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Title 世代間関係におけるGenerativityの可能性

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Title 世代間関係におけるGenerativityの可能性
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世代間関係におけるGenerativityの可能性 : Narrative
Approachの立場から
西山, 直子
京都大学大学院教育学研究科紀要 (2010), 56: 345-357
2010-03-31
http://hdl.handle.net/2433/108469
Right
Type
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号2010
世 代 間 関 係 に お け るGenerativityの
一NarrativeApproachの
可能 性
立 場 か ら 一
西山 直子
1.は
2009年7Hに
じめ に
厚 生 労 働 省 に よ り発 表 され た 「
平 成20年
均 寿 命 は男 性79.29年
、 女 性86.05年
に 占め る割 合(高 齢 化 率)も22.1%と
簡 易 生 命 表 の概 況 」 に よ る と、 日本 人 の 平
と過 去 最 高 を 記 録 した 。 ま た 、65歳 以 上 の 高 齢 者 人 口が 総 人 口
な り、 世 界 に類 を 見 な い 水 準 に達 して い る。 「
人 生80年
時代 」
と呼 ば れ る今 日、 人 が 生 まれ て か ら死 ぬ ま で の 生 涯 過 程 全 般 を 見 渡 し た 生 涯 発 達 心 理 学(life-span
developmentalpsychology)に
関 心 が寄 せ られ て い る。 平 均 寿 命 の延 びや 高齢 化 の進 行 は 、 個 人 の 一
生 涯 の 長 期 化 の み な らず 、 と も に 生 き る世 代 と世 代 との 関係 の 長 期 化 ・重 層 化 を も示 唆 して い る。 た
とえ ば 親 子 関係 を例 に 取 る と、い ま や 親 子 の 間 柄 が50∼60年
とい う長 期 に お よぶ こ とも珍 しい こ と で
は な い 。 そ の うち の 半分 近 く の期 間 は 、 自 ら親 と して 子 に か か わ る 一 方 で 、 同 時 に 子 と して も老 親 に
か か わ る とい う 「
重 層 的 な 親 子 関係 」 が 成 立 す る こ と に な る(藤 崎,2000)。
さ ら に 、上 下 両 世 代 と の
関係 を含 め て 考 え る と、親 子 関係 は 個 人 の 一 生 涯 の 全 過 程 を 覆 うこ と もあ る。 複 数 の 親 子 関係 が 重 な
り合 い 、二 代 ・三 代 も の異 な る世 代 の 生 涯 発 達 過 程 が 同時 並 行 的 に 進 行 して い るの で あ る。そ れ で は 、
異 世 代 間 の 関係 性 が 以 前 よ りも緊 密 にな っ た か とい うと、そ うい うわ けで は な さそ うで あ る。む し ろ、
核 家 族 化 の 進 行 ・単 独 世 帯 の増 加 に よ り家 族 の個 人 化 が 進 み 、 世 代 間 の 交 流 は減 少傾 向 に あ る。
この よ うな 現 代 社 会 の 状 況 を鑑 み て 、 世 代 間 の 結 び つ き を 取 り戻 し、 長 期 に わ た る関 係 性 を よ りよ
き もの と して い く た め に は 、 世 代 間 関 係 研 究 に お い て い か な る視 点 が 有 効 で あ ろ うか 。 本 稿 で は 、 こ
の 問 題 意 識 に 基 づ き 、 ま ず 世 代 間 の 関 係 性 と伝 達 を扱 っ た これ ま で の 先 行 研 究 を概 観 し、 そ の 特 徴 を
洗 い 出 す 。 そ の うえ で 、 今 後 の研 究 に有 用 な視 座 を 与 え うるNarrativeApproachの
観 点 を 導 入 す る。
さ ら に 、 世 代 と世 代 と を 結 ぶ 概 念 と し て 、 ラ イ フ サ イ ク ル 論 者 で あ るE.H.Eriksonの
Generativityを
取 り上 げ 、NarrativeApproachと
係 性 に お け るGenerativityの
提 唱 した
の 関 連 を明 らか に す る。 そ して 最 後 に 、世 代 間 の 関
可 能 性 ・有 用 性 を探 る こ と とす る。
2.関 係 性の世代間伝達の研究
本 節 で は 、 関係 性 の 世 代 間伝 達 を扱 っ た 研 究 を 、 ア タ ッチ メ ン ト理 論 を 中 心 と した 関 連 諸 分 野 の な
か で レ ヴ ュー す る。
世 代 間 関係 の 基礎 と も言 え る親 子 関 係 の研 究 は 、Bowlby(1969,1973,1980)以
来 、 ア タ ッチ メ ン
トi理論 を 中 心 と して 、発 達 早 期 の親 子 相 互 交 渉 の 分 析 が 進 め られ て き た。 そ の 代 表 的 な もの と して 、
一345一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
Ainswortheta1.(1978)1こ
よ り開 発 され た ス ト レ ン ジ ・シ チ ュ エ ー シ ョ ン 法(StrangeSituation
Procedure:以
あ る。SSPで
下SSP)が
は 、 養 育 者 との分 離 と再 会 とい うス トレ ス状 況 下 に 乳 幼 児 を
置 き 、 そ こで 乳 幼 児 が 見せ る様 々 な 行 動 を観 察 す る。 そ して 、 そ の行 動 上 の差 異 か ら、 乳 幼 児 の ア タ
ッチ メ ン トを3な
い し4タ イ フ.(安 定 型 ・回避 型 ・ア ン ビ ヴ ァ レン ト型 に 加 え て 無 秩 序 型)に
け る 。このSSPに
よ る研 究 の 隆 盛 は 、
発 達 早期 の ア タ ッチ メ ン ト行 動 の測 定 に 主 た る 関心 が 向 け られ 、
そ れ 以 降 の ア タ ッチ メ ン トの発 達 を 相 対 的 に軽 視 す る こ とに も な っ て し ま っ た(遠 藤1992)。
Bowlby(1979)は
振 り分
本来、
、「
揺 りか ご か ら墓 場 ま で 」 の 生 涯 発 達 過 程 全 般 を見 通 した パ ー ソナ リテ ィ発 達 の
総 合 理 論 と して ア タ ッチ メ ン ト理 論 を 位 置 づ け て い た に もか か わ らず 、 そ の 中核 概 念 で あ る 内 的 作 業
モ デ ル(InternalWbrkingModel:以
下IWM)liの
質 を測 定 す る具 体 的 な 手段 の 不 在 に よ り、 ア タ ッ
チ メ ン ト理 論 が 実 証 的 な 意 味 で 児 童 期 以 降 の 対 人 関係 に 適 用 され る こ とは 長 ら く稀 だ っ た の で あ る
