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先端科学技術と法的規制 へ生命科学技術の規制を中心に)
恒 正 門 T") Y ド"・ l J 先端科学技術 と法的規制 (生命 科 学技術 の規制を中 心 に) 科 学 技 術 政策 研 究 所 一九 九 九年 五月 科 学技術庁 大 囲 藤 山 谷 隆 晃 真 夫 輔 束 第 2調査研究グ ループ 伊 場 実 木 本 POLI CY STUDYは、執筆者 の見解 に基づいてまとめ られた ものである。 Le ga lRe gul a t i onso nt heAdva nc e dSc i e n c ea ndTe c hnol o gyRe gul a t i onso nLi f eSc i e n ce May1 9 9 9 Mi no r uKu ni y a MamiOyama Kosu kelto Tak a o Ki ba 2 ndPol i cyOr i e nt e dRe s e a r c hGr oup Nat i o na lI ns t i t ut eo fSc i e n c eandTe c h nol o gyPol i c y( NI STEP) Sc i e n c eandTe c hno l o gyAge nc y J apa n 〒 100-0014 東京都千代田区永 田町 1-ll -39 Te l:0 3 3 5 81 2 3 9 2,Fax:0 3 3 5 0 0 5 2 3 9 生 命 科 学 技術 の現 状 と戦 略 次 先端科学技術と法的規制 ( 生命科学技術の規制を中心に) は じめ に 規 制 の可能 性 生 命 科 学 技術 に ついて の規 制 第 7編 第 一節 各 国 に お け る規 制 の内 容 と経 緯 法的規制 第 二節 我 が国 に お け る法 的 視 点 か ら の検 討 第 一章 第 三節 法 的 な 規 制 の限 界 学 問 研究 自 由 の制 限 第 四節 第 一項 研究 段 階 と実 用 段階 の技 術 規 制 規 制 対象 の検 討 ( 生 殖 医療 技 術 に ついて) 第 二項 第 五節 安全 性 規 制 を 正当 づ け る根 拠 ( ク ロー ン技 術 を 主 に) 第 一項 社会 的 秩序 第 六節 第 二項 規 制 根 拠 に関 す る結 論 補 説 ・研 究 者 の法 的 責 任 第 三項 第 七節 園谷 園谷 実 ・大 山 実 ・大 山 真未 真未 6 - ′ h U 82 75 67 61 61 51 45 42 42 34 1 6 第 二項 第 一項 一般 的 過 失 責 任 加重的過失責任 第 二項 第 一項 基準 違 反 に ついて 成 文 化 さ れ な い法 規 範 ガ イ ド ラ イ ンに ついて 国 及 び学 会 等 のガ イ ド ラ イ ン 第 三項 補 説 ・技 術 基 準 論 第 二項 第 一項 合 意形 成 手法 合 意 形 成 のた め に 必要 な当 事 者 規 制 のた め の合 意 形 成 努 力 第 四項 第 二章 第 二締 まとめ ( 参考) 一. 各 国 法 制度 概 要 二.放 射線 の国 民 全 体 への影 響 三 . コンセ ンサ ス会 議 に つい て の資 料 圃谷 園谷 実 ・大 山 実 ・大 山 真未 真未 隆 晃 夫 輔 1 1 61 1 21 0 29 69 68 88 2 1 48 1 3 21 21 1 611 5 91 5 2 木 伊 場 藤 はじめ に 〟. 科 学 技 術 と 人 間 ・社 会 に関 す る調査 研 究 に対 す る科 学 技術 政 策 研究 所 の取 組 み 園谷 実 ・大 山 真未 近 年 の科 学 技 術 の急 速 な 進 展 は、 国 民生 活 にプ ラ ス ・マイナ ス両 面 にわ た り多 大 な 影 響 を 与 え てき てお り、 一方 で科学 技術 が 社 会 シ ステ ムや 日常 生 活 のあ り方 を変 え ' 他 方 では社 会 の側 か ら科 学 技術 に対 し て の要 望 や 規 制 と い った働 き かけ が存 在 し て いる。 従 来 ' 科 学 技 術 と 人間 ・社 会 の関 係 に関 す る国 の対応 と し ては ' 「 科 学 技術 政 策 大 綱 」 (叫九 九 二年 四 月閣 議 決 定 ) を 始 め ' 科 学 技 術 会 議 の いく つか の答 申 の中 で社 会 と 科 学 技 術 の調和 の重 要 性 が指 摘 さ れ てき た。 具 体 的 に は、 一九 七 1年 の科 学 技 術 会 議 第 五号 答 申 、 1九 七 七 年 の科 学 技術 会 議 第 六 号答 申 、 1九 八 四年 の科 学 技 術 会 議 第 二 号 答 申 ' 一九 九 二年 の科 学 技 術 会 議 第 7八 号 答 申 な ど のほか 、 7九 九 五年 に制 定 さ れ た 科 学 技術 基 本 法 に お い ても 、 科 学 技 術 と 人間 ・社 会 と の調 和 に つい て の 言 及 が 見 ら れ る。 1方 、 これ に対 応 し た具 体 的 施 策 と し ては、 本 論 第 二編 で述 べる テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント が 、 l九 七〇 年 代 か ら我 が 国 で も注 目さ れ 実 施 さ れ た が、 これ も科 学 技 術 の正 ・負 両 面 の影 響 評 価 ( ア メリ カ では科 学 技 術 のも つ危 険 性 への早期 警 戒 と し て 考 え ら れ た) と いう 意 味 で' 科 学 技 術 と 人 間 ・社 会 の調 和 を 目指 す 初 期 の施 策 と し てあげ てお く べき であ ろ う。 な お 、 個 別 分 野 の中 では、 特 に生 命 科 学 技 術 と の関 連 で、 科 学 技術 と 人間 ・社 会 の関 わ り が 問 題 と さ れ 、 関 係 省 庁 部 内 で の 検 討 も進 め ら れ てき てお り 、 これ に ついて は第 1編 第 三早第 一節 の 「 生 命 科 学 技 術 の現 状 と 戦 略 」 の項 の中 でふ れ る こと とす る。 科 学 技 術 政 策 研 究 所 は 7九 八 八 年 ( 昭 和 六 三年 ) の発 足 以来 ' こ の ( 科 学 技 術 と 人間 ・社 会 ) を 主 要 な 調 査 研 究 テー マの 1 つと し て取 り上 げ 、 科 学 技 術 と 人 間 ・社 会 に関 す る世 論 調査 の分 析 や 国 際 比較 、 科 学 技 術 が 人間 ・社 会 に 及ぼ す 影 響 や 生 活 関 連 科 学 技 術 課 題 に ついて の意 識 調 査 な ど を 行 ってき た と ころ であ る。 主 な 成 果 と し ては' 「 科 学 技 術 に対 す る社 会 の意 識 に ついて」 (一九 八九 年 ) 及 び 「 日 ・米 ・欧 に お け る科 学 技 術 に 対 す る社 会 意 識 に 関 す る 比較 調査 」 (1九 九 二年 ) に よ り' 科 学 技 術 に対 す る 人 々の意 識 調査 を 基 に分 析 し、 科 学 技 術 に対 し社 会 や 人 々の生 活 の発 展 に大 き く貢 献 す る こと が 期 待 さ れ てお り、 人 間 の生 存 や 安 全 の実 現 への貢 献 が 重 要 であ る こと等 の指 摘 を 行 っ た。 ま た 、 「 科 学 技 術 が 人間 ・社 会 に及ぼ す 影 響 に関 す る 調査 」 (1九 九 四年) に お いて'意 識 調査 に基 づ き、 科 学 技 術 と 人間 二 二 照 三 ペ ー ジ ∼参 二一 ページ∼参 照 ・社会 と の調和を図 っていくために科学技術 に対す る価値観、因子'機能等 の新 し い分析を行 い、科学技術 が人間 ・社会 に及 ぼ す問題 面 ( 人間 の精 神面 への影響や 人間性軽視等) に注意 を払う ことが必要 であ る こと等を指摘 した。さら に、 「 生活関連 科学技術 課題に関す る意識調査 」( 中間報告 一九九 五年 及び最終報告 一九九六年)では、生活関連科学技術 の推進方策 として' 環境 保全、健康 ・医療 '防災'福祉関連分野 の重要性や'生活者 の ニーズ の把握及び生活関連科学技術 に関す る情報提供 の必 要性な どを指摘 したO 近時 の動 きと して、従来 の意識調査 の分析を中心とした調査研究 のみならずへ科学技術 の進歩を契機と した社会的変 化 への 対応'あ る いは科学技術 に解決 が期待される社会的問題 への取 り組 み'例えば' ク ロー ン技術をはじめとす る生命科学技術' 情報科学技術、廃棄物 ・環境問題などに関 して'新 たな アプ ローチによる'具体的問題事例'行政事例を踏 まえ ての検討、政 策琴 吉が求 められるよう にな っており、本調査研究 も このような新 し い問題意識 に立 って行 ったも のである。 二. 新 し いアプ ローチと社会的関心 ‖科学技術 の新 し い捉え方 科学技術 をめぐる社会 の変 化を踏 まえ て'近年tSTS ( Sc e i n c e ,Te c h n o t o gya ndSoc i e t y) と呼ばれる新 し い研究分野 への 関心が高 ま って いる。 そ の定義 は必ず しも確立され ていな いが、例えば 「 科学技術 の社会的側面に ついての人文 ・社会科学的 な研究 ・教育 であ る」 ( 中島秀 人 ﹃科学 とは何だろうか﹄ ) とされる。 そ の歴史 を概観す ると、 1九七〇年代初 め'イギリ ス各地 の大学等 による科学教育 への取 り組み の中 で、科学技術をめぐる C O Z︰ Sc e i n c ei n aSocia諸問題 に ついて多角的側面から の分析を取 り入れようと試 みた ことに始ま るとされる。 ( いわ ゆる SS Cont e xt ) 他方 、 アメリカにお いても' 一九六〇年代 以降、環境問題などをき っかけとして、大戦 での勝利 以来 の科学技術 に対す る社 会 の期待感 に疑問が投げ かけられ るよう にな り、イギリ スでの動きが導 入された ことともあ いま って' 一九六〇年代 から 一九 七〇年代初 めにかけ て、大学 にお いて科学技術 と社会 と の関係 に関するプ ログ ラム ( STS) が登場した。 近年 の科学技術社会論 の大 きな流れとし ては'科学技術 と人間 ・社会 と の関わり のあり方をめぐ って、科学技術 に ついての 公衆 理解増進 ( 専 門家が市 民 の啓発を図 る)と いう方針 から、科学技術 と社会 と の コミ ュニケー シ ョンを図り、さら に科学技 術 に ついて の意思決定 に市 民が参加すると いう方向 に推移 しており、情 報公開' アカウ ンタビリテ ィ ( 専門家 の市民 への説明 [ sTS の紹介 ] 2 義務 ) の重 要性 が意 識され るに至 っている。 ま た、科 学 技術 の抱え る問題、例えば地球 環境 問題'生命倫 理'国際的な技術摩擦等 が注 目さ れ る今 日'健全な社会 運営 の ため には' 一般市 民 から政策 決定者 ま で'す べて の人 々が科学 技術 に関す る社会 問題 への理解 を持 つことが 不 可欠 であ る こと が認識さ れ、科 学 技術 の現実 への コミ ットが重視さ れ る方 向 へと推 移 し て いる。 こ のような新 し い科学技術 論 ( sTs) の展開 には' いわ ゆる 「モード論」 の果た した役割 も見逃す わけ には いかな い。 これ は、 1九 九〇年代 に入 って登場 し話題 とな ったも ので、 マイケ ル ・ギボ ンズ ( イギ リ ス ・サ セ ック ス大学科学政策研究 e d g e 成 h eZ ew Production ofKnw o﹄( 小林信 一監 訳 ﹃現代社会 と知 の創 造∼ モー ド論と ユニット 所長 ︰当時 ) らによ る著 書 ﹃づ 。 ここでは'科学技術活 動 を編 す る社会的な様式を モードと いう概念 でとらえ、既 は何 か﹄) に よ り提 唱さ れた も のであ る 存 の学 問 領域内 の研究者集 団 の価値や方法 により研究 が進 められ評価さ れ る モード 1の科学 に対 し、現実 の問題解決や社会的 応用 を指 向 す る モー ド2と いう科学 の様式 が出現 した ことが指摘 さ れ て いるQ モー ド2は、 近年 の環境 問題、 医療保険 問題、 ビ ッグ ・サ イ エン ス等'従来 型 の モード 1 では説明 のできな い諸問 題 の進展を背景と し て登場 したも のであ り、ト ラ ン ス 二ア イシプ リナ リー で問題指 向型 であ り'知識 を利 用す る立 場 から の研究活動様式 であ る。 このような モー ド論 の登場 によ り、科 学 技術 のあ り方 に ついて考 え るに当 た って、様 々な学問的 手法 を用 いた ( すなわち 人文 ・社会科学 と自然科学 の両者 のアプ ロ ー チ によ る) 問題解 決型 の視点 が より明確 に意 識さ れるよう にな って来 たも のと考え られ る。 [モー ド論 ] sTsそ のも の の評価 に ついては、研究 対象 とな って いる科学者 そ のも のと論争 もあ り'反論を受 け て いる部 分 もあ るよう [sTS の評 価 と であ るが、科学 技術 政策 研究 に新 し い視点 を盛 り込んだ提案 と し て注 目す る必要 があ ると考 え る。 特 に、 そ の方法論 からト ラ 新 し い対応 ] ン スデ イシプ リナリを特徴 とす るため に、様 々な分 野と の競合 を生 じ て新 し い方法 論が生 まれ てく る可能性 があ る。 そう した 例 と し て'科 学 技術史 学'科学 技術哲学、科 学技術政策学 のよう にす でに研究 の始 ま って いるも のから、科学 技術法学 、科 学 技術経 済学 '科学 技術 政治学 、科学技術 倫 理学 、科学技術 大衆 化論 のような従来な か った分 野も提案 され てき ている ( 中島秀 人 ﹃科学 と は何 だ ろう か﹄ ) と ころ であ り' こう した新 分 野 に ついてはまだ そ の実体 は見え にく いも のの科学技術 政策 の調査 研究 に当 た っては配慮 し て行 く必要があ ると考 え る。 このような学 問 の新 し い潮流 の現れ る T方 で'科 学技術 をめぐ つては、 この 叫 ○年余 にわ たり大 きな変 化が見られた。経済 社 会 '特 に経済 問題 の中 で、産業 の活性 化 に果たす科学 技術 の役割 は大 きな期待 を受 け るよう にな り'各 国とも先端科学技術 に対す る戦 略的 な政策 が次 々と取 られ るよう にな って いる。 一方'特 許や標準等 の国際協 力 の求 められ る問 題が増え る 一方、 生命 科学 技術 や情 報科学技術 な ど の分 野 では高度 な研究や そ の研究成 果 の活用 そ のも のに 一定 の制限が 必要 であ ると いう議論 も行 わ れ るよう にな って いる。 そ のため に、科学技術 に関す る検 討も単 に特定分 野 の専 門家 だけ で決定 す る のではな く、 公開 や アカウ ンタビリ テ ィ、施策 への国民 の声 の反映な どが求 められ るよう にな ってき ており'最 近 の科学技術 行政 のかな り の部 分 は従前考 えら れな か った こう した新 し い対応 に向 けられたも のとな って いる。 ∽新 し い課題とそ のアプ ローチ 科学 技術 政策 研究 所と し ては、科 学技術 と 人間 ・社会 の検討 に当 た ってはす でに述 べた よう に様 々な検 討を進 め てき'また これ から検討す べき課題も広 範 な分 野 にわた って存在 し て いると考 え るが'上記 のような科学技術 を めぐ る状 況 の変 化 にも配 慮 し っつ'特 に第 二調査 研究グ ループ の当 面取 り上げ る べき課題と し て'現在 現実 に問題が生 じ て いるか'な いしご く近 い将 来問 題が生 ず る ことが予測さ れ る技術 であ って、 早急 な 回答 を求 められ て いる分 野事項 に ついて検討を進 め る こと にした。 平 成一 〇年度 に機 関評価 を受 けた科学技術政策 研究 所 と しては、機 関評価 にお いて当研究 所 の役割 と して指 摘された アドバイザ リー機能 を果 たす ため にも、 こ のような 問題 に対応 し て いく ことが求 められ て いると考 え るから であ る。 一方 このような分 野 に ついては'行政事例 が 比較的豊 富 にあ りt か つ検討 の過程 で立法 化や 制度 化 のような問 題を控え ているため に、 一般的な学 術機関 と行政機関 の中間 に位 置す る政策研究 所 の能力 が発揮 しやす いと いう メリ ット のあ る ことも補 足し ておく。 もち ろん このような 分 野 の検討 を進 め る こと により'科学技術 と 人間社会 の 1般的な検討 の中 で積 み上げ的な実 証を進 める こととな り'従来 比較的 一般 論 から議論 が進 ん で いる ( 科学技術 と人間 ・社会) の研究 と のバラ ンスのとれた進捗 が図 られ る こととな ると考 え たも のであ る。 こ のよう に検討 の対象 を設定 す る時 ' 対象 とな るジ ャンルは大 き く 二 つに分 け て考え る ことが でき る。 それ は'① 原 子力開 発'宇宙 開発な ど国が主体 とな って推進 す る先 端的科学 技術 と、② 国が比較的 中立的な立場 から国全体 の推進や規制 を考 え る 先端科学 技術 であ る。 一概 に個 別 の科学 技術 がどち ら に属す るかは定 めがた いが' 一応後者 の科学 技術 の検討 の方 が原 理的 な 回答 を期待 でき、前者 はそう した原 理 の応 用と考 え て行く ことが でき る ので'当グ ループ と し てはまず '② の分 野に ついて検 討を行 い' それら の成果を踏 まえ て'① に ついて の検 討を行う ことと した。 次 に、② の科学 技術 に ついても そ の対象 は極 め て広範 囲な分 野にわたり' 研究 は網羅的 に行 う こと は困難 であ り'特定 の視 点 から そ の代表 分 野を 選び'順次検討 を行う ことが必要 であ る。 そ の際 '近年 の科学技術 政策 の中 で 「 規制」 が重 要なポ イ ン ト にな って いる こと に着 目 した。 従 来'研究 に規制 はな じまな いも のと考 え られ てきたが、現在社会的 に問題とな って いる② に属す る研究 に ついては、 ほとんどが規制 に ついて考慮 しなければ いけな い科学 技術分 野とな って いる。 4 ② に属す る研究 の形態 も大 きく 三 つに分 け る ことが でき る。 1つは'研究 そ のも のを規制す る ことが社会的 に必要 と考 え ら れ て いる分 野 の科学 技術 で、 一例 と し ては、昨今生殖 医療 技術や ク ロー ン児 の創 出 で社会 の話題 とな って いる生命科学技術 が ある ( す べてが そう した性格 を持 って いるわけ ではな いが' 一部 では特 に早急 な対応 が国 民から求 められ て いるも のであ る) 0 第 二は' 研究 そ のも のではな いが研究 の成 果が大 きな影響 を持 つため に技術 の社会 への適 用 の段階 で様 々な規制が 必要と考 え られ て いる科 学 技術 で、情 報科学 技術 が そ の 一例 であ る (これも、第 iのも のと の区別 が難 し いと ころ であ る) 。 第 三 は'研 究 の成 果が 規制 に反映され る ことが期待さ れ て いるも ので'第 一や第 二とは反対 に、 研究 の成 果が まだ十分 上が って いるとは いえ な い段階 で'国 民 の安全や 人類 の福祉 のため に規制と いう形 で社会 への適 用が求 められ る科学技術 であ る。 環境科学技術 や地球科 学 技術 な どが そ の 一例 であ る。 先 端科学 技術 のよう にそ の結 果 の予見が困難 でしかも そ の及ぼ す影響 が甚大 であ るも のと 「 規制」 と の関係 は、従来特定 の 分野 ( 例 えば 原 子力 の規制) 以外 に ついてはあま り論 じられ ていな いよう であ る。 そ の意味 では科学 技術 政策 の検討 に当た っ 特 に生 て、 一般 的 な先 端科 学技術 と規制 の考 え方 を整 理し ておく こと は'今後生 じる であ ろう様 々な問題を先取 りす る意味 でも重 要 であ ると考 え る。 今 回 は上記 のような検 討対象 の中 から'現在 そ の中 でも最 もホ ットな話題 であ る生命 科学 技術 1 殖 医療 技術 の中 でも ク ロー ン技術 に ついて絞 って検討を加え てみる。 以後' この検討 の成 果を踏 まえ て逐次他 の分 野に ついて も検 討 を加 え てみる予定 であ る。 5 第 一章 第 l編 生命科学技術 の現状と戦略 法 的規 制 規制 の可能 性 生命 科 学技術 についての規制 第 一節 一.生命 科学技術 の現状 囲谷 実 ・大 山 真 未 生命 科 学 技術 ( 国 の政策 にお いては、 「 ライ フサ イ エンス」 と呼ば れ て いる) は、生 物 が営 む生命 現象 の複 雑 か つ精 微な メ カ ニズ ムを解 明 す る科 学 であ ると共 に、 そ の成果 を医療'環境 、農林 水産業'産業等 の種 々の分 野 に応 用す る ことを目指す も のであ る。 近年 の生命 科 学 技術 分 野 の研究開発 に関す る動向 に ついては、生物 に関す る科学的知 見 の蓄積 によ り、す べて の生命 現象 を 1定 の共 通的 原 理 に基 づ いて統 1的 に理解 しう る可能 性が見え てき ており' それ は いかな る生命 現象 も、 共通 し てtDNAや タ ンパ ク質 等 の生体 内 の分 子が、生体 外部 から の刺激 を受 け つつ'時 間 の流 れ の中 で' 一定 の秩序 を も って相 互作 用す る こと によ り発 現 し て いると いう点 が理解さ れ てき た こと によ る。 こ のような生命 科学 技術 発展 の端緒 は' 一九 五三年 ワト ソ ンと クリ ック (一九 六 二年 ノー ベ ル医学 ・生 理学賞 受賞 ) によ っ てDNA の構造 モデ ルが発見さ れた こと に始 ま る。 DNAは、 リ ン酸 と糖 が長 い二本 の鎖 とな っており' 四種類 の塩基 が結合 し ているも のであ る。 そ の後、特定 の塩基 配列を持 つDNA分 子を切断す る制 限酵素 が発見さ れ'遺伝 子 工学 は飛躍的 に発展す る こととな る. すなわち、 1九七 三年 コ- エン、 ボ イ ヤー ら により初 め ての遺伝 子組換 えが行わ れ、 一九七九年 には ヒト のイ ンシ ュリ ンの遺 伝 子が得 られ るなど'極 め て短期 間 に広 範多 岐 にわた る成 果が得 られ て いる。 生命 科 学 技術 の研究 開発 は、そ のような 理解 を基礎 と して生体内 の分 子 レベ ルで起 こるミク ロな生命 現象 の理解 、 それら ミ ク ロな生命 現象 が統 合的 に組 み合 わさ って生 じる発生 '疾病 '生態 系等 の複 雑な生命 現象 の理解 、さ ら に生命 の進 化や多様 性 の理解 を 目指 す 方 向 へ進 もう と し て いる。 6 今 後 の動 向 に ついてへ複 雑 な生 命 現象 を担 う基 本的 な生体 分 子、す な わちDNA、 タ ンパ ク質 、糖 質 '脂質 等 の機 能 と構造 に対 し て、 分 析 的 手法 によ り 理解 す るた め の研究 開 発t DNA の塩基 配列情 報、遺 伝 子 の染 色 体 上 の位 置情 報、 タ ンパ ク質 の 立休 構 造 に関す る情 報等 に関 し、 そ れら の情 報 の持 つ意味'例 えば 、DNA の特定 の塩 基 配 列 が担 う 生命 機能 の理解 を 深 め る た め の研 究 開 発 が進 む と 予想 さ れ て いる。 ( そ の例 と し て、遺伝 子機 能 に関 す る研究 、 個 体 発生 メカ ニズ ム の遺 伝 子 レベ ルで の解 析 研究 な ど が 活発 に進 め ら れ てお り、遺 伝 子組換 え 技術 を応 用 した医薬 品、食 品 が作 られ るな ど' バイ オ テク ノ ロジ ー を 利 用 した産 業 も 出 現 し て いる。) 加 え てへ 生体 分 子 の有 す る機 能 、 構造 に関 す る理解 の進 展と併 せ て、 発生、疾 病 、生 態 系等 の多 様 な 要素 が複 雑 に相 関 し つ つ発 現 す る生 命 現象 に対 し ても '分 子 レベ ル'細 胞 レベ ル'個 体 レベ ルで統合 的 手法 により迫 り 、個 体 と し て の生命 の諸 様相 、 さ ら に個 体 の集 団 と し ての生 態 系 の姿 を解 明 しよう とす る研究 開 発、さ ら に それ ら の高 次な機 能や 疾 病 の要 因 に関す る科学 的 理解 に基 づ き 、機 能 を的 確 に制御 '設計 した り、あ る いは疾 病 を 予防 、治療 す るた め の研究 開 発 が進 む こと が 予想 さ れ て いる。 ( 近年 、注 目を集 め て いるク ロー ン技術 等 も 、発生 過 程 に おけ る細 胞 レベ ルで の現象解 明や そ の操 作 技術 に関す るも のであ り、 めざ ま し い進 展 を遂げ て いると いう こと が でき る。) 具 体 的 には、 科 学 技術 政策 研究 所 によ る第 六 回技術 予測 調査 (一九九 七年 六月) の中 でも 、科学 技術 分 野 の注 目課題 に つい [生 命 科学 技 術 の て、 我 が 国 の専 門家 等 から のア ンケー ト調査 によ り、実 現時 期 が 予測 さ れ て いる。 生命 科 学 技術 分 野 にお け る いく つか の例 を 予測 ] 0年'個 人 の遺伝 子 の構造 の情 報 の診断や治療 への利 あげ ると ' あ る種 のが ん の発生 を 予防 す る薬 の開 発 の実 現時 期 が 二〇 1 用 の実 現時 期 が 二〇 1五年 、試 験 管 内 で幹細 胞 を増 や し て治療 に用 いる方法 の普 及 の実 現時 期 が 二〇 一五年 、自 己細 胞 の増 殖 によ る臓 器 再生 技術 の臨床 応 用 の実 現時 期 が 二〇 二 一年 と 予測 さ れ て いる。 同様 に、 保健 ・医療 ・福 祉 の分 野 にお いても、が ん の転 移を防 ぐ有 効 な 手段 の実 用化 の時 期 が 二〇 二 二年 、 がん に有 効な 生 物学 的 ・免 疫 学 的 治療 法 の普 及 の時 期 が 二〇 二 年 '悪性 腫癌 に対す る遺伝 子治療 の普 及 の時 期 が 二〇 一四年、HIV ワクチ ン の開 発 の時期 が 二〇〇七年 '血 液 から のウ イ ル ス除 去方 法 の普 及 の時期 が 二〇 1 0年 、遺伝 子欠損疾患 に対す る遺伝 子治療 年 '遺 伝 子治療 が内 服薬 で でき るよう にな る時 期 が 二〇 二〇年 '完全 埋 込型 人 工心臓 の開 発 の時 法 の実 用 化 の時 期 が 二〇 二 一 体 外 肝機 能補 助装 置) の 期 が 二〇 二 二年 '完 全 埋 込型 人 工腎臓 の実 用 化 の時 期 が 二〇 一八年 、長期連 続使 用 可能 な 人 工肝臓 ( 開 発 の時 期 が 二〇 1六年、 臓 器 特性 を有 す る人 工細 胞生 産 の実 用 化 の時 期 が 二〇 二三年 と 予測 さ れ て いる。 ま た、 欧 米 各 国 の動 向を 見 ても' 生命科 学 技術 の重 要性 '特 に経 済基 盤 の強 化 に資 す る先 駆的 な新 産 業 創 出 におけ る生命 科 学 技術 の重 要性 が 認識 さ れ、 知的 財 産権 を生 み出す 分 野を中 心 に、激 し い国際的 な 研究 開 発競 争 が 展 開さ れ て いる。 7 我 が国 では生命科学技術 分 野で国として特 に取り組 む べき領域 として、 一九九七年八月 の 「 ライ フサイ エンスに関す る研究 開発基本計 画」 ( 内 閣総 理大 臣決定) で、 脳'がん、 発生'生態系 ・生物圏 に関す る研究開発と い った統合 システムと しての 生物 に関す る研究開発及びゲ ノム等基礎的生体分 子に関す る研究開発を選定 している。加え て' ク ロー ン個体 の作成、生命倫 理に関す る問題 への配慮 にも言及し ている。 二. アメリカを中心と した主要国 の生命科学技術戦略 の動向 川生命科学技術戦略 生命科学技術 の現状を踏 まえ'各国も 二 一世紀 に向け てこの分 野における戦略的な取 り組 みを図 っている。 この分野 で現在 圧倒的 なポ テ ンシャルを誇 る アメリカを中心 に、簡単 に生命科学技術分野における世界的な戦略を眺 め てみる こととす る。 世界 の科学技術戦略を語 るにはアメリカ の科学技術戦略を抜きにしては語れな い。 ここでは、生命科学技術 の規制 のあり方 を検討す るに当 た って必要な範囲 で'まず アメリカ の 一般的な科学技術戦略と、特に生命科学 技術 に関す る戦略 の歴史 を極 く 簡単 にたど ってみる ことにす る。 戦後 アメリカ では'欧州 から の優 れた人材 の流 入や強大な国力を踏 まえた大プ ロジ ェクト ( 原子力開発'宇宙開発等) の推 進 により世界 の科学技術 をリードし てきたO特 に分 野とし ては国防 と基礎研究 の優位が顕著 であ った。 そ の上 で、 これら の研 究 から民生技術 の産業 へのスピ ンオ フが図られ てきたと言われ ている0 しかし' 7九 八〇年代 に入 ってから、貿易赤字や財政赤字 による経済力 の低下に伴 い、米 国産業 の競争 力が主要先進国と比 較 し て相 対的 に低下 し ている のではな いかと いう懸念 が政府や民間 で広ま った。 このような懸念 に対 し' レーガ ン'ブ ッシ ュ 政権時 代 に、新 し い科学技術戦略が立 て続けに打ち出された。初期 における具体的戦略 のあらわれと し て代表的なも のは' 一 九 八五年 の 「 大統 領産業競争 力委員会報告」 ( ヤ ング レポ ート) があ る。 また、 一九八七年 レーガ ン大統 領 の 一般教書 にお い て、 「 競争 力 イ ニシ ャテ ィブ」 が出さ れ て いる。具体的な研究分 野と しては'当時 発見さ れたば かり の高 温超伝導を実 用化に 結 び つけ る 「 超伝導 イ ニシ ャテ イブ 」が同年発表さ れ ても いる ( 翌年'超伝導競争力法案 が成立 した) 。 また そ の後、科学技 術 に関す る国際的 な枠組み の協議等 の中 で、 こうした考え方を色濃く出している。 これら の内容 を極 く大雑把 にまとめ て言えば'国内的 には、産学官 の協力、国 の研究成果 の民間移転'知的所有権 の保護' 人材基盤 の強 化等 を進 める こと であ ったし、また対外的 には'特許 の保護、 シンメトリカ ルアクセ スの要求'さらに科学技術 [ 科 学 技術 戦 略] 8 上 の大 規 模 プ ロジ ェク ト の国際 共 同計 画 ( ssc計 画、 宇宙 基 地 計 画 ' 国際核 融合 計 画等 ) への提案 な どとな って現 れ た。 こう した流 れ の中 で、ブ ッシ ュ大 統 領時 代 にバ イ オ テク ノ ロジ ー に関す る具体 的 戦 略 が打 ち 出さ れ て いる のが注 目さ れ る。 具体 的 に は、 一九 九 一年 二月 に' 「 バイ オ テ ク ノ ロジ ー政 策 に関す る報告 」 ( 大 統 領競争 力委 員会 ︰委 員 長 ク エー ル副大 統 領) が 発表 さ れ た。 主 な内 容 は次 のと お り であ り' こ の時 期 のアメリ カ のバ イオ テク ノ ロジ ー戦 略 がよく う かがえ る。 ① 新 し いバ イオ テク ノ ロジ ー研究 を含 む新 発 見物 によ って競争 力 と商 業 化 を育 成 す る ② 農 業 、臨 床 医学 、 エネ ルギ ∼、 環境 調査 の各 分 野 に おけ るバ イ オ テク ノ ロジ ー研究 に対す る連 邦 の資 金 配 分 を 再検 討す る ③ 連 邦 の研究計 画 は、 引 き続 き基礎 科学 に対 し優 先 的 に支 援 を増 や す と とも に、実 用'拡 張 技術 の発 展 のた め の資 金援 助 にも これ ま で以上 の配慮 を 図 る ④ 政府 はバ イオ テク ノ ロジ ー連 邦管 理原 則 ( 修 飾 さ れ た遺 伝 形質 を も った生 物 の環境 中 への計 画導 入) を 発表 す べき であ る ⑤ 規 制 に ついては本 報告書 で示す 規 制審 査 四原則 ( 規 制上 の負担 を最 小限 に抑 え る等 の内 容 ) に基 づ いて行 う べき であ り'新 たな 法体 系を構 築 す る試 みに 反対 す る ⑥ 新 薬 開 発 の誘 因 をな くす よう なプ ログ ラ ムに反対す る ⑦ バ イオ テ ク ノ ロジ ー分 野 におけ る製 法 特 許 によ る保護 を図 る 一九 九 三年 以後 民主 党 のクリ ント ン大 統 領 が就 任 し、 そ の政 治的 重点 は コンピ ュー タネ ット ワー クや 環境防 災科 学 技術 に シ フト し て いるが、先 端 的 科学 技術 と し て の生命 科 学 技術 戦 略 は'基 本的 に は米 国 の競争 力強 化 を 目的 と した 一般科 学 技術 戦 略 の上 で位 置 づ け ら れ て いる こと は変 わ りな いと 見られ る。 こ のよう な全 般的 な 戦 略 の他 、個 別 のプ ロジ ェクト と し て生命 科 学 技術 関係 の大 型プ ロジ ェクトも強 力 に推 進 さ れ て いる。 そ の代 表 が 「 人ゲ ノム解 析 計 画 」 であ り、 一九 八 八年 から開始 さ れ た こ の計 画 は、 ヒト の遺 伝情 報 であ る ヒトゲ ノム ( 総数 三 NIH) と エネ ルギ ー省 ( DOE) が推 進 し て いるも のであ 〇億 塩 基 対) を す べ て読 みと る ことを 目的 と し国立 衛 生 研究 所 ( る。 二〇 〇 三年 に は ヒトゲ ノム全 数 の解 析 が終 わ る 予定 であ る。 ( な お、 ア メリ カ の政 策 に呼応 し、欧 州 各 国や 日本 も ヒトゲ ノム の解 析 プ ロジ ェクトを進 め て いると ころ であ る) 0 ちな み に' ア メリ カ の政 府 研究 開 発 予算 の推 移 を眺 めれば '連 邦 政府 の目的 別科 学 技術 予算 では' 1九 九 1年/ 一九 九 六年 比較 で、 保 健 関 係 ( 生 命 科 学 技 術 分 野が含 ま れ る) が九 二億 二六〇〇 万ド ルから 二 九億 二〇 〇 万ド ルと約 三〇% の伸 び率 で 最 も高 いo 国防 関 係 は 三九 三億 二八 〇 〇 万ド ルから 三七 七億 九 70 0 万ド ルと絶 対額 は大 き いも の の伸 び は マイナ ス四%とな って いる。 花 形 であ った宇 宙 関係 は、 六 五億 二 〇 〇 万ド ルから 七 八億 七 一〇 〇 万ド ルと約 二〇% の伸 び であ るが 近年 は伸 び [バイ オ テ ク ノ ロ ジー 戦 略 ] ∩ フ Il o - 悩 ん でいる。 このような研究開発 のポ テ ンシャルを踏 まえ、我が国研究開発水準 の比較 にお いても'米国はライ フサ イ エンス 我が国の研究活動の実態 に関する調査報告 平成 7年 資料 :科学技術庁 分 野にお いて圧倒的な優位 に立 っていると認識され ている ( 図参照) 0 開発 .応用分野で も、我が国は欧州には優れ るものの、米国 との間では生 ( 1 )E l米比較 ( 2 )日欧比較 な お、欧州 はじめ各国も情報科学技術 と並 ん で生命科学技術関係 の研究開発を強力に推進 しているが' ここでは略す。 日米欧科学技術水準比較 図 ∽生殖 医療 技術 に関す る状 況 以上 は広 範 な 生命 科 学 技術 全 般 に関す る動 向 であ るが、 こ の中 で、特 に生殖 支援 に関 す る科学 技術 に ついては こう した 1般 科学 技術 戦 略 と は異な る状 況 を 呈 し て いる。 欧 州 にお け る生殖 医療 技術 の適 用 に ついては、 ︼九 八〇年代 から慎 重な 検 討 が行 わ れ、 一九 九〇年 代 に 入り法整 備 が行 わ れ た。 これ ら に ついては第 二節 で詳細 に述 べる こととす る。 こ こでは独自 の展開 を た ど った ア メリカ の動 き に ついてふれ ておく。 す でに米 国 では' 人 工妊 娠 中絶 に関 し深刻 な 対立 があ り'合 法 化 を 認 める最 高 裁 判決 二 九 七 三年 ロウ判 決) が 出さ れた も の の、 そ の後 の最 高 裁 判 決 では各 州 の法律 によ って制 限 も 可能 とな っており' 国 と し て の人 工妊娠 中絶 に ついて のま とま った 方 針 や 法 整 備 は行 わ れ て いな い. 1方 、遺 伝 病 の出生前 検 査 、 人体実 験 のあ り方 を めぐ つて の議 論 の中 で 1九 七 四年 国家 研究 IRB) の設置 が義務 づけ られ るな ど ' 医療 におけ る倫 理問 題 に 規 制 法 が成 立 し、 ガ イ ド ラ イ ンの制定 と病 院 内 倫 理委 員会 ( 対応 す る体 制 の整 備 も進 展 し て い った。 生命 倫 理 ( バ イ オ エシ ック ス) の概 念 が確定 した のも米 国 におけ る こ の頃 の研究 の成 果 であ った。 こ のよ う な中 で、 一九 八 一年∼ 八 三年 に か け て、 医学 ・生物 医学 ・行動 科 学 大 統 領諮 問 委 員会 が 設 けら れ ' (ヘル スケ ア) と ( 研究 ) に関す る検 討 が様 々に行 わ れ た。 しか しな が ら '大 統 領諮 問委員会 の後 議会 に設 けられ た生 物 医学 倫 理諮 問委 員会 ( BEAC) は報告 書 をま と め る こと が でき な いまま解 散 し、 以後 アメリ カと し ては生殖 医療 技術 に ついて の見解 が提 出さ れ な い状 況とな って いる。 政府 は このよ うな 状 況 の中 で' 国全体 の方 針 に ついては出さ な か った も の の、 国 の研究資 金 の生殖 医 療 技術 への提供 は停 止 した た め 民間資 金 によ る生殖 医療 技術 の研究 が進 み'現在 は ベ ンチ ャー ビジネ スによ る生殖 医療 技術 の 応 用 が盛 ん に行 わ れ て いる状 況 であ る。 例 えば DNA鑑定 な ど に ついては' こ のよう に誕生 した アメリ カ生殖 医療 技術 ビジネ スがす でに 日本 でも営 業 活動 を 行 って いると ころ であ り'今 後 国境 を越 え て広 範 な生命 科学 技術 関係 事業 が展 開さ れ る可能 性 があ る。 1九 九 六年 に生 ま れ た ク ロー ン羊 を めぐ つては、 世 界各 国 で人 ク ロー ン の可否が話 題 とな ったが 、 アメリ カ ではク リ ント ン 大 統 領 が いち 早く 研究 の禁 止 をう た ったも の の、 ク ロー ン禁 止法 は共 和 ・民主 両党 の主 張 の違 いで廃案 とな り'米 国 におけ る 法 制 化 の見 通 し は必ず しも 明 ら か ではな いo 民間 の 7部 ではク ロー ン技術 の適 用 を ビジネ スと し て進 め て行 く動 き が報道 さ れ て いる (「 日本 でク ロー ン人間 作 り た い」 一九 九 八年 〓 1 月 二 目 ・毎 日) . このよ う な状 況 は国 の積 極 的 な 生命科 学 技術 に関 す る戦 略 と は言え な いが' 我が 国 におけ る生命科 学 技術 の適 用 に関す る規 制 の検 討 を行 う に当 た って考 慮 し てお かな け れば な らな い問題 であ る。 後述 す るイギ リ スのワ- ノ ック報告 で指 摘 さ れ て いる 六八 ページ 参 照 三 二ページ 参 照 ll よう に、国 の規制 の考え方 が何 であれ生殖 医療技術 ( ワー ノ ック報告 では代理母) への ニーズ は形を変え て残 って行く可能性 が十分あ り、医療 に関する規制や事実上 の制限 は容易 にそうした治療 の行 いやす い外国 で受け る ことが考えられ、 一国 の規制 だけ では問題解決 が つかな いことも考慮 しな ければならな い。 ( 石井美智 子 ﹃人 工生殖 の法律学﹄ によれば ' アメリカ ロサ ン ゼ ルス郊外 の代 理母斡旋 セ ンター では、 一九九〇年ま でに日本 人夫婦 四組 の子供 四人が誕生 'さらに九組 の日本 人夫婦 が試 み ていると いい'韓国 ソウ ル市内 の病院 では 1九九 二年 五月に合計 四組 の日本 人夫婦が代理母出産 の治療 を受けたり依頼 したり していると いう。) 三.生命科学技術 と人間 ・社会 と の関係 ( 政府関係 の活動を中心 に) の先端科学技術 と法的規制を検討するに当た っては'上記 のような世界的な科学技術戦略と の関係から、特 に生殖医療技術 に ついての規制が大きな問題とな っている。第 二審 では'生殖科学技術 の問題に関 して先進諸国にお いてど のような検討が行 わ れ、また現在 ど のような規制が行われ ているかを眺 める こととす る。さらに、従来我が国 では この分 野 での法的規制が行われ て こな か ったが、今後ど のような観点 から規制 に ついて検討を進 めるべきかを第 三節 以後 で論 じてみる こととした い。しかし' それ に先だ って、生殖 医療 技術 に対す る規制'もしく はより広く、生命科学技術と人間 ・社会 の関係 に ついて、我が国にお い てど のような検討がされ てきたかを遡 って確認する ことは無駄 ではな いと考え る。 そもそも'生命科学技術 と人間 ・社会 と の関係 の検討 に ついては'必ず しも我が国にと って新 し い問題 ではなく、す でに研 究者や 民間、政府 でも先取 り した検討が行われ てき ている。 ここでは特 に、政府 の活動を中心として ( 生命科学技術 と人間 ・ 社会 の関係) をめぐ る活動 を年代順 に表示 してみる こととす る。 次ページ の表 は'政府 の答申'報告、会議や法令 の制定を中 心 に'それらと関係あ る海外 の動きな どを若 干加えたも のであ る。 これらを眺 め て分 かるよう に、今後 の検討 に当 た って、す でに いく つか の問題 は提起さ れ'部分的 な議 論も行わ れ て いると考 え られ る ので'本論 の検討 に当 た っての参考 と した い。 ( [ ]内 は外国 の動静。) 1 2 表 生命科学技術 と人間 ・社会 関係年表 1971年 1975年 1976年 1978年 1979年 1983年 1984年 4月 2月 6月 9月 7月 8月 4月 5月 10月 3月 198 5年 9月 1986年 3月 1987年 12月 1988年 7月 1989年 1990年 11月 5月 2月 6月 1990- 94年 1994年 1997年 2月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 9月 11月 1998年 1月 6月 7月 11月 12月 :科学技術会議 6号答 申で 「ライ フサイエ ンス」 を提案 :[ ア メ リカ ・カ リフォル ニアで遺伝子組換 えに関す るア シ ロマ会議 開催] :[ 米 国 N IHが遺伝子組換 えのガイ ドライ ンを決定] :日本 において も組換 えDNA規制 の検討 開始 :[ イ ギ リスで世界初 の体外受精児 ( 試験管ベ ビー) が誕 生] :科学技術会議諮問第 8号 「 遺伝子組換 え研究の推進方策 の基本 につい て」 に対す る答 申 ( 組換 え DNA実験指針) :厚生省 ・生命 と倫理 に関す る懇 談会発足 :米国 ウィ リアムズバー グサ ミッ ト・高度技術の P A( Pu b l i cAc c e pt a n c e ) 中曽根総理 よ り 「 生命 科 学 と人間の会議」の提唱 :東北大学で我 が国初 の体外 受精児誕生 :第 1回生命 科学 と人 間の会議 開催 ( 以後 1989年 5月まで計 6回開催。毎回サ ミッ トに報告) :[ 欧米 では この頃か ら体外 受精 をめ ぐる生殖 医療議論が起 こる] 厚生省 ・生命 と倫理 に関す る懇談報告書 ( 全 18回) 科学技術会議 にライ フサイエ ンス と人間に関す る懇 談会設 置 以後 3回 にわた り報 ライ フサイエ ンス と人間に関す る懇談会報告 1 ( 告) 科学技術政策研 究所 が発 足 、当初 か ら科学技術 と人間 ・社会 も主要研 究テーマの一つ 生命科学 と人間東京 国際 シ ンポジ ウム/生命倫理学会発 足 第 6回生命科学 と人 間の会 議 ( 終 了) 総理府 に脳 死臨調 を設置 ライ フサイエ ンス と人間 に関す る懇談会で概要をま とめ終 了 ( 全 19 回) [ イ ギ リス、 ドイツ、フランスにおいて先端生殖 医療技術 に関連す る 法律 が整備 され る] 厚生省 「 遺伝子治療 臨床研 究 に関す る指針」決定 ( 文部省 も 6月に大学 にお けるガイ ドライ ンを制定) [ イギ リスにて クロー ン羊 の作製 に成功の報告 ( 誕生 は前年 7月)] :学術審議会 が クロー ン研 究 の科研費課題停止の決定 科学 技術会議 政策委員会 が ヒ トクロー ン個体作製 - の研 究費配分 を差 し控 える決定 :[ アメ リカ ・ク リン トン大統領 の連邦政府 か らの資金停止 の大統領令] :厚生科学審議会 の設置。 そ の後 同会 に先端 医療技術評価 部会設置 :[ 欧州評議会で ヒ トクロー ンを 目的 とす る技術の使用禁止 の議 定書調印] :[ 世界保健機構 ( W HO)、 クロー ン技術 の人間-の応用禁 止決議] :[ デ ンバーサ ミッ トでク ロー ン禁止宣言] :[ アメ リカ、クロー ン禁止 法 を議 会 に提 出 ( その後廃案)] :科学技術会議 が ライ フサイエ ンス研究開発基本計画 を答 申 :科学技術会議 に生命倫理委 員会 を設置 :[ ユネ ス コでクロー ン禁止 を含む世界宣言] :生命倫理委員会 にクロー ン小委員会設置 :クロー ン小委員会の中間報 告 :学術審議会バイオサイエ ンス部会報告 :日本 でクロー ン牛の誕生 に成功 :第 2回生命倫理国際サ ミッ ト会合 腔性幹細胞) を分離 、培養増殖 :[ ア メ リカで人 間の肺 か ら ES細胞 ( に成功] :[ 韓 国で、 ヒ トクロー ン腫 作成実験 が行 われ る] :生命倫理委員会 に ヒ ト腫小委員会設置 -1 3- ∽年表からも明らかなように、我が国 の生命科学技術と人間社会 の関係に ついては'科学技術会議第六号諮問に対する答申か ら始ま って いる ( これ以前 の医療倫 理を中心とす る検討 は省略 した) 。 この答申 の中 で' ライ フサイ エンス推進 が提唱され、 具体的な実施 が始 ま るとともに、 人間や社 会 への影響に ついて社会 の各層から様 々な反応が生 じた。例えば' 一九七 l年∼ 一 九七三年 にかけ て、全 日本仏教会 が毎年生命科学と仏教 シンポジウ ムを開催 して いる ことなどは' この早 い例 に当 たると言え よう。 この直後、 アメリカ で遺伝 子組換え実 験 に関 し、研究者 により規制 のあり方を検討す るアシ ロマ会議が開催された。 これを 踏 まえ て、遺伝 子組換え実験 に関す るガイドライ ンがNIHにより初 め て制定された。 以後、 この動 きは各国に波 及Lt我 が 国 でも文部省及び科学技術会議 にお いてガ イドライ ンに対す る検討が進 められた。 このような'安全性 に関す る検討 の他 に二 九八三年 四月にアメリカ ・ウィリ アムズバーグ ・サ ミ ット で中曽根総 理から 「 生 命科学 と人間 の会議」が提唱され' これを受 け て -九 八四年三月に、 「 第 l回生命科学と人間 の会議」 ( 箱根)が 日本 で開催さ れた ( 第 1セ ッシ ョン ︰生命科学 の現状と将来'第 二セ ッシ ョン ︰生命科学 の社会 にと つての意味'第 三セ ッシ ョン ︰生命科 学 の個 人にと っての意味 、第 四セ ッシ ョン ︰生命科学 に関す る国際協 力) 。 首脳 の主唱による検討と して重要 であ る。 この会 議 の結 果 は'次 回 の ロンド ン ・サ ミ ットに報告された。 以後、通算 六回 の 「 生命科学と人間 の会議」が各国 で開 かれ ている。 ( 第 二回 ︰生命倫 理 ( フラ ンス)'第 三回 ︰神経科学 と倫 理 ( 西ドイツ)'第 四回 ︰人間 に関す る研究 のため の国際的倫 理に向 プ ラ ッセ ル) 0 ) けて ( カナダ)'第 五回 ︰人間遺伝 子DNAの配列 倫 理的諸問題、第 六回 ︰地球環境 と生命倫 理 ( 国内 における専門家 レベ ルの会合 としては' 1九八四年三月に発足した厚生省 の 「 生命 と倫 理に関す る懇談会 」 は 1八回に わたる審議を経 て' 1九 八五年九月 に報告書をまとめた。内容 は、①臓器移植 をめぐる諸問題'② 死を迎え るとき の医療' ③ 脳死をめぐる問題点、④生殖 医学 の展開、⑤遺伝性疾患 の治療 '⑥ 医師と患者 の関係'⑦ 医学 の進歩と倫理 の調和' ( 別章) 様 々な生命観、 から構成され て'幅広 い議論が行われた。 そ の後科学技術会議 にお いても 一九八六年三月に 「 ライ フサイ エンスと人間 に関す る懇談会」( 座長 ︰科学技術会議議員 ( 当 時)岡本道雄1森 亘)が設けられ、 I九回にわたる懇談を行 ったoこの懇談会 は結 論 のとりまとめは目的 とし ていな か ったが' 議論 の経過を内閣総理大 臣を議長とす る科学技術会議 に報告 している0 そ の後 しばらく'生命科学技術 と人間と社会 に関す る検討 が中断 し ているが' これ はこの時期 以後環境問題や 脳死問題な ど の新 し い問題'な いし個別 の問題 に議論が集中 したためと考え る ( 本表 では、環境、脳死関係 の事項 は省略 した) 0 次 の議論 のピークは、す でに周知 のイギリ スにおけるク ロー ン羊 の誕生 であ る。 この検討 は今 日に至 ってもまだホ ットな話 1 4 題 と し て議 論さ れ て いるば か り でな く、 以後 ヒトES細 胞 を使 った実 験 な ど む し ろ ク ロー ンに留 ま らな い、 人間 の生殖 全体 に 関 わ る問 題 が提起 さ れ て いると考 え ら れ る。 それぞ れ の検 討 の状 況 は' 逐次 以 下 の議論 の中 で必要 に応 じ紹介 し て行 く ことと した い。 全 体 を 展 望 し てみれば '我 が国 と し ては生命 科学 技術 に関す る検 討 に ついては必ず しも欧 米先 進 国 に立 ち 後 れ て いるわけ で はな く' 一部 ではむ しろ そ の先 駆 け とな るよう な 活動 も 見ら れ る。 し かしなが ら、多 く の難 し い問 題 を抱え て いる中 で、 や む を得 な い ことな が ら ' 必ず しも 明確 な答 え が出さ れ たわ け ではな か った。 そ の意味 で'今 後 の我 が 国 のあ り方 は過 去 の検 討 を 踏 まえ て こ の分 野 にお け る、 タ イ ムリ ー で主体 的 な 活動 を 果 たす ことが望 ま れ ると いえ よう。 特 に、当 面 の問 題 と し て、欧 州 が生命 科 学 技術 に関す る社会 と の関係 を生殖 医療 技術 の中 でと らえ 法整 備 な ど の結 論 を出 し て いる のに対 し、我 が 国 は 必ず し も そう した 対応 はと って いな いこと であ る。 ク ロー ン技術 に関す る問 題 が、生殖 医療 の問 題 か、生命 科 学 技術 の問 題 か、 まず そ こか ら整 理す る必要 が生 じ て いる。 本 論 では'個 別 技術 に ついて の立 ち 入 った検 討 は ク ロー ン技術 だ け にと ど め て いるが、 生殖 医療 技術 の検 討 と生命 科 学 技術 の検討 の関 係 が ど のよう にあ る のが好 ま し いかはさ ら に全 般的 な検 討 が 必要 であ ろうQ 第 二節 各国における規制の内容と経緯 一.立法ま での経緯 ( 各国別) 一九七八年七月' イギ- スで体外受精児 療技術 に対す る議論がわき起 こ った。 すなわち試験管 ベビーが誕生 した のを契機に、欧米におけ る先端的な生殖医 す でに'生殖 医療 に ついては'人工妊娠中絶や避妊をめぐ って 一九六〇年代 から議論が起 こり'欧州 にお いては逐次 人工妊 娠中絶 法 が整備さ れ て い ったが' これは技術 そ のも のは従来 からある技術 であり'議論 はも っぱ ら女性 の生 む自由 ・生まな い 自由をめぐ つて の社会的な問題 であ った。 これに対 して'体外受精児 は、 それに先立 つ 一九六七年南 ア フリカにお いて行われ た心臓移植 手術 と同様、先端医療革命 とし て社会的 にも大 きな衝撃を与え るとともに、先端医療科学技術 の社会 への受容 の問 題を提起 した のであ る。 生殖医療 技術 に関 して'各国 にお いては、 それぞれ の検討を経 た上 で'体外受精を初 めとす る生殖医療技術 に関す る法的整 備を図 った。具体的 には' 一九八四年頃 から各国国内 でこの間題を議論す る有識者 の委員会が設けられ' そ の報告を踏 まえ て 立法府 で様 々な審議が行われ、 一九九〇∼九 四年 には先端医療技術 をめぐる法的整備が完成 している。 以下主要国における検 討 の状 況を簡単 に表 示 し ( 主 に三菱化学生命科学研究所資 料 による) '項を改 め て各国 の立法概要'立法 に当 た って の考え方 を紹介す る。 第 三節 以下 では'我 が国 における生殖 医療 技術 ( 特 に ヒトク ロー ン技術) の適用 に ついて法的な問題を検討す る こととして いる ので'そ の前 に本節 では各 国 の法的な整備状況を詳細 に検討す るべき であ るが' この点 に ついては次項 に付 した多 く の参 考 文献 があ る ので詳細 はそちら に譲 り、特 に全体的な展望 を与え るような紹介 にとどめる こと にす る。 それ でも、各国 の法律 の紹介 と併 せて' そ のような法制度 を採 る こと にした考 え方が整 理され て示され ている代表的な報告書 ( 必ず しもそ の考え方 のす べてが採用され て いるわけ ではな いが) 'あ る いは憲法裁判所 の考え方 は従来 の紹介 でもあまり詳 しくは紹介 さ れ ていな いような ので、 ここではやや細 かく説明す る ことと した。 1 6 表 主要各国にお け る生殖 医療技術 の規制の検討 (1)イギ リス 1984年 :ワ- ノック報告 1986年 :コンサルテ ーシ ョンペーパー 1987年 :白書 ( 立法化- の枠組み) 1989年 1990年 :ポーキングホー ン報告 ( 中絶児 の研 究利用) (2) ドイツ 1985年 1985年 1988年 1990年 :法律成 立 :独連邦 医師会で体外受精 と胚研究のガイ ドライ ン決定 :ベ ンダ報告 :連 邦 一州作業部会報告 ( 腫保護 に代理母禁止 を追加) :法律成 立 (3) フランス 1982年∼ 生命科学 と医療 の倫理国家諮 問委員会 1985年∼ 政府主催公 開討論会等が行 われ る 1988年 ブ レバ ン報告 1991年 ル ノワール報告 1992年 1993年 1994年 司法省 法案 が成 立 マテ イ報告 3法案 が成 立 参 考 :ア メ リカ 1979年 (1983年 :厚 生省 ・倫理諮 問委員会 ( EAB)報告 ( 体外受精が認 め られ る) :医学 ・生物 医学 ・行動科学大統領諮 問委員会の遺伝子工学報告) 1988- 1989年 :議 会 ・生物 医学倫理諮 問委員会 ( BEAC) ( 報告書 を提 出 し ないまま解散) -1 7- 二.各国 の立法概要 以下、 イギリ ス、ドイツ、 フラ ンスの法制度 に ついて、概観す る こととす る。 ( 対比に ついては、参考 一参照。 ) ∽イギリ ス ○法 の形態 イギリ スでは 1九九〇年 に制定さ れた 「 人 の受精 と肱研究 に関する法律 」 により'規制 が行われ ている ( 以下'科学技 術庁 ライ フサイ エンス課資料 による) 0 同法 では'人 の受精と腔 の成長と の関連 にお いて、腔及び配偶 子 の扱 い全般 に ついて'規定 しており' 一定 の場合 には、 行政庁 の認 可を得 る ことにより'旺及び配偶子を用 いた研究や生殖 医療 の実施 が可能とな って いる。 本法律 によ って規制さ れる各種 の活動が、腔と配偶 子に関し てそれぞれ規定され て いる。 ○腔に ついての規制 腔に ついては、 そ の創造、保存また は使用 ( 三条 一項) のほか、動物 の旺 ( 配偶子も) を女性 の体内 に置く こと ( 三条 二項)が禁 止され ている。 また、認可 できな い事項と して'原始線条 の発現後 ( 受精後 二週間を過ぎ たも の) の腔 の保存 ・利用、 腔 への核移植' 肱を動物 の体内 に置く ことなどがあげられ ている ( 三条 三項) 0 ○配偶子に ついての規制 配偶 子に関す る禁 止事項 として'認可による実施 の場合を除き'そ の貯蔵、利用 ( 医療 行為 として当該男女間 で使う場 合 を除 く) 、他 の動物 の生きた配偶子と の混合'配偶 子を女性 の体内 に置く ことが禁 止され ている。 ( 四条) ○行政庁 の設置等 同法 で人 の受精 ・旺担当庁 を設置 し' 腔や配偶 子を用 いた活動 に ついての認可付与 の判断を行う こととされた。 また、上記各種 の違背行為 に対す る罰則 ( 自由刑'罰金刑) も規定され ている。 ○認可されうる活動 認 可されう る活動 に ついては、治療'貯蔵'研究 の認可が付与される ( 付属書 二) 。 治療 の認可とし ては、配偶子 の使用や検査 ( 受精率または精 子 の正常性検査 のため精 子を ハム スター そ の他 の明記され 1五 二ページ参 照 1 8 た動物 の卵 子と交 配す る こと。ただ し試験完 了後、二細 胞期 ま でに破 壊 のこと。)のほか、膝 の試験管内 での創 造 '保管 、 検 査 、 歴を女 性 の体内 に置く ことがあげ ら れ て いる。 配偶 子' 腔 の貯蔵 も認 可さ れう る。 さ ら に' 研究 のため に'試験管内 の腫創造、 腔 の保管 '使用 が認 可さ れう る。 ○代 理母 代 理母 に ついては、 1九 八五年 の代 理母契 約法 によ り'営利的代 理母契約 の禁 止、代 理母斡旋 に関す る広告 の禁 止な ど が定 められ て いる。 ○近時 の動 き な お' ヒト ク ロー ンの扱 いに ついては、 認 可機 関 は、 ヒト ク ロー ン産生 目的 の人体 外 での腰 の創造 、保存 '使 用 の不認 可 の方 針 を 明ら かにし て いる。 ∽ドイ ツ ○法 の形態 腔保護法 」 によ り規制 が行われ て いる ( 以下'斎藤 純 子 「 腔保護法」外国 の立法 三 ド イ ツにお いては、 一九九〇年 の 「 〇巻 三号 によ る)。 同法 は、生殖 諸技術 に ついて'禁 止事 項を個 別 に列挙 Lt それ ぞれ に対 し て刑罰 ( 自 由 刑も しく は罰金刑)を規 定す る 特 別刑 法 であ り'配偶 子や 肱に関す る諸技術 に ついて広範な禁 止規定を お いて いる。 ○生殖 系列細 胞 の扱 い 人 の生殖 系列細 胞 の遺 伝形質 の人為的変 更が原則と し て禁 止さ れ'そ の受精 への利 用も禁 止さ れ て いる ( 五条 ) 。 ま た'識 別さ れ た精 子細 胞使 用 によ る人為的 性選択 も原則 と し て禁 止さ れ て いる ( 三条 ) 0 ○ 人 工授精等 の生殖 諸技術 人 工授精 等 の諸 技術 に ついて規定 が置 かれ'卵細 胞 の出自 であ る女性 の妊娠 以外 の目的 での卵細 胞 の人 工授精や、 人 の 精 子細 胞 の人 の卵細 胞 への人為的 移 入、他 の女性 への移植 目的 での腔 の女性 から の摘 出な どが禁 止さ れ て いる (一条) ほ か、 死亡 した男性 の精 子を用 いた人 工授精 も禁 止さ れ て いる ( 四条 ) 0 ま た、代 理母 への人 工授 精 や 腔移植 が禁 止さ れ ている 二 条 ) 0 1 9 ○ 腔 の扱 い 腔 の扱 いに関 Lt体外 で生成された人 の腔や女性 から掃出された人 の腔に ついて、売却、そ の維持 に役立たな い目的 の ため の譲渡'取得、利用が禁 止され'妊娠 以外 の目的 での人 の腔 の体外 での発育 も禁 止され ている ( 二条) 0 ○ ク ロー ンの扱 い 他 の肱'胎児'人と同じ遺伝形質 をも つ人 の歴が生まれる事態を人為的 に引き起 こす こと、 この腔 の女性 への移植が禁 止され ている ( 六条 ) 0 ○キ メラ及び ハイブ リ ッド の扱 い 異な る遺伝形質を有す る複数 の腔 ( 人 の腔を含 む)を細胞結合さ せる ことが禁 止され'また動物 の配偶子と人 の配偶 子 の受精 による分裂 可能な 腰 の生成が禁止さ れる。 また' これら の方法 で生まれた腔 の女性または動物 への移植や、人 の腔 の動物 への移植 が禁 止さ れ て いる ( 七条) 0 ∽ フラ ンス ○法 の形態 フラ ンスでは 一九九 四年 に 「 生命倫 理法」と総称される三 つの法律が作られ、先端医療 技術全般 ( 臓器移植'生殖関連 技術) を共通 の倫 理原則 に基づき'包括的 に規制 し ている ( 以下、大村美由紀 「フラ ンス 「 生命倫 理法」 の全体像」外国 の立法 三三巻 二号 による) 0 この三 つの法律 とは、 「 人体尊重法 」 '「 移植 ・生殖法 L t「 記名デ ータ法」 であり' これらにより民法、刑法、 保健医療 法典等 に所用 の規定が取 り入れられた。 すなわち、 「 人体尊重法」 により、先端医療 諸技術 の規制 の根拠 とな る原則が民法 の中 に'関連 の刑事規制が刑法 の中 に'それぞれ盛 り込まれた。 「 移植 ・生殖法」 により、保健医療法典 の中 に'臓器組織 の摘出と移植、生殖 医療 '出生前診断'遺伝 子検査など の技 術 に ついての規制内容が盛 り込まれた。 「 記名デー タ法」 により'同 じ倫 理原則 の枠内 で、個人 の医学情報 の研究利用 のため の手続き等 の特別規定 が'情報保 護法 に盛 り込ま れた。 フラ ンスの法制 は民法原理 の変 更など大幅な改 正を含 ん でいるため'イギリ ス、ドイ ツのような整 理した紹介 を行う こ 20 とが 困難 であ る ので、 それら主要法典ご と に行われた改 正に分け て'要点 を みる こととす る。 ○ 民法典 の改 正 規 制 の根 拠 とな る理念 が盛 り込まれ ており、 人 の優越性 の保障 、 そ の尊厳 への侵害禁 止、 人を生命 の始ま りから尊重す る こと の保障 ( 第 二ハ条 )、 人体 を尊 重さ れ る権 利、 人体 の不可侵 ( 第 二 ハ条 の 一) 、 人 の種 の完全 性 の侵害禁 止'人 の選 別 の組織 化 を 目的 とす る優 生学上 の行為 の禁 止、 ( 遺 伝性疾病 の予防 及び治療 目的 の研究 を別 に し て) 人 の子孫 を変 え る 遺伝 形質 の作 り替え禁 止 ( 第 一六条 の四)な どが規定さ れ て いる。 こ のほか'契 約法 '家 族法上 の問題 に ついて'他 人 のため の生殖ま たは妊娠契約 はす べ て無 効 ( 第 一六条 の七) と した ほか'第 三者 た る提供者 の関与す る医学的 に介 助さ れた生殖 の場合'提供者 と生 まれ た子と の間 に は いかな る親 子関係 も 生 じさ せる こと が できな い ( 第 三 二 条 の 7九) こととされたo ( 第 五節第 三項② に再説) ○刑法典 の改 正 以下 の諸 行為 に ついて、自 由刑、罰金 刑 が課さ れ て いる。 人 の選別 の組織 化を 目的 とす る優生学的 処置 の実施行為 ( 第 五 二 条 の 一) a 対価 を得 て人 の腔を取得 す る行為 、 そ の斡旋 、 腔 の有償譲 渡 ( 第 五 二 条 の 一五)、産業 ま た は商 業 目的 で の生体 外 で の人 の腔作成 '使 用 ( 第 五 二 条 の 一七) 0 二 組 の男女 の腔検査 の場合 を除 く)検査 ・研究 ・実験 目的 での生体 外 で の人 の腫作成 及び 人 の腔に対す る実 験 ( 第五 二 条 の 1八及び 五 二 条 の 1九) o O保健 医療 法典 こ こでは、生殖 医療 に ついてのルー ルが規定さ れ て いる。 生殖 への医学的介 助 は、 1組 の男女 の親 にな る要求 に応え る た め に行 わ れ、 一組 の男女 は'生 き て生殖 年齢 にあ り、婚姻 し て いるか少な くとも 二年 以上 の共同生 活 の証拠 が必要 で、 腫移植 また は人 工授精 に ついて事前 承諾 が必要とされ る ( 第 L 一五 二条 の二) 0 ま た、生殖 への医学的介 助 の目的 の範 囲内 でそ の目的 に従う場合 のみ' 腔 の生体 外作成 可能 とさ れ る ( 第 L 一五 二条 の 三) 0 膝を取得 した男女 及び腰を提供 した男女 は、 それぞれ身 元を知 る ことが できず、 腔を提供 した男女 に報酬を払 ってはな らな い ( 第L 一五 二条 の五) 0 こ のほか、行政 手続 き に関 し、配偶 子 の収集 、処 理'保存 及び移植 の活動 は、行政機 関 から許 可を得 た非営 利 目的 の公 21 共及び民間 の保健団体 及び施設 で行う ことが でき ることとされ ている ( 第L六七三条 の五) 0 ○近時 の動き な お、近時 のク ロー ン技術 の進展 に対応す る べく検討を行 った国家倫 理諮問委員会 から大統領あ ての 「 生殖 ク ロー ニン グ に関す る答申」 の中 で' ヒトク ロー ン作成 は民法典第 一六条 の四に反す る旨述 べられ'刑法典第 五 二 条 の 一及び第 五 一一条 の 一八 の刑罰規定 にも言及さ れ て いる。 ㈱国際機関等 における対応状況 な お'各 国におけ る対応 に加え、国際的な取り組 みも進 められ ており'以下簡単 にふれる こととす る ( 科学技術庁 ライ フサ イ エンス課資料 による) 0 ○欧州評議会 欧州諸国 により構成され る欧州評議会 にお いては、 一九九七年 四月に体外受精や 人 の腔 の取 り扱 いを定 めた条約 であ る 「 人権 と生物 医学 に関す る条約」が調印された。 この条約 は'研究 目的 の人 の肱 の作成禁 止等 を内容と しており、欧州 四 〇 ヶ国中 二二ヶ国が調印 している。 さ ら に、 一九九 八年 一月には 「 人権 及び生物 医学 に関す る条約追加議定書」が調印され' この中 で遺伝学的 に同 一の人 を作 り出す 目的 のあらゆるク ロー ン技術 の使用が禁 止され て いる ( 二四 ヶ国が調印) 0( な お'調印国数 は いず れも 一九九 八年 11月 五日現在) ○世界保健機関 ( WHO) 世界保健機関 ( WHO) にお いては、 1九九七年 五月にク ロー ン技術 の人間 への適用は容認 できな い旨 の 「 ク ロー ン技 術 に関す る決議」が採択された。 ○デ ンバー ・サ ミ ット 7九九七年六月 のデ ンバーサ ミ ットにお いて' シラク仏大統領がサミ ット の議題と して'ク ロー ン人間作成禁 止を提唱 し' これ に各 国が同調 し、子孫を作り出す 目的 の体細 胞核移植を禁 止す る国内措置及び国際協 力 の必要性をうた った 「 八 ヶ国首脳宣 言」が採択された。 ○国際連合教育 科学文化機関 ( UNESCO) UNESCOでは' 1九九七年 二 月に ヒトゲ ノムの取り扱 いと人権 に関す る 1般宣言 であ る 「ヒトゲ ノムと人権 に関 22 す る 世 界 宣 言 」 を 採 択 し た。 こ の宣 言 に お いて は' ヒトゲ ノム に関 す る いかな る研 究 ま た は そ の応 用 も 、 個 人 ま た は集 団 の人権 、 基 本 的 自 由 及 び 人 間 の尊 厳 に優 越 す る も のではな いと し、 人 のク ロー ン個 体 作 成 のよ う な 人 間 の尊 厳 に 反 す る行 為 は 許 さ れ て はな らな いと し て いる。 ( 参考 文献) 横島 次郎'市 野川容孝他 「 先進諸 国 におけ る生殖 技術 への対応 - ヨー ロッパと アメリ カ、 日本 の比較 研究 - 」s t ude i s生命 ・人間 ・社会 ( 三菱 化学生命科学 研究 所) 三菱 化成生命科 学研究所 ・生命倫 理研究会 生殖技術 研究 チーム ﹃出生前診 断を考 え る﹄ 大村 美由紀 「フラ ン ス 「 生命倫 理法」 の全体像」 外国 の立法 三三巻 二号 横島 次郎 「フラ ンスの先端 医療 規制 の構造 」法律時 報六八巻 一 〇号 新倉 修 「 諸 外国 に おけ る非 配偶者間 の体 外受精 と立法 - フラ ンスの立法を中 心 に」法律 の広 場 1九九八年 四月号 〇九〇号 北村 一郎 「フラ ンスにおけ る生命倫 理立法 の概 要」ジ ユリ スト 一 「フラ ンス生命 倫 理立法 の背景 - ルノワー ル氏 に聞く ( 対談 ) 」ジ ユリ スト 一 〇九 二号 フラ ンス刑法 研究会 「フラ ン スにおけ る生命倫理と法」国学院法学 三四巻 四号及び三五巻 二号 斎藤 純 子 「 腫保護 法」外国 の立法 三〇巻 三号 ドイ ッチ ユ著 二向烏英弘 訳 「 ドイ ツにおけ る腔保護法」産大法学 二八巻 三、 四号 岩 志 和 一郎 「 諸 外国 におけ る非 配偶者 間 の体 外受精 と立法 - ドイ ツ の立法を中心 に」法律 の広場 一九九 八年 四月号 岩志 和 一郎 「 ドイ ツ 「 親 子関係法改 正法」草案 の背景 と概 要」 早稲 田法学七 二巻 四号 三木妙 子 「 人 工生 殖 を めぐ るイギ リ スの判 例 - 非 配 偶者 間 の体 外受精 を考 え る 1素材 と し て」法 律 の広 場 l九九 八年 四月号 ワ- ノ ック著 ・上 見幸司 訳 ﹃生命操作 はど こま で許さ れ るか﹄ 甲斐克 則 「 生殖 医療 と刑事規制 1 イギ リ スの 「 ウ オー ノ ック委員会報告書 」 (一九八四年)を素材 と し て」 犯罪 と刑罰七号 中村恵 「 人 工生殖 と親 子関係 - アメリ カ法 を中 心と して」上智法学論集 四 一巻 三号 唄孝 1他 「 人 工生殖 の比較法的 研究 」 比較法研究 五三号 唄孝 T・石川稔 編 ﹃家 族と 医療 I そ の法学的考察﹄ 23 三.立法 の考え方 ‖イギ リ ス ︰ワ- ノ ック報告 りイギリ スでは、先端生殖医療技術 に関す る最も初期 の報告書として 「ワ-ノ ック報告」をまとめ ている (地方政府 レベルで は、 オー ストラリア ・ヴ ィクトリア州 でウ オーラー による報告書がまとめられて いる) 0 この報告 は、 メアリー ・ワ- ノ ックを委員長として 一六人 のメ ンバー で構成された諮問委員会 が、 1九 八 二年七月 に政府 か ら諮問 を受け' 一九 八四年六月 にまとめた人間 の受精 と発生学 に関連す る医学的科学的 発展 の今後 の可能性 とそ の成果が持 つ 社会的、倫 理的 、法的意味 の吟味 と政策 を検討 した結果 の報告書 であ る。 ( 以下はメアリー ・ワ- ノ ック著 ﹃生命換作 はど こ ま で許されるか﹄ ( 上見幸司 訳 ・共同出版刊) による。 ) 委員会 は'哲学 1人'神学 1人、行政 1人'助産婦 1人、医師 三人'心理学者 二人'医学研究者 1人'審議会部門長 一人、 ソー シャルワー カー 一人、弁護 士二人'里親協会 一人、財団理事長 一人から構成されている。 検討 を行うに当 た っては'社会 の様 々な意 見があ るため、異な る意 見を持 つできるだけ多 く の団休 から証言を得 るようにし、報告書巻末 には証言を得た 二五 ( a ) ( C ) 科学研究 に 共通問題' ( b)個別 の技術と して① 人工授精②体外受精③卵 子供与法④ 腔供与 四 の団体 名と このほかに六九五通 の手紙 ・付 託書 を得 た旨記されて いる。 報告書 は、 不妊症治療 の技術 と して' 法⑤ 代 理 母⑥ 不妊治療 技術 の応用 ( 遺伝疾 患 の発見、性別判定'性選択)⑦精液 ・卵 子 ・腔 の凍結 と保存、 a)避妊 治療 サー ビ スと研究 の規制を取 り上げ '最後 にそれぞれ の章 の結論をとりまとめ おける諸問 題と研究 とそ の展望' ( た勧告 を付 して いる。 それぞれ の章ご と の構成 は、個 別 の技術ご と に ( イ)定義や内容、 (ロ) 反対意 見' (ハ)賛成意 見、 (ニ)諮問委員会と し ての見解 と して結論 とそ の際 の留意事項 を付 している。 この結論 は'極 めて簡明なも のから、非常 に長 いも のま で技術 によ っ て差 があ る。諮問委員会 の意 見はほぼ収束 し ているが、 一部 の意見 の分 かれた問題に ついては'巻末 に ( 異 見表 明) としての 少数意 見が つけられ て いる。 00 それぞれ の技術ご と の意 見はご く簡単 に述 べれば'次 のとおり である。第 Tに不妊治療技術 とし ての各技術 に ついての諮問 [内 容 ︰不妊 治 療 委員会 の意 見 である。 技術 ] ① 人 工授精 ︰適 正な医療機関 における法定 の許認可方式 に基づ いたAID ( 人工授精)治療 は許可さ れるべき であ る。 ②体外受精 ︰AIDの規則 に関 した勧告 と同種 の許認可及び審査方式 に基づ いて継続 して提供されるよう勧告する。 2 4 ③ 卵 子供 与 法 ( 不妊 でな い女 性 提 供者 から成 熟 卵 子を採 取 し、 それを 不妊 女 性 の夫 の精 液 によ って試 験管 内 で受精 、得 られ た 腔を 不妊 女 性 の子宮 に着 床 さ せ る方 法) ︰同種 の許 認 可と監督 の下 で、許 可さ れた 不妊 治療 技術 と し て容 認さ れ るよう勧 告 す る。 ④ 腫供 与 法 (いく つかあ るが 一例 と し て、女 性 と夫 が 不妊 であ る場合 、卵 子と精 子 の両方 の供 与 を受 け て' 得 ら れ た 腔を 不妊 女 性 に移 植 す る方 法) ︰同種 の許 認 可と 監督 の下 で' 不妊 治療 と し て容 認さ れ るよう勧 告 す る。 ⑤ 代 理 母 ︰営 利 '非 営 利 を問 わず 、 イギ リ ス国内 で代 理妊娠 のため に女性 を募集 し たり'代 理 母サ ー ビ スを利 用 しょう と希望 す る個 人ま た は夫 婦 に代 理 母を斡 旋 す る こと を 目的 と した機 関 を設立 した り、 も しく は運営 す る こと を 犯罪 と規定 と した法 制 化 を行 う よう勧 告 す る。 す べ て の代 理 母契 約 はそも そも違 法契 約 であ り、 した が って、法 廷 にお いても それ が強 制 力 を持 たな いも のであ る こと を規 定 す る法律 を制定 す るよう勧告 す る。 このう ち 、代 理 母 に つい て の勧 告 に つい てだ け は、 二名 から異 見表 明 があ った。 それ は'諮問 委員会 と し て何 を勧 告 しよ- と代 理 母 への ニーズ は形 を変 え て残 って行 く であ ろう し、逆 に増 え る ことさ え考 え られ る' 子供 のできな い夫 婦 への'治療 行 為 と し て の代 理 母 を提 供す る道 を完全 に閉ざ し てしま う こと は誤 り であ り' 代 理 母契 約 を斡旋 しよう とす るす べ て の非 営利 機 関 に認 可を 与え る権 限 を持 つべき であ る、 と いう も のであ る。 1■1 ■ー ■ れ u 軸次 に科 学 研究 におけ る諸 問 題 と研究 と そ の展望 に ついて取 り上げ る。 科 学 研究 に ついては、議 論 も錯 綜 Lt意 見 も 必ず しも 統 7さ れ ていな い のでやや 詳細 に論ず る。 ( イ) 人間 の腔を利 用 した研究 に対 し ては、 反 対意 見 は、 人間 の腔 はまさ に人間 であ り、 それ を研究 に用 いる こと は道 徳的 に 誤 り であ るとす る のが 主意 見 であ る。 こ のほか、多 く の人 々は人間 の生命 の創造 を みだ り に操作 す るような 研究 には本 能的 に 抵 抗 があ り'無 節 操 な科学 者 たち が雑 種 を作 り出 した り、 人為 淘 汰 や優 生学的 淘 汰 の理論 を 弄ぶ た め に生殖 過程 を いじく り 回 す危険 性 があ る ことを 懸念 し て いる。 一方 人間 の腔を 研究 対象 と し て使 用 す る ことを支 持 す る見解 は広 範 囲 にわ た って いるO 人間 の腔 に は人格 はな く単 な る細 胞 の集 合 であ り これ ら の細 胞 の身 分 を保護 す べき 理由 は見あ たらな い、 と言 う意 見 から、 人間 の腔を利 用す る 以上実 験 動物 以上 に大 き な 敬意 が 払 わ れ る べき だ が、 そ の敬意 は絶 対的 な も のではな く'研究 から得 られ る利 益 と の間 で ハカリ にかけ る こと が でき るも のであ るt と いう考 え 方 ま であ る。 (ロ) 諮 問 委員会 と し ては' まず 生体 内 の腔 に つい ては コモン ロI であ る程度 の保護 が与 え られ て いる こと を 認 め、体 外 の腔 に ついて議 論 した結 果 、 人間 の腔 に対 し て 一定 の保護 が与 え られ るよう勧告 し'具体 的 に は体 外 の人間 の肱を対象 と した研究 [ 内 容 ︰研 究 ] 25 や' これら の腔 の取 り扱 いに ついては'許認可を受 け て いる場合 に限 って許可さ れる、 つまり体外 の人間 の腔を許可なく使用 A) す る こと はそれ自体 で犯罪とす るよう勧告 し ている。 ( さらに、諮問委員会 の技術的結 論と しては、 人間 の腔 の成長過程 の中 の原始線条 の形成 ( 受精後約 l五日目) に着 目し、体 外受精 に由来す る人間 の肱は凍結 され て いる' いな いにかかわらず、 子宮 に移植 しな い場合 には受精後 1四日を超え て生 かし てお いてはならず 'また受精後 一四日を超えた人間 の肱を研究 に用 いてはならな い、体外受精 に由来す る生きた腔を'子 の期 限を超え て研究対象 と して取 り扱 い、または使用す る ことは犯罪 とす るよう勧告す る。 また、研究 に使用した腔は' いかなる 場合 であ っても 子宮 に移植す る こと のな いよう勧告 した。 特 に腔 の場合 問題とな る のは'体外受精 で得られた予備 旺 ( 余剰 旺) と体外 で作 り出された研究 のみを 目的 とす る腫' 腔 を作 る ことが主 目的 ではな い研究 で偶然作 り出された腔と の扱 いであ る。諮問委員会 は'予備 艦に ついては研究 に使 用す る こ とに ついては認め' 予備艦 の使用方法も しく は廃棄 の方法 に ついて提供者 の同意を得るよう勧告 した。 一方他 の肱に ついては 意 見が分 かれ'多数意見として許認可機関が定 めるあらゆる規制 に従うと いう条件 で、受精後 1四日の終わりま でを期限と し B) て許される ことを法律 で規定す るよう勧告 した。 ( (ハ)諮問委員会 の結 論 に対 しては異見表明が行われ、 ( A) に関 し ては二人 の委員 から、 人間 の腔を用 いた実験 は許 可しな B) に関 し ては四 い'着床す る こと のみを目的 と した人間 の肱 の取 り扱 いを許可す べきだと いう意 見が提出された。 また、 ( 人 の委員 から、 予備 艦以外 のも のに ついても研究 は許され て良 いと いう見解 には同意 できな いと言う意 見が提出された。 このよう に' 不妊治療技術 が代 理母以外 に関 しては全員 の合意が得られた のに対 し'研究 に関 しては大きく意 見が分かれ て いる。 な お'研究 とそ の後 の展望 で'将来 の技術 と して'異種間受精 ・体外 発生 ・ク ロー ニング ・腔生検 ( バイオプ シー)・ 核移植 ・遺伝 子疾患防 止などがあげ られ ているが'ク ロー ニング に ついては人間 腔で人為的 ク ロー ニングが行われ て いな いと いう こと で特段 の勧告 は行われ ていな い。 以上が報告書 の内容 であ るが'一九九〇年 に制定された法律 は本報告 の他 の章 の勧告 も含 め これを踏 まえ て制定され ている。 [法 案 への取 り 込 な お、代 理母に関 しては' この法律 に先行す る代理母契約法 二 九八五午) により商業的 目的 の代 理母 の斡旋が禁止される こ み] ととな り'非営利 の斡旋 は認められる こととな ったため、報告書 の勧告 よりは緩和され ている。 ただ し同法 は、従来議論 のあ った代理母契約 に ついての強制 は'強行され得な いと明文規定を お いている。 26 ∽ドイ ツ ︰ベ ンダ 報告 ド イ ツにお いては' 腔保護 法 の制定 に先 立 ち、 立法 の基 本線 の決定 に大 きな 役割 を果 た した のが'体 外 受精 並 び に遺 伝 子 の 分 析 ・治療 に関 す る現 状 と 課 題 の究 明 を委 任 さ れ た政 府 の審 議 委 員 会 ( 通 称 ベ ンダ 委 員 会 ) によ る報告 であ る。 ( 以 下' 三菱 化成 生命 科学 研究 所 ・生命 倫 理研究 会生 殖 技術 研究 チー ム研究 報告 書 ﹃出生前診 断 を考 え る﹄ によ る。) こ の委員 会 は 1九 八 四年 五月 に、 連 邦 司法 相 ハン ス ・A ・エンゲ ル ハルト'連 邦 科学 技術 庁 長 官 ハイ ンツ ・リーゼ ンヒ ユー バー の共 同要請 の下す 連 邦 憲 法裁 判 所前 長 官 エル ン スト ・ベ ンダ を委 員 長 に設 置さ れ たも のであ る。 そ の構 成 員 は、科 学者 、 医師 ' プ ロテ スタ ント 並 び にカ ソリ ック教 会 関係者 '哲学者 、法律 家 、 雇用者 ・労働者 双方 の代 表者 な ど多 岐 にわ た り ' こ の 3 全 一九 名 の委 員 は九 回 の審 議 を経 た後 ' 翌 一九 八 五年 二 月 そ の結 果 を報告 書 「 体 外受精 、遺 伝 子分析 及 び遺伝 子治療 」 と し て提 出 し て いる。 00 報告 書 は、各 問 題 に対 し て表 決 と それ に基 づ いた立法勧 告 を行 って いる. す な わち ' ベ ンダ 報告 では、 体 外受精 と家 族 、 ∼・ ・ 腔を用 いた研 究 の規 制 ' 秘遺 伝 子技術 の導 入 の三 つの問 題群 に取 り組 ん でお り、結 論 と 理由 づけ の概 略 は以下 のと お り であ る。 3体外受精 と家族 の問題 不妊 治療 と し て の配 偶者 間体 外受精 は、 原 則的 に何 ら問 題な いo 夫 以外 の精 子を 用 いた体 外 受精 や卵 子提 供 によ る体 外受精 は、多 く の問 題 を はら ん でお り、 1定 の保護 の下 で のみ許容 さ れ、 これ によ り誕生 した 子供 の自 分 の素 性 を知 る権 利 を奪 って はな らな い。 腔提 供 は、 腔 の延命 に役立 ち 、貰 い手 の夫 婦 が そ の腔か ら生 ま れ る子供 を自 分 の子供 と し て引 き受 け る覚 悟 があ る場合 に のみ許容 さ れ、 ま た代 理 母制度 には 反対 であ る。 以上 のよう に、 こ こ では配 偶者 間 シ ステ ムが肯定 さ れ、非 配 偶者 間 の体 外受精 が 否定 的 に評 価さ れ ており、 そ の理由 は、非 配偶者 間 シ ステ ムが 父性 な いし母性 を分裂 さ せ るた め 子供 のアイデ ンテ ィテ ィー帰 属を危 う くす る危険 性 が多 分 にあ り、 子供 腔を 用 いた研究 の規 制 の幸福 に 反す ると いう こと であ る。 00 研究 を 目的 と した 人 の腔 の生成 は原則的 に許容さ れな い。 ただ し'当 該 の肱 の疾 患 の発 見' 予防 、除 去 、 あ る いは は っき り した高 等 な 医学 的 知 見 の獲 得 に役 立 つ場合 に限 って腔を 用 いた実 験 は許容 さ れ る ( ただ し' 一部 の委 員 は反対 ) 。 人 の腔 の凍 結 保存 は'① 移植 が 一時 的 に不 可能 で、凍 結 さ れ た受精 卵 が 二年 以内 に移植 さ れ る 見込 みがあ る場合 、 も し く は② 腔 の着床 率 を高 め るた め に、女 性 の次 回 以降 の月経 周期 に肱移植 が試 みられ る のが妥当 な 場合 のみ将来考 慮 の対象 とな る。 ク ロー ン形成 [ 経緯] [ 内 容] 27 は、 いかな る方 法 に よ るも の であ れ 、 許 容 さ れ な い。 動 物 と 人間 から キ メ ラ並 び に ハイブ リ ッド を 形 成 す る こと も 同 様 に許 容 さ れ な い。 報 告 冒 頭 の序 文 の中 で研 究 の自 由 と基 本 法 に よ って保障 さ れ た そ の他 の基 本 権 が 衝 突 す る場合 、 前 者 が 後 者 に優 越 す る こと は決 し てな いと いう連 邦 裁 判 所 の判 断 に 言 及 し っ つ、 生 命 と身 体 の保 護 、 当 事 者 の自 己決 定 の尊 重 ' 子供 の幸 福 への配 慮 、 そ し て何 よ り 人間 の尊 厳 の保 護 の下 に 「 研 究 の自 由 」が 制 限 さ れ う る こと を確 認 し て いる。 こ の基 本姿 勢 の下 、が ん '免 疫 疾 患 ' 遺 伝 疾 患 等 の治 療 方 法 を 発 見 す る上 で腔を 用 いた 研 究 が有 用 であ る点 を 認 めな が ら も、 研究 を 目的 と した 随 の生 成 は 人間 の生 命 を 手 段 化 す る も のであ ると し て' 原 則 と し て これ を禁 止 す る方 向 を 示 した。 ま た 、 腔 の凍 結 保 存 に つい ても ' 随 の損 傷 の危 険 が高 い、 あ る いは 子供 = 腔 の嫡 子性 が 宙 づ り にさ れ ると いう 理 由 のほ か' 研究 目的 で使 用 さ れ る余 剰 腔 の発生 を 防 止 す る観 点 か ら '上 記① 及 び② の二 つの例 外 を除 いて禁 止 と さ れ た。さ ら に '実 験 色 が濃 厚 な ク ロー ン'キ メ ラ 、 ハイブ リ ッド形 成 は ' 人間 の尊 厳 を著 し い形 で侵 害 す る も のと し て禁 止 と さ れ た。 Fれ u 紳遺 伝 子技 術 の導 入 遺 伝 子技 術 の導 入 に関 し て は'被 験者 の同意 等 ' 一連 の制 約条 件 が満 たさ れ るな らば ' 何 の問 題 も な いと さ れ た。 た だ し' 遺 伝 子分 析 が も た ら す 諸 問 題 にも 注 意 喚 起 し'遺 伝 性疾 患 の有 無 の スクリ ー ニング が被 験 者 の不当 な 差 別 に つな が ら な いか、 被 験 者 に自 分 の遺 伝 的 素 質 を 知 ら な い で いる権 利 が あ る の ではな いか等 の点 が 言 及 さ れ た。 (ケ ル 3 にお いて子供 の幸福00 ' に お いて人間 の尊 厳 と い った倫 理的 側 面 の強 い理由 づ け の下 ' 以上 のと お り 'ベ ンダ 報 告 では特 に 生 殖 医療 や 研 究 の自 由 が制 約 さ れ る方 向 が 示 さ れ て いる。 な お ' こ の報 告 に は' 二 つの特 別 表 決 が付 さ れ て いる。 一つは委 員 の 一人 であ った遺 伝 学 者 ヴ アルタ ー ・ド ル フラー ン大 学 教 授 ) に よ る も の であ り 、 彼 は研究 の自 由 を 法 律 ( 刑 法 ) に よ って規 制 す る こと自 休 に対 し て異 議 を 唱 え 、 報 告 書 の全 内 容 そ のも のに対 し て反 対 の意 思 を 表 明 し て いるo も う Iつは' や は り委 員 の 1人 の精 神 治 療 医 ベー タI ・ベー ターゼ ン (ハ ノー バ ー 医科 大 学 ) に よ る も の であ り ' 彼 は報 告 書 そ のも のに は賛 意 を 表 明 し て いるが 、 不妊 の心 理的 要 因 を軽 視した も っぱ ら外 科 的 な 体 外 受 精 措 置 に懐 疑 的 であ ると 同時 に' 人 の歴を 用 いた 研究 を よ り厳 重 に規 制 す べき だ と の立 場 か ら 、 独 自 の意 見 表 明 を 行 って いる。 3体 外受精 に関 し ては、卵 子 の提供' 腔提供 を 目的 と した膝 の生成等 のほか、代 理母が禁 止さ れ てお 腔 保 護 法 に お い ては、 り ' これ ら の点 に お い ては ベ ンダ 報 告 の姿 勢 を 反映 し て いると いう こと が でき る が 、他 方 '第 三者 の男 性 の精 子を 用 いた 生 殖 00肱を は明 示的 に禁 止 さ れ ておら ず ' こ の点 で報 告 書 の非 配 偶者 間体 外 授 精 に 対す る 否定 的 態 度 が徹 底 さ れ て いな い。 ま た 、 [ 法 案 への取 り 込 み] 28 用 いた研究 に関 し ては' 人 のク ロー ン形成 、 人と動物 のキ メラ' ハイブ リ ッド形成禁 止な どは、報告書 の内容 が そ のまま法 に 盛 り 込ま れ て いる。 しかし'研究 を 目的 と した 腔 の取 り扱 いに ついては' ベ ンダ 報告 はそれ ほど厳密 な禁 止を課 し て いるわけ ではな く、研究 を 目的 とした腫生成 は原則禁 止とされ ているも のの'当該 腔 の疾患 の発見 ・予防 ・除 去 の他 に、 は っき りと し た高等 な 医学的 知 見 の獲 得 に役立 つ場合 、 腔 の実験 は許容さ れ て いた のに対 し て、法制定 に至 るそ の後 の議 論 の中 で趨勢 は禁 止 の方 向 へと傾 き'法 にお いて研究 目的 の腫生成 のみならず、 腔 の使 用 は禁 止され るに至 って いる。 印 フラ ンス ︰ブ レバ ン報告等 フラ ン スでは 一九九 四年 の生命 倫 理法 の準備過程 にお いて、政府 に対す る三 つの報告 書が提 出さ れた。 以下、 フラ ンスにお け る立法 に至る過程を概観す る。 ルノワー ル氏 に聞 く ( 対談)」 ( 以下、横島 次郎 他 「 先進 諸 国 におけ る生殖 技術 への対応 」S ︻ u d i e s生命 ・人間 ・社会 (三菱化学生命科学研究所)、横島次郎 〇号' 「フラ ン ス生命倫 理立法 の背景 「フラ ン スの先 端 医療 規制 の構造」法律時報 六八巻 l ジ ユリ スト 一 〇九 二号 ' 「フラ ンスにおけ る生命 倫 理と法 (1)」 園掌院法学 三四巻 四号 によ る)0 三 つの報告書 のうち 、最初 に出さ れた のが 1九 八八年 のブ レバ ン報告 であ るo T九八六年 に当時 のシラ ク首相 が コンセイ ユ ・デ タ ( 法 制 局兼 行政最高法 院) に対 し て、 人間 の生 死から臓 器移植 にま でわ たる生命 倫 理 の諸 局面 に関す る法律 の草案 作成 を求 めた。 コンセイ ユ ・デ タ では委員会 が作 られ' 一九 八八年 にブ レバ ン報告 により 「 人体 の人権 」な ど の基本 理念 が示さ れ' 1九 八九年 には これをも と に八九 ヶ条 の法律草案 が提出された ( ここでは'生殖介 助 と出生前 診断を独立 の部と し て取 り上げ て いた。) 。 これ に対 し て世論を含 め議論が起 こり、 同法案 は不完全 であ り関係者 の意見 と世論を聴取す べきと の慎重 派 の反対 にあ い、政府 も国会 に直 ちに法案 上程 でき る状態 ではな いと判断 した0 第 二 の検討結 果がt l九九 一年 に ルノワー ル報告 と し て提 出さ れた. 同報告 は比較法的 な研究 であ り' 三 つの部 から成 る0 第 一部 は実務 の状 況 から成 る。 す なわち ' 腔や ヒトゲ ノムに関す る状 況 はどうな って いるか、 人 工生殖 や臓 器移植 の状 況はど うか'遺伝 子検査 や 出生前診 断 の問 題、情 報処 理 の問 題、個 人 の遺伝 子デー タ の コンピ ュー タ処 理 の問題、 死と安楽 死と の問 題等 であ る。 第 二部 は、付録 の比較 法資料 ととも に、立法 化 した のはど この国 か、ど こ では医師会等 の団体 の発表 した指針 だ け によ って いるか'法律 があ るとすれば どう いう内 容 か の調査 であ った。第 三部 は'提言 で'緊急 に立法す べきも のと議論 が 熟 し て いな いので熟 慮 の期 間を置く べきも のとが区別さ れた。緊急 性 があ ると思 わ れた のは、臓器 の摘 出だ け でな く移植 の問 題、情 報処 理 の問題な ど規制 の全 くな い分 野と'遺伝 子情 報 フ ァイ ルや コンピ ュー タ ・デ ー タな ど の違 法な実務 の分 野 であ っ [経 緯 ] 29 た。違法 と いう のは' フラ ンスでは医療上 の秘密 は絶 対的なも ので、医師 は医療 以外 の目的 では'たとえ研究 のため であ って も情 報を伝達 できな いから であ る ( この点 は立法措 置により'改 正さ れた。) 。他方、人 工生殖 に関し ては人体 の地位 の問題が あり' これ はまた'生殖上 の選択、カ ップ ルの自由、妊娠中絶 に結 び つく自由 の諸問題 のために議論 が百出したが、立法化す るには熟 して いな いと考えられた。 この報告 を受け'政府 は 一九九 二年三月 に法案 ( 出生前診断、 腔研究 は見送 り、生殖介助 のみ規定)を提出 し、同年 二 月 に国民議会第 一読会 で、現在 あ るような三 つの法律草案 が採択された ( 出生前診断'腫研究 の規定を導 入。 ) 0 そ の後' 一九九三年 の総選挙 で政権交代 ( 社会党 から保守中道 へ)があり、パラデ ユウ ル新首相 は、 これを引き継 ぐ べきか ゼ ロからや り直す べきか の検討を多数派 の マテイ議員 に委ねた。 こう して'第 三 の報告書、 マテイ議員報告 が 一九九三年 二 月に首相 に提出された。 同報告 では'旧議会法案 を再検討 の上'大筋 で支持 し、特 に腔研究 の禁 止に ついては これら の法律を 引き継 ぐ べきと し、結局'法律案 はほとんど修 正さ れなか った。 そ の後' 一九九四年六月に生命倫 理法 が国会 で可決されるが'複数 の議員 により違憲審査 の申 し立 てがなされた。 ここでの [憲 法 院 で の違 憲 審 査] 論点 は、 以下 のとおり である。 まず、移植 ・生殖法 の生殖 への医学的介助 の規定 に関 し て、腔 の生命権 、腔 の平等権 '人 の 1体性 の尊重'遺伝形質 の保護 、 家族 の権利、 子供 の健康 に関す る権利等 の諸原則が問題とされた。憲法院 は、立法者 は腔 の受胎、移植、保存 に つき多 く の保 障 を し ており'自分たち には立法者 の作 った規定を問題 にす る権限 はな いと した。 そ の際、遺伝形質 の保護を害す る憲法原則 や規定 は存 しな いこと、 I九四六年憲法前 文は肱 の提供により家族 が発展す る こと の障害 にな らな いこと' ドナー探索 の禁 止 は子 の健康権侵害 とは考えられな いこと'医療 目的 の研究 の決定 に ついて'立法府 が行政委員会 の統 一見解 を要求す る旨定 め ても、委員会 の管轄を無視 しな い限り有効 であ る ことを示した。また'移植 ・生殖法 の出生前診断 の規定 に関 して、出生前診 断 が中絶 を容易 にす るおそれがあ るため、出生前診断と腔または胎児 の生命権と の関係が問題 にさ れ'憲法院 は法 は中絶 の新 形態を認めたわけ ではな いとして、合憲 とした。 次 に、 人体尊重法 の定 める医学的 に介 助された生殖 の場合 の民法原則等 に ついて、個 人責 任 の原則、子供 の親を知 る権利 と の関係 で、ドナー の匿名性が問題とな った。憲法院 は、本法 は'医療介 助 による生殖 の場合 の親 子関係を決定す るため の条件 を定 めたも のではな いし、憲法上も子とドナー間 の親 子関係設定やドナー の責任追 及を禁 止す る ことは禁 じられ て いな いtと した。 さら に、憲法院 は、法律全体 ( 三 つの法律) に関 して'個 人 の優越性、生命 の始まりから の人 の尊重、 人体 の不可侵性 二 体 性 ・非財 産 性 、 種 と し て の人 の 1体 性 を規定 す るも の であ り'憲 法 が 保障 す る個 人 の尊 厳 を 保護 す るも の' つま り、憲法 規 範 を そ の適 用範 囲 を考慮 し っ つ実 施 す るも のであ ると し、合 憲 であ ると判断 した。 四. ま と め Ⅲ以上 の各 国 の規制 の内容 と検討経 緯 を簡単 に整 理 し てみる。概 し て言えば '生殖技術 を めぐ る欧州 の法制度 は'現実 の生殖 医療 技術 に ついては ニーズ に応 え るた め に前 向 き に認 め て いるが、 研究 に関 し ては厳 し い規 制 とな って いる。 し か しな が ら、 生殖 支援 技術 であ っても 、生殖 に関す るど の事 項 が規 制 対象 とな って いるか は国ご と にかな - バ ラ ついて い る。 生殖 支 援 技術 と し ては、 参考 一 八 法 制度 概 要) に掲 げ た よう に、① 配偶 子 の保存 ・使 用 、② 性 選択 '③ 保存 配偶 子 によ る 死後 の人 工授精 '④ 生殖細 胞 の変 更 '⑤ ヒト 腔 の体 外 で の作成 、⑥ 肱 の摘 出、⑦ 腔 の保存 ・使 用 ・検 査 、⑧ ヒト ク ロー ンの作 成 '⑨ キ メラ ・ハイブ リ ッド の作成 '⑲ 人 工授精 、⑪ 腔 の譲 渡 、⑫ 代 理 母 の項 目 に分 け て全 体 展望 す ると便 利 であ る。 これ ら の項 目 は少 な く と も いず れ か 一ヶ国 が規 定 を 設 け て いる事 項 であ るが、 イギ リ ス ・ド イ ツ ・フラ ン スの三国 で共 通 し て法律 の 規 定 が 設 け ら れ て いる のは、④ ⑤ ⑦ ⑧ ⑩ ⑫ であ り ( ⑧ に ついては法 律解 釈 で対象 と し禁 止 し て いる国 が あ る)、 規 制 はあ るも の の具 体的 対応 はそれ ぞれ かな り異 な る ( 例 えば⑫ 代 理 母 はイギ リ スは商業 的 代 理 母 のみ禁 止' ド イ ツ ・フラ ン スはす べ て の 代 理母 を禁 止) 。 特 にそれ ぞ れ規 制 を行 う根 拠 や考 え方 は相 当 に異 な ってお り、決 し て同様 の考 え方 が 背景 にあ るた め に類 似 の規 制 が成 立 し た と は言 い難 い。 いず れ の国 も、 立 法 化 に先 立 ち' この問 題 を包 括的 に議 論す る委 員会 を設 け報告 書 を提 出 さ せ て いる。 これ ら の報告 書 は' それ ぞ れが特色 あ り か つ個 性的 な も の であ る。 す な わ ち 、 イギ リ スでは極 め て実務 的 に世 論 の様 々な意 見を賛 成 意 見 と 反対意 見 に分 け てそ の是 非 を吟 味 し て いる ( そ の緒 言 で'新 技術 の社 会 的 な障 壁 は是 非 必要だ が' 一方 で道 徳 感情 に 普 遍 性 はな いと述 べ て いる)。 1方 ド イ ツは'生 命 と身 体 の保護 '自 己決 定 の尊 重 ' 子供 の幸福 への配慮 等 は研究 の自 由 に優 先 す ると し、特 に研究 を 目的 と した 腔 の生 成 は 人間 の生命 を 手段 化す るも のと し て否定 さ れ た。 一方 フラ ン スではまず ' 人間 の尊 厳 の尊 重 から 人体 の不 可侵 性 、非 財 産 性 の原 理が う たわ れ て いる。 報告 書 は結 論 を ま と め て いるも の の、 必ず しもす べて の問 題 に合 意 が得 ら れな いこともあ り、 少数 意 見や 反対意 見が付 せら れ て いる。 相対的 に見 てド イ ツが最 も厳 し い規 制を 、 イギ リ スが 比較 的 穏 健 な結 論 を出 した こともあ り、 ド イ ツ では研究 の自 由 に対す る規 制 に反 対す る意 見が 、 イギ リ スでは腔 に対す る研究 を規 制 す るよう求 め る意 見が 出さ れ て いる。 31 ま た ' 報告 書 から立法 化 に当 た って、若 干 の規 制 の考 え方 の変 更 ( イギ リ スにお け る代 理 母 の禁 止 の緩 和 ' ド イ ツにおけ る 腔実 験 の禁 止 の徹 底 ' フラ ン スに おけ る出生 前 検査 ・腔研究 に関す る規定 の追 加 ) な ど が行 わ れ て いるも のもあ る。 一方 、 フ ラ ン スのよう に立 法 化 の最 終 段階 で違 憲審 査 の申 し立 て の行 わ れ て いるも のがあ るな ど、立 法 化 も平 坦な道 ではな か った こと が推 測 さ れ る。 こ のほか'各 国 に お いて検 討 の重 要な 要素 とな った も のに宗教 界 の意 見 の取 り 入れがあ ると考 え ら れ る。 ド イ ツ では、 委員 会 のメ ンバー にプ ロテ スタ ント 及 び カ ソリ ック教 会 の関係者 が 入 って いるとさ れ るが、 イギ リ ス ・フラ ン スの委 員会 に は こう した宗 教 界 を代 表 す る立 場 の者 が 入 って いな い。 各 国 国内 で コンセ ンサ スを形成 す る手法 は 必ず しも こ こにあげ た委 員会 だ け ではな く 、様 々な議 論 の場 が 設 け ら れ た と言 わ れ ており' そ の意 味 では各 国 の考 え方 の整 理 は十分 ではな いと考 え て いるが お よ そ の全 体 的輪 郭 を 理解 す る 1助 とな る かと思 う。 な お、 ク ロー ン技術 の適 用 に ついては、 ド イ ツで は法 律 で明 文 で禁 止さ れ て いたが、 イギ リ ス' フラ ン スでは法律 の解 釈 を 政府 が 発 Lt実 体 的 に ク ロー ン技術 の ヒト への適 用 が禁 止さ れ る こと が 明確 とな った も の であ る。 アメリカの検討 [ 参考] アメリカ では医療 技術や生命科 学技術関係 の研究が進 ん で いるにもかかわらず、 こう した規制 に ついて の検討 は停 止 [ して いる。 1九八 7年 に医学 ・生物 医学 ・行動科学大統 領諮問委員会 が設けられ' 八 1 -八三年 で ヘルスケア の配分関係 の報 経 緯 ] 告書 五冊' 研究関係 の報告書 五冊がまとめられた. しかし、大統 領諮問委員会 の後' 1九八五年議会 に設けられた生物医学倫 BEAC)は具体的な報告を何も出さな いまま解散 しており'以来 この問題 に関す る報告 は提出され ていな い。 理諮問委員会 ( ちな みに生殖医療技術関係 では、大統 領諮問委員会 は 1九八三年 に遺伝 子工学 に関す る報告書を提出 して いるが、 これは ア メリカ のプ ロテ スタ ント' カ ソリ ック、 ユダ ヤ三教会 の代表者が カータI大統領 に対 し てな した検討 の要請 に基 づき出された も のであり、次 のような事項が述 べられ ている。 ①遺伝 子工学 は人間や家族 に対し持 っている感情 に対す る挑戦 とな っている こと は確 か であ る ②遺伝子 工学が人類 の幸福 に寄与す る可能性を持 っている こと は' これを推進す る倫理的根拠ともな る ③遺伝 子 工学 の人間 への適 用 は'他 の技術 によ る診断 ・処置と同様 に考 え てもよ いも のであ るが、 子孫 に伝わ る遺伝 子変換 を与え る措置には慎重 であ るべき である ④遺伝欠損 を直 す のではなく正常 の人間 の改良 をねら った操作 は問題 であり、 一旦改良 と いう扉を開け ると'定 見な く完全 な人間を目指 した操作が行われる危険があ る 32 ⑤ 人間が神 を演ず ると いう批判 は、大 きな力 には大 きな責任が伴う ことを思 い起 こさ せ てくれ る価値あ るも のであ る ⑥ 現在 の遺伝 子操作実 験 のほと んど は注意 を払 って行 われ れば 安全 であ ると の仮 定 の上 で行 わ れ ており、 これ に反対す るに はそれを証明す る必要があ る そ の後、 一九 九 五年、 クリ ント ン大統 領 が生物学 及び行動学 研究 から生 じ る生命倫 理問題等 に ついて政府 に勧告 す る ことを 目的 と した アメリ カ生命倫 理諮問委員会 ( NBAc)を設けた (一九九九年 一〇月ま で時 限設置)。 同委員会 は、 ヒトゲ ノム解 析計 画 で進 め て いる ヒトゲ ノム の解 析 で遺伝情 報 のプ ライバ シー保護 に関す る諮問機 関を 設け る べき であ ると いう議会 から の 要請 に応 え て作 ら れたと 言わ れ る。 設置後 の活動 は、 1九九 七年 のク ロー ン羊 の誕生 に際 し大 統領 から の諮問 を受 け て ヒト の ク ロー ニング に ついて の報告 と勧告 を行うな ど、 タイ ムリーな活動 を して いる。 ∽ 以上 のような法制度 と それが整 備さ れ るま でに提 出さ れた報告書 に代表さ れる考 え方 を踏 まえ て今 後 の我 が国 の生命科学技 術 に関 す る規 制 のあ り方 に ついて検 討 の進 め方 を考 え る。 生命 科 学 技 術 に関 す る 研究 の規 制 に ついて は、 す で に欧 州 主 要各 国 に お いて法 整 備 が 行 わ れ てお り ' 何 ら か の規 制 の必 要 は前 項 に述 べた と お り 必要 と な って いる と考 え る。 し か しな が ら 、 規 制 に関 す る考 え 方 、 ま た 規 制 のし方 に つい て は ' 「 宗 教 ・哲 学 ・ヒ ュー マ ニスト的 信 念 の いず れ に基 づ い た も のに し ろ '道 徳 的 感 情 に普 遍 性 が あ る か のよ う に装 う のは欺 晴 と いう も の であ る」 ( イギ リ ス ・ワ- ノ ック 報 告 ) と いわ れ る よ う に統 丁的 な考 え 方 が で てく る 可能 性 は 必ず しも な い0 1方 、進 んだ 法 整 備 を踏 ま え て、 EUや UNESCO で は欧 州 先 進 国 の主 導 の下 に、 これ ら の技 術 に対 す る国際 的 な 規 制 に向 け て の動 き が進 み つ つあ る。 我 が 国 と し ては、欧 州 各 国 の規 制 のあ り方 や 考 え 方 は参 考 に し つ つも ' 宗 教 や 文 化 と い った点 で我 が 国 の国情 や 法 制 度 にあ った規 制 を 探 り、 そ れ を踏 ま え て国 際 的 な 協 力 を 進 め る べき であ ろ う。 特 に ' 世 界 に お い ては キ リ スト教 や ユダ ヤ教 と は異 な る宗 教 を持 つ国 民 を擁 す る国 は多 く あ り ' こう し た 国 々に と っても我 が 国 が 別 途 の規 制 の考 え 方 を探 る こと は参考 と な ると 思 わ れ る。 33 第 三節 我が国における法的視点からの検討 生殖科学技術 の進展 は、従来 の法秩序 が予定 していな か ったような事態をもたらし、既存 の法体 系から の類推解釈 による対 応が図られたり、法 の空白状態 の発生 への対応 のため新 たな立法を求 める指摘がなされたりし ている。 体外受精'人 工授精、精 子 ・卵 子 の提供'代 理母等 の生殖科学技術 の適用や'受精卵や 肱等を用 いた研究 に ついては、す で に我 が国 の憲法'民法 '刑法等 の視点 から の諸論文があり、 これら の中 には'生殖 医療 に関す る法的視点 と先端的科学技術分 野 の研究 開発に関す る法的視点 とが存在 し ているO 以下、主な論文を紹介 し、指摘事項を整 理す る こととす る。 川 憲法上 の視点 憲法学 から のアプ ローチと しては'以下 のような論文があ る。 A) 研究成 果報告書 「 生 ①長 谷川晃 「 人 工生殖 医療 におけ る自 由と規制 に ついて」 ( 平成 五年度科学研究費補 助金総合 研究 ( 殖 医療 における人格権をめぐる法的諸問題」 ︰以下、 「 科 研費研究」と いう。 ) ②高井裕之 「 生殖 医療問題 の憲法的分析」 ( 科 研費 研究) ③ 保木本 一郎 ﹃遺伝換作と法﹄ ① は、 人 工生殖 医療 の活用と の関係 にお いて問題とさ れる のは、まず、個人 の選択 の自由と いう基本的権利 であるとする。 すなわち'個 人 の活動 に対す る正当な規制理由 は、 一定 の活動が個 人 の権利 に対す る侵害をもたらす ことだけ であり、人 工生 殖医療 に ついても'個 々人 の選択 の自由を最大限 に保障す るため の最低限 の規制 しか考えられず'自由な 人 工生殖 医療 が認め られ るべきとす る。 ② は、憲法 は公序 と しての家族を求 め ており、関係者 の同意 があ れば いかな る関係 で生殖 を行おうと国家 が介 入できな いと いうも のではな いが、国家 の介 入は憲法 の原則 に反す るも のであ ってはならな いとした上 で'問題とな る条 項と して以下 の a. b. C. の三 つの条 文を指摘す る。 ( な お' これら三 つのうち、憲法 〓二条 及び 二四条 は生殖 医療 に関連 した論点 であり' 二 三条 は先端科学技術分 野 の研究開発 に関す る論点 であ る。 ) a.憲法 一三条 の幸福追求権。 そ の 一部を構成 す るも のと し て、 一定 の個 人的事柄 に ついて、公権力 から 干渉される ことなく、自 ら決定す ることが でき る 3 4 人格的自 律権 '自 己決定権 があげ られ、○自 己 の生命 、身体 の処分 にかかわ る事柄 へ○家族 の形成 ・維持 にかかわ る事柄 ' ○ リプ ロダ ク シ ョンにかかわ る事柄'○ そ の他 の事柄 に分 けられる。 b.憲 法 二四条 の性 平等 の原則。 生 物学的 特性 によ る規 制が、女 性抑 圧を助長'促進 す るも のとな らな いか の審 査 が必要 とな る。 C.憲 法 二三条 の学 問 の自 由。 子 の出生 に つな が る配偶 子' 腔、胎児 な ど の保護 の観点 から、生殖 医療研究 ・実施過程 に規 制を加 え る ことも多 く の場合 、 許さ れ る。 しか し' 出生 に用 いられな い配偶 子' 腔 の研究 利 用 の制 限 には、慎 重な考慮 を要す る。 ( 例えば 、 目的 によ る規制 は許さ れ な いが ' 手段、方 法 に ついて の規制 の可能性 は検討さ れう る。) こ のほか、③ は、科学者 の研究 の権 利 の保障 を憲法 原理とし て確定 した上 で、無 限定 でか つ他者 や市 民 の健康 ・安全 ・社会 的倫 理 に反す るような研究 を、ど のような 要件 の下に コント ロー ルしう るか考え るべきと いう アプ ロー チをとり、 人間 の肱や 生殖細 胞 に対す る遺伝 子操作な ど の研究 に対す る市 民統制 が必要 であ ると し て、市 民参加 と行政 手続法的統制 の必要性 をあげ て いる。 以上 のよう に、憲法 と の関連 では、生殖 医療 技術 を用 いるに当 た って、憲法 〓二条 に基づ く ( 親 に当 た る個 人 の) 人格的自 律 権 、自 己決定権 と '憲法 二三条 の研究 の自 由 が問 題とな る。 ( な お'先 端 科学 技術 と研究 の自 由と の関係 に ついては'別途 詳述。) ∽民法上 の視点 民法学 から のアプ ローチと し ては' 以下 のような 論文があ る。 ① 石井美智 子 「 非配 偶者 間 の体 外受精 と家 族法上 の問 題点 」法律 の広場 7九九七年九月号 ② 石井美智 子 「 人 工生殖 と親 子法」判 例 タ イ ムズ九 二号 ③ 樋 口範雄 「 非配 偶者 間 の体 外受精 - 人 工生殖 '家 族 ' そし て法 」法律 の広 場 一九九 八年九 月号 〇 五九号 ④樋 口範雄 「 人 工生殖 と親 子関係」ジ ユリ スト 一 ⑤ 人見康 子 「 人 工生殖 子 の親 子関係」判例 タイ ムズ 七 四七号 35 ⑥菅 野耕毅 「 代理出産契約 の効力と公序良俗」 ( 科研費 研究) ⑦高鳥英弘 「 非配偶者間 の体外受精 における配偶 子提供契 約 の問題点」法律 の広場 f九九八年九月号 ⑧ 手嶋豊 「 イ ンフォー ムド ・コンセ ントに関す るメ モ」 ( 科研費 研究) そ の若 干 の特質 と問題点 」 ( 科研費研究) 民法 の立場 から」産科と婦 人科 一九九八年四月号 ⑨東海林邦彦 「 日本 における人為的生殖 医療 に対す る規制 ⑩ 山 田卓生 「 法的規制 の必要性 - 3 00(公序良俗と 民法 の観点 から問題 とし て取 り上げられ ているも のは、主 に 子供 の法的地位をめぐる家族法上 の問題と、 の関係 にお いて)配偶 子提供契 約や代 理母契 約 の有効性をめぐる問題等 であ る。 民法上問題とな る視点 は、先端的研究開発に 関す るも のではなく、 生殖 医療 に関連 したも のと いえ るQ り子供 の法的地位をめぐる家族法上 の問題 ① では'非配偶者間 の体外受精 と家族法上 の問題点 と して' 父母 の特定 の問題をあげ て いる。我が国 には人工生殖 の親 子関 係 に関 し て、特別 の法律 はなく' 父親 に ついては民法七七 二条 の嫡出推定 により、夫 の子と推定され'母親 に ついては'分娩 の事実 により親 子関係 が発生す るとさ れ て いる ( 最判昭和 三七年 四月 二七 日) 。 しか し、夫 以外 の男性精 子 の提供 による人 工 受精 による場合 や、夫 の死後 に保存さ れ ていた精 子を用 いて体 外受精を行 った場合、妻 以外 の卵 子を用 いた体 外受精卵による 出産 の場合など、疑義 を生 じるケー スがあり、また、生まれた子供 の配偶子提供者を知 る権利 と提供者 のプ ライバ シー の問題 の検討も求 められ'人 工生殖 によ って生まれ る子 の親 子関係 に ついて新たな立法が必要と の指摘があ る。 ( ② でも指摘) 同様 に'③ では、 子 の法的 地位 の明確化 の問題 ( 親 の特定、 子 の養育義務者 の特定、相続)' 子供 の権利 の問題 ( 子供が差 別 の対象 とな るおそれ' 子 の売 買 ・商 品化 に つな がるおそれ'自 ら の出生 に関わ る事実 に ついての子 の知 る権利) 、社会 に対 す る今後 の影響 の問題などがあ り、我が国 の従来 の法的な親 子関係 と の不調和が問題 とな る旨指摘す る。 ( このほか'④ でも アメリカ の判例等をあげ問題指摘。⑤ も同様。 また⑩ も親 子関係や 子 の利益 の問題 に言及し ている。 ) ㈲(公序良俗と の関係 にお いて)配偶子提供契約や代理母契約 の有効性をめぐる問題 ⑥ では'代理出産契 約 の効力 に関 して'諸外国 の例を紹介 し ている.まず アメリカ ではベビーM事件 ニ ュージ ャージー州最 高裁判決 (一九 八八年 二月三 日)は'代 理母契約を公序良俗 に反し て無 効とし、ベビーC事件 カリ フォル ニア州最高裁判決 二 九九 三年五月 二〇 日) では、 公序良俗 に反 しな いと判示 した。 ドイ ツでは、腫保護法 により代理母禁 止'イギリ スは代理母契 約法 により営利的代 理母契約禁 止、代理母斡旋 に関す る広告禁 止とされ' これらに反しな い限り代 理母契 約が違法とされる こ 3 6 と はな いO フラ ン スでは、破敦院判決 二 九 九 丁年 五月三 一日) で代 理母出産 を 公序 良俗違 反とし て いるo また、我 が国 の学 説 でも、 公序 良 俗 と の関係 が問題 とな り、判 断要件 と し て'対価 の性質、他 人 に引 き渡す ことを 予定 した出産 の道徳 性' 子が 出生 の経緯 を知 って受 け る衝撃'代 理母 の人権'代 理母志 願者 への十分 な説 明と 承諾' 子供 の福祉 の危 殆化などがあげ られ て いる旨 紹介 さ れ、⑥ では婚姻 秩序 、親 子間秩序 に反す るも のと し て、 公序良 俗 に反す る契 約 と し て無 効 ( 民法九〇条) と解 す べきと指 摘 し て いる。 同様 に、⑦ では、非 配偶者 間 の体 外受精 におけ る配偶 子提供契 約 に関 し て、まず成立 要件 とし て、契 約 当事者 の存在 、意思 表 示 の存 在 には問題 がな いが、有 効要件 と し て、法律 行為 の内容 が確定 可能 であ りtか つ実 現 可能 であ る こと'法律行為 の内 容 が強 行法規 及び 公序良 俗 に反 しな いことが 必要とさ れ ており' 公序良 俗違 反と し て無効 と評価さ れ る余 地があ り' そ の判断 に際 し て、 公序 良 俗 と の関係 で問題 にな ると思われ る のは、親権 放棄 の合意 ( 家 族秩序 を危殆 化し子供 の法的 地位 を 不安定 に す る) 及び配 偶 子 の有償性 ( 特 に卵 子提供 のため の医的侵襲 性、経済的 困窮者 が間接的 に強 制されう る) であ ると指 摘す る。 ま た' 配偶 子提供契 約 が必ず しも 公序 良 俗 に違 反 しな いとされた場合 であ っても、配偶 子引 き渡 しは強制履行 にな じまな い と いう法的 問 題があ るとさ れ る。 ) 紳そ の他 ( 医師 の説 明義務 ) そ の他 、⑧ では生殖 医療 技術 に固有 の論点 ではな いが、 医療 過 誤 の場合 の損 害賠償 請求 にお いても問題 とな るも のとし て、 C . 転送 の前 提 と し て の説 明義務、 d.事後報告 ( 顛 末報告) と し て の説 明義務 などがあげ られ るが、 イ ンフォー 医師 の説 明義務 に ついて論 じ て いる。 医師 の説 明義務 と し て、 a.結 果 回避義務 と し ての説明義務 、 b.承諾 の前 提 と し て の 説 明義務 、 ムド コンセ ン ト はb.に関す る問題 であ る。イ ンフォー ムド コンセ ント に内包さ れ る問題 と し ては、必要なデータ の不十分さ 、 医師 の情 報伝達 のあ り方 の問題、情報 を受 け る患者 の知的 側面'決定 に関す る態度 の問題など が存在 す る。 このほか'⑨ は生殖 医療 に関 し ての、 日本産科 婦 人科学会 の会告 によ る規制 に ついて紹介 し て いる。 何子供 の法的地位をめぐ る家族法上 の問題、00(公序良 俗と の関係 にお いて)配偶子提供契約や代 理母契約 の まと め ると、 有効性 を めぐ る問 題 の いず れ にお いても、我 が国 の学 説上定説 とな るも のはなく、問題点 を掃 出 し、今 後 の議論及 び必要な立 法措 置を求 め る指 摘 が 見受 けられ る。 3 7 川刑法上 の視点 刑法学 から のアプ ローチと しては、以下 のような論文がある。 刑事法的 問題関心 から」 ( 科研費研究) 「 受精卵」二 初期 旺」 の法的保護 を中心 にし て」 ( 科研費 研究) ① 吉 田敏男 「ヒト の移植前初期 腔 の ( 法的)性格 とそれ に関連す る若 干 の問題 ②加藤久雄 「「 ヒト の生命」生成と刑法上 の諸問題 ④ 甲斐克 則 「 法的規制 の必要性 ! ど こま で許さ れるか」産科と婦人科 l九九八年四月号 刑法 の立場 から」産科と婦人科 一九九八年 四月号 ③ 甲斐克 則 「 生殖 医療 技術 の ( 刑事)規制 モデ ルに ついて」 ( 科研費研究) ⑤中 谷瑛 子 「 法的規制 の必要性 ⑥中 谷瑳 子 「 生命 の発生と刑法」現代刑罰法体系三 ⑦ 金津文雄 「 人 の腔 の道徳的 および法的地位」岡山商科大学法学論叢 1九九五年 二月号 00 ⑧加藤 久雄 「 生殖補 助行為 ( 技術) と受精卵 ・初期腔に対す る法的保護」大 野真義編 ﹃現代医療 と医事法制﹄ 3 刑法上 の観点 から問題が指摘され ている論点 は、主 に 受精卵や初期 腔の法的性格' 受精卵や初期 腔を用 いた研究や生殖 医療 技術 の適用 ( 代理母など)をめぐ つての許容性と法規制 のあり方 であ る。 ここでは'生殖 医療 と先端的研究開発 の両者 に ついて許される範囲'違 反 の場合 の罰則等が問題とな り、両方 の視点が論点 とな って いる。 い受精卵や初期 腔 の法的性格 ① は、移植前初期 腔 の法的性格 に ついて、受精時点 から人格を是認Lt権利主体 とす る説、 人と同 じではな いが'あ る特 別 の地位 を認める説 '両親 の財産とす る説など がある ことを紹介 して いた上 で'初期 腔は潜在的 人 であ っても現実 の人と は異な る こと から、基本権 の主体 たる地位 は認められ るべき でな いが'そ の象徴的意味 のゆえ に'財産と して器物損壊罪等 の対象 と す る ことも適 切 でな く、新 たな立法 による保護 が必要 であ る旨指摘する。 ( ⑥ 及び⑧ でも'生命 の発生 をめぐ る法的 問題 に つ いて論 じ て いる。 ) ② では' 「 受精卵 」 「 初期 腫」 の法的保護 の問題に関し、ドイツでは卵 子、精 子'着床前 の受精卵 ・初期 腔に至るま での段階 の細 胞 を 「 旺保護法 」で'着床後 の腔盤 '腫子'胎児 に ついて 「 刑法」で規制 している のに対 し て、我 が国 では、「 受精卵」「 初 期 旺」 に ついては' 日本産科婦人科学会 の会告 による学会員 の自主規制があり、また現行刑法 では'胎児 の生命 に ついて堕胎 罪 にょり胎児 の生命 保護 が図られ ている旨紹介 している ( 保護法益 は、胎児 の生命 ・身体 とともに、母体 の生命 ・身体 の安全) o ここでは'学 説 によ っては'法的 保護 の対象 と し て の生命 '個体 の始期 は着床終 了時 とす る説、受精 卵 は胎児 ではな く、 人及 び胎児 以外 の 「 生 物 」 と した上 で、 そ の穀損 を器物損壊 罪 とす る説な どがあ るが、着床前 受精 卵も 人とな る可能性を有す る以 ( 代 理母など)を めぐ つて の許容性 と法規制 のあ り方 上' 器物 損 壊罪 は不適 切と考 えら れ、立法的解 決 が望ま し い旨、指摘さ れ て いる。 00受精 卵や初期 腔を用 いた研究や生殖 医療技術 の適用 ③ では、海 外 の例 と して、 イギ リ スでは認 可機 関を設置 し'認 可手続 きを定 め て、認 可違 反 の 一定 行為 を処罰す る行政刑法 の形式 、 ド イ ツ では刑事規 制を打 ち出 した特 別刑法 形式 がとられ て いる。 また、 イギリ スでは原始線 条 の現 れ る前 の腫 ( 受精 後 一四 日'腔が個体 と して発生 開始 す る出発点 )に ついて の 一定 の研究 は認 可さ れう るが、ドイ ツでは、人間 の尊 厳を根拠 に' 妊娠 目的 外 の腔使 用 ・腫研究 の全 面禁 止 とな っている ことを紹介 し て いる。 これ に対 し て、我 が国 では、刑法 の謙抑性 ・最終 手段性 '憲 法上 の研究 の自 由 と の関係 からも' ドイ ツ型 一律禁 止より' イギリ ス型 の方 が望 ま し い旨評価 し て いる。 ( な お'① では'初 期 腔 の培養 期間 に ついて、 原始線 条形成直前 を越え る時点 でも人 の腔研究が 許容 さ れ る こともあ りえ る の ではな いかと の指 摘 を し ている。) これ に加 え 、③ では、代 理母など に ついては、イギ リ スでは商業的な代 理出産 の斡旋 を処罰す る こととさ れ ( 代 理母契 約法)、 ドイ ツ では代 理 母 に対す る人 工授精 また は人 腔移植 を企行 した者 を処罰す る ( 腫保護法) とさ れ てお り、我 が国 でも商業主義 的 濫用 に対 し て刑事 制裁 を考 え る必要 があ ると し ている。 ( ④ では'科研費 研究 で提案 さ れた '生殖 医療 に ついて の日本型規 制 モデ ルを 紹介 し て いる。) ま た、⑤ では'諸 外 国 の法 制 の紹介 ととも にへ体 外受精 をめぐ って倫 理的、法的 に特 に問題 とな るも のと し て、代 理母、多 胎妊娠 の場合 の減数 手術 の可否、男女産 み分 け の是非 ' いわ ゆるデザ イナー ・ベビー ( 妊娠 八∼ 〓 ︼ 週くら いま での胎児を 人 工中絶 し て' そ の脳細 胞 そ の他 の組織 を取 り出 し てパー キ ンソ ン病 等 の治療 に使 用す る。) の問 題、 死者 と中絶 胎児 を卵 子 の ドナー とす る こと の是非、着床前診 断 と遺伝 子治療 の問題 をあげ 、生殖 医療 の進歩 に応 じた法的 対応 に迫 られ る ことを指摘す る。 こ のほか'⑦ では' 人 の腔 に対 し て、 人間 の生命 と し てこれを保護す る べき道 徳上及 び憲法 上 の要請 があ り'国政上 の義務 があ る にも かかわらず、実定法的 には全 く保護 が与え られ ていな い法的 空白領域 にな って いると指摘 した上 で、 人 の腔を用 い ていろ いろな実 験 を行 う こと は、現状 では違 法 とさ れ て いな いが、だからと い って適 法 であ り研究者 は自 由 に肱を操作 したり 人と動 物 と のキ メラなどを作 り出す権利 があ るとは いえず、新 し い規制立法 が必要 であ り' イギ リ ス型 の行政規 則と審 査制度 を原則 と し、特 に重 い違 反 のみに刑を科す る方式 が妥当 であ る旨、提言 して いる。 39 まとめると、特00 に 受精卵や初期 腔を用 いた研究や生殖 医療技術 の適用 ( 代 理母など)をめぐ つての許容性と法規制 のあ り 、 方 に ついて、ドイ ツ イギリ スなど の海外 の法制を参考 にし、ドイツ型 の腔使用 ・腫研究 の全 面禁止とイギリ ス型 の 1定範囲 での容認とを対 比し'憲法上 の研究 の自由や刑法 の謙抑性等と の関係 から、 一定範囲 での腫使 用 ・腔研究 を認める方向 への示 唆が見られるほか'新 し い立法 による解決 を求 める論もある。 ㈹医事法 の視点 医事法 の視点 から'生殖 医療 に ついて論 じたも のと して以下 の文献がある。 ①大 谷貴 ﹃医療行為と法 ( 新版) ﹄ ②植木哲編 ﹃医事法教科書﹄ ( 特 に第 六章 先端医療 と脳死等) Sで取り上げたも の) ③大 野直義編 ﹃現代 医療 と医事法制﹄ ( す でに 医事法 の観点 からは、憲法や刑法と異な る独自 の体 系 の下に提起さ れ ており、 ここでは最先端生殖 医療技術 に ついてま でふ れた① に従 って紹介す る こととす る。 医事法 の観点 からは、 一般 に医療行為 の適法性 に ついて次 の三 つの要件が求 められる.第 -に'医療 行為 は人身 への危険 を 随伴す るも のであ るから、健康 の保持及び増進 にと って必要 であり相当なも のでなければ 許さ れるべき でな いと いう医学的適 応性 の問題'第 二に'医学的 に認められた方法 で行わな ければならな いと いう医療技術 の正当性 の問題、第 三に'医療行為 は 人身 への侵襲 を伴う のだから、 それを受け入れるかどう かは患者 が決定す べきと いう患者 の自 己決定権 の問題 であり、 これら 三 つの要件 を満 たしてはじめ て医師 の治療 行為 は正当なも のとな る。 このような立場 から、医療 の限界事例と して人工授精、体外受精 に関 し、施術 の医学的適応性と法上 の許否に ついて検討す 受精卵 ると'子を得 られな い精神的苦痛 を除去す るために必要な 医療技術 を適用す る のだから' 一応、医学的適応を有す ると考えら れ、現行法 で取り締ま る ことは困難 とされ る。な お、体外受精 と の関連 で'受精 はしたが移植されな か った卵 子 - の処分が問題となり、何らか の法的規制を行う べき であ ると の見解 もあ るが、受胎後 であ るならばともかく' 腫そ のも のを法 的 に保護 す る根拠 はな いとす る。 次 に、生殖 医療 に何 らか の法的規制を講 じなければならな いかに ついては'倫理的 不快感や漠然と した不安感だけ では足り ず、 そ の療法 により誰 のいかな る利益が侵害されるかを明確にす る必要があり、そ の侵害性が明らかにな った場合 に いかな る 一 〇 八 ページ参 照 40 法 規 制 が 必要 かを弾 力的 に考 え る べきと した 上 で、 例 えば ク ロー ン児 に ついても 1個 の人格 と し て尊 厳 を 認 めら れ る のであ れ ば これ に 反対す る法律 上 の根 拠 はな いの ではな いか、 と し、新 たな テ ク ノ ロジ ー の成 果 の利 用 に ついて、現在 のわ れわ れ の社 会 が絶 対的 に 正 し いも の、あ る いは完 全 な も のでな い以上 、少 くと も生 命科 学 の研究 、 医療 技術 の開 発 に法 の枠 を はめ る こと だけ は慎 む べき であ ると し て いる。 糊そ の他 以上 のほか、 法律 サ イド から のアプ ロー チ と し て、複 数 の法 分 野 から の取 り組 み の他 '諸 外 国 の生殖 科 学 技術 に関す る法 制 に ついて の研究 な どが あ る。 ( 諸 外 国 の法 制 に関す る文献 に ついては、第 二節 二. で紹介 。) 金城 清 子 「 非 配 偶者 間 の体 外 受精 と生殖 の自 由 ・権 利 」法 律 の広 場 1九 九 八年 四月号 金城 晴 子 ﹃生命 誕生 を めぐ る バ イ オ エシ ック ス ー 生命 倫 理 と法﹄ 第 一項 第 四節 学問研究自由の制限 法的な規制の限界 M 生命科学 技術 に関す る研究 を制限するとすれば' それ は研究活動を制限す る こと、すなわち研究 の自由を制限をす る ことを [学 問 の自 由 の 一 意味す る。 研究 の自由 は憲法 二三条 の学問 の自由 によ って保障され'特 にそれは精神的自由 ( 良心 の自由、表現 の自由、信教 般 的 な 理解 ] の自由等) の 一種とさ れ、 こう した自由を直接制限す るには明白な正当性が必要とされる。最終的 には'制限す る ことによ っ て得 られ る公共 の利益と損なわれ る利益 の均衡 が図られるか否か、更 に制限する態様等を含 め て総合的な検討が必要 である。 現在 の法令 の中 で、研究 そ のも のを明示的 に制限し ている例 はなく、十分な吟味 が必要と考え る ( 法制定当初 に' そ の技術 の 実用 の例が少なく'実質的 に大学 及び研究機関 における研究が主たる規制対象 であ った例とし て'原子炉規制法 があ り'研究 の制限 に際 して言及される ことがよくあ るo ただ し この法律も'研究 そ のも のを規制対象 としていな いことは後述す るとおり であ る。 ) ∽学問 の自由 の内容としては、通例①学問研究 の自由、②研究成果発表 の自由'③教授 の自由'④大学 の自治があげられる。 この権利 の主体 に ついては、す でにポポ ロ事件 の最高裁判決 にお いて' 「 学問 の自由 は これを保障す ると規定 した のは、 一面 にお いて広くす べての国民 に対 してそれら の自 由を保障す るととも に∼ --特 に大学 におけるそれら の自由を保障す る ことを 趣旨 と したも のであ る」 ( 最高判 昭和 三八年 五月 二二日) とあ るよう に、大学 における学問研究、学会 における学問研究 に限 られ るも のではな いo ( 最 近 では更 に高柳信 1・大浜啓吾 「 学問 の自由」基本法 コンメ ンター ル憲法等 のよう に'大学教員 の 特権的自 由とし て保障 したも のでなく、市 民的自由を研究教育機関 の内部 にお いて貫徹させるも のだと説く説も有力 であ る。) 