Comments
Description
Transcript
2071_0005_30.
学会出張報告 北米神経科学会参加報告 石金 浩史 今年度は10月17日から10月21日の会期で米国 シカゴのMcCormick Placeで開催された,第45 回 北 米 神経 科 学 会(Society for Neuroscience: SfN)に参加した。神経科学や周辺領域を専門と する研究者が参加する,この分野を牽引する中 心的な学会大会であり,今回大会では世界の 80ヵ国以上の国から3万人が参加した。SfNのポ スターセッションは規模が大きく,大会を実施す るにあたり巨大な会場が必要であるため,米国 でも限られた数カ所のコンベンションセンターで しか開催できない。今回会場となったシカゴの McCormick Placeは,連邦政府ビルなどが建ち 並び,シカゴ派による摩天楼で知られるビジネス 街であるループ地区より南部に位置する,北米 最大のコンベンションセンターである。シカゴに限らずどこの会場でもそうだが,SfNの大会初日 はコンベンションセンターに粛々と流れ込んでいく大勢の参加者の表情から高揚感が窺える。今 大会ではFeatured Lecture 10件,Special Lecture 15件,Symposium 19件,Minisymposium 31件があり,ポスター発表もあわせると15,000件以上の発表があった。筆者は運動方向選択性神 経節細胞(direction-selective ganglion cell: DSGC)の方向選択性を形成する局所神経回路網 に関する研究を行ってきたが,今回大会の網膜関連の発表は,大半がこのDSGCに関連する実験 を行った研究であった。その中でも特に目を引いたのは,Chicago大学のWei博士の研究チーム の発表であった。彼女たちは,ON–OFF DSGCのサブグループに蛍光色素を発現させることで 可視化したマウスを用い,さらにStarburst amacrine細胞においてシナプス小胞内にGABAを 充填するトランスポーター遺伝子を欠失したマウスを用いてDSGCの機能を調べた。筆者らのこ れまでの研究成果により,Starburst amacrine細胞の活動がDSGCの運動方向選択性に必須で 専修大学 心理科学研究センター年報 第5号 2016年3月〈153〉 あり, DSGCがOptokinetic response(OKR)に関与していることが明らかになっている(Yoshida et al., 2001) 。さらに,他の研究グループの成果により,そのStarburst amacrine細胞からDSGC に対するGABA放出による非対称な抑制性入力が,運動方向選択性の神経基盤であることが示 唆されており(Fried et al., 2002) ,定説とされてきた。しかしながら,Wei博士らが被験体とし て用いたマウスでは,Starburst amacrine細胞からのGABA放出が押さえられているにもかかわ らず,半分程度のDSGCは方向選択性を失ったが,残りのDSGCは運動方向選択性を完全には失 わなかった。したがって,確かにStarburst amacrine細胞の非対称なGABAによる抑制はDSGC の運動方向選択性を形成するが,他にも運動方向選択性を形成するメカニズムが存在すること が示唆されたことになる。彼女たちは,同じくStarburst amacrine細胞が放出する興奮性の伝達 物質であるアセチルコリンの関与を想定しているようだ。しかしながら,別のニューロンやこれ まで想定されなかった神経基盤も運動方向選択性の形成に関与することも考えられるため,今後 の世界の研究動向が注目される。また,当然我々も解明に挑戦していくつもりである。このよう に,非常に刺激的なSfN参加となった。 引用文献 Fried, S.I., Münch, T.A., & Werblin, F.S.(2002) . Mechanisms and circuitry underlying directional selectivity in the retina. Nature, 420 , 411-414. Yoshida, K., Watanabe, D., Ishikane, H., Tachibana, M., Pastan, I., & Nakanishi, S.(2001) . A key role of starburst amacrine cells in originating retinal directional selectivity and optokinetic eye movement. Neuron, 30 , 771-780. 〈154〉研究プロジェクト成果紹介