(遠藤,2006)。
しか し、1980年
代 半 ば 以 降 、IWMに
焦 点 化 し、 そ の特 質 を把 捉 す る た め の 体 系 的 な
手 法 、成 人 愛 着 面 接(AdultAttachmentInterview:以
下AAI)(Main&Goldwyn,1984;Mainetal.,
1985)が 開発 され て か ら、青年 期 ・成 人 期 の 実 証 的 な ア タ ッチ メ ン ト研 究 が 本格 的 に取 り組 ま れ る よ う
に な っ た 。 こ のAAIの
基 礎 に は 、 養 育 者 のIWMと
の発 想 が あ る(Bowlby,1988;遠
藤1992;数
子 の ア タ ッチ メ ン トとの 関 連 性 を 問 う世 代 間 伝 達
井 ら,2000;数
井,2006)ili。Mainら
は 、 個 人 に 内在 化
され た ア タ ッチ メ ン トに時 間 的連 続 性 ・安 定 性が 存 在 す る と仮 定 し、乳 幼 児 のSSPに
お け るア タ ッチ
メ ン ト行 動 の ス タイ ル と、 成 人 の示 す ア タ ッチ メ ン トス タ イ ル お よ び 表 象 の 間 に は 何 らか の 対応 性 が
存 在 す る と考 え た。 そ して 、AAIの
手 続 き を 通 して 、 つ ま り過 去 の養 育者 との 間 の ア タ ッチ メ ン ト経
験 お よび そ の 現 在 に対 す る影 響 な どを 半 構 造 化 面 接 に よ り問 うこ とに よっ て 、 成 人 の ア タ ッチ メ ン ト
表 象 を3な い し4類 型(自
律 型 ・ア タ ッチ メ ン ト軽 視 型 ・と ら われ 型 に 加 え て未 解 決 型)に
こ と を可 能 に した。 乳 幼 児 に お け るSSPが
現 に そ こ にい る養 育者 に対 す る"物 理 的 近接"の
動 観 察 に よ り測 定 す るの に対 して 、成 人 に お け るAAIは
近 接"の
分類す る
仕 方 を行
頭 の 中 に想 起 され た 養 育 者 に 対 す る"表 象 的
あ り方 を イ ン タ ビ ュ ー に よっ て 得 られ た語 りか ら判 断 す るの で あ る(遠 藤2006)。
現在 、 ア
タ ッチ メ ン トの 生涯 に わ た る連 続1生 ・不 連 続1生や 世 代 間伝 達 に か か わ る研 究 に お い てAAIは
主 要 な手
法 と して 積 極 的 に 用 い られ 、 日本 も 含 め た 幅 広 い 文 化 圏 で数 多 くの 有 用 な 知 見 が 積 ま れ て き て い る
(e.g.,Benoit&Parker,1994;vanIJzendoorn,etal.,1995;平
井 ・高橋,2000;数
井 ら,2000)・v。
こ こ ま で 、 関 係 性 の 特 質 が ひ とつ の 世 代 か ら次 の 世 代 へ と受 け継 が れ て い く とい う世 代 間 伝 達 の 問
題 を ア タ ッチ メ ン ト研 究 の 文 脈 の 中 で 概 観 して き た が 、 この 問 題 に対 す る 関心 は 何 もア タ ッチ メ ン ト
に 限 っ た もの で は な く、様 々 な分 野 で 古 く か ら研 究 され て き た も の で あ る。 精 神 分 析 にお い て は 、 子
ど も時 代 の 対 人 関 係 、 特 に 親 と の 早 期 の 体 験 が 後 の 対 人 関係 に多 大 な影 響 を及 ぼ す とい う考 え 方 は 、
S.Freudの
発 達 理 論 の 基 礎 を なす も の で あ り、Horney(1933)を
は じめ と して 、 関係 性 の パ タ ー ン が
世 代 間 を通 して伝 達 され る とい う命 題 に対 して 、多 くの 研 究 者 が 取 り組 ん で き た(詳 細 は遠 藤,1992)。
ま た 、 乳 幼 児 精 神 医 学 の 分 野 で は 、Fraiberg(1975)やLebovici(1988)に
よ り、 親 自身 の無 意 識 的 な 心
的葛 藤 が世 代 を越 え て そ の 家 に棲 み つ き健 全 な 関係 性 の発 達 を 阻害 させ て しま う と して 、世 代 間 伝 達
の概 念 が提 示 され 、 そ れ を め ぐ る 具 体 的 な 治 療 が 意 欲 的 に展 開 され て き た(詳 細 は 田 中,2004;鵜
2000)。
さ らに 、 児 童 虐 待 に つ い て は 、Kempeetal.(1962)が
syndrome)」
飼,
「
被 虐 待 児 症 候 群(batteredchild
とい う表 現 を 用 い て 以 来 、 「
虐 待 され た 子 が 虐 待 す る親 に な る」 とい う虐 待 の世 代 間 伝 達
の 問 題 が多 くの 研 究 者 の 関 心 を 呼 び 、 伝 達 率 の 算 出 や 発 生 要 因 の検 討 、 伝 達 メ カ ニ ズ ム の解 明 、 治 療
一346一
西 山:世
代 間 関係 に お け るGenerativityの
可 能性
的 介 入 の方 途 な ど、 実 証 的 に も 臨床 的 に も膨 大 な研 究 報 告 が 累 積 して い る(詳 細 は遠 藤1992;鵜
飼,
2000)。 こ の よ うに 、親 子 関係 を 中 心 と した家 族 内 の 関 係 性 の世 代 間 伝 達 は学 際 的 な 問 題 ・関 心 で あ り、
これ ま で に も様 々 な 角 度 か ら考 究 され て き た とい え よ う。
3.従 来の世 代間伝 達研究の特徴 と新 しい視座 の導入
前節 で は、ア タ ッチメ ン ト理論 を中心に関係性 の世代 間伝達 を扱 った研 究 を概観 したが、ここで は、
それ ら従来 の研 究 が持 つ特徴 を2点 取 り上 げ、それぞれ に対 して近年 注 目を集 めてい る新 しい視座 の
導入 を試み たい。
3-1.生
涯 発 達 過 程 全 般 を傭 磁 した 長 期 的 な 時 間 軸 の 必 要 性
ま ず 、一 点 目 と して 、 従 来 の 関係 性 の 世 代 間 伝 達 の 研 究 で は 、精 神 分 析 ・乳 幼 児 精 神 医学 ・児 童 虐
待 ・ア タ ッチ メ ン ト他 い ず れ の 分 野 に お い て も、 主 要 な 関 心 は 発 達 早期(特
に乳 幼 児 期)の 被 養 育 経
験 に 向 け られ て い た 、 とい う特 徴 が あ げ られ る 。 成 人 の ア タ ッチ メ ン ト表 象 のパ タ ー ン を把 捉 す る こ
とを 目的 と したAAIに
お い て も、問 われ る の は 幼 児 期 にお け る養 育 者 との 関係 の 記 憶 や 出 来 事 の 想 起 、
そ して 過 去 の ア タ ッチ メ ン ト関係 が 現 在 の 対 人 関係 に及 ぼ す 影 響 で あ り、 子 ども 時 代 の 経 験 を 重 視 し
て い る点 で は 相 違 な い。 む ろん 、発 達 早 期 の被 養 育 経 験 が そ の 後 の人 の 生 涯 発 達 に お い て重 要 な 意 味
