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わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究 A Study on

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わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究 A Study on
奈良教育大学紀要 第64巻 第1号(人文・社会)平成27年
Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 64, No.1 (Cult. & Soc.), 2015
119
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
─但馬地域を中心に─
中 井 明日香 兵庫県香美町立村岡小学校
劉 麟 玉 奈良教育大学音楽教育講座
A Study on Practice of the Elementary Music Education
Using Warabeuta : Focus on Tajima Area
NAKAI, Asuka
(Muraoka Town School of Kami-cho, Hyogo Prefecture)
LIOU, Lin-Yu
(Department of Music Education, Nara University of Education)
Abstract
Warabe-uta songs are the children’s songs that are sung naturally when children play or attend
events in their daily lives. Warabe-uta is handed down from generation to generation through children’s
play. And each warabe-uta song shows its or regional diversity in different areas, even if it has the
same music and title. Melodies and texts thereby become different because there are differences in
vernacular presentation and local cultures. Nowadays, there are only a few warabe-uta songs in school
music textbooks, and they are not necessarily suitable for the regions where do not accustomed to their
dialects and melodies. Thus the purpose of this paper is twofold. Firstly, we try to find out what warabeuta songs teachers in elementary schools in Tajima area teach and how. Secondly, we try to show the
importance of using warabe-uta songs suitable for the regions, by making a teaching plan for warabeuta in Tajima area in Hyogo prefecture as a model.
キーワード:わらべうた,初等音楽教育,但馬地域
Key Words:Traditional children songs, Elementary
1 .はじめに
music education, Tajima Area
2852-2854)。わらべうたには一般的にその地域の特性
が表れているとよく言われている。同じ曲であっても地
平成20年に改訂された新学習指導要領では,伝統や文
域の言葉や文化の違いによって,歌詞や旋律の形が違っ
化に関する教育の充実が示された。音楽科では和楽器を
ている。しかし,現在教科書に掲載されているわらべう
含めた我が国の音楽の指導の充実が求められ,伝統音楽
たは数が少なく,また,その教科書を使用している地域
の取扱いが一層重視されている。したがってこの研究
に合った歌が掲載されているとは限らない。そこで本研
テーマは,この時代に重要な課題であると考えられる。
究の目的は,第一著者の出身地である兵庫県でわらべう
わらべうたは,
「子どもたちが遊びなどの生活の中で
たがどのように教えられているのかを調査し,その結果
口伝えに歌い継ぎ,作り変えては歌い継いできた歌であ
を踏まえ,現在まで歌い継がれているわらべうたを教材
る」と定義されている。また,子どもが遊びや行事の時
化し,小学校における授業実践を提案する。
などの日常的な行動の中で自然に歌い,遊び仲間によっ
て集団的に伝承してきた歌でもある(小島美 1983:
研究方法は以下の 3 点である。(1)先行研究を踏まえ,
学校音楽教育におけるわらべうたの歴史と教材を調べる
120
中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
こと,(2)アンケート調査を行い,その結果をもとにわ
を育てていくことができる。3 点目は,創造性を育てる
らべうたを用いた学校音楽教育の現状を把握すること,
ことである。わらべうたは口伝えに歌い継がれてきたも
(3)但馬地方のわらべうたを収集し,教材に適した歌を
選択し,教材化すること,である。
ので,伝えるうちにいろいろな変形がなされている。そ
