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2 農林水産分野の一般的状況

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2 農林水産分野の一般的状況
平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業
モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
プロマーコンサルティング
2
農林水産分野の一般的状況
2.1
歴史的経緯1
モンゴルの農牧業は 1950 年代以降、市場経済に移行する 1990 年まで、社会主義体制の
中央集権的な生産体制の下で営まれてきた。モンゴルは 1921 年にソ連の後見の下で世界
で 2 番目の社会主義国家となり、当時のモンゴル政府とソ連によって、遊牧民の集団化、
工業化、都市化が推し進められた。伝統的に遊牧生活を営んできたモンゴル人は集団化に
馴染まず、1920~1930 年代に行われた集団化政策は失敗に終わった。しかし、急速な人
口増加や工業化、都市部への定住化等によって食料や工業原料の安定的な確保が必要にな
ったことを背景に、高い生産力を持つ集団経営が必要となり、1950 年代に入って本格的に
ネグデル(農牧業協同組合)化が進められ、255 のネグデルが形成された。遊牧民は協同
組合から賃金を得る労働者となり、ネグデルが所有する家畜や耕地、トラクター、コンバ
イン等を使って集団的に農畜産業を営んだ。
この時代、それまで遊牧国家であったモンゴルに大規模な耕種農業が導入された。比較
的水が豊富な北部を中心とした地域では 73 の国営農場が設立され、それまでの牧草地が
耕され、大型トラクターや大型コンバインを使ったソ連式の小麦や飼料作物の生産が行わ
れるようになった。この生産体制はモンゴル政府による補助と社会主義国間の経済相互援
助会議(Council for Mutual Economic Assistance-COMECON)に支えられ、小麦やじゃ
がいもは自給自足を達成し、小麦や食肉、羊毛、皮革や繊維製品をソ連等に輸出するまで
になった。
しかし、このように社会主義体制の下で構築された生産体制は、1991 年のソ連の崩壊と
同時に転換期を迎えた。モンゴルは 1990 年に市場経済への移行を開始したが2、国際通貨
基金(International Monetary Fund-IMF)を中心とした国際機関の指導の下で劇的に推
1) ADB(1998)”Mongolia Agricultural Sectore Development Program”
2) ADB (2000) “Report and Recommendation of the President to the Board of Directores on Proposed
Loans and Technical Assistance Grant to Mongolia for the Agriculture Sectore Development
Program”
3) ADB(2006)”Technical Assistance Consultant’s Report: Mongolia Agriculture Sector Strategy
Study”
4)モリス・ロッサビ(2007)
「現代モンゴル:迷走するグローバリゼーション」明石ライブラリー112
5)バトゥール、ソイルカム(2004)
「モンゴル国の農業の概要:1990 年以降の市場経済化に着目して」
『農
業経営研究』30:139-158
2 モンゴルは 1990 年に複数政党制を導入し、社会主義を事実上放棄した。
1
6
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
プロマーコンサルティング
し進められた市場経済化はモンゴル経済に大きな混乱をもたらした。まず、1991 年にネグ
デルが、翌年の 1992 年には国営農場が解体された。これによりネグデルや国営農場が保
有していた家畜、農業機械、貯蔵・加工・灌漑施設が構成員に分配されて私有化された。
同時に、国営企業の民営化が進められ、1992 年までの間にほとんどの販売、サービス、小
売店が私有化された。
ネグデルと国営農場の解体により失業者となった労働者は、分配された家畜を遊牧する
専業牧民となった。また、高いインフレ率のために生活が苦しくなった都市部の住民が生
まれ故郷に戻って牧民となったが、家畜流通体制が崩壊したため、牧民個人では市場への
アクセスができず、家畜製品の輸出先も失われたため、家畜の頭数は増加していった。一
方、家畜の増加は牧草地の荒廃を招き、またそれまでは無料で行われた家畜医療サービス
が有料化されて家畜の質は低下していった。
耕種部門では国営農場が民営化されたが、国からの資金や資機材の支援が打ち切られた
民間農場は運転資金不足に陥り、
資材や農業機械を十分に投入することができなくなった。
