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Master's Thesis / 修士論文
地域と向き合う商業教育の創造 : 地域の教
材化と起業家教育
山本, 政己
三重大学, 2014.
三重大学大学院 教育学研究科 教育科学専攻 人文・社会系領域
http://hdl.handle.net/10076/14054
修
士
論
文
地域と向き合う商業教育の創造
- 地域の教材化と起業家教育 -
三重大学大学院 教育学研究科
教育科学専攻 人文・社会系領域
山本政己
目
次
は じ め に
1
第1章 商業教育の現状と課題
2
第1節 地域社会の衰退と商業教育
2
第2節 新学習指導要領と商業教育
4
第3節 地域社会から離れた商業教育
5
第4節 検定教育の限界
8
第2章 地域と向き合ってきた教育
11
第1節 地域教育の先行研究
11
第2節 地域学習で学校が変った - 塚田忠雄の場合-
13
第3節 村を育てる学力
14
- 東井義雄の場合-
第4節 地域と向き合う小・中学校教育
第3章 課題研究「四日市学」
15
19
第1節 がんばれ商店街から四日市学へ
19
第2節 地域社会に高校生の出番を
23
第3節 課題研究「四日市学」卒業生意識調査の概要
26
第4節 卒業生意識調査の分析
28
第4章 「四日市学」から見えたもの
32
第1節 高校生の活動が地域を励ます
32
第2節 高校生もまちづくり-市議会との交流-
33
第3節 研究成果の発信
35
第4節 商業教育の新たな可能性
36
第5章 起業家教育を取り入れた商業教育の創造
38
第1節 起業家教育の現状
38
第2節 地域と向き合う起業家教育の構想
42
第3節 研究授業「起業家教育と商品開発」
46
第4節 地域と向き合う授業事例
53
第5節 新科目「商品開発」
55
お わ り に
57
参考文献および参考資料
58
謝
59
辞
資料編
はじめに
賃金が親の家業より高給となれば、継がせるより工場勤めを願うのは当然である。わが国の産
業構造の変化は、高校生の進路選択に大きく影響してきた。結果、地域から若者の姿が消えた。
ところが幸せを掴むはずの都会も変わった。若者の低賃金・過密労働の総称であるブラック企業
が今、話題になっている。また希望を叶えた若者にとっても、グローバル企業を中心に成果主義
がすすみ、未来は決して明るいものではない。
日本経済は今、大きな曲がり角にいる。ソニー、シャープ、パナソニックが国際市場での優位
性を失い、経営の存続が懸念されている。またその影響は、地域経済にも及び、高校求人倍率ベ
スト3入りを誇った三重県においても、0.85(2013年7月末:三重労働局)と高度経済成長期か
らは、想像もできない状況となっている。成長神話が崩壊した今、地域経済の活性化を「大企業
の誘致で」は考え難い。新たな地域経済モデルが課題である。
高等学校学習指導要領解説・商業編の「改訂の趣旨」に「改善の具体的事項(教科横断的な事
項)三つの視点を基本とし、各教科を通して以下の横断的な改善を図る」として下記のように解
説している。
「 第一は、将来のスペシャリストの育成に必要な専門性の基礎・基本を ・・ 略 ・・ 第二は、将
来の地域産業を担う人材の育成という観点から、地域産業や地域社会との連携・交流を通じた
実践的教育、外部人材を活用した授業等を充実させ、実践力、コミュニケーション能力、社会
への適応能力等の育成を図るとともに、地域産業や地域社会への理解と貢献の意識を深めさせ
る。第三は、人間性豊かな職業人の育成という観点から、・・ 略 ・・ 規範意識、倫理観等を育成
する。」
高等学校学習指導要領解説・商業編(p.3)より抜粋
第二に提起されている「地域産業や地域社会との連携・交流」は、学校現場に問題意識の喚起
と教科教育の再検討を迫るものである。旧改訂では「国際化・情報化への対応」が謳われたが、
現場の教職員に危機感や緊張感はなかった。今次改訂にある「地域産業」「地域社会」への貢献
の提起は、文部科学省においても地域が看過できない状況との認識によるものである。林業は、
重大な岐路にある。「今、切り出せば宝の山に、この機を失するとゴミの山」、林業だけでなく
地域経済・地域社会にとっても、転換を図るラストチャンスだと聞こえる。
本論は、地域経済の再生を学校教育の立場から地域教材と起業家教育1の観点で論じるもので
ある。論文構成は、① 商業教育の現状と課題 ② 地域と向き合ってきた教育 ③ 課題研究「四
日市学」④「四日市学」で見えたもの ⑤ 起業家教育を取り入れた商業教育の創造、である。と
くに②では、東井義雄「地域を育てる学力」、塚田忠雄「地域に根ざす教育」など、先人の偉大
な研究に出会うことができた。また③では、自らの7年間の課題研究「四日市学」を卒業生意識
調査に基づいて論じている。最終章である⑤では、新教科「商品開発」に地域教材を取り入れる
ことで、地域経済の活性化につながる起業家教育の可能性について述べている。
研究目的は、商業教育の地域経済に果たすべき役割とは何か、商業教育に起業家教育(商品開
発)をどのように位置づけるべきか、地域学の教育学的意義 、の3点を明らかにすることであ
る。研究の方法としては、先行研究に学ぶとともに、卒業生意識調査を実施した。起業家教育に
ついては、アメリカの教科書の考察と2013年2月26日の研究授業「商品開発とコト」の事後アン
ケートの分析である。起業家教育への広がりと可能性を明らかにできればと思う。
1 商品やサービスを作り出す企業家の養成、人々に賃金と雇用の機会を提供する「資本主義社会の原動力」
(「起業の教科書」
より)
- 1 -
第1章
商業教育の現状と課題
人口減少期を迎え、少子化対策が喫緊の課題である。地方自治体では、転住者への住宅の斡旋
や補助金、子ども医療費の無償化などを実施している。平成の大合併以降、過疎化や限界集落の
ニュースは少なくなったが、問題は山積している。全国各地で見られる光景であり日常化したた
め、ニュースにならないというのが実態であろう。
三重県においても高等学校の閉校が南伊勢・東紀州・伊賀地区で相次いだ。いずれも農業・林
業・漁業が盛んな、天然資源に恵まれた地域である。また、全国的に知られた観光地でもある。
しかし毎年、当たり前のように生徒たちは、都市へと旅立っていく。
今、高校教育は人口流出の危機感を地域社会と共有すべきである。行政と連携した学校教育の
とりくみと役割が求められている。筆者の「商業高校の原点は、地域に根ざした、地域のための
学校であるべきだ」の思いは、今次改訂の高等学校学習指導要領解説・商業編によって確信に変
わった。本章では商業教育の現状から課題を明らかにする。
第1節 地域社会の衰退と地方行政
南北に伸びる三重県は、地域によって抱え
る課題は異なる。北部は、名古屋を中心とし
た中京経済圏に含まれることから、就職超氷
河期が全国紙の見出しを飾った年でも、求人
には恵まれた。
しかし東紀州・南伊勢・伊賀のそれぞれの
地区では、市外・県外に就職先を求めなけれ
ばならない実態がある。その困難な状況を示
すグラフが図①と図②である。熊野市と尾鷲
市は三重県の最南端、東紀州地区にある。図
①は、尾鷲市が全国に先駆けて高齢化社会を
迎えていることを示している。とくに年齢20
~24歳と25歳~29歳が全国と比べて大きく
落ち込んでいる。図②は、熊野市にある木本
高等学校の2011年度卒業生220名の進路状況
図①
2010 年度 尾鷲市の人口ピラミッド
筆者作成
である。地区外就職及び進学者は(内未定12名を含む)213名、7名を除く生徒たちが地域を離れ
ることを示す。
地域を担う若い世代
が地域を離れることを
余儀なくされてきたこ
とを示すものである。数
年して地元に戻るので
あれば問題はないが、グ
ラフ図①は、そうでない
図②
三重県立木本高等学校
ことを示している。
- 2 -
平成 23 年度進路状況 筆者作成
東紀州地区にある県立高等学校では、卒業式・入学式に市長が祝辞を述べ、生徒たちに地域の
期待を語ってきた。また科目「産業社会と人間」では、地域への誇りを育てることを目標に、学
校あげてとりくんできた。しかし、現状を変えるまでには至っていない。
三重県議会 平成24年10月 4日第2回定例会予算決算常任委員会教育警察分科会及び教育警察
常任委員会で小野副教育長は、藤根委員の質疑「紀南地域の高等学校活性化推進協議会の3回目
の会議での議論はどういう内容であったのか」に対して、資料①の答弁を行った。
資料①
統廃合へ傾斜する教育委員会の答弁
今後の紀南地域(熊野市以南)の活性化についてというテーマを中心に論議を願い、たたき台を
提示した。たたき台に至った経緯や、学級数の根拠に関わる補足資料を示しながら、地元の進学ニ
ーズに応えるための木本高校の必要な学級数や紀南高校のコミュニティ・スクールとしての活動を
評価した。1学年2学級規模の単独校としての位置付けについての説明では、できる限り2校存続
の意見が多く出ていたが、一方で、統合自体反対という意見や、活力あるうちに統合すべきという
意見もいただいた。できる限り2校存続の意見の中には、どうしても統合せざるを得ない学級数規
模になれば、やむを得ないという意見が主流であった。
*下線は筆者
出典:三重県 平成 24 年 10 月 4 日 第2回定例会予算決算常任委員会教育警察分科会報告書
2014.1.17 参照 http://www.pref.mie.lg.jp/GIKAI/contents/4317/player_bb1.htm より抜粋
教育行政の関心は、学級規模と生徒がどれだけ集まるかという点に傾斜していることが分かる。
「県立高等学校活性化というが、これまでの話しは縮小でしょう。活性化という題目に多くの人
は、期待を寄せる。教育長は正直に言うべきだ。縮小という必要はないが、再編でしょう・・」
は上記に紹介した分科会(平成24年10月4日第2回教育警察分科会[中継記録より])での奥野県
議の本音に迫る質疑である。真伏教育長は「・・大幅な中学校卒業者の減少があり、今のままで
は学校そのものの活力がなくなってしまうため、適正規模・適正配置をしていかなければならな
い。ただ単に数を減らすだけでなく、
新しい学科を作るとか、中身をしっかり見直すことにより、
一定の活力を付けたうえで、その地域の学校という存在意義を作っていかなければならない。数
を減らす部分と、活性化の部分は、同時に行う。残った学校や縮小していく学校については、学
校としての使命をしっかり果たせるように、あえて活性化と言っている」と答弁を行った。「統
廃合と地域活性化を同時に行う」としているものの、「廃校に」軸足があることが過去の事例か
ら推察できる。県央に国道42号線が南北に縦断する南勢地区がある。その沿線に宮川高校と長島
高校があったが廃校となり、現在、80キロ超の区間に高校が存在していない。林業と漁業で有名
な地域であるだけに、過去の産業モデル「大企業誘致」でしか発想しない施策では、活性化の展
望は開けない。三重県教育ビジョンに示された「キャリア教育の一層の充実」も地域の期待には
応えられない。学校現場から持続可能な地域づくりの声をあげ、教育実践で解決の道筋を示す時
ではないだろうか。もちろんそれは生徒たちの声でなければならない。
地域が抱える問題や課題を生徒たちが自らの生活や生き方の問題として認識することができ
れば、若い世代の流出の問題にも展望が開けるのではないだろうか。また大学や専門学校での学
習や研究にもつながることが期待できる。都市に留まる生徒たちも地域との絆を失わず持ち続け
ることができれば、地元に生活の基盤を持たなくても、貢献の形は様々考えられる。
- 3 -
第2節 新学習指導要領と商業教育
高等学校学習指導要領解説・商業編の「改訂の趣旨」の「改善の具体的事項(教科横断的な事
項)」では、「三つの視点を基本とし、各教科を通して以下の横断的な改善を図る」としている。
特に「第二」に注目した。「第二は、将来の地域産業を担う人材の育成という観点から、地域産
業や地域社会との連携・交流を通じた実践的教育、外部人材を活用した授業等を充実させ、実践
力、コミュニケーション能力、社会への適応能力等の育成を図るとともに、地域産業や地域社会
への理解と貢献の意識を深めさせる。」(同解説書p.3)と述べている。この内容を具体化する
科目として「ビジネス経済応用」が新設された。前回改訂時のキーワードは「国際化・情報化・
サービス経済化」であった。
資料②
起業家教育と地域産業の振興が教科書に登場
第9節ビジネス経済応用
略
(5) ビジネスの創造と地域産業の振興
ア.起業の手続
イ.新たなビジネスの展開
ウ.地域ビジネス事情
(内容の範囲や程度)
内容の(5)のアについては,起業の意義及び起業の手続の概要を扱うこと。イについては,新しいビジネ
スの展開の具体的な事例を研究させるとともに,新しいビジネスを考案させること。ウについては,身近
な地域のビジネスを研究させ,地域産業の振興方策を考案させること。
ここでは,起業の手続の概要,新たなビジネスの展開の現状及び身近な地域のビジネス事情を取り扱い,
ビジネスの創造や地域産業の振興に取り組む能力と態度を育てることをねらいとしている。
(アンダーラインおよび抜粋は筆者)
高等学校学習指導要領解説・商業編(p.41)より抜粋
資料③
すでに「理産審」では平成 10 年に地域活性化を議論
「今後の専門高校における教育の在り方等について(答申)」
1. 専門高校の現状と課題
(専門高校の果たす役割と意義)
(生涯学習の視点を踏まえた教育の在り方)
(社会の変化や産業の動向等に対応した教育内容の見直し)
(地域や産業界と連携した教育の在り方)
略
第四は、専門高校における教育の改善・充実を図るためには、地域や産業界と連携した教
育の在り方を考えていく必要があるということである。
専門高校には、地域の伝統工芸や地場産業をはじめ、各分野にわたる地域産業振興の期待
を担って設立されたものも少なくない。現在でも、専門高校を卒業後就職した者のうち8割
以上が県内に就職しているなど、専門高校においては一般的に地域の様々な期待やニーズに
こたえながら教育活動が行われている。
近年、各地域においては、経済の多様かつ構造的な変化や地域密着志向の高まりといった人
の価値観の変化に伴い、地域の活性化に向けた新たな取組、人材確保等の必要性が増してお
り、専門高校にはこれまで以上に地域社会を担う人材を育成し、地域との結び付きを強めて
いくことが求められている。
(アンダーラインおよびより抜粋は筆者)
平成 10 年 7 月 23 日 理科教育及び産業教育審議会(答申)より抜粋
- 4 -
「地域産業を担う」の表現に唐突の感を覚えるが、平成10(1998)年7月23日の 理科教育及び
産業教育審議会の答申(資料③)、「2 今後の専門高校における教育の改善・充実のための視
点」に「地域と地域産業とのパートナーシップの確立」が登場している。
はじめにで紹介した「林業は今、重大な岐路にある」とは、NHKクローズアップ現代(2012
年11月13日(火)放送)「眠れる日本の宝の山~林業再生への挑戦~」の番組でのコメントの引
用である。
戦後に植林された木々は、
今切り出せば宝の山、この機を失するとゴミの山だという。
番組では、日本林業の課題「流通と精密加工」を新しいビジネスモデルとして「林業の6次産業
化」、生産から販売にいたる地域産業モデルをとりあげた。
「地域社会にとって、今がラストチャ
ンス」というコメントが印象に残った。
本論は、地域の教材化と起業家教育に商業教育としてどう向き合い、とりくむべきかを論じて
いる。従来の行政頼り、政府まかせの地域振興政策でいいのか、学校教育として地域経済にどの
ような貢献ができるのか、とりわけ地域活性化を担う生徒たちの意識と出番を、どう演出するか
を構想するものである。資料③の新教科「ビジネス経済応用」は、「起業と地域」を学ぶ教科で
あり、生徒たちが自らの生き方と重ねて考える学びが期待できる。学習指導要領の提起を学校現
場が自らの課題として論議を深め、カリキュラムに位置づけ実施されることを願いたい。
第3節 地域社会から離れた商業教育
自営者数の推移
40
30
20
10
0
5
3
年
5
5
年
5
7
年
図③
5
9
年
6
1
年
6
3
年
6
5
年
6
7
年
6
9
年
7
1
年
卒業生自営者数の推移
7
3
年
7
5
年
7
7
年
7
9
年
8
1
年
8
3
年
8
5
年
8
7
年
8
9
年
9
1
年
9
3
年
9
5
年
9
9
年
0
1
年
0
3
年
0
5
年
0
7
年
0
9
年
三重県立四日市商業高等学校 110 周年記念誌より抜粋
図③は、三重県立四日市商業高等学校110周年記念誌に掲載された卒業生の進路データの一つ
である。1953年から2009年までの自営者数の推移を示している。自営者数は高度経済成長に反し
て減少し、現在では皆無となっている。地域の小売業者が子どもの進路先として商業高校を選択
肢に入れていないことを示している。これは「流通革命2」が全国に広がり、大型店に顧客を奪
われた小売店主の営業意欲の喪失と見ることもできるし、商業教育が地元小売店の期待に応える
ものではなかった、との推測もできる。
地域産業の担い手・経営者の育成という商業学校の使命は、図③が示すように1980年代で終焉
を迎えた。女子比率(図④)の上昇と相まって、事務・販売業務を担う人材の育成へと舵を切ら
ざるを得なくなったことも原因である。金融・保険業界をはじめ、コンビナート企業に多数の卒
業生を輩出したが、1990年代に入ると、徐々にその数も減少し、進路指導でのブランド(大企業
への就職)も過去のものとなった。事務職の多くは、四年制大学や短期大学卒業生にその職と地
位を奪われた。結果、商業高校生たちの進路希望も変化した。下記の図⑤は、商業高校卒業生も
四年制大学や専門学校への進学が増え、就職と進学の比率が相半ばする状況に至ったことを示す
ものである。
2
1962 年に発刊された東大の林助教授によって書かれた著書の名前、1960 年代以降の流通システムの大きな変化、流通経路の
短縮化
- 5 -
500
男女別卒業生数 1953~2009
400
男
女
300
200
100
0
5 5 5 5 6 6 6 6 6 7 7 7 7 7 8 8 8 8 8 9 9 9 9 0 0 0 0 0
3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 9 1 3 5 7 9
年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年
図④
男女比率の推移
三重県立四日市商業高等学校 110 周年記念誌より抜粋
この傾向は全国的で、駒沢大学経済学部教授番場博之によれば「商業科生徒の大学進学にあ
たっては、『結果として大学へ進学することになった』というケースが多く、その意思決定にあ
たっての選択肢のなかには、大学進学・専修学校進学・就職などが並列して存在するのであ
る。 ・・略・・ A大学とB企業とC専修学校といった選択肢のなかから進路を決定している
のである。また、商業科では優秀な生徒が必ず進学するとは限らない。経済的理由から進学を断
念し、就職するということも少なくない。」(『職業教育と商業高校―新制高等学校における商
業科の変遷と商業教育の変容―』大月書店 p.161 )と強調している。
さらに番場氏は、商業教育衰退の原因を、「商業高校が衰退・低迷していったのは、そこで養
成された人材が担った労働が他によって代替されたため、そして、そこでなされてきた職業教育
が他の教育機関による職業教育によって代替されたためである。」
(同書 p.197)と述べている。
事務系労働の多くがコンピュータにその職を奪われ、残った販売業務も派遣労働によって代替さ
れるに至っては、商業教育の専門性の生き残る余地は、極めて少ないと言わざるを得ない。
人気が低迷する商業教育の打開策として、「専門性の深化」が提起された。税理士・公認会計
士という難度の高い資格取得をめざすとするものである。商業高校卒業後、努力の末に専門学校
就職・進学比率の推移
就職
進学
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
5 5 5 5 6 6 6 6 6 7 7 7 7 7 8 8 8 8 8 9 9 9 9 0 0 0 0 0
3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 9 1 3 5 7 9
年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年
図⑤
就職・進学の推移
三重県立四日市商業高等学校 110 周年記念誌より抜粋
や大学でそれらの資格を手にしたという事例はあるが、状況を大きく変えるには至っていない。
全国で16番目、三重県では初の商業学校が明治29年四日市町に誕生した。四日市商業学校(現
四日市商業高等学校)である。初代校長は、四日市商工会議所会頭の井島茂作氏。稲葉三衛門が
私財を投じて築いた、伊勢湾初の稲葉港(旧四日市港)を中心に紡績工場の建設がすすみ、東海
道の宿場町であった四日市が産業都市へと変貌を遂げていった。経営者の多くは、四日市商業学
- 6 -
校に後継者教育を託した。同校の110周年記念誌には、明治期においてすでに、英文タイプの授
業や米国人女性講師による英会話の授業がおこなわれていたことを証明する写真や資料が多数
ある。地域産業の担い手をどう育てるかが、学校の目標であったことがよく分かる。
翻って既述の図③「卒業生の自営者数の推移」は、工場経営・自営業者の後継者育成という学
校の使命が終わったこと示している。当時、商店経営者の多くは、食品を中心としたスーパーマー
ケットの脅威に晒され、展望をもてずにいた。さらに、店の収入より工場勤めのサラリーマンの
方が高給となれば、家業の継続を見切るのも当然である。
今日、
若者を取り巻く状況は一変した。金の卵と呼ばれた時代があったことを彼らは知らない。
労働市場では、20代の若者の二人に一人は非正規雇用〔経済産業省「労働力調査」〕である。出
産後の女性の継続就業者率は、26.8%〔国立社会保障 人口問題研究所(平成22)〕。卒業時の進
路保障だけでなく、卒業後の生活は、親世代とは大きく異なり、過酷なものとなっている。女性
比率の高い商業教育にとって、女性労働の厳しさと向き合うことも必要ではないだろうか。
2013年3月7日、三重県立四日市商業高等学校と朝日大学の「商業教育に関する連携協定」調印
式が四日市商業高等学校内で行われた。三重県教育委員会が、専門学科で学ぶ生徒を対象に、よ
り高度な技術の習得や難易度の高い資格取得を目指して実施する「志」と「匠」の育成推進事業
「若き『匠』育成プロジェクト」の研究校に同校が2012年5月23日に指定され取り組んだもので
ある。高大連携は各地で生まれている。専門性を深めることで存在意義を見出そうとする施策の
ひとつである。
高大連携は、1999年に中央教育審議会(中教審)が「初等中等教育と高等教育の接続の改善に
ついて」と題する答申を出して以降、様々な形で実施された。
①出前講義・出前授業:大学の教員が高校に出向いて講義や模擬授業を行うもの
②高校生を科目等履修生や聴講生に:学修成果を高校や大学の単位として認定するもの
③オープンキャンパスや特別講義:普段の授業とは異なる内容の新鮮さに人気が集まる
大学教育とは無縁な高校生には、知的な刺激になったことだろう。連携の模索は、大学だけで
はない。企業との連携もある。文科省は先の改
資料④
すすむ高大連携
訂でインターンシップやデュアルシステム3を提
案した。厚生労働省・ 経済産業省・ 内閣府に
よって発表された「若者自立・挑戦プラン」
(2003
年6月)を受けて、考案されたものである。しか
し、職業訓練的内容であり、地域経済の担い手
育成という観点では人口減少・過疎化が加速す
る地域においては不十分なものである。また100
人、200人という単位での受け入れは困難である。
したがって講座単位での連携にとどまっている。
夏休みに実習体験を組織する学校もある。
2004年4月、三重県立桑名工業高等学校は、イ
伊勢新聞
2013.3.8 より
ンターンシップではなくデュアルシステムを採用した。企業と学校がパートナーシップを深め、
共同して人材を育成するシステムである。学校で基礎・基本を学ぶと同時に、企業の最先端技術
や実践的技術にふれることで、学習成果と勤労意欲を高めるというものである。1年生は、複数
の職種業種を体験、2社での体験をそれぞれ5日間行う。2・3年生は、学校設定科目「企業実
3
企業での実習と学校での講義等の教育を組合せて実施することにより若者を一人前の職業人に育てる仕組み(文部科学省)
- 7 -
習」の時間(2年生は火曜日、3年生は水曜日)に、自分の適性にあった企業で週に1日、一年間
を通して実習を行う。企業の一員として参加する中で、学校では学ぶことのできない、最新技術
や地域産業の優れた技を実際に修得する。
高校生レストラン「まごの店4」(写真①参照)は、テレビドラマになった。また地域活性化
の成功事例として過疎化に悩む自治体の注目を集めた。企画演出は「多気町まちの宝創造特命監」
の岸川政之氏である。その著書『高校生レストランの奇跡』
(伊
勢新聞2011.7.7)で「まごの店」の事例をあげ、「高校生の出
番の演出が地域社会を励まし、活性化につながることを明らか
にした」と語っている。五桂池ふるさと村には、食物調理科の
卒業生が運営する「せんぱいの店」が「おばあちゃんの店」の
横にオープンし、町内にある工場や事業所に弁当の販売を行っ
ている。
写真①「まごの店」2013.12.27 撮影
商業教育をはじめ職業教育は、産業構造の転換・技術革新と
