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開示の有効性の改善に向けて

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開示の有効性の改善に向けて
Applying IFRS
開示の有効性の改善に向けて
(Improving disclosure effectiveness)
2014 年 7 月
目次
1. 背景 ................................................................................................. 3
1.1「開示の過重負担」とは ................................................................................. 4
1.2 開示の有効性を改善する方法を探る .............................................................. 4
2. 財務諸表の開示を構成する上での代替的方法 ........................................ 6
2.1 財務諸表ナビゲーションの改善 ...................................................................... 6
2.2 重要な会計方針、判断、見積り及び仮定の開示 ................................................ 6
2.3 重要性に応じた注記の順序 .......................................................................... 8
2.4 性質による開示のグループ分け ..................................................................... 9
2.5 重要性に基づく順序及び性質によるグループ分けの混合 ................................. 10
2.6 「要旨」又は「主要な進展」に関する注記の表示 .............................................. 11
2.7 財務諸表外における一定の開示の表示 ........................................................ 11
2.8 財務諸表への代替的な業績測定値の組込み ................................................. 13
3. 状況に応じてカスタマイズされた開示 ................................................... 14
3.1 重要な会計方針 ....................................................................................... 14
3.2 見積りの不確実性の要因 ........................................................................... 14
4. 重要性 ............................................................................................ 15
4.1 IFRS の定義と規定 .................................................................................... 15
4.2 重要性の評価で考慮すべき情報の特性 ........................................................ 16
4.3 情報の重要性 VS 項目の重要性.................................................................. 16
4.4 重要性概念の適用を促すための方法 ........................................................... 17
5. 代替様式の採用、状況に応じた開示及び重要性の評価を行う上での課題 .. 19
6. まとめ ............................................................................................. 19
付録 A-開示の過重負担に関する現在の取り組み ..................................... 20
付録 B-財務諸表を構成するための代替的方法:
考慮事項、懸念及び課題の概要 ................................................. 21
2
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
1. 背景
「開示の過重負担」及び「無駄を省く」という用語は、国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)
及び各国の基準設定主体や規制当局にとって、優先課題となっている財務報告上の問題を表すも
のとして使われている。財務諸表における開示の分量や複雑性の増加は、財務諸表の作成者、と
りわけ財務諸表の利用者から多大な関心が寄せられている。
IFRSに基づく財務報告における開示の改善に向けて、IASBは2013年1月に開示に関するディス
カッション・フォーラム1 を開催し、様々なオプションを探るための広範囲な取り組みを開始した。
IASBスタッフはこの点に関する調査を行い、フィードバック文書を2013年5月に公表した。2
IASBの広範囲にわたる開示イニシアティブは、以下をはじめとする数多くの短期及び長期のプロ
ジェクトから構成される。
•
制限された範囲での改訂-IASBは、既存の表示及び開示規定に関する懸念について検討し、
企業が財務諸表を作成する際に行う判断を容易とするため、IAS第1号「財務諸表の表示」を
限定的な範囲で改訂した。この改訂の意図は、既存のIFRSの規定を著しく変更するものでは
なく、それらを明確化することにある。
•
重要性-短期のイニシアティブの中で検討された。財務報告をさらに有用なものにするために、
重要性の概念を適用する際に、作成者、監査人及び規制当局の判断に資することを目的とし
ている。当該プロジェクトでは財務諸表の全体を対象とするが、その中でも注記への重要性の
概念の適用に焦点があてられた。
•
表示及び開示に関する単一の基準-IASBは、長期的にIAS第1号、IAS第7号「キャッシュ・フ
ロー計算書」及びIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を、表示及び開示に
関する単一の基準に置き換えるべきか否かを検討する。
•
開示規定のより一般的な見直し-IASBはまた、既存の基準における開示規定を見直し、矛盾、
繰り返し及び重複している箇所の識別及び評価を行う調査プロジェクトも開始する。
開示の過重負担の問題はIFRSだけに限られるものではない。米国の財務会計基準審議会(以下、
FASB)もまた、財務報告における開示を改善する方法を探っており、最近、公開草案「財務会計計
算書の概念(Proposed Statement of Financial Accounting Concepts)」3を公表し、開示規定を
定めるプロセスを改善するため、概念フレームワークに新たな章を加えることが提案されている。
その他にも数多くの基準設定主体や規制当局が、現在、開示の過重負担に関するプロジェクトに
取り組んでいる。これらのプロジェクトの概要を本稿の付録Aでまとめている。
1
http://www.ifrs.org/Current-Projects/IASB-Projects/Disclosure-Initiative/Discussion-ForumFinancial-Reporting-Disclosure/Pages/Discussion-Forum-Financial-Reporting-Disclosure.aspx
2 http://www.ifrs.org/Alerts/PressRelease/Documents/2013/Feedback-Statement-DiscussionForum-Financial-Reporting-Disclosure-May-2013.pdf
3 http://www.fasb.org/cs/ContentServer?c=Document_C&pagename=FASB%2FDocument_
