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多国籍企業の進出が ケニアの農業 ・ 食文化に及ぼす影

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多国籍企業の進出が ケニアの農業 ・ 食文化に及ぼす影
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多国籍企業の進出が
ケニアの農業・食文化に及ぼす影響
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佐々木優
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目 次
1.はじめに
2
. ケニアの農業・食文化
3
. 多国籍企業によるケニア進出
a
. 農業資源に対する直接投資
b
. 日本による食料分野への支援・投資
4
. 開発投資の功罪:企業利益と農業・食文化の査み
a
. 土地収奪と小農の困窮
b
. 即席メンの普及と弊害
5
. おわりに
1.はじめに
今日の世界ではアフリカに関する様々な情報が飛び交っており,例えばチュニジアの民衆蜂起
やソマリア近海で多発する海賊事件,テロ組織による誘拐・襲撃事件等の報道は日本でも盛んに
取り上げられている。また
2
0
1
4年 3月には,ギニアやリベリアで感染拡大するエボラ出血熱の
問題が報じられ,西アフリカ諸国が緊急事態に陥っていることを印象付けている。他方,急激な
経済発展や投資の拡大,日本のアフリカ開発会議
(TICAD)(1)や中国のアフリカ協力フォーラム
(1) 日本政府は 2
0
1
3年 6月に横浜で開催された TICADVにおいて,“アフリカの経済成長の促進"を支
援策の方針に掲げ,アフリカが抱えている貧困や飢餓を改善する上で,経済成長および投資の必要性を
主張している。中でも 2
0
1
8年までの 5年間で 3
2
0億ドル(内, ODA1
4
0億円レ)の開発支援・投資を
行うことは, T
ICADVで打ち出された成果のーっとなっている。日本政府が TICADVで大規模な開発
支援策を掲げた背景には,中国やインドなど新興国による対アフリカ投資の拡大があげられる(佐々木
[
2
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1
3
J,p
.
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l
)。特に中国は,迅速かつ大規模な投資の実行や FOCACに代表される国際会議の開催な
ど,アフリカ域内における開発の主導権争いで急速に勢力を拡大したため.日本が対アフリカ開発の主
導権を得るためには大規模な支援策を打ち出す必要があった(片岡 [
2
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Jおよび武井 [
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Jを参照〉。
『明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
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(
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8)
(FOCAC)(2Jに代表される国際会議の周催など,“明るい兆し"も強調されている。
先進諸国や新興国(以下,
ドナー諸国〉による大規模な投資は, レアメタルや原油,天然ガス
等の獲得から情報通信技術の普及事業まで多岐にわたり,近年では農業生産に不可欠な土地(農
業分野)に対する投資も活発である。国連貿易開発会議 (UNCTAD) は
, ["アフリカ各国の事
例が示しているように,投資はアフリカが長期的な経済成長を成し遂げる上で有効である」 ω と
論じており,特に多国籍企業による直接投資や現地企業との連携がアフリカの農業・工業の生産
性を向上し,開発や経済発展に多大な好影響を及ぼすことを主張している ω。アフリカ開発銀行
(Af
ricanDevelopmentBank:ADB) も,過去 2
0年の聞に見られる恒常的な経済成長と高・中
所得者層の増加が連関することを指摘するとともに,貧困や劣悪な生活環境の改善には経済成長
が不可欠であると彊っている ω。すなわち,
ドナー諸国および国際金融機関は「投資拡大=経済
J という視点に基づき,経済支
成長」および「経済成長・投資拡大=貧困削減(諸問題の改善 )
援や直接投資を推進しているのである。
ただし,先行研究にはドナー諸国による投資の弊害を指摘する分析も見られる。スーザン・ジョー
ジ (SusanGeorge) は
, ["欧米アグリビジネスによる伝統的農村社会への侵入がもたらすもの
は,社会的破局以外のなにものでもない。アグリビジネスが,その手に触れるものすべてーーそ
の国の雇用形態,その地方の農産物,消費者の噌好,村落や家族の構造までも一ーを破壊してし
まうという事例は数えきれないほどである」仰として,多国籍企業による投資の影響を批判的に
論じている。また,国連のアフリカ支援プロジェクトに関与していたジェフリー・サックス
(
JeffreyD.Sachs) は
, IMF・世界銀行の対アフリカ支援策の有効性を疑問視しているの。さら
に福田邦夫も,マダガスカルやモザンピークを事例に,多国籍企業によるアフリカ投資の意図が
莫大な石油や鉱物資源,および農業資源の収奪にあり,現地の雇用促進に結びついていない実態
を指摘しているへそしてケニアに対する直接投資や経済支援策を見る限り,これら批判的な分
析と合致するような実態が垣間見える。
そこで本稿では,ケニアの食料・貧困問題とドナーによる経済支援・直接投資の連聞について,
特に現地の農業や食文化に及ぼした影響に焦点を当てて分析する。そして,①途上国への貢献を
掲げる支援の実態は,
ドナー側の利益に即した事業でしかないこと,②多国籍企業による直接投
(2) 1
9
9
0年代以降,中国は急激な経済成長に伴う石油・鉱物資源の輸入増加や,台湾のアフリカ外交へ
0
0
0年には FOCACが設立され,
のけん制から,アフリカに対する経済協カを拡大するようになった。 2
アフリカ諸国との協力関係の強化が試みられている。具体的にはアフリカ諸国に貸し付けた債務の返済
免除や更なる無償援助の実施,インフラ整備や経済特区設置のための投資などを行っている。中国・ア
2
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1
J,落合 [
2
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2
J,郭 [
2
0
1
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J を参照。
フリカ関係については青木 [
(3) UNCTAD[
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(5) ADB [
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3
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.
(6) George[
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.
