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特 集
体内の循環血液量測定“輸液反応性”の視点から
∼ Perfusion indexとPleth variability index ∼
福島県立医科大学医学部麻酔科学講座
小原伸樹
PROFILE ────────────────────────────────
─
小原 伸樹 福島県立医科大学医学部麻酔科学講座 助教
Shinju Obara
2000年:福島県立医科大学医学部医学科卒業
同 年:福島県立医科大学附属病院麻酔科
2001年:福島県立医科大学附属病院呼吸器科
岩手県立磐井病院麻酔科
竹田綜合病院麻酔科
2002年:会津中央病院麻酔科
2005年:福島県立医科大学附属病院麻酔科
2009年∼:米国ユタ大学麻酔科 留学中
趣味:マラソン
─────────────
脈波変動指標(pleth variability
index:PVI)とは?
パルスオキシメータのMasimo SET Radical 7 TM(Fig.1、Masimo社、米国)を用い
て得られる指標である。動脈血酸素飽和度(SpO2)測定部位の動脈血に関連する拍
動成分と、皮膚などの組織や静脈血などに関連する無拍動成分の割合として灌流指
標(perfusion index:PI)を算出する。PIは表示された脈波波形の大きさより計算さ
れ、0.02~20%の範囲で示される。指尖血流量の変化とほぼ相関し1)、PIの増加は
末梢血流の増加を示すといわれている。
Masimo SET Radical 7TM
PI値は表現されている脈波波形の大きさに基づいて計算された数値である。
Perfusion Index
(%)
灌流指標
Pleth Variability Index
(%)
脈波変動指標
Signal IQ
動脈信号の質を表示
TM
AC
DC
拍動性信号
(AC)
PI
(%)
= ───────── ×100
無拍動性信号
(DC)
Fig.1. PI
19
A net
Vol.14 No.2 2010
PVIは、呼吸周期におけるPIの変化をパーセンテージで示したものである
(Fig.2)
。
値が高いほど呼吸周期に起因するPIの変動が大きいことを示している。麻酔中の
脱水状態で動脈圧波形の基線が呼吸性に動揺し、脈圧が変化するのがよく観察され
るが、この脈圧とPIを同等とみなしてPVIを算出しているイメージである。
測定の際には、プローブを装着
(部位は示指が推奨されている)
するとリアルタイ
ムに表示される。なおPVIの正常値は明記されておらず、患者毎のトレンドを追っ
て評価する必要がある。
呼吸によって起こるPI の動力学的変動を測定している。
PIMax − PIMin
PVI
(%)= ───────── ×100
PIMax
Fig.2. PVI
─────────────
PVIに関する文献
Cannessonらは、PVIが人工呼吸中の患者において輸液反応性や前負荷の指標に
なりうることを示す研究を多く行っている。頭高位から頭低位へ体位変換した際、
パルスオキシメータの振幅における呼吸性動揺ΔPOP=
( POPmax−POPmin)/
[(POPmax+POPmin)
/2]
(POPmax:呼吸周期中の最大振幅、POPmin:同じく最小
振幅)が低下し、また体位変換前のΔPOPと、体位変換後の平均血圧の変化率は正
の相関関係を示した2)。上述の式やFig.2 中の式からわかるように、PVIはΔPOPと
は異なる3)。しかし同様のデザインの研究で、PVIとΔPOPの間には強い相関関係が
あった4)。また、全身麻酔患者において、500mLの輸液前後で心係数が15%以上増加
した場合に輸液反応性があるとしたとき、PVI 14%をカットオフ値として反応性を示
し、さらに輸液負荷前のPVIと負荷前後の心係数の変化に有意な相関がみられた3)。
さらに彼らは FloTracTM/VigileoTM(Edwards Lifesciences社、米国)で算出される一
回拍出量変動
(stroke volume variation:SVV、別項参照)についても同様のデザイ
ンで研究を行い、SVV10%を閾値として、輸液500mLへの反応性を示したとの結
果を得ている5)。
またKellerらは自発呼吸中のボランティアにおいて、半座位から下肢挙上位に体
位変換した際、心拍出量の増加に伴ってPVIは有意に低下し、半座位に戻した際に
は心拍出量の減少に伴ってPVIは上昇することを示し、PVIが自発呼吸下において
も血行動態変化の予測因子になりうることを示している6)。
このように、PVIは輸液反応性の指標として、間接的な循環血液量の測定法とな
る可能性がある。類似の指標が得られるデバイスとしては、前述のFloTracTM/VigileoTMやPiCCOplus(PULSION Medical System、ドイツ)などがあるが、観血的動脈
圧ラインや中心静脈圧ラインの挿入を要し、PVIよりも侵襲的であるため、利益と
危険を考慮して使用する必要がある。
20
特 集
ここまで「輸液反応性」という表現が用いられてきたことより、PVIがあくまで
脱水を避けるための指標と考えられてきたのが分かる。麻酔中の血圧低下の際には
時に輸液過剰になりがちである。これに対し、術中血圧が低下してもPVIが低値で
あれば反応性の低い輸液よりも昇圧薬の使用に踏み切る、というようにPVIが過剰
輸液防止の指標にもなりうるのではないかと筆者は考えている。またPVIは、いわ
ゆるボリューム管理における熟練麻酔科医の経験や勘を数値化できる可能性を持
ち、教育や診療のフィードバックの手段としても有用かもしれない。
─────────────
注意点
PI自体が心拍数、動脈血酸素飽和度、酸素消費量、体温などの変動によって変化
する7)。PIの変動よりPVIが算出されるため、上述の生理的変化でPVIが影響を受
ける可能性が否定できない。数値の安定性の評価、使用条件の明確化が待たれる。
─────────────
まとめ
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引用文献
PVIは簡易に測定可能で輸液反応性の指標となりうる。
1 )Ozaki M, Sessler D, Lopez M, et al.:Pulse oximeter-based flow index correlates well with fingertip volume plethysmography. Anesthesiology 79:A542,
1993.
2 )Cannesson M, Desebbe O, Hachemi M, et al.:Respiratory variations in pulse
oximeter waveform amplitude are influenced by venous return in mechanically
ventilated patients under general anaesthesia. Eur J Anaesthesiol 24:
245−251, 2007.
3 )Cannesson M, Desebbe O, Rosamel P, et al.:Pleth variability index to monitor the respiratory variations in the pulse oximeter plethysmographic waveform amplitude and predict fluid responsiveness in the operating theatre. Br J
Anaesth 101:200−206, 2008.
4 )Cannesson M, Delannoy B, Morand A, et al.:Does the Pleth variability index
indicate the respiratory-induced variation in the plethysmogram and arterial
pressure waveforms ? Anesth Analg 106:1189−1194, 2008.
5 )Cannesson M, Musard H, Desebbe O, et al.:The ability of stroke volume variations obtained with Vigileo/FloTrac system to monitor fluid responsiveness
in mechanically ventilated patients. Anesth Analg 108:513−517, 2009.
6 )Keller G, Cassar E, Desebbe O, et al.:Ability of pleth variability index to
detect hemodynamic changes induced by passive leg raising in spontaneously
breathing volunteers. Crit Care 12:R37, 2008.
7 )http://www.masimo.cn/pdf/whitepaper/LAB3410E.pdf
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