を 持 つ こ とを 否 定 す る わ け で は な い が 、 過 去 の 経 験 に こ だ わ り特 定 の ライ フ ス テ ー ジ に の み 限 定 的 な
注 意 が 向 け られ る の で は 、 長 期 に わ た る世 代 間 の 関 係 性 の 質 とそ の変 化 を 問 うの に 十 分 で な い 恐 れ が
あ る。 冒頭 に 述 べ た よ うに 、 長 寿 化 に よ る個 人 の 一 生 涯 の長 期 化 とそ れ に 伴 う世 代 間 関 係 の 長 期 化 ・
重 層 化 は、 各 世 代 の 生涯 発 達 の全 過 程 を術 目
敢 しつ つ 、 「
子 と して 」 の 経 験 と 「
親 と して の 」 経 験 や そ の
あ り よ うを結 び つ け る視 点 を求 め て い る(藤 崎,2000)。
そ の よ うな長 期 的 な 時 間 軸 を扱 うの に有 効 な の が 、NarrativeApproachの
Approachに
お い て 、 ナ ラテ ィ ヴ(物 語)と
は、「
経 験 を有 機 的 に 組 織 化 す る行 為(organizationof
experiences)、 そ して そ れ を意 味 づ け る行 為(actsofmeaning)、
を さす(Bruner,1990;や
ま だ,2006)。
観 点 で あ る。Narrative
す な わ ち経 験 や 人 生 を編 集 す る行 為 」
個 々 の 要 素 ・出来 事 ・経 験 が 同 じで も、 そ れ らを どの よ うに
関連 づ け、組 織 立 て 、筋 立 て 、編 集 す る か に よっ て 、人 生 全 体 の 意 味 は大 き く変 化 す る(や ま だ,2006)。
そ の 意 味 づ け に 、語 りが 果 た す 役 割 を重 要 な もの とみ な す 考 え方 がNarrativeApproachの
基 礎 に あ る。
さ ら に 、物 語 は 、 時 空 間 を 隔 て た 出 来 事 を結 び つ け る働 き を 持 つ 。 離 れ た 場 所 や 文 脈 に あ る 二 つ 以 上
の 事 象 や 出来 事 を む す び つ け る こ とで 、新 しい意 味 の 生 成 が行 わ れ 、人 生 を変 容 させ る(や ま だ 、2006)。
した が っ て 、 個 人 の一 生涯 の み な らず 世 代 と世 代 との 関係 性 を も含 み こん だ 長 期 的 な 時 間軸 を 扱 うに
あ た り、 過 去 か ら現 在 そ して未 来 を つ な ぐ働 き を もつ 物 語 が生 き て く るの で あ る。
先 に 見 たAAIに
お い て も語 りが デ ー タ と して用 い られ て い る が 、 実 の と こ ろ、 そ れ は分 類 の た め の
道 具 に す ぎず 、 ナ ラテ ィ ヴ(物 語)と
して 扱 われ て い る とは言 い が た い 。AAIの
主 眼 は語 りの 詳 細 な
分 析 に あ る の で は な く、ア タ ッチ メ ン トパ ター ン の コー デ ィ ン グ に あ る。AAIに よ り得 られ た 語 りは 、
す べ て 逐 語 的 な トラ ン ス ク リプ トと して 記 録 され 、 基 本 的 に そ れ に基 づ い て ア タ ッチ メ ン トパ ター ン
の評 定 が な され る。 そ の コー デ ィ ン グ の最 も重 要 な特 質 は 、語 りの"内 容(content)"そ
う よ りはむ しろ 、イ ン タ ビュ イ ー の 語 り全 体 を貫 くそ の個 人 特 有 の"形 式(form)"や"構
一347一
の もの とい
造(structure)"
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
に 重 き を置 く と ころ に あ る(Hesse,1999)。
第56号2010
そ の た め 、遠 藤(2006)が
指 摘 す る よ うに 、 イ ン タ ビ ュ
ー に よ っ て聴 取 ・記 録 され た 語 りデ ー タ に含 ま れ る、 過 去 か ら現 在 に か けて の様 々 な エ ピ ソー ドや ラ
イ フ ス トー リー と も言 うべ き 豊 か な 述 懐 は 、類 型 化 の 陰 に 隠 れ て 日の 目 を見 る こ とは な い の で あ る。
結 果 と して 、語 りの 内容 に 含 まれ るイ ン タ ビュ イ ー の 思 い や 感 情 とい っ た 、 関係 性 を捉 え る うえで 重
要 な 要 素 は 、分 析 の 際 に抜 け落 ち て しま うの で あ る 。AAIを
用 い た 研 究 で は 捨 象 され て しま う、 こ の
語 りデ ー タ の 持 つ 豊 か さを 掬 い 取 る方 途 と して も、 物 語 る行 為 と物 語 られ た 内容 そ の も の を 重 視 す る
NarrativeApproachの
3-2.世
観 点 は有 効 な の で あ る。
代 間 伝 達 の 肯 定 的 ・否 定 的 両 側 面 に 目 を 向 け る 必 要 性
次 に 、従 来 の研 究 の特 徴 の 二 点 目 と して あ げ られ る の は 、 「
世 代 間伝 達 」 とい う言 葉 に よ っ て 想 起 さ
れ る関 係 性 は概 して 「
良 くな い 」 「
悪 い」 「
崩 壊 した 」 も の で あ り、世 代 間 伝 達 の負 の 側 面 に過 度 に注
目が 集 ま りが ち な 点 で あ る。 上 述 の 諸 分 野 で は 、 関 係 改 善 や 治 療 的介 入 、 臨 床 的 支 援 を 目的 と して い
る た め 、それ ら を必 要 とす る よ うな 負 の側 面 に 焦 点 が 当 た る の は や む を え な い こ とな の か も しれ ない 。
精 神 分 析 や 乳 幼 児 精 神 医 学 、 児 童 虐 待 の 研 究 が 病 理 的 な 関係 性 を扱 っ て い る の は い うま で もな く、 親
子 関 係 にお け る養 育 の 世 代 間伝 達 を 問 題 に したAAIに
お い て も 、 ど ち らか とい えば 否 定 的 な ア タ ッ チ
メ ン トパ ター ン の連 続 性 に特 別 な 関 心 が 寄 せ られ て きた とい え る だ ろ う(e.g.,vanIJzendoornetal.,
1995;Lyons-Ruthetal.,2003;Solomon&George,2006)。
しか し、 当 然 の こ とな が ら、 世 代 間 の 関係 性 の す べ て が 断 ち 切 られ るべ き も の 、連 鎖 を食 い 止 め る
べ き も の ば か りで あ る は ず は な い。 世 代 間 伝 達 の 肯 定 的 な側 面 に光 を 当 て た 研 究 、 あ る い は 肯 定 的 ・
否 定 的 両 側 面 を偏 りな く 中立 的 な 立 場 か ら捉 え た研 究 が あ っ て もい い の で は な か ろ うか 。こ こ で 、我 々
が 立 ち戻 るべ き原 点 を 確 認 して お き た い 。そ れ は 、 「
命 の 世 代 間連 鎖 」 とい う観 点 で あ る。鯨 岡(2008)
は 、そ れ ま で 自身 が 提 唱 して きた 関係 発 達 論(鯨
