や啓 発活動の重要性が増しています。また,日々新たに出現するドーピング手法に対処するための分析 技術の開発や分析機器の更新なども必要となっています。 このため,文部科学省では,日本アンチ・ドーピング機構との連携を図りつつ,国際的な水準の ドーピングに関する検査・調査体制の充実を図るとともに,近年の巧妙化するドーピングに対する 検査技術や機器の研究開発を促進しています。 また,ユネスコの国際規約で国の役割とされているドーピング防止に関する教育などの事業を行 い,教育・研修,普及啓発などのドーピング防止活動も推進しています。 72 文部科学白書 2010