...

水源保全対策の取り組み事例に関する調査 - CLAIR(クレア)一般財団法人自治

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

水源保全対策の取り組み事例に関する調査 - CLAIR(クレア)一般財団法人自治
海外調査依頼内容
1
回答日:平成 25 年2月 28 日
2
依頼者名:名古屋市支部
3
調査依頼事項:水源保全対策の取り組み事例に関する調査
4
調査対象国又は対象地域等:イギリス、フランス、オーストラリア
5
調査の趣旨(調査結果の利用目的・時期を含め具体的に):
次年度以降の名古屋市における水源保全対策の参考とするため。
6
調査内容
(1)水道事業の概要について
事業主体、給水エリア、給水人口、水源(河川水、地下水ほか)などの確認
※給水区域の図面なども添付していただけると助かります。
(2) 水源保全の取り組みについて
水源保全対策実施の有無、歴史的背景や具体的取り組みの確認
(3) 水道料金の算定方法について
基本料金、メータ料金、水量あたりの料金等の確認
※名古屋市の水道料金との比較するため
CLAIR ロンドン事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
海外事例調査
1 グレーター・ロンドンの水道事業の概要について
(1)事業主体
グレーター・ロンドンには、テムズ・ウォーター社、ベオリア・ウォーター社 (添付
図ではスリー・ヴァレーズ・ウォーター社となっている。)、エセックス・サフォーク・ウ
ォーター社及びサットン・イースト・ウォーター社が給水事業を行っている。
この 4 社の中でグレーター・ロンドン域の大部分に水供給をしているテムズ・ウォ
ーター社(Thames Water Utilities Ltd,)は、テムズ・ウォーター管理庁が 1989 年に
民営化されたものである。
民営化以前の経緯としては、1903 年に当時のロンドン・カウンティー・カウンシル
(グレーター・ロンドンの前身)により設立された都市水道局が 1973 年水法(the
Water Act 1973)により多数の地方水道局や公的企業体と合併してできたのがテ
ムズ・ウォーター管理庁であった。
テムズ・ウォーター社の本社は、バークシャー県のレディングにあり、従業員は約
4,600人。
(2)給水エリア
英国内最大の給水事業者でグレーター・ロンドン、サリー県、グロスターシャー県、
ウイルトシャー県、ケント県に給水している。
※別添給水エリア参照
(3)給水人口
グレーター・ロンドン始めテムズ川流域の900万人に毎日約260万㎥の水を供
給している。
(4)水源(河川水、地下水等)
水道水源の約80%が河川水(大部分がテムズ川の上下流域から取水)、20%
が地下水。
2 水源保全の取り組みについて
水道事業者には 2 つの計画の策定が求められている。
(1)水源管理計画(Water Resources Management Plan;WRMP)
イングランドとウェールズの水道事業者は5年ごとに水源管理計画の策定が義務
づけられている。消費者の要求に応えながら、今後25年間、どのように水需要に対
応していくのかを示すことが求められている。この水源管理計画は、環境省によって
CLAIR ロンドン事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
定められたガイドライン(Water Resources Planning Guideline)に従うこととされて
いる。
水道事業者が策定する計画に記載する主要項目は、以下の通り。
・気候変動や人口増などの要因に配慮した将来の水需要予測
・現在の利用可能な水量、及び気候変動や河川・井戸から利用できる水量の潜在
的な減少を考慮した将来の水供給予測
・水需要を管理するための選択肢の検討・評価-水道メーターの各戸への取り付け、
消費者への節水意識の醸成、水漏れ件数の減少など
・河川や井戸からの取水計画など水供給の拡大に向けた選択肢の検討・評価
・戦略的な環境評価(Strategic Environmental Assessment:計画の環境への潜在
的な影響を考慮し環境の状態を評価すること)、及び生息地規制評価(Habitats
Regulation Assessment:計画が EU 内の保護価値のある地域に指定された場所
に重要な影響を与える可能性があるかどうか)
(2)渇水対策計画(Drought Plan)
渇水対策計画は 1991 年水産業法(the Water Industry Act 1991)で要求されてい
る。イングランド南東部の水不足は冬期の降雨量の不足により生じる。これまで最悪
の渇水としては 1921 年、1933 年、1943 年、1975 年の 4 回記録が残っている。いず