のため,子どもは自分の興味や感情や考えに即して,わ
らべうたをまた新しく作り変えることができる。そこで
2 .学校音楽教育におけるわらべうた
子どもは自身の創造性を発揮することができる。4 点目
は,社会性を育てることである。わらべうた遊びは集団
前述のように,わらべ歌の定義について少し触れたが,
で行うことが多く,また,身体的コミュニケーションを
小島美子の研究によると,わらべうたとは,子どもが遊
伴うものが多い。そのため,その場にいる友達と同じ動
びや行事の時などの日常的な行動の中で自然に歌い,ま
きをすることによって共同性が生み出され,新たな共同
た遊び仲間によって集団的に伝承してきた歌であること
体の土台を作ることができる(小島律 2010:26-30)。
が分かる。その伝統性は極めて強いが,子どもたちが歌
以上の佐藤志美子と小島律子の論点から,わらべうた
詞やメロディーの一部を変えたり,新しい遊びを考え付
教育の育む力は,(1)意欲を育てること,(2)日本の音
いたりした場合に,作り変えるという行為は日常的に行
楽がもつ特徴を身に付けることができること,(3)創造
われる。そのため,民族音楽の中でも最も変化の激しい
性を育てること,(4)集団で生活していくうえで必要な
音楽とも言われている。現在のわらべ歌の多くは遊びの
社会性を身に付けること,の 4 つにまとめることができ
歌であるが,子どもたちの生活が日常生活の一部に深く
る。このように様々な力を育むことができるわらべうた
組み込まれており,また,子供たちにとって自然現象や
は,いままで音楽科の教材としてどれほど取り扱われて
身の回りの動物や植物が大きな関心ごとであった時代に
いるのであろうか。以下は戦後の学校教育におけるわら
は,年中行事の歌,自然や動・植物を歌った歌なども多
べうたの歴史と教科書に掲載されたわらべうたの状況に
かったという。それらの一部は地域により現在でも歌わ
ついて触れておく。
れている(小島美 1983:2852-2854)。
他方,わらべうたによって子どもにどのような力を育
てることができるのかを,先行研究をもとにまとめてみ
2. 1.戦後の学校教育におけるわらべ歌の取り組み
日本でわらべうたを用いた学校音楽教育に動きが見ら
た。佐藤志美子はわらべうたを総合された音楽活動であ
(1)
れたのは,
昭和30年代に入ってからであると考えられる
。
ると述べている。まず,うたに合わせて体を動かすこと
昭和35年から平成20年までに使われていた小学校教科書
で,体の中に自然に拍感やリズム感を身に付けることが
に掲載されている日本のわらべうたは以下の表 1 から表
できる。そして,わらべ歌が持っている日本語に即した
5 のとおりである。
旋律を歌うことで,日本の伝統音楽の旋律感も自然に身
とりわけ表 1 に示されているように,昭和35年から昭
に付けることができる。また,遊びながら素直に表現す
和45年の間に使用されていた教科書には,すべての学年
ることで,生きた表情がはっきりと表現される(佐藤
でわらべうたが掲載されていることが分かる。また,わ
1996:188-190)。さらに,佐藤はわらべうた遊びの中に
らべうたを編曲した合唱・合奏用の楽譜も掲載されてお
は,集団としての原則的な面が含まれていると述べてい
り,多様な形でわらべうたが授業に取り入れられていた
る。各個人が自分の役割を理解し果たしていくことの大
と考えられる。その背景にわらべうた教育運動が盛んで
切さ,一定のルールに従ってまとまって行動することの
あったことが考えられる。
大切さと楽しさなど,人間が集団を形成して生活してい
わらべうた教育運動とは民間教育団体である「音楽教
くうえでの原則を,わらべうたで遊びながら自然に身に
(2)
育の会」
を中心に,展開されたものである。「音楽教
付けることができるのである(佐藤 1996:195)。
育の会」はその当時,昭和31年に子どもの生活の歌とし
また,小島律子は,わらべうた教育の育む力として以
て注目を集め,西洋音楽偏重・技術偏重と言われていた
下の 4 点を挙げている。すなわち,1 点目は,意欲を育
文部省による音楽教育に対する不満から,民間人による
てることである。近年,学ぶ意欲の低下が問題視されて
音楽教育としてわらべうた教育が登場したと考えられ
いるが,わらべうた遊びを通して「やってみる」という
る。その運動は活発に行われていたためであろうか,当
意欲を育てることで,学ぶ意欲の向上につながる。 2 点
時の音楽教科書にも影響を与えたと考えられる。
目は,伝統音楽に対する感受性を育てることである。近
しかしながら,
「わらべうた教育運動」は,昭和45年以
年は学習指導要領の改正によって,伝統音楽の教育がま
降から急激に衰退した。その原因は様々にあると考えら
すます重要視されてきている。そこで,わらべうたを授
れるが,そのうちの一つとして,遊びとしてのわらべう
業で扱うことによって,日本の音楽がもつ独特の拍感や
たという視点を外してしまったことであると小島律子が
リズムを経験し,日本の伝統音楽に対する知覚・感受力
指摘している。小島律子によると,わらべうたは本来遊
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
びにともなう歌であり,歌だけで歌われることはほとん
東京書籍
121
1
4 曲 《おしくらまんじゅう》
《だるまさん》
《ひ
らいたひらいた》《ほたるこい》
2
2 曲 《あんたがたどこさ》《だるまさん》
3
5 曲 《あんたがたどこさ》《おちゃらかほい》
《はないちもんめ》《ひとめふため》《夕
やけこやけ》
低下するとして反対を唱える立場も優勢であったため,
4
2 曲 《一がさした》《花てまり》
運動は衰退したと考えられる(本間;鈴木 1998:87)
。
5
1 曲 《通りゃんせ》
さらに,昭和57年以降,全ての教科書ではわらべ歌の
6
2 曲 《かずさ山から》
《ずいずいずっころばし》
どない。しかし,