学問 の自 由に ついては'戦前 の社会 ・人文科学 におけ る学問 の統制'戦後 の教授 の自 由や大学 の自治をめぐ って様 々な学説 や判例が出されたが、近年 は先端科学技術 と の関係 にお いて'原子力など の大規模技術'遺伝 子組換え実験など の遺伝 子技術 ' 体外受精な ど の医療技術等 の分 野における学問研究 の自由 の規制 に ついて議論が行われ るよう にな ってき ている。特 に、後述 す る遺伝 子組換え実験 の規制 に ついては'最近盛んな議論が行われるようにな っている。 研 比較的初期に この間題を取 り上げ た論文 の中 には 「- - -遺伝 子組換え実験 のように'人類 の生存を脅 かす おそれ のあ る ( 究)なども'野放図 に行われる こと は問題だと言わなければな るま い。 しかし このような学問 の自由と他 の価値 と の衝突 は、 学問 の性質 から言 ってそれ ほど生ず るも のではな いし、仮 りに学問 の自由 の 「 行き過ぎ」 による 「 害悪」などと いうも のがあ ると し ても'原則 と し てそれ は権 力的 に統制さ れ る べき ではな く、学問 に携わ るも のの手によ って自主的 に解決さ れなければ な らな い。 上例 のような行動 が学 問的 であ る か否 か の問題 も、行政権 や立法権 が みだり に立ち 入 るべき事柄 ではな く、第 l義 的 には学者 じしんと学問 の府 ( 大学 ・研究機 関) の自 律 や自 主的判 断 に委ね られ る べき であ る。 政治的権 力 が、学問 のあ り方 に ついて法規 によ る画 一的規律 を企 てた り、勝 手に限界線 を引 いて取 り締 ま りを行 ったりす れば 、学 問 の進歩、 ひ いては文 化 1般 の発展を阻害す る こと にな るから であ る。」 ( 小林直 樹 ﹃憲法 講義﹄)と言う考 え方 も出さ れ て いる。 こう した考 え方 の背景 には、 「 学 問 の自 由 は、真 理 の究 明 には創 造的 な自 由 が 不可欠 だと いう 認識 のほか に'さ ら に、研究 ・教 授 に携 わ る専 門家 の良心 と判断 が、政治や行政 の判断や要求 に優先 しな ければならぬ、 と いうもう 1つの合 理的 な 理由 を も ふく ん で いる。 だ から、 そう した意味 での研究者 の任務 や独立性 を尊 重す る社会的 雰囲気 を欠 けば、学問 の自由 を支 え る社 会 力も それだけ乏 しくな る。 学 問 の自由 の実 質的 な裏 づ け には、何 よりも学問 に対す る l般社会 の敬意 や期待や 理解 がな く て はな らな い。」 ( 同上) と言う ような'学問 の自 由 そ のも のに根ざ す考 え方 があ ると考え られ る。 3ク ロー ン技術など の適 用に ついては (後述するように) 人類 の存亡に関わ る大きな問題がかか っており、 しかしな がら' ㈲ 専 門家 の良 心と判 断だけ で結 論を出す ことが国 民から支 持さ れな くな って来 て いる こと、 従来 の大学 で の研究 を中 心と し て ㌔ ) いた生命 科学 が、最 近特 に民間 ( ベ ンチ ャー のような中 小企業 を含 む) での研究 の比重 を増 し ている こと、 軸生命科学 技術 を めぐ る研究 の動向 に は'最 先端技術 を ベ ンチ ャー企業 に結 び つけ て いく アメリカを中心と した国際的 な企業戦 略 があ る こと、 ㈲ ク ロー ン技術 を めぐ っては ( か つて科学者 の権 利や責 任 ,身 分 保障 をうた った 「 科学 研究者 の地位 に関す る勧告 」 (完 七 ( 松井幸夫 「 学問 の自 由 四年) を提出 した)UNESCOにも規 制強 化 の動 きがあ る こと、など から 一般的 原則論と は別 に個 別 に検討す る必要が増 し て いると考 え る。 S多 く の憲法学者 は'学問 の自由 は内 面的 活動 にとどま る限りは絶 対自由 であ るが、研究方法 の選択 と大 学 の自 治」ジ ユリ スト 一 〇八九号)、外部 に現れた研究遂 行 のた め の諸 活動 (上 田章 ・浅 野 1郎 ﹃憲法﹄)な ど は他 の法的 利益 と衝突 を生 み出 し、相 対的自 由 とな ると説 く。 具体例 と し ては、生体実験やプ ライバ シー の侵害 な どをあげ ている。 こう した中 で、特 に遺伝 子組換え を中 心 と した学 問 の自 由 の制限 に関す る現在 ま での主要な説を総覧 すれば次 のよう に分 かれ て い る。 3自主的規律説 ①高柳信 ∼・大 浜啓吉 「 学問 の自 由 」﹃基 本法 コンメ ンター ル﹄ [ 遺 伝 子研究 の制 限 に関 す る学 説 ] 43 ②阪本昌成 ﹃ 憲法 理論 三﹄ ③ 小林直樹 ﹃憲法講義﹄ ④成嶋隆 「 学問 の自 由」﹃基本法 コンメ ンター ル 憲法﹄ ⑤吉 田善 明 ﹃日本国憲法論 ・新版﹄ ⑥森 田友喜 ﹃日本 の憲法﹄ 00国家的規制説 〇 二二号 ⑦ 戸波 江 二 「 科学技術規制 の憲法問題」ジ ユリ スト l ⑧ 戸波 江 二 「 学問 ・科学技術 と憲法」樋 口陽 一郎 ﹃講座憲法学 四 ・権利 の保障 二﹄ ⑨芦部信書 「 学問 の自由 二 法学教室 一五七号 ⑩ 保木本 一郎 ﹃遺伝 子操作と法﹄ ⑪ 小林武 ・三並敏克編 ﹃ 今 日本国憲法 は﹄ これら の論文 では様 々な観点 から学問 の自由 の規制 に ついて検討を行 い、以後 の本論文 の論点と重な る点 に ついても述 べて いる。 以下、本論 の検討 にかかわる いく つか の点を紹介 し ておく。 戸波⑦ 論文 では、特 に生命科学技術関係 の規制 の根拠をドイ ツ基本法を参考 に 「 人間 の尊厳」 から導き出す ( したが って' 受精卵や 人 の遺 伝 子操作を反倫 理的 とす る) が、⑧ 論文 ではむ しろ生命 の権利、家族 の保護' 人格権 と い った憲法上 の権利 保 護規定 に基づくも のでそ の背景 に人間 の尊 厳 の原理を見 て取 ると している ( したが って、 そ の限界 は法律 によ って確定されざ るを得な いとす る) 。 これ に ついては、人間 の尊厳 そ のも のが抽象的 であり'後述 のよう に生命科学技術 の中 でも体 外受精、 ク ロー ン技術、 ヒトゲ ノム の解析など多様な技術 が いずれも人間 の尊厳 に関わるとされ ている ことから' これを直接 の規制原 理とす る ことは困難 であ ろうと考え る ( 第 六節第三項 で詳説) 0 また、科学技術 の影響 に ついて事前 に十分な 予測が つかな いことを前提 に' それぞれ、被害 の及ぶ範囲と程度 が広範 か つ深 刻なも のとならざ るを得な いため国 による規 制 の必要とし ( 戸波⑦ 論文) 、あ る いは反対 に予測が つかな いだけに国 による規 制 の根拠とならな いとす る ( 阪本② 論文) 。 しかし、先端科学技術 にあ っては予測 が つかな いだけ ではなく、科学技術 の現在 の通説 ( 研究者 の考え方) も常 に批判 の余地があり'最終的 に国 の責任 にお いて解決を図 る必要も当然 予想され る。 な お、規制を法律 によ って行 う べきとす る理由 に ついては' ( イ)科学技術 の限界を明確 に確定す るため (ロ) 研究 の自 由 と いう 人権 を制限す るため (ハ)規制 の限界を確定す る のが難 し いため (l こ 科学技術 の統制と いう問題 には世論 の合意が必 七 五 ページ 参 照 44 要 で法律 の制定 と いう形 が最 も適 当 であ るため ( ホ)研究者 の自 主判断 の尊 重 はかえ って研究 の萎縮 を招くため、とさ れ て い る ( 戸波⑦ 論文) が' 一方 で、科学 技術 に ついてひ っく るめた解 決 は不適 当 であ るし、規制 は様 々な実体験を経 て逐次 見直 し が 必要 であ る ( 戸波⑧ 論文) とも いわ れ'法律 か自主規制 かと いう 二者択 7的な 回答 は困難 が多 いよう に思われ る。 刷 上 のような考 え方を踏 まえ た上 で' 研究 の自 由 の規制 に ついて の考慮事項 と し て、次 の三点 を十分吟 味 し てみた い。 すなわ ち、 Ⅲ研究 (な いし技術)を放置す る (すなわち規制 しな い) ことによ って発生す る危害 は具体的 に何 であり、 1方規制す る こと によ って損 なわれ る利益 は何 であ る のか。 E i i a-さらに規制す る ことが必要な場合 にお いて最 も被規制者 に負担 が少なく、効果的な規制 はど のようなも のであ る のかo \ ノ 紳研究 のみを規制 す る のかt l般 人 に対す る規制 の 1環 と し て研究者 の研究 も 同時 に規制さ れ る のか0 3、榊に ついては、現在 規制 の必要が議論され ている科学技術ごとに大きな相違 があ る ことから、 これらを具体的 に検討す る必要 があ ると考 え る。生命科学 技術 による危険性 や社会的秩序 の混乱 は、遺伝 子組換え実験 と、体 外受精 や代 理母 のような 生殖 医療 技術 と、 ク ロー ン技術 ではそれぞれ侵害さ れ る法益や社会的 利益 がかな り異な ると考 え られ る ことから 一括 し て議 論 何に ついては第六節 '佃に つい す る こと は難 し いと考 え るo こ の点 に ついては'具体的な例を 示しな がら検 討す る こととす る ては第 五節 で検討) .輔 に ついては'次 項 でさら にお って検討を加 え る・ I"川 Ⅶ_ 川 ︼ 本 論文 の基本的 立 場と し ては、 一般的 に 「 学 問研究 の自由」 と いえ ども' 公共 の福祉 のため に規 制を行う こと は可能 であ る 研究段階と実 用段階 の技術 の規制 ( そ の成果 の利用 のた め の)技術 適用 と いう 二 つの段階 に分 け て と考 え るが、 そ の際 特 に技術 の中身 に ついて詳細 な分析 を 行 い、 制限す るメリ ットや様態 を明ら かにし ておく ことが 必要 であ ると考 え る。 第 二項 侶研究活動 の規制 を検討す るに当た っては、科学技術 研究と あ る程度概 念整 理を し ておく ことが有 効 であ ると考 え る。 生命科学技術 に ついては この二 つの区分 は後述す るよう にな かな か 難 し い点 が多 いが、 7般 の科学技術 に ついてはむ しろ このような 区分をす る こと は不自然 ではな い。 具体的 には先 端的 技術 の適 用 に ついては、研究者 が科学的知 見を増や し て行くた めにそ の技術 を適 用す る段階 と、研究者 だ [ 今 後 の検 討 項 目] [はじ め に] 45 け でな く幅広 い人 々 ( 技術者 も含 む) が生産な ど の手段 にそ の技術 を組 み込ん で適 用 し て行く段階 に分 け て考え る ことが適 当 であ る。 それぞ れ の社会的な影響 は次 のような こと にな る であ ろう。 り研究段階 の技術 適 用者 は多 く大学 の研究者 で、 研究室規模 のスケー ル'資金や携 わ る人員 も少な く、 万 一事 散が生 じた場合 の被害 も小さ い と予想 さ れ る。 00実用段階 の技術 適 用者 は多 く民間企業 の技術者 で' 工場規模 のスケー ル'資 金や携わ る人員 も膨大 で' 万 一事故 が生 じた場合 の被害 は甚 大 とな る可能性 があ る。 もち ろん' これ はあ くま で概 念的 な例 であ るが'例えば ク ロー ン技術 に ついては'動物 を対象 と した生殖 技術 の向上を踏 ま え た動物実 験 が進 み' ヒト ク ロー ン児 の創 出 が議 論 にな って いるが'現段階 では'牛や羊 など の動物 のク ロー ンの作成 ' 人 の 肱 の特定 段階 ま で の分 化などが報告 さ れ て いるが' ヒトク ロー ン児 の創 出 はまだ行 われ て いな い。 このような、研究 ( 基礎 研 究) の段階 と、 そう した技術 が実 際社会 で適 用され る段階 が混乱 したまま で研究 活動 の規制 が議論さ れ て行 く こと は適 当 では な い。 ∽ ( a ) 、あ る いは こう した技術 を チ ェックす 研究 の社 会 への 研究 と そ の成 果 であ る新 技術 の適 用と の関係 は、 従来 比較的単 純 に整 理 して説 明さ れ てきた。諸 々の研究 活動 は、消費財 の [ 提供や輸 送や通信 な ど、 人類 が長 い間求 め てきた効 用を効果的 ・効率的 に実 現 したり' そ のため の手段 の選択肢 を増 やすも の 利 益 還 元] と し て是 認さ れ てきた。 分類 し て言えば 、社 会 に適 用さ れ る技術 を生 み出す 研究 ( C ( ) a ) ( C ) が推進 さ れ て が存在 し' これ に対 し て、 工学 及び環境 の役割 と考 え られ てきた。 。 b) の成 果 を踏 まえ、当該 技術 の適 用 の評価決定 が行われ てきた あ る いは'技術適 用 の段階 で問題が生 る視点 から の研究 ( じた り、生 じ得 る可能 性があ る時 の代替な いし補完 技術 を提供す る のも研究 例えば 原 子力開 発 に当た っては、 原 子炉開 発 の基本 とな る原子炉 工学 研究等 安全 研究 ( b) が進 められ' そ の周 辺にお いて、材料研究 ' モ ニタリ ング 研究 '計測制御 技術 の研究 など きた と いえ よう。 したが って、あ る技術 が社会 で適 用さ れ る前 提 と し ては' これら十分 発達 した広範 な分 野 の研究 が進 められ て いる ことが社会 全体 の利益 にも適合 して いた。 一方 で、研究 活動 は直接 生産等 の具体的 な社会的 効用 に結 び つかなく ても、 人類 の英 知を増進 す る こととな り、 よ り 一層広 範な影響 を与え るも のと し て従来 より積極的 に評価さ れ てきたと ころ であ るO 当然 のことな がら' こう した研究成 果 の中 には 46 予期 せぬ 利 用 に よ り ' 人類 の社 会 を根本 的 に変 更す るような 発 明 に結 び ついて い ったも のも多 くあ った。 近年 では'当初 から 具 体 的 目的 に向 け て遂 行さ れ る研究 よ り' こう した広 範 な 影響 を持 つと期 待 さ れ る研究 が各 国 政府 によ り戦 略的 に推 進 さ れ て いる。 S こうした状況を踏 まえ、新 技術 に関連す る研究とそ の技術適用 に ついての規制に当た っては'政策的 に研究段階と実用段階 旧原 子炉規 制法 の例 で の技術 の適 用 とを分 け ' 後者 の規制 を 1般 的 な方針 と し つつ' 前者 に特別 な条件 の下 で緩 和措 置 を設け る事 例 があ る。 3原 子 力 開 発 - 旧 「 核 原 料物 質 '核 燃料 物 質 及 び原 子炉 の規 制 に関す る法 律 ( 原 子炉規 制法 )」 ( 昭和 三 二年 制定 ) にお いては' 原 子炉 の設 置 に当 た って設 置者 は、内 閣総 理大 臣等 の許 可を受 け ( 第 二三条 )、 設計 工事 方 法 の認 可を受 け ( 第 二七条 )'使 用前 検 査 ・定 期検査 ( 第 二八条 ・第 二九条 ) を受 け る ことさ れ て いたが ' 日本 原 子力 研究 所 は原 子炉 の設 置許 可を受 け る ことな く 原 子炉 を 設 置 す る こと が 可能 であ った ( 設計 工事 方 法 の認 可等 は必要 ) 。 これ は' 日本 原 子力研 究 所 が特 別 の法 律 に基 づ き 原 子力 の開 発 に関 す る研究 等 を総合 的 に行 う ことを 目的 に設置 さ れ たも のであ り、 す でに法 律 制定 以前 の昭和 三〇年 に財 団 と し て設立 さ れ我 が 国 で極 め て限 られ た 原 子力 研究 の実 施 を開始 し て いた研究 所 と し て十分 な実 績 を有 し て いた た め に'特 に許 可を 要 しな い こと と したも のであ る。 ただ し' そ の後 の改 正 にお いては' 一般 の設 置者 と 同様 許 可を 要す る こと とな って いる。 [ 注]また別 に'原子炉規制法 にお いては'そ の規制体 系下にあ って放射線障害 を防 止す るために人体 に対す る放射線被曝を 極 め て厳 しく に制 限し ており、 一定 の許容被 曝線 量を超え る施 設 の設置 は禁 じられ、 また当該線 量を超え る従事者など の活動 は制 限される等 の措置が執られ ている。 しかし、 医療 研究用 の目的 にお いて許可を取られた原子炉 にあ っては、許可 の条件 の もと で原 子炉 から取 り出さ れた人量 の ( 当然、許容被 爆線 量を超え ている)中性 子線等 を脳腫癌等 の患者 に照射 す る ことが認 毒 物 劇 物 取締 法 0 められ ている ( 現在' 日本原子炉研究所 の1R4等若 干 の研究炉 で許可が取られ ている) 00毒 物 研究 - 毒物劇物取締法 では、毒物または劇物 に ついて登録 した製造業者 でなければ特定毒物を製造 してはならな い ( 第 三条 の二第 一項) 、 登録 した輸 入業者 でなければ特定毒物を輸 入し てはならな い ( 同第 二項)とされ て いるが、 一方 で いず れも学術研究 のため特定毒 物を製造 し'も しく は使用す る ことが でき る者 と して都道 府県知事 の許 可を受けた者 ( 特定毒 物研究者) は製造や輸 入が許され て [ 研究において規 制緩和されている 例] いる。 ㈹もち ろん、研究段階と実用 のため の技術適 用段階 とに差を設ける ことは政策的な判断 であり、法的 に不可欠な条件 ではな いO 一般的 に、①新 技術 の適 用 は社会 にもたらす効用が極 め て大き いこと、②技術 の適 用に先立 ってそ のもたらす影響 に ついて知 見を得 ておくために研究 を推進 しておく社会的 要請が強 いこと'③ l方 で実用 のため の包括的な規制 は研究 の大 きな障害とな るおそれ のあ る こと'④通常 、研究 は研究室 レベ ルの小規模な実験が多くtか つ多様性 に富 み、研究者 のような十分な知見を 持 った専 門家 の監督 の下 で規制条件 を課せば安全性が確保 でき る こと、⑤ 必要な場合 は国な いし国 に準ず る機関が実施す る体 制とすれば よ いことtなど の状況 の中 で規制 の緩和が行われる ことが多 い。 ま た通常 、 ( 基礎的な)研究 は'実用段階 で の技術適 用 と異な り当該 技術 のす べてのプ ロセ スを 一時 に' 一斉 に適用す るわ け でなく'例えば生命科学技術 であれば発生分化等 の細 か いプ ロセ スごとに実験等 が行われ る例が多 いO全体プ ロセ スが規制 さ れ ても'細 か い各段階 のプ ロセ スの研究 が実施 可能 であれば研究 としては有効な場合 が多 いのである。 こうした前提 の下 で、先端技術 の適用 に関す る規制 の際 は いかな る研究 に関 して緩和措置を設ける必要があ るかを 一般的 に 検討 してみる。当然 のことながら'個別 の技術 の性格 に応 じて議論 は分け て考えなければ ならな い。 一つは'安全性 の確 認が行われ る必要 はあ るも のの' いずれ は社会 でそ の技術 を適用す る可能性が高 い場合 であ る。例と し て、遺伝 子 の組換え による新薬や食料 の生産などがあげ られる。 この場合 には、 そ の新技術を適用す るためにt より目的 にあ った'また安全な生物や 手法 の開発、関連す る情報 が集 められる必要 があ り' このため の研究 は'実用段階 での規制とは異な って研究を促進す るため の緩 和措置が考 えられ ても不当 ではな い。 もう 一つは' そ の理由 はとも かく'社会 と して当 面技術 の適 用 の結果を認めな いような場合 であ る。 人を殺傷す る こと のみ を 目的 とす る技術 が例 となり得 る。 この場合 には' そ の技術を実用段階 に今後適 用しな いと決定す る のであれば' これ に関連 す る研究 は促進す る必要がなくな る のであ るから、実 用段階 での規制を研究段階 にお いて緩和す る必要は乏 し い。 S,)のような考え方 の上 で'ク ロー ン技術 に ついて検討 してみる。通常、研究 の目的と手法 は完全 に l対 1に対応す ることは 少なく' 目的に対 して様 々な 手法 が'また 一つの手法も様 々な 目的 の研究に使 い得 る ことが多 い。 したが って、 ク ロー ン技術 も ヒトク ロー ン児 の創出を 目的 とせず'他 の目的 でク ロー ン技術 の適 用をす る研究 もあ り得 る こと であ る。 これらが別 の目的 を明確 に持 つか'あ る いはも っと 一般的な真 理 の探究 のレベルの研究 であ るかはともかくと して、そうした研究 の成果として ] [ 規 制 の緩 和 の背 景 [ク ロー ン技術 に ついて の検 討] 人間 の発生 の機 構 を解 明 した り、 あ る いはガ ン細胞な ど の分 化 のメカ ニズ ムを解 明 した りす る可能性があ る限 り にお いて'他 の生命 科 学技術 の基 礎的 研究 を推 進 す る のと同様 の重要性 があ ることとな る。 しか し 1方 、 こ の場合 さ ら に考慮 が必要な点 は、最 近 の科学 技術 の変質 であ る. 従来 の科学 技術 が'大学 の研究室 の基礎 研 究 段階 と それを実 用 に移 す技術 開発段階 と では資金 面、 人材 面、施 設面 でも大幅な レベ ルア ップ が必要 で、研究 段階 と実用段 階 が は っき り異 な る意 思決定 や責 任 を生 じた のに対 し ( 例 ︰原子力研究 '宇宙 研究 )'最 近 の科学 技術 は研究 と実 用 の境 目が 不分 明 で、 研究 の結 果 をそ のまま社会 に適 用す る ことが可能な状態 とな る事態 が発生 し っつあ る ( 生命科学 技術 、情 報科学技 術 な ど)。 特 に生命 科学 技術 では'例えば ヒト ク ロー ン研究 では当該 研究 が完 了した段階 でク ロー ン児 が創 出さ れ るな ど、直 ち に人類 に影響 を及ぼ す 可能 性 も否定 し得な い。 こ のような実体 を踏 まえ れば 、基 本的 に は上 に述 べたよう に、 ク ロー ン技術 の適 用 によ る危険 性 に応 じ' 一般 人に対す る規 制があ る中 で' 研究者 の研究 が そ の範囲内 で規制を受 け る こと はや むを得な いことと考 え る。 ㈲ 1般 人 に対す る規 制 の l環と し て研究者 の研究 活動 が制限さ れ る法令 は多 く制定さ れ て いるo 例えば、特定 の物資 を法的 に 制限す る ( 放射線障 害防 止法 によ り研究 用 アイ ソトープ の使 用を規 制) こと により それを利用 し て行 われ る研究 ( ト レーサー 実験) が制 限さ れ る こともあ る し、 また は資 材 の使用 により発生す る影響を制限 ( 電波 法 で発生す る電磁波 を規 制す る)す る こと により それを利用 し て行 わ れ る研究 ( 電磁波 研究) が制限さ れ る ことは不当 ではな い。 これをも って学問 の自 由 が損な わ れ て いると見 る こと は当 たらな い。 これ に対 し' 一般的 にあ る行為が許容 さ れ て いる中 で研究を のみ制限す る こと は困難 と考 え る。 少な くとも特定分 野 の技術 に つき'実 用 では適 用が許さ れ て いるが研究 は許さ れな いと いう事 態 は考 えられな いLt現在 の日本憲法上 も取 り得 な いと考 え る。 例えば '卵 子、精 子 に対す る個 人 によ る支 配権 があ る ことを前 提 に' そ の利 用権 の範 囲内 で卵 子 ・精 子 の冷凍 保存 '卵 子 ・ 精 子 の斡旋 、 人 工授精 、出生前検査 、受精 卵 の除 去な どが広く l般的 に法律的 でも許容 さ れ て いる中 で ( 現 に我 が国 では l定 の条 件 の下 で人 工授精 '体 外受精 な どが行 わ れ て いる)、精 子 ・卵 子 の取 り扱 いの研究 ( 特 にク ロー ン技術 を適 用 した研究 ) のみを規 制す る こと は困難 であ ろう と考 え る。 もち ろんt i般的 に ヒト ク ロー ン児 の創 出 に至 るような措置を禁 止す る法律 によ って' ヒトク ロー ン児創出 と併 せ て 一連 の 研究 をも規 制す る こと は'的 ま で の理由 で可能 であ る。当然 ' そ のためには、 人 工授精 、体 外受精な ど の生殖 医療 技術 と、 ク [ 結 論] 49 ロー ン技術 のもたらす法益侵害や社会的利益が明確 とな って'それらを比較検討 した上 で合 理的 に制限され ることが必要 であ る。 ( ジ ャーナリズ ムなど で' ク ロー ンに関す る規制 を論ず る場合 に' 「 ク ロー ン研究 の規制」と名付 けられる ことが多 いが、 純粋 に ( ク ロー ンのみに関す る研究) であ る のか' ( ク ロー ン研究 を含 むク ロー ン技術 の適 用) であ る のかを明確 にさ せる こ とが検討 に当た って混乱を招かな いためにも必要 であると考 える) S最後 に学問研究 の自 由 の制限 に伴 い生ず る関連す る問題をあげ ておくO研究 の規制と ( 研究 を含 めた)技術適用 の規制 の差 八 二ページ∼参 照 に、前者 では規制 の対象 とし て研究者 が該当す る のに対 し'後者 ではおよそ規制される当事者 として 一般 人しか存在 せず、 こ の場合、直ち に研究者 と いう属性を配慮 しな いです むと いう法技術的な メリ ットがあ る。規制 の対象と して研究者 が出 てく る 場合 は、従来、純粋な意味 の研究規制法が存在 しな か った ことからも推測 できるように、研究 と いう活動 に関す る慎重な検討 が必要 であ り、特 に規制と いう観点 からは 1般人 の責任と異な る 「 研究者 の法的責任」が問われる可能性が高 く' この問題に ついては様 々な検討課題が発生す ると考えられるO この点 に ついては第七節 にお いて補 説として詳細 に検討 した いO 従来、研究者 の地位や責任 は、UNESCO の勧告を始めとし て'そ の特権的な立場と、 一般 人に比較 してより高 い倫理的 な責 任など に ついて言及され てきた。 しかし、生命科学技術 のような問題 の登場 に伴 い'医師、弁護 士等 と同様 に'特権的な 立場と高 い倫 理的な責 任と併 せ て'法的責任を議論す る必要が生 じ' いずれ この新 しい問題 の解決 に向け ての検討 は避け て通 れなくな り つつあ ると考 える. しかし'新 し いこの間題 に ついての関係者 の コンセ ンサ スの形成 にはかな り の時間が必要とな るであろう。 5 0 第 五節 規 制 対象 の検 討 ( 生 殖 医療 技術 について) 一. 規 制 対象 の検 討 学 問 研 究 の自 由 の制 限を行 う に当 り、 対象 とな る技術 ご と に規 制 の必要 と態 様 を吟味 す る こと の重 要 性 に ついてはす でに述 べた と ころ であ る。 以 下本節 では技術 に応 じた規 制 の態 様 を、第 六節 では技術 に応 じた規 制 の必要性 を検 討 す る こと とす る。 法規 制 を検 討 す る に当 た っては、 両者 は密 接 に絡 み合 う と ころがあ り、 必要 な点 に ついては逐次他 に言 及 しな が ら検 討 を進 め る こと に した い。 ま た、本 来 は規 制 の必要性 を はじめ に検 討 し、 ついで規 制 の態 様 に移 る のが自然 であ るが ' 対象 とす る技術 が複 雑 であ る の で' こう した技術 の説 明 も進 めな が ら規制 の態様 に ついてむ し ろ先 に論述 す る こと と した い。 本 論 は'大 き く は生 命 科 学 技術 の規 制 を検 討 し て いるが、個 別 の技術 にわ た る 以下 の検 討 では'や はり検 討 の範 囲 を 限定 せ ざ るを 得 な い ので' 冒 頭 に記 した と おり特 に ク ロー ン技術 に ついて検 討 す る こと と した い。 し かし、 ク ロー ン技術 の検 討 をす る に当 た っては' それ よ りや や 範 囲 を広 げ て生殖 医療 技術 ま で見通 し ておく こと が全体 の位 置 づけ をす る上 からも 好 ま し い。 こ のた め '本節 で取 り扱 う技 術 は' ク ロー ン技術 の周 辺を含 む'生殖 に関 わ る科 学 技術 と し ておく。 ただ し、 こ こで進 め る検 討 の方 法 は'広 く生 命 科 学 技術 の規 制 に関す る検討 を進 め るに当 た っても 必要な方 法 であ ると考 え る。 一般 に、 す でに完 成 し てしま った技術 に つい ては次 項 の ( 発生 ・生育 過程 の時 系列 で の整 理) の例 で見 るよう に時 系 列的 な 因 果 関 係 を たど り '然 る べき段階 で包 括 的 な規 制 を行 う こと が妥 当 と考 え られ る. 例 えば 、受精 卵 の操 作 に ついて、 受精 後 1 四 日を超 え た卵 に つい ては実 験 を 許さ な い' と か' 肱とな った時 点 で生命 が誕生 し たと 見 て特 別な 地 位 が与 え ら れ る、 と み る 見解 は こう した考 え方 に基 づ く と 見 る ことが でき る。 しか し' 現在 、 まさ に大 きく進 展 し つ つあ る生 命 科 学 技術 のよ うな先 端 的 科学 技術 の規 制 を吟 味検 討 す るに当 た っては' こ のような時 系列的 な 技術 体 系 図 の中 で のみとら え る こと は 必ず しも適 当 と は言 え な いと考 え る。 個 々の時 系 列上 の行 為 の中 に は、 人類 にと って深刻 な 問 題 とな る行為 と、注意 深 く行 えば 問題 はな く む しろ 人類 にと って極 め て有 益 な技 術 を生 み出 す行 為 が隣 り合 って いる 可能 性 が高 いこと に配慮 す べき であ る。 そ の意 味 で、時 系列的 な 因 果関 係 を基 本 と しな が ら、各 発生 ・生育 の ステージ ご と の問題 とな る行為 を 注意 深 く分 類吟 味 し てみる ( 結 果的 に 線 状的 から 面的 に把 え る こと とな る) こと が 必 要 であ る。 もち ろ ん、本 論 ではそう した規 制 に 必要な専 門的 な技術 検 討 を行 う こと は困難 であ り、 あ くま でク ロー ン技術 の適 用 の法的 規制 を検 討 す るに当 た って必要な 代 表 的隣 接 技術 と の関 係 を お およ そ 示す 程度 にと ど め てあ る。 現在 のク ロー ン技術 を めぐ る広 範 な生命 科 学 技術 を ど のよう に展 開 した上 で規 制 の対象 と し て吟味 [は じめ に] 51 す るか の 1例と し て紹介 した い. 特 にそ の際 '① 規 制対象 ( 配偶 子、 歴、胎児 など の発生 ・生育 段階 にあ る対象 ) と規制行為 ( 受精 、核移植 '着床 など) に でき る限 り明瞭 に分 け て検討 す る ( こ の点 は規制 の方法 を めぐ って重 要なポ イ ントとな ると考 え る) ととも に、② 直接 ク ロー ン児創 出 にかかわ る技術 だけ でな く周 辺的 な技術 にま で視 野を広げ る ことと し てみる。 また、 それら技術 の評価 に ついても、 ③ ク ロー ン技術 と し て の法的 ・倫 理的評 価と併 せ て' そ の他 の生命倫 理的 な問 題 ( 例えば 、 人間 の女性 に人間 以外 の受精 卵を 着床 さ せ る こと は、 ク ロー ン技術 の持 つ問 題 と は別個 の生命倫 理 の問題とな る であ ろう) が 派生 して いる可能性 があ り' そう した点 も指摘 し ておく こととす る。 ︰自然 の生殖 過程 でたど る こと のでき る形態。 ︰人体 から の取 り出 しや 人為的操作 で'操作後 に ヒト の発生過 程をたど る細 胞を生ず る可能性 のあ るも の。 ︰ク ロー ン児創 出 に至 る技術 また は行為。 ︰代 理母' ヒト の配偶 子と動物 の配偶 子 の受精 、 これ により作 られ た肱 のヒトま たは動物 への移植 、 ヒト の腔 の動物 へ の移植 ' ヒト のキ メラ の作成等 ' ク ロー ン技術 の適 用と は別 の理由 から倫 理的 な問題が含 まれ ると考 えられ る技術 ま た は行為。 の整 理] 生命 科学 技術 、特 に生殖 関連 の研究、 技術適 用 の規制 に ついて考 え る際、 そ の対象 とな る細 胞や ' そ の時 系列 で の変 化、対 [発 生 ・生育 過程 象 と した技術 に ついて' それ ぞれ の問題点 を整 理す る ことが必要と考 えられ'まず 、 ヒト の発生過程 の時 系列変 化を図 示す れ におけ る時 系列 で ば、次 ページ の表 のとおり であ る。 二.問題 とな りう る技術 ・行為 と そ の評価 ヒト の発生過程 におけ る細 胞 の時 系列的変 化 の中 で、問題とな りう る技術 ・行為 は、 以下 のとおり であ る。 それぞれ、発生 ・生育 段階 に応 じた対象物 によ って大分 類 Lt それらを使 って行わ れ る技術 ・行為 を海外 の立法例を参考 と し て中分類 Ltさ ら に具体的実験 研究例 のいく つかを 小分 類 と した。 ( 消費 ) とあ る のは実験 後廃 棄す るも のを いう。 * ︰人体 へ戻す 行為。 ( 注)な お、各 項 目中 の記号 の意味 は以下 のと おり。 / 、 \( I) J ヽ ー ● △ 表 ヒ トの発生過程の時系列変化 <男性 > 生殖幹細胞-精祖 細胞 - 精子 ( 生殖細胞)- <女性 > 生殖幹細胞-卵祖 細胞 ・ - 卵子 受精卵 ( 生殖細胞) メ -卵割期 (2細胞期 ・4細胞期 ・8細胞期 ・桑実歴) 一膝盤胞 ( 分割開始 1週 間後 :表面の栄養芽層 と中央部の内部細胞塊か ら成 る。 内部細胞塊 か ら細胞 を取 り出 し培養す ることによ り、全能性 を持 った腔性幹細胞 ( ES細胞) ができる。) -母体-の腫移植-着床 ( 原 始線条 の発現 :分割開始後 2週間)-胎児 ( 始原生殖細胞 を有す る) - 出産 <なお、卵割期 と腫盤胞 の時期 を、初期腔 と呼ぶ。 > ( 注)上表の理解のため、細胞 の種類 について補足 して解説 を加 える。 ・生 殖 細 胞 :有性 生殖 を行 う際に形成 され る細胞 で、卵子 と精子がある。 (こ 胞 胞 細 殖 田 生 糸 原 始 体 れ らを配偶子 とよぶ。) 胎児期 に形成 され る生殖幹細胞。 身体 を構成す る細胞 の うち、精子 、卵子及び両者 の元 とな る生殖 幹細胞 ( 胎児期には始原生殖細胞) を除 くすべての細胞。 St em Ce l l ):動物組 織 の 中に存在す る、細胞分裂能 を保持 し、寿命 が限定 され ・幹細胞 ( てお らず、その所属す る組織 の細胞 にのみ分化す る能力 を持っ細 胞。 ( す なわち、神経 系、内分泌 系、血液 、免疫系等のそれ ぞれ の系内の組織 に分化 しうる限定 され た分化能力 をもつ細胞。) ただ し、生殖幹細胞 と腔性幹細胞 (E S細胞) はすべての細胞 に 分化す る能力 ( 全能性 )を持つ。 また、腔性幹細胞 (E S細胞)類似 の もの として、EG( Embr yo ni c Ge r m Ce l l )細胞 ( 始原 生殖細胞 に由来。ES細胞 に類似 の挙動 を とる。) があ る。 ・原 始 線 条 :発生、分化 の過程 の中で、外腔葉 がすでに分化 した後で、中胚葉 と内腔葉 の分化が始 まるときに現れ る形状の こと。 なお、外腔葉 は神経 細胞 、皮膚等 に、中腰葉 は血管、筋肉等に、内腔葉 は消化 器 、内臓等 に、それぞれ分化す る。 -53- 実験 ・研究 のため の使 用 ( 消費) 7. ヒト の生殖幹細胞、精祖細胞 ・卵祖細胞 ① 保存 ②使用 検査 のため の使用 * 動物を使 っての作成 ( 例 ︰ヒト の精祖細胞をネズ ミ の精巣 に入れ発育 ) ( 1) △ ③ 配偶 子形成 ( 死後生殖 のため△) 母体 から の未受精卵 の摘出 △ 人為的生殖 のため の使用 ( 人工授精'体外受精) ( 1) 実験 ・研究 のため の使用 ( 消費) 遺伝形質 の人為的変 更 ( 消費) ( ∫)● ( 1) △ ( 1) △ 検査 のため の使用 ( 例 ︰人 の精 子を ハム スター の卵 子と受精させ正常検査) ヒト の配偶子と動物 の配偶 子 の受精 遺伝形質を人為的 に変更 した配偶子 の受精 未受精卵 に体細胞等 の核を移植 しク ロー ン腫作成 * ィ. 配偶 子 ① 保存 ②使用 ③受精 母体 から の受精卵 の摘出 ウ. 分割 開始前 の受精卵 ① 保存 ②使 用 人為的生殖 のため の使用 ( 代 理母) ( 1) △ 実 験 ・研究 のため の使用 ( 消費) 検査 のため の使用 ( 例 ︰出生前診 断) 5 4 ③ 腫形成 遺 伝 形質 の人為的変 更 ( ∫) △ ( I) ● ( 1) 受精 卵 から の核 の取 り出 し ・未受精卵 への移植 ( ク ロー ン腔作成 のため) ( 1)● * ク ロー ン腔 の保存 余剰 腔 の保存 ( 自 然 腫) 母体 から の腫摘 出 ● ( 1) △ 腔 から の核 の取 り出 し ・末受精卵 への移植 ( ク ロー ン旺作成 のため) ( 1) ● ( 1) △ 卵割 期 の腔 の人為的分割 による ク ロー ン腔作成 腔 の遺伝 形質 の人為的変 更 人為的 生殖 のた め の使 用 ( 代 理母) ( 1) △ 実験 ・研究 のため の使 用 ( 消費) 検査 のため の使 用 ( 例 ︰出生前 診断) ( 人 工腫) 体 外 での人為的 受精 によ る腫作成 ES細 胞 の核移植 によ るク ロー ン腔作成 受精 卵' 腔、胎児 から の核 移植 によるク ロー ン腫作成 △ ● ● ( 出生 した ヒト の)体 細胞 の核 の未受精卵 への移植 によるク ロー ン腔作成 ヒト の配偶 子と動物 の配偶 子 の受精 による腫作成 正常 腔 の母体 への移植 ( I)● ( I) ( 腫移植 ) ク ロー ン腔 の母体 への移植 遺伝 形質 を変 更 した配偶 子を受精 さ せ て得 た 腔 の母体 への移植 ( -)△ ③個体 形成 ヒト の腔 の動物 への移植 △ ヒトと動物 の配偶子を受精さ せ て得た肱 のヒトまたは動物 への移植 ( I)△ * ④ 腔 の摘 出 ・廃棄 ( 中絶 に相当) ( 注) 腔 の使用 に関 し ては、 母体 に存 す る腔 ( 自然 腔)' 人 工的 に作成された腔、 これら腔 の母体等 への移植 を網羅的 にあげ てあ る。 したが って、他 の大分類中 の行為 と重複 した行為も含まれて いる。 オ.幹細 胞 ( 肱 の生成 段階 での特別な細胞 に ついて注目) 実験 ・研究 のため の使用 ( 消費) ○腔性幹細胞 ( ES細胞) [腔を取り出し、 腫盤胞期 の細胞 から培養されるも の] ① 作成 ② 保存 ③ 使用 臓器 の作成 そ の他 の使 用 △ ( 1) ES細胞 から の核 の取り出 し ・未受精卵 への移植 ( ク ロー ン腫作成 のため) ( 1)● キメラ個体 の作成 ( ヒト のキ メラ' ヒトと動物 のキメラ) 胎児期 に形成される各組織系列 の幹細 胞 の取り出し ○各組織 系列ご と の幹細胞 ( 通常 の幹細胞及びEG細胞) ① 保存 ②使 用 =EG細胞を見よ) ( 1) 胎児期 に形成さ れる始原生殖細胞 の取 り出し ( 実験 ・研究 のため の使用 ( 消費) 臓器 の作成 そ の他 の使 用 * EG細胞 から の核 の取 り出 し ・未受精卵 への移植 ( ク ロー ン腔作成 のため) ( 1)● ③体細 胞と し ての分化、発現 56 力 . 個体 ( 胎児 ) 出生前診 断 ① 使用 ( 堕胎罪等 で禁 止 ・処罰) ② 検査 ( 1) 胎児 の体細 胞 から の核 の取 り出 し ・未受精卵 への移植 ( ク ロー ン腫作成 のため) ( 1) ● 各 組織 系列 の幹細胞 の取 り出 し 丁ユ ③ 研究 始 原生殖細胞 の取 り出 し ④ 中絶 ( 母体 保護法 に基づ くも の) ⑤中絶 児な いし死産児 の研究使 用 * 体細 胞 から の核 の取 り出 し ・未受精 卵 への移植 ( ク ロー ン腔作成 のため) ( 1 )● ⑥ 自然 出産 辛 .体細 胞 ① 保存 ②使用 ク .そ の他 △ △ EG細 胞 の作成 、保存、使 用' 母体 への移植 ・着床 動物 の腔 のヒト への移植 動物 の腔 へのヒト の体細 胞 の 一部 移植 動物個体 の細 胞 の操作 これ ら研究、技術 の成 果 に ついては、 ク ロー ン児 の創 出 にとどまらず'まだ実 現 し て いな いも のも含 め'以下 のような成 果 の活用が考 えられ る。 a.生物 学、 発生学、細胞学 '遺伝 子 工学 、 発生 工学等 の基礎的 知 見を得 る。 ( 上記技術 のす べてと関連 ) [ 研 究 ・技 術 の成 果] b.拒絶 反応 のな い移植用臓器 ・組織 の作 出な ど再生医学 の進展。 ( 例 ︰各臓器 の幹細胞 の培養 による移植用臓器作出。 体細胞由来核 の除核卵細胞 への核移植 の技術 を用 い つつ、発生さ せる核 の遺伝 子操作 により、個体 ではなく臓器等 の特定 の組織 のみを得 る。 ) ( 上記技術 のうち'特 にオ.幹細胞 に関す るも ののほか、核移植技術'腔 の遺伝形質 の人為的変更などに関連 ) C.生殖 医学 の進展。 C -一 精祖細胞 ・精子等 の機能不全 の診断 ・補完、 ( 例 ︰人 の精祖細胞をネズ ミ の精巣 に入れ て'精 子に発達さ せる。 受精率'精 子 の正常検査 のため、精 子を ハム スター等 の動物 の卵子と交配。 ただし 二細胞期ま でに破壊。) ( 上記技術 のうち、特 にア.生殖幹細胞、精祖細胞 に関す るも のに関連 ) 不妊症 の診断 ・治療' ( 上記技術 のうち'特 に核移植技術'遺伝形質 の人為的変更に関連 V そ の他 の遺伝性疾患 の診断 ・治療、 ( 上記技術 のうち、特 に核移植技術 と関連 } を持 つ場合 の子供 への疾患 の遺伝を 予防。 ) C- 二 ミト コンドリ ア異常症 の治療 ( 受精卵 から他 の除核卵細胞 への核移植 の技術 を用 いて'母親 がミト コンドリ ア異常 cI 三 c- 四 ( 例 ︰腔 の分割 の技術 を用 いて、 一つだけ得られた腔から複数 の腔を得 て、 旺移植 による妊娠 の成功率 の低さを補 う。 ) 上記 の諸技術 の実施 に ついて制約を課す る必要性 の視点 に立 つと'個体 の産生を伴う場合、特に ク ロー ン児創出に至る場合 [研 究 ・技術 の評 ( ● の付された技術 ・行為) に、安全性等 の諸点が問題 にな ると考えられ るが'規制 に当た っての理由 に ついては、第六節 で 価 ] 詳述す る。 このほか'代 理母' ヒト の配偶 子と動物 の配偶子 の受精、 これ により作 られた腔 のヒトまたは動物 への移植' ヒト の腔 の動 物 への移植 、 ヒト のキ メラ の作成等 ( △ の付された技術) には' ク ロー ン技術 の適用とは別 の理由 から倫理的な問題が含まれ ると考 えられる ( す でに我 が国 で実 現し ている人工授精'体外受精、生殖細胞検査等 に ついては除外 してあ る) 0 これら の諸技術 の扱 いに関 し ては'現時点 における科学的知見や技術 の現状、社会 の価値観 に基づき、研究、技術適 用 の許 58 容 のメリ ットと 問 題点 を 比較考 量 し、政策 的 倫 理的 判 断 によ り、規 制 対象 が設定 さ れ る こととな るが、 このため には的 確 に対 象 及 び行為 を定 め る こと が求 め られ る。 ク ロー ン児 の創 出 の防 止 のた め ( 冒頭 述 べた よう に'第 六節 の結 論 を先取 り し ておく) には、 図 で示さ れ るよう に配 偶 子' 受 精 卵 ' 腔等複 数 の発生 ・生育 段階 の対象 物 に対す る いく つか の行 為 が散 在 し てお り ( 上 記 ● のと お り)' これ らす べ てを 1 つ 1つ制 約 す る こと と した場合 、複 雑 か つ実施 困難 な 規 制 とな らざ るを得な いO これ に対 し て、 陸 の母体 への着 床 行為 を規 制 す る こと と した場合 、 ク ロー ン児 創 出禁 止 と いう 目的 に ついて' 比較的 明瞭 か つ確実 に対処 可能 とな ると考 え ら れ る ( 次 ペー ジ表参照 ) 0 ( な お、個 体 産 生 を 目的 と した行 為 のみを規 制 対象 と した場合 '個 体 の産生 を 目的 と しな い実 験 ・研究 の扱 いが問 題 とな り 得 るが'実 験 ・研究 にあ っても' 故意 ま た は過失 によ り研究 用 の腔から個体 を産 生 す る お それ もあ り、 研究自 体 が個 体 の産 生 のプ ロセ スと直 結 し て いる こと から '個 体 産 生 を 目的 と しな い活動 に ついても '何 ら か の規 制 を かけ る ことも 理由 のあ る こと と考 え ら れ る。 さ ら に、生命 科 学 技術 分 野 の進 展 はめざ ま しく '上 記 に列挙さ れな い新 たな 技術 が近 い将来 にお いて実 現さ れ る こと もあ り、 ま た社 会 秩序 '価 値観 も変 化 す るも のであ る こと から ' 一定 期 間 を経 た 見直 しも 必要 であ ろう。) 八〇 ペー ジ∼ 参 照 表 ク ロー ン児創 出 に関連す る操作等 について 対象 とな る物 クロ ーン児創 出に関連す る操作等 通常 の発 生過程 ア. 生殖幹細胞 精祖細胞 卵祖細胞 、、 イ酒己偶子 ○未 受精卵 ク. 受精卵 ○ 核 工. 胚 ○核 ( オ はないo 注 . 幹細胞) :発 生 )の一 過 程 で l I ○核 / カ. 個体 ( 胎児 ) ○体 細胞 の核 / キ. 発( 生 体細胞) した個 体 ○体細胞 の核 ノ -60- l I l l l 第 一項 第 六節 安 全性 規 制 を 正当づけ る根拠 ( ク ローン技術 を 主 に) 一 ク ロー ン技術 の適 用 の危険 性 の種類 以 下、規 制 に当 た って の根 拠 に ついて検 討 を行 う こと とす る。ただ し、規 制 の根 拠 ( 刑法 とす る のであ れば 侵害 さ れ る法 益 ) の検 討 に当 た っては、 まさ しく個 別 の技術 が いかな る危害 を 及ぼ す のかと いう点 を検討 し確 認す る こと にな る ので'今 ま で述 べ てき た生命 科 学 技術 や 、生殖 医療 技術 のよう な 一般的 な 捉え方 で検 討 を進 め るわ け に は いかな い。極 め て細 か い技術 範 囲 に 限 って検 討 を行 う べき であ る。 した が って こ こでは'冒 頭述 べた と お り、 ク ロー ン技術 に ついて のみ検 討す る ことと し、 そ の 他 の技術 に ついては ク ロー ン技術 と の比較 で必要な範 囲 で検討 を加 え る こと とす る。 侶出産す る母体 に対する危険 これ は'核 移植 した卵 を 母胎 に着 床 さ せ る こと によ り生 じる' 母体 に影響 を与え る危 険 性 であ り' 保護 さ れ る べき も のは母 体 の生命 身体 であ る。個 人的 法 益 ・利益 の侵 害 であ る こと は明ら か であ る ので' 母体 を保護 す る こと に ついては特 段 の問 題 は な いと考 え る。 ク ロー ン技術 が 母体 の安 全 性 に影 響 を与 え る場合 は、 これ を規 制 し'禁 止す る こと は問 題な い。 な お学 術審 議会 報告 では、規 制 を行 う べき根 拠 と し て、 ・移植 腔 と 母体 と の生 理的適 合 性 ( 過大 児等) に ついて安 全 面 で の危険 性 をあげ て いる。 ∽生 まれ てく る子供 に対す る危険 核 移 植 した卵 によ って肱を作 成 し' 母体 に着 床 さ せ て出産 す る子供 の生命身 体 に対す る危険 に ついては問 題 が多 い。 元 々子 供 と し て生 ま れ な い予定 の卵 であ る ので当 初 の状態 に比較 す れば 卵 子を損 な う こと、 す な わち ( 身 体 以外 の支 配 可能 性 のあ る 客体 と し て) 器物 の損 壊 以上 に損 失 は存 在 しな いこと にな る。 ( 第 三節 にお いて' 刑法 学 者 から 立法 的 措 置 を 取 る べき こと が 三 八∼ 四〇 ペ ージ 指 摘 さ れ て いる のは、 逆 に現 行 法 下 では器物 と し て の取扱 いし か でき な いこと を 示 し て いる。) 技術 が 不完 全 であ るな ど の理 参 照 由 によ って子供 が生 ま れず 、 ま た障 害 のあ る 子供 が生 ま れ た と し ても' 子供 ( な いし子供 と し て生 ま れ る べき 正常 な妊 娠 によ 61 り発生 した受精卵)が危害を加えられるわけ ではな い。 したが って堕胎罪 のよ-な胎児 の生命 ・身体 の安全 を保護法益とし て 行為者 を処罰す る構成 とする ことは考え がた い。 核移植 した段階 で、 正常 に妊娠 により発生 した受精卵と同じも のと見なす こととした場合 でも、ク ロー ン技術 によ って当然 発生す べき ( 胎児 の) 死亡'異常 であ るならば侵害された法益として子供 の生命身体が損なわれたと見る ことはできな いこと とな る。 1方'生まれ てく る子供 に対す る危険性を法益や利益侵害 として考え るためには'異常 のある子供を生ませる行為 そ のも の い子供が死んで生まれる場合 により、社会的な秩序 に対する法益 侵害があ ったと見なす考え方があり得る。 ただ しこの場合、 00 には損なわれ る法益 はな いこととな る、 異常 のあ る子供を生ませる ことが侵害行為 に当 たるとする考え方を取 る こととなり' 優生学的な意味 から問題があろ-0 このような点 からも'生ま れ てく る子供 の安全性 に ついては、次 の遺伝的な影響と併 せ てtより高度 に抽象的な社会的危険 性と して考え る必要があ ろう。 S子供 以降 の世代 に対す る遺伝的影響 に ついての危険 体細胞遺伝 子に ついては生殖細胞と の機能 の差 から、放射線等 による外部 から の染色体 の切断 に対 しても強 く' そ の意味 で は体 細胞 には傷 の多 い遺伝 子が残 って いると言われ て いる。 このような体細胞遺 伝 子を移植 しク ロー ン化す る こと は、 ( 釈) にお いては全身細胞 の 一つに存在 す るだ け の遺伝 子 の損傷 が' ( チ) にお いては全身 の細胞 に共有さ れる ことにな り、 そ の遺 伝 子 の損傷 の影響 は極 め て大 き いも のとな る可能性があ る。現在'体細胞 の遺伝 子 の中 から こう した損傷 を予め発見す る こと は困難 で、生殖細胞 のような損傷 の少な い ( 遺伝 子に損傷 を負 った生殖細胞 は感受性が強 いため死ぬよう にな って いる)遺伝 子を得 る ことは難 し いとされ ている。 遺伝 子によ って受 け継がれ る遺伝的影響に ついては確率的 に示されるが具体的な被害 をあらかじめ見る ことは難 し い。 しか 〇〇人に 一人程度 の もそ の影響 は'極 め て多数代 にわたる知見を積 み重ね て確 認される ことが多 い。 人間にお いては、通常 一 0人に l人程度あ るとされる. 遺伝病 の障害が自然 発生 し、また何 らか の遺伝性 の特性 ( 糖尿病など)を持 つ人はさ らに高く 1 一方遺 伝病 に対 しては' 日本 は秘密性が高く、データ の入手も困難 であ り、また対応 も消極的 である。 これ に引き替え、欧米 では遺伝病 に対す る関心が非常 に高 く遺伝病診断や対策がとられ ている。 我が国 では日本産科婦人科学会が、 「 先 天異常 の胎児診断'とくに初期繊毛検査 に関す る見解 」 (一九八八年)' 「 着床前診断 62 に関す る見解」 (一九九 八年) の会告 を' 日本 人類遺伝学会 が 「 遺伝 カウ ンセリ ング ・出生前診 断 に関す るガイド ライ ン」 (一 九九 四年)' 「 遺伝 性疾患 の遺 伝 子診 断 に関す るガ イド ライ ン」 二 九九 五年) を定 め て いる。 特 に受精 卵遺伝 子診 断 に ついて は、最 近我 が国 で初 め ての事 例 が申請さ れ て いると ころ であ る。 生得 の遺 伝的体質 への対策 に ついては'今後欧米並 に国民 の理解 を深 め て行 く 必要があ る であ ろうが、 人為的な遺伝 影響 を 与え る原因 に ついては、 そ の規制 も国民 の理解 を得やす く'ま た生 じう る被害 も想像 できぬ程膨大な規模 に及ぶ 可能性 もあ る と ころから' これを 国 民 の健康管 理 の観点 から規制す る こと は合 理性 があ ると考 え る。 ク ロー ン技術 の適 用 に ついては' こう した遺伝的 影響 は遺 伝 子 レベ ルでの操作 が 入る以上無視す る こと は できな い。 しかも'上述 したよう に'感受性 の強 い (つま り遺伝 子 に損傷 があ った場合 は死ん でしま って、 そ の意味 で悪 い遺伝的影響 が伝 わり にく い仕組 みとな って いる)生殖細胞や そ の核 を使 う人 工授精 ・体 外受精 のような技術 と異な り、感受性 が弱 く (つま り紫 外線 や放射線 の影響 で遺伝 子が損傷 し ても 細胞自 体 は生 き残 り、あ る程度細 胞 と し て の機能 を果 たす)体細 胞核 を移植 す るク ロー ン技術 は、遺伝的 影響を後世代 へ伝え る意味 では極 め て慎重 に取 り扱 う べき技術 であ ると いわねばな らな い。 例えば、 人体表 面に遺伝 子損傷 のあ る表皮細 胞がた っ た 一つあ っても 人体 に直接的 な悪影響 はな いと考 え られ るが' こう した体細 胞 が移植 され る核 とな る場合 は創 出さ れ るク ロー ン児 は体中 の細 胞 に同 じ損傷 が含 ま れる可能 性があ り' ク ロー ン児 にも そ の子孫 にも甚大な影響が現 れ る可能性 があ る。 にも かかわ らず、 こう した危険性 は具体的 な危険性 ではなく、極 め て抽象的 な危険性 と し てとらえ られ る ので、規制 のあ り 方 と し ては要件や基準等 の定 め方 が難 し い。 しかしながら、す でに我 が国 にお いては このような遺伝的影響 の観点 から'原 子 力 の規 制 が か って行 われ て いたと ころ であ り' これを参考 に検討を加え る こととす る。 な お'遺伝的影響 に ついて の規制 は社 会的法 益や利 益 の侵害 とし て確率的 に考 え られ る ので' これと同様 に生 まれ てく る子供 に対す る危険 性と併 せ て考 え る ことが でき ると考 え る。 以上 のとおり'本 項 ではわ かりやす い遺 伝 子損傷 に のみ限 って例 示し てみたが'学術審 議会 報告 では特 に遺伝的 影響 に配慮 し この種 の安全 性と し て' ・子孫 の生殖能 力 の検定 ( 見 かけ上 正常 でも後代 は不妊 のこと があ る) ・ゲ ノムプ リ ンテ ィング ( 生殖細 胞を経 由 し て いな いため、ゲ ノムプ リ ンテ ィング に破綻 を来す 可能性 があ る) ・ミト コンドリ ア の適合 性 ( 染色体 と の不和性 に ついては未知 であ る) ・テ ロメア問題 ( テ ロメラーゼ 欠損 マウ スは 一見 正常 であ るが、代 を重 ね ると 不妊とな る可能性 があ る) ・体細 胞突然変 異 ( 体細 胞分裂 の間 に蓄積す る突然変 異及 びプ ログ ラ ムさ れた変 異) 63 ・凍結 腔 の遺伝 子発現 の正常度 ( 動物実験 でさえ不明) をあげ て いる。 このほか凍結保存卵 の使 用 による遺伝的近親婚、急速な遺伝的多様性 の喪 失 の可能性等もあげ て いるが'直接 的な遺伝的な危険性 からは離 れ ていると考 えれられ る ので検討からはず しておく。 二.放射線 による遺伝的影響 の観点 から の規制 ‖遺伝学 の研究 に当た っては、特 に放射線 による遺伝研究 は'与えられる原因が定量的 に分かるため早くから進 みへ大きな成 UNSCEAR)や国際放射線防護委 果をあげ て いる。 国際的な放射線 影響研究 に関する組織、国連放射線影響科学委員会 ( 員会 ( ICRP) にお いても放射線 による各種 の身体的障害 の他 に遺伝的影響 に ついても検討を行 い基準などを設け てきた。 こう した基準 の中 で特 にICRPが放射線 の国民遺伝線 量 ( 現在 は集団線量と呼ばれる) の基準をPUB6 ( Pu b l i c a t i o n6 ) にお いて定 め て いる。 これは' 「 核動力計画 およびそ の他 の大規模 な原 子力平和利用 に ついての適 切な企 画に当た っては' 一 つには個 人線量を制限す る ことにより、 一つには被 曝す る人 の数を制限する ことによ って集団全体 の被 曝を制限す る ことが 必 要 にな る」と いうも のであり' ( 最大許容遺 伝線 量) とし て'自然 バ ックグ ラウ ンドと医療 上 の被曝を別 にして'あらゆる線 源から の全集団 に対す る遺伝線量 は五 レムを超え る べき でな いとし、保留分を除外 して'割 り当 て分とし て二レムを勧告 し て いる ( 詳細 は参考 二参照) 0 ∽我が国は'原子炉規制法にお いて許可に当たり原子力委員会 の審査を経る こととな っているが、そ の原子炉 の安全審査 の際 の原 子炉立地審査指針 で 「 原子炉敷地 は' 人 口密集地帯 から必要な距離だけ離れ ている こと。 ここに いう 人 口密集地帯 から必 要な距離 とは'仮想事 故 の場合、国民遺伝線 量 の見地 から十分受 け入れられ る程度 に全身被 曝線量 の積算値が小さ い値 とな る ような距離を意味す る。」 ( 昭和 三九年 五月 二七 日原 子力委員会決定) とな って いる。 ( そ の後 の原子力行政 の見直 しにより' 原子炉 の安全審査 は原子力安全委員会 が担 当す る こととな り、原 子炉立地審査指針 は原 子力安全委員会 に引き継 がれた) 。さ らに上記指針を策定 した原子炉安全基準専 門部会報告 により、 この値を 0. 5×) 0m 8a n・r e m と定 めたo a ,)のように'法律 で直接明定 しては いな いが、許可に当た っての基準 の中 で直接個人が被 る損害だけ ではなく'遺伝影響 の 観点 から集 団 の被曝を制限す る体 系を考慮 したも のとな っている。 1五九 ページ参 照 6 4 な お 、 集 団 被 曝 の制 限 に つい ては 、ICRP は、 「こ の制 限 は有 害 な 影 響 と 社 会 的 利 益 と の間 の妥 協 を 必然 的 に含 む も の で あ る」 と し て、 す べ て の確 定 した 基 準 ではな く ' 「 危 険 と利 益 の収支 勘 定 に影 響 を 及ぼ す 諸 因 子 は国 に よ って変 わ る であ ろ う 主 に考 慮 した も のとな って いる。 ≡ . ク ロー ン技 術 の規 制 の方 法 川上 記 のよう な放射 線 によ る国 民遺 伝線 量 と いう形 で の遺 伝 影響 を制 限す る こと が行わ れ て いた と ころ から も、 ク ロー ン技術 に よ り体 細 胞 核 を 未 受 精 卵 に移 植 す る こと等 によ る遺 伝 的 影 響 を防 止す るた め当該 技術 を 制 限 す る こと は 可能 であ ろ う。 そ の際 、 最 大 許 容 遺 伝 線 量 に相 当 す る定 量 的 条 件 を ク ロー ン技 術 に お いては何 と 見 る べき か が 問 題 と な る。 科 学 技 術 的 な 可 65 Lt 最 終 的 決 定 は各 国 に残 さ れ て いる」 と し て示 し た数 値 は ( 暫 定 的 な 上 限値 ) であ る と述 べ て いる。 ④ 集 団全般 の被 曝 刷 最 後 にICRP の集 団被 曝 の制 限 に お け る被 曝線 量 の割 り当 てを 図 示 す れば 次 のと お り であ る。 ま た 、 原 子炉 立 地審 査 指 針 ( 卦職 業上の被曝等 に お け る具 体 的 な 考 え 方 は参 考 二 に付 した。 ② 医療被曝 な お 、ICRP の最 新 の勧 告 では最 大 許容 遺 伝 線 量 の記述 はな い。 現在 は集 団線 量 の概 念 を 用 い' 発 が ん のリ スク の制 限 を ( ∋自然バ ックグラウン ドレベル 能性と し ては'卵細胞操作 のみならず、各種 の化学物質 の遺伝的影響も含 め て、遺伝的影響を放射線 の当量 に相当す るも のと して示す 可能性 もあ るが、放射線 のような単純な物理現象 と異な るため、現在 のと ころ困難が多 い。 のまずtICRPの勧告 にお いても放射線 の遺伝的な影響に ついて'当時明確な知見、根拠を持 っていたわけではなく'原子 力利用 によ る利益と危険 のバラ ンスを考 え て当該 許容線 量 の数値 が提案されたも のと考え られる。 したが って、当該技術 の適 用によ って得られる具体的な メリ ットが社会的 にも認知されな い以上'定量的な規制 ではなく'この技術を全く適用 しな い ( 当 該技術 の適用を原則を禁 止す る) こともあり得 ると考 える。 特 に、ICRPの勧告時点 で遺伝的影響 に ついて最も高 い水準 にあ った分 野が放射線 による遺伝影響 であ り、 これ以上 の科 ( な いしICRP勧告) の取 る規制 の構造 に照 らし てみるとき、 ( ①自然 バ ックグ ラウ ンド レベ 学的 な知 見が当 面得られな い以上、国民 の生命'健康 を守 る責任 のあ る国としては不確定な数値 であ っても これを示し'守 ら せる ことは意味 があ ると考え る。 ∽また、原子炉立地審査指針 ル) に該 当す るも のとしては、我 々が日常受 ける避ける こと のできな い遺伝 子 の損傷 ( 特別 の原因がなく ても人間は有害遺伝 子を持 ち'更に'蓄積さ せ て いくと考え られ る) を考 え る ことが でき る。 ( ② 医療被 曝) に該当す るも のと して、体外受精や 各種妊娠支援技術 の影響など は、 不妊症 と いう疾患 に対す る治療行為 であり'そ のメリ ットを評価 できると ころから同様 の考 え方 で、適 切 に管 理される限り許容され る べきと考 えられる。 これに対し ( ( ③職業上 の被 曝等) は存在 しな いので省略) ( ④ 集 団全般 の被曝) に該当す る のがク ロー ン技術 であ り' これに ついては原子力発電所 のよう に安定的 で良質な エネ ルギー の確 保 のような現在直接受 けるメリ ットが考えられな いと ころから、我 々及びそ の子孫が将来受 ける であ ろう放射線や環境や食料 中 の化学物質など の予測 の つかな い影響 のために残され ておく べき ( ⑤ 長期保留分) と併 せて比較考 量され て許容 の程度が決 定され るべき であ ろう。結 果的 には④⑤ に相当す る遺伝的影響を及ぼ す ク ロー ン技術 の適用が全く禁 止される こともありう べ きと考 え る。 VGJ)のような意味 で、ク ロー ン技術 の適 用 に ついてはそ の危険性 の観点 から規制を加え る ことが許されるであろう.また類似 の技術 とも考えられ ている、体外受精や遺伝 子診断'遺伝 子治療技術 に比 べても高 い確率 で障害 の発生する危険性 ( メリ ット と比較 し ても)を持 つも のとして、区別 してそ の規制を検討す る ことが許されると考え る。 66 第 二項 社 会的 秩序 一.社会 的 秩序 の形成 M 夫婦 '親 子'親 族 の関係 に関 し ては、国ご と にど のような家族 モデ ルを 理想 と し て規範化す るかが相当異な っている。また、 [社 会 的 価 値 観 の 現実 の家 族 の実体 も'宗教 ・習俗 ・道徳 ・家 族意 識 の果たす役割 が大 きく実定家族法 と かな り帝離 し て いると言われ る ( 原 田 変 質] 純孝 「 家 族 法 の史 的変 遷」 法律時 報 六九巻 二号) 。 ま た' 一国内 にお いても、伝統的家 族観 と新 し い家 族観 な ど の国 民 の閣 の 意識 の差 が大 きく、社会 環境 の変 化 によ って基準 とさ れ る親 族関係を めぐ る社会的 秩序 は流動的な要素 が大 き い。 日本 では、終 戦後大幅な親 族 関係 の変 化がもたらさ れた。特 に戸主 を中 心と した家 制度 は大 幅な変 更を受 け て いる。 主な点 だけをあげ てみ ても、 旧民法 におけ る戸主 の家 族 に対す る権利 は強大 で、家 族 に対 し居所 の指定、 婚姻 ・養 子縁組 の同意権、 これら に従 わな い家 族 を離籍す る権利な どを持 つ 一方 '家 にあ るも のの扶養義務 を負 って いたが、新 民法 では、 両親 の未成 年 の子供 に対す る親 権 な どがあ るも のの'基本的 には個 人 の尊 厳と両性 の平等 の原則 の元 で抜本的な変 更を加え られ て いる。 夫 婦 にあ っては'無 能 力 であ った妻 に能力 が認 められ'婚姻 の成立 '夫婦間 の権利義務 '財産関係、離 婚'親 権な ど にお いて妻 は夫 と平等 の権 利 を 認めら れた。相 続 にお いても'戸主すなわち長男 への単独相続 から均 分相続 を前 提 とす る相続制度 へ変 わ って いる。 