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2 - DSpace at Waseda University
幹細胞の肝細胞誘導に伴う分子制御の包括的 データプロセッシング Transcriptome Approaches Reveal Characteristics of Hepatic Differentiation of Stem Cells 2008 年 2 月 早稲田大学大学院理工学研究科 生命理工学専攻 分子生理学研究 山本 雄介 目次 目次 略号一覧 図表一覧 第一章 研究の目的と意義 1-1 肝臓の発生とその構造 1-2 幹細胞からの肝細胞分化の現状 1-3 これまでの実験背景 1-4 本研究の目的 1 7 12 18 第二章 マウス胚性幹細胞およびヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化過 程における遺伝子発現解析 2-1 序論 20 2-2 材料と方法 22 2-2-1 マウス ES 細胞からの in vitro による肝細胞誘導 2-2-2 ヒト間葉系幹細胞からの in vitro による肝細胞誘導 2-2-3 トータル RNA の抽出 2-2-4 マイクロアレイ解析 (マウス ES 細胞) 2-2-5 マイクロアレイ解析のデータプロセッシング (マウス ES 細胞) 2-2-6 マイクロアレイ解析 (ヒト間葉系幹細胞) 2-2-7 マイクロアレイ解析のデータプロセッシング (ヒト間葉系幹細胞) 2-3 実験結果 28 2-3-1 ES 細胞由来肝細胞の分化とマイクロアレイ解析 2-3-2 ES 細胞由来肝細胞のクラスターリング解析 2-3-3 ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞の分化とマイクロアレイ解析 2-3-4 間葉系幹細胞由来肝細胞のクラスターリング解析 2-4 考察 40 目次 第三章 2種類の幹細胞からの肝細胞誘導過程で発現する遺伝子の分類分け 3-1 序論 42 3-2 材料と方法 44 3-2-1 ジーンオントロジー解析 3-2-2 RNA サンプルの調製とハイブリダイゼーション(ConPatn) 3-2-3 シグナルパスウェイの作製(ConPath) 3-3 実験結果 46 3-3-1 マウス ES 細胞由来肝細胞のジーンオントロジー解析 3-3-2 ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞のジーンオントロジー解析 3-3-3 間葉系幹細胞由来肝細胞のシグナルパスウェイ解析 3-4 考察 64 第四章 マウス胚性幹細胞から肝細胞分化過程における分子メカニズム の解明 4-1 序論 67 4-2 材料と方法 69 4-2-1 トータル RNA の抽出 4-2-2 RT-PCR 法 4-2-3 HNF3beta-siRNA の ES 細胞への導入 4-2-4 リアルタイム RT-PCR 4-3 実験結果 73 4-3-1 マウス ES 細胞からの肝細胞分化過程における肝臓特異的な 転写因子の発現パターン 4-3-2 HNF3beta は ES 細胞からの肝細胞分化に必須である 4-3-3 肝幹細胞において発現する遺伝子の解析 4-4 考察 81 目次 第五章 ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化過程における分子メカニズ ムの解明 5-1 序論 84 5-2 材料と方法 87 5-2-1 EMT 関連遺伝子の発現量の検討 5-3 実験結果 88 5-3-1 肝細胞分化過程における間葉上皮転換の確認 5-4 考察 90 第六章 本研究の総括および今後の課題 92 謝辞 99 参考文献 100 研究業績 目次 略号一覧 胚性幹細胞(ES 細胞) (embryonic stem cell: ES cell) 肝細胞増殖子 (hepatocyte growtn factor: HGF) 繊維芽細胞増殖因子 (fibroblast growth factor: FGF) オンコスタチンM (oncostatin M: OsM) デキサメタゾン (dexamethasone: Dex) 白血病阻害因子 (leukemia inhibitory factor: LIF) レチノイン酸 (retinoic acid : RA) 骨形成タンパク質 (bone morphogenic protein: BMP) グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミラーゼ (glutamate oxaloacetate transaminase: GOT) グルタミン酸ピルビン酸トランスアミラーゼ (glutamate pryruvate transaminase: GPT) 緑色蛍光タンパク質 肝細胞誘導因子カクテル (green fluorescent protein: GFP) (hepatic induction factor cocktail: HIFC) 肝細胞核内因子 (hepatocyte nuclear factor: HNF) 上皮増殖因子 (epidermal growth factor: EGF) 過ヨウ素酸シッフ染色 (P Periodic acid Schiff stain: PAS) GATA 結合因子 (GATA binding protein: GATA) CCAAT エンハンサー結合蛋白質 (ccaat/enhancer binding protein : C/EBP) アルブミン (albumin: ALB) アルファフェトプロテイン (alpha fetoprotein: AFP) tryptophan-2,3 dioxigenase (TDO2) トランスサイレチン (transthyretin: TTR) グルコースフォスファターゼ (Glicose-6-phosphatase: G6P) チトクローム P450 (cytochrome P450: CYP) ABCトランスポーター (ATP-binding casette: ABC) マルチドラッグレジスタンス (multi-drug resistance: MDR) ジーンオントロジー (gene ontology: GO) siRNA (small interference RNA) サイトケラチン (cytokeratin: CK) ganmma-glutamyl transpeptidase (GGT) Delta-like (Dlk) 目次 上皮間葉転換 (epithelial to mesenchymal transition: EMT) 間葉上皮転換 (mesenchymal to epitheial transition: MET) 内蔵内胚葉 (visceral endoderm: VE) septum transversum mesenchyme (STM) polymerase chain reaction ( PCR) 牛胎仔血清 (fetal bovine serum: FBS) リン酸緩衝生理食塩水 (phosphate buffered saline: PBS) 目次 図表一覧 第一章 図 1-1 マウス肝臓の発生段階における遺伝子発現と細胞分化の移り変わり 図 1-2 肝臓を構成する細胞とその構造 表1マウス ES 細胞からの肝細胞分化とその手法 表 2 様々な組織由来の間葉系幹細胞からの肝細胞分化とその手法 図 1-3 単層培養によるマウス ES 細胞の肝細胞分化誘導方法 図 1-4 肝細胞分化誘導過程における遺伝子発現の変化 図 1-5 ES 細胞由来肝細胞における CYP7A1 の発現 図 1-6 脂肪組織由来間葉系幹細胞からの肝細胞分化誘導手法 第二章 図 2-1 アルブミンプロモーターGFP のコンストラクトの略図 図 2-2 ES 細胞由来肝細胞の特性 表 3 マウス ES 細胞由来肝細胞で発現が上昇する遺伝子(上位 30) 表 4 マウス ES 細胞由来肝細胞で発現が減少する遺伝子(上位 30) 図 2-3 RT-PCR 法によるマイクロアレイ実験の精度の確認 図 2-4 ES 細胞由来肝細胞の教師無し階層的クラスターリング解析 図 2-5 間葉系幹細胞由来肝細胞の形態 図 2-6 リアルタイム PCR 法によりマイクロアレイ解析の確認 図 2-7 間葉系幹細胞由来肝細胞の教師なし階層的クラスターリング解析 目次 第三章 表 5 ES 細胞由来肝細胞で有意に出現した遺伝子カテゴリー 表 6 間葉系細胞由来肝細胞で有意に出現した遺伝子カテゴリー 図 3-1 マイクロアレイ解析による肝細胞特異的遺伝子の発現変化 表 7 間葉系幹細胞由来肝細胞で発現変化の起きた肝機能関連因子 表 8 パスウェイ解析により抽出された肝臓関連の遺伝子シグナル 図 3-2 GenMAPP による血液凝固のパスウェイ 図 3-3 GenMAPP による補体の活性のパスウェイ 図 3-4 GenMAPP によるステロイド生合成のパスウェイ 第四章 表 9 RT-PCR プライマーの配列の反応条件 表 10 リアルタイム RT-PCR プライマーの配列の反応条件 図 4-1 内胚葉・肝細胞分化に関連した転写因子の発現解析 図 4-2 蛍光ラベルした siRNA による ES 細胞への導入効率の検討 図 4-3 HNF3beta 遺伝子に対する siRNA の配列 図 4-4 HNF3beta siRNA の HNF3beta 遺伝子の抑制効率の検討 図4-5 HNF3beta siRNAによる肝細胞分化の抑制の検討 図 4-6 HNF3beta 抑制状態での肝細胞特異的遺伝子の発現抑制 図 4-7 肝芽において発現する遺伝子の肝細胞分化過程での発現検討 目次 第五章 図 5-1 上皮間葉転換(EMT)と EMT 調節因子の関連 表 11 肝細胞分化過程での EMT 関連因子の発現 図 5-2 肝細胞分化過程における細胞形態の変化 第六章 図 6 本実験のまとめ 第一章 第一章 研究の目的と意義 1-1 肝臓の発生とその構造 マウスにおける肝臓の発生の起源は胎生 8 日(E8)に心臓中胚葉から 分泌される FGF や BMP などの増殖因子の刺激を受けることで腹部内胚 葉において GATA や HNF などの転写因子の発現が上昇し、E8.5-9.5 に 肝芽へと発生が進む。特に FGF は心臓中胚葉より分泌し、肝臓選択的 な遺伝子の発現に寄与することが明らかになっている。つまり FGF は 腹部内胚葉中において肝臓を誘導するのに必須な因子である。 肝細胞 誘導の時期に心臓中胚葉は少なくとも 3 種類の FGF を産生し、その受 容体は腹部内胚葉において 2 種類発現していることが確認されている。 FGF や心臓中胚葉からのシグナルは 肝細胞への分化を促進することで 同じ内胚葉の細胞である膵臓への分化を抑制する働きがある。つまり、 心筋からの FGF シグナルから離れた腹部内胚葉の末端部分が膵臓細胞 へと分化し、そのシグナルに近い部分が肝細胞への分化が促進されるこ とが知られている。 肝細胞誘導前に将来的に septum transversum mesenchyme(STM)細胞 になる細胞は発達中の腹部内胚葉の近くの心筋付近に出現してくる。 STM 細胞は側板中胚葉由来の細胞であり、さらに心臓の心外膜の前駆 -1- 第一章 体細胞としてだけでなく、多種の胚発生を誘導するシグナルを産生する 場所として非常に重要な細胞である。ニワトリの研究により STM 細胞 が肝発生を促進し、肝臓内胚葉の分化を誘導することが明らかになって いる。septum transversum は胚中の空洞で間質細胞が弱い結合をしてお り、コラーゲンが多く含まれている場所である。STM 細胞は肝臓内の サテライト細胞などのストローマ細胞を産生していると考えられている。 しかし、その他の細胞への影響は明らかになってはいない。マウスの研 究からも、STM 細胞と肝臓内胚葉は初期の肝芽の成長に様々な発生の 段階で影響を与えることもわかってきている。 脊椎動物は種間で妊娠の期間が異なるにもかかわらず、肝発生におけ る初期の現象は極めて正確に制御されている。最終的な内胚葉の形成は 原腸胚陥入に間に起きる。初めに単層の上皮様のシートが発生中に胚下 部の表面を包み込み、それが内蔵内胚葉から派生した最終的な内胚葉に なる。内蔵内胚葉は多くの血清タンパク質や初期胚発生に必要な因子を 産生している。その後、この細胞集団の役割は肝臓が代替していく。内 蔵内胚葉は胚腹部の表面に沿って最終的な内胚葉へと移行していく。そ の後陥入が始まり、胚の前部・後部へと移行していき、前腸と後腸が形 成される。さらに、腸管の閉鎖の前に、前腸の腹部の部分は肝臓・肺・ 胸 腺・膵臓の原基へと分化していく。マウス胚においてはこの過程は非常 に早く2日程度で、最終内胚葉から臓器の元になる部分のパターンが完 成する。この期間に内胚葉自体の実質的な形態の形成が起こる。 内胚葉の肝臓への分化が確定された部分は中腸へ伸びていく。この時 期に細胞の形態は円柱状になる。この形態の変化は増殖因子のシグナル -2- 第一章 によって内胚葉の細胞が肝細胞へと運命付けされてことを示している。 STM 細胞や初期の内皮細胞、BMP、HGF などのシグナル分子、Hex、 Prox1、Hlx などの転写因子は肝芽の形成を促進するために必須の因子と して知られている。肝芽形成は肝臓の周りの細胞外マトリックスの再形 成や内臓の憩室の形成・E-カドヘリンを元にした細胞間の接着・STM へ周りでの増殖と移動によって誘導される。よって、この時期に肝臓内 胚葉は上皮組織から非極性の細胞へと移行する。初期内皮細胞や血管芽 細胞がこの時期のヘパトブラストに出現し、STM へと伸長していき、 内皮細胞は血管と結合する。それにより、血液細胞が増殖期の肝臓へと 侵入してき、肝臓は胎生期において造血の器官となる。さらに造血細胞 から分泌される OsM などのサイトカインによって、肝細胞の成熟化が 進み肝臓が形成されていく(Zaret, 1996; Zhao and Duncan, 2005)。 これまでの遺伝子発現の研究から、マウスではE13.5以前に胆管上皮 細胞への分化能をもつ肝芽の細胞が誘導されてくることが明らかになっ ている。成熟した肝臓において肝細胞は胆汁を細胞の表面に隣接する小 さな管であるcanaliculiへと分泌する。Canaliculiは胆管上皮細胞で形成 された管につながっており、そしてその管は胆汁を胆嚢へと運搬する。 近年の研究成果より、肝細胞選択的に発現する転写因子であるHNF6と HNF1betaの発現が胆管の分化に影響することが明らかになっている。 それにより、肝芽の細胞内で発現する転写因子の違いによって肝細胞と 胆管上皮細胞の両方の細胞が肝芽から派生することが知られている。 さらにマウスにおいてE17以降、造血細胞の骨髄への移行が完成し肝 細胞が成熟化していく段階で、肝細胞は造血細胞をサポートする細胞か -3- 第一章 ら血清タンパク質の産生や多くの多謝機能を担う細胞へと変化していく。 さらに転写因子であるC/EBPの制御下で発現が誘導される遺伝子を発現 し始めるようになる。肝細胞の形態は上皮組織(肝細胞内胚葉)から非 極性細胞(肝芽)へと変化していく。この形態変化においては、 オー ファンレセプターとして肝細胞の核内で同定された転写因子HNF4の発 現が重要であることがわかっている。HNF4の肝細胞における欠損は ア ポリポタンパク質、血清因子・代謝酵素の産生量を下げる。ここに示し たように肝細胞が内胚葉から分化し、成熟化して行く過程での転写因子 の発現や増殖因子・サイトカインの役割は広く研究が進んでいる (Zaret, 2002)(図1-1) 。 成熟した肝臓は肝細胞、類洞内皮細胞、胆管上皮細胞、サテライト細 胞、クッパー細胞などの様々な細胞によって構成される臓器で、肝細胞 の含有率は約 60%程度で肝臓の約 78%の容量を占めている。肝細胞以 外の細胞は非肝実質細胞として様々な役割を担っている。それらの細胞 が複雑かつ規則的に配置されており肝小葉と呼ばれる構造を形成してい る(図 1-2)。また、栄養素の処理、貯蔵、解毒、分解、排出などの数百 にも及ぶ生理的な機能を有しており、生体に必須の臓器である。 -4- 第一章 図 1-1 マウス肝臓の発生段階における遺伝子発現と細胞分化の移り変わり -5- 第一章 図 1-2 肝臓を構成する細胞とその構造 Molecular Biology of the Cell second edition P961 より引用 -6- 第一章 1-2 幹細胞からの肝細胞分化の現状 近年、幹細胞の可塑性やそれらの細胞から派生した細胞を用いた再生 医療に関する研究の進歩は目覚ましく、胚性幹細胞(ES 細胞)や成体 臓器中に存在する組織幹細胞から多くの細胞種を分化誘導する技術が確 立しつつある。