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概要(PDF形式 23 KB)
ESRI 社会病理セミナ−小田教授講演概要(HP 掲載用) 1.日 時:平成16年6月2日14:00−16:00 2.場 所:第4合同庁舎共用第 4 特別会議室 3.講 師:小田 晋 帝塚山学院大学教授 4.テーマ: 「精神医学からみた現代の社会病理」 5:概 要:以下のとおり 【社会病理と精神病理】 ・社会病理・精神病理には、犯罪、浮浪、自殺、薬物乱用、売春、反社会的集団(暴走族・ 暴力団・反社会的カルト)など共通した現象が数えられる。 【現在における社会解体現象とアノミー化】 ・情報化社会になったことで、社会のビット数が上がり、価値観のパラダイム作りが難し くなった。テレビや新聞にある擬似化、コンピュータによる仮想現実など、境界線が喪失 し、無規範化している。 ・社会解体現象とは、家庭・学校・警察等の機能が麻痺してしまう現象で、この現象を支 持する運動、社会解体促進同盟的動向(全共闘運動がバックグラウンドと思われる)は 1970 年代に全盛をむかえた。人権を強調することで精神医療の麻痺、管理教育に反対すること で学校の麻痺など、一つ一つはもっともとしても全体では社会解体につながる。労働者階 級や農民の中産化により、犯罪者や精神病者のエネルギーを革命に用いようとした。 【最近の事件が示したこと】 ・21 世紀における社会的危険性の最大のものが宗教的テロリズムであり、また 1990 年代 の宗教シーンを社会病理の面で彩るものは、カルト問題とテロリズムであり、その両者が もっとも危険で奇怪な形で手をむすんだものが我が国におけるオウム真理教と米国同時多 発テロの問題である。 ・1968 年以降、宗教的テロリスト集団は増えており、その特徴は彼らの行為の高い致死率 である。 ・同時多発テロは狂信的テロリストによって惹起された大規模テロを思われるが、オウム 真理教意見はその先縦をなすものであった。理工系エリートがテロの実行に関与している ことでも先例となっている。 ・第一次、第二次宗教ブームを経て、現代では第三時宗教ブームと考えられ、その特徴は マイ宗教、マイ宗派という言葉からも分かるように、自分自身も超常体験をしてみたい、 というような思想である。第1、2次までは教祖が衰退したあとはパンフなど書かれた物 を重視するものであったが、今は、私でも教祖になれるというものである。 ・マインドコントロールの技法を用いれば、たいていの人を動かすことはできる。また、 理系エリートは、引力や相対性原理のような世界を説明するきれいな原理を発見したいと いう気持ちがある。それに破綻し、擬似体験を求めることになる。また、学界では、小さ な論文を書いてお金を集め、ばらまくことが行われているが、お金を受け取るためにいわ れたとおり何でもしなければいけないことで、生きがいを失っていることも背景にあるの ではないか。 ・死刑廃止問題がテロリズムに与える影響は大きいと思われる。しかし、刑法界、精神医 学界で死刑存続を唱えると集中攻撃を受ける現状がある。 【劇場型犯罪の登場】 ・劇場型犯罪とは、 「グリコ−森永事件」のようにマスコミ、ジャーナリズムを利用した犯 罪である。報道が事件を成り立たせる条件になっているが、統合失調症を含むアピール型 犯罪という類型もある。 【東京埼玉幼女誘拐殺人事件と酒鬼薔薇事件】 ・東京埼玉幼女誘拐殺人は、酒鬼薔薇への思い入れがあり、報道されることを喜んでいた。 大阪池田小学校での無差別殺人の宅間守も、エリートの子を殺せば注目されるということ で、報道されることが犯行動機のひとつだった。 ・被害者を守るという口実で、発言や報道を規制するのはおかしい。 ・神戸小学生幼児殺傷事件と、長崎小児殺害事件も含め、その共通性は異常性愛である。 性的サディズム・小児性愛・死体愛・死体虐愛・拝物愛など相手をモノとしてとらえるよ うになり、快楽殺人につながる。 【事件はどうしたら防げたか】 ・S30 年頃から、思春期が早くなってきている。これは、食生活の変化や、性的情報=刺激 が多い環境になってきているのが原因と考えられる。 ・思春期には性ホルモン濃度が急上昇し、攻撃性をみせることがある。男性ホルモン拮抗 剤を使用すれば抑えることが出来る。 ・事件を防ぐには、動物虐待、連続する軽微な異常性悪犯罪などその前兆をつかむことが 重要である。異常ないじめ、暴力、猫殺しなどには、持続性抗精神病薬や、男性ホルモン 拮抗剤など薬を使えば、抑えることができる。 ・学校等の捜査協力が大変重要である。神戸事件では、予兆の段階で、犯人の顔、学校名 も分かっていたのに、子供のプライバシーの一点張りで学校側の協力が得られず、結局事 件がおきてしまった。精神医に事前に来ていれば、猫殺しで止めることができた。 ・幼児事件は証言の不確実性ということで、立件が難しい。 ・諸外国ではいじめっ子が転校するのに対し、日本はいじめられる方が転校する。 ・欧米では使用されている「男性ホルモン拮抗剤」は日本では簡単には使用できない。欧 米では使用されているそうした薬でも、新左翼の影響が残っている日本の学会では、実験 させてくれないため、認可されない。 【性犯罪】 ・出会い系サイトが絡んだ事件が多発しているが、日本の性教育に問題がある。小学生に 性器や性交について教えるのはおかしい。