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ASEANの成長を取り込むための戦略と秘訣(その2)

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ASEANの成長を取り込むための戦略と秘訣(その2)
海外情報
ASEAN経済共同体(AEC)発足で「期待感」増すASEAN
ASEANの成長を取り込むための戦略と秘訣(その2)
あさ ば
まさひこ
わたなべ
しん や
アジアビジネスサポートグループ(ABSG)公認会計士 浅羽 正彦
公認会計士 渡邉 慎也
し ば む ら りょう た
公認情報システム監査人 芝村 龍太
はじめに
前号に引き続き、2014年7月10日に開催した「デロイトトーマツアジアビジネスセミナー2014」の
要旨を紹介したい。今号ではBreakoutセッションにつき取り扱う。なお、文中意見に渡る部分については、
講演者及び本稿執筆者の私見を含むことをお断りしておく。
(セミナープログラム)
統合セッション:
Breakout セッション:
開会挨拶
人事戦略
デロイト トウシュ トーマツ リミテッド
東南アジアで日系企業が直面する人事課題と施
策の方向性
グローバルボード副会長 有限責任監査法人トーマツ Deputy CEO
小川 陽一郎
〜“日本型人事”からの脱却と“タレント・マネジメント”
統合セッション①
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
ASEAN経済共同体(AEC)の日本企業への
影響について
ガバナンス戦略
〜2015年AEC発足に向けた企業戦略を考える
亜細亜大学アジア研究所 所長
石川 幸一 氏
中央大学経済研究所 客員研究員
助川 成也 氏
有限責任監査法人トーマツ パートナー
小林 繁明
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 シニアマネジャー
羽生田 慶介
統合セッション②
シニアマネジャー
坂田 省悟
東南アジアの地域ガバナンスとデータ活用
〜単 一企業統治単位としての東南アジアにおけるガバナンスの
少し先
有限責任監査法人トーマツ
パートナー / デロイトアナリティクス日本統括責任者 矢部 誠
有限責任監査法人トーマツ パートナー
柳澤 良文
事業拡大戦略
東南アジアの地域統括会社の運営:
シンガポールvs.タイ
東南アジアで「M&A」を実行するということ
〜現 地の実情を踏まえた統括機能の強化と経営の現地化による 地域競争力と経営力の向上を目指して
〜M&A戦略の実行に際して直面する困難や課題に立ち向かう秘訣
デロイト トーマツ ファイナンシャル アドバイザリー株式会社
有限責任監査法人トーマツ パートナー
柳澤 良文
有限責任監査法人トーマツ パートナー
土畠 真嗣
有限責任監査法人トーマツ パートナー
中山 一郎
(Deloitte Singapore)
ディレクター
秋山 順
アソシエイトディレクター
鈴木 直人
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
シニアマネジャー
井出 潔
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
シニアマネジャー
坂田 省悟
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 47
Breakout Session A (講師:坂田 省悟)
【人事戦略】
「東南アジアで日系企業が直面する人事課題
と施策の方向性」
・「低賃金生産拠点」から「重要戦略拠点」として
の管理
・
「生産管理」のみから「経営管理」や「人材育成」
も含めた管理
・「日本人によるマネジメント」から「現地人材に
よるマネジメント」による経営
〜“日本型人事”からの脱却を“タレント・マネジメ
すなわち、本社としてはグローバルで最適な人材
ント”〜
管理・人事配置を進めるべく、「本社から各国の人
材の見える化」や「域内での人材の自由な移動及び
1.ASEAN地域における人材マネジメント
ASEAN諸国の経済成長のフェーズや労働市場の
優秀な人材の育成」
、
「グローバル基準を踏まえた共
状況は様々であるものの、経済の成長に伴う賃金水
通人事制度を展開」するための人材マネジメントの
準の上昇や企業活動の活発化に伴う労働市場の逼