皮膚や軟骨などの細胞においては細胞レベルでの再生で なく、すでに組織レベルの再生がなされ、臨床応用が始まっている。再 生医療の場において、今後は構造が複雑な臓器に関しても臨床への導入 が期待される。我々が注目している肝細胞に関しても、ES 細胞や間葉 系幹細胞などを材料にした分化誘導が、多くの研究室から報告されてい る。 マウス ES 細胞からの肝細胞分化における最初の報告は 2001 年に Hamazaki et al.が ES 細胞から胚葉体を形成させて後、初期に FGF、中 期に HGF、後期に OsM と DEX を添加することで、肝細胞様の特性を 示す細胞を分化誘導したものである(Hamazaki et al., 2001)。その後、 多くの研究グループがマウス ES 細胞からの肝細胞分化を報告している (Chinzei et al., 2002; Choi et al., 2002; Fair et al., 2003; Hu et al., 2003; Ishizaka et al., 2002; Jones et al., 2002; Kanda et al., 2003; Kuai et al., 2003; Miyashita et al., 2002; Soto-Gutierrez et al., 2006; Soto-Gutierrez et al., 2007; Teratani et al., 2005; Yamada et al., 2002; Yamamoto et al., 2003; Yamamoto et al., 2005; Yin et al., 2002)(表 1)。例えば、SatoGutierrez et al.はマウス ES 細胞と非肝実質細胞の細胞株の共培養下で アクチビン A、FGF2、欠損型 HGF、DEX の添加によりグルコース産生 -7- 第一章 能やアンモニアの解毒能を有する肝細胞を分化誘導することに成功して いる(Soto-Gutierrez et al., 2007)。さらにヒト ES 細胞の分化誘導に関し ても、いくつかの研究グループがその手法を開発しており、2007 年に Cai et al. はアクチビン A 処理後に FGF4、BMP-2、HGF 処理を行い、 最後に OsM と DEX で肝細胞の成熟化を促すことで、多くの肝機能を持 つヒト ES 細胞由来肝細胞を得ることに成功している(Cai et al., 2007)。 この方法で得られた肝細胞は薬剤代謝に関わるチトクローム P450 遺伝 子の活性が確認できたことから、代替ヒト肝細胞としても有益ではない かと期待できる。 表1マウス ES 細胞からの肝細胞分化とその手法 -8- 第一章 一方、生体における幹細胞からも機能的な肝細胞を得られるといった 報告が近年数多くされてきている。代表的な幹細胞としては骨髄に含ま れる造血幹細胞と骨髄や脂肪組織、または臍帯血や羊水や胎盤などに含 まれることが知られている間質の幹細胞である間葉系幹細胞が挙げられ る(Bieback et al., 2004; In 't Anker et al., 2004; Zuk et al., 2002; Zuk et al., 2001)。造血幹細胞からの肝細胞分化も ES 細胞の手法同様に適切なサ イトカインや増殖因子の添加および障害肝の肝再生能力を利用したもの が報告されているが、それらのいくつかはレシピエント側の肝細胞とド ナー側の造血幹細胞の細胞融合によって分化していると結論づけている (Vassilopoulos et al., 2003; Wang et al., 2003b)。しかし、in vitro による 培養のみで分化誘導を行い、それを否定する報告もされており、造血幹 細胞からの肝細胞分化については細胞融合の必要性があるのか未だ議論 の余地がある(Jang et al., 2004; Wang et al., 2003a)。 間葉系幹細胞は SH3、CD29、CD44、CD71、CD90、CD105、CD106、 CD120a、CD124 などの細胞膜抗原が陽性の細胞集団で、培養ディッシ ュへの接着性がある細胞である。多くの生体組織中に含まれており、そ の組織によって細胞膜抗原や分泌タンパク質が異なることが報告されて いる(Pittenger et al., 1999; Wagner et al., 2005)。骨髄・脂肪組織・臍帯 血・羊水・胎盤から得られた間葉系幹細胞についてはいくつかのグルー プが肝細胞様の細胞が分化可能であることを報告している(Banas et al., 2007a; Banas et al., 2007b; Hong et al., 2005; Kang et al., 2006; Kang et al., 2005; Kashofer et al., 2006; Lange et al., 2006; Lee et al., 2004; Miura et al., 2003; Ong et al., 2006; Oyagi et al., 2006; Sato et al., 2005; Seo et -9- 第一章 al., 2005; Sharma et al., 2005; Talens-Visconti et al., 2006; Tang et al., 2006; Turrini et al., 2005; Wang et al., 2005; Zhao et al., 2005; Yamamoto et al., 2008)(表2) 。Lee et al.は骨髄から得られた間葉系幹細胞に EGF、 FGF2、HGF、DEX、ニコチンアミドを添加することで形態的にも肝細 胞に類似し、尿素の合成や薬物代謝能を持つ細胞を得ることに成功して いる(Lee et al., 2004)。マウスやラットなどの間葉系幹細胞からも同様 な肝細胞分化の報告が数多くされており、この間葉系幹細胞の肝細胞分 化を可能にする多分化能は生物種を超えて保存されている能力であると 言える。 - 10 - 第一章 表 2 様々な組織由来の間葉系幹細胞からの肝細胞分化とその手法 - 11 - 第一章 1-3 これまでの実験背景 実験を行うにあたり使用したマウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞から の肝細胞分化誘導誘導の方法についてまず簡単に論述する。筆者が出向 し研究を行っている国立がんセンター研究所がん転移研究室においては 2003 年にマウス ES 細胞からの肝細胞誘導のシステムを確立している (Teratani et al., 2005)。さらにその手法を改変することでヒトの間葉系 幹細胞からも肝細胞分化が可能になっている(Banas et al., 2007a)。 マウス ES 細胞の分化誘導は in vivo のマウスの肝再生状態を用いて ES 細胞からの肝細胞誘導を行っている。まず四塩化炭素処理を施したマウ スに尾静脈から 1 106 個のマウス ES 細胞の移植を行い、その細胞が 四塩化炭素によって障害を与えられた肝臓にのみ定着し増殖することが 確認された(Yamamoto et al., 2003)。四塩化炭素処理による肝障害の誘 導は肝切除モデルと同様に肝再生状態を調べるために広く使用されてい る。その歴史は深く、詳細は定かではないが、おそらく 1946 年にサイ エ ン ス 誌 に 掲 載 さ れ た の が 最 初 の 例 で あ る と 考 え ら れ る (Drill and Loomis, 1946)。この方法を用いることで肝細胞内に活性酸素種が蓄積し、 細胞がネクローシスをおこし、肝臓で全体的に肝細胞の死滅が起きる。 この処理によって肝障害時に肝臓から溶出してくるグルタミン酸オキサ ロ酢酸トランスアミラーゼ(GOT)やグルタミン酸ピルビン酸トランスア ミラーゼ(GPT)の量によってその障害の度合いを測ることが可能である (Piccinino et al., 1975)。ES 細胞が接着した障害肝において、増殖した ES 細胞が形成した奇形腫を確認すると肝臓特異的に発現する遺伝子の - 12 - 第一章 アルブミンを発現する細胞が誘導されてきていることが確認された。こ のことより、障害肝と正常肝では何らかの遺伝子の発現が異なり、それ によって、マウス ES 細胞はアルブミンを産生する細胞:肝細胞へと分 化したと考えられた。肝細胞誘導に必要な遺伝子を同定するために障害 肝と正常マウス肝臓をアフィメトリックス社のオリゴ DNA マイクロア レイにかけ、それらの間での遺伝子の発現パターンの差について検討し た。ここでは細胞増殖因子に注目して発現の差を確認すると HGF や FGF、 NGF などの多くの因子の発現量は障害肝で高く誘導されていることが 確認された(Teratani et al., 2005)。 次に障害肝で発現が上昇している因子を in vitro で ES 細胞に添加し、 その効果を検討することにした。ここのでは肝臓特異的に発現する遺伝 子であるアルブミンのプロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein: GFP)を連結したコンストラクトを組み込んだマウス ES 細胞を使用して肝細胞への分化の割合を検討した。その結果、HGF、 FGF1、FGF4 の組み合わせ(Hepatic Induction Factor Cocktail: HIFC)が 最も高効率に肝細胞誘導を起こすことを見出した。さらにレチノイン酸 での前処理を行い、ES 細胞を肝臓の前段階である内胚葉系の細胞系譜 へと誘導し、また ES 細胞から得られた肝細胞を成熟化させるために OsM を加えることによりマウス ES 細胞からの肝細胞の分化誘導方法を確立 し、報告している。この手法を使用することによって 10 日間という短 い期間で約 30%のマウス ES 細胞を GFP 陽性細胞、つまり肝細胞へと 分化させることが可能である(図 1-3)。この手法を用いて得られた ES 細胞由来肝細胞は 10 日間の分化誘導期間に未分化な肝細胞で発現する - 13 - 第一章 alpha-fetoprotein の発現が分化誘導の 1 日目から 6 日目の間で検出され、 典型的な肝臓特異的な遺伝子であるアルブミンの発現は 5 日目以降に誘 導されており、さらに成熟した肝細胞で発現する遺伝子 TDO2 は分化終 了前の 8 日以降に発現が検出された (図 1-4)。これらの遺伝子の発現の 移り変わりは肝臓発生時における一部の遺伝子の発現形式を完全に模倣 していることがわかっている。さらに近年の研究において肝細胞に極め て特異的な遺伝子として CYP7A1 が同定された(Asahina et al., 2004)。 ES 細胞由来肝細胞においてもこの遺伝子の発現は確認されており、こ の手法を用いることで確かに肝細胞を誘導することが示されている(図 1-5)。 図 1-3 単層培養によるマウス ES 細胞の肝細胞分化誘導方法 レチノイン酸による処理を 3 日、HGF、FGF1、FGF4 の組み合わせ(HIFC)による処理を 5 日、 OsM 処理を 2 日行うことで約 30%のマウス ES 細胞は肝細胞へと分化する。STEP1と2で はゼラチンコートされたディッシュを、STEP3においてはコラーゲンコートしたディッシュ を使用する。 - 14 - 第一章 図 1-4 肝細胞分化誘導過程における遺伝子発現の変化 上段は RT-PCR 法を用いた ALB、AFP、TDO2 の遺伝子の発現を示す。左側は肝細 胞分化誘導処理のサンプル・右側は肝細胞分化誘導未処理のサンプル。下段はグラフ は RT-PCR のバンドの濃さを算出し、模式的にその発現の移り変わりを表した。 - 15 - 第一章 図 1-5 ES 細胞由来肝細胞における CYP7A1 の発現 レーン 1:未分化 ES 細胞、レーン 2:ES 細胞由来肝細胞、レーン 3:分化誘導未処 理のサンプル、レーン 4:陰性コントロール(蒸留水)、レーン 5:マウス正常肝臓 ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化についてもマウスの知見より得ら れた HGF、FGF1、FGF4(HIFC)の組み合わせの濃度を変え、さらに誘 導の期間を変えることによって肝細胞の分化誘導方法を確立している (図 1-6) 。使用する間葉系幹細胞はヒトの脂肪組織より得られたものを 使用している。その細胞はドナーの年齢等によって細胞膜表面に発現す る抗原の割合が異なっており、特に CD105(endoglin)の発現する割合は 細胞の継代数やドナーの年齢が高くなるにつれて下がることが観察され たことから、CD105 が間葉系幹細胞の多分化能を保持するために必要 な遺伝子ではないかと考え、CD105 陽性細胞を磁気ビーズ法によって 選択しその CD105 陽性の間葉系幹細胞を使用して分化誘導を行った (Banas et al., 2007a; Roura et al., 2006)。その結果、CD105 で選択して いない場合と比較して均一な細胞画分になり、誘導効率も上昇すること が明らかになっている。CD105 陽性の間葉系幹細胞を 3 週間 HIFC で処 理し、その後 2 週間、OsM と DEX で処理を施すことで、ほぼ 100%の 細胞がアルブミンを発現する肝細胞様の細胞へと分化が起きた。 - 16 - 第一章 本研究では、このマウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞の異なった 2 種 類の細胞を用いた肝細胞分化誘導のシステムについて、得られた肝細胞 の特性ならびに分化過程に起きる遺伝子変化・分化機序の検討を行った。 図 1-6 脂肪組織由来間葉系幹細胞からの肝細胞分化誘導手法 CD105 陽性画分の間葉系幹細胞に 3 週間の増殖因子処理を、2 週間の OsM・DEX 処 理をすることでほぼ 100%の細胞が肝細胞様の細胞へと分化する。 - 17 - 第一章 1-4本研究の目的 本研究ではマウス ES 細胞から得られた肝細胞とヒト間葉系幹細胞か ら得られた肝細胞の特性をマイクロアレイ法を用いて明らかにする。多 くの研究グループが幹細胞から肝細胞の分化誘導を報告しているが、肝 細胞への分化の証明としては代表的な肝機能を選択して確認しているに すぎない。肝臓は生体内の維持に関わる機能だけではなく薬物や毒物を 処理するという外的要因に対する防御機能も兼ね備えた臓器であり、数 百にもおよぶ機能を持っている臓器である。そこで筆者はマウス ES 細 胞由来の肝細胞とヒト間葉系幹細胞由来の肝細胞を、それぞれマウス正 常肝臓およびヒト正常肝臓と、オリゴ DNA を用いたマイクロアレイ方 法で解析を行うことにした。これにより、網羅的遺伝子発現の観点から 幹細胞由来の肝細胞がどの程度実際の生体内に含まれる肝細胞に遺伝子 発現が近いかの検討を行う。 さらに、それぞれの幹細胞の分化制御に関与する一連の遺伝子の発現 メカニズムについても不明な点が多い。そこでマイクロアレイ解析の結 果から得られた発現データを元に、どのような分化過程を経てマウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞は成熟肝細胞へと分化誘導するのかを明らかに していく。これによって 2 種類の幹細胞の可塑性というものを明らかに する上で非常に大事な知見になると期待できる。さらに分化過程を明ら かになることは分化誘導の手法を改善することも可能にし、より高い割 合で肝細胞の分化が可能になると考えられる。現在、肝障害を治療する 有効な手段として肝移植が挙げられるが、高額な医療費や慢性的なドナ - 18 - 第一章 ー不足などの問題があり、十分な量の移植は行われていない。ヒトの幹 細胞からヒト肝細胞を作製する研究は、得られた細胞自体を用いた細胞 移植治療の研究を促進するばかりではなく肝細胞を誘導する増殖因子・ サイトカインを明らかにすることにつながり、肝臓の再生・抗炎症作用・ 抗線維化を誘導する多機能的なサイトカイン治療の開発にもつながると 期待できる。 - 19 - 第二章 第二章 マウス胚性幹細胞およびヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分 化過程における遺伝子発現解析 2-1 序論 マウス ES 細胞由来の肝細胞の性質を確認する上で従来取られていた 方法としては、RT-PCR 法によって肝細胞で選択的に発現している遺伝 子(アルブミン、アルファフェトプロテイン、サイトケラチン 18 など) の発現を確認する方法や代表的な肝機能の活性を測定するなどの方法が 挙げられる。