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EUS-FNAで経験した高齢男性の膵 Solid Pseudopapillary Neoplasm

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EUS-FNAで経験した高齢男性の膵 Solid Pseudopapillary Neoplasm
31
岡山県臨床細胞学会
症 例
EUS-FNAで経験した高齢男性の膵
Solid Pseudopapillary Neoplasmの1例
實平 悦子1),香田 浩美1),原田 美香1),小寺 明美1),和田 裕貴1),
中村 香織1),藤澤 真義2),能登原 憲司2)
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 臨床検査技術部 病理検査室1),同 病理診断科2)
はじめに 膵Solid Pseudopapillary Neoplasm(以下SPN)は,若年女性に好発する比較的まれな
低悪性度の腫瘍であり,高齢の男性例は非常にまれである.今回,我々はEUS-FNAにおいて神経内
分泌腫瘍(以下NET)との鑑別に苦慮した高齢男性のSPN症例を経験したので報告する.
症例 70代男性.主訴は心窩部痛.他院にて総胆管結石を指摘され,当院紹介となり,砕石術
+EST(ERCP)が施行された.入院時のCTにて膵体部に約15mm大の結節が認められ,質的診断目
的でEUS-FNAが施行され,細胞診標本を作製しヘマカラー染色及びパパニコロウ染色にてN/C比の
高い小型類円形異型細胞が間質を軸とした偽乳頭状あるいは孤立散在性に出現していた.一部にロ
ゼット様構造も認められた.核は類円形から楕円形で,一部に核偏在傾向や核溝,くびれを認めた.
核クロマチンは微細顆粒状で核小体は目立たず小型であった.また,間質粘液球を取り囲むように異
型細胞が出現していた.以上の所見より,第一にSPNを疑ったが,ロゼット様構造があることや,高
齢男性の症例であること,画像所見で嚢胞性変化を認めなかったことより,NETの可能性も考え,
SPNと確定診断することができなかった.セルブロック組織標本と手術材料標本の免疫組織染色にて
CD10,CD56,ビメンチン,β-カテニンは核と細胞質に陽性,シナプトフィジンは一部陽性,クロ
モグラニン陰性でSPNと診断された.
まとめ NETと鑑別を要した高齢男性SPNを経験した.細胞形態学的にSPNと診断する上では,
間質粘液球を取り囲む異型細胞集塊の出現,クロマチンパターンの詳細な観察が重要であると考えら
れた.
Key Words:Solid Pseudopapillary Neoplasm,Pancreatic neuroendocrine tumor,Endoscopic
ultrasound-guided fine-needle aspiration cytology,Chromatin,Case report
Ⅰ.は じ め に
腫瘍の大部分が良性で,約15∼19%に悪性例の報告も
あり低悪性度の分化傾向不明な腫瘍とされる.ほとん
膵Solid Pseudopapillary Neoplasm(以下SPN)は,
全膵臓腫瘍の0.9∼2.7%を占めるまれな腫瘍である1).
どが若年女性に発生し,高齢男性での報告は少ない2).
今回我々は,EUS-FNAにおいて神経内分泌腫瘍(以
下NET)との鑑別に苦慮した高齢男性のSPN症例を
Etsuko SANEHIRA1)C.T.,I.A.C., Hiromi KODA1)C.T.,I.A.C., Mika
HARADA1)C.T., Akemi KODERA1)C.T., Yuki WADA1)C.T., Kaori
N A K A M U R A 1)C . T . , M a s a y o s h i F U J I S A W A 2)M . D . , K e n j i
NOTOHARA2)M.D.
Pathology Laboratory, Kurashiki Central Hospital1)
Department of Anatomical Pathology, Kurashiki Central Hospital2)
論文別刷請求先:岡山県倉敷市美和1-1-1
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院 臨床検査技術部 病理検査室
實平 悦子
Tel:086-422-0210(内線2478)
e-mail:ek8227@kchnet.or.jp
経験したので,自験例(SPN3例とNET5例)の細胞
学的鑑別点に文献的考察を加えて報告する.
Ⅱ.症 例
患者:70代,男性.
主訴:心窩部痛.
既往歴:被殼出血(右上下肢知覚鈍麻),高血圧.