「わらべ歌教育運動」では,わらべうた
を読譜練習の教材とし,子どもの生活から切り離して扱っ
てしまった(小島律 2010:11)
。さらに,他方では,わ
らべうたを学校教育に導入することで,音楽教育の質が
曲数が急激に減らされ,第 4 学年から第 6 学年ではわら
合計
16曲
べ歌は教材として使用されなくなった。例えば,教育出
版の教科書を見ていくと,昭和48年から昭和54年に使用
表2 音楽教科書わらべうた掲載一覧:昭和48年~ 54年
されていた教科書には,わらべうたが30曲掲載されてい
出版社
るが,その後の昭和57年から平成 3 年に使用されていた
教育出版
学年
2
6 曲 《一もんめのいすけさん》《あんたがたど
こさ》
《おじょうさん》
《かごめ》
《かぼちゃ
のたね》《なべなべそこぬけ》
3
5 曲 《あんたがたどこさ》
《いちばんはじめは》
《こうもりこっこ》《じんじん》《夕やけ
こやけ》
4
3 曲 《かりかりわたれ》《正がんせ》《道成寺》
5
4 曲 《一もんめのいすけさん》
《清水の観音様》
《正がんせ》
《もりさ子もりさ》
6
4 曲 《正がんせ》《七草なずな》《ねんねしな
され》《ひらいたひらいた》
わらべうたの掲載曲数が急激に減らされた理由は不明だ
はないかと推測する。それ以降,平成20年までの間,わ
らべうたは毎回教科書に掲載されているが,曲数が増え
るなどの変化が特に見られない。つまり,わらべうたが
学校音楽教育の現場である程度必要とされている教材で
はあるが,教材の中心となる存在ではないようである。
表 1 音楽教科書わらべうた掲載一覧:昭和35年~ 45年
出版社
教育出版
学年
1
2
6 曲 《あぶくたった》
《いちばんぼしみつけた》
《かくれんぼ》
《かごめ》
《だるまさん》
《ほ
たるこい》
合計
教育芸術社
7 曲 《雨ふんな》《おじょうさま》《おちゃら
かほい》
《かごめ》
《はないちもんめ》
《ひ
らいたひらいた》《ほたるこい》
8 曲 《あんたがたどこさ》
《いちばんはじめは》
《おちゃらかほい》
《こうもりこっこ》
《じ
んじん》《たこたこあがれ》《ゆうやけこ
やけ》《らかんさん》
4
2 曲 《からすかんざぶろう》
《かりかりわたれ》
5
4 曲 《一もんめのいすけさん》
《大さら小さら》
《ずいずいずっころばし》
《もりさ子もりさ》
6
1 曲 《通りゃんせ》
29曲
1
4 曲 《かくれんぼ》
《かごめ》
《はないちもんめ》
《ほたるこい》
2
2 曲 《あんたがたどこさ》
《ひらいたひらいた》
3
6 曲 《上がり目下がり目》
《チュッチュッチュ》
《手まりうた》《はないちもんめ》《ひら
いたひらいた》《夕やけこやけ》
4
合計
曲 名
3
合計
教育芸術社
曲数
3 曲 《いもむしごろごろ》《かくれんぼ》《だ
るまさん》
5
4 曲 《正がんせ》
《ずいずいずっころばし》
《だ
いぼろつぼろ》《とおりゃんせ》
6
1 曲 《通りゃんせ》
20曲
30曲
1
6 曲 《いちばんぼしみつけた》《いもむしごろ
ごろ》
《かくれんぼ》
《かごめかごめ》
《ほ
たるこい》《ぼうがいっぽんあったとさ》
2
4 曲 《一わのからす》《いも虫ごろごろ》《か
くれんぼ》《チュッチュッチュ》
3
5 曲 《上がり目下がり目》《手まりうた》《ひ
らいたひらいた》《花いちもんめ》《夕や
けこやけ》
4
4 曲 《一わのからす》《道成寺》《なくなよぼ
うや》《はねつき》
5
6 曲 《いの子》
《上見れば》
《げんげつも》
《しゃ
しゃぶとぐいみ》《とおりゃんせ》《ろう
そく出せ》
6
3 曲 《四けんじょ》《ずいずいずっころばし》
《だいぼろつぼろ》
合計
東京書籍
合計
曲 名
8 曲 《あおやまどてから》
《おちゃらかほい》
《こ
としのぼたん》
《なべなべそこぬけ》
《に
いちゃんが》
《ひらいたひらいた》
《ぼう
がいっぽんあったとさ》
《よこよこたてよ》
教科書では 8 曲と,大幅に減少している。このように,
が,わらべ歌の役割がそれほど重視されなくなったので
曲数
1
28曲
1
2 曲 《さんちゃんが》《ひらいたひらいた》
2
4 曲 《雨こんこん》
《うちのうらのくろねこが》
《かくれんぼ》《なかなかほい》
3
1 曲 《大さむ小さむ》
5
1 曲 《しゃしゃぶとぐいみ》
8曲
122
中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
表3 音楽教科書わらべうた掲載一覧:昭和57年~平成3年
出版社
教育出版
学年
3 曲 《なべなべそこぬけ》
《ひらいたひらいた》
《ぼうがいっぽんあったとさ》
2
2 曲 《あんたがたどこさ》《かくれんぼ》
3
1
5 曲 《おせんべやけたかな》
《おちゃらかほい》
《おちゃをのみにきてください》《なかな
かほい》《ひらいたひらいた》
3 曲 《一わのからす》《かごめ》《なべなべそ
こぬけ》
2
4 曲 《かくれんぼ》《茶つぼ》《なべなべそこ
ぬけ》《にいちゃんが》
3
2 曲 《うちのうらの黒ねこが》
《かりかりわたれ》
4
1 曲 《十五夜さんのもちつき》
2
2 曲 《かくれんぼ》《だるまさん》
3
1 曲 《正がんせ》
1
5 曲 《ひらいたひらいた》《たこたこあがれ》
《夕やけこやけ》
《いもむしごろごろ》
《お
にさんこちら》
2
6 曲 《かくれんぼ》《雨こんこん》《あんたが
たどこさ》《一ばんぼしみつけた》《かり
かりわたれ》《たけのこ一本》
3
3 曲 《一ばんぼしみつけた》
《たこたこあがれ》
《茶つぼ》
学年
2 曲 《うちのうらの黒ねこが》《花手まり》
曲数
12曲
21世紀現在も,多からずわらべうたは教材として教科
書に掲載されている。現在小学校音楽科の教科書で扱わ
れている日本のわらべ歌は,表 6 の通りである。
表6 音楽教科書わらべうた掲載一覧:平成23年~ 26年
出版社
教育出版
16曲
曲 名
教育芸術社
学年
曲数
曲 名
1
2 曲 《げんこつやまの たぬきさん》《ひらい
た ひらいた》
2
