...

2007年夏 vol.2 農業・農村政策の課題

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

2007年夏 vol.2 農業・農村政策の課題
目 次
コ ラ ム
C
1
O
N
T
E
N
T
S
「『土地持ち』非農家論」に思う
(社)JA総合研究所 専務理事
論 説
2
岩城 求
規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授
8
調 査 報 告
11
農村地域再生の課題
明治大学 農学部 教授 小 田 切 徳 美
担い手の育成・確保と新規参入─ 有 機 農 業 の 新 規 参 入 支 援 の 課 題
(社)JA総合研究所 主任研究員
研 究 レ ポ ー ト
13
鈴木 宣弘
横田茂永
WTO体制下の韓国の新しい農業政策
柳京熙
(社)JA総合研究所 主任研究員
16
水田農業の担い手対策と集落営農組織の課題
鴻巣 正
(社)JA総合研究所 主席研究員
連 載
19
都市とは何か─ 私 た ち の 目 指 し た ま ち づ く り ① コ ン パ ク ト シ テ ィ を 考 え る
(社)JA総合研究所 理事・主席研究員
現 地 調 査
22
大豆の食農連携②:JAささかみ「大豆加工体験施設」を事例に
(社)JA総合研究所 客員研究員
ト レ ン ド
24
30
32
読 書 の 窓
36
星 勉
加島 徹
大きかった「地域ブランド 」 登録効果─ 「 由 比 桜 え び 」
(社)JA総合研究所 客員研究員
報 告
根岸久子
全国機関・情報システムの動向(JA全中・JA全農・JA共済連・農林中金)
『P・F・ドラッカー理 想 企 業 を 求 め て 』
(社)JA総合研究所 協同組合研究部長
37
博士課程)
金融機関としてのJAの内部統制の構築とその評価と課題について
(社)JA総合研究所 主席研究員
シリ ー ズ 《 現 地 報 告 》
澤 千 恵 (東京大学大学院
農地法改正の論点
(社)JA総合研究所 主席研究員
26
丹 勇夫
お知らせ
吉田成雄
コラム 「『土地持ち』非農家論」に思う
「土地持ち非農家」̶̶いささか意味合いが異なるのだが、現在、この統計用語をよ
く使う2つのグループがあるように思える。1つは、意図的に「土地持ち非農家」を
創出する考えの人たちで、
「専業・兼業にかかわらず零細規模は『非効率』故『担い手』
に農地を集積させ、農地の出し手は『土地持ち非農家』として退場、どこに住むかは
は自由である」という。改革派を自称する官僚、財界、研究者たちである。もう1つは、
ひとけた
「昨今の諸事情から避け得ないことであり、日本農業を支えてきた昭和一桁世代が退陣
するので、それは加速度的に進み食い止めようもない。したがって、
『土地持ち非農家』
を組合運営に組み込んでいかねばならない」という考えであり、JAグループの実務
者、研究者からのものである。
これらの議論にはなぜかあまり愉快でない共通点があるように思える。
その1、
「農地」を「土地」と表現していることである。意図的か否かは分からないが、
これに「(平場)農地集積論」「一般株式会社農地所有論」「何でも貿易自由化論」を
みち
重ね合わせてみると何か透けて見えないだろうか。農地はさまざまな理由で減少の途
たど
を辿 っている。自給率はこれ以上下げられない状況にある。残飯大国という消費のあ
り方も問題にしなければならない状況にある。国際的な食糧需給にも波乱要因が増え
ている。「環境の悪化と市場原理の経済が食糧過不足の世界を造る」ことを安易に考え
てはならない。
『農地』は大事な多元的機能を持っている。その確保は次世代への責務である。……
一般的な表現の『土地』ではいけないのである。
その2、農業が持続的であり得るための「『共益』の確保」を欠いた議論である。大
規模「担い手」支援はそれはそれで良いが、多くの「支え手 」が確保されてはじめて
水田農業は成立する。その視点がない。役割を失った人が田舎で元気に生きていける
だろうか。
農業問題の基本は地域社会(の再生)にある。機能を失ったり、消滅する集落が増
え続けている。どのような国家を創造しようとしているのか見えない。農業・農村や
食糧をその分野だけで論じてはならない。安全保障政策も含めた国家の総合戦略の問
題であるはずである。「効率・非効率」はそのレベルで吟味されなければならない。国
の政策に影響を与える人たちが、乱暴に部分だけの持論を展開する危険を感じるのは
私だけだろうか。
0
0
0
