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胸部爆傷に対する救命治療研究
資料7 第5回適確な救命検討会と連接した研究発表 平成28年4月6日(水) 胸部爆傷に対する救命治療研究 齋藤大蔵 防衛医科大学校 防衛医学研究センター外傷研究部門 1 防衛医学研究センター外傷研究部門 ・ 戦傷学研究 爆 傷 多発外傷 広範囲熱傷 化学熱傷 重症感染症 放射線傷害 2 爆 傷 イラクやアフガニスタンでの戦争で、武装勢力の爆弾攻撃を 受けた兵士が爆風の衝撃波だけで、体表面に外傷痕が無く、 体内に特異な損傷を負うケースが多発。 「生き残る戦争」 の現状が背景 ハイテク防護服が従来 以上に兵士の生命を 守る。 3 Lancet 374, Wolf SJ, et al, Blast injuries, 405-415, 2009. より 全世界でテロ攻撃に伴う爆傷者数は、著しく増加傾向にある。 4 5 LISW (laser-induced shock wave:レーザー誘起衝撃波) • 防衛医科大学校において、遺伝子導入などの目的で LISWを用いた研究を行っていた。 • 簡便に衝撃波を作成できる。 • 爆傷研究に転用可能か? 6 胸部爆傷に対する救命治療研究 背 景 近年、海外における爆発損傷(爆傷)が増大し ているが、国際貢献が任務の一つである自衛 隊員を守るために、爆傷に対する救命治療法 等の確立は喫緊の課題である。 目 的 レーザーで誘起された衝撃波を用いて爆傷を 疑似した胸部損傷モデルを使用し、生体損傷 のメカニズムを解明して有効な治療と予防法を 開発する。 7 レーザー誘起衝撃波を用いたマウス爆傷モデル Laser Induced Shock Wave(LISW) レーザー光 レーザー光 ゴム(レーザーターゲット) ポリエチレンテレフタレート のシ-ト プラズマ 衝撃波 肺 剃毛したマウスの背側から左右1回ずつ ルビーレーザーを照射 LISWが衝撃波としてマウス肺を損傷 コンントロール LISWあり 8 LISWダメージ後の生理学的変化 平均血圧 LISW 心拍数 LISW 動脈血中酸素飽和度 LISW 9 生 存 率 1001 衝撃波なし Sham n=5 0.9 90 ノルアドレナリン Survival生存率 Rate (%) 0.8 80 ノルアドレナリン 0.7 70 0.6 60 †† 0.5 50 ** 0.4 40 0.3 30 ドブタミン 0.2 20 00 1時間 100 24時間200 ドブタミン Dobutamine (DOB) n=10 生理食塩水 * 生理食塩水 0.1 10 00 Noradrenaline (NA) n=10 48300 時間 Normal Saline (NS) n=10 400 ** NS vs. NA (p<0.01), * NS vs. DOB (p<0.05) † † NA vs. DOB (p<0.01) カプランマイヤー生存曲線: ログランクテストで検定 10 収縮期血圧 収縮期血圧 (mmHg) 120 # ドブタミン Dobutamine (DOB) n=5 100 80 60 ** 40 # 生理食塩水 Normal Saline (NS) n=5 LISW 20 ** ノルアドレナリン Noradrenaline (NA) n=10 0 0m 投与前 55m 分後 10m 10 分後 # initial BP vs. 5 or 10 min BP in DOB, NS (p<0.05) paired-t test ** NA vs. NS, DOB (p<0.01) Repeated measures ANOVA , Post-hoc test (Tukey-Kramer) Data:mean ± S.E. 11 体血管抵抗 # 体血管抵抗 (dyne*sec*min-5) 1400 1200 ノルアドレナリン 1000 Noradrenaline (NA) n=6 * 800 600 400 200 ドブタミン Dobutamine (DOB) n=6 LISW 0 pre LISW 投与前 1 min 1 after LISW 分後 # initial SVR vs. 1 min SVR in NA (p<0.05) paired-t test * NA vs. DOB (p<0.05) Repeated measures ANOVA , Post-hoc test (Tukey-Kramer) Data:mean ± S.E. 12 本研究のまとめ 1.本邦では実爆による動物実験は倫理的に許されない ので、レーザー誘起衝撃波を用いた小動物胸部爆傷 モデルを確立して、爆発損傷に対する救命治療研究を 実施した。 2.超急性期における死因は迷走神経反射による著しい 血圧低下であり、ノルアドレナリン投与は末梢血管 収縮能を改善させて、救命率の上昇に寄与した。 3.重症爆傷の超急性期において、ノルアドレナリンの 迅速投与は有用な治療法となりうることが示唆された。 13 爆発の衝撃波による軽度脳損傷 米軍のイラク帰還兵に対する調査から、外見は異常 がないにも関わらず、脳に何らかの異常をきたし、 記憶障害や注意力の低下など軽度外傷性脳損傷 (Mild Traumatic Brain Injury : Mild TBI)を発症する ことが問題視されている。 N Engl J Med 358:453-463, 2008. N Engl J Med 364:2091-2100, 2011. 