(7) Sachs[
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2,および [
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(8) 福田 [
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(
4
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9)
多国籍企業の進出がケニアの農業・食文化に及ぼす影響
資がケニアの農業・食文化に歪みをもたらし得ることの 2点を考察し,
1
9
9
r
誰のための支援」であ
るかを明らかにする。
2
. ケニアの農業・食文化
ケニアでは労働者のおよそ 7割が農業に従事しており,紅茶や切り花等の輸出向け作物から野
菜,穀物等の圏内消費向けまで,様々な農産物が生産されている。そのため,農産物は農民にとっ
て貴重な現金収入源であり,また生活に不可欠な食料となっている。特にトマトやオニオン,キャ
ベツ,ニンジン等の外来種の農作物は比較的市場価格の高い作物である。ただし,これら“外来
種の商品作物"の生産は気候条件や所有地の規模,生産費用等の制約を有しており,全ての農家
が生産できない農作物であった。他方,
トウモロコシや葉野菜,豆類など,古くからケニア圏内
で消費されている“外来種ではない野菜"はほとんどの農家が栽培しており,ケニアの食文化の
軸となる作物である。
筆者は 2011年実施の現地調査で,現地の農民に普段食べている料理を提供して頂いたヘ料
理はウガリというトウモロコシの粉をお湯で練って作ったものが主食であり,主菜にはケール
(現地の言葉で“スクマウィキつという葉野菜の妙め物,ライマメ(白インゲン)や落花生など
豆類の妙め物が提供された。牛や豚,鶏などの肉類は農村部の貧しい家庭にとって高価であり,
祭事等以外で食べることは少なく,基本的な食事は穀物と野菜が中心である(1九特にウガリ
(トウモロコシ)やスクマウィキはケニア人がほぼ毎日摂取する食材であり,政府も“ケニアの
食事に欠かせない食材"と公言している (ll)。
加えて,現地の人々には「ウガリ
z
カの源」および「スクマウィキ=貴重な栄養源」という考
えが根付いている。ウガリ自体には塩気や甘味がほとんどないため,未就学の子どもはウガリよ
りも甘味のあるコメやパンを好んで食べる傾向にある。だが,両親や親戚は初等教育を就学し始
めた時期から子どもにウガリやスクマウィキを食べるよう促しており,これら料理が代々受け継
がれてきた“伝統的な料理.食文化"であることが伺える(1
ヘ
2
は,代々受け継がれてきた伝統を後の世代に継承するという意味も含まれているが,“食材の価
格"や“自給可能か否か"という点でのメリットもあげられる。例えば価格に関して,子どもが
好むコメやパンは近隣のマーケットで購入しなければならず, しかもトウモロコシやスクマウィ
(9) 2
0
0
9年 9月には首都ナイロピ(スラムを含む)と港湾都市モンパサで, 2
0
1
1年 8-9月にはケニア西
部(リフトバレー州ナンディ県)のコイバラックという農村でフィールドワークを行った。
(
10
) 肉類の中でも牛肉の価格が比較的安価で販売されていたが,現地の精肉庖によると, I
一頭当たりの
肉の最が一番多いJという理由で低価格にしていた。また沿岸部や湖畔地帯を除き,魚類は余り食され
ていない。
(
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fKenya[
1
9
6
9
Jおよび [
2
0
01]を参照。
(
12
) ケニアにはアフリカ原産もしくは古くから現地に根付いている“伝統的な野菜"が 2
1
0種類存在して
おり,市場で販売されているものから山林に自生しているものまで様々な野菜が料理に用いられている
(
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1
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3
)。
『明大商学論叢』第 9
7巻第 3号
2
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0
(
4
8
0)
キよりも高価であるため,伝統的な料理の方が貧しい農民にとって提供しやすい食事であった。
野菜の自給に関しでも,材料となるトウモロコシやスクマウィキは長年ケニアで栽培されてきた
作物であり,ケニアの気候や地質に適しているため,農民の大多数にとって栽培し易い野菜であ
る(3)。さらに栄養価が豊富に含まれていることも特徴である。
表 lに示すように,主食であるウガリ(トウモロコシ〉は熱量 (Kca
l)が多く,炭水化物,
鉄分,亜鉛,マグネシウムの含有量も小麦やコメと同等か若干少ない程度であり,現地の人々に
とって貴重なエネルギー源である。またスクマウィキや白インゲンはビタミン A や Cがトマト
やオニオンよりも多く含まれており,鉄分やカルシウムも豊富である。さらに,肉類に多く含ま
れている必須栄養素のタンパク質は白インゲンや落花生などの豆類で補っている。そのため,ウ
ガリやスクマウィキ,および豆類が中心の伝統的な料理は,現地の農業生産や食料事情に合致し
ており,
しかも栄養価が非常に高い,バランスのとれた食事と言える(凶。しかし,ケニアは
「食」に起因する栄養失調の問題を抱える国でもある。 FAOは食料安全保障に関する年次報告書
でサハラ以南のアフリカを栄養失調が深刻化している地域に指定している(問。またユニセフ
(UNICEF) および国連人道問題調整事務所 (UNOCHA) も,ケニアでは少なくとも 375万 人
以上の人々が深刻な食料危機に直面しており, 2
0
0万人近くの子どもが栄養失調状態に陥ってい
ると指摘している (1ヘ も っ と も 伝 統 的 な 料 理 は 栄 養 価 が 非 常 に 高 い た め , ケ ニ ア に お け る 栄 養
失調の問題は摂取する食料自体の減少が要因と考えられる。
,
483万 人 か ら
ケ ニ ア は 2004-13年 の 人 口 増 加 率 が 年 平 均 2.7%に 達 し て お り , 総 人 口 も 3
4,
435万人に増加している。さらに 2000年代後半,大規模な干ばつや穀物市場価格の高騰が立て
続けに起こったため,国民一人当たりの食料消費量は減少している。 1994-2001年の一人当た
1
9
.
