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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 価格戦略コミットメントゲームの混合戦略均衡 Author(s) 村田, 省三 Citation 經營と經濟, 92(4), pp.29-43; 2013 Issue Date 2013-03-25 URL http://hdl.handle.net/10069/31438 Right This document is downloaded at: 2017-03-29T17:47:54Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp ocÆoÏ æ92ª æS 29 2013NR 価格戦略コミットメントゲームの混合戦略均衡 村 田 省 三 Abstract In this paper, we consider the commitment game of Hamilton and Sultsky (1990),and point out that the simultaneous move Nash equilibria must be. This equilibria does not deleted by some dominant strategy. The experimental evidence obtained in Fonseca et al (2006) is not contradiction. Furthermore, we prove the non existence of mixed equilibria in the commitment game of Hamilton and Sultsky (1990) in the case of price setting duopoly basic games where the best reply curve of each player has positive slope. In the price setting duopoly game, deviating to the the player's best reply curve is always profitable. Keywords: action commitment game, mixed equilibria, isoprofit curve 1 はじめに 本稿では,ゲーム戦略としての価格水準等をコミットするゲーム(戦略コ ミットメントゲーム)に関する混合戦略均衡の存在可能性を検討する。純戦 略均衡については,すでに,Hamilton and Slutsky (1990) において,同時 手番均衡と2つのシュタッケルベルグ均衡が一意に存在して,それらが互い に異なっているような基本ゲームをもつコミットメントゲームにおいては, (純戦略均衡は)それら3つの均衡以外に存在しないことが証明されている (定理7)。そして,続く定理8において,支配されない純戦略均衡が2つ 30 o c Æ o Ï のシュタッケルベルグ均衡のみであるという証明を与えているが,この定理 8は誤りであり,同時手番ナッシュ均衡を排除することはできないことはす でに示されている。定理8の証明が誤りであることの背景には,いわゆる囚 人のパラドックスとして指摘されていた論理矛盾に大きく関連するものがあ る。定理8において,支配されない純戦略均衡を求めるとき,いわゆる同時 手番ナッシュ均衡によって支配される戦略を排除をする論法をとっている が,そのいきかたの当然の論理的帰結として,それ自身(同時手番ナッシュ 均衡)を排除できないことがこのような誤りを発生させている。同時手番ナ ッシュ均衡そのものを排除すると,それによって排除された領域が,排除さ れる理由を失うのである。 これにたいして,同様のコミットメントゲームについて,混合戦略均衡が 存在するかどうかを検証することは必ずしも容易でない。先手と後手そのも のをコミットして,手番順序が確定した後に,戦略的数値(価格水準や数量 水準)を選択する構造を仮定する手番コミットメントゲーム(game with observable delay)では,ゲーム均衡を求めるときに利用される後向き帰納 法の論理から,当然のこととして,まず分析の第1段階として,基本ゲーム の均衡が独立的に考察される。そのため,基本ゲームにおける利潤関数の数 学的な特徴が分析の主な対象となり,したがって,最適反応曲線や等利潤線 の形状が議論される。これにたいして,本稿で検討するゲーム(戦略コミッ トメントゲーム)では,戦略的数値そのものを最初にコミットして,それが 均衡戦略かどうかを判定するタイプの戦略コミットメントゲーム(action commitment game)であるから,構造的に,そのような2段階分析を適用 できない。