れも 1 年~1 年半、降水量が少なく、これがロンドンの水源確保の必要性を認識させ
た契機となった。水の供給と需要計画及び渇水対策計画は、環境省のガイドライン
(Water Resources Planning Guideline)に定められたテムズ川の水源ゾーンの水
量に基づいている。
従って、水道事業者のサービス内容は、上記 2 つの水源管理計画と渇水対策計画
を反映したもとするため両計画の整合性を図る必要があり、同時に 2 つの計画は、消
費者へ水供給の保証をすること、消費者に課せられる制限は事業者のサービス内容
にふさわしいことが求められている。
3 水道料金の算定方法について
定額制とメーター制がある。
(1)定額制
住宅の大きさ、部屋数、庭などを元に水道会社が作成する固定資産評価額に、単
価 58.35/ペンスを乗じて年間料金を算出する。
(2)メーター制
給水管の直径による基本料金と1㎥当たり 122.63 ペンスの利用料金の合算によ
り算出する。
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
パリ市の水源保全対策の取り組み事例について、下記の通り、回答します。
はじめに
フランスでは、水道事業の運営主体は地方自治体であるが、その管理については、伝統
的に民間委託1されることが多くなっており、上水道の 71%、下水道の 55%が民間委託さ
れている2。
この民間管理委託については、委託期間を 20 年に限定する 1990 年代のサパン・バルニ
エ法の影響で、フランスの多くの自治体では 2010 年代に契約期限を迎えることになって
いる。これまで、フランスの水道管理の委託業務についてはヴェオリア社やスエズ社とい
った国際的な大企業の寡占市場となっていたが、グルノーブル市3の水道管理委託の見直し
4を先がけに、フランス国内では水道管理の在り方の見直しが検討されている。
1
水道事業の概要について(事業主体、給水エリア、水源など)
2013 年現在、事業主体はパリ市であり、パリ市の 100%出資会社である Eau de Paris
社(La régie autonome、いわば日本の公営企業)がその業務を行っている。
最近の動きを整理すると、それまでパリ市内の水供給(水道)の中の取水・浄水及び配
水池までの送配水業務については、ヴェオリア社やスエズ社の資本が入っていた Eau de
Paris 社によるコンセッション5の形で行っていたが、2008 年 11 月のパリ市議会における
議決により、Eau de Paris 社の民間保有分を全てパリ市が買い取ることで、2009 年 5 月 1
日から再公営化6された。さらに、各家庭への給水業務については、それまでセーヌ川を境
1
フランスの公役務の委託には、コンセッション(concession:事業特許)
、アフェルマー
ジュ
(affermage:経営委託)
、レジー・アンテレッセ
(régie intéressée)
、
ジェランス(gérance)
の4つがあるが、水道事業の管理委託は主にコンセッション方式で行われている。コンセ
ッション方式では、受託者は委託者との契約によって、事業に必要な施設等を自ら設置す
ることができ、一定期間公共サービスを提供し、利用者から直接徴収する利用料金を事業
報酬としている。フランスにおける公役務の委託の詳細は、
「海外比較調査シリーズ 自治
体業務のアウトソーシング」(当協会、2005 年 6 月 10 日発行)第3章「フランス」参照。
2 2008 年時点の数値。BIPE/FP2E 報告書「Les services publics d’eau et d’assainissement
en France:フランスにおける上下水道サービス」
(2010 年 3 月第 4 版)参照。
3 フランス南東部のコミューン(人口約 157,000 人)
4 1987 年、受託先であるスエズ社の不正会計、不当料金が発覚し、1999 年にはスエズ社に
有罪判決が下っている。このことを受けて、グルノーブル市は、2000 年から水道管理を再
公営化している。
5 1987 年に民間資本の入った Eau de Paris 社との間のコンセッション契約を締結し、
契約が
更新されてきた。再公営化後、浄水・送配水業務は、Eau de Paris 社の直営のサービスとな
っている。参照:www.eaudeparis.fr/document?id=392&id_attribute=85
6 買収以前は Eau de Paris 社のうち、パリ市が 70%を出資し、ヴェオリア社とスエズ社がそ
れぞれ 14%ずつ出資していたため、Eau de Paris 社を市の 100%出資会社とすることで再公
営化した。
1
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