構築が求められている。
そのためには、ASEANにおける人材マネジメン
迫、低い失業率や日常的なジョブホッピング等によ
り、現地企業においては、「優秀な人材が採用でき
トでは優秀な管理職人材を獲得・抜擢したいという
ない」、「育ててもすぐに辞めてしまう」
、
「抜擢しよ
「足元の課題」とグローバルで最適な人材管理・人
うにもポストがない」、「企業に残っている管理職の
事配置を進めたいという「本社からの要請」に同時
力量にバラツキが大きい」等優秀な人材(特に管理
並行で対応する(バランスをとる)必要がある。こ
職)を獲得したいという共通の足元の課題を有して
こでタレントマネジメントの考え方を紹介する。
おり、「優秀な人材へリーチ」し、
「現有人材を含め
タレントマネジメントは、3つの階層に人材を区
徹底的に育成」し、「育った人材を逃さない」ため
分しそれぞれの区分に応じて教育や処遇による選択
の人材マネジメントの構築が急務となっている。
と集中を実現しようとするものである。
(スライド
1参照)
他方、ASEANはこの10年で世界平均を大きく
上回る高成長を遂げ、ASEANが“マーケット”と
第1階層(Staff層)
:辞めることを前提とした運営
し て 認 知 さ れ 始 め た こ と に 加 え、2015年 末 の
業務の標準化及び見える化により属人化を回避
する
ASEAN経済共同体( AEC)の発足により、今後
ASEANはますます魅力的なマーケットとなる可能
第2階層( Middle Management層)
:優秀な人材
性が高い。そのためASEAN拠点の重要性は一層増
への手厚い処遇(えこひいき人事)
優秀な人材をやめさせないような柔軟性のある
していくことが予想されることから、企業にとって
報酬制度やファストトラックを導入する。
ASEAN拠点の位置づけが大きく変化してきてい
第3階層( Top Management層)
:ローカル・グ
る。
ローバル人材の区分
それに伴い、ASEANに対する本社からの人材マ
多様なキャリアプラン(グローバルキャリア)
ネジメントに関する要請も「現地化
(ローカライズ)
」
を用意する
を志向するように以下のような変化が求められるよ
うになってきている。
(スライド1)
人材を区分し、教育や処遇による選択と集中を実現する
タレントマネジメントの考え方
1
Top Management
2
2
Staff
• 業務の標準化による属人化回避
• 採用可能な一定の処遇水準
3
Middle Management
1
“辞めること前提”の運営
優秀人材への手厚い処遇
• “ファストトラック”を導入
• 柔軟な報酬制度
(格差を許容する)
3
ローカル・グローバル人材の区分
• ローカルキャリアは一定の管理職層まで
• グローバルキャリアのみが上級管理職・
トップマネジメントへ
48 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
なお、タレントマネジメントは、いきなり上記の
題への対応)と、第3階層の拠点・国を跨ぐ人材活
すべての階層への対応をする必要はなく、従来型の
用を行うリージョンで考えるべき改革(本社からの
日本人マネジメントのみによる経営から、現地法人
単体でできる第1、第2階層の人事改革(足元の課
要請への対応)の2つに分けて考えることができる。
(スライド2参照)
(スライド2)
拠点単位を越えて、ASEAN域内での人材マネジメントを実現する
タレントマネジメントの展開
拠点・国を跨ぐ人材活用
現地法人単体での人事改革
Top Management
Global/
Regional
JP
JP
Middle Management
National
優秀者
National
優秀者
Staff
National
2.足元の課題への対応
National
National
制度への改革に着手する傾向となっている。人事制
これまでの日系企業の人事制度は、ある程度日本
度改革は、
個別の悩みを解決しないと実現しないが、
的人事の考え方を維持していることが多かったが、
足元の課題を克服するために実現したいこととそれ
現在は現地法人の足元の課題に対応すべく、優秀な
に対応する主な悩みを列挙すると以下の通りとな
人材の育成・リテンションに重点を置くような人事
る。
(スライド3参照)
(スライド3)
人事制度改革は、個別の悩みを解決しないと実現しない
実現したいこと
等級
制度
基
幹
人
事
制
度