つまり,手番コミットメントゲームの場合は,起こりうる手番順 序について,その各々(2人ゲームであれば4通りある)を,確定手番ゲー ムとみて,その均衡利得を比較検討することができるという意味で,ゲーム 均衡を求める作業を2段階に分割することが有効であるが,戦略コミットメ ントの場合は,そのような分類は無数に存在するから,そのような2段階分 ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 31 割による均衡分析は現実的でない。 このようなゲーム構造であることは,手番コミットメントゲームにおける 純粋戦略均衡が,同時手番均衡と2つのシュタッケルベルグ均衡以外に存在 しないことの証明(Hamilton and Slutsky (1990) 定理7)にも反映されて いる。すなわち,ここでの証明は,数理解析的な分析の結果としてこれら均 衡が導出されるという形式にはなっていない。そうではなく,まず,戦略コ ミットメントゲーム(action commitment game)の純戦略均衡の候補とし て,基本ゲームの同時手番均衡戦略が検討されて,逸脱が起こらないことを 確認するという論法になっている。同様にして,基本ゲームにおける二つの シュタッケルベルグ均衡の議論が行われる。すなわち,最初に研究者の直感 によって,戦略コミットメントゲームの特定の戦略が均衡の候補とされ,続 いて,その直感の妥当性を検証するという分析方法になっている。このこと は,見落とされやすいがきわめて重要である。 戦略コミットメントゲームでは,戦略的数値(価格水準や数量水準)と同 レベルの戦略として Wait 戦略が選択できるために,極値条件からゲーム均 衡をもとめるという通常のゲーム理論的な論法が適用できない。Wait 戦略 にもとづく可微分性を想定できないからである。Hamilton and Slutsky (1990) 定理7の証明に,解析的な利潤関数が登場しないのはそのためであ る。この特質が,同コミットメントゲームにおける混合戦略均衡に関する研 究の最大の問題を提供することになる。数学的な,あるいは少なくとも計算 可能性をまったく顧慮しないままに,混合戦略均衡の有無を判定可能かとい う問題である。この問題の可解性には,懐疑的にならざるを得ない。 この問題の解答は,戦略的数値については微分可能性を考慮し,Wait 戦 略については,その選択確率についての微分可能性を考慮できるような利潤 関数によって与えられる他はない。すなわち,直感によって混合戦略均衡を 網羅的に分析射程内にとらえることは難しいということである。といって, 具体的な利潤関数を仮定する行きかたによると,その証明の一般妥当性が疑 32 o c Æ o Ï われるだけでなく,その解析作業は相当に複雑化する。2次の利潤関数の場 合でさえ,2つの極値条件式と2つの確率的同等条件式の合計4条件式を検 討して,それが有意味な領域内で可解であるかどうかを判定しなければなら ない。そのため,分析の方向は,これら合計4条件式の完全同時連立からで はなく, その部分システムによる判定へと向かうことが期待されるのである。 この場合の部分システムとしては,2つの極値条件式か,あるいは2つの 確率的同等条件式のいずれか一方が候補となるが,解析的な容易さからは, 2つの極値条件式の選択が排除される。その理由は,この極値条件式には, いわゆる Wait 戦略が含まれたままであるため,最適反応関数を経由する相 互的影響が排除されないことにある。もちろん,その見通しの背景には,戦 略コミットメントゲームには真正な混合戦略均衡は恐らく存在しないであろ うという,これまで積み重ねられた研究経緯がある。仮に,戦略コミットメ ントゲームに真正な混合戦略均衡は存在しそうであれば,検討されるべき部 分システムとしては,いうまでもなく,2つの極値条件式が選択されるべき である。 本稿では,以上のような完全な見通しを持たないまま,しかし過度に計算 的な手法をとってこの問題(戦略コミットメントゲームには真正な混合戦略 均衡 はな い) をと らえ ,そ して その 限り にお いて 証明 に成 功し てい る Pastine and Pastine (2004) の研究を,その特殊ケースとして包含してしま う新しい一般証明を与える。この本稿での証明により,同時に,実験経済学 の手法によって,Fonseca, M äuller and Normann (2006) が提起した問題, すなわち,戦略コミットメントゲームにおいて人々は何故同時手番ナッシュ 均衡を選択するかという疑問にたいしても,その現象の背後にあるゲームの 基本構造に関する明快な示唆が与えられることになる。 ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 2 33 モ デ ル プレイヤー A および B は,それぞれ,以下で定義される期待利得 EπA お よび EπB を最大化するような戦略を選択するものとする。プレイヤー A は x∈R および qA∈[0,1] をコントロールして,EπA を最大化する。プレイヤー B は y∈R および qB∈[0,1] をコントロールして,EπB を最大化する。 