しかし、in vitro においてどの程度、生体の肝細胞に近い細 胞が得られているかについての評価を行うためにはそれでは不十分であ るといえる。第一章でふれたように、肝臓は生体内において多くの生理 的な活動を行うだけでなく、外的要因に対しての防御的な役割も果たし ている臓器であり、非常に多くの機能を有している。それらの機能を網 羅的に評価するためには DNA マイクロアレイ法を用いて包括的な遺伝 子の発現プロファイルを作製し、それを元に肝細胞への分化の特性を検 討することが有効であると考えられた。 同様にヒト間葉系幹細胞から得られたヒト肝細胞についても代表的な 肝機能を見ているに過ぎず、包括的な分化過程における遺伝子の発現解 析は行われていない。マウス ES 細胞に由来する肝細胞の解析と同様に - 20 - 第二章 マイクロアレイ解析を行うことによってヒト肝細胞にどの程度、遺伝子 の発現レベルで類似しているかの評価を下すことが可能になると考えら れる。 そこで第一章では、マウス ES 細胞由来肝細胞と正常マウス肝臓およ び未分化マウス ES 細胞、ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞と正常ヒト肝臓 および未分化間葉系幹細胞の遺伝子発現のプロファイルを、マイクロア レイ法を用いてそれぞれ行い、包括的な幹細胞由来の肝細胞の評価を行 う。 - 21 - 第二章 2-2 材料と方法 2-2-1 マウス ES 細胞からの in vitro による肝細胞誘導 マウス ES 細胞は 129X1/SvJ 雄マウス由来の J1 細胞のクローンで、 さらにアルブミンプロモーター下流に GFP を連結したコンストラクト を組み込んだ細胞を使用した(図 2-1)(Quinn et al., 2000)。未分化な ES 細 胞 は 80% Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM) (Invitrogen/GIBCO/BRL) に 20%ES 細胞 用 ウ シ 胎 仔血 清 (Fetal Bovine Serum: FBS)(Invitrogen/GIBCO/BRL) 、 1 100 b-mercaptoethanol (Sigma, : 7 ml 100% stock (10 ml PBS 中に溶解)、 1 acids、1 nucleosides (Sigma, 100 non-essential amino : adenosine (8 mg/ml), guanosine (8.5 mg/ml), cytidine (7.3 mg/ml), uridine (7.3 mg/ml), and thymidine (2.4 mg/ml)) 、 1,000 units/ml LIF/ESGRO (Chemicon, Tokyo, Japan) 、 175mg/mL の G418 (Invitrogen/GIBCO/BRL)を加えた培地で未分化能を 維持した。 肝細胞分化誘導は未分化能を維持した ES 細胞を以下のような手順で 10 日間培養することで行った。ステージ1:ES 細胞維持用の培地に 10-8 M all-trans-retinoic acid を添加し 3 日間培養; ステージ 2: LIF を除いた ES 細胞維持用の培地に増殖因子の組み合わせ (FGF1, 100 ng/ml; FGF4, 20 ng/ml; HGF, 50 ng/ml; VERITAS, Tokyo, Japan) を添加し 5 日間培 養; ステージ 3: LIF を除いた ES 細胞維持用の培地に Oncostatin M (OsM, 10 ng/ml; VERITAS, Tokyo, Japan) を加え 2 日間培養を行った。 ステージ 1・2 においてはゼラチンコートディッシュ(Asahi Techno Glass, - 22 - 第二章 Chiba, Japan)を、ステージ 3 においては 1 型コラーゲンディッシュ(Asahi Techno Glass, Chiba, Japan)を使用して分化誘導を行った(図 1-3) 。分 化した肝細胞は蛍光顕微鏡下(Nicon)で観察し、GFP の陽性率で分化率 を測定した。 図 2-1 アルブミンプロモーターGFP のコンストラクトの略図 アルブミンの最小プロモーターの制御下のもと GFP を発現するコンストラクトを組 み込んだ ES 細胞を使用した。未分化な ES 細胞では GFP の発現は確認されないが、 アルブミンを発現する細胞へ分化すると GFP の発現が確認される。 2-2-2 ヒト間葉系幹細胞からの in vitro による肝細胞誘導 脂 肪 組 織 由 来 間 葉 系 幹 細 胞 (Adipose tissue-derived mensenchymal stem cells; AT-MSC)はインフォームドコンセントを得た胃ガン患者の手 術サンプルから得られた (年齢: 55 歳、 性別: 男性、 慎重: 164 cm、 体 - 23 - 第二章 重 : 67.2 kg)。 CD105 陽 性の 細 胞画 分は 磁気 ビ ーズ ラベ ル化 され た CD105 モノクローナル抗体(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany) を使用しマグネテックセルソーターで陽性細胞を分離した。未分化な間 葉系幹細胞は 90%DMEM に 10%の FBS を添加した培地で培養した。肝 細胞培養培地(Cambrex, Walkersville, USA)には transferrin (5 mg/ml)、 hydrocortisone-21-hemisuccinate (10-6 M)、 bovine serum albumin (0.5 mg/ml)、 アスコルビン酸(2 mM)、 EGF (20 ng/ml), インスリン(5 mg/ml) ゲンタマイシン(50mg/ml) (Cambrex)が含まれており、肝細胞分化誘導 時は DEX (10-8 M)、HGF (150 ng/mL)、FGF1 (300 ng/mL)、FGF4 (25 ng/mL) (PeproTech EC, London, UK)を添加し、3 週間培養した。さらに 2 週間、増殖因子を除き、OsM (30 ng/mL)と DEX (2x10-5 mol/L)を添加 し培養した(図 1-6)。計 5 週間の培養で未分化な間葉系幹細胞からの肝 細胞分化を行った。 2-2-3 トータル RNA の抽出 マウス ES 細胞からの肝細胞分化のサンプルにおいては、トータル RNA は ISOGEN (Nippon Gene, Tokyo, Japan)を用いて未分化な ES 細胞-day 0、分化中間段階(6 日目)の ES 細胞-day 6(+)、ES 細胞由来肝細胞-day 10(+)、コントロールとして増殖因子処理無しで自発的な分化を促した ES 細胞(6 日・10 日目)-day 6(-)と day 10(-)、とマウス肝臓(8 週齢)の 計 6 サンプルから抽出を行った。さらにゲノム DNA の混入を防ぐため に DNA アーゼ処理(DNase I, amplification grade; TaKaRa, Kyoto, Japan) を行い、混入する DNA を分解した。 - 24 - 第二章 ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化の検討においては、未分化な間葉 系幹細胞、間葉系幹細胞由来肝細胞、ヒト正常肝臓、初代培養ヒト肝細 胞からISOGENでトータルRNAを抽出した。 2-2-4 マイクロアレイ解析(マウス ES 細胞) エースジーン マウスオリゴチップ サブセット A & B (DNA Chip Research, Inc., and Hitachi Software Co., Yokohama, Japan)をマウス ES 細胞からの肝細胞分化を検出するために使用した。マイクロアレイの手 順 は 下 記 の ホ ー ム ペ ー ジ の 手 法 に 基 づ い て 行 っ た (http://www.dnachip.co.jp/thesis/AceGeneProtocol.pdf)。マウス肝臓のサンプルを除いた 5 種類のトータル RNA を混ぜたものをレファレンスサンプルとして使 用し、ES 細胞由来の 5 サンプル(day 0、day 6(+)、 day 6(-)、 day 10(+)、 day 10(-))とマウス肝臓の mRNA の発現プロファイルの作製を行った。 データの精度を上げるために発現量がバックグラウンドの発現量の 2 倍 より少ない遺伝子は擬陽性とし、データプロセッシングの際に除いた。 また、Cy3 ラベルと Cy5 ラベルを交互にして 1 サンプルにつき 2 度デ ータを取り、1 度目と 2 度目で発現が大きく異なるサンプルも同様に取 り除いた。その結果、9,172 クローンの遺伝子について 6 サンプル全て でデータが検出された。 2-2-5 マイクロアレイ解析のデータプロセッシング(マウス ES 細胞) ES細胞由来肝細胞-day 10(+)と自発的に分化させたES細胞-day10の発 現パターンを比較し、2倍以上発現が上昇した遺伝子と減少した遺伝子 - 25 - 第二章 を抽出した。それらの遺伝子についてGenMaths software (Applied Maths, Austin, TX., USA)を使用し、教師なし階層的クラスターリング解析(A hierarchical cluster analysis) を Unweighted Pair Group Method with Arithmetic Mean (UPGMA)に基づいたEuclidean distance 計算法を用い て行った。 2-2-6 マイクロアレイ解析(ヒト間葉系幹細胞) One-Color Microarray-Based Gene Expression解析 (Agilent Technologies, Tokyo, Japan)は約41000クローンの遺伝子のプローブが 搭載されたマイクロアレイのチップで、間葉系幹細胞由来肝細胞の解析 に使用した(http://www.chem.agilent.com/scripts/LiteraturePDF.asp? iWHID=48834)。 レファレンスサンプルとしてヒト初代培養肝細胞を用 いた。ハイブリダイゼーションと洗浄はGene Expression Wash Pack (Agilent Technologies)とアセトニトリル (Sigma, Tokyo, Japan)を用い て行った。DNA Microarray Scanner (Agilent Technologies)を使用しア レイのスキャンをし、mRNAの発現強度を検出した。データの精度を上 げるために発現量の低いデータはAgilent Technology社の判断基準に基 づいて取り除いた。それにより、全4サンプルのデータセットが揃った 25721クローンの遺伝子データが得られた。 2-2-7 マイクロアレイ解析のデータプロセッシング(ヒト間葉系幹細胞) 未分化な間葉系幹細胞と間葉系幹細胞由来肝細胞の発現プロファイル を比較し、10倍以上発現が上昇した遺伝子と減少した遺伝子を抽出した。 - 26 - 第二章 それらの遺伝子についてGenMaths software (Applied Maths)を使用し、 教師なし階層的クラスターリング解析(A hierarchical cluster analysis) をWard法に基づいたEuclidean distance 計算法を用いて行った。 - 27 - 第二章 2-3 実験結果 2-3-1 ES 細胞由来肝細胞の分化とマイクロアレイ解析 第一章にて論述した方法を用いて、マウス ESJ1 細胞を胚葉体を介す ることなく増殖因子群添加下で 10 日間培養し GFP 陽性の肝細胞を得た。 その誘導効率は 29.6 + 1.8% であり(図 2-2)、いくつかの肝細胞特異的 に発現する遺伝子の発現を RT-PCR 法で解析したところ、未分化な ES 細胞では陰性であったが、ES 細胞由来肝細胞ではすべて陽性であった (図 2-2) 。この ES 細胞由来肝細胞の遺伝子の発現を包括的に解析する ために DNA マイクロアレイ法を用いた解析を行った。使用したサンプ ルは未分化な ES 細胞-day 0、分化中間段階(6 日目)の ES 細胞-day 6(+)、 ES 細胞由来肝細胞-day 10(+)、コントロールとして増殖因子処理無しで 自発的な分化を促した ES 細胞(6 日・10 日目)-day 6(-)と day 10(-)、 とマウス肝臓(8 週齢)の計 6 サンプルの発現プロファイルを作製した。 その結果、6サンプル全てで発現量が測定できた遺伝子データは 9,172 クローンあった。そのうち、肝細胞分化処理によって発現の変わる遺伝 子 を 検 討 す る た め に ES 細 胞 由 来 肝 細 胞 -day10(+) と コ ン ト ロ ー ル day10(-)を比較して 2 倍以上発現量が上昇または減少した遺伝子を選択 した。 - 28 - 第二章 図 2-2 ES 細胞由来肝細胞の特性 未分化なマウス ES 細胞と ES 細胞由来肝細胞の写真および遺伝子発現パターンの差。 TAT: チロシンアミノトランスフェラーゼ、CK8: サイトケラチン 8 その結果、32 遺伝子は分化が進むにつれて発現が減少していく遺伝 子として、200 遺伝子は発現が上昇する遺伝子として、計 232 クローン の遺伝子がマイクロアレイ法によって同定された(表1・2)。特に発 現が上昇する遺伝子群に含まれている遺伝子にはチトクローム P450 や - 29 - 第二章 脂質代謝に関わるアポリポプロテインなどが含まれていることが確認さ れた。さらに 232 遺伝子中には 51 個の細胞代謝、53 個の分化・形態形 成、14 個の細胞接着に関わる遺伝子が含まれていた。 表 3 マウス ES 細胞由来肝細胞で発現が上昇する遺伝子(上位 30) - 30 - 第二章 表 4 マウス ES 細胞由来肝細胞で発現が減少する遺伝子(上位 30) マイ クロア レイ の実験 の精度 と検討 するた めに 分化処 理・未 処理 (day10(+)と day10(-))を用いて発現変化のあった遺伝子をランダムに選 択して RT-PCR 法で発現を調べた。発現が上昇した遺伝子として Trf、 Apoa2、Cyp2e1 などを、発現が減少した遺伝子として Cst3、Anxa2、 Acvr2b の発現量を調べたところ、マイクロアレイ解析で得られた結果 とほぼ同じ発現パターンを示した(図 2-3)。これにより、今回のマイク - 31 - 第二章 ロアレイの解析は 2 倍以上の発現差で選択してきた遺伝子に関しては高 い精度で、チップは発現量を示すことが示された。 図 2-3 RT-PCR 法によるマイクロアレイ実験の精度の確認 発現が上昇した遺伝子として Tfr、Apo2、Cyp2e1、Mup1、Pzp、発現が減少した遺 伝子として Cst3、Anxa2、Acvr2b の発現を確認した。これらの遺伝子は表 3、4 から ランダムに選択された。 以上のことから、これらのデータは ES 細胞の肝細胞分化過程におい て多くの遺伝子の発現変化が生じることを、マイクロアレイ法を用いて 確認できたことを示している。 - 32 - 第二章 2-3-2 ES 細胞由来肝細胞のクラスターリング解析 教師なし階層的クラスター解析を発現変化のあった 232 遺伝子の発現 パターンを検討するため、6 サンプル全てのデータを用いて行った(図 24)。サンプルの類似度を示す上部のクラスターを見ると、マウス肝臓と ES 細胞由来肝細胞-day10(+)の発現プロファイルが同じクラスターに分 類されており、それらの遺伝子の発現パターンが似ていることが示され た。さらにそのクラスターは他のサンプルが分類されているクラスター とは異なっているため、マウス肝臓と ES 細胞由来肝細胞-day10(+)の遺 伝子発現は他のものとは明らかに異なっていると言える。また、遺伝子 のクラスターを確認すると、グループ A では ES 細胞由来肝細胞で発現 が減少する遺伝子(32 遺伝子)が、グループ B においては発現が上昇する 遺伝子(200 遺伝子)が分類されてきている。興味深いことにクラスター を見ると、ES 細胞からの肝細胞分化過程のサンプル:未分化 ES 細胞day0、分化中間段階-day6(+)、ES 細胞由来肝細胞-day10(+)の遺伝子の 発現パターンは顕著に異なっている。つまり、ES 細胞からの分化段階 において肝細胞とは遺伝子発現の点において大きく異なった細胞集団が 分化誘導されてきていることを示唆する。 - 33 - 第二章 図 2-4 ES 細胞由来肝細胞の教師無し階層的クラスターリング解析 レーン1:day 10(-)、レーン2:day 0、レーン3:day 6(+)、レーン4:day 6(-)、 レーン5:day 10(+)、レーン6:マウス肝臓のデータを表す。赤色は発現の上昇、 緑色は発現の減少、黒色は変化なしを表す - 34 - 第二章 2-3-3 ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞の分化とマイクロアレイ解析 第一章にて論述したようにマウス ES 細胞からの肝細胞分化誘導のシ ステムを改変することでヒト間葉系幹細胞からも肝機能を有する細胞を 得ることに成功している。改変した手法を用いることで、線維芽細胞様 の細胞である間葉系幹細胞は上皮様の細胞である肝細胞へと分化が誘導 される (図 2-5)。その細胞形態はヒト初代培養肝細胞に類似している。 細 胞 に お け る 糖 の 蓄 積 を 検 出 す る 手 法 で あ る 過 ヨ ウ 素 酸 シ ッ フ (P Periodic acid Schiff stain: PAS) 染色を行うと間葉系幹細胞由来肝細胞は ほぼ 100%の細胞が染色され、肝細胞分化誘導によって均一な細胞集団 が肝細胞へと分化誘導されることが確認された (図 2-5)。一方、未分化 な間葉系幹細胞は細胞表面の糖タンパク質が染まるのみで、PAS 染色で 強く染色される細胞は確認されなかった。これらの解析の結果、分化誘 導によって均一な肝細胞の集団が得られることが示されたので、このサ ンプルを用いてマイクロアレイ解析を行い、間葉系幹細胞由来肝細胞の 発現プロファイルの作製を行った。未分化な間葉系幹細胞、間葉系幹細 胞由来肝細胞、ヒト正常肝臓、ヒト初代培養肝細胞からトータル RNA を抽出し、初代培養肝細胞を全ての実験のレファレンスとして使用し、 それぞれのサンプルの発現量を検出した。 - 35 - 第二章 図 2-5 間葉系幹細胞由来肝細胞の形態 位相差像 A: 未分化な間葉系幹細胞、B: 間葉系幹細胞由来肝細胞 PAS 染色 C:未分化な間葉系幹細胞、D: 間葉系幹細胞由来肝細胞 スケールバー: 50µm マイクロアレイ解析の結果 25721 クローンにおいて 4 サンプル全てで の遺伝子データが得られ、それらの中で未分化な間葉系幹細胞と間葉系 幹細胞由来肝細胞において 10 倍以上発現の上昇した遺伝子 1252 個と減 少した遺伝子 387 個、計 1639 遺伝子を抽出した。これらの遺伝子は肝 細胞の分化誘導の処理によって発現の変化が引き起こされたと言える。 マイクロアレイデータの精度を検証するために、肝機能に関わる遺伝子 であるアルブミンと TDO2 の発現量を、未分化な間葉系幹細胞と間葉系 - 36 - 第二章 幹細胞由来肝細胞においてリアルタイム RT-PCR にて定量した。その結 果、それらの遺伝子の発現量はマイクロアレイの結果同様に間葉系幹細 胞由来肝細胞において上昇しており、アレイからの発現データが正しく 得られていることが示された(図 2-6)。 図 2-6 リアルタイム PCR 法によるマイクロアレイ解析の確認 リアルタイム RT-PCR 法を用いて間葉系幹細胞由来肝細胞のマイクロアレイ解析の 実験の精度を検証した。それぞれの遺伝子の発現量は GAPDH の量で補正された。レ ーン1:未分化間葉系幹細胞、レーン2:間葉系幹細胞由来肝細胞、レーン3:正常 ヒト肝臓 - 37 - 第二章 2-3-4 間葉系幹細胞由来肝細胞のクラスターリング解析 マウスES細胞の解析と同様に1639クローンの遺伝子データを用いて4 サンプルでの教師なし階層的クラスター解析を行った (図2-7)。サンプ ルのクラスターをみると間葉系幹細胞由来肝細胞と初代培養肝細胞、正 常肝臓が同じクラスターに分類されており、未分化な間葉系幹細胞だけ が異なったクラスターに分類されていた。これは間葉系幹細胞由来肝細 胞の遺伝子の発現プロファイルが初代培養肝細胞、正常肝臓に類似して いることを示す。図2-7右では特に幹細胞由来肝細胞で発現が上昇した 遺伝子を表しており、補体の活性化や血液凝固などの肝機能に関わる因 子が分類されていることがわかる。サンプルのクラスターの確かさを検 討するためにbootstrap resampling法にて100回、クラスターを繰り返し 作製した。その結果、未分化な間葉系幹細胞の列は100%の割合で他の クラスターとは異なっていることが明らかになった。 以上をまとめると、間葉系幹細胞由来肝細胞は未分化な間葉系幹細胞 とは明らかに異なった遺伝子プロファイルを有しており、初代培養肝細 胞や正常肝臓に近い遺伝子発現が起きていることが示された。 - 38 - 第二章 図 2-7 間葉系幹細胞由来肝細胞の教師なし階層的クラスターリング解析 レーン1:未分化間葉系幹細胞、レーン2:ヒト正常肝臓、レーン3:間葉系幹細胞 由来肝細胞、レーン4:ヒト初代培養肝細胞。赤色は発現の上昇、緑色は発現の減少、 黒色は変化なしを表す。a は 1639 クローンのデータから作製したクラスター。b は 間葉系幹細胞由来肝細胞と肝臓・肝細胞にて発現が上昇したクラスターを選択し、示 した。 - 39 - 第二章 2-4 考察 本研究により、マウス ES 細胞由来肝細胞とヒト間葉系幹細胞由来肝 細胞の包括的な遺伝子発現のプロファイルが作製された。使用したマイ クロアレイの基盤が異なっているので、単純に比較することはできない が、マウス ES 細胞では 232 クローンの遺伝子(2 倍以上の差)、ヒト間 葉系幹細胞では 1639 クローンの遺伝子(10 倍以上の差)に発現変化が 見られた。特にこれらの遺伝子を用いてクラスターリング解析を行った ところ共に未分化な幹細胞とは異なり、その発現パターンは生体の肝細 胞に近くなっていることが明らかになった。既存の研究では肝細胞分化 を評価する上で、代表的な肝機能を選択してその活性を検討しているに 過ぎなかったが、本研究ではマイクロアレイを用いて数百 数千遺伝子 においての類似性を明らかにした。 今回は in vitro における肝細胞の発現プロファイルを検討したが、肝 細胞の活性は培養状態に依存して大きく変化する。胆管上皮細胞や類洞 内皮細胞との共培養などによって肝細胞の機能や生存率が大きく変化が 起きることが報告されている(Auth et al., 2005; Kurosawa et al., 2005; Zinchenko et al., 2006)。そればかりか添加するサイトカイン・増殖因子 にも大きく影響を受ける。今回、筆者が使用した培養条件は HGF、FGF1、 FGF4、OsM、DEX などの肝細胞誘導に必要な因子の他にもヒト間葉系 幹細胞からの分化誘導においては肝細胞を維持するための因子として EGF やインスリンが含まれている。高濃度のインスリンは多くの遺伝子 の発現に影響を与えることが知られている(O'Brien et al., 2001)。つまり、 - 40 - 第二章 in vitro の幹細胞由来肝細胞と生体の臓器の発現プロファイルを比較する ということは、肝臓が多くの細胞種から構成され不均一細胞集団からで きた臓器であるといった問題以外にも、細胞が存在する環境が大きく異 なるといった問題もある。しかし、このような問題があるにもかかわら ず、肝細胞分化の処理によって発現変化のおきた遺伝子を抽出しクラス ターを作製したところ、マウスES細胞・ヒト間葉系幹細胞から得られ た肝細胞が共にマウス・ヒト正常肝臓と近い発現プロファイルを示した ことは非常に驚くべきことである。もちろん、網羅的な解析で検討した とはいえ、全ての遺伝子の発現を用いて発現の類似性を検証したわけで はないが、大きく発現が変わった遺伝子に限れば高い精度で肝細胞分化 が起きていると考えられる。 - 41 - 第三章 第三章 幹細胞からの肝細胞誘導過程で発現する遺伝子の分類 3-1 序論 第二章において幹細胞から得られた肝細胞の発現プロファイルは正常 肝臓に近いことがマウス・ヒトの両方で確認された。しかし、クラスタ ーリング解析は肝細胞分化誘導の処理によって発現変化の確認された遺 伝子のみを選択し、それらの遺伝子の発現パターンのみで肝細胞に近い ことを示しているに過ぎない。つまり、発現が上昇している遺伝子が実 際の肝機能に関わることは示されていないと言える。そこで本章では、 発現上昇の確認できた遺伝子の性質を詳しく解析していく。さらに発現 変化のあった遺伝子についてそのジーンオントロジー(遺伝子のカテゴ リー分け)の解析を行いどのような機能を持つ遺伝子が上昇した、また は減少した遺伝子群で濃縮されているかの確認を行った。 特にヒト間葉系幹細胞からの分化誘導においては、数多くの肝機能に 関わる遺伝子が確認されたことから、遺伝子のシグナルパスウェイを検 出するのに特化したマイクロアレイを使用し、ヒト間葉系幹細胞由来肝 細胞と正常ヒト肝臓での遺伝子シグナルの比較検討を行った。これらの 解析を行うことにより、肝細胞誘導の処理によって、発現変化した遺伝 子の役割が明らかになり、幹細胞由来の肝細胞がどのような機能を有し - 42 - 第三章 ているかの予測が可能になると考えられる。 - 43 - 第三章 3-2 材料と方法 3-2-1 ジーンオントロジー解析 ジーンオントロジーのカテゴリーはエースジーンのマイクロアレイデ ー タ ベ ー ス (DNA Chip Research Inc., and Hitachi Software Co., Yokohama, Japan)に割り当てられて、使用した。マウス ES 細胞からの 肝細胞分化誘導においては発現変化のあった 232 クローンの遺伝子デー タを用い、母集団(9172 クローン)と比較して選択された遺伝子のカ テゴリーを抽出した。エースジーンに適応化された GO タームファイン ダ ー ( http://db.yeastgenome.org/cgi-bin/SGD/GO/goTermFinder ) を 用 いて P 値をボンフェローニ法によって計算し、P < 0.005 の遺伝子カテ ゴリーを抽出した(Haverty et al., 2004)。 ヒト間葉系幹細胞の肝細胞分化においても 10 倍以上発現変化の確認 された遺伝子(1639 クローン)と母集団(25721 クローン)とで遺伝子の カテゴリーの出現率を算出し、有意に誘導された遺伝子カテゴリーを選 択した。GO タームファインダーを用いて P 値はボンフェローニ法によ って計算し、P < 0.01 の遺伝子カテゴリーを抽出した。 3-2-2 RNA サンプルの調製とハイブリダイゼーション(ConPatn) ヒト間葉系幹細胞からの肝分化に関わるサンプル(未分化間葉系幹細 胞、間葉系幹細胞由来肝細胞、ヒト正常肝臓、ヒト初代培養肝細胞)か ら得られたトータル RNA は MessageAmpTM II-Biotin Enhanced Single Round aRNA Amplification Kit (Ambion, Cat#AM1791, Austin, USA)を使 - 44 - 第三章 用し増幅した。簡単に記述すると、増幅後の 3 µg の cRNA は ConPathTM Chip (DNA CHIP Research Inc., Yokohama, Japan, GEO ID: GPL5437) にハイブリダイゼーションさせられ、室温にて 0.1 X SSC、0.1% SDS によって洗浄された。さらに 0.05 X SSC、 0.1%SDS を用いて 43˚C で 洗浄した。最後にチップを 0.05 X SSC でゆすぎ乾燥させた。染色はチ ップを 10 µg/ml streptavidin、 R-phycoerythrin conjugate (Invitrogen、 Cat#S-866、Carlsbad、 CA)、 Tween 20 (0.05% v/v)、 BSA (2mg/ml) を 含む PBS(-)に 30 分浸し、その後、PBS(-)で室温にて洗浄した。 3-2-3 シグナルパスウェイの作製(ConPath) チップは Agilent DNA MicroArray Scanner (Agilent、Cat#G2565BA)を 用いてシグナル強度を検出した。それぞれのスポットのシグナル強度は Feature Extraction Software (version: 9.1, Agilent Technologies)により数 値化された。GeneSpring Gx. Ver.7.3.1 (Agilent Technologies)によって 数値を正規化した。正規化されたそれぞれの遺伝子の発現量は GenMAPP ver2.1 (http: //www.genmapp.org) に導入し、シグナルパスウェイの図を 作成した(Dahlquist et al., 2002; Doniger et al., 2003)。 - 45 - 第三章 3-3 実験結果 3-3-1 マウス ES 細胞由来肝細胞のジーンオントロジー解析 第二章で示したように、ES 細胞由来肝細胞で発現が上昇している遺 伝子の中にはアルコールデヒドロゲナーゼやトランスサイレチンなどの 肝機能に関わる因子が数多く含まれていることが確認された(第二章 表1)。そこで、データベースを駆使して肝細胞分化の過程で変化のあ った遺伝子のうち有意に誘導されてきている遺伝子のカテゴリーの同定 を行った。マイクロアレイの遺伝子データにおいてジーンオントロジー のバイオロジカルプロセスに分類されている遺伝子情報を基に検討した。 母集団(9172 クローン)の内、機能が不明の遺伝子を除いた 6699 クロー ンの遺伝子データと、肝細胞分化によって発現が 2 倍以上変化した遺伝 子(232 クローン)の内、同様に機能不明の遺伝子を除いた 183 クローン のデータを比較して、有意に濃縮されている遺伝子カテゴリーの算出を 行った(表 5) 。この解析により、肝細胞分化の処理によって発現に変化 が起きた遺伝子のカテゴリーが明らかになった。ボンフェローニ法によ って P 値の算出をし、P< 0.005 の遺伝子カテゴリーを表 5 にまとめた。 P 値の幅は 3.7 x 10-4 2.5 x 10-3 と非常に小さく確かに特定のカテゴリ ーが非常に有意に誘導されたと言える。興味深いことにこれらのジーン オントロジーは全て肝機能に関わるものである。つまり、肝細胞分化の 処理によって確かに肝機能に関わる遺伝子が誘導されてきていると考え られる。例えば、electron transport には薬剤代謝に関わる遺伝子である CYP2e1 と CYP2d10 が含まれている。これらのことからジーンオント - 46 - 第三章 ロジーの解析の結果、クラスターリング解析で ES 細胞由来肝細胞とマ ウス正常肝臓で発現の似ていた遺伝子群はその遺伝子機能の観点からみ ても肝機能に関わる遺伝子が多く含まれていることを明確に示した。 表 5 ES 細胞由来肝細胞で有意に出現した遺伝子カテゴリー 232 クローン中 183 クローンの遺伝子においてその機能がデータベースに登録されて いた。 同様に検出された全データ 9172 クローンのうち 6699 クローンの遺伝子の機能が登 録されていた。 3-3-2 ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞のジーンオントロジー解析 マウス ES 細胞のジーンオントロジー解析の結果、肝細胞誘導処理に よって多くの肝機能の関わる遺伝子が誘導されていることが明らかにな った。次に同様の解析をヒト間葉系幹細胞由来肝細胞においても行うこ とにした。幹細胞由来肝細胞において発現が亢進している遺伝子を確認 するとアルブミンや TDO2、トランスサレチンなどの典型的な肝細胞の 遺伝子が確認される。 間葉系幹細胞の解析に使用したマイクロアレイのデータを DNA チッ - 47 - 第三章 プ研究所のアースジーンマイクロアレイチップのデータベースに書き換 え、さらにそれとジーンオントロジーのデータベースと統合してジーン オントロジーのバイオロジカルプロセスの遺伝子情報の解析をした。間 葉系幹細胞の解析では ES 細胞の解析とは異なり、多くの遺伝子の発現 が変化していた。そのため、発現が上昇した遺伝子と減少した遺伝子に おいて それぞれジ ーンオント ロジーの 解析をかけ た。解析は 母集団 (25721 クローン)の内、機能が不明の遺伝子を除いた 12441 クローンの 遺伝子データと、肝細胞分化によって発現が 10 倍以上、上昇した遺伝 子(1252 クローン)、減少した遺伝子(387 クローン)の内、同様に機能不 明の遺伝子を除いた 739 クローンと 215 クローンのデータを比較して、 有意に濃縮されている遺伝子カテゴリーの算出を行った。ボンフェロー ニ法によって P 値を算出し P < 0.01 の遺伝子カテゴリーを抽出した。 