いう経済のパラダイムにどう対応すべきかの模索の時代を迎えている。高大連携もインターン
シップ・デュアルシステムもその模索の一つである。技術・技能教育は早ければ早いほどいい。
また「まごの店」の成功事例は、職業教育は教員が教えるのではなく、プロの出番であることを
示唆している。専門学校への進学率が大学進学率に並んでいるのもその現れとみることができる。
大卒の特典が得られなくても、それぞれの分野の技術や資格を優先したということである。
これらの変化を職業教育にとって脅威とみるか、新しい可能性が開けたとみるか。とりわけ商
業教育は、技術・技能ではない商品開発のような、新しい商品やビジネスモデルを構想する力、
具体的に進める知識とコミュニケーション力などの育成が課題である。それらは点数化できない
が、高校教育が教科指導以外で得意としてきた特別教育活動、部活動やクラス活動などに可能性
の広がりを覚える。
第4節 検定教育の限界と課題
全国商業高等学校協会(略:全商協会)のホームページには、全国商業高等学校長協会と公益
財団法人全国商業高等
学校協会の名前が並ん
でいる。「全商」は、
公益財団法人全国商業
高等学校協会の略称で
ある。財団が実行部隊
とするなら指令部は、
全国商業高等学校長協
会である。大正14年5月
表①
全商協会 事業収益と検定受験者数種目別一覧表
珠算・電卓検定事業収益
239,016,540
検定種目
受験者数
簿記検定事業収益
259,193,424 珠算・電卓
308,156
ワープロ検定事業収益
423,365,921
簿記
266,331
英語検定事業収益
140,232,529
ワープロ
327,078
情報処理検定事業収益
369,408,143
英語
150,945
商業経済検定事業収益
115,092,992
情報処理
314,861
会計検定事業収益
3,779,681
商業経済
123,438
スピード認定事業収益
24,776,382
会計
3,379
パソコン入力
35,036
事業収益合計
単位:円
1,546,453,228
合計数
1,529,224
に設立された全国商業
学校長協会が前身であり、その後昭和21年5月全国商業学校協会に改称された。昭和23年新制高
等学校の発足に伴い、全国高等学校長協会の商業学科を主とする部会として、同年5月に現在の
4
平成 14 年、多気町五桂池ふるさと村「おばあちゃんの店(農産物直営 施設)」の食材を利用した、相可高校食物調理科生
徒が運営する調理実習施設
- 8 -
全国商業高等学校長協会が設立され、
現在に至っている。公益財団法人全国商業高等学校協会は、
平成23年4月1日より我が国の産業教育の発展に資するため主として「高等学校における商業教育
の振興、普及を図る諸事業を行い、以って社会に貢献できる自立した有為な人材育成に寄与する
こと」を目的として設立された。前身は、昭和31年、設立された財団法人全国商業高等学校協会、
商業教育関係者には「全商」という呼称で親しまれてきた。協会の事業目的は、①商業教育に関
する調査・研究事業 ②教員の資質向上に関する事業
る各種の検定事業
③生徒奨励に関する事業 ④商業に関す
⑤商業教育の振興に関する助成事業
⑥その他この法人の目的を達成する
ために必要な事業、の六項目である。
1) 年5回 検定にチャレンジ
「全商協会」の財務は、経常収益総額(平成23年) 1,553,354,221円の大半(1,546,453,228円)
は検定事業収益である。財団の事業は、検定問題の作成と合格証書の発行が中心となる。年間検
定受験者数の延べ数は、1,529,224人、会員校生徒数は全日制297,028人・定時制26,470人で合計
が323,498人(全国商業高等学校長協会:平成24年度都道府県別公私立会員校数及び男女生徒数
一覧表より)、年間一人の生徒が約4.7科目以上の検定を受験していることになる。検定料は1500
円、日商検定の4500円からすると父母負担の軽減にはなっているが、受験回数を考えれば7500
円超となる。検定試験は商業教育にとって必須のツールである。技術教育としての側面を考えた
場合、検定抜きの授業はあり得ない。「読み・書き・そろばん」は、わが国の民衆教育の基礎、
珠算教育の歴史は、検定の歴史そのものである。技能や技術レベルを認定することは、学習者へ
の大きな励みとなる。それぞれの技術・技能レベルに応じて出題数や難易度をあげ、3級合格・2
級合格・1級合格などの呼称で、認定書が授与される。全商協会は、商業教育の発展に大きく貢
献してきた。
2)検定ブームと「資格取得」
「検定」ということばが新聞やマスコミを賑わす事件があった。漢字検定である。ニュースに
なり議論を呼んだのは2009年2月、そう昔の話しではない。現在では「地域」検定がブームを呼
んでいる。検定人気の秘密は、テーマや出題内容のおもしろさと親しみやすさにある。限られた
出題範囲からの数パターンの出題となれば勉強にも力が入る。商業教育においても簿記や珠算、
英文・和文タイプがそうであったように、限られた内容を一定時間にこなし、基準得点以上であ
れば「合格」となる。教える教師にも、学ぶ生徒にとっても、何をしなければならないかが明確
である。合格証書が発行され、就職・進学に有利だとなればこの上ない悦びとなる。
筆者はこれまで、大ソロバンの珠算教育から大型汎用計算機(FACOM_M360)、さらにパーソナ
ルコンピュータの情報処理教育を担当してきた。技術革新の速さに振り回された商業教育であっ
たとの感慨をもちながらも、コンピュータ抜きの商業教育は、今日ではありえない。しかし最近
のパソコンの進化は、商業教育そのものを侵食しており危機感を覚える。簿記の知識がなくても
仕訳・記帳ができる会計ソフトの登場、初歩的な経理業務であれば、商業高校で学ばなくても、
普通科・総合学科で学ぶことができる時代である。筆者が学ぶ大学院の仲間にも、パソコンに明
るい普通科出身学生がいる。論文作成にネット検索はもちろん、ワードやエクセルを自在に活用
している。商業教育の今日的課題について思いを馳せずにはおれない。
- 9 -
3)検定教育の限界
全商協会のサイトに掲載された「先輩の声」というコーナーがある。そこには、商業科生徒た
ちの検定への思いや期待が記されている。現場での検定教育がどのようなものであるかがよく分
かる。検定教育を中心にした授業は、生徒たちにとっても教師にとっても実に分かりやすく悩む
ことは少ない。教える範囲も内容も明らかである。残された課題は問題集をやり遂げられるかど
うか、生徒のモチベーションをどう引き出すかである。中学校の授業で「芽」が出なかった生徒
が、簿記の授業で勉強の面白さを知り、力をつけ自信を回復した事例によく出会う。このように
見てくると検定教育の弊害など、どこにあるのか、と思われることだろう。しかし、商業科目の
非検定科目と考えられてきた商業経済・商業法規などの科目も検定の対象となり、検定一辺倒の
商業教育に批判的な筆者にとっては、見解は大きく異なる。
「商業科の卒業生は、指示された仕事は、実に手際よくこなせるが、指示されないと何もでき
ない」、企業の人事担当者がある懇談会で語った話しである。どのような場面での話しなのかも
定かでないが、学校生活での彼らの様子から思い当たるところがある。制限時間内に記憶した内
容を正確に再現することを問う検定試験では、自主的な判断や独創的な発想、行動は求められな
い。したがって、企業側の要望「独創性や主体性」を生徒に求めるのは筋違いである。検定教育
の限界は、商業教育に求められる今日的課題の克服にとって大きな障害となっている。
小 括
高等学校学習指導要領・商業編は、地域社会と商業教育の方向性を示し、新教科「ビジネス経
済応用」と「商品開発」に大きな期待を寄せている。本格実施は、来年度(2015年)の新2年生
からである。現場論議をどこまですすめることができるかがカギとなる。検定問題集がなければ
授業が成立しないという意見が大勢とならないことを祈りたいが、課題研究のスタートがそうで
あったように、指導の見通しが立てられず、困惑する現場の姿が想起される。
今、高度経済成長期とは異なるパラダイムにわが国は入った。この認識に立つことが教育現場
においても求められている。量から質へ、大量生産から少量多品種生産へ、モノからココロへ、
勤労者教育から起業家教育へ。地域経済再生につながる商品開発力は、生徒たちの自発性と創造
性に負うところが大きい。
- 10 -
第2章
地域と向き合ってきた教育
本章では、学校教育が地域とどのように向き合ってきたかをたどり、今、求められるものとは
何かを考察する。
わが国の教育史に生活綴方教育5がある。1920年代、農山漁村の公立小学校の教室で国定教科
書のなかった国語科綴方(作文)の時間に厳しい生活現実の中から学習者に生活の問題をとらえ
させるとりくみとして注目され、全国運動となった。地域の現実を教材化してきた伝統にふれる
とともに、今日の高校教育が地域と向き合いきれない背景を明らかにできればと思う。
第1節 地域教育の先行研究
小・中学校の社会科教育は、常に地域と向き合い、地域を教材としてきた。それに対して高校
教育はどう向き合ってきたか。忌憚なく言えば、最大の関心事は、大学進学か資格取得(検定教
育)で、地域を教材とした事例は、少ないのが実態である。もちろん家庭科教育のホームプロジェ
クトや農業教育の農業クラブの歴史は、地域と向きって来た歴史そのものだが、高校教育全般か
ら見れば少数派である。それは過去の研究からも明らかとなった。「Cinii6」論文検索シ
ステムの検索結果資料⑤を見てみよう。
検索は、まず「商業教育+地域教材」でおこなった。結果は、1件のみに終わった。次に「教
材」を「経済」に置き換えて「商業教育+地域経済」とした。結果は7件となった。「地域教材」
のみでの検索結果は、さすがに244件にのぼった。事例のいくつかを下記に紹介する。なお、
専門教育「商業」を除く、農業・水産・工業の各部門においては、水産教育の1件のみという結
果に終わった。生徒たちの活躍がニュースで報じられているが、それぞれの教育領域での研究が
記録されていないことを示している。農業や工業は、地域と深くかかわってきたものであり、研
資料⑤
Cinii(論文検索システム)の検索結果
(検索日2013.4.25)
◇ 商業教育+地域教材 1件
「 地域を歩く、地域を知る、地域から学ぶ-地域の課題を求めた地域教材化実践-」
(第 37 回 全国商業教育研究協議会 全国集会の部 未来を拓く商業教育の創造-
地域とのつながりで豊かな学びを〔2005 年))春日井商業高等学校 塚田 忠雄
◇ 商業教育+地域経済 7件
①「地域経済と商業教育の役割」 (第 43 回 全国商業教育研究協議会 全国集会)
全国商業教育研究協議会年報(2001),20-28,2011 山本 政己
②「競争と分断」から「共同と連帯」へ地域経済活性化に関連して
(全国商業教育研究協議会年報 2005)中央大学 八幡一秀
③商業高校の地元商店街との連携 -地域をつなぐ商業教育の創造-
(特集「21 世紀の地域経済振興を支える地域密着の産学公提携」) 小村 雅彦
中小商工業研究 (81),76-82,2004-10
④記念講演 「地域経済振興と商業教育」
(第 36 回〔全国商業教育研究協議会〕)全国集会の部 中央大学 八幡 一秀
全国商業教育研究協議会年報 2004,6-19, 2004
⑤地域における商業教育の現在と未来
「40 年にわたる地域教育の経験を基礎として」
柏村 一郎
佐賀大学経済学部 地域経済研究センター年報 7,143-172,1996-03
5 生活の中の生々しい現実とそれをめぐっての考えや感情を文章でありのままの書き学級集団で深化・共有をはかる教育運動
6 Cinii(サイニー)国立情報学研究所による論文検索用統合サービス、日本語の論文や図書・雑誌など学術情報を検索
- 11 -
⑥商業教育の方法ないし技術の定式化の必要性
木戸田 力
佐賀大学経済学部 地域経済研究センター年報 7,131-141,1996-03
⑦高等学校の教育改革 : 商業教育を中心にして
岸川 公紀
佐賀大学経済学部地域経済研究センター年報 6, 71- 91,1995-03
◇ 家庭科教育 + 地域教材
9件
◇〔 農業教育・水産教育・工業教育 〕 + 地域教材
1件
①「羅臼昆布はなぜ高いか?"の授業」地域教材の開発と授業の検討 木下郁恵/高嶋幸男
釧路論集:北海道教育大学釧路分校研究報告 35, 7-25, 2003-11-30
◇ 小学校 + 地域教材
70件
◇ 中学校 + 地域教材
41件
◇ 地域教材
244件
[検索日:2013.4.25]
究テーマとしてあえて「地域」を冠する必要がなかったのか、などの疑問が残った。そのような
専門教育にあって家庭科教育では、7件がヒットした。地域別にみると沖縄県が4件となった。
予想したことだが、小・中学校の研究に圧倒された。検索結果でも小学校で70件、中学校で41
件である。郷土教育運動7が戦後も継続して取り組まれてきたことを物語るものである。例えば、
上越教師の会編『地域に根ざす教育と社会科』8は、郷土教育運動の歴史を象徴するものである。
著書に出ている実践事例は、地域と向き合う教育とは何かを教えている。また個人研究が多い教
科実践にあって、組織的にとりくまれた貴重なものである。その一端を紹介する。
資料⑥
地域を見つめる子どもたち
五.地域をみつめ、活動する子どもたち
1.総合単元『わたしたちの朝市をひらこう』2 年生
(1) 朝市のもつ地域性と総合性
当校の近くに朝市がひらかれ、さまざまな人々が集まり、にぎわいを見せている。朝市には雑踏のに
ぎやかな雰囲気、買い物の楽しさ、いろいろな人に会える楽しみ、方言まる出しの気軽な対話など、
人々をひきつける要素がある。スーパーマーケットでは味わえないよさや、商業活動の原点ともいえ
る売り手と買い手のやりとりがある。さらに、朝市には春には春なりに、秋には秋なりに、その時季
を象徴する品物をもって集まる近郊の農家の主婦の姿があり、季節感にあふれている。地域の生の生
活がそこにある。 ・・中略・・
朝市を自分たちで開くという活動が成立するためには、直接見る、さわる、さぐる、まねる、作る
などの実感をともなった活動がおこなわれなければならない。
出典:『地域に根ざす教育と社会科』上越教師の会編 p.122 より抜粋
資料⑥の(1)朝市のもつ地域性に続いて「(2) 朝市で春を買おう」では、子どもたちが朝市へ
見学に行き、親から頼まれた山菜やトマトなどを買う子どものようすが報告されている。また自
分たちがとりくむ「ミニ朝市」の店舗の工夫や販売知識を朝市のおばさんたちに質問し、教えて
もらうというのである。子どもたちが朝市を通じて社会認識を深めていったようすがよく分かる。
1954 年 1 月 6 日に「若い教師の会」として上越教師の会がスタートした。1955 年 8 月、全国
青年教師連絡協議会「妙高集会」が開催された。その運営を担った「若い教師の会」が大会後に
「上越教師の会」と改称し、会の性格を「学級経営を基底とした社会科の研究団体」として、そ
の後数々の実践を積み上げていくことになる。敗戦の焼け跡から経済復興を遂げていく姿が実践
の随所にあった。子どもたちも将来は、地域に貢献できる大人になるのだという思いを強くした
ことが作文に綴られている。
次節に紹介する実践は、郷土教育運動の流れに位置づけられるものであり、高校教育において
は、数少ない教科実践である。
7
8
郷土教育運動:昭和恐慌が深刻になった 1930 年代に、文部省・師範学校で提唱され、実践された運動
新潟県上越教師の会編『地域に根ざす教育と社会科』あゆみ出版(1982 年)代表江口武正 大潟町中学校長
- 12 -
第2節 地域学習で学校が変った -塚田忠雄の場合-
1973 年から 2003 年の生徒たちのようすを塚田は、全国商業教育研究協議会9主催、2005 年の
第 37 回全国集会で報告した。時代は、バブル崩壊後の「失われた 10 年」と重なり、地域経済に
とっても厳しい時代のはじまりであった。塚田は、全国商業教育研究協議会の全国常任委員とし
て活躍し、愛知県の春日井商業高等学校を 2005 年に退職した。商業科目に「経済活動と法」と
いう科目がある。憲法をはじめ、民法・手形法・商法を内容とする教科で、教科書と商業六法を
中心に授業はすすめられる。塚田は、商業六法の執筆者としても知られ、『商業法規便覧』(東
京法令)を著している。商業教育の実践家であり研究者でもあった。
資料⑦で紹介する教科実践は、塚田の 1973 年に在職した瀬戸窯業高等学校から春日井商業高
等学校にいたる30年間の実践報告である。実践の特徴は、教科「商品」にとどまることなく、
学校行事である遠足や文化祭にも及び、生徒たちの研究・発表の場としたところにある。
資料⑦
4.私の「地域を教材に」の教育実践
地域学習で学校が変わった
〔
中略
〕
(3)1973年度~1979年度(瀬戸窯業高勤務)
② 瀬戸窯業高校の学校祭は県内の県立高校では比較的沢山の一般参加者が集まってきていた。約800
人ぐらいだ。1万人を集める私立豊川高校にはかなわないが、地元の人以外に県外からも窯業科の生徒たち
の作品を買い求めに来ていた。1万円以上もする花瓶や数千円の抹茶茶碗も売れた。専攻科の学生の作品は
プロをめさす埋もれた力作で、教員の作品も魅力であった。売れ残り品は残らず業者が買い求めた。市内で
初めてこの学校が明治時代に石炭窯で陶磁器を焼いて地場産業の発展に貢献してきた歴史がある。地域の窯
業試験場としての輝かしい地域貢献の歴史を持ちながら、実際の生徒は誇りの持てない劣等感で満ちてい
た。そんな中で、学校祭において学年ぐるみの「地域の陶磁器産業徹底研究発表会」と「大陶磁器祭」をやっ
てみた。(実際には1年生合同発表会という名称)地域の陶磁器産業徹底研究は、市内の陶磁器問屋を少人
数で訪問し、アンケート調査を行なうもの、それだけでは面白くないため、製陶工場・品野陶磁器センター・
瀬戸陶磁器資料館・陶土採掘場・日本通運・陶磁器卸団地などを組み含わせた。商業科の生徒はこのアンケー
ト調査結果をまとめてB紙に書き込んで発表し、窯業科の生徒は陶磁器原料や窯業原料を工場からもらいう
けて展示するというもの。学科を超えた共同の発表の場を作った。現在の瀬戸市陶磁器資料館の館長山川一
年氏は、その時の学年団の一人である。まる1日を調査と見学に当てるような学校はないというのが誇りだ。
普通科の先生を含めて全先生が動員され、生徒だけてなく教員も地場産業の勉強の場となった。
〔 中略 〕
④ 「商品」という授業では陶磁器学習にかなりの時間を割いた、前任者の堀先生も自分で教材作りをし
ていたが、私は「商業統計調査」結果を市役所でもらい資料に、また手ひねりによる製作実習も加えた。釉
薬も付けたもので学校の窯で焼いてもらった。地元の生徒は小学校にも窯があり、器用に製作できる。焼き
上げた作品は卒業記念に持ち帰らせた。「瀬戸を見直す」「誇りに思う」という願いに向けての実践だ。
(アンダーライン筆者)
出典:全国商業教育研究協議会年報 2005〔通巻 65 号〕p.94 より抜粋
瀬戸窯業高等学校での「地域に根ざす教育」運動は、転勤先の春日井の地でもとりくんでいる。
月1回のペースで幼稚園・小学校・中学校・高校の教員と大学院生らで組織された「あすなろ」
というサ-クルを立ち上げ、情報交換や実践の交流を行った。塚田の実践の背景に「恵那の教育
10
」や「いなべの『土のなかの教育11』」に通じるものがある。「地域」に向き合う姿勢と運動
スタイルをそこから学んだものと考えられる
また塚田は、職場新聞や学年通信、学級通信の発行にもとりくんだ。また地域見直し運動は、
9
全国商業教育研究協議会:民間の教育運動団体、1969 年に創立。商業教育の研究交流と年報発行にとりくんでいる
生活綴り方を中心とした集団による恵那地域の実践研究、1950 年代に復活させた戦前から続く民間教育運動(森田道雄
『1980 年代の「恵那の教育」の到達点』より)
11「地域の教材化」や「同和教育」への取り組みを中心とした実践研究,三重県員弁郡教職員組合による組織的な教育研究運動
10
- 13 -
教科の枠を超え、地域に広がる画期的なものであった。教科実践では、商店街活性化をテーマに
「瀬戸市の商業」を教材化し、授業資料として活用した。また夏休みにおいて生徒たちにアンケー
ト調査や訪問調査にとりくませ、論文作成につなげた。さらに名古屋市長者町繊維問屋街を半日
遠足・半日見学(訪問調査)した。その後も学年行事として継続させている。
塚田実践は、商業教育の枠を超えた貴重な教科実践である。しかし塚田実践は、全国に広がる
ことはなかった。なぜなら商業教育関係者の多くは、文部省の提起した「国際化・情報化」への
対応、年々増える進学希望者(四年制大学)対策、さらに商業高校の「生き残り」をかけた中学
生募集に集中せざるを得なかったからだ。したがって商業教育が地域と向き合うまでには、さら
に時間を要することとなる。
第3節 村を育てる学力 -東井義雄の場合-
高度経済成長が本格化する時期、1972年に教師生活40年を迎えた東井義雄12は、教育実践を
テーマ別に収録した全七巻の著作集を刊行した。その第一巻に「村を育てる学力」が収録されて
いる。「村を捨てる学力」と「村を育てる学力」の一節を紹介する。
「『村を捨てる』立場から育てられた『主体性』が『村を捨てる学力』を形成していくことは
必然だ、はたしてこれでよいのか」との東井の提起がある。
「村を捨てる」とは「意識の都市化」、
「子どもたちの希望を、都市の空に描かせることによって、『学力』の昂揚をはかろうとする教
育」と東井は断じ、その教育には「欠除」しているものがあると述べている。「それは土への愛
である」と言う。村を愛することができるなら「この貧しい『国土』をも愛してくれるだろう」
「村を出ていくことになっても、行ったところで、生きがいを切りひらいていってくれる」との
希望も語っている。
東井義雄著作集の第一巻「Ⅰ.村を育てる学力」の第1章に「村の教師はどう生きるか」で、
私たちに問題意識と覚悟を迫っている。それが「3.私たちは問題のまん中にいる」である。学
校のたんぼでとりくんだ生徒たちの学習活動を紹介し、「村を育てる学力」とは何かを語ってい
る。涌井学13著「働き方の科学」に掲載されたデータを教材に、村の農業の後進性を子どもたち
資料⑧
元か一
気っか
がたぶ
だ
でけか
てはっ
きすて
たんも
。で
い
く
と
思
う
と
『東井義雄著作集』明治図書
1972 年初版より
12
13
まかよ
たりそ
さよ
いえり
っすお
しれく
んばれ
によた
かいっ
っのて
ただ
。と
思
っ
て
地域の現実を詩にすることから始まった
そ
れ
で
も
く
や
し
か
っ
た
な
ん
で
死
ん
な
っ
た
の
か
と
思
っ
て
お
と
っ
ち
ゃ
ん
は
よ
そ
の
田
ん
ぼ
か
っ
て
し
ま
っ
て
みあ
たる
ら
、
出典:東井義雄著作集
頭
を
あ
げ
て
、
六
た
ば
か
っ
て
な
か
な
か
す
ま
な
い
。
た
っ
た
二
人
だ
か
ら
う
ち
の
は
す
ぐ
か
れ
て
し
ま
う
。
一
ま
い
の
田
ど
も
よ
そ
の
は
人
数
が
よ
う
け
だ
か
ら
い
ね
か
り
し
て
い
る
。
母
と
い
ね
か
り
第一巻「村を育てる学力」p.34 より
東井義雄:明治 45 年兵庫県出石郡但東町生まれ、日本作文の会会員「ペスタロッチ賞」広島大学、八鹿小学校校長
涌井学:『農作業と農機具(1949 年)』(職業文庫)「農作業の合理化 (1951 年)」 (農家新書)の著者
- 14 -
ぼ
く
と
資料⑨
「村を捨てる学力」と「村を育てる学力」
「ところが、学力に地域性を認めまいとする人たちは、前にも述べたように、『意識の都市化』の側から、
『学習者の主体性』をかりたてようとする。村の子どもたちの希望を、都市の空に描かせることによって、『
学力』の昂揚をはかろうとする。この立場からは『進学・就職指導』が第一の大きな実践的問題になることは
当然である。
しかし、ここに問題はないであろうか。村の子どもたちの大半が、やがて都市に移行しなかったら、村その
ものの生活も成り立たない、といわれるような現状の中では、この道が学力昂揚の唯一の道であり、村の子ど
もたちをしあわせにする道であるようにも思われる。しかし、私は思わずにはおれない。このような『村を捨
てる』立場から育てられた『主体性』が、『村を捨てる学力』を形成していくことは必然的だが、はたしてこ
れでよいのか・・・・と。①
この行き方に欠除しているものは、『土』への『愛』である。②『村』を愛することもできないほど、暗く
、貧しい。しかしそうであればあるほど、それは、何とかせねばならぬ。『愛』が注がれねばならぬ。このよ
うな村をも愛することができるなら、この貧しい『国土』をも愛してくれるだろう。そして、そのことの中で
、『生きがい』を見つけてくれるようにもなるだろう。たとい、村を出ていくことになっても、行ったところ
で、生きがいを切りひらいていってくれるだろう。」
(アンダーライン筆者)
東井義雄著作集1
3「村を捨てる学力」と「村を育てる学力」p.110 より抜粋
と共に学び、後述する木田好次の指導を受け「村の麦と学校の麦」の実践へとつなげた。
第1章「村の教師はどう生きるか」の「5.村を拓く四つの鍵」でその内容が紹介されている。
その鍵とは、①愛②合理的な知恵・生産的な知恵③喜びをみる知恵④手をつなぎあって生きる生
き方、の4つである。5・6年生の複式学級の社会科「各国の農業者の一人当り人口負担力」は、
「学校の麦と村の麦」をテーマにした、麦作りの授業へと発展した。その授業は、生徒たちの家
資料⑩
村の農業とアメリカの農業の比較
4.学校の麦と村の麦
十年一日のような、伝統的なしきたり農法は、学校とは何のかかわりもないことなのか?