また'直接 民法規定 の変 更 はなさ れな いも のの内縁 関係 に法的効 果が積極的 に認められ る ( 判 例 により、内 縁 を 不 当 に破 棄 さ れた者 は相 手方 に婚姻 予約 の不履行 を理由と し て損害賠償 を求 める ことが でき るととも に、 不法行為 を 理由 と し て 損害 賠 償請 求 を求 め る こと が でき る ( 最高 判 昭和 三三年 四月 一日)、内 縁 の当事 者 でな い者 であ っても 、内縁 関係 に不当な 干 渉 を し て これを破 綻 さ せた者 は 不法行為者 と し て損害 賠償責 任を負 う ( 最高 判 昭和 三八年 二月 一目) ) な ど事実 上 婚 姻 と 同様 法 の下 の平等) に違 反す る の保護 が図られ るよう にな った。 刑法 にお いては尊 属殺 人規定 ( 二〇〇条) が憲法 l四条 第 一項 ( と し て違 憲 判決 を受 け た ( 最 高 判 昭和 四八年 四月 四 日) 。 こ のよう に従来 の夫 婦、親 子'親 族 を めぐ る関係 にお いて価 値観 そ のも のが大 きく変 化 し てきた。 家 族 の関係 は今 後さ ら に大 きな変 化を遂げ て行く こと が予想 され 'そ の変 化に ついては、社会学的 、経済的 、倫 理的 な観 点 から様 々な議論 がさ れ て いるが、特 に家 族法的 な観点 から は家 族 の自 助原則 ( 私的扶助 ・保護 の原則) の中 で家 族 のあ り方 と 個 人 の独 立 をど のよう に考 え てゆくか、 それ にどう対応す るかが問 題とな っている。具体的 に は離婚 の増加 を背景 と した離婚 制度 への批 判、 再婚禁 止期 間 の違 憲裁 判、夫婦 別姓 の要求 、婚外 子差別批判、事実 婚や非婚 母 の差別的扱 いの批判な どがあげ られ ている ( 原 田純孝前掲論文) 。 こう した中 で'特 に自 己決定権 の中 の議論と し て、生殖 出産 のあり方 も大きな問題とな っ て上 って行く ことが予想さ れる。 そ の際、 この種 の問題 の 一部 は従来非倫 理的な行為とされ て いるが今後 は許容され て行く可 能性も高 いと考 え る ( なお'本節 で 「 倫 理に反す る」と いう内容 は'純粋 に倫 理的な問題 ではなく'法律が関係す る範囲'例 えば、公序良俗 による無効 ( 民法九〇条)や 不法行為責任を問われるなど法的効果を生 じさ せる場合を主 に考えた) 0 ∽ 一方、家族関係全般における社会的な倫理意識 の他 に'親族関係に深刻な影響を与える先端生殖医療技術 の適用に関しては' さら に国ご とに非倫 理的 と考えられる範囲 は異なり、また時代 によ って変遷 してき ている。 例えば '親族関係 の創設 には当 たらな いが従来生殖関係 で最も深刻 に議論された人工妊娠中絶 に ついて取り上げ てみる。妊 娠中絶 に関 しては'我が国 では昭和 二三年 二 九四八年)優生保護法を制定 し'世界 で最 も早く中絶法を制定 した国とな って いる。 同法 の内容 は' 母性 の健康生命を保護す る こと及び優生上 の見地 から不良な 子孫 の出生を防 止す るとされ ていたが ( 倭 生保護法 は平成 八年 母体保護法 に改 正され、優生上 の見地 から の規定 は削除された) 、 母性 の健康生命 の保護 の内容 には ( 経 済的 理由) が含 められ ており、刑法 の堕 胎罪 は有名無実化され て いると考え られ て いる ( 沢登俊雄 「 堕胎罪解 説」﹃基本法 コ 0 ンメ ンター ル改 正刑法﹄) これ に対し、 イギリ スは 1九六七年妊娠中絶法を制定 した。 これに続きt I九七五年 に フラ ンス' スウ ェーデ ンで、 l九七 八年 にイタリ アで法律 が制定さ れ て いる。 1方 西ドイ ツでは、 I九七四年 に 1定 の条件 における堕胎を処罰 しな い旨 の刑法改正を行 ったが、 1九七五年 この法律 は連 邦憲法裁判所 により違憲とされた。 このような違憲判決 を受け て別 に刑法草案 が検討され 1九七六年制定された.さらに、統 一ドイ ツの誕生 に伴 い' 一九九 二年 に妊婦 及び家族援助法 が制定さ れたが' 一部 の議員 から提訴が行われ、 一九九三年再び連 邦憲法裁判所は違憲 の判決を下 している。 そ の後、与野党 間 で新 たな法案 の協議が行われたが成果が得られ ていな い (一九九 〇六七号 による。) 五年 におけ る状 況。斉藤純 子 「 海外法律情報 ( ドイツ) 」ジ ユリ スト 一 アメリカ では' 1九七三年 に最高裁 が テキサ ス州 の堕胎罪規定 を違憲 として人 工妊娠中絶 を認容す す判決を下した (ロウ判 決) 。 しかし' そ の後国内 では憲法修 正ま で含 めた議論が行われ'議会 と しては中絶 に関わ る立法 は行 って いな い。 そうした 中 で最高裁 は' 1九 八九年 ( ウ エブ スタI判 決) ' 1九九 二年 ( キ ャセイ判決) により' 1九七 三年判決 の基本 は変えな いと して いるも のの州法 における中絶規制を容 認す る判決を出 している。 な お今 後話題とな る問題と し ては'生殖医療 技術 と関係な いも のであ るが'欧米 ではす でに問題とな って いる同性どう Lで [ 人 工妊娠 中絶 の 倫 理性 ] [同性 者 間 婚姻 ] の結 婚な ど は、 従来倫 理的 と考 え て いた基 準 で の処 理と'近 い将来、次第 に社会 の受容 の仕方 が異な って行 く ことが 予想さ れ る社 会 秩序 の iつの例 と考 え る ことが でき る0 日本 では、 民法 が夫婦 ・夫 ・妻 と いう男女 の別を 示す 語を用 いており'婚姻法 ・親 子法 も男 女 の夫 婦 とそ の間 の子供を前 提 に規定 し て いる ので現行法 上 は婚姻障害 に当 た るが、す でに'同性どう し の結 婚 は スウ ェーデ ンでは 1九九 五年 同性 婚法 が制定 さ れ、デ ン マー ク' ノ ルウ ェー、 アイ スラ ンド で認め られ て いる。 ( 棚村政 行 「 男 女 の在 り方 」ジ ユリ スト 二 二六号) 。 日本 でも 同性愛 に関 し ては'東京都府中青 年 の家 にお いて、 同性愛者 に男女 同室 を禁 じた規 則を適 用 し て施 設 の利 用を禁 止 した のは違 法だ と した東京地裁判決 を支 持 した東京高裁 判決 で、都教育 委員会 の不 承認 処分 は、 同性愛者 の利 用権 を 不当 に制 限 したも ので違 法 であ り'行政当 局と し ては、 同性愛者 の権 利 '利益を十分 に擁護 す る こと が要請さ れ て いると し て いる ( 同上) 0 一方 す でに我 が 国 にお いても、性転換 手術 が医療 行為 と し て実施さ れ る段階 とな っており、 このような患者 であ る女性 の戸 籍上 の結 婚 の処 理な ども'問題 を抱 え て いると言わな ければな らな い。 非 夫 婦 間体 外 受精 、代 理母を含 めた先 端生殖科学 技術 に関す る立 法動向 に ついてはす でに第 二章 で述 べた とお り であ るが、 国ご と に法 律 で禁 止さ れる範 囲と そ の理由 が微妙 に異な って いる。 これ は非倫 理的 とさ れ る基 準が国ご と に異な って いると み る べき であ ろう。 以下 では特 にク ロー ン技術 を取 り上げ ' この技術 の適用 で生 じる問題 が、す でに見た国ご と に異な る倫 理基 準 の差 の範 囲内 の事 例な のか、 それとも普遍的 に問 題を生 じる事例な のかを検討す る ことと した い。 二.社会 的 秩序 の変 更 の枠 組 み ( 遺伝的 関係 と親族 関係 の擬制) 侶家 族法 の改 正'な いし解釈 の変 更を伴う ような親族関係 の時代的な変化 に ついて見る場合 '親 族関係 の変化 は全く新 し い [ 既 存 の親 族 関 係 人間関係 を作 り出 し て いる のではな く'従来 あ る別 の人間関係を前 提 に擬制 したり'対等 化、権利 移行す る形態 で変 化 し て い の擬 制的 関 係] ると考 え ら れ る。 親 族関係 は基本的 に保守 的 であ り、全 く新 し い人間関係を創 設す る歴史 はな か った。社会 状 況 の変 化 によ る 混乱 はあ るも のの、新 し い親 族関係 は、従来 の親 族関係 ・人間関係 の擬制と し て処 理さ れ ており、根本的 矛盾 は避け られ てき たと ころ であ る。 養 子縁 組 は明ら か に実 子関係 の擬制 であ る し、内 縁関係 は婚姻 関係 の擬制と して現在 はほと んど法律 上 の婚姻 と変 わらな い 保護 を 受 け て いる。 前述 の'諸外国 におけ る同性者 間婚姻 も、新 たな親族関係 の創 設 ではな く、結 婚 と同様 の権 利 を認 めよう と言 -趣 旨 であ ると いう。 戦後 の妻 の地位 は夫 と 同格 の地位とな ったが、 これ は夫 の地位 の擬制 ( 対等 化) と し てとらえ る こ 69 とが でき よう。 現代 の社会 で契 約関係が進 む 一方'な お 一部 では親族関係を必要とLt家 族関係 の中 で、生殖、扶養、連帯関 係 が築 かれ て いる以上、根本的な変 更が現在 のと ころ家 族関係 からは現れな いし、国 の政策や社会的秩序 にお いてそう したも のを前提 に置 いても 不当 ではな いと考え る。 社会的価値観 、社会的秩序 の変 化は激 しく、 一概 にあ る行為が正し いか正しくな いか、反倫 理的 か倫 理的 かと いう評価を下 しがた いことは、前 の項 目で述 べたとおり であ る。 しかし'家族関係 に基づく秩序 が厳と して今 日 の倫 理観 の 一部をな して い る ( 例えば、後述す るよう に民法 における近親 婚 の禁 止) ことも動 かしがた い。 このため、社会的秩序 と の帝離 を単 に抽象的 な概念 でなく具体的 な社会影響 としてとらえ る ことが 必要 であ る。 ここでは上 に述 べたような既存 の親 族関係が全 く新 し い生 殖医療 技術 によ ってど の程度大幅な変 更を受 ける のかを' 一つの方法として、 「 擬制的 関係 での解釈 がど の程度 可能 か」と い う メ ルク マー ルによ って示す ことと した い。 通常 の新 し い社会秩序と違 って、生殖 医療 技術 は人類が科学技術 の発展 に伴 って 初 め て経験す る生殖 環境を提供す る こととな る ので、 そう した技術 の存在 しな い人間関係 にお いて発生す る問題以上 の問題は 慎重 に対応す る必要があ るから であ る。 擬制される関係 からみ て、他 の生殖 医療技術と対比し て特 にク ロー ン技術 による社会 的混乱度 がど の程度大 きく、危険性があ るかを確認 してみた い。 それによ って'ク ロー ン技術 の適 用を規制す る根拠 とする こ とは可能だ から であ る。 ∽新 し い生殖医療技術 の適用 に ついてこうした観点 から比較検討する ことが可能 である。例えば、新たな親子関係を、生物学 的 ( 遺伝的)関係 と親族法的関係 ( とりあえず 日本 の民法 で解釈す る)とを対比し て検討 し てみる。 ( 非夫 婦間 人 工授精 ( DI)・体外受精) に ついては'遺伝的 には妻 を母'第 三者 を 父とす る親 子関係 であり'親族法的 に り (夫婦間人工授精 (AIH)・体外受精) に ついては、遺伝的 にも親族法的 にも実 子関係として問題な い。 00 夫 は事前 に、人工授精 ・体外受精を行う ことを 了解 し ている ので嫡出 の は出生 により妻 は母とな り'夫 は父親 と推定される ( 否認 はあ りえな いと し ておく) 。遺伝的関係 と親族法的関係 に離解が生 じるが、妻 と第 三者 と の間 に子供が生まれ、夫 と婚姻 後 そ の子を養 子縁組 す るケー スは現実 に生 じ ている事例 であり、 こう した養 子縁組関係 に擬制すれば、現実 の遺伝的関係 ・親 族法的関係 に準 じたも のとし て解決す る ことが でき る。 n r h H 一 軸 ( 代 理母) に ついては、遺 伝的 には妻 を母、夫を 父とする子供 であり、親族法的 には母胎提供者 が出生 により母となり、 父 は存在 しな いので非嫡 出子とな るC 放置す れば夫と妻 は子供と親族法的な関係 は生 じな いが'あらかじめ子供とす る ことを取 り決 め て いれば、夫 と妻 が養 子縁組をす る こと によ って親族法上 の父母とな る。実 子関係と養 子関係 の差 はあ るも のの'遺伝 70 的 関係 と親 族 法 的 関係 に離 解 が生 じ る こと はな い。 ただ し、 必ず しも法 的 に整 備 さ れ て いな い現 状 にお いては、 母胎 提供者 が [ク ロー ン児 のも 二五 ページ 参 照 参照 子供 の引 き 渡 しを拒 否 した場合 な ど は法 的 関係 は極 め て複 雑 にな る こと が 予想 さ れ る。 もち ろ ん '遺 伝 的 関 係 と親 族法 的 関係 を 擬 制 によ り整 理 したと し ても、国情 や 国 民感 情 に応 じ て政策 的 な 配慮 を行 う こと は 三六、 三 七 ページ 可能 であ り' 例 えば 代 理母契 約 を 公序 良 俗 に反す るも のと 見なす こと はあ り得 る であ ろう。 [ 注]代理母行為'すなわち遺伝的関係を有 しな い受精卵を女性が子宮 に着床さ せることは人類 にと って新 し い経験と いえ る。 しか し' それ に伴 って発生す る生物学的な関係、例えば本人と、 そ の遺伝的な 父と母と の関係'出産 した女性と の関係 ( 遺伝 的な 関係がな いので第 三者 とな る) は'従来 の、 父 ・母 ・第 三者 と の関係と異な る関係 は生 じ て いな い。 のみならず、非夫婦 間体 外受精 の特殊な方法' 不妊 でな い女性提供者 から成熟卵子を採取 し' それを不妊 でな い男性 の精 子によ って受精さ せ、得 られた 腔を 不妊女性 ( 秦) の子宮 に着床 させ る方法 ( 腔供与法 の 一つ)と基本的 には異な る方法 ではな いので' 手段と して の 未踏 性 に ついては ここでは特 にふれな い。 ちな みに、 イギリ スで両方とも合法化され ており、 現時点 にお いては この方法 によ り誕生 した子供 は多数 いると考えられる。 Sク ロー ン児 の創 出 に ついては、前 項 の擬制関係 に照 ら した場合 は次 のと おり であ る。 ∽遺 伝的 な 関係 ま ず 、 1般 に言 わ れ て いる よう に体 細 胞 核 提供者 が ク ロー ン児 の父と いえ るかどう か は疑 問 があ る。 遺 伝 的 に は'核 提 供者 と ク ロー ン児 は 一卵 性 双生 児 と類似 の関係 にあ る。 した が って'現在 考 え られ る技術 でク ロー ン児 と 同様 な 関係 を作 ろう とす たらす親族関係] れば 、 受 胎 時 の 一卵 性 双生 児 の片 方 を凍結 保存 し、残 った 腔が成 長 、 ( 子供 と し て) 出生 、 生育 した 段階 で母胎 に戻 し'年 齢 差 のあ る 双生 児 と し て出生 さ せ る こと に よ って、核 提供者 と ク ロー ン児 と同 じ遺 伝 関係 を創 出 す る こと が 可能 であ ろう。 す な わち 生 物 学 的 に は 兄弟 関係 に該 当 す ると考 え る。 次 に、 出産 した女 性 側 に ついても、 卵 子 は利 用さ れ て いるも のの遺伝 情 報 を担 う核 は提 供 さ れ てお らず 、上 記代 理 母 にお け る母胎 提 供 者 と 似 た立 場 に立 つこと とな り 、遺 伝 的 な 母 ではな い。 したが って、 核 提供者 及 び母胎 提 供者 は遺 伝 的 な 父母と は 言 え な い こと と な る。 これ に対 し て遺伝 的 な 父母 は' む しろ 一卵 性 双生児 の例 を 見れば 分 か る よう に核 提 供者 の父母と いう こ とと な る。 核 提 供 者 と ク ロー ン児 の関 係 を 一卵 性 双生 児 と類似 した も のと 見 ると し ても、 l卵性 双生 児 の要件 は、 同時 に出生 し両者 が 兄弟姉妹 と し て存在 す る こと であ るo I卵性 双生児 の片方 の歴を冷凍保存 Lt他方 の腔が成長、出生'生育 した時期にそれを 再度 母胎 に着床 さ せ、出産さ せる例がな い以上、ク ロー ン児 の創出は従来全く存在 しな い生物学的関係を創 出す る こととなる。 00親族法的 な関係 生物学的 にも本来存在 しな い関係 であ った のであ るから、親族法的 に擬制す べき関係 は存在 しな いこととな る. これが tつ の結 論 であ る。 次 に'生物学的な例として核提供者 とク ロー ン児 の関係を 一卵性 双生児と同様と考え て検討を進 め てみる。まず' このよう な ク ロー ン児 を生 む ことに ついて、 一卵性 双生児 の場合 は偶然 の要素があるとは言え、遺伝上 の父母 の意志 により ( 偶然性 に ついては' 1方 の腔を中絶 によ って除去 しな いと言う消極的選択 によ って父母 の意志 は働 いて いると見 る ことが できる)決定 さ れ ている。 も し' 一卵性 双生児 の片 腔 の凍結保存 により行う場合 でも、遺伝上 の父母 の意志 によりそれは選択される ことに な るが'体細胞核 を使 った ク ロー ン児 の場合 は' ( 観念的 であるが)先 に生まれた遺伝上 の兄 ( ?) の意志 によ って弟 ( ?) の誕生 が決定さ れ てしまう こととな る。遺伝的な 父母 の意志 によらな いで、第 三者 の意志 によ って子供が創出され る ことは、 許容 Lがた いであ ろう ( 通常、妊娠 により子供を作 ることは子供 ( すなわち体細 胞核提供者) の父母 の自 己決定権 に属すると 考 えられる) 0 親 族法的 には、出産 した母胎提供者 が母とな る。 もし'体細胞核提供者が母胎提供者 の夫 であ る場合 は父親 と推定さ れる こ ととな り'親族法 上 の親 子とな る ことにな る。遺伝上 の兄弟が、親族法上 の親 子関係とされる ことは、従来 の法的な親族関係 にお いても擬制す べき例を見る ことがな い ( ただし、体細胞核提供者 が母胎提供者 の夫 でな い場合 は、 父親 ではな いので認知 は不可能 であ るが' 子供と養 子縁組をす る ことは不可能 ではな いと考えられる。弟 を兄 の養 子とす る例 は我 が国 ではあり得 る 例 ではあ る) 0 な お、核 提供者 と親族法 の兄弟 関係が適 用さ れる場合 は'様 々な権利義務 が遡及的 に変 更される可能性もある。 例えば、遺 伝上 の父母 の死 による相続 は'核提供者 が受 け ていた財産 に ついて、遡 って持ち分 の主張をす る ことが でき る、など の議論が 出 て来 る であ ろう。 いずれにしても、財産法的'親族法的な社会秩序 に全く新 し い要素 をもたらす こととな る。 叫 ク ロー ン児 の創 出 に ついては、前項 の擬制関係 に照ら した場合 は' この技術適用 によ って擬制される べき現在存在 す る親族 関係 が存在 せず、全 く新 し い人間関係を創造す る こととなり、従来 の社会関係を大 きく変更す ること にな る。非配偶者間体外 受精 、代 理母等 と比 べても' ク ロー ン児 の創出 は社会秩序 にと って大きな影響を与える こととな る。 もとより我が国 で生殖 医 72 療 全 般 の法 的 規 制 に ついて十分 議 論 が行 わ れ る こと が望 ま し いが 、特 にク ロー ン児 のみを 対象 とす る規 制 を 行う こと は十分 な 根 拠 が あ ると考 え られ る。 倒な お 以上述 べた ク ロー ン児 の創 出 に関連 し て考 慮 す べき ケー スと し て次 のような 問題 があ る。 Ⅲ親 が子供を死亡さ せた時 に'死んだ子供 の体細胞 から ク ロー ン児を創 出す る場合 特 に親 の 一方 ( 父親 ) が 死亡 し て いる場合 にお いて、 lつぶ種 の子供 を亡 く した親 ( 母親 ) が ク ロー ン児 を自 分 の卵 子と胎 内 を使 い創 出す る こと を希望 す る可能 性 があ り得 よう0 心情 的 には 理解 でき るし、同 7遺伝 子を持 った 人間 は現実 に は存在 し な いこと とな る ので'上 に述 べた ような 混 乱 は生 じ る可能 性 が少 な いと考 え られ る。 しか し、 亡くな った 子供 の遺 伝 子 は親 が ( す な わ ち体細 胞 核 提 供者 ) の父母 の自 己決定権 に属す ると述 べた が、 一方 勝 手 に操 作 す る権 利 はな く、 ま た 死亡 に関 す る現在 の社 会 的 な秩序 と いう 別 の秩序 を混 乱さ せ る こと にな る ので不適 切 と考 え ∽ で、妊娠 により子供を作 る こと は子供 る ( 上の でク ロー ンを作 ら れな い権 利 は体 細 胞核 保 有 者 ( 亡 くな った 子供 ) の l身 専 属的 な自 己決定 権 の 一種 と考 え る べき であ る) o ㈲核提供者 の父母が ク ロー ン児を創 出す る こと に つき了解 を与え た場令 遺 伝 上 の父母 に当 た る核 提 供者 の父母 の同意 が得 ら れた 場合 は、 上 に述 べた よう な混 乱 は 一応 避 け られ た形 とな り、社会 秩 序 の観 点 から は直 ち に不適 切 と考 え る こと は難 し い。 む し ろ、 1卵 性 双生児 ( な いし 二卵生 双生児 でも よ い) のうち の 1つの 腔を凍 結 保存 す る場合 の例 に準 じ て考 え ら れ る べき であ ろう ( 体 外受精 の実 施 の際 、 かな り多 量 の余 剰 腔が 発生 す る ので' む 。 しろ' こ のケー スの方 が 可能 性 が高 いと も考 え られ る) ㈲自然 の受精卵、 腔・胎児 から 1卵性 双生児 を創 出す る こと 妊 娠 した 両親 が、自 然 の過 程 で受精 し、成 長 し て いる肱 を操 作 し て'核 移植 ま た はそれ 以外 の方 法 によ り 一卵 性 双生 児 を創 出す る こと であ る。 こ の場合 は、 明 ら か に通常 の個 体 が形成 さ れ る途 中 にあ り、 こ の胎児 ( な いし受 精 卵 、 腔が成 長 し て形成 ( こ の場合 は胎児) の さ れ る べき胎児 ) の生命 身 体 を損 な う 可能 性 があ り' 一方 的 に損 な わ れ る 可能性 のみあ る腔 にと つては利 益 のな い行 為 であ る 吊に述 べた のと同様、 ク ロー ンを つくられな い権利 は体細胞核保有者 ので許さ れな いと考 え る. ま た、 1身 専 属的 な自 己決定 権 であ り、 そ の同意 がな い以上 、親 と いえ ど も 1卵性 双生 児 を創 出す る こと は できな いと考 え る べき で あ ろう。 [ 特 別な事 情 に つ い て の評 価 ] 七 五 ペ ー ジ∼ 参 照 三. ク ロー ン技術 の意味 最後 に' 不妊 対応 のため のク ロー ン児創 出 の意味 に ついて検討す る。 不妊 対応 の技術 に ついては、 ク ロー ン技術 以外 にす で に述 べたよう に' 人 工授精 '体 外受精 な ど の方 法があ る。 妊娠 が'卵 子と精 子によ る受精 によ って新 し い遺 伝 子を作 り'それ を受精 卵 の中 で分裂 ・分化さ せる こと によ って胎児 と Lt出産さ せよう と いう行為 であ るとす れば 'この行為 の障害 を除 去 し、 目的 の達成 のため に施 す 医療 行為 が 不妊治療 とな るも のであり'上 にあげ た人 工授精や体外受精 は皆 それら に該 当す る。 しか し' ク ロー ン児 の創 出 は'卵 子と精 子 によ る受精 がな く' そう した意味 での妊娠 におけ る障害 の除去 を目指す 不妊治療 ではな い。 それ は' 人類 にと って全 く新 し い個体増加 行為 であ る。 したが って、 これを禁 止 しても、 医療 行為 を受 ける権 利 が阻害さ れ る こと はな いと考 え るOちな みに、畜 産 にお いてク ロー ン技術 は家畜 の育 種 '改良 、増殖 技術 の 1つと し て考え られ て いるo 第 三項 規制 根拠 に関す る結論 1. そ の他 の規 制根 拠 の吟味 =人間 の尊厳 憲法 第 二 二条 では 「 す べて国 民は'個 人と し て尊 重さ れ る。 生命 、自 由及び幸福追求 に対す る国 民 の権利 に ついては、 公共 の福 祉 に反 しな い限 り、立法 そ の他 の国政 の上 で、最大 の尊重 を 必要とす る」 とさ れ、 この 「 個 人 の尊 重」 が 「 個 人 の尊 厳」 「 人間 の尊 厳」な どと呼ば れ、 人権 の根拠あ る いは基本思想 に当 たると解さ れ て いる。 こ の規定 から、具体的な権 利 ( 憲法 が 定 めた基本的な 人権 )ま で認めたも のとす るか否 かに ついては説が分 かれ て いるが'肖像権 に関 し て、最高 裁判所判決 では 「 何 人も ' そ の承諾 な しに'みだ りにそ の容ぼ う ・姿 態を撮影さ れな い自由 を有す るも のと言う べき であ る。 これを肖像権 と称す るかどう かは別 と し て、少な くとも、警察 官 が、 正当な 理由もな いのに、個 人 の容ぼ う等 を撮 影す る こと は'憲法 〓二条 の趣 旨 に反 し'許さ れな い」 ( 最 高 判 昭和 四四年 〓 1 月 二四 日) とさ れ てお り、新 し い権利 の創 設 に ついては消極的 であ るが'な お直接 この規定 を踏 まえ た保護 も 可能 と し て いる。 憲法 におけ る 「 個 人 の尊 重 」に関係 し て特 に問題 とな る生命科学 技術 に関す る事案 と し ては、安楽 死 ・尊 厳死 の問題があ る。 「 回復 が 不可能 で苦痛 を伴 う ような 場合 '本 人 の明確な意志 をもと に ( 延命治療拒 否) を認め得 る」 とす る説 ( 佐藤幸治 ﹃憲 法﹄ 他) があ る。 これら は尊厳 死と いう名称 は用 いて いても'論拠 と し て、個 人 の尊 厳や 人間 の尊 厳 を直接 明示 し て いるも の は少な いよう であ る。 む しろ、自 己 の生命 、身体 の処分 に関わ る自 己決定権 と し てとらえ' そ の自 己決定権 の論拠を憲法第 一 三条 に求 め るも ののご とく であ る。 このような憲法 第 二二条 に関す る内容 と し ては、肖像権やプ ライバ シー の権利等 の人格 にま つわ る権 利や自 己決定権 が 1般 的 にはあげ られ る。 このうち の自 己決定権 と は'個 人が 一定 の個 人的事柄 に ついて、 公権 力 の行使 から 干渉さ れ る ことな く' 自 ら決定 す る こと が でき る権 利 とさ れ ( 佐藤 同上)'上 にあげ た'自 己 の生命 、身 体 の処 分 に関す る こと、 の他 に'結 婚 ・離 婚等家 族 の形成 ・維持 にかかわ る こと、避妊 ・堕胎な どリプ ロダ ク シ ョンに関わ る こと'及び服装身 な りな どとさ れ る ( 矢口 俊昭 「 科 学技術 の発展と自 己決定権 」法学教 室 二 二 一 号) 0 生命 科学技術 で人間 の尊 厳 にかかわ る技術 は多 くあ り、 人 工妊娠中絶 、 人 工授精 '体外受精 、代 理母、出生前診 断、性 の産 み分 け、遺伝 子治療 '遺伝 子診 断 ' ヒトゲ ノム の解析等 があげ られ るが、 この中 で個 人 の尊重、すな わち自 己決定権 の観点 か [ 憲 法 〓 二条 個 人 の尊 重 規定 ] ら制 限 の検討が必要とな る のは、 ヒトゲ ノム の解析 ぐら いであろう。 むしろ'人 工妊娠中絶 以下 の技術 は'女性 の生 む権利 ・ 生まな い権利 ( 自 己決定権 と しての)を支援す る技術 と見なす ことさえ できる。 憲法 一三条 の適用 に当た っては、まず'ク ロー ン児創出 に ついては核提供者 の身体 の処分な いしリプ ロダ ク シ ョンに関す る 自 己決定権 の行使 の側 から見 る ことが可能 であ る。 この核提供者 の自 己決定権が いかなる理由 で制限さ れるかが問題 であ る。 憲法 〓二条 では、 「 生命 '自由 及び幸福追求 に対す る国民 の権利 に ついては' 公共 の福祉 に反しな い限り、立法 そ の他 の国政 の上 で、最大 の尊重を必要とす る」のであ るから'核提供者 のク ロー ン児創出 の権利 ( 権利と見な し得 るかどうかは別と して) は'公共 の福祉 に反す るために制限され る こととな る。自 己決定権 を制限す る公共 の福祉 には いく つか の内容 があ るが、 この 場合'① 生まれ て来 る であろう 子供 の個 人 の尊厳 ( 幸福追求など の権利)と の衝突'② 公序良俗 のような公的秩序 と の対立t と いう 二 つの考 え方 があり' そ の調整結 果と してク ロー ン児創出 に関す る自 己決定権が制限さ れる ことにな る。① の生まれ て 来 るであろう子供 の権利と の調整 と考 え る場合 には'将来生まれる であ ろう子供を個 人 の権利 の主体とな しえ る のか、 二 つの 権利を比較 して間違 いなく 一方 (つまり核提供者 のク ロー ンを作成す る権利) の劣後を認め得 る のか、など の問題が生 じてく ると考え られる。 ( ② に ついては後述) 前者 の問題 に ついては'憲法学 では今 のと ころ生まれるかもしれな い子供 の生存する形態 に ついての自 己決定権 は議論とな った ことはな いよう である。 一方、 一旦生まれる こととな った子供 は生まれな い方 が いいなど自 己否定す る ことはあ り得ず' 結 局 のと ころ' この論理は特定 の子供 は生まれさせな い方 が幸福 であると いう第 三者 の評価 に帰着さ れる可能性があ る ことに 注意す る必要があ る。 後者 の二 つの権利 の軽重 の判断 は、例えば遺伝病を持 つ胎児 の生まれる権利と母親 の人工妊娠中絶す る 権利 ( 生む権利 ・生まな い権利)と の相克 からもう かがえ るよう に、極 めて難 し いと言う べき であ ろう。 ( 人間 の尊厳) に関 し ては、憲法 ≡ 一 条 の解釈を離 れ'人類 の普遍的な倫 理原則とし てとらえ る ことも可能 であ る。欧州 に [道 義 人情 ・社 会 おける生殖医療技術 に関す る倫 理問題を理解す るにはむしろ このような概念 で眺める ことが適 している。 ただ し、欧州各国 で 倫 理 ] は生殖医療 技術 の規制 に当 たり'人間 の尊厳 の原則を援 用し つつ、より具体的 に腔 の保護や ( 人間 の)身体 の尊重 の原則を導 出して いるO これらに ついては、項 目を改 め て検討す る。 我 が国 でも憲法 ≡ 一 条 とは別 に 「 人間 の尊 厳 」 「 個 人 の尊厳」 にかかわ る法的な概念 が存在 しな いかを考 え てみた い。 民法 では婚姻 の要件 と して 「 直系血族または三親等内 の傍系血族 の間 では、婚姻をす る ことが できな い」 ( 七三四条第 一項) 「 直系 姻族 の間 では、結 婚をす る ことが できな い」 ( 七三五条) とされ'近親 婚が禁 止され て いる。 これは上述 の 「 人間 の尊厳」 に 近 い概念 から導 出され ていると考 えられる。 民法学 では近親婚 の禁 止を、近親 婚による遺伝疾患 の防 止など優生学的 理由 の他 76 に、「 道 義 人情 に反す る」( 有泉 亨 「 親族法 ・相続法 」)「 社会倫 理的 配慮 」( 上 野雅和 「 新版注釈 民法 」)な ど のた めと し ている。 広 く は、 公序良 俗 の概念 の中 に含 まれ ると考 え られ、上記② の公的秩序 により結 婚と いう自 己決定権 が制 限され て いる例と見 る ことが できる。 な お、学説 では、血族 間近親 婚 に ついては、優生学的 配慮 からと は いえ共有 す る遺伝 子 の量的な危険度 だ けから禁 止す る こ と の問題を指摘さ れ'また姻族 近親 婚 に ついても、核家 族化 した現代社会 におけ る意義 から言 って維持 す る必要性 が批判さ れ て いる ( ﹃新版 注釈 民法﹄) 。 このよう に、道 義 人情 や社会倫 理的観点 から の禁 止 に ついては'社会的 にも相 対的 な基 準 に基 づ くも ので' そ の意味 で違 反 の効果 も様 々な も のとな り得 るとさ れる。 ちな みに、近親 婚 に関す る規定違 反 は無 効 ではな く取消 ( 腔 の段階) から の人間 の生命 の発生 し事 由 とな っており、当然 刑事 罰も伴 って いな い。 また、内縁 関係 ( 事実 上 の婚姻) への適 用もな い。 ∽受精時点 人間 の生命 の始 ま りが い つかに ついては、生物学 だけ ではな く法律学 '倫 理学 、宗教学 '哲学など様 々な分 野にお いて議 論 が行 われ ており定 説 はな い。 日本 の法律 では' 民法 では 「 私権 ノ享 有 ハ出生 二始 マル」 (一条 ノ三) とさ れ'胎児 が体 の全体 を露 出 したときと解 さ れ てお り' 一部相続法 の適 用 に当 た っては 「 胎児 は、相続 に ついては、す でに生 まれたも のと みなす」 ( 八八六条 一項) とさ れ て いる。 一方 刑法 では、殺 人罪 の適 用 に当 たり判例 は胎児 の体 の 一部 が露 出 した時 を持 って殺 人罪 が 成 り立 つと Lt そ のほか堕胎 の罪 ( 二二 一 条∼ 二 一六条) によ って胎児 の保護 を図 って いる。 基本的 には全体 露出な いし 一部 露 出 した時 点 で人と見なさ れ、 ただ し胎児 の時点 で 一部 の保護 が図られ て いるわ け であ るが'胎児 の権 利主体 と し て の扱 いは 確定 的 ではな く' 民法 では 「 前項 の規定 は'児 が 死ん で生 ま れ たと き は、 これを適 用 しな い」 ( 八八六条 二項) とさ れ、刑法 でも堕 胎 の罪があ る 一方 母体 保護法 ( 旧優 生保護法) で、身体的 又は経済的 理由 により母体 の健康 を著 しく害 す るおそれがあ るも のと判断さ れ るとき は、本 人及び配 偶者 の同意 を得 て人 工妊娠中絶 を行 う ことが でき るとされ て いる。 また、法律 上胎児 の概 念 は明確 ではなく'通常 は受精 後' 腰が生 じ'分割 と併行 し て子宮 に着床 Lt桑実 腔を経 て腫芽 が生 じ、 これがや が て胎 児 へと発達 す る こと にな る。 す でに見たよう に、 ドイ ツ の腫保護法 では腔を中 心 に規制が行 われ、す でにあ る自然 な 腔 の乱用 の他 に、 人為的 な 腔 の作成 キリ スト教 も禁 止さ れ ている。 これら の考 え方 の背景 には ロー マカ ソリ ック教会 の考 え方 が 反映さ れ て いると いう.著 名な T九九 五年 の ロー マ教 皇 ヨ ハネ ・パゥ ロ二世 の回勅 「いのち の福音 」 では' 「一つの新 し い生命 は受胎 の瞬 間 に始 ま る。 - の伝 統 は'堕 胎 を特 に重 い道 徳的 不正行為 とす る点 で明確 か つ 一致 し ており、最 近 の ロー マ教皇 の教権 は、 この教 理を繰 り返 一九 ページ∼参 照 77 し確認 し ている。 ここでも、堕胎 は他を害 しな い者 を故意 に殺害す る行為 であ るがゆえに、常 に重大な道徳的 不正であ ること を宣 言す る。」 「 堕胎 に ついての道徳的評価 は生命医学 の研究領域 で広 まり つつある人間 の腔 への干渉 にも適 用される。 人間 の 腔また は胎児を実験 の対象 と して使 用す る ことは'彼ら の人間存在 の尊厳 の尊重 に抵触する犯罪を構成す る。体外受精 によ っ てもたらされた腔や胎児 を実験用 に利用す る ことは、たとえ他者 を助けるた め のも の・ であ っても絶対に許されな い。」 ( 秋葉悦 子 「 自 己決定権 の限界」﹃ 法 の理論 1七﹄ の回勅概要より引用)と述 べられ ていると ころに典型的 に現れ ている. この考 え方自体 に ついては'倫 理的 ・宗教的確信 であ りそ の当否を ここで議 論す る こと はできな い。 しかしながら' 「 いの ち の福音」 の文章 が明確に示しているよう に'生命 の発生 は受 胎から始まるとす るゆえ に'腔 の保護 'すなわち 陸 の乱用 の禁 止は堕胎 の禁 止と不可分 に つなが っており'当然 のことながら人 工妊娠中絶 の正当性を検討 しな い限り腔 の地位を認めること は法的整合性がとれな いこととな る。少なくとも、現在 の日本 のよう に -方 で妊娠中絶 を合法化しながら' 随 の研究 を禁 止す る考 え方 を'上 に掲げ た立場 から合 理的 に説明す る ことは困難 であ るように見え る。平成 五年度 に科学研究費補 助金 により行 われた生殖 医療 技術 をめぐる法的問題 に関す る研究プ ロジ ェクト研究成果報告書 「 生殖 医療 における人格権 をめぐ る法的諸問 題」 で示され て いる勧告 の理由 の中 でも 「 諸外国 の例を参照 しても' 腔 の法的地位 に ついての立法上 の積極的定義づけを行う こと は困難なよう であり、 これに拘 泥す る ことはあ る いは当面 の問題解決を遠ざ ける可能性も存す る。 そ こで本勧告 では、既 存 の法律 と整合 を図り つつ'法的地位 の問題を回避す る こと で最低限 の合意 に達 した」と述 べており、法益と して腔 の保護 を あげ る ことは困難 が多 いと考 えられる。 糾身体 の尊重 フラ ンスでは、 まず 民法典 に ( 人体 の尊重 の原理)が明記され ている。 「この法律 は人 の優越性を保障 し'そ の尊 厳 に対す るあらゆる侵害を禁 止し、及び人をそ の生命 の始まりから尊重す ることを保障す る」 (一六条) とす る。 そ の上 で' ①何 人も'自 己 の身体を尊重される権利を有す る。 ② 人体 は不可侵 であ る。 ③ 人体、 そ の構成要素 及びそ の産物 は'財産権 の対象と してはならな い。 この中 で'身 体尊重 に関す る差 し止め請求権 を認め 二 六条 の二)'人体 の完全性 に対す る侵害 は本 人 のため の治療的処置 から の必要性 に限られる (一六条 の三)と定 める。 また、人体 の尊重 の効果と して、人体 に対す る財産的価値 の付与 の禁 止 二 六条 の五) 、人体提供 の無償性 の原理 の確 認 (一 二〇 ペー ジ∼ 参 照 78 六条 の六)' 人体 提供 の際 の匿 名性 の原理 (一六条 の八)'代 理母契約 の無 効 (一六条 の七) が定 められ て いる。 さ ら に、 人類 の完全性 の保護 のた め、優生学的営 為 の禁 止 ・子孫変 更 のため の遺 伝形質 の変 更 の禁 止 (一六条 の四) を定 める。 このよう に'極 め て体 系的 に身 体 を めぐ る保護 がうたわ れ て いる のが フラ ンス生命倫 理法 の特色 であ る。 特 に、本法 は憲法 院 によ って合憲 と判断され たが、 これら生命 倫 理法 の各規定 に ついては、 一九 四六年第 四共和制憲法前 文' 一七 八九年 フラ ン ス革命 人権宣 言 の 1条 ・二条 ・四条 '前憲法前 文 1 0項 ・二 項 を根拠 と し て合憲 と定 め て いる. 生命 倫 理法 の実施 に当 た って の具体的措 置 は公衆衛生法典や施 行令等 で詳細 に定 められ ており、例えば 人体 の組織 ・細 胞 ・ 産出物 の摘 出 ・保存 ・利用 に関 し ては、規 制外 のも の'特 則あ るも の、 1般的な規制 に従うも の等 に分 けられ ' ほぼ合 理的 な 規制 とな って いるよう であ る ( 北村 一郎 「フラ ンスにおけ る生命倫 理立法 の概 要」ジ ユリ スト 一 〇九〇号)0 しか しな がら'権 利 の主体 ( 人) と客体 ( 物) を基本 に組 み立 て、 原則と し て物 に対す る絶 対的支 配権 を認め て いる現在 の 我 が国私法 制度 の中 で、 人体 に対 し特別 の扱 いをす る のであれば極 め て慎重な 対応 が必要 であ ろう し、まさ に フラ ン スでの対 応 が示す よう に、現在 の我 が国 民法 を中 心とす る法制度全 般を抜本的 に変更す る必要が生 じ て来 る であ ろう。 したが って、 こ れを持 って保護 さ れ る べき法益や利 益と し、規 制す る法律 を作 る こと は大幅 な法体 系 の見直 しを要す る ことを覚 悟す べき であ ろう。 二. ク ロー ン技術適 用 によ って得 られ る積極的 利益 一方 、 ク ロー ン技術 に ついても そ の適 用 に ついては'す でに述 べたよう に悪魔 の技術 であ るわけ ではなく'将来 の人類 の幸 福 のた めに役立 つ点 が多 々考 え られ る。 例 えば、① 不妊治療 のみな らず 、がん の発生 の機構解 明、拒絶 反応 のな い人 工臓器な ど再生 医学 の発展等 の将来 の医療 技術 の向上 '② 将来 の人類 にと って予測 不可能な事態 に対応 す る知 識 のスト ック ( 環境 ホ ル モン問題 で指摘 さ れ るような、 人類 の将来 の生殖 に対す る危機 が生 じた場合 のバ ック ア ップ) と し て役立 って いく可能性があ るし、③ 科学的 な英知 は、 研究者 の好奇 心 ( キ ユリオ シテ ィ) と自律的な 活動 によ り壮 大な科学 技術体 系が生 まれ てきたと こ ろ であ り' 一部 であ っても 不適 切な 制限が 入 る こと は'研究 の萎縮 や衰 退を招く ことにな るおそれがあ る こと、④ 医療 におけ る自 己決定 権 は近年欧米 を中 心 に大幅な変 化を もたら し ており'妊娠中絶 、 イ ンフォー ムド コンセ ント、尊 厳 死な ど は こう し た流 れ の中 で生 まれ てきた変 化 であ り'自 己決定権 が 万能 であ ると は言えな いが' こう した医療政策 上 のト レンド の中 で、自 己決定権 の行使 ( 憲法 上 の 「 個 人 の尊 重」 に相当) の 一形態 と し て、多 く の生殖 医療技術 は位 置づ けられ る可能性 の高 いこと 79 な どもあげ られ る。 したが って、 上述 の様 々な問題点 を含 め て比較考 量 した上 で、適 切な規制 形態 とす る ことが望ま し いと考 え る。 三.まと め 現在 政府 関係 の審 議会 でも、ク ロー ン技術 の適 用 に関す る規制を検討 し始 め ており、一部 の報告書 がす でに公表さ れ て いる。 そ の中 で' ク ロー ン技術 の問題点 を それぞれ に分析 して掲げ て いると ころ であ る。 〇年 七 月 学術審 議会特 定 研究 領域推 進 分科会 バ イオサ イ エン ス部会 報告 「 大学等 におけ るク ロー ン研究 に ついて」 ( 平成 一 三 日) では、 ク ロー ン技術 の問題点 と し て、 川生まれ てく る子供 の遺伝的形質 に望ま しくな い影響を与え る懸念 ∽個人、家族'社会 のあり方 に望ましくな い影響を与える懸念 をあげ 、 そ の他 の配慮 事項 と し て' 子供 に対す る親 の決定権 や個 人 の自 立性 に新 たな議 論を提起'優生学上 の思想 の悪用も招 き かねな い、と し て いる。 また、社会的 な 不安や 誤解 が存在 し て いる こと自体 を重視 し て適 切な対応 が 必要 であ ると し、倫 理 上否定 さ れまた は肯定さ れ るか に ついては見解 が分 かれ ると ころと し て いる。 一方 、科 学技術 会 議 生命倫 理委員会 ク ロー ン小委員 会中 間報告 「 ク ロー ン技術 に関す る基本的考 え方 に ついて」 ( 平成 一 〇 年 六月 一五 日) では大 きく 二 つに分 けt M人間 の尊厳 の確保 個 人 の尊 重さ れ る権利 の侵害 人間 の生殖 のあ り方 に対す る社会 認識 から の逸 脱 の安全性 の問題 出生児 の障害な いし成 長過程 での障害 の発生 をあげ て いると ころ であ る。 さ ら に'欧米各 国 は異な る観点 から、 それ ぞれ異な る規 制を し て いる。結 果 は類似 し て いるが、必ず しも生命 の開始 を 腰 の 段階 から始 ま ると見 てす べて の規制 が考 え られ て いるわ け でもな いし、 人体 の不可分性 がす べての国 の民法典 の新 原理と し て 認められ ようと し て いるわ け ではな い。 8 0 し か しな が ら '欧 州 を中 心 にグ ロー バ ル スタ ンダ ー ド化 した' ク ロー ン技術 の規 制 に ついては何 ら か の対応 が 必要 であ る。 グ ロー バ ル スタ ンダ ー ド が'規 制 に関す る外 形的 な 統 一と 言う こと であ るな らば 、 日本 は これ ら各 国 の法 制度 や そ のた め の考 え方 を参 考 に し つ つも、 独自 の根 拠 を探 る こと が望 ま し いC 本 論 に お いては 以上述 べた 理由 によ り'規 制 が行 わ れ る べき根 拠 と し て次 の二点 を特 に重 視 し て検 討 す る こと とす る。 ① 安全性 ② 社会 的秩序 これ は'単 に立 法 化 を 図 る場合 の根拠 とす るだ け ではな く、 活気 に満 ち 発展 す る社会 を 維持 す る政 府 の責務 と し ても積 極 的 に立 法 政 策 と し て掲 げ る価 値 があ るも のと考 え る。 一方 こ のよ うな 保護 法 益や 利 益 を踏 まえ た場合 、 す でに第 五節 の規 制 対象 の検 討 の中 で述 べた ような 規 制 のあ り方 に ついて 五九 ページ 参 照 吟 味 し てみ ると、 結 果的 にク ロー ン腔が 母胎 に着 床 Lt成 長 し て胎 児 と な り'個 体 と し て出産 す るよう な ことが な け れば 、 上 にあげ た安 全 性 の問 題 も'社 会 的 秩序 の問 題 も当 面問 題 と し て生 じ てく る こと はな いと考 え ら れ る。 した が って、 規 制範 囲 の 問 題 だ け でな く '規 制 を 正当 づ け る根拠 の観 点 からも、 規制 に当 た っては次 の二段階 に分 け て規 制 のあ り方 を検 討 す る こと が 好 ま し いと考 え る。 場合 によ っては' こ のような 区分 に従 い'規 制方 法 や規 制内 容 ' そ の担 保 手段 に ついて吟 味 す る ことが適 切 ではな いかと考 え る。 ① 中 核的 規 制 ( ク ロー ン腔 の母胎着 床 ) ② 周 辺的 規 制 ( そ の他 i切 のク ロー ン関連 研究 行 為) 第 一項 第 七節 加重的過失責任 補説 ・研究者 の法的責任 ‖以上 で先端科学技術 に対す る規制を行う場合 のそ の態様と規制を行う べき根拠 に ついての検討を行 った。直接 以上 の検討 に 関わ るも のではな いが、 これら の規 制 は研究者 に適 用さ れ る こと にな ると ころからt I般的 な研究者 の法的責任 に ついてこ の 際議 論 を加 え ておき た い。 研究者 と いえ ども有責違 法 な行為 により損害 を与え た場合 に は、 民事法 により債務 不履行や 不法行 為 によ る損害賠償 請求 を受 け、刑事 法 によ り刑罰を受 け'行政法 により懲戒 処分 を受け る可能性 があ る。 しかし、研究者 の社 会的責務 や倫 理的 責任 に ついては 日本学術会 議や、科学者 の国際的 な組織 にお いて議論さ れ て いるが、法律 論 の中 で研究者 の 責 任 が直 接議論さ れた例 は少な いよう に思 わ れ る. しかしt I方 で'生命科学技術 関係 の研究 や技術適 用 にお いて、多 く の場 合 医師 と研究者 は同 一人 であ る ことが多 く' 医師 も研究者 も社会的 には専 門家 と し て遇さ れ て いるにも かかわらず '当該 研究 者 の医師 と し ての責 任 は法的 にも比較的 明確 であ る のに対 し'研究者 の責任 は明確 ではな い。 同様 に、 そ の他 の研究者 の責 任を問う場合 にあ っても'研究者 それ自身 の特性 に基づ いて責任を問 い得 る のか'研究者 が持 つ他 の属性 に基 づ き責 任を問 い得 る のか は慎 重な吟味 が 必要 であ る。 研究者 が持 つ他 の属性 と は、上述 の医師 と研究者 の身 分 を兼 ね た場合ば かり ではな く' 国立試験 研究機 関研究者 ( 国家 公務 員)、国立大学 研究者 ( 教育 公務 員)、 公立試験 研究機関研 究者 ( 地方 公務 員 )、 公的 研究 機 関 研究者 ( それぞ れ の別 の法律 、条 例な ど に基 づ く特 別 の身 分)な ど であ る。 純粋 な 「 研究 者 」 の責 任 は こう した属性 を除 外 し て検 討す る必要 があ る のであ る0 ここでは'研究者 の責任を検討す るため、 近時 、 民法学 で 「 専 門家責 任」 と し て議論さ れ て いる新 たな加 重責 任 に ついて検 討 し、 そ の後 1般的な 過失責 任を議 論す る こととす る. ∽ 現在 刑事 法 ( 行政 刑法 を含 む) の分 野 では'研究者 及び研究者 と 比較 し得 るような者 の責 任論 に ついて 一般的な体 系 理論 は [専 門家 の責 任 の できあ が って いな いよう に思 われ る。 一方 、 民事 法 の分 野にお い ては' 「 専 門家 の責任 論」 が海 外 も含 め て活発 に議 論さ れ て 内 容 ] いる。 この枠 組 みを紹介 し' こ の考 え方 の中 に研究者 を取 り込む こと の可能性 を吟味す る こと により、研究者 の責 任を考 え て みた い。 主 に次 の文献 を参考 と した。 ① 酉嶋 梅治 「 プ ロフ ェッシ ョナ ル ・ライ アビリ テ ィ ・イ ンシ ュアラ ンスの基本問題」有泉亨 監修 ﹃現代損害賠償法 講座﹄ ② 川 井健 ﹃専 門家 の責 任﹄ 8 2 ③ 「 特 集 ・「 専 門家 の責 任」 の法 理 の課題 と展望」法律時報六七巻 二号 ④ 山 田卓 生 編 ﹃新 現代賠償法講座 三 ( 製造 物責 任 ・専 門家 責任) ﹄ 民法 では債務 不履 行責任 と 不法行為責 任 に医師等 の専 門家 の責任 は現れ る。 民法 では'医師等 の専 門家 の責任 は契 約 面 では 委 任契 約 上 の債務 不履行責 任 とな る ので' 民法 六四 四条 の規定 「 受任者 ハ委任 ノ本旨 二従 ヒ善良 ナ ル管 理者 ノ注意 ヲ以 テ委任 事務 ヲ処 理 スル義務 ヲ負 フ」 により善管 注意義務 を負 うとさ れ、受 任者 の職業 '注意な ど に つき通常 人を基 準と し て要求さ れ る義務 とさ れ る。 と ころが'分業社会 の進 展、知識社会 、高度 工業社会 '情 報化社会 の出現 は多 数 の専 門家 を生 み出 し、 こう した専 門家 が個 々のクライ ア ント の要求 に基 づ いて活動を行 い' そ の結 果 クライ ア ント に予期 せぬ損害 が生 じた場合 の専 門家 の責 任 に つき 、厳格 責 任化傾 向 が見 られ る ( 医師 に ついては、 「 人 の生命 及び健康 を管 理す べき業務 に従事 す る者 は、 そ の業 務 の性質 に照 ら し'危険防 止 のた め実 験 上 必要 とさ れ る最善 の注意義務 を要求さ れ る」 ( 最高 判 昭和 三六年 二月 一六 日) ) 。特 に これ が 人命 と は関係 な い業務 にま で見られ るな らば 、専 門家 共通 の責任問 題と し て考察 す る必要があ るとす る のが専 門家 の 責 任論 であ る ( 特 に弁護 士' 司法書 士等 におけ る説 明報告義務 、助 言義務 '調査 確 認義務 を認めた最 近 の判例 に ついては工藤 祐厳 「「 専 門家 の責 任」 と主要判 例 の分析 」法律時 報 六七巻 二号) 0 専 門家 の責 任 は比較的新 し い概 念 で、 それ に ついてはまだ完全 な 理論化が行われ て いるわ け ではな い。 一般的 には、専門家 に は高 度 な注意 義務 と か忠実義務 があ ると言わ れ'個 別 の専 門家ご と に ( 特 に医療 過 誤訴 訟を中心 に医師 の注意義務責 任と し て) 注意 義務 の要件や類型 化が行 われ て いる。 特 に'医師 におけ るイ ンフォー ムド コンセ ント のような情 報提供や助 言義務 が 重視 さ れ て いる。 ま た 一方 で専 門家 の責任 が確定す る以前 から ( 必ず しも本 論 の専 門家 責任 の専 門家 と合致 しな いが)専 門家 責 任 保険 制度 が設け られ て社会 的 にもす でに大 きな役割 を果た し て いる。 このほか、顧客 と の信 頼性 、債務 のなす債務 性、情 報 の格差 偏在 ' そ の職務 の公益性等 があげ られ て いるが、まだ専 門家 一般 の理論 と し ては議論 があ ると ころ であ る。 専 門家 責 任 は国 によ り大 きく異な り、 イギ リ スでは法曹 '医師 などがプ ロフ ェッシ ョンとさ れ'特 に自 治組織 によ って自 己 統治 を し て いる。 一方 アメリカ では、長 らく専 門家 に関す る責任 に関 し ては議 論が行われ'専 門家 のネグ リジ ェン ス責任が法 律 で定 められ て いる。 この専 門家 の内容 に ついては、 「 プ ロフ ェッシ ョンと は、科 学 ま た は高度 の知識 に裏 づ けられ、 それ自体 一定 の基礎 理論を 持 った特殊 の技能 を、特殊な教育 また は訓練 によ って修 得 し' それ に基 づ いて不特定多 数 の市 民 の中 から任意 に提示さ れた個 々のク ライ ア ント の具体的 要求 に応 じ て具体的 活動 を行 い、 よ って社会全体 の利 益 のた めに つくす職業 であ る」 ( 文献① ) と 8 3 さ れる。 S専門家としての要件 に ついては、海外 での議論も含 め いく つか の共通した特徴があげ られ ている。 (文献①) ( イ) そ の業務 に ついて 一般的 原理が確立 しており' この理論的知識に基づ いた技術を習得す る のに長期間 の教育 と訓練が必 要 であ る こと (ロ)免許資格制が採用され ていること (ハ)職能団体 が結成され ておりそ の団体 に つき自 立性が確保され ている こと (l l )営利を第 1目的 とす る のでなく、公共 の利益 の促進を目標とす るも のであ る こと ( ホ)プ ロフ ェッシ ョンと しての主体性、独立性を有す る こと あ る いは'海外 ( アメリカ) では次 のようなプ ロフ ェッシ ョナ ルの定義があげ られ ているが、基本的な要件 はほぼ 同様 であ る ( 笠井修 「 アメリカ法 における 「 専門家 の責任」 」文献② ) 0 ( イ)専門家 の能力 ・技能 は知的な性格を持ち長期 の訓練 の結 果修得されう る高度 の能力 であり、専門家 の業務 はこの能力を 用 いるも のであ る。 (ロ)専 門家 のサービ ス内容 は、非専門家 であ る通常 の依頼者 の評価 にな じまな いも のである ことが多 い。 そ のこと は、 一方 で専 門家 に広 い裁量 の範囲をもたらす。 また、他方 で、特定 の専 門家 に何らか の委 託を行なう依頼者 は、 そ の専 門家 に対す る 自 己 の評価 によるよりも' そう した評価 以前 の、専 門家 に対す る 一定 の信頼 に基づ いて委託を行う傾向があ る。 (ハ)専 門家 は特定 の依頼者 の利益 に奉仕す る義務 のみならず、同時 に、それを こえた社会全体 の利益を図 るべき義務 を負 い' 高 い倫 理性が求 められる。 ( この高 い倫 理性 の維持 には'各専門家 の自治的 団体 による規律が重要な働きを果たし てきた。 ) (ニ)専門家 には通常長 い歴史を持 つ社会的地位 が与えられ て いる。 これを受 け て' 日本 では'弁護 士'公証人、鑑定 人、公認会計士、 司法書士'土地家 屋調査士'宅地建物取引主任'建築士 が専門家 の典型例 として上げ られ ている。 また専門家責任 の法 理は欧米 で盛 ん であ り、 アメリカ では各種医師'薬剤師、弁護 土地建物 の測量評価専門家 ) 'バリ スター ( 法 士'公認会計士' エンジ ニアを、イギリ スでは'建築士、技師'サー ベイヤー ( [ 専 門家 の要件 ] 8 4 延 で の弁 護 活動 を行 う法曹 の 一種)'ソリ シター ( 取 引 の代 理活動 を行 う法曹 の 一種 )、医師 '歯 科 医師 '会 計 士 があげ ら れ る。 ㈱ こ のよ う な 専 門 家 の責 任 は、 「 素 朴 な感 覚 に従 え ば 、 何 ら か の仕事 を素 人 に頼 んだ場合 に そ の素 人 が失 敗 し ても あ き ら め が [専 門 家 責 任 の社 つく かも しれな いが '専 門家 に頼 ん で失 敗 をさ れ ると、専 門家 な のに許 せな いと感 じる のが 一般的 であ ろう。 素 人 が専 門家 に 会 的 意 義 ] 仕事 を 頼 む のは、 「 仕 事 の内 容 が高 度 に専 門的 であ る から自 分 では できな い」 あ る いは 「 自 分 でも でき る が専 門家 に頼 んだ方 が よ り良 い結 果 が導 かれ る」 と いう考 慮 に基 づ くも のであ ろう から、専 門家 に は本 来的 に素 人 よ りも高 度 の能 力 ・技能 を 発揮 す る こと が期 待 さ れ て いると いう こと が でき る」 ( 鎌 田薫 「 専 門家 責 任 の基本 構造 」文献④ ) た め とさ れ る。 こ のよ う な 「 専 門家 」概 念 も '欧 米 にお いてまず 発生 したも のであ るが' 必ず しも確立 した概念 ではな く 'さ ら に国 によ っ てそ の考 え 方 の異 な る点 もあ る。 代表的 な海 外 の例 をあげ れば 、 アメリカ では各専 門家 ご と に特殊 性 に応 じた紛争解 決 を判例 や法 律 制 定 に よ り講 じ' 一般 的 な 専 門家 責 任 と し て の概 念 形成 が 図 られ て いるよう であ る。 特 に、責 任基 準 の形 で明確 化さ れ つ つあ る と 言 わ れ て いる。 一方 ' イ ギ リ スに お いては、専 門家 責 任 に ついて の賠 償 責 任な どが コモン ロー の積 み重 ね で認 め ら れ て いるが 、際 だ った特 徴 は、 国家 がプ ロフ ェッシ ョンと社会 と の契 約 に介 入 しな いこと が特徴 とさ れ '行政 によ る統 制 ではな く自 己統 治 をす ると い う 原 則 が 行 き 渡 って いる。 こ のた め' 法曹 団体 や 医療 専 門家 にお いては強 固な自 治体 制 が取 ら れ、 こ の中 で例 えば 法 曹 団体 で の苦情 処 理や 懲 戒 審 査 、素 人監視 人等 の制度 が 設 け られ、 国も この制度 を踏 まえ て法律 サ ー ビ ス法 を 制定 す るな ど の措 置 を講 じ て いる。 さ ら に '専 門家 責 任 は、 こ のような 賠 償 責 任 の議 論 に留 ま らず '専 門家賠償 責 任 保険 の創 設 によ り実務 的 に も重 要な意味 を 持 ってき て いる。 保険 上 の 「 専 門家 」 の範 囲 は'上 記 の専 門家 より広 く解 さ れ てお り、多 種 にわ た って いる。 具体 的 に は、我 が国 では専 門家 賠 償 責 任保険 と し て 一九 六 三年 に発売 さ れ た医師 責 任 保険 に始 ま り、建 築家 '公認会 計 士 に加 え 、柔道 整 復 士 、 薬 剤 師 ' は り師 、 き ゆう師 ' あ んま ・マッサ ージ ・指 圧師 '薬種商 、助産婦 '看護 婦 ' 理学療 法 士 '救 急 救 命 士 な ど の医療 系 の専 門家 、弁 理士 '司法 書 士 '行政 書 士 、土 地家 屋 調査 士 '弁護 士 へ税 理士な ど の事務 系専 門家 等 が あげ ら れ る ほか '技術 士 、 測量 士 ' 旅 行業 者 、添 乗員 を 対象 とす るも のま でがあげ られ て いる。 専 門家 責 任 保険 は、 専 門家 であ る被 保険 者 が専 門家 と し てな した行 為 に起 因 し て負 担 す る ことが あ る べき損 害 賠 償 責 任 によ り生 じた被 保険 者 の損害 を補 填 す る こと にあ り、専 門家 を保護 し、専 門家 の活動 が萎縮 す る ことを防 止す る機能 を有 す るとさ れる ( 西島 文献 ① ) 。 な お' 現時 点 にお いて研究者 の賠償 責 任保険 は存在 し て いな い。 ∽以上 の専 門家 理論を踏 まえ て、研究者 の上記専門家 要件 に該当性す るか否かに ついては、 いく つか の要件 に ついて必ず しも 合致 しな いと ころがあるoS に掲げ た要件 に照らし てみると、 ( イ) 通常、研究者 は長期間 の教育 と訓練 を受け ているが、それは事実上 そう した経験を踏 ん でいなければ現在 の学会等 で評 価 を受 け る ことが困難 と いう こと であ って、 それが研究者 の不可欠な要件 ではな い。近年、学際的分 野 の学会が増加 している が、 そう した分 野 では必ず しも 一般原理が確立 してもおらず'またそ の分野 の優 れた研究者 であ っても' 必ず しも研究歴 では なく'実業など に携 わ っていた背景から研究実績をあげ て いる者も多 い。 (ロ)研究者 とな るために特別 の免許や資格 は必要な い。学位 は特別な資格 ではな いと考え るが、 これを資格 と考え ても'学 位がなければ研究 が できな いと言う ことはなく、研究者 としての評価が得られな いわけ ではな い。 (ハ)研究者 の所属す るそれぞれ の学会 は存在す るが'学会参加 が研究者 の不可欠 の要件 ではな い。 また、学会 も職能団体 で はなく、まさ に学術 団体 であ って、研究者 の連絡 ・協議 の場 である。 (ニ) 研究者 は、必ず しも公共 の利益 の促進 を目標と しているとは言 い難 い。研究者 の行動原理は'特 に基礎 研究 にあ っては 好奇 心 ( キ ユリオ シテ ィ) であ るとされ ている。もちろん'そう した研究が、最終的 には人類 の英知を増や し、様 々な社会 に 有用な用途 に使 用さ れる可能性 はあり、そう した間接的な利益を評価 して基礎研究 の振興が図られ て いる のであ るが'そう し た結 果 を招来 しな いも のもあ るし、そうした目標 そ のも のを掲げ る こと自体が研究 の性格 から困難 であ る。 一方 、民間企業や ベ ンチ ャー企業 の研究者 の中 には明らかに営利を目的と している研究者も存在す る。 S のアメリカ の要件 に照らしても、 また、 (ハ)近年'生命科学技術分 野など学会 で自 ら倫理規定 を設ける例は多 いが'研究者自身 に高 い倫 理性が求 められる業務 であ るか否か は必ず しも明確 ではな い。 な お、上 の基 準適合 の検討 に当 た っては' 「 研究者 」とは事実上研究をす る者 としてとらえたが、例えば これを学会 登録者 と考 え る のであ れば それぞれ の学会 の内規 に従 って登録要件などが定 められる。 ただ し'研究 の規制 のために学会 登録者 のみ を規制す る こと は実体的な意義 はな い。 ㈲ 一方 '専 門家 の責 任な いし義務 に着 目して現実 の研究者 の責任や義務 と照らし合わせた場合 、研究者 が雇用され て いる形態 ( 請負契約 のこともあ る) であ る のに対 し て'研究者 は概ね国 に応 じ て差 があ ると は言え、他 の専門家 とは基本的 に大きな差があ る0 川基本的 に'医師等 の専門家とクライアント の関係が委託契約 [ 研 究 者 の専 門家 要件 への該 当 性 ] [ 研 究者 の責 任 及 び義 務 の特 殊 性 ] や自 治体 ' 公的 団体 、 民間企業 な どと雇用関係 にあ る。 しかし雇用関係 の場合 は'服す べき労務 の内容 が雇用主 により指 示さ れ る のが通例 であ るが、研究者 の場合 は裁量 の余地 が大 き い場合 が多 く'医師 など の専 門家 に匹敵 す る裁量 の自 由 ( 大学 の自 治 の例 を参考) を持 つことが しば しば であ る。 00 このよう に医師等 の専門家 に匹敵す る裁量 の余地があ る 1方'医師等 の専門家 が クライ アントと結 ぶ委託契約など に比 べ' 研究者 の行 う業務 の内 容が 不確定 '不明確な ことが多 い。大学など では大学 の自 治 に基づ き研究 の内容 が自 由とさ れ るために、 雇用者 に対 し て の給付内容 ( 与え る債務 と考 えれば論文や特許な ど、なす債務 と考 えれば行 う研究内 容) があら かじめ目標設 定さ れず 'な いし非常 に抽象 的 な 目標 とな る ことが多 い。 民間研究 所 でも'特 に基礎研究 の場合 は'研究管 理者 が研究者 に自 主的 な 研究 を行 わ せ つつ'進 捗状 況に応 じ'研究者 の能力 に合 わ せ て適宜指 示を 下す例が多 く'通常 の労務 に服す る者 と比 べ て労務内 容 の目標 が 不明確 であ る ことが多 い ( こう した管 理が、研究者 の創造性 を発揮す る研究管 理 手法と し てかな り広範 に 認めら れ て いる) 。 ) ⋮ 111委 託契 約 の場合 は委 託事務 を処 理す るに当 た って受 け取 った金銭 そ の他 の物 を委 託者 に引き渡す義務 があ り'ま た受 認者 が ′ し 委 託者 のた め に自 己 の名前 を 以 て取得 した権 利 は委 託者 に移転 す る義務 があ る ( 民法 六 四六条 ) a l方 、受 託者 が委 託事務 を 処 理す る のに必要 と認 める べき費 用を出 したとき は委 託者 に対 しそ の費用と支 出 の日以後 におけるそ の利息 の償 還を請求 す る ことが でき る ( 同六 五〇条 ) 0 これ に対 し、 研究者 の場合 は、勤務 時 間内 に行わ れた研究 活動 の成 果がす べて雇用者 に帰 属す るわけ ではな い。