報酬
制度
評価
制度
■優秀な若手を抜擢したい
主な悩み
年功色の強い
昇格コントロール
ポスト不足
■ 優秀な社員には高い給与を払って
でも採用したい・引き止めたい
柔軟性の低い・格差の付かない
処遇の枠組み
■ 一方で、
普通の社員はそれなりの
水準にコントロールしたい
一様に給与アップしてしまう
昇給テーブル
■ 格差を付ける理由を社員には理解
してもらいたい
曖昧な評価基準による
説明力不足
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 49
これ以降は、主な悩みに対する対応策の具体例を紹介する。
① 若手の抜擢に向けた対応例
1)
年功色の強い昇格コントロール
過度に細分化した職能別年次管理から企業の実情に合わせた(スーパー)ファストトラック制度を導
入する。
若手の抜擢に向けた対応例①
対応前
対応後
過度な細分化による細かい年次管理
部長
クラス
係長
クラス
上級
担当
担当
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
大括り化・仕事ベース
課長
クラス
企業の実情に合わせた(スーパー)ファストトラック
役員
クラス
40歳
部長
クラス
35歳
課長
クラス
30歳
35歳
係長
クラス
27歳
30歳
30歳
担当
22歳
22歳
22歳
幹部候補
優秀人材
通常人材
早期にトップ層へと登る
パスを阻害しない昇格ル
ールを設定
2)
ポスト不足
日本人マネジメントのポストを現地人に移譲したり、既存の現地人マネジメントを新たに創出したポ
ストへ配置することにより、現地の若手社員の登用機会を創出する。
若手の抜擢に向けた対応例②
:日本人
:現地人
日本人マネジメントのポストオフ
現地人マネジメントのポストオフ
コーディネーターへと転換し現地化を推進する
新たに創出したポストへ配置する
新プロジェクト
を立ち上げ
補佐
部長A氏
部長B氏
コーディネーター
A氏
部長A氏
部長A氏
PJXX
安定したら帰任
課長B氏
課長C氏
課長B氏
課長C氏
係長C氏
係長D氏
係長C氏
係長D氏
50 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
PJリーダー
B氏
② 給与制度の再構築例
1)
柔軟性の低い・格差のない処遇の枠組み
細かい昇給管理で格差の生じにくい仕組みからレンジ給とすることで、ある程度の格差が生じる余地
や中途採用への柔軟性を持った昇給管理制度を採用する。
給与制度の再構築例①
対応前
対応後
細かい昇給管理により、優秀人材(群)の
昇給率を高く設定しづらい仕組みである
レンジ給(枠での管理)とし、
優秀者の引き上
げ余地と、中途採用への柔軟性を確保する
部長
クラス
課長
クラス
係長
クラス
上級
担当
担当
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
3級
2級
1級
評価別昇給率
N 年度
号棒
・・・
・・・
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
1級
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
2級
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
A
B
C
D
E
部長
X%
X%
X%
X%
X%
課長
X%
X%
X%
X%
X%
係長
X%
X%
X%
X%
X%
3級
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
部長
課長
係長
※ 号俸表を見直すことで、
毎年のベースアップを実現
2)
一様に給与アップしてしまう昇給テーブル
ある程度の昇給レンジの幅を持たせつつ、全員が幅の広い単一のレンジを使うことがないよう、それ
ぞれの人材評価の区分に応じてレンジ内を複数のゾーンに分けて管理する。
給与制度の再構築例②
報酬水準ターゲットの考え方
昇給テーブルの考え方
通常人材は一定水準に落ち着つかせ、優秀人材
には高い報酬水準を担保する
幅の広いレンジを全員が使うことの無い様に、
レンジ内を複数のゾーンで管理する
ターゲット企業
A
幹部候補人材
トップ水準
75%tile
優秀人材
水準高め
50%tile
通常人材
平均的水準
25%tile
ベンチマーク
幹部
候補