3kgであったが, 2002-10年の消費量は 1
1
6
.
7kgとなっており,特に
り穀物消費量は年間 1
2
0
0
8年は 1
0
8
.
7kgまで減少している。ケニア独立 0963年)から現在までで消費量が最も多かっ
9
7
6年 060.3kg) と比較すると,年間 4
0kg以上も減っている(へまた野菜の消費量は一
た1
人当たり 25kg前後 0990年代)から 46kg超 (
2
0
1
0年〉に増加しているが,これは都市部向
0年間でトマトの消
けのトマトやオニオン,ポテトの消費増加に起因している。 2001-11年の 1
費量は1.6倍,オニオンは1.8倍,ポテトは 2倍に増加しているが,これらの野菜は主にプラン
テーションで生産され,都市部の大型スーパーマーケットに出荷されているため,貧しい人々の
食料消費量を十分に増やしていない。
(
13
) ケニアの農業地域は,①農耕に非常に適した土地が集中し,且つ適度な降雨のあるケニア中央部の大
地溝手帯地域,②リフトバレー州より劣るが,農耕に適したケニア中東部やヴィクトリア湖畔の地域,③
ケニア東南部から北部にかけて広がる乾燥・半乾燥地域の 3つに大別できるが, トウモロコシはいずれ
の地域でも生産可能であり,特に①はトウモロコシ生産の 55%を占める地域である (
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14
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) FAO[
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.
2
0,および UNOCHA[
2
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1
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.
1
4
。
(
1
6
) UNICEF[
2
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1
2
J,p
(
1
7
) 穀物および野菜の年間消費量(一人当たり〕は FAOST
AT (
2
0
1
4年 9月 2
5日閲覧)を参照。
(
4
8
1)
多国籍企業の進出がケニアの農業・食文化に及ぼす影響
2
0
1
衰 1 食料作物に含まれる栄養価(1
0
0g当たり)
熱量
(Kcal
)
P
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)
A
〈
μg)
C
(mg)
E
(mg)
Fe
(mg)
Ca
(mg)
Zn
(mg)
Mg
(mg)
【穀物】
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.
8
小麦(粉〉
3
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.
6
コメ(長粒米)
3
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.
1
トウモロコシ(粉)
。
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【伝統的な野菜】
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ケール(スクマウィキ)
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カボチャ
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3
.
8
豆類(白インゲン)
【外来種の野菜】
トマト
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オニオン
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ニンジン
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ジャガイモ
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0
落花生(ロースト済み)
7
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1
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4
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0
2
。
。。。
。
【肉類】
牛肉(調理済み)
6
8
0
1
0
.
7
鶏肉(調理済み〉
2
2
3
2
4
4
1) 栄養価に関する記号はそれぞれ, p=タンパク質, A=ビタミン A-RAE(レチノール活性当量), C=ピタミ
ンC
,E=ビタミン E
,F
e=鉄分, Ca=カルシウム, Zn=亙鉛, Mg=マグネシウムを示している。
(
注2
) r
伝統的な野菜」と「外来種の野菜」の区分は A
m
b
r
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e
.
O
j
i[
2
0
0
9
Jを参照。
(出所) USDAN
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e(
2
0
1
4年 9月 2
4日閲覧)および Yanga
n
dK
e
d
i
n
g[
2
0
0
9
Jより筆者作成。
(
注
加えて,ケニアの農業では濯瓶の整備や肥料・大型農耕機械の導入が立ち遅れているために,
生産量の増加は農地面積の拡大(土地生産性)に依拠している。だが,農民の約 8割は 2ha未
満の土地しか所有していない小農であり,ケニアの農地面積の 54%は全体の 2%足らずの農業資
本家(多国籍企業を含む)の所有地となっている〈へそのため,貧しい小農(および都市部の
雇用に就けなかった世帯)は食料を十分に増産できず,深刻な食料不足や栄養失調状態に陥って
いた。大勢のケニア人が深刻な食料危機に直面するなか,先進諸国や多国籍企業は支援策と称し
て農業部門への直接投資を実行し始めている。
) 国際協力機構(JI
CA) ウェブサイト「ケニア・中南部持続的小規模潅瓶開発・管理プロジェクト」
(
18
(
2
0
1
4年 9月 2
1日閲覧)および S
t
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c
k[
2
0
0
4
J,p
p
.
1
9
5
1
9
7
。
2
0
2
『明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
(
4
8
2)
3
. 多国籍企業によるケニア進出
a
. 農業資源に対する直接投資
ケニアでは巨大プランテーションの設置や市場志向型作物の増産(所得・雇用機会の増加),
多国籍企業が製造する食料品の普及(食料支援及び雇用創出),莫大な農地の購入,現地のアグ
リ資本との業務提携など,農業関連の直接投資や経済支援が活発化している(19
)。 特 に 農 地 獲 得
の場合,投資する企業(および政府)は土地の購入に加えて,商品作物の栽塙・流通安行うため
の基盤確保や現地企業の買収など,大規模な直接投資を実行している。
多国籍企業による農地獲得はアフリカ各地で繰り広げられている。例えばエチオピアではイギ
iofueks) が 現 地 企 業 の ナ シ ョ ナ ル ・ バ イ オ デ ィ ー ゼ
リスのサン・バイオフューエル社 (SunB
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lCorporation) を 2
0
0
5年 に 買 収 , エ チ オ ピ ア の 農 地 3
2
.