に Compagnie des Eaux de Paris 社(ヴェオリア社の子会社、通称 CEP)と Eau et ForceParisienne des Eaux 社(スエズ社の子会社、通称 EF-PE)がアフェルマージュ契約7の形
によって行っていたが、2010 年 1 月 1 日からは Eau de Paris 社が浄水・送配水業務だけで
なく給水業務も併せて行うことを決定し、再公営化された。特に給水部分の再公営化に関
しては、2008 年の市長選挙前にベルトラン・ドラノエ市長が公約として宣言していたこと
で話題になった8。当時は、水道料金の変動が激しく、市民の不満も高まっていたため、ド
ラノエ市長は自らの任期である 2014 年までの間、水道料金を急上昇させないことを約束
した9。
なお、また人口 200 万人以上の大都市の管理運営主体の変更ということで、世界的にも
注目されたところであるが、水道事業を担当するパリ市のアンヌ・ル・ストラット副市長
(当時)によれば、再公営化の利点について、株主配当や企業内留保に回ってしまう収益
を、公営の場合はサービス向上のための再投資に回すことができるとのことである10。
現在、パリ市では、取水施設から各家庭への供給口まで全体を管理しており、パリ市全
体の使用量は平均 55 万立方メートル/日(市内)となっている。給水エリアはパリ市内全
域である。
パリ市は人口 2,125,000 人を数えるが、実際、パリ市内には、留学生や外国人労働者、
そして、多くの観光客がおり、一日あたりの水の使用者は 300 万人超とされている。一方
で、水道の加入者は約 93,500 人となっている。パリ市では使用者である各家庭が個別に水
道料金の請求書を受け取らない。パリでは各家庭が水道を使用しているが、実際の水道の
加入者は、法人(一部、一戸建ての場合は個人)
、組合、(低所得者向け)社会住宅管理会
社である。加入者に対して請求書は送られている。
なお、パリ市を除く首都圏(イル・ド・フランス州)については、自治体間で構成され
た水道組合であるイル・ド・フランス水道組合(Le syndicat des eaux d'Ile de France:通
称 SEDIF)が水道業務を担っており、2011 年1月から新たに 12 年間の包括管理委託契約
をヴェオリア社と、浄水、給水、料金徴収、施設の維持管理等を一括して委託する内容で、
結んでいる(2011 年当時の契約の主な内容は次のとおり。①委託期間:2011 年 1 月 1 日
から 12 年間、②契約額:37 億ユーロ、③上水道料金の値下げ(平均単価 1.65 ユーロ→
1.48 ユーロ)、④新たな管理方法の導入(配水履歴の追跡調査が可能なシステムの導入、各
戸メータへの電子機器設置による水道使用量の遠隔管理、浄水場から水道網まで水道サー
ビスを一元管理するセンターの設置等)
、⑤SEDIF の投資負担割合の増(69%→80%)
)
。
1984 年から締結。
参照 http://www.njs.co.jp/ri/03topics/topic0812-2.html
9 「Le Figaro」2009 年 12 月 4 日
10 「フランスにおける水メジャーの動向とフランス国内の水道事業について 」
(財)自治
体国際化協会パリ事務所所長補佐 山口 信義(京都市派遣)
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_267/04_sp.pdf
2
7
8
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
2
パリ市の水源地
水は地下水11と地表水(河川)からそれぞれ半分の割合で取水を行っている。
から
取水を行っている。
(図1参照)
地下水については、飲料水の約半分を供給する取水地が全部で 102 カ所ある。また、パ
リ市から 75〜150 キロの半径内に、地下水の取水地が広がっている。主な取水地としては、
主な取水地
フォンテーヌブロー(Fontainebleau
Fontainebleau)
)の周り(パリの南に位置する)、プロヴァン(Provins)
(
(パリの南東部に位置する)
部に位置する)、セン(Sens)
(
(パリの南東部に位置する)
部に位置する)、ドゥリュー(Dreux)
(
(パリの南西部に位置する)といった
部に位置する)といった 4 つの地域の周囲に広がっている。
これらの地域の地下水はロングビル(
これらの地域の地下水はロングビル(Longueville)
、ソルク(Sorques
Sorques)、サン・クルー
(Saint-Cloud )、ヘイ・レ
レ・ローズ(l'Haÿ-les-Roses )にある 4 つの浄水場で処理され
ている。
地表水については、河川から取水している
は、河川から取水している。具体的な河川としてはセーヌ川(