岡,1999a;1999b)の
概 念 図 を振 り返 る な か で 、 こ の
観 点 を改 め て 提 示 して い る。 「
命 の世代間連鎖 」 とは、 「
前 の 世 代 か ら命 を 引 き継 い で 誕 生 した 個 が 次
世 代 に 命 を バ トン タ ッチ す る こ との 反 復 、 つ ま り命 が 世 代 か ら世 代 へ と連 鎖 し て い く事 実 」(鯨 岡,
2008)を
示 した もの で あ る。考 え て み れ ば 当 た り前 の こ とな の だ が 、 「
世 代 間伝 達 」 とい っ た 場 合 に こ
の命 の 連 鎖 ・生 の 継 承 とい っ た 基 本 的 な 前 提 が 見 過 ご され て き た の で は な か ろ うか 。 先 行 世 代 か ら命
を 受 け継 ぎ 、 生 を紡 ぎ 、 後 続 世 代 へ と伝 え て い く こ とは 、否 定 され る べ く も な い 世 代 間 伝 達 の 本 質 で
あ る。 問 わ れ るべ き は 、 引 き継 い だ 命 をい か に は ぐ くみ 育 て て い くか 、 そ して次 の 世 代 へ とつ な げ て
い くか 、 とい う とこ ろ に あ る。 こ の、 「
育 て る一 育 て られ る 」 とい う営 み に よ っ て親 ・子 ・孫 … と相 前
後 す る複 数 の 世 代 が結 び 付 け られ 、 そ れ ぞ れ の 生 涯 発 達 過 程 が 同 時 進行 して い る とい う考 え 方 が 関 係
発 達 論 の 基 礎 に あ る(鯨 岡,2008)。
これ は 、 冒 頭 に述 べ た 人 口学 的 変 化 に 起 因 す る現 代 の社 会 状 況 に
照 ら し合 わせ て も、 重 要 な 観 点 で あ る。 か つ て は み な く 育 て られ る者 〉で あ っ た とい うこ と、<育
て
られ る者 〉 が く 育 て る者 〉 に な る とい うこ と、 「
育 て る」 とい う営 み を通 して社 会 に生 き る 一 人 の 人 間
と して
「
育 て られ る」 面 もあ る とい うこ と、 そ うした
「
育 て る一 育 て られ る」 関係 の 世 代 間 循 環 を 、
我 々 は い ま一 度 見 直 す べ き とき に き て い る の か も しれ ない 。
そ の 際 に有 効 とな るの が 、「
育 て る」「
は ぐ くむ 」「
世 話 す る」こ と に真 髄 を 置 くGenerativity(Erikson,
1950/1963)で
あ る。 次 節 で は 、 こ の概 念 に つ い て 、提 唱 者 で あ るE.H.Eriksonの
の枠 組 み に沿 っ て詳 述 す る。
一348一
ライ フ サ イ クル 論
西 山:世
代 間 関係 に お け るGenerativityの
4.世
Eriksonは
可 能性
代 と 世 代 と を 結 ぶGenerativity
、初 期 の 著 作 『幼 児 期 と社 会(Childhoodandsociety)』
以 来 、「
漸 成 的 発 達 図 式(epigenetic
chart)」 を 使 っ て 、 独 自 の理 論 を展 開 して きた 。 この モ デ ル は 、 人 の誕 生 か ら死 に 至 る ま で の 心 理 社
会 的 発 達 を8っ
の 段 階(stages)に
よ っ て示 し、 これ らを連 続 した ひ とま とま りと して 「ライ フサ イ
クル 」 とす る も の で あ る。 この 言 葉 に は 、二 つ の 意 味 が 込 め られ て い る。 ライ フサ イ クル は、 「
個体 の
ラ イ フ サ イ ク ル(theindMduallifecycle)」
intergenerationalcycle)」
で あ る と 同 時 に 、 「世 代 間 的 ラ イ フ サ イ クル(the
で もあ る。 前 者 は 、 死 に よ っ て 完 結 す る個 人 の 一 生 涯 を指 して い る。 後 者
は 、 一 つ の 世 代 が 前 の世 代 に 生 み 育 て られ 、 ま た 次 の 世 代 を 生 み 育 て る とい う世 代 継 承 的 な ライ フサ
イ ク ル を示 して い る。 従 来 のErikson理
論 の 理 解 にお い て は 、 こ の ライ フ サ イ クル の 二 重性 の うち前
者 の 個 体 主 義 的 な側 面 が 強 調 され 、 「自立 した個 人 の 完 成 」 を 目指 す 個 体 発 生 の 理 論 と して 片 付 け られ
る き らい が あ っ た が 、Eriksonの
そ もそ もの 定 義 に 立 ち 返 る な らば 、 後 者 の 関係 論 的 な側 面 、 す な わ
ち 「
育 て る一 育 て られ る 」 とい う世 代 連 鎖 の な か で 個 人 の発 達 を捉 え る視 点 の重 要 性 が 改 め て 浮 き彫
りに な る(西 平,1993)・
。
そ れ で は 、 〈 自 己完 結 性 〉 を持 つ 個 人 の ライ フ サ イ クル と 〈世 代 連 鎖 性 〉 を帯 び る世 代 間 の ライ フ
サ イ クル の 二 つ を 結 び つ け る の は 一 体 何 で あ るの か。Eriksonetal.(1982)に
Generativityな
の で あ る。Generativityと
合 わ せ たEriksonの
は 、generate(生
よれ ば 、 そ れ こそ が
み 出す)とgeneration(世
造 語 で 、子 孫 を生 み 出す こ と(procreativity)や
代)と
を掛 け
生 産 性(productivity)、
創 造性
(creativity)と い っ た 類 似 概 念 を 包 摂 す る も の で あ る。 先 の 「
漸 成 的 発 達 図式(epigeneticchart)」
に お い て は 、 第7段
1950/1963)に
階(成
人 期 中 期)の
お い て 、Eriksonは
心 理 社 会 的 危 機 に 位 置 づ け られ る。 初 期 の 著 作(Erikson,
こ のGenerativityを
「
次 の 世 代 を確 立 させ 、導 く こ とへ の 関 心(the
concerninestablishingandguidingthenextgeneration)」
で あ る と して い た 。 ライ フ サ イ クル 論 の
展 開 と軌 を一 に して この 概 念 も拡 が りを見 せ 、後 期 の 著 作(Eriksonetal.,1982)に
分 自身 の)更 な る 同一 性(identity)の
お い て は 、 「(自
開 発 に 関 わ る一 種 の 自 己 一生 殖(self-generation)も
含 めて 、
新 しい 存 在 や 新 しい 製 作 物 や 新 しい観 念 を生 み 出 す こ と」 と定 義 し直 して い る。
こ こで 注 意 して お き た い の は 、Generativityが
単 独 で 成 立 す る も の で は な く、 対 とな る命 題 を伴 っ