5万 haを 獲
ル社 (
得して,ジャトロファ(バイオ燃料の原料)を生産している側。またガーナではイタリアやイ
ギリス,カナダ,アメリカなど数ヵ国の多国籍資本が現地企業と提携し,ガーナ各地に大規模な
ジャトロファ農場を建設している (200 モ ザ ン ピ ー ク で は 日 本 ・ ブ ラ ジ ル ・ モ ザ ン ピ ー ク の 政 府
が共同事業(プロサバンナ計画)として,北部のナカラ回廊と呼ばれる地域の土地(およそ
1
,
400万 ha) の買収,天然ガスや石炭の採掘,およひ、バイオ燃料用大豆の栽展会計両している。
9
9
0年 代 ま で , 多 国 籍 資 本 の 所 有 地 で は 主 に コ ー ヒ ー や 紅 茶 , 切 り 花
ケニアの場合,独立から 1
(特にパラ)が栽培されていたが, 2
0
0
0年以降になると,バイオ燃料関連の作物栽培を目的とす
る投資が急増している問。
途 上 国 に お け る 土 地 売 買 の 実 態 を 調 査 し て い る ラ ン ド ・ マ ト リ ッ ク ス (LandMatrix) によ
ると,多国籍資本による対ケニア農業投資の去な案件は以下の 3つである問。 lつ目はアメリカ
資 本 の ド ミ ニ オ ン 社 CDominionFarms) である。同社はヴィクトリア湖畔の二十‘地 6
,
0
0
0haを
リース契約し,束アフリカ域内市場で販売するコメの栽培や魚(ティラピア)の養殖を行ってい
る
。
,
5
0
0人の雇用そ創出したことや食料増産に寄与している
ドミニオン社は直接投資によって 1
(
19
) 既存の投資・経済支援には,都市部の道路補修や都市ー地方聞の幹線道路建設など交通インフラの整
備,農村部における濯海設備の設置,沿岸部の港町モンパサの港湾整備および経済・貿易特区の設置,
情報・通信インフラの構築があげられる。ケニアの非農業部門に対する直接投資は日本貿易振興機構編
[
2
0
1
3
] を参照。
(
2
0
) ノ〈イオ燃料需要の増大と農業投資の連関は佐有本 [
2
0
1
4
] および大江 [
2
0
0
8
] を参照。
(
21
) Boamah[
2
0
1L
Iおよび LandMatrix (
2
0
1
4年 9月初日閲覧〉。
(
2
2
) パラ栽培では, 2
0
0
7年 1
:
:インドの多国籍企業カルトゥーリ・グローバル社 (
K
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b
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.
)
がケニアの切り花産業に参入,ケニア中央部〔ナイパシャ湖畔)の土地 2
0
0haを購入し,パラ栽培用
のプランテーションを設置している。カルトゥーリ・グローバル社はケニア以外にもウクライナやエチ
オピアにも進出し,農地に対する大規模な投資と商品作物の栽培を展開している (NHK食糧危機取材
班 [
2
0
1
0
],p
p
.
1
7
4
1
8
0
)。切り花産業の発展によって,少なくとも直接的には 5万人,間接的には 7
万人の雇用を創出したとされる (
E
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y[
2
0
0
5
],p
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.
1
2
)。
(
2
3
) 開発途上国で行われている土地売買は LandM
a
t
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x(
2
0
1
4年 9月 2
6日閲覧)を参照。
(
4
8
3)
多国籍企業の進出がケニアの農業・食文化に及ぼす影響
2
0
3
ことを強調するとともに,更なる食料生産に向けて農地をヴィクトリア湖畔地域で1.7
5万 ha,
東部沿岸地帯で 4万 haまで拡大する計画を打ち出している o 2つ目はモーリシャス資本のオム
ニケイン社 (Omnicane) である。オムニケイン社はケニアのクウェル・インターナショナル社
(Kwa1eI
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a
1SugarCompany) の株式 50%を 2
,
0
0
0万ドルで購入,
r
地域社会・経済
0
1
3年からクウェル社が所有する農地(約 6
,
8
0
0ha) でバ
の発展に貢献」という主張のもと, 2
イ オ 燃 料 用 サ ト ウ キ ピ の 栽 培 を 開 始 し て い る 。 3つ 目 は カ ナ ダ 資 本 の ベ ッ ド フ ォ ー ド 社
(BedfordB
i
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1
s
) の事例である。ベッドフォード社は沿岸部のデルタ地帯 1
6万 haをリース
契約し,ジャトロファ栽培のための巨大プランテーションを建設している。ベッドフォード社は
ジャトロファ事業を貧困解消に寄与する人道的計画と主張するとともに,農地を 3
6万 haまで
拡大する予定である。
いずれの案件も,①対外輸出向けの紅茶や切り花などの商品作物,②コメや鮮魚など非伝統的
な食材の生産,③ジャトロファやサトウキピなと、バイオ燃料の原料の 3種類が,単一もしくは数
種同時に栽培されている。また投資事業の目的に関しでも,ケニアに進出している全ての多国籍
企業が,雇用機会の創出による貧困問題の改善や食料品の安定的な購入など,社会貢献・経済支
援の役割を喧伝している刷。
b
. 日本による食料分野への支援・投資
食料に特化した投資・経済支援に関しても,先進諸国や多国籍企業は様々な事業を展開してい
icef
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a
:NERICA) 計画や,
る。顕著な例として, 日本政府が推進するネリカ米 (NewR
日清食品による「インスタント・ラーメン(以下,即席メン)普及プロジェクト」など,日本に
よる支援事業があげられる。
ネリカ米計画は,ケニアに限らず,アフリカ各地(主に西アフリカやウガンダ)で実施されて
いる支援事業である。日本政府はネリカ米計画をアフリカのコメの消費および輸入量増加に歯止
めをかける支援と位置付け,現地の気候や地質に適するよう品種改良したコメの栽培を推進,ア
フリカにおけるコメ食文化の普及やコメ生産の増加を促している制。同プロジェクトを実施・
運営する独立行政法人国際協力機構(JICA) は,ネリカ米の生産が拡大しているウガンダを成
功例にあげ,ネリカ米の普及がアフリカの食料不足問題を改善すること,およびコメの余剰分の
販売によって現金収入を確保できるなどの利点,すなわちコメ作の普及の必要性を主張している。
さらに JICAはネリカ米計画と並行して,ケニア人農民の所得増加を目的とする「小規模園芸農
(
2
4
) UNCTADもバイオ燃料需要の増大に伴う農業部門への投資に関して,サトウキピや大豆,ジャトロ
ファの需要増大が農業部門の発展に貢献すると好意的に捉えている (UNCTAD[
2
0
0
9
J,p
.