はセーヌ川(la Seine)
とマルヌ川(la Marne)の
)の 2 つである。また、それら河川は、パリの南東部にあるオルリ
パリの南東部にあるオルリ
ー(Orly)
)
(セーヌ川の浄水処理施設)とジョアンビル・ル・ポン(Joinville-le-Pont)
(セーヌ川の浄水処理施設)とジョアンビル・ル・ポン(Joinville
(マ
ルヌ川の浄水処理施設)の2つの浄水場で処理されている。
処理施設)の2つの浄水場で処理されている。
図1 パリ市の水源地 出典 : www.paris.fr
パリ市から 75〜150 キロの半径内に主な取水地(緑色部分)があり、それぞれの矢印のル
キロの半径内に主な取水地(緑色部分)があり、それぞれの矢印のル
ートでパリ市内に水が運ばれている。
このように、大都市パリには多くの水を供給する必要があるため、その水源も多くを必
要としている。なお、地下水と地表水が混在しているが、水道水の成分として
要としている。なお、地下水と地表水が混在しているが、水道水の成分として平均的には
パリ盆地の地下水は 2 万年ごとに新しい水と入れ替わるため、2
万年ごとに新しい水と入れ替わるため、 万年前の水を飲んでい
る可能性がある。
11
3
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
以下のとおりである。
表1 水道水の成分(mg/l)
カルシウム
90
マグネシウム
6
ナトリウム
10
カリウム
2
重炭素塩
220
硫酸塩
30
塩化物
20
硝酸
29
フッ素
0.17
パリ市内(市は全部で 20 区に分かれている)の水源地別給水状況としては、主に 4 つ
に分けることができると考えられる。具体的には、①ヴァンヌ川水系の地下水とセーヌ川
(地表水)、②アーブル川水系の地下水、③セーヌ川(地表水)及びマルヌ川(地表水)
、
④ロワン川水系の地下水とヴルジー渓流の地下水となっている(水源地別色分けは図2の
とおりである。)
。
図2
水源地別給水状況 出典: www.eaudeparis.fr
ヴァンヌ川水系の地下水とセーヌ川(地表水)
アーブル川水系の地下水
セーヌ川(地表水)及びマルヌ川(地表水)
ロワン川水系の地下水とヴルジー渓流の地下水
4
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
3
水源保全の取り組みについて
① 水源保全のための行動計画
パリの水道はフランス公衆衛生法典で定められている EU 指令12に準拠した飲料水に関す
る 56 の指標を満たす必要がある。そして、広範囲に分布している水源地の水質レベルを維
持するために、Eau de Paris 社は持続可能な地下水と地表水を保全するための行動計画に
取り組んでいる。
また、Eau de Paris 社は水源保全策として、農業や様々な業種が及ぼしている汚染の影
響について監視を行い、行動計画を作っている。水源保全に関しては、セーヌ•ノルマンデ
ィ流域全体における水管理開発計画(SDAGE)13が EU 指令の基準に準拠して作成されて
おり、2009 年後半に改訂がされている。その SDAGE の枠組みに沿った形でパリ市独自の
行動計画も設けている。以下は水源保全区域14内、水源保全区域の周辺ゾーン、さらにその
外側に分けた場合の具体的な行動計画の内容である。
② 【水源保全区域内】水源保全の取得および農家との合意
1990 年代半ば以降、Eau de Paris 社は、地下水の取水施設の周囲および地表水に浸透
していくような河岸周辺に対して土地を取得するための計画を策定した。具体的には、土
地を買収し、これらの土地については芝生などの植物を植え、水質浄化を行っている。
しかし、Eau de Paris 社は、水源保全区域内において土地が取得できない場合であって
も、地区内の農家に呼びかけ、必要に応じ、水源保全に関する合意(契約の締結など)を
得ることで対策を補完している。具体的には、耕作地の中の水源保全区域内に係る部分に
ついては、土地の使用を制限し、芝生などの植物を植えてもらうか、あるいは有機農業に
変更することで水質浄化に貢献している(代わりに Eau de Paris 社は、契約している場合
に、農家に対して資金提供を行っている場合がある。
)。
水源保全区域では、Eau de Paris 社による土地取得とあわせて、農家の協力を得ており、
環境保護の観点からも、大幅に農薬の使用量が減少し、環境に優しい水質浄化の方法を確
立できていると Eau de Paris 社は述べている。
③ 【水源保全区域の周辺ゾーン】農家との契約
Eau de Paris 社は、農家が持続可能な栽培方法と効率的な汚染の処理を奨励するために
いくつかのアクション(農家への支援助成制度)を実施している。