C%2FDocumentPage&cid=1176163868268
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
3
1.1 「開示の過重負担」とは
開示の過重負担の論点に関する正式な定義は存在しないが、利害関係者による様々な議論及び
討議から一般的な3つのテーマが浮かび上がる。
a)
様式及び構成
b) カスタマイズ
c)
重要性
財務諸表の様式を決める上で、IAS第1号第114項に示されている構成に従うのが一般的な実務
である。しかし、取引及び会計基準の規定がより複雑になり、財務諸表の開示の分量が増大して
いることから、他の様式を用いた方が、異なる要素の情報間の関連性をよく伝え、より透明性が増
し、企業の財政状態、業績及びリスクを反映する場合がある。
投資者、アナリスト及び財務諸表の利用者は、財務諸表の開示がしばしば一般的な決まり文句と
なっているため、意思決定に有用な情報を提供していないと感じている。開示を、企業固有の事実
と状況に応じてカスタマイズしたとしても長い財務諸表が短くなる訳ではないが、無駄がなくなるこ
とで財務諸表の有用性は高まる。
重要性の概念の適用には判断が求められるが、利用できるガイダンスはほとんど存在しておらず、
そのことが開示の過重負担につながっているとの見方がある。IFRSは最低限の開示規定を定め
ているが、実務上、企業は固有の目的適合性を考慮することなくそれらの規定に従う傾向にある。
特定の取引や項目が報告企業にとって重要でないとされる場合、目的適合性が高くないのでIFRS
では開示しないことが認められている。重要ではない情報が財務諸表に含まれていると情報量が
多くなり、重要で目的適合的な情報が目立たなくなり、財務諸表の透明性と有用性が潜在的に低
下することとなる。
開示の目的適合性を向上させるためには、重要性の閾値をどのように適用すべきかに関する追加
的なガイダンスが実務上有用であるが、そのようなガイダンスは今のところ存在しない。とはいうも
のの、作成者、監査人及び規制当局には改善の余地が十分に残されている。単に「準拠する」だ
けではなく、意思決定を行う上での有用性も考慮するように焦点を移すことで、作成者、監査人及
び規制当局は、最低限の開示規定に関する目的適合性、すなわち重要性についてさらに検討する
ことが促される。
1.2 開示の有効性を改善する方法を探る
重要性のない情報を含めることは、IFRSでは明確に禁止されている訳ではない。IAS第1号第31
項は重要性のない情報を除外することを認めているが、その開示を禁止しているわけではない。こ
の点については、IAS第1号の限定的な範囲の改訂の中で明確化されている。「IASBは、企業が
重要性のない情報の開示を禁止することは提案していない。こうした要求は運用可能ではないと
考えるからである」と説明している。4
さらに他の様式であれば、利用者は財務諸表に含まれる財務情報へのアクセスをより簡単に、又
より理解可能とする可能性があるが、様式の変更はIFRS内の明確な規定に強制されるものでは
ない。したがって、開示の過重負担を軽減することは、透明性のある方法で企業の財政状態及び
業績を伝えるという財務諸表の主要な目的によってはじめて達成される。企業が財務諸表を通じ
てコミュニケーションの有効性の改善を図ることができる場合、企業は財政状態及び業績について
の利用者の不確実性、最終的には資本コストを低減させることになる。
本稿では、現在のIFRSに従って財務情報を伝達する際に財務諸表をより効果的なものにする方
法を考察する。財務報告という広範な文脈ではなく、財務諸表にその焦点を当てている。たとえば
財務諸表に付随する経営者報告書など、他の種類の財務報告と財務諸表の相互作用を無視して
いる訳ではないが、会計基準は財務諸表にのみ適用され、他の種類の財務報告書には適用され
ないという事実がその背後にある。
4
4
Paragraph BC6 of Exposure Draft ED/2014/1 Disclosure Initiative (Proposed amendments to IAS 1)
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
財務報告には、財務諸表以外に経営者報告書、プレス・リリースやプレゼンテンショーン資料など
も含まれる。今日の技術革新により、従来の様式では可能とならなかった、財務情報コミュニケー
ションの有効性を改善する方法を統合したソリューションも可能である。しかし、基準設定主体及び
規制当局は、従来通りの印刷媒体で報告される財務諸表に対する規制を行う上での取り組みに引
き続き焦点を当てている。したがって、本稿では通常、従来の様式による財務諸表の報告に的を
絞り説明を行う。
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
5
2. 財務諸表の開示を構成する上での代替的方法
上述のとおり、一般的に採用されている財務諸表の様式が開示の過重負担の問題を引き起こす
原因になっている可能性がある。本セクションでは、他の様式へ変更する場合の選択肢について、
一部の企業がすでに採用している方法も含めて検討する。様式の変更は、財務情報を発信する際
の有効性を向上させる方法となりうると我々は考えている。しかし現行のIFRSが、ここで説明する
すべての代替的方法の適用をあらゆる状況で容認しているわけではない。
最も適切な様式を決定することは、「すべてに適合する1つの様式」を決定することではないことは
明らかである。したがって企業は、主たる利用者のニーズ、さらには国や地域ごとの限界又は制約
をはじめ、特定の事実及び状況を考慮する必要がある。
財務報告に関するIASBの概念フレームワーク(以下、概念フレームワーク)によれば、企業間の
比較可能性は、目的適合性があって忠実に表現されている情報の有用性を補強する「質的特性」
の1つである。(概念フレームワーク、QC19項)したがって注記の様式を決める際、作成者はまず、
利用者が企業間の有用な比較をより容易に行えるように、同業他社が採用している様式を検討す
べきである。
すべての期間にわたって首尾一貫性が確保されていることは、意思決定に有用な財務情報として
のもう一つの重要な特性である。したがって、企業は期が変わっても同じ様式を使って財務諸表に
おける情報を表示し開示するように努めなければならない。様式を変更できるのは、現在採用して
いる様式よりも、目的適合性のある情報がより効果的に説明されるという、財務諸表が改善する場
合のみであると考えている。
付録Bでは、本セクションで考察している代替的様式についての考慮事項、懸念及び課題となる点
の概要を包括的に説明している。
2.1 財務諸表ナビゲーションの改善
一般的に財務諸表の利用者は、必要に応じて会社について生じた疑問の答えとなる情報を探す
上での参考書類として、財務諸表を利用する。したがって、探している情報が容易に特定でき、財
務諸表の関連する注記へ導いてくれる要約ページや目次を利用者は参照することとなる。現行の
実務では、注記の前に目次を設けることが一般的になっている。しかし、今なお多くの企業は財務
諸表の読者にそうした要約や目次を提供していない。下記2.4では、目次の例を取り上げ、利用者
が参考書類として財務諸表を利用する際にそれらがどのように役立つかを説明する。
従来から使われている見出しや相互参照、さらにそれらより一般的ではないが、コンテンツバナー、
節記号、付記、ハイライトや索引など、財務諸表のナビゲーションを改善するその他の手段が存在
する。これらの方法の具体例を、デンマークの宝石加工会社PANDORA A/S5と英国のテレビ及び
メディア会社ITV plc6の2013年度の財務諸表で見ることができる。
2.2 重要な会計方針、判断、見積り及び仮定の開示
現在、主流となっている実務は、IAS第1号第114項で規定される構成に沿って、財務諸表の注記
セクションの冒頭に単一の注記を設けてすべての重要な会計方針の要約を開示することである。
1. IFRSに準拠している旨の記述
2. 適用している重要な会計方針の概要
3. 要求される財務諸表に表示される項目についての裏付けとなる情報
4. その他の開示
5
6
6
http://files.shareholder.com/downloads/ABEA-4ZFRFB/2958171579x0x726400/D98BDCF4-746
9-45A1-BB88-AEAE531ADBBA/PANDORA_ANNUAL_REPORT_2013_UK.PDF, p. 42-98
http://www.itvplc.com/sites/itvplc/files/ITV%20Annual%20Report%202013_0.pdf, p. 104-173
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
しかし企業は、IAS第1号第115項及び第116項に従って注記内における特定項目の順序を変更す