特 許 の権 利 は雇用主 と研究者 の間 であ ら かじめ定 められた方法 で配分され る ことが多 く、論文投稿 におけ る名義 、様 々な受賞 の名義 は雇 用主 にな る こと は少な く、研究者 の名前 で行 われ る のが ほとんど の例 であ る。 一方 '国 の機 関 にお いて研究者 が研究 論文 の発 表を 公務 と し て行 うた め に学会 参加 す る際 に学会 登録費 用や学会参加旅費等 を自 己負担さ せる制度 ( 出張中 の公務 災害 を認定 す るが'参加経費 は国 で負担 しな い)な どがあ り、 医師な ど の専 門家 とは違 う経費負担 原理が生 まれ て いる。 S 以上 のような 執務 内容 の差 があ るため に、研究者 の業績 評価 ( 業績が給与等 の反対給付 、 人事考 課 に反映さ れ て いるか等) [研 究 者 の非 専 門 も医師 等 の専 門家 のそれと 比 べてかな り異 な る方式 とな っていると考え られ る。 もち ろんそれ は雇用契 約 に基 づ くも のであ る 家 性 ] 以上 ' どち ら かが 不適 当 と いう も のではな い。 そ し て、 こう した明確 でな い業務 内容 に基 づく執務 であ るため'研究者 の責 任も'厳格 な責 任 が求 められたり、高度 な注意 義務 や忠実 義務 が求 められた り'弁護 士等 に認められた新 し い説明報告義務 、助言義務 、 調査確 認義務 や 'ま し て医師 に求 め 87 られ て いる最善 の注意義務 '研鋳義務 '転 医勧告義務 が法的 に求 められるわけ でもな い。 優 れ た研究 成 果 に ついては特 許化さ れ、実 用化さ れ る可能性が高 いが'行政や 民間企業 の経営 に ついては'研究者自 ら の専 門分 野 に関 し てであ っても上記 のような高度 な注意義務や忠実義務 'な いし説 明義務 や助言義務 があ らか じめ求 められ ている と いう意 識 はな いであ ろう し、意 見を求 められたり助言 した場合 であ っても'行政や経営 に反映す る ことが法的 な責務 だと は 自覚 さ れ て いな いと考 え ら れる。 にも か かわ らず 、医師 や弁護 士と同様専 門家 と し て考 え られ る のは'研究者 と して の特 殊な 性格 に基 づ くも のと考 え られ る。 研究 者 の特 殊な 性格 と は、① 我 が国 では大学や 国 公立 研究機関を中心と した研究者 が中 心をなす た め に信 頼性 が高 く、 また中 立性 ' 公共性 を持 つこと② 学会 と いう自 主的 な組織 が存在 し ている こと③就職や交流 に当 たりあ る程度 普 遍的 な評価基準 が存 在 し て いると見 られ る こと④ 研究 と いう特 殊な業務 に基 づく特殊な管 理方式 ( 研究者 の研究効率を最大 限引 き出す ため に' そ の裁 量 範 囲 を非常 に広 く認 め ると いう管 理方 式) があ る こと等 の結 果生 じたも のであ ると考 えられ る。 したが って'研究者 そ 一般的 過失責任 のも のが持 つ特 別な責 任要件 があ るわけ ではな いと考 え る。 第 二項 の 前 項 で特 別な 過失責 任 に ついて検 討 した ので、次 は 一般的な過失責任 に ついて検討す る。 民法 では不法 行為 におけ る責任要 [伝 統的 過 失 論 と 件 と し て の過失 が、刑法 にお いても犯罪 の要件 とし て の過失 がそれぞれ論 じられ てきた。 もち ろん法体 系 の違 いから、 同じ過 新 し い過失 論] 失 と い いな が らも例えば構成 要件 や違 法性 と の関係' 民法 ではす べて の行為 に ついて対象 とな る のに対 し刑法 では刑法典 にお いて過失 処罰規定 のあ る項 のみ に限 られ る こと、 それぞれ の効果や基本 原理 の差 ( 刑法 は罪刑法定 主義 の原 理が働 き過失 の処 罰 には明 文規定 が 必要 であ るが、 民法 では故意 と過失 の差 はあま り問題とな らな い)な ど から独自 の論 理をたど っている点 が 少な くな い。 し か し' 一方 で、責 任問題 と し て現実 の社会問題 に対応 す る中 では、 それぞれ注意義務 に ついては類似 した考 え 方 が当然 現 れ て いる。 こう した観 点 から' 民法 と刑法 における過失 の同質性 と差異 は膨 大な議論 が 可能 であ るが、特 に本論 で は研究 者 の過失 責 任 の特色 を論 じる ことを 目的 と し て いる ので、 民法、刑法 それぞれ の過失 論 に深 く立ち 入る こと は避 け' 両 法 共 通 の概念 の中 で極 く荒 いそ の構成 を示す にとど め' 研究者 の責任論 に早急 に入 る こととす る。 過失 責 任 に ついては、基本的 に結 果 予見義務 と結 果 回避義務 から構成され、学 説も判 例 も そ の 一方 また は双方 を そ の主要な 要素 と し て いる。 大 きく は、伝 統的 過失 論、新 過失 論'そ の他 に分け て紹介 す る。 88 捕 ( 伝 統的 過失 論 ) ( 旧過失 論) は、過失 におけ る注意義務 を 、意 思 を緊 張さ せ て具体的結 果 を予見す べき結 果 予見義務 と し てとらえ '結 果 予見義務 は結 果 の予見可能性 によ って生 ず ると理解 さ れ、 民法 でも刑法 でも通説 とさ れ て いる ( 刑法 ︰牧 野英 一 ﹃重 訂 日本 刑法﹄、 小 野清 一郎 ﹃新 訂刑法 講義総 論﹄、滝 川幸 辰 ﹃犯罪論序 説﹄) ( 民法 ︰鳩 山秀夫 ﹃増 訂 日本債権 法 各 論﹄' 我妻 栄 ﹃事務 管 理 ・不当利得 ・不法 行為﹄、加藤 一郎 ﹃不法 行為﹄) . 伝統的 過失論 は必ず しも結 果 回避義務 を排 斥 し て いる の ではな く' 予見義務 の違 反がすな わち 回避義務 の違 反 に つなが ると見 るべきだ とさ れ'む しろ連続的な捉え方 がさ れ て いる。 00 これ に対 し、判例 は民事 にお いても刑事 にお いても'結果回避義務違 反ととらえ る傾 向 にあ ると いわれ'通説と は異なる立 場 に立 つ。 こう した判 例 の動 向 も踏 まえ 、 ( 新 過失 論) と し て'落 ち度 のあ る行為 ( 社会 生 活上 要求 さ れ る基準 行為 から逸 脱 した行為 ) を したと いう意味 の結 果 回避義務違 反にあ ると主張す る。 これは いわ ゆる危険 行為 、例 えば 手術 をす る医師 は失敗 し て患者 を 死亡さ せる可能性 があ る ことが、自動車 運転 手には交 通事 故 を惹起す る ことが 予見可能 だとも言え るが、だ からと い って生 じた結 果 に ついて過失責 任 を免 れな いのでは社会生活が混乱す る。 これら社会 生活 に有益な行為 は' そ の行為 が落ち 度 なく行 われた場合 'すなわち結 果 回避義務 ( 客観的 注意義務 ) が遵守 され て いる場合 は結 果 が惹起 さ れ ても過失責 任を負 わ な いとす るも のであ る。これ は、( 信 頼 の原則)や ( 許さ れた危険 )の理論とも関係 し ているも のであ る。 ( 刑法 ︰井上 正治 ﹃過 失 犯 の構造﹄、福 田平 ﹃全 訂刑法 総論﹄) ( 民法 ︰平井宜雄 ﹃損害賠償 法 の理論﹄、前 田達 明 ﹃民法 Ⅵ﹄) ㈲さ ら に このほか'過 失論 に ついては いく つか の新 し い説 が出さ れ て いる。 刑法 では新 過失 論 を踏 まえ て ( 危 快感 説 ) ( 新・ 新 過失 論) があ る。新 過失論 でも結 果 回避 可能性 の前 提と し て当然結 果 発生 の予見 可能性 が必要とさ れ て いたが、 そ の結果 予 見可能 性 は単 に抽 象的 に ではな く具体的 な 因果関係 の進 行 に ついて考 え られなければな らな いと し て いた。 危倶感説 は、 公害 や薬害な ど の未知 の危険性 と関連 し て'結 果 回避義務 を厳格 化 し、結 果 回避義務 を肯定す る前提 と し て'危 倶感 ・不安感 があ れば 足り ると した ( 刑法 ︰藤 木英雄 ﹃刑法 ﹄) 。 一方 民法 では、過失 の前 提とす る注意義務 は 一般市 民生活 では普 通人を標準 と す べき であ るが'高度 な専 門的 知識 と複 雑な組織 を 以 て大規模 に営 まれ る事業 ではそ の余地 と未然 の防 止 のために組織的 か つ 継続的な 調査 研究 を行 う べき義務 があり' そ の調査 を怠 った結 果被害 の発生を 回避 できな いとき は危険 の発生を 予見す べき注 意義務 を怠 ったも のと して過失 があ るとす る説 ( 民法 ︰沢井裕 ﹃公害 の私法的 研究 ﹄ )、過失 はも はや主観的 心理状態 の問題を 離 れ て客観的な問 題 で'受忍限度 を超え た侵害 を防 止す るため の相当な 手段を講 じたか否かと いう こと の問題と考 え る べき で、 受 忍限度 を超え た被害 を与え た場合 には予見 可能性 の有無 にかかわりな く過失 があ るとす る説 ( 民法 ︰野村 好弘 「 故意 、過失 および違 法性」加藤 1郎編 ﹃公害 法 の生成 と発展﹄)等現在 では多 数 の見解 が出され て いる。 8 9 ∽ こうした過失論 の変遷 で注意 しておきた いのは、伝統的過失論 い新過失論 いさらに新 しい過失論と変化してき ている背景に' 科学技術 の進展とそ の社会 への適 用が存在 している こと である。新過失論 にあ っては'自動車や医療 行為など'社会 にと つて は有用 であ るが危険 を内包 した技術 を、技術利用者 が安心 して使う ことが でき るよう にす る、すなわち伝統的過失論 では過失 を免 れな い可能性 のあ る行為 から制限 しようとするも のであ った0 1方'最 も新 しく登場 した過失論 では、公害や薬害 '食品 の安全性など の新 技術 の適 用 によ って不特定多数 の被害者 が生ず るおそれ のあ る企業 の行為 に対し厳格な責任を課そうとす る も のであ った。 このよう に、過失論が科学技術 の進展とそ の社会 への適 用と密接な関係を持 つも のであ るとき、生命科学技術 と いう全く新 し い科学技術 の登場とそ の普 及に伴 って過失論 に ついては新 たな視点 から の検討が行われる必要がある。例えば'生殖 医療 技 術 とそ の適 用に ついては'上 の新過失論 で念頭 に置かれた自動車や医療など の技術 と違 い、抽象的 で広範な危険 が発生す る可 能性があ る。 一方最新 の過失論 で念頭 に置かれた公害や薬害と違 い'複雑な組織や大規模な施 設を持 つ大企業 の行う事業 では なく、小規模な、場合 によ っては個 人により実施される研究程度 のも のが対象とな る可能性 が高 い. しかし' 7方 で近年 の生 命科学技術 の進 展 は'単な る特定 の技術 だけ ではなく'社会 における隅 々にま で活用され る可能性 が高 く'個別問題と のみ考 え る ことが できな い状況と考 えられる。 これ は、生命科学技術と並ぶ発展 の目ざ ま し い科学技術分 野 であ る情報科学技術 に つ いても言え る こと であ る。生命科学技術 の規制 に関 しては'将来的 には このような点も念頭 に入れ て検討が必要とな ると考 え る。 S過失 に ついては、直接的 にそれを踏まえた予見義務違反を過失とするか'ある いは結果回避義務違 反 の前提とするかは別に して'予見可能性 は重要な要素 であ る。そ の予見可能性 に ついては、そ の標準をめぐ ってまた いく つか の見解があ る。( イ)( 客 観説) は、通常 人 の注意能力を標準と し、通常 人に予見可能 であれば'行為者 の能力からは予見不可能 であ っても予見義務 を 認める。 (ロ) ( 主観説) は'行為者 の注意能力を標準とする。 (ハ) ( 折衷説) は'行為者 の注意能力を標準とす るが'それが 通常 人 の能力を上 回るときは通常 人 のそれを標準とす る。 判例 は客観説 であり、従来 の多数説も同様 であ った。法 は各 人 の能 力に関わらず画 一的な義務 を定 め て'そ の遵守 を要求す る こと によ って法規範とし ての機能 を果 たそうとしているとも'違法 な行為 が通常 の共同生活にお いて前提とされる被害者や第 三者 の信頼を裏切 った ことにあ るともされる。 しかしながら'自動 車 運転中 に行為者本 人に予見 できな か った疾患 で事故を惹起 したときに過失を認める ことは妥当 でな いよう に、行為 の非難 可 能性'すなわち有責性 は行為者個 人に向けられるべき であ ると の主観説 から の批判 もあ る。 刑法 の学説 では (ニ)客観説 の取 [予 見 可能 性 に つ い て] 9 0 扱 と し ては、構成 要件 段階 で客観的 注意 義務 違 反を判断す るとき は通常 人 の標準、責任段階 で主観的 注意義務違 反を判断す る 際 には行為者 を標準 とす る説 ( 過失 で人を傷 つけた場合 に、対象 が 人間と いう 認識 は通常 人 の標準 で、ただ し心神喪 失状態な ど の事由 に ついては行為者 の標準 で判断す る ことにな ろう)も有 力とな り つつあ る。 これら の説 の当 否 に ついては ここでは論 じ切 る ことは できな いが' こう した考 え方 の前 提とな って いる問題 で、研究者 の責 任を論ず る際極 め て重 要な も のに絞 り検討 し てみる。 まず、 予見可能性を、通常 人と行為者 の注意 能力 の対立と し て論ず る際 に'従来 よ り通常 人 の予見が 正し いと いう前 提 があ るよう であ る。 もちろん折衷 説 のよう に'注意能 力 にお いて行為者 が優 れ て いる場合 も想定 し ては いるが、注意能力 と関係なく'すなわちど のような注意 を払 おうと通常 人が誤 っており'行為者 が 正 し い認識 を し て いる事態 を当然 の前 提 にはお いていな いよう であ る。 しかし このような倒 立 した事態 は'科学 の分 野 では頻繁 に存在 し得 、特 に'本論 で規 制 の対象 と し て考察 し て いる生命科 学 の分野 では'現在 一般社会 のみならず、学会 でも信 じられ て いる事実 が'特定 の研究者 にと つては予断 と考 え られ、独自 の考 え方 に基づ き研究 を進 め て いる例 も多 い。 そし て、 こう し た研究者 の成 果 が独創 的 と し て高 く評価 さ れ る のであ る。 生命科学 技術 に関す る規制が、研究 の規 制と いう形態 でなく技術 の 適 用 と いう形態 で規制さ れたと し ても、実質的 に規制 の対象 にあが ってく る のは研究者 であ り'研究 におけ る技術適 用 が大 半 であ ろう。 そ の意味 では社会 一般 の通念 と いいな がらも、研究者 たち の判断基準 が決定的な判断基 準 をなす こと にな る ので、 学会 な ど研究者 のサ ー ク ルにおけ る 一般的 な前 提と研究者 の独自 の予見 は常 に対立す る可能性 があ る。 こう した前 提を お いて'① 通常 人 (一般社会 人な いし学会 など の平均的 な見解 ) が危険あ りと予見 した場合 でも、行為者 は 危険 がな いと予見 し て実験 し'実際危害 が生 じた場合② 通常 人が危険 はな いと予見 し、行為者 は危険 があ ると予見 し て実験 し' 実際 危害 が生 じた場合③ 通常 人は危険 があ るともな いとも 予見 できず '行為 者 は危険 があ ると 予見 し、実際 危害 が生 じた場合 、 な ど に分 け て考察 可能 であ る。① の場合 は客観説 であれば有責 、主観 説 であれば免責 であ ろう し、②③ の場合 は客観 説 の場合 は免責 '主観 説 に立 てば有責 とな る であ ろう。 特 に'②③ は予見と結 果が 一致 したわけ で、犯罪や 不法行為 の成立 と は別 に、 研究者 と し ての先 見性 を 示 した こと にはな る であ ろう。 ここでは こう した問題提起 にとどめるが、 日常 切瑳琢磨 し て いる研究 環境 にあ っては客観 説 に立 つこと は このような先端的 な科学技術 分 野 の規制 と し ては規制 の趣旨 そ のも のが実現さ れな くな る おそれがあ る。しか し'① のケー スに ついてま で主観 説 に従 って責 任がな いとす る ことも問 題があ る であ ろう。( イ)から (ニ) の標準 の考 え方 が'研究者 の過失責 任 に ついては再度吟味 され る必要があ ると考 え られ る。 [ 注] 1九八九年 アメリカ の ユタ大学 にお いて、 フライ シ ユマン教授とボ ンズ教授 は重水 の電気分解 ( 厳密 には、重水素化し 91 た水酸化リチウ ムと重水溶液 に'陰極 ( パラジウム)と陽極 ( 白金)を用 い定電流電解)を行 ったと ころtt c m3当たりIOwの 熱が 1 00時間以上も出続けた ( 実験装置を破壊す るほど の過剰発熱)と報告された ( 当時、実験室 は無人で人的損失 は無 か O。個 の中性子が発生した ことになり'人を十分致傷するに足 ったと いう。 ) 。計算 によれば、 この熱量を出すには毎秒 岩。∼ - りる量と推定される ( ただ し'計測された γ線測定値から換算される中性子数 は毎秒 t O .個程度 であ った) 。重水 の電気分解 で 核融合が実現す る ことは当時 の科学的知見から い っても予想もされていなか った。 これが ( 低温核融合実験)として社会的 に も大きな反響を呼んだ実験 である。そ の後、我が国 でも大学や通産省などが これに関連 した実験を行 っている。なお'そ の後 の追試評価など でこのフライ シ ユマン教授とボ ンズ教授 の実験 に ついては 「 中性子計測 の再現性が不十分なため確認困難と判 一九九五年)と述 べられ ており、現在ま でのと ころ確 断された」 「 常 温核融合 の存在 に肯定的な理論 に ついては十分説得的な レベルにま で掘り下げられたとは思えな い」 ( lAER Iレビ ュー 「 核融合」 日本原子力研究所 ( 常 温核融合)検討グ ループ 証は得られていな いo ㈱製 造物責任法 四条 一号にお いては'当該製造物をそ の製造業者 が引き渡 したとき における科学また は技術 に関す る知見によ っては、当該製 造 物 にそ の欠陥 があ る ことを 認識 できな か った ことt を証明 したとき は、 三条 ( 製 造業者 な ど の製造物責 任) に規定 す る賠償 の責 め に任 じな いtとさ れ て いる。 いわ ゆる、 開発危険 の抗 弁とさ れ るも のであ る。 科 学 ・技術 上 の知 見 を免責 理由 と した のは、 「 本法 にお いては、科 学 ・技術 の進歩 を前 提 と し つつ、 国 民生活 の安定 向上 と 国 民経済 の発展 に寄 与す る科 学 ・技術 の進 歩 を阻害 しな いこと に配慮 し て開発危険 の抗 弁 を認 め て いると ころ であ り' 「 科学 又は技術 に関す る知 見」 によ る欠陥 の認識 不 可能 性 が問 題 とさ れ て いるから であ る」 とさ れ て いる。 これを受 け て' 「 本法 に おけ る 「 知 見」 と は'欠陥 の有無 を判 断す るに当 た って影響を受 け る程度 に確立された知識 のす べてであ り'また、特定 のも のの有 す るも のではなく、客観的 に社会 に存 在 す る知識 の総体 を 示すも のであ る。」 「 すなわち '他 に影響 を及ぼ しう る程度 に 確立さ れた知識 であ れば 、初歩的 な知識 から最高水準 の知識ま で のす べてが含 まれ る こととな り、 お のず から'免責さ れ るた めに は、当該 欠陥 の有無 の判 断 に必要とな る入手 可能な最 高水準 の知 識 に照ら し欠陥 であ る ことを認識す る ことが できな か っ た ことを 証明す る ことが 必要 とな る。」 「 したが って、開発危険 の抗 弁 の認否 に当 た っては' 入手可能な最高 の科学 ・技術 の水 準 が判断基準 とさ れ るも のと解 さ れ る。」( 経済企 画庁 国 民生 活局消費 行政第 一課 ﹃逐条解 説製 造物責 任﹄)とさ れ る のであ る。 製 造 物責 任 に基 づく開発危険 の抗 弁 に関す る具体的 な事 例 はまだ生 じて いな いが、す でに不法行為 にお いて過失責 任を問う 事例 の中 で、 予見 可能性 の問 題 で科学 技術 に関す る知 見 の水準 が問われ て いる下級審判 例 が多 くあ る。 [ 製 造物責 任法] 92 い東京 スモン訴訟にお いて'被告 に要求さ れる予見義務 の内容とし て'当該 医薬品が新薬 であ る場合 には、販売 以前 にそ の時 点 におけ る最高 の水 準 を持 ってす る試験管内実験、動物実験、臨床試験 を行う ことを要求 し、グ ラヴ イ エッソ' パ ロスの報告 (スペイ ン語) を登載 した ラ ・セ マナ ・メデ ィカ誌 四 二巻 は'翌 々年 の昭和 〓 1 年六月 1五 目、東北帝 国大学 医科分 館 に収納 さ れ て いる ことが明ら か であ って、 これ にチバ時報 六 二号 のグ ラヴ イ ツツの文章 記載 を合 わ せ考慮 す れば ' 昭和 一 〇年当時 に お いてもグ ラヴ イ ツツ、 パ ロス-- の報告 例 に ついて情 報 の入手困難 と いう事情 は認め得 な い、と した東京地裁 判決 ( 昭和 五 三年 八月三 日) 00ク ロロキ ン事件第 二次訴訟 では'医薬品は、 そ の時 々の最高 の学問的水準 に基づ いて製造さ れあ る いは改良され て行くも の であ り、 --製 造業者 は、医薬 品 の開発 ・製造 に当 た っては、十分な文献調査、実験 、研究 を して' そ の有 効性 はもとより、 安全 性 を も確認す る必要があ り' ク ロロキ ン製剤 による網膜症 の発生 は、昭和 三 四年 一 〇月発行 のラ ンセ ット誌 に掲載さ れた ホ ップ ズ論 文と それ に続く フルド の報告 によ って明ら かにさ れ ており、被告製 薬会 社も、 同三五年 丁月頃 には、右 ラ ンセ ット を 入手 し検討す る こと により、 ク ロロキ ン製 剤 の連 用 による網膜症 を発見す る こと は可能 であ った、 と した東京地裁判決 ( 昭 和六 二年 五月 7八 日) 具体的 には' これ ら の判 決 が要請 し て いる のは' 入手可能な科学技術情報や 論文等 の中 に問題とさ れ て いる欠陥 の存在 を 示 す も のが存在 しな いこと、 それ らを踏 まえ て 1連 の実 験を行 ったが欠陥 の存在 を認識 し得な か った ことtとされ るo 特 に文献 の不存 在 や 入手不 可能性 は直接 的 には証明不 可能 であ り'我が 国 で入手可能な科 学技術情 報 ・論文等 を検索 でき る シ ステムを 完備 し て いたが危険性 を示す情 報 が そ の時点 では存在 しな いことを示す こと にな る であ ろうと し ており、具体的 な シ ステムと し て'ケ ミカ ルアブ ストラ クトや イ ンデ ック スメデ ィク ス'科学 技術情 報 セ ンター の検索 シ ステム等 があげ られ て いる ( 小林 秀 之 ・吉 田元子 「 開 発危険 の抗 弁」 山 田卓 生編集 代表 ﹃新 現代損害賠償 法講座 三製 造物責任﹄) 。 これ は極 め て厳 し い責 任要件 とな って いるよう に見え るが、製 造物 責任法 の解 釈 にお いては、 「 特定 の 1学者 だ けが危険 性 を指 摘 し て いた ような 場合 に は直 ち に開 発危険 の抗 弁 が認 められな くな るも のと は解 さ れな い」 ( ﹃逐条解 説製 造 物責任﹄) と され てお り'確立さ れ た学 問知識 を前 提 とす る ことが許さ れるかどう かに ついては、判旨 と微妙 な違 いがあ るよう に思われ る ( 判決 文 は最終的 に学会 の通説 に従うだけ では責 任を免 れず '自 ら確 認をす る ことが求 められ て いるよう にも読 みう る) 。 実 際 の具体的な事 例 にお いてこ の基準 がど のよう に判断さ れ るかは微妙 であ るが'研究 そ のも のを規制 しようとす る場合 は 製 造 物責 任法 の解釈 におけ るような基準 で十分な意味 と効果 があ る のか、 しかし 1方 で実 現 不可能な 見通 しに対 し責 任を問う こと は問題 があ る のではな いか、な ど製造物責任 と異な る視点 から の比較検討 も 必要 にな ると思われ る。 93 ちな みに'アメリカ では、州法や判決 によ って'過失責任'保証責任 '厳格責任 の三 つの責任形態 が競合的 に存在 しており、 必ず しも厳格責任だけが採 用され て いるわけ ではな い。賠償額 の裁定など でそれぞれ の被害者 のメリ ットも異な るとされる。 この中 で特 に過失責任を中心 に'技術基準 の概念が取られ ている。 この技術水準 においては'① 同種 の製造物 の製造 に関す る 業界 の標準的な慣行②法律上、行政上'または業界 の自主的な品質 ・安全基準③科学 ・技術分 野での知識 の到達水準④事実上 ・経済上 の実行 可能性または入手可能性 の四 つの見解が見られ、 一義的'確定的な定義 はされ ていな いと いう ( 小林秀之 ・吉 田元子上掲) 。 Sj 剛節 では、 ク ロー ン技術 の規制を危険性 の観点 からとらえたが'そ の際考慮す べき点 があ る のでふれ ておく. 法益侵害 の観 [抽象的 危険 性 と 点 からク ロー ン技術 の規制を前 に述 べた理由 で行う場合 、刑法 ではそ の犯罪形態 は ( 侵害 犯に対す る)危険 犯とな る。さらに 結 果 回避義務 ] 危険 犯 の中 でも'往来危険罪や放火罪'未遂 犯 のような具体的危険 犯に対して、抽象的危険 犯を構成す る こととな ると考えら れる。 従来 から危険 犯に ついて我 が国 での議論 はあまり多 くはな いが、通説 は形式説 に立 つと言われ ている。 これは、行為者が単 に定 められた規範 に違 反したから ( 不服従説) ではなく'行為者 の行 った、法文上に規定された行為 が法益侵害 の抽象的な危 険性を持 つも のだからとされ て いる。 そ の上 で'抽象的危険と は'侵害 発生 の可能性 の程度 と、危険判断 に際 して行われる抽 象化 ( 例えば侵害される対象が特定 の人から、 不特定 の人'あ る いは社会 の平安等となるに伴 い抽象度 は増す)があげ られ て いる ( 山 口厚 ﹃危険 犯 の研究﹄) 0 もち ろん こう した考 え方 で誤 っているわけ ではな いが' ここで述 べられ ている抽象的危険性が'放射線被曝 による遺伝的影 響 のよう に'禁 止さ れる行為 による影響、許容される行為 による影響、自然 に被 る影響など であれば'科学技術 の進歩 に伴 い 確率的な評価が可能となり'これら全体を含 めた安全性な いし危険性 の評価基準が検討されるようにな って行くと考えられる。 現在 我が国 で法律 面から安全性 の評価 そ のも のに ついて こうした考え方をと って いるも のはな いと考えられるが、政府 の 一部 の安全行政 の中 では政府 の安全管 理目標とし てこうした確率的な評価を取 り入れようとす る検討が始ま って いると聞く。 この ような行政 目標と、法的危険性 の関係 は今後問題とな ってくると考えられる。 具体的 には'自動車 は 一定 の確率 で事故を起 こす が、 上述 の旧過失論 では自動車 の運転者 は交通事故を起 こす ことが予見可 能 と見なさ れ、運転 手は過失責任を免れな いと いう批判 から新過失論がうまれ、結 果回避義務 ( 法令など の遵守)がされ てい れば法益侵害 ( 事故)を起 こしても適法 であ ると主張された のであ った。 しか しな がら'確率的な評価方法が社会 で ( あるい は国際的 に)確立すれば、当該施 設や設備 の危険性 は他 の危険性と比較評価され、そ の範囲 で個別に行為者 の義務が定 められ て行 く こととな る。 このような新 し い規制が登場す る ことにより過失 理論 の見直 しや、新 し い結果回避義務 ( 注意義務) が作 り出され て行く可能性もあ る のであ る。 第 一項 第 二章 ガ イド ラインに ついて 国 及び 学 会 のガ イ ド ライン 「 生 命 科 学 技術 に関 す るガ イ ド ラ イ ンに ついて 囲谷 実 ・大 山 真未 M生命 科 学技術 に関す る規制 と し て'法律 に基づ く規制 を念頭 に置 いて述 べたが' この種 の規制が実質的 には研究 に対す る規 制 と な る 可能 性 が強 いた め、 む し ろ 研死 者 によ る自 主 規 制 が適 当 であ る と の意 見 も 出さ れ て いる。 研 究 者 によ る自 主 規 制 と は 学 会 等 に よ る自 主 的 な 制 限 指 針 と な る であ ろ う。 研 究 者 の自 主 的 規 制 に ついて は' す でに様 々な 研 究 分 野 にお い て学 会 な ど に よ り各 種 のガ イ ド ラ イ ンが定 め ら れ て いる が 、 基 本 的 に は こう した ガ イ ド ラ イ ンは学 会 参 加 者 以外 に は効 力 のな い こと 、 違 反 し ても学 会 除 名 以上 の制 裁 措 置 が な い こと か ら 、 ク ロー ン技 術 の規 制 のよう な 事 例 に対応 す る に は不 十 分 であ る と の指 摘 がな さ れ て いる. 生 殖 医療 技 術 に関 す る ガ イ ド ラ イ ンと し て は ' 日本 産 科 婦 人科 学 会 よ り 「 体 外 受 精 ・腫移 植 に関 す る 見解 」 (一九 八 三年 会 「 着 床 前 診 断 に関 す る 見解 」 一九 九 八 年 ( 平成 一 〇年) ヒト の体 外 受 精 ・肝移 植 の臨 床 応 用 の範 囲 に ついて の見解 」 t九 九 八年 ( 平成 l 〇年 ) 「 非 配 偶 者 間 人 工授 精 と精 子 提 供 に関 す る 見解 」 1九 九 七 年 ( 平成 九 年 ) 「 多 胎 妊 娠 に関 す る見解 」 1九 九 六 年 ( 平成 八年 ) ⅩY精 子選 別 に おけ るパー コー ル使 用 の安 全 性 に対 す る見解 」 一九 九 四年 ( 平成 六 年 ) 「 「 顕 微 受 精 法 の臨 床 実施 に関 す る見解 」 一九 九 二年 ( 平 成 四年 ) 「ヒト 腫 お よ び卵 の凍結 保存 と 移 植 に 関 す る 見解 」 一九 八 八 年 ( 昭和 六 三年 ) 「 先 天異 常 の胎 児 診 断 ' と く に妊 娠 初 期 繊 毛 検 査 に関 す る見解 」 一九 八 八 年 ( 昭和 六三年) 「 死 亡 し た胎 児 ・新 生 児 の臓 器 等 を 研 究 に用 いる こと の是 非 や 許容 範 囲 に つい て の見解 」 一九 八 七 年 ( 昭 和 六 二年 ) 「 体 外 受 精 ・腔移 植 の臨 床 実 施 の登 録 報告 制 に ついて」 一九 八 六年 ( 昭 和 六 一年 ) 「ヒト精 子 ・卵 子 ・受精 卵 を 取 り扱 う 研 究 に関 す る 見解 」 一九 八 五年 ( 昭 和 六〇 年 ) 「 体 外 受 精 ・肱移 植 に関 す る 見解 」 1九 八 三 年 ( 昭 和 五 八年 ) 以下 二 一 の会 告 が 出 さ れ 、学 会 員 に周 知 さ れ て いる。 ⑫ ⑪ ⑩ ⑨ ⑧ ⑦ ⑥ ⑤ ④ ( 参② ① 告 ヽ -′ ∽ 1方 、従来 から国が生命科学技術 関係 のガ イドライ ンを策定 している例とし ては'厚生省や文部省 のガイドライ ンがあ る. これら は'国立大学 や 所管 医療 機 関、所管 法律 に基 づき行政庁 により監督 の行 われ る機 関 に対す る基準 とな るも のであ る。 学 会 のガ イド ライ ンと異な り、 一部 は行政内 部 の命令 と し ての法的 効果を持 つも のもあ る。 ① 文部 省告 示 「 大学等 におけ る組換 え DNA実 験指 針 」 ( 昭和 五四年 三月三 一日) ② 厚生省告 示 「 遺 伝 子治療 臨床 研究 に関す る指針 」 ( 平成 六年 二月八 日) ③ 文部 省告 示 「 大学 等 におけ る遺伝 子治療 臨床 研究 に関す るガ イド ライ ン」 ( 平成 六年六月九 日) な お現在 話題 とな って いる ヒト のク ロー ン研究 に関す る規制 に ついては、学術審 議会特定 領域推進 分科会 バイオサ イ エン ス 部会 報告 「 大学 等 におけ るク ロー ン研究 に ついて」 ( 平成 一 〇年 七月 三 日) にお いて' 「 大学等 におけ る ヒト のク ロー ン個体 の 作製 に関す る研究 の規 制 に関す る指 針案 」 が示さ れ、大学等 におけ るク ロー ン研究 の指 針 に ついては、す べ ての大学 の研究者 に対 し共 通的 な規 制 が行わ れ る べき であ る ことを考 え れば 文部 省が これを策定 し、学術審議会 によ る専 門的 な調査審 議 に基 づ きな がら' そ の実際 の運用 に当 た る ことが適 当 と考 え られ ると し ており' これに基づき同年 八月文部 省告 示 「 大学等 におけ る ヒト のク ロー ン個 体 の作製 に ついて の研究 に関す る指針 」が定 められた。 刷な お、遺伝 子組換え に ついては、文部省 の指針も含 め て同 1の基準 の下に置くため内閣総 理大臣 の諮問機関 であ る科学技術 会議 が答 申 した 「 遺 伝 子組換 え 研究 の推 進方策 の基 本 に ついて」 ( 第 八号答申 ) を踏 まえ、内 閣総 理大 臣 の決定 した 「 組換 え DNA実 験指針 」 ( 昭和 五四年 八月 二七 日) が定 められ て いる。 詳細 は再述す る。 二.ガ イド ライ ンの効果 侶 生命 科学 技術 ( 医療 、実験 を含 む) に関す る自 主的 な基 準 の歴史 は'古く はギ リ シャ時代 のヒポ クラ テ スの誓 いに始ま ると [ガ イ ド ラ イ ン の され る。 特 に'大 きな動 きとな った のは、第 二次大戦 後、 ナチ スドイ ツによ る人体実験 に基 づく 反省 から生 まれたも ので' ニ 歴 史 ] ュー ル ンベ ルク裁 判 の過 程 で生 まれ た 「ニ ュー ル ンベ ルク綱領」 が大 きな契 機 とな って いる。 そ の後 の世界医師会 の 「ヘルシ ンキ宣 言」 が出さ れた後 、 7九 六七年南 ア フリ カにお いて行 われ た世界初 の心臓 移植 手術 ' アメリカ で発覚 したタ スキギー事 件な どを経 て、世界的 にも様 々な基 準が生 ま れ て いる。 初期 の医療 関係基準 は、﹃バイオ エシ ック ス百科事典﹄ ( ジ ョージ タウ ン大学 ケネデ ィ倫 理研究 所) で次 のよう に示さ れ て いる。 ( 科学 技術庁 計 画局訳) 97 ( 医療 の 一般的 コード) ジ ュネ ーブ宣 言 [ 世界医師会] 一九四八年 世界医師会] 一九 四九年 医療倫 理 の国際 コード [ 医療倫 理 の原則'報告書 および声 明 [ 米国医師会] 一九 五七年 ソ連 医師 の誓 い 一九七 1年 カ ソリ ック保健施 設 の倫 理宗教指令 [ 米国カソリ ック協議会] 一九七 一年 医療倫 理、方針声明、定義'規則 [ 英 国医師会] 一九七四年 ( 人体実験 の指令) ニ ュー ルンベ ルク コード 一九 四六年 ヒトに対す る研究 における責 任 [ 英国医学 研究審議会] 一九六三年 ヒト に対す る実験研究 [ 英 国医師会] 一九 六三年 ヘルシンキ宣 言 [ 世界医師会] 一九六四年及び 一九七五年 臨床実験 のため の倫 理指針 [ 米国医師会] 一九六六年 ヒト実験 に対す る米国指針 ( ヒト の保護 に関す る保健教育福祉省 の方針 に対す る施設指針) 1九七 l年 特 に、アメリカにお いて二 九七 四年'科学研究 における人体実験 の被験者 の保護 を目的 とす る国家 研究規制法が成立 した。 同法 に基づき'保健教育福祉省 から研究費援助を受け て行う人体実験 に適用される 「 臨床研究 におけ る人 の保護 のため の倫 理 原則とガイドライ ン」 が策定され'人体実験 を行 おうとす る研究者 は同省 に研究費 の申請前 に各研究機関 に設置が義務 づけら IRB) の認可を得なければならな いとされた。 この直後 ヘルシンキ宣言 の改 正が世界医師会 の東京 れた機関内審査委員会 ( 会議 にお いて行われ、人間を対象 とす る科学的実験が独立 の委員会 で考察'論評'指導 を経なければならな いこと'宣言 の原 則に合致 しな い報告 は出版 を拒 否されねばならな いことなどが加 えられた。我が国 にお いても' 1九八 1年 に東京大学医科研 究所 に倫 理審査委員会 が初 め て設けられた。 ちな みに'医療 関係 ではイ ンフォー ムド コンセ ントが近年とみに重要視され ているが' これも実験医療や新薬開発など の科 学技術関係 で基準化が進 んだも のであ った。特 に'医学 ・生物医学 ・行動科学研究倫理問題大統領委員会がまとめたイ ンフォ ー ムド コンセ ントに関す る報告書 二 九八 二年) では' これを治療 に展開しており'イ ンフォー ムド コンセ ントと いう理論 は 98 そ の基 盤 を法 律 に お いて いるが、倫 理的 な性格 を有 す る、 と し て倫 理問 題 と し てと らえ る べき ことを 提言 した。 一方 、遺 伝 子 工学 研究 に ついて、す でに 1九 五三年 ワト ソ ン、 クリ ックによ り遺 伝 子 の二重 ら せん モデ ルが 発見さ れ て いた が、 一九 七 三年 に ア メリ カ の コ- エン、ボ イ ヤー によ ってDNA組 換 え実 験 が成 功 した後 ' 一九 七 五年 にカリ フォ ル ニア州 で NAs) の提唱 に よ り ア シ ロ マ会 議 が開 かれ ' 一九七 六年 そ の結 果 を踏 まえNIHが遺 伝 子組換 え のガ 国 立科 学 アカデ ミー ( イ ド ライ ンを作 成 す る。 これ が ' 日本 を は じめとす る各 国 の遺 伝 子組換 え 実 験 ガ イ ド ラ イ ンに つな が るも のであ る。 各 種 のガ イ ド ライ ンに ついては、生 命 科 学 技術 や 医療 関係 の基 準 であ りな がら '立法 化 はさ れず 国 のガ イ ド ライ ンや自 律 的 な倫 理 と し てと らえ ら れ るも のが多 い。 我 が国 のガ イド ライ ンも こ のような考 え方 を汲 ん で いるも のと考 え られ る。 ∽ 遺 伝 子組換 え ガ イ ド ライ ンに ついては'科 学 技術 会 議 の 「 遺 伝 子組換 え 研究 の推 進方 策 の基 本 に ついて」 に対す る答申 で、 [遺 伝 子組 換 え ガ 当 初 予想 さ れ た潜 在 的 な危 険 性 は現在 にお いても推 測 の域 に留 ま って いると考 え ら れ るた め法律 によ る規 制 を加 え る こと は適 イ ド ラ イ ン の 効 当 でな く ' 研究 者 の自 主的 な遵 守 が望 ま れ ると し て いる。 答申 に先 立 つ科 学 技術 会 議 ライ フサ イ エン ス部会 報告 書 では'外 国 果 ] で の方 式 にな ら つた も のであ る こと' 文部 省指 針 と の整 合 に配慮 した こと、科学 的 知 見 に応 じ て適 宜 見直 しす る こと 、 この規 制 は生命 科 学 技 術 の内 的 要 請 に基 づ く も の であ り正 し い社 会 の理解 の上 に研究 を位 置づ け て行 く こと が望 ま れ る こと 、な どが 書 かれ てお り、 これ ら の条 件 が法 律 化 によ って損 な わ れ る おそれ があ る こと を配慮 したも のであ る こと がう かがわ れ る。 し か しな が ら '本 指 針 が何 ら法 的 な 効 果 を持 たな いも のであ るかどう か は、さ ら に吟 味 し てみる 必要 があ る。 特 に最 近 の、 遺 伝 子組換 え指 針 を めぐ る事 例 から 二 つの問 題 を取 り上げ て紹介 す る0 何 一つは、遺伝 子組換え実験ガイドライ ンをめぐ って、理化学研究 所ライ フサイ エンス筑波研究 セ ンター のP4実験室 の使 用 の差 し止 めを求 め た 訴 訟と ' 国立 予防 衛 生 研究 所 の遺 伝 子組換 え 研究 の禁 止を求 めた訴 訟があ り、前 者 に ついては棄 却 す る判 決 が で て いる ( 水 戸 地裁 土浦 支 部 平成 五年 六 月 一五 日) 。 判 決 では'我 が国 の実 験 指 針 は決 し て特 異 な も のでな く、 一般的 に 妥 当 な も のと し て採 用さ れ て いると言 う ことが でき、 む しろ内容 的 に は ア メリ カ合衆 国 のガ イ ド ライ ン等 に比 べると厳 し い面 もあ り、 そ の安 全 性 は確 保 さ れ て いると述 べ て いる。 通常 、 民事 の差 し止 めま た は損害 賠償 請求 訴 訟 にお いては① 加 害 行 為 が 違 法 性 を有 す る こと は原告 側 に立 証責 任 が あ り'② 裁 判 所 の審 理、 判 断 は、 証拠 に基 づ き自 らが事実 を 認定 し判 断 を加 え ると いう のが 原 則的 な方 法 とさ れ るが 、 こ の事案 の直前 、伊 方 原発 訴 訟 に ついて の最 高 裁 判決 で① 審 理'判 断 の方 法 は' 原 子力委 員 会 な ど の専 門 技術 的 な 調査 審 議 及 び判 断 を基 に し てな さ れ た行 政庁 の判 断 に不合 理な点 がな いかど う かと いう観 点 から行 わ れ る べき であ り 、② そ の立 証責 任 は本来 原告 が負 う べき であ るが '資 料 をす べ て被 告 行 政庁 が保持 し て いる こと を考 慮 す ると 、 被告行政庁 の側にお いて、そ の判断 に不合 理な点 のな いことを相当 の証拠、資料 に基づき立証す る必要があ ると判示し ており、 立 証責任を原告 から被告 に転換す るととも に'裁判所 の自主的な認定判断 から'行政庁 の判断 の不合 理を点検す る判断方法と - な る ことを 示し ている.本件遺伝 子組換え案件 に ついても' 「 判文 の体裁 にかかわらず、審 理、判断 の実体 は'右伊方 原発訴 訟最高裁 判決 の判 示す る内容 とな っている」 ( 判例時報 一四六七号) とされ'研究者 の自主的な遵守 が望まれ るとした国 のガ イドライ ンに'原子炉規制法 に基づく基準と同様 の効果 ( 行政行為 の効力としての 「 公定力」が持 つ 「 適法 の推定」とは異な るが'基準 そ のも のの内容を裁判 所が科学的 に審 理判断 し ていな いと いう意味 で'や はり何らか の推定が行われ ていると見る ことが できよう) が存在す ると考 えられる。 もちろん これは'ガ イドライ ン ( 基準) に合致す るも のは 1応安全性 が確認され差 し止めを不要とす ると いう論旨 であり、 むしろ問題とな る基準 に不合致なも のは安全性が確 認され ておらず差 し止めが可能 ( 私人 の場合。行政庁 の場合 は不許可と で きる) かどうか の判断 には直ち に結 び つくわけ ではな いが、十分参考 に値す る事例 ではあ ろう。 00次 に、遺伝 子組換えガイドライ ンに ついては'大阪府吹 田市が平成六年 一〇月に 「吹 田市遺伝子組換え施設に係る環境安全 の確保 に関す る条 例」を定 め ている。 これは'吹 田市内 に七カ所 ≡ 事 業所 の遺伝 子組換え施 設があ ると ころから、 予測 でき な い未知 の危害 に備え て被害 の未然防 止に万全を期すため制定す るも のとしている。条例 の内容 は'各種届出、協議'協定 の 締結'記録 の保管 '報告 及び立 入検査 が義務 づけられ ているが、安全 に関す る内容 は 「 事業者 は、組換え実験指針 そ の他規則 で定 める指針を遵守 しなければならな い」 とな っており'安全基準を国 の指針に委ね ている ( そ の他規則 で定 める指針 は、上 記文部省告 示が定 められ ている) 。 このような条例 を定 める こと の必要性 に ついては、もとより実質的な安全基準 に ついては 何ら変 わらな い規制を 不要とす る考え方 があ るが、本条例 により指針 の定 めた基準 に法律的拘束力が与えられた こと で規制 の 段階が質的 に厳格 化した ことは否めず'抜け駆け的 に国 の指針を無視 してはば からな い 一部研究者 の独走 に 一定 の否定的な法 的判断を下す ことが可能 にな ったと評価す る説もあ る ( 井上薫 「 吹 田市遺伝 子組換え施 設規制条例 の法律問題」ジ ュリ スト 一 〇六四号)。 こ のような 二重 の基準 が存在 す る ことが国民にと って望 ま し いかどうかは別と して'条例 にとり こまれ てそ のま ま実現され るべき安全基準とな る規範があ るとすれば'上 の判例と併 せ て'全 く法的 に無意味なわけ ではなく 一定 の法的効果 を持 つのではな いかと考え る ことが できる。 以下'さらに この点 に ついて検討を加え てみる。 1 00 [ 注] 以下、 ガ イド ライ ン の中 でも も っぱ ら国 のガ イド ライ ンを念 頭 に置 いて検 討 し て いく こととな る ので、 と りあえず ここ で、学会 のガ イド ライ ンの効果'すなわち ( 自主規制 の法的効 果) に ついて整 理 し ておく ことと した い。 人が倫 理 に反 しな い行為 をす るよう に'事業 の遂行上 、企 業や企業 従事者 はそ の行 動準 則を自 主規 制基 準 ( 自 主基 準) に求 め てお り' こ の自 主基 準 は、 生産、 取 引、 環境 維持、教育 ' 医療 ' 紛争 の解 決な ど の各 分 野 に存在 し て いる。 しかしな がら、 自 主規制 に関す る法的な効 果 に ついて論 じた論文 は極 め て少な い。 ここでは長尾治助 ﹃ 自 主規制と法﹄を参考 に検討 を進 める。 長 尾論 文 は取 引行 為 を中 心 に検討 を し ており、検 討範 囲 は本論 で考 え るも のを含 むま でに広 く はな いが'基本的 に判 例分析 を ふまえ ており、 T般論と し て考慮 でき る考 え方 も含 ん でいると考 えられ る ので紹介 し ておく。 業 界団体 が作成 し団体 構成 員 であ る各企業 にお いても遵守 す べきも のと し て制定さ れた自 主基準 には'会 員 に対す る指導措 置 や 処分措 置な どを行 う規 範 性 を持 つが これら にはふれな い。 長 尾論 文 では、 このほか に自 主基 準 には法的 にも意義 のあ る機 能 を営 む ことが 認められ る、 と し て、 ( イ)法条 に含 まれ る法概 念 を明確 化す る こと に奉 仕す る機能 ( 映倫 の審査基 準がわ いせ つに関 す る社会 通念 を推 し はか る 一つの資 料 と し て、 国家 が 司法 上 の判断 をす るに当 た っても重視 す べきだ とさ れた案 件 ( 東 京高 判 昭和 五五年 七月 一八 日) を指摘 )、 (ロ) 紛争 当事者 の行為 の意味 を明ら か にす る機能 、 (ハ) 国内 の成 文法規 が業界団体 制定 の自 主基 準 に法的効 果を付与す る場合 に'自 主基 準 の法 の内容を組成す る機能 、 (ニ)法律 要件 判定機能 の四 つをあげ て い る。特 に法律 要件 判定機能 と し て、違 法性 と注意義務 に ついて吟味 し て いる。 下級審 の裁 判 例 に当 た ると、自 主基 準 に違 法性 判定 の根拠 と した り' 注意義務 の根拠 とす る考 え方 が 示さ れ て いると いう。 まず違 法性 に ついては、① 信 義 則違 反と し て の違 法 性'②債務 不履行 ・不法行為 に基 づ く損 害賠償 請求 要件 と し て の違 法性、 ③ 公序 良 俗違 反 レベ ル の違 法 性 に分 け た場合 には、①② の違 法性 を判定 す る上 で自 主基 準 は、裁 判上 少なくとも重 要 な フ ァク ターと し て取 り扱 わ れ て いる ( 大 阪高 裁判 決 平成 三年九 月 二四 日'京都地裁 判 決 昭和 四 三年 二 月 二六 日' 一要素 と し て認 め るも のが横 浜地判 昭 和六 二年 一二月 一八 日) とす る。 ただ し'③ を 理由 と し て契 約 に無 効 を付与す るう え で、自 主規制基 準 は 現在 のと ころな お単 独 では反 公序良 俗性 の判定 フ ァクターと し ては裁 判上 機能 し て いな いとさ れ る ( 大 阪高 裁判決 平成 三年 九 月 二四 日) 0 次 に' 過失 の判定 に ついては、社会 から 要請さ れ るあ る べき企 業 活動 の認識 を表 現 したも のと いう自主 規制 の特質 から い っ て自 主基 準 の規 制 対象 とさ れた事項 に関わ る基 準違 反があ るとき' そ の行為 から損害 を被 ったも のによ る損害 賠償 請求 にお い て'自 主基 準 は注意義務 の基 準 と し て の意義 を有す るが'具体 的事案 にお いてはそ の機能 の及ぶ範 囲 にも限界 を 設けざ るを得 な いt とす る ( 横 浜地判昭和六 二年 〓 l 月 1八 日、東京地判平成 元年 1二月 二五 日) 0 [ 自主規制 の法的 効 果] これらは いずれも'商品取引 に関する事例判決が主 で' ここにあげた自主基準も商品取引業界に関する行政法規 の枠組みに 取り込まれ ている部分も少なくなく、長尾論文でも直ちに民事紛争 における当事者間 の秩序 の意味を認められるとは限らな い とする。 ここに掲げた判決にお いても自主基準だけでなく、法律なども引 いてその違法性を導き出していると ころである。さ らに'明らかに長尾論文 の趣旨 に反する判決 ( 準則および法に違 反する行為がそ のこと自体 で直ちに不法行為を形成すると言 〇月二四日。ただしこの判決に ついては別 の論者から の批判もある。)もあり、 これら の えな いtとする函館地判昭和五〇年 一 限られた判決だけ で普遍化す ることは危険 であろう。しかし、自主基準が'あらゆる場合において'明らかに法的効果は何も 持たな いとすることは不適切であることは示されていると考える0 特に'本論 の対象とする基準制定者が、営利を目的とした企業 の集まりである業界団体 ではなく'学会 であることはその効 成文化されない法規範 果においても大きな差があると考える。 第 二項 公序良俗違 反規定 を持 つ特許法 による不特許 二 公序良 俗違 反等 を理由とす る不許可処分 M 特許法 では不特許事由とし て 「 公 の秩序 '善良 の風俗公衆衛生を害 す るおそれがあ るも の」 ( 三二条第 二号)をあげ ている。 日本 では、明治 一八年 の 「 専売特許条例」 以来 一貫して秩序 風俗素 乱 のおそれを不特許事由と している。 現在 ほとんど の説が こう した発明に ついて特許を付与す べき でな いことは当然 としており ( 吉藤幸朔 ﹃特許法概説第 八版﹄)' いかな る発明を公序 良俗 に反す る発明とす るかに ついては、① 発明 の本来 の目的 が公序良俗を害す るも の ( 通貨偽造機械 '阿片吸引具など)、② 発明 の本来 の目的 が公序良俗を害す るおそれがな いとしても'発明 の目的と構成 からみ て'何 人も極 め て容易 に'公序良俗を 害す る目的 に使用す る可能性を兄 いだす ことが できtか つ'実際 そ のよう に使用す るおそれが多分 にあると認められるも の ( 判 例 では男 子精力増強具 は これ に該当す るが、 ビ ンゴゲー ムは当 たらな いと して いる)tとさ れる。例えば遺伝 子組換え により 人体 に有害な微生物を作り出さ れる場合 は' この条 文に照ら しても不特許とな るべきと考える。 一方海外 では' フラ ンス知的財産権法典 でも特許が禁 止される発明と して 「 そ の公表または具体化が公序良俗 に反す るよう な発明」をあげ ているが、 そ の 一態様とし て 「この資格 にお いて、 人体'そ の諸要素または産出物'並び に、人 の遺伝 子 の全 1 02 部 また は 1部 の構造 の知識 は' そ のようなも のと し ては特 許 の対象 をなす ことが できな い」が付加 され た。 これ は、遺伝 子配 断罪 のもと に人類 の共 通財 産 と し て広 く 公開す る方 法 がと られ て いるた めと いう。 ( 北村 一郎 「フラ ンスにおけ る生命倫 理立 九 ページ∼参 照 二〇 ペ ージ ∼' 二 列 の解析 に ついて、 アメリ カ ではす べて特 許 で押さえ よう とす る考 え方 が強 か った のに対 し、 フラ ン スでは、人体 の商 品化 の 法 の概 要」ジ ユリ スト 一 〇九〇号)。 このよう に' 国ご と に公序 良 俗 の内容 は大 きく異な るが' いず れも法律 の中 に公序良 俗規定 が明文化さ れ て いるため に、法 律 に基 づく 不特 許処分 と し て扱 わ れ て いる。 [ 注]なお本件 に ついては、特許 の付与 は単 にそ の発明に ついての独占権を付与するだけ のことであり'そ の実施 に対してお 墨付きを与えるも のではな い、 したが って特許が付与されても実施が認められるとは限らな いし、また特許が付与されなくと も、他 の法令 で禁 止され ていなければ実施をする ことは可能 であ る、② に当たる発明は、 そ の実施 の態様 に応 じ て他 の法令 に ょり取り締まれば十分 であり'特許法 の介 入す べき問題 ではな いとす る説がある ( 中山信弘 ﹃工業所有権法﹄ ) 。 ∽公序良 俗規定など明文規定 のな い法令 による不許可 の可能性 一般 の行政法 にお いて、特 許法 のよう に特段 の明文規定 がな くとも' 公序 良 俗規定等 の 一般条 項 に基 づ き許 可申請や届出 に [明 文規 定 によ ら 対 し て' 不許 可処分や届 出 の受 理 の拒 否が でき るかどう か に ついて考 え てみる。 特 許法 の公序 良俗 に反す る発明 に特許を付与 な い不許 可 等 ] しな いこと に ついても'産業 政策 的 理由 と いう より は当然 の事 理とさ れ る ( 中 山同上) が明文がな い場合 にも公序良 俗を理由 に不特 許とす る ことが でき るかは明 らか ではな い。 判例 や学 説 では行政法 の法源 と し て不文法 と し て条 理をあげ るが' この中 に平等 則、 比例 原則、禁 反言 の原則、信義誠実 の 原則、手続的 正義 の原則な どをあげ ( 原 田尚彦 ﹃行政法 要論﹄)'権 利濫用や信義 誠実 則をあげ る ( 村上武則編 ﹃ 基本行政法﹄)0 判 例 でも、特 に行 政行為 の無 効 に関連 し て'行政行為 の戦痕 の類型 の中 で、権 限濫 用 の行為 ( 下級審 判決 に多 い)'信義 則違 反 の行為 ( 最高 判 昭和 四〇年 八月 一七 日。 ただ し信義 則 と は明示 し て いな い) をも って無 効とす るな ど の判決 が見られ る。 こう した中 で' 公序良 俗 に ついては、 明示的 に認 めた学 説 は見えず'判例 ではむしろ、 民法 九〇条 は私法 上 の行為 な いし法 律 関係 を律 す る規定 であ って権 力支 配作 用 であ る農 地買収 手続 き には適 用がな い ( 東高 昭和 二九年 一月 二九 日) とす るも のさ えあ る。 しかし これ ら は'行 政庁 側 の行政 行為 に対 し て上 にあげ たような非難さ れ る べき事由 があ る場合 の事案 であ って'む しろ申 請者 や届 出を行 う側 に このような事 由 があ った場合 に行政庁 が 不許可や届出 の不受 理をす る ことが でき るかに ついて の 判断 ではな いと考 えられる。 平等原則' 比例原則、信義誠実則を、行政権 における裁量を拘束す べき原則として重要な役割 を 果 たす ( 藤 井俊雄 ﹃行政法総論﹄) と述 べる のも こう した理由 であ ると考 え る。 1方、逆 に国家賠償法 におけ る違法性 に関 し ては、狭義 の説と広義 に取 る説 があるも のの、法規違 反だけ でなく条 理 ( 公序良俗、信義則、権利濫用等) に反す る行為も対 象 とな るとさ れ て いる ( 高 田敏 ﹃行政法 ( 改訂版)﹄) 。 民法 における公序良俗等最高法規性 は行政法 にお いて適 用が排除さ れ ると見る根拠 はな く'逆 に不道徳な行為 の実 現 に法律 は手を貸さな いと見るべき であ ろう ( 田中 二郎 ﹃新版行政法﹄ は' 「7 般社会 の正義心 にお いて、 かくあ るべきも のと認められる条 理または筋合 いは'法 の解釈 の基本原理と してtか つまた'法 に 欠陥 のあ る場合 の補 充的法源 と して重要な意義を持 つ」と して法的根拠があ り得 る ことを述 べ、 fつの根拠 に明治 八年太政官 布告 「 裁判事務 心得」をあげ る) 0 [ 注] 「 すべての法律関係は、公序良俗によ って支配されるべき であり'公序良俗は、法律 の全体系を支配する理念と考えられ る。すなわち'権利 の行使と義務 の履行が信義誠実 の原則に従うべしと いう のも'自力救済 の限界が定められるのも、法律行 為 の解釈に ついて条理が作用するのも、結局においては、公の秩序 ・善良 の風俗と いう理念 の具体的な適用に他ならな い。」( 我 妻栄 ﹃民法総則﹄) 0 子 の名には、常 用平易な文字 を用 いなけれ [戸 籍法 不受 理案 一例と し て戸籍法 をあげ ると'戸籍法 は子 の名前 の届出に関 しては、 五〇条 で 「 ば な らな い」 (一項) 「 常 用平易な文字 の範 囲 は、命令 でこれを定 め る」 ( 二項) と のみ定 める。 したが って名前 の意味 に つい 件 ] ては関与 しな いよう に読 む ことが できるが、 これをめぐ っていわゆる ( 悪魔ち ゃん)事件が起き ている。 平成 五年'届出人は誕生 した子供 の名前を ( 悪魔) とし て市 役所 に出生届をし、 この届出 は 一旦受け付 けられ戸籍 に記載さ れた。 そ の後市 役所は' 子 の ( 悪魔) と いう名 は親 の命名権 の濫用 であ って'出生届 の子 の名 に不備があ るから'届出人が別 の名を届 け出るよう指導 し、別 の名を追完す るま で ( 名未定) として処理す る こととし、戸籍 の出生事項 に ( 名未定) と記載 Lt ( 悪魔 ) と いう名 を抹 消 した。届出人 は この取り扱 いを不服と し て家庭裁判 所に不服申 し立 てを したと いう事案 であ る。 なお市 役所 の措 置 は法務省 民事 局長 回答 ( 平成 五年九月 一四日付) に従 ったも のと言われ る。 子 の不服申 し立 てに、家庭裁判 所は命 名権 の濫用され た場合 は社会 通念上明ら かに不当 と見られ るときなど には市 町村長が名前 の受理を拒 否す る ことも許さ れ る' ( 悪魔) も そ の 一つに当 た る、 しかし、届出を 一旦受 理した以上 はたとえ 戸籍法 に違 反す る名前 であ っても両親 を促 し 悪魔)の表記を抹消 した のは違法 であ るとし て'( 名未定) て戸籍訂正 の申請をさ せる のが ルー ルで、それを省 いて 一方的 に ( 1 04 の事項 を抹 消す べLと した と いわ れ て いる ( 野 田愛 子 「( 悪魔) と言 う名前 の子供」ジ ユリ スト 一 〇四 二号)。結 果的 に市 は こ れを 不服と し て即時抗告 した が'届 出人が 不服申 し立 てを取 り下げ '別 の名前 を付 けた こと によ って事件 そ のも のは終 了し て いる。 これ は公序良 俗 ではな く権 利濫 用禁 止 の事例 であ るが'戸籍法 と いう行政法 に特段規定 がな く ても'権利 濫用禁 止と いう 民 法 の最高 原 理 の考 え方 によ り行政 が届出 の受 理を拒 否 できるかどう かが論点 であ るC 行政 側 ( この場合 は市 役所及び法務 省) も裁判 所も ( 悪魔 )と言う名 は社会 通念 上明ら かに不当 であ り受 理を拒 否 でき る ことに ついてま では認め て いると ころ であ る。 す でに本件 以前 に、 戸籍法 に関す る通達 によ り、法 五〇条 に合致 しな い名 の届出 が提出さ れたとき は このような届出 は受 理さ れ る べき でな いと し て いる ので、本案 件 は権 利濫用 によ る命 名を めぐ る判断を積極的 に下 した案件 と し て見 る ことが でき る。 な お、 こ の事案直 後 に成 立 した行政 手続法第 三七条 では 「 届出が届出書 の記載事 項 に不備 がな いこと、届 出書 に必要な書類 が添 付さ れ て いる こと そ の他 の法令 に定 められた届 出 の形式上 の要件 に適合 し て いる場合 は'当該 届 出 が法令 により当該 届出 の提出先 とさ れ て いる機 関 の事務 所 に到達 したとき に、当該 届出をす べき手続上 の義務 が履 行されたも のとす る」 とさ れ てお り' 以後 の案件 に ついては行政 手続法 の当該条 文 の解釈 も問題とな ろう。 S 公序 良 俗 の意味 付公序良俗 の分類 公 の秩序 善良 の風俗」 は公序良俗違 反と呼ば れ、 公共 の福祉や権 利濫 用禁 止や信 義則違 反 ( 第 1条 ) と並 ん 民法九〇条 の 「 で 一般条 項 とさ れ ているが'特 に公序 良俗 に反す る法律行為 は無効 とされ、公序良 俗 に反す る方法 で他 人に損害 を与えた場合 は不法行為 と し て損害賠償責 任を負 い、公序良 俗 に反す る給付 は不法給付 と し て不当利得 の返還を請求す る ことが できな いt な ど広 範 な法的 効 果を生ず る。 しかし、 そ の内容 は他 の 一般条 項 と同様 '極 め て抽象的概念 であ って、 公序 良俗 の観念 は社会 の慣行 と時代 の倫 理思想 を考慮 し て決定 しな ければ な らな い。 [ 注]外国 では、ドイ ツが 日本と似た公序良俗概念を持 っており ( 公序概念 はな い) 、 フラ ンスは独自 の公序良俗概念を持 つ。 政治的 公序とされるも のの中には、 比較的近時改められたも のがある。生命保険 は人命 への投機 であり不道徳 で無効 (一九≡ 〇年法律)、結婚 の仲介 も不道徳 で公序 に反する (一九四四年破穀院判決)、自由業 における顧客 の譲渡 は職業的 公序 に反す る (l九六 一年破穀院判決)などがそれぞれ立法 ・判決により改められた。 1 05 公序 と良俗 は立法当初 は別個 のも のと考 えられたが'現在 では同 一の目的を持 つ類似 の概念 としてとらえられ' これに従 い 具体的な 公序良俗違 反 の内容 に ついては'戦前 より我妻栄が判例 に基づき七分類 したも のが、今 日にお いても通説とな ってい る。 すなわち'① 人倫 に反す るも の② 正義 の観念 に反す るも の③ 他人 の無思慮 ・窮迫 に乗じ て不当 の利を博す る行為④個 人 の 自由 を極度 に制限す るも の⑤営業自由 の制限⑥生存 の基礎 たる財産を処分する こと⑦著 しく射侍的なも のtであ る ( 我妻栄 ﹃民 法総則﹄ ) 0 我妻栄 が行 った判例分類 は戦前 のも のが中心 であり' これに基づき戦後 の判例を分類 したときは、 そ の分類 は相当困難 にな るLtここの分類自身 の内容が変質 しているとも言われる。近年 は'我妻分類 に変え て新 し い分類 の提案 も多 くなされ ている。 例えば、九〇条 が これま で保護 してきた法益を規範秩序別 に分類す る提案 があげ られ ている。 すなわち'①憲法秩序違 反② 公 法法規秩序違 反③ 取引法秩序違 反④家族法秩序違 反⑤生成途上 の法益違 反をあげ て いる。 この分類 に従えば'最近 の傾向と し て' ほとんどが取引法秩序違 反 であり'家 族法秩序違 反は減少 し ていると いう ことにな る。特 に' ( 生成途上 の法益違 反) と し て'我 が国 の裁判例と してはまだ現れ ていな いが' ホ モセク シャルどう し の婚姻'代 理母'臓器売買が考えられるとして い 。生命科学技術 及び生殖 る ( 中舎寛樹 「 民法九〇条 におけ る公序良俗違 反 の類型」椿寿夫 ・伊藤進編 ﹃公序良俗違 反 の研究﹄) 医療 技術 関係 の倫 理問題と して扱われ ている事項 はほとんど この ( 生成途上 の法益違 反) の中 に入る こととな るであろう。 なお、 同じ 一般条項とされる権利濫用と の関係 に ついては'公序良俗 は権利濫用 の単純な判断基準な いし要件 そ のも のと考 え られ て いるが、 一方 で、公序良俗 は契 約 の成立'すなわち権利 の発生段階 に関わり'権利濫用は発生 した権利 の行使 に関わ るも のであ るともされ ている。 こう した考え方 に従えば、す でに前 に述 べた命名権 の濫用 は'付けられた名前 に着 目すれば 公 序良俗違 反とな るとも解されよう。な お、最 近 の学説 ・判例 は権利濫用を説かなくな っているが、それは従来権利濫用とされ て いた事例が、立法 ・法解釈 により個 々の規定 へと分解 してい ったためとす る ( 橋本恭宏 「 公序良俗と権利濫用」同上) 0 00先端科学技術 の医療応用が公序良俗に関わる場合 先端的 な医療技術 に ついては海外も含 め て例 は多 く はな いが、 フラ ンスでは代理母を仲介 す る協会 に対 して'破穀院は人 の 身分 の不 可処分性と いう 公序 、善良な風俗 に反す る非営利社団 の無効を定 める法律などを理由 に当該協会 を無効とす る判決を 下したと いう ( 難波譲治 「 フラ ンスの判例 における公序良 俗」 同上) 。 