2
3
)。
(
2
5
) 国連開発計画が掲げているネリカ米の特徴は,①乾燥した気候に強いこと,②在来種に比べ,収量が
0
多いこと,③高タンパクであること,④病害虫や雑草に強いこと,⑤在来種に比べ,栽培から期間 9
日程度で収穫できることの 5点である(国連開発計画 [
2
0
0
2
]
)。ただし,ここで取り上げた利点は常に
発揮されず,除草と化学肥料投入の両方を行なう必要性や,日照時間や降雨量などの地理・気候条件に
2
0
0
3
J,p
p
.6
一7
)。
よって変化する等の問題があるため,必ずしも有効な作物ではない(坂上 [
『明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
2
0
4
(
4
8
4)
民組織強化計両Jをケニア政府と共同で実施,尚品作物主主体の農業への転換や農業生産の効率化
を農民に促している。
また日本の大手食料品メーカーである日清食品(以下,日清)のケニア進出のように,多国籍
企業による食料品分野への直接投資も活発化している。日清は“創造・食・地球・健康・子ども
たち"の 5つをテーマとする社会貢献事業「百福士プロジェクト」を行っており,ケニアにおけ
i
s
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i (おい
る即席メン(袋状)の普及・定着化計画は百福士プロジェクトの第 I弾(事業名:O
0
0
8年に開始されている(以下,“即席メン事業"とする)(2九 即
しい)プロジェクト)として 2
席メン事業は,農村部向けの支援と都市部向けの販売促進に大別できる。農村部向けの支援では,
農村の小学校を対象に即席メンの配布が行われており,即席メン調理のために水のろ過装置を完
備した専用自動車までも開発している。 2
0
1
0年 7月までの約 2年間で計 2
3
6回の配布が行われ.
6
2,
9
5
0食の即席メンが各学校に給食として提供されている。
食事 z 即席メン」の定着
他方,都市部向けの事業では,ナイロどなど人口密集地を中心に, I
が試みられている。日清は欧米やアジア諸国で「カップヌードル」や「チキンラーメン」に代表
される即席メンの普及・定着を既に成し遂げており, 2
0
1
3年度の海外事業による売上は 7
3
7億
円に上る問。ケニアにおける即席メン事業では,これまで、の海外事業の経験を活かし,現地の
食事(味の好み)に類似した商品 2種類を開発している(図 lを参照)。さらに,ナイロビ郊外
にあるジョモ・ケニヤッタ農工大学
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:JKUAT) との合弁会社設立 (
2
0
1
3年 l月設立〉や新たな製造工場の建設など,ケニアお
よび東アフリカ地域全体に即席メンを普及,食文化として定着させるための基盤構築を進めてい
る。加えて,ケニア圏内ではケニア資本のウチュミ
ウガンダ・ルワンダの
(Uchum
i)やタスキス (
T
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),ケニア・
3ヵ国に展開しているナクマット (
N
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k
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t
) など,大型スーパーマー
ケットが大都市を中心に数多く出店しているため,販売網確保が容易であり,即席メンの大量販
売が可能となっている制。
日清はケニアで推進する即席メン事業を,表向き,企業の社会貢献 (CSR) 活動に恭づく食
料支援事業の一環としている。そのため,日清は同事業の目的として,農村部では「現地の子ど
もたちへの食料配布」によって食糧難を改善すること,また都市部では「即席メンの製造・販売
拡大」と「安価な食料品の普及」によって現地の雇用創出や栄養失調を改善することを意義とし
(
2
6
) 世界ラーメン協会 (
W
I
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A
) によると,世界全体で消費されている即席メンの量は 1
,
0
5
6低食 (
2
0
1
3
年)に達し,一人当たり約 1
5食/年を消費していることになる。即席メンの総消貿易/年を凶別でみ
ると,第 l伎は中国 (
4
6
2
.
2億食),第 2位がインドネシア(14
9億食),第 3位が日本 (
5
5
.
2億食)で
あり,上位 1
0ヵ国中 8ヵ国がアジア地域となっている。アジア以外では第 6位アメリカ,第 1
0位ブラ
ジル,第 1
1位ロシア,第 1
2位ナイジエリアが上位国である。また一人当たりの消費量では第 I位が韓
7
4.1食/年)とな弓ている。これら統計については WINAウェブサイト (
2
0
1
4年 1
0月 1
3日閲覧)
国 (
を参照。
(
2
7
) 即席メンの商品名は販売されている国・地域によって異なっており,必ずしも「カップヌードルJま
たは「チキンラーメン」の名称ではない。
(
2
8
) 福西 [
2
0
1
2
J,p
p
.