EπA(x,y,qA,qB)=qAqBπA(x,y)+qA(1−qB)πA(x,RB(x)) +(1−qA)qBπA(RA(y),y)+(1−qA)(1−qB)πA(RA(y),RB(x)) EπB(x,y,qA,qB)=qB qAπB(x,y)+qB(1−qA)πB(RA(y),y) +(1−qB)qAπB(x,RB(x))+(1−qB)(1−qA)πB(RA(y),RB(x)) Ri は,基本ゲームにおけるプレイヤー i(i=A,B) の,j(j=A,B,i≠j) に たいする最適反応戦略である。したがって,プレイヤー A 先手のシュタッ ∂ πA(x,RB(x)) =0 ∂x ケルベルグ均衡戦略 x L は, の解になる。プレイヤー B に ついても同様である。また,qA および qB は,各々,プレイヤー A および B が価格戦略値をコミットする確率である。確率ゼロの場合,プレイヤーは Wait 戦略をとるという。基本ゲームにおける同時手番ナッシュ均衡 (x s,y s) は,方程式系 ∂ πA(x,y) ∂ π (x,y) =0, B∂y =0 ∂x の解である。 この戦略コミットメントゲームの混合戦略均衡 (x,y,qA,qB) は,以下の4 条件を満たす。したがって,戦略コミットメントゲームの均衡が存在する (あるいは存在そのものを仮定する)場合には,これら4条件を網羅的に検 討しなければならない。 ∂EπA =0 ∂x ∂EπB =0 ∂y qBπA(x,y)+(1−qB)πA(x,RB(x))=qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(RA(y),RB(x)) 34 o c Æ o Ï qAπB(x,y)+(1−qA)πB(RA(y),y)=qAπB(x,RB(x))+(1−qA)πB(RA(y),RB(x)) qA∈(0,1),qB∈(0,1) しかし,この戦略コミットメントゲームに均衡がないことを示そうとする ときには,有効な領域内において,これら4条件の同時成立はありえないこ とを示せばよく。そして,これら4条件によって記述されているシステムの うち,特定の部分システムについて,その解の非存在が示されれば十分であ る。 このとき,仮に,これら4条件式のうち最初の2条件のうち少なくとも一 方を利用する証明方法をとるときには,利潤関数の可微分性を仮定しなけれ ばならない。利潤関数が解析的関数でないとするとき,さらにまた微分可能 性をも仮定しないとするとき,この戦略コミットメントゲームには混合戦略 均衡がないことを証明できるのは,以下の2条件をゲーム均衡の必要条件と して想定するときに限る。この2条件は,両プレイヤーによってコミットさ れる戦略的数値の組が (x,y) であり,戦略的数値をコミットする確率が (qA, qB) であるとき,このコミット確率からの逸脱が起こらないことを保障する ものである。すなわち,コミットされる戦略的数値の組が同式を満たすよう な (x,y) であれば,どちらのプレイヤーも,Wait するときの期待利得と Wait しないときの期待利得が同一であって,待って最適反応戦略をとる (Wait 戦略)か,待たずにただちに戦略的価格をコミットするか,どちら も無差別という状況を意味している。 qBπA(x,y)+(1−qB)πA(x,RB(x))=qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(RA(y),RB(x)) qAπB(x, y)+(1−qA)πB(RA(y),y)=qAπB(x,RB(x))+(1−qA)πB(RA(y),RB(x)) 本稿では,価格コミットメントゲームにおいては,上記2条件のみを仮定 すれば,それだけで混合戦略均衡が存在しないことを示すのに十分であるこ とを論証しようと思う。確かに,最適反応関数の存在は仮定されているもの ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 35 の,これの存在を仮定することは利潤関数が微分可能であること(極端には 利潤関数が解析的関数であること)を仮定することよりも緩やかな束縛に過 ぎない。 3 価格コミットメントゲームの混合戦略均衡 まず,戦略コミットメントゲームには純戦略均衡が存在することについて 証明に成功している,Hamilton and Slutsky (1990) 定理7とその証明概要 を示す。Hamilton and Slutsky (1990) では,2種類のコミットメントゲー ム(手番コミットメントゲームおよび戦略コミットメントゲーム)を構成す る要素となる基本ゲームにおいて,以下が仮定されている。なお,そこでの 議論においては,ことごとく等利潤線の凸性が想定されているといってよく, 実際,手番コミットメントゲームに関する定理5では,そのことが強く反映 されているのであるが,この仮定については,戦略コミットメントゲームに 関する定理7および定理8の証明においては,少なくとも表面上は,使われ ていない。 仮定1:同時手番ナッシュ均衡,一方のプレイヤーが先手となるシュタッ ケルベルグ均衡,および他方のプレイヤーが先手となるシュタッ ケルベルグ均衡があり,これらは相互に異なる。 