アメリカ
デンマーク
イギリス
ベルギー
ドイツ
各国農業者の一人当りの人口負担力
34.43人
オランダ
23.14
フランス
16.40
イタリー
2.66
スペイン
11.96
日
本
10.30人
8.00
4.16
2.15
1.96
アメリカの百姓は、一人が34人半ほども養いながら、もっとらくしているのに、日本の百姓
は星をいただいて野良から帰るほど働きながら、わずか一人と首から下ほどの人間しか養い得
ていないということは、一体どういうことなのだろうか。日本の国土そのものが背負うどうに
もならない宿命なのだろうか。村の教師は、こんなことに目をつぶって「円満なる人格」を目
ざしておればいいのだろうか。
市町村別一人当りの病気件数
大都市(10万人以上)
0.563人
中都市( 5万人以上)
0.52人
小都市( 2万人以上)
0.54人
農 村
0.57人
山 村
0.60人
人間の健康に適した環境を持っているはずの農山村人が、不健康に見える都市の人間より多
く病んでいる事実の中には(さまざまな理由が考えられるにしても)、日本農法そのものの持
つ「無理」を覆いようがないと思うのであるが、私たち村の教師は、村の子どもたちを、平気で
こういう無理な農法の中につき出していていいのか。
「無理」は健康の点で禍を残すのみではない。精神的にも不機嫌を後に残している。これが
どれだけ村の空を曇らせ、それだけでなくても煤に黒ずんでいる家の中を陰惨なものにしてい
ることだろうか。
東井義雄著作集1
- 15 -
4.学校の麦と村の麦: pp.17-18 より抜粋
族への思いを詩にすることからはじまった。「今より以上に働いたら、おとっちゃんたちは死ん
じまいなる」資料⑨の授業は、親たちの労働に思いに馳せるだけでなく、さらにどうすれば親た
ちは、救われるのかという改善の方向に向かう。「頭、頭、頭だ!」とM男が叫ぶ。それを受け
「そうだ!」と東井は応える。「体は、もうこれ以上働かせられない、というところまで、お父
さんやお母さんは働いてくださっている。だが、働いていない所が一か所だけある。それは頭だ。
その頭を働かせるよりほかにもう手はないだろう」。その日の「特別教育活動」の時間に東井は、
子どもたちと学校園の麦まきの相談を行うのである。福島県の木田好次氏14「三十俵取りの麦作
り」を知り、生徒たちと学ぶのである。結果、村の麦の4倍の収量を学校園は達成する。この麦
がそれまでの農業(資料⑩)を変え、さらに村を変えた。
時代は、高度経済成長を迎える日本、1960年代である。現在とは大きく状況は異なる。しかし
東井の実践には、過去のものとは思えない力がある。農山村の抱える問題の過酷さの内容は、今
日とは異なるものの、深刻さと困難さは共通している。子どもたちの村への思いを育て、目を地
域に向けさせる実践は、わが国が現在直面する地域の再生に通じる。また学校教育がとりくむべ
き課題が示されている。
資料⑨「『村を捨てる』立場から」の段落後半に、教育に欠除するものは「土への愛である」
と述べている。「愛」は、まず「自分のもの」という意識からはじまる。例えば、農民は、まず
自分の田んぼの中でみつけた石ころは、畔や道路に放り出す。この場合、愛は自分の田んぼに限
られている。道を通る人への思いは、まだ育っていない。道が自分たちの共通の道だ、となった
時、石は道路の脇に、さらに道路の補強に活かされる。道を通して思いは、村に全体に広がり、
村の課題に向かうという。
第4節 地域と向き合う小・中学校教育
資料⑪
平成 10 年 3 月 小学校学習指導要領 第 2 章 各教科 第 2 節 社会〔第 5 学年〕〔第 6 学年〕の目標
(1)地域の産業や消費生活の様子,人々の健康な生活や良好な生活環境及び安全を守るための諸
活動について理解できるようにし,地域社会の一員としての自覚をもつようにする。
(2)地域の地理的環境,人々の生活の変化や地域の発展に尽くした先人の働きについて理解でき
るようにし,地域社会に対する誇りと愛情を育てるようにする。
(3)地域における社会的事象を観察,調査するとともに,地図や各種の具体的資料を効果的に活
用し,地域社会の社会的事象の特色や相互の関連などについて考える力調べたことや考えたこ
とを表現する力を育てるようにする。
(アンダーライン筆者)
資料⑫ 平成 10 年改訂 中学校学習指導要領 第 2 章 各教科 第 2 節 社会 目標
第2節 地理歴史 第1款 目標
我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特色についての理解と認識を深
め,国際社会に主体的に生きる民主的,平和的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質
を養う。
第3節 公民 第1款 目標
広い視野に立って,現代の社会について主体的に考察させ,理解を深めさせるとともに,
人間としての在り方生き方についての自覚を育て,民主的,平和的な国家・社会の有為な形
成者として必要な公民としての資質を養う。
(アンダーライン筆者)
14
木田式麦(移植麦)、大豆・甘藷―精農の技術(1952)など農業技術に関する著書多数 福島県いわき市出身
- 16 -
旧学習指導要領の小学校と中学校の社会科、高等学校の地理歴史・公民科の目標を例示した。
地域教育が文部行政においてどのように認識されていたかがよく分かる。地域教育は小中学校で、
高等学校は国際社会をということである。地域教育が高校教育で研究テーマとならない理由が学
習指導要領にあった。
高等学校学習指導要領「地理的諸課題を地域性を踏まえて考察し」は、「国際社会を主体的に
生きる」ためのものであって、地域活性化のために地域と向き合うというものではない。あくま
でも国際社会に向けてどうのように生きるかを課題としている。今日の地域社会が抱える課題や
問題と向き合うことは、平成10(1998)年改訂において求められていなかった。むしろ「国際化・
情報化」への対応こそが当時の高等学校教育の大きな課題であった。
資料⑬
平成 11 年改訂
高等学校学習指導要領
第2章
地理歴史・公民
第 2 章 普通教育に関する各教科 第 2 節 地理歴史 第 1 款 目標
我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特色についての理解と認識を深め、
国際社会に主体的に生きる民主的、平和的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質を養う。
第 3 日本史 A1 目標
近現代史を中心とする我が国の歴史の展開を、世界史的視野に立ち我が国を取り巻く国際環境
などと関連付けて考察させることによって、歴史的思考力を培い、国民としての自覚と国際社会
に主体的に生きる日本人としての資質を養う。
第 5 地理 A 1 目標
現代世界の地理的な諸課題を地域性を踏まえて考察し、現代世界の地理的認識を養うとともに、
地理的な見方や考え方を培い、国際社会に主体的に生きる日本人としての自覚と資質を養う。
第 2 章 普通教育に関する各教科 第 3 節 公民 第 1 款 目標
広い視野に立って、現代の社会について主体的に考察させ、理解を深めさせるとともに、人間
としての在り方生き方についての自覚を育て、民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者とし
て必要な公民としての資質を養う。
(アンダーライン筆者)
1996年7月、文部省は中央教育審議会答申を受け、「21世紀を展望した我が国の教育の在り
方について」と題して第一次答申を発表した。第2部_第3章「これからの地域社会における教
育の在り方」の「(1) これからの地域社会における教育の在り方」の3段落目に「現実には、地
域社会での活動を通しての子供たちの生活体験や自然体験は著しく不足していると言われ、また、
都市化や過疎化の進行、地域における人間関係の希薄化、モラルの低下などから、地域社会の教
育力は低下していると言われている。」という一節ではじまる。「教育力の低下」が地域社会・
地域経済の崩壊にある、との考察は見られない。
第1部「今後における教育の在り方」の冒頭では、「戦後、我が国は、廃墟の中から欧米諸国
に追い付き追い越すべく、努力してきた。その結果、驚異的な経済成長を遂げ、世界経済の中で
大きな地位を占めるとともに、所得水準の面でも世界のトップレベルに達し、今や国民一人一人
が豊かさを謳歌するに至っている。」と謳いあげている。高度経済成長の絶頂期、バブルの崩壊
は、経験済みではあるが、なお世界経済はリーマンショック(2008年)という金融危機を迎える
前のことである。文章の端々に経済への自信がみなぎっている。
小 括
商業教育にとって地域教育・地域教材は、先に紹介した論文数の例を引くまでもなく、馴染の
- 17 -
ないテーマである。それは商業科が「国際化・情報化」にどのように対応すべきかの議論に多く
の時間を費やし、学科改編や機器の充実につとめてきたことによる。それに対して、家庭科教育
は、ホームプロジェクトや家庭クラブの活動を通じて地域と深く関わってきた。独居老人への弁
当づくりは、ローカルニュースとしてとりあげられた。また農業教育では、生産物の地域販売を
通じた地域との交流などは、他学科に先んじている。農業クラブは、教育課程にも位置づけられ
た活動であり、「戦後、学制改革に伴い農業高等学校ごとに学校農業クラブの組織づくりが進め
られ、都道府県単位での組織も成立するようになった。年に一度、全国大会が行われる。様々な
プロジェクト(研究)の発表や、測量競技や農業鑑定競技などが行われ、各校の代表がその技術
を競うものとなっている。
農業高校生にとっては、さながらインターハイのようなものといえる。」
(日本学校農業クラブ連盟より抜粋)、地域との関係は、戦後すぐに始まった。
大分県教育委員会は「地域に根ざした農業教育推進事業」(平成22年度~24年度)を三重総合
高校、三重総合高校久住校、宇佐産業科学高校、国東高校の4校で実施してきた。この事業では、
成果を図る視点として、①地域の農業課題への理解と深化 ②地域を支える若者の育成 ③農業教
育の活性化 ④農業学習を生かせる進路への誘導 の4点をあげている。
商業教育がなぜ地域と向き合って来なかったかの議論は、建設的ではない。教科として遅れを
恥じる必要もない。むしろ、今こそ、商業高校の出番であるとの自覚が求められる。農業・林業・
水産業などの一次産業をどのように六次産業化するかが、地域の大きな課題であるからだ。生産
だけでなく、流通・販売も加えたビジネスモデルの創造である。改訂学習指導要領の新科目「商
品開発」「ビジネス経済応用」のテーマは、起業家教育をすすめ、地域経済の活性化の提起であ
る。起業家教育の内容の多くは、商業教育である。商業教育の現場力が今、問われている。
- 18 -
第3章
課題研究「四日市学」
四日市商業高校の課題研究「四日市学」は、2005年にスタートした。2000年にとりくんだ「が
んばれ商店街」がその先駆けであった。大店法15が廃止され、商店街がさらに苦境に立たされる
のではないか。郊外の大型店に行けない人たち(高齢者)の生活や地域の祭り、育成会(子ども
会)になくてはならない存在である「商店街を守ろう!」とはじめたものであった。
地域と向き合うことの意義を生徒たちとの活動を通じて学んだことを紹介する。あわせて商業
教育が地域と向き合うことで、何ができるのかを明らかにしたい。
第1節「がんばれ商店街」から「四日市学」へ
2000年6月1日、中小小売店の保護を目ざした大規模小売店舗法が廃止された。同法は、大型店
の出店にあたって地元の商工会議所の意見を聴くことが定められ、それに沿って調整が進められ
た。地域の商店街と大型店の共存を図る法律だった。廃止から2年の2002年1月、近鉄四日市駅
前のジャスコ四日市店(岡田屋〔オカダヤ〕創業店)が撤収され、郊外にある四日市市尾平町に
大型ショッピングセンターを開店した。旧店に隣接の諏訪栄商店街にとって大きな打撃となった。
2000年4月、商業教育として大規模小売店舗法廃止の問題を教材化すべきではないのかと強く
思った。地域経済とりわけ小売店への影響は深刻である。そこではじめたのが「がんばれ商店街
-高校生プロジェクト-」で、課題研究として商店街活性化を高校生の視点で考えるというもの
だった。ホームページを開設し、全国の商業高校生に商店街活性化のとりくみを呼びかけること
を掲げた。講座は女子10名でスタートし、ホームページの開設までとりくめた。しかし翌2001
年は、希望者が最低開講人数を下回り、継続はならなかった。その後は「商業美術で活性化」と
なった。
四日市公害の教訓を活かすための環境教育として、2004年4月、三重大学人文学部環境地理学
教授の朴恵淑氏によって共通教育「四日市学」が開講された。新聞でも「四日市学」は紹介され、
筆者も知った。「がんばれ商店街」を「四日市学」で復活できないか。筆者は、四日市商業高等
学校なら四日市学を名乗っても許されるのではないか、また、公害だけが四日市ではないだろう
と考え、2005年、四日市商業高等学校 課題研究「四日市学」を立ち上げた。
商業教育において、地域とスト
資料⑭
課題研究「四日市学」 年度別研究テーマ
レートに向き合える科目は、課題研
究である。小中学校で言えば総合学
習にあたる。教科書のしばりがなく、
4 月に研究テーマを生徒たちと話し
合って決定した。担当者の判断で授
2005年「JR四日市駅周辺の商店街の研究」
2007年「がんばれ商店街から高校生アセスメント」
2008年「商店街活性化から脱車社会へ」
2009年「本町通り活性化計画 -図書館で町づくり-」
2010年「市のまち四日市 -即売場の研究- 」
2011年「ポンポコミュージアム -まちかど博物館- 」
業計画をすすめることができる科目
である。
「四日市学」は、週2時間、木曜日の午後に授業がある。講座の目標は「商店街の活性化と町
づくり」、これまでとりくんだ研究テーマは資料⑭の通りである。2008 年度「商店街活性化か
ら脱車社会へ」では、近鉄四日市駅周辺のマンション建設ラッシュをフィールドワークで知り、
マンションの建設年度を調べるところから研究が始まった。またマンションの住民を対象とした
15
(だいてんほう)2000 年に廃止された「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律」の略称
- 19 -
アンケート調査では、通院や介護、さらに日常生活の利便性がマンション入居の大きな動機であ
ることを明らかにした。高齢化対策での町づくりは、路面電車へと発展し「商店街活性化から脱
車社会 -四日市に路面電車を-」
は、全国高等学校生徒商業研究発表大会の出場権を獲得した。
それぞれのとりくみの概要を年度順に紹介する。
1)商店街活性化シンポジュウムを開催 -2005 年度-
2005 年は、四日市商業高等学校 課題研究「四日市学」
のスタートの年である。研究テーマは「JR四日市駅周辺
の商店街の研究」、従来の課題研究の授業スタイルを大き
く変えるフィールドワークを採用した。受講生は 11 名、女
子のみとなった。講座説明会での「伊勢おかげ横丁での現
地調査を考えている」を「遊びに行ける」と勘違いした生
徒が何人かいた。若干の不安を覚えながらも、商店街調査
を無事終えることができた。アンケートの集約と分析、さ
写真② 四日市市本町プラザ 2005.12.5
らに高校生の視点での改善案をまとめた。写真は、2005 年 12 月に開催した「本町通り商店街活
性化シンポジュウム」後に撮影、当時市長であった井上哲夫氏との記念写真である。
2005 年度は初年度ながら、幸運に恵まれた年だった。「本町通り商店街町おこし社会実験」
が 2005 年 12 月 3~4 日の 2 日間行われることになり、イベントのひとつとして四日市学が提案
した商店街活性化シンポジュウムが採用され、市の後援を受けることができた。生徒たちによる
研究発表とシンポジュウムには、四日市市からは市長、本町通り商店街振興会の代表理事、助言
者として社会実験を行った名古屋大学の研究者がパネラーとして感想と意見を述べた。市民の参
加も 50 名を超えるなど、四日市学が地域と深く関わっていくきっかけとなった。
2)けなすより活かせ「高校生アセスメント」-2007 年度-
資料⑮ 火災跡地復興プランを発表
2006 年度は、受講希望者が最低開講人数 5 名を下回り講座が
不成立となった。前年度のシンポジュウムが後輩たちに「そん
な難しいこと、私たちには無理」との印象が強く残ったようだ。
2007 年度は、前年度の反省を踏まえた講座説明の結果、講座を
女子 7 名で開講することができた。「がんばれ商店街から高校
生アセスメントへ」は「商店街活性化のための町づくり」が新
しいテーマとなった。何億円ものお金を投じて造られた公共施
設が役割を果たしていないのでは?から始まった。四日市商業
高校生対象のアンケート調査で施設の利用度・認知度を調べた。
当時、地下駐車場問題が全国的に話題になっていたので、生徒
たちも問題意識は高かった。「無駄な公共事業」という言葉が
テレビに流れた。生徒たちの意見は若干違っていた。それは「け
中日新聞 2008.12.8
なすより活かせ」であった。ダメだ!とけなすだけではダメ、地域の活性化のためにどのように
すれば、期待に応えられるかを私たちで提案しよう!であった。
2007 年 8 月、高等学校商業研究発表大会県予選を勝ち抜き、東海地区大会に出場した。結果
- 20 -
は最下位。生徒だけでなく筆者も来年は、屈辱を必ず晴らす!との思いを強くした。2007 年 9
月 17 日、諏訪栄商店街火災のニュースが飛び込んできた。商店街活性化をテーマとしてきた四
日市学の生徒たちは、何かしなければ、役に立ちたいとの思いを強くした。後片付けか、募金活
動との声もあったが、課題研究を通じて支援していくとなり、商店街復興プランの発表へとつな
がった。
3)商店街活性化から脱車社会へ -2008 年度-
資料⑯ 研究大会プレゼン資料「LRT の活用」
2008 年度は、火災跡地に複合型商業施設をという提案
に加えて、新たな課題にとりくんだ。それは 4 月のフィー
ルドワークで見た、近鉄四日市駅周辺のマンションの建
設ラッシュである。人口の減少が続いた市街地に変化が
はじまっているのでは、という疑問からスタートした。
四日市市の統計資料を調べた結果、市街地の人口がわ
ずかに増加していることが分かった。変化を町づくりに
活かせるのではないか、となった。そこでマンションで
生活する人たちを対象に「町づくり意識調査」を実施した。調査結果を四日市大学教授岡良浩氏
に助言を求めた。LRT(Light Rail Transit)がヨーロッパでは、主流になっているというこ
とを学んだ。高齢化がすすむ市街地、「路面電車を四日市に走らせよう」が新たな研究のテーマ
となった。路面電車の情報をインターネットで集めた。愛知県豊橋市の路面電車を知り、学校の
支援を得て現地調査を実施した。調査活動の成果は、その年(2008 年)の夏休みに名古屋で開
催された全国高等学校生徒商業研究発表大会東海地区大会で実を結んだ。優勝を勝ち取り、全国
生徒商業研究発表大会への出場権を手にした。
4)本の町、本町に図書館を -2009 年度-
資料⑰ 研究大会(2009 年)プレゼン資料
2009 年、第 17 回全国高等学校生徒商業研究発表大会が
三重県で開催された。全国大会出場は、当然のように期
待された。しかし、県大会では第二位、全国大会への開
催県特権は他校に奪われた。四日市学は第二位、辛うじ
て東海地区大会への参加権のみとなった。実力で東海地
区大会を勝ち抜かなければ全国への道はない、という
崖っぷちに立った。担当者である筆者はすでにあきらめ
ムードであったが、吉原教諭(全国大会出場経験者)と
生徒たちは燃えた。「ここまで来たのなら、やるしかない」との思いで結束した。コンクールや
競争とは、縁のないところを歩いてきた筆者にとっては、驚くばかりであった。全国大会に向け
てテーマの見直し、内容の再点検、仮説の説得性、さらに調査不足をどうすれば補えるかを中心
に洗い出し、修正を加えていった。前年度の「路面電車で町づくり」から「文化で町づくり―本
の町、本町に図書館を―」へと発展し、県内にあるユニークな図書館との出会いにつながり、東
海地区大会では最優秀賞を手にすることができた。
- 21 -
5)市のまち四日市「即売場の研究」-2010 年度-
資料⑱
2010 年 研究大会プレゼン資料
2010 年度のテーマは「市(いち)のまち 四日市」で
ある。商店街活性化のヒントを商業の原点である市(い
ち)に求め、研究しようとなった。即売場の人たちとの
出会いから、スーパーや大型ショッピングセンターを中
心としたライフスタイルをもう一度見直すべきではな
いか、という問題意識が生徒たちに生まれた。スーパー
マーケットの「安価で良質」「利便性と安全性」は、本
当にそうなのか。市には、人と人とのふれあい、コミュ
ニケーションがある。また「地産池消」の運動も知った。生徒たちは、大型専門店やショッピン
グセンターだけではない、新しいライフスタイルを提案した。商店街活性化の展望を新しい即売
場の建設で開こう!というものである。目玉は「地産地消の『道の駅』を四日市港に」となった。
この年も全国大会に出場することができた。
6)ポンポコミュージアム「まちかど博物館」-2011 年度-
本町通り商店街が大正百年祭を 2011 年 10 月 23~24
日に開催することになった。4 月、商店街振興会から参
加要請を受けた。生徒たちに矢絣と袴姿でイベントを盛
り上げてほしい、というものである。
第一回の実行委員会から生徒たちは参加した。また
生徒たちは、商店街振興会のイベントとは別に、独自に
大正百年祭企画「まちかど博物館」の製作を決定し、早
速市内にある「NPO町かど博物館」の聞き取りを行っ
た。ウミガメ保護の「カメカメ博物館」、「日曜大工で
写真③ 本町通り大正百年祭
家づくり」など、多彩なテーマに驚いた。また本町通り商店街にも昔の資料が多数保管されてい
ることを知り、商店街を丸ごとバーチャル博物館とする「ポンポコミュージアム」を立ち上げ、
製作にとりくんだ。5 月には、協力店の募集とチラシの作製、さらにホームページを活用しての
大正百年祭の宣伝にとりくんだ。
取材で発掘した資料は、お店の歴史を紹介するパネルとなった。