その3、いずれも都会人によって論じられ、かつ「零細=非効率、退場」
「居住地勝手」
等尊大、無責任でもある。これに言いたいことは何もない。代わりに、都会で働く多
くの関係者に1つの提案をしておきたい。定年を迎えたら次のポストに執着せずに、
「自分が……」等と錯覚せずに、退職金と年金を持って、どこでも良いから田舎に住む
ことをお薦めしたい。若い時代は都会で懸命に働き自己表現したのだ。定年後は田舎
を守る。それも悪くはないと思うがいかがであろうか。
(社)JA総合研究所 専務理事
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
岩城 求 (いわき もとむ)
《コラム》
「『土地持ち』非農家論』に思う
1
論 説
規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
s
r
e
d
Lea
東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授
鈴 木 宣 弘 (すずき のぶひろ)
経 済 財 政 諮 問 会 議 等 の 動 向 を み て も、 規 制 緩 和 さ え す れ ば す べ て が う ま
く い く と い う 人 々 が、 わ が 国 で は、 さ ら に 声 を 大 き く し て い る よ う に 見
え る 。 世 界 的 に は 、 市 場 原 理 に 盲 目 的 に 頼 ら ず に、 富 の 分 配 ( E q u itab le
d ist rib u t io n o f w e a l t h) の 問 題 や 環 境 負 荷 等 に 配 慮 し た 、 よ り 総 合 的 な 判
断基準と政策枠組みが必要だという見方が強まりつつあるなかで、これは時
代 錯 誤 的 と も い え る。
い ま、 わ が 国 で は 、 医 療 と 農 業 が 、 規 制 緩 和 を 推 進 す る 人 々 の 「 標 的 」 と
な っ て お り、 医 療 に つ い て は 、 す で に 、 農 村 部 の 医 療 の 「 担 い 手 」 不 足 の 深
刻 化 等、 医 療 の 崩 壊 現 象 が 日 本 社 会 に 重 大 な 問 題 を 提 起 し 始 め て い る。 医 療
と 農 業 に は、 人 々 の 健 康 と 生 命 に 直 結 す る 公 益 性 の 高 さ に 共 通 性 が あ り、 そ
う し た 財 の 供 給 が 滞る 可 能 性 の リ ス ク は 大 き い 。
豪州の干ばつやバイオ燃料需要との競合等による国際穀物需給の逼迫下
で、 関 心 が 高 ま り つ つ あ る 食 料 自 給 率 に つ い て は 、 わ が 国 は 、 カ ロ リ ー ベ ー
スの自給率を現状の 40% から 45% に引き上げることを当面の目標としてい
る が、 国 内 外 の 農 産 物 貿 易 自 由 化 ・ 規 制 緩 和 の 圧 力 の 高 ま り の な か で、 こ の
ままでは、現状でも先進国の中で例外的に低いわが国の食料自給率の向上は
極 め て 困 難 に な り 、逆 に 、 さ ら に 下 が る こ と が 懸 念 さ れ つ つ あ る 。
1. 規制緩和の意義
一般的に規制緩和による競争の促進によって、産業の効率化と競争力の強
化が図られる側面は認識しなければならない。
また、WTO (世界貿易機関)による多国間の貿易自由化にしろ 2 国間な
いし数カ国間の FTA(自由貿易協定)にしろ、わが国の経済発展にとって、
国 際 貿 易 の 促 進 が 果 た す 役 割 が 大 き い こ と も 認 識 し な け れ ば な ら な い。
2. 土地賦存条件の差をどう見るか
し か し な が ら、 貿 易 自 由 化 を 含 め て 、 規 制 緩 和 さ え す れ ば 、 す べ て が う ま
くいくというのも幻想である。地域医療の崩壊現象は、そのことを端的に物
語 っ て い る 。農 産 物貿 易 も 、自 由 化 し て 競 争 に さ ら さ れ れ ば 、強 い 農 業が育ち、
食料自給率も向上するというのは、あまりに楽観的ではなかろうか。土地賦
存条件に大きく依存する食料生産には、努力だけでは埋められない格差が残
る。 例 え ば、 日 本 の 農 家 1 戸 当 た り 耕 地 面 積 が 1 . 8 ha な の に 対 し て 豪 州 の そ
れ は 3 3 8 5 h a で 、 実に 約 2 0 0 0 倍 で あ る 。
