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第3部: 都市のビジネスにおけるトリプルボトムライン
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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目次
Networked Society City Index (ネットワーク化社会都市指標) の目的は、都市の成熟度と、社会、
経済、環境の展開状況をICTの観点から包括的に評価することにあります。エリクソンは世界の25の
都市を、都市、市民、そして今回はビジネスの観点に焦点を当てて分析しました。
1
エグゼクティブサマリー
3
2
都市の生活
6
3
経済の変革
7
4
ビジネスの観点から
8
5
環境面から見たビジネス上の利点
10
6
Networked Society City Index
12
7
主要な結果
14
8
結論
18
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 3
エグゼクティブ
サマリー
シリーズ最終回となるNetworked Society City Indexレポート第3部では、世界的な大都市に
おけるICTによる利益の創出について分析します。第1部と第2部では、コンサルタント会社 Arthur D.
Littleの協力を得て、都市と市民にもたらされる利益に注目しましたが、最終回となる今回のレポート
はビジネスに焦点を当てています。
以前の調査と同様、今回の指標も都市におけるICTの成
熟度と、経済、社会、環境という3つの基本的要素 (トリ
プルボトムライン) の発展状況の間の強い相関関係を示し
ています。ICTが創出する3つの面での利益というトレン
ドから外れている都市はごくわずかです。また、ICTの成
熟度が高まることでトリプルボトムラインの恩恵が減少す
るという兆しはありません。つまりICT成熟度が最も高い
都市でも、ICTへの投資を続けていけばその後もその恩
恵を被ることができるのです。
ます。エリクソンの収集したデータによると、ICTの成熟
に伴う発展を牽引するのは、当初は都市の公共機関や事
業者ではなく個人です。ICTがもたらす機会を育み、イノ
ベーションを加速するのは個人とソーシャルネットワーク
です。都市の当局者は、市民の行動の変化に適応し、社
会的、経済的、環境的な進歩を牽引していく立場にあり
ます。ビジネスもまた効率化を目的として革新的なICTを
取り入れたいと考えていますが、まだ大きな変革の導入
を躊躇している段階です。
今回の分析では、ニューヨークが全体ランキングでトップ
であり、
それに続いてストックホルム、
ロンドン、
シンガポー
ルが上位を占めています。好ましいビジネス条件、ビジネ
スのしやすさ、明確な法的枠組み、経済界と大学の協力
体制、急成長しているデジタル経済という有利な組み合
わせが存在するニューヨークは、社会、経済面で最高得
点を獲得し、環境面でもトップ3に入りました。
3部にわたるCity Indexレポートの目的は、ICTがもたらす
トリプルボトムラインの恩恵を、都市、市民、ビジネスと
いう3つの観点から捉える包括的な都市指標を開発する
ことでした。今回の調査では、3番目の基本的利益として、
都市においてICTがビジネスにもたらす利益に焦点を当て
ています。
都市、市民、ビジネスという3つの要素を比較すると、利
益の創出には興味深いパターンが存在することがわかり
今回のレポートの作成にあたっては、スウェーデン商工会
議所およびUrbanity Labs ABの協力を得ました。
図1: City Indexマップ
Networked Society City Indexは、都市のICT成熟度と社会的、経済的、環境的発展
(3つの基本的利益) を比較した包括的な指標を開発することを目指しています。
4 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – PART III 5
都市の生活
今日都市部で生活する人々の数は地方で暮らす人々の数を上回っており、2050年には世界の人口の
70%が都市部に居住することになると見込まれています。実際、世界的に見ても人口の増加は都市
で発生しており、開発途上国の都市部がその増加の大部分を占めています。この状況は大きな課題
をもたらす一方で、大きな機会を生むものでもあります。
都市は地球上の資源の大部分を消費している一方、イノ
ベーションと、資源利用を効率化する新しい方策の探究
に中心的な役割を果たす場所でもあります。これらの進
歩の多くは、民間事業がリードし、大きな経済的、環境的、
社会的な恩恵をもたらしています。
国連は、継続的な繁栄をもたらす持続可能な都市を作り