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岡山県臨床細胞学会
写真2
ヘマカラー染色×10
類円形の核を有する異型細胞の偽乳頭状構造
写真1
入院時CT画像造影
膵体部の約15mm大の乏血性腫瘤
写真3
ヘマカラー染色×100
ロゼット様構造
臨床経過:他院にて総胆管結石を指摘され,当院紹
写真4
パパニコロウ染色×100
間質粘液球を取り囲む異型細胞集塊
ていた(写真2).一部にロゼット様構造(写真3)
介となり,砕石術+EST(ERCP)が施行された.入
院時のCTにて膵体部に約15mm大の乏血性結節(写
も認められた.核は類円形から楕円形で,一部に核偏
在傾向や核溝,くびれを認めた.核クロマチンは微細
真1)を認め,質的診断目的でEUS-FNAが施行され,
細胞診標本にてヘマカラー染色及びパパニコロウ染
顆粒状で核小体は目立たず,小型であった.また,間
質粘液球を取り囲むように異型細胞が出現していた
色,セルブロック組織標本にてHE染色を行い診断し
た.
(写真4).
②セルブロック組織像
小型類円形核を有する多数の細胞が出現しており,
Ⅲ.EUS-FNA材料所見
免疫組織染色にてCD10,CD56,ビメンチン,β-カ
①細胞像
出血性背景に,N/C比の高い小型類円形異型細胞が
テニンは核と細胞質に陽性,シナプトフィジンは一部
陽性,クロモグラニン陰性であった(写真5-a ∼5d).以上より,SPNと診断された.
間質を軸とした偽乳頭状あるいは孤立散在性に出現し
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VOL. 33 2014
写真5
免疫組織染色×10
a)CD10,b)β-カテニン,c)シナプトフィジン,d)クロモグラニン
写真6
手術摘出標本
10×9mmの充実性腫瘤
写真7
HE染色×10
手術材料組織像
Ⅳ.手術材料所見
Ⅴ.考 察
摘出された膵体尾部に10×9mm大の充実性の腫瘤
を認めた(写真6).HE組織像では、強い線維化,硝
膵SPNは若年女性に好発する比較的まれな腫瘍で,
1959年にFrantzらによって初めて報告された3).近年,
EUS-FNAの普及に伴い,SPNの報告例は増加してお
子化を伴って,明るい水泡状の核と空胞状ないし淡好
酸性の細胞質を有する腫瘍細胞が,結合性の緩い胞巣
状集塊で認められた(写真7).免疫組織染色結果は,
セルブロック組織標本と一致していた.
り,若年女性に発生するSPNは画像所見で充実部と嚢
胞部が混在することが特徴的な所見であり,組織像は
類円形の核を有する比較的均一な細胞が,偽乳頭状構
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岡山県臨床細胞学会
表1:SPNとNETの細胞像の比較
SPN①
SPN②
SPN③
本症例
観察した細胞数(個数)
426
間質粘液球(全視野)
NET①
NET②
NET③
NET④
NET⑤
G1
G2
G2
G3
G3
341
266
445
251
393
355
317
5
5
0
0
0
0
0
繊細∼ 繊細∼ 細顆粒状
細顆粒状
粗
粗
粗
融解
融解一部粗
1
クロマチンパターン
繊細∼ 細顆粒状
核内封入体(個数)
2
0
0
0
0
2
5
1
14
8
2
1
8
20
11
13
blue body(15視野での個数)
0
0
0
0
0
0
1
1
pair cell(15視野での個数)
1
0
1
0
4
1
3
1
ロゼット様構造(15視野での個数)
2
2
7
3
3
5
7
6
核溝(個数)
SPN:Solid Pseudopapillary Neoplasm
NET:Pancreatic neuroendocrine tumor
項目について見直しを行った.間質粘液球は,パパニ
コロウ染色標本の全視野をスクリーニングし,出現数
表2:膵充実性腫瘍の免疫組織学的比較
SPN
NET
ACC
時に+
+
−
Chromogranin A
−
+
−
Trypsin
−
−
+
CD10
+
稀に+
時に+
CK19
−
時に+
+
CK7
−
時に+
+
+(核)
−
+(膜>核)
Synaptophysin
β-Catenin
SPN:Solid Pseudopapillary Neoplasm
NET:Pancreatic neuroendocrine tumor
ACC:Pancreatic acinar cell carcinoma
造,ロゼット様構造で出現する腫瘍であることがわ
かってきている1).一方、高齢男性症例の報告は極め
て少ないが,画像診断の進歩に伴い,その報告例は増
加傾向にあり,男女のSPN症例を比較した報告も散見
されるようになった.Yu Takahashiらの報告による
と,SPNの男女で免疫組織学的差異はないが,男性症
をカウントした.対物100倍で15視野写真撮影を行い,
主観的にクロマチンパターンを観察し,クロマチンが
粗顆粒状であるごま塩状クロマチンについては粗,そ
の他融解状,繊細,細顆粒状と分類した.また,核内
封入体,核溝は15視野の全細胞数を分母とし陽性とし
た 細 胞 の 個 数 を 表 記 し,paranuclear cytoplasmic
inclusion(以下blue body),pair cell,ロゼット様構造
については,15視野を分母としその所見が得られた視
野数を表記した(表1).