水源保全区域内と共通する部分もあるが、Eau de Paris 社は、農家との間で契約(5 年
12
欧州連合における指令とは、加盟国に対してある目的を達成することを求めるものの、
その方法までは定めていないような法の形態。そのためそれ自体が執行力を持ち、国内に
おいて立法手続きを必要としない規則とは異なる。通常、指令は加盟国内で適切な法令が
採択されることに関し、加盟国に一定の裁量を与えている。
13 参照
http://dise.seine-maritime.agriculture.gouv.fr/Le-SDAGE-du-bassin-Seine-Normandie
14 水源保全区域は、地下水の場合、取水場所から半径 5~10m 程度という情報もあるが、
地形によっても異なるため、正確ではない。
5
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
契約)を行い、水源保全地域の周辺の耕作地については(無農薬の)有機農業に変更させ
る代わりに、資金提供を行うというものである。また、ほかにも、同意できない農家に対
しては、40~50 パーセントの農薬の使用を減らす代わりに資金提供を行うという契約もあ
る。水源保全区域の周辺ゾーンについては水源保全区域内と比べると、内容が幾分緩やか
となっている。
なお、有機農業を行う農家に対しては、農家に対して助言および技術サポートを提供し、
有機農業の維持•発展を推進させるとともに、農地を貸すことも行っている。
④ 【周辺ゾーンよりさらに広域】自治体等への研修•啓発キャンペーン
農家に対するアクションとは別に、Eau de Paris 社は、農家による排水以外の汚染排水
に対して研修•啓発キャンペーンも行っている。特に、地方自治体や道路管理者や鉄道管理
者を対象としている。
Eau de Paris 社は、水源保全のために、自治体など、公園や道路、線路における緑地管
理を行っている者に対して、プログラム « Phyt’Eaux Cités »を呼び掛けており、様々な研
修・啓発キャンペーンを行っている(強制ではない)。具体的には、緑地管理方法や農薬使
用の制限に対する技術的支援や助言、水質検査を代わりに行うといったことが挙げられる。
この取組みは、2007 年に始まっており、第一フェーズは 2007 年から 2011 年までで、65
の自治体が農薬(殺虫剤等)の使用を減らすよう取り組んでいる。この取組みは成功し、
プログラムは、2016 年まで延長されている。
プログラム « Phyt’Eaux Cités »では、自治体が主な対象者であり、水質汚染対策を講じ
るよう呼びかけているが、それ以外の水質汚染の対象者(庭、ゴルフ場等)についても対
策が講じられている。
⑤ 非営利団体への助成金
Eau de Paris 社は、全ての非営利団体(仏語の association であるため実際には対象範囲
は広い)に対して、そのプロジェクトに応じて、助成金を与えている。
(水源保全のために
取り組んでいる団体や、有機農業を促進するためのキャンペーンに取り組む団体など、実
際には団体は様々であり、その中から Eau de Paris 社が決定する。
)
2012 年については、プロジェクトに対する助成金額は 10 万ユーロとされている。例え
ば、水資源の持続可能な保全という目的の下で、団体から提案されたプロジェクトに対し
て、Eau de Paris 社は最大で 50%まで助成を行っている。
4
水道料金の算定方法について
まず水道水そのものの価格は、Eau de Paris 社によると、3 つの部分に分けられる。①飲
料水(上水)33.8 %、②汚水処理(下水)38.8 %、③税及び手数料(汚染対策や水源保全
の費用)26.9 %である。
(図3参照)
6
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
なお、パリ市の平均的な料金としては、2013 年 1 月 1 日以降、3.1123€/㎥(税込)とな
っており、2012 年は 3.0163€/㎥(税込)対前年比で約 3.2%の値上がりとなっている。(実
際には地域で料金が異なっているが、水質によって処理方法などが異なるため。
図3
水の価格割合 出典: www.eaudeparis.fr
さらに、水道料金はメータ口径の大きさによって固定料金が異なっており、15mm から
500mm まで料金は個別に設定されている。一年あたりの水道設置に係る固定料金(税別)
は以下のようになっている。(図4参照)
7
CLAIR パリ事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 2 月 28 日
図4
メータ口径による固定料金
出典:www.eaudeparis.fr
水道料金(下水含む)は使用水量に係る従量制料金とメータ口径に係る固定料金の合計