2 曲 《かくれんぼ》《ずいずい ずっころばし》
3
1 曲 《夕やけこやけ》
1
5 曲 《おちゃらか》
《なかなかほい》
《なべなべ》
《にいちゃんが》《ひらいたひらいた》
1
2 曲 《かごめ》《ひらいたひらいた》
2
1 曲 《かくれんぼ》
2
1 曲 《かくれんぼ》
3
1 曲 《なべなべそこぬけ》
3
2 曲 《夕やけこやけ》《一わのからす》
1
4 曲 《おせんべやけたかな》
《おちゃらかほい》
《おちゃをのみにきてください》《ひらい
たひらいた》
2
4 曲 《かくれんぼ》《茶つぼ》《なべなべ》《に
いちゃんが》
3
2 曲 《うちのうらのくろねこが》《かりかりわ
たれ》
4
1 曲 《十五夜さんの餅つき》
合計
東京書籍
5曲
1
1 曲 《ひらいたひらいた》
2
2 曲 《かくれんぼ》《いもむしごろごろ》
3
2 曲 《雨こんこん》《かりかりわたれ》
合計
東京書籍
合計
2. 2.21世紀現在の教育状況
4曲
表 4 音楽教科書わらべうた掲載一覧:平成4年~ 14年
教育芸術社
5曲
1 曲 《ひらいたひらいた》
合計
教育出版
東京書籍
1 曲 《かりかりわたれ》
8曲
4
出版社
3
合計
1
合計
東京書籍
曲 名
1
合計
教育芸術社
曲数
5曲
1
5 曲 《ひらいたひらいた》《おちゃらかほい》
《たこたこあがれ》《いちばんぼしみつけ
た》《なかなかほい》
第 1 学年,第 2 学年の教科書では,わらべうたが複数
2
1 曲 《かくれんぼ》
掲載されている。共通教材である「ひらいたひらいた」
3
2 曲 《たこたこあがれ》《かりかりわたれ》
と「かくれんぼ」以外は鑑賞教材となっており,教科書
4
2 曲 《うちのうらの黒ねこが》
《てるてるぼうす》
に楽譜は掲載されておらず,歌詞と遊び方の説明が示さ
5
1 曲 《十五夜さんのもちつき》
れている。これらは,低学年の児童がわらべうた遊びを
11曲
することを予想して作られたものであると考えられる。
合計
しかし,第 3 学年になると掲載されている曲数が少なく
表5 音楽教科書わらべうた掲載一覧:平成15 ~平成20年
出版社
教育出版
学年
1
曲 名
4 曲 《おちゃらかほい》《げんこつやまのたぬ
きさん》《なべなべそこぬけ》《ひらいた
ひらいた》
2
1 曲 《かくれんぼ》
3
1 曲 《えんやらももの木》
合計
教育芸術社
曲数
6曲
1
1 曲 《ひらいたひらいた》
2
2 曲 《おちゃらかほい》《かくれんぼ》
なり,わらべうたは遊びではなく器楽(リコーダー)の
練習曲として扱われている。このことから,わらべうた
遊びが低学年だけのものであると考えられている様子が
うかがえる。
また,掲載されているわらべうたのほとんどは全国的
に歌われているものである。わらべうたは本来口伝えに
歌い継がれているものであるため,歌に地域性が表れる
ものであるが,教科書に掲載されている歌は一つの地域
に限定したものであり,その歌を歌う児童に合ったもの
ではないと考えられる。例えば,教育芸術社の平成23年
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
度教科書に掲載されている《げんこつやまのたぬきさん》
3.1. アンケート調査の内容
と兵庫県但馬地域で採譜された同名の歌を例に挙げてみ
3. 1. 1. 調査の対象
ると,以下のように旋律の違いがみられる。
123
本アンケート調査を依頼したのは,兵庫県但馬地方の
5 つの市町(豊岡市,養父市,朝来市,香美町,新温泉
譜例 1 教育芸術社(平成23 ~ 26年)音楽科教科書『小
町)の小学校で音楽の授業をしている教員である。ただ
学生のおんがく 1 』に掲載されている《げんこつやまの
し,5 つの市町のうち新温泉町より回答がなかったため,
たぬきさん》
4 つの市町の回答を見ていく。
3. 1. 2. 設問の内容
本調査の設問は,対象者が現在行っている音楽の授業
に関する内容を中心に全部で18問用意した。回答の内容
によって回答数は変わり,最多で15問,最少で 7 問回答
することになる。設問は大きく 7 つに分けることができ
る。すなわち,(1)音楽の授業を担当する教員の担当状
譜例 2 兵庫県但馬地域で昭和37年~ 46年ごろに採譜さ
況について,(2)わらべうたを用いた音楽の授業を行っ
(3)
れた《げんこつやまのたぬきさん》
たことがあるかどうか,(3)共通教材のわらべうたを授
業で扱うことがあるかどうか,(4)教科書または副教材
に掲載されているわらべうたを授業で扱うことがあるか
どうか,(5)兵庫県のわらべうたを授業で扱ったことが
あるかどうか,(6)授業担当者の勤務校の子どもはわら
べうた遊びをしているかどうか,(7)授業担当者自身の
わらべうた遊びの経験について,である。
このように,わらべうたの歌詞や旋律,遊び方等には
地域によって違いがある。そのため,教科書に掲載され
上記の設問をもとに,第 2 節ではアンケート調査の結
果を述べ,その分析を行う。
ている曲だけでなく,その地域の子どもたちに親しみや
すい曲を探して学習するべきであると考える。そこで,
3. 2.アンケート調査の結果
今日の教育現場でどの位の教員がわらべ歌を使って子ど
本節では,アンケート調査の結果について述べ,その
もたちに教えているのか,また,教科書以外の教材が使
結果から予想される現在のわらべうたを用いた学校音楽
用されているかどうかについて把握するため,実際に教
教育の問題点を考察する。なお,前述した 7 つの枠組み
育現場で働いている教員へのアンケート調査を行い,現
を用いて説明していく。
場の状況についてまとめた。
初めに,アンケートを実施するにあたって,兵庫県但
馬地方の小学校で音楽の授業を担当する教員の状況を把
3 .教育現場でわらべうたを用いた音楽授業への
調査
握するために,回答者自身に関する質問を行った。
まず,回答者の年齢についてはグラフ 1 のとおりであ
る。40代が最も多く,その次に多いのが50代という結果