それまでソ連から輸入していた機械や灌漑施設は適切なメンテナンスが行われなくなって
老朽化し、種子更新も困難となり穀物生産は激減した。
このように、市場経済化の混乱の中で私有化や民営化がほとんど準備もなく行われたた
め、生産や流通の基盤が大きく崩れ、政府や社会主義国からのサポートも失われ、農牧業
生産・流通体制は壊滅的な打撃を受けた。農業生産は 2000 年代後半に入ってようやく回
復を見せ、小麦やじゃがいもは自給を満たせるまでになったが、社会主義時代のものに代
わる新たな生産・流通基盤が構築されたとは言い難く、全体としてモンゴルの農牧業は未
だ復興・発展途上にあると言える。
2.2
気象条件と国土、人口
2.2.1
気象条件と国土、土地利用3
モンゴルの国土面積は日本の約 4 倍に当たる 1,564,120km2、緯度は北緯 42~52 度とサ
ハリン北部から北海道南部に相当する場所に位置する。モンゴルはカザフスタンに次いで
1) 農林水産省 モンゴル農林水産業概況
2) バトゥール、ソイルカム(2004)
「モンゴル国の農業の概要:1990 年以降の市場経済化に着目して」
『農業経営研究』30:139-158
3)モンゴル情報 http://kokoro.mn/mongolia-news/
3
7
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
プロマーコンサルティング
世界で二番目に大きい内陸国で、
国境の北側半分はロシア、南側半分は中国と接している。
地形は国土の西側にモンゴル・アルタイ山脈やハンガイ山脈を中心とする山岳地帯が広
がり、東側が平坦な草原地帯となる西高東低の地形となっている。海抜高度が平均 1,580m
と高く、最も標高が高いのは西端のバヤン・ウルギー県にあるフィティン峰で海抜 4,374m、
最も低いのは東端のドルノド県で海抜 560mである。
気候は典型的な大陸性気候で、年間降水量は 100~300mm と尐なく乾燥しており、気
温の日較差、年較差が大きいのが特徴である。雨は 7 月~8 月の夏季に集中し、年間降水
量の約 70%がこの時期に降る。夏の日中の平均最高気温は 34.5℃であるが、11 月~3 月
にかけての冬季には平均最低気温がマイナス 38.6℃となり、短い夏の間以外は寒冷で乾燥
した厳しい気候である。
北部地域は森林草原地帯を形成しており、ロシアとの国境沿いを中心に針葉樹林が広が
り、牧草の草生量も多い。西部地域には山岳性森林草原、草原、砂漠性草原等様々な植生
が見られ、東部地域には広大な草原地域が広がっている。南部地域は主にゴビ砂漠(砂漠
性草原)であるが、草量は尐なくても栄養価の高い牧草や野生の果樹が生育している。
図 2 モンゴルの植生区分
出所:国際農林水産業研究センターhttp://www.affrc.go.jp/
8
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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土地利用の内訳を見ると、国土のうち最大の比率を占めるのは放牧地で、総面積約
1,159,520 km2 にのぼり、国土の 74%を占める。厳しい気候条件から耕種農業は限られて
おり、耕地面積は 85 万ヘクタールと国土面積の 1%にも満たない。灌漑面積は 840 km2
と非常に尐ない。また、森林面積は 110,620 km2 で国土面積の 7%程度となっており、森
林資源は限られている。
表 4 モンゴルの土地利用状況
単位:千ヘクタール
面積
156,412
155,356
115,952
852
850
2
115,100
11,062
28,342
1,056
84
国土面積
陸地
農用地
耕地・永年作物地
耕地
永年作物地
永年採草・放牧地
森林
その他
内水面
灌漑地
シェア
100%
99%
74%
1%
1%
0%
74%
7%
18%
1%
0%
出所:FAO
2.2.2
行政単位と人口
モンゴルの基本的な行政単位は日本の県に相当する 21 の「アイマク」
(以下、「県」と
する。
)とウランバートル市である。県及びウランバートル市の下には郡にあたる「ソム」
が 329、さらにその下に村にあたる「バグ」が 1,568 属している。モンゴルの農牧業統計
では図 3 のように、西部、ハンガイ、中部、東部地域とウランバートル市の 5 つの地域に
分けて区分されることが多い。
モンゴルの人口はその広大な国土と比して非常に尐なく、2009 年の人口は約 270 万人
であった。人口は年々増えており、2000 年代を通じて人口増加率は平均 1.5%程度となっ
ている。特に首都のウランバートル市への人口集中が進んでおり、全人口の約 40%に当た
る 110 万人が居住している。地方からウランバートル市への人口流入が続く一方、住居や
道路、電気等の生活インフラは急激な人口増加に対応しきれず、深刻な都市問題を引き起
こしている。また、ウランバートル市周辺にはゲル4地区と呼ばれる地方からの移住者を中