値によって決まる。一例として、2013 年において、口径 20mm、1 月当たり 20 ㎥(1年
で 240 ㎥)使用した場合の料金の試算については以下の通りとなる。
口径 20 ミリの固定料金 +
使用水量に係る料金 = 水道料金(税込)
26.78 €× 1.055 + 240 ㎥ × 3.1123€ = 775.20 €
以上
8
CLAIR シドニー事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
オーストラリアにおける水道事業について
文責 次長 奥山
稔
オーストラリアにおいては、水道事業に関する権限が基本的に連邦政府ではなく州政府に
委ねられている。また、植民地建設以来の歴史的経緯に加え、州ごとの水道事業改革の影響
もあり、各州法が定める水道事業の体系は様々である。
本報告では、ニューサウスウェールズ(NSW)州の現状を中心に調査報告を行う。
1
水道事業の概要について
(1) 事業主体
NSW 州のシドニー都市圏では、未処理の用水供給事業を Sydney Catchment Authority
(州公社)が、浄水と末端給水事業を Sydney Water Corporation(州公社: 以下「SW」
という。
)が、海水淡水化事業を SW の子会社がそれぞれ行っている。
ハンター地域には、垂直統合型(用水供給から末端給水まで一貫して行う)の Hunter
Water Corporation(州公社: 以下「HW」という。
)がある。
その他の地域では、自治体や自治体の組合等による水道事業が 100 以上も存在し、概ね
垂直統合型であるが、州公社や他の自治体等から用水を購入しているものもある。
なお、2008 年に NSW 州の独立調査委員会が、地方部の水道事業を 30 に再編統合する
よう勧める報告書を出した。統合案では、概ね給水世帯数 1 万戸、年間収入 1 千万ドル程
度の事業規模が確保され、組織形態としては、①関係自治体から新法人に資産・事業を全
て移管する、②資産所有と事業実施は関係自治体に残し新法人は経営戦略・財政計画・専
門的技術的事項の意思決定を行う、のいずれかを選択するとなっているが、今のところ、
州政府からは改革に関する具体案や明確な方針は示されていないようである。
(2) 給水エリア及び給水人口
SW は、約 3,000 人のスタッフにより、シドニー都市部の約 170 万世帯、約 440 万人に
サービスを供給している1。地方自治体単位で見ると、NSW 州全体の 152 自治体のうち 45
自治体(一部を対象地域としている自治体含む)に上水道・下水道サービスを提供してい
る2ほか、リサイクル水供給も行っており、これらサービス供給対象地域は全部で 12,700
平方 km であり、そのうち上水道供給地域は 3,200 平方 km に及ぶ3。
給水エリアについては別添(下記リンク)参照。
http://www.sydneywater.com.au/OurSystemsAndOperations/images/AreaOfOperations.jpg
HW は、シドニーから約 150 キロ北に位置するハンター地域南部の約 52 万人に水道供
給を行っている。同公社のサービス供給地域は7自治体に及ぶ(自治体域の一部を対象地
域としている自治体を含む)4。
1
2
3
4
SW, Annual Report 2009
SW, Operation License 2010-2015, P52
SW ウェブサイト http://www.sydneywater.com.au/WhoWeAre/
HW, 2008-09 Annual Report, P3
1
CLAIR シドニー事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
この2つの州公社で NSW 州全人口約 700 万人の 70%近くに対して水道供給を行ってい
ることになる。自治体数で見ると、NSW 州の 152 自治体のうち 52 自治体においてサービ
スを提供している。
また、一部の地方部においても州公社が上水道サービスを行っている。州最西部の都市
ブロークンヒル市及びその周辺地域では、Country Energy Corporation(州公社)が 20,000
人以上の住民に対して上水道サービスを供給している。
シドニー都市圏以外の地方部において上水道事業または下水道事業を行っている地方上
下水道事業者の数は 106 にのぼる5。地方水道事業者による上下水道サービスこのうち上水
道供給を行っている事業体は 94 存在する6。これら 94 事業体のうち、自治体実施の事業体
は 88 とその大半を占める。5事業体は複数の自治体によって構成される郡区であり、これ
らは 23 自治体に上下水道サービスを供給している。これら自治体を含む地方水道事業者は、