優秀
人材
通常
人材
B
C
D
E
-
-
-
-
-
-
-
-
-
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 51
③ 評価制度の再構築例
曖昧な評価基準による説明不足
以下のような内容を考慮した明確な目標管理・定性評価制度を導入する。
評価制度の再構築例
定性評価を導入
大胆な昇格・処遇格差を設定するには、明確な根拠の下に実施することが重要である
What
目標管理
(定量・定性)
年度・半期に創
出した成果とそ
の達成方法
能力とその発揮
度合い
定性評価
業務上重要な
仕事の仕方
行動特性(コン
ピテンシー) 等
How
評価項目の例
コンプライアンス チームワーク
知識・情報獲得
リーダーシップ
期初に目標を
設定
分析
指導・育成
企画・提案
方針策定
期末にその達
成度を評価
判断・対応
目標設定・展開
調整・交渉
リソース管理
情報発信
進捗管理
検証・改善
他部門との協働
等級・役職・職種
ごとに定義された
評価基準に即して、
その発揮度合いを
期末に評価
3.本社からの要請への対応
最後に、本社からの要請であるグローバル、リージョンを含めたタレントマネジメント、すなわちグロー
バルで最適な人材管理・人事配置をすすめるにはどうすればよいか最近の事例も含め紹介する。
本社からの主な要請の内容とその対応方法は以下の通りである。
(要請)
本社から、各国の人材が見えるようにする
(対応)
要員管理体制の構築
—人材スキルの可視化
機能毎に各事業体の業務量、要員数、人件費の他にスキルレベルも考慮してを可視化するのが最近の
トレンド
可視化されたデータを使い、適材適所に人員を配置して、地域社員の流動化を実現することで域内要
員管理体制を構築する
—KPIを活用した域内要員・人件費管理
社員構成や人件費、生産性等についてグローバルもしくはリージョン等で分析、課題抽出することで
域内の管理を行う
(要請)
域内で人材を異動させ、現地化を推進する優秀な人材を育成できるようにする
(対応)
域内(国際間)異動の実現
—国際間異動展開のステージに応じた対応
国際展開のステージに応じて人事制度設計を行う
52 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
域内(国際間)異動の実現①
国際間異動展開のステージに応じた対応が必要
第1ステージ:
個別対応
第2ステージ:
特定国社員統一対応
第3ステージ:
域内統一対応
■ 異動者の数は限定的
■ 赴任元は一国、赴任先国も
少数(1→N)
■ 特定拠点からの異動者・
赴任国数が増大
(1→N)
■ 赴任先国・赴任元国が多数
化し、
人数も増加
(N→N)
■ その他の国の拠点同士で
少数の異動が発生
(N→N)
■ 異動のニーズも多様化
■ 赴任先・元国の単独視点で
公正さを確保するのが困難
■ 域内全体での業務量増大
■ 各異動者に対して、個別に
報酬・処遇を決定
■ 特定拠点の出向者はバラ
ンスシート方式等で統一
し、
公正さを担保
■ 処遇の差異を、
域内全体で、
合理的な理由で、
統一的に
説明する必要性が増大
■ その他の国の拠点同士の
異動は、個別対応
■ 異動者の国籍ではなく、異
動目的・社員タイプに基づ
く適切かつ公正な処遇制度
を構築
—異動目的の明確な分類
グローバル、リージョンにおいても、異動の目的を分類しておく。
域内(国際間)異動の実現②
異動目的の分類 (業務×育成)
次世代幹部候補者
【育成目的】
個人成長への度合い
将来のリーダー
(経験を積み自己育成を望む人材)
〈モビリティーの考え方〉
• “Expat light”
• 育成重視
幹部候補者
現在及び将来の幹部候補者
〈モビリティーの考え方〉
• “Expat plus”
• 次のステップへの育成
(経験を積む)
• リテンション
海外経験希望者
技術支援・提供者
実績豊富な人材・匠
国際経験の志願者
〈モビリティーの考え方〉
転籍、又は最低限の手当・サポート
〈モビリティーの考え方〉
短期滞在者 or “local plus”
プロジェクト単位
迅速な対応可
【業務目的】
事業への貢献度
—国際間異動を成功させるためのポイント
ASEANの人材は日本人のように社命による異動に従順でないケースが多い。そのため、国際間での
異動を成功させるためには以下の3つのポイントを考慮する必要がある。
・異動者の人選:能力やマインド、家庭環境等を考慮し、異動予定者とのコミュニケーションを十分に