ること、及び財務諸表の作成基礎及び特定の会計方針について財務諸表の別個の要素としてその
情報を提供することが認められている。最近公表された「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」
では、注記の順序に関して代替的な方法が適切となる場合があることをさらに明確化している。
特定かつ定量的開示と合わせた会計方針、判断、見積り及び仮定の開示
財務諸表の改善を試みている企業の多くが、重要な会計方針、判断、見積り及び仮定をそれぞれ
関連性を有する注記の中に記述するようになってきている。一部の会計方針は財務諸表全体に関
係することがあり、したがってその場合には、財務諸表で特定の項目についての単一の注記に含
めて開示することは適切とはならないであろう。こうした会計方針は他の注記と一緒に開示される
可能性がある。
英国の石油・ガス会社、Cairn Energy plcは自社の財務諸表において、このアプローチを採用して
いる数多くの企業の中の1つである。2013年度の財務諸表の注記において、同社は最初に注記
がどのような構成になっているかについて、以下のような説明を加えている。
セクション1-作成の基礎
このセクションには、全体として財務諸表に関連するグループの重要な会計方針を含んでいる。
1つの注記に固有な重要な会計方針は、当該注記に含まれている。重要でない項目に関連する
会計方針は財務諸表に含まれていない。
このセクションではまた、新たにEUで承認された会計基準、改訂、解釈指針及びグループの業
績に対する影響が予想される場合の当該影響を含んでいる。
財務諸表の注1.1で同社は、作成の基礎や連結の基礎、及び外国為替の会計方針をはじめ、財
務諸表全体に関連する重要な会計方針を要約している。取引、資産及び負債に適用される会計方
針は、それらが関連する特定の注記と合わせて記載している。たとえば、無形の探査/評価資産の
会計方針は、注2.1において当該資産の定量的及び定性的な開示と一緒に記載している。7
関連する注記において、会計方針を特定の定量的情報と共に開示することにより、読者はより容
易に両者を結びつけることができ、多くの場合、方針の開示と定量的情報の両者についてより効
率的な評価を行うことができるようになる。このアプローチを採用することで、作成者は、現在、財
務諸表に影響を及ぼすことのない取引及び項目に関する方針の開示について、その必要性を改
めて検討することになる。たとえば、取引が当期又は比較期間に発生していなくとも、子会社に対
する支配の喪失に関する方針は多くの企業が開示しているが、発生していない取引に関する会計
方針の開示は必要ないと我々は考えている。多くの場合、そうした開示を省略することで、読者は
企業の財政状態及び業績に影響を及ぼす、目的適合性の高い情報により容易に焦点をあてるこ
とができるようになる。
我々は、当期について目的適合性のない会計方針の開示を財務諸表から省略することを作成者
に推奨しているが、なお企業は将来期間にかけて一貫性のある適用が確保されるよう、従前に適
用された会計方針すべてについて記録できる内部プロセスを維持する必要がある。
強制でない会計方針又は新しい会計方針のみの開示
基準から直接的に強制されない方針についてのみ開示するというアプローチも、一部で議論の対
象になっている。たとえば、共通支配下にはない企業結合はIFRS第3号「企業結合」の取得法に従
って会計処理しなければならないので、基準の規定を繰り返すだけの会計方針を表示することは、
財務諸表に潜在的な無駄を生じさせることになり冗長になると考える人もいる。基準に会計方針の
選択が認められている場合にのみ、会計方針に関する開示が必要になるという主張がある。たと
えばIAS第16号「有形固定資産」は取得原価モデル及び再評価モデルとの間での方針の選択を
認めており、したがって企業は、適用した方針を開示しなければならない。基準と解釈指針が取引
について特に規定しておらず、企業がIAS第8号第10から12項の指針に従って会計方針を策定す
るような状況では、会計方針に関する開示は行わなければならない。基準の特定の開示規定は、
IFRS第3号の場合のように、基準の規定を方針として反復することを企業に求めているわけでは
なく、そのような開示を省略することは許容されるとの議論がある。さらにIAS第1号第119項は、
7
http://www.cairnenergy.com/files/reports/annual/ar2013/2013_annual_report.pdf, p. 99-146
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
7
開示目的のため目的適合性の高い方針を識別するには判断が必要になることを認めており、基準
が方針の選択を認めているような場合には方針の開示は特に目的適合性が高いことを強調して
おり、他に選択肢が存在しない強制的な方針の開示は必要とされないことを示唆しているように思
われる。
しかし、このアプローチはIFRSに関して十分な経験を有し、基準の強制適用となる規定について知
識を有している利用者には一定のメリットがあると我々は考えている。企業は、IFRSに関する経験
が少ない基礎的な利用者のニーズについて考慮すべきである。現在、IAS第1号は適用した重要
な会計方針についてその要約の開示を要求している。したがって強制されない会計方針のみを開
示することは現行のIFRSの下では適切ではないと考える。
同じ理由で、過去の期間の財務諸表に開示されていなかった会計方針のみを当期に開示するとい
うアプローチを採用することは、完全な期中及び年次財務諸表として通常適切でないと考える。こ
れは、直近の完全な一式の年次財務諸表を更新することが意図されている要約期中財務諸表に
ついて、IAS第34号「期中財務報告」で採られているアプローチである。しかし上述のとおり、目的
適合性のない会計方針の開示を省略することは、注記の分量と長さを削減し、企業は開示の有効
性を改善することができる。企業はまた、会計方針の要約は財務諸表のできるだけ後半部分、たと
えば付録に記載することを考える可能性がある。フランスの電気通信事業者Orange SAは、会計
方針の要約について、2013年度財務諸表の終わりの方(注18)で開示を行っている。8
2.3 重要性に応じた注記の順序
より重要性の高い情報を前の方に表示することも、財務情報のコミュニケーションをさらに効率的
なものにするもう一つの方法である。
•
本質的に重要な情報(たとえばセグメントに関する開示、不確実性の要因の開示、リスクに関
する開示を含む可能性がある)は、たとえば基本的財務諸表の直後に開示を行うなど、より目
立たせるようにする。
•
本質的に重要性が低い情報(たとえば未発効基準、代替的な方法が存在しないIFRSの会計
方針、有形固定資産や無形資産の将来に向けた開示など)は、付録などのように財務諸表の
終わりの方で提供する。
IAS第1号の改訂に際して「注記の体系的な順序を決定する際に、企業は、財政状態又は財務業
績の理解に最も関連性が高いと考える開示を目立たせる方法又はいくつかの注記の間の関係を
理解可能にする方法で注記を配列する場合がある」と述べており、IASBはこのアプローチを支持
しているように思われる。9
上述のとおり、特定の開示の相対的な重要性を決定するには、重要性の閾値を適用する場合に
要求されるものと同じような判断が必要となり、簡単な作業ではない。
おそらく他の質的要件も、財務諸表における情報の表示箇所を決定する根拠になりえる可能性が
ある。たとえば、非経常あるいは経常情報か、以前の開示情報あるいは新規の開示情報かなどが
ある。
我々はある種の重要性評価を参考に注記を配列することは、潜在的には企業の財政状態や業績
を伝える、より効果的な方法になると考えている。このアプローチを採用する場合、作成者は財務
諸表における情報の目的適合性を再検討することになり、その結果多くの場合、重要性のない情
報についてはたとえ従前には開示されていたとしても、もはや財務諸表に含まれなくなるであろう。
また企業自身が財務諸表の最も重要と考える側面を利用者に伝えることになるので、財務諸表に
もう一つの特性が加えられることにもなる。
しかし企業が注記の再配列を選択する場合、重要性の水準が変わらない限り、選択したアプロー
チは、すべての会計期間を通じて首尾一貫性をもって適用される必要がある。すべての期間を通
じて首尾一貫性が確保されることで、本セクションの導入部分でも説明しているように、財務諸表
内でナビゲートを行う上での利用者の利便性を高めることになる。
8
9
8
http://www.orange.com/en/finance/nbsp7/regulated-information, 2013 registration document,
p. 99-204
Paragraph 113A of Exposure Draft ED/2014/1 Disclosure Initiative (Proposed amendments to IAS 1).