第 1 著者の出身である兵庫県の教員にわらべうたを用
いた授業に関するアンケートを行った。アンケートを発
送した地域は兵庫県但馬地方の 5 つの市町(豊岡市,養
父市,朝来市,香美町,新温泉町)である。回答者が匿
名で回答してもらい,実施時期は平成26年10月20日から
11月20日までの間である。回答者は音楽の専科であるか
否かは問わず,学級担任等でも回答可能としている。63
の小学校にアンケートを発送し,そのうちの37校より回
答が届いている。本節では,アンケート調査の対象,設
問の内容,調査結果について述べる。
になった。現在40代の方は生まれ年が昭和40年~ 49年で
124
中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
あり,幼稚園や小学校で教育を受けていた時期とわらべ
教材のわらべうたを授業で扱うか」という質問に対して
うた教育運動が起こっていた時期が重なる年代である。
は,36名全員が「はい」と回答している。また,その授
業内での活動内容についてはグラフ 4 のとおりである。
「現在の担当をお答えください」という質問に対して
歌唱とわらべうた遊びが多くを占めており,創作やその
は,グラフ 2 のとおり,音楽専科の先生が 6 割以上であっ
他の活動は少数である。この結果から,教科書に掲載さ
た。兵庫県は,各教科の授業の専門性を高め,また,小
れているとおりの歌唱や遊びの活動に比べて,わらべう
中の接続を円滑にするために,平成21年度より「兵庫型
た遊びをさらに発展させた創作活動やその他の活動はま
教科担任制」というシステムを導入しているため,今後
だ現場の教員に普及していないと考えられる。
も音楽専科の先生の割合は増えていくものであると考え
られる。また,回答者の出身地は37名中34名が兵庫県で
ある。
「教科書または副教材に掲載されているわらべうたを
授業で扱うか」という質問に対しては,36人中32人が「は
い」と回答した。上記の共通教材の回答に比べて,教科
書または副教材の曲を扱わないという回答は,少しでは
回答者の現在の担当学年についてはグラフ 3 のとおり
である。音楽専科の先生はほぼ全員が全学年の音楽の授
業を担当していると考えられる。また,その他は複数学
あるが増加している。そして,扱わない理由のうちに,
「現場の児童に適していない」「他に扱いたいわらべうた
があったため」という回答が各 1 名ずつあった。
年の授業を担当しているとの回答である。
次に,現在の学校の音楽の授業について質問した。「わ
らべうたを用いた音楽の授業を行ったことがあるか」と
いう質問に対しては,37名中36名が「はい」と回答して
いる。そして,「いいえ」と答えた 1 名は,わらべうた
また,実際に扱った曲についてはグラフ 5 のとおりで
を用いなかった理由を「他の伝統音楽を扱うため」と回
ある。「おちゃらかほい」「ずいずいずっころばし」「あ
答している。
んたがたどこさ」「なべなべそこぬけ」の 4 曲が現場で
また,共通教材のわらべうた(「ひらいたひらいた」
「か
くれんぼ」)を扱う授業に関しての質問を行った。「共通
は多く扱われているという結果になった。この 4 曲は,
兵庫県が使用している東京書籍の小学校音楽科教科書
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
125
の,「日本のあそびうた」( 1・2 学年)という単元で扱
われている曲である。
また,授業内での活動についてはグラフ 6 のとおりで
あり,わらべうた遊びをするという回答が約半数を占め
ている。その他については,なわとび等の運動遊びや器
楽の練習に用いるといった回答があった。
「兵庫県のわらべうたを授業で扱ったことがあるか」
という質問に対しては,グラフ 7 のような結果となった。
③の共通教材曲,④の教科書や副教材の曲と比べ,「兵
庫県または自身の出身地のわらべうたは扱ったことがな
い」という回答が多いという結果になった。また,
「扱っ
たことがある」と回答した方には,扱ったわらべうたに
関する質問を設けたのだが,兵庫県の歌かどうか不明な
ものも含まれており,実際に兵庫県のわらべうたを用い
さ」などの教科書に掲載されている歌が多く挙がってい
て授業をしている方はより少数であると考えられる。
る。このことから,子どもたちは音楽の授業で学んだわ
「授業担当者の勤務校の子どもはわらべうた遊びをし
ているか」という質問に対して,授業担当者が現在勤
らべうたを自分たちのものにして,遊んでいるのではな
いかと考えられる。
務している小学校について,「校内で児童がわらべうた
最後に,授業担当者自身の経験についての質問を行っ
遊びをしているのを見たことがあるか」という質問をし
た。
「これまでにわらべうた遊びをしたことがありますか」
た。結果は,グラフ 8 のとおりであり,現在でもわらべ
という質問に対しては,36名中35名が「はい」と回答し
うた遊びをしている児童は多くいるということがわかっ
ており,ほぼすべての回答者にわらべうた遊びの経験が
た。また,「どのような歌で遊んでいたか」という質問
あるという結果になった。そして,
「どのような歌で遊ん
に対しては,「なべなべそこぬけ」や「あんたがたどこ
でいましたか」という質問の回答の中には,
「なべなべそ
こぬけ」や「はないちもんめ」などの現在も教科書に掲
載されているわらべうたも多く見られた。また,
「自身が
遊んだことのあるわらべうたを児童に教えますか」とい
う質問に対しては,36名中34名が「はい」と回答してい
る。このことから,
授業担当者のわらべうた遊びの経験が,
直接児童に影響するということも考えられる。
3. 3.まとめ
以上考察してきたように,まず年齢層を見ると,指導
の教員のうち,現在40代の方は初等教育を受けていた時
期とわらべうた教育運動が起こっていた時期が重なる年
代であるため,わらべうた遊びの経験が多い方もいるの