4
遊牧民が使用する伝統的な移動式住居。柱や屋根、外周部分の骨格に木が利用される。屋根・壁には羊
の毛で作ったフェルトをかぶせる。
9
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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心に形成された貧困地域があり、同地区の貧困世帯を含めたモンゴル全体の貧困率は 35%
と高い5。
ウランバートル市以外には大都市と呼べる町はなく、ダルハン・オール県にあるダルハ
ン市(人口約 8 万人)及びオルホン県にあるエルデネット市(人口約 8 万人)が比較的大
きな都市部を形成している。
図 3 モンゴルの県
オルホン
セレンゲ
ウブス
ダルハン・オール
フブスグル
ブルガン
バヤン・ウルギー
ヘンティー
ブルガン
ホブド
★ウランバートル
ザブハン
アルハンガイ
ドルノド
トゥブ
ゴビスンベル
スフバートル
ウブルハンガイ
ドンダゴビ
ゴビ・アルタイ
バヤンホンゴル
ドルノゴビ
ウムヌゴビ
西部地域
ハンガイ地域
中部地域
東部地域
出所:Daniel Dalet (d-maps.com)による地図を元にプロマー作成
5
ADB (2008) “Mongolia Fact Sheet”
10
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2.3
モンゴル経済と農林水産業
2.3.1
国内経済と農林水産業の位置付け
モンゴルでは鉱業と農林水産業が二大産業である。2009 年の GDP 総額は 6 兆 557 億トゥグ
ルグ(約 47 億米ドル、約 4,000 億円)であるが、鉱業が 22%、農林水産業が 21%を占める。
農林水産業は雇用の面でも重要な産業であり、農林水産業従事者は牧畜民を中心に労働人口の
35%と大きな割合を占めている。また、サービス業が拡大する一方、二次産業の生産高は著し
く小さく、農畜産物の原料加工を中心とした製造業の育成と雇用の創出が大きな課題である6。
図 4 分野別 GDP 割合
個人サービス
1%
公共サービス
11%
鉱業
22%
金融・不動産・事
業所サービス
12%
一次産業
三次産業
農林水産業
21%
運輸・通信
11%
卸売・小売・外食・
宿泊
13%
建設
1%
工業
6%
電気・ガス・水道
2%
二次産業
出所:NSO “Mongolia Statistical Yearbook 2009”を元に作成
注:速報値
モンゴル経済は世界的な金融危機の影響を受けた 2009 年は資源価格の値下がりにより
1.6%のマイナス成長となったものの、2004 年~08 年にかけては平均約 9%の高い成長率
を記録している。経済成長の牽引役となっているのは豊富な鉱物資源を背景とした鉱業分
野及び運輸・通信、金融部門を中心としたサービス業の拡大である。
特に鉱物分野は近年主要な鉱山開発の入札が行われるなど、更なる開発に向けた準備が
本格化している。2009 年にはモンゴル政府と Ivanhoe Mines/Rio Tinto 社との間で世界有
数の埋蔵量を誇るとされるオユトルゴイ銅・金鉱山開発のための投資契約が結ばれ、2010
年の GDP 成長率は初期投資を反映して 7.5%まで回復すると予想されており、採掘が始ま
モンゴルの失業率は公式には約 3%となっているが、失業者の多くが失業登録を行っていないため、実
際にはこれよりも多いとされる(WB(2007) “Mongolia: Building the Skills for the New Economy”)
。
6
11
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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る 2013 年以降 2020 年にかけては最高で 25%、平均で 10%の経済成長が見込まれている7。
図 5 モンゴルの実質 GDP 成長率
12
10
10.6
8.9
8.6
8
GDP 成長率
10.2
7.5
7.3
6
4
2
0
-2
2004
2005
2006
2007
2008
2009-1.6 2010
-4
出所:WB (2010) “Mongolia Economic Retrospective: 2008-2010 を元に作成
http://siteresources.worldbank.org/INTMONGOLIA/Resources/Mongolia_Economic_Retros
pective_final_9-01-10.pdf
注:2010 年はモンゴル政府発表の予想値
モンゴルの農林水産業は伝統的な遊牧に基づく牧畜と社会主義時代に導入された耕種農
業が基本である。中でも最も重要な位置を占めているのは畜産業であり、2009 年の実績で
は畜産部門が農畜産業の生産額の 76%を占めている。耕種生産は厳しい気候条件により夏
季(5 月~9 月)に限られているが、近年小麦を中心とする作物の生産が伸びており、耕種