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
実務上、重要性に応じた注記の順序立ては、性質ごとでの注記のグループ分けにより行われるこ
とが多い。この点については次のセクションで説明する。
2.4 性質による開示のグループ分け
性質による注記のグループ分けでは、財務諸表内での利用者のナビゲーションに資するように、
注記をセクション別に区分する必要がある。たとえば、企業は企業の開示について、企業及びグル
ープ情報、見積りの不確実性に関する開示、リスク・ベースの開示などにグループ分けすることが
できる。
たとえば、PANDORA A/Sは2013年度財務諸表で、注記を以下の5つの主要な区分にグループ
分けしている。
•
•
•
•
•
作成の基礎
当期の業績
運転資本を含む投下資本
資本構成及び財務項目
その他の開示10
注記
PANDORA はグループの財務報告を継続的に改善している。この改善の一環として、
PANDORA はグループの業績を左右する項目により焦点を当てるよう連結財務諸表を構築
している。したがって、注記は主要な数値に関連して 5 つのセクションにグループ化して
いる。注記は、それぞれの注記のトピックに適用される会計方針の記述とともに関連する
財務情報を含んでいる。
セクション 1:報告の基礎、P.47
セクション 4:資本構成及び財務項目
1.1
報告の基礎 P.47
4.1
資本金、 P.70
セクション 2:年度の業績、 P.50
4.2
1 株当たり利益及び配当、 P.71
2.1
収益 P.50
4.3
正味利付債務、 P.71
2.2
セグメント情報、 P.51
4.4
金融リスク、 P.72
2.3
従業員給付費用、 P.53
4.5
金融商品、 P.75
2.4
株式報酬及び従業員株式、 P.54
4.6
正味金融収益、 P.76
2.5
税金、 P.57
セクション 5:その他の開示、 P.77
セクション 3:運転資本を含む投下資本
5.1
企業結合、 P.77
3.1
無形資産、 P.60
5.2
偶発債務、 P.78
3.2
有形固定資産、 P.64
5.3
関連当事者、 P.79
3.3
棚卸資産、 P.66
5.4
監査役への報酬、 P.79
3.4
売掛金、 P.67
5.5
アニュアルレポートの承認、 P.80
3.5
引当金、 P.68
5.6
PANDORA グループの会社、 P.80
5.7
財務の定義、 P.81
5.8
後発事象、 P.81
10
http://files.shareholder.com/downloads/ABEA-4ZFRFB/2958171579x0x726400/D98BDCF4-746945A1-BB88-AEAE531ADBBA/PANDORA_ANNUAL_REPORT_2013_UK.PDF, p. 42-98
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
9
2.5 重要性に基づく順序及び性質によるグループ分けの混合
前に説明した2つのアプローチを組み合わせることも、財務諸表の有効性を高めるために企業が
検討する可能性のあるもう1つの代替的アプローチである。すなわち、性質ごとに開示をグループ
化し、重要性に応じて順序を決めるというアプローチである。当該アプローチの例としては、財務諸
表の注記を以下のようなセクションで構成するものがある。
•
主要な数値:取締役会が最も目的適合性が高いと考える、個々の表示科目の内訳を財務諸表
に記載し、そうした表示科目を理解するのに目的適合的となる会計方針、判断及び見積りの概
要を示す。
•
•
資本:グループの資本管理の方法及び当期の株主配当についての情報を提供する。
•
グループ構造:グループ構造について説明し、その再編がグループの財政状態及び業績にど
のような影響を及ぼしたかを説明する。
•
未認識項目:財務諸表には計上されていないが、グループの財政状態及び業績に潜在的に著
しい影響を及ぼす項目についての情報を提供する。
•
その他:現地の規制上の基準に従うために開示が求められるが、グループの財務業績を理解
する上で重要とは考えられない項目についての情報を提供する。
リスク:さまざまな財務リスクへのグループのエクスポージャーを説明し、それらがグループの
財政状態及び業績にどのように影響を及ぼすか、こうしたリスクを管理するためにグループと
してどのような措置を講じているかを説明する。
実務上、組み合わせによるアプローチを適用している例を、Cairn Energy plcの2013年度財務諸
表で見ることができる。すなわち、核となる事業についての開示を目立つように行い、注記をセクシ
ョンごとにグループ化し、以下のような順序で表示している。
•
•
•
•
•
•
11
10
セクション1-作成の基礎
セクション2-石油、ガス資産及び関連するのれん
セクション3-金融資産、運転資本及び引当金
セクション4-当期業績
セクション5-資本構成及びその他の開示
セクション6-後発事象11
http://www.cairnenergy.com/files/reports/annual/ar2013/2013_annual_report.pdf, p. 99-146
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
2.6 「要旨」又は「主要な進展」に関する注記の表示
IFRSに従ったより詳細な開示を表示する前に、主要な開示に関する要旨を説明することは過重負
担に関する問題の軽減に役立つのか、という点については議論のあるところである。そうした要旨
を財務諸表に記載することは、単に無駄を増やすだけであると感じる人もいる。たとえばオーストラ
リアでは、完全な財務諸表を組み込んだ財務報告書一式の代わりにいわゆる「簡潔な財務報告書」
を作成し株主に送付することができるが、実際に簡潔な財務報告書を作成する企業はほんのわず
かに留まっている。
たとえば当期ののれんの減損、企業結合など、主要な進展を注記の冒頭部分に表示することは、
上記の要旨を説明するというアプローチの代替となる可能性がある。
財務諸表が単独で評価される場合には、主要な進展に関する注記は特に有用となるかもしれない。
しかし、ほとんどの国や地域で幅広く見られる実務は、主要な進展についてその概要を説明する
経営者報告書を財務諸表に添付することである。したがって、主要な進展に関する注記が財務諸
表の有効性の改善に役立つかどうかを判断する際、財務諸表が使用される状況を検討することが
重要となる。
そうしたアプローチは、フランスの建材メーカー、Lafarge S.Aの2013年度財務諸表(財務諸表の
注記3「当期の重要な事象」を参照)で見ることができる。12
2.7 財務諸表外における一定の開示の表示
IAS第1号、IAS第34号及びIFRS第7号「金融商品:開示」は、関連する基準で特に認められてい
ない限り、たとえ相互参照による組み込みであったとしても、IFRSで要求される開示を財務諸表外
で表示することは適切でないことを示唆しているように思われる。IFRS第7号は、利用者が財務諸
表と同じ条件及び同じ時期で利用可能となる他のステートメント、たとえば経営者による説明又は
リスク報告書などに相互参照によって組み込む限りにおいては、一定の情報を財務諸表外で表示
することを認めている。IAS第34号もまた、期中財務諸表が要約したものである場合には、2014
年9月に公表された2012-2014年サイクルの年次改善の中でも明確化されたとおり、企業が
16A項で要求される開示を期中財務報告書に表示することを認めている。
利用者が必要な開示がどこに配置されているかを把握できるようにするため、相互参照を十分具
体的に行わなければならない。具体性に欠ける相互参照は、潜在的に財務諸表の首尾一貫性や
完全性について混乱を生じさせることとなり、財務諸表の境界を実質的に拡大させることになる。さ
らに外部当事者(典型的には外部監査人)が提供する保証は通常、財務諸表に限定され、この保
証により財務諸表の有用性が高まることになるが、不明確な相互参照により明瞭性を欠くこととな
れば、財務諸表の有用性が低下する。要求される具体性を担保する相互参照技法の具体例は、
HSBC Bank Canadaの2013年度財務諸表で見ることができる。13
B 情報の表示
i) 金融商品に関連するリスクの内容及び範囲に関するIFRS第7号「金融商品:開示」の下で要求
される開示は、経営者による説明と分析の中の「リスク管理と資本」の監査済みセクションに含
まれている。
12
13
http://www.lafarge.com/04022014-press_publication-2013_annual_report-uk.pdf, p. F1-F98
http://www.hsbc.com/investor-relations/financial-and-regulatory-reports, p. 63
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
11
一定の開示を財務諸表外で表示しても、それは開示の分量の減少や有効性の向上に必ずしもつ
ながるものではない。しかし、要求される情報が財務諸表を含む報告書のどこかですでに提供さ
れている場合には、相互参照は、書類全体における繰り返しを減らし、透明性を増す効率的な手
段となる可能性がある。これは、財務報告規定とそれ以外の報告規定が重複しているような国や
