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カナダ出張メモ:資源国カナダの切り札はドル安政策

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カナダ出張メモ:資源国カナダの切り札はドル安政策
リサーチ TODAY
2016 年 3 月 29 日
カナダ出張メモ:資源国カナダの切り札はドル安政策
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
筆者は3月中旬にカナダに出張し現地でセミナーや意見交換を行った。カナダに対して多くの人々が抱
くイメージは、まず「資源国」ということだろう。事実カナダは米国と並びシェールオイルの生産国であり、近
年エネルギー関連産業が大きく発展していた。下記の図表は、カナダの成長率推移である。資源・エネル
ギーブームに支えられてカナダの成長率は、2008~2009年のリーマン・ショックの時期を除けば、2%から
3%台の堅調な状況を続けていた。しかし、2014年末からのエネルギー価格の下落により2015年の成長率
は1%台前半に低下し、2016年も1%台半ばが見込まれる。一般的に資源国としてはブラジルやロシアが
挙げられるが、みずほ総合研究所の2015年・2016年の経済成長見通しは、両国についてともに、2年連続
のマイナス成長と大変に厳しい経済状況を予想した。一方、同じ資源国でも、先月筆者が訪問したオース
トラリアが予想以上に底堅い成長を遂げているのはなぜかについてはTODAYでも議論した1。同様に、カ
ナダも減速とはいえ、依然として底堅さを保つのはなぜかというころも大きな論点だった。結論を言えば、こ
の背景には、カナダドルの下落で貿易量の8割近いシェアを占める米国への輸出が拡大していることがあ
る。為替の下落が経済を支える構造はオーストラリアと類似する。オーストラリアでは、豪ドル安でサービス
産業の輸出が大幅に増加し、資源安のマイナスがカバーされるという構造が見られる。同時に、カナダでも
通貨安での米国市場向け輸出拡大が経済の支えになっており、為替の果たす影響が大きいことを改めて
認識する必要がある。
■図表:カナダの実質成長率推移
(前年比、%)
6
5
4
2.5
3
1.6
2
1
1.2
0
-1
-2
-3
-4
00
02
04
06
08
(注)2016 年は Blue Chip コンセンサス。
(資料)Statistics Canada より、みずほ総合研究所作成
1
10
12
14
16 (年)
リサーチTODAY
2016 年 3 月 29 日
カナダについては、資源価格の下落により、ブラジルやロシアのような資源国と同様にマイナス成長に陥
るのではないかという悲観的な見方が根強いなかで、カナダ経済がなんとか底堅さを保ってきた要因には、
繰り返しになるがカナダドルの下落による輸出の拡大がある。下記の図表はカナダドルの推移を示す。カ
ナダドルの下落に伴い、輸出額の8割近くが米国向けという状況にある。
■図表:カナダドルの推移
(¥/C$)
130
¥/C$
(C$/US$,逆目盛)
0.8
C$/US$(右目盛)
120
1.0
110
1.2
C$高
100
1.4
90
1.6
80
70
02
04
06
08
10
12
14
1.8
16 (年)
(資料)Bank of Canada よりみずほ総合研究所作成
カナダ出身で最も著名な経済学者にノーベル経済学賞を受賞したのロバート・マンデルがいる。マンデ
ルはマクロの金融財政政策のポリシーミックスであるマンデル・フレミングの法則等でも有名であるが、マン
デルは「ユーロの父」と称されるように最適通貨圏の議論でも名高い。マンデルの最適通貨圏の議論はそ
の後欧州が共通通貨を用いる理論的な背景になった。最適通貨圏とは地理的に近接し、類似した社会
的・経済的な地域では共通の通貨が使用可能であるという理論である。ここで、カナダ人であったマンデル
が暗黙裡に共通通貨圏として思い描いていたとされるのは、米国とカナダのような関係であったとされる。
一方、現実に共通通貨が使用されたユーロ圏は、ドイツとギリシャの関係のように地理的にも社会・経済的
にも極めて大きな格差がある地域が含まれており、本来の最適通貨圏の前提が成り立ちにくい状況であっ
た。それが、今日の欧州が抱える本質的な問題であり、その解決は依然としてはかれていない。
一方、皮肉にも最も最適通貨圏の理論が当てはまると考えられたカナダと米国は独自の通貨を使い続
け、共通通貨は実現していない。しかも、カナダと米国は経済的には事実上一体化しているが、先述のよう
にカナダは景気の調整弁としてカナダドルの下落を用いている。これは、欧州や日本だけでなく、隣国から
も米国は通貨安を仕掛けられたことを意味する。米国経済の実力として、米国が為替の面で負担を受け入
れる度量がどこまであるかに、今年のカナダ経済の行く末も依存すると考えられる。また、為替に加え、昨
年に誕生したトルドー政権が、財政を従来の緊縮から拡大に舵を切ったことも重要な政策転換だ。以上の、
為替と財政へのバイアスは日本のアベノミクスの政策とも類似するものがある。
1
「オーストラリア出張メモ:資源国でも底堅いのはなぜ」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 2 月 16 日)
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