イベント当日、パネルは商店街の店頭を飾ることになった。各店舗の歴史を発掘することで創業
者の思いに触れることができた。お店の人たちから感謝の
資料⑲ HP「ポンポコミュージアム」
ことばが寄せられた。
課題研究「四日市学」は、地域と向き合う授業である。
活動を通じて生徒たちは、地域の課題を知り、調査と研究
の後、改善プランを提案した。どの課題も正答はない。し
たがって改善プランもひとつの案であって正答ではなく、
発表がどれだけ説得力があるかが問われる。プレゼンテー
ションには、発声に始まり、内容の展開や画面デザインな
ど様々な学びがある。教科書の学びにはない、地域への使命感と責任感が生まれた。また商店街、
市役所、大学への訪問など、たくさんの人たちとの出会いは、彼らを大きく成長させた。
- 22 -
第2節 地域に高校生の出番を
1)市役所・都市計画課との関わり
2008 年は、前年度の「諏訪商店街復興プラン」を引き継ぎ、スタートした。この経過は既述
の通りである。研究成果を生徒商業研究発表大会だけで終わらせるのではなく、地域に還元すべ
きだ、また、そのことで研究の深まりとモチベーションが高められると考えた。手始めとして、
四日市市都市計画課を訪ねた。研究テーマ「町づくり」や「商店街活性化」は、「都市計画」と
考えたからだ。後日、都市計画課は、道路整備を中心とした課であって、正しくは、商工農水部
こそ、まず訪問すべき課であったことを知った。見当外れの訪問であったが、課の人たちは、誠
実にまた親切に対応してくれた。多忙な時間を割いて、生徒たちの提案と質問に応えてくれた。
この経験はその後の研究につながった。商店街活性化と町づくりの提案が評価され、市民文化奨
励賞を受賞した。生徒たちには、いい刺激となった。校内でも「地域への貢献」が学校改革ビジョ
ンに盛り込まれるなど、四日市学への理解が深まった。担当者も1名増員となり、2 名体制とい
う破格の扱いとなった。
2)発表会とメディア効果
新聞やテレビは、青年や子どもたちの活動には、敏感に反応する。「商店街活性化と町
づくりの提案」も学校の枠を超えて地域や市民の話題となった。 2008年1月23日の発表会で
は、記者に囲まれ取材を受けた。校内研究発表会に際して、事前に伊勢・中日・毎日・朝日・読
売の新聞社とNHK・三重・CTY(ケーブルテレビ)のテレビ局、さらに四日市市議会、四日市市
都市計画課、四日市商工会議所、諏訪栄商店街振興会にも報告書と案内状を配布した。この一連
のはたらきかけは、中央大学経済学部教授八幡一秀氏の「研究の成果を地域やメディアに配布す
ること」というアドバイスによるものである。新聞やテレビなどマスコミへの働きかけの経験が
なかっただけに驚いた。
記者クラブへのポストインは効果抜群で翌日には電話による取材の申し込みが、朝日・毎日・
中日・伊勢の4社に加えて、地元のケーブルテレビからも入った。単なる校内の発表会がマスコ
ミの注目を集めることになるなど、想像もしていなかっただけに驚いた。また四日市学がマスコ
ミとの連携によって、地域への発信力を持つことも知った。発表会の翌日、新聞記事を見たとい
う人からの問い合わせ、商店街からは感謝のことばが返ってきた。生徒たちの提案が商店街活性
化と火災跡地の復興を願う、多くの人たちの思いと重なったからである。
3)生徒たちの学び
「四日市学」を通じて生徒たちがどのように成長したかを、彼らが作成した 2007 年度生徒商
業研究発表大会用レポートで検証する。とくにこの年の調査活動「商店街復興プラン」は、翌年
に引き継がれ、全国大会につながる大きな成果となった。それは復興プランをまとめる前にドラ
マがあったからだ。全国大会に提出した報告から抜粋である。
「火災現場は、
建物の瓦礫と焼け焦げた臭いに満ちていました。被災された人たちは、ただ黙々
と片付けていました。私たちは、何と言葉をかけていいのか、眺めているだけでした。その時『挨
拶もなく、何をしに来たのだ』という怒りの声が上がりました。返す言葉も無く、泗商生である
ことと、何か出来ることがあれば手伝いたい、という思いを述べるだけでその場を引き上げるこ
とになりました」。叱りつけられた原因の多くは、担当者である筆者にある。事前に被災された
- 23 -
方と打ち合わせを行わず、出向けば「野次馬の一人」と受け取られると考えるべきだった。被災
者の心境、お店を火災で失い、片付けをする心境に思いを馳せることができなかった無神経さを
強く反省した。怒りの声が静まり、一礼して振り返った時、生徒たちは困った顔で筆者からのこ
とばを待っていた。
火災現場を引き上げた後、彼らは教室で次のような話し合いを行った。「重たい気持ちを引き
ずりながら反省のことばで始まりました。被災された方の気持ちを考えず行動したことなどが出
ました。反省とともにこのままでは終われない、何かしなければという思いは、みんなのもので
した。募金活動、後片付け、復興支援イベントなどもでましたが、結論はやっぱり四日市学、調
査と研究で貢献したい」。実に冷静で大人の議論だった。生徒たちの成長を頼もしく思うととも
に、怒りの声に生徒たちは逃げ出すのではないか、考えた自分を恥じた。
資料⑳
商店街調査から復興プランの作成
「がんばれ商店街からまちづくりアッセサーへ」
1.はじめに
今年、私たちは、「高校生アセスメント-高校生の目で地域
を評価する-」という取り組みを考えました。5月に四日市市
の都市計画課の方々に私たちのアセスメント結果を聞いていた
だきました。四日市の貴重な財産である「四日市港公園・くす
のきパーキング・ポートビル・四日市ドーム」が高校生にとっ
てどうなのか。「けなすより活かせ」を基本に改善案もまとめ
ました。市からはアセスメント結果について意見や評価をいた
だきました。また改善案についての回答もいただきました。
それらの取り組みを夏休みに三重県高等学校生徒商業研究発
表大会(2007.8/4・津)で発表し、三重県代表に選ばれ東海地
区大会(8/18・名古屋)に出場しました。残念ながら全国大会へ
の出場権を手にすることは出来ませんでしたが、大きな達成感を味わうことができました。
2.諏訪商店街火災と新たな課題
2学期は、3年生にとって就職や進学にたいへん忙しい学期です。私たちも忙しく日々を過ごして
いました。そんな私たちに9月17日(月)諏訪商店街火災のニュースが飛び込んできました。その週
の木曜日、課題研究の時間に現場に行きました。諏訪商店街の
火災は、私たちをはじめ市民にとってもたいへんショックな
ニュースでした。よく買物に行く商店街だったというだけでは
ありません。商店街活性化を願う私たちにとってその願いを打
ち砕くものだからです。火災現場は、建物の瓦礫と焼け焦げた
臭いに満ちていました。被災された人たちは、ただ黙々と片付
けていました。私たちは、何と言葉をかけていいのか、眺めて
いるだけでした。その時「挨拶もなく、何をしに来たのだ」と
いう怒りの声が上がりました。返す言葉も無く「泗商生である
ことと、何か出来ることがあれば手伝いたい」という思いを述
べるだけでその場を引き上げることになりました。
諏訪商店街火災現場 2007.9.17
重たい気持ちを引きずりながら翌週の課題研究の時間は、反省のことばで始まりました。被災された
方の気持ちを考えず行動したこと、また事前に十分な打ち合わせを行わなかったことなどが出ました。
反省とともにこのままでは終われない、何かしなければという思いは、みんなのものでした。募金活動、
後片付け、復興支援イベントへの協力などもでましたが、結論はやっぱり四日市学、調査と研究で貢献
できたら、というものでした。
3.「ピンチをチャンスに」商店街調査
商店街調査の実施にあたって、まず考えたことは、商店街火災は被災された方には大変なことだけど、
商店街にとっては「チャンス」だ。中心市街地に現れている新しい変化、マンションの建設ラッシュと
結びつけることで商店街活性化に展望が持てるのではないか。「ピンチをチャンスに!」でした。話し
合う私たちの気持ちも明るくなりました。
- 24 -
調査は、先輩たちの内容を基本に考えました。店舗の業種別分布図を中心に空き店舗のようすを図
にしました。また、活性化へのアイデアは、マンションの人たちのニーズと意識調査からアンケートで
前回聞けなかった「生活と情報」に加えて、諏訪栄商店街への率直な
意見を直接マップに落とし込もむことも考えました。活性化へのヒン
トが見つかるとの思いを強くし、必要な問いの絞り込みを行いました。
①商店街地図の作成 ②人の流れ、通行量調査 ③新しい住民への
アンケート。特に③の調査は、空洞化した中心市街地に新しい住民
として登場したマンションの人たちの意識を数量化するものです。
具体的な日程と内容は、次の通りです。
10 月 11 日 店舗実地調査
11 月 15 日 通行量調査
11 月 22 日~28 日 住民意識調査 マンション住民意識調査から
①百貨店・スーパーにはない特色あるお店
②もっとおしゃれな町に
③街頭を明るくする。音楽を流す
④安心して通行できる環境作りをしてほしい
⑤子どもが安心して遊べる場所
⑥コンビニを作ってほしい
⑦もっと若者が集えるお店
⑧イベントがもっと多くの市民に伝わる方法
⑨入り易い店構えを
⑩名古屋の大須によく似た町に
⑪若者から老人までゆったりと楽しめる場所に
⑫全体を昭和の街並風に、
⑬見物しながら自然に品物が買えるような店舗づくり
⑬夕食をとれる所が限られている
⑭「くすの木パーキング」を無料解放
4.商店街再生プラン
11 月、火災の跡地が意外に大きいのに驚きました。またジャスコB館跡地には、マンションが建ち
ます。さらに市役所裏・諏訪新道・国道一号線沿いにも新しいマンションが建設中です。空洞化した中
心市街地や商店街にとっては、うれしいことではないでしょうか。しかし受け皿としての商店街に新し
い動きが見えません。都市計画課の方との懇談でも、JR四日市周辺の再開発・中央緑地帯再利用のア
イデアが求められましたが、財政難から新たな公共施設建設は無理だと聞きました。「ピンチはチャン
ス」は、今回の火災にも通じます。今のまま放置することは、せっかくのチャンスを失うことになるの
ではないでしょうか。今回の調査で諏訪商店街や地域の期待がたいへん大きいものを感じました。もち
ろん各店の努力もたいせつですが、調査した空店舗状況・商店評価・通行量調査からは、スーパーサン
シを除けば個々のお店の努力を超えた危機的な状況にあることを物語っています。このことはお店の方
が一番よく感じておられることでしょう。
今回の調査のまとめに代えて跡地に「あればうれしいな!楽しいだろうな!」という施設のイメー
ジ図を考えてみました。基本は、被災された方のお店の「再建」です。次に考えたのは、新しいマンショ
ンの人たちの希望・要望、「あればうれしい・楽しい」ものを私たち流のアイデアをもとに積み上げた
ものです。物ではなく心(サービス)を、健康・スポーツ・温泉・グルメ-が特徴です。特に1階は、
「昭和」を基調にしたレトロな店舗、アンケートにもあるテーマをもった商店街づくり、
「おかげ横丁」
をモデルにした「三丁目の夕陽」です。中心市街地にないもので、他店と競合しないもの。多くの方の
希望・要望に応えるものではないかと思うのですが、どうでしょうか。皆さんのご意見をお願いします。
火災跡地利用プラン「複合型商業ビル」
1階
2階
3階
4階
5階
6階
7階
「昭和」をテーマにした小売店舗ゾーン
スポーツジム
温水プール
多目的小劇場
レストラン(家族・グルメ向き)
サウナ・マッサージ
銭湯スパ(温泉:入浴500円)
出典:2007 年度 全国高等学校商業研究発表大会 概要報告書より転載
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第3節 卒業生意識調査の概要
2012 年 12 月 1 日から 2 週間、「課題研究『四日市学』卒業生意識調査」を実施した。課題研
究「四日市学」が生徒たちにとってどのような学びであったか、地域への認識が課題研究でどの
ように変わったか、また、卒業後の進路への影響は、など四日市学の教育的意義を分析するもの
である。卒業生 39 名を対象にアンケート用紙と返信用封筒を郵送した。集約結果は資料⑳の通
りである。なお、○付数字は集約数(実数)を現す。返信総数は、19名となった。
資料⑳
課題研究「四日市学」卒業生 意識調査 結果
( 実施期間 2012.12.1-20 )
Ⅰ.基本調査 回収数 19名/39名
* 回答集計は実数で、○枠の数字
↓
③は、3 名
1.年度別回答者数
[2005④ 2007② 2008④ 2009② 2010④ 2011③] [ 男① 女⑱ ]
2.卒業後の進路
[ a.就職⑥ b.進学⑬ c.家事手伝 d. その他
3.就職企業について 4.進学大学について 5.家業について
6.現在の状況
[・在職中⑩・在学中⑦・専業主婦②・転職・求職中・その他 ]
Ⅱ.課題研究「四日市学」について
1.3 年生での課題研究「四日市学」の印象
「期待どおりでしたか?」
不満 1・2・3②・4⑦・5⑩ よかった
2.「目的や意義が理解できましたか?」できなかった 1・2・3⑥・4⑥・5⑦ よくできた
3.課題研究「四日市学」の授業での「あなたの役割やとりくみの印象・感想について?」
研究/調査活動について
①路面電車による地域活性化だったけどまあまあできた
②メンバーがなかなかそろわず大変だった
③高校生のうちに、地域の方とふれあう機会があったのは、とても成長できて良かった 5
④商店街を「自分たちで変えたい」と強く思いながらとりくんだ
⑤大人の方に調査をしたり、話しを聞いたりする時はすごく緊張した
⑥リーダーのサポートが大きかったと思います。少人数なので役割を意識したことは
ありません
⑦はじめは商店街に人は来ないだろうと思っていましたが常連さんがけっこう多いことに
驚きました
⑧実際に街へ出て、調査することでよりリアルに四日市を知ることができました
発表活動について
①5人しかいなくて大変だったが楽しかった
②プレゼンでどのようにしたら人に伝わるのか、どのように話せばいいのか難しかった
③発表のおかげで、大勢の人の前で話しをすることは得意となり活動に役立っている③
④スピーチ担当でした。話し方や表情など気をつけた。予想以上に緊張した
⑤私は一番だったので責任重大だった。暗記するのが大変でしたが、完璧だった時のうれし
さはすごく大きかった
⑥大会に出ることで、ヤル気がでました
⑦休みの日に学校に来てまとめをしてチームワークがすごくよかった。楽しかった
4.「調査に参加して、あなたの地域社会についての認識に変化がありましたか?」
変化なし 1・2③・3⑤・4⑦・5④ 大きく変った
5.「3・4・5」の方へ具体例・思い出があればご記入ください
①普段あまり商店街に行かないので、商店街のほとんどがシャッターをおろしているので驚いた
②育った町なのでより誇りを持てたような気がした
③鈴鹿市で住んでいるので、四日市のことは全く知らなかったけれど地域の抱える問題を理解すること
ができ、何とかしたいと思うようになった 4
④経済学の講義で「どうしたら経済は活性化していくのか?」という課題をだされた時一番に考えた事
が四日市学で学んだ(取り組んだ)地域活性化の事でした
⑤今でも大学での地域活動に参加しています。発表とかはないのですがボランティアとしての達成感は
やなり気持ちいいものです
⑥路面電車の提案で住民の方の意見を聞く大切さを知りました。若い世代が街へ顔を向けることで元気
を与えることが出来たと思います。一部、意見を聞きっぱなしで申し訳なかったです
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6.課題研究「四日市学」で「あなたの進路意識が変わりましたか?」
変化なし 1⑨・2②・3④・4④・5 大きく変った
7.「3・4・5」の方へ具体例があればご記入ください
①高校生は地元に残りますが、地元を活性化させたいならばもっと高度な資格・免許・地位(政治家)
を目指すべき
②今、名古屋の大学に通っていますが、就職は地元でと考えています
③特に何ができるかよくわかりませんが四日市に住んでいる限り地域の行事に参加したいと
思います
④大正百年祭で袴をはくことができてうれしかった。お店の人たちとの交流もできた
8.課題研究「四日市学」で「地域への愛着が深まりましたか?」
変らず 1①・2②・3④・4⑥・5⑥ 深まった
9.「3・4・5」の方へ 具体例があればご記入ください
①四日市に住んでいないので、それほど愛着が深くなったわけではないが、四日市のいろいろな姿を学
べてよかった
②四日市がもっと活性化してほしい 2
③四日市のことが大好きになった。今も学校以外の時間は四日市でバイトをしたり、話した
りしている。たまに慈善橋即売場に行きます
④大型スーパーやコンビニができたために寂れていきますが、「地域にしか無いもの」があ
ることに気づきました
⑤まだまだ知らないことがたくさんあることを知りました。「こんないいことがあるだ」を
見つけたときはすごく楽しかったです
⑥買い物はできるだけ地元でしようと思いました。
⑦何もない所ですが、住みやすくあたたかい場所だと実感しました
⑧いつも笑顔で頑張ってねと言われたから
⑨四日市学をやるまでは四日市について何も思わなかった。でも四日市学をしてからは、
四日市に新しい施設が増える毎に何か嬉しくなった。
Ⅲ.これからの四日市学について
1.課題研究「四日市学」を「今後もとりくむべきだと思いますか?」
思わない 1・2・3④・4⑧・5⑦
強く思う
2.今後 課題研究「四日市学」というサイトを立ち上げ、地域活性化(商店街・町づくり)
についての意見やアイデアなどの交換ができればと考えています。
関心なし
1①・2①・3⑧・4③・5⑥
関心あり
調査結果4.の「調査に参加して、
あなたの地域社会についての認識に変化がありましたか?」
の問いに対して、5_② 育った町なのでより誇りを持てたような気がした 5_④ 経済学の講義
で「どうしたら経済は活性化していくのか?」という課題をだされた時、一番に考えた事が「四
日市学」で学んだ地域活性化の事でした 5_⑥ 路面電車の提案で住民の方の意見を聞く大切さ
を知りました。などの感想が印象に強く残った。
商店街活性化への示唆に富んだ意見があった。それは「若い世代が商店街へ顔を向けることで
元気を与えることが出来たと思います。一部、意見を聞きっぱなしで申し訳なかったです」であ
る。自分たちが関心をもつことでお店の人たちのやる気を引き出せたのではと感じている。さら
に「聞くだけで応えることのできなかった」心苦しさをことばにしている。調査研究という地域
と距離を置いた活動であっても、人と人とのふれあいの中で育つものがあったようだ。それは調
査に協力してくれ人への感謝であり、使命感ではないかと思う。現地調査に入る前の注意事項の
ひとつとして、担当者が口にしたものではないことをとくに記しておきたい。なお、詳しい分析
は次節で行う。
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第4節 課題研究「四日市学」卒業生意識調査の分析
1)基本調査から
資料 21 調査協力者 進学者が多数
Ⅰ.基本調査 回収数 19名/39名
1.年度別回答者数 [2005④ 2007② 2008④ 2009② 2010④ 2011③]
2.卒業後の進路 [ a.就職⑥ b.進学⑬ c.家事手伝 d. その他 〕
* 集計は○内の数
[ 男 ① 女 ⑱ ]
出典:課題研究「四日市学」卒業生 意識調査より
まず回収結果について触れておきたい。卒業生39名に対して30名前後を期待したが、19名とい
う結果に終わった。昨年(2012年)3月に卒業した生徒から8年の年月を経過した生徒まで、多様
な進路を歩んだ生徒たちに思いを巡らせれば、19名の生徒たちの回答は、貴重なものである。ま
資料 22 講座は好印象
Ⅱ.課題研究「四日市学」について
1.3 年生での課題研究「四日市学」の印象
2.「目的や意義が理解できましたか?」
意義は分かれる
「期待どおりでしたか?」
不満 1・2・3②・4⑦・5⑩
できなかった 1・2・3⑥・4⑥・5⑦
よかった
よくできた
た回収数は年度により多少の違いはあるが、年度による未回収が皆無であった。2006年度は、講
座が不成立で空白となっているものの、各年度から2通以上の回答を集めることができた。
卒業後の進路では、就職6名、進学13名である。四年制大学が多いことが印象に残った。
「期
待通りだったか」の問いには「よかった」レベル5が10名で50%超、4が7名37%と好評である。
「目的や意義が理解できましたか?」では、レベル5が8名、4が6名、3が6名とやや分かれ
た。このことは「四日市学」の学びが、意義や目的だけではない、それ以外の要素が生徒たちの
評価「期待どおりでした」10名「50%超」という結果につながったと思われる。
2)研究/調査活動について
「研究/調査活動について」の自由記述に、活動をどのように見ていたか、また研究調査が彼
らをどのように変えたかを知ることができる。特に「③高校生のうちに、地域の方とふれあう機
資料 23 研究・調査活動について
3.課題研究「四日市学」の授業での「あなたの役割やとりくみの印象・感想」を述べてください
研究/調査活動について
①路面電車による地域活性化だったけどまあまあできた
②メンバーがなかなかそろわず大変だった
③高校生のうちに、地域の方とふれあう機会があったのは、とても成長できて良かった 5名
④商店街を「自分たちで変えたい」と強く思いながらとりくんだ
⑤大人の方に調査をしたり、話しを聞いたりする時はすごく緊張した
発表活動について
①5人しかいなくて大変だったが楽しかった
②プレゼンでどのようにしたら人に伝わるのか、どのように話せばいいのか難しかった
③発表のおかげで、大勢の人の前で話しをすることは得意となり、いろいろな活動に役立っている
④スピーチ担当でした。話し方や表情など気をつけた。予想以上に緊張した。
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会があったのは、とても成長できて良かった」と、5名の生徒が同じ記述である。また④は、こ
れまで立ち寄ることのなかった商店街を身内や親せきのことのように感じている。調査を通じて、
資料 24 地域の認識が変わった
4. 調査に参加して、あなたの地域社会についての認識に変化がありましたか?