地域では特に有用である。たとえば多くの国や地域が、広範な経営者の報酬に関する開示規定を
定めているが、それはIAS第24号「関連当事者についての開示」の規定と重複している可能性が
ある。IAS第24号で要求される項目は財務諸表で開示しなければならないが、現地の開示規定が
財務諸表で開示しなければならないと定めている場合を除き、現地の国や地域の規定が要求して
いる項目を財務諸表で追加開示する必要はない。企業は報酬に関する情報を財務諸表外で開示
する場合、報酬に関する報告書においてIAS第24号の開示を含む財務諸表に相互参照を行うべ
きかどうか、あるいは報酬に関する報告書にもこれらの開示を含めなければならないのかについ
て検討すべきである。
報告に関する要求は世界的に増大しており、繰り返しを避け潜在的な財務諸表の無駄を省くため
にさらに相互参照の利用を許容することは、開示イニシアティブへの取組みの一環としてIASBは
さらに調査を行い検討すべき分野であるかもしれない。
財務諸表の再構築を行っている企業の中には、会計方針の開示を自社のウェブサイトへ移行する
ことができるのかどうかを検討している企業もある。たとえば、ある企業は、会計方針を表示する
代わりにいわゆる「QRコード」を含める代替的な財務諸表アプローチを検討している。読者はQRコ
ードにスマートフォンを当てれば、企業のウェブサイトにおいて関連するページへリンクが行われ、
企業の会計方針にアクセスすることができる。しかし、関連する現地の規制では、そうした双方向
的な報告様式は認められないとの結論に至った。さらに、前でも説明したような理由から、そうした
アプローチは現在のIFRSの下では許容されるものではない、と我々は考えている。
12
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
2.8 財務諸表への代替的な業績測定値の組込み
年次報告書を改善するために一部の企業が採用しているもう一つの実務的アプローチは、経営者
報告書における分析的な非IFRS情報をIFRS財務諸表内に取り込むことである。経営者報告書の
情報をIFRS財務諸表の実際の数値に調整することが容易になり、財務諸表の利用者にとっては
有用なものとなる可能性がある。
代替的な業績測定値(APM)が利用者の意思決定に対して有用であることは、広く認められている。
欧州証券市場監督局(ESMA)はコンサルテーション・ペーパー「代替的な業績測定に関する
ESMAガイドライン」を最近公表した。その中で「その目的は、ガイドラインにより、利用者にとって
財務情報の有用性が増し、一般的な質的特性の充足が担保されることで、発行者が使用する
APMの透明性が促進されることである」とガイドラインは述べている。14
しかし、APMをIFRS財務諸表に含めることは、意図した効果をもたらすよりも、無駄を増大させる
可能性がある。IFRSに従って標準化された情報とAPMを一緒に開示すると、基準測定値は何な
のか利用者を潜在的に混乱させることになり、企業間の比較可能性を損なう可能性がある。
ESMAのコンサルテーション・ペーパーではAPMをIFRS財務諸表に含めることを否定してはいな
いように思われるが、IFRS情報以上にAPMを目立たせてはならず、そして両者の間の調整表を表
示しなければならないと指摘している。同様に、IAS第1号の第55項及び第85項は企業に対して、
そのような表示が企業の財政状態及び業績の理解に目的適合的である場合には、財政状態計算
書及び包括利益計算書の表示に際して追加の表示科目、見出し及び小計を表示することを要求し
ている。15
IAS第1号は、多くの企業が経営者による財務レビューなどの報告書やステートメント、環境報告書
や付加価値計算書を財務諸表外で表示しているという事実を認識しているが、同時に、財務諸表
外で表示されるそうした報告書やステートメントはIFRS適用の範囲外であることも明確にしている
(IAS第1号第13、14項)。
14
15
http://www.esma.europa.eu/system/files/esma-2014-175_cp_on_the_draft_guidelines_on_
apms.pdf, paragraph 13, p.10
In the recently issued Exposure Draft ED/2014/1 Disclosure Initiative (Proposed amendments to IAS
1), the IASB proposed to add requirements for how an entity should present subtotals in the
statement(s) of profit or loss and other comprehensive income and the statement of financial position.
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
13
3. 状況に応じてカスタマイズされた開示
財務諸表で提供される情報は一般的な決まり文句であり、利用者にとって付加価値がほとんどな
い、あるいはまったくないことも多い。決まり文句での開示では財務諸表へ付加価値を与えること
ができないだけでなく、企業固有の情報から注意を逸らしてしまう可能性があるので、財務諸表の
全体的な透明性を低下させることになる。
現在の実務の分析に基づくと、重要な会計方針の開示と見積りの不確実性の要因の開示の2点
は、情報をどのように状況に即して開示すべきかについての可能性を考える際に特に考慮すべき
分野である。
3.1 重要な会計方針
重要な会計方針を開示する意図は、利用者が測定の基礎及び財務諸表を作成する際に適用した
方針を理解できるようにすることにある。こうした情報がなければ、利用者は財務諸表を基礎にし
た十分な情報に基づく決定を行うことはできない。財務諸表に織り込まれる財政状態と業績は、適
用される方針に左右されるからである。たとえばIAS第16号の再評価モデルを適用している企業
の財務諸表で表示される財政状態は、原価モデルを採用している企業の財政状態と比べるとその
情報は異なる。
IAS第1号第119項は、「経営者は、その開示が、取引、その他の事象及び状況が業績や財政状
態の報告にどのように反映されているのかを利用者が理解するのに役立つかどうかを検討する」
と説明している。そうした評価を行うとき、企業は一般的には、財務諸表に適用されることのない会
計方針についての情報は含めるべきではない。適用されることのない会計方針は、財務諸表利用
者の理解にとって目的適合的ではない。さらに重要なこととして、そうした適用されない方針を含め
ることは、取引(又は適用されていない方針にとって目的適合性の高い事象又は状況)が発生して
いない場合に、発生したことを示唆するか、単に関連性のない無駄な情報を提供することになる、
あるいはその両者の組み合わせになることもあり、利用者を混乱させることとなる。
状況に応じてカスタマイズされた開示は、適用されていない会計方針は開示すべきでないことを示
唆する。さらに、適用されている会計方針の開示は、関連する規定を単に繰り返すだけ以上のもの
であるべきであり、企業固有の開示となるべきである。たとえば、IAS第18号第14項の要件が充
足されたときに商品の販売に関する収益が認識されるとする開示は、それ単独でみれば一般的な
決まり文句型の開示のようにみえる。しかし、企業がたとえば、所有に関する重要な経済価値とリ
スクが買手にどのように移転されたかの情報と合わせて、この情報を提供するなら、利用者には
有用かつ企業の状況に応じた情報が提供されることになる。
3.2 見積りの不確実性の要因
利用者はIFRS財務諸表に反映された見積りの不確実性について懸念を示すことが多い。IFRSで
は企業は財務諸表を作成する際、将来に関する仮定を決定する上で最良の判断に依拠することを
要求しているからである。利用者に対して不確実性についての十分な情報が提供されない限り、
利用者が財務諸表を基礎とした情報に基づく決定を的確に行える可能性が少なくなる。
企業はIAS第1号第125項に従い、将来に関して行う仮定及び見積りの不確実性の他の主要な要
因のうち、翌事業年度の財務諸表において資産及び負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じ
させるリスクがあるものに関する情報を開示しなければならない。
見積りの不確実性の要因の開示は利用者の意思決定に有用な情報になるが、それが十分に企業
固有なものとなっておらず、及び(又は)企業が、予測可能な将来期間(IAS第1号第125項では翌
事業年度)内に重要な修正をもたらす著しいリスクを伴うものを目立たせることなく、あらゆる見積
りの不確実性の要因を列挙するだけでは、開示の有用性は著しく損なわれることとなる。実際に多
くの企業が開示規定の様式に従っているが、その内容が実質的なものでなければ、目的適合性の
高い企業固有の情報を利用者に提供することにはならず、事実上財務諸表を煩雑なものにしてし
まう。たとえば、単に10から15もの見積もりの不確実性の要因を列挙し、企業にとってその中のど
れがより重要なのかに関する洞察を提供しないということは一般的にみられるため、利用者はそ
の点を見逃さないよう特に注意する必要がある。
14
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
4. 重要性