出すという果敢な挑戦を掲げています。この挑戦で中心
的な役割を果たすのはICTです。モバイルブロードバンド
と新しいデジタルサービスの急成長により、都市とその
産業の活動、発展、そしてやがては変革のあり方が根本
的に変わろうとしています。モビリティやクラウドといっ
た技術は多くの産業の基幹となるプロセスに組み込まれ
ており、企業間や都市インフラによるデータの共有がま
すます一般的な事象となってきています。
都市における公共事業、輸送、教育、医療、小売、行政、
金融、文化、娯楽などのすべての事業は、製品やサービ
スに対する消費者の需要や購買方法の劇的な変化に直面
しています。
こうした新しい状況への対応の例として、スマートグリッ
ド、
インテリジェント交通、
eヘルス等の新しいメディアサー
ビスやビジネスコンセプトが挙げられます。政府や社会の
リーダーたちは、ICT 政策、ICT教育、持続可能なビジネ
スモデルとともに、コネクティビティ (接続性) が、イノベー
ションとビジネスにとって望ましい環境を作り出すために
決定的に重要であると考えています。
6 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
本調査について
エリクソンは世界中の都市のネットワーク化に
貢献し、それを活性化することを目指しています。
エリクソンの取り組みの核心にあるのは、ICTを
ツールとして有効に活用してトリプルボトムライ
ンの発展を達成するネットワーク化社会です。
今回の一連の調査では25の都市を選んで詳し
い調査を行いました。対象となる都市は国連に
よる世界の大都市リストをベースとして、世界経
済フォーラムのネットワーク化準備度指標から
2つの首都を加えました。この追加は、ICTが目
覚しい発展を遂げている都市を調査対象に含め
ることを意図しています。
持続可能性の観点から見た効果的な政策枠組み
も重要ですが、今回のレポートでは触れていま
せん。また今回の調査は科学的な研究ではなく、
ICTと都市におけるトリプルボトムライン発展と
の関係を探求する糸口を見出すことを目的とし
ています。この一連のレポートが、都市の首長、
政策決定者、企業がICTを活用して変革に取り
組み、刺激的な都市環境を創成する機運となれ
ば幸いです。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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経済の変革
インターネットは、消費者行動から新しいビジネスモデルやプロセスに至るまで、世界市場の様々な
側面に大きな変容をもたらしています。先進地域と発展途上地域どちらの経済圏においても、こうし
た変化の中心にあるのは、モビリティ、クラウド・コンピューティング・サービス、ブロードバンド、ビッ
グデータ、ソーシャルメディアです。
ICTは私たちが働き生活する環境に不可欠な要素となり、
今後もビジネス、行政、社会全般において重要なリソー
スであり続けるでしょう。情報、知識、プロセス、技術を
組み合わせて効率を高め、イノベーションを推進するICT
は、さまざまな規模のあらゆる組織がより効率的につな
がり、協力し、競争する上で重要な役割を果たしています。
ブロードバンド普及率が
1%高まるごとに、新しい事業の
登録数が3.8%増加する
この変化は、一般市民が情報サービスを活用し、ICTを
応用する能力が向上するに伴って加速しています。
今日の私たちは、情報ネットワーク、ソーシャルネットワー
ク、モノのネットワークなど、さまざまなネットワークに
よって形成された社会に生きています。ネットワークの存
在自体は新しいものではありませんが、その役割が大き
くなってきているのです。私たちは、日常的に利用して
いるアプリケーションや技術を利用可能にしているネット
ワークに依存しています。このような発展のおかげで、従
来とは根本的に異なる事業構造を有する新市場が開け、
より豊かな利益と柔軟性をもたらす接続性を備えた製品
の需要が大幅に高まっています。
ソース:「ブロードバンドと起業」Carlsén & Zhou, Stockholm School of Economics
ICTが主導する変化
私たちの社会が経験している変化、特に産業における変
化の大部分は、ICTによって主導されています。当初もた
らされた恩恵は開発と生産の効率向上でしたが、これら
の技術が変革をもたらす力は、その発展にしたがってさ
らに大きくなることでしょう。
今後5年間に、技術、通信、娯楽、メディア、金融、小売、
医療を含む多くの分野が、ICTのビジネスへの応用によっ
て変化を遂げ続けることでしょう。
高い経済成長と新技術が牽引する世界市場は常に変化を
続け、製品開発から顧客対応に至るビジネス活動を加速
しています。より円滑な意思決定だけではなく、予測不