ではないかと考えられる。そのためか,教員のうちの多
くは共通教材や教科書に掲載されているわらべうたを授
業で扱っていると回答していた。しかし,勤務している
地域のわらべうたを授業で扱うという回答の結果を見る
と,扱う教員のほうが少ないが,36人のうち,9 人の教
員という 4 分の 1 の教員が地域のわらべ歌を取り扱って
いる結果となっている。次に,授業内での活動を見ると,
わらべうた遊びと歌唱の活動が多く,創作やその他の活
動は少数であった。このことから,教科書に掲載されて
いない教材を開発することの難しさが感じられた。また,
調査結果によると現在もわらべ歌で遊んでいる児童は多
く,執筆者自身が思っていたよりもわらべうたの文化は
衰退していないのではないかと感じた。
126
中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
今回のアンケートを通して,現在のわらべうたを用い
た学校音楽教育の問題点は以下の 2 点であると考えた。
・曲の拍子を感じ取り,それに合わせて表現することが
できる。
1 点目は,地域のわらべうたを授業で扱う教員がまだ少
3 .教材「さよなら三角」(わらべうた)
ないことである。この原因として,教員自身が地域のわ
4 .教材について
らべ歌で遊んだ経験が無く,児童に指導することができ
「さよなら三角」は,歌詞がしりとりのようになって
ないと考えていることが推測できる。2 点目は,授業内
いるしりとり歌であり,わらべうたの一種である。全国
での活動が歌唱とわらべうた遊びの 2 つに偏っており,
的に歌われているわらべうたであるが,旋律や歌詞,曲
創作等の発展的な活動が行われていないことである。教
の長さなどは地域によって異なっている。今回は兵庫県
科書に掲載されている歌唱とわらべうた遊びの活動に加
但馬地域で昭和37年から昭和46年ごろにかけて採譜され
えて,わらべうたを作り変える創作の活動を取り入れる
た歌を用いて授業を行う。
ことによって,子どもの意欲や想像力をより高めること
ができると筆者は考える。次章では,この調査によって
発見した 2 つの問題点のうち,特に 2 点目に重点を置い
て授業提案をしていきたい。
5 .題材について
(1)研究主題との関連
わらべうたの多くに当てはまる 1 つの音に 1 語という
特徴を感じ取らせたいと考え,この題材を設定した。歌
4 .授業提案
詞を作り変え表現する活動を行う中で,その特徴に気づ
かせたい。また,歌いながら体を動かしたり,手をたた
本節では,第 1 章,第 2 章での分析・考察を踏まえた
うえで,兵庫県但馬地域のわらべうたを用いた授業を提
いたりすることで,4 分の 2 拍子の拍子感を感じ取らせ
たい。
案する。対象は小学生であり,それぞれ違う教材を用い
た 2 つの授業案を作成する。
(2)学習指導要領との関連
A 表現 (1)歌唱 ア,イ,エ (3)音楽づくり ア,イ
4. 1.授業を提案するにあたって
[共通事項]ア (ア) リズム,拍の流れ
本節では,授業を提案するにあたって筆者が留意した
点を(1)教材について(2)指導についての 2 つに分けて
6 .題材の評価規準
述べていく。
音 楽 へ の 関 心・ 音楽表現の創意 音楽現の技能
意欲・態度
工夫
(1)教材について
教材を選択するにあたって留意した点は,以下の 3 点
である。1 点目は,児童が作り変えて遊ぶことが容易で
あるということである。2 点目は,身体的コミュニケー
ションを伴う歌であるということである。3 点目は,児
童にとって不適切な表現を含まない歌であるということ
である。
(2)指導について
わらべうたを指導するにあたって留意したい点は,以
下の 2 点である。 1 点目は,本来の伝承方法である口承
で伝えるということである。 2 点目は,仲間と声を重ね
たり,一緒に体を動かしたりする等のコミュニケーショ
ン活動を取り入れることである。
4. 2.学習指導案の提案
本節では,第 1 節で述べた点に留意して教材を選択し,
小学校における授業を提案する。
(4)
(1)しりとりうた「さよなら三角」(譜例3)
を用いた
創作の授業案
1 .題材名 しりとりうたを作ろう
2 .題材の目標 ・旋律にあわせて歌詞を作り変え,歌うことができる。
わらべうたに関
心を持ち、進ん
で歌ったり、作
り変えたりしよ
うとしている。
曲の特徴を感じ 曲の歌詞を作っ
取り、その特徴 て歌うことがで
を生かした表現 きる。
の仕方を工夫す
る。
7 .指導計画(全 2 時間)
次
時
第
一
次
1
・学習活動
◇指導上の注意
・歌詞を読み、気づ ◇歌詞がしりとりの
いたことを発表し合 ようになっているこ
う。
とに気づかせる。
・教師の範唱に続い ◇旋律に慣れるまで
て歌い、旋律を確認 繰り返し歌わせる。
する。
・ 体 を 動 か し た り、 ◇ 1 拍目を少し強め
手を叩いたりしなが に歌い、2 拍子を感
ら歌う。
じさせる。
・1 人 で 歌 っ た も の
と、 複 数 人 で 1 フ
レーズずつ歌ったも
のとを比べて、気づ
いたことを発表し合
う。
◇ 1 人で歌うよりも
交代で歌っている方
が、本当にしりとり
をしているように聴
こえることに気づか
せる。
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
第
二
次
2
◇原曲の歌詞の創作部分
を空白にしたワークシー
トを使用する。
◇1つの音に語を詰めす
ぎると歌いにくいという
ことを、例を用いて説明
し、気づかせる。
・「 さ よ な ら 三 角 ◇歌詞の創作部分を
またきて四角」に続 空 白 に し た ワ ー ク
く歌詞をグループご シートを作成し、記
とに考えて、ワーク 入させる。
シートに記入する。
・各グループが考え ◇自分のグループと
た わ ら べ 歌 を 発 表 の違いを考えながら
し、互いに聴きあう。 聴くように促す。
◇違った歌詞で歌う
ことのおもしろさに
気づかせる。