これらの P 値の幅は 8.9 x 10-24 6.4 x 10-3 で、非常に多くのカテゴリ ーが有意に濃縮されていることが明らかになった(表 6) 。発現が上昇し ている遺伝子においては血液凝固や脂質代謝などの多くの肝機能に関わ る遺伝子のカテゴリーが得られたことがわかる。一方、発現の減少した 遺伝子でのカテゴリーは Cyclin ファミリーや E2F などの細胞周期や細 胞骨格形成などの細胞増殖に関わる遺伝子カテゴリーが中心に濃縮され てきた。つまり、間葉系幹細胞は肝細胞分化誘導の処理によって肝機能 に関わる遺伝子の誘導がかかり、細胞が成熟化して行くにつれて細胞増 殖が止まってくるということが示唆された。 - 48 - 第三章 表 6 間葉系細胞由来肝細胞で有意に出現した遺伝子カテゴリー 発現が上昇した遺伝子において 1252 クローン中 739 クローンの遺伝子において、発 現が減少していた遺伝子において 387 クローン中 215 クローンの遺伝子その機能が データベースに登録されていた。同様に検出された全データ 25721 クローンのうち 12441 クローンの遺伝子の機能が登録されていた。 個々の遺伝子の発現を確認すると肝細胞選択的に発現する転写因子 HNF3beta や HNF6 も幹細胞由来にする肝細胞で発現が上昇しているこ とがわかる(図 3-1) 。重要な肝機能である薬物代謝に関わるチトクロー ム P450 遺伝子においても CYP3A4、CYP2A6、CYP2C8 などが高い発 現を示し、薬剤を排出するポンプの役割を果たす ABC トランスポータ ー遺伝子も MDR1、MRP など多くの遺伝子が誘導されていることが明 - 49 - 第三章 らかである。また、肝細胞の接着・維持に必要な細胞外マトリックスや 代表的な肝機能である補体の活性化や血液凝固因子においても多くの遺 伝子が誘導されていることが示された(表 7) 。以上のことから、ジーン オントロジー解析により間葉系幹細胞由来の肝細胞は非常に多くの肝機 能を有した細胞であると言える。 図 3-1 マイクロアレイ解析による肝細胞特異的遺伝子の発現変化 レーン1:未分化間葉系幹細胞、レーン2:ヒト正常肝臓、レーン3:間葉系幹細胞 由来肝細胞、レーン4:ヒト初代培養肝細胞。 - 50 - 第三章 表 7 間葉系幹細胞由来肝細胞で発現変化の起きた肝機能関連因子 - 51 - 第三章 表 7 間葉系幹細胞由来肝細胞で発現変化の起きた肝機能関連因子 (続き) 3-3-3 間葉系幹細胞由来肝細胞のシグナルパスウェイ解析 異なったマイクロアレイ基盤を用いているため、単純比較することは できないが、ES細胞と間葉系幹細胞から分化誘導された肝細胞において 発現が変化した遺伝子において有意に検出されたカテゴリーを比較する と間葉系幹細胞由来の肝細胞において非常に多くの肝機能が誘導されて いることがわかる。そこで、間葉系幹細胞由来肝細胞においてどのよう - 52 - 第三章 な遺伝子のネットワークが働いているかを検討することにより肝機能や 細胞の維持に関わる遺伝子シグナルパスウェイを同定することができる と考えられた。ここではチップ上に搭載するプローブ数を5000個に限定 して検出感度を上げ、シグナルパスウェイを検討するのに特化した基盤 のマイクロアレイ(Concise Pathwasy、ConPath)を駆使し、解析を行っ た。異なった基盤のマイクロアレイを用いて同じサンプルのデータを取 ることで間葉系幹細胞の解析に使用したアジレントのマイクロアレイの 結果の再検証を行うことも可能になると言える。ConPathマイクロアレ イは、GenMAPPデータベースから得られたシグナルパスウェイの図に 乗って いる遺伝子 を検出する ことが可 能で、得ら れた発現デ ータを GenMAPPの図に戻すことでパスウェイ毎の遺伝子の発現変化を視覚化 できるようにしたシステムである。初代培養肝細胞の発現データをレフ ァレンスにし、ConPathを使用して未分化な間葉系幹細胞、間葉系幹細 胞由来肝細胞、正常肝臓の発現データを取得した。得られたシグナルパ スウェイのデータから肝機能に関わるものを表7にまとめた。表7にお いて、間葉系幹細胞由来肝細胞と正常肝臓での発現が、初代培養肝細胞 と比較して上昇している遺伝子の数を記載している。これらの肝機能に 関わるパスウェイにおいて、レファレンスと比較して間葉系幹細胞由来 肝細胞と正常肝臓で活性化している遺伝子の数は近似しており、シグナ ルパスウェイがともに働いていると考えられる。特に血液凝固のパスウ ェイにおいては全20遺伝子中、間葉系幹細胞由来肝細胞では14遺伝子、 正常肝臓では15遺伝子の発現量が上昇していることが見てとれる(表8・ 図3-2)。さらに、補体の活性についてのシグナルパスウェイは未分化な - 53 - 第三章 間葉系幹細胞とは明らかに異なり、間葉系幹細胞由来肝細胞と正常肝臓 の遺伝子の発現パターンが非常近いことが確認できる(図3-3)。同様に ステロイドの合成などのパスウェイの発現が顕著に上がっていることが 確認された(図3-4)。以上のことより、間葉系幹細胞由来肝細胞におい て多くの肝機能に関わるシグナルパスウェイが顕著に誘導されているこ とが証明された。 表 8 パスウェイ解析により抽出された肝臓関連の遺伝子シグナル - 54 - 第三章 図 3-2 GenMAPP による血液凝固のパスウェイ a, 未分化な間葉系幹細胞 - 55 - 第三章 図 3-2 GenMAPP による血液凝固のパスウェイ b, 間葉系幹細胞由来肝細胞 - 56 - 第三章 図 3-2 GenMAPP による血液凝固のパスウェイ c, 正常肝臓 - 57 - 第三章 図 3-3 GenMAPP による補体の活性のパスウェイ a, 未分化な間葉系幹細胞 - 58 - 第三章 図 3-3 GenMAPP による補体の活性のパスウェイ b, 間葉系幹細胞由来肝細胞 - 59 - 第三章 図 3-3 GenMAPP による補体の活性のパスウェイ c,ヒト正常肝臓 - 60 - 第三章 図 3-4 GenMAPP によるステロイド生合成のパスウェイ a, 未分化な間葉系幹細胞 - 61 - 第三章 図 3-4 GenMAPP によるステロイド生合成のパスウェイ b, 間葉系幹細胞由来肝細胞 - 62 - 第三章 図 3-4 GenMAPP によるステロイド生合成のパスウェイ c,ヒト正常肝臓 - 63 - 第三章 3-4 考察 ES 細胞由来肝細胞において発現が変化している遺伝子 232 クローン について有意に出現している遺伝子のカテゴリーを検討したところ、そ れらのすべてが肝機能に関わるものであった。遺伝子発現プロファイル によるデータベースとの統合解析によって、肝細胞分化の過程を確認す ることができたと言える。それ故にマイクロアレイのデータをより詳細 に検討していくことは、ES 細胞からの肝細胞分化を制御するキーとな る因子や遺伝子のネットワーク・シグナルパスウェイを明らかにするた めの手段となるかもしれない。 ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化においても同様のことが言える。 1639 クローンの遺伝子データにおいて有意に出現している遺伝子カテ ゴリーを検討したところ、ステロイド代謝や脂質代謝などの肝機能に関 わるものが同定された。加えて、異なったマイクロアレイを用いたシグ ナルパスウェイの解析によってヒト正常肝臓同様に間葉系幹細胞由来肝 細胞において、その分化過程で多くのシグナルが活性化していることが 明らかになった。よって、間葉系幹細胞からの肝細胞分化に必要な因子 を明らかにするだけでなく、幹細胞の肝細胞分化に必要な可塑性の一端 を見つけることに役立つと考えられる。 肝臓において多くの代謝に関わる酵素は出生後に発現が誘導されてく りことが知られており、出生後に、肝臓がさらなる代謝機能を獲得する ことで十分成熟した状態になる。いくつかのCYP遺伝子もまた出生後 に 発現が誘導され、薬剤など対する代謝機能を示すことがわかっている。 - 64 - 第三章 マイクロアレイの解析を通して、マウスES細胞とヒト間葉系幹細胞の肝 細胞分化において多くのチトクロームP450が幹細胞由来肝細胞で高頻度 に誘導されていた。さらに間葉系幹細胞由来肝細胞の解析において実際 に基質を分解するかどうかを検討したところ、CYP1A2、CYP2B6、2C19、 2D6 a、CYP2C9、CYP3Aの酵素の活性があることが確認されている。 ヒト肝臓において CYP3A4 はチトクローム P450 による薬物代謝の反 応の 45-60%をまかなっており、非常に大きな役割を担っている酵素で ある(Bertz and Granneman, 1997; Evans and Relling, 1999; Watkins, 1994)。今回のマイクロアレイのデータでは未分化な間葉系幹細胞と比 較して間葉系幹細胞由来肝細胞では 170 倍量の CYP3A4 の mRNA を発 現していることが確認された。さらに薬物の排出に重要な ABC トラン スポーター遺伝子である MDR-1 もまた高いレベルで発現が上昇してい ることが確認された(Ambudkar et al., 2003)。CYP3A4 と MDR-1 は異 物に対する反応において非常に重要な役割を果たす遺伝子であり、その 発現が幹細胞由来肝細胞で上昇しているということはこの細胞は新規薬 剤の生体内変換を検証する上での試験に応用可能であると期待できる (Cavaco et al., 2003)。特に重要なこととして現在使用されているスクリ ーニングなどの薬剤試験において代替細胞として使用可能になれば、倫 理的・高コストの問題を解決する上で役に立つ可能性がある。初代培養 肝細胞は薬剤試験において適している細胞ではあるが、通常培養下では 細胞増殖・維持に限界があり、またドナー不足などの問題からも試験目 的で使用可能な細胞量は限られているのが現状である。よって、今回の ES 細胞由来肝細胞や間葉系幹細胞から派生した肝細胞は初代培養肝細 - 65 - 第三章 胞と同じように CYP3A4 が MDR-1 発現していることから新規薬剤開発 段階で代替細胞として使用することが期待できる。 - 66 - 第四章 第四章 マウス胚性幹細胞から肝細胞分化過程における 分子メカニズムの解明 4-1 序論 ES 細胞は全能性を有する細胞で全ての細胞種に分化可能な細胞であ る。これまでに示したようにマウス ES 細胞から得られた肝細胞は多く の肝機能を有しており、包括的な遺伝子発現の観点からも実際の正常マ ウス肝細胞に近いことを示した。しかしながら、この細胞の分化過程に おける一連の分子メカニズムについては不明な点が多い。マイクロアレ イの結果からも肝細胞分化の中間段階においては未分化な ES 細胞とも 分化が終了した肝細胞とも異なる細胞集団が出現していることが示され た。 そこで本章では、まず肝細胞分化過程で発現が誘導されてくる肝細胞 選択的な転写因子の発現パターンを RT-PCR で検討することにした。 HNF、C/EBP、GATA などの転写因子は生体内における肝臓の発生過程 において複雑な相互作用によって、お互いの遺伝子の発現の制御を行っ ている。そして、肝細胞の機能に関わる因子(アルブミンなど)の発現 を正確に制御してことがわかっている(Costa et al., 2003; Nagy et al., 1994)。例えば、HNF4 は G6P やトランスサイレチンのプロモーター部 - 67 - 第四章 分に結合サイトが存在し、その発現を調節している。また、肝臓自体の 形態形成にも非常に重要な働きをしていることが明らかになってきてい る(Duncan et al., 1997; Parviz et al., 2003)。 さらにその結果をもとに内胚葉系の細胞の分化に重要な因子の一つで ある Hepatocyte nuclear factor (HNF)3beta を分化誘導の初期において small interference RNA (siRNA)を用いてその発現を抑制し、その効果を 肝細胞への誘導効率で確認した(Ang and Rossant, 1994; Dufort et al., 1998; Guo et al., 2002; Levinson-Dushnik and Benvenisty, 1997)。HNF3 ファミリーの転写因子が内胚葉の分化に必須であることはすでに知られ ており、さらに HNF3beta を強発現した ES 細胞は肝細胞への分化が促 進するという報告もされている(Ishizaka et al., 2002)。つまり、ES 細胞 の内胚葉への分化が肝細胞分化に必須であるかの検討を行った。また、 内胚葉と肝細胞の中間段階に肝臓の組織幹細胞と考えられている肝芽の ような細胞が出現するかということについても検討した。肝芽の細胞は 肝細胞と胆管上皮細胞の2方向性の分化能を持っており、胎生期に存在 することが知られている(Tanimizu and Miyajima, 2004)。これらの検討 より、ES 細胞からの肝細胞分化誘導過程が胚発生時に類似した経路を たどることを示す。 - 68 - 第四章 4-2 材料と方法 4-2-1 トータル RNA の抽出 マウス ES 細胞からの肝細胞分化段階でのトータル RNA は ISOGEN を用いて分化過程の 0、1、3、6、10 日目のサンプルから肝細胞分化処 理(+)と(-)のそれぞれにおいて抽出した。さらにゲノム DNA の混 入を防ぐために DNA アーゼ処理を行い、混入する DNA を分解した。 4-2-2 Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction(RT-PCR 法) 1 µg のトータル RNA は SuperScriptTM II First-Strand Synthesis System (Invitrogen, Tokyo, Japan)を用いて逆転写を行い、cDNA の作製をした。 PCR 反応は Ampli Taq Gold kit (Roche Diagnostics, Tokyo, Japan)を用 いて行った。プライマー配列・反応温度は表 9 に記す。 4-2-3 HNF3beta-siRNA の ES 細胞への導入 合成された 21 塩基の siRNA は QIAGEN (Tokyo, Japan)から購入した。 効果を検証するために4種類の配列をデザインし、遺伝子の抑制効率の 検討を行った(Table II)。実験の対象として luciferase GL2 siRNA を Dharmacon (Boulder, Co., USA)から購入した。HNF3beta siRNA は 1 x 104 cells/well の ESJ1 pALB-EGFP 細胞をゼラチンコートした 24 ウェル プレートに蒔き、その 24 時間後に LipofectamineTM 2000 (Invitrogen, - 69 - 第四章 Tokyo, Japan)を用いたリポフェクションによって分化誘導の 1 日目と 3 日目に導入した。肝細胞への分化の抑制効率は GFP の陽性率を蛍光顕 微鏡下で観察することで算出した。ES 細胞への siRNA の導入効率は Alexa-labeled siRNA (QIAGEN, Tokyo, Japan)を同様の手法を用いて導 入し、蛍光顕微鏡下で測定した。導入後 5 時間で、5 箇所ランダムに写 真をとり導入効率を算出した。 4-2-4 リアルタイム RT-PCR リアルタイム PCR は Platinum SYBR Green qPCR SuperMix UDG (Invitrogen, Tokyo, Japan)を用いて行った。PCR 反応は ABI PRISM 7700 Sequence Detector(Applied Biosystems, Tokyo, Japan)を使用し数値デ ータを得た。PCR 後の数値データは各サンプルの GAPDH の発現量で 補正を行った。それぞれの実験反応は 3 回繰り返し行い標準偏差を算出 し、平均値と誤差をグラフに表示した。プライマーと PCR 条件は表10 に記載した。 - 70 - 第四章 表 9 RT-PCR プライマーの配列の反応条件 - 71 - 第四章 表 10 リアルタイム RT-PCR プライマーの配列の反応条件 - 72 - 第四章 4-3 実験結果 4-3-1 マウス ES 細胞からの肝細胞分化過程における肝臓特異的な転写 因子の発現パターン 肝細胞の分化処理において内胚葉と肝臓で主に発現している転写因子 の発現プロファイルを明らかにするために、RT-PCR 法を用いてその発 現解析を行った。