地方部人口の約 98%にあたる 180 万人に対して上下水道サービスを供給しており、上水道
の供給量は年間 2 億 8,800 万立方 m にのぼる7。
ここでいう上水道事業とは、日本の水道法における水道事業、簡易水道事業、工業用水
事業および水道用水供給事業を含むものである。また、オーストラリアでは日本のように
給水人口数に応じた水道事業並びに簡易水道事業といった呼称の区別等はない。
(3) 水源
下記の表のとおり各水道事業者の主たる水源は表流水である。SW はほとんどの供給水
をシドニー集水区域局から確保し供給している。シドニー集水区域局ではあわせて 21 のダ
ムを管理しており、約 80%の供給を Warragamba Dam に頼っている8。
(単位 m3)
各水道事業者の水源種類ごとの取水量(2008-09 年度)
表流水
地下水
リサイクル水
水道用水事業者からの
受水
SW
シドニー集水区域局
HW
地方事業者(※)
5,885
0
8,264
491,727
490,283
0
0
208
61,814
5,504
2,872
0
135,764
24,175
6,953
29,637
※供給世帯数が 10,000 を超える 25 地方水道事業者の合計
出典: NSW 州水担当局、NSW WATER SUPPLY AND SEWERAGE BENCHMARKING REPORT
2008-09
5
6
7
8
Local Water Utilities。1980 年代には 126 の事業体が存在したが、その後自治体合併や事業体統合を受けてそ
の数は減少している。
下水道サービスも併せて行っている地方水道事業者の数は 91
NSW 州水担当局、2008-09 NSW WATER SUPPLY AND SEWERAGE PERFORMANCE MONITORING
REPORT, Pv
ワラガンバダムでシドニーの西方 65 キロに位置する、総貯水容量は 203 万 m3 である。詳細は次のリンクを参
照 http://www.sydneywater.com.au/OurSystemsandOperations/WaterSystems/
2
CLAIR シドニー事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
2
水質保全の取組みについて
(1) NSW 州での取組み
NSW 州の水資源の総合的管理を目的として、2000 年水管理法(Water Management Act
2000)が制定された。この法律が成立する以前、NSW 州内では河川や地下水、氾濫原等へ
の水流入量が減少し、水質悪化や湿地減少、動植物種の減少など環境面の悪影響が見られ
たなどから、より安全で確実な水資源管理を行う必要性が高まっていた。
同法では水資源利用者に「環境」も一利用者とみなし、その「環境」への割当量も計画
に盛り込まれている。同法に基づいて作成される水分配計画において、具体的な水割当が
決められるのである。
具体的には、水資源を安定的に確保するとともに、効率的な水利用を実現するための水利
用者や政府間での役割を明確にするため、水管理法では水資源計画や水アクセスライセン
ス、環境維持用水の割り当て等が規定されている。水分配計画は、NSW 州内の集水域ごと
に区分された 22 の水管理地域におけるすべての利用者の間の水資源の分配方法、特定の水
源における水取引のルール等について定めたものであり、2010 年 12 月現在で州内に 40
の計画が施行されている。水分配計画では、水道事業者としての地方自治体も水資源利用
者の1つとして位置づけられている。
都市圏水計画(Metropolitan Water Plan)は、NSW 州水担当局がシドニー都市部にお
ける長期間の水需要に対応するための水確保について、具体的な戦略を示したものである。
2010 年版ではダム、リサイクル、海水淡水化や節水などそれぞれのテーマについて今後の
戦略が示されている。
州政府は当計画の更新や 2006 年版に盛り込んだ諸計画の精査を行うため、都市水問題管
理や環境問題の専門家からなる独立審査委員会を設置している。当委員会は計画の進行度
合いのチェックも行う。
(2) その他
基本的には各州政府が水資源管理を行ってきている。しかし、2007 年連邦水法の制定に
より、国内における一大農作地帯であり、NSW 州を始め4州・1特別地域を流域とする国
内最大河川のマーレー・ダーリング川流域における水資源管理の権限が、部分的ながらも
はじめて連邦政府機関に移譲された。
同法に基づいて設置されたマーレー・ダーリング川流域庁は、2010 年 10 月に発表した
流域における持続可能範囲における取水限度量や水アクセスライセンス取引に関するルー
ル等について規定する流域計画案を、3,000 件を超える意見や科学的な調査・分析を踏まえ