能なリスクや機会に対応するため、リアルタイムのビジネ
ス・インテリジェンスと予測解析が必要とされています。
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 7
ビジネスの観点から
ICTと経済発展との関係はこれまで幅広く研究されてきた分野であり、ICTと経済発展との間に正の
相関関係を裏付ける研究報告書やケーススタディーが数多くあります。
エリクソンおよびArthur D. Littleの一連のレポートによ
ると、ネットワークへの接続が1,000件増加すると80件
の新たな雇用が作り出され、モバイルおよびブロードバ
ンドの普及率が10%高まるとGDPが1%上昇するとしてい
ます。これらのレポートの1つで、ブロードバンドの社会
経済効果を研究するため、2008年から2010年の期間に
OECD加盟33 ヶ国を調査した結果として、接続の速度が
倍になると、GDPが0.3%上昇することが判明しています。
> デジタル・ネイティブ – 今後10年で新しい労働力が
また、Stockholm School of Economicsの「ブロードバ
ンドと起業」という研究では、2004年から2009年の期
間に23のOECD加盟国におけるブロードバンドと起業の
相関関係を調査しています。調査の結果は、ブロードバ
ンドの普及率が1%上昇すると新規事業の登録率が3.8%
上昇することを示しています。この場合ICTがもたらした
恩恵としては、起業機会の増加、起業家にとっての市場
参入の改善と取引コストの削減、新規事業立ち上げ費用
の低減などが挙げられます。
> より高い柔軟性 – 新しい人材は、単なる給料以上の
世界市場とデジタル市場の需要拡大により、企業は従来
の階層型の意思決定構造からネットワークベースのより有
機的な構造への移行を迫られています。この新しい市場
では、複数の要因が私たちの仕事のあり方に明確な変化
を促しています。
8 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
労働市場に参入します。彼らのライフスタイルの特徴
として、より大きな個人的自由、仕事と私生活の混在
に対する寛容さ、既成の考え方や権威へ挑戦する傾
向が挙げられます。
つまり才能を集めたい組織は、
オー
プン性、創造性、革新性という文化を備えていなけ
ればなりません。またそれと同時に現在抱えている人
材の経験と知識をも生かさなければなりません。
ものを求めています。今日の労働者はより柔軟性の高
い仕事環境を求めているのです。ICTはこうした場面
で、従業員がこれらの新しい要求に適応することを支
援します。
> 適応した行動 – ICTの特徴は行動の変容、イノベー
ションと起業家精神の育成などです。
都市の発展において起業家精神は強力な力となります。
起業活動と都市での成功には緊密な関係があるのです。
ICTは起業家とイノベーションを生む環境を強化します。
ICTは起業を助けるツールとインフラを提供することでイ
ノベーションを育み、新しい会社、製品、サービスのアイ
デアの実現を手助けします。また、ICTのおかげで、事業
を立ち上げたばかりの企業でも、従来よりもはるかに大
きな市場にアクセスできるようになります。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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これらの知見と以前の調査結果は、経験的にも理論的に
も、ICTと社会経済的発展との間に正の相関関係がある
ことを示しています。いくつかの具体的な結論を以下に述
べます。
起業機会の増加
> 音楽やビデオのストリーミング、eコマース、クラウド
サービスのような新しい革新的な製品を実現。
> 広告を収益源とするサービス等の新しいビジネスモデ
ルが可能に。
ブロードバンド普及率が10%
高まるとGDPが1%増加する
ソース: エリクソンおよび Arthur D. Little, 2010-2011
> 潜在的な起業家とそのネットワークの距離を縮めるこ
とによって、新しい機会を見つけやすくする。
市場参入の改善
> 起業家は地理的にずっと大きな市場に参入できる。
> 専門性の高いニッチ企業が意味のある大きさの市場
に参入できる。
企業間のトランザクションコストの削減
> 外部から製品とサービスを調達するコストを削減でき
る。
> サプライヤー、パートナー、顧客に地理的に近接する
必要性が減少する。
> 潜在的取引先の情報へアクセスしやすくなる。
> 市場価格の透明性が高まることで市場の効率が高ま
る。
> 重要な外部資源の調達が容易になり、また調達コス
トが下がる。
> 既存の企業によるアウトソーシングを促進する。
ネットワークへの接続が
