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「埴輪」がつなぐ「あいたいがっこう」 ~学校・家庭・地域連携で進める魅力的な学校作りと校長の役割~ 天理市立櫟本小学校 校長 井澤徳子 1 主題設定の理由 「一人の子どもを育てるには、一つの村が必要だ」(アフリカの諺) 人間は一人では生きられない。地域社会の中で育つ。変化の激しい社会において、子ども達に生 きる力、主体的に学び考え、協力して問題を解決する力、表現力、豊かな人間性、たくましい体を 育成することは学校に課せられた大きな課題である。自尊感情や主体性を大切にし、どの子も心か ら学校が楽しいと言える学校、それは、いじめや不登校を未然に防ぐ学校作りにつながるだろう。 本研究では、地域のつながりを大切にした魅力的な学校作りを通して、力強く生きる力を持った 子どもを育てる学校経営のあり方、校長の役割と指導性を考察したいと考える。 2 学校の概要・児童の実態 本校は創立 141 年の歴史と伝統のある学校である。校区は天理市北部に位置し、古代から交通の 要衝地として発展してきた。近隣の古墳からは多数の埴輪が出土し、校庭からは埴輪の工房跡も発 見されている。本校は「埴輪の学校」とも呼ばれ、埴輪を通した取組を PTA・地域と共に行ってい る。今年度は地域コーディネーターも活用し、より地域に開かれた活動に取り組んでいる。 児童数は 342 名。全 18 学級 (特支 4 学級含む)。子どもは明るく素直である。しかし、近年、 経済的な課題や両親の離婚など困難な状況の中で、子育て不安など関係機関との連携や教育相談、 支援の必要性が高まっている。子どもたちは、学力面での課題、生活習慣の乱れ、不登校傾向、人 とのかかわりが苦手でコミュニケーション力の不足等の課題もある。 3 研究の方法 ○ 魅力的な学校作りを進めるために体験活動の充実や学力の向上を進める。 本校マスコットキャラクター 「はにワン」 ○ 学校評価・意識調査等を活かした学校経営の改善を図る。 4 学校経営方針 【教育目標】 櫟本の歴史と自然に学び、感謝の心と笑顔を忘れず、 誇りを持って逞しく生きていく児童を育成する。 めざす学校像・・・「あい・たい・がっ・こう」 愛 力 ・ 体 力 ・ 学 力 めざす子ども像・・・めざせ! よ 5 よく考え自ら学ぶ子ども ・ 考 力 櫟本小学校! 櫟小の「よいこ」 い 命を大切にする子 こ 根気強く頑張るたくましい子 研究概要 校長としての教育ビジョンを「櫟小教育グランド 校長の役割 デザイン」「学力向上推進プラン」(別紙)に示し、イ P メージを共有化し、組織力を活かして取組を進めた。 H21 年度より奈良教育大学教職大学院や県立添上 ナーシップ事業を受けている。ばらばらのこれらの 教育改革・教職員の意識改革 地域と学校と一体となった取組の充実 C 学校評価 策研究所の「魅力ある学校作り調査研究事業」(四 つ葉プロジェクト)、県教育委員会指定の地域パート 学校・地域・児童の実態把握 課題を明確にする 学力向上・かかわり合う力の向上 D 高等学校との連携協力、北中学校区の保・幼・中学 校とのブロック連携、H24 年度からは、国立教育政 教育ビジョンを示す・リーダーシップ A 大好き櫟本・あいたいがっこう 「生きる力」 事業を「楽しい魅力的な学校作り」にリンクさせた。 地域コーディネーターの活用、学校評価や意識調査を通し PDCA サイクルの改善を図った。 6 課題・目標・取組の内容 実態の把握 H24 年度の学校評価結果(一部)は次の通りである。(数字%は肯定的な評価) 評価項目 (自己・保護者・外部) 教職員 学校は教育目標などを分かりやすく伝えている。 子どもは学校を楽しいと思っている。 わかりやすく楽しい授業。 地域との連携 90% 85% 80% 93% 保護者 88% 74% 73% 85% 児童 83% 65% 80% 外部 98% 93% 81% 95% H24 年度の学校評価等から、児童の課題を把握し、目標、重点項目を決定した。北中校区(4 つの小中学校)でも共通の課題、目標を持ち取り組むことを確認しあった。 ・学習習慣等の問題により基礎学力定着が不十分。生活課題や主体性等の弱さか 課題 ら集団への適応力や人間関係づくりに課題がある。 ・互いを認め合う集団を育成し、児童一人一人が活躍し学びへの意欲を培う魅力 ある学校づくりを推進する。 ① 学校・家庭・地域の連携を進めて信頼される学校(あいたいがっこう)。 