内胚葉に関連した転写因子としては HNF1alpha、 HNF1beta、 HNF3alpha、HNF3beta、HNF3gamma、HNF4alpha の発 現が分化誘導 1 日目で上昇していることが確認できた(図 4-1) 。これら の転写因子は分化誘導前(0 日目)では発現していない。そして肝細胞 分化処理を行っていないサンプルにおいては 3 日目まではその発現は確 認できなかった。対照的に肝細胞で発現が誘導される転写因子として HNF6、 C/EBPalpha、C/EBPbeta の発現が分化誘導の 6 日目以降に確 認できた。 肝細胞分化誘導の処理を行わなかったサンプルにおいては これらの転写因子の発現はどの段階においても認められなかった。これ らの結果は内胚葉に関連した転写因子は肝細胞分化の初期段階で発現が 誘導され、肝細胞の成熟化に必要な肝臓選択的な転写因子は分化過程の 中期以降にその発現が誘導されることが示された(図 4-1) 。よって、こ れらのデータは肝細胞分化の処理により ES 細胞をまず内胚葉様系の細 胞へ分化させ、その後成熟化した肝細胞へと誘導していることを示唆し ている。 - 73 - 第四章 図4-1 内胚葉・肝細胞分化に関連した転写因子の発現解析 上段:内胚葉分化に主に関連した転写因子、下段は肝細胞の成熟化に関連した転写因 子。数字は肝細胞分化過程での日数を表す。N: 陰性コントロール(蒸留水)、P:陽性コ ントロール(正常マウス肝臓(8週齢)) 4-3-2 HNF3beta は ES 細胞からの肝細胞分化に必須である 細胞種特異的な転写因子のネットワークが肝細胞分化誘導の処理によ って制御されているかどうかを確認するため、さらに ES 細胞が内胚葉 系の細胞への分化を経て肝細胞へと分化しているかを検証するために、 内胚葉への分化に重要な転写因子のひとつである HNF3beta の発現を in - 74 - 第四章 vitro での分化システム上で抑制しその効果の検討を行うことにした。 HNF3beta を抑制するためには siRNA を利用し、分化初期段階での HNF3beta の発現を阻害する実験を計画した。 まず、ES 細胞への siRNA の導入効率を検討するために、Alexa 488 ラベルした siRNA を用いて lipofectamine 2000 試薬を用い ES 細胞への 導入を行った。その結果、 5 箇所の細胞の写真をランダムに撮影し、ロ ーダミンの陽性率から ES 細胞への導入効率を約 70%であると確認した (図 4-2)。次に HNF3beta siRNA の遺伝子抑制効率の検討を行った。 HNF3beta 遺伝子は 2 つの Exon から構成されており、その Exon2 に 4 箇所 siRNA をデザイン した(図 4-3)。そして、 HNF3beta siRNA を lipofectamine 2000 試薬を用いて導入し、1 日後にトータル RNA を抽出 し、siRNA の効果を確認した。 結果、図 4-4 に示すように幾つかの siRNA は HNF3beta の発現を抑制した。特に HNF3beta siRNA-1 は最も効果的 であり、コントロールのルシフェラーゼ siRNA と比較して 60%以上の HNF3beta の発現を抑制することが示された。 図 4-2 蛍光ラベルした siRNA による ES 細胞への導入効率の検討 - 75 - 第四章 図 4-3 HNF3beta 遺伝子に対する siRNA の配列 HNF3beta 遺伝子の Exon2 の領域に 4 種類の siRNA の配列を設定した。 図 4-4 HNF3beta siRNA の HNF3beta 遺伝子の抑制効率の検討 リアルタイム PCR によって HNF3beta の発現量は定量され、GAPDH の発現で補正 された。 - 76 - 第四章 HNF3beta の減少がマウス ES 細胞からの肝細胞分化にどのような影 響を与えるかどう かを検討するために、分化の初 期の 1、3 日目に HNF3beta siRNA-1 を用いて HNF3beta の発現を抑制した。使用した ES 細胞はアルブミン遺伝子のプロモーターコントロール下で GFP を発現 しており、アルブミンの発現量は GFP の強度と一致していると言える。 よって、肝細胞への分化の割合は GFP 陽性率で確認した。HFN3beta 抑制の結果、GFP 陽性細胞は HNF3beta とルシフェラーゼ siRNA 処理 を行った両サンプルで GFP 陽性の細胞が観察できたが、その発現強度 や効率は HNF3beta 抑制のサンプルで著しく低下していることが確認で きた(図 4-5)。発現効率を算出したところ、GFP 陽性細胞は約 60%の割 合で減少したことが認められた。これは HNF3beta siRNA 処理された細 胞では アルブミン の発現が抑 制された ことを意味 している。 さらに HNF3beta を抑制することで肝細胞への分化が抑制されていることを示 すために、肝細胞特異的な遺伝子であるトランスサイレチンやグルコー スリン酸化酵素(G6P)の発現をリアルタイム RT-PCR で検討した。その 結果、それらの因子の発現量が減少していることがわかり、肝細胞への 分化が抑制されていることが示された(図 4-6)。これらの結果は転写因 子のネットワークが肝細胞分化誘導過程で正確に制御されており、ES 細胞は肝細胞分化誘導過程で内胚葉系の細胞へ一度分化した後に、成熟 した肝細胞へと分化することを示唆した。 - 77 - 第四章 図4-5 HNF3beta siRNAによる肝細胞分化の抑制の検討 HNF3beta siRNA-1とそのコントロールとしてマウス生体中のどの遺伝子も抑制しな いluciferase siRNAをES細胞に導入し、それらのsiRNAの肝細胞分化への影響を検 討した。肝細胞への分化の割合はGFP陽性率を異なった3視野で測定して求め、グラ フにまとめた。 - 78 - 第四章 図 4-6 HNF3beta 抑制状態での肝細胞特異的遺伝子の発現抑制 アルブミン、トランスサイレチン、G6P の発現量をリアルタイム PCR によって算出 し、その値は GADPH の発現量で補正し、グラフ化した。 4-3-3 肝幹細胞において発現する遺伝子の解析 ここまでの結果より ES 細胞から肝細胞へと分化が進むにつれて、内 胚葉細胞への分化を経ていることが示された。そこで次に、肝細胞と内 胚葉細胞の途中段階において生体での肝発生時と同様に肝芽の細胞が誘 導されているかの確認をした。 肝芽や肝幹細胞で発現する遺伝子として cytokeratin 19 (CK19)、Thy1、 ganmma-glutamyl transpeptidase (GGT)、Delta-like (Dlk)を選び、 それらの発現を RT-PCR で確認した。Thy1、GGT の発現は分化誘導の 0、1、6、10 日目の全ての段階で確認された。DLK、CK19 の発現は分 化誘導の 6 日目以降で誘導されてくることが観察された。以上のことか - 79 - 第四章 ら、今後さらなる検討は必要ではあるが、in vitro における肝細細胞分化 誘導過程の途中段階で肝芽や肝幹細胞のような細胞種が出現している可 能性が示唆された。 図 4-7 肝芽において発現する遺伝子の肝細胞分化過程での発現検討 CK19、Thy1、GGT、Dlk の発現を RT-PCR 法で検討した。N: 陰性コントロール(水) L: 正常マウス肝臓(8 週齢) - 80 - 第四章 4-4 考察 ES 細胞からの肝細胞分化過程を明らかにする上で組織選択的に発現 する転写因子の発現に注目したところ、内胚葉分化に関連した転写因子 の発現は分化誘導の初期に誘導されており、肝細胞分化に必要と考えら れる因子は分化中期以降に発現が誘導されていた。本研究の以前に、他 の研究グループは生体で内臓組織のもとになる内胚葉がこれらの転写因 子の発現を起こし、内胚葉・肝細胞特異的な遺伝子であるトランスサレ チン、アルブミン、L-ピルビン酸リン酸化酵素などの因子を誘導するの に必要であることを報告している(Costa et al., 2003; Levinson-Dushnik and Benvenisty, 1997)。さらに HNF4alpha は肝臓において形態的・機 能的な分化、肝臓の糖の蓄積、肝臓の上皮構造の形成に必須であること も報告されている(Parviz et al., 2003)。また、OsM の効果は HNF4alpha を介して誘導され in vitro における肝細胞の成熟化に必要なことも証明 されている(Kamiya et al., 2001)。 今回、筆者が使用した肝細胞分化誘 導の処理において、HNF4alpha の発現は RT-PCR 解析の結果、分化が 進むにつれてはっきりと上昇することが確認された。よって、これらの データからも ES 細胞からの肝細胞分化において内胚葉系の細胞が誘導 されてきたことが示された。 HNF3beta は内胚葉への分化やその後の肝細胞への誘導に重要である と考えられている転写因子である(Dufort et al., 1998)。一方、ES 細胞か らの肝細胞分化における in vitro の実験においてその重要性は示されて いなかった。本研究において HNF3beta siRNA を用いて HNF3beta の発 - 81 - 第四章 現を抑制することでアルブミンを発現する細胞への分化を阻害すること が示された。よって、in vitro で HNF3beta の肝細胞分化における機能を 初めて明らかにしたと言える。さらにこれらの結果は HNF3beta が初期 の肝細胞分化に必須であるというマウスモデルを使用した実験の結果と 一致している(Lee et al., 2005)。In vitro において生体内の反応が検証で きたことから、肝細胞分化誘導のシステムが in vivo における肝細胞の 転写因子のネットワークを明らかにする上で重要なツールとなりうるこ とを示している。 外胚葉や中胚葉の発生のメカニズムは比較的よく検討されているが、 内胚葉細胞の発生やその後の組織の構築についてはわからないことが多 い。それは検討するための最適なモデルが存在せず in vitro での研究が 困難であったためと言える。本研究からのデータによると、肝細胞分化 誘導のシステムはマウス ES 細胞を発生段階に類似したルートで肝細胞 へと分化させることが明らかになった。この研究の背景として、このシ ステム を使用す ることで未 分化な肝細 胞で発現 するalpha-fetoprotein (AFP)遺伝子の発現は分化段階の初期に誘導されることが報告されてい る(Teratani et al., 2005)。AFP はマウスの胚発生の 4 体節期にその発現 が確認されている(Gualdi et al., 1996; Tyner et al., 1990)。加えて、その 発現は出生後すぐに減少していき、mRNA の発現量は成体肝臓では胎生 期の 0.01%以下になることがわかっている。肝臓の再生段階や腫瘍形成 などの急速な肝細胞の増殖過程においても 、AFP の再発現が報告され ている(Petersen, 2001; Petersen et al., 1999)。これらのことから、AFP はオーバル細胞と言われる肝臓の前駆体細胞のマーカー遺伝子ではない - 82 - 第四章 かとも考えられている。よって、この肝細胞分化システムを利用するこ とで肝幹細胞を分化誘導途中で確認することが可能であると考えられた。 実際に肝幹細胞で発現が報告されている遺伝子 CK19、Thy-1、 GGT、 Dlk (Holic et al., 2000; Petersen et al., 1998; Shiojiri et al., 1991; Tanimizu et al., 2004a; Tanimizu et al., 2004b)の発現を RT-PCR 法で確認したとこ ろ、それらの発現が確認された。そのデータはまだ予備的なものではあ るが、肝細胞分化の中期に発現が確認されたことから、このシステムを 用いることで胆管上皮細胞や肝細胞への二方向性の分化能を有する細胞 が得られる可能性を支持するものである。 - 83 - 第五章 第五章 ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化過程における 分子メカニズムの解明 5-1 序論 前章で述べたようにマウス ES 細胞からの肝細胞分化は発生過程を模 倣した経路によって起きることが示された。これはマウス ES 細胞がど の細胞系譜へも運命付けがされていない細胞であり、胚盤胞の内部細胞 塊から得られた細胞であるためにこのような経路で分化が進んだと考え られた。ヒト間葉系幹細胞は元来、中胚葉系の幹細胞であり、中胚葉の 細胞種である脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞のみに分化可能な細 胞と考えられていた。しかしながら、神経細胞や膵・肝細胞への分化も 報告されており、近年ではヒト間葉系幹細胞は3胚葉のすべてに分化可 能であることが示されている(Ferrari et al., 1998; Pittenger et al., 1999; Sanchez-Ramos et al., 2000; Tang et al., 2004)。今回、分化誘導し、マ イクロアレイ法によって遺伝子プロファイルを検討した肝細胞分化の場 合、肝細胞は内胚葉系の細胞であり、中胚葉系の間葉系幹細胞から胚葉 を超えた細胞分化が起きたことになる。 本章では間葉系幹細胞からの肝細胞分化過程で引き起こされる分化転 換のメカニズムをマイクロアレイのデータをもとに明らかにする。分化 - 84 - 第五章 転換を起こすメカニズムはいくつか示されている。例えば、脱分化や上 皮間葉転換 (Epithelial to mesenchymal transition: EMT)などがあげられ る。特に上皮間葉転換に関わる遺伝子として Twist、snail などが知られ ており、これらの遺伝子は EMT 調節因子で、その発現が上昇すると EMT が誘導されることが報告されている(Peinado et al., 2007; Yang et al., 2004)。上皮細胞で発現する E-カドヘリンの発現は Twist や snail によっ て抑制され、代わりに間質細胞で発現する N-カドヘリンの発現は上昇す る(図 5-1) 。また、最近の報告では Twist の下流で発現する microRNA10b が転移に関わる因子である Rho ファミリーの遺伝子の発現を制御す ることも明らかになっており、これらの EMT 調節因子が EMT を誘導し、 がんの転移などにも関わってきていることが広く知られている(Ma et al., 2007)。そこで、マイクロアレイ解析の結果から EMT 調節因子である Twist や Snail、上皮細胞や間質細胞で発現する遺伝子の発現を未分化な間葉 系幹細胞と間葉系幹細胞由来肝細胞で詳細に確認・比較していくことで 肝細胞分化過程の分化転換のメカニズムの一端を明らかにする。 - 85 - 第五章 図 5-1 上皮間葉転換(EMT)と EMT 調節因子の関連 - 86 - 第五章 5-2 材料と方法 5-2-1 EMT 関連遺伝子の発現量の検討 One-Color Microarray-Based Gene Expression 解 析 (Agilent Technologies, Tokyo, Japan)より得られた25721クローンの遺伝子デー タより、EMTに関連する遺伝子:Twist1、Twist2、E-カドヘリン、alphaカテニン、N-カドヘリン、ビメンチンの未分化間葉系幹細胞および間葉 系幹細胞由来肝細胞での発現量をまとめ、その変化を算出した。 - 87 - 第五章 5-3 実験結果 5-3-1 肝細胞分化過程における間葉上皮転換の確認 第一、二章で示したように、間葉系幹細胞は確かに肝細胞様細胞へと 分化することが確認されたが、分化転換とその分子メカニズムについて は多くの疑問が残る。間葉系幹細胞から肝細胞への移行における分子過 程を明らかにするために、筆者は特に間葉上皮転換(mesencyhmal-toepithelial transition: MET)に注目することにした。間葉上皮転換は間質 細胞(間葉系幹細胞)から上皮細胞である肝細胞へと細胞形態が変化す る過程をあらわしている。マイクロアレイ解析より上皮間葉転換 (epithelial- to-mesenchymal transition: EMT )を誘導する因子である Twist や Snail が肝分化過程で発現が減少していることが認められた(表 11)。 さらに上皮細胞で発現する遺伝子の E-カドヘリンや alpha-カテニンは間 葉系幹細胞由来肝細胞で発現が上昇していた。