部門の割合を押し上げている。
IMF (2010) “Mongolia: Joint IMF/World Bank Debt Sustainability Analysis Under the Debt
Sustainability Framework for Low-Income Countries”
http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2010/cr10166.pdf
7
12
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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図 6 モンゴルにおける農畜産業総生産額の推移
1,800,000
1,600,000
百万トゥグルグ
1,400,000
1,200,000
1,000,000
穀物等**
800,000
畜産
600,000
400,000
200,000
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009*
出所:NSO “ Mongolia Statistical Yearbook 2007,2009”を元に作成
注:*速報値。**穀物、じゃがいも、野菜、飼料作物。
2.3.2
農畜産物需給
モンゴルは食肉を除くほとんどの食品を輸入に頼っている。食肉と並ぶ主食である小麦
についてもこれまで国内消費の大部分を輸入と日本を含む海外からの食糧援助で賄ってき
ており、2007 年には小麦需要の 70%を輸入で賄っていた。一方、後述する通り、2009 年
は小麦やじゃがいもが豊作となっており、食料・農牧業・軽工業省(Ministry of Food,
Agriculture and Light Industry-MOFALI)によればこれらの作物については 100%の自
給を達成しているとのことである8。
8
ここで言う農作物の自給率については、保健省が定めた一人一日当たりの推奨摂取量(小麦 100g、小麦
製品 220g、野菜 200g、じゃがいも 140g、果物 180g)を元に計算されている。
13
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表 5 農作物の需給表(2007)
単位:千トン
供給
供給量
計
飼料・
種子
消費
加工・
その他
食料
消費量
生産量
輸入量
輸出量
穀物
小麦
米
大麦
マイーズ
ライ麦
オーツ麦
その他
イモ類
じゃがいも
その他
豆類
ナッツ類
油糧種子
野菜
トマト
タマネギ
その他野菜
果物
オレンジ
リンゴ
その他
コーヒー・ココア
スパイス
肉類
牛肉
羊肉・ヤギ肉
豚肉
鶏肉
その他
115
279
0
394
45
21
334
110
0
0
0
1
0
235
28
6
1
1
2
6
0
345
28
10
1
1
3
6
35
0
1
0
0
2
7
15
1
5
1
0
0
0
300
28
4
0
1
0
0
114
37
0
151
30
10
112
114
0
31
6
0
0
145
6
30
0
10
0
106
6
1
6
74
0
0
1
39
0
7
0
1
6
-6
113
0
0
0
16
0
0
0
5
1
6
0
91
3
71
3
2
34
0
0
0
3
5
105
0
0
16
0
0
5
3
5
84
0
100
0
100
0
0
100
0
66
14
21
0
0
0
66
14
21
0
0
0
0
0
0
66
14
21
1
190
12
1
1
11
1
180
0
0
0
0
0
1
11
1
178
47
107
0
0
36
0
7
43
107
0
1
29
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
42
107
0
1
27
雑肉
ミルク
64
414
0
10
1
0
63
424
0
36
34
9
29
379
4
0
1
11
4
0
0
出所:FAOSTAT
14
供給
における
輸入の割合
生産
における
輸出の割合
71%
68%
100%
60%
100%
100%
67%
100%
25%
21%
100%
0%
0%
-17%
35%
100%
40%
32%
100%
100%
100%
100%
109%
100%
1%
0%
0%
0%
0%
100%
0%
0%
2%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
6%
9%
0%
19%
2%
0%
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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2.4
農林水産政策と実施体制
2.4.1
農牧業政策と主要なプログラム