・歌ってみたい歌詞 ◇体を動かしてのび
の わ ら べ う た を 決 のびと歌わせる。
め、全員で歌う。
127
3 .新しく作った歌をグ ◇ 各 グ ル ー プ の 歌 の よ
ループごとに発表し、お かったところや、おもし
互いに聞きあう。
ろかったところを、聴い
ているグループの児童に
発表させる。
4 .歌ってみたいグループ ◇曲のリズムに乗って歌
の歌を決め、全員で歌う。 わせる。
(5)
(2)なわとびうた「郵便さんおはようさん」(譜例4)
8 .本時の学習
【第一次 第 1 時】
を用いた創作の授業案
(1)目標 曲に親しみ,拍子を感じながら体を動かして
歌う。
1 .題材名 声を重ねて歌おう
2 .題材の目標 (2)展開
・カノンやオスティナートを用いて,声を重ねて歌うこ
学習活動
◇指導上の注意
1 .曲の歌詞を読んで、気 ◇歌詞がしりとりのよう
づいたことを発表し合う。 になっていることに気づ
かせる。
◇曲の中盤が 3 文字・3 文
字のしりとりで構成されて
いることに気づかせる。
2 .教師の範唱に続いて ◇ 4 つの音で曲ができて
歌い、旋律を確認する。 いることに気づかせる。
3 .体を動かしたり、手 ◇リズムよく歌うように
を叩いたりしながら歌う。 促す。
◇体を揺らす、膝を曲げ
伸ばしするなど、全身を
使って歌ってみせる。
4 .1 人で歌ったものと、 ◇交互に歌うことで、し
複数人で交互に歌ったも りとり遊びをしているよ
のとを比べて、気づいた うに聴こえることに気づ
ことを発表し合う。
かせる。
とができる。
・声の重なりによって生まれる響きのちがいに気づくこ
とができる。
3 .教材「郵便さんおはようさん」(わらべうた)
4 .教材について
「郵便さんおはようさん」は,長縄とびをする時に歌
うなわとびうたである。歌い始めは縄を揺らして飛ぶだ
けだが,「一枚,二枚…」のところで縄を回し始め,失
敗せずに「十枚」まで飛ぶことができると,「ありがと
さん」で曲が終わる。また,この歌も日本各地で歌われ
ている歌であるが,兵庫県但馬地方で採取されたものを
授業で扱うこととする。
5 .題材について
(1)研究主題との関連
歌の中にあらわれる「ゆうびんさん」や「おはようさ
ん」,「ありがとさん」という歌詞がリズミカルであり,
他の歌詞の部分と重ねて歌うことで新しい響きを作るこ
【第二次 第 1 時】
とができるのではないかと思い,この教材を設定した。
(1)目標 旋律にあわせて歌詞を作り変える。
また,この歌を歌いながら縄跳びをしたり手を叩いたり
(2)展開
することで,2 拍子のリズムを体で感じさせたい。
学習活動
◇指導上の注意
1.
「さよなら三角」
を歌う。 ◇のびのびと歌えるよう、
立って歌わせる。
2.
「さよなら三角」の旋 ◇「さよなら三角」がし
律にあわせて、グループ りとり歌であったことを
ごとに新しい歌詞を作る。 思い出させる。
◇グループを作って活動
させる。
(2)学習指導要領との関連
A 表現 (1)歌唱 ア,イ,エ (3)音楽づくり ア,イ
[共通事項]ア (ア) 音色,リズム イ 反復
128
中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
6 .題材の評価規準
◇飛ぶ速さや縄を回す速さ
に合わせて歌うよう促す。
◇最後まで歌うことがで
き、また飛ぶことができた
児童を手本として見せる。
音 楽 へ の 関 心・ 音楽表現の創意 音楽表現の技能
意欲・態度
工夫
わらべうたに興
味を持ち、進ん
で聴いたり歌っ
たりしようとし
ている。
声の重なりを感
じ取って、歌い
方や声の組み合
わせ方を工夫し
ている。
強弱や速度を工
夫しながら、声
を重ねて歌うこ
とができる。
時
第
一
次
1
第
二
次
2
・学習活動
学習活動
◇指導上の注意
・「 郵 便 さ ん お は よ ◇遊び方を説明する
うさん」の歌で、な と同時に、歌詞や旋
わとび遊びをする。 律を伝える。
◇縄を回している児
童や、そのほかの飛
んでいない児童が歌
を歌うよう促す。
◇縄を飛ぶ速さと縄
を回速さに合わせて
歌うよう促す。
・カノンかオスティ
ナートのいずれかを
用いて、グループご
とに曲を作り変える。
(1)目標 旋律にあわせて歌詞を作り変える。
(2)展開
7 .指導計画(全 2 時間)
次
【第二次 第 1 時】
◇カノンとオスティ
ナートの違いを説明
し、理解させておく。
◇強弱や速度を変え
ても良いということ
を伝えておく。
・作り変えた曲をグ ◇作り変える際に工
ループごとに発表し、 夫した点も発表させ
お互いに聴きあう。 る。
・2 つの声の重ね方が ◇強弱や速度が生み
生み出す響きの違い 出す違いにも注目さ
を考え、発表させる。 せる。
◇指導上の注意
1.
「郵便さんおはようさ ◇体を動かしたり、手拍子
ん」を歌う。
を付けたりして歌わせる。
2 .カノンかオスティナー
トのいずれかを用いて、グ
ループごとに曲を作り変え
る。
◇カノンとオスティナー
トの違いを復習しておく。
◇強弱や速度等も変えて、
工夫して曲を作るよう促
す。
3 .作り変えた曲をグル― ◇作り変える際に工夫し
プごとに発表し、お互いに た点も発表させる。
聴きあう。
4 .2 つの声の重ね方が生 ◇強弱や速度が生み出す
み出す響きの違いを考え、 違いにも注目させる。
発表させる。
5 .本時の振り返りをする。 ◇わらべうたを歌ってみ
て ど う だ っ た か、2 つ の
歌い方の違いから何を感
じ取ったかなどを、振り
返りシートに記入させる。
(6)
譜例3「さよなら三角」
8 .本時の学習
【第一次 第 1 時】
(1)目標 わらべうた遊びを通して,
日本の旋律に親しむ。
(2)展開
学習活動
◇指導上の注意
1 .「わらべうた」がどん ◇昔から歌われ続けてき
な歌であるか理解する。 た子どもの歌であること
を伝える。
◇他のわらべうたを例に
挙げ、遊びながら歌う歌
であることを伝える。
2.