一方、間質細胞で発現す る遺伝子である N-カドヘリンやビメンチンの発現が分化後は減少してい ることが認められた(表 11)。肝細胞分化の間に細胞の形態が線維芽細 胞様から上皮様に劇的に変化することが観察されている(図 5-2)。これ は間葉上皮転換が間葉系幹細胞からの肝細胞分化において起きているこ とを支持するデータである。 間葉系幹細胞からの肝細胞への分化転換 における分子メカニズムを明らかにするためにはさらなる検証が必要で はあるが、ここで示したマイクロアレイのデータは間葉上皮転換が幹細 胞の分化転換や可塑性を決定する上で重要な因子のひとつであろうと考 えられる。 - 88 - 第五章 表 11 肝細胞分化過程での EMT 関連因子の発現 それぞれの遺伝子の発現量をもとに比を算出した。 図 5-2 肝細胞分化過程における細胞形態の変化 未分化な間葉系幹細胞は線維芽細胞様の形態を示す。分化後の細胞は上皮様の細胞形 態を示す。 - 89 - 第五章 5-4 考察 間葉上皮転換は上皮間葉転換の反対の現象である(Nakaya et al., 2004; Zipori, 2004)。上皮間葉転換はがん細胞の転移・浸潤や胚発生時に生じ る重要な現象である。本研究において間葉上皮転換による分化転換が間 葉系幹細胞からの肝細胞分化過程でおきていることを示した(Kang and Massague, 2004)。これまでに成熟細胞への分化転換における詳細な解 析のデータは報告されていない。本研究において、間葉系幹細胞の中胚 葉の表現型から上皮様の細胞である肝細胞への分化転換が、間葉上皮転 換によって引き起こされたと考えられる。 マイクロアレイのデータが示したように、間葉系幹細胞は間質で発現 する因子である N-カドヘリンやビメンチンが発現していた。さらに上皮 細胞で発現する E-カドヘリンはその発現量が肝細胞分化によって 81 倍 に上昇した。さらに予備的なデータではあるが、マイクロアレイを基に した遺伝子のプロモーター部分の網羅的なメチル化解析(Hatada et al., 2006)によって間葉系幹細胞由来肝細胞において 39 遺伝子のプロモータ ー部分がメチル化され、8 遺伝子のプロモーター部分が脱メチル化する ということが示された。非常に興味深いことにメチル化された遺伝子の 中には Twist が含まれており、肝細胞分化の進んだ細胞では Twist のプ ロモーター部分がメチル化され、エピゲネティックなゲノムの修飾によ ってその発現が抑制されていると示唆された。 これらのデータは間葉上皮転換による分化転換を支持するものである。 この解析において、ゲノムのメチル化された遺伝子と肝細胞分化過程の - 90 - 第五章 密接な関連性は明らかにできてはいないが、様々な観点から分化転換の メカニズムを検討していくことによって、最終的には間葉系幹細胞から の肝細胞分化のメカニズムを解明することに繋がると期待できる。 - 91 - 第六章 第六章 本研究の総括および今後の課題 マウス ES 細胞・ヒト間葉系幹細胞はともに可塑性を持つ細胞であり、 多くの研究報告によってそれらが肝細胞へと分化可能あることが示され ている。しかしながら、それらの研究では代表的な肝機能のいくつかを 確認したに過ぎず、数百にも及ぶ肝機能を包括的に検討したとは言えな かった。本研究ではマウス ES 細胞・ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分 化誘導系においてマイクロアレイ法を用いて肝細胞への分化の確認を行 った。それにより、肝細胞分化の処理によって誘導されてくる遺伝子が 肝機能に深く関わるものであることを明らかにした。さらにマイクロア レイ法や RT-PCR 法に基づいた知見からそれぞれの幹細胞からの肝臓分 化の一連の過程を明らかにした。筆者は ES 細胞・間葉系幹細胞を用い てそれぞれの細胞由来の肝細胞の特性並びに分化過程における詳細な分 子メカニズムの解明を目的とし研究を行った。 第一章では、肝臓の構造・発生過程について、さらには研究背景とし てマウス ES 細胞・ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化についての先行 研究について述べた。前述したように肝臓の発生は受精後 8 日目で内胚 葉系の細胞が心臓中胚葉からのシグナルにより分化が進み、肝芽と呼ば れる状態になり、様々な細胞の段階を経て分化は経過していくことが明 らかになっている。本研究で用いたマウス ES 細胞・ヒト間葉系幹細胞 の分化系はともに数段階を経て、細胞を一歩一歩、肝細胞へと近づけて - 92 - 第六章 いくシステムである。この点も生体の発生段階に類似していると考えら れる。両システムとも単層培養方法を用いており、マウス ES 細胞から は約 30%、ヒト間葉系幹細胞からはほぼ 100%の細胞が肝細胞様の細胞 へと分化が起きる。特にマウス ES 細胞からの肝細胞分化誘導系は胚葉 体を形成しないシステムである。これまでは、他の研究グループが ES 細胞から肝細胞分化を行う際には胚葉体を使用した分化システムが主で あった。胚葉体を使用した多くの手法ではその分化効率も低く、胚葉体 内で起きる遺伝子変化を見るのは非常に困難であった。つまり、高効率 な分化誘導方法の確立によって、分化過程における詳細な発現解析が可 能になったと言える。 第二章では、マウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞から得られた肝細胞 の包括的な遺伝子発現解析を行うために、マイクロアレイ法を用いた解 析を行った。その結果、両幹細胞ともに各実験でのコントロールサンプ ルの発現パターンと比較して顕著に変化の起きた遺伝子に限定して、ク ラスターリング解析を行ったところ、幹細胞由来肝細胞と正常肝臓での 遺伝子発現パターンに高い相関が認められた。しかしながら、マイクロ アレイ法で得られた全ての遺伝子データを用いたクラスターリング解析 では、そのような高い相関を得ることはできなかった。つまり、肝細胞 分化の処理で発現変化のあまり起こらなかった遺伝子に関しては相関が 低いということを示している。この結果は肝細胞処理の制御外の遺伝子 については、肝臓で発現している遺伝子とは同じような発現にならない ということを表しているが、正常肝臓と初代培養肝細胞においても多く の遺伝子の発現は異なっており、肝細胞分化処理の制御外にある遺伝子 - 93 - 第六章 の発現レベルは細胞の存在状態に深く依存すると考えられる。幹細胞由 来肝細胞を生体に近い状態、例えばバイオマトリックスを使用した 3 次 元培養法などを用いて細胞間相互作用を高い状態で保たせる培養方法や 肝臓に含まれている類洞内皮細胞・胆管上皮細胞・中皮細胞との共培養 などを行い in vivo に近い状態に細胞を持っていくことで、正常の肝細 胞・肝臓とより近い遺伝子発現を示すようになると考えられる。 第三章では、それぞれの幹細胞由来肝細胞においてジーンオントロジ ー解析を行い、発現変化の確認された遺伝子がどのような遺伝子カテゴ リーに属するかの検討をした。ヒト間葉系幹細胞からの肝細胞分化の解 析においては非常に検出感度の高いマイクロアレイを用いた解析が可能 であったため、10 倍以上という非常に精度の高い基準を用いて遺伝子 を選抜し、なおかつ多くの発現変化を起こす遺伝子(発現上昇:1252 ク ローン、発現減少:387 クローン)を抽出することが可能であった。しか し、ES 細胞由来の肝細胞分化の解析においては、実験実施当時として は感度の比較的高いマイクロアレイの基盤を用いた解析を行ったが、2 倍以上という実験の正確性が保証されている最低ラインの基準を用いて 遺伝子の抽出をしたにもかかわらず、発現上昇:200 クローン、発現減 少:32 クローンと、間葉系幹細胞由来肝細胞のデータと比較して少な い数の遺伝子データしか得ることができなかった。そのために、間葉系 幹細胞からの肝細胞分化の解析では発現上昇・減少の遺伝子リストを分 けてジーンオントロジーの解析が可能であったが、ES 細胞由来肝細胞 では減少した遺伝子 32 クローンを用いたのでは有意な出現率の遺伝子 カテゴリーは検出されなかった。さらに現時点も最も精度・検出感度の - 94 - 第六章 高いマイクロアレイの基盤を使用することで本研究では見てとることが できなかった ES 細胞由来の肝細胞の特性をより正確に明らかにするこ とが可能であると考えられる。それを行うことは ES 細胞からの肝細胞 分化に必須な分化のキーとなる因子の探索を行う上でも有益であると考 えられる。 第四章では、肝細胞特異的な転写因子の RT-PCR 法による ES 細胞か らの分化過程での発現解析と siRNA を用いた HNF3beta 遺伝子の抑制 実験により、ES 細胞からの肝細胞分化誘導系は生体における肝臓の発 生を模倣したシステムであることが示された。具体的にはステージ1と して全能性を有した ES 細胞、ステージ 2 として HNF3beta などの転写 因子が発現する内胚葉細胞、ステージ 3 として未分化な肝細胞または肝 幹細胞のマーカー遺伝子を発現する細胞、ステージ 4 として TDO2 など の遺伝子を発現する成熟した肝細胞、という順序を経て分化することが 示唆された。よってこのシステムを使用することで in vitro の状態で、in vivo の発生段階を再現するのに近い研究が可能になると考えられる。 本研究で得られた肝細胞分化にはまだ問題も存在する。それは内臓内 胚葉(Visceral endoderm (VE))の存在である。VE は受精卵の内部細胞 塊から派生する胎生期の組織で、その遺伝子発現や機能は非常に肝細胞 に似た組織である。脂質代謝やグルコース産生能、血清タンパク質の分 泌も行っており、胎生組織由来の VE と肝細胞の見分けは非常に困難で ある。理論上は ES 細胞由来肝細胞は成熟肝細胞ではなく VE 由来の肝 細胞様の細胞という可能性も考えられる。しかしながら、第一章で示し たように肝細胞特異的な遺伝子 CYP7A1 の発現が ES 細胞由来肝細胞に - 95 - 第六章 おいても確認されている。他の研究グループによって CYP7A1 の発現は 成熟した肝細胞のみで確認され、VE では発現していないことが報告さ れている。さらに先行研究において、ジエチルニトロソアミン処理し肝 障害を起こしたマウスに ES 細胞由来肝細胞を尾静脈注射し移植すると 肝臓に定着し、肝機能をサポートすることが確認されている(Teratani et al., 2005)。また、同じ増殖因子群の添加により間葉系幹細胞からも機能 的な肝細胞が誘導されることが証明されている。以上のことから HGF、 FGF1、FGF4 処理を行うことで ES 細胞からは VE ではなく機能的な肝 細胞へと正確に誘導されていると考えられる。 第五章では、間葉上皮転換による間葉系幹細胞から肝細胞への分化転 換を述べた。肝細胞分化に必要な因子HGF、FGF1、FGF4は肝障害マウ スのモデルから同定された遺伝子である。つまり、肝発生よりも肝再生 の状態を模倣する分化誘導の実験において、本来の意味をなすと考えら れる。間葉系幹細胞は生体の骨髄や脂肪組織などいくつかの組織に点在 して存在する。これらの細胞は中胚葉系の幹細胞であり、脂肪、筋組織、 骨・軟骨などへの分化能を有するが、外胚葉系の神経細胞への分化能も 報告されている。また、間葉系幹細胞は多くのケモカイン受容体を発現 しており、炎症を持った部位に集まる性質も確認されている。これらの 現象を総合して考慮すると、間葉系幹細胞は生体組織の緊急時にその臓 器に骨髄や脂肪組織から移行していき、再生状態の臓器から分泌する因 子を受け取り、その細胞へと分化する働きがあると推測できる。つまり、 HGF、FGF1、FGF4を用いた肝細胞分化誘導はES細胞を肝細胞へと変 える能力以外に、間葉系幹細胞を分化転換させ、尚かつ肝細胞への分化 - 96 - 第六章 を引き起こす働きがあることを示している。現状として胚葉を超えた分 化には未だ様々な意見が存在しており、今回の分化転換についてもさら なる検討が必要ではあるが、この分化転換のメカニズムを詳細に研究す ることは幹細胞の可塑性を明らかにする上で非常に重要であるといえる。 本研究により、マウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞の2種の幹細胞 が共に遺伝子発現の制御を受けて肝細胞へと分化する能力を持ち、かつ、 その過程の全容を明らかにした。しかし、その分化様式は由来の異なる 幹細胞から派生する肝細胞では異なることを見出した。すなわち、全能 性を有する ES 細胞では内胚葉を経て肝細胞へと分化するという本来の 発生過程を模倣した分化様式であるのに対し、間葉系幹細胞は間葉上皮 転換の遺伝子発現の変化に裏打ちされた中胚葉から内胚葉への転換を経 て肝細胞へ誘導する再生過程を模倣したものであると考えられる。 幹細胞から肝細胞へ分化する過程を解明することによって、医療分野 での貢献が可能になる。同時に、幹細胞特有の性質・可塑性を理解する 上で基礎生物学的にも非常に重要なことである。特にがん化を伴うこと なく、高い効率で肝細胞を分化誘導する手法の開発に不可欠な知見とな る。再生医療への導入を視野に入れた際、脂肪組織由来間葉系幹細胞は、 低侵襲的に得ることができ自家移植が可能である点や、本研究成果によ る肝機能の比較検討から、肝不全の治療への応用に有効であると期待し ている。重篤な肝不全の治療には肝移植を用いるしかないが、幹細胞由 来の肝細胞を根治治療として再生医療分野で移植することが可能になれ ばドナー不足は解消し、医学のみならず社会的にも大きな成果となる。 - 97 - 第六章 図 6 本実験のまとめ マウス ES 細胞とヒト間葉系幹細胞からともに肝細胞へと分化することはマイクロア レイ法によって検証された。しかし、ES 細胞は発生過程を模倣した経路で分化、間 葉系幹細胞は分化転換をおこし、おそらく再生過程に起きる分子変化を経て肝細胞へ と誘導されると考えられた。 - 98 - 謝辞 謝辞 本研究を行うにあたり、博士課程在学中にご指導を賜りました早稲田 大学大学院理工学研究科・教育学部の加藤尚志教授に深く感謝申し上げ ます。また、実際に筆者が実験を行うにあたり国立がんセンター任意研 修生として所属することを認めて下さり、分子生物学的手法をはじめ多 くの手法を教えて下さいました国立がんセンター研究所 がん転移研究 室室長・早稲田大学大学院理工学研究科客員教授の落谷孝広博士に御礼 申し上げます。 さらに、以下の方々は、本研究の成就に大きな力を与えて下さいまし た。ここに厚く御礼申し上げます。本論文に対してご指導、ご批評、ご 助言を下さった国立がんセンター研究所 がん転移研究室研究員寺谷工 博士・竹下文隆博士・Gary Quinn博士・Agnieszka Banas海外招聘研究 員、群馬大学 畑田出穂准教授に御礼申し上げます。 DNAチップ研究所の松原謙一博士、村田成範博士・木下健司博士・Lim Chun Ren博士にはDNAマイクロアレイの解析を行うにあたり、様々な 統計的手法を教えて下さり、研究を進める上での貴重なご助言、ご指導、 激励の言葉を下さいました。 最後に、他施設での出向において研究を進めていく上で小坂展慶を始 めとする加藤尚志研究室の諸兄姉にも大変にお世話になりました。この 場を借りて感謝申し上げます。 - 99 - 参考文献 参考文献 Alberts, B., Johnson, A., Lewis, J., Raff, M., Roberts, K., Walter, P. 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(2008) A comparative analysis of transcriptome and signal pathway in hepatic differentiation of human adipose mesenchymal stem cells. FEBS J in press Yang, J., Mani, S. A., Donaher, J. L., Ramaswamy, S., Itzykson, R. A., Come, C., Savagner, P., Gitelman, I., Richardson, A. and Weinberg, R. A. (2004). Twist, a master regulator of morphogenesis, plays an essential role in tumor metastasis. Cell 117, 927-939. Yin, Y., Lim, Y. K., Salto-Tellez, M., Ng, S. C., Lin, C. S. and Lim, S. K. (2002). AFP(+), ESC-derived cells engraft and differentiate into hepatocytes in vivo. Stem Cells 20, 338-346. Zaret, K. S. (1996). Molecular genetics of early liver development. Annu - 117 - 参考文献 Rev Physiol 58, 231-251. Zaret, K. S. (2002). Regulatory phases of early liver development: paradigms of organogenesis. Nat. Rev. Genetics 3, 499-512. Zhao, D. C., Lei, J. X., Chen, R., Yu, W. H., Zhang, X. M., Li, S. N. and Xiang, P. (2005). 