モンゴルの農林水産業、特に農牧業が経済に占める割合は大きく、農牧業政策は国家政
策の中で重要な位置を占めている。1990 年の市場経済化以降、数々の開発計画や農牧業関
連プログラムが策定されてきたが、予算不足や人材不足により多くを海外からの支援に頼
ってきた。現在、農牧業分野の主要課題は、農業の生産性と食料自給率の向上、家畜感染
症の予防、家畜原料加工や食品加工技術の向上等である。
モンゴルでは市場経済化以降、国際機関の支援を得て以下の三つの主要な開発計画が策
定された。
1996:「モ ンゴ ル国 家開 発 コン セプ ト( National Development Concept of

Mongolia)
」
1998:「21 世紀に向けた持続的発展プログラム( Programme for Sustainable

Development of Mongolia for the 21st Centry)」
2005:国家開発プログラム(National Development Programme of Mongolia)
」

その後、これらの政策を踏まえ、「ミレニアム開発目標(Millennium Development
Goals-MDG)に基づく総合的国家開発戦略」が策定され、2008 年に国会の承認を受けて
いる。これに加え、モンゴル政府は 4 年毎の計画を定めた「政府行動計画」
(現在は 2008
年-2012 年)を策定しており、現在はこれら二つの政策が国の基本政策となっている。以
下に各政策の農牧業関連部分の概要を記した。

「MDG に基づく総合的国家開発戦略」
:
農業・食品産業を近代化し、国内の食料需要や地方の水需要を 100%賄うことを目指
す。
前期(2007-2015)
:
-
家畜感染症の発生・感染の予防と畜産の生産性向上
-
土壌改善、灌漑システムの整備、バイオ技術の導入による農業の生産性向上
-
食品加工における先進技術の体系的な導入と競争力の強化
-
農地・牧草地への水供給の改善
後期(2016-2021)
:
-
バイオ技術の導入、家畜改良と作物の単収増加
15
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-
適正な食品安全・衛生基準の策定と安全で十分な食品の供給

「政府行動計画(2008 年-2012 年)」
農産物、特に食肉、ミルク、小麦、じゃがいも、野菜の自給率 100%達成、食品検査
体制の強化等による食の安全の確保、食品・農業分野への先進的な技術の導入、
「第三
次農業復興計画」を通じた農業生産力の向上、耕作地への灌漑システム導入、種の更
新と品種改良、牛の品質・生産性向上、集約的な牧畜業の促進等を掲げる。
一方、農牧業分野に特化した政策としては、アジア開発銀行(Asian Development
Bank-ADB)の支援により 1998 年に「モンゴル農業セクター開発プログラム(Mongolia
Agricultural Sector Development Program)」が作成されたが、モンゴル政府はこれを踏
まえて 2003 年に「国家食料・農牧分野基本政策(The Food and Agriculture Policy of
Government of Mongolia)
」を策定している。肉、ミルク、小麦、じゃがいも、野菜等の
主要農産物の需要を国内生産で賄うことに加え、原料加工を促進し、輸出を増加させるこ
と等にも触れられている。概要は以下の通りである。

「国家食料・農牧分野基本政策」9
-
牧畜:国内需要に合った良質で安全な原料と製品を生産し、輸出を増加させるこ
とを目指す。具体的には、生産性の高い牧畜システムの構築、家畜改良、家畜衛
生医療対策、井戸の整備、草地の生産性向上と飼料工場の整備等を掲げる。
-
作物生産:先進的農業機械の導入と技術の普及を通じて作物生産を増加させるこ
とを目指す。具体的には、農地の私有化推進、土壌保全・改善、灌漑システムの
増加、改善、地域に適した品種の利用、機械の更新、温室等の利用、牧畜との複
合経営の推進を行う。
-
その他:衛生基準に適合した乳製品・作物等の加工施設の整備、検査システムの
改善、試験研究機関による支援の充実等。
また、モンゴルでは各政策の下に複数のプログラムが作成されている。現在、農業分野
の主要プログラムは小麦やじゃがいもの自給率向上を目指した「第三次農業復興計画」、及
び野菜の生産力増強を目的とした「グリーン革命計画第二フェーズ」である。また、牧畜
業に関しては、2010 年の春の国会で「モンゴル国家家畜プログラム」が承認されている。
さらに、製造業の育成はモンゴルの農林水産業にとって重要な課題であるが、加工業に特
化したプログラムとして 2009 年に「モンゴル産業化プログラム」が策定されている。以
9
JICA 2004 年「モンゴル国農牧業分野基礎調査報告書」
16
平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業
モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