て 示 され て い る点 で あ る。 人 格 的成 熟 が うま くい か な い 場 合 に は 、 自分 に しか 関 心 が 向 かず 、 あ た か
も 自分 が 自分 自身 の子 ど もで あ る か の よ うに振 る舞 い 、 人 間 関 係 は貧 困 に な り、他 者 に積 極 的 に関 与
し よ うと しな くな る。 そ れ が 、Generativityの
自己 一耽 溺(self-absorption)の
話)と
い うVirtue(徳)が
あり
状 態 で あ る。 これ らの相 克 ・葛 藤 を 乗 り越 え て は じ め て 、Care(世
得 られ る。 こ こ で い う"Care"と
た 人 や 物 や 観 念 の 面倒 を見 る(takecareof)こ
とで あ る。Generativityの
対 立 命 題 と して あ げ られ る停 滞(Stagnation)で
は 、 「これ ま で 大切 に(carefbr)し
てき
とへ の 、 よ り広 範 な 関与 」(Eriksoneta1.,1982)の
こ
本 質 と も い うべ き 世 話 す る こ との 経 験 が 、 各 人 生 段 階 を ま とめ て ひ とつ の
人 生 の サ イ ク ル を創 り出 し、 さ らに は 、 そ の世 代 に生 命 を 与 え た世 代(親
世 代)と
その世代 が生命 を
育 む 責 任 の あ る世 代(子 世 代)の 三 代 を結 び つ け 、世 代 的 ライ フ サ イ クル を創 り出 す とい う(Erikson
etal,1986)Q
彼 自身 に よ る これ らの 説 明 を参 考 に しつ つ 、本 邦 にお い て は 多 く の研 究者 がGenerativityに
一349一
対 して
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
様 々 な 解 釈 と訳 語 を 当て て き た。 た と え ば 、 西 平(1993)は
「
生 殖 性 」 とい う訳 語 を 当 て な が ら も、
単 な る生 産 性 以 上 の含 意 を持 つ もの と して 、 「
人 類 とい う種 族 、次 の世 代 を 生 き 生 き と産 み 育 て て ゆ く
こ と」 と説 明 して い る。 ま た 、 岡本(2007)は
これ を 「
世 代 性 」 と訳 し、 「
達 成 され た 自 らの ア イ デ ン
テ ィ テ ィで も っ て他 者 を支 え育 て る こ と」 と して い る。 岡 本(2007)は
され る た め の 特 質 と して 、 ① 他 者 へ の ア イ デ ン テ ィテ ィ の 投 企(確
て他 者 ヘ コ ミ ッ トす る こ と)② 無 我 性(自
さ らに 、Generativityが
立 され た ア イ デ ンテ ィ テ ィで も っ
己 中 心 的 で な い他 者 へ の 関 心 と 関与)の
素 で あ る と詳 述 して い る。 一 方 、 や ま だ(2002,2003)は
き に 注 目 して 、 同 じも の を つ な ぎ な が ら(継 承)新
達成
、Generativityの
二 つ が不 可 欠 の 要
世 代 と世 代 とを つ な ぐ働
しい もの を生 み 出 す(生 成)と
い う意 味 を こ め て
「
生 成 継 承 性 」 と訳 して い る。
本 稿 にお い て は 、 い ま だ 訳 語 の 定 ま らな い こ の語 を 「GeneratMty」
そ れ は 、Eriksonが
と原 語 の ま ま 表 記 して い る。
この 言 葉 に 込 めた 多 義 的 な 意 味 合 い を尊 重 した い か らで あ る。 特 に 、 「
生み出す」
「
育 て る」 「
は ぐ くむ 」 「
つ な ぐ」とい っ た世 代 と世 代 と を結 び 関 係 性 をつ くる働 き に主 眼 を 置 くた め 、
基 とな ったgenerateとgenerationの
響 き の 残 る原 語 を そ の ま ま 用 い る こ と と した 。 そ の うえ で 、 こ
の言葉 を 「
次 の 世 代 を は じめ とす る、 自分 が 生 み 出 した もの や 創 り出 した も の を 気 づ か い 見 守 りは ぐ
くん で ゆ く」 もの と して捉 え、 個 人 を 越 え て世 代 と世 代 とを つ な ぎ 、長 い 時 間軸 で 将 来 世 代 を ケ ア し
責 任 を果 た して い くた め に必 要 な概 念(や
ま だ,2003)と
5.Generativityと
して位 置 づ け 、注 目 して い る次 第 で あ る。
物 語 との 結 び つ き
そ れ で は 次 に 、 世 代 間 関係 に お け る 「
育 て る一 育 て られ る」 とい う営 み の 根 本 に 位 置 づ け られ る
Generativityと
、 先 に見 たNarrativeApproachに
た い 。 そ れ は 、Generativityに
お け る 物 語 とが どの よ うに 結 び つ くか を 考 えて み
関す る研 究 が どの よ うに発 展 して き た か 振 り返 る こ とで 可 能 に な る。
1.文 化 的要請
(culturaldemand)
・発 達 的 期 待
developmental
eXpeCtatlOnS
・社 会 的 機 会
4.信
念(belief)
lnthespecles
嘔
(narration)
F
SOGIetal
ヒ トと い う種 族 の 善 良 さ
oPPortunltles
\
3関
6.行
為(action)
舎
心(ooncern)
5関
→
forthenextgeneratlon
次 世代に対す る関心
個 人の
与(oo㎜itnent)
目標(goalS)
・決 断(deCISIons)
創 造(creatlng)
→
ラ イ フ ス トー リー
()
・維 持(maintainlng)
TheGeneratlvity
Scrlptwlthlnthe
/
提 供(offerlng)
personalllfestory
2.内 的欲求
(imerdesire)
象徴 的永遠の 生命
(agenGy>
必要 とされ ること
への欲 求
(communlon>
動 機 づ け とな る 根 源
(MotivationalSources)
考 え ・計 画
行動
意味
(Thoughts,Plans)(Behavior)
図1GeneratiVityの7つ
(閣eaning)
の 構 成 要 素(McAdamsetal,1992よ
一350一
り 作 成)
西 山:世
代 間 関係 に お け るGenerativityの
前 節 で 確 認 した よ うに、Generativityは
可 能性
世 代 連 鎖 を 重 視 す るEriksonの
ラ イ フサ イ クル 論 の 中核 と
な る概 念 で あ るが 、 そ の 多 義 性 ゆ え に 概 念 規 定 や研 究 方 法 の 設 定 が 困難 で 、研 究 対 象 とす る こ との 難
し さが 指 摘 され て き た(丸
島,2000;deSt.Aubinetal,1995)。
(1983)やMcAdamsetal.(1986)に
しか し、1980年
代 に 入 り、Ryffetal.