そ の 結 果, 間 質 粘 液 球 はSPN症 例 で 認 め た が,
NET5例 で は 認 め な か っ た.NET(G1) 症 例 で は,
ごま塩状クロマチンが観察した細胞の約半数に出現し
ていた.NET(G3)症例のうち異型の強い症例で,
クロマチンは融解状を示し,ごま塩状クロマチンは出
現率1.7%であった.SPNでは,15∼30%の細胞に細
顆粒状クロマチンを認めたが,約70∼80%の細胞は繊
細なクロマチンパターンを示していた.SPNのクロマ
チンパターンの違いについては,SPNの一部の細胞に
例の方が充実性腫瘤のことが多く,腫瘍径が女性に比
べ小さい傾向があるとされている4).今回,我々が経
シナプトフィジン陽性細胞があることなどから神経内
分泌由来の細胞が混じている可能性があり,形態的に
験した症例も約15mm大と,女性自験例の35×35mm,
18×17mmに対しやや小さかった.
も違いがあるのではないかと考えられた.blue body
は,出現頻度は低いもののNET(G3)症例で認められ,
画像診断的にSPNと鑑別を要するNETは,高齢男
性に多く発生し,類円形の核を有する偽乳頭状構造,
SPNでは認めなかった.しかし,SPNでは異型細胞の
周囲にライトグリーンに濃染する小さな間質粘液球が
ロゼット様構造を示すため,組織あるいは細胞学的に
も類似する点が多く,しばしばその鑑別に苦慮する5).
付着する細胞像がみられることがあり,これをblue
bodyと見誤る可能性もあるため,SPNと診断する上
また,NET以外に同様の細胞像を示す腫瘍として,
膵芽腫,腺房細胞癌などが鑑別に挙がるが,膵芽腫は
では,ライトグリーンに濃染する物質だけではなく,
それを取り囲む異型細胞集塊(写真4)を認識するこ
小児に好発すること,腺房細胞癌は,腺房構造がみら
れることより鑑別診断から除外した.
とが必要である.このような異型細胞は,SPNの組織
像を見直すと嚢胞性変化を起こした中によく出現して
SPNとNETとの細胞学的鑑別点を検討するため,
自験例SPN3例とNET5例の細胞学的特徴と考えた7
いる.異型細胞と間質が破綻し嚢胞液に浮遊した結果,
異型細胞が間質粘液球を取り囲むような形態となるの
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VOL. 33 2014
ではないかと考えられた.
以上,細胞学的鑑別点について述べてきたが,SPN
とNETでは予後が異なるため,正しい組織学的鑑別
が重要であり,形態的に確定診断が困難な場合には,
免疫組織染色結果(表2)も合わせて慎重に診断する
必要がある.
Ⅵ.結 語
EUS-FNAにおいて高齢男性の膵SPNの1例を経験
し た の で 報 告 し た. ま た,SPNとNETの 細 胞 所 見,
鑑別診断について考察した.SPNと診断する上では,
間質粘液球を取り囲む異型細胞集塊,クロマチンパ
ターンを詳細に観察することが重要である.
文 献
1)Bosman FT, carneiro F, Hruban RH, et al:12 Tumours
of the pancreas. In:WHO Classification of Tumours of the
Digestive System(WHO classification of Tumours, vol3)
4th Ed, IARC Press, Lyons France, 2010, pp327.
2)細川 勇一,加藤 祐一郎,小西 大・ほか:高齢男性に
み ら れ た 十 二 指 腸 浸 潤 を 伴 う 膵 Solid-pseudopapillary
neoplasmの1例:日本消化器外科学会雑誌2012:45(6)
:
630-636.
3)Frantz VK. Tumors of the pancreas:Atlas of tumor
pathology Ⅶ. Washington:Armed Forces Institute of
Pathology:1959.
4)Y u T a k a h a s h i , N o b u y o s h i H i r a o k a , e t a l : S o l i d pseudopapillary neoplasm of the pancreas in men and
women:do they differ?Virchows Arch 2006;448:561569.
5)Kenji Kashima, Yohko Hayashida et al:Cytologic
Features of Solid and Cystic Tumor of the Pancreas:
Acta cytologica 1997;41:443-449.
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