14 衝撃波による胸部外傷が脳機能に与える影響 記憶中枢である海馬において、神経系の 機能に関連する遺伝子の発現変動 Ecrg4 Clic6 Enpp2 Igf2 Klf2 cDNA microarray scatter plot 100,000 10,000 Sham 頭部への直接的な衝撃がなく、 一過性に除脈、低血圧、低酸素血症を 示す胸部爆傷モデル 1,000 100 10 1 0.1 0.1 1 10 1001,000 10,000 100,000 Blast injury 老化の促進、細胞周期調節 脳機能傷害 シナプス形成 アポトーシス誘導、軸策変性の制御 神経伝達物質の輸送 胸部への衝撃波が、記憶、認知機能など脳における 種々の現象に影響する可能性がある。 15 防衛医科大学校のLISW爆傷研究学術成果 【頭部】 S, Kawauchi S, Okuda W, Nishidate I, Nawashiro H, Tsumatori G. PLoS ONE 9, ・Sato e82891, 2014. LISW曝露ラット頭部のリアルタイム光診断 【胸部】 Y, Sato S, Saitoh D, Tokuno S, Hatano B, Shimokawaji T, Kobayashi H, ・Satoh Takishima K. Lasers Surg Med 42, 313-318, 2010. LISWを用いたマウス胸部爆傷モデル Miyazaki H, Miyawaki H, Satoh Y, Saiki T, Kawauchi S, Sato S, Saitoh D. Acta Neurochir 157, 2111-2120, 2015. 胸部衝撃波損傷マウスが行動学的異常をきたす Miyawaki H, Saitoh D, Hagisawa K, Noguchi M, Sato S, Kinoshita M, Miyazaki H, Satoh Y, Harada N, Sakamoto T. Intensive Care Med Exp 3, 32, 10.1186/s40635-015-0069-7, 2015. ノルアドレナリンがLISWにより爆傷肺をきたしたマウスを救命する ・ ・ K, Kinoshita M, Miyawaki H, Sato S, Miyazaki H, Takeoka S, Suzuki H, ・Hagisawa Iwaya K, Seki S, Shono S, Saitoh D, Nishida Y, Handa. Crit Care Med, in press. フィブリノーゲンγ鎖ペプチドコートADPカプセル化リポソーム(人工血小板)が致死的 爆傷肺マウスを救命する 【内耳】 T, Matsunobu T, Niwa K, Tamura A, Kawauchi S, Satoh Y, Sato A, Shiotani A. ・Kurioka J Biomed Opt 19, 125001, 2014. LISW適用ラット内耳傷害の特性 16 レーザーを用いた基礎研究の限界 - 圧力波と作用時間の相違 LISWの時間波形 1.3 J/cm2の照射フルエンスに おける衝撃波形の平均(n=4) 実際の爆発の時間波形 0.57 kgのプラスチック爆弾の爆発の 爆心地から10 mの測定値。 (Albert DG, Noise control engineering. 2002より引用) 17 - 装置概要図 - 圧力 基礎研究の発展のために 高圧発生部 時間 分電盤 爆風圧発生部 2.5m 被検体 断面50cm×50cm以下 観察窓 直径40cm 表示装置 測定部本体 断面1m×1m 衝撃波管 低圧部長さ約8m 制御部 蓄圧操作用 バルブ制御 12m 圧力センサ 測定部 計測部 シュリーレン装置 高速度カメラ 18 平成27年度防衛医学先端研究(戦傷病・外傷分野) 爆傷・衝撃波損傷研究の概要 グループ代表:防衛医科大学校防衛医学研究センター外傷研究部門 3. レーザー誘起衝撃波(LISW)を用 いた爆風による頭部外傷の予防・診断・ 治療技術の開発 1. 爆発損傷の予防と救命治療に関す る研究 防衛医学研究センター外傷研究部門 病院救急部、分子生体制御学講座 免疫・微生物学講座、薬理学講座 空自航空医学実験隊 防衛医学研究センター情報システム研究部門 生理学講座、防衛医学講座 陸自部隊医学実験隊 期待される 具体的成果 ◈ 爆傷損傷の即時救命システムの開発 ◈ 爆傷の予防・診断・治療法の提言 ◈ 新たな防護服・ヘルメット品質検証支援 ◈ 音響外傷予防策の提言、難聴発症メカニズムの解明 2. 爆傷モデル動物の脳損傷にお ける動物種差の組織学的評価 解剖学講座 4. 爆傷による頭頸部外傷発症メカニ ズムの解明と治療法の研究 耳鼻咽喉科学講座 分子生体制御学講座 19 米軍における有事の処置・治療および後送体制 救命処置の実施 局所止血 気道確保、胸腔穿刺、骨髄輸液など CATによる止血 交戦下 の救護 ホット ゾーン 戦術的 野戦救護 外科的気道確保、気管挿管、 輸液、胸腔ドレナージなど ダメージコントロール手術 戦術的 後送救護 ウオームゾーン コールドゾーン 防衛省「自衛隊の第一線救護における適確な救命について. 資料4」より引用・改変 20 米軍における戦闘傷病者の処置概要 CAT 交戦下の救護 ノルアドレナリン 即時注射 戦術的野戦救護 戦術的後送救護 防衛省「自衛隊の第一線救護における適確な救命について. 資料4」より引用・改変 21 今後の展望 科学的根拠を確立するために、小動物 (マウス、ラット)を中動物(ミニブタ、ブタ)に変えて 基礎研究を発展させる。 国際貢献が任務の一つである自衛隊員を守る ために、爆発損傷に対する救命効果の高い薬剤 を即座に使用できる救命システムを確立する。 具体的には、重度の爆傷受傷時におけるノルアド レナリンの自己および相互皮下注射システムを 確立し、さらには軽度脳損傷を予防するために 動物(生体)を用いてハイテク防御服・ヘルメットの 開発過程における効果検証を目指す。 22