見 られ る よ うに 、成 人 期 に 特 に着 目 しGenerativityに
焦 点 を 当て
た 実 証 研 究 が 報 告 され る よ うに な っ て き た。 そ れ らの研 究 の 蓄 積 を 受 けて 、McAdamsetal.(1992,
1998)は 、Generativityの
多 義 的 な 要 素 を 関 連 づ けて ひ とつ の 全 体 像 と して 理 論 構 成 す る こ と を試 み 、
概 念 モ デ ル を創 り上 げ た 。 そ れ が 、 図1で
この モ デ ル は 、Generativityを7つ
あ る。
の要 素(心 理 社 会 的 特徴)に
分 解 して 、 そ れ らが どの よ うに構
成 され 、互 い に 関 連 し合 うか を示 した もの で あ る。 彼 らの説 明 に よ る と、 最 初 の 二 つ の 特 徴 す な わ ち
(1)文 化 的 要 請(culturaldemand)と(2)内
的欲 求(innerdesire)は
、Generativityの
る根 源 で あ る。 そ れ らは組 み 合 わ さっ て 、 成 人 期 に お い て 、 次 世 代 に対 す る(3)関
促 進 す る。 関 心 は 、 ヒ トとい う種 の 善 良 さ に対 す る(4)信
関 与(commitment)を
念(belief)に
動機 と な
心(concern)を
支 え られ て 、 生成 的 な(5)
活 発 に させ る。 こ の 生 成 的 な 関 与 は 、信 念 と 関 心 に 対 して相 互 に影 響 を与 え
合 うもの で も あ る。 そ して 、 生 成 的 な(6)行
為(action)は
直 接 的 に文 化 的 要 請 と 内的 欲 求 とに 動 機
づ け られ て 、 関 与 に起 因 して 生 まれ る もの で あ る。 と同 時 に 、 何 か を創 り出 した り、 支 え保 っ た り、
他 者 に提 供 した り とい う よ うな行 動 を 含 む 生 成 的 な 行 為 は 、 次 な る 関 与 と相 互 に影 響 を与 え あ う。 最
終 的 に 、 これ ま で 見 て き た 文 化 的 要 請 、 内 的欲 求 、 関 心 、信 念 、 関 与 、 行 為 とい う互 い に密 接 に関 連
した6つ の 要 素 の複 合 が 個 人 に お い て ど の よ うな 意 味 を もつ か は 、(7)物
ま る 。 物 語 は 、Generativityの
語(narration)に
よ って 決
多 義 的 な要 素 を 組 織 立 て 、 相 互 連 関 させ る 意 味 づ け と して働 くの で あ
る。 い か な る人 の 人 生 も、 特 定 の 社 会 的 ・歴 史 的 文 脈 の な か に 埋 め 込 ま れ て い るた め、 これ らの7つ
の 要 素 は そ れ ぞ れ の個 人 に 固 有 の 主観 に よ っ て 自 己規 定 的 に 組 織 立 て られ 、 結 び つ け られ 、 ス トー リ
ーを構成す る
。
こ こ に き て 、Generativityと
物 語 とが 結 び つ く こ とが わ か る。Generativityは
、次世代 に対す る関
心 や 関 与 、何 か を生 み 出 し支 え維 持 す る行 為 とい った も の す べ て を つ な ぐ物 語 の 形 成 に至 る 一 連 の 過
程 で あ り、 この よ うに物 語 る こ とが 人 生 に一 貫 性 と 目的 と意 味 とを 与 え る の で あ る。 再 度 強 調 して い
うな ら ば 、個 々 の 要 素 が 同 じで も 、 そ れ を どの よ うに 関連 づ け組 織 立 て 筋 立 て る か に よ っ て 、 人 生 全
体 の 意 味 は大 き く変 化 す る(や ま だ,2006)。
た と え ば 、子 ど も時 代 に虐 待 や 無 関 心 な どで満 足 の い く
養 育 が 受 け られ な か っ た と して も、「
だ か ら 自分 は 生 き る価 値 の な い 駄 目な人 間 な ん だ 」 と思 うか 、 「
そ
れ で も生 き 抜 い た 自分 は 強 い うえ に 人 の 痛 み もわ か る大 人 に な れ た の だ 」 と思 うか に よ っ て 、 そ の 後
の 生 き方 や 他 者 へ の か か わ り方 が 変 わ って くる だ ろ う。 自 らが 受 け た負 の 体 験 を 引 きず り同 じ よ うな
仕 打 ち を次 の 世 代 に も 与 えて しま うか 、 そ れ を バ ネ に強 さ と優 し さを兼 ね 備 え た 大 人 と して 次 の 世 代
を は ぐ く ん で い く こ とが で き る か は 、 人 が 経 験 を どの よ うに 組 織 し物 語 る か に か か って い る 。 過 去 の
事 実 は 変 え られ な く と も、物 語 を語 る こ と/語 りな お す こ とで 、もの の見 方 を 変 え る こ とが で き れ ば 、
現 在 や 未 来 を 自分 の カ で 切 り開 い て い く こ とが 可 能 に な る の で あ る。
従 来 の研 究 に お い て 注 目 を集 め て き た 世 代 間伝 達 の 負 の側 面 、 と りわ け 否 定 的 ア タ ッチ メ ン トパ タ
ー ン の 連 続 性 ・不連 続 性の 問題 に 関 して も
、GenerativityをNarrativeApproachの
観 点 か ら捉 え る
こ とは 有 効 で あ る。 た とえ ば 、 養 育 者 との 間 に 否 定 的 ア タ ッチ メ ン トパ ター ン を 築 き対 人 関係 にお い
て好 ま し く な いIWMを
持 つ に い た っ た 人 の 経 緯 を 、物 語 に よ って 丁 寧 に 辿 る こ と を通 して 、 経 験 の
一351一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
組 織 の 仕 方 ・意 味 づ け方 を 見 直 し、 ひ い て は世 代 間 の 関係 性 の 取 り結 び 方 を変 え る こ とが で き るか も
しれ な い。 あ るい は逆 に 、 同 じよ うに 養 育 者 との 間 に否 定 的 ア タ ッチ メ ン トパ タ ー ン を持 つ に もか か
わ らず 、 安 定 した対 人 関係 を築 き次 世 代 との 間で 高 いGenerativityを
発 揮 して い る 人 が 、 どの よ うに
自 らの 経 験 を 意 味 づ け 人 生 の 物 語 を 構 成 して い るか を知 る こ と は 、世 代 間 伝 達 の負 の 側 面 を 克 服 し新
た に 命 の 世 代 間連 鎖 を 生 み 出す た め の 参 考 に な る で あ ろ う。
McAdamseta1.(1992)も
、Generativityを
構 成 す る7つ の 要 素 は 、 個 人 の 置 かれ た 社 会 的 ・歴 史 的
文 脈 に よ っ て それ ぞ れ に 固有 の様 式 を見 せ る た め 、個 人 の 人 生 にお け るGenerativityの
る た め に は 、 そ れ らの構 成 の 仕 方(す