1,000件増えるごとに80件の
新しい雇用が生まれる
ソース: エリクソンおよび Arthur D. Little, 2010-2011
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 9
環境面から見た
ビジネス上の利点
エリクソンは数十年にわたって、環境問題への社会の取り組みを変え、促進するICTの潜在力を認識
してきました。たとえばGlobal e-Sustainability Initiativeが発表したSmart 2020は、地球温暖化対
策としてICTが秘めている力について述べています。
Smart 2020によると、ICTによって2020年までにCO2排
出量を最大15%削減できます。政策面ではすでに発展が
見られており、環境的に望ましい結果をもたらすコンセプ
トが考えられていますが、その適用や行動の大規模な変
化はまだまだ限定的なものです。
大きな課題の1つは、ほとんどの場合、経済発展 (GDP)
と消費の拡大が、環境面で負の効果を生んでしまうこと
です。環境への間接的な影響を含む包括的な測定によれ
ば、世界のどこかで消費が拡大すると、別の場所での環
境負荷が高まることがわかっています。
しか し、 多 くの 従 来 型 の イン フ ラ 投 資 と は 対 照 的
に、ICT、 特にブロードバンドは、 社 会 経 済活 動によ
る環 境へ の 影 響を実 際に削減 できます。 その 報 告書
「The Broadband Bridge – linking ICT with climate
action for a low-carbon economy」において、国連ブ
ロードバンド委員会はICTが気候変動に影響を与えうる分
野を3つ挙げています。
発展途上地域の経済においては、リバウンド効果のリス
クを認識しなければなりません。たとえば、生産と流通
にICTを取り込むことで生産性は高まりますが、それが小
売価格の低下につながる可能性もあります。結果として
消費が拡大し、消費から生じるCO2排出量が高くなりま
す。この効果に抗するためには、人々がその消費パターン
を変え、総合的に見て環境負荷を削減できるような対策
や取り組みを作り出せる包括的なICT戦略を採用しなけれ
ばなりません。
恩恵を実際に受けるためには、それを支える政策枠組み
が必要となります。このため、エリクソンは世界自然保護
基金 (WWF) とともに、政策立案者が低炭素経済への移
行を実現するための5段階計画を作成しました。
この計画に加え、ICTの社会への効果を研究する、調査
や事例研究を含む確固たる世界規模のリサーチベースが
あります。エリクソンは定期的にこのリサーチを調査・分
析しています。
> 変革: 製品とシステムの非物質化を図ることによって、
他の産業による温暖化ガス削減を支援する。
> 気候変動の緩和: 省エネ製品やソリューションを開
発したり、厳しい削減目標を設定・実行することで、
ICT自体による温暖化ガス排出を削減する。
> 気候適応化: プロセス、慣行、構造を変えることで、
自然と人間社会の気候変動に対する脆弱性を低減す
る。ブロードバンドは気象情報や災害警報等に有効
な解決策を提供する。
10 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
ICTの温暖化ガス排出削減能力
Smart 2020レ ポートに よると、2020年 には
ICTにより7.8GtのCO2排出量を削減できます。
これは通常どおりビジネスを進めるという前提
での予測に基づけば15%の排出量削減となりま
す。また同レポートによると、ICTがもたらす省
エネ効果はお金に換算すると約6,000億ユーロ
に達します。
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 11
Networked Society
City Index
Networked Society City Indexは、各都市のICT成熟度、ICT投資が都市全体にもたらすトリプルボ
トムラインへのリターンに関する情報やベンチマーク資料を、都市の首長、行政当局、政策決定者に
提供することを目的とする枠組みです。
都市の行政当局者は、世界各地で成功を収めているICT
の取り組みから貴重なインスピレーションを得られること
でしょう。エリクソンは知識の共有を通じて、都市の成長、
インフラおよびトリプルボトムラインの発展を実現する重
要な要素としてのICTの理解を促進することを目指してい
ます。
Networked Society City Indexは世界各地の都市とその
発展状況を示します。このインデックスは、ICT成熟度お
よびICTから得られるトリプルボトムライン効果に着目し
て、世界中の都市の発展状況を示すために作られました。