我が国 でも'代 理母契約 に ついては公序良俗 に反し て 三七 ペー ジ 参 照 無 効 であ るとす る説があ る。 一方 で'体外受精 ・旺移植 ( 昭和 五八年 一 〇月 日本産科婦 人科学会会告)' ヒト精 子 ・卵 子 ・受精卵を取 り扱 う研究 (昭和 1 06 六〇年 三月同会会告 )'体 外受精 ・肝移植 の登録報告 制 ( 昭和 六 1年 三月同会会 告)'精 子選別 ( 平成 六年 八月同会会告 )' 死 亡 した胎児や新 生児 の臓 器等 を研究 に用 いる こと ( 昭和 六 二年 一月 同会 会告 )、先 天異常 の胎児診 断 ( 昭和 六三年 1月同会会 普)、 ヒト肱および卵 の凍結 保存 と移植 ( 昭和 六三年 四月同会会告 )'顕微受精 法 の臨床実施 ( 平成 四年 1月同会会告 )、 ( 体外 受精 ・腫移植 におけ る)多 胎妊娠 ( 平成 八年 二月同会会告 )、非 配 偶者 間 人 工授精 と精 子提供 ( 平成九年 五月同会会告 )、 ヒト の体 外受 精 ・腔移植 の臨床応 用範囲 ( 平成 1 0年 l〇月 同会会告 )'着 床前診 断 ( 平成 l 〇年 l〇月同会会告) に ついては 日 本産科 婦 人科学会 から会告 が出さ れ、 いず れ の医療 に ついても これら の処置が 一定 の条件 の下 で行われ る べき こと に ついて の 見解 が 示さ れ て いる. これら に基 づ いて'例えば、体 外受精 ・肝移植 は、新鮮 腔を用 いたも の 1七九九 二人'凍結 腔を用 いた も の 一五三 一人'顕微受精 六 五 五九 人 ( いず れも平成 七年度 )等 の実績 が上 が っており' こう した実績 は否定 し得な いと考 え られ る。 1方 ' 日本産科婦 人科学会 の会告 の示す条件 に違 反 した場合 には'直ち に公序良 俗 に反した行為 とな るかどう かは判 断が難 し いと ころ であ る。 な お、 ク ロー ン技術 に ついては、す でに へ「 体 外受精 ・腫移植 」 に関す る見解 ) で 「 本 法 の実施 に際 し ては'遺伝 子操作 を 行わな い」 とし、 ここに いう 「 遺伝 子 工学」 と は遺伝 子 工学 ・ク ロー ニング ・異種間 ハイブ リ ッド ・キ メラ等 を人 工的 に行 う ことと Ltウイ ル ス移植 な ど の生物学的換作 、放射線 照射 'マイ ク ロ マニプ レー ターなど によ る機械的操作な ど の物 理的操作 ' ヒト に影響 を与え ると思われ る化学物質投 与など のご とき化学的操作 をあげ ており、 このような操作 は医療 と し て行う体外受 精 の目的 に反す るも のであ り、 医 の倫 理に反す るも のであ る、と し て いる。 二.医療 におけ る注意義務 の基 準 Ⅲ医師 と研究者 の関係 ク ロー ン技術 を例 に取 り、医師 と研究者 の関係を整 理す る こととす る。 す でに述 べたよう に、 ク ロー ン児 の創 出 に当 た って は、 人 の未受精卵 な いし受精 卵を摘 出す る ことが必要 であ るし、現在 の技術 では、 人 の体細胞核 を移植 した卵細 胞を 子宮 外 で 育 てる こと は困難 であ る ので、 子宮 内 に戻 し て育 てる場合 は' ク ロー ン腔を 子宮 に着床さ せ以後 一般 の体 外受精 と 同様 のプ ロ セ スをた どら せる ことが必要 であ る。 医師法 では 「 医師 でな ければ 、 医業 をな し てはな らな い」 (一七条) と規定 し ており' この規定 に違 反 したも のは、 二年 以 下 の懲 役ま た は 二万円 以下 の罰金 に処す るとされ て いる。 この規定 の中 で、医業 と は、 反復継続 し て医行為 をなす こととさ れ 1 07 て いるが、医行為 に ついては、 そ の内容 が複雑多岐 であり、医学 の進歩 に伴 って常 に変 化 し発展す るも のであ るから'法律 で 医行為を定義す る ことは困難 でもあり'妥当 でもな いので医師法 ではそ の定義 を設け ていな いC このため医行為をめぐ つては 判例学説 により様 々な考え方 が示され ているが'現在 の通説 ではほぼ 「 医師 の医学的判断及び技術をも ってす る のでなければ 人体 に危害を及ぼ すおそれ のあ る行為」とされ ている。具体的 には、生殖関係 の行為 では、月経 不順 の婦女 に対 し容態 を聞き 病状を診 断 した上 子宮鏡 及びピ ンセ ットを使用 して子宮内 に通経丸と称す る薬を充填す る行為、灸術営業者が灸術を施す に当 たり膜内 に子宮鏡 を挿 入し て子宮 を内診す る行為などが判例 で医行為 とされ ており'また人 工授精も学説 では医行為とし てい る ( 野 田寛 ﹃医事法﹄) 。 したが ってク ロー ン児創出 のため の、未受精卵、受精卵 の摘出や、 ク ロー ン腔 の子宮 への着床等 は医 行為 に該当 Lt医師 以外 は医業 として行う こと はできな いと考え る。 ク ロー ン技術 の適 用を研究ととらえ てきたが、そ の意味 では前章 で中核的規制とす る ことを提言 した ク ロー ン児 の創出 ( ク ロー ン腔 の母胎 への着床) は、先端的な研究 活動 であると 同時 に医行為 でもあ る こととな る のであ る。 実際 にはク ロー ン児 の創 出 のために、摘出された未受精卵な いし受精卵 に体細胞核を移植す る行為などは ( 研究 だけ の目的 の場合 は) 医行為と言え るか疑問 であり医師 の資格 のな い者が行う ことも否定 は できな いが、 ク ロー ン児創出 のため の行為 に あ ってはそ の行為 の 1部 は必ず医行為とならざ るを得ず'医師が最終的な責任を負う こととな る。前章 にお いて述 べたよう に 規制が困難な研究者 を直接規制 しなく ても'医師さえ規制すれば ク ロー ン児 の創 出を制限する ことは可能 であ る。 もち ろん'イ ンビト ロ ( 試験管内) でク ロー ン卵が生育すれば、直接研究者を規制す る必要も生 じてくるが現在 の技術水準 では当 面そ の可能性 はな いと考 えられる。 ∽医療行為 の制限に ついて 医療行為 は本来 人 の身体 に対す る侵襲 行為 であるから、医師 でな い者 が医療 目的 以外 に行えば'刑法 の傷害罪を構成 し、 民 法 の不法行為責 任を免 れな い。医師 が行う医療行為 であ るゆえ に'正当行為と して違法性が阻却される。ここでは、刑事責任、 民事責任'さら に医師法等 に基づく行政責 任など の個 別詳細な責任 にはわたらな い範囲 で、 I般的 に医療行為が違法性阻却事 由 に当 た る限度 を検討 してみる こととす る。 医療行為が 正当行為 とされ るためには'通常次 の三 つの基準、① 医学的適応性があ る こと、② 医療技術 と して正当性があ る こと'③患者 の同意があ る こと、 が必要 であ り' これを欠く場合 は当該行為 の違法性が阻却さ れなくな る可能性があ る。③ に ついてはしばらく措 き、前 二者 に ついて検討 してみる。 1 08 医学的適 応性 と は、客観的 に見 て患者 の生命 、健康 の維持、促進 に適 す るも のでそ の実施 が 必要と認めら れる時 正当 とな る とさ れ る。 こう した意味 で'美容整形、 同意傷害、優生 手術 '性転換 手術 、 人 工妊娠中絶 手術 な どが問題とな り'特 に生殖 医 療技術 では、 人 工授精や体 外受精 が このケ ー スに当 た ってくると考 えられる。 一方 医療 技術 の正当性 と は、後述 す る医療水準 に達 しな い診療や 、生体実 験、治験的実験 などが この点 から問題を生 じ てく ると言われ る。 しか しな がら、 それぞれ の内容 に ついては社会 の状況 に応 じ極 め て流動的 であ り、例えば 医事 関係法 にお いても、 医師等 の 資格 取得 要件 '医師 の義務 ' 医療 施 設 の基準 など は定 めるも のの、 医療 行為 の内容 に関す るも のは極 め て少な い。 したが って 医療 行為 にあ っては医師 の裁 量 が大 幅 に認 められ て いる。 これ は、 医療 は高度 に専 門的 なも のであ るから'医療 及び保健指導 の内容 に ついては、 そ の専 門的 知識と技能 を有 す る医師等 の自由な判断 に委 ね、行政庁 は原則とし て関与 しな い方 針を取 って きた ( 野 田寛 ﹃医事法﹄) 。 このような広範な裁量性 が認められる理由 と しては、 何病変 は人体 に内在す る個体 及び環境条件 に規定され てく る個体差 に左右されるから、 医学上承認され ている医療 技術 であ っ ても' そ の適 用 は個 々の患者 によ って異な り個 別化さ れざ るを得な い ㈲医師 の治療行為 が患者 の利益とな るためには、医師 の学識 ・技量 ・経験が自由 に駆使される必要があ る などがあげ られ て いる ( 大 谷 ﹃医療 行為 と法 ( 新版 ) ﹄) 0 これ ら の要件 に ついては、具体 的 に以下 で再度検討す る こととす るが、 いずれ にし ても、も しク ロー ン技術 の適 用が医療 行 為 の観点 から 正当性 '適応 性 を欠 くと判 断さ れ るな らば、特段 の法律 の制定 を待 たず に' そ の行為 は正当な 医療 行為 と言う こ と は できず、違 法な行為 と みなさ れ る こととな る。 な お、 医療業務 の特質 上 '医療 の内容 そ のも のに ついては法規 で直接規制す る ことを避け る方針 が従来 は取 られ てきたが' 昭和 二四年 に改 正さ れた医師 法 二四条 の二により 「 厚生大 臣は' 公衆衛生上重大 な危害 を生ず る虞 れがあ る場合 にお いて、 そ の危害 を防 止す るため特 に必要 があ ると認 めるとき は、医師 に対 し て、 医療 又は保健指導 に関 し必要な指 示をす る ことが でき る」 (一項) 「 厚生大 臣 は'前 項 の規定 によ る指 示をす るに当 た っては'あら かじめ、医道審 議会 の意 見を聴 かな ければならな い」 ( 二項) とさ れ、 医療等 に関す る厚生 大 臣 の指 示権 が規定 さ れ、特 に医道 審 議会 の意 見を聴 した上 で指 示権 発動 が 可能 と な って いる。 これ に基 づき、す でに 「 輸 血 に関 し医師 又は歯科 医師 の準拠 す べき基 準 」 ( 昭和 二七年 厚生省告 示) が発 せられ て いる。 このほか直 接 こ の指 示権 によらな いが医療 内 容 に関す る行政 通達 が多 数 出さ れ て いる ( 野 田寛 ﹃医事 法﹄) が、 そう した通達 の根拠 は この規定 を踏 まえ るも のと考 えられ る。 しか し'厚生大 臣 の指 示は法的拘 束力 はな く訓 示的 なも のとす る説と'規範的 な拘束 力を持 つとす る説 があ り、 下級審判決 1 09 では前者 の説を採 る判決が多 い。 [ 注] この法律改正 の契機とな った輸血梅毒事件 は、梅毒に感染 していた職業的給血者から輸血を受けた患者が梅毒 に感染 し た事故 であり、最終的に最高裁 は'相当 の問診をすれば結果 の発生を予見し得たであろうと推測され' いやしくも人 の生命及 び健康を管理す べき業務 ( 医業)に従事する者 は'その業務 の性質に照らし'危険防止 のために実験上必要とされる最善 の注 意義務を要求される、として医師 の過失を認めたも のである。 S医療行為 の適応性 医療 行為 の医学的適応性 に関す る議論 は、後述 の正当性や医療水準 に関す る議論と異なり、 むしろ公序良俗と関係す る議論 が多 い。具体例 にふれ つつ検討 してみる。 ( イ)美容整 形手術 美容整 形 手術 に ついては、医療行為と いう侵襲行為を上回る疾病 の危害 の排除 と いう目的がなければならず、 こう した美容 整形 手術 は医療 行為性がな いと解す る のであ る。刑法分野 では' こう した観点 から美容整形手術 の医療性 に対し否定的な見解 が通説 であ り ( ただ し、被 害者 の同意 があ る ことから構成 要件該当性 を欠くか違法性が阻却されると説く)、 1方 民法分野 で は'専 門医学的な技術 の施 用 であるから通常 の診療 と変わ ると ころはな いととする のが 一般 であ る。下級審 であ るが判例も 「 美 しくあ りた いと願う美 に対す る憧 れ とか醜さに対す る憂 いと い った人 々の精神的な不満を解消す る ことも積極的な目的と認め られ る ( 東京地判 昭和 四七年 五月 1日)とす る。 そ の後'昭和五三年 に医療法改 正により'診療科名とし て美容外科が追加さ れ て法律上美容整形 手術 が公認さ れる こととな ったが'な お通常 の医療 とは若 干異な る扱 いを持 つとも言われ ている。 (ロ) 同意傷害 同意傷害 は公序良 俗性な いし社会的相当性 に反しな い限り傷害罪と して処罰されな いとされる。 これに ついては'他人 の手 による生命 の処分権 は認められな いが'身体 に ついては個 人 の決定 しうる事項と考え て'身体 の処分権 はそ の主体 に認め てよ いから'や くざ に入れ墨す る のも'指を詰 め てや る のも、処罰さ れな いと いう見解 もあ る ( 大谷 ﹃医療 行為と法 ( 新版) ﹄) 0 (ハ) 人 工妊娠中絶 母体 保護法 ( 改 正前 の優生保護法も同様) では'妊娠 の継続または分娩が身体的 または経済的 理由 により母体 の健康を著 し く害 す るおそれ のあ る場合 に'医師 は本人及び配偶者 の同意を得 て人 工妊娠中絶 を行う ことが できる こととされ ている。 そ の 1 10 意味 す ると ころ は、社会的 な 見地 によ って行 われ る妊娠 中絶 も'妊娠 の継続や分娩 が母休 の健康 を著 しく害す るおそれ のあ る 場合 に しか認 めら れな いと言 う のが本 旨 であ るとさ れ るが、実際 は' 「 医師 は経済的 理由 が ど のよう に妊 婦 の健康 に影響す る かを 調査 ・確 認す る ことは不可能 であ るし、義務 づけもさ れ て いな い。 ここには、医学的適応性 の中 に社会政策的 見地が スト レート に入 ってき て いる。 こう し て、担 当医 の 一人 の判断 で手術相 当 の決定 をす る ことが 可能 とな り、 人 工妊娠中絶 に対す る 法規 制 は ほとんど実質的意 義 を持 たな くな って いる のが現状 であ り、刑法 の堕胎規定 は無意味 とな って いる」とさ れ る ( 大谷 ﹃医療 行為 と法 ( 新版 ) ﹄) 0 以上 のよう に、 医療 行為 の適応 性 に関 し ては'必ず しも法的 に整備さ れ て いるわけ でもな く、また法的 な規定 と 一般 の通念 の帝離や 、法解釈 が確定 し て いな い点な ど様 々な問題を持 って いる こと に留意す べき であ る。 ㈹医療 水 準 に ついて 医療 の正当性 に ついては' ここで詳細 に議論す る必要 はな いと考 え られ る ので、 ここでは医療水 準 に関 し てのみふれる こと とす る。 医事法 にお いては'医療 過 誤 によ る事 故 に基づ く医師 の責 任 ( 債務 不履 行責任 及び不法行為責 任) に関す る検討 によ り、 医師 の注意 義務 と し て 「 医療 水準」 と いう考 え方 が採 用さ れ'医師 はそ の時点 におけ る医療水準 に即 し て'医療 水準 以内 の診療 給 付義務 があ り'ま た医療 水準を超え る診療 を行わな か ったと し ても債務 不履行や 不法行為 にな る こと はな いとさ れる。 医療 水 準 の具体 的 な基準 に関 し ては、 「 学 問 と し て の医学水準 ( 将来 にお いて 一般 化す べき 目標 の下 に現 に重 ね つつあ る基 本的 研究 水準)」 と 「 実践 と し て の医療 水準 ( 専門家 レベ ルで現 に 一般 化 した医療 と し て の現在 の実施 目標 ) 」 に分け て、後者 に当 た るも のとさ れ る ( 松倉 豊 治 ﹃医学 と法 律 の間﹄ 及 び最高 判 昭和 五七年 三月 三〇 日) 。 こ の医療 水 準 は、 一般的 、客観的 なも のであ り'病院 間 で の医療 の差 は診療 面 で の実情 な いし情 状 に関す る こと であ って'医療水準を左右 す るも のではなく' したが ってここから転 医勧告義務 ( 自 ら適 切な診療 をす る ことが できな いとき には'患者 に対 し て適 当な診療機関 に転 医す べ き旨 を説 明 し、勧告 す る義務 ) も導 き出さ れる。 このとき の医療 水準 と し て確立さ れ るには、学会 や誌上 で の発表'討議'追 試 が行 わ れ る こと等 を 要す ると し ( 松倉 同上 )'判例 も、新療 法 に ついて数多 く の追 試 が行 われ、学 界 レベ ルで 一応 正当な も のと し て認容さ れた後 ' これがさ ら に教育 '普 及を経 て、臨床専 門医 レベ ルでほぼ 定着 す る ことを要す るとす る ( 福 岡高判 昭 和 五七年 六月 二 一日) 0 具体 的 な例 と し ては、未熟児 網膜症 の治療法 と し て の光凝 固法 は、 昭和 四五年初 めにお いては先 駆的 研究家 の間 でようや く 実験的 に試 み始 めら れたと いう状 況 であ って、医療水準 から見 ても説明指導義務 及 び転 医指 示義務 はな いと し ( 最高 判 昭和 五 111 七年三月三〇 日)'医療水準 に達 したと 見られる時期 は昭和 五〇年発表 の厚生省研究 班 「 未熟児 網膜症 の診断並びに治療基準 。 ここでも'必ず し に関す る研究報告」 によるとす る ( 福 岡高判例昭和五七年 六月 二 一日及び最高判昭和六〇年三月 二六日) も法的 に根拠を明示され ていな い学会論文や報告書 が医療 の正当性 の基準とな っていることに注意 した い。 以上 は民事責任 における基準 の考察 であ るが'刑事責任 にお いても'業務 上過失致死罪 ( 刑法 二 二 条)の成否に当た って' 診療行為 にあ って負う べき医師 の ( 注意)義務違 反を判断す る際基準 とされる のも医療水準 であるとされる ( 佐久間修 「 医療 事故 に対す る刑事責 任」大 野真義編 ﹃現代 医療 と医事法制﹄ ) 。 ただ し'手術 における術式 の選択 は、医師 の裁量性が考慮され るため、療法と して いかな るも のを選ぶ かは、医師が自 ら の専門的知識、経験 に従 い決定 した以上 そ の法的責任を問う ことは できな いとLt そ の裁量的範 囲を医療水準 で定 めるも ののよう であ る ( 同上) 。 しかし'判例 では こう した事案 は多 くなく' ほとんどが初歩的な ミ スであ る。 第三項 基準違反について 10公序良 俗違 反 の効果 のク ロー ン技術 の適用が公序良俗 以上、 公序良 俗と医療行為 の基準 に ついて眺 めてきた考え方 を整 理す る こととした い。 まず第 二項 一. の公序良 俗に ついて の は'問題が 二 つあ る。すなわちt ク ロー ン技術 の適用が公序良俗違 反に当たるかどうかt 違 反に該 当す るときに'行改庁 が これを理由 に いかな る措置を取 り得 るかt であ る。 ‖ク ロー ン技術 の適用が公序良俗に該当するかどうかは、その適用 の態様が極めて広範にわたるために'その技術 の適用す べ てが公序良俗違 反に当 たるとか、そ の適用 のす べてが公序良俗違 反に当たらな いとか いう包括的な判定 は困難 であ ると考え る。 しかし'個 別 のケー スに即 し っつ'第 一章第 五節や第六節 で検討 したよう に'研究実態 に応 じて法益 の侵害 があ るか否かを検 討 した結 果'技術 の内容、規制対象 と行為 の分別、侵害法益 の区別等 が行われれば'行政庁 として判断す る目安 とし ては最低 限必要な条件を満 たす こととな り'基準と して策定す ることは可能と考え る。すなわち、前述 の遺伝 子組換え実験指針 同様、 そ の基準 は何らか の社会規範的 効果を持 つも のと考え る。 まず '公序良俗 に関 し ては、それ は社会 における倫理的な意識 であ り最終的 には国民 の合意や -般通念 に基づく べき であ る がt I方 そ の基礎 とな る科学技術 が極 め て高度 に専門的 で、か つ科学技術自身 が進 展している最中 のも のであ る場合 は、国民 [ 公序良 俗 の内 容 ] 1 1 2 が確定 的 な結 論 を 得 、 それ に伴 って生 じ る影 響 の予測 す る こと が 困難 な いし不 可能 な 状態 にあ る。 こ のよう に' 放 置 し てお い ては国 民 の合 意 や 一般 通念 が形成 さ れな いであ ろう 場合 は、 これ らを社 会 的 にも受 容 可能 な 形 で基 準 ( ガ イ ド ラ イ ン) 化す る こと は' 研究者 の集 ま り であ る学 会 や '行 政 上 の責 任 を有 す る国 に期 待 さ れ て いると ころ と考 え る。 ガ イド ラ イ ン の制定 に当 た っては' こ のよう な観 点 か ら、悪 意 的 に検 討さ れ る のではな く' 公開 の手続 き に基 づ き、 関係 す る各 方 面 の意 見 を聴 Lt特 に それ に よ って利益 を得 、損 害 を受 け る関 係者 の意 見を 十分考 慮 し、最 終的 に責 任あ る機 関 で決 定 さ れ る こと が望 ま し い。 こ のよう な 観点 から は、主 に科学 技術 分 野 の専 門家 の意 見 をま と め る学会 のガ イド ライ ンよ り は'広 く意 見 を聴 き得 る国 のガ イド ライ ンとす る こと が望 ま し い。 こ のよ- に検 討 し て整 備 さ れた ガ イド ライ ンは'何 ら か の社 会 的 規 範 と し て有 効 に機 能 す る こと は疑 いな い。 すな わち 、学 会 な ど の内 部 規 範 と し てそ の違 反 に対 し除 名 等 の処分 を 行 う こと も 可能 であ ろう Lt行 政庁 によ る行政 指導 の根 拠 とす る こと もあ り得 よ う Lt そ れ を そ のま ま 行 政庁 の許 可等 の法 律 行為 の基 準 と し て採 用す る こと も 可能 であ る。 前 述 した吹 田市 条 例 の 案 件 は'こ のよう な 状態 にあ る社 会的 規範 を そ のま ま法的 な強 制 力 のあ る条 例 の基 準 と し て採 用 した も のと 見 る ことが でき る。 こ のよ う な ガ イ ド ラ イ ンに ついて' 十分 国 民 一般 に対す る規 範 性 があ る こと が 認 められ れば ( 制定 の手続 、規 制 の密度 、科 学 技術 の進 捗 に合 わ せた変 更 手続 等 )行 政 処 分や裁 判 に おけ る規 範 と し て直接 採 用 す る こと も 不可能 ではな いと考 え る。 最 終 的 に、社会 規 範 とな って いるガ イド ライ ンが直 ち に公序 良 俗違 反 の判 断基準 とな る かどう か の第 一義 的 判 断 は、例え ば 医師 法 等 に基 づ く処 分行 為 を 行 う場合 は行 政庁 であ る Lt損 害 を与 え た場合 の賠償 請求 に ついては裁 判 所が行 う こと とな る ( 前者 の' 行 政庁 の専 門 技術 的 な 事 項 に対す る処分 に関す る、裁 判 所 におけ る判 断 の 一事 例 に ついては、第 一項 の水 戸地裁 判決 にふれ て、 九 九 ペー ジ 参 照 す でに述 べたと ころ であ る) 0 念 のた め に補 足す れば 、 こ のよ うな ガ イド ライ ン の策定 は国 が行 うと し ても性格 的 に立法 行 為 に当 た るも のではな いと考 え る。 手続 き と し て、専 門家 の意 見 を踏 ま え つ つ'社 会 におけ る 公序 良 俗 の意 識 を点 検 し て い った結 果、 確 認さ れ た社会 的規 範 と考 え る べき であ ろう。 今 後 の行 政 のあ り方 と し て、 こう した国 でしかな し得 な い公的 サ ー ビ ス的 業務 の必要性 も高 ま ってゆ くも のと考 え る。 な お'当然 のことな がら こ のよう に し て確定 したガ イド ライ ンを 立法 化す るに当 た り法令 等 に取 り 入れ る こ と に ついては支 障 な いと考 え る。 ∽ ク ロー ン技術 の適 用 が 公序 良 俗違 反 に該 当 し、 これ に関連 す る ( 例え ば 医療 法や 放射 線 障 害 防 止法 等 の) 許 可'届 出 が存 在 [公序 良 俗違 反 に す ると き '行 政庁 の取 り得 る措 置 が ど のよう な も のにな る かと いう こと があ るo まず 1般的 に公序 良 俗違 反 に該 当す る行為 が 対す る措 置] 11 3 あ ったとした場合 次 の二 つの対応が考え られ る。 ① 公序良俗 に反す る ことを理由 に'行政庁 が許可申請 に対 し不許可と し、届出を不受理とす る場合。 ② 公序良 俗違 反は許 可基準 に該当 せず、な いし届出 の形式 要件 に該当 しな いと して行政庁が許可または届出 の受 理を行う場合。 まず'① の場合 は、申請者な いし届出者 が' 不許可 の取消 しな いし届出 の受 理を裁判所 に求 めた場合' これを裁判所が認め たとすれば'裁判 所が公序良 俗違 反行為を有効と認めた こととな り、 公序良俗違 反行為 の実現 に裁判所が協 力す る こととな り 不当 であ る ( 行政庁 に対す る訴訟 では申請者 な いし届出者 の主張を認めるが'直接 の利害関係者 から出る公序良俗違 反に対 し て申請者 な いし届出者 の法律行為 を無効とす る考え方 はあ り得 るが、 いたずらに事件を複雑 にしてしまう であ ろう) 。 戸籍法 の事例 ( 悪魔 ち ゃん事件) にお いて届出者 に命名権 の濫用を認め、届出を不受 理とす る ことが できるとした判断は このような 趣旨 に立 つも のと考えられる。 ② の場合、 このような許可及び届出に対し、 不服審査や行政 訴訟を起 こす場合 には'当事者適格'行政庁 の裁量範囲が問題 とな ってくるが' いず れにしろ個別 の案件ご とに判断を要す る ことにな ろう。 一方 で、直接 の利害関係者 であれば'民事訴 訟 により許可を受 けた者 な いし届出を した者 に対し法律行為 の無効を確認 し、侵害行為 に対す る差 し止めを求 める ことが可能 で あ ろう。 そ の意味 で'行政庁 に対す る不服審査や行政訴訟は実質的な意味 は持 たな いと考 えられる。 このことから'ガイドライ ンが行政庁 の① の処分基準 の機能を持ち' これに従 って処分が行われれば'法律 の規定 はなくと も'ガ イドライ ンに実効性を持 たせる こと はあ り得 ると考え る〇 二.医療 行為 の基準違 反 の効果 い医学的適応性を持 っているか、S医療技 次 に' ク ロー ン技術 が第 二項 二. の医療行為 の基準 に合致 して いるか'すなわち 術 の正当性を持 っているかt に ついて検討 してみる。 M医学的適応性 に ついては' いかなる医療 目的を持 っているかが問題となるが、 一般に医学的適応性として承認され ているも のと して'①疾病 の治療軽減②疾病 の予防③奇形 の矯 正④助産 ・医術的堕胎⑤治療 目的 のため の患者 に対す る試験⑥ 医学上 の 進歩 のため の実験 ( 松倉豊治 「 医師 から見た法律」 )があげ られる。当然 '時代 の進歩 に伴 って医療 対象 は異な ってき ており、 例えば ここに掲げ た基準 から は美容整形 手術、性転換 手術など は該当 しな いと考 えられた時代もあ るLt生殖医療 技術 でも人 工授精'体 外受精 '代 理母 のため の受精卵着床などは疑問を呈す る意 見もなお強 い。当然'医療 の特殊性 から医師 の倫 理的責 任は他 の専 門家 にま して重く、ここに掲げ た問題も医師 の倫 理問題と しての側面を持 つと思われ るが'医学的適応性 の問題は、 11 4 最 終的 に は医倫 理 の側 から でな く法 的 ・社 会 的 見地 から解 決す べき事 柄 であ るとさ れ て いる ( 大 谷実 ﹃医療 行為 と法 ( 新版 ) ﹄) 。 す でに臓 器 移植 のよ う に該 当 しな いと考 え ら れ て いたも のから'法的 にも措 置さ れ 一般的 医療 行為 と し て認 めら れ て いるも の もあ り、 一方 ロボ ト ミー 手術 のよう にか つて医療 技術 と し て採 用さ れ て いた が現在 では適応 性 が 否定 さ れ るも のもあ る。現在 、 人 工授 精 '夫 婦 間体 外 受精 は 日本 産科 婦 人科 学 会 の会告 に合致 した 医療 措 置 と 見、 一方 '非夫 婦 間体 外受精 は会 告 に合 致 し て いな いが、 これ を も って直 ち に適 応 性 が な いと いえ るかどう か は慎 重 な判 断 が 必要 であ ろう。 す でに述 べた よう に' 人 工授 精 や体 外 受精 が 一応 不妊 対応 の技術 であ る のに対 し' ク ロー ン技術 適 用 によ り生 ま れ る ク ロー 七 四 ペー ジ 参 照 ン児 の創 出 は受精 妊 娠 の経 過 を た ど っておらず へ 一層 の異質性 を持 って いる こと は明ら か であ る。 す な わ ち 、 ク ロー ン児 の創 出 は、 卵 子と精 子 によ る受精 が な く' そ う した意味 で妊 娠 におけ る障 害 の除 去 を 目指 す 不妊 治療 ではな い。 ク ロー ン技術 が畜 産 にお いて家畜 の育 種 '改 良 、増 殖 技術 の 一つであ るよう に、 人類 にと って全 く新 し い個体 増 加 行為 と いう こと にな る。 した が って、疾 病 の治療 や奇 形 の矯 正な ど の医療 行為 と は全 く異な るも のと みる ことが 可能 であ る。 最 後 に、 医療 行 為 と し て の適 応 性 に否定的 見解 の多 い代 理母 と の比較 に ついて述 べる。 代 理 母 に ついてはす でに公序 良 俗 に 違 反す ると いう考 え方 を あげ てお いた が、 公序 良 俗違 反 はまさ に法的 判 断 であ り、麻 薬 の吸引 や や くざ にお け る指 詰 同様、 公 序 良 俗 に 反す る こと を 理由 に'当該 医療 行為 を 医学 的適 応 性 を欠 く と し ても 不当 ではな い。 す でに説 明 した よう に'代 理 母 は 社会 秩序 に対 し混 乱 を生 じさ せ る 可能 性 があ るが '一方 でそれ は国 に おけ る裁 量的 な判 断 を 下 し得 る余 地 もあ る。これ に対 し、 ク ロー ンによ り作 り出さ れ る新 し い親 族 関係 は擬 制 の余 地 のな い' 一層大 きな 混 乱 を招致 す る こと とな るも のであ り、 公序 良 俗 に反す ると 見 る こと は代 理母 に比 べ ても 不都合 はな いであ ろう。 ∽ 1万㌧医療技術 は多 く の場合 対象者 に 1定 の身体上 の侵害を加え る ことによ って効果を生むから、医学的 正当性を判断す る 場合 に は'特 に侵襲 によ っても た らさ れ る有 効性 と有 害 性 の利害 を考 量 Lt そ の効 果 と いう利 益 が有 害 性 と いう 不利 益 を上 回 る時 に のみ 正当 化さ れ る、 こ の利 益考 量 も 医学 な いし医倫 理 から導 かれ るが'な お医倫 理 から 画 一基 準 を引 き出 す のは実 際 上 困難 であ り 'こ の場合 も法 的 評 価 を加 え て いかな る場合 に 正当な 医療 と し て承 認 でき るかを 決 めな け れば な らな いとさ れ る ( 大 谷実 ・同上 ) 。 ク ロー ン技術 に伴 う安 全 性 に ついては'体 細 胞核 提 供者 はほと んど何 の危険 もな く、 卵 子提 供者 及 び 子宮 着 床 者 にあ る程度 の危 険 が 予想 さ れ るが' 圧倒 的 に大 きな 危険 性 '遺 伝 的 影 響 を受 け る のは子供や 子孫 と いう こと にな る。 1方 、利 益 を受 け る のは体 細 胞 核 提 供者 のみ であ る。 通常 の人 工授精 や体 外受精 も、 こう した 一方 的 受 益性 を持 っては いるが、受 益者 に ついて言 11 5 えば人 工授精や体外受精 が少なくとも夫婦 二人 の利益に合致する のと比較 しても極端 に 1方的 であ り、また危険性 から言 って も感受性 の高 い生殖細 胞を使 う のと比 べて 一層遺伝的影響 の危険度 の高 い行為 であ り、両者 の技術 は安全性 の観点 からは質的 にも大 きな相違 があ ると考えられ る。 S以上 のように、ク ロー ン技術 はそ の適応性及び正当性 から問題は多 いと考えるが、 いずれにしても この問題は、医療行為と しての適応性、正当性 の判断 であ り、科学技術 の判断 に加え て医療行為 としての判断がなされ る ことも必要 であ ろう。そして、 このような 不適応 性'非 正当性 はもち ろん法律 によ って確認され ることも十分な条 件 であ るが、医療水準や運用基準が従来 医 事法 にお いて法的根拠 を明確 にされ てこな か った ことを併 せ考 えれば'学会や国 のガイドライ ンのような形式 で医療行為 の基 補説 ・技術基準論 準化がなされた場合'現在 の医師法等 の規制 における不許可や処分行為 の根拠とす る ことも十分 可能 であると考え る。 第 四項 の 現在 '行政 の実施 のため の多 く の技術基準が定められ ている。 これらは、多 く法令 の形式 で定 められ ているが、中 には審議 [技術 基 準 に対 す 会 の基準 と し て定 められ ているも のもあ る。 法令 と し てはへ 法律 ・政令 ・省令 ・告 示 ・通達等 ( 下位規定 の中 には法的根拠 る裁 判 所 の審 理] の明確 でな いも のもあ る) の形式 があ るし、審議会等 の基準 に ついては原子炉 の設置許可を行う に当た って意 見を求 められる 原子力委員会 が'審査 ( 実際 は内閣総 理大 臣から の設置許可を与え るに当た っての諮問 に対す る答申 の検討) に当 た って使う 原子炉立地審査指針 のような基準 ( 個別審査 に当た っての審議会 の裁量範囲内 での基準と言え るであろう)などがあ るQ ちな みに、原子力発電所 の立地な どをめぐりそ の専 門技術的基準 の当否を争 う いわゆる科学裁判 にお いて、行政庁 の裁量 に 対 し司法権 の審 理 ・判断を考察す るに当たりしば しば 「 不確定法概念」と いう考 え方が出され て いる。 これは元 々ドイ ツにお いて、議会自 らが本質的な事項 の決定 を下し'行政 に委ね てはならな いと いう本質性理論 の原則が確立 していたが' こうした 中 で、原 子力法 で定 められた包括的な基準 に ついて'立法者 が無 用な法律を定 められるか、または規律を全く断念す るよう に 強 いられ る場合 には、 それをあえ て法律 で定 める こと は立法技術的 に困難 であ るとして不確定法概念 の使用を認める こと にな ったも のであ る。 ( 技術基準論 に ついては' 不確定法概念 にお いて裁判 所が行政庁 の行う専 門技術的裁量 に ついてど のような 審査権 を持 って いるかが大 きな関心 であ り'後掲高木論文 でも' ドイ ツにおけ る行政庁 の定 める技術基準 に対す る裁判所 の全 面審査権を制限す る理論と し て ( あらかじめなされた専門家鑑定 の理論)等 の紹介 ・吟味 が主たるテー マとな っている。) この 「 不確定法概念」 で、行政庁 のな した専門技術的な裁量 に裁判所 の判断が及ぶかに ついては様 々な議論が行われ、裁判 11 6 所 におけ る完全 な審 査 が及ぶ とす る ( 実 質 判 断代置説Vt そ の後 の科学 技術 施 設 の立地 に合 わ せ て提案 さ れた ( あ ら か じめな さ れた専 門家 鑑定 の理論Vtさ ら に結 果的 に は行政 の最終決定権 限を基礎 づ け る ( 判断余 地説) な どが提案 さ れ て いる。 我 が 国 で の学 説 をあげ ておけば ' 「 原 子炉設置 の許 可は、高度 に専 門技術的 知 見 に基 づく未来 予測的 な推 論を基礎 と した 不確実 な 確率的結 論を前 提 にし、 か つ他 面 では原 子炉 の効用など様 々な 要素 を配慮 し っつ、 これら の全 要素 を 比較評価 し未来を展望 し て行 うと ころ の総合 判断 た ると ころに特徴 があ る。 原子炉設置許 可は' このよう に専 門技術的 な判断 であ ると同時 に、未来社 会 の形成 に向 け て の、すぐれ て 「 政策的決断」 であ ると みられるから'客観的 に確定さ れた事実 を前 提 と した純然 た る法的 判 断と は言 い難 い面があ る こと は否 みがた いO - したが って'原 子炉設置許 可 のそう した裁 量的 要素 を考 え ると'裁判 所が原 子炉 の安全審 査 に ついて判断代 置方式 による徹底的 な実体審 理を避 けた のは妥当 であ ったと見 る ことが でき る。 - 最 も' 司 法審 査 に こう した限界があ るとす れば、行政判断 の悪意な いし専 門 の名 による独善 が起 こらな いよう厳格 に配慮 す る必要があ る。 - いま' これを 原子炉 の安 全審 査 に ついて言うと、現行 のシ ステムは'専 門家 より成 る原 子力委員会や 原 子炉安全専 門 委員会 の専 門技術的 な 調査審 議 及び そ の判断 に絶 対的 な信 頼を置 いて いる のであ るから、 そ こでの実 際 の審 理が法 の精 神 に則 って公 正 に行わ れ た かどう か は、厳格 な 司法審 査 に服さ な ければ らな らな い」 とす る ( 手続的実体審 理方式 ) ( 原 田尚 彦 「 伊 方 原発事 件 」 別冊ジ ュリ スト 〓 夫 号) や 、 「 被告 は原 子炉 の安 全性 を自 ら積極 的 に立 証 しな ければ な らず 、単 に裁 量権 行使 の相当 性 を立 証 しただ け では足りな い。 原告 は原 子炉 の安全性 に対す る疑惑や 不安 を提出す れば よく、被告 は これら の疑惑 を 解消す る に足るだ け の証拠や説 明を提 出 しな ければ な らな い。 ただ し'裁判 所 は原 子炉 の安全 性を自 ら の目 で終 局的 に判定 す る立 場 にな いので'中立的 な立 場 で、果 た し て被告 の説 明 で疑惑 が解 消さ れたと言え るかどう かを審 理す べき であ る。 いず れ が正 し いか判定 困難 な 場合 に は、 西 ドイ ツ の判断余地説的 な考 え方 で'被告 の主張を採 用す る。」とす る ( 判断余 地説) ( 阿部 泰隆 「 原発訴 訟を めぐ る法律 上 の論点」ジ ユリ スト六六八号)等 が代表的な意 見 であ る。 これら の背景 には、裁判 所 に こう し た判 断 を求 める には大 きな負担 が かか る こと'判断要素 の中 に単 に客観 的な専 門技術的判 断だ け ではな い政策的な判断 が含 ま れ て いる ことな ど があ るた めと解 さ れ る。 (この他 ' 原 子炉施 設 の段階的規 制方 式 に ついては、福島 第 二原発訴 訟 におけ る最 高裁判決 ( 最高 判 平成 四年 1 0月 二九 日) が出さ れ て いる。) これ ら の基 とな った'伊方 原発訴 訟に対す る最高裁 の判決 は' 原子炉施 設 の安全性 に関す る審査 は'当該 原子炉 そ のも の の 工学的安全 性、 そ の他社会的 条件 及び当該 原 子炉設置者 の技術的能 力と の関連 にお いて、多角的、総合 的 見地から検討さ れ る も のであ り' しかも審査 に当 た っては将来 の予測 に係 る事 項も含 まれ、 原子炉 工学 はもとより、多 方 面 にわ た る極 め て高度な 最新 の科学的 '専 門技術的 知 見 に基 づく総合 的判断 が必要とされ るも のであ る こと が明 らか であ る' このような 原子炉施 設 の 11 7 安全性 に関す る審 査 の特質 を考慮 し'基準 の適合性 に ついては'各専門分 野 の学識経験者などを擁す る原子力委員会 の科学的、 専 門技術的知 見に基づく意 見を尊重 し て行う内 閣総 理大 臣 の合 理的な判断 に委ね る趣旨 と解す る のが相当 であ ると し' 「 原子 炉施 設 の安全性 に関す る判断 の適 否が争われる原子炉設置許可処分 の取 り消 し訴訟における裁判所 の審 理'判断 は、原 子力委 員会 も しくは原子炉安全専門審査会 の専 門技術的な 調査審 議及び判断を基 にし てされた被告行政庁 の判断 に不合 理な点があ る か否 かと いう観点 で行われ る べき であ って'現在 の科学技術水準 に照らし'右調査審議 にお いて用 いられた具体的審査基準 に 不合 理な点 があり、あ る いは当該 原子炉施 設が右 の具体的基準 に適合 す るとした原子力委員会も しく は原子炉安全専門審査会 の調査審議及び判断 の過程 に看過 しがた い過誤、欠落 があり、被告行政庁 の判断が これに依拠 してなされたと認められ る場合 には'被告行政庁 の右判断 に不合 理な点 があ るも のとし て、右判断 に基 づく原子炉設置許 可処分 は、違法と解す べき であ る。」 0月 二九 日)0 言 い換 えれば ' このような点 での不合 理がなければ'行政庁 の裁量的判断を尊 と判 示した ( 最高判平成 四年 1 重す る こととな る訳 である。 このよう に、裁判所も学説も'現在 では裁判所に審 理が及ぶとす る実体的判断代置説 はほとんど 取られ て いな い。 このような' 不確定法概念 を取 る理由 に ついては'最高裁 は 「 審査 が---多方 面にわたる高度 な最新 の科学的、専門技術 的知 見に基 づ いてさ れる必要があ る上、科学技術 は不断 に進歩、発展 して いる のであるから'原子炉施 設 の安全性 に関す る基 準を具体的 か つ詳細 に法律 で定 める ことは困難 であ る のみならず、 最新 の科学技術水準 への即応性 の観点 から見 て適当 でな い」 と して いる。 ドイ ツにお いても、法律 に定 める のにな じみにく い理由と して、①規律対象が急速 に変 化す る場合、②技術的細 目を定 める場合 があげ られ て いると いう ( 高木光 ﹃技術基準と行政手続﹄ ) 。 しかし'科学技術 そ のも のを対象とす る場合 にお ∽ いては次 の で述 べるよう に'社会的 通念 と して確立す る知見以外 の基準が基準と して採用される可能性もあり'裁判所 の審 理が及ぶ範囲に ついての検討 はさらに新 し い視点を加え る必要があろう。 ∽ 近年'法律な いしそ の委任を受けた命令 では規定 Lがた い技術基準が出 てくる。 す でに見たと ころ では、製造物責 任法 の技 [技術 基 準 の規 範 術水準や 医事法関係 の医療水準 であり' これらは対象 が広範 であり、 か つそれぞれ の技術進歩 の早さ から特定 の技術基準を定 的 性格 ] める こと は不可能な状 況にあ る。本章 で検討 してきた生命科学技術 に関す る基準も、まさ に このような基準 の 一種と考 える こ とが でき る。特 に'それら の中に は社会通念と して確立 した知見とは言 い難 い未確定な科学的知見も入 っていると考 えられる。 高 木光 ﹃技術基準と行政 手続﹄ は'原発訴訟や大気汚染防止基準を素材 に ( 技術基準) に関す る詳細な検討を行 って いる。 そ の中 で' 「 行政裁 量や行政立法 を正当化す る要素 と し て指摘され る行政 の専 門技術性 には、各分 野ご と の専 門的 知識'技術 11 8 的 知識 そ のも のと'個 別的 な法令 の適 用 におけ る判 断 に留まらな い政策的行政的判断 の基礎 とな るような専 門知識 と いう、 二 つの異な った側 面があ ると考 え られ る。前者 は、 いわば 非法的 な専 門的 知識、技術 的知識 であ り' それ は本 来私的 領域 にお い て蓄 積 さ れ て いるも ので、 必ず しも行政 の独占物 ではな いこと に特徴 があ る。 後者 は、 いわば社会管 理 の技術 と し て の行政 を 支 え る知識 であ り、裁 判 所 と の対 比 で'行政 の最 も際だ つ特徴 と いえ る。」 と し、非法的 な専 門的知識 を取 り 込んだ法的 判断 であ る ( 専 門技術 的 判断) の中 には ( 政策的 判 断) ( 価値判 断) と いう要素 が含 まれ、 そ のような判 断 は科学的 判断 と いうよ り は 工学的 判断 と表 現す べき であ り'科学者 の判断 よ りは技術者 の判 断 に近 いと い って いる。基準 の持 つ二重 の性格 を指摘す る点 は、前掲 原 田 ・阿部論 文と 同様 であ る。しかし 工学的判断 '科学的 判断 の概念 の差 は この論文 では必ず しも明確 ではな く' こう した 見方 は、社会 通念 と し て確 立 した知 見があ る ことを前 提 に考 え て いるよう に見受 けられる。 一 一lページ 参 照 しか しな がら'従来 の技術 基準 が 工学的 基準 であ ると し ても、本論 で検討 し てきた生命科学 技術 に関す る基準等 に ついて見 ると き' これら はや は り科学的基 準 と いう に値 す る性格 を持 って いると考え られ る。 例えば へ製造物責任法 の予見可能性 で例 九 二ページ 参 照 にあげ た よう に'薬剤 の製 造 に当 たり過去 の学術 論文 における網羅的な検索 が要求され る注意義務 は'科学技術情 報 の収集 シ ステ ムがあ くま で研究者 の需要 に合 わ せた形 で運営さ れ て いる ことを考 えれば ' こう した情 報誌を検索 す る注意 を怠 った こと で責 任が問 われ'ま た情 報誌 を検索 すれば責 任が免除 さ れ る こと とな る こと自 体 ' 工学的 判断 と言う よりは科学的判 断と見 る べき であ ろう。 社会 通念 と し て確立 した知 見 に基 づく基準 によ っては免責さ れな い可能 性があ ると言う意味 で' そ の基準 は成 文化さ れ た基準 ではな く、現在 行 われ つつあ る科学 技術 活動 ( 研究 活動や論文) に影響さ れた基準 とな るわけ で、 そ の意味 で も、従 来 の基準 と は かな り異 な ると考 え る ことが でき る。製 造物責 任法 の技術水 準や 医事法関係 の医療 水準 で既 に科学的水準 に近 い考 え方 が取 り 込まれ て いたが'も し研究規制を行 う こと にな るとす れば ' それは更 に 一層学問的 領域 に近づ いたも のと な り、 医療 水準 の紹介 で述 べた 「 学 問と し て の医学水準」 と 「 実践 と し ての医療 水準」 の前者 の水準 に該当 す る こと にな るも のと考 え られ る ( 既 に述 べたと ころ であ るが、 医療 の正当性 は後者 によ ると解 す る のが通説 ・判例 であ る) 0 一方 、特 に近年 こう した科学的基 準が安 全性だけ ではなく倫 理性や社会的妥当性 も加味 され て作成さ れ て いく中 で'単 に専 門家 だけ でなく広 く 国 民 の意 見を聴 き作成 さ れ る こと により'高 木論文 に述 べられ ているような私的 領域 に蓄積 さ れ て いる の でもな く'また行政 の独占物 と は言 わな いが、行政 の関与 ( 世論調査' 公聴会 、 シ ンポジ ウ ム'基準策定 に当 た っての国民 の 意 見を聴 く機会 の設定 など) な く しては作成 す る ことが困難な基 準が増加す る ことが 予想 さ れ る。 こう した基準 は、裁判 所が 自 ら学術 論 文を集 め判 断す る ことだ け では基準 を示す ことが困難 な領域 であ ると いう意味 でも、社会的 規範 と し て の法的な効 果が認 められ てもよ い事例 であ ると考 え られ る。 11 9 いず れにし ても'従来 の技術基準が'①社会 通念 と して確立 した ( 医療水準 になら って いえば ' 「 専門家 レベ ルで現 に 一般 化 した」 )知 見を前提 に明文化さ れ'② そ の性格 が専 門知識を盛 り込んだ政策判断と いう要素 を含 み'③ 行政 の独占物 であ る と いう性質を持 っていたとす れば'今後必要とされ るク ロー ン技術 の適用に関す るような生命科学技術等 の新 し い基準 は、① 流動的 で未確定 な科学的知見を踏 まえた科学技術活動全体 でとらえられ ( すなわち明文化 しがたく) '②専 門化 した知識を踏 まえた倫 理的判断と いう要素 が強く'③ このために'行政が専門家や研究者、さらに社会 と の媒介 とな り つつ、社会的な秩序 を確認す る過程 で形成され る基準 と考え る ことが でき'両者 は極 めて対照的な性格を持 つも のとな っている。 そして、お のず と こう した基準 の内容 の違 いは'基準 の持 つ社会規範的性格 にも新 しい性格 を与え る こととな ると考えられる。 な お、 このような'最高裁判決や学説 で示さ れた 「 不確定法概念」 を前提 にした裁判 所 の審 理'判断 の範囲限定 の考 え方 と 対比す るとき、本章冒頭 で述 べた遺伝 子組換え指針 に対する水戸地裁判決が同様 の裁判所 の審査限定 の方式 を採 って いる こと 九九 ページ参 照 は、背景 に不確定法概念を含 む法規範 に相当す るような'裁判 に当 た って援 用されるべき規範 ( 公序良俗や'医療行為 の基準) が存在す る ことを念頭 に置 いている ことをうかがわせるも のと見る ことも できる のではな かろうか。 第 一項 第 二編 合 意 形成 の為 に必 要 な 当 事者 規 制 のた め の合 意 形成 努 力 1.合 意 形成 への努 力 川合意 への努 力 伊藤 晃輔 第 1編 で見 てき た よう に'生命 科 学 技術 、 特 に生殖 医療 技術 の社 会 への適 用 に当 た っては、 広範 な 国 民 への影 響 があ ると こ ろ から そ の合 意 へ向 け て の努 力 が 必要 とさ れ ると ころ であ る。 もち ろん'生命 倫 理 に関す る意 見 は多 様 であ り、完 全 な る意 見 の合 致 は困難 であ った こと は'す でに法 制度 の整 備 を終え た欧 州各 国 でも変 わ り はな い。 イギ リ ス、 ド イ ツ では立法 のもと とな る報告 書 ( ワ- ノ ック報告 、 ベ ンダ 報告 ) の作成 段階 で異 見 が提 出 さ れ て いる Lt フ 二 四 ページ∼参 照 ラ ン スでは立法 化 に対す る異 議申 し立 てが提 出さ れ'憲 法裁 判 所 の判 断 が 下さ れ て いる。 と り わけ' キ リ スト教 の影響 が生 活 社会 の隅 々にま で及 ん で いる欧 州 の状 況 から、生殖 にお け る倫 理的合 意 は困難 が 予想 さ れ ' ワ- ノ ック報告 では報告 書 冒頭 に 倫 理的 問 題 で の意 見 の 一致 は困難 であ る旨述 べら れ てさ え いる。 ま た、 アメリ カ では こう した 問 題 に関 す る立 法 化 を図 るに足 り る コンセ ンサ スが できあ が って いな いこと ( 特 に 日本 、欧 州 な ど ほと ん ど の国 で成 立 し て いる中絶 に関す る統 1的 国内 法さ え存 在 し ておらず 、各 州 の判断 に任さ れ て いる こと) は この間 題 の難 しさ を端的 に示 し て いる。 にも か かわ らず '欧 州 で の生 殖 医療 技術 に関わ る規 制 の整 備 は進 ん でおり'特 にク ロー ン技術 の適 用 に ついても それ ら は援 用 でき る体 制 とな って いると 言 わ れ る。欧 州 の このよう な 対応 は、 さ ら に国内 に留 ま らず 国際連合 教育 科学 文 化機 関 ( U NE SCO ) 二二ページ∼参 照 やEUに おけ る基 準 と し て採 用さ れ る 可能 性 も高 く、 早晩 我 が 国 にお いても 明確 な 規 制 に対す る態度 が求 められ る こと が 予想 さ れ る。 我 が 国 国内 に お いても ク ロー ン技術 の規 制 を求 め る声 は強 く存在 す る 1方 、先 端科学 技術 の研究 の制 約 がな さ れ る こと に つ いて危 快 の念 も 示さ れ て いる。 ∽合意 努 力 の方法 こ のよう な中 で最 低 限求 め ら れ る こと は、様 々な意 見を踏 ま え た上 で の意 思決定 が行 わ れ る こと であ る。 ここでは、意 思決 1 21 定 のプ ロセ スはしばらく置き'意思決定 に当 たり提供さ れる' いわば、様 々な材料 に当たる、 国民各層 の意 見がど のように集 められ'問題整 理され、意思決定 しやす い形 に加 工さ れる ことが望 まし いかを検討す る。 このよう に国民各層 から の意 見を整 理しようとす る場合'①誰 から② ど のよう にし て意 見を求 めるかがまず問題とな る。前 者 に ついては項 目を改 め て検討す る。後者 に ついては'国民各層 から意 見が集 められ'特 に対立 し合 う意 見に ついて活発な議 論が行われ'規制 に関す る考え方が深められ て行く ことが重要 であろう。 当然 のことながら'合意形成 のためには' いく つか の必須 の要件 があり、特 に公開 ・アカウ ンタビリテ ィ'教育 tNPOの 役割 など は欠かす こと のできな い要素 であ る。 しかしながら'す でに本論 では、第 一編 で'法的規制 に ついて検討 してきたと ころ でもあり、 この間題と関係 の深 い'上 の二 つの事項 に ついてさら に検討 してみる こととす る。 このほか の事項 に ついては 引き続 き、検討を進 めることとした い。 意見 の収集や議論 の目的 は'意思決定者 が意思決定を行う際 の材料を十分提供 し'複雑な利害関係が錯綜す る関係者 間 の利 害 調整 を体系的 ・統合的 に行う ことによ って、当該規制 に対す る合意形成 の醸成 を図る こと であ る。 したが って議論 の進め方 と して'異な る立場 の利害関係 の代表者を議論になじむ範囲 で広く入れ、シンポジ ウ ムや 公聴会等多様な意 見交換 の場を重ね' 反駁もかみ合わ せ つつ総合的な判断が できるような様 々な議論を展開す る ことが望まし い。 また、国全体と しての効率的な議 論を進 め るためにも、 それま での議論を分 かり易く整 理し、後 から利用 でき る形としておく ことも重要 であ る。 こう した合意形成 手法 に ついては、第 二項 で紹介 す る こととした い。本項 ではも っぱ ら、ど のような立場 の者 から意 見を聴 す る べきかに ついて検討す る。 二.想定 される当事者 上述 の合意形成 へ向け ての努力を行う上 で'誰 から意見を聴すればよ いのか'意 見聴取が必要とされる当事者 ( または当事 者適格)を具体的 に検討す る。 前述 したような規制 に関す る当事者を検討す る場合'患者や市 民も含 め て幅広 い関係者 の持 つ利害を検討 し、分類す ること により問題を浮 き彫りにす る ことが でき ると考える。 鴇ちろんす べての関係者 を抽出す る ことは不可能 であ るが'各当事者 間 に存在 す る'な いし存在 しう る利害 の対立を原理的 に認識 した上 で議論す る ことが重要 であ ろう。 ここではまず想定さ れる当事者 と して、大 ぐくりに研究規制 に関す る直接的利害関係者 、間接的利害関係者、利害関係 に中 1 2 2 立的 であ るが この間題 の検 討 に必要な者 に分 け、 それぞれ 「 第 一類 」、 「 第 二類 」' 「 第 三類」 と し て検 討 し てみる。 な お'第 二類 の 「 市 民」 で指摘す るよう に、現実 にそれぞれ の当事者 がど の類 に属す るかは、 そ の判断 が極 め て難 し いが' ( 直接的 な利害 関係者) 以下 の議 論を進 める上 で'典 型的 な例 をあげ て概念整 理と し て試 みた。 ‖第 一類 規制 により'直接的 に権 利や利益 が損 なわ れると考 え られる関係者 であ る。 特 に第 一編 で論 じたよう に何ら か の法的 規制 が 行われ るとす れば 、 これら の当事者 は訴 訟等 でそ の権 利や利益 を争 う資格を有す るも のと いう こと にな る。 ここでは'多 少法 的な意味 で の当事者能 力 より広 め に範 囲を設 け て考 え る こととす る。 こう した意味 で代表的 な当事者 の例 と しては次 のような 種類 に分 け る ことが でき る。 ① 技術 の被 適 用者 ( 患者'家 族な ど) 生命 科学 技術 の研究成 果 の適 用を受 け る者 であ り'通常 は患者 や そ の家族 ( 及び これら の代 理人)が考 え られ、彼 ら は安全 ' 健康 のイ ンセ ンテ ィブ '研究成 果 の適 用 の選択 に関す る自 己決定権 を有 し て いると考 え る べき であ る。 このため特 にそ の患者 の意 向 を尊 重 し て'患者権 利章典 が編まれ たり、 イ ンフォー ムド コンセ ント の仕組 みが議論さ れ、我 が国 にお いても医療 現場 にお いて普 及 し てき て いるo しか し患者 ( 家 族を含 む) を代表す る立場 も単 1ではなく'今 回 のような検 討 に当 た っては、樵 々の立 場 の患者 に ついて検討す る必要があ る。 まず、現在 の我 が国 の医療 の実態 にお いて'成 果適 用を受 けようと しな いし受 けた者 に ついて基本的 には次 のような 二 つの基本的態度 が現れ る こと は否めな い。 ・研究者 ( 医師) を信 頼 し選択 を研究者 へ委 任 しょうとす る被適 用者 と、研究者 ( 医師) の説明を受 けた上 であくま で自 己決 定 しよう とす る被適 用者。 さ ら に、技術適 用 の選択 のし方 にお いて、被適 用者内部 で利害 対立 ( 利益相 反) が存在 す る可能性 もあ る。議 論 に当 た って は'各当事者 間 と 同様 に、被適 用者内部 に存在 しう る利害 の対立 の存在 を認識 した上 で議 論す る ことが重要 であ る。 例えば 、 ・研究成 果 ( 治療 ) の適 用選択 に際 し、自 己決定 が できな い植物状態 の患者 とそ の選択 を全 面的 に委 任さ れ る家族。 ・出生前診 断等 の医療 行為 ( 研究成 果) の適 用選択 [ 例 ︰中絶]を行 う母親 と'母親 の選択 に従わざ るを得 な い子供 ( 胎児 ) 0 ( 従来生殖 関連 技術 にお いては、胎児 は母親 と 一体 ( また は胎児 は母親 の 7部) と考 え られ てきたが'生殖 医療 技術 の進展 に 伴 い新 たな検討 が 必要。) ・研究者 ( 医師 ) の説 明を受 け自 ら選択 を求 める患者 と説 明による 万 1の事故 を おそれ患者 への説 明を求 めな い家 族。 1 23 上述 の他 に' 同じ研究成 果 の適用 の結 果、利益を得 た ( あ る いは得 るであ ろう) 「 受益者」と不利益を被 った ( あ る いは被 る であ ろう) 「 被害者」と いう利害 の対立 ( 利益相 反) の存在 も考 えられる。例えば' ・手術 に成功 した者 と手術 に失敗 した者。 この中 には結 果そ のも のではな く'行為 そ のも のに ついて異な る基準を持ち、対立す る立場もあ る。例えば ・生命 維持 のために輸 血を求 める者 と、宗教的 理由 から輸血を受けようと しな い者。 このような いく つか の立場から の検討も必要な場合 があろう。 ②被験者 一般 の適 用者 に先立ち'研究成果 の適 用を試験的 に受 ける人 でも っぱ らボ ラ ンテ ィアの立場 で医学研究 に協力す る立場 に立 つ。 =受益者)と効果 のな か 被験者内 にお いても'例えば'新薬開発 の臨床試験 にお いて、効果 のあ った薬を施された被験者 ( =被害者) のような利害 の対立 の存在 の可能性があ る。 ( 例 ︰薬を投与された人と偽薬を投与さ れ った薬を施 された被験者 ( た人 の立場) ③ 将来世代 現世代 の被適 用者 の研究成果適 用 の選択 により影響を受ける将来世代 であ る。当然 そう した世代 は発言す る機会 を持 たず' これら の世代 の代弁を考慮 しな ければならな いが'通常考えられ ているよう に利害 の代弁者と して単純 に両親 のみを考え てよ いか'検討 の余地があろう。 ④ 研究者 ( 医師) 規制 の対象 とな る生命科学技術 の研究を行 い、研究 の成果を被適 用者や被験者 へ適用す る専門家 であ る。規制 の結果'自 ら の研究 活動 に直接影響を被 るが、 一方 で医師 には 「 養生医療を施す に当た っては、能力と判断 の及ぶ限り患者 の利益 になる こ とを考 え る」 ( ヒポ クラテ スの誓 い) のよう に患者 と 一体 とな る倫 理的責務 を負 っており、 必ず しも① ) の被適 用者 と対立す る当事者 と のみ見 る ことは正しくな い。 ( たとえば' 「 イギリ スで女性達 は医師を味方 に つける こと で中絶 の合法 化を勝ち取 っ てきた」 ( 金城清 子 ﹃生命 誕生 をめぐ るバイオ エシ ック ス﹄ ) ) 。 このカ テゴ リー には医師'先端医療科学者 、製薬企業等 の研究者等広範な関係者 が考えられる。研究推進'医療行為、新薬 開発 のイ ンセ ンテ ィブ '研究 活動 の自由を有す るが他方'被適用者 ( 患者)等 への説明義務 が課せられ て いる。 このような研究者 ( 医師) たち の中 にあ っても患者 ( 被適用者) と同様、利害対立 ( 利益相 反) の可能性があ る。例えば' 1 24 ・医療方 針 に ついて見解 の異な る同 一医療 チー ム内 の医師 と医療補 助者。 ・適 用者 へ研 究成 果 を適用 す るに際 し て'意 見、 見解 の相違 から生 じる病院内 の科等 の対立。 ( 例 -特定 の患者 にと って外科 的措 置が よ いか、内 科的措 置 がよ いか) ・自 分 が行 って いる研究 ( 治療 ) を推進 す る研究者 ( 医師 )と、研究 所全体 の研究計 画、 予算 等や'当該 研究 の安全性 '倫 理 的観点 を勘案 す る研究管 理者。 上述 のような利害 の対立 の他 に'研究者 は'研究成 果 の被適 用者 ( -受益者) から委 託を受 け受益者 のため に研究 ( 治療) を行 って いると考 え れば、被適 用者 内 におけ る研究成 果 の適 用 の利害 対立 の関係 ( 例 えば 「 受 益者 」 と 「 被害者 」 ) が'研究 者内 にも 反映さ れ る可能性 もあ ろう。 ⑤ 行政 国全体 の利益 を勘案 の上'法律 ・ガ イドライ ンによる安全確保 の枠 組 みを決定 し'競合 す る政策 の調整 を 行う。 単 に安全 の 規制 のみにとどまらず 医療 に関連す る生命科学 技術 の推進、国家戦 略を踏 まえ て長期的視点 から我が国 の戦略 ・政策 を立案 す ( 間接的利害 関係者) る責 任 を負 う。 ∽第 二類 第 1類 ( 直接的 利害 関係者 ) と は異な り、社会 通念 上権 利や明確な利益 を持 つも のではな いが、 そ の技術 の適 用 によ って実 現す る社会 の状 況な ど に関心を持 ち ( 特 に政治的な 活動 を通 じ て)意 見を述 べる人 々な いし集 団が存在 す る。 間接的 であ るか らと い って、 二次的 な役割 を果たす も のではな く'技術 や問題 によ っては第 1類 の当事者 より大 きな役割 を 果たす場合さえあ る。 ①社会 のあ り方 に 一定 の立場を持 つ人 社 会 のあ り方 に積極 的な意 見を持 つ宗教 団体等 で国 民 の相当数 の支持 を得 て いる集 団や'社会 活動 団体 等 は、第 1類 の当事 者 のような直接利 害 関係を持 たな いが、政治的 な場な ど では大きな影 響力を持 つととも に、 そ の主張が比較的 論 理的 1貫性 を 持 って発言さ れ る ことが多 い。 欧米 にお いては生殖 医療技術 に関 し てキリ スト教 の影響力が強 いのも、特 にカ ソリ ック系 にあ っては歴史 的 にも市 民法 に匹敵 す る法学 ( カ ノ ン法) を持 ち'ま た哲学的体 系を 維持 しt か つそれが全 世界的な価値判断と し て通用す る シ ステ ムを持 って いる こと によ る。事実 このような考 え方 の影響 の下 で、 一部 の市 民法上 の新制度が生 まれ てきた とも言われ ている。 したが って、第 一類と は別に これら の人 々の意 見を聴取す る当事者 と し て入れ る こと は、合意 形成 の努力 1 25 のためには合 理的 と考えられる。 ②市 民 一般的 に、 このような問題 に ついては意思決定 の段階 で広 く市 民 の意 見を聴く ことが求 められるが、市 民とはど のような定 義 のもと に集 められる のか'また市 民 の当事者 分類 の中 でど のような位置づけに置く べきかは明らかにLがた い。 この分類 の 中 では'第 二類とも第 三類 に加え る余地があ るとも考えられ'あ る いは全く独立 した立場とも考えられるが' 一応 ここでは第 二類 の中 にあげ ておく。 市 民は、 I般的 に当該 研究と直接 の利害関係を持 たな い'すなわち非適用者 か つ非研究者 であり、専門知識を持 たな い非専 門家 と考 えられる。