2
3
8
2
3
9o
(4
8
5)
多国籍企業の進出がケニア の良業 ・食文化に及ぼす影響
ニャマチョマ
2
0
5
チキン
(
出所) 日消食品ウェプサイ ト (
20
1
4年
9月 4日閲覧)より 引用
図 1 日清食品がケニアで販売する即席メンの パッ ケー ジ (
2種類)
て掲げている 。特に栄養失調に関して,日 清 はソルガム (
雑穀) を即席メンに練り込んでおり,
既存の食事 よりも栄養価の 高 い食料品であると 喧伝している 。 すなわち日清は,ケニアに対する
社会貢献と将来的な市場拡大 (
利益創出) を兼ね備えた “
Win-Win (ウィン ・ウィン )"の 事業
であることを強調しているのである 。
いずれの事例においても,
ドナー側は域内市場を流通する食料の増加 (
食料自給の向上) では
なく, 雇用創出や所得増加を 貢献内容に掲げている 。 また UNCTADも年次報告書 r2014年度
世界投資報告』 の中で,
日清の即席メン 事業を途上国経済への 貢献の事例として取り上げてい
る倒
。 ADBも,食料安全保障上の問題点として自給自足型農業への依存を指摘し,農業と市場
の連携の必要性を論じている 側
。 換言 すれば,“多国籍企業 の進出"と“商品作物主体の農業 へ
の転換"が貧困削減や現金 (
食料購入費) の確保に 貢献しているという 主張である 。 だがケニア
良業 の実態を見る限り,これら支援は農民が抱える 貧困や食料問題の改善 に貢献しているか疑問
である 。
4.開発投資の功罪:企業利益と農業・食文化の歪み
a.土地収奪 と小農の困窮
第 3節ではケニアの土地 ・食料に対する経済支援や投資の現状を論じたが,ケニアの実態を見
る限り,多国籍企業が喧伝する“貧困 ・食料問題への貢献"は必ずしも正確ではなく,むしろ多
国籍企業の進出は現地の貧しい農民 (
特に小農) に多大な悪影響を及ぼしている 。例えば土地に
対する投資では, (
登記上の )土地所有者や農民に土地を信託している行政府と多国籍企業の間
で売買交渉が行われている案件が多く,当該地に住む農民 (
土地の利用者)から強制的に土地を
収奪している側面もみられる 。
農地への投資 (
土地収奪) は 2000年代後半より規模が拡大しており,世界全体で行われてい
(
29
)
(
3
0)
UNCTAD[
2
0
1
4
b]
,p
.
81
.
ADB[
2
0
1
4]
,p
p
.
6
16
4
2
0
6
「明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
(
4
8
6)
る土地収奪を調査しているランド・マトリックスによると,アフリカ域内だけでも約 5,
6
2
0万ヘ
クタール (2012年時点:契約交渉中も含む〉が多国籍企業に売却もしくはリースされている則。
ケニアの場合,多国籍企業に収奪された農地は 2013年時点で 1
7
.
2万 haあり,交渉中もしくは
計画段階も含めると,土地収奪の規模は 1
0
5万 haに達する。しかもオークランド研究所の調査
で指摘されているように,多国籍企業は当該地に住む農民(土地の利用者)の多くを交渉の場に
つかせることなく,収奪予定地を所管する行政府や(法律上の)土地所有者と売買契約を締結し
ている (3九そのため,農地に対する投資は小農にとって強制的な土地収奪であり,生活の糧で
ある農業生産および食料生産を放棄させる手段でしかない。
また多国籍企業は,大規模な土地収奪による雇用創出や現金収入の増加(貧困削減)を強調し
4
1万人 (2000-12年〉に増加しており,且つ
ているが,ケニアでは失業者数が 378万人から 5
土地収奪によって農業から切り離された人々も大勢存在するため,土地収奪が創出した数万人程
度の雇用は失業問題に貢献していない制。しかも土地収奪によって食料生産の機会を喪失した
農民は,多国籍資本の大農場の労働によって得た僅かな賃金で(以前まで自給していた)食料を
購入しなければならない。だがケニア国内の食料市場の価格は 2007年末以降の国際市場価格の
変動を受けて上昇しており,大勢の貧しい農民が食費の増加に伴う家計のひっ迫に陥ってい
る(34)
ケニア統計局によると,ケニア人世帯全体の家計支出に占める食費の割合は都市部が 5
2.
4
%
,
農村部が 6
8.4%に達しており,収入の大半が食費に充てられている附。また自給した食料(各家
庭で生産された食料)は消費全体の 15%に過ぎず,農村部でさえ 18.3%に留まっている。川島
博之は「世界には広大な休耕地があると考えざるを得ない。〈中略)本当に食料が足りないのな
ら,全ての農地で耕作が行われるはずである」側として,アフリカの食料危機の要因を休耕地
(農地の未活用)に求めているが,アフリカの気候や地質を考慮したとき,休耕地を設けること
は必要不可欠であり,仮に休耕地を使用したとしても十分な収量を得られず,土地の養分の不要
な減少を招くだけである。さらに言及すると,ケニア(およびアフリカ)の食料問題(食料不足
や栄養失調〉の本質は“農業技術の欠知"と“土地所有権の喪失"であり,休耕地の利用上の不
備という川島の指摘は問題を的確に捉えていない。
加えて,パウリン・マクツァ (PaulineMakutsa) が「土地収奪は多くの開発途上国にとっ
て,農業や食糧生産に対する新たな直接投資の機会に過ぎない。しかし途上国政府は,農業に対
する FDIが利益の増大に起因すると捉えている。この利益には,政府の歳入や雇用・所得の増
(
3
1
)
(
3
2
)
(
3
3
)
(
3
4
)
(
3
5
)
(
3
6
)
Anseeuw,
W.,
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.[
2
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1
2
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.
1
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2
4
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7
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0
9
J,p
失業者数は WorldDevelopmentI
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:DataBank (
2
0
1
4年 9月 2
7日閲覧)より筆者算出。
勝俣 [
2
0
0
8
J,p
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.
4
7
5
0,および福田 [
2
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1
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.
8
7
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3
1
4
.
川島 [
2
0
0
9
J,p
.