取組 ② 主体性を育む体験活動の充実。 ③ 分かりやすい授業の改善で学力の向上。 教育目標や活動内容は、校長だより「あいたいがっこう」やホームページ等で積極的に発信。 目標 7 取組の実際 (1)学校・家庭・地域とつながる活動 「埴輪祭り」 「大好き櫟本」をテーマに、生活科・総合・社会科などの教育課程に位置づけ、自分達の住 む櫟本を知り、人々とふれあい交流しながら、櫟本の自然・歴史・文化を学んでいる。 「埴輪祭り」は、櫟本の歴史や文化を感じ地域を愛する子どもを育てようと、学校が地域一 体となって取り組む、地域おこしの行事でもある。夏の「灯火会」では、児童が制作した埴 輪に地域の方とともに火を灯す。グランドが幻想的な埴輪の灯りでゆらめく。多くの人との 出会いやふれあいの時間が流れる。冬の「埴輪祭り」では、埴輪の火入れ式の力強い炎に大 きな歓声があがる。地域ウォークラリーでは地域の古墳や神社旧跡など6年生が調べた学習 を、各ポイントで下学年の子どもに説明する。温かい豚汁などもふるまわれる。 埴輪を核にしながら、地域を知り、人と出会い自然にふれ、地域の温かさを実感する魅力 的な活動となっている。 埴輪を並べ灯火会の準備 幻想的な埴輪の灯かり 埴輪祭り:火入れ式 地域ウォークラリーで 6 年が説明。地域の 方が安全ボランティアをして下さる 子ども和太鼓 (2)主体性を育む体験活動 ○人権を大切にした活動 「なかま集会」や「ふれあい広場」 児童なかま委員会の「いじめアンケート」をもとに「いじめをな くす集会」を行い、いじめをなくす標語を書いたり、特別支援学級 児童 Y 君の「お母さんのお話」を聞き、共に生きる大切さを考えさ せたりした。また、ふれあい広場での「和太鼓活動」は埴輪祭り等 にも発表し、地域・保護者から大変好評である。子ども達の自信につながっている。 ○ニッポンバラタナゴの保護活動 環境省の絶滅危惧種に指定されているニッポンバラタナゴを近畿 大学の協力を得て、6年生を中心に保全活動に取り組んでいる。ニ ッポンバラタナゴの生態と現状を知り、環境保全の大切さ、命、共 生の大切さを学んでいる。 (3) ニッポンバラタナゴの放流式 自然観察池で保全活動 学力向上の取組 学習の基盤作りとして「学習10のきまり」や「話し方名人」「聞き方名人」のパネルを 作り、全学年で徹底させた。また、研究授業や小中学校での相互授業公開を進め、学び合い の学習、分かりやすい授業の改善を図っている。 地域コーディネーターの協力で地産地消の給食や家庭科・社会科などの地域学習を進めた。 8 校長の役割と指導性 校長のリーダーシップとして、様々な場面で4つの視点が大切である。 示す 【構成力】 ビジョン 価値基準 仕組む 【組織力】 校務分掌組織 教育企画部 OJT・研修の充実 関わる 【調整力】 高める 【実践力】 教師力・授業力 児童・教師と関わる 保護者と関わる 地域と関わる 共働意識 9 成果と課題 【成果】学校評価・意識調査 (年2回)等の結果から、学校が楽しい、学校の行事に積極的に参加す る、と答えた割合が増えてきた。授業の相互参観や大学との連携協力等で分りやすい授業作りが 進み、授業が楽しいと答える割合も増えた。教師が共通意識を持って取り組んだことにより、行 事に積極的に参加すると答える割合も増え、魅力的な学校作りが進んでいると考えられる。 1年「学校は楽しいですか」11P アップ はい 83 1学期 大 変楽し い 17 94 2学期 4年「授業は楽しいですか」7P アップ 5年「学校は楽しいですか」5P アップ いいえ 楽 しい 6 あ まり楽 しくな い 61 1 学期 66 2 学期 楽 しくな い 30 27 7 1 70 <児童のアンケートより> ・私はずっと埴輪祭りを楽しみにしていました。学校がたくさんの人の笑顔であふれていました。 ・僕は、地域にはこんなにもすばらしい歴史があることを知って誇りに思います。 学校評価結果の推移は次の通りである。(一部) (数字%は肯定的な評価) 教職員 H24 教職員 H25 保護者 H24 保護者 H25 児童 H24 児童 H25 子どもは学校を楽しいと思っている。 90% 85% 93% 90% 88% 74% 90% 83% 83% わかりやすく楽しい授業の工夫がなされている。 学校は地域と連携して教育を進めている。 80% 93% 85% 98% 73% 85% 74% 93% 65% 80% 評価項目 (自己・保護者・外部) 学校は教育目標などを分かりやすく伝えている。 