とる。
・異動者の評価:異動元・異動先双方でコミュニケーションをとりながら異動者の目標設定や評価を実
施する。
・キャリア:帰任後に異動者の能力/キャリアニーズを満たす機会を与える。
—モビリティーポリシーの策定
モビリティー・ポリシーは、標準的な内容を規定した主な規程の下に、目的別に内規を設定するよう
にする(個別対応する項目をなるべく減らすようにする)
。
—サクセッションマネジメント
ナショナル人材から、リージョン、グローバルを牽引できる人材を選抜し、企業の方針に基づき計画
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 53
的に人材を活用できる仕組みを構築する。
(要請)
グローバル基準を踏まえた共通人事制度を展開する
(対応)
域内共通人事制度の構築
各国別、拠点別にすべて法令や制度が異なることから、どこまで共通化するかを検討する。
参考までに欧米企業の人事制度の共通化レベルのイメージを示すと以下の通りである。
域内共通人事制度の構築
欧米企業の人事制度の共通化レベルのイメージ
本社とローカルの役割分担を、
階層によって明確化する
グローバル共通、本社が直接運用
グローバル共通、ローカルが運用・
本社がモニタリング
人員計画
・配置
キャリア
パス
育成・
研修
評価・
目標管理
報酬
Top Management
Middle Management
Staff
制度の共通化及び本社コントロールの度合いは各企業によって異なるため、
他社の制度を参考としつつも、
自社に合う制度・仕組みを構築することが必要である。特に、国ごとにステータスの異なるASEANにおい
ては、報酬やベネフィット等をすべて合わせることは不可能であり「枠組み(フレーム)
」をある程度合わ
せることが必要である。
Breakout Session B
(講師:柳澤良文・矢部誠)
【ガバナンス戦略】
東南アジアの地域ガバナンスとデータ活用
〜単一企業統治単位としての東南アジアにおける
ガバナンスの少し先〜
ネスの鍵であり、社内データだけでなく、各国の統
計情報等の公開データと組合わせることにより、各
国の動向に応じた戦略を策定することができる等更
に価値を高めることが可能となる。
その一方でデータ活用が事業部門ごとの取組みと
なっており、個別最適による個別活用になり、現在
もまだ社内データでさえ十分活用できていない企業
1.アナリティクス競争時代の幕開け
が多いのも現実である。特に海外拠点に至っては経
ビジネスインテリジェンス、ビッグデータの時代
営に必要な情報でさえも十分に把握できていない状
を経て、現在は社内外を含むあらゆるデータを統合
況が散見される。東南アジア諸国におけるデジタル
して活用する時代である。またその活用は従来のネ
デバイス普及率等に見られるように海外拠点におい
ット系企業だけでなく、その他の一般企業にも広が
てもデバイス、インフラといったデータ活用の基盤
りを見せている。そのため、現在の企業は如何に創
が整いつつある中、
その取り組みの推進が望まれる。
造的なデータ活用に取組むかが課題であり、その取
組みに成功している企業は新たなビジネスを展開し
2.なぜデータ活用による地域ガバナンスなのか
ている。成功している企業の一例がモンサント社
(米
海外の中でも特に東南アジアにおいては「変化の
国)であり、同社は遺伝子組み換え種子の販売会社
スピード」
、
「多様性」
、
「不確実性」といった経営環
であったが、保有するデータ活用に取り組んだ結果、
境の特徴があり、これらを踏まえたガバナンスが求
現在は作付けデータを提供するサービスといった新
められる。また人材の流動性が高い環境の中、業務
たな価値の提供を実現している。このように、企業
の属人化が経営を危うくしており、データ活用は過
活動では様々なシーンでデータが生成されており、
度に属人化を高めないよう「見える化」を推進する
これらのデータをどう組合わせて活用するかがビジ
有効手段となり得る。
54 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
3つのKey Wordに対応したガバナンス強化が求められています
Key Wordごとのガバナンス強化の方向性
Key Word1:
変化のスピード
リアルタイムでの
経営判断の必要性
■外部情報、内部情報とも
に最新の情報をいかに
迅速にキャッチアップ
するか?