ICTが環境にもたらす恩恵の評価は特に困難ですが、これ
はICTの貢献度を評価する世界レベルで合意された確固
たる方法がないことがその理由の1つです。またスマート
グリッドやインテリジェント交通など多くのソリューション
がまだ実装の早期段階にあり、大規模なレベルで影響を
評価するのが難しいこともあります。
> 都市のICT成熟度
ICT成熟度はICTインフラの可用性と性能、またはサー
ビスの提供コストとその実際の利用レベルから判断し
ます。その思想と設計は世界経済フォーラムが毎年
発表しているネットワーク準備度指標に類似していま
すが、ICT成熟度に焦点を絞り、前提条件的な要素に
ついては深く追求していません。ICT成熟度は合計で
14の指標によって評価します。
> ICT投資から得られるトリプルボトムラインの恩恵
ICTによる都市のトリプルボトムラインの恩恵は、社
会、経済、環境の3つのレベルで評価されます。それ
ぞれの項目について、各都市におけるビジネス活動に
関連した重要な指標を選択し、各都市のICT投資から
得られるトリプルボトムラインの利益の総量を反映す
るよう重み付けを行いました。各指標はICTへの投資
および利用と論理的に関連付けられており、既存の
分析とICTの利益に関するエリクソンの調査結果から
得られた主な結論を反映するよう選択されています。
当インデックスでは総合的な利益を測定するために28の
指標を用いており、これらの指標は2種類に分類できます。
ICT成熟度クラスター
北欧、北米、東アジアの一部の都市は長年ICTに
投資しているので成熟度は高くなっています。成
熟度の高い都市の中でもシンガポール、ストック
ホルム、ロンドンが群を抜いています。また、シ
ドニー、ブエノスアイレス、イスタンブールが中
位グループの中で上位で、さらにジャカルタ、ダッ
カ、カラチは成熟度の低いグループの中では上位
にあります。
12 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
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ビジネス指標
ビジネス指標は、上述のNetworked Society City Index
と同様の方法を用いて算出しました。各種の指標を評価
するプロキシ(代替指標)を使用します。これは各社会の
あらゆる複雑性を捉えているものではなく、科学的な根
拠に基づく評価でもありません。レポートの目的は、各
都市がICTを活用してどの程度ビジネス上の成功を収めて
いるかについて、常識的な視点を提供することです。
トリプルボトムラインは都市や
コミュニティーの評価基準です。
社会、経済、環境という3つの
異なるレベルの発展度合いで
各都市の成功度を包括的に
評価します。
現在の都市指標のうち、環境の指標が最も未開発です。
データは、名目上の環境への影響と都市レベルでの環境
指標によりICTの潜在力を捉える少数のプロキシを参照し
ています。社会経済面では採用した多様なプロキシはバ
ランスが取れており、データも新しく品質も高いものです。
さまざまな角度からトリプルボトムラインを評価するプロ
キシは、11個が社会、10個が経済、7個が環境に関する
ものとしてグループ化されています。
指標がよりどころとするデータのスケールにはばらつきが
あります。たとえば外国からの直接投資は数千億ドル規
模ですが、民間部門の成長は最大でも数%です。このた
め評価に先立って、各プロキシが同じ重みを持つようデー
タを正規化していますが、それにより指標中の特定のプ
ロキシが優先されることはありません。Y軸の総合評価で
は、社会、経済、環境関連のプロキシを、それぞれ1/3ず
つとして重み付けを行っています。全体的な指標はX軸上
とY軸上で同等に算出しています。
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 13
主要な結果
前回のCity Indexレポートでは、ICTの生み出す恩恵を都市と市民の観点から見てみました。今回の
調査では、ICTのもたらす利益をビジネスの切り口でとらえています。
今回の調査では、28の指標を使って世界25の都市におけ
るビジネスライフを分析しています。これまでのレポート
と同じく、地理的および経済的な多様性、ICTリーダーシッ
プに焦点を当てて世界の大都市を選択しました。
今回のレポートで調査した都市は地理的に広い範囲から
選ばれていますが、ICTの発展曲線にも大きなばらつきが
あります。北欧、北米、東アジアの一部ではICT機器を
長年生産し使っているので、長期間の投資による利益を
得ています。この傾向はNetworked Society City Index
でも顕著で、ICT成熟度とICT利用率 (投資回収率) がとも
に高い都市は、多くがこれらの3つの地域に存在します。