変化なし 1・2③・3⑤・4⑦・5④
大きく変った
5.「3・4・5」の方へ具体例・思い出があればご記入ください
①普段あまり商店街に行かないので、商店街のほとんどがシャッターをおろしているので驚いた
②育った町なのでより誇りを持てたような気がした
③鈴鹿市で住んでいるので、四日市のことは全く知らなかったけれど地域の抱える問題を理解する
ことができ、何とかしたいと思うようになった
3名
④経済学の講義で「どうしたら経済は活性化していくのか?」という議題をだされた時一番に考え
た事が四日市学で学んだ(取り組んだ)地域活性化の事でした
⑤今でも大学での地域活動に参加しています。発表とかはないのですがボランティアとしての達成
感はやなり気持ちいいものです
⑥路面電車の提案で住民の方の意見を聞く大切を知りました。若い世代が街へ顔を向けることで元
気を与えることが出来たと思います。一部、意見を聞きっぱなしで申し訳なかったです。
問題意識が共有されたことを物語るものである。「自分たちで変えたいと強く思いながらとりく
んだ」は、彼らにとって授業を超えた時間であったことが推察できる。商店街を歩道として使う
ことがあっても、それ以上のものではなかった。お店に入り、そこで暮らす人とのふれあいが彼
らを、単なる通行人から地域を考える高校生に変えたのである。
3)研究発表について
研究発表の場は、夏休みの県大会、東海大会、全国大会の計3回である。もちろん県予選で優
勝しなければその後の大会はない。校内で開催する3学期の課題研究発表会のみで終わる。内容
が優秀であれば校内を含め計4回の機会が与えられる。2008年から3年連続全国大会を経験した。
貴重な経験を積んだことが自由記述からも理解できる。緊張しながらも何がしかの喜びと達成感
を味わったことだろう。研究発表は、プレゼンテーション技術のみを学ぶ場ではない。主体的な
学習の場、「知識と行為」の統一的な学習そのものであると考えられる。
「調査活動が地域への認識を変えましたか?」の問いに対する回答は、レベル2~5までと大
きく分かれた。「大きく変わった」が3名に対して、「そうでもなかった」のレベル2が3名と
いう結果に終わっている。地域に出れば認識が深まる、といった単純なものではないことが分か
る。レベル4「変わった」が7名39%。「四日市のことは全く知らなかったけれど地域の抱える
問題を理解することができ、何とかしたいと思うようになった」という表現の回答が3名から
あった。調査活動を通して認識が変わったことを物語っている。
大会での発表は、緊張するものの彼らのやる気につながっていることが5_⑥からもうかがえ
る。自分たちが地域にとって大切な存在であること、また地域への大きな励ましになったことを
理解したのだろう。「6.四日市学で進路意識が変わりましたか?」の次頁の問いでは「変化な
し」のレベル1が9名50%と半数に達している。またレベル4「変わった」は、4名にとどまっ
ており、進路意識まで変えるには至っていない。大学への進学とその選択に、地域が深く関わる
ものではないようだ。地域への思いがとりくみによって深まったことは、8の④である。それは
「地域にしか無いもの」があることに気づき「活性化への手がかりに」との思いにつながってい
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る。さらに⑦は、地域の発展が自分のことのように感じているようすが推察できる。卒業後、そ
れぞれの年月を過ごした彼女たちに、四日市学について感想を尋ねて回答が得られるか心配だっ
た。しかし寄せられたアンケートから、四日市学の学びが無駄ではなかったことを強く感じるこ
とができた。2013年6月、本町通り商店街でのとりくみが新聞で紹介されていた。小学生対象の
「キッズビジネス」小学生の職業体験イベントである。本町通り商店街振興会の協力を得て、成
功させることができた。商店街活性化のとりくみが後輩たちにも理解され、引き継がれているこ
とを喜びたい。
調査の「8.地域への愛着」では、「② 四日市がもっと活性化してほしい ③ 四日市のこと
が大好きになった。今も学校以外の時間は四日市でバイトをしたり、話したりしている。たまに
慈善橋即売場に行きます。④大型スーパーやコンビニができたために寂れていきますが、「地域
にしか無いもの」があることに気づきました ⑤ まだまだ知らないことがたくさんあることを
知りました。
「こんないいことがあるだ」を見つけたときは、すごく楽しかったです、とあった。
資料 25 進路意識は変わらず
6.課題研究「四日市学」で「あなたの進路意識が変わりましたか?」
変化なし 1⑨・2②・3③・4⑤・5
資料 26
大きく変った
地域のよさを再認識
7.「3・4・5」の方へ具体例・思い出があればご記入ください
①高校生は地元に残りますが、地元を活性化させたいならばもっと高度な資格・免許・地位
(政治家)を目指すべき
②今、名古屋の大学に通っていますが、就職は地元でと考えています
③特になにができるか、よくわかりませんが四日市に住んでいる限り地域の行事に参加したいと
思います
④大正百年祭で袴をはくことができてうれしかった。お店の人たちとの交流もできた
8.地域への愛着
①四日市に住んでいないので、それほど愛着が深くなったわけではないが、四日市のいろいろな
姿を学べてよかった
②四日市がもっと活性化してほしい 2
③四日市のことが大好きになった。今も学校以外の時間は四日市でバイトをしたり、話したり
している。たまに慈善橋即売場に行きます
④大型スーパーやコンビニができたために寂れていきますが、「地域にしか無いもの」があること
に気づきました
⑤まだまだ知らないことがたくさんあることを知りました。「こんないいことがあるだ」を見つけ
たときは、すごく楽しかったです
⑥買い物はできるだけ地元でしようと思いました。いろいろなことに興味をもつようになった。
⑦四日市学をやるまでは四日市について何も思わなかった。でも四日市学をしてからは、四日市
に新しい施設が増える毎に何か嬉しくなった。
出典:課題研究「四日市学」卒業生 意識調査より
小 括 -生徒だけでなく教師も成長-
教室とは大きく異なる学びがあることを、課題研究「四日市学」で気づいた。検定や定期考査
のように、100点満点の評価や合格証書の発行はないが、形に残らない学びである。そのことは、
卒業生意識調査でも明らかになった。卒業しても彼らの心に何かを残している。単語や公式とは
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違う記憶であり、時間の経過とともに薄れていくものではないようだ。
地域への愛は、人と人との出会いの中で育まれることを物
語っている。成長は、生徒だけのものではない。四日市学をと
りくむまで、筆者は、クラブ活動で校外へ出ることがあっても、
学校の枠を超えて地域の人たちと交流をもった記憶が無い。商
店街の人たちと交流の輪が地域に広がり、地域活動や自治会活
動に参加するきっかけとなった。課題研究「四日市学」は、生
徒たちだけでなく教師も育てたようだ。
写真④ 諏訪神社大祭〔菅公山車〕
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第4章
四日市学から見えたもの
課題研究「四日市学」は、つねに地域の問題をとりあげ、課題を明らかにし、提案をおこなっ
てきた。生徒は、学校の枠を超え、地域の人たちとふれあうことで、教室とは違う学びを経験す
ることができた。成果はそれだけにとどまらず、地域にも変化を及ぼした。
第1節 高校生の活動が地域を励ます
資料27 商店街でパソコン教室
四日市商業高等学校の課題研究「四日市学」が
最近、新聞(2013.1.25 伊勢新聞)に取り上げられ
た。商店街で開催したパソコン教室のニュースで
ある。商店街活性化の研究で交流を続けてきた本
町通り商店街の要請で始めた教室は、今回で2回
目。
「わしら、インターネットやソーシャルメディ
アの活用と言われても何のことかさっぱり分から
ん。とにかくパソコンを教えて欲しい」との声に
応えたものである。情報化社会から取り残された
人たちに比べ、高校生たちは、気がつけば携帯電
伊勢新聞 2013.1.25 より
話・パソコンを手にしていた世代、
慣れ親しんだ道具である。商店街の人たちには眩しい存在だ。
商店街活性化をテーマに 2005 年にスタートした課題研究「四日市学」も、すでに 7 年が経過
した。現在も本町通り商店街との関わりが続いている。「本の町、本町に図書館を!」のまち
づくりの提案は、四日市市文化奨励賞を獲得した。また全国大会にも東海地区代表として出場
することもできた。生徒たちは、いくつかの成果を手にしたが四日市学が目標とした「商店街
活性化」は達成できたのか?という問いには、「できなかった」と答えざるをえない。しかし、
今年(2013 年)秋に、新たな変化が始まった。
資料 28 本町通り商店街チラシ
それは「教えて店主さん!」右のチラシである。商店街主催で地
域の人たちを対象に開催される料理講習会、案内チラシには「家族
に美味しいお魚をたべさせたい」という方へ「3 月 18 日(月)魚
屋さんに教えてもらおう!美味しい魚の見分け方・さばき方【魚太
さん】」、「3 月 25 日(月)一足先に春のお菓子を味わってみま
せんか、さくら餅を作ってみよう!【松花堂さん】」とあった。
「やる気のない商店街」という文章に出会ったことがある。商店
街活性化とは裏腹に、やる気のないお店が多いことを憤る内容であ
る。商店街活性化を叫ぶ前に、個々の商店がもっと努力せよという
趣旨である。商店街を活性化させる「魔法」はない、「やる気」が
活性化のカギであるが著者のメッセージであったと記憶している。
上記の商店街チラシに生徒たちの活動の成果が見えた。商店街振興組合の要望ではじめた生
徒たちのパソコン教室が、インターネットだけでなく、お店の人たちの「やる気」に火を付け
た。「若い学生さんが商店街に来てくれるだけで嬉しい」と言ったお店の人がいた。商店街と
関わる高校生の存在は、商店街にとって大きな励ましになったということである。
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第2節 高校生もまちづくり -市議会との交流-
2010 年 2 月 9 日(火)四日市市文化会
館第3ホールで「第1回 四日市のまち
づくりを考える高校生の集い」が開催さ
れた。昨年、行われた議会事務局主催の
シティミーティングの拡大版である。
「課
題研究の成果を学校の枠を超えて積極的
に交流・発信していくべきだ」という各
校担当者の要請に応えてのとりくみであ
る。地区校長会が主催し、教職員組合が
写真⑤ 四日市のまちづくりを考える高校生の集い
2010.2.9
後援することとなった。
発表校は四日市農芸、四日市工業、四日市中央工業、四日市商業の4校、司会は桑名西高校
の放送部の生徒が担当、計 20 名の生徒たちが参加した。四日市市からは正副議長を含め 16 名
の市議と議会事務局と文化国際課の職員、計 4 名が出席した。高校側からは北勢地区校長会会
長の谷口四日市西高校校長をはじめ 6 名の教員が参加、運営につとめた。
1時間にわたる研究発表の後、交流会が行われた。発表内容のレベルの高さへの賛辞とともに
アドバイスや研究についての要望が市議会側から出た。「財政的に困ったことがあれば遠慮なく
言ってください」や「まちづくりのさまざまなテーマについて皆さんとこれからも議論をしてい
きたい」という声も出た。各校の発表は下記の通りである。
発表テーマ
四日市農芸高校
「酒造米 米粉の利用プロジェクト」
四日市工業高校
「河川敷活用モデル」
四日市中央工業高校 「地域河川の水質汚濁調査」
四日市商業高校
「地域ブランドと町づくり」
資料 29
第1回 まちづくりを考える高校生の集いアンケート集約結果
Q1.生徒発表について 良かった点・お気づきの点をあげてください
(1) 四日市農芸高校「酒造米 米粉の利用プロジェクト」
①内容・発表の仕方ともにとても良かった。ドキュメント番組を見ているようで安心して発表を聴くこ
とができた(教員)②酒造米の米粉の利用に気づき、パン作りまでいきついたことはすばらしい。試食
がしたかった(教員)③たいへん実用的ですばらしい研究だった(行政)次は販売流通の研究を(議員)
⑥身近な所にある資源に目をつけたのはすばらしい。味はどうでしたか。パンというネーミングにこだ
わらずに新しい名前で商品化してもいいのでは(議員)⑧取り組みが徹底され、専門性も高い。今後も
継続し、諸々のイベントに参加してほしい。実践をさらに深めることによって自信がもてる。実際に市
場に出させるのでは。「継続は力なり」さらに実践を(議員)
(2) 四日市工業高校「河川敷活用モデル」
①プロ顔負けのプレゼンだった。欲を言えば背中を向けての発表が残念(教員) 職人気質を感じる
内容でした(行政)②コンペの発表ではあったが、すばらしい。(教員)工業高校ならではの発表だっ
た(生徒)③日本の河川は、急流で洪水や水害が発生しやすいため、危険なもの、生活の場からは、
隔絶された河川が多い。都市の河川を生活空間に近い場所では、もっと河川を利用したいと思います。
河川敷を公共の場とする前に水量も含めた調査を(議員)
(3) 四日市中央工業高校「地域河川の水質汚濁調査」
①緻密な調査結果に驚いた。もう少し元気良く発表できると良いのに(教員)②貴重なデータありが
とうございました(行政)③レベルが高かった。市内の水質とともに地域の様子も調査し比較しては
(教員)④専門的な調査をやっていただいて有難う(教員)COP10名古屋大会を前にとても重要
な研究である(議員)水の安心・安全度につながる研究に、継続的なとりくみを期待(議員)⑩専門
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用語があってわかりにくかった。(生徒)
(4) 四日市商業高校「地域ブランドと町づくり」
①地元ブランドを東京ブランドと比較したことがとてもユニークだ。資料の文字の一部がつぶれてい
た(教員)②四日市ブランド、四日市を愛する心が大事だ。ハードでなくソフトを充実する重要さを
改めて実感した(教員)③ブランドという切り口がおもしろい(教員) ブランドを作ることで全国
に発信すれば、四日市を大切にする心が育つ(生徒)④若さいっぱいのアイデアとパワーが感じた。
すばらしい発表だった。地域にもっとアピールを(教員)⑤よくまとまった発表だった。インタビュー
調査などの研究方法もとても良かった。(教員)
Q2.今回の「集い」企画・運営について
[・継続してほしい15・再検討が必要では0・どちらでも1]
①すばらしい集いで感動した。もっと大々的に宣伝し、多くの人に知らせるべき(教員)②小中高の
生徒も加えては(教員) 学校間のコラボも含め継続を念頭に検討いただければと思う (校長)③
なかなかに手ごたえのある内容だった(教員)④他の学校がどういう活動をしているか今まで知らな
かった。これからも継続してほしい。(生徒)
Q3.本日の「集い」で見えてきた課題や展望についてお書きください
①会場設営や受付を生徒の手に委ねるべきでは(教員) ある程度質問にも答えられるように校内でも
プレゼンの機会を(校長)②研究の継続を(教員) 新鮮なアイデアを聞くことができてよかった(生
徒)まだまだ勉強不足なので勉強していきたい(生徒)③大人と子どもが同じ土俵で対等に話し合って
いたのがすばらしい(教員)④このような会をきっかけに学校間コラボで、実際に四日市ブランドが開
発できればすばらしい(教員)⑧閉じられた空間ではなく広く市民の皆さまや専門家の方も含めた場で
の発表や評価をいただいては(行政)⑮産学官の連携も考えてはどうだろうか。シャッター街にお店を
開いてください。家賃はただ。内装は工業高校で(議員)
*アンダーライン筆者
参加者[・生徒 20・議員 16・校長 4・教員 22・行政 4・一般 2 ]
今回の交流は、現場の担当者が校長会を動かし、議会事務局にはたらきかけたものである。
「集
い」の立ち上がりにおいて、主催をどうするかで若干のやり取りがあった。校長会側は「市が
主催することを希望」し、市側は「校長会の主催」を望んだ。結果は、校長会が要請し、市議
会が応えるという形で落ち着いた。「集い」開催後は、学校側から運営への要望や意見が出た。
特に生徒の一方的な発表で終わり議論にならなかった点や、議会側は感想が中心で提案につい
てなんら回答がなかったなどの不満がでた。
アンケート集約結果では、四日市農芸高校の「酒造米の米粉活用プロジェクト」に市議から「⑥
身近な所にある資源に目をつけたのはすばらしい。味はどうでしたか。パンというネーミング
にこだわらずに新しい名前で商品化してもいいのでは(議員)⑧取り組みが徹底され、専門性
も高い。」など、高い評価を寄せられた。市議会議員といっても、それぞれの職業や経歴での
実績を有するものの、研究や提案によっては、生徒たちと同レベルかそれ以下である。精製過
程で生じる米粉が廃棄物として捨てられていたことや、パンの原料として活用する案に感動す
るのも肯ける。また、四日市中央工業高校「地域河川の水質汚濁調査」には、「②貴重なデー
タありがとうございました」という行政の声もあった。
「Q2.今回の「集い」企画・運営について」は、[・継続してほしい15・再検討が必要で
は0・どちらでも1]と、継続に期待が集まった。「①すばらしい集いで感動した。もっと大々
的に宣伝し、多くの人に知らせるべき(教員)②小中高の生徒も加えては(教員)
学校間の
コラボも含め継続を念頭に検討いただければと思う(校長)」、生徒たちの研究活動に、世論
を動かし、市政を進める力を感じたのは、参加者に共通の思いであったことが分かる。
- 34 -
第3節 研究成果の発信
下記に掲載した記事は、中日新聞(2010 年 12 月 21-23 日)の地方版、商店街活性化策につい
て各界の著名人のコメントを掲載した特集記事「商い」である。
資料 30 の左端がジャスコの会長の岡田卓也氏、中央は大須通り商店街連盟の会長小野章雄氏、
右端が四日市商業高等学校の課題研究「四日市学」の生徒たちである。2010 年第 18 回全国高等
学校生徒商業研究発表大会(横浜大会)に彼女たちは出場した。大会前、市長への表敬訪問や記
者会見など、今まで経験したことのない舞台に立った。どうなることやらと心配したが、想像以
上に堂々としたものであった。記事は、取材のインタビューで親しくなった記者からの要請に応
えたものである。記者とともに商店街を歩き、活性化策についての質問に思いつくままに答えた
コメントが記事となった。
これまで課題研究「四日市学」の研究発表にあたって、常に記者クラブへの案内に心掛けた。
記事にならない場合もあったが、研究発表やイベントの当日には、取材を受けることが恒例で
あった。記事の「商い」も先輩たちが諏訪商店街活性化プランをメディアを通して発表してきた
資料 30 特集記事に生徒たちが登場
小野章雄さん大須商店街連盟会長
再生への提言(中)
2010.12.22 中日新聞
四日市商業高校生「四日市学」
再生への提言(下)
2010.12.23 中日新聞
岡田卓也さん イオン名誉会長
再生への提言(上)
2010.12.21 中日新聞
中日新聞 北勢版
特集「ひと模様『商い』」
ことが、今回の記事につながった。研究活動とともに情報の発信も重要な活動である。
2011 年 3 月、四日市商工会議所まちづくり活性化特別委員会と四日市市中心市街地活性化検
討会議が中心市街地全体の集客力向上及び都市環境の改善に向けて、各商店街や各地区で取り
組むまちづくりに新たな指針を与えることを目的に、市街地全体のまちづくり戦略である「四
日市市中心市街地グランドプラン」を提案した。もちろん四日市市には、平成 7 年に策定した
「四日市市都市計画マスタープラン全体構想」があるが、地元商店街や市民の期待に応える成
果を挙げられずに今日に至っている。
- 35 -
今回のグランドプランは、地元商工会議所の市行政へのアピールの意味も含んでいる。プラ
ン策定半年前に、事務局から学校に電話があった。内容は、生徒たちの報告書「商店街活性化
から脱車社会へ(2008 年)」を求めるものであった。生徒たちの調査研究活動が四日市のまち
づくりの応援につながったことを確信した。
第4節 商業教育の新たな可能性
関西大学教授久保田賢一氏の著書に『構成主義パラダイムと学習環境デザイン』がある。構成
主義にもとづく学習環境をデザインする際に、前提となる指導者のスタンスは「学習者が自立的
に学ぶことができ、いっしょにいる教師や仲間と意味のあるやり取りができることを促す学習環
境を用意することである」(同書p.65より抜粋)と述べている。学校という枠に囚われることな
く、また教師による一方的な押しつけではない、学びのなかに生徒たちの成長を促す新しい教育
があると理解した。第三章「構成主義の教育理論」16から見出し部分を抜粋(資料31)した。心
掛けるべき8つのポイント、ガイドラインである。
資料31
構成主義の学習モデルと課題研究「四日市学」
ガイドライン
①学習活動を実際に解決しなければならない、より大きな枠組みのなかに埋め込む
②学習者が、問題や課題に主体的に取り組めるように支援する
③本物の問題状況をデザインする
④現実の複雑な社会状況を反映した学習環境と課題をデザインする
⑤問題解決を学習者自身が自分のこととしてとらえられる環境をデザインする
⑥生徒の学びの過程を支援し、多様なコミュニケーション・モードを活用する
⑦多様な視点で評価できる学習環境をデザインする
⑧学習内容と学習プロセスの両方について内省する機会を用意する (筆者にて見出しのみ抜粋)
出典:久保田賢一著「構成主義パラダイムと学習環境デザイン」(pp.65-70)より抜粋
課題研究「四日市学」の活動は、構成主義の教育と重複する部分が多い。①~③のガイドライ
ンがそれである。「①・・より大きな枠組みのなかに埋め込む」は、生徒たちの研究活動があら
かじめ与えられた課題ではなく、四日市という地域が対象であり、研究のテーマ「町づくり」は、
現在進行形の問題であり、課題である。したがって生徒の学習であっても、その成果は生徒個人
にとどまることものではない。商店街の活性化であり、地域の暮らしに直結するものである。
また、「②主体的に取り組むことを支援する」は、教師の仕事の大半は、生徒たちの移動手段
の確保やフィールドワークの事前準備と打ち合わせが中心である。調査や研究において、生徒を
指導するのではなく、声援をおくる伴走者である。
「③本物の問題状況をデザインする」は、課題研究「四日市学」そのものである。高齢化が
すすむ商店街を活性化させるカギとは何か?何が必要なのか?何が足らないのか?は、練習問
題や演習問題とは異なり、答えが無い。久保田氏は、「構成主義が投げかける新しい教育」の
中で「構成主義の教育では、学習者が社会的な相互作用のなかで知識を構成していくととらえ
る。この見方では、問題解決しなければならない状況に学習者が実際におかれなければ、問題
16
Donald J. Cunningham, Thomas M. Duffy and Randy A. Knuth(1993) 久保田賢一訳「構成主義パラダイムと学習環境デザイン」
関西大学出版部(pp.64-70)
- 36 -
解決する意味がなくなる。問題解決をするには、自己内の反省的な思考とともに、他者との対
話が不可欠である。」(『構成主義が投げかける新しい教育』p.8 関西大学教授久保田賢一)
と述べ、構成主義は、実証主義の知識観とは、大きく異なるとしている。
四日市学で問われるのは、教師の覚悟と、未体験な領域を切り拓く勇気である。学校や教室
という枠から外れるだけに想定外の事態に遭遇する。十分な事前準備をしていても計画通りに
はいかない。時には「この忙しい時に何が調査だ」と怒鳴りつけられる場面に出会うこともあ
り、忍耐も求められる。
小
括
NHKの朝の連続ドラマに「あまちゃん」(2013年4月-9月)という番組があった。「夏休み、
母に連れられ、初めて北三陸にやってきたヒロイン・アキは、祖母と出会う。現役の海女を続け
る祖母は、人生で初めて出会った『カッコいい!』と思える女性だった。東京のスピードについ
ていけず、
引きこもりがちな高校2年生だったアキには、田舎暮らしの何もかもが新鮮に映る。」
(NHK公式サイト「あまちゃん」より)ブームとなった番組なので詳しく紹介する必要はない
とは思うのだが、筆者にとっては、別の思いがある。それは「四日市学」でめざしていたものを
「NHKに、先にやられた!」との思いである。
四日市学の生徒たちは、全国高校生生徒商業研究発表大会に向けて地方予選と地区予選、さら
に全国大会と計3回のプレゼンテーションを行った。また3学期の課題研究の校内発表、市議会
議員を前に行ったタウンミーティング、さらに高校生フェスティバル(2011年12月)では、四日
市文化会館の本格的な舞台で研究発表を行った。終了後の反省会では、緊張で足がふるえたが、
終わった後の拍手が嬉しかったこと、客席の親に誇らしかったことを素直に語った。
学習環境デザインのガイドラインに「⑦多様な視点で評価できる学習環境をデザインする」が
ある。客観主義の教育からすれば「四日市学」は、点数化できない学びであり、評価に値しない
と断じることができる。しかし教育の真の価値は、子どもたちの「意識と行為」に変化をなすも
のであるとするならば、その評価も変わるだろう。
課題研究「四日市学」には、成長し変化する生徒たちの姿がある。商店街の課題や問題を自分
のこととして考えられるようになった。フィールドワーク後の感想文に「路面電車の提案で住民
の方の意見を聞く大切さを知りました。若い世代が街へ顔を向けることで元気を与えることが出
来たと思います。一部、意見を聞きっぱなしで申し訳なかったです。」とあった。「意見を聞きっ
ぱなしで申し訳ない」という思いに注目したい。それは、教えられたものでも、躾けられたもの