Key Word2:
多様性
Key Word3:
不確実性
全体最適の徹底
見える化の徹底
■業務標準化、IT共通化に
よって経営及び業務の
透明性を高めることで、
多様な経営環境で起こ
りえる事象についての
「予 測 力」を 高 め る こ と
ができる
■地域リスク管理、業務の
見 え る 化 の た め に は、
属人的判断によって作
成された主観的資料で
はなく、システム又は外
部に蓄積されたデータ
をアナリティクスによ
って客観的に分析する
ことで「見える化の度合
い」
を高める
東南アジアの経営環境においてガバナンス強化するためにはデータ活用が有効といえます
3.リスク管理にデータを活用する
社内外に点在するデータを整理し、
「見える化」を進めることで、海外子会社に対する本社のモニタリン
グ機能が強化される。
リスクセンシングで本社のモニタリング機能が強化されます
社内外に点在するデータを整理し「見える化」を進める
財務・会計データ
経費データ
リスクアナリティクス
リスク測定方法
分析手法や閾値
マーケットデータ
取引データ
継続的モニタリング
アラート設定監視
リスクの早期対応
経済指標
人事・
勤怠管理データ
リスク管理の改善
SNS/ブログ/掲示板
営業管理データ
報道
不正履歴
監査指摘
統計情報
競合情報
データを活用することでリスク管理の強化を図る
通報
コールセンタ
メール・通話履歴
「体制」
ことができるが、「技術(システム)
」
、
「体制」
、
「プ
・データ提供に拠点から協力を得られない。
ロセス」といった課題が立ちはだかる。
・モニタリング担当部署が不明確
主な課題の内容は以下の通りである。
「技術(システム)」
・各国で別々のシステムを使っている。
・システム間でデータ定義、質、鮮度が異なる。
・分析のツール、スキルが自社にない。
・統計情報など、国ごとに取得できるデータが異
・経営陣の理解が得られない。
「プロセス」
・業務プロセスやシステムがモニタリングを意図
して設計されていない(情報の不足、データ連
携不可)
。
・既存プロセスからの変化に反発がある。
なる。
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 459 / 2014. 11 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 55
「その他」
・個人情報保護・プライバシーの問題。
・予算がない、投資効果が見え難い。
おける日本企業の「買い手」としての存在感は圧倒
的となっている。
東南アジアにおけるM&Aの特徴としては、案件
・自社に人材がいない。
のサイズが小さい、バリュエーションが高い、販路
このような現状の中でデータ活用を推進するため
やマーケットシェアを獲得する案件が多いなどが挙
には、最初から大々的に実施するのではなくまず小
げられる。買収対象となった業種をみると、金融、
さく始めることを推奨する。目的は東南アジアの各
不動産、建設、食品などの領域で数多くの案件が発
国を横串で見ることであっても、データ活用の切り
生しているが、全体的には多岐にわたる業種におい
口は取り組みを開始して初めて見えてくるものもあ
てM&Aが行われている。
ることから、小さく始めて効果を示しながら拡大す
ることが成功の鍵である。
2.東南アジア進出におけるM&Aの意義
前述のとおり、東南アジアにM&Aを通じて進出
最後に東南アジアにおけるガバナンス確立にあた
っての3つのポイントをあらためてあげておきた
い。
①本社からの「見える化」をデータを活用すること
で、より確実、正確に推進すること
②データ・プロセス整備、文化等による壁は非常に
高いのが現実であり、着実に進められる単位で始
めて着実に成果を上げていくこと
する企業は多数存在しているが、主な目的は以下の
通りである。
1.市場シェアの獲得(販売機能の獲得):
2018年にはASEANのGDPは日本の75%
まで成長すると推測されており、重要な消費市
場を獲得するため
2.製造機能の獲得:
域内における製造機能を獲得するため、労働
③アナリティクス・データ活用の導入にあたっては
コストに優位性のある未開拓市場の獲得や世界
目的に応じた適切な手法を選択して導入すること
的な競争に向けての高付加価値な製造を目指す
「変化のスピード」、「多様性」、「不確実性」を特
徴とする東南アジアにおいて、日本企業が着実な発
展を遂げるためにも、これらを考慮した有効なガバ
ナンスの確立に取組まれることが望まれる。
産業クラスターへの参加
3.調達先の拡大:
域内において高品質な資源、材料、製品が入
手できるようになってきたことに伴い、重要な
調達先を獲得するための進出
Breakout Session C
【事業拡大戦略】 (講師:秋山順・鈴木直人)
上記のような目的を達成するためにM&Aが利用