な わ ち 、 物 語 られ 方)を
張 して い る。そ して 、彼 らは 、Kotre(1984)が
Generativityの
特 質を理解す
判 断 ・解 釈 ・評 価 す る必 要 が あ る と主
成 人 の 自伝 的 エ ピ ソー ドを質 的 に 分 析 す る こ とに よ っ て
人 生 に お け る意 味 を 明 らか に した よ うに、 よ り 「
厚 い 記 述(thickdescription)」
を基
に し た研 究 の 推 進 を 強 く求 め て い る 。 こ う し た 訴 え に も か か わ らず 、 そ の 後 、 我 が 国 に お い て は 、
Generativityを
崎,2005a;丸
測 定 す る尺 度 を利 用 した 研 究(丸 島,2000)や
島,2005)は
そ う した 尺 度 開発 を 目的 と した研 究(串
進 め られ て い る もの の 、 筆 者 の 知 る限 り、Generativityの
目 した 研 究 は ほ とん ど行 わ れ て い な い 。わ ず か に 、串崎(2005b)が
物 語 的 側 面 に着
自由記 述 の 分 析 に よ りGenerativity
の感 覚 と人 生 に対 す る態 度 との 関 連 性 を見 よ う と試 み て い る程 度 で あ る。
6.世
代 間 関 係 に お け るGenerativityの
可能性
本 稿 で は 、 現 代 の長 期 化 ・重 層 化 した 世 代 間 関係 を研 究 す る うえ で 、 長 期 的 な 時 間 軸 を扱 うこ と の
で き るNarrativeApproachの
に あ るGenerativityの
視 点 の有 用 性 と、 「
育 て る一 育 て られ る」 とい う営 み の世 代 連 鎖 の 根 幹
重 要 性 、そ して 、 それ ら二 つ が組 み 合 わ さ る こ とで 従 来 の 研 究 知 見 に 対 して い
か な る貢 献 が で き るか 考 察 して き た 。 最 後 に、 世 代 間 関係 に お け るGenerativityの
可 能 陛 を 示 して 本
稿 の 結 び と した い。
Erikson(1950/1963)は
、Generativityを
成 人 期 中期 の 心 理 社 会 的発 達 課 題 と して 提 示 した が 、個
人 を 越 え て 世 代 と世 代 とを 結 ぶ 働 き は 、 何 も特 定 の ライ フ ス テ ー ジ に 限 定 され る わ けで は な い 。 最 近
で は 、 個 人 の生 涯 発 達 過 程 に お け るそ の ほ か の段 階 ・年 齢 層 で もGeneratvityが
様 々なかたちで存在
す る こ とが 証 明 され て きて い る(McAdams,2001;Frenschetal.,2007,Urrutiaetal.,2009)。
他 の 年 代 に 比 べ て 中年 期 に お い てGenerativityが
(McAdamsetal,1993)が
Urrutiaetal.,2009)や
最 も突 出 して い る こ と を 部 分 的 に 支 持 す る研 究
あ る 一 方 で 、中年 期 以 降 のGenerativityの
発 達 を示 唆 す る結 果(丸 島,2000;
、 あ るい は逆 に 中年 期 以 前 の成 人 前 期 や 青 年 期 後 期 に 世 代 継 承 的 な 関 心 を示
す 報 告(Ackermanetal,2000;Lawfordetal,2005)も
Generativityを
実際、
提 出 さ れ て い る。 これ らの 結 果 か ら 、
あ る特 定 の ラ イ フス テ ー ジ に 特 有 の も の と固 定 的 に考 え る の で は な く、世 代 と世 代 と
が 関 係 を もつ な か で 両者(あ
る い は そ れ 以 上 の 複 数 の 他 者)を
結 び つ け る力 、 関係 性 をつ な ぐ働 き と
して 幅 広 く捉 え た ほ うが 生 産 的 で あ る。
ま た 、Generativityの
概 念 を循 環 的 な 時 間 構 造 の な か で 拡 張 させ たYamada(2004)に
よれ ば、 世
代 継 承 的 な 世 話 や 関心 は未 来 の 世 代 や 社 会 だ け で な く過 去 の 世 代 や 社 会 に 対 して も向 け られ るべ き も
の で あ る こ とが 示 唆 され て い る。 世 代 間 関係 が 輻 較 す る 現 代 社 会 に お い て 、す べ て の 世 代 が 尊 重 され
る べ き で あ り、 将 来 世 代 の み な らず 先 行 世 代 に 対 して も 責任 を果 た して い く こ とが 求 め られ て い る。
一352一
西山
世 代 間 関係 に お け るGenerativityの
可 能性
過 去 か ら現 在 、現 在 か ら未 来 へ と 向 か う直 線 的 で 一 方 向 的 な 時 間概 念 の な か でGenerativityを
捉 える
の で は な く、 回 帰 ・循 環 ・往 還 とい っ た 多 様 で 多 次 元 の 時 間 軸 を設 定 で き る物 語 の 強 み を 生 か して 柔
軟 に 捉 え る こ とで 、 さ ら な る発 展 が 期 待 で き る。
以 上 見 て き た よ うに 、Generativityは
個 人 と社 会 、世 代 と世 代 と を結 び つ け る概 念 、受 け継 が れ て
き た 命 を将 来 に つ な い で い くた め に 必 要 な概 念 と して き わ め 有 効 で あ る。 非 婚 化 ・晩 産 化 ・少 子 化 の
進 む 現 代 社 会 に あ っ て 、 人 々 の 生 き方 は ま す ます 多様 に な っ て き て い る。 そ れ に 伴 い 、Generativity
の発 揮 の仕 方 も、 単 に 自分 の 子 ど もを 産 み 育 て るば か りで な く 、仕 事 上 で 後 進 の 育 成 に励 む 、 後 世 に
残 る作 品 を創 る、 な ど多 岐 に わ た る。 この よ うな 多 様 性 を掬 い 取 る た め に も 、 ひ と り一 人 が 経 験 を意
味 づ け構 成 す る物 語 と してGenerativityを
扱 い 、 丁 寧 に聞 き 取 っ て ゆ くNarrativeApproachの
視点
を 取 り込 ん だ研 究 が 今 後 さ らに進 め られ るべ き で あ ろ う。
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i"attachment"と
育 者)と
は 、 現 実 世 界 で 、 あ る い は 潜 在 的 な 状 況 に お い て 危 機 や 不 安 を感 じた とき に 、 特 定 の 大 人(養
の 近 接 を 求 め維 持 しよ う とす る個 体 の 生 ま れ な が ら の傾 向 を 意 味 す る。 こ の近 接 関 係 の確 立 ・維 持 を 通 し
て 、 自 らが
「
安 全 で あ る とい う感 覚 」(feltsecurity)を
確 保 し よ う とす る と ころ に そ の 本 質 が あ る。 数 井(2006)