仮定2:利潤関数は狭義準凹関数である。 定理1 このコミットメントゲームにおける純戦略均衡は3種類ある。ひと つは,同時手番ナッシュ均衡である。また,一方のプレイヤーが先 手となるシュタッケルベルグ均衡がある。また,他方のプレイヤー が先手となるシュタッケルベルグ均衡がある。これ以外の純戦略均 衡は存在しない。 36 o c Æ o Ï 証明.同時手番ナッシュ均衡 (x s,y s) においては,各プレイヤーは互いに最 適反応戦略をとっていることになるから,その他の戦略によって各プ レイヤーの利得が増大することはありえない。したがって,これはコ ミットメントゲームの均衡になる。 プレイヤー A が先手となるシュタッケルベルグ均衡では,プレイ ヤー B は Wait 戦略をとることになる。この Wait 戦略に対して,プ レイヤー A は x L を選択することが最適反応になる。また,この x L にたいするプレイヤー B の最適反応戦略は,x F =RA (y L ) であるか ら,その他の戦略によって各プレイヤーの利得が増大することはあり えない。したがって,これはコミットメントゲームの均衡になる。プ レイヤー B が先手となるシュタッケルベルグ均衡についても同様で ある。■ 次に, 価格コミットメントゲームに混合戦略均衡が存在しないことを示す。 ここでの証明方法は,基本的には,Pastine and Pastine (2004) の方法に依 拠しているが,適用対象となるゲームモデルそのものが若干異なっているこ とと,証明方法が利潤関数の微分可能性に過度に依拠しなくても差し支えな い点で相違していることに注意しなければならない。さらに詳細にいたる相 違もある。それは,Pastine and Pastine (2004) では,Hamilton and Slutsky (1990) が示唆した2回の deletion 後に残存する undominated area を,混合 戦略均衡をもたらす可能性のある領域として検討対象としているのに対し て,本稿では,必ずしも,そのことに関する議論を必要としない点である。 結局,ここで示す証明方法は,現在のところ,もっとも緩い条件の下での証 明になっている。 仮定3:両プレイヤーの等利潤線は一意に存在して,かつ一価である。 仮定4:Hamilton and Slutsky (1990) でいうところの first deletion は実 ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 37 行されている。 定理2 仮定3および仮定4のもとで,(RA(y),RB(RA(y))) が,(x s,y s) と プレイヤー A 先手のシュタッケルベルグ均衡点の中間にあるもの とすると,delete されなかった戦略値にもとづく混合戦略均衡は存 在しない。 証明.混合戦略均衡では,各プレイヤーについて,以下が成立していなけれ ばならない。 qBπA(x,y)+(1−qB)πA(x,RB(x))= qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(RA(y),RB(x)) qAπB(x,y)+(1−qA)πB(RA(y),y)= qAπB(x,RB(x))+(1−qA)πB(RA(y),RB(x)) ここでは,定義的に,(RA(y),RB(x))=(x s,y s) であるから,結局, qBπA(x,y)+(1−qB)πA(x,RB(x))=qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(x s,y s) qAπB(x,y)+(1−qA)πB(RA(y),y)=qAπB(x,RB(x))+(1−qA)πB(x s,y s) の成立が必要である。ここで, πA(x,y)<πA(RA(y),y) πB(x,y)<πB(x,RB(x)) は自明であるから,結局, πA(x,RB(x))>πA(x s,y s) πB(RA(y),y)>πB(x s, y s) が成立していることはただちに明らかである。したがって,仮定によ 38 o c Æ o Ï り,プレイヤー A については,同時手番ナッシュ均衡点 (x s,y s) から (x,RB(x)) にいたる(プレイヤー B については,同時手番ナッシュ均 衡点 (x s,y s) から (RA(y),y) にいたる)相手プレイヤーの最適反応曲 線上の点における利得は,ことごとく,プレイヤー A についてはπA (x s,y s)(プレイヤー B についてはπB(x s,y s))より大きくなっていな ければならない。仮に相手プレイヤーの最適反応曲線上の点における 利得で,プレイヤー A についてはπA (x s ,y s )(プレイヤー B につい てはπB(x s,y s))以下をもたらす点がこの間に存在すれば,仮定に矛 盾するためである。