されているが、M&Aの検討にあたって重要なTask
「東南アジアで「M&A」を実行するということ」 が3つある。
〜M&A戦略の実行に際して直面する困難や課題に
立ち向かう秘訣〜
1.事業・地域ターゲットセグメントの特定:
自社の事業特徴の把握、グローバル展開にお
ける方針確認、域内の市場調査
1.東南アジアのM&Aの動向
2013年の世界の合併・買収( M&A)は金額ベ
ースで前年比6%減の2.4兆ドルと2009年以来の
低水準となった。これは景気後退に見舞われている
欧州において件数が減少したほか、米国市場におい
ても市場の先行き不透明感からM&Aに慎重な姿勢
を見せていたためと考えられる。
2.進出候補国での事業可能性検討:
業界構造・プレイヤー分析、事業環境評価
3.進出戦略の検討:
参入シナリオ構築、ビジネスモデル構築、進
出形態及びスキーム構築
長 期 的 な 事 業 戦 略 に 照 ら し、 何 の た め に
M&A形態を選択して進出するのかを明確にし
一方で、2014年第一四半期の世界のM&Aは前
ないまま案件を実行すると、途中で頓挫又は最
年 同 期 比 で 大 幅 な 増 加 と な り、 年 間 ベ ー ス で は
終的に失敗する可能性が高くなるため、上記よ
2008年以来の高水準となることが期待されてい
うなTaskを各々調査分析し、一環した事業戦
る。割安資産の買収や非中核事業の売却といった現
略を持つことがM&Aを成功させるためには重
在のM&Aの流れから、拡大戦略に基づく変革的な
要である。
案件が増えると予想されている。
東南アジア企業を対象としたM&A件数をみる
3.東南アジアM&Aにおける実行上の論点
と、世界の動向と同様に、2012年以降は減少傾向
M&Aには特に決まったプロセスが存在するわけ
にある。ただし、日本企業による東南アジア企業に
ではないが、一般的には下記に類似したプロセスと
対する資本参加及び買収の件数は、直近5年間でみ
なる。ここでコアとなるのは、
「案件組成」と「案
ると明らかな増加傾向を示しており、東南アジアに
件実行」のフェーズである。
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M&Aのプロセス
戦略策定
案件組成
(オリジネーション)
案件実行
(エグゼキューション)
買収後統合
(PMI)
ンス( DD)を実施することになるが、DDは非常
3.1 案件組成
買収案件組成には、様々なパターンがあり、登場
に重要な手続であり、その目的は①ディールブレー
人物も多数存在する。リーマンショック以降、ター
カー(取引を諦めるほどのリスク)の発見、②買収
ゲットとなる企業の親会社が子会社売却のニーズを
価格の修正、③取引スキームの変更、④契約への反
持ち仲介者に紹介する例も増えている。アプローチ
映等がある。特に東南アジアの企業においては、会
方法は売手及び買手の双方からが存在するが、仲介
計数値を目的(税務用、経営管理用、銀行提出用)
者が入ることで案件の進捗がスムーズに進むことが
ごとに調整している例が多く見受けられるため、
多い。買手にとって重要なのは「待ち」の姿勢では
DDを通じで潜在的なリスクを発見することが重要
なく、
「攻め」の姿勢を持つことである。ここで「攻
である。
め」の姿勢とは、①数値目標及び進出領域を明確化
なお、様々な手続から発見された問題を克服する
する、②進出検討先の複数の外部専門家を活用する、
ことが困難な場合には、取引を実行しないという選
③自社からも積極的にターゲット企業にアプローチ
択肢があることも忘れてはならない。
する等である。従来は「待ち」の姿勢の日本企業が
多かったが、成功に繋がるM&Aのためには上記に
掲げた「攻め」の姿勢の観点を持つ必要がある。
最後に、東南アジアのM&Aに限ることではない
が、特に当該地域では①事前の調査、②発見された
ギャップに対する理解、③経験豊富なアドバイザー
の起用が成功の鍵を握る重要な要素である。今後、
3.2 案件実行
案件実行は案件毎に異なるが、通常は基本合意を
日本企業が東南アジアにおいて活躍するケースはま
することで作業をスタートさせることになる。合意
すます増えてくると思われるため、これまでに述べ
内容の中には案件実行上の重要事項を織り込むこと
た各手続を良きアドバイザーと共に実施し、M&A
や、仮にその後の調査の結果、買収を断念する場合
を成功させるための行動を取ることが望まれる。
に備えて基本合意を停止するための条項を入れてお
くことも重要である。
以 上
基本合意後、対象企業に対しデュー・ディリジェ
この記事に関するお問い合わせ先
有限責任監査法人トーマツ アジアビジネスサポートグループ(ABSG)
e-mail : [email protected]
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