図2: ビジネス指標
全25都市のICT成熟度 (X軸) とビジネス面でのICTのトリプルボトムライン利益 (Y 軸) を座標
にプロットしています。値に大きな差が生じないようデータを正規化しました。各プロキシで
最高評価を得た都市は最大で100点、最低評価の都市は最低1点が与えられます。
14 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
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今回の分析では、ニューヨークが全体でトップであり、そ
れに続いてストックホルム、ロンドン、シンガポールが上
位を占めています。好ましいビジネス条件、ビジネスのし
やすさ、明確な法的枠組み、経済界と大学の協力体制、
急成長しているデジタル経済という有利な組み合わせが
存在するニューヨークは、社会経済面で最高得点を獲得
し、環境面でもトップ3に入りました。
前回のNetworked Society City Indexレポートと比較す
ると、ニューヨークとともにシドニーとヨハネスブルグの
改善が目立っています。その理由は、地域と世界のビジ
ネスにおいてこれらの都市のリーダー的な役割が増加し
ているからかもしれません。
シンガポール、ソウル、ニューヨーク、ストックホルム、
ロンドン、東京、パリ、ロサンゼルスの8つの都市が、3
つの指標すべてでリードしています。これらの都市はサー
ビス業に重点を置き、デジタル経済に向かって進んでい
る成熟した経済圏を代表しています。8つの都市には共通
して、信頼性の高いネットワーク・インフラ、ICTを活用
した取り組み、トリプルボトムラインの利益を促進する明
確な法的枠組みが存在します。
ブエノスアイレスとソウルは前回のCity Indexレポートと
の比較で相対的に評価が下がっています。この状況を変
えるには、これら2つの都市は起業、産学協力、海外投
資の誘致に注力すべきかも知れません。
イスタンブール、メキシコシティー、サンパウロ、マニラは、
すべて中間レベルです。これらの都市は都心部の渋滞や
長い通勤時間といった生活の質に関わる困難な課題を抱
えており、効率の改善が必要とされています。これらの
都市では、ICTインフラのパフォーマンスの改善を伴う開
発を優先的に実行する取り組みが必要です。
急速に発展する都市では、さまざまな課題が重なること
で、ICTによるトリプルボトムラインの恩恵が得られない
こともあります。たとえば教育水準、道路計画、水道や
電力の供給といったインフラの問題などで、一部の都市
の評価の低さを説明できる要因でもあります。しかし、
たとえばケニアにおけるモバイルマネーの導入に見られる
ように、いったん基本的なインフラが改善されると、そ
れによる利益が急速に伸びる場合もあります。
定量的なデータと定性的な分析から、以下の結論が導き
出されます。
ICT投資によるビジネス的利益
都市ビジネス指標は、ICTの成熟度とトリプルボトムライ
ンの発展に継続的な強い相関があることを明確に示して
います。ICTの生むトリプルボトムラインの利益の典型的
なトレンドから外れている都市はほとんどありません。こ
のトレンドはネットワーク化された都市への道筋を示すも
のです。さらにこの指標は、ICT成熟度が高まるに従い、
都市発展の道筋すべてにおいてトリプルボトムラインが足
並みを揃えて成長することを裏付けています。またICT成
熟度の高い都市においてトリプルボトムラインの恩恵が減
少する兆しはまったく見られません。最もICT成熟度の高
い都市でも今後もICTへの投資から利益を受けることで
しょう。
個人が最初に牽引するイノベーション
最初に利益を創成し牽引するのは組織や企業ではなく個
人です。個人やグループは、イノベーションや効率化への
取り組みの結果として、いち早く変化を遂げることがで
きるようです。これはビジネスにおいては、新しいテクノ
ロジーを理解して使いこなし、新しいビジネスにテクノロ
ジーを活用できる高度なスキルを持った人材を惹きつけ
る必要性を物語っています。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 15
主要な結果
(続き)
起業家精神を駆り立てるICT戦略
評価の高い都市には、効率化、イノベーション、起業を
促すよう巧みに策定された戦略と実行プログラムが存在
するなど、複数の共通点があります。産学連携や幅広い
起業支援も共通の要素です。このような取り組みは、都
市運営の合理化や行政サービスの改善などの初期の焦点
に続きます。
各都市は官僚主義の排除、資本へのアクセスや起業支援
を通じて起業を奨励し、また官民協力体制を敷いて地域
の経済を多様化し、人材を開発しています。
ニューヨーク市経済開発機構 (NYCEDC) は企
業を支援し、新しく立ち上げた会社が市内に拠