プロマーコンサルティング
下に各プログラムの概要を記した。

「第三次農業復興計画」
2008 年から 2010 年までの計画を定めたもので、小麦やじゃがいもを含む主要な野菜
の自給率 100%を達成することを目指す。また、目標達成のため、農業経営にかかる
法的及び経済的な環境の整備、人材育成、耕地面積の拡大、主食物の種子の質向上及
び供給量の増加、先進的な機械・技術の活用等に関し、具体的な措置を定めており、
以下のような内容が含まれている。なお、第一次、第二次の農業復興計画は社会主義
時代の 1959 年と 1976 年に実施されている。
-
農場当たりの耕地面積の上限を 3 千ヘクタールから 2 万ヘクタールに引き上げる。
-
農業機械の購入に対する国の補助、農業機械のリース
-
農業機械用の燃料の貸し出し
-
種子の購入に対する国の補助

「グリーン革命計画第二フェーズ」
(2005 年-2012 年)
1998 年~2004 年に実施された「グリーン革命計画第 1 フェーズ」に続く、野菜や果
物の増産を目的とした政策である。第 1 フェーズでは、農家に小型トラクターや農業
機械、温室用のビニールカバー、果物の苗や野菜の種を提供し、1997 年~2003 年に
かけて野菜・果物の収穫量が 50%以上増加したとされる。第 2 フェーズでは、第 1 フ
ェーズの成果を踏まえ、野菜・果物の灌漑農業の拡大、農業世帯の所得水準の向上、
食料増産等を目的とし、以下のような対策を実施することとしている。
-
井戸、水槽、灌漑システム等を整備することにより、農家の水へのアクセスを確
保する。
-
ビニールシートで覆う等の保護された土壌での栽培やハウス栽培を支援し、じゃ
がいも、野菜、果物等の増産を図る。
-
小型トラクターや野菜栽培道具の生産・輸入を増やし、アクセスを改善する。
-
農場を家畜から保護するためのフェンスの設置や肥料等の生産・輸入を支援する。
-
自家栽培や輸入を通じて種、苗の供給量を増やし、アクセスを改善する。

「モンゴル国家家畜プログラム」
プログラムの目標は、市場経済下での畜産業の競争力を高めて環境・経済の両面で持
続可能な畜産セクターを確立すると同時に、国民に安全で健康な食品を提供し、家畜
原料を加工して輸出を促進することである。プログラムは以下 5 つの柱で構成されて
いる。
-
畜産セクターの持続可能な発展を可能にする制度的・法的環境の整備
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平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業
モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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-
品種改良により家畜原料や製品の品質を向上させ、一頭当たりの生産性を高めて、
競争力を強化すること
-
獣医療サービスを国際レベルにまで高め、家畜を健全にすること
-
気候変動や生態系の変化に適応できる家畜の生産体制を整え、リスク管理能力を
強化すること
-
家畜製品の加工と流通制度を整備し、家畜や家畜製品の市場を開拓すること
それぞれの項目について 2010 年の現状をベースラインとして、2015 年と 2021 年ま
での目標を定めており、2 フェーズに渡って実施される予定である。このプログラム
には毎年国家予算の 3%を下回らない予算を割り当てることが決定している。
MOFALI によれば、現在最もプライオリティが高いのは家畜の感染症対策である。

「モンゴル産業化プログラム」
先進的な技術の導入により、地域の資源や原料を活用して世界市場で通用する製造業
を育成し、産業の多様化を行うことを目的としており、中小企業・軽工業支援のため
の資金の確保、法環境整備や人材育成を行うことを定めたもの。具体的には、以下の
目標を掲げている。
-
製造業を行うための法的環境やビジネス環境の整備
-
投資や財政的支援、金融政策等による産業化の促進
-
職業訓練を通じた技術者や専門スタッフのトレーニングや管理者向けの専門コー
スの設定等を通じた産業化のための人材育成
-
優先セクターにおける研究開発や先進技術の導入による技術刷新や生産性の向上
-
原料の加工レベルの向上のための、既製品の数量増加や工業団地のコーディネー
ション促進
-
業界のサポートによる、輸出向け/競争力のある製品の海外市場へのアクセス拡
大
このように、モンゴルでは基本政策の下に多くのプログラムが策定されてきているが、
プログラムは乱発される傾向にあり、実効性に乏しいのが現状である。モンゴルでは 2005
年には銅や金の輸出による税収増加でようやく財政収支が黒字に転じたものの、財政基盤
はまだ脆弱であり、プログラムの実施も厳しい予算の制約を受けている。
MOFALI によれば、
「第三次農業復興計画」の下で実施されている穀物や野菜、果物栽