重要性の概念は、IFRSに従って財務諸表を作成する上での鍵となる。それはどの情報が目的適
合的であると考えられ、したがって財務諸表において表示されるべきかに影響するため、投資者
及びその他の財務諸表利用者にとって特に重要となる。重要性の概念の適用には、相当な判断
が要求されるが、そうした判断は本質的には主観的なものとなる。IASBは現在、重要性の概念の
適用に関して限られた範囲でしかガイダンスを提供していない。
4.1 IFRSの定義と規定
IFRSは重要性に関し以下のように定義している。
「情報は、その脱漏又は誤表示により、特定の報告企業に関する財務情報に基づいて利用
者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性がある。言い換えれば、重要
性は目的適合性の企業固有の一側面であり、個々の企業の財務報告書の文脈において、
その情報が関連する項目の性質又は大きさ(又はその両方)に基づくものである。したがっ
て、審議会は重要性についての統一的な量的閾値を明示することや、特定の状況において
何が重要性があるものとなり得るかを前もって決定することはできない」(概念フレームワー
ク Q11)。
「項目の脱漏又は誤表示は、利用者が財務諸表を基礎として行う経済的意思決定に、単独
で又は総体として影響を与える場合には重要性がある。重要性は、それを取り巻く状況にお
いて判断される脱漏や誤表示の大きさや性質により決定される。当該項目の大きさや性質、
又はその両方が重要性を判断する要因となり得る」(IAS1.7)
IFRSはまた、表示と開示規定に関する重要性の概念の適用について以下のように述べている。
「企業は、類似した項目の重要性のある分類のそれぞれを財務諸表上で区別して表示しなけ
ればならない。企業は、重要性がない場合を除き、性質又は機能が異質な項目を区別して表
示しなければならない」(IAS1.29)
「表示項目が単独で重要性がない場合には、当該財務諸表の本体又は注記において他の項
目と合算される。当該財務諸表での区分表示を要するほどの重要性がない項目であっても、
注記での区分表示が必要となる場合がある」(IAS1.30)
「情報に重要性がない場合には、企業は、IFRSで要求されている具体的な開示を要しない」
(IAS1.31)
企業は伝統的に、財務諸表の作成において重要な情報が漏れていないかを重点的に確認する。
現在のIFRSは、財務諸表に重要性のない情報を織り込むことを明確に禁止している訳ではない。
したがって、一部の監査人、規制当局及び法律顧問によって推奨される開示チェックリスト・アプロ
ーチと相まって、開示の過重負担の問題が生じる原因になっている可能性がある。
IAS第1号を限定的な範囲で改訂するプロジェクトでは、IASBはあまりにも多くの目的適合性も重
要性もない情報を含むことによって、財務諸表の有用な情報を曖昧にしてしまうという点を強調す
るよう改訂した16。しかし、重要性のない情報の開示は禁止しなかった。17
我々は、財務諸表に目的適合性のない又は重要性のない情報が含まれると有用な情報が曖昧に
なってしまうという点についてはIASBと同意見である。また財務諸表に「無駄」が含まれることは、
IASBのフレームワークにその概要が記されている一般目的財務報告の目的に反する、と考えて
いる。しかし、重要性に関する評価は明確な基準を定めてなされるものではない。したがって、ど
の情報を含めるべきか、同じように重要性がないという理由でどの情報を除外すべきかについて、
作成者は最良の判断を行なわなければならない。
16
17
Paragraph 30A of Exposure Draft ED/2014/1 Disclosure Initiative (Proposed amendments to IAS 1)
Paragraph BC6 of Exposure Draft ED/2014/1 Disclosure Initiative (Proposed amendments to IAS 1)
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
15
4.2 重要性の評価で考慮すべき情報の特性18
我々は、単純に絶対的な金額又は相対的な金額との比較で重要性が評価できるものではないこと
を常に念頭に置いておくことが重要である。概念フレームワークのQC11は、「重要性は目的適合
性の企業固有の一側面であり、個々の企業の財務報告書の文脈においてその情報が関連する項
目の性質若しくは大きさ(又はその両方)に基づくものである」と述べている。
IAS第1号第7項はまた、
「重要性は、それを取り巻く状況において判断される脱漏や誤表示の大きさや性質により決
定される」と述べている。
したがって、質的要因と量的要因の双方が、すべての重要性の決定に関連している。数値情報と
いうより、主に言葉で何かを表す説明を含む開示に特に目的適合性が高く、全体として質的要因
のみで重要性が決定される場合もある。関連する金額のみに基づいて重要性の評価を行うことは、
開示に関しては一般的に適切でない。
ある項目の重要性の質的分析は、単純に財務諸表本表の期間利益や総資産などとの定量的な比
較で決められるべきものではない。重要性を判断する場合に、当該項目が含まれる財務諸表本表
の個々の表示科目も評価すべきである。加えてその他の関連する事実及び状況も考慮する必要
がある。たとえば、有形固定資産の事後的な支出が正しく資産計上されるかどうかの調査におい
て、問題となる金額は貸借対照表における有形固定資産残高の総額と比べたら、その割合は相対
的に小さくなるかもしれないが、当期利益に著しい影響を及ぼすことがある。さらに、そうした比較
は、個々の表示科目の残高を開示する際にはさらに分解した方がよいかを決定する際にも目的適
合的となる。
項目の性質とそれを取り巻く状況は同じではなく、各企業は自社における特定の状況及び財務諸
表に応じて、当該項目について評価を行わなければならない。通常、重要性の判断は特に慎重に
行うべきであり、したがって設定された重要性の閾値を低くする可能性のある一般的な取引及び結
果の例には、以下を含む。
•
•
•
•
関連当事者との取引
不正及び法律への不順守のようにセンシティブな事象
異常又は非経常的な取引及び残高
会計上の誤謬
4.3 情報の重要性VS項目の重要性
IAS第1号第31項は、「情報に重要性がない場合には、企業は、IFRSで要求されている具体的な
開示を要しない(強調)」と述べている。IAS第1号とIAS第8号の重要性の定義では、必要な注記の
脱漏は、個々に評価した上で当該脱漏が重要かどうかを判断しなければならない。それは財務諸
表における重要な表示項目に関する開示の脱漏は、それ自体として常に重要であることを意味す
るものではない。
我々は、単に財務諸表の重要な表示項目に関連するというだけで要求される注記の脱漏がすべ
て重要な誤表示であるとみなすなら、IAS第1号第31項が求めるIFRSの具体的な開示規定に対し
て行う判断の適用可能性を減らすものであると考えている。
開示の重要性を評価する上では、ある基準で要求されるすべての開示というよりも、開示規定の
個々の要素及び当該要素によって提供する情報の目的適合性を考慮すべきである。したがって、
開示規定が表示される重要な項目に関連したとしても、IFRSで開示が要求される情報に重要性が
ない場合には開示されないことになる。
18重要性に関する本論点その他の検討事項は、ESMA
のコンサルテーション・ペーパー「財務報告における重要性に関
する留意点」(2011 年 11 月公表)及び欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)のディスカッション・ペーパー「注記の開
示フレームワークに向けて」(第 4 章:規定―重要性―の適用)(2012 年 7 月公表)で説明されている。
16
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
IASBが委託したプロジェクトに関連する「Losing the excess baggage – reducing disclosures
in financial statements to what’s important」という2011年6月にスコットランド勅許会計士協
会(NZCAS)によって公表された報告書の中でも、同じような見解がとられている。19
4.4 重要性概念の適用を促すための方法
ここからは、目的適合的でなく重要性のない情報を財務諸表から除外するために考えられる方法
を説明する。
重要性のない開示
財務諸表本表の表示項目に関しては、通常、重要性についての検討はより容易である。企業がひ
とたび重要な表示項目を識別すると、すぐに上述のとおり、関係する開示規定はすべて重要であ
ると即座に結論付けてしまう誤りをよく起こす。たとえば、企業が重要な年金負債を有しているとし
ても、それは自動的に、当該負債について関連するすべての開示規定が重要になることを示唆す
るものではない。それより、企業は個々の開示規定に関してそれぞれ重要性の評価を行う必要が
ある。重要な表示項目に関連して、財務諸表に無意識に取り込まれる傾向にあるその他の開示例
としては、株式報酬取引、有形固定資産及び無形資産の繰越しに関する情報などがある。
IFRSで要求される数多くの開示は、財務諸表項目に直接関連していない場合でも、報告企業の財
務諸表の全体を評価する際には重要となる。このような開示項目の例として、IFRS第8号「事業セ