点を置いて活動できるよう、市全体で16のビジ
ネスインキュベーターを開設しました。
明確な法的・財務的枠組みがビジネスに恩恵
明確な法的・財務的な枠組みがあれば、特にICT成熟度
の低い都市では、単純で迅速な手続きと予測可能な状況
においてICTによるビジネス上の利益を享受できます。ま
た都市の知的研究機関と大学や産業界を結びつければ、
イノベーションと新しいアイデアをより多く生み出すこと
ができるでしょう。
世界銀行は、その
“Doing Business”年次レポートにおい
て、185の経済圏における事業規則とその施行状態を調
16 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
査しています。その報告書では、起業、電力供給、建設
許可、納税、外国との取引契約取得等の難易度を表す指
標を評価しています。たとえばヨハネスブルグでは、オン
ラインによる新規事業開設手続きのデジタル処理による
簡素化に取り組んでいますが、これはこの都市のブロー
ドバンド接続の信頼性の低さや頻繁に起こる停電と好対
照を成しています。
サンパウロ市は、紙の使用を減ら
し、汚職をなくし、ビジネス取引の
登録手続を簡素化するため、
電子納税制度を導入しました。
この報告によると、小企業に対してネットワーキングやク
ラスタリングのための財務的インセンティブや支援を与
えることのほうが、直接的な支援より有効であることが
わかっています。一般に多くの大学が集中している都市
には起業活動がより多いことの裏付けが得られています
(Maddock and Viton, 2008)。また中核的な研究開発拠
点の創設などの取り組みも重要です。しかし、もっと重
要なのは、応用研究に投資する公的資金の割合を増やす
ことです。それにより、都市におけるビジネスが大学や公
的な研究の成果を活用できるようになります。
これらすべての分野が発展することで、イノベーションと
創造性にとってより魅力的な環境が生成されます。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
世界的な評判は重要
グローバリゼーションのもたらした結果の1つとして、将
来性のあるクリエイティブなエリートや有望な人材がます
ます頻繁に国境を越えて移動するようになっています。こ
の新しい時代に、評価の高い都市は最高の頭脳と起業家
を獲得しようと競い合っています。リチャード・フロリダ
は著書「クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭」
において、従来の労働者社会や金融センターからクリエ
イティブなセンターへ移っていく新しい市民グループにつ
いて解説しています。この新しいクリエイティブな階級が、
都市の魅力をいかに売り込むかということに影響を与え
ています。
ニューヨーク、東京、ロンドン、シンガポール、ロサンゼ
ルス等の評価の高い都市には、例外なくグローバルなビ
ジネスに確固たるポジションを持つという共通点がありま
す。つまり地元や地域にとどまらず、グローバルなビジネ
スにとっても優れた環境を整えることが都市の発展を成
功させると結論付けてもいいでしょう。デジタル改革の
効果を取り込んで産業振興を方向付け、明確な政策と前
向きなビジネス環境を構築するのです。政策、法規、計
画の変更、資金へのアクセス、研究、リスクをいとわな
い風潮の奨励が、発展を導く主要な推進力となります。
2009年、シンガポールのエネルギー市場監督庁
は、新しい情報通信技術とセンサー技術による
送電および電力分配の近代化を目的としたイン
テリジェント・エネルギー・システムを立ち上げ
ました。
ロンドンの経営ブートキャンプは、
デジタル、ファッション、接客、娯楽、
クリエイティブ、バイオテクノロジー
といった幅広い分野で事業を
成功させるために必要なスキルを
開発する機会を起業家に与えて
います。
まだ先にある社会の変革
ICTがビジネスに取り入れられてから長い時間が経ったに
もかかわらず、効率の向上や経済効果は、これまでは各
業界の枠内に限られていました。しかしストックホルム
(ロイヤルシーポート)、モスクワ (スコルコボ)、ソウル (ソ
ンドとセジョン) などの取り組みを見れば、業界の枠を超
えた根本的な変化と変革が可能であることがわかります。
これらのプロジェクトは、ICTを革新的な方法で利用し、
現在の都市が抱える課題に対するまったく新しい解決策
を開発しようとする共通のビジョンを持っています。これ
らのプロジェクトは、ICTによって巨大なビジネス上の成
果を達成する可能性を秘めています。
また、官民の協力も重要です。政府は公共サービスをオ
ンラインで提供してICTの需要を刺激し、ICTがもたらす
利益を実証できます。またICTを使ってより良いサービス