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Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Eng 7, 211-228 - 119 - No.1 早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書 氏 名 山本 雄介 印 (2008 年 2 月現在) 種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む) ○ 1. A comparative analysis of transcriptome and signal pathway in hepatic differentiation of human adipose mesenchymal stem cells. FEBS J (2008) 印刷中 Yamamoto Y, Banas A, Murata S, Ishikawa M, Lim CR, Teratani T, Hatada I, Matsubara K, Kato T, Ochiya T. 2. Recapitulation of in vivo gene expression during hepatic differentiation from murine embryonic stem ○ cells. Hepatology, 42: 558-67, (2005) Yamamoto Y, Teratani T, Yamamoto H, Quinn G, Murata S, Ikeda R, Kinoshita K, Matsubara K, Kato T, Ochiya T. 3. Adipose tissue-derived mesenchymal stem cells as a source of human hepatocytes. Hepatology. 46: 219-228, (2007). Banas A, Teratani T, Yamamoto Y, Tokuhara M, Takeshita F, Quinn G, Okochi H, Ochiya T. 4. Liver cells from embryonic stem cells. In: Pediatric Gastroenterology 2004-Reports from the 2nd World Congress of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition. Italy, Medimond S.r.l., 187-193, (2004) Ochiya T, Quinn G, Yamamoto Y, Teratani T. 論文 総説 講演 1. Stem cell plasticity: learning from hepatogenic differentiation strategies. Review, Developmental Dynamics. 236: 3228-3241, (2007) Banas A, Yamamoto Y, Teratani T, Ochiya T. 2. バイオ人工肝臓の新しい細胞ソースとしてのステム細胞の評価 再生医療8月号 メディカルレビュー社 401-407 (2006) 山本雄介、Agnieszka Banas、寺谷工、落谷孝広 3. 再生医療における肝再生の現状—幹細胞からの肝細胞への分化誘導と肝障害治療への展望 P669-673 化学と生物 10 (2006) 寺谷工、山本雄介、落谷孝広 4. 再生医療シリーズ『28』研究用ヒト細胞ソースとしての間葉系幹細胞の可能性 P419(23)-431(35) Organ Biology Vol. 13 No.4 (2006)別冊 寺谷工、山本雄介、落谷孝広 1. Adipose tissue-derived stem cells as a source of hepatocytes: genetic and functional studies. The 5th annual meeting of IFATS 2007 Oct. Indianapolis Agnieszka Banas, Yusuke Yamamoto, Makoto Tokuhara, Takumi Teratani, Hitoshi Okochi, Takahiro Ochiya. 2. Cancer patient’s own adipose tissue mesenchymal stem cells as a source for stem cell-based therapy for liver cancer. The 66th annual meeting of the Japan Cancer Association, 2007 Oct. Yokohama Agnieszka Bnas, Yusuke Yamamoto, Makoto Tokuhara, Takumi Teratani & Takahiro Ochiya. 3. Transcriptome Profiling to define the Hepatic Differentiation of Human Adipose Tissue-derived Mesenchymal Stem Cells and Their Gene Pathway 第4回 肝細胞医生物研究会 2007年4月山本雄介、バナス アグネス、寺谷工、落谷孝広 No.2 早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書 種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む) Human adipose tissue-derived stem cells as a source of functional hepatocytes.第 6 回 日本再 生医療学会学術総会 2007 年 3 月 横浜 バナス アグネス、徳原 真、寺谷工、山本雄介、大河内仁志、落谷孝広 5. ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞を用いた肝疾患治療に対する評価 第 65 回 日本癌学会学術総会 2006 年 9 月 横浜 寺谷工、山本雄介、バナス アグネス、クイン・ギャリー、玉谷卓也、落谷孝広 6. 機能的肝細胞のソースとしての脂肪組織由来幹細胞の有用性 第 65 回 日本癌学会学術総会 2006 年 9 月 横浜 バナス アグネス、徳原真、寺谷工、クイン・ギャリー、山本雄介、落谷孝広 7. Transcriptome Analysis to Define the Hepatic Differentiation of Human Mesenchymal Stem Cell. Gordon Research Conference-Molecular cell biology 2006 Jul. Tilton Yusuke Yamamoto, Takumi Teratani, Shigenori Murata, Kenichi Matsubara, Takashi Kato, Takahiro Ochiya 8. Transcriptome profiling of hepatic differentiation from mesenchymal stem cell. 20th IUBMB International Congress of Biochemistry and Molecular Biology and 11th FAOBMB Congress 2006 Jun. Kyoto Yusuke Yamamoto, Takumi Teratani, Shigenori Murata, Kenichi Matsubara, Takashi Kato, Takahiro Ochiya 9. 移植医療としての間葉系幹細胞由来ヒト肝細胞の評価 第 5 回日本再生医療学会 2006 年3月 岡山 寺谷 工、山本雄介、Gary Quinn、Agnes Banas、玉谷卓也、落谷孝広 10. Human adipose stem cells as a source of functional hepatocytes 第 5 回日本再生医療学会 2006 年3月 岡山 Agnes Banas、徳原真、寺谷 工、Gary Quinn、山本雄介、大河内仁志、落谷孝広 11. ES 細胞の in vitro 肝細胞分化誘導系における肝幹細胞の探索第 28 回日本分子生物学会 2005 年 12 月 福岡 山本雄介、寺谷工、野川菜美、石田貴子、加藤尚志、落谷孝広 12. Recapitulation of in vivo Gene Expression During Hepatic Differentiation from Mouse Embryonic Stem Cells Society of Developmental Biology 64th ANNUAL MEETING 2005 Jul. San Francisco Yusuke Yamamoto, Takumi Teratani, Takashi Kato, Takahiro Ochiya 13. ES 細胞の肝細胞分化に伴う遺伝子発現解析 第 4 回日本再生医療学会 2005 年 3 月 大阪 山本雄介、寺谷工、加藤尚志、落谷孝広 14. ヒト間葉系幹細胞由来肝細胞の新たな展開 第 4 回日本再生医療学会 2005 年 3 月 大阪 落谷孝広、山本雄介、寺谷 工 15. ES 細胞の肝細胞分化及び成熟化を制御する分子メカニズムの解析 第 27 回日本分子生物学会 2004 年 12 月 神戸 山本雄介、寺谷 工、村田成範、池田理恵子、木下健司、松原謙一、加藤尚志、落谷孝 広 16. Liver Cells from Embryonic Stem Cells the 2nd World Congress of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition E703R9075 Paris, 2004 Jul Takahiro Ochiya, Gary Quinn, Yusuke Yamamoto, Takumi Teratani 4. No.3 早稲田大学 博士(理学) 学位申請 研究業績書 種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む) 17. ES 細胞から肝細胞への分化に関与する核内転写因子の解析第 26 回日本分子生物学会(ワ ークショップ)2003 年 12 月 神戸 山本雄介、寺谷工、加藤尚志、落谷孝広 著書 1. "Stem cells into liver"--basic research and potential clinical applications. Adv. Exp. Med. Biol. Vol. 585, 3-17, (2006) Banas A, Quinn G, Yamamoto Y, Teratani T, Ochiya T. 2. Plasticity of adult stem cells into liver. Current Research in Hepatology. P1-18, (2007) Yamamoto Y, Banas A, Kato T, Ochiya T. その他 レーザートラッピング技術を駆使した組織ナノデバイスの構築と応用 バイオテクノロジージャーナル3,4月 羊土社 P160 164 (2005) 山本雄介、寺谷工、落谷孝広 2. Laser-manipulated Cell Patterning on a Micro-device for Tissue Engineering. Submitted (2007) Yamamoto Y, Teratani T, Matsumoto Y, Hayashi K, Oh I, Sato S, Munekane M, Masuhara H, Kato T , Ochiya T. 3. RPN2 gene confers docetaxel resistance in breast cancer. Revised (2007) Honma K, Iwao-Koizumi K, Takeshita F, Yamamoto Y, Yoshida T, Nishio K, Nagahara S, Kato K, Ochiya 4. Streptozotocin-induced partial beta cell depletion in nude mice without hyperglycaemia induces pancreatic morphogenesis in transplanted embryonic stem cells. Diabetologia. 49:2948-2958. (2006) Takeshita F, Kodama M, Yamamoto H, Ikarashi Y, Ueda S, Teratani T, Yamamoto Y, Tamatani T, Kanegasaki S, Ochiya T, Quinn G. 5. FGF-4 regulates neural progenitor cell proliferation and neuronal differentiation FASEB J. 20:1484-1485. (2006) Kosaka N, Kodama M, Sasaki H, Takeshita F, Yamamoto Y, Sakamoto H, Kato T, Terada M, Ochiya T. 6. Long-term maintenance of liver-specific functions in cultured ES cell-derived hepatocytes with hyaluronan sponge. Cell Transplant. 14:629-635. (2005) Teratani T, Quinn G, Yamamoto Y, Sato T, Yamanokuchi H, Asari A, Ochiya T. 7. Efficient delivery of small interfering RNA to bone-metastatic tumors by using atelocollagen in vivo. Proc Natl Acad Sci U S A. 102:12177-12182, (2005) Takeshita F, Minakuchi Y, Nagahara S, Honma K, Sasaki H, Hirai K, Teratani T, Namatame N, Yamamoto Y, Hanai K, Kato T, Sano A, Ochiya T. 8. Atelocollagen-mediated synthetic small interfering RNA delivery for effective gene silencing in vitro and in vivo. Nucleic Acids Res.32:e109, (2004) Minakuchi Y, Takeshita F, Kosaka N, Sasaki H, Yamamoto Y, Kouno M, Honma K, Nagahara S, Hanai K, Sano A, Kato T, Terada M, Ochiya T. その他講演 13 回 1.