グメント」で要求される事業セグメント、IAS第24号で要求される関連当事者の開示やIFRS第7号
で要求されるリスク開示などが挙げられる20。注記に適用する重要性を判断するときには、表示項
目と同じ要因を検討すべきである。すなわち、補足情報を提供する注記の脱漏や誤表示は、関連
する金額だけではなく、それを取り巻く事実や状況を検討することで、評価される必要があると
我々は考えている。
関連性のない会計方針
財務諸表を理解するのに重要でない、あるいは関連性のない会計方針は、上記2.2と3.1
(IAS1.117)で触れているように開示する必要がない。IAS第1号第119項は、いずれの会計方針
を開示すべきかを決定するにあたり、経営者は、開示について利用者が取引その他の事象や状
況が報告された財務業績と財政状態にどのように反映されているかを理解するのに資するかどう
かについて検討すべきであると述べている。開示が必要とされない会計方針の例には、以下のよ
うなものがある。
•
•
企業が保有していない金融商品に関する会計方針
企業の当期及び比較期間のいずれにも非継続事業が存在していない場合の非継続事業に関
する会計方針
会計方針が重要であるかどうかを決定するときの要因として、以下のような事項がある。
•
•
•
•
関連する合計金額の大きさ
•
IFRSには特に要求されていないが、IAS第8号に従って選択され適用される重要な会計方針
が存在するかどうか
•
前年度から会計方針の変更があるかどうか
19
20
企業の事業内容
IFRSに準拠する会計方針の選択が認められているかどうか
一部の基準で会計方針の開示を特別に要求しているかどうか(たとえばIAS第16号では、各
種類の有形固定資産の測定基礎を開示する必要がある)
http://icas.org.uk/excessbaggage/
The ESMA Consultation Paper - Consideration of materiality in financial reporting, p.13
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
17
例示又は他社の財務諸表の利用
作成者が犯しやすい一般的な過ちは、報告企業にとっての重要性又は関連性を検討することなく、
モデル財務諸表を用いてその中に示されるすべての開示を取り込んでしまうことである。モデル財
務諸表は通常、すべての可能性のあるシナリオが反映されるように作成されており、モデル財務
諸表に含まれているというだけで、重要でない又は関連性のない情報まで開示されないことを確
認するために、十分な注意を払わなければならない。
たとえば、新日本有限責任監査法人の刊行物「IFRS連結財務諸表記載例」(以下、モデル財務諸
表)に示される例示的な財務諸表は、幅広い状況と取引を取り込むように作成されており、モデル
財務諸表の目的適合性が向上するように、IFRSのすべての最低限の開示規定には準拠している
が、一般的にIAS第1号に定められる重要性の閾値については考慮していない。またモデル財務
諸表は架空の企業のものであるため、状況によっては重要性の評価は参考にならない。企業が
IFRSに従って財務諸表を作成する上でモデル財務諸表は有用であるが、あくまでも例示的な性格
のものであることを忘れないでいただきたい。
さらにモデル財務諸表に示される開示は決まり文句であることが多く、したがって企業の具体的な
状況に即して全体的に修正し作成する必要がある。
企業が業界の最善の実務を説明するために他社の財務諸表を参照する場合にも、同じようにその
内容を精査すべきである。同じ業界における他社の財務諸表が、どの情報を開示すべきかに関す
る決定を支援する上で洞察を与えることもあるが、重要性評価は企業固有のものであり、したがっ
て経営者は独自の判断をしなければならない。
監査人及び規制当局
監査人及び規制当局は、開示チェックリスト・アプローチを奨励しており、それが開示の過重負担
問題を悪化させていると批判されることが多い。
確かに監査人が監査を実施するとき、まず第一に焦点となるのが、企業がその財務諸表から重要
な情報を除外していないことを確認することである。しかし、企業は、財務諸表を無限定とするため
に、監査人がIFRSに定められるすべての開示を要求していると前提をおくべきでない。作成者は、
一定の情報が重要でない、又は関連性がないと結論付けるためには、開示の背景にある判断が
説明できなければならない。
同様に規制当局が重要性のない開示に関心を示すとは思われない。規制当局は、最低限の開示
規定が順守されていないとみなす場合には、企業に対し追加の情報を要求するであろう。その場
合、企業は重要性のない理由の説明やその他の根拠を説明し、なぜ開示しなかったのか、その正
当性を主張できなければならない。規制当局は、利用者にとって有用かつ意味のある情報を提供
する財務諸表に関心があり、そうした有用性に資することのない情報の開示については一般的に
奨励しないであろう。しかし、IFRSの重要性の閾値では判断できない、追加的な現地の規定が存
在する可能性にも留意することが重要である。
重要性の継続的評価
ある財務報告期間には重要であるかもしれないが、別の期間では重要とはならない、あるいはそ
の逆となる項目又は開示の存在を企業は常に念頭に置いていなければならない。ある期の注記
に新たな開示が行われると、翌期以降も同じ開示を引き継いでいく傾向がある。従前に開示されて
いた情報を削除するためには、内容を精査し企業として、なぜ継続して開示しないのかを説明する
よりも、開示を継続した方が簡単であると結論付ける可能性がある。一方で利用者は、報告期間
の間における情報の継続性を必要とする。他方、本セクションで強調しているように、注記におけ
る重要性のない情報はその質と有用性の低下につながる。
重要性は報告日時点の状況のみを参考に評価すべきではなく、報告期間全体を考慮すべきであ
る。企業が当期の業績をどのように生み出したかを利用者が理解できるようにするために、そうし
た情報は重要である。21
21
18
The EFRAG Discussion Paper - Towards a Disclosure Framework for the Notes, p.51
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
5. 代替様式の採用、状況に応じた開示及び重要性
の評価を行う上での課題
我々は、上記のセクション2-4で開示の過重負担を軽減するために異なるアプローチ探るべきであ
ると述べ、企業が財務諸表の透明性と効率性を改善する方法を識別することを強く奨励するが、そ
の一方で代替様式を採用してより広範囲で重要性の概念を適用することから生じる以下のような
潜在的な課題についても意識しなけれならない。
•
財務諸表に代替的な様式を採用するには、高度な判断が要求される可能性がある。すなわち、
ある人にとってはそれほど重要ではないように見えても、他の人にはより目的適合的であると
映る場合がある。
•
代替様式を採用することで企業間の比較可能性を損なった財務諸表となってしまう可能性が
ある。
•
代替様式を採用すると財務諸表の構成がチェックリストの構成と整合しないことがあり、その場
合、開示チェックリストの完了をより複雑なものにする可能性がある。
•
重要性は判断の問題であり、項目ごとに、そして長期的に慎重に検討しなければならない。
財務報告の目的は、企業の利害関係者の意思決定のための情報を提供することにある。意思決
定にとっての有用性を高める方法としては、利用者が企業の財政状態及び業績を判断する上での
主要な要因により簡単にアクセスすることができるような注記の構成を採用すること、企業の特定
の状況に見合うよう情報をカスタマイズすること、そしてIFRS上の重要性の概念に関する適用を改
善することを通じて財務諸表の無駄を省くことなどが挙げられる。最終的な目標は資本コストを下
げることで、上記で示された課題はあるものの、開示の有効性を改善するにはどうしたら良いか継
続的に検討していくことに価値がある。
6. まとめ
意思決定にとって最も有用となる情報に対して利用者の注意を引く上で、現在の開示実務は効果
的でないとの認識がある。本稿では、財務情報の構成やカスタマイズといった代替方法を説明し、
特に開示に関連して重要性の概念の適用を検討することによって、現行のIFRSの下で財務情報
をより効果的に伝える上で財務諸表を作成するための方法を考察している。
開示の過重負担の問題については、その存在を確認するための調査がほとんど行われてこなか
ったという意味で、認識すべき問題の1つとして強調されることが重要である。基準設定主体及び
作成者がこの問題の本質について更なる理解を促すために、さらなる調査が必要である。作成者
が財務諸表をより有用でかつ更なる透明性を有するものにしていこうとする中で、本稿が多少なり
でもお役に立てば幸いである。
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
19
付録A-開示の過重負担に関する現在の取り組み
多くの基準設定主体及び規制当局が現在、以下のような開示の過重負担に関するプロジェクトに
取り組んでいる。
基準設定主体/規制当局
プロジェクト
IASB
開示イニシアティブ(Disclosure Initiative)
FASB
開示フレームワーク
(Disclosure Framework)
英国財務報告評議会(FRC)
Louder than words