て 2011 年に修正し、新しい流域計画を発表している9。
9
東京都 23 年度海外研修「政策課題プログラム」報告書; 健全な水環境の形成について~総合水
資源管理の先進的取組事例調査~25 頁参照
3
CLAIR シドニー事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
3
水道料金の算定方法について
SW や HW 等が提供する上水道サービスに係る課金額の上限や、
シドニー集水区域局が SW
や地方自治体に売却する水道水の価格などについては、NSW 州の電気、ガス、公共交通の価
格 を 決 定 す る 機 関 で あ る 独 立 価 格 規 制 審 査 局 ( Independent Pricing and Regulatory
Tribunal)が上限額を決定している。この決定価格は通常3~5年ごとに見直される10。
(1) 独立価格規制審査局
独立価格規制審査局では、SW や HW などの州公社やワイオン・ゴスフォード両市11等が
それぞれ行う上水道サービスに係る基本料金や従量料金の上限額、またシドニー集水区域
局が SW に対して売却する水道用水の上限額等を決定する。2008 年7月に発表された SW
の上水道サービスに係る課金上限額を表-4に示す。月あたり使用量を 10 m3 とした場合
の年間水道料金は、2010-11 年度では基本料金を含めて 333.86 ドル、1ヶ月あたり 27.82
ドルとなる。
独立価格規制審査局が決定した SW による住宅向け上水道サービスの上限額
2008/09
2009/10(※
2010/11
2011/12
2)
75.70
90.96
105.86
116.39
400 m3 までの従量料金(1m3 あたり)
1.61
1.80
1.90
1.93
400m3 超分に係る従量料金(1m3 あたり)
1.83
基本料金
―(※1)
※1
2009-10 年度以降、従量料金は使用量に関わらず一本化された
※2
2009-10 年度以降の料金についてはインフレ率を勘案して調整する
―
―
出典:独立価格規制審査局、Review of Prices for Sydney Water Corporation’s water, sewerage
and stormwater services
(2) 水道料金決定までのプロセス
独立価格規制審査局では、水道料金決定を行うためのインプットとすべく、使用者や政
府機関等の利害関係者から意見書の提出を求める。上水道事業者は、意見書において価格
を設定する期間における資本費や管理運営費の支出見込額、大規模プロジェクトの実施に
伴う必要額の試算等の情報を提供する。また、価格決定を行う調査の過程において、少な
くとも1度は公開で意見聴取を行うこととされている12。
(3) 水道料金
水道料金についての規定は、都市部と地方部の水道供給体によって異なっている。HW や
SW、ワイオン・ゴスフォード両市等の都市部事業者の水道料金は独立価格規制審査局によ
10
11
12
連邦政府 国家水委員会(National Water Commission)ウェブサイト,
http://www.nwc.gov.au/www/html/1240-pricing-determinations.asp
ワイオン・ゴスフォード市の給水世帯数は 50,000 世帯を超えており、他の地方部水道事業者と比べて大規模で
あるため、独立価格規制審査局による価格設定の対象となっている。
Independent Pricing and Regulatory Tribunal Act 1992 第 21 条第1項
4
CLAIR シドニー事務所
水源保全対策の取り組み事例に関する調査
2013 年 1 月 31 日
って上限額が設定される一方、地方部においては価格決定に関する直接的な規定はなく、
事業者が独自に設定することができる。
NSW 州の水道事業者においては、用途別・口径別料金制が採用されている。また 98%
の地方部上水道事業者が従量料金と基本料金との二部料金制を採用している13。
2012-13 年度 毎月 10m3 使用した場合の住宅向け水道料金の試算
SW
※1
従量料金
(※1)
(1m3 あたり) 合計額
135.12
年間に支払う料金の 月あたり料金
2.13
390.72
32.56
メーター口径 20mm の場合、年間に支払う基本料金の合計額
SW
13
基本料金
(単位 ドル)
http://www.sydneywater.com.au/YourAccount/PricingInformation/
NSW 州水担当局、2008-09 NSW WATER SUPPLY AND SEWERAGE PERFORMANCE MONITORING
REPORT, P4
5
Fly UP