を提供するサプライヤーを選択することで、革新的な活
動を奨励しこれに報いることができます。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 17
結論
Networked Society City Indexは、都市、市民、ビジネスの観点から、都市の発展におけるICTの
貢献度を包括的に分析するものです。この研究と、都市の行政当局、大学、ビジネスリーダーとの
やり取りを通じて、都市の発展を牽引する要因がより明らかになりました。
今日の私たちは、ネットワーク化社会の幕開けに立ち会っ
ています。ICTは、世界の何十億もの人々の経済的、社
会的、環境的な状況を大きく進歩させました。この変化
がどのようにもたらされ、その背景にはどういうメカニズ
ムがあるのでしょうか。変化のメカニズムを理解し、それ
を実現することにより、将来の世代が社会のためのトリ
プルボトムラインの利益を生み出すことができるようにな
るでしょう。
> 変化のメカニズム – 潜在的なイネーブラー (実現する
ための要素、機械の部品のようなもの)、オファーや
行動の実現、構造変革などが含まれます。これらの
要素は互いに関連しており、順番に、同時にあるいは
逆の順番で互いに影響し合います。
> 潜在的なイネーブラー – 変化の基盤となり、社会の
中の利害関係者によって影響されます。ICTによる変
革の触媒となることもあれば、ICTが社会にもたらす
肯定的な影響を制限する障壁にもなりえます。
> 技術クラスター – 技術革新のための肥沃な土壌を提
供する、相互に関連するビジネスの集合体です。以下
のイネーブラーが含まれます。
› 接続インフラ – 人と機械との接続を可能にする
バックボーン
› デバイス – インフラネットワークに接続するサー
バー、コンピューター、パソコン、携帯電話
› 相互運用性 – さまざまな標準に準拠するデバイス
とインフラの相互動作を可能にする。
> 人間の視点 – 人間の行動、スキル、知識の影響。
› ICTリテラシーや能力 – 新しいICT製品やサービス
に関する知識の程度を示す指標
› 受容と許容 – 個々の消費者、グループ、社会全体が、
製品やサービスを採用する気持ちがどの程度ある
18 ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部
かを示す指標。消費者は、客観的な要因と主観的
な要因の両方に基づいて、製品やサービスを受け入
れ、または拒否することが知られています。
> 投資者の視点 – 変化のメカニズムの基礎をなす技
術、政府、社会、資本関連のイネーブラーです。
› 技術関連のイネーブラーは急速に発展しており、
ICT関連の製品やサービスの土台を改善していま
す。この発展が、社会にとって肯定的な変化とトリ
プルボトムラインの恩恵をもたらそうとしています。
潜在的なイネーブラーが変化のメカニズムの基盤をなして
います。具現化するサービスの創成が行動や構造の変化
を引き起こし、その結果として真の意味でトリプルボトム
ラインの恩恵がもたらされます。そのような変化が、潜
在的なイネーブラーやイネーブラーサービス (実現するた
めのサービス) の需要と開発を促進し、社会の原動力と
なります。
これらのイネーブラーが現実の変化に結実するとき、私
たちの挑戦、希望、野望、夢を共有する無限の機会を備
えた新しいコネクテッド・ワールドが開けることでしょう。
これこそが私たちが現在直面している最も重大な課題の
いくつかを解く鍵になるかも知れません。
将来の進歩を正確に予測することはできませんが、世界
中の人々が自分の持つ創造性を追及できる潜在的イネー
ブラーを支援することによって、私たちはこれまでのどの
世代も成し得なかったことを実現できます。それこそが、
つながることによって利益を得られるあらゆるものとつな
がっていく
「ネットワーク化社会」のビジョンなのです。最
も前向きな世界中の人々、組織、意志決定者とともに、
真の意味でネットワーク化された協働的な社会の創成と
いうビジョンを段階的に実現していくのが、エリクソンの
望みであり目的です。
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
参照の際にはご留意ください。© Ericsson
図3: 都市環境における: ICTの発展とトリプルボトムラインの
発展の関係と相互依存性
この文書は当初2012年11月9日に発表された英語版を翻訳したものです。英語版が正式版となりますので
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ERICSSON NETWORKED SOCIETY CITY INDEX – 第3部 19
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