でもない。「四日市学」を通じて自ら育んだものであるからだ。
- 37 -
第5章
起業家教育を取り入れた商業教育の創造
新高等学校学習指導要領・商業編は、新しい科目として「ビジネス経済応用」と「商品開発」
を提起している。地域経済と起業家教育を柱とするものである。本論の冒頭で紹介した改善の具
体的事項(教科横断的な事項)にある「将来の地域産業を担う人材の育成という観点から、地域
産業や地域社会との連携・交流を通じた実践的教育、外部人材を活用した授業等を充実させ、実
践力、コミュニケーション能力、社会への適応能力等の育成を図るとともに、地域産業や地域社
会への理解と貢献の意識を深めさせる」17の理念の実現は、この二科目に託されている。
しかし、現場の理解はどのようなものだろう。旧科目の「市場調査」や「マーケティング」に
類似したもの程度に留まっているのではないだろうか。3学期を迎えても学校現場に「ビジネス
経済応用」は見本本さえ届いていない。したがって県内の商業高校では、教科会議や担当者会議
での疑問や意見に回答することが出来ず、方向が定まらなかったという。
本論は、地域と向き合う商業教育を提起している。起業家教育においても、また商品開発にお
いても、地域の視点を抜きには考えられないとの立場である。残念ながら新科目「商品開発」の
目標に「地域」という視点を見つけることができない。また地域の自然や風土に根ざした商品開
発「六次産業化」、グリーンツーリズム、田舎暮らしの魅力など、商品だけでなくビジネスモデ
ルも商品開発に含めるという課題も残している。
そこで本章では、起業家教育の現状と課題について論じるとともに、起業家教育の先進地域に
学び、三重県における起業家教育のありかたを考察する。併せて2013年2月にとりくんだ研究授
業「商品開発おける『コト』」(対象:三重県立四日市商業高等学校商業科1年生)を報告し、
議論に供したいと思う。
第1節 起業家教育の現状
平成23年 3月に発表された「三重県教育ビジョン-子どもたちの輝く未来づくりに向けて」の
第2章総論に、教育をとりまく社会状況として「(1) 少子化・高齢化・核家族化の進行 (2) 国
際化・グローバル化の進展
(3) 環境・資源問題の深刻化 (4) 高度情報化社会の進展 (5) 経
済社会構造の変化 (6) 社会意識の変化」の六つをあげている。しかし、本論文の基調である地
域問題、東紀州・南伊勢・伊賀地域ですすむ人口急減と地域経済の衰退が含まれていない。また
資料 32 キャリア教育が主流の「三重県教育ビジョン」
第3章 学力と社会への参画力の育成 〔今後の取り組みの方向〕
○ 教育活動全体を通したキャリア教育の拡充・深化
子どもたちが、社会的・職業的自立に必要な能力や態度・知識を身につけるとともに、働くことが自己の成
長に結びつくこと、働く上で仲間と協力することが大切であることを理解できるよう、各学校で教育活動全体
を通じたキャリア教育を一層推進します。
キャリア教育を進めるにあたり、より良い社会づくりに参画・貢献する「市民」として必要な知識や能力、
組織に適応するのみならず組織の風土を改革していく意欲や力量等を育む視点を大切にします。
○ 専門性を生かした職業教育の推進
経済社会の構造が変化する中、実社会で必要な基礎的・汎用的能力*1 の土台の上に、専門的な知識・技術・
技能および起業家精神などの資質・能力を育むため、学校と地域・産業界が連携し、専門性を生かした職業教
育を推進します。
下線は筆者において追加
平成 23 年 3 月発表「三重県教育ビジョン~子どもたちの輝く未来づくりに向けて~」 p.62 より抜粋
17
高等学校学習指導要領解説・商業編(p3)「改善の具体的事項(教科横断的な事項)」三つの視点より抜粋
- 38 -
その対策としての起業家教育については、資料32の記述のように様々な課題の一つという認識に
とどまっている。
経済産業省『平成17年度「全国新規事業発展基盤調査」-起業家教育の実施状況及び普及・定
着に関する調査-(調査期間:平成17年2月13日~3月31日)』(巻末資料)の同報告書(p.37)
の第2章「調査 ~ 我が国の起業家教育の現状と課題とをさぐる」に「2.我国の起業家教育実
施地域」が図示されている。それによると三重県での実施地域は、四日市市と津市とある。都道
府県別に実施地域を数えてみた。その結果、上位ベスト5は、次のようになった。トップは愛知
県の9地区、つづいて岩手と岐阜が8地区、北海道・福岡・東京都がともに7地区である。それ
ぞれ自治体の人口や学校数などを勘案したとしても三重県の2地区は少ない。
北海道教育委員会が平成18年3月に実践指導集「北海道における起業家教育の実践-創造力豊
かに自立心あふれる人を育む-」を発表している。高校だけでなく小中学校における事例も掲載
されており、その内容の豊富さに驚く。北海道教育委員会のホームページ(2013.12.10 検索)
に、平成25年度キャリア教育・職業教育推進事業計画書の見本(資料33)が掲載されている。
興味深い語句や表現があった。例えば「地域人材育成会議等」である。地域のとりくみが組織的
であり、学校と地域との連携が成立していることが分かる。また起業家教育の課題や悩みも散見
できる。
「起業家教育」は、カリキュラムに位置づけられたものではなく、希望者の任意参加の講座で
あることが下線②から推察できる。また下線③「起業家教育への興味・関心を高め広く参加を呼
びかける必要」は、生徒だけでなく指導者である教職員の認識も深まっていないことを示してい
る。「地元企業からの助言」(下線①)ということばにそれが現れている。起業家教育が起業家
資料 33
北海道教育委員会、起業家教育を前面に
平成25年度キャリア教育・職業教育推進事業計画書
教育局
十勝
学校
【別紙様式C】
北海道池田高等学校
1 地域人材育成会議の実施による地域産業と学校との連携について、以下の項目毎に記述し
てください。
(1) 昨年度の課題
「起業家教育」において、地域人材育成会議等と連携して、①地元企業から有益な助言を得
ながら、起業に関連した法令等の知識や、起業の具体的方法等について理解を深めたが、②参
加希望生徒が少なく、企業に向け検討や実施業務が一部の生徒に集中する状況があった。
このことから事前指導を充実し生徒の「起業家教育」の興味・関心を高め、広く
参加を呼びかける必要がある。
(2) 今年度の計画
第一年次からの長期計画に「起業家教育」を追加することにより、生徒の職業や社会への ③
関心・知識を高め、工夫改善する創造力やチャレンジ精神を涵養する。
2 キャリアアドバイザーとの連携について、記述してください。
(1) 高校生と大学生等とのワークショップ
キャリアアドバイザーの助言により、高校生と大学生・社会人等によるグループ単位の対
話式ワークショップを実施する。
(2) 大学等との連携
(下線と番号①③③は筆者)
http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/kki/sa/h25kyaria_8.pdf
2013.11.6
参照
精神や知識の伝達にとどまっており、生徒たちの興味や関心を集めるに至っていない。
次に、大学における「起業家教育」の研究状況はどのようなものだろうか。論文検索システム
- 39 -
Cinii で「起業家教育」をキーワードに検索(2013.11.7)を試みた。結果は、資料 34 の通りで
ある。
資料 34
起業家教育」検索結果(2013.11.7)
1.ベンチャー起業家社会の実現 : 起業家教育とエコシステムの構築 熊野正樹著[2013]
2.起業家教育に関する実践的研究 藤川大祐編 千葉大学大学院人文社会科学研究科[2011.2]
千葉大学社会文化科学研究科研究プロジェクト報告書 第 237 集
3.知識創造活動を通じた起業家教育 : 大学発農業ベンチャー起業における知識創造事例分析 巽龍雄
[著] 2009.9
4.キャリア女性の再チャレンジ=起業を支援する短期集中プログラム 京都大学[2009]
社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム 平成 20 年度 , 平成 21 年度
5.ファイナンシャル・プランナーママの実践マネー教育
[アールズ出版 2008.4]
「おこづかいの渡し方から、投資教育、起業家教育まで」柳沢美由紀, 森田久美子, 平山寛子著
6.大阪商業大学の地域や高校と連携した起業教育・起業家育成 :
平成 16 年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」成果報告書(平成 16-19 年度)
大阪商業大学起業教育委員会編 大阪商業大学 2008.3
7.起業家精神教育の試論的アプローチ「地域人材育成の現場・大学からの発信」広島修道大学 2007.2
8.起業家教育促進事業の効果検証に関する調査報告書 経済産業省 2005.3
9.大阪商業大学の起業家育成 : 「ベンチャー育成部会」の活動記録
大阪商業大学 2005.3
10.総合的な学習の時間における起業家教育の方策の研究 研究代表者 山根栄次 2005.3
科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究成果報告 平成 14 年度~平成 16 年度
11.地域インキュベーションと産業集積・企業間連携 :
起業家形成と地域イノベーションシステムの国際比較 三井逸友編著 御茶の水書房 2005.11
12.ベンチャー育成論入門「起業家マインドの醸成に向けて」野田健太郎編著 大学教育出版
2004.4
13.ベンチャービジネスと起業家教育 土井教之, 西田稔編著 御茶の水書房 2002.7
関西学院大学産研叢書 26
14.起業の神話と現実 : 起業家教育のメッカ、米バブソン大学からのレポート古田龍助著文眞堂
2002.4
15.ベンチャー起業の神話と現実 : 起業家教育のメッカ、米バブソン大学からのレポート
古田龍助著 ; 熊本学園大学産業経営研究所編
文眞堂 2002.3 熊本学園大学産業経営研究所研究叢書 33
16.子どもを伸ばす 5 つの遊び : 小学生からの「起業家教育」のすすめ 大江建, 平井由紀子著
青春出版社 2001.4
17.「起業家教育」で子供が変わる! : 「ビジネスの楽しさ」を教え、独創性と行動力を育てる
大江建, 杉山千佳著 日本経済新聞社 1999.9
18.起業家教育とその評価 テクノフォーラム[199-]
Selected scientific & technical report Data No. TF-6727(5)
検索ヒット数は、18件。もっとも古い研究は、1999年の「起業家教育で子供が変わる」日本経
済新聞社発行の大江建、
杉山千佳両氏によるものである。すでに14年の時が経過しているが、ヒッ
ト総数は18件と少ない。ちなみにキャリア教育は、240件である。若者の勤労観、職業意識の欠
落と、それに伴う離職率の高さが社会問題となり、研究がすすんだことが背景にある。しかし皮
肉にも、労働環境は激変した。規制緩和は、若者に非正規労働を強制する結果となり、キャリア
教育の目標と企業が求める「安上がりな労働力」との間に乖離がさらに広がった。
アメリカ発の起業家教育は、アメリカの子どもたちへの教育であって、そのまま日本のテキス
トとすることはできない。なぜなら国民意識に大きな違いがあるからだ。例えば、父母の多くが
もつ「ブランド志向」、有名大学・大企業志向は、容易に変えることはできない。起業家教育を
根づかせるためには、その必然性と背景を丁寧に語り、納得させる必要性がある。
生徒たちが変わり、保護者が変わり、さらには指導する教師や地域社会も変わらなければなら
ない。したがってコトバだけで説得できるものではない。具体的な成果と事例が求められる。
- 40 -
そこで、まず起業家教育の本家、アメリカのテキストを分析し、併せてわが国のすすむべき起
業家教育を考えたいと思う。
資料 35
はじめに
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
アメリカ版の起業家教育
― 人生をゲームにして成功した若者 ―
伝説の起業家たち
― エジソンが発明した「起業の成功法則」―
・希少性
― エジソンは起業家だった!?―
・合理的な選択
― 最小のコストで最大のベネフィットを!―
・家計と企業のサークル
― 家計は消費者であり労働者 ―
世界最初の株式会社「東インド会社」
・株式会社
― コショウを求めて三千里―
・商品の価格はどう決まる? ― 企業の目的は「利潤の最大化」―
・均衡価格
― 値段は売り手と買い手の数で決まる―
・賃金
― 給料はどうやって決る?―
・効率的な市場配分
― 価格が変わると、需要量・供給量も変わる―
・存続するシステム
― 会社は続くよ、どこまでも―
はじめての企業
・起業家という仕事
― アイデアをビジネスに―
・成功するビジネスの秘訣
― 最初に実行する4つのこと―
・マーケティング
― 商品をどう売るか?―
・生産管理
― 作るべきか、仕入れるべきか―
・人材管理
― 優秀な人材をいかに集めるか―
・ファイナンス
― 商業金融―
・金利
― 企業と中央銀行の密接な関係―
会社の上手な育て方
・限界分析
― 経営を成功させるための基礎知識―
・キャッシュフロー
― ギリギリ何人まで雇えるか―
・生産性の向上
― お金は会社の血液です―
・イノベーション
― 損益分岐点が低いほど経営は楽になる―
会社をもっと大きくする方法
・会計・フランチャイズ・株式と社債・政府と起業家・経済倫理
出典:山岡道男・淺野忠克共著『起業の教科書』アスペクト(2009)p.9 目次よりより抜粋
アメリカの高校生たちが学んでいる教科書の日本語版である。山岡道男(早稲田大学大学院)
淺野忠克(山村学園短期大学)の著書『アメリカの高校生が学んでいる「起業家教育」』がそれ
である。資料35は同書の目次、アメリカ版起業家教育の内容と構成がよく分かる。
教科書の冒頭に人生ゲームの例が紹介されている。ゲームを考案したブラッドリーの話しは、
興味深い。彼の成功の秘訣が紹介されている。リンカーン暗殺で大統領の肖像写真が売れなくな
り、途方にくれた末、思いついたのが「人生ゲーム」である。友人から「印刷機を遊ばせておく
のももったいない、ボードゲームでも作ったらどうか」とのアドバイスで始めたボードゲーム作
り。ルーレットを回し、それぞれ出た目に応じてコマを進め、ゴールをめざすゲーム、日本で言
えば双六である。この話は、わが国の子どもたちにも、親しみの持てる話である。
「アメリカでは、8人に1人が一生に一度は起業を考えるという。ところがその多くは最初の
1年で失敗してしまう」とテキストは、起業の厳しさを語る。そうならないためには、多くを学
ばなければならないとして、「起業成功の法則」に至る。改良とは、常に新しいものをそこから
見出すことである。目の前に横たわる問題を解決し、デメリットをメリットに、ピンチをチャン
スに変える方法だと述べ「起業家は常に決断しなければならない18」と記している。
アメリカの教科書は、起業家をめざす若者のマニュアル本であり、実践書である。起業を志し
18
山岡道男・淺野忠克共著『起業の教科書』アスペクト(2009)p.32
- 41 -
たものが常に手にしながら道を切り拓く地図だという。わが国では「起業」という発想を多くの
人は、持っていない。学校教育においてもそうである。職業教育・進路指導といえばキャリア教
育が一般的である。戦後民主教育を標榜した学校教育であったが、「働くこと」につながる専門
教育は、職業学科にとどまり、国民教育としてとりくまれてこなかった。教育現場では、この傾
向を「普通科志向」と呼んだ。
平成23年文部科学省は、「高校キャリア教育の手引き」を発表した。その冒頭、「平成 18 年,
内閣官房長官,農林水産大臣,少子化・男女共同参画担当大臣も加え,『若者の自立・挑戦のた
めのアクションプラン(改訂)』が策定され,キャリア教育のさらなる充実を図ることとした」
と発足時の状況を語っている。これを受け文部科学省は、キャリア教育を本格的にスタートさせ
た。学校現場では、これまでキャリア教育として「職場体験・インターンシップ」の推進に努め
てきた。キャリア教育とは、「子ども・若者一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさ
わしいキャリアを形成させるために必要な能力や態度を育てることを目指すものである。子ども
や若者が社会の一員としての役割を果たすとともに、それぞれの個性、持ち味を最大限発揮しな
がら、自立して生きていくために、必要な能力や態度を育てる教育」(文部科学省『高校キャリ
ア教育の手引き』)と定義している。
キャリア教育を推進すれば起業家教育に到達するか、と言えばそうではない。文科省の定義を
挙げるまでもなく、企業社会に適応させることを目的とするキャリア教育に起業の要素は少ない。
進路における父母の期待は、大企業への就職である。インターンシップ(就業体験)は、進路選
択におけるミスマッチの回避を目的としている。起業家教育でとりくむべき課題は、俗にいう「寄
らば大樹の影」という意識を払しょくすることからはじめなければならない。
第2節 地域と向き合う起業家教育の構想
1)地域への帰属意識
起業家教育は、生徒に自立と独立を求めるところからはじめるべきである。就職は、決して目
的ではないことを認識させる。会社や組織で役割を果たすことはもちろんだが、その経験や技術、
人的なネットワークは、将来独立するためとの認識が、まず必要なのではないだろうか。
次に、育むべきは、地域コミュニティへの帰属意識、東井義雄のいう「地域への愛」である。
愛を育むためには、地域はつねに彼らの出番と役割を演出しなければならない。島根県立浜田商
業高等学校には、郷土芸能部がある。2013年12月23日、松
阪第一小学校の体育館で地元の小中学生や住民との交流で
神楽「大蛇(おろち)」「恵比寿」「八幡」「岩戸」を披
露した。同校郷土芸能部は、「全国神楽甲子園」に出場し、
実力の高評価から出演要請が各地から寄せられている。郷
土芸能に関わることで地域への認識を深めるとともに、地
域の伝統文化の継承者、守り手としての自覚が育つ好例で
写真⑥ 浜田商業高校2013.12.23
ある。
もちろん帰属意識を育てるのは、郷土芸能だけではない。「祭」での出番が問われる。四日市
市においても夏祭りに披露される諏訪太鼓は、育成会(子ども会)を中心に組織された、各町の
一大イベントである。中学生や高校生、さらに都会に出た若者がわざわざ帰省して出演する事例
もある。八月第一週目の土日は、トラックの荷台を舞台に、諏訪太鼓を打ち鳴らす子どもたちの
- 42 -
雄姿に出合う。地域への「愛」につながっている光景である。
起業家教育の序論に続く第一章は、地域の風土や歴史への理解と認識を育てることである。彼
らの出番と舞台がどのように受け継がれてきたか。それぞれの地域には、風土が異なるように固
有の素材が多数存在する。第二章は、地域の産業がどのような経過をたどり今日に至ったかとい
う地域産業の学習である。地元の方を講師に招聘し、生徒たちの研究と提案へとつなげる。構成
主義教育が謂う「④現実の複雑な社会状況を反映した学習環境と課題をデザインする」である。
2)労働市場と起業家教育
図⑥ 出典:各国の起業活動率(TEA)
平成 21 年度創業・起業支援事業
より抜粋
図⑥は、日本人の起業活動率19(起業家意識)が世界でもっとも低いことを示すものである。
グラフが示す事実は、多くの人たちの意識と重なる。しかしこのグラフから起業家意識を喚起さ
せることはできない。最も進んだ産業社会にある日本でリスクを背負う選択は、考え難い。した
がって起業活動率から入らずに、労働市場は激変し、社会の枠組み・産業構造の変化「パラダイ
ムシフト」を教えるべきである。「グローバル企業は、人を使い捨てても、人を育てない」とい
う時代である。資料36は、リストラを伝えるニュースである。国際市場で敗北した家電メーカー
が多数の労働者を解雇し、生き残りを図っている。解雇された労働者の自殺もめずらしいもので
はない。企業に過度に依存する生き方は、ブラック企業の労務政策に絡めとられるものであり、
「会社あっての自分、お店あっての私」では、権利行使も生活も守れないことを認識させるべき
である。日本が大きく変わった事実と向き合うことからはじめる必要がある。
19
起業活動率(Total Entrepreneurship Activity: TEA)」日本におけるデータ収集は平成 21 年 7 月に行った。調査対象者
数は 1,600 人で、男性・女性は各 800 人で構成されている
- 43 -
3)女性労働と起業家教育
図⑦ 出典:非正規雇用者男女別比率(経済産業省)
*〔グラフ作成は筆者〕
(注)非農林業雇用者(役員を除く)に占める割合。1~3月平均(2001 年以前は 2 月)非正規雇用者にはパート・
アルバイトの他、派遣社員・契約社員、嘱託などが含まれる。2011 年は岩手・宮城・福島を除く(資料)労働力調査
商業高等学校の多くは、女子高校化している。したがって女子労働の厳しい現実も起業家教
育の内容とすべきである。なぜなら、現実の厳しさをテコに、彼女らの起業への意欲を喚起でき
ると考えるからだ。熊野市の起業家補助費(2012年度)の支出件数の2件中2件とも女性とある。
折れ線グラフ図⑦は、男女別非正規雇用者比率である。構想では、まず左の男性のグラフの分
析からはじめたい。世代別の格差、とくに若い世代の厳しい現状を認識させたい。発問は、65
歳以上の非正規率が高いことに対して「なぜだ?」と問いからはじめる。「定年退職後は、正規
雇用が少ないからだ。」と答えるだろう。ポイントは、その下にある「15歳~24歳」グラフであ
る。生徒たちの驚きと怒りを期待したい。
図⑧
第一子出生別にみた、第一子出産前後の妻の就業経歴
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査(夫婦調査)」(平成 22 年)より抜粋
- 44 -
新卒・若年労働者は、低賃金で働く、企業にとって取り換えることのできる労働力である。今
日の企業社会は、生徒が期待する経営ではなくなったことを知らなければならないし、教えるべ
きだろう。「企業は人を育てない」は、グローバル企業ほど徹底している。若者の2人に1人が
非正規雇用(2012年)である現実をグラフから認識することになる。
資料 36
労働市場の厳しい現実と向き合う
出典:2013.2.26実施
研究授業資料
より
次に男女の比較である。女性の非正規雇用比率は各世代において男性を超えている。わが国に
おける労働市場の現実をグラフは語っている。この事実は、悲しむべきものであるとともに、女
性の起業意識への動機づけとして、大きな力と説得力をもつことだろう。
前ページの棒グラフ(図⑧)は、第一子出産後の妻の就業経歴を示すものである。2005~09
年は、若干の改善がみられるものの、育児休暇取得者は17.1%、しかし9.7%の女性には育休が保
障されていない。さらに出産後の継続就業率は26.8%、に対して43.9%の女性は、出産後退職を余
儀なくされている。したがって73.2%の女性が非正規あるいはパート、そうでなければ無職の主
婦とならざるをえないことを示すものである。
内閣府男女共同参画局は「女性いきいき応援ナビ」のサイトを立ち上げ、女性の起業を応援し
ている。「起業とは、会社を起こすという業態だけではなく、たとえば、一人で自営業を始める
ものから、仲間とともに事業・店舗を始めるもの、家族・友人の協力のもとに独立・開業するも
のなど、規模・形態・業種は様々です」と紹介し、起業のノウハウを丁寧に説明している。女性
起業を応援するサイトは内閣府だけではない。「女性+起業」で検索すればたくさんの情報が得
られる時代である。
企業社会の暗黒面だけでは、生徒たちの希望は育たない。企業のあるべき姿も忘れてはならな
い。近江商人の哲学に「三方よし」がある。「売り手よし、買い手よし、世間よし」がそれだ。
「他国での商業活動を行う近江商人は,行商先での信用を築く必要があり,それゆえ,自己の利
益よりも,買い手や行商先の地域のためを思う精神を重視したのであろう。しかし商売が順調に
いくというだけの理由で,地域のため,社会のために活動しただけでなく,古くからの歴史・文
- 45 -
化に育まれた近江独特の生活規範に裏付けられた理念があったといえる。」(滋賀大学 成瀬龍
夫博士退職記念論文集(第382号)p.147 平成22(2010)年1月より)短期利益のみを求める経済
社会、グローバル時代の今日こそ「三方よし」の哲学は、輝きを増し、企業活動のあるべき姿を
示している。起業家教育の柱にするべきテーマである。
第3節 研究授業「起業家教育と商品開発」
2013年2月26日、三重県立四日市商業高等学校の商業科1年生(1-A)を対象に研究授業「商
品開発と「コト」-めざせ!起業家-」をとりくんだ。科目は「ビジネス基礎」2時間の枠での
研究授業である。事後アンケートを実施した。授業目標は「地域教材を活かした起業家教育」で
ある。なお前半の労働市場の学習は、「グラフの作成と表現力」という情報処理の切り口で展開
した。指導案と授業後アンケートを手がかりに授業と生徒たちのようすを紹介する。
資料 37
商品開発と「コト」-めざせ!起業家- ①
単元名 「地域教材を活用した起業家教育」
対象学年 商業科 1 年生
1.指 導 概 要
① 労働市場の現実と起業の意義
② 商品の「コト」を学ぶ
③「へいじ煎餅」を観察し、新商品を考える
2.指 導 内 容① 「Excelで考える労働市場と起業」
学習内容
導
入
①情報の処理
と分析の意
義
②女性労働の
現状を学ぶ
1.見せ方
展
開
①非正規雇用比
率の表グラフ
化
②出産後の業形
態
2.伝え方
③新聞記事
④起業活動率
⑤米国の起業家
教育
主な発問指示
学習活動
①この情報の見せどこ
ろは?