Cutting Clutter
Financial Reporting Lab
英国ビジネス・イノベーション・職業技能省
(BIS)
The future of narrative reporting
国際統合報告評議会(IIRC)
国際統合報告フレームワーク
( The International Integrated Reporting
Framework)
スコットランド勅許会計士協会(ICAS)とニュ
ージーランド勅許会計士協会(NZICA)の
「共同監視グループ」
Losing the Excess Baggage
欧州証券市場監督局(ESMA)
コンサルテーション・ペーパー
―財務報告における重要性の検討
( Consultation Paper - Consideration of
materiality in financial reporting)
フィードバック・ステートメント―財務報告におけ
る重要性の検討
(Feedback Statement - Considerations of
materiality in financial reportin)
20
欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
ディスカッション・ペーパー―注記の開示フレー
ム ワ ー ク に 向 け て ( Discussion-Paper Towards a Disclosure Framework for the
Notes)
オ―ストラリア会計基準審議会(AASB)
Rethinking the Path from an Objective of
Economic Decision Making to a Disclosure
and Presentation Framework
勅許財務アナリスト(CFA)協会
Financial Reporting Disclosures: Investor
Perspectives on Transparency, Trust, and
Volume
開示強化タスクフォース(EDTF)
Enhancing the risk disclosures of banks
国際監査・保証基準審議会(IAASB)
The Evolving Nature of Financial
Reporting: Disclosure and its Audit
Implications
英国及びウェールズ勅許会計士協会
(ICAEW)
Financial Reporting Disclosures: Market
and Regulatory Failures
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
付録B-財務諸表を構成するための代替的方法:考
慮事項、懸念及び課題の概要
提案されている解決案
考慮事項
財務諸表におけるナビゲ
ーションの改善
•
•
特定の定量的開示と合
わせた会計方針、判断、
見積り及び仮定の開示
•
•
•
懸念/課題
利用者は探している情報を容
易に識別し、財務諸表の注記
に容易にたどりつける
現行のIFRSの下で認められ
る
利用者は会計方針と特定の
定量的情報をより容易に結び
つけられる
作成者は関連性のない会計
方針を再検討する必要があ
る。
現在のIFRSの下で認められ
る
•
企業は将来に向けて一貫性
のある適用が確保されるよう
に、従前に適用された会計方
針すべてについて記録される
内部プロセスを維持する必要
がある。
強制されない方針又は新
しい方針のみの開示
•
•
財務諸表の分量が削減される
利用者はIFRSについて十分
な経験を有していることが見
込まれ、したがってIFRSで強
制適用となる方針に関する規
定を知っている。
•
現在、IAS第1号に従って適用
した重要な会計方針の要約を
開示しなければならない。
重要性に照らした注記
の順序
•
企業が重要と考える情報を
利用者に伝えることになるの
で、財務諸表にもう一つの特
性が加えられることにもな
る。
作成者に情報の目的適合性
について再考し、したがって
無駄を省くことを推奨するこ
ととなる
現在のIFRSの下で認められ
る
•
高度な判断が求められる。
重要性がないとある人が考
えるものであっても、他の人
にとってはより目的適合的で
ある可能性がある。
企業間の比較可能性を低下
させる可能性がある
重要性の水準が変わらない
かぎり、選択を行った順序は
通常、すべての期間を通じて
首尾一貫して適用する必要
がある。
•
•
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
•
•
21
提案されている解決案
考慮事項
懸念/課題
性質による開示のグルー
プ化
•
利用者の財務諸表のナビゲ
ーションに役立つように注記を
セクションごとに構成する。た
とえば、企業及びグループ情
報、見積りの不確実性に関す
る開示、リスク・ベースの開示
など、企業の開示をグループ
化する
現行のIFRSの下で認められ
る
•
•
•
重要性に基づく順序及び
性質によるグループ化の
混合
•
上記の2つの混合
•
上記の2つの混合
「 要 旨 」 又 は 「 主要な 進
展」に関する注記の表示
•
「要旨」又は「主要な進展」に
関する注記により当期の最も
重要な事象が利用者へ伝えら
れる
現在のIFRSの下で認められ
る
•
そのような要約は、過重負担
の問題を軽減するものではな
く、無駄を増やすことになると
考える人もいる
IFRS第7号は、一定の情報に
ついて財務諸表外で表示する
ことを認めている。
会計方針の開示を会社のウェ
ブサイトに移すことができるか
どうかを検討している企業も
ある。
当該アプローチにより財務諸
表の分量の削減が可能とな
り、より効果的なコミュニケー
ションにつながる可能性があ
る。
•
IFRSでは、企業は同じ公表文
書の中で財務諸表を明確に識
別し、他の情報と区別すること
を要求している。
•
しかし、IFRS第7号は一定の
情報について財務諸表外で開
示することを認めているが、当
該情報は、財務諸表において
適切な相互参照が行われて
いなければならない。
•
期中要約財務諸表では、一定
の情報について、財務諸表で
相互参照が行われているかぎ
り、財務諸表外で開示すること
ができる。
•
経営者報告書の情報をIFRS
財務諸表における実際の数
値に調整することが容易にな
るため、財務諸表の利用者
にとっては有用である可能性
がある
•
IFRS情報をAPMと一緒にす
ることにより、情報を明確にす
るよりも利用者を潜在的に混
乱させることになるので、この
アプローチでは実質的に無駄
が増える。
•
開示の過重負担の問題を飛
び越えたものであるが、この
アプローチはより効果的なコ
ミュニケーションの達成に役
立つと考える人もいる。
•
財務諸表外における一定
の開示の表示
•
•
•
代替的な業績測定値
(APM)を財務諸表に組
み込む
22
•
高度な判断が求められる
企業間の比較可能性を低下さ
せる可能性がある
選択した順序は通常、すべて
の期間を通じて首尾一貫して
適用する必要がある。
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
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EY| Assurance | Tax| Transactions | Advisory
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EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよび
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世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらしま
す。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に
応えるチームを率いるリーダーを生み出していきま
す。そうすることで、構成員、クライアント、そして地域
社会のために、より良い社会の構築に貢献します。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドの
グローバル・ネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバ
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会計をはるかに超え、財務報告の方法だけでなく、
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ちは、クライアントによりよいサービスを提供するた
め、世界的なリソースであるEYの構成員とナレッジ
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セクターでの経験、関連する主題に精通したナレッ
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「開示の有効性の改善に向けて(Improving disclosure effectiveness)」
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