今 後'科学技術 に関す る政策 の策定 の中 で' いわゆる市 民 の意見を聴す る機会 は増え ていくも のと思われ るが'第 一類①∼⑤ の当事者 に比べて特 にそ の要件 は不明確 であ るo問題点を掲げ ておく. ・市 民 は、上述 の当事者 以外 の者 とすれば、 そ の立場、役割をど のよう に考え る のか。 いわば 「 そ の他」当事者 の意 見を補 完 し'社会的常識や規範 の代弁者 と して'各当事者間 の緩衝剤または レフ ェリーとしての役割を期待される のか。 ・市 民 は'規制 の対象 とな る研究分野に対し関心を持ち、自 己 の意見を持 って議論に参加す る ことが求 められる。 とすれば' 現在 は規制対象 の研究分 野に関心がな いが'将来関心を持 つ可能性 のあ る市 民 の意 見をどうす る のか。 また関心を持ち、意 見 も持 っているにもかかわらず、自 己主張を しな いもしくはしたくな い等 の理由 から議論 に参加 しな い市 民 の意 見をどうす る の か。 それらを代弁す る のは誰な のか。 ・市 民は'多様な意 見 の持ち主 で構成す べきとすれば' そ の選定 に当 た っては当事者 の悉意性 の排除が必要 ではな いか。あ る いは積極的 に他 にはな い意見 の持ち主を採用す べきか。また目的 によ っては陪審員制度 のような無作為 の抽 出も考えられよう。 ・市 民と研究規制 の利害関係 の有無 に ついては、完全な 予見が不可能 であ る ので、議論 の過程 で特定 の利害関係 の存在 が明ら かにな った市 民は' 「 市 民」 の範境 から当該当事者 の範噂 への移行も考えられよう。 ・あ る いは'外国政府 及び外国 人は 「 市 民」と言え る のか。 以上 のように、当事者 と し ての市 民を T義的 に定義する こと は極 め て困難 であ る。合意 形成 に関す る市 民参加型 の諸施策 に っいては様 々な見解 があ りt か つこれを個別ケー スご とに範囲を検討す る等 し、 こうした議論を通じ て市 民 の概念 の研究を深 め て行く 必要があ ろう。 ちな みに、欧州 における生殖 医療技術規制 の検討 に当たり、各種 の委員会 で明確 に市 民 の立場 で選ばれ ている者 は少な いよ ぅ であ る。 テー マによ っては'市 民 の立場 の参加を求 める ことが難 し いも のもあ ると思われるo ( 市 民には、政治 ・行政 に参 1 26 加 す る機 能 と、 利害 関 係者 にはな い多 様 な意 見 の提 供者 と し て の機 能 の二 つが考 え られ る。 前者 に ついては、科 学 技術 の受 容 に は限 ら れ な い 一般 的 な行 政 参加 論 と し て従 来 から膨大 な 研究 があ る ので'本 項 では特 に後者 に ついて の'特 に生命 科学 技術 ( 利害 関 係 に中立的 な 関 係者 ) の成 果 の適 用 に ついて の意 見 の提 供者 と し て の機 能 に注 目 し て論 じた。 ) S第 三類 第 一類 、第 二類 に属さ な い者 であ るが、 こ の間 題 に ついて意 見を聴 す る必要 が あ る当事 者 を第 三類 と し て掲 げ た。 第 一類 ' 第 二類 のような 利害 関 係 に中 立的 な専 門家 と し て の立 場 にあ る者 と いう こと が でき る。 ① 直 接 の利害 関係 を持 たな い研 究者 当該 規 制 の対象 と な る研究 を含 む研究 分 野を専 門的 に研究 し てお り'規制 対象 以外 の研究 を行 って いる研究者。 研究 規 制 に ょ って直 接 自 分 の研究 を規 制さ れ な いが'当該 研究 規 制 に ついて専 門的 な視 点 から意 見を述 べる者 であ る。 ② 周 辺 の研究者 等 。 当該 規 制 の対象 とな る研究 を含 む研究 分 野 に ついて、自 ら の学 問 '知 識体 系 の中 から豊 富 な 周 辺知 識 を も って'研究 規 制 に ついて意 見を陳 述 でき る研究者 及 び有 識者 。 例と し て ・当該 規 制 の対象 とな らな いが '関連 す る分 野な いしそれを包 含 す る研究 分 野 の研究者 ・研究 規 制 の実施 に当 た って の法体 系を検 討 す る法 学者 。 ・生 殖 医療 に ついて倫 理的 な観 点 か ら研究 し て いる生命 倫 理学 者。 二 定 の知 識 を持 ってメデ ィアを 通 し て当該 問 題 を社 会 に伝達 し、 ま た それ に関 し広 範 な意 見を 見聞 し て いるジ ャー ナ リ スト 等。 ③ 仲介 す る専 門家 等 先 端的 な科 学 的 知 見 を適 用者 及 び市 民 へ説 明 し合 意 形成 す る手法 の専 門家 。 今 後 '科 学 技術 政策 に対す る アカウ ンタ ビリ テ ィが強 く求 め ら れ て行 く中 で、 様 々な議 論 の場 が 設け られ て いく 可能 性 が高 ま って いるが' そう した中 で'各 当事者 が議 論す るに当 た って の コーデ ィネ ー ター が 必要 とさ れ る。 1 27 ≡.想定される当事者 の問題点 ( ク ロー ン技術 の場合) M代表的な当事者 科学技術 の適 用 の規制 に関 して検討を行う に当た って'意 見を求 める ことを考慮 す べき当事者 に ついて検討 し てみた。基本 的 には'法律 における当事者能力 に準 じ て利害関係者を考察 し てみた のであ るが'最後に具体的案件 に即 して、 これら の当事 者 がど のように選ば れる べきかを考え てみる。 す でに'第 一編 で、生殖 医療技術、特 にク ロー ン技術 の適 用を中心に法的規制 の検討を進 めた ので、 ここでもク ロー ン技術 を取り上げ てみた い。 まず ク ロー ン技術 の適 用 に ついては規制を望 む のは いかな る立場から の要望な のか。体細胞核を提供 し てク ロー ン児を創 出 しようとす る者 ( 被適 用者)や医師 ・研究者 は明確な利害関係者 であ るし、未受精卵や受精卵を提供 し、 また自 ら の母胎 にそれを着床 しょうと いう女性 は被験者 に準じた立場 の利害関係を有す る こととな る。 これら に対し て'ク ロー ン技術 にお いて第 一類 の被適用者、医者 ・研究者 '被験者など賛成 の立場と対立す る反対 の意見は、 第 二類 の ( 社会 のあり方 に 1定 の立場を持 つ人 々) に相当す る ことにな ると考えられる。 ただ し'生殖 医療技術 に対 して欧米 では明ら かにキリ スト教系 の宗教団体が この役割を果た している のに対 して' 日本 では この立場を代表す る集団が必ず しも明 確 ではな い。我が国 にお いて研究推進 に対す る考 え方 が全 く否定さ れな いのも'あ る いは議論が深まりにく いのも こう した事 情 があ るも のと考 えられる。 もちろん アメリカ のよう に全 く コンセ ンサ スの形成 が頓挫す るような状況が好ま し いわけ ではな いが、明確 か つ論 理的 で 一貫した反対 の論旨が存在す る ことが、賛成 の立場を明確なも のとす るためにも'あ る いは両者調整 を図るため にも必要 であ るよう であ る。 当然 のことながら' このような意 見を市 民 の区分 のみに期待 し'それだけをも って足れりとする こと は、 元 々市 民 の定義 が 明確 でな いと ころからも問題があ ろう。 したが って、我が国 におけ るク ロー ン技術 の適用 のような問題 の検討 に当た っては' このような第 二類 の立場 の主張を汲 み 取り ( 的確 に行われた世論調査 は、十分 このため の有 用な汲 み取 り の方法 であ る)'論理的な意 見と し て再構築 し、 このよう な立場を踏 まえ て規 制 のあり方を議論す る ことが望まれよう。 ∽上記図式化に習 ったク ロー ン技術 における意見 の例示 第 1項 の最後 に、第 1編 で見 てきたク ロー ン技術 に関連 した論点や意 見等を参考 に、上記図式 の当事者 にお いて'当該規制 1 28 問題 に ついて議論を行 った場合 に予想される意 見を整 理し てみる。あくま で参考 と して見て頂 きた い。 何第 l類 ィ.被適 用者 ( 患者) 自 己 の体細胞核を提供す る者 に ついては'次 のような権利や利益 の主張がなさ れる可能性がある。 ① 人 工授精、体 外受精 と同様 の個 人 の決定 に基づく不妊治療方法 とし て 0年九 月調査 日内 閣総 理大 臣官房広報室) では、 「ク ロー ン技術 によ っ (「 ク ロー ンに関す る有識者 ア ンケート調査 」 ( 平成 1 て不妊症 の夫婦が、受精 によらず夫 か妻 の遺伝 子をそ のまま受 け継ぐ子供を持 つことが可能 となるとも言われ ていますが この ような 目的 でク ロー ン技術 を使 う ことに ついて'ど のよう に思 います か」 の質問 に対 し'調査 対象者 二 二 四名中、 「 使う べ き ではな い」 ( 六七 ・三%) に対 し、 「 他 に方法がな い場合や'審査期間 の承認を必要とす るなど の 一定 の条件 ・制約 の下 で使 う のであれば問題な い」 ( 二二 ・〇%) の回答 があ る。) ②無精 子症や精 子を作 る能力 のな い男性 の立場 から自 ら の子孫を残す機会 として ③男性 の関与 しな い子供を作 る女性 の権利 の主張と して ④自 己 の完全な遺伝 子を将来 に残 した いと いう自 己決定権 の 一種と して このほか'他人 の体細胞を用 いる者 とし ては、 ⑤ 死亡 した子供 の体細胞から'親が そ の子供 のク ロー ン児 の作成 を希望す る場合等 があり得 る。 ロ.被験者 子宮 提供者を被験者 として考えれば' ①代 理母と同様'他人 の子供 であ っても出生す る権利として ② なお、代 理母と同様 出生 した母親 は親権 を主張す る可能性があ る ハ.研究者 ( 医師) 研究者 ( 医師) の 一部 は、研究 活動 の自由 からク ロー ン技術 の適 用を望 む 一方'医師 の立場としては、上 にあげ た被適用者 ( 患者)及び被験者 から の強 い要請 によ って実施す る可能性があ る。 ( 後者 の'患者 の立場 はす でに上 に掲げ た ので省略) ① ク ロー ン児創 出を 目的 としな い研究 に ついては、様 々な 人類 への福祉 の向上を可能とす る研究 として許されるべき であ る。 1 29 ② アメリカを中心とした先進未規制国が存在す る以上' ク ロー ン周 辺の技術 ( 例 ︰再生医療技術) で致命的 な遅 れをとるおそ れがあ る。 ③ 国内 で規制を しても医療 に関す る需要があ る限り海外 へ出国 して海外 での実施 などを防 ぐ ことが できな い。 ④自 己 の個 人的倫 理観 ・宗教観 から誤 って いると思わな い。 前述 の 「 ク ロー ンに関す る有識者 ア ンケート調査」 によれば ' 「 ク ロー ン技術 を ヒトに適 用す る こと は好ましくな いか」 に 対し'調査 対象者 二 二 四名 の四 ・〇%が 「 そう思わな い」と答え ており'そ の理由 の内 訳は次 のとおり であ る。 ( 複数 回答) ① ク ロー ン技術 で生まれ てく る人 であ っても、誕生後 の環境要因 によ って能力 ・容姿等 は変化 しう るも のであ る ので' ク ロー ン技術 を特別視 す る理由 はな いから。 ( 五八 ・八%) ②男女 が関与 し て生まれ てく る人も、あ る程度、両親 の様 子からあらかじめ性質がわかる ので' ク ロー ン技術 を特別視す る理 由 はな いから。 ( 四〇 ・〇%) ③優 れた性質を持 つ人が多数生まれる こと は人類社会 の発展に役立 つから。 ( 二二 ・四%) ④科学 技術 の発展 の結 果 であ り、や むを得な いも のだ から。 ( 二九 ・. 四%) ⑤ そ の他 (一二 ・九%) 、わからな い ( 二 ・四%) 00第 二類 前述 のとおり'日本 では'( 社会 のあり方 に 1定 の立場を持 つ人 々)の立場を代表す る集 団が必ず しも明確 ではなく'( 市 民) の定義も 不明確 であ ると ころから、第 二類 の意 見 の汲 み取 りが難 し いと思われる。 前述 の 「 ク ロー ンに関す る有識者 ア ンケート調査」 では、 「 ク ロー ン技術 を人に適 用 し、 人 の個体 を生 み出す こと は'生命 倫 理 の観点 から好ま しくな い」と いう間 に対 し'調査対象者 二 二 四人中 の九三 ・五% の 一九七六人が 「 そう思う」と答え て おり' そ の理由 とし て ( 複数 回答) 、 ① 人間 は男女 の関与 で生まれ るも のであり'ク ロー ン技術を人間 に使う ことは'人間 の尊厳上問題があ るから。 ( 六七 ・七%) ②生 まれ てくる人を自由な個 人と いうよりあらかじめ定 めた目的達成 の手段と してとらえ るも のであ るから。 ( 四三 ・六%) ③ 人 の性質 をあ らかじめ意 図的 に決 める こと は、 そも そも許されな いから。 ( 二九 ・八%) ④特定 の優 れた形質 の人を生 み出す ことが優先される社会 が実現す る可能性があ るから。 ( 二六 二 %) 1 3 0 ( 1 〇 ・〇%) ⑤ ク ロー ン技術 で生まれた人と'従来どおり男女 の関与 によ って生まれた人と の間 で、社会的差別 の問題が生 じる可能性があ るから。 (一四 ・九%) ⑥生 まれ てくる人が安全 に成長す る ことが保証 できな いから。 ⑦ そ の他 ( 四 ・六%)'わからな い ( 〇 ・三%) とな っている。 また' ク ロー ン技術 の人 への適用 の規制 に ついて 「 日本 での規制 は世界 の規制と比 べてどうあるべきだと思 いますか。あな た の考え に最も近 いも のを 一つ答え てくださ い。」と いう問 に対 し、調査対象者 二 二 四人 の答え は、 ① 世界各 国と歩 調を合 わせるべき であ る。 ( 四二 ・八%) ②我が国独自 に厳 し い規制を設け て技術 の暴走 を予防す べき であ る。 ( 三八 ・一%) ③緩 い、厳 し いなど の概念 にとらわれず'日本 の実状 にあ った規制を設ける べき であ る。 (二二・七%) ④我 が国独自 に緩 い規制を設け て技術 を伸ばす べき であ る。 (一・九%) ⑤ そ の他 ( 二 ・〇%)'特 に意 見はな い ( 〇 ・三%)'わからな い 二 ・一%) とな って いる。 このような ア ンケート結果を参考 にすれば、第 二類 の意 見とし て、 ク ロー ン技術 の規制 に ついて肯定的なも のにな ると見 て よ いであ ろう。 いずれ にしても、 ここにあげ た のは'とりあえず考 えられる主要な対立意 見 であり' これらを踏 まえ て、さらにア ンケート や議論 の場を設計 し'活発な意 見 の交換 を経 て、より具体的な意 見を汲 み取 る必要があ ると考 える。 1 31 第 二項 合 意 形成 手 法 一. 先 端 技術 の検 討 の進 め方 木場 隆夫 ク ロー ン技術 の適 用 に関 し て は'す でに述 べた よ う に国 内 でも '科 学 技術 会 議 生 命 倫 理委 員 会 ク ロー ン小委 員 会 中 間 報告 ( 平 成 1 0 年 六 月 1五 日)、学 術 審 議 会 特 定 領 域 推 進 分 科 会 バ イ オサ イ エン ス部 会 報 告 (平成 1〇 年 七 月 三 日) が 提 出さ れ て いる 他 、 ク ロー ンに 関 す る有 識 者 ア ンケ ー ト 調査 ( 平成 l 〇 年 九 月 調査 ) も実施 さ れ て いる。 二一 九ページ∼ 参 二一 二ページ∼参 これ に 対 し て、 新 聞 の論 説 も こ の間 題 に積 極 的 に意 見 を表 明 し て いる。 政 府 の審 議 会 で検 討 の進 ん で いる時 期 に出 さ れ て い 照 る主 な 論 説 ・社 説 の概 要 ( 日付 ・見 出 ・概 略 ) を 示 す と 次 のと お り であ る。 必ず し も悉 皆 網 羅 し得 て いな いし、 と も に付 し た 概 略 は本 論 執 筆 者 が ま と め た た め 論者 の趣 旨 と合 致 し て いな い点 も あ る の で注 意 が 必要 であ る。 た だ し、 論 説 ・社 説 の数 の点 か ら い っても 、 こ の間 題 が 国 民的 な 関 心 事 であ った こと が よく う か が え る。 これ ら社 説 の内 容 を '概 略 に した が って整 理す れ ば' ① 法 的 な 規 制 を 視 野 に 入 れ る べき と す る も のと時 期 尚 早 と す る も の ② ク ロー ン技 術 に対 す る規 制 のみ言 及 す る も のと生 殖 医療 技術 全 般 に対す る規 制 、 さ ら に生 命 倫 理基 本 法 ま でを視 野 に 入れ る もの ③ そ の他 特 に検 討 の進 め方 ( 公 開 等 審 議 のあ り方 ' 事 前 評 価 の必 要 性 等 ) 等 に つい て' 各 紙 かな り異 な る意 見 が 提 出 さ れ て いる。 論 説 ・社 説 に対 す る社 会 的 な 評 価 か ら も これ ら の意 見 は 十 分 掛 酌 す る 必 要 が あ ると考 え る ( た だ し、 こ のよ う な 論 説 の意 見 を ' 前 項 の第 二類 ( 社 会 的 影 響 力 か ら 見 て) の意 見 と し て取 り扱 う べき か' 第 三類 ( 中 立 性 か ら 見 て) の意 見 と し て取 り扱 う べき か は議 論 が あ る)0 論 説 で指 摘 さ れ た 意 見 のう ち 、 第 1の法 的 規 制 の是 非 に ついてと 第 二 の規 制 の範 囲 に ついて はそ の検 討 の前 提 にな る法 的 問 鰭 題 ' 技 術 的 問 題 な ど に ついて はす で に第 一編 で 一応 整 理 し た ので' こ こ では残 さ れ た第 三 の規 制 の検 討 の進 め方 に関 連 す る問 題 を 取 り 上げ て み る こと に し た い。 こ のう ち 、 一般 的 な 公 開 のあ り方 等 に ついて はす で に様 々な 行 政 分 野 に お い て' 実 施 例 も 豊 富 に あ り 論 文 も 出 さ れ て いる の で' そ のよ う な 一般 的 な 検 討 は そち ら に譲 る こと にす る。 こ こでは' 生 命 科 学 技 術 、 特 に ク ロー ン技 術 の適 用 と いう 段 階 で の特 別 な 検 討 のあ り方 を考 え てみ る。 生 命 科 学 技術 、 ク ロー ン技 術 の適 用 に ついて の検 討 と は、 l般 的 に言 え ば 科 学 技 術 の社 会 的 適 用 に ついて の検 討 と いう こと とな る。 す でに、 一部 の論 説 では指 摘 さ れ て いるLt ま た この時 期 ク ロー ン技術 も含 め て科 学 技術 一般 のあ り方 の論 説 の中 で 技術 評 価 や テク ノ ロジ ー ア セ スメ ント に言 及 し て いる例 が増 え て いる ( 平成 二 年 1月 1四 日 ・朝 日、 平成 1 0 年 一 一月七 日 ・日経 他 ) よ- に' それが も た らす 影 響 の見極 めが た い科 学 技術 に ついて、事前 にそ の社 会 的 な影 響 も含 め て十分吟 味 し てお く こと の重 要性 は言 う ま でも な い。 こう した中 で、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントが 再 び言 及さ れ て いる のは、 注意 し て良 いこと であ る。 特 に、 本 論 冒 頭 で述 べた よう に、 我 が国 で ( 科 学 技術 と 人間 ・社会 ) に関す る重 要性 が指 摘 さ れ た時 期 に' 具体的 な 施 策 と し てまず 採 用さ れ た のが テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント であ った。 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントが定 着 しな か った のは理由 の あ る こと であ り、 再 び生命 科 学 技術 の検 討 に際 し てテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ントを そ のま ま採 用す る のは適 切 ではな いが ' テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の経 緯 と 限 界 を 認識 し、 特 に最 近欧 州 で新 し いテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の運動 が起 こ ってき て いる こ と ( 最 近 話 題 とな った コンセ ンサ ス会 議 は新 し いテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント のバリ エー シ ョンと し て位 置 づ け ら れ て いる)、 合 意 形 成 手法 の開 発 に当 た ってテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント から学 び う る点 があ る こと ( 特 に欧 州 の新 し いテク ノ ロジ ー アセ ス メ ント は'市 民参 加 型 の手法 と し て注 目さ れ て いる) を踏 まえ て検 討 を進 め る こと は有 意義 であ ろう。 一方 、 近年 、 日本学 術 会 議 では新 し い科 学 技術 のあ り方 と し て総合 的 ・僻 轍的 視 点 を も って新 し い科学 技術 を生 み出 し て行 く こと が重 要 であ ると指 摘 し て いるが、 こ のた め に は' 同 一分 野集 団 の中 に安 住 しな いで他 分 野 の科学 者 、政策 立案者 、 一般 の人 々と共 同作業 を行 っ て行 くプ ロセ スの中 で、研究 者 も社 会 の新 し い流 れを読 みと る こと が 必須 の課題 と な って行 く のであ り' こう した意 味 から も 従来 のテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の問題点 及 び新 し いテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の動 向 に ついては注 目 し ておき た い。 M テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の発生 と歴史 テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント と いう言葉 が最 初 に用 いら れた のは、 7九 六六年 の米 国議会 の科学 研究 開 発 小委員会 のレポ ー ト にお いて であ る。 環境 問 題 '都 市 問 題 ' 巨大 科 学 への批判 への対応 と し てテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の概 念 が編 み出さ れた。 そ こ の レポ ー ト に お いては テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント と いう のは科 学 技術 の持 つ危 険 性 に ついて注 目す る 早期 警戒 シ ステ ムと い う性格 を も つも のと考 え られ た。 テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント は科 学 技術 に関す る 1種 の政策 科学 であ るとさ れ る ( 白 根稽 吉 ﹃テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の手法 と事 例 研究 ﹄) 。 政策 科 学 は 一九 五〇 年 代 から始 ま った とさ れ る政策 形成 に関す る学 際的 研究 であ り' 六〇 年 代 に は シ ス テ ム 工学 、情 報 工学 の手法 が導 入さ れ' 発 展 し'実 際 の政策 問 題 の解 決 に使 わ れ るよう にな った。 こ の時 代 の代 表的 成 果 はp PBS ( pa nni n gpr og r a ヨヨi n gb u d g e t i コ gS y S l e ヨ) と いう合 理的 な 予算 配分 手法 であ る。 そ のような 政策 科 学 の発展 の中 で'科 1 33 表 クロー ン技術 に関す る主要な論説 ・社説 の概要 ① 6月 9日 ( 読売):生殖 医療技術 の進歩 と倫 理 / ( 休外受精 に関 し)科 学技術 の進歩 の恩 恵 を規制 の倫理観 だけで頭か ら否 定的 に判 断す ることは問題 が あろ う。親 権 、相続権 、社 会規範 の観 点か ら有識者が広 く議論す る必要が ある。 ガイ ドライ ンの作成や法整備 の必要性 の是非 も検討 し、その内容 を公 表 して国民的 論議 に広げたい。厚 生省 と 日本産科婦人科 学会 は技術革新 に対応す る制度 の確 立 に取 り組 んで もらいたい。 ② 6月 1 3日 ( 東京 ):医療 技術 の検討 は複眼で /体外受精 を認 めてい る欧州各 国では関連 法規 も整 えてい る。米 国のよ うな事態が生 じる 前に、実効性 のあるガイ ドライ ンや法的整備 の必要性 の有無等 を検討 しなけれ ばな らない。 その場合大 事 なのは、医療 関係者 の主導 に任せ ず 、幅広 い層 の人 々の参加 で国民的議論 を 展開す ることだ。 ③ 6月 1 6日 ( 読売):生殖 医療技術 にルール を作れ /今求 め られ てい るのは ク ロー ン技術 に関す る もの も含 めた生殖 医療技術全般 に関す る国 家的なルール づ くりであ るO統一的見解 と規制 のあ り方 を早急 にまとめて も らいたい. ④ 6月 21日 ( 毎 日):法規制 は尚早ではないか /遺伝子治療 は指針 で対応 して不都合 はなか ったの にクロー ン規制は法規制 にす る積極的 な理 由は兄いだせ ない ⑤ 6月 22日 (日刊):クロー ン技術 の規制 は 当然 だ / クロー ン技術 の ヒ ト- の応用 は人間の尊厳 を侵 し安全性 に問題 がある ( 法規制 かガイ ド ライ ンかは言及せず) ⑥ 7月 7日 ( 朝 日):生殖技術 と牛 と人間 と /生殖技術 のす べ て につ い て法規制 を含 め整合性 の あるルールづ くりを検討 すべ きだ。重 要なのは どの よ うな人 々が 、いかなる議論 に よって作 るかである。女性 の参加 、障害者 の 参画 も欠かせ ない。討論 は全過程 が公 開 され るべ きだ。厚生科学審議会 も科 学技術会議 も 参加婦人学会 も要件 を満 た していない。 ⑦ 7月 8日 (日経):クロー ン牛誕生の意味 /倫理面だ けで な く、家 畜 の全滅 な どのお それ が あ り応用 に当たっては十分 な事前評価 が 必要。 ⑧ 7月 1 0日 ( 東京):「 クロー ン」で試 され る倫理 / クロー ン技術 は比較的容 易 に実施で きる。 こ うした技術特性 を踏まえるな らば、少 な く ともクロー ン技術 につい て は 自主規制 に任 せ て は不十分 で法的規制 を視 野 に入れ るべ きで ある。広 く生殖技術 全般 の 中で規制のあ り方 を検討 し、バ ランスを取 るこ とが必要 である。 ⑨七月三〇 日 ( 東京):クロー ン人間は許 され ない / 国全体の実効性 のある規制 のあ り方 につ いて議論 を広 げたい。 ⑩ 一二月一八 日 ( 産経):生命倫理基本法の制 定 を /生命倫理 臨調 を設置 して、包括的な基本 法 を制 定すべ きだ ⑪一二月二三 日 ( 毎 日):科学者 の良心が問われ る / しば らくはク ロー ン腔 を認 めない ことを前提 に指針 で行 くのが現実的 ( 参考 ・1 0年 2月 8日 (日経):生命倫理 の基本議論 を/生命倫理基本法 といった よ うな ものが必要 にな るのではは ないか。来 るべ き事態 に向 けて広範 な議論 を始 め る時期 に来 て いるよ うに思われ る。) -1 3 4- 学 技 術 を 対 象 と す る も のと し て テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント と いう考 え 方 が 生 ま れ た。 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント は科 学 技術 に つい て広 範 な 人間 社 会 全 体 に 関 す る評価 を指 向 す るも の であ る。 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント は'単 な る 手法 ではな く 、 科 学 技 術 を 評 価 す る にあ た って の態 度 や 考 え 方 と いえ るも のであ る。 米 国 では 一九 六 九 年 に自 然 環 境 保 護 法 が施 行 さ れ た。 これ は テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント を行 う機 関 の設 立 と そ れ に広 範 な 権 能 を 付 与 す ると いう 議 論 に つな が った。 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント と いう 言葉 に は、 科 学 技術 の環 境 影 響 だ け で はな く経 済 ' 社 会 的 な 影 響 を 評 価 す る と い- 意 味 が 込 め ら れ て いた。 Da dda r i o下院 議 員 に よ り テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント法 案 の提 出 が な さ れ、 一九 七 一年 に は、 大 統 領 府 の依 頼 に よ り テ ク ノ ロ Mi t r e Corpo邑 i o コ) A Te c h コ 〇一 〇gy As s e s s me コ t ジ ー ア セ ス メ ン ト の方 法 に つ い て の マイ タ- 社 の報 告 書 が 作 成 さ れ た ( Me t hodot og y; Some Ba s i cP r o p ositions)〇 一九 七 二年 同法 が成 立 し' テク ノ ロジ ーアセ スメ ント局 (OTA) が 設置さ れ るo テク ノ ロジ ー ア セ スメ ントは 、 同 局 に お いて毎 年 二〇 から 三〇 回行 わ れ 、合 計 七 五〇程度 の報告 書 が作成 さ れ た。 ま た 、 医療 分 野 では、 1九 七 六 年 のOTAに よ る テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ントだ け にと ど ま ら ず ' 医療 分 野独自 に テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント を 実 施 す る動 き が 徐 々に起 こ って いた。 NIHによ る診 療 行 為 の標 準 化 に向 け て のプ ログ ラ ム の実 施 や 、 厚 生 省 に 国 立 医療 技 術 セ ンタ ー の設 置 な ど が な さ れ た。 診 療 行 為 は、 そ の有 効 性 に つい て の明確 なデー タ のな いま ま '無 批 判 にな いし慣 習 的 に行 わ れ て いる も のが 少 な く な い ので' そ の有 効 性 を評 価 す る余 地 が あ った の であ る。 一九 八〇年 代 に は米 国 の医 療 費 の急 増 に よ って、 医療 コスト の見直 しを 図 る必 要 が高 ま り、 医療 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント は コスト削 減 と 医療 技 術 の有 効 性 を 高 め ると いう 政 策 的 観 点 を 強 め るも のと な った。 さ ら に近 年 で は医療 テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の観 点 は医療 関 係 者 を 主 に 対象 と した も のか ら ' 評 価 の観 点 が 生 活 の質 や 倫 理的 問 題 に広 が り、評 価 の読 み手 も 医師 に限 ら ず 一般 に広 が って いる こ と が指 摘 さ れ て いる ( 広 井 良 典 ﹃遺 伝 子 の技術 '遺 伝 子 の思想 ﹄)0 他 方 、 国 際 的 に は l九 七〇 年 代 に 入 り 、OECDに お いてテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の重 要 性 が指 摘 さ れ る。 1九 七 一年 四 月 のOECD理事 会 の ﹃科 学 '成 長 と社 会 ﹄ と 題 す る いわ ゆ るブ ル ック ス ・レポ ー ト に お いて技術 評 価 の重 要 性 は指 摘 さ れ て O ECD ) S c i e コ C e ﹀Gr oま h aコd Soci e t y )。 OECD のテク ノ ロジ ー アセ スメ ント担 当者 によ り' 一九七 三年 には社 会 と技 いる ( 術 の評 価 ( Fra n c oi sHe t ma n, Soci e t y a ndtheAssessmentofTechnol ogy) が刊行 さ れ て いる0 1九 七 五年 に は、技術 の社 会 的 評価 に関 す る方 法 論 のガ イド ラ イ ン ( O ECD, Me th o d o l o g i calGu i d e t i n e sf o rSoci a tAs s e s s me n tofT e chnol ogy) が 出版 さ れ たo 米 国 のOTA のテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の内容 はどのよう な も の であ ったのだろう か。 一九 九 二年 に はOTAに お いてそ の レポ ー ト の質 に つい て内 部 の検 討 が な さ れ た ( OTA, P ol i c yA n a t ysis atOTA: A St a f fAs s e s s me n t)Q それ によれば、OTA のレ 1 35 ポ ート は いろ いろな質 のも のが あ るが、読者 の読 み易さ、分析 の客観 性'議会 の観点 などが重要 であ るとし ている。 そうした 点 に ついて良 いレポ ート は'良 いテク ノ ロジ ー アセ スメ ントと いえ ると し て いる。 また'政策 分析 と し ては可能な オプ シ ョン を呈示す る ことが重 要 であ りtOTAの レポ ー ト ではそれが弱 い場合 があ ると し て いる。OTAの外部 から の批判 と し ては' 主 と し て議会 関係者 から レポ ー トが読 みづら い、あま りにも厚 い' レポ ートを作 る のに時 間が掛 かりすぎ る。ときどき客観 性 に欠け ると いう指摘 もあ った。 しかしな がら'政府 予算 削減 が米 国 で叫ば れ るな か' 一九九 五年 に米 国OTAは廃 止さ れ て いる。 日本 におけ る テク ノ ロジ ー アセ スメ ント は' 一九 六九年 に産業 予測特 別調査 団が米国を訪 問 し' テク ノ ロジ ー アセ スメ ント セ ス メ ン ト の実 [テ ク ノ ロジ ー ア ∽日本 におけるテク ノ ロジー アセ スメ ント の概 念 を持 ち帰 った こと に始 ま る。 一九 七 一年 には科学 技術会 議 の第 五号答 申 にお いて、 「 科学 技術 の及ぼ す負 の影響 を 反省 し' 人間尊 重 の立 場 に立ち '・・・科学 技術 の効 果や負 の影響 を事前 に予測 す る ことが重 要 にな って いる」 と述 べ'国 の政策 施 ] と し て の位 置づ けが与え られた。 早くも 一九七 一年 には科学技術庁 により農 薬'高層建築 ' コンピ ュー タ利 用教育 シ ステム の テー マでテク ノ ロジ ー アセ スメ ント調査 が行 われ て いる。また'同年、原 子力製 鉄 のテー マで通産省 の調査 等 が行わ れ て いる。 ちな み に科学技術庁 が行 った高層建築 に ついて の研究例 では、研究 にあ た った委員 は 1四名 で、専 門分 野別 の内 訳 は建築 五名 ' 法律 ・経済 三名 、 心理 三名' 医学 二名、福祉 一名 であ った。高 層建築 が増加 した場合 の問題点 の抽 出と代替案 の検討'評価 を 行 った。高 層建 築 の計 画 に当 た って の注意事 項 と し て'災害 に対 し て のネ ット ワー ク的 対策 シ ステ ム の開発や'多 く の要素 の 変 化 に応 じた対策 を考慮 す る べき こと、大量消費 ・廃棄 問 題 の対策 を検 討す べき こと' 巨大 人 口、 人間性 への影響 を検 討す べ き ことな どが明確 にさ れた. 一九七 四年 から科学技術庁 ではテク ノ ロジ ー アセ スメ ント実 証計 画を進 めた。 またt I九七 四年 には通産省 で新 エネ ルギー技術 開発計 画 にお いてテク ノ ロジ ー アセ スメ ントが導 入さ れた。 そ の後' テク ノ ロジ ー アセ スメ ントを実施 す るにあ た って手法 の研究 が行わ れ、様 々な方 法 が考案 さ れた。 日本 におけ る政 府 のテク ノ ロジ ー アセ スメ ント調査 の実施 例 は 一九七 一年 の五件 から増加 し'七 四年 には 一 〇件 が行 われた。 しかし'七 四年 をピー クと してそ の後 は漸減 し て い った。 八四年 には 一件 が行われたに過ぎ な か った。 これま で の政府 関係 によ る テク ノ ロジ ー アセ スメ ント委 託調査 の実施 状 況 ( 委 託 元、 年度 ' テー マ) は次 ページ の表 のと お 0 り 表 1 科学技術庁 に よるテ クノロジーアセスメン ト 7一 一マ 委託 元 年度 科学技術庁 1 971 農薬 科学技術庁 1 971 高層建築 科学技術庁 1 971 コンピュー タ利用教育 科学技術庁 1 972 垂直離着陸機 科学技術庁 1 972 ニュー タ ウンにお ける技術 システム 動燃 1 974 システム .ダイナ ミクスによる原子力発電所 の TA 科学技術庁 1 974 パイプ ライ ン廃棄物輸送 システ ム 科学技術庁 1 974 画像通信 システ ム 科学技術庁 1 975 合成紙の普及 科学技術庁 1 975 海洋牧場 科学技術庁 1 975 人 工降雨 科学技術庁 1 976 レーザー総合利 用技術 表 2 通産省 に よるテ クノロジーアセスメン ト 7一 一マ 委託 元 年度 通産省 1 971 , 2 原子力製鉄 通産省 1 973 M E技術 ( 僻地 医療 システム) 通産省 1 973 電卓 通産省 1 973 マイクロ波調理 システム 通産省 1 973 合成紙 通産省 1 974 プラスチ ック材料技術 通産省 1 974 新包装技術 通産省 1 974 大規模 プ ロジェク トの事前評価 通産省 1 974 燃料電池 自動車 日本電機工業会 1 974 直接サイ クル- リウムター ビン発電 システ ム 通産省 1 975 マイクロ .コン ピュー タ 通産省 1 9 75 メタノール の大規模利用 *関西電子工業 1 975 デ ィジタル .ウオ ッチ *関西電子工業 1 975 家庭用 VTR 通産省 1 976 蓄エネル ギー システム 通産省 1 976 塩化 ビニル樹脂 *技術振興協会 1 976 薄 肉ステ ン レス .ライニング鋼 管 *技術振興協会 1 976 電線ケーブル延焼防止剤 通産省 1 97( ∼ 大規模 プ ロジェク トの事前評価 通産省 1 977 LTA航空機 システム 通産省 1 977 イ ンプ レース .リーチ ング *技術振興協会 1 977, 8 大型超電導機器 冷却 システム -1 37- *技術振興協会 1 9 77 ホ ッ トメル ト型粘着剤 *技術振興協会 1 9 77 エネル ギー変換技術 通産省 1 9 78 防錆技術 通産省 1 9 78 硫黄舗装技術 *技術振興協会 1 9 78, 9 産業用 ロボ ッ ト *技術振興協会 1 9 78 コル ゲー トパイプ *技術振興協会 1 9 79 迅速亜鉛 防錆処理法 通産省 1 9 79 ファイ ンセ ラ ミクス 通産省 1 9 79 長寿命 車 1 9 79 先端技術 開発 のあ り方 と経済効果分析 通産省 1 98 0 水素燃料航 空機 システム 通産省 1 98 0 バイオ ・テ クノロジー *技術振興協会 1 9 8 0 極低温金属材料 *技術振興協会 1 98 0 太陽熱利用 による淡水化 通産省 1 9 81 金属の新還元プ ロセ ス 通産省 1 981 家庭用映像情報 システム *技術振興協会 1 981 革新的機能繊維 通産省 1 9 8 2 飛行艇輸送 システム 通産省 1 98 2 技術革新 ( ME)が雇用に及ぼす影響 *技術振興協会 1 9 8 2 セ ンサー技術 の発展 と応用分野の拡大 通産省 1 9 83 高度情報化社会構築 のための技術 開発 *技術振興協会 1 98 3 繊維 工業 の川 中段階の技術 開発 通産省 1 98 3 都市施設老朽化 の社会的イ ンパ ク ト 通産省 1 98 4 材料革命 と次世代産業 ・技術-のイ ンパ ク ト分析 ( 財)産業研 究所 ( 出典)財 団法人 日本産業技術振興協会 『TAの有効性発揮の条件調査』 注 *関西電子 工業 は、 ( 社)関西電子工業振興セ ンター *技術振興協会 は、 ( 財) 日本産業技術振興協会 ー1 38- 実 態 調査 法 、 コスト ベネ フ ィ ット法 、 関連 樹木 法な ど があ る。 おけ る テク ノ ロジ ー ・アセ スメ ント の手法 と し て良 く利 用 さ れ て いる のは、ブ レー ン ・スト- ミ ング 法 、 チ ェックリ スト法 、 財 団法 人 日本 産業 技術 振 興協会 によ る ﹃企 業 におけ る テ ク ノ ロジ ー ・アセ スメ ント の実 態 調査 報告 書﹄ によ ると'我 が国 に 価] セ ス メ ン ト の評 [テ ク ノ ロジ ー ア こ- した 一九 七〇 年 代 のテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント活動 に ついては' いく つか の評価 がす でにな さ れ て いる。 一九 七 五年 の 科 学 技術 会 議 総 合 部 会 のテク ノ ロジ ー ア セ スメ ント分科 会 ( ﹃テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント導 入 にあ た って の基本 的 考 え方 及 び 推 進 のた め の施 策 ﹄) は、 当 時 の状 況を 以 下 のよう に総 括 し て いる。 「 テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント に ついては'・ ・ ・そ の実 施 は それ に対 す る大 きな 期待 にも か かわ らず 未 だ定 着 した状 態 に は到 って いな い。・ ・・こ の原因 と し ては テク ノ ロジ ー アセ ス メ ント に 必要な精 練 な 予測 ・評 価 手法 が確立 し て いな いこと'広 範 な情 報収集 が 困難 な こと'信 頼 す る に足 る アセ スメ ント実 施 基 盤 が 未 だ確 立 さ れ て いな いこと があげ ら れ る。 さ ら に ・ ・・テク ノ ロジ ー アセ スメ ント に対す る理解 が行 き渡 って いな い こと が あげ ら れ よ う。」 ま た、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の実 施 にあ た って留意 す べき諸 点 と し て、 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ン ト は技 術 の展 開過 程 の各 段階 に お いて自 主的 に実施 さ れ る べき も のであ り、 したが って実施 主 体 は当該 技術 の開発主体 ま た は 社会 への適 用 の主 体 であ る場合 が多 いが、実 施 に際 し ては第 三者 的 な 公 平な 立 場 に立 つこと が 必要 であ ると し て いる。 一方 、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の評価 の段階 にお いて'価 値観 が大 きな 要素 にな り、現 代社会 では価 値観 が多 元化す る傾 向 にあ り、 国 民共 通 の価 値観 を 兄 いだす こと は、 きわ め て困難 とな って いる。 そ のため国 民 の価値 観 の方 向 を的 確 に把 握 す る ことが きわ め て重 要 であ ると述 べ て いる。 そ し て導 入 のた め の条 件 と し て社会 が技術 に対す る適 正な 認識 をも っこと ' テク ノ ロジ ー アセ スメ ント を実施 しう る手法 の開 発 及 び人材 の育 成 '社 会 におけ る評価 シ ステ ム、技術 の モ ニタ リ ング シ ステ ムや 保険 な ど のテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント に関す る社 会 シ ステ ム の確 立 な ど が 必要 であ ると し てテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の限界 を 明 示 しな が らも ' そ の推 進 を提 言 し て いる。 そ の後 、 一九 七 九 年 の調査 ( 科 学 技術 庁 委 託調査 ・未 来 工学 研究 所 ﹃わ が 国 におけ る テク ノ ロジ ー ・アセ` スメ ント の実態 調 査 ﹄) では'当時 の大 企 業 に対す る ア ンケー ト 調査 が 行 わ れ た。 企 業 内 でテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の必要性 は認識 さ れ て い るが 、本 格 的 に は実 施 さ れ ておらず 、実施 段階 への移行時 期 と いう結 果 にな って いる。 企業 におけ る実 際 の運用 にお いては' テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の基 本 的 理念 の明確 化 ' テク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の成 果 の活用、実施 に係 る費 用、実 施 体 制な ど の点 で問 題 があ ると指 摘 し て いる。 テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の定着 に向 け ては'企 業 にお いては テク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の真 の意 味 が 必ず しも 理解 さ れ ておらず 、基 本 的な 理念 を明確 にす るな どを 通 じ、啓 発を 図 って いく ことが重 要 であ ると し て 未来 工学 研究 所 ・科 学 技術 庁 委 託調査 ﹃諸 外 国 にお いる。 一九 八〇 年 の諸 外 国 のテク ノ ロジ ー アセ スメ ント に関す る報告書 ( け るテク ノ ロジ ー ・アセ スメ ント の実態 調査 ﹄) では' 米 国 のOTA、 NsFなど公的 機 関 では大規模 に テク ノ ロジ ー アセ ス メ ントが行 われ て いるけれども、テク ノ ロジ ー アセ スメ ント に必要な諸領域 にま たが る専 門性 をも った 人材 の不足'情 報 不足' 時 間 が か かりすぎ るな ど の問題点 があ ると し て いる。 また、全般的 にテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の手法 の水準 は 「 それ ほど満 足す べき水準 にはな い」 と 1般 に は評価 さ れ て いる。 そう した諸外国 の状況と比 べ'当時 、 日本 のテク ノ ロジ ー アセ スメ ント への取 り組 みは ほぼ 同等 の水準 にあ る。 テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の定着 に向け て、 そ の理念 の明確 化と啓蒙 、 手法 の開発が 必要と いう 認識 を 示 し て いた。 これら の資料 に共通 に指 摘さ れ て いる こと は' テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の概念 が容易 に理解 でき るも のではなく、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントを実 際 に実施 し て いく に は技術情 報 の取得 と公開'実施 手法 ' 人材な ど の問題が存在 し ていると いう こと であ る。 先 に触 れた 一九 七九年 の調査 ( 前 出 ︰未来 工学研究 所) ではテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の導 入'普 及 の経緯 と し て、当時 の 時 代背景 を指摘 し て いる。 す なわち' 日本 におけ るテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の取 り組 みは' 公害 '環境 汚染 が大 きな社会的 問題 とな った時 期 と重 な っており、 それ への有 力な対策 と し て注 目さ れた。 テク ノ ロジー アセ スメ ント の本来 の目的 は真 の技 術 ニーズ を探索 す る こと であ ったが' 日本 にお いては科学 技術 の負 の効果を 予測す る こと にテク ノ ロジ ー アセ スメ ント の役割 が官庁 や 世間的 には期待さ れた。 しか し、逆 に 石油危機後 '経済成 長 が鈍 化す ると、技術 開 発 への期待 が高 ま った。 他方、 公 害 規制や 環境 保護 が進 み' 公害 問題 の意 識 が遠 のいた時期 にはテク ノ ロジ ー アセ スメ ント は関心が薄 れ つつあ ると指摘 し て い る。 一部 の企業 にお いては テク ノ ロジー アセ スメ ント は技術 阻止だと いう錯覚 があ ってテク ノ ロジ ー アセ スメ ントを技術制約 的 要素 をも つも のと し て抵抗感 があ った。 一九七七年 の政策科学 研究 所 の調査 でも、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントが技術 開発 の 足かせと とらえ られ る のは誤 り であ り、テク ノ ロジ ー アセ スメ ントは技術進歩 のあ り方 と社会的意味 を考 え るも のと して'国' 企業 '各 種団体 ' 公衆 な ど の関連 す る主体 を巻 き込ん で、新 し い価値観 を生 み出す コンセ ンサ ス形成 の f手法 と し て位置づ け られ て いく べき であ ると いう期待 が述 べられ て いる ( 通産省委 託調査 ・政策科学 研究 所 ﹃テク ノ ロジ ー ・アセ スメ ント の方 法 論 に関す る実 証研究 調査﹄) 。 当時 '政府 は テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の定着 に向け て努 力 はし て いたが、 そ の後 の展開 では、 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントと いう言葉 が定着 しな か った事情 をも のがた って いる。 1 40 二. テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の新 し い動 向 糾欧 州 におけ る新 し いテク ノ ロジ ー アセ スメ ント d 欧 州 で は 1九 七〇 年 代 に いく つか の国 で原 子 力 発 電 や 工場 立 地 に よ る環境 問 題 な ど科 学 技術 に関 す る政 治 問 題 が 起 き 、 住 民 Ne l ki n , Te c h n o l o gic a l De c i s i o n sa n 運 動 が 展 開 さ れ たO 科 学 技 術 問 題 に 関 す る 1般 市 民 の参 加 と いう 現 象 が 起 き てき た.( De mo c r a c y ) 1九 七 九 年 に はOECD か ら科 学 技 術 に関 す る市 民 参 加 型 の意 思 決 定 に つい て のレポ ート が 提 出 さ れ て いる ( OECD一 Te c h n o l ogy onTr i a l ) O ま た'米 国 バ テ ル研究 所 にお いては、s ■o c i alLe a r n i n g T と いう市 民参 加 のプ ロセ スを加 味 した新 し いテ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント 手法 を提 唱 し て いた。 ( 前 出 ‖未 来 工学 研 究 所 l九八〇) 世 界 的 に は 一九 七〇年 代 が テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の活動 の高 ま り を み せ た時 期 であ った が 、 一九 八〇年 頃 に は活 動 力 を 低 下さ せ た時 期 であ った。( Ra t h e n a uZ ns t i t u t e .Te c h nol ogy As s e s s me n tt h r o u g hI nt e r a c t i o n ) しか し逆 に欧 州 にお いては七〇 年代 は テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ントは それ ほど め だ った動 き ではな く '欧 州 においてテ ク ノロジ ー ア セ スメ ント が 活 発 化 す る のは 八 〇年 代 に 入 ってか ら であ る。 テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント の中身 は、 総 じ て七〇年 代 ま で のテ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント を事 前 に科 学 技 術 の危 険 性 を 察 知 す r e a c t i v e(受 け身 ) な も のだ と表 現 す れば ' 八〇 年 代 は そう ではな く 、pr O a C ( i v e( 前 向 き な ) な テ ク ノ ロジ ー ア セ ス る と いう メ ント が 志 向 さ れ てき た時 期 と いえ る。 Of f t c e 各 国 の テ ク ノ ロジ ー ア セ ス メ ン ト への 取 り 組 み の様 子 を み て み る と ' 一九 八 三 年 に フ ラ ン ス でOPECST ( P a r l e me n t a i r e d一Ev a l u a t i o ndesChoi xSc i e n t i f i q u e setTe c h n o l o giq u es) が設立さ れ たo ド イツ では議会 に技術 評価 局 が存在し、技術 評価 が行わ れて いる。 ド イ ツ全体 と し ては分権 的 な政策 決定 シ ステ ム'科学 の 自 治 の風 潮 及 び 環 境 団 体 が 活 発 化 す るな か で、 環境 問 題 を 中 心 と し て多 様 な テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント が行 わ れ てき た。 オ ラ ンダ では' 一九 八 六年 にNOTA ( za t io邑 Or gaコi Nat i o コ OfT e c h 邑 ogy As e s s s ヨe コ ∴ 国立 テク ノ ロジ ー アセ スメ ント機 関) が 設 立 さ れ た ( 現在 は Ra { h e n a uH n s { i t u{ eに名 称 が 変 更 さ れ て いる) 0 デ ン マー ク では 一九 八〇 年 に テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント を試 験 的 に行 う よ う にな った が ' そ の後 ' でき るだ け多 く の関 係 者 の交 渉 の場 と し て テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント を 行 う よう に変 革 さ せ る こと と した。 一九 八 六年 にデ ン マー ク議 会 に技術 委 員 会 が でき た。 こ こ では技 術 評 価 を 行 う と と も に'市 民 によ る討 議 の場 を持 つこと と し たo そ の 一部 と し て コンセ ンサ ス会 議 を 行 い'科 学 技 術 に つい て民主 的 議 論 を 行 う こと にな った。 1 41 ベ ルギー、オー ストリ ア'ギリ シャ' フィンラ ンド'イタリアなど でも八〇年代 から九〇年代 に科学技術 の評価制度 を設け るよう にな った。 EUの支援 の下'欧州全体 のテク ノ ロジ ーアセ スメ ントに関す る連携 の会合 も設定され ている。 またtEU ではTSER ( Ta r g e t t e dSo c i oE c o n o micRe s e a r c h )と いう計画があり'技術開発に エンド ユーザ ー の意見を組 み込む べきだと いう視点 で研究 を行 っている。 ∽新たな合意形成を探 るテクノ ロジーアセ スメント の試行 これま で のテク ノ ロジー アセ スメ ントは、当該科学技術 の専門家や それに関す る人文社会科学 の専門家が そ の任 にあた って いた。 少数者 の識者 による判断を基 に行われ て いた。 テク ノ ロジー アセ スメ ントは'それを行う人は科学技術 の性質 に ついて 理解 して いる ことが要請さ れる ことから、科学技術 の専門家 が必要とされる のは当然 である。 そし て、 より精微な方法が求 め られ て いる状況から そう した アセ スメ ント の方法論 の専門家も必要とな ってくる。前項 の社会的合意形成 に関連す る当事者 と しては、直接的な利害関係者 ( 第 一類) のうち の 「 研究者 」と'利害関係 に中立な者 ( 第 三類) のうち の 「 周辺 の研究者 」 ( 社 二 一二ページ∼参 会科学な ど の研究者 ) であ った. しかし'前 に述 べたように日本 のテク ノ ロジー アセ スメ ント の評価 にお いても、価値観が は 照 っきりと把握 できな いことが問題 であ るとさ れ ている。 国民 の価値観 の方向を的確 に把握す る ことがきわめ て重要 であ るとさ れ ている。 専門家 だけ の議論 では国民 の価値観を知 る ことは難 し い。 また科学技術 に関す る問題が政治化したと いう場合 があ りtOE CDで、 それらに ついてのケー ススタデ ィが 一九七六年 になされた。 テクノ ロジ ー アセ スメ ントにお いても何らか の形 で市 民 の意 見を取 り入れ ると いう ことが模索されるようにな った。 それは第 一項 に分析 した当事者 としては'間接的利害関係者 ( 第 二類) であ る 「 市 民」や 「 社会 のあ り方 に 一定 の立場を持 つ人」が テク ノ ロジー アセ スメ ント の役割 を担う人として含 まれ る こと にな る。 また、 「 市 民」 に情 報を伝 え る者 と して、第 三類 に分類さ れるジ ャーナリ ストや仲介す る専門家等 の役割もより 重要性を増す。 ( 場合 により直接的な利害関係者 ( 第 一類) のうち、技術 の被適 用者や被験者、行政などが テク ノ ロジ ー アセ スメ ント に参加す る こともあ った。 ) そ のような新 たな当事者を含 め て合意形成 を図ろうとす る コンセ ンサ ス会議 に ついて述 べる。 コンセ ンサ ス会議 では主 に市 民が中心となり、関係す る専門家 として直接的'間接的な当事者を適宜含 め て意 見交換す る。 テク ノ ロジ ー アセ スメ ントに参加す る当事者 の範周は拡張さ れ ている。 しかし、全 てが網羅さ れ ているわけ ではな い. 将 来世代や社会的弱者など の意 見を代わ って言 いにく い者 の意見はテク ノ ロジー アセ スメ ントに入りづら い。 それをどう含 める かは問題 である。 Ⅲ コンセ ンサ ス会議 u コ d a E テ ク ノ ロジ ー アセ スメ ント の新 し い態 様 と し て'コンセ ンサ ス会 議 があ る。コンセ ンサ ス会 議 の定 義 と し て'例 えば tGr は' 「コンセ ンサ ス会 議 は技術 評価 の 一方 法 であ り'専 門家 のパネ ルと市 民 のパネ ル の間 の会 議 と し て組織 さ れ る。 市民パネ ルは社 会 的 に議 論 を呼ぶ よう な 技術 の開 発 を評 価 す る」 と し て いる。 コンセ ンサ ス会 議 にお いては、 ま ず、 特定 の科 学 技術 の 市 民パネ ル」と 呼ぶ。 テー マを 選定 Ltそれ に利 害 関係 のな い市 民 の参加 を募 る。応募者 の中 から十数 名 を 選 び 、こ の市 民を 「 他方 の 「 専 門家 パネ ル」 は'市 民 パネ ルのも つ疑問 に対応 可能 な専 門家 ( 大 学教 授 '企 業 の従業 員 ' 公務 員 、 民間 団体 の活動 家 な ど) が十数 名 選ば れ る。 専 門家 パネ ルは'市 民パネ ルにそ の科 学 技術 の状 況 に ついてわ かりや す い説 明を し、市 民 パネ ル と の間 で質 疑応 答 を行 う。 そ の後 '市 民 パネ ルだ け で議 論 を行 い'市 民パネ ルはそ の科学 技術 に ついてど のような 判 断 を 下す か、 意 見 を まと め る。 これ は コンセ ンサ スと 呼ば れ 、 そ の意 見 は公開 の場 で発表 さ れ'新 聞等 の記事 にな る。 ま た、 政治家 、 行政 府 な ど にも 報告 書 が配 布 さ れ 、参考 にさ れ る。 こ のような 形 で世論 形成 と政策 形成 に利 用さ れ る のであ る。 た だ し' そ の 意 見 に は法的 な拘 束 力 は 一切 な い。 コンセ ンサ ス会 議 は、問 題 に対 し て中 立 な立 場 で行 わ れ る こと が 必要 であ り'会 議 のテー マの選択 から、市 民パネ ル の選定 、 説 明す る専 門家 の選定 な ど準 備 は周 到 に行 わ れ る。 コンセ ンサ ス会 議 は'米 国 の医療 技術 評価 制度 を 原型 に し て いると いわ れ る。 米 国 の医療 技術 評 価 制度 では技術 を評 価す る のは専 門家 であ ったが 、デ ン マー ク では技術 評価主 体 を 一般市 民 に変 え た こと が極 め て大 きな 特徴 であ る。 一九 八七年 'デ ン マー ク で遺 伝 子 工学 を テー マと し て開 かれ た のが、最初 の コンセ ンサ ス会 議 であ る。 以来 'デ ン マー ク では年 に 一 二回 これ が行 わ れ て いるo オ ラ ンダ では 1九 九 三年 に遺伝 子組 み替 え技術 に ついて コンセ ンサ ス会 議 が実施 さ れ、 イギ リ スでは 一九 九 四年 に植 物 のバ イ オ テ ク ノ ロジ ー のテー マで開 かれた。 そ の他 、 ニ ュージ ー ラ ンド、 ノ ルウ ェー '米 国 の 一部 、 スイ スでも試 験的 に コンセ ンサ ス会 議 が開 かれ てき て いる。 さ ら に フラ ンスでは市 民 の会 議 と いう 名称 で の会 議 が行 わ れ 、韓 国 でも 一九 九 八年遺 伝 子組 み替 え作 物 に ついて行 ったo ま た 1九 九九 年 、 イギ リ スでも放射 性廃 棄 物 を テー マに コンセ ンサ ス会 議 を行う計 画 があ るな ど' こ の形態 の会 議 は広 ま って いる。 00デ ン マー クにおけ る不妊 に関す る コンセ ンサ ス会議 十数 回行 わ れ て いるデ ン マー ク の コンセ ンサ ス会 議 のう ち、生命 科学 に関連 の深 いテー マであ った 「 不妊 」 に関す る コンセ ンサ ス会 議 に つい て述 べる。 ( 参考 三 コンセ ンサ ス会 議 開 催 一覧 でも判 る よう に' コンセ ンサ ス会 議 のテー マでは生殖 医療 技 l六 二ページ∼参 照 1 43 術 に関す る実施例 は少な い。 これらが' コンセ ンサ ス会議 の限界を示すも のであ るかもしれな い。)生殖科学技術 の進歩 は' 子供 が できな いと いう状況 の意味を変え た。すなわち、従来'自然的 には子供が授 からな か った場合、それ はあきらめる他 は なか ったが'現在 では'人 工授精術 を受けると いう選択肢 が増えた。 それにより、人 々の不妊 に ついての受け止め方 が変わ っ てき て いる。 一方 '人 工授精術 とそれに関連す る諸研究が完全 ではな いと いう ことから' 人工的な生殖 に ついての不安 の声 も 存在 し て いる。 そ のような状況 の中 で、 人 々が生殖技術 に何を求 め、また'ど のような社会 システムが求 められ ている のかと いう ことが問題とな った。 そ のような中 でこの コンセ ンサ ス会議 は行われた。 まだ当時 はク ロー ン技術 の人間 への応用は具体 性がな か ったため議論され て いな い。生殖科学技術 のさらな る展開が予想さ れる中 で'社会と の関係を考 え る機会 とし て' こ Boa r d of a n i s h のよ う な 会 議 のも つ意 義 は 見 過 ご せ な い で あ ろ う 。 