4
9
。
(
4
8
7)
多国籍企業の進出がケニアの農業・食文化に及ぼす影響
2
0
7
加,技術革新,農業サービスの向上が含まれているJ<37lと指摘しているように,途上国政府まで
もが土地収奪を好意的に捉えている。故に,農民は国内外から土地収奪の脅威を強 L、られており,
貧しい人々を中心とする食料危機の蔓延や土地収奪に起因する大規模なデモの発生も必然である。
土地所有権(=食料自給権)の剥奪は,“食費=最大の支出"となっている貧しい農民にとって,
より困窮した生活を強いるものでしかない。しかも多国籍企業は,食料品の購入が不可避となっ
た小農の食卓にまで,“より良質で高栄養価の食料品"という名の投資を繰り広げている。
b
. 即席メンの普及と弊害
日本が推進するネリカ米や即席メンは,一見すると食料に関する支援・投資であり,ケニアの
貧困や食料問題への期待を頭わせているが,これら支援策では「何故,コメや即席メンなのか」
という根本的な疑問に対して,明確な根拠が提示されていな L、。ケニアの伝統的な料理はトウモ
ロコシの粉を練って作った“ウガリ"や“スクマウィキ"等の野菜の妙め物であり,食料の増産
や農産物栽培による雇用創出を図るのであれば,
トウモロコシやスクマウィキなど,一般家庭で
消費されている伝統的な野菜の栽培を拡大することがケニアの食文化と合致している。
元来ケニアにない食料品が推進されている最大の要因は,日本の主食がコメであり,多国籍企
業の主力商品が即席メンであること,すなわちドナー側の都合が伺える。特に,
日清がケニア
(東アフリカ地域)で展開している即席メン事業は企業の市場拡大が根幹にあり,貧困問題や食
料問題への貢献は名目上の目的でしかない。即席メン事業が市場拡大(=企業の利益拡大)を目
指した事業であることは価格設定にも表出している。日清がケニアで販売する即席メンの価格は
30-40ケニアシリング (35-45円程度)/袋であり,貧しい人々にとって非常に高価な食料品で
ある o 日清は即席メンの小売価格について, 2009年から毎年引き上げられているケニアの法定
最低賃金を反映し,一般家庭向けの設定と彊っている制。しかし,多くの雇用主が法定最低賃
金を遵守せず,規定以下の賃金で労働者を雇っているため,大勢の人々が一日 2 ドル以下の生活
を余儀なくされている。例えば首都ナイロビには,失業者や低賃金労働者,農村から出稼ぎに来
た人々によって形成された巨大なスラムが複数存在しており, 1
0
0万人以上に膨れ上がったスラ
ムの住民が貧困状態の中で生活を営んでいる (3九そのため,一般家庭向けとして販売される即
席メンは,実際には国民の 3-4割を占める高所得者層や中間層向けの商品であり,決してケニ
アの一般家庭に該当する低所得者層向けではない。
また,即席メンの普及は“トウモロコシ消費の減退"や“農民の貧困問題の助長九更には“食
文化の歪み"を招く恐れがある。まずトウモロコシ消費への弊害であるが,複数の大型スーパー
マーケットが 2000年代よりケニアに出庖して以来,ケニアではインドネシア資本のインドフー
(
3
7
) Makutsa[
2
0
1
0
J,p
.
9
.
2
0
1
3年 5月 2
1日)。ケニアの法定最低賃金は 2
0
0
9年から引き上げられており, 2
0
1
4
(
3
8
) 日本経済新聞 (
年の最低賃金は前年比で 1
3.
1
% (都市部の平均給与で約 9
,
781-2万 2
,
0
7
1ケニアシリング/月)引き上
げられている。
(
3
9
) MorawczynskiandM
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e[
2
0
0
8
,
] p
.
2
8
9
.
2
0
8
「明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
(
4
8
8)
ド社 C
I
n
d
o
f
o
o
d
) が東アフリカ地域で即席メンの販売を開始している。インドフード社は 2
0
1
3
年に製造工場をケニアの港湾都市モンパサに新設し, 5
,
0
0
0万食以上/年の即席メン製造を可能
にすると,東アフリカ域内における即席メンの販売を拡大させている。パンやチャパティなど既
存の小麦食品の消費に加えて,インドフード社による即席メンの大量生産は域内の穀物取引量を
変化させている。 トウモロコシの生産者価格は 4
01
.8ドル/トン (
2
0
1
2年〉となっており,前年
比の 4
2.1%上昇となっているが,小麦の生産者価格 4
2
8
.
6ドル/トン (
2
0
1
2年:前年比の 3
2
.
9
%
上昇)よりも約 2
7ドル低い水準となっている。また 2
0日 -13年の穀物生産量を見る限り,
トウ
モロコシが 3
3
7
.
7万トンから 3
3
9.1万トンとほぼ横ば L、だが,小麦は 2
6
.
8万トンから 4
8
.
6万トン
と1.8倍も増加している刷。そのため,
トウモロコシの一人当たり年間消費量は 9
0kg (
19
9
0年
代〉から 8
0
.
9kg (
2
0
0
0年代)に減少しているが,小麦の消費量は 2
0.
4kgから 2
5.