少年期は男の子は女っぽく、女の子は男っぽく 中性的な時期だが、そういう時に性教育をすると寝た子を起こすことになる。重要なのは 子どもへの性教育ではなく、教師への性教育である。教えるのは性的規範でなければなら ない。 ・現在の児童相談所や家庭裁判所や自立支援施設などの体制には問題が多い。非行少年や 不良の収容施設ではなく、福祉施設になっている。思春期の早期化にあわせ、13歳から も少年院に入れるようすべき。また犯罪に詳しい精神科医のいる自立支援施設を増やす必 要がある。 【通り魔をどうなくすか】 ・アメリカでは「ミーガン法」により犯罪者の釈放の発表などを義務付けている州もある。 ・地域における機関相互の連携、ボランティアを活用したケアなどで、通り魔を防いでい く必要がある。 ・ 「心身喪失者等処遇・観察法」の問題点として、1 年半基準の問題(短すぎる)がある。 重大犯罪なのに1年半で退院させるのは無法であり、心身喪失も解決もしない。幻覚妄想 は長くは続かないが、人格障害はすぐには直らない。すぐに直らないから預かりたくない ということだが、それでは社会の安全はよくならない。米国では異常性犯罪者向けの治療 施設がある。再犯しないことを立証するのは、米国のように施設側の義務にすべき。 ・修復司法は、加害者は弁護士を伴って、被害者を納得させているが、万能薬ではない。 ・宅間守は、犯行前に精神病院に入退出していた。精神病犯罪者は許されることを知って いて殺人を犯した。一般人も精神病患者の犯行ならば泣き寝入りするしかないことを知っ ている。精神障害者の犯罪は人権擁護の観点から報道されにくいが、それが逆に陰湿化し た差別感を生んでいるのではないか。 【規範意識の喪失と今日の少年犯罪】 ・少年法を改正したが、 「但し書き」の逆用により、検察官送致の件数が非常に少ない。1 7歳以下の事件は、被害者が死亡しても検察官送致にならないのが原則となっており、医 療少年院送致とは、通常1年半で出所することを意味する。次回の少年法見直しの際には、 例外が原則とならないようすべきである。 ・昔は尊属殺人は無期懲役以上と罪が重かったが、尊属殺人が違憲の判決が出てからは、 刑が軽くなり、親殺しが軽く見られる風潮となっている。昔のように尊属殺人というだけ で重い罪にすることは問題だが、親殺しは人倫の道に劣ることを念頭におくべき。 【子どもたちの逆キレ】 ・脳のなかで、性中枢は破壊中枢に近く、性ホルモンの分泌が性中枢を通じて破壊中枢に 転移するので、思春期には切れやすい。 ・座っていられない子どもなどは、幼稚園の教育に問題がある。自主性教育を主張して、 しつけない教育がいきすぎている。 【米国における潮流変化】 ・ニューヨーク・ジュリアーノ前市長により行われた、警察官増員や街頭での小犯罪徹底 検挙等の施策により、犯罪の 48%が減少した。ひったくりなどの小さな犯罪を説諭などで 見逃すのではなく、検挙・起訴することが重要。 ・ 「Zero Tolerance」 (寛容しない)の実施で、一斉学力検査の実施、猶予せず直ちに退学な どさせたことにより、教室の静穏化、また高校中退率の低下などがみられた。日本も学ぶ べきである。出席停止の躊躇、学校による警察への通報を子供を警察に売るととらえるこ となど、見直すべきではないか。 【子育て支援と母性・父性教育】 ・乳児には甘え、幼児にはしつけ、少年には教え、思春期には考えさせ、法と宗教を教え る必要がある。 ・乳児期・幼児期には母親による母性教育が必要なのではなかろうか。プログラムに従っ た育児が重要。乳児は母親に甘えることで情愛が刷り込まれる。サルで実験したところ、 甘えなかったサルはムレにも入れず、子どもを愛することもできない。母親が母親である ためには、母性教育が必要。母親を立派であることを刷り込まないと、非常に危険で、社 会の存立にかかわる。これは男女差別とは別物である。 ・行き過ぎた自由保育は、将来的に学級崩壊を招く恐れがある。 【ホームレスの増加とその背景】 ・ホームレス問題については病院収容等の積極的対策が必要だが、人権問題とのかねあい もあり、十分な対策が出来ていないのではないか。 ・本来的なホームレスは統合失調症慢性例であり、自閉的で、人とつきあえないためにホ ームレスになる。かつてはそういった人は精神病院に入れていたが、今や人権をたてに、 入院させていない。ホームレスが精神病であるかの調査も人権をたてに、するのが難しい。 【質疑応答】 ・社会病理への対応について、現在の家庭、学校、社会における教育は社会病理を減らす ような教育を行っていないのではないと思われる。幼稚園はしつけをせず、学校では道徳 規範教育をしていない。学校では勧善懲悪、因果応報を子どもに刷り込むべき。 ・現在の少年院の過剰収容問題は、家庭裁判所が国民の安全を考え国民を保護する機関と なって、検察官送致を原則どおり行うことにより、解決されるのでは。少年刑務所はガラ ガラである。 ・少年犯罪の数自体はそんなに変わっていないのではなかろうか。しかし重大犯罪の割合 は増えている。 ・性教育について、ポルノ雑誌やメディアなどへのアクセス規制は必要。日本が諸外国よ りも規制がゆるい。思春期に問題解決的なアドバイスが行われるべき。 ・子どもたちは、大人以上に情報に聡い。この程度ならこの程度の処罰かという情報はす ぐに伝わる。厳しく罰することが大きく報道されれば、犯罪も減る。3年もたてば、少年 院の過剰収容問題は解決されるであろう。