すなわち, πA(X,RB(X))>πA(x s,y s) for all X ∈(x s,x) πB(RA(Y),Y)>πB(x s,y s) for all Y ∈(y s,y) が成立する。これから, qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(RA(y),RB(RA(y))) >qBπA(RA(y),y)+(1−qB)πA(RA(y),RB(x)) qAπB(x,RB(y))+(1−qA)πB(RB(RA(y)),RB(y)) >qAπB(x,RB(x))+(1−qA)πB(RA(y),RB(x)) の成立が確認でき,逸脱が有利となることが示されたことになる。■ 図1は,本稿で考察した戦略コミットメントゲームを形成する基本ゲーム (価格戦略ゲーム)における,最適反応曲線(プレイヤー A の最適反応曲 線は Br(A),プレイヤー B の最適反応曲線は Br(B)) ,等利潤線形状(プレ イヤー A の等利潤線は Iso(A),プレイヤー B の等利潤線は Iso(B))および コミットメント価格水準 (x,y) である。図中の矢印 (←) は,プレイヤー A による逸脱の方向を示している。この逸脱は,Br(A) 上に向かう。この段 階で,当初のコミットメント価格水準 (x,y) が正の確率では発生しないこと ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 39 が確認できる。いうまでもなく,このことはプレイヤー B にとっても同様 である。すなわち,当初のコミットメント価格水準 (x,y) から自己の最適反 応曲線 (Br(B)) への逸脱が有利になっている。ただし,この論法を注意深 く再確認すると,シュタッケルベルグ点を実現するようなコミットメント価 格水準(簡単化のため,プレイヤー A 先手のシュタッケルベルグ均衡点を (x L,y F) と表記する)も,正の確率では発生しないことが明らかになる。シ ュタッケルベルグ点ですら,混合戦略均衡の構成要素となりえないというこ とである。同時手番ナッシュ均衡点 (x s,y s) のみが,混合戦略均衡の構成要 素となりうるのであるが,以上の考察から明らかなように,この点と組み合 わされる別の点はまったく存在しえない。かくして,具体的数量をコミット するような均衡戦略は,(x s,y s) をコミットするときのみであることが明ら かとなるのである。そして,それ以外の均衡があるとすると,そこでは,一 方のプレイヤーが(そして一方のプレイヤーのみが)が Wait 戦略を採るの でなければならない。Hamilton and Slutsky (1990) 定理7および定理8が 示すように,一方のプレイヤーが Wait 戦略(正確には,Wait and best reply 戦略)をとり,他方のプレイヤーがシュタッケルベルグ先手価格水準を 図1:コミットメント価格からの逸脱 40 o c Æ o Ï 戦略コミットメント数値にするとき,その戦略の組から得られる結果として シュタッケルベルグ均衡価格が実現されるのである。つまり,シュタッケル ベルグ均衡価格は,結果的に出現する水準であって,事前にコミットされる 水準ではない。 以上の証明では,Pastine and Pastine (2004) の証明方法で仮定されてい たところの,以下の,仮定5および仮定6には依存していない。Hamilton and Slutsky (1990) が示唆している deletion を有効に適用した証明方法であ る。この deletion の妥当性は,次の仮定7が満たされるときに保障される。 この仮定は,仮定5および仮定6に比べると緩いものであることは自明であ る。仮定1のそれと同等といって差し支えないほど緩いものである。 仮定5:利潤関数は連続的微分可能である。 仮定6:基本ゲームにおける同時手番ナッシュ均衡点から自己先手のシュ タッケルベルグ均衡点まで,相手プレイヤーの最適反応曲線上で 利潤は単調増加である。 仮定7:同時手番ナッシュ均衡点を通過する等利潤線が,相手プレイヤー の最適反応曲線と交点(一意)を持つこと。 4 あとがき 戦略価格水準をコミットする場合,その基本ゲームはいうまでもなく価格 戦略ゲームでありベルトランゲームである。よく知られていることだが,通 常の価格戦略ゲームにおいては,同時手番ナッシュ均衡点を下端として,そ こから右上に広がる(両者の最適反応曲線に囲まれる)領域はパレート優位 集合を形成する。そして,同領域を右上にいくほど(協力ゲームの意味で) 両プレイヤーの利得合計は大きくなる。そのため,純戦略均衡であっても混 合戦略均衡であっても,何らかのゲーム均衡があるとすれば,同時手番ナッ ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 41 シュ均衡利得から脱出しようとする意図を持つであろうことは容易に推測さ れるところである。Hamilton and Slutsky (1990) 定理8において,この定 理の証明は結果的に誤ってはいるものの,支配されない純戦略均衡は2つの シュタッケルベルグ均衡のみであることを示そうとしたのも根拠のあること であった。 