記 述 はデ ン マー ク 技 術 委 員 会 の資 料 に よ る ( D e c hn ol ogy, www. t e knO. d k) .これは会議 のうち'主 に議論された鍵とな る質問とそれに対 しての主な意 見を記 したも のであ る。 T この会 議 は 一九九三年 一 〇月から 二 月にかけ て コペ ン ハーゲ ンの国会議事堂 で行われた。 二二人 のレイパネ ルと 一五人 の 専門家 パネ ルが出席 した。専門家 パネ ルは、医師、 不妊患者団体 '公務員 ( 法律家) 、 医療倫 理' キリ スト教僧侶、診療 心理 学者'社会 医学者'社会医療研究者'法学者'養 子協会'国家健康委員会 のメ ンバーなど からな る。 不妊 に関 し、様 々な論点 が議論さ れた。 不妊 で悩む人達 に関わ る科学的研究 に ついての議論と並ん で、 それに関連す る社会 制度 の改善 の意 見もあ った。 不妊 の予防 のため'健康診断や予防知識 の普及をす ると いう提言もあ った。 また、 不妊治療 =生 殖技術 の進歩 により倫 理的問題が発生 して いると いう意 見も出された0 八 つの鍵とな る質問 が提案され、多様な意 見がみられた。 ( 参照 参考 三) ① 不妊 と養 子 ② 不妊 の原因 の究 明とそ の知識 の普 及 ③ 不妊 の予防 ④ 不妊治療 の費 用 ⑤卵 子と精 子 の提供 ⑥ 不妊治療 の結 果引き起 こす問題 ⑦ 不妊 の新治療技術 は人間 のあり方 にどう影響す るか?㌔ ⑧ 私的な 不妊治療 を公認す る こと のメリ ット ・デ メリ ット この中 で不妊治療技術 の進歩 は倫 理的な問題を引き起 こすと いう指摘 がなされた。また、 ク ロー ニングや遺伝 子操作 にも話 一六三 ページ∼参 鷲 Lが及 び' 不妊治療 にお いて遺伝 子 への介 入は禁 止さ れ る べき であ り' ヒト の卵 子 のク ロー ニング の禁 止は存続 され る べきだ と いう意 見 があ った。 デ ン マー ク の コンセ ンサ ス会 議 では、議論 は必ず しも合 意 には到 って いるわけ ではな いが' 不妊治療 をめぐ る技術的 、制度 的 、社 会的 '倫 理的 、法的 問 題 に ついて多 様な意 見がださ れた。 生命科学 にお いては'既存 の人間観 、 医者 一患者 関係 ' 子孫 への影響 、遺伝 的 関係 の保護 など の問題 があ り'それら は市 民 の価値観 によ ってどう いう状態 が望ま し いのか判断さ れ るべき 事柄 を含 ん で いると実施者 は結 論づけ て いる。 ㈲ 日本 におけ る コンセ ンサ ス会議 の試行 コンセ ンサ ス会議方式 の会 議 と し て東京 電機大学 の若松征男教授 を代表 とす るグ ループ 「 科学 技術 への市 民参加」 研究会 が 事務 局 とな り、 「 遺 伝 子治療 を考 え る市 民 の会議 」をわが国 で初 め て開催 した ( 以下、 「 会 議 」 と略記 ) 。「 会議」 は 1九九 八年 一月 から 三 月 に三 回 の会合 を開 き' 三月 二 7日に公開 シ ンポジ ウ ムと し て結 果報告 を行 ったo専 門家 パネ ルと し ては' 「 遺伝 子治療 」 を行う大学 医学部 の医師 玉名'生命 倫 理研究者 二名、医療経済 1名 'ジ ャーナリ スト 1名 の九名が参加 した。市 民パ ネ ルと し ては関 西 で公募 を Ltまた関西在 住 の知 人をたどるな ど Lt T九名を得 たo市 民 の定義 に ついては今 回特段 の制約 を 行 って いな い。 市 民パネ ル、専 門家 パネ ルとも熱 心 に説 明'質疑 を行 い'最終的 に市 民パネ ルにより意 見書 が作成さ れ た。 二 部 別途、 少 数意 見も提 出さ れた。)市 民 パネ ルの特徴 と し ては社会 全体 の公益 を考 え る立場 をと る こと'ま た'遺伝 子治療 を受 け る患者 の立場 に立 つと の前 提 で議 論 を した こと であ る。 出さ れた コメ ントと し ては、例えば'遺伝 子治療 の研究 に ついては情報 公開 を進 め'安全性 を確 認す る第 三者 機 関が 必要 であ ると結 論づけ た。 また'遺伝 子治療 を体細 胞 に限定 した現在 のガ イド ライ ン が'生殖細胞 を操 作 でき るような 技術 が開 発さ れれば 'な しくず Lにな ってしまう のではな いかと いう懸念 から現行 のガイド ライ ンを 理論的 に強 固 にす る必要があ ると いう指摘 もあ った。 また'遺伝 子治療 の技術 開 発が アメリカ に独占さ れ て いる こと また'市 民パネ ルは遺伝 子治療 を受 け る立 場 にな ったとき のことを考 え てイ ンフォー ムド コンセ ント に対 し て警戒 す る意 見もあ った。 こ のよう に遺伝 子治療 と いう問 題を社会全体 の問 題と し て、あ る いは国家 の安 全 の見地 から みた意 見も出さ れた。 に ついて意 見を述 べて いる。 現行 のイ ンフォー ムド コンセ ントを行う書式 は専 門語が多 く分 かりづ ら い。 他 に治療 法 がな い重 篤 な患者 に限 って遺 伝 子治療 を行う と いう現状 は、患者 に精神的 な 圧迫感 を与え る ので、尊厳 死や ホ スピ スなど の選択肢 を提 示す べきだ と い-意 見もあ った。 1 45 会 場 から の コメ ントと し ては、市 民だけ ではなく利害関係者 を交え て、議 論を行う ことがよりよ い コンセ ンサ スを得 る方法 であ ると いう意 見があ った。ま た、今 回 の市 民 の会議 は論点 の設定 な ど、事務 局が段取 りを取 ったと感 じられ ると ころがあり' 欧州 の コンセ ンサ ス会 議 と は、 少 し違 った形 にな った のではな いかtと いう コメ ントもあ った。 そ のほか コンセ ンサ ス会議方 式 がど のよう に広 い意味 での政策 に影響 をも つのか、どんな テー マが コンセ ンサ ス会議方式 の議論 にな じむ のかな ど多 く の課 題 も残さ れた。 三.合意 形成 手法 の開 発 の留意点 テク ノ ロジ ー アセ スメ ント は 日本 にお いては七〇年代 に試 みられたが'理念 が明確 でな か った こと、情 報取得 に限界 があ っ た こと、 手法 の未 開拓 ' 人材 の不足な ど の問 題があ り' テク ノ ロジ ー アセ スメ ントが十分社会 に浸透 す るには至らな か った。 しかし、我 が国 にお いても情 報 公開 のあ り方 が変 わ り、 イ ンターネ ットなど の情 報 イ ンフラも格 段 に進歩 し て いるO また'欧 米 にお いても、市 民参加型 のテク ノ ロジ ー アセ スメ ントが模索さ れ ている。 わが国も科学 技術 のような専 門的事項 に ついて の 政府 の意 思 形成 に当 た り' 国 民各 層 の意 見を踏 まえ る ことが求 められ'例えば、 原 子力行政 の進 め方 に ついて円卓会 議 が開 か れ'あ る いは科 学技術 政策 の決定 に当 たり' イ ンターネ ット等 で広 く国 民 の意 見を求 め るな ど新 し い試 みが行われ て いる。 そ ぅ した動 きを注意 深く 見守 り' 新 し い時代 に合致 した テク ノ ロジ ー アセ スメ ントを実施 し ていく ことも 1つの考 え方 であ ろう. コンセ ンサ ス会議 はそう した試 み の 1つの形態 であ り' テク ノ ロジ ー アセ スメ ント の主体 と し て市 民を用 いて いる。 それ で も科学 技術 に関係 しう る利害 関係者 を網羅す る こと は難 し い。テク ノ ロジ ー アセ スメント の手法 のさ らな る開拓 が必要 であ る。 Sc i e n c e s ) Vo1 . 2 6) . これ は'本編第 一項 の整 理 のしかたに近似 し て いる. すなわち'利害 関係者 には科学 技術 に対する T h r e e ・ s t e pP r o c e d u r e , 例えば ' でき るだけ広範な意 見を取 り 入れ る方策 と し て、利害 関係者、専 門家 及び市 民 の三者 に対 し'段階 を分け て' それぞ y れ の意 見を聞 いて いくと いう方 式 が論 じられ て いる ( Re nnetat s , Pu b l i cP a r t i c i p a t i o ni nDe c i s i o nMak i n g ︰A Pol i c 関 そ の 心 に ついて 、専 門家 には専 門知識 と オプ シ ョンに ついて、市 民には 一般常 識 に基 づく価値判断 に ついて述 べてもらう と いう作業 を行う と いう形式 を提案 し て いる。 それ はきわ め て複 雑な作業 のよう にみえ るが'プ ロセ スを適 切 にす る こと により 三者 の意 見 の良 いと ころを取 り 入れ られ ると提案さ れ て いる。 これも 一つの手法 であ ろう。 合 意 形成 に向 け ては'様 々な 手法 や概念 が提案 さ れ ているが'多 く は新規 のも のであ り' そ のフィージ ビリ テ ィに ついては 不明な部 分 が多 い。 科学技術 に関 Lt政府 が積極的 に実施 し、実施 途中や そ の結 果 に ついてもデ ータや評価 が豊富 にそろ って 1 46 いる代 表 的 な 事 例 と し て テ ク ノ ロジ ー ア セ スメ ント が あ る ので、合 意 形 成 手法 の開 発 の視 点 か ら そ れ ら の問 題点 を探 ってみ た。 今 後 ' これ ら の諸 施 策 を よ り 丹 念 に評 価 す る こと に よ り 、新 し い合 意 形 成 手法 の開 発 に資 す る こと が望 ま し い。 まとめ 園 谷 実 ・大 山 真 未 先 端科 学 技術 、 特 に生命科 学 技術 を中 心と した法的規 制 に ついて検討 したと ころ であ るが、 と りわ け法的規 制 の検 討と言う こと で法律 の枠 組 み の中 で配慮 す る ことが 必要な問 題を中 心 に論 じ てみた。大 きく は' ( いかな る規制 が可能 か) と (いかにし て規制 を 正当な ら しめ るか) の二 つが中 心 テー マとな って いる。 本 論 の内容 を簡単 にまとめれば次 のよう にな ろう。 ① 生命 科学 技術 の現状 と戦略 生命 科学 技術 は各 国 におけ る戦 略的重点 分 野とな っており、特 に今 後 の産業競争 力 の大 きな源泉 と し て位 置づ けられ て いる。 しか し' この中 で'生殖 医療 技術 は生命 科学 技術 1般 と は異な った現 れ方 を し て いる. 欧 州 では厳 し い規 制 が進 ん で いるが、 アメリ カ では国内 の コンセ ンサ スの困難 さ から規 制 が行 わ れず 、 かえ って民間資 金 によ る独自 の先 端生殖産業 の育 成 '企業 化 が進 み' さ ら に海 外 へ展開 す る動 きもあ る。 一方、欧州 で の足並 み のそろ った規制 の整 備 から、 国際的 にも ク ロー ン技術 を中 心 と した生命 科学技術 の規 制 に ついて のグ ローバ ル スタ ンダ ードが形成 され る可能 性 もあ る。 ② 各 国 におけ る規 制 の内容 と経緯 イギ リ ス' フラ ン ス' ドイ ツは生殖 医療 技術 に関す る規制法 が整 備さ れ て いるが'各 国ご と に規制 の考 え方 はわず かず つ違 い、 したが って規 制 法 はあ るが 必ず しも規 制対象 な ど細部 は 一致 し て いるわ け ではな い。 ただ し、 ク ロー ン技術 に ついては現 行 の生殖 医療 技術 の規 制法 によ って対応 が 可能 だとさ れ て いる。 ③ 我 が国 におけ る法律的視点 から の検討 憲法 ' 民法'刑法' 医事法 の観点 から現在 の主要な学 説などを紹介 した。 ④ 法的 な規制 の限界 例 と し てク ロー ン技術 を取 り上げ て、学 問 の自 由等 と の関係 を検 討 した。学 問 の自 由 の制限 に当 た る規 制 に ついては'学 問 の自 由 と いえ ども 一定 の制 限 があ ると考 え られ るが、 ク ロー ン技術 等 に ついては、直 ち に学 問 を制限す る こと の是非 を議 論す る のではな く' ク ロー ン技術 の社会的適 用 に当 た ってそ の 一部 (ヒト への適 用) を規 制す る こととな る中 で研究 に ついても例 外を 設けな いとす る趣旨 と し て検討 す べき であ る。 ⑤ 規 制 対象 の検 討 ク ロー ン技術 を規 制す るに当 た って'単 に線 状的 に技術 を とらえ る のではな く 面的 に把握 し、規 制す る対象 及 びそ の周 辺に 1 48 あ って規制を検討す る余地 のあ る技術 も含 め て生殖 医療 技術全般を網羅的 に眺 め、 ク ロー ン技術 の合 理的な規制方法を検討 し た。 ⑥規制を 正当づ ける根拠 ( 安全性) ク ロー ン技術 の安全性 に ついては'生まれ てくる子供及びそ の子孫 に対す る遺伝的影響が危倶さ れる。特 に体細胞核 は、遺 伝感受性が弱く' 日常 の中 で遺伝 子が損傷 し て いる可能性が大きく、 それを移植 したク ロー ン細胞 から生 まれる個体 は全身的 に遺伝的影響を被 る可能性 が強 い。 このような、遺伝 子に対す る影響 ( 確率論的 影響)を理由 に規制を行 って いる例をあげ規 制 の仕方 を検討 した。 ( 社会的秩序) 従来 の先端的な生殖支援技術 は何 らか の従来 の人間親族関係と類似を持 ったも のであ った。体細胞核 の提供者 と ク ロー ン児 の遺伝的 関係 は (一卵性) 兄弟 に近く'遺伝的 に親 でな い者が こう した遺伝的関係 にあ る個体を作成 す る こと は人類史 上例 の な いこと であ り、社会的秩序を大 きく変 更す る こととな る。 ( 規制根拠 に関す る結論) 以上 二点 の理由 でク ロー ン作成 を規制す る ことは妥当性があ ると考え る。 な お、人間 の尊厳などを根拠 とす る規制 はより具 体的 な根拠 ( 腔 の乱用禁 止、身体 の不可分性など) におきかえた上 での比較判断が必要と考えられる。 ⑦補 説 ・研究者 の法的責任 先 端科学 技術 における研究者 の責任 に ついては従来具体的な議論が少な か った。先端研究 の規制が始ま るととも に こう した 点 から の検討が 必要とな ると ころから'新 し い視点 から問題を検討す る。 ( 加重的過失責任) 研究者 と医師 ・弁護 士等 の専 門家 とを比較 し'研究者 の法的責任 は医師等 の持 ついわ ゆる 「 専門家責任」と は異質なも ので あり同時 には論 じられな い。 〓 殻的過失責任) 一般的 な刑事責 任や 民事 の不法行為責任 におけ る予見可能性や結 果 回避義務 に ついては通説が形成 され ているが、先端科学 技術 におけ る研究者 の規制 に当た っては新 し い標準を検討す る必要が生 じる。 1 49 ⑧ 国及び学会等 のガイドライ ン 規制 の 一つの手法 と し て'従来 からガ イドライ ン方式があ る。 ガ イドライ ンに ついては法的 な効果はな いとさ れ てきたが' 科学 技術 上 のガ イドライ ンを吟味 し' そ の規範的効果 に ついて検討 した。 特 に、 公序良俗違 反 の根拠 とし ての性格、医療行為 基準 と し て の性格な どから、ガ イドライ ンによ る規制が有効 に行使されるため の方法 を検討 した。最後 に'行政裁量 に対す る 裁判所 の審査 の及ぶ範囲に関す る観点 から、技術基準 に ついて考察 した。 ⑨規制 のため の合意形成努力 法律 で規制す る にしろガ イドライ ンで規制す るにしろ国民 の合意を求 める努力が必要 であり、 そ の方法 に ついて検討 した。 ( 合意形成 のために必要な当事者) 科学技術 の適用 に関 して合意形成 の努力をす るに当た っての当事者 を、 一案 として'第 一類 ( 直接 の利害関係者 ) '第 二類 ( そ れ以外 の利害関係者)'第三類 ( 利害中立的専門家等) にわけ、各 々の主張を整 理す る こと の重要性を指摘 した。 ( 合意形成 手法) 従来 の合意形成 手法 及び新 し い合意形成 手法 ( テク ノ ロジー アセ スメ ント、 コンセ ンサ ス会議など) を紹介 した。 当グ ループ で、本論 の検討 を進 め ている間 にも'生殖 医療技術 をめぐ つては新 し い話題が次 々と登場 し てきた。未確認 の新 聞報道 を含 め ても' 石川県畜産総合 セ ンターと近畿大 で体細胞を使 ってク ロー ン牛 の誕生 に成功 ( 平成 一 〇年七月五日)、 ハワ イ大学等 の研究者 により日米伊英 の国際グ ループが雌 のク ロー ン マウ ス五〇匹以上を作 る こと に成功 ( 七月 二三 日)、 アメリカ 人研究者 が学会 で自 分 のク ロー ンを作 る旨 の発言 ( 九月六 日 ・日経) 、東大と科学技術振興事業団は蛙 の腔 の未分化細胞塊 から 腎臓など臓器を作成 し'他 の蛙 の腔に移植 し生育を確認 ( 九月 二二日) 、ウィ ス コンシン大学 で人間 の腔からES細胞を分離、 培養 と増殖 に成功 (二 月六 日)、 アメリカ の投資会社 と アメリカ人研究者が北海道 にク ロー ン研究 のセ ンターを作 る旨 の記者 月八日) 、 会 見 (〓 1 月 1日付各紙) 'イギリ ス政府 のHFEAがク ロー ン技術 を利用 して人体組織を作 る研究を認める答申 (〓 1 韓国 キ ョンヒ大学 が'女性 の体細 胞と卵 子から核移植 し卵細胞 の四分割 ま でを観察 (二 一 月 一五日) 、ウィ ス コンシン マジ ソン 大学 で牛 の卵 子に四種類 のほ乳類 の体細胞核を移植 し分裂 さ せて腔とす る ことに成功 (二 一 月 二八 日) 、民間企業 で初 の体細胞 核 ク ロー ン牛 の誕生 ( 平成 二 年 1月八 日)、鳥取大学講師 らが ヒト の精祖細胞を マウ スで生育 ( 二月 二日) 、 イタリ アでヒト の精祖細 胞を マウ スで生育 さ せ、体外受精さ せる ことにより五人 の人間 の子供が誕生と発表 ( 三月 一七 日)等 々。 このような 極 め て変 化進展 の激 し い中 で'生命科学技術 に関す る人間社会 の観点 から の考え方 の整 理は社会的な混乱を招 かな いためにも 1 50 是 非 と も 必要 であ る。 現在 、 科 学 技 術 会 議 、 学 術 審 議 会 、 厚生 科 学 審 議 会 な ど で生命 科 学 技術 、 生殖 医療 技術 な ど の検 討 が行 わ れ てお り'今 後 こ の間 題 はま す ま す ' 幅広 く 、 深 化 した議 論 が進 め ら れ て行 く こと にな ると考 え ら れ るが 、 ,本 論 文 も そ のよう な検 討 の lつの材 料 とな る ことを望 ん で いる。 最 後 と な った が ' 本 調査 研究 の実 施 に当 た っては、 た くさ ん の研究者 や 識 者 の方 々から 、重 要な ご 教 示や ご 意 見を伺 った。 糸原 民子 重美 財 団法 人放射線 影 響協 会放射 線 疫 学 調査 セ ンター長 理化学 研究 所 脳科 学 総合 研究 セ ンター 行動遺 伝学 研究 チー ムリーダ ー 特 に' 以下 の方 々に は専 門的 な内 容 に ついて' 詳細 なご 指 導 を いただ いた。 岩崎 理 化学 研究 所 ラ イ フサ イ エン ス筑波 研究 セ ンター遺 伝 子基 盤研究 部 長 科 学 技術 庁 放射線 医学 総合 研究 所重粒 子治療 セ ンタ ー治療 診 断部 長 日下部 守 昭 博彦 科 学 技術 庁 放射線 医学 総合 研究 所特 別 研究 官 三井情 報 開 発株 式会 社 顧問 ( 科 学 技術 政策 研究 所客員 研究 官) 辻井 雅明 日本 原 子力 研究 所東海 研究 所 原 子炉安 全 工学 部 副主 任 研究 員 香 月祥 太 郎 堀 俊充 ( 五〇音 順) 本間 貴 重 な時 間 を割 いてご協 力 いた だ いた皆様 方 に深く感謝 申 し上げ た いO さ ら に' 本 調査 研究 に関 連 し て専 門家 の先 生 方 に当 研究 所 に て御 講 演 いただ いたが、 そ の内 容 に ついては、 別 途 講演 録 と し てと りま と め る 予定 であ る。 貴 重な お話 を いただ いた ことを、 心 よ り感 謝申 し上げ た い。 1 51 参考 1 ク ロ ー ン等 の 腔 操 作 や 生 殖 技 術 に 関 す る 各 国 の 法 制 度 概 要 イ ギ リス 法令名 「人 の 受 精 と 腫 研 究 に 関 す フランス ドイ ツ 「腔 保 護 法 」 (1 9 9 0 年 ) 背 景 、 趣 旨等 「生 命 倫 理 法 」 ( 1 9 9 4 連 邦 法 な し 午(「 の )「 人 移体 記 三 植 名尊 つ の デ .生 重 法 ー法 律 殖 タ」か 法」 ら 成 る ○) 但 大統 統 し領 廃 領令 案 法) 案 (等 1( の 91法 99 案 79 年7 )年 、 る 法 律 」 (1 9 9 0 年 ) 法令 の形態 ア メ リカ 人 の腔 及 び配 偶 子 の扱 い全 腔 や 配 偶 子 の扱 般 につ い て規 定. 技 術 につ い て 、 一 定 の 場 合 に は 、行 政 庁 の 事 項 を規 定 し、 い 個 罰 、 生 殖 諸 上 記 3法 に よ り 、 先 端 医 療 別 に 禁 止 技 術 全 般 (臓 器 移 植 、 生 殖 則 を設 け 関連 技 術 ) を共 通 の倫 理 原 謬 実 規 を施 め た 用 定 可行 が 違 い を政 可 反 得 た能 規 研 て○ に 定 対 究 、.や 歴 し及 生 て罰 殖 び則 配 医療 偶 を定 子 の た特別刑 法○ 根 植 則 制 む 個 関 を り 「人 「○ 「記 情 込 拠 連 移 に 人 、 を基 報 む 植 刑 保 名 体 生 の と保 o づ 事 殖 健 尊 デ な 医 .生 護 き 重 規 学 ー 医 る法 、包 原 殖 療 法 制 情 タに 」 則 等 報 法 法 を括 盛 刑 典 」 で の を に 的 り 利 法 、 民 関 で に に 込臓 規 法 す 盛 用 に よ 規 む器 制 手 、 に る り 制 o続 盛 移 規 の 込 、 ○ ワ - ノ ッ ク 報 告 (1 9 8 4 午 ) の議 論 を踏 ま え、 立法 化. 生殖 関連 技術 の適 正 運 用 を ル ノ ワ ー ル 報 告 (1 9 9 1 午 ) 等 の複 数 の有識 者 委 員 会報 告 を経 て 、 立 法 化 ○ 人 体 の 尊 重 .不 可 侵 、 人 の ベ ン ダ 報 告 (1 9 8 5 年 ) の議 論 を踏 ま え、 立 法 化 ○ 人 間 の 尊 厳 と生 命 の 保 護 を 根 拠 とす る. 全 米 生 命 倫 理 諮 問 委 員 会 (N BA C) か ら、 ク ロー ンに つ い て の 勧 告 (1 9 9 7 午 )、 人 と 人 以 外 の 種 の 1 匹 イ ギ リス 配 偶 子 の保 存 、使 用 ドイ ツ フ ラ ンス 拘 合 精 配 両 ○ 率 金 訴 明 二 し → (認 細 付 は 禁 子 記 方 て 、 可 な の 2o 胞 属 除 ○ お 精 場 年 . ま 当 を あ さ期 書 く 該 子 れ 但 ハ 合 以 た 、 る (但 4 o) ま 2 認 男 は の た ム い 下 し 条用 で し 罰 動 女 正 可 ス 、 、 は の に 1 、 金 試 物 間 常 拘 両 を タ 6 項 ( 破 1 医 得 検 験 ー 方 禁 、 で の ケ )( a 壊 用 査 卵 o 月 そ 完 あ て ま , f の )行 子 ) 、 い の 以 略 了 た る b こ) 為 他 い 受 後 た 式 下 は る と と罰 精 場 は 交 の 起 め 、 と ○ 使 の < 保 用 存 可 可 、 な ( 取 使 く 得 、 に1 配 可 よ 偶 能 り 子 o療 、 を > 酉 保 己偶 存 子 、 性 (配 選偶 択 子 の 識 別 、受 精 ) 罰 せ 但 ○ の 当 を < さ禁 金 含 れ 阻 与 よ と し 1認 刑 止 止 年 有 、 た う えめ > と 性 精 重 以 の ら (す ら 3 子 れ 染 い 下 たれ 条 る 伴 色 た の で めた . ) 機 性 卵 体 、 自場州 子 遺 関 に 由合刑 伝 法 に を よは受 病 で ま よ り 除識 精 発 権 た り 外病 別 妥 限 は さ O 保 存 配 偶 子 に よ る死 後 <禁 止 > <禁 止 > ア メ リカ イ ギ リス 生殖細胞 の変更 <腔 の一 部 を構 成 す る場合 を 除 き課 可 に よ り可 能 > ○ 藩 可 な く 、配 偶 子 を 保 存 、 使 用 . (4 条 1 項 ) - 2年 以 下 の 拘 禁 ま た は 罰 金 、 あ るい は 両方o 略 式 起 訴 の 場 合 は 、 6ケ月 以 下 の 拘 禁 ま た は罰 金 、 あ るい は 両方o ドイ ツ <受 精 に利 用 され な 等 、 一 定 の場 合 を除 原則禁止 > 〇 人 生殖 系列 細 胞 の 質 の人為 的変 更。 ○ 人 為 的 に 変 更 され 形 質 を含 む 人 の生殖 受精 - の利 用o - 5年 以 下 の 自 由 刑 フ ラ ンス い 場 合 < 以 下 の 条 項 に よ り禁 止 ? い て 、 > 〇 人 の種 の 完 全性 の侵 害禁 遺 伝 形 止 〇 人 の 選 別 を 目的 とす る 優 生 学 上 の 行 為 禁 止 。 (氏 た 遺 伝 法 1 6 条 の 4) 細 胞 の 〇 人 の 選 別 を 目的 とす る優 生学的処置 の実施 ま た は - 2 0 年 の 懲 役 (刑 法 5 1 部 更 ○ は(付 を な 、 を承 属 構 お 細認 書 成 胞 、し 2 認 す のえ 遺 可 る3 な 伝 場 で( い 4 合 子 は ) . ) 構 、 に腔 造 お い の変 一 て 他 放 遺 人 生 罰 が に ○ か を る こ ・死 ・生 ・体 成 意 れ の 例 場 金 は 伝 射 人 に ら治 適 外 合 図 が 、 線 採 移 殖 形 外 為 し か 亡療 用 受 未 で な さ と 植 治 細 質 的 取 に ら しれ の い 精 遂 、 さ し 療 胞 新 た 置 に を さ場 。 れ こ て に も れ 変 胎 人 の た 、 かれ 合 利 い な 、 処 化 児 為 遺 更 れ たが な い 用 な 罰伝 学 す 生 的 い 、 た腔 . い ○ さ療 形 殖 人 、 生 に る 、 れ (細 法 変 質 場 殖 、 ま 胎 接 5 な胞 合 変 死 そ 更 た 細 粂 児 種 い者 す 更 ) 胞 の が で は 、 〇 1 条 の 1) ア メ リカ イ ギ リス 人 的 女 人 の腔 の 体 外 で の人 為 < 治 療 、 研 究 の た め 作成 、 取 得 に よ り可 能 > 性 か らの腔 の摘 出 、 ○ 認 可 な く、 膝 を創 為 的受 精 存 、 使 用 o (3 条 1 項 - 2年 以 下 の 拘 禁 ま 金 、 あ る い は 両 方 o 訴 の 場 合 は 、 6ケ月 拘 禁 ま た は罰 金 、 あ ドイ ツ の 認 可 <禁 止 > ○ 他 の 女 性 造 、保 め 、 も し くは ) た な い 目的 で た は罰 め 、 着 床 完 了 略 式 起 か らの摘 出○ 以 下 の 〇 人 の 精 子 細 るい は 胞 に進 入 す る 両方○ <認 可 に よ り可 能 > ○ 認 可 な く、 腔 を創 造 、 存 、 使 用 . (3 条 1 項 ) - 2年 以 下 の 拘 禁 ま た は 金 、 あ る い は 両 方 o 略 式 訴 の 場 合 は 、 6ケ月 以 下 拘 禁 ま た は罰 金 、 あ るい 両方D ○ 原 始 線 条 の 発 現 後 の腔 保 存 や 利 用 禁 止 ○ (3 条 ア メ リカ <禁 止 > ○ 商 業 ま た は 産 業 目的 で の 生 体 外 で の 人 の 腫 作 成 、 使 用禁 止o - 7年 の 禁 固 及 び 7 0 万 フ ランの罰 金○ 胞 が 人 の 卵 細 (保 健 医 療 法 L 1 5 2 条 の 事 態 を 人 為 的 7 、 刑 法 5 1 1条 の 1 7) の 腔 の 前 腫 保 腔 の 移 存 利 腔 植 に 用 の の 役 の 女 た 立 た 性 罰 胞 〇 に金 引 に 人 3刑 人 き 年 の為 起 、 以 精未 的 こ 子 下遂 す に 細 のo 移 も胞 自処 入由 を 罰 0刑 人( ま の1卵 た 粂細 は ) ○ 生 ラ → (刑 体 研 ン 7外 法 の 究 年罰 で 5 ま の金 の 1 禁 たD 人 1 は 固条 の及 実腫 の験 び作 1目 7 成 8) 的 0 禁万 で 止の フ O <妊 娠 目的 以 外 は 禁 止 > < 商 業 目的 で の 腫 使 用 禁 止 、 保 ○ 体 外 で 生 成 され た 人 の 腔 、 - 定 の 検 査 の 場 合 を 除 き 実 子 宮 内 で の 着 床 が 完 了 す る 験禁 止 > 罰 以 前 に 女 性 か ら掃 出 され た ○ 商 業 ま た は 産 業 目的 で の 起 人 の 腔 の 売 却 、 こ の 腔 を そ 生 体 外 で の 人 の 腔 作 成 、 使 の の 維 持 に 役 立 た な い 目的 の 用禁 止 ○ は た め に 譲 渡 、 取 得 、 利 用 ○ - 7年 の 禁 固 及 び 7 0 万 フ ○ 妊 娠 以 外 の 目的 で の 人 の ランの罰金o の 腔 の体外 での発 育o (保 健 医 療 法 L 1 5 2 条 の 3 - 3 年 以 下 の 自 由 刑 ま た は 7 、 刑 法 5 1 1 条 の 1 7) 項 罰 理 の を(解 金 原 期 第 a 1o) ) 、 始 間 0 1あ 線 年 内 日る 条 以 に 目い 膝 は 下 とは 配 す の両偶 拘 中 る方子 禁 第 に混 出 ま 1合 現 た 4は と 日 罰 金 刑 、 未 遂 も 処 罰 (2 条 ) 合 ○ ラ あ 8 (、 保 ン 一 を ら 7刑 の ゆ 組 健 除 年罰 法 る の 医 く金 検 5 療 男 禁 、C 査 1 法 女 人 固、 1 及 の L条 実 腫 柾 び 1 の 験検 に 5 7 禁 1対 査 0 2 止 9) す 条 の 万0場 の フ る ・れれlI 腔 の保 存 、使 用 、 腔 を用 い た検査 、実験 フ ランス イ ギ リス 人 ク ロー ンの 作 成 (腔 の 操 作 ) <一 部 禁 止 、不 落 可 に よ り 実質 的 に禁 止 > ○ 歴 の 細 胞 核 の 、人 の 細 胞 、 腫 ま た は 発 育 し た 腔 か ら採 取 した 核 との 置 換 禁 止 o (3条 3項 d) - 1 0年 以 下 の 拘 禁 ま た は 罰 金 、 あ るい は両方○ ○腔 の創 造 、保 存 、使 用 の 禁 止 ○ (3 条 1項 ) (但 し 治 療 の た め の 認 可 が 付 与 さ れ う る )o - 2年 以 下 の 拘 禁 ま た は 罰 金 、 あ るい は両方 ドイ ツ <禁 止 > ○ 他 の腔 、胎 児 、人 と同 じ 遺伝 情 報 を もつ 人 の腔 が 生 まれ る事 態 を人 為 的 に 引 き 起 こ す こ と○ ○ この腔 の 女性 - の移植 o - 5年 以 下 の 自 由 刑 ま た は 罰 金 刑 、未 遂 も 処 罰 (6 条 ) (人 ど う し 、 人 と 動 物 の間) (配 偶 子 ま た は 肱 の 換 ○異 な る遺伝 形質 を有す る 複 数 の腔 を、少 な く ともつ の人 の腔 を用 いて細胞 結 キ) メ ラ、ハイ ブ リッ ド○ <認 認可 可に なよ くり 、可人能の>配 偶 子 を 合 < 禁 止 > 作 ○ 〇 る さ とせ ら 動 人 遺 一 に させ る 緒 物 伝 可 の○ る 能 肱 形 の に. 精 質 な と他 子 、 っ をの そ て も と細 人 の ち も胞 膝 分 、 の 他 の動 物 の生 きた配 偶子 と の受 精 また は人 の精 混 合 す る . (4 条 1 項 C) 物 卵 細胞 の受 精 に よ ○ 腔 を 動 物 の 体 内に 置 く○ 裂 可 能 な 胚 生成 o (3粂 3 項 b ) ○上記 の腔 の女性 ま - いず れ も10年 以 下の拘 物 - の移植 、人 の腔 禁 ま た は 罰 金 、 あ る い は 両 ぺ の移植 卵 裂 を こ と結 細 異 が の合 胞 腔 な さ 子 と動 る、分 たは動 の動 物 ア メ リカ <大 統 領 見 解 に よ り 下 記 粂 項 で禁 止 > 〇 人 の種 の 完全 性 の侵 害禁 止 . 人 の 選 別 を 目的 とす る 庫 生 挙 上 の 行 為 禁 止 ○ (氏 法 1 6 条 の 4) 〇 人 の 選 別 を 目的 とす る優 生学 的処置 の実施 - 2 0 年 の 懲 役 (刑 法 5 1 1条 の 1) ○ 研 究 、 実 験 目的 の 生 体 外 での人 の腔 作成○ - 7年 の 禁 固 及 び 7 0 万 フ ラ ン の 罰 金 (刑 法 5 1 1 粂 連邦法 な し ○ 体細 胞 核 移植 を用 い た人 ク ロー ンの 産 生 の試 み に対 す る政 府 資 金 提 供 の 当面 禁 止 . (大 統 領 令 1 9 9 7年 ) ○ 大 統 領 法 案 (1 9 9 7年 ) で は 、 体 細 胞 核 移植 ク ロー ニ ン グ を使 用 して 人 間 を作 る 一 切 の 試 み の 禁 止 . (5 年 後 に 見 直 し ○) ○ N B A C 勧 告 (1 9 9 7 午 ) で 、体 細 胞 核 移植 技術 につ い て 、有 用 性 は認 めつ つ 、 科 学 的 不 確 実. 性 と倫 理 の 1 8) 的懸念 に言及○ 午)では、 ・人 の 細 胞 と 人 以 外 の 動 物 の卵 子 の融 合 で妊 娠 を維 持 ○ N BA C 回 ( 1 9 9 8 れ 生 が の さ ・人 但せ あ 卵 自 じしる 子 体 の る 、○ 試 細 で の こ 人み 胞 融 は と のは 合 子 に と 腫許答 人 は に 性さ 発 倫 以 よ 幹 れ理 外 達 っ 細 な的 て の 胞 し い腔 懸 動 は え .念 物 そ が な い も の で あ り、 直接 的 に は 倫 理 的 問 題 を 生 じな い . ・人 の 細 胞 と 人 以 外 の 細 胞 の卵 子 の 融 合 が 、子 に発 達 す る可 能 性 の あ る腔 を発 生 させ な い 場 合 に は 、 倫 理 的 ・9El ・ 成 ○は 認不 可認 機可 関の は方人針クをロ明ー 示ン .作 フ ラ ンス イ ギ リス ドイ ツ 人 工授 精 、 <認 可 に よ り配 偶 子 、 女性 - の配 偶子 また は 植 可能 > 腔 の移植 ○ 認 可 な く、 精 子 及 び を 女 性 の 体 内 に 置 く こ 禁 止 O (4 条 3 項 ) - 2年 以 下 の 拘 禁 ま た 金 、 あ る い は 両 方 o 略 訴 の 場 合 は 、 6ケ 月 以 拘 禁 ま た は罰 金 、 あ る 両方○ ○ 認 可 を 得 て 腔 を 女 性 内 に置 くこ とは可能 ○ 腫 移 <配 偶 子 提 供 者 以 外 - の 移 植 禁 止 、数 の制 限 > 卵 子 ○ 他 の 女 性 の 末 受 精 卵 の 女 との 悼 - の移植 o ○ 卵 細 胞 の 出 自で あ る女 性 は罰 の 妊 娠 以 外 の 目的 で の 卵 細 式 起 胞 の人工ヨ 受精 O 下 の 〇 一 回 の 月 経 周 期 内 の 三 つ い は を越 え る腔 の 女 性 - の移 植 o 〇 一 回 の 月 経 周 期 内 の 、 卵 の 体 管- の配偶子移植 に よる 三 つ を越 え る卵 細胞 の受 精o フラ ンス <生 殖 医 療 と して 腔 受 可能 > ○ 生 殖 - の 医 学 的 介 助 的 の 範 囲 内 で そ の 目的 う場 合 の み 、 膝 の 生 体 成 可 能 O この 艇 は / 一組 女 の うち少 な く と も一 配 偶 子 に よ り受 精 され れ ば な ら な い o (保 健 法 L 1 5 2 条 の 3) ○ 第 三 者 で あ る提 供 者 らな い 生 殖 - の 医 学 的 ア メ リカ 入 れ の に 外 の 人 な 医 目 従 作 男 の け 療 に頼 介 助 ・LmT. (付 属 書 2 腔 の譲 渡 、売 買 1-(1) (e)) 罰 ○ た 〇 に る金 、 移 は 代 一 3刑 女 人 植 理 年 回性 腫 母 以 の さ (移 の 1 れ 月 下植 卵 条 経 の る細 ) 0周 べ 人 自胞期 工 由 きの刑 授 数 内受精 ま を に 精越 女 た 、 ○性 は ま え 例 法 が こ成 外 L と功 1 が と5 し しな で 2 て き条 い 腔 るの 一を o組 5) 受 (保 のけ男健 入女れ 医は療 る 、 罰 子 人 ○ 以 の た <金 禁 体 維 め 宮 の 前 3刑 外 止 に 肱 持 年 内 に譲 で 、 > 以 女 の で未 に 生 渡 性 役 売 下 の遂 成 、 却 着 立 の かも 取 さ 床 、 た 自 ら 処 れ 得摘 が な 由 こ 罰 た 、刑 の 完 い 出人 利 ( 腔 了 ま さ 目 2 の 用す れ 的 た を 粂 腰 0そ の た は ) る 、」 得 女 為 ○ の 除 る ラ く 上 (刑 行 禁 膝 対 す 生 ン > が き 7為 止 法 の 殖 価 年 腔 、 を る0 罰 禁 5 行 人 有 の 医 を金 止 】 1 療 禁 受 償 得 為 のo ○ l条 1 腔 で の 、 固 て け と条 及 入 第 場 そ 、 を しの の合 れ び 取 人 三 の て1 者 斡 一 得 の を る 76) 5) 版 組 旋 場 す 除 に 0合 与 万 の 、 き を る禁 行 取 男 人 を え フ イ ギ リス ドイ ツ フランス ア メ リカ 生 殖 技 術 適 用 の た め の <要 同意 > <要 同意 > <要 同意 > 条件 等 ○ 配 偶 子 ま た は 腔 の 使 用 の ○ 卵 子 、 精 子 の 提 供 者 の 同 ○ 対 象 とな る一 組 の 男 女 は 、 (精 子 、 卵 子 の 提 供 者 た め の 同 意 が 必 要 意 の ない人 工授 精. 生 き て 生 殖 年 齢 に あ り、 婚 代理母 (付 属 書 3 ) 植 罰 ○ →O 金 同 3刑 意 年 以 の (4 な 下粂い の)女 自性 由刑 - の ま肺 た 移 は 授 能 報 必 要 姻 条 れ 場 ○ 年 い を 5) (保 の 酬 精 腰 提 身 以 要 ○ o ○) 合 し健 供 2) 元 上 に て を で (但 (保 、腔 払 つ 医 取 い の 、 を し 医健 を し 療 肝 得 知 共 い た っ る 師提 、 医 男 法 移 て か 同 る しは 供 療 治 植 事 少 生 女 た は L こ情 療 法 男 活 前 し い ま は な と 1報 上 た 承 L 女 け の た 、 が く 5取 必 男 諾 及 証 な そ で は 1 と 2得 女 要 条 い 拠 れ 人 が び き 5 も○ 必 腰 可 の な が ぞ に 工 2 <商業 的代理 母 のみ禁 止 > <禁 止 > <禁 止 > - 代 理 母 契 約 法 (1 9 8 5 ○ 代 理 母 - の 人 工 授 精 、 ま ○ 他 人 の た め の 生 殖 ま た は ・8ET・ 等 の 同意 等 等) 参考 2 ・次に、r 遺伝線量Jについての記述の中で、r 集団に対す る辻伝線量Jを定義 して、r そ <参考資料 >放射親 の国民全休-の遺伝的影響について の集団の各人が、受胎か ら子供 を持つ平均年鈴までにこれを受 けた と仮定 した歩合 に、 それ らの個人が受 けた美麻の鼻Aに よって生 じるの と同 じ遺伝的負担を全集 団に生 じる 原子炉等規制法の立地♯査指針の国民遺伝浪量の考え方の撃畢 よ うな親量のことJ とし、r 許容辻伝鼻 量」の定義 として、rもしこれ を各人が受胎 か O 「原子炉立地事壬指針」 ( 原子力重点会,昭和 39年 5月 27日) ら子供 をもつ平均年齢までの間に受 けた として、全集田に とって受け入れ うる負担 を生 じるであろう、 とい うよ うな液量のこと」 としている。 原子炉安全専門脊査会が原子炉設庫に先立って行 う安全窄重の際、万一の事故 に関連 してその立地条件の適否 を判断す るための基乳 2 立地事重の指針 の中で 2・ 3 原子炉欺地は、人 口唾集地帯か ら必要な軽淋だけ離れ ていること。 ここにい う人 口密集地帯か ら必要な距柾 とは、伎想事故のせ合、国民辻伝線量 の見地か ら十分受 け入れ られ る程度に全身被唖線量の耕井値 が′ トさい値にな る よ うな距柾を意味す る. 0原子炉安全基準専門部会の報告書 ( 昭和 38年 11月 2日) ・そ して、 r 最大許容遺伝線量」について、 自然バ ックグラウン ドと医療上の被姓 を別 に して、あらゆる線源 か らの全集団に対す る遺伝浪 量は、5 r eE nを越 えるべ きでない こ とを示唆するとし、この 5 r cm の割当として、集団全般の軸 を2 z Tm としている。 この r 集団全般 の被爆 2 r c m」に関 し、r 核エネルギー計画の開発 ( それに的連 した廃 物の廃棄問題を含 め)並びに放射線源の さらに広範な使用を計画す る目的のためを考 え たものである」 旨解脱 している。 ○外国の例 アメ リカ原子力船 r サバンナ号」の港内運行手引 き 偶 和 37年 8月 1日) ・ICR P勧告 の ほか 、 N CR P ( Na do na l Co un c i lo 爪 Ra di a t i o n Pro t c c t i o z Ia nd 上記指針 を作成 した専門部会報告書の解脱。 Me a s u r emc nt S )の勧告 にも言及 し、事故による遭伝的被爆に対 して、2× 1 0 ` ma J l ・ Z tm ( 20 0 国民遺伝線量に湘 して、 ICRPの 目安に基づいて考えてみると、0. 5× 1 0mm ・ . tm 万人 r e m) とい う数値 を冶論 として示 し、この数値 が r 計画の 目的に対 してなお有効で ある」 とされている。 ( 5 ㈱ 万人 レム)に相 当す るとし、r 従って、仮想事故の坊合の全身被曝線量の横井債 は、0・ 5× 1 0 n un・ J tm に比べてかな り小 さい価でなければな らない と考える。」 として いる. すなわち・同解祝 では、ます r 償憩事故の場合の国民辻伝弟量は、国際放射線防護重 点会 (ICRP) にい う国民に対す る遺伝線量の割 当の中のごく小部分に納める必要が ・すなわち、この手引きではACR S ( Ad yi s or yComm it t c co nRes ca J d Sa f c g u町由) の 前議長の推定による, 1年 に 1回のM CR ( 最大徳走事故)が発生す るとい う仮定に基 づ く30年間の集団線量 2× 1 0 7 ma A・ f c m によ り ( アメ リカの人 口を 2億人 とす る)、 3 0年間の 1人当た りの辻伝液量寄与 0 . 1 r c m を基に している。 ある。 」 とした上で、 ICR P (1958年勧告) による最大許容辻伝線量 5 L C m (自然 ここで、 30年 間の漣伝凍量 03r e m を運ぶ ことは、 ICRPの例示 した集団全般 に バ ックグラウン ド及 び医凍被qBを除 く)の うちの、集 団全般 の被曝に対す る割 り当て 対す る 2r c m、あるいは保留分 1 ・ 5 r cm と比較 し、現時点では若干保守的ではあるが、メ リッ トがあるとしている。 ( なお、この 0. 3 r e ml ま20 0万人 T em に対応。) 2 r cn (うち伴内被曝 1 . 5∫ e m、休外被 唖 0. 5 Ⅰ でm) を参考 としている。 この体外被曝 0. 5t tm について、我が国の人 口を約 1億人 とすると、集団全般 の被曝は、全人 口及び被曝集団 に占める生殖可能年齢 グループの比率が等 しい と仮定すれば、0. 5× 1 0 m的・ r C m に相 当 す るとしている。 なお、ここで春見会が指針の決定に際 して具体的数値 を考 えるに当たって事考 とした、 一つの外国の例がア メ リカ原子力船 r サバンナ号」の港内運行手引き ( 昭和 37年 8月 1日)であ り、ここでの基準が 2 00万人 レムである。 O ICRP Pub l i c a t j on6 (1958年勧告) r 集団の披 糠」の項 の中で以下のよ うに記述。 ・ト 般 軌 として 、 「 壊 動力計画お よびその他の大規模 な原子力平和利用 についての 適切な企画に当たっては、一つには個人浪量を制限す ることにより、一つには被煉す る 人の数 を制根することによって、集団全件の被爆を制限す ることが必要 となるJ と し、 放 けて rこの制限は有害 な影響 と社会的利益 との間の妥協を必然的に含む ものであるJ とす る。 さらに 、 r 委員会は危険 と利益 との間の適正 な収支勘定をす ることはまだでき ○現行の 「 原子炉立地審査指針及びその適用 に関す る判断のめやすについて」 ( 平成元年 3月 27日一部改定) 三つの基本的 目標 の中の一つ として、 C・ なお、収想事故の場合 には、集団線量に対す る影響が十分に小 さい こと、 とし、 の中で 2 立地蕃重の指針 2・ 3 原子炉敷地は、人工密集地帯か らある軽鮮だけ解れ ていること。 ここにい う r あ る距肌 としては、仮想事故の歩合、全身線jt の積算値が、 集同線丑の見地か ら十分受 け入れ られ る程度に小 さい価になるよ うな距離 をと るもの とす る。 ( 註 :ここでは改訂前の r 国民辻伝浪量」が r 集団凍量」 とされている。) そ して、指針 2・ 3にい う 「 ある距離だけ離れてい ること」を判断す るための 目安 とし て、外国の例 ( 例えば 、2 万人 Sy - 20 万人 r c m:上記サバ ンナ号の港内運行手引 きよ り)を参考にす ることとされている。 ないj 旨諌 め、 「 危険 と利益の収支勘定に影響 を及 ぼす洋田子は国によって変わるであ ろ うし、最終的決定 は各国に凍 されている」 とした上で、r 重点会 は 1958年勧告で 全集E Z l の被爆に対す る暫定的な上限を示唆 したJ としている。 狂 :改訂後の指針 で も、r 集 団叙 景 」の考え方 を継続 しているが 、 ICRPの勧告で も、 最終的な取 り入れ の決定は各国に任 されているとされてお り、この考え方 を原子力施 軟の立地審査の基準としているのは、 日本以外にはカナダのみ. 0なお、原子力以外の分好 も含 めて、 リスク管理の考え方についての方針がオランダで提 示 されてお り ( 環境政策に的遺 して)、影響が明 らかでないリ̀スクについての対処のあ り方として参考になる。 ・オランダでは、系統的な リスク管理の政策の採用が重要 との離職の下、r 希境管理のた 98 69 0年計画」で三つの主要な書、大規模事故、化学物質、放射浪被曝に対 して、 めの 1 粁容 リスクレベルが定められた. ・この文書の中では、特に人間に対 して r 仲人 リスク) と r グループリスクJ 、生態系に 対 して r 集団 リス ク」が導入 されている。 ・影響に着 目した政策 を定める帝には、政府が リスクを同定 し、これ以上では受け入れ る ことのできない限度 ( 最大許容限度)及び これ以下では無視できるレベルを確立す る責 任がある.大規模事故.化学物質、放射舟被曝か ら人間が受けるリスクの最大許容死亡 0 ヤ年を超 えないように定められた。佃々の活動あ リスクは、各々合計 した死亡確中が 1 るいは伸々の化学物賞に対す る最大幹事 レベルは 1 0/ 牢に定められた。 ・人間及び生態系に対 して、 これ以下ならば兼視できるとするリスクレベルは、 どんな場 %に定められていら. 合でも可能であれば、界則 として最大許容位の 1 ・既存の活動が特定の限度を滋 える状況を生み出 した場合には、その事を抑制する期間を 決める麻に社会的な配慮が しば しば重要 となる. しか し、新規の活動の歩合には、i lち に特定の限度 を守 る必要がある. ・リスクレベルの遺正な評価 は、纏めて困難であると一般に野鶴 されているが、政策決定 に重要な影響を及ぼす不確か さを最小にしていく努力はなされなければならない.政策 決定のプロセスの中に、明 らかな形でこの不確か さを考慮に入れていくことが,次第に 重要になってきている. さ考 3 コンセ ンサ ス会議 についての資料 第 2綜第 2項の合意形成手法に関す る取締についての補足棄料 を掲 げる。 コンセ ンサス会議 は各国で行われてい る。その開催 国、年、議居を妃す。 参考 3- 1 表 各 国のコンセンサス金森開催一覧 国 デ ンマー ク テーマに関す る多 くの専門家 を集めるべきである。 ○専門家によるブリーフィングの仕方 専門家のブリーフィングによって、市民Ji ネルは影響 され る。従って、専門家のプルー フィングは トータル としてそのテーマを括 るのに公平かつ十分な質 と量が保証 されなけれ ばならない。 開催年 1 卵7 1 9$ 9 1 98 9 食物の放射線照射 ヒ ト遺伝子のマ ッピング 1 9 90 大気汚染 市民に対す る影軌 ま強い。国会耗且 で関心 を示す者 もいる。そのような形で間接的に政策 1 9 91 1 9 9 2 教育工学 ( 技術) 形成 に影響を持 っているとされている。 遺伝子操作による動物 1 9 93 1 9 93 傭人使用の 自動車の未来 不妊 1 9 9 4 交通における情報技術 1 9 94 1 9 95 1 995 1 99 7 1 99 4 統合化 された農業 環境開催 植物のバイオテクノロジー 1 9 93 1 995 動物の並伝子組み替 え バイオテクノロジー 1 9 95 バイオテクノロジー 1 99 7 情報 システム スイス 1 998 食品放射線照射 の方が康先順位 は高い。不妊原因の研 究を進 めるために基礎研究、環境研究、疫学研究を 含む研究計画をたてることを勧告す る。男性の精液の質の低下が大きな閉居 となるおそれ ノル ウェイ 1 99 6 辻伝子組み替 え 現状では絶滅化 されていないので、集 中 して行 い、経験 と知能が集約 され るよ うに態勢を イギ リス オ ランダ ニュー ジー ラン ド 議員 工業、農業 における遺伝子工学 ○専門家の協力 遺伝子治ま テ レ .ワー ク ・コンセ ンサス会議 の機能 コンセ ンサス会社が最も頻射 こ行 われ るデ ンマークでも、コンセンサス会議の結果は、 何 ら法的な拘束力を持っていない.しか し、その括束はマスコミによって報道 されるため、 参考 3- 3 デ ンマークの r 不妊Jについての コンセンサス会議 第 2編第 2項 (2) の 2) においてデ ンマー クにおけるコンセンサス会読で r 不妊」を 題材 に した ものについて枕賓 を述べた。 ここに、デンマーク技術委且会による 1 99 3年の r 不妊」をテーマ としたコンセ ンサス会読の結果 ( 市民パネルの意見)を参考のため記す。 ( インターネ ッ トで入手 した情報をま とめた もの) ( 9不妊 と養子 不妊で悩む人達がいることに関 して、養子のルールや手続 きをどう変えた ら良いか とい うことがテーマ となった。それについての市民パネルの意見は孝子を行いやすいようにす ることであった。不妊で悩むカ ップル には不妊拾廉の他に養子 とい う選択肢があることが 税明 されるべきであ り、養子の仕組みの税明がなされ るべきである。 また、養子魚組に際 しては医学的心理学的援助が与えられ るべきだ とい う意見 もあった。 ②不妊の原因の究明とその知鼓の普及 不妊の原 田についての研究は康先順位 を高め るべきではないか とい うことがテーマ とな った。それ についての市民パネルの意見は以下のよう。不妊治療研究よ りも不妊原因究明 ( マ 米国 ナチユ -I. } ヲ州域) があるが、 この現象に関す る知見は限 られてい るので研究を進 めるべきだ。柵液の研究は 盤傭すべきである。企業は労働衆境 を改善す るように努めるべ きだ。 ③不妊の予防 参考 3-2 コンセ ンサス会議のポイン ト コンセ ンサス会議の実施 にあたっては、様 々な方法 についての配点がな されている。 コ 不妊の予防がテーマ となった。それ についての市民パネルの意見は以下のよ う。不妊の 予防は推進すべ きである。 クラミジア感染は不妊の主な原因の一つであるとされ 、15才 ンセ ンサス会議 についての理解のためにポイン トを記述 してお く。 ○テーマの選定 コンセ ンサス会態で儀絵が しやすいテーマであることが必要である。辻 か ら 25才の男女に定期検診 を行い伝染源 を突き止 めることを提案す る。それにはコス ト 伝子工学な ど、これか らの技術に関 しての蝕Bが多いのは、それが今後 どうなるのか、不 稚定であるか ら畿倹 しやす いともいえる し、また、利幸朗係が完成 していないので敦治 し いので公的な情報捷供を特に若い人に行 うことが必要である。女性の高学歴化 と妊娠率の 低下については保育所の運営 と妊娠休暇取得 を柔軟にすることが求め られ る。蕪酒、紫煙、 やすい ともいえる。 食生活改善な どの 日常的な不妊予防 も重要である。 ④不妊治療の費用 ○バネラーの選定 国の代表を撫制 しているので、年齢、性別、学歴 な どバ ランスを とっ て選ばなけれ ばな らない。 がかかるがコス トよ り効果 は大きい。 また、クラミジア感染の危険はあま り知 られていな 公的資金 をどの程度不妊治療に使 うのか とい うのがテーマ となった。 これには様々な意 兄があ り、不妊は掃気 とは考えない とい う意見や、公共料金による不妊冷熱 ま一軒利用者 負粗すべきであるとい う意見、また、養子縁掛 こも所得制限のある補助金 を出すべきとい う意見があった.不妊防止 とともに不妊原田研究を レベルを上げることを公的脚 として 王事ではないか とい う意見があった. ⑤卵子 と精子の捷供 卵子 と精子の連供に附 してどのような閏月があるかといのがテーマ となった. 特に議輪になったのは、子供が 自分の遺伝汝を知 りたい とい うことと提供者の匿名性の 保磯が相反 していることである.市民パネルの意見 としては、公的術生システムの維持 と 遺伝的な診療のために卵子 ・精子の連供 と受額が特定できるべきである。 したがって丑供 者の匿名性は撤廃 されるべきである。子供は遺伝的源を知る糠会 を得 られる. また、その他の験点 として以下のような意見があった。卵子提供者はホルモン治兼を受 ける軌 こリスクがあるとい う問鰯について、その リスクを知る必妻がある。卵子 ・精子の 提供は営利 目的ではなされるべきではなく、 現行の精子提供-の謝礼は廃止すべきである. 卵子精子の受領者の年齢制限は成年以上 40才以下である。卵子 ・精子轟供に辞 して、少 な くとも社会的な親の うち一人は遺伝的にも親であるべきだ。市民パネルは現在の牡牛 ( 研 究F l 的で使われて しまった卵子の徒供ができる)を廃止することを求める.研究に使われ た卵子は晶賞が保征できないので廃棄 されるべきだ。 ⑥不妊治療の漬菜引き起こす問題 不妊治まが普及するにつれ、 社会的な開度が起きてはいないか とい うのがテーマである。 幾つかの輸点が濃飴 された. 不妊の治療の結果についての研究は どうして優先順位が低いのか とい う簸間が皇 され た.不妊や不妊治療は心理的問鳥の原因である.不妊治療が普及することでかえって不妊 のス トレスが高まっている。不妊治療の前掛 こ社会学的研究が行 われるべきである。不妊 息者-の心理的溝助の必要を明 らかにすることができる。 胎児汝故術は禁止 されるべきである.そのような多胎状態を避 けるために治療技術を諦 めるべきである。 不妊治療 を受けた息者は登録 され、その子孫の追跡 もできるよ うにすべきである。ホル モ ン治療の長期的影響が明 らかになる.ホルモン治まの影響については専門家で意見が違 うのでそれ を研究することに高い優先膿位 を与えて欲 しい。 不妊の研究、治療はいくつかのセ ンターに集中させるべきである。 ⑦不妊の新治轟技術は人間のあ り方にどう影響す るか ? 不妊治療が漣歩 した ときに,伝統的な人間観が変わって しま うのではないかとい うのが テーマである。 ⑧私的な不妊治療を公撃す ることのメ リッ ト・ヂメタ・ /ト プライベー トな病院で不妊治まを行 うことを公欝することのメリ・ / ト・デメ リットがテ ーマ となった.不妊治まの晶質を保征すべきとい う意見 と治療の長期的影響を追跡調査す べきであるとい う#兄があった. すなわち不妊治療には最低限の積率を保圧する規制が必要である.知職 と鼓験 と人材が 必要である.不妊治まは価格だけで故争すべきではない.遠明な市場で、どこでも同 じ質 を保征 され るべきである。 また、不妊治まの結果について中央丑魚所を維持することを義務づけるべきである.登 録の義務結術生委員会に農する。登録データとしては、治まの回数、使われた方法、いく つの卵子が集められたか、どうい う処置が卵子にされたか、治療の結果、妊娠の数、出産 欺、中抵数、子宮外妊娠赦、 ,分娩方法を含むべきである. 不妊治蘇者を登録制にする理 由杜オーブンさが望ま しいからである.公的繊的がコン ト ロールできる企業かができ、不妊であるカ ップルは不妊治療情報を-カ所に行けばす ぐに わかる. 現在では研究 レベルである方法を美麻に使 って しま うことを防 ぐために違った方法の登 録は重要 と考える. 参考 3-4 テクノロジ-アセスメン トの肯分類 テクノロジーアセスメン トは多様な手法があ り、掃射 こ分類できるものではない。最近 の欧州を中心 としたテクノロジーアセスメン トの様々な検討の成果をふまえ、今 日的視点 で整理すると.以下のようなこととなる. ・範E E l 企業におけるテクノロジーアセスメン トの範田としては、広い意味 として r 新技術が企 業の内部及び外部環卿 こ与える影響を解析するための包括的な構造体型J としての場合 も あるが、狭い意味では r 半に新技術や水晶の技術的、鼓済的可能性を柵るJだけを目的 と する。 ・性格 r gによれば、テクノロジーアセスメン トの性格 として、技術 と社会のB g 係をどの CJ q be 多様な意見がみ られた.不妊技術が進歩 したからといって、全ての人冊が平等に子供 を 持つ権利があるとは考えられない。 どこまで通常ではない妊娠 を させてよいのかとい うこ とを医者が 自由に決め られるとい うのは間憲ではなl いか ?不妊治まの技術が子供を持つか よ うにみ るか とい う前掛 こよって区分す ることができる。 ( Ta z j & Cr mb c r s . . Tc c ho l o g y as 池8 8 m: n ti n加 Da ni s h8 0 C i o p ol i t i c dc m t cx t JT e cAt L O bg yMaM eem叫 Vo Ll 1 , No . 5 J 6. ) ア.技術予測 未来の社会が技柿によって規定 され、技術の予軌ができるとい う前掛 こ立 てば、技術 を予測す ることが重要な意味を持つ。 ィ.受動的技術評価 技術が社会に与える影響を我々は理解できるとい う前掛 こ立ち、 技術の与える影響を受動的に分析す る。 ク・前向きな技術評価 学習過毛 として租繊 され、技術変化は管理できるという前提に立 ち、対称、シナ リオワークシ ョップ、 コンセンサス会鶴な どの手法が用い られる. 持たないか とい うわれわれの生活の賞の基準を決めているように感 じられ る.不妊治療技 術は倫理的な問題を大きくはらんでいる.技術進歩によって倫理的基準が崩壌する危険が ある。 エ・社会構成的技術評価 利害関係者が技術を形成するとい う前提に立ち、交渉によって 技術のあ り方を探ろ うとす る。 ・椎のために行 うか クローニングや遺伝子振作にも辞 しが及んだ.不妊治療において遺伝子-の介入は楽止 され るべ きだ. ヒトの卵子のクローニングの禁止は存続 され るべ きだ。 テクノロジーアセスメン トはその起猿か らすれば、科学技術の発展によって不利益な影 970 年代においては r 科学技術の及ぼす 響を被 る人達のために行われてきた といえる. 1 負の影響を反省 し、人間尊重の立場に立ち、- ・科学技術の効果や負の影響を暮恥 こ予 測す ることが重要になっている」 と言 われた. そ こでは消井者や環境 問題で被青を受 ける しか し、 この法律では住民や 自治体、茶境庁が事業 に対 して環境面について意見 を首 え 者 が 中心であった と考 えられ る。 しか しなが ら、技術発展に影響 を与 える、科学者 、技術 者 、潅 官署 、官僚等な どもテクノロジーアセスメン トの関係者 であ り、近年のテ クノロジ るだけで、事業 に どれだけ反映す るか、実施す るか等の判断は事業者 に任 されてい る。 ーアセ スメン トでは、そ うした技術発 展に影響 を与 える者 な ど、関係者 をできるだけ多 く 域 の特性 を考慮 しなければな らない ことな どがあげ られ る。 テ クノロジーアセスメン トとの相違 は、環境 アセスメン トは法制化 され ているこ と、地 巻 き込む ことがテ クノロジーアセスメ ン トを成功 させ るのに必要 であるとい う考 え方が強 Ra 血n a uhs t i t u t e , T T e c h h OL o g yAs s e s s me n Lt h r o u gl Z血l e T aC E i o 乃) 調 され る。 ( ・方法 参考 3-6 ライ フサイ クルアセ スメン ト テ クノロジーアセスメン トの手法 は多 く開発 され てきた。専門家が行 う方汝の名称 だけ で も、プ レー ン ・ス ト- ミング法、チ ェ ック リス ト法、実態調査 法、 コス トベネ フィ ッ ト は再利用の各便階 ごとに分析 し、希境-の影響 を総合的 に評価す る方法である.数値 とし 法、舶連樹木法 、KJ法、多段階評価 法、因果関連ループ図法、シナ リオ ライティング法、 る。環境藩化 を防止す るために必要 な対策 を立てるのに有用 である。 イ ンパ ク ト・マ トリクス法、多段階 フ ィル ター法、多変量解析 法、デル ファイ法、無作為 ライ フサイ クル アセスメン トとは、いろいろな水 晶の一生 を、央進 一使用一廃棄 あ るい ては、主 として投入 され るエネル ギー量、材料使 用量、排 出 され る二酸化炭素量が使 われ 自動車の例では、製造 一使用 一廃棄 の各段階の うち使用段階で発生す る二酸化炭素 が排 抽 出法 、 システム ・ダイナ ミクス法 な どがあげ られ る。 (( 財 ) 日本産業技術振興協会 FTAの有効性発祥の条件調査 j ) 以上 は専門家が行 うテ クノロジー アセスメン トの手法であるが、 これに加 えて市民 を参 出量全件の七割 を占めることか ら、燃 費の重要性がわかる. また、住宅の歩合、建設時に 断熱 、気凍化工事 を行 うと二酸化炭素の排 出が増 えるが 、居住一年 間でこの分は回収 され、 以後、排出量の減少が維持 され る。 加 させ るとい う方法 も各種考案 、辞行 され てい る。 材料工学で も寿命 の予軸 を材料 の耐久性だけではな く、 どの程度の費用 と環境-の負荷 がかかるかをも含 め井定す るこ とが重要 と指耕 され て きてい る。 参考 3-5 環境アセスメン ト テ クノロジーアセスメン トに類似 の手法 として環境 アセスメン トとライ フサイ クル アセ スメン トがある。環境影響評価制度 は 1 9 69年 、米 国において制度化 された。米国におい てはテ クノロジーアセスメン トよ りも帝卓影響評価 が先に実施 されている。珠韓 アセスメ ン トがテ クノロジーアセスメン トの発想 につながってい るとみ る ことができる。 日本が環 境 アセ スメン トを行 うことによって 、OECD加盟 29カ国全てが務境影響評価の一般的 な手続 きを規定す る何 らかの法制度 を有す るこ とにな る。韓境 アセス メン トは、 自然辞境 を改変す る大規模 な押発行為 を行 う場合 に、自然環境 に どの よ うな影響を与えるかを事前 に調査 ・予測 ・評価す ることである。従来は、行政指導 によ り事 業者 の任意の協力 を求 め る しかたであったが、後 に述べ る法制化 によ り環境アセ スメン トを事業者の義務 とす るこ ととな った。 日本の希凍 アセス メン トは個別の卵発事業 について行 うものであるが,海外 の国ではよ り長い展望 をもった戦略的環境 アセスメン ト導入 が放 論 されている。 これ は, 個 々の事業 についてのアセスメン トだ けでは国や地域 の全体の帝境 を保全 してい くのは困 難 で あるとい う発想か らでた もので、国の長期 プラン全体に対 してアセスメン トの網 をか ける とい う考え方である。 日本 にお いては 1 9 7 2年、 r 各種公共事業に係 る環境保全対策 について」の牌丸 了解以 来 、個 別法や国の行政指導、条例等 に よって制度化 が進 め られ て きた。 1 9 81年 に環境影 9 97年 6月 に辞境 響評価 法案 を閑散決定 し、国会 に提 出 しなが ら廃案 とな ってい たが 、1 影響評価法案が成立 し、1 999年 か ら施行 され る。 その法律 の特徴は、第一 に対象事業 に、国が実施 し、又 は群落 可等 を行 う事業であって、 大規模 で、希境 に著 しい影響 を及 ぼすおそれのあるもの と して 、発毛所 、在来鉄道 、大規 模林道 を加 え 14種 とした。第二に、事業者は環境影響評価 開始前の段階で住民や地方 自 治体の意見 を開いて評価項 目を放 り込む ( スコ- ビング) ことで早い段階か ら務境配慮が 図れ る。事業者 は事業実施前 に環境影響評価準備書 を作成 し、 これ を公告 ・縦発に供 して 環境保 全の見地か ら意見 を有す る者等の意見を聴取す る。第三 に、事業者は乗境影響評価 者 を作成 し、許許可権者等の意見 を麟 まえて補正 を行 う。