②何に関する情報で
しょうか?
①情報への関心と
意欲を喚起
②グラフ化の作業
演習
①何の表でしょうか?
②どこが作成した
資料でしょうか
③この表は何を目的
に?
④女性の労働条件は良
くなっているので
しょうか
⑤日本の起業率は
⑥米国は 3 人に 2 人は起
業を
⑦なぜ日本の起業率は
低いのか?
⑧まず自分で考えてく
ださい
①プレゼンで示さ
れた課題を考える
②自分の意見を
発表する
③ます何をグラフ
によって明らかに
したいのかを考え
る
④グラフを作って
から考える
- 46 -
指導の留意点
資
料
評価
資
料
意欲
関心
態度
画
面
操作
①まず説明に集中を
②困ったら挙手を
①説明はゆっくり
②操作段階の確認をそ
の都度
③完成・終了者には、
再度の挑戦を指示
④困難者には補助支援
を
理解
解
説
分析
ま
と
め
①省略の効果
①各自作成の
グラフの評価
②起業家の意義
を学ぶ
②起業学習
解説
①問題の理解と
表現の工夫
②起業家の意義
女性の現状
①グラフ作成
②起業家の時代
画
面
解
説
関心
意欲
商品開発と「コト」-めざせ!起業家- ②
資料 38
1.指 導 概 要
① 労働市場の現実と起業の意義
② 商品の「コト」を学ぶ
③「へいじ煎餅」を観察し、新商品を考える
2.指 導 内 容②「商品の『コト』を学ぶ」
学習内容
導
入
展
開
ま
と
め
主な発問・指示
学習活動
①前半の授業
とは?
③資料を読む
①前半の授業から
①ふり返り
②商品開発とは?
②「コト」とは
①「阿漕平治
の伝説」と津
のお土産
①阿漕平治の話し
を聞き、津の歴史
に思いを馳せる
⑤新へいじ
煎餅の提案
①阿漕浦の海岸を連
想させる
・面白かった?
・ワークシートに記入
・感想を聞く
②阿漕平治の物語を
なぜお土産の名前
になったのかな?
③モノとコト
違い分かる人?
④へいじ煎餅の姉妹
品の評価・コトの発
見?
⑤新へいじ煎餅を考
えてみよう
①結果の報告
①班でのまとめ
②成果と講評
③講評
お客さんの声が商
品の開発・改善に
つながる。
②モノとコト
の学習
③コトのたい
せつさ
④開発された
商品の分析
資料 39
②商品とモノとコ
トの関係を学ぶ
③ストーリーの力
を学ぶ
④分析結果と現物
と比較せる
⑤改善・提案
①起業・商品開発に
つなげる
②理解度に応じて
話題を変える
「『へいじ煎餅』を分析し、新商品を考える」
- 47 -
資料
資料②
ワークシート
①平治の伝説と煎餅
の関わり
・地域の特色(文化・
歴史・自然)と深く関
わり
①阿漕
塚
②モノ→煎餅
コト→伝説
を認識させる
②能阿
漕
③平治煎餅本店の開
発商品を紹介
④へいじ煎餅の
コトを活かす
新製品の提案
③へい
じ煎餅
姉妹品
商品開発が域経済活
性化と深く関係して
いる
商品開発と「コト」-めざせ!起業家-③
1.指 導 概 要
① 労働市場の現実と起業の意義
② 商品の「コト」を学ぶ
③「へいじ煎餅」を観察し、新商品を考える
2.指 導 内 容③
指導上の留意点
評
価
関
心
態
度
意
欲
集約
用紙
関
心
態
度
意
欲
態
度
学習内容
主な発問・指示
学習活動
指導上の留意点
資料
評価
資料
(ワークシート)
煎餅
意欲
関心
態度
導
①授業の目的
①津のみやげ?
①平治煎餅配布
入
②平治煎餅店
②食べたこと?
②観察させ交流
①平治煎餅に興味と
関心を持たせる
②まず観察から!
商品分析
①商品の選択何を
考え買うのか
な?
①「かたさ」さわっ
た感じは?
・「形」かわいいか
な?
・「色」おいしそう
な色かな?
・「香り」おいしそ
うな?
②さあ、それではお
待ちかね。食べてみ
よう
③もっとこうすれ
ば、いいのに!
考えた人?
④挙手で集約
①観察結果を
用紙に
①問いに意味の徹底
すること
展
開
②商品の外観
内容(香・味)
の訴求力
③消費者志向
→購入者の立場で
考える
④開発・改善へ
⑤分析表から分か
ることは?
ま
と
め
①成果と講評
①改善案を提案と
交流
(東京バナナ)
*問いの意味が難し
い時、東京バナナを例に
説明する
②試食結果
用紙に
③結果の集約
②商品開発の消費者
志向のたいせつさを
認識させる
③分析表の意味
④集約結果に
ついて交流
⑤意見の発表
④平治煎餅の評価
結果から改善案
を考える
①分析表から提案
へ
①時間が足らない場
合は、ワークシートを回収
し、次回に
集約用
紙
東京バ
ナナ
意欲
関心
態度
板書掲
示
(分析表)
関心
態度
次頁のアンケート集計値は、実数である。結果は、まずまずの評価レベル「3」にクラスの半
数の生徒がいる。「1.労働市場の学習」で「面白かった?」の問いに、女子はレベル5(満足)
が0という結果となった。テーマへの興味と理解に乖離があった。とくに「理解できたか?」の
問いに対してレベル3(ふつう)が減少し、レベル4(分かった)とレベル2(分からなかった)
に分かれた。「3.商品開発」の学習では、授業への関心と理解に差がなく、ともにレベル5・
4・3、「良かった」「分かった」であり、ねらい通り親しみを感じたようだ。
課題は、起業家教育の意義と必要性を自らの問題としてどう認識させるかである。また女性労
働については「女性と男性の差に驚いた」「現実は厳しい」など、率直に述べるにとどまってお
り、授業展開を再考しなければならない。
他方、「商品開発」の学習は、概ね成功した。消費者に支持され、人気を博する商品は、品質
の良さだけでなく「コト」も大切であることを理解させるという目的は、達成したようだ。商品
の歴史や逸話が付加価値となって販売の成否を分ける事例として、津の「平治せんべい」や四日
市の「永餅」をとりあげたことが理解を深めたと思われる。また販売店からサンプルとして大・
中・小のせんべいの寄贈を受け、全員で香り・味・食感についてそれぞれの印象を語り、分析表
に落とし込み、新しいせんべいの開発につなげたことが好結果につながった。
商品開発の理解度で「難しかった」とする生徒が、男子で2人、女子で6人あった。新科目「商
品開発」の内容や授業展開で、さまざまな実践や工夫が期待できる。「2.日本の起業家教育に
ついて」は、男女に差が見られ、今後に課題を残すことになった。今回の研究授業では、女子生
徒の興味や関心を十分に引き出すことができなかった背景の分析が必要である。とくに女性労働
の厳しさだけでは、興味・関心を呼ぶことが難しい。今回の内容では、男子には受け入れられた
が、女子生徒には十分ではなかったという反省が残る。教材の出し方や展開に工夫が求められる。
- 48 -
また厳しさを見まいとする女子生徒の心にどれだけ寄り添うことができるかが問われる。対象学
年では、社会認識の成熟度でいえば第1学年ではなく、第3学年の方がふさわしいと思われる。
授業「商品開発と『コト』-めざせ!起業家-」の結果
資料 40
授業実施日 2013 年 2 月 26 日
三重県立四日市商業高等学校
Ⅰ.学習項目と評価
第1学年 商業科〔男10・ 女28〕
1.日本の労働市場について
①
面白くない
〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
1
0
1
2
2
4
よかった
3
5
18
4
2
4
5
1
0
30
女
5
20
10
0
②
男
4
10
1
18
2
4
2
3
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
1
1
2
01
5
4
理解できた
2
1
7
3
4
10
4
3
7
5
1
2
その他(感想・意見)
・働く人の中にパートの人が多いと思った
・難しかった・グラフから見ても男性と女性の差があったので驚いた
・人が死ななければならない仕事のない現実にびっくりした
・せっかく入社したのにリストラなんていや
・現実は厳しいなと思った ・自分たちの就職が心配になった・むずかしかった
2.日本の起業家教育について
③
面白くない〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
1
0
2
2
0
3
よかった
3
5
16
- 49 -
4
3
5
5
1
1
④
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
0
2
理解できた
2
2
4
3
5
16
4
1
3
5
1
2
その他(感想・意見)
・アメリカと日本の差がよく分かった
・大企業にいかなくても会社が作れることが分かった
・日本が他の国に比べて起業家精神がないんだなと思った
・アメリカのように自分で会社を作ったり社長になったのはすごいと思った
・日本は今からがんばってほしいと思った
・自分で企業を作れるのは簡単に思えた
・高校 2 年で起業したのはすごい
3.商品開発(分析)について
⑤
面白くない〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
⑥
1
0
1
よかった
2
0
0
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
0
1
3
3
12
4
5
7
5
2
6
理解できた
2
1
1
- 50 -
3
5
12
4
3
6
5
1
6
その他(感想・意見)
・アメリカと日本の差がよく分かった
・大企業にいかなくても会社が作れることが分かった
・日本が他の国に比べて起業家精神がないんだなと思った
・日本は今からがんばってほしいと思った
・アメリカのように自分で会社を作ったり社長になったのはすごいと思った
・自分で企業を作れるのは簡単に思えた
・高校 2 年で起業したのはすごい
4.モノとコトについて
⑦
面白くない〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
⑧
1
0
1
よかった
2
0
2
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
0
1
3
4
17
4
5
6
5
0
2
理解できた
2
0
4
3
6
12
4
3
6
5
0
4
その他(感想・意見)
・「面白い恋人」のことはじめて聞きました
・へいじせんべいの歴史を知り意見が変わりました
・深いい・白い恋人と面白い恋人の話し面白かった
・コンセプトが理解できた
・モノを購入するだけでなくどんないいことがあるのか考えて行こうと思った
5.へいじ煎餅とコトについて
⑨
面白くない〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
⑩
1
0
0
よかった
2
0
0
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
0
0
3
4
10
4
4
6
5
1
12
理解できた
2
0
1
- 51 -
3
1
7
4
8
9
5
1
11
その他(感想・意見)
・昔のコトが今の商品につながっていてすごい
・年配の方にはこのぐらいの固さがいいのでは
・おいしかったですこのままの商品でいいと思います
・昔の上下関係は理不尽だったと思いました
・モノを購入するだけでなくどんないいことがあるのか考えて行こうと思った
・物語がおもしろかった ・へいじ煎餅の由来が分かった
・ちゃんと由来があるんだと思いました
6.永餅プロジェクトについて
⑪
面白くない〔1・2・3・4・5〕
関心度
男子
女子
⑫
1
0
0
よかった
2
0
0
むずかしかった〔1・2・3・4・5〕
理解度
男子
女子
1
0
0
2
0
3
3
3
14
4
4
11
5
3
2
理解できた
3
1
13
4
8
7
5
1
4
⑬ ネーミング案
・高虎永餅・キュアピンク永餅・ハイタイガー永餅・幸せ永餅・東海餅・ストロンゲスト高トラ永モチ
・気永餅・高永餅・富永餅・末永餅・出世餅・もっちり永餅②・幸永餅・長寿餅
・のび~る永餅・美永餅・もちもち永餅・ながいき餅
Ⅱ.その他(全体を通じての感想・意見)
・桑名の安永餅と対立していたことに驚きました・藤堂高虎さんとの関わりを初めて知りました
・興味深いことがたくさん聞くことができた ・日本の企業のことについてよく分かりました
・三重にこのように有名な食べ物があるとは思いませんでした
・日本の経済が難しくなってきていることを改めて感じた
・へいじ煎餅の事は知っていたけど歴史までは知らなかった・知れてよかった
・へいじせんべいは美味しかった・最初はむずかしかったけど理解できてうれしい
・日本はもっと積極的に起業したらいいと思いました・日本は起業家精神を持っていると思います
・アミダくじに当たってうれしかった
・理解するのが難しかったけど、面白いところもあって楽しかった
・とてもよく分かった・せんべいもとてもおしかった・授業もとてもおもしろかった
- 52 -
・経済も分かりせんべいもうまかった・起業家はカッコいいなと思った
・へいじせんべいのアイデアを考えたりして楽しかったです
・モノとコトについて知らなかったので説明を聞けてよかった
・はじめは起業することはとても難しいことであんまり関心ないと思っていたが、話しを聞いてだれ
でもできることだし、アイデアとか出せばいいと思った。
・話しを聞とって疲れた・せんべいおいしかった・商品開発など身近なことが多く面白かったです
第4節 地域と向き合う授業事例
指導事例_①
地域キャラ「クーちゃん」の場合
資料 41 富田地区キャラクター
「クーちゃん」は、富田地区市民センター(四日市市)公式ホームペ
ージのマスコットキャラクターである。三重県立北星高等学校の2年生の
女子生徒が2011年に同地区市民センターが募集したキャラクターコンテ
ストで最優秀賞を獲得した。富田地区には「鯨船(くじらぶね)」という
山車があり、夏祭りに練り出される。右のキャラクターは、「鯨」をモチ
ーフとしたもので、その地域性と愛らしさが評価された。現在もクーちゃ
んの部屋というコーナーがホームページのトップページにあり、人気者である。指導されたのは
、同校の堀後貴尚教諭、情報処理教育のベテランである。情報処理教育における地域教材の実践
事例としてたいへん興味深い。キャラクター製作は、商品開発の重要な要素でもある。
授業の展開もさまざまな形態が考えられる。例えばグループでとりくめば、生徒間のコミュニ
ケーション能力や人間関係を学ぶ時間となる。係り分担にはじまり、地域の歴史や伝統について
の調査や資料集め、さらにキャラクターのデザインからプレゼンテーションまで、それぞれの作
業段階での葛藤、意見交換や議論が期待できる。
資料 42 商店街キャラ
またキャラクターの製作を通じて、知的財産権とくに商標権や意匠権に
も広げることができ、起業家教育そのものである。ちなみに右のキャラク
ターは、課題研究「四日市学」の生徒が本町通り商店街振興組合の依頼で
製作したマスコットキャラクターの「ポンポコ」である。本町通り商店街
には、「岩戸山」という山車がある。カラクリ山車の舞台に登場する古狸
をモチーフにしている。商店街が発行するチラシやスタンプにも活用されている。
指導事例_②
地域のみやげ
-ヤガラ・御紋瓦・千鳥焼・へいじ煎餅 -
津は、参宮街道の宿場町として栄えた。能の四番目の演目に「阿漕」がある。「九州日向国(
宮崎県)の男が伊勢参りを思い立ち、長い旅路の末、伊勢国(三重県)
安濃の郡までやって来ます。ちょうど現れた一人の年老いた漁師に、
ここが阿漕が浦であることを教えられる」(名古屋・春栄会より)作
者は世阿弥、観世流の能は室町時代にはじまる。
阿漕といえば津の阿漕海岸、白砂青松の浜として明治以降も多くの
海水浴客で賑わった。ところが帰路につく客たちが土産に何かいいも
のは?という時、これといった土産はなく、惜しむ声が度重なった。
そこで津の和菓子屋四軒が集まり考えたのが、見出しの四品である。
元桑名藩ゆかりの店が九カドー、名物が御紋瓦、ヤガラは福寿軒の
- 53 -
資料43 研究授業資料
名物1993年に洋菓子工房「T2」を創業し、りんごチョコが人気商品と
なった。和菓子屋を廃業し、洋菓子専門店となった。千鳥焼は清観堂、
不老柿とともに有名である。平治煎餅は、今年(2013年)、創業100周
年を迎える平治煎餅本舗、現在も売上の50%は平治煎餅である。また
材料(小麦粉・卵・砂糖)は、創業当時と全く変わっていないという。「津の土産といえば平治
煎餅」その評価は、今も変わっていない。
紹介した津の名物は、そのまま第一級の「商品開発」の教材ではないだろうか。親しみのあ
るお菓子は、興味と関心をひく格好の教材となる。また地域の歴史と深く関わっている。それぞ
れの店の歴史には「商品開発」の教訓に満ちたものがたくさんある。既述の「T2」は、チョコ
レートで有名な洋菓子店である。それに対して創業以来100年間、材料も味も変えずに今日に至
った「へいじ煎餅」は、へいじ煎餅だけで年間数億円の売り上げがあるという。和菓子一筋に歩
む店、時代に即した商品開発に努力した店、様々な学びが期待できる。
指導事例_③
三重の餅菓子
2013年6月13日、津市立栗真小学校でとりくんだ
資料44
2013年 栗真小学校研究授業資料
「地域社会に対する誇りと愛情を育てるための起
業家教育」を紹介する。単元名は「地域教材を活用
した起業家教育」、対象学年は小学校3・4年である。
小学校での研究授業ではあるが地域教材は、それぞ
れの年齢にふさわしい学びが期待できる。本授業で
は、最終的に地域活性化につながる新しい餅菓子の
開発をめざした。小学生には小学生の、高校生には
高校生の商品開発が期待できる。生徒たちのプラン
が地元の和菓子屋や餅菓子屋との連携で商品化す
ることができればすばらしい実践となる。
筆者作成
第5節 新科目「商品開発」
検定教育の問題は、「検定教育の限界」で論じた。繰返しは避けたいが、現場での認識が客観
主義の教育から一歩もでていないことを指摘せずにはおれない。「点数化できない教育は、保護
者に説明がつかない」にとどまっている。もちろん全国高等学校生徒商業研究発表大会のように
地域と向き合った研究活動も各地でとりくまれてきた。大会も20年を超える時間を経てはいる。
しかし課題研究という教科書の縛りの無い科目か、クラブ活動という位置づけが大半である。
新科目「商品開発」は、教科書もカリキュラムへの位置づけも確固としたものである。本論の
テーマである「地域と向き合う商業教育」からも期待を寄せる教科である。学習指導要領に「企
画・開発し,提案するとともに,流通活動を行う能力と態度」の育成とある。
数値化が宿命的な検定教育に新科目「商品開発」を無理やり押し込めば、教科の魂と志が壊れ
てしまうと筆者は危惧している。地域が抱える課題とどうとりくむか、今、商業教育が問われて
いる。知識が現実の課題と向き合うとき、知恵となり生きる力となる、という構成主義の教育に
耳を傾けることを願いたい。
- 54 -
検定教育は、職業教育である商業教育には、たいせつな要素であり、検定教育抜きには成り
立たない。しかしそれだけでは不十分であるという議論であることを強調したい。新しい高等学
校指導要領・商業編が提起している「地域貢献」は、知識ではなく、具体的な活動をともなうも
のでなければならない。「態度を養う」とは、座って話しを聞くだけで育つものではないはずで
ある。実教出版の26年度用教科書見本「商品開発」は、新教科書という新鮮さがページの随所
に読み取ることができる。内容はもちろん事例やレイアウトなどの工夫に現れている。そこで本
論文のテーマである「地域と向き合う」から若干の意見を記しておきたい。
本書は教科書として使えるだけでなく、経営マニュアルしても使える完成度の高い教科書で
ある。したがって大学でのテキストとしても使用できるが、皮肉にも課題がそこにある。レベル
の高さが、高校生たちにはどうであろうか、というのが筆者の懸念である。商品開発を通じて、
起業家精神の育成、地域産業に寄与できる人材をめざすとなれば、知識より行為・活動に重点を
置くべきである。生徒たちの学習が知識中心の学習となる危うさを指摘しておきたい。したがっ
て現場での課題は、身近な地域の自然・風土・文化・伝統と向き合える工夫が求められる。
「知識より行為」を意識すべき教科である。知識は必要な時にテキストを開ければことは足
りる。身近な事例をより具体的に学ぶことで、地域と向き合う姿勢が育まれる。新教科「商品開
発」の今後の実践研究に期待したい。
資料 45
高等学校学習指導要領・商業編「商品開発」
第6節 商品開発
この科目は,消費者の視点に立った商品開発の流れについて体験的に理解させ,顧客満足の実現を
目指す商品を企画・開発し,提案するとともに,流通活動を行う能力と態度を育てる観点から新たに
設けたものであり,商品の企画,商品の開発,商品開発とデザイン,商品開発と知的財産権などの内
容で構成した。
第1
目
標
商品開発に関する知識と技術を習得させ,顧客満足を実現することの重要性について理解
させるとともに,商品を企画・開発し,流通活動を行う能力と態度を育てる。
この科目のねらいは,商品を企画・開発し,流通させるために必要な知識と技術,商品開発に必要
なデザインに関する知識と技術及び知的財産権に関する知識を体験的に習得させ,顧客満足を実現す
ることの重要性について理解させるとともに,消費者の視点に立って商品を企画・開発し,流通活動