「郵便さんおはようさ ◇遊び方を説明すると同
ん」の歌で、なわとび遊 時に、
歌詞や旋律を伝える。
びをする。
◇縄を回している児童
や、そのほかの飛んでい
ない児童が歌を歌うよう
促す。
◇十分な広さのある場所
で遊ばせる。
(7)
譜例4「郵便さんおはようさん」
わらべうたを用いた初等音楽教育の実践についての研究
5 . おわりに
以上述べてきたように,まず戦後の学校音楽教育にお
けるわらべうたの教材としての使用状況をまとめた。昭
和35年から昭和54年までの間,学校音楽教育で使用され
ていた教科書には,わらべうた教育運動の影響を受けた
ためであろうか,わらべうたが多数掲載されていた。し
かし,昭和50年代後半に入ってからわらべうたの掲載曲
数は半数以上減少された。その理由として,わらべうた
が学校音楽教育の現場である程度必要とされている教材
ではあるが,教材の中心となる存在ではないと考えられ
ているためであろうと推測した。また,わらべうた教育
が育む力についての先行研究をまとめ,わらべうたで遊
びながら学ぶことによって,意欲や社会性をはじめとす
る様々な力を育むことができるということが分かった。
また,兵庫県但馬地方の音楽担当の教員にアンケート
調査を行い,その結果と考察をまとめた。このアンケー
トを通して,現在でもわらべうたを授業で扱う教員は多
く,またわらべ歌で遊んでいる子どもも多くいるという
ということがわかった。しかし,わらべうたは地域性が
表れる歌であるため,教科書に掲載されている曲だけで
なく,その地域の子どもたちに親しみやすい曲を探して
学習するべきではないかと考えた。さらに実際に地域の
わらべうたを授業で扱うことを想定した指導案を作成し
た。その中で,わらべうた遊びを学習につなげることの
難しさや,教材選択の必要性を感じることができた。
今後の課題は,提案した授業を実際の教育現場で実践
することである。そして,目の前の子どもたちに合った
授業をするために,本研究の授業案をさらに改良し,実
践を重ねていきたいと考えている。また,今回作成した
授業案では出身地域のわらべうたを扱ったが,今後は一
つの地域に限らず様々な地域のわらべうたを調べ,今回
の経験を生かして教材化していきたいと考えている。
129
(3)この歌は『但馬のわらべうた 第 1 集』
(長谷坂栄治編,但馬:
兵庫県立但馬文教府,1971)に掲載されているものである。
73頁を参照。
(4)同上。8-9頁を参照。
(5)同注(3),61-62頁を参照。
(6)本譜例は著者が前掲『但馬のわらべうた 第 1 集』8 頁に掲
載されている楽譜に基づいて作成したものである。
(7)本譜例は著者が前掲『但馬のわらべうた 第 1 集』62頁に掲
載されている楽譜に基づいて作成したものである。
主要参考文献
岩本紗八香(2012)「子どもの創造性を育むわらべうた教育の
実践的研究」『日本学校音楽教育研究会紀要 第16巻』244245頁
小泉文夫(1986)
『子どもの遊びと歌─わらべうたは生きている』
東京:草思社
小島美子(1983)
「わらべうた」
『音楽大辞典第5巻』東京:平凡社,
2852-2854頁
小島律子(2008)『日本伝統音楽の授業をデザインする』東京:
廣済堂出版
小島律子(2009)
「学校音楽教育におけるわらべ歌の再考─「教
材」としてのわらべうたから「経験」としてのわらべうた
へ─」『大阪教育大学紀要 第58巻』43-55頁
小島律子(2010)『学校における「わらべうた」教育の再創造
─理論と実践─』名古屋:黎明書房
佐藤志美子(1996)『心育てのわらべうた─乳児から小学生ま
で年齢別指導・教材集』東京:ひとなる書房
椿本恵子(2012)「小学校 3 年生におけるわらべうた遊びから
表現への活動構成」
『日本学校音楽教育研究会紀要 第16巻』
240-241頁
長谷坂栄治(1971)『但馬のわらべうた 第 1 集』但馬:兵庫県
立但馬文教府
長谷坂栄治(1987)
『兵庫のわらべ歌(日本わらべ歌全集18上)』
京都:柳原出版
本間雅夫/鈴木敏郎(1982)
『わらべうたによる音楽教育─遊び
と合唱・幼児から小学生へ』東京:自由現代社
水野信男(1981)『山陰のわらべうた : 中海周辺および隠岐・
子どもの遊び歌資料集成』松江:「山陰のわらべうた」刊
行会
横山真理(2010)「中学校におけるわらべうた遊びの教材化の
可能性―「構成的音楽表現」を原理とする授業構成」『日
本学校音楽教育研究会紀要 第14巻』239-250頁
注
(1)第二回世界大戦中に発行された第 3 期教科書『ウタノホン
上』には《こもりうた》が掲載されており,歌唱教材とし
て扱われていたが,昭和22年の教科書にはその姿が確認で
きない。
『日本教科書大系近代編 第二十五巻唱歌下冊』
(東
京:講談社,1965)421頁を参照。
(2)保育園・幼稚園の幼児や子供から小学校・中学校・高校・
大学・一般に至る,『音楽教育に関わる人たちの実践と研
究の会』であり,『音楽教育の新しい内容と方法を確立す
るための研究団体』として,1957年に設立された。音楽教
育の会ホームページhttp://www.ongaku-kyoikunokai.com
を参照。
付記
本稿に掲載されている楽譜はすべて先方の許可を得た
ものである。
謝辞
本研究のアンケート調査にご協力いただいた兵庫県豊
岡市,養父市,朝来市,香美町,新温泉町の小学校教諭
の皆様に感謝を申し上げます。
平成27年 5 月 7 日受付,平成27年 7 月 6 日受理
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中 井 明日香 ・ 劉 麟 玉
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