4kgに増加
している。東アフリカに新規参入した日清は同地域の経済成長と小麦消費の変化に着目し,
1
,
0
0
0食/日の生産量(製造可能量)を 50-60万食まで増やす計画を立てているが,即席メン販
売による小麦消費の増加は,穀物生産の大部分を占めるトウモロコシの価格低下,すなわち農民
の貧困を助長する行為につながる。
ケニアでは大多数の農民がトウモロコシを生産しており,余剰分を市場に出荷しているため,
トウモロコシ消費の減少は生産者の収入の減退を引き起こし,他の作物への転作や出稼ぎ労働を
促す契機となる。もっとも,転作が可能な農民はごく一部に限られるため,収入が減少した農民
は必然的に出稼ぎ労働者および食料の購入者にならざるを得ない。日清は 1
2
0
1
8年までに即席
メン 2億食の販売」を目標に掲げており,増加した賃金労働者(失業者〉に対して雇用を創出す
ると彊っている。だが即席メンは大部分が機械で製造されており, ]KUATとの合弁で設立した
ジェイクアット日滑りKUATNISSINFOODSLTD) の現従業員 5
0名を含めても数百人程度
に留まるため,“貢献"と強調するほどの雇用創出に至らない (4九さらに即席メンの普及は,都
市部のみならず地方の農村においても進められているが,即席メンへの抵抗を軽減するために子
どもの味覚を掴もうとする意図が見受けられる。
日清が農村部で実施している即席メンの配布は,表向き「栄養失調や食料不足に対する貢献」
を目的に,成長期の幼児へ食料を提供する活動としている。だが農村部における即席メン配布は,
社会貢献というよりも,むしろ就学したばかりの子どもの味覚に即席メンを馴染ませるための
“試食販売"という意味合いが強い。筆者がケニアの都市部で生活環境や食生活に関する調査を
2
0
0
9年に実施, 1
食の好み」や「日本の食料品に対する関心」について現地の人々に聞き取りを
行った結果,スラムに住む人々や農村部から出稼ぎに来た労働者は麺類に対する抵抗感を抱いて
(
4
0
) 穀物の生産・消費量は FAOSTAT (
2
0
1
4年 1
0月 3日閲覧〕を参照。
(
4
1
) 例えば,年聞の即席メン消費量が 4
3
.
6万食 (
2
0
1
2年)であるインドは, 2
0
1
4年に新設されたインド
の製造工場の従業員数が 5
0
0名であり,インドにある 3つの工場を合わせても 1
,
0
0
0人程度となってい
る。消費量がインドよりも格段に少ないケニアはインド工場よりもはるかに小規模の工場となるため,
失業問題への貢献は限定的だと言える。
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多国籍企業の進出がケニアの農業・食文化に及ぼす影響
2
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9
おり,幼少期から慣れ親しんだ“伝統的な食事"を好む傾向にあることが判明した刷。加えて 1
5
歳未満の人口が総人口の 4割以上(1, 700万人以上)に達するため, 日清が不定期に実施してい
る即席メンの配布は,そもそも食料問題の改善に寄与しない。すなわち,同事業の目的は地域社
会への貢献ではなく,即席メンへの抵抗を排するための基盤構築であり,販売促進活動の一環に
過ぎないのである。
また日清は“栄養失調への貢献"として,販売予定の即席メンに雑穀や全粒粉(もみ殻の混ざっ
た小麦粉〉を使用し,栄養価が高いことを強調しているが,第 2節の表 lに示したように,一般
的に摂取されている野菜や穀物は栄養価が高く,伝統的な食事が安定的に食べられる状態であれ
ば十分な栄養を確保できる刷。しかも即席メンにはパーム油や食塩が大量に使用されており,
油分や塩分の過剰摂取による悪影響も懸念される。そのため,食事をウガリやスクマウィキから
即席メンに転換することは,ケニアの人々が代々受け継いできた食文化を査める行為であり,既
存の安定した栄養バランスを壊す行為でしかない。
前項の土地収奪にも合致することだが,先進国政府や多国籍企業による食料・農業問題への支
援はドナーが主体となっており,その実態も“現地の食文化や農業の崩壊"および“農民の生活
環境の一層の劣悪化"に他ならない。そしてケニアの貧しい人々は,貧困・食料問題に対する限
定的な貢献の代償として,多国籍企業の利益のために農業生産や生活環境,食文化の歪みを強い
られている。
5
. おわりに
栄養失調は確かにケニアが抱える深刻な問題であるが,ケニア圏内で一般的に消費されている
“伝統的な野菜"は栄養価の非常に高い農産物である。そのため,栄養失調の問題は摂取できる
食料の根本的な不足に起因しており,食料問題の改善には食料増産,特に伝統的な野菜の増産を
促し,食料自給を向上させることが必要である。だが,自国の食料自給率低下を危慎する日本政
府は,ケニアをはじめとするアフリカ諸国に対して,“自給用の食料"ではなく“生産者が消費
しない商品作物"の増産を促している。ドナー諸国はこれら支援の根拠として,表向き,貧困お
よび食料問題の改善には経済成長が不可欠であり,故に「投資=有効な手段」と主張している。
しかし投資を促進するドナー諸国の真意は,利益創出のために「豊富な資源を有するフロンティ
ア=アフリカ」を利用することにある。ドナー側の思惑はケニアの実態に表出している。すなわ
ち,投資拡大と高い経済成長は結ひ。つくかもしれないが,投資拡大および高い経済成長は必ずし
もケニアの貧困削減に帰結していないのである。
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9年 8-9月にナイロピ(キベラスラムを含む〉やモンパサの住民への聞き取り調査に際し,
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民全員が「食べてみたいと思わない」と回答した。
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「明大商学論叢」第 9
7巻 第 3号
2000年 代 後 半 の 国 際 的 な 食 料 価 格 の 高 騰 に 伴 い , 近 年 , ケ ニ ア お よ び ア フ リ カ 諸 国 で は 大 規
模な暴動や抗議デモが多発している。だが,商品作物ではなく自給用作物の増産を進めていた場
合,価格高騰はむしろ農民の収入を増やす好機となった可能性がある。にもかかわらず,貧しい
人々が不満を募らせたのは,
ドナー諸国によって食料生産に不可欠な土地を失い,高価な食料品
の購入を強要されたためである。広大な農地を有し,
しかも食料自給に問題を抱えるケニアは,
多国籍企業にとってまさに「フロンティア」であった。そのため,
ドナー側主体の直接投資の拡
大は暴動やデモ活動を助長する活動に過ぎず,食料問題に起因するケニア(アフリカ)の混迷は
改善しない。
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ケニア共和国での合弁事業開始につい
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