を行う能力と態度を育てることにある。 (下線は筆者)[高等学校学習指導要領商業編 p.26]
2 内 容
(1) 商品と商品開発
ア 商品の多様化
イ 商品開発の意義と手順
(2) 商品の企画
ア 環境分析
イ 商品開発の方針テーマの決定
ウ 市場調査
エ 商品コンセプトの立案
(3) 商品の開発
(5) 商品開発と知的財産権
ア 商品仕様の詳細設計
ア 知的財産権の概要
イ 試作品の作成と評価
イ 知的財産権の取得
ウ 消費者テスト
(6) 商品流通を支える活動
エ 事業計画の立案
ア 流通の仕組みと市場
(4) 商品開発とデザイン
イ 小売業と卸売業
ア デザインの基礎
ウ 流通手段の多様化
イ グラフィックデザイン
エ 流通を支える活動
ウ パッケージデザイン
出典:高等学校学習指導要領商業編 pp.26-30 筆者抜粋
小 括
本章では、日本型起業家教育として押さえるべきこととして、①地域への帰属意識 ②地域の
- 55 -
風土と歴史に根差した地域産業 ③起業家のあるべき姿 ④女子教育としての起業家教育、の4
つをあげた。また依拠する科目として、新科目「商品開発」を提案している。巻末資料に実教出
版株式会社の教科書見本「商品開発」(26年度用)の目次を掲載した。新しい教科書の内容、
事例や逸話は新鮮で興味深く、読み物として完成されている。残された課題は、生徒たちのモチ
ベーションと地域活性化にどうつなげるか。現場の力量が問われている。
新高等学校学習指導要領・商業編には、「ビジネス経済応用」が新科目として登場している。
教科目標に「地域産業の振興」が謳われており大きな期待を寄せるところである。しかし、現場
に思いを馳せる時、手放しでは喜べない。国際経済という科目が選択科目に位置づけられ、最低
開講人数である5名に達しないことから、閉講となった過去の事例もあるからだ。
本章は、商業教育を担う先生方の共感と日常実践に供するものである。新科目「商品開発」の
採用を心より希望するとともに、地域と向き合う実践を願わずにはおれない。研究授業の事後ア
ンケートの結果から、起業家教育が「地域と向き合う」ことで、ことばだけの学習からより身近
で親しみのもてる学習に深化させることができると確信した。生徒たちの印象や率直なコトバが
そのことを証明している。
「事務労働をおこなう女子教育」の商業教育から、自立・独立の気概をもった起業家教育とい
う、新たな商業教育が「商品開発」という教科によって図られるものであることを強調したい。
- 56 -
おわりに
地域経済の再生を学校教育の立場から地域教材と起業家教育の観点で論じてきた。論点は、①
商業教育の地域経済に果たすべき役割とは何か ② 商業教育に起業家教育(商品開発)をどの
ように位置づけるべきか ③ 地域学の教育学的意義、の3点である。
①の考察では、東井義雄の実践に多くを学ぶことができた。生活綴り方を通して、日々の暮し
から地域へと子どもたちの目を開かせ、気づかせていく実践である。「今より以上に働いたら、
おとっちゃんたちは死んじまいなる」と気づいた生徒たちが「どうすればいいんだ」と思い悩む。
東井は「まだ働いてないところがある」と問いかける。子どもたちは考える。そして「頭、頭だ!」
と叫ぶ。東井の実践に ①の答えを見ることができた。地域の課題を「見つめ・考え・行動」に
つなげる教育の創造は、地域に果たすべき商業教育の責任であり課題である。
②の「起業家教育の位置づけ」では、地域教材の意義について考察した。生徒たちの気づき、
考え、行動につながる教材は、教科書より親近感のある地域に根ざした課題が効果的であること
を知った。「学習活動を実際に解決しなければならないより大きな枠組みのなかに埋め込む」こ
とで深い学びができるという、構成主義教育の学習環境デザインが示唆するところと重なった。
アメリカの起業家教育を注意深く見る必要があるが、内容の多くは、商業教育と重複し、決して
新しいものではない。課題は、どれだけ商業教育を学ぶ生徒たちの意識と行動の変革につなげる
ことができるか。本論では、地域教材が学びにリアリティーを与え、生徒のモチベーションにつ
なげるものであると考察した。
③の教育学的意義については、第4章_第4節「商業教育の新たな可能性」において「検定教
育」という客観主義・実証主義に傾倒する商業教育では、詰込み教育にならざるを得ないこと、
また短期の成果を求めるあまり、生き方や価値観につながる深い学びにつながらないことを再確
認し、商業教育の新たな課題、構成主義の教育を提起した。
「学習者が、問題や課題に主体的に取り組めるように支援する」「本物の問題状況をデザイン
する」の提起を三重県立四日市商業高等学校 商業科1年生を対象に実施した研究授業「商品開
発とコト」で考察した。実施学年の問題や時間的制約という課題を残しながらも、授業後の生徒
たちの声「はじめは起業することは、とても難しいことであまり関心なかったが、話しを聞いて
だれでもできることだし、アイデアとか出せばいいと思った」に、構成主義の教育が提起する学
習環境デザインの今日的意義を学ぶことができた。
3・11以降、「互い助け合って生きることの大切さを強く感じるようになった」という高校
生が増えている。とくに東日本大震災を経験した高校生にその傾向が顕著に現れているという。
「高校生と保護者の学習・進路に関する意識調査20」によると、全国平均が63.8%に対して、被
災地は76.6%。「社会に貢献したいという気持ちが強まった」全国平均が32.7%に対して、被災地
の高校生は47.1%。地元志向とともに「貢献したい」という気持ちが強まったことが明らかになっ
た。地域経済の復活・再生のカギは、高校生の真っ直ぐな情熱と行動力にあると考えている。
問われているのは、それをどう育て、応援するかではないだろうか。本論がそのいくつかに応
えるものであることを願って結語とする。
2014 年 2 月13日
20
ベネッセコーポレーション 2011.12.12 調査「震災の影響。 東日本大震災により高校生の価値観や大学進学意識が変化」
- 57 -
参考文献および参考資料
1.
『高等学校学習指導要領解説_商業編 』文部科学省
(2010)
2.
平成24年10月4日「第2回定例会予算決算常任委員会教育警察分科会報告」
http://www.pref.mie.lg.jp/kyoiku/hp/kyo_so/gikai/gikaih241004.html
三重県ホームページ
3.
三重県立木本高等学校平成23年度進路状況
3.
上越教師の会編『地域に根ざす教育と社会科』あゆみ出版(1982)
4.
全国商業教育研究協議会編『全国商業教育研究議会年報2005〔通巻第65号〕』
5.
東井義雄著作集 第1巻『村を育てる学力』明治図書(1972)
6.
三澤勝衛著『風土産業』古今書院
7.
『三重県立四日市商業高等学校110周年記念誌』四日市商業高等学校編(2006)
8.
番場博之著『職業教育と商業高校』大月出版(2010)
9.
岸川政之著『高校生レストランの奇跡』伊勢新聞(2010)
[http://www.mie-c.ed.jp/hkimot/sinnrojoukyou/2013/2013sinnro.htm] (2013.7.3検索日)
10. 平成24年10月4日
(1952)
三重県議会「第二回定例会予算決算常任委員会教育警察分科会」答弁書
http://www.pref.mie.lg.jp/kyoiku/hp/kyo_so/gikai/gikaih241004.html(2012.9.10)
11. 全国商業高等学校協会ホームページ
検索日(2013.8.29)
平成24年度 公益財団法人全国商業高等学校協会「正味財産増減計算書内訳表」
http://www.zensho.or.jp/puf/download/aboutus/data_exchequer.pdf
1.
第27回 (平成24年度)商業経済検定試験問題
〔ビジネス基礎〕検索日(〃)
12. 全商 [http://www.zensho.or.jp/puf/download/exam/pastexam/2013/]
13. 三重県教育委員会『三重県教育ビジョン』平成23年3月
14. 久保田賢一『構成主義パラダイムと学習環境デザイン」関西大学出版部
15. 久保田賢一『構成主義が投げかける新しい教育」関西大学
www.res.kutc.kansai-u.ac.jp/~kubota/write/CIEC03ver4.pdf
参照
16. 山岡道男・淺野忠克共著『起業の教科書』アスペクト(2009)
17. 文部科学省「高校キャリア教育の手引き(PDF)」(平成23年)
18. 平成25年度「キャリア教育・職業教育推進事業計画書」北海道教育委員会
19. 山岡道男・淺野忠克共著『 起業の教科書 』アスペクト(2009)
20. 平成21年度創業・起業支援事業「起業家精神に関する調査」報告書
財団法人ベンチャーエンタープライズセンター
19. 労働運動総合研究所「電気・情報産業13万人リストラ計画」2013.2.26
20. 経済産業省「非正規雇用者男女別比率」(1990-2012)
21. 国立社会保障・人口問題研究所「第一子出産後の妻の就業経歴」1985-2009
22. ベネッセコーポレーション「高校生と保護者の進路に関する意識調査」2011.12.12 調査
23. 高等学校商業科用 26年新課程『商品開発』片岡寛
実教出版
筆者 山本政己(やまもとまさみ)
1951年、三重県上野市生まれ。2012年3
月、三重県立四日市商業高等学校商業科
教諭を定年退職。2012年4月、三重大学
大学院教育学研究科に入学。
全国商業教育研究協議会常任委員
- 58 -
謝
辞
本論文の執筆にあたり、終始熱心なご指導を賜りました。三重大学大学院教育学研究科教授
山根栄次先生、永田成文先生に心より御礼申し上げます。思い入れが強く「論文とは言えない、
随筆だ」と厳しくご指導いただきました山根先生、常に冷静で説得的な助言をいただきました永
田先生、両先生の研究者としての実績だけでなく、人間として教師としての大きさに敬服いたし
ました。
本論文の柱は、現場実践と研究授業です。三重県立四日市商業高等学校校長 青山 晶先生には
研究授業のご快諾を頂きまたしたことについてここに感謝を申し上げます。また吉原達美先生に
は、課題研究「四日市学」を大きく育てていただきました。
中村優子先生には、研究授業だけでなく、アンケート調査に際してもご協力をいただき、心か
ら感謝せずにはおれません。併せて、三重県教育委員会・三重県立四日市商業高等学校、三重県
立尾鷲高等学校・三重県立木本高等学校からも貴重な情報をご提供いただきました。有難うござ
いました。
本論の研究を通じて学校現場の課題、地域への使命、未来への責任を認識する2年間でした。
学校現場で生徒たちと出会う機会に恵まれましたなら、自らも一教員として生徒たちとともに地
域の課題と向き合いたいと存じます。
大学院生としてのこの2年間は、これまでの人生には無かった刺激的で感動的な時間でした。
学ぶ喜びを誰よりも強く感じることができたと自負しています。これも院生の仲間や学部生の皆
さまのご配慮や励ましがあってのことだと感謝の気持ちでいっぱいです。
本論文のむすびあたり皆さまのご健康とご健勝をお祈り申し上げ、謝辞とさせていただきます。
有難うございました。
- 59 -
- 60 -
資 料 編
- 1 -
巻末資料
「起業家と商品開発」(授業資料)
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資料_①
日本経済の停滞
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-季節限定のものも①・味にバリエ ー ションを①
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九 カ ド ー 元桑 名 藩 ゆ か り の底、名物 が盤 盆 亙
福軍事軒 :主主豆が名物 1993年 洋菓子工房 fT2J
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「コト」とは
賀町観堂 :名物壬皐盤、不老柿と ともに有名
①人と人がともに作る
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⑥他と比較も代替もできない
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三軍 大 学 毅 膏 学 研 究 科
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高等学校商業科26年度用「商品開発」片岡寛
第1章 商品と商品開発
序 節 第1章で学ぶこと
第1節 商品の多様化
1.商品の成り立ちと範囲
2.技術革新と商品
3.経済の国際化と商品
4.消費生活の変化と商品
5.地球環境の保全と商品
第2節 商品開発の意義と手順
1.商品開発の意義
2.現代社会における商品開発
3.商品のライフサイクル
4.商品の評価と商品の改良
5.商品開発の手順
第2章 商品の企画
序 節 第2章で学ぶこと
第1節 環境分析
1.商品を取り巻く環境
2.マクロ環境の分析
3.ミクロ環境の分析
第2節 商品開発の意思決定と開発テーマの決定
1.商品開発の意思決定
2.開発テーマの検討
第3節 市場調査
1.市場調査とは
2.市場調査の内宮
3.市場調査の方法
4.市場調査の手順
第4節商品コンセプトの立案と商品企画書の作成
1.商品コンセプトとは
2.商品コンセプト立案の手順
3.商品企画書の作成とプレゼンテーション
第3章 商品の開発
序 節 第3章で学ぶこと
第1節商品の仕様と詳細設計
1.商品の仕様
2.詳細設計
3.コンピュータによる設計と評価
第2節試作品の作成と評価
1.試作の目的
2.試作品の作成
3.試作品の評価
第3節開発商品のテスト
1.機能テストと消費者テスト
2.消費者テストの方法
3.市場テスト
第4節事業計画の立案
1.事業計画の立案の趣旨
2.価格の設定
3.流通経路の立案
4.販売促進の立案
5.財務計画の立案
6.事業計画書の作成とプレセンテーション
巻末資料プレゼンテーション
1.プレゼンテーションとは
3.プレゼンテーションの留意点
5.プレゼンテーション資料の作成
重要用語のまとめと解説 さくいん
実教出版
第4章 商品開発とデザイン
序 節 第4章で学ぶこと
第1節デザインの基礎
1.デザインの役割
2.デザインの種類
3.商品開発と関わりの深いデザイン
4.デザインの基本ルール
第2節パッケージデザイン
1.パッヶ-ジデザインとは
2.パッヶ-ジデザインの制作
第3節 グラフィックデザイン
1.グラフィックデザインとは
2.グラフィックデザインの制作
第4章練習問題
第5章 商品開発と知的財産権
序 節 第5章で学ぶこと
第1節知的財産権の内容
1.知的財産の保護の重要性
2.特許権の内容
3.実用新案権の内容
4.意匠権の内容
5.著作権の内容
6.商標権の内容
7.不正競争防止法の内容
第2節知的財産権の取得
1.知的財産の権利化の意義
2.知的財産権の取得手続き
第3節知的財産権の活用
1.独占的販売
2.ライセンス
第6章 商品流通と流通を支える活動
序 節 第6章で学ぶこと
第1節流通の仕組みと市場
1.流通の役割
2.流通の仕組みとその変化
3.流通系列化
4.商品流通における市場の役割と課題
5.卸売業者の種類
6.小売業者の種類
7.業態ごとの流通戦略
第2節 売買業者の商品計画
1.卸売業者の商品計画と今後の方向
2.小売業者の商品計画と今後の方向
3.プライペートブランド商品の開発
第3節流通手段の多様化
1.無店舗販売
2.商品の特性に応じた流通
第4節物流と流通を支えるその他の活動
1.物流の働さと仕組み
2.金融り呆険の働きと仕組み
3.情報通信システム
第7章 総合実習
1.商品開発演習のねらいと演習の手順
2.商品開発実習
2.プレゼンテーションの種類
4.プレゼンテーションの流れ
6.プレゼンテーション実習
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資料_③
経済産業省委託事業
平成 17 年度
経済産業省 『全国新規事業発展基盤調査』
(起業家教育の実施状況及び普及・定着に関する調査)
報 告 書
平成 18 年 3 月
株式会社ウィル・シード
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はじめに
経済産業省では、我が国における将来の新規事業の創造・創出の担い手となるようなチャレン
ジ精神などの「起業家マインド」溢れる若者の育成・輩出を図るため、「起業家教育」を公立小
中高等学校の通常授業内で実施する「起業家教育促進事業」を実施している。
本事業では、体験・参加型の起業家教育プログラムの複数の「モデル自治体」で実施すること
により各自治体での普及定着を図るとともに、他の周辺自治体への反響・波及効果を得ることを
狙っており、平成 16 年度末までに本事業により起業家教育を受講した生徒は、のべ 350 校、約
3 万人に達している。
また、本事業以外でも地域や団体等が独自に起業家教育に取り組んでいる事例もあり、全体と
して起業家教育に取り組む学校は増加傾向にあるものと考えられる。そこで本調査においては、
現在取り組まれている起業家教育の全国的な実施状況を把握するとともに、実施時及び近い将来
の実施継続における地域・学校の抱える課題及び解決策を調査することにより、今後、我が国に
おける起業家教育の更なる普及・定着に向けたあり方を検討する。
本調査のねらいは、大きく分けて3つある。
・起業家教育、それに類する教育の我が国の実施状況を知ること。また、それらの教育と起
業家教育とを見比べたとき、起業家教育の独自性となる点を探し出した上 で、実際に教
育現場で行われているプログラムでの実践度合いを調べること
・起業家教育の地域定着を図る際、
そのキーポイントとなる学校現場に大きく関わる存在
「企
業・NPOなどの民間団体」「自治体」「学校」のそれぞれが課題だと考えている事がら
を知ること
・それぞれが課題だと捉えている事がらを克服する、もしくは克服した方法・事例を集める
こ本調査では、地域定着に取組む事例
・成功した事例を広く集め、公開することで、今後の起業家教育の普及・定着・発展を図り
たい。
起業家教育とは、起業家マインドの育成、起業家的能力およびスキルを身につけるための教育
の総体をさし、その形式は職業訓練からゲーム的なものまで多岐にわたっている。起業家教育は
「起業家」の育成のみを目的とするものではなく、社会生活を営む上で必要な能力や考え方を学
ぶものであり、
我が国特有の教育活動ではなく、他の先進諸国においても一般的に行われている。
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目
次
第1章 起業家教育をめぐる状況
【1】起業家教育とは何か?
【2】起業家教育の海外事例
1.米国における起業家教育
2.英国における起業家教育.
3.スコットランドにおける起業家教育
4.フィンランドにおける起業家教育
5.スウェーデンにおける起業家教育
6.デンマークにおける起業家教育
【3】我が国の起業家教育に類する教育の状況
1.キャリア教育
2.経済教育
3.金融教育
4.消費者教育
5.シティズンシップ教育.
【4】初等・中等教育における、起業家教育の位置づけ
1.「生きる力」とは何か?
2.起業家教育と「生きる力」との関係性
3.起業家教育とそれに類する教育、「生きる力」の関係性
第2章 調査 ~ 我が国の起業家教育の現状と課題とをさぐる
【1】アンケート調査.
1.アンケート調査全体概要.
2.我が国での起業家教育実施地域
3.民間団体(企業・NPO)へのアンケート
4.自治体・学校へのアンケート
【2】ヒアリング調査.
1.ヒアリング調査全体概要.
2.ヒアリング結果 ~ 民間団体(企業・NPO)
1)予算を確保するために行っている取組み
2)時間数を確保するために行っている取組み
3)学校内の理解を得るために行っている取組み
4)地域協力者を確保するために行っている取組み
5)チャレンジ精神や、新しいものへ取組む姿勢を
向上させるコンテンツとはなにか?
3.ヒアリング結果 ~ 自治体、学校
1)予算を確保するために行っている取組み
2)時間数を確保するために行っている取組み
3)学校内の理解を得るために行っている取組み
4)地域協力者を確保するために行っている取組み
5)外部講師を確保するために行っている取組み(自治体のみ)
第3章 起業家教育の地域定着を図るために
【1】調査のまとめ
【2】調査からの考察
別添資料:プログラム一覧
【1】民間団体(企業・NPO)プログラム一覧
【2】自治体
【3】学校
別添資料:各団体向けアンケート用紙
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経済産業省 『全国新規事業発展基盤調査』(起業家教育の実施状況及び普及・定着に関する調査
)
平成18 年3 月 株式会社ウィル・シード 報告書(PDF)より抜粋
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