この状況下で,Pastine and Pastine (2004) の研究による貢献は,相手反 応曲線上での利潤の単調増加を仮定すれば,ここでいうところのパレート優 位集合内にコミットメント価格水準をもつことができないという点に関する 簡便証明を与えたことである。もちろん,この論法は,共に右下がりの最適 反応曲線をもつような数量戦略ゲームを基本ゲームとするコミットメント ゲームでは有効にならない。相手反応曲線上での利潤の単調増加という仮定 が,ここでの証明において(価格戦略のケース程には)有効に機能しないか らである。いいかえれば,あるコミットメント数量が与えられているとき, 相手コミットメント数量にたいする最適反応数量は,数量戦略ゲームにおい ては,同時手番ナッシュ均衡点を通り過ぎて,与えられたコミットメント数 量が位置している領域内から出てしまうために,有効性が失われるのである。 しかし,この事実は, 共に右下がりの最適反応曲線をもつような数量戦略ゲー ムを基本ゲームとするコミットメントゲームでは,数量変更が有利にならな いのではないかという暗示を与えるものともいえる。すなわち,ある方向か らの証明不可能性が自明であることは,別証明(異なる結論)の可能性を暗 示するものになるという意味である。 ただし,このことは,混合戦略均衡の非存在証明にとって検討すべき部分 システムとしての2つの極値条件式および2つの確率的同等条件式のうち, 前者に分析焦点を合わせるべきという方向に転換すべきであることを暗示す るものと解釈すべきではない。依然として,この極値条件式には,いわゆる Wait 戦略が含まれたままであり,最適反応関数を経由する相互的影響が排 除されないことが理由になる。戦略コミットメントゲームには真正な混合戦 42 o c Æ o Ï 略均衡は存在しないことの(解析的関数を想定しないままでの)証明にとっ て,依拠すべき部分システムは,やはり,本稿で示した2つの条件式になる。 数理解析的手法によるこの問題へのアプローチは,部分的とはいえ証明に 成功している Pastine and Pastine (2004) の研究を一例とするものの,その 研究の果てに, 特定の利潤関数を想定しないという意味での一般証明はない。 むしろ,数理解析的証明の発展可能性は,2次利潤関数を想定することで, 混合戦略の非存在証明に特化する方向ではなく,そのコミットメントゲーム における混合戦略全般を明らかにするという研究視座へつながっていくこと のほうががより有意義であると考えられる。一方,実験経済学の手法による, Fonseca, M äuller and Normann (2006) が提起した問題は,換言すると,ゲー ム理論家はこの種のコミットメントゲームに関する何か重要な基本的ファク ターを見落としているのではないかという示唆であり,あるいはまた,その ような見落としがないとすると,従来の証明方法には何か重大な誤謬が含ま れているのではないかという暗示である。この種の疑念にたいしては,2次 利潤関数を想定し,そのコミットメントゲームにおける混合戦略全般を明ら かにするという研究スタイルは有効な切り口を与えることになろう。本稿に おける考察結果を見た後に,Fonseca, M äuller and Normann (2006) が提起 した問題を振り返れば,結局,一般に混合戦略を許容する場合でも,純戦略 のみに限定する場合でも,戦略コミットメントゲームに何らかのゲーム均衡 が存在するとすれば,そのなかには必ず基本ゲームにおける同時手番ナッシ ュ均衡が含まれなければならないという事実である。言い換えれば,この均 衡を除外すると,その他のあらゆる均衡はことごとく消滅するということで ある。その意味で,実験経済学においてこの実験に参加した人々は,ゲーム 理論家よりもはるかに正常なゲームプレイヤーであったことになる。 むしろ, 少数派であったシュタッケルベルグ均衡の選択者は,異端のゲームプレイ ヤーであったといわざるを得ない。 ¿iíªR~bggQ[̬íªÏt 参 考 文 43 献 [1] M.A. Fonseca, W. M äuller, H.T. Normann.,“Endogeneous timing in duopoly: experimental evidence”,International Journal of Game Theory,2006,34,443-456. [2] Hamilton,J., and S,Slutsky.,“Endogeneous Timing in Duopoly Games: Stackelberg or Cournot Equilibria”,Games and Economic Behavior,1990,2,29-46. [3] Pastine,I., and E,Pastine.,“Cost of Delay and Endogenous Price Leadership”,International Journal of Industrial Organization,2004,22,135-145.