A 大変よい ほぼ B 0% 5 6 41 規範意識等の指導 26 9授業参観の回数など 28 49 15 2 24 2 0 19 15 0 2 17 51 0 7 64 57 2 12 38 23 6 26 49 43 13 0 2 60 40 12朝の立哨等への協力 14PTA活動への協力 36 38 32 11緊急時の家庭への連絡 13家庭での教育 17 72 7学校行事への積極的な参加 2 0 38 34 安全対策 0 4 0 21 45 学校が楽しい 10 100% 47 9 意欲的な学習・活動 8 80% 40 19 3いじめのない学校作り 4学力向上の取組 60% 75 地域連携 外部 H25 100% 95% 68% 95% 81% 95% 85% 100% ほとんどよくない D 40% 54 1 教育方針の開示 2 あまり C 20% 92% 外部 H24 98% 93% 0 9 22 0 4 <保護者・外部の評価結果より> 特に評価の高いのは「学校の地域連携」であっ た。続いて「子どもの学校行事への積極的な参加」 「教育方針や教育活動の開示」も高い。 PTA や地域コーディネーターが学校と地域をつ なぐ大きな役割を果たしていただいた。 「教育方針の開示」はさらに高くなった。四つ葉 プロジェクトの周知も広がり、学校への応援団が 増えた。 しかし、「意欲的な学習活動への取組」は低い 評価であった。さらに学力向上の取組が必要であ る。 【課題】学力向上に向けてはまだ厳しい課題もある。基礎基本の定着や小中等の連携やわかりや すい授業作り、学習規範の定着に向けて、さらに、児童とのつながり、家庭との連携を進めて いく必要がある。 10 おわりに 子どもにつけたい4つの力、 「愛力・体力・学力・考力(あいたいがっこう)」は、会いたい 友達、会いたい先生、会いたい校長のいる「会いたい学校」をかけた「合い(愛)言葉」なの である。ふるさとを誇り、子どもも教師も親も地域も輝く、魅力的な学校をめざし、小中連携 をますます進め、学校評価や意識調査を経時的に活かしながら、今後も校長のマネージメント 能力とリーダーシップを発揮しながら学校運営を進めていきたい。 櫟本小学校 教育グランドデザイン あいたいがっこう 「あいたいがっこう」 四つの力 子どもを育てるとき 四つの力をつけていきたい まず、愛力 人を愛する力を育てないで どんな人間にしようというのだ 次に、体力 何かをするためには それを実現するための 体力が要る そして、学力 暗記力ではない 自ら学べる力が学力だ 最後に、考力 考える力なしに 人生でぶつかる数々の問題に 立ち向かうことはできない この四つの力を あいたいがっこうと呼んでいる 櫟本小学校 学力向上プラン 体力向上プラニングシート 学校評価(児童)(年2回実施) 4年学校評価 集計結果(6 月・11 月) 学校・家庭・地域と連携した体験活動 月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 (H25年度 主な活動計画) 主な行事と活動 挨拶運動(毎月 15 日)・1年生を迎える会 遠足・保幼との「お楽しみ交流会」(1 年)添上高校と交流・町探検(2・3 年) 運動会・親善体育大会(6 年)・田植え・はにわ作り(5 年)・図書館見学(3 年)・なかま集会 古墳探検(6 年)・みんなで歌おう会 邦楽ワークショップ(5・6 年) ・二階堂養護学校と交流(3 年)・灯火会 平和登校・親子奉仕作業 野外活動(5 年) 稲刈り(5 年)・幼との交流(1 年)・おもちゃランド(2 年)・邦楽コンサート・遠足 福寿荘との交流(3 年) ・北中オープンスクール(6 年) ・なかま集会・芸術鑑賞会・マラソン大会 お弁当作り(6 年)・冬の大集会 「琴・尺八教室」(6年)・保・幼との「たこあげ交流会」(1年) はにわ祭り・茶道教室(6 年) 6年生を送る会 学習規律の徹底「学習10のきまり」 はにワンも応援、稲刈り 小中連携「四つ葉プロジェクト」 「チーム櫟本!」 櫟小の元気な教職員 参考文献 ・「地域とともにある学校づくりと実効性の高い学校評価の推進について(報告)」(文部科学省) ・「学校を改革する――学びの共同体の構想と実践」 佐藤学著 (岩波ブックレット) ・「学校が変える 地域が変わる―相互参画による学校・家庭・地域連携の進め方」 佐藤晴雄著 (教育出版) ・「日本で一番いい学校 ―地域連携のイノベーション」 金子 郁容著 (岩波書店)