培等の農業分野に係る補助金の予算は年間 200 億~300 億トゥグルグ(13 億~20 億円)
である。また、家畜分野にはこれまで国家予算の 1%程度しか充当されてこなかったが、10
10
「モンゴル家畜プログラム」
(2010)
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モンゴル国家家畜プログラム」については 2011 年は国家予算の 4%が充てられることにな
っている11。
一方、既述の通りモンゴルは豊富な鉱物資源を持つ世界有数の資源国家であり、今後銅
や石炭を中心とした資源開発により経済は飛躍的に成長し、歳入も大幅に増加すると見込
まれている。政府関係者の間では、農牧業セクターについても歳入増加により投入が増え
ることが期待されている。
2.4.2
実施体制
モンゴルは 2008 年の総選挙後に省庁再編を行い、それまでの 13 省を 11 省に再編した
(表 4 参照)
。農林水産業に関係する部分では、産業・通商省を解体し、同省の軽工業部
局をそれまでの食料・農牧業省に移管して食料・農牧業・軽工業省(MOFALI)を発足さ
せた。これにより、MOFALI が、農畜産物の生産から加工、国内流通までを管轄するよう
になった。
表 6 モンゴルの省庁一覧
英語名
日本語訳
Ministry of Foreign Affairs and Trade
外交・貿易省
Ministry of Finance
大蔵省
Ministry of Justice and Home Affairs
法務・内務省
Ministry of Nature, Environment and Tourism
Ministry of Defense
国防省
Ministry of Education, Culture and Science
Ministry of Roads, Transportation, Construction
and Urban Development
Ministry of Social Welfare and Labour
教育・文化・科学省
道路・運輸・建設・都市計画省
社会福祉・労働省
Ministry of Food, Agriculture and Light Industry
Ministry of Mineral Resources and Energy
Ministry of Health
11
自然環境・観光省
食料・農牧業・軽工業省
鉱物資源・エネルギー省
保健省
MOFALI からのヒアリング
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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現在、農業関連は農業政策実施調整局が、畜産関連は畜産政策実施調整局がそれぞれ政
策の立案と実施を担当している。製造業関連は農牧業に由来する原料を使った製造業に限
らず、木材製品、出版、バイオテクノロジー、サービス業等を含め、同省の軽工業政策実
施調整局が所管している。
一方、森林資源及び水資源関連では、道路・運輸・観光省の観光部局が自然環境省に移
管され、自然環境・観光省(Ministry of Nature, Environment and Tourism‐MNET)が発足
した。これにより、森林資源及び水資源の管理はそれぞれ同省の森林管理局及び水管理局
が担当するようになったが、木材加工等の産業に係る部分は MOFALI の軽工業政策実施
調整局が担当している。
次頁以降に各省の組織図を記載した。
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図 7 食料・農牧業・軽工業省(MOFALI)の組織図
大臣顧問
食料、農牧、軽工業大臣
大臣委員会
食料、農牧、軽工業副大臣
食料、農牧、軽工業次官
state secretary
戦略計画政策課
財務・経理、投資課
行政管理局
畜産政策実施調整局
農業耕地関係課
機械・技術課
農業政策実施調整局
家畜病院、生殖局
食料生産、貿易、
サービス政策実施調整局
中小企業局
軽工業政策実施調整局
家畜血統ファンド
国家
農牧生産科学技術導入センター
情報管理、分析評価局
県間の牧草地利用管理局
農業振興基金
国際協力課
中小企業振興基金
国家畜病院、衛生ラボ
家畜病院の薬剤認定国家ラボ
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図 8 自然環境・観光省(MNET)の組織図
自然環境、観光大臣
大臣顧問
自然環境、観光副大臣
自然環境、観光次官
state secretary
持続可能
発展・戦略
計画局
行政管理局
国際協力課
財務・
クリーン技術、
経理課
科学課
環境、
特別保護
資源局
地域管理局
情報処理、
評価局
実施機関
気象観測局
水管理局
22
森林管理局
観光局
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