は、 「
愛 着 」 と い う言 葉 が 、 も と も とボ ウル ビー が提 唱 した"attachment"の
本 来 の 意 味 よ り も拡 大解 釈 され て い
る 現 状 を危 惧 し、 「ア タ ッチ メ ン ト」 と片 仮 名 表 記 して い る。 本 稿 で も 、 これ に な ら っ て 片 仮 名 表 記 を採 用 す る。
li子 どもは、満2歳 前後 よ り、それ までア タ ッチ メン ト対象 との間 に経 験 した関係 の質に応 じて、アタ ッチメ ン ト
対 象へ の近 接可能性 や アタ ッチ メン ト対象 の情緒 的応答性 等 に関す る主観 的確信 、自己 と他者 の 関係性 全般 に関す
る一般化 された表 象、っ ま り 「
内的作業モデ ル(internalworkingmodel)」
を構成す るに至 る と考 え られて いる。
そ して 、た とえ他者 に物理 的に近接 す るこ とが叶 わな くとも、自己のなか に内在化 した他者 のイ メー ジに表象 的に
近 接す る ことによって(内 的作業 モデル を潜在的 に活用す るこ とに よって)、みず か ら安心感 を確保 し、情動 を制
御 し、心身 の恒 常性 を維持 す るこ とが可能 にな ってゆ くので ある(数 井 ら,2000;遠 藤,2006;数 井,2006参 照)。
皿 数 井(2006)は
、アタ ッチ メ ン トの世代 間伝 達 を考 え る際 に、異 なる3つ の基本的 立場が ある ことを指摘 して
い る。そ の3つ とは、 まず 、 「
第一世代 の過去 のあ る特 質が 、第二世代 の現在 の同特質 と連続 性を有す る」 とす る
立場。二番 目に、 「
第 一世代 の現在 のあ る特質 が、第 二世代 の現在の 同特質 と連 続 性を有す る」 とす る立場。そ し
て三番 目に、 「
第一世代 の現在 の ある特質が 、第二世代 の ある別 の特質 と特異 的な 関連 性を有す る」 とす る立場 で
あ る。そ こで、現 実 にアタ ッチ メン ト研 究におい て問題 に され る世 代間伝 達 とは、第二 あるいは第 三の、 「
現在 の
親 のア タ ッチ メン トにかかわ る表 象が 、子 どものアタ ッチ メ ン トに どの よ うな影響 を もた らす か」 とい う意 味にな
る。す なわ ち、 「
親 の現在 の心的状態 が子 どもの現在 の状態 に影 響 を与 え る」 とい うもので ある。
i・アタ ッチ メン ト理論 お よびAAIに
関す る研究 につい て詳 細 は遠藤(1992 ,2006)、 数 井 ら(2000)、 数 井(2006)
を ご参照 いただ きたい。なお 、本稿 におけ るアタ ッチ メ ン トの世 代 間伝 達 に関す る研 究の概観 は、これ らの文 献 を
参 考 に して整理 した ものであ る。先 人た ちの詳細 かつ精緻 な議論 に敬 意 を表 す る とともに、今 後の アタ ッチ メン ト
研 究の更 な る発展 に期待 を寄せ てい る。
・ この よ うな、 「
一方 で個人 の発達 を見なが ら、他方 ではそ の発 達 を世 代関係 のなか で見 る、 いわば個体性 と関係
性 との ジ レンマ をジ レンマの まま人生 のあ りの ままの実相 に 目を とめ よ うとす る」(西 平,1993)も のの見方 は、
鯨 岡(1998,1999a,1999b)が 提唱す る関係発 達論 におけ る人 間存在 の根源 的両義性 の概 念 と相 通ず るもの がある。
(日本 学術振興会特別研 究員
(受 稿2009年9月7日
教育方 法学講座
、 改 稿2009年11月30日
一356一
博 士後期課程1回 生)
、 受 理2009年12月11日)
西山:世代間関係における Generativity の可能性
A Narrative Approach to Generativity
in Intergenerational Relationships
NISHIYAMA Naoko
Increasing longevity has resulted in the establishment of long-term
intergenerational relationships among family members. The life-span of one
person often overlaps with those of members of both former and future
generations. Most studies addressing relationships among generations have
tended to focus on the past experiences during the earlier period of childhood and
the negative aspects of intergenerational connections. In this study, I plan to
adopt two perspectives on intergenerational relationships. The first perspective
uses a narrative approach, and the second assumes the perspective of the
intergenerational life cycle. The narrative approach offers a longitudinal
perspective that includes not only the life-spans of individuals, but also the entire
period encompassed by the intergenerational life cycle. The concept of
generativity (Erikson, 1950) is useful for connecting the individual with the
intergenerational life cycle. McAdams et al. (1992) viewed generativity as a
configuration comprised of seven psychosocial features: cultural demand, inner
desire, concern, belief, commitment, action, and narration. These scholars
underscored the last feature, narration, which organizes the story created by the
adult for the next generation. In this way, the integration of the narrative
approach with the concept of generativity offers promising directions for the
study of intergenerational relationships.
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