このような努力で埋められない格差を考慮せずに、規制緩和がすべてを解
決するという発想で貿易自由化を進めていけば、日本の食料生産は競争力が
備わる前に壊滅的な打撃を受け、自給率は限りなくゼロに近づいていくであ
ろ う。 こ れ は、 海 外 依 存 度 が 9 0 % 前 後 に ま で 高 ま っ た 麦 や 大 豆 の 歴 史 を 見
ても、容易に想像できることである。
2 《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
3. 関税と直接支払いとの関係
そ れ な ら ば、 関 税 で は な く 直 接 支 払 い で 補 て ん す べ き で あ り 、 そ の 方 が 経
済厚生のロスが縮小するので良いとの議論もある。しかし、直接支払いに必
要 な 費 用 は、 概 算 で も 毎 年 数 兆 円 規 模 に な る 可 能 性 が 高 く 、 そ の よ う な 財 源
を現状の日本の財政事情が許すとは思えないし、また、国民にも負担感が大
きすぎるであろうから、これもまた空論に近い(例えば、コメ関税ゼロはも
ちろん、WTO で米国が主張する 75% の上限関税が仮にコメにも適用された
ら 、 日 本 の コ メ 制 度 体 系 は 破 綻 す る )。 必 要 な 直 接 支 払 い 額 の 大 き さ を 勘 案
して、関税と直接支払いの現実的な組み合わせを探るという議論に修正すべ
きである。
4. 食料自給率とナショナル・セキュリティー
も し 、 十 分 な 補 て ん 財 源 の 見 通 し も な い ま ま 関 税 撤 廃 を 強 行 し て い け ば、
一 部 の 製 造 業 等 は 当 面 の 利 益 を さ ら に 拡 大 で き る で あ ろ う が 、 そ の 一 方 で、
す で に 4 0 % に ま で 落ち 込 ん で い る わ が 国 の 食 料 自 給 率( 供 給 熱 量 ベ ー ス)が、
さらに 30%、20%、10% へと低下していき、もはや独立国家としての国家安
全 保 障( ナ シ ョ ナ ル・セ キ ュ リ テ ィ ー )を 維 持 で き な い 水 準 に も な り か ねない。
国民はこれを許容できるであろうか。
一方の米国では、100%を大きく上回る十分な自給率を維持しているから、
対 外 交 渉 で 自 給 率 低 下 の 懸 念 を 主 張 し な い だ け で、 実 は 食 料 自 給 率 と 国 家
安 全 保 障 の 関 係 を 非 常 に 重 視 し て い る こ と は 間 違 い な い。 こ の こ と を 最 も
よ く 示 す ブ ッ シ ュ 大 統 領 の 日 本 を 皮 肉 る か の よ う な 演 説 を 紹 介 す る と、「 食
料 自 給 は 国 家 安 全 保 障 の 問 題 で あ り、 そ れ が 常 に 保 証 さ れ て い る ア メ リ カ
は 有 り 難 い 」( I t ' s a na t i o na l s e c ur i t y i nt e r e s t t o be s e l f - s uf f i c i en t in
fo o d . I t ' s a lu x u ry t ha t yo u' ve a l w a ys t a ke n f o r gr a nt e d he r e in th is
co u n t ry . )、「 食 料 自 給 で き な い 国 を 想 像 で き る か 、 そ れ は 国 際 的 圧 力 と 危
険 に さ ら さ れ て い る 国 だ 」( C a n yo u i m a gi ne a c o unt r y t ha t w a s un ab le
to grow enough food to feed the people? It would be a nation that
wo u ld b e su b je ct t o i nt e r na t i o na l pr e s s ur e . I t w o ul d be a na tion at
risk . ) と い っ た 具 合で あ る 。
特 に、 欧 米 で わ が 国 の コ メ に 匹 敵 す る 基 礎 食 料 の 供 給 部 門 と い わ れ る 酪 農
に つ い て は 、「 欧 米 で 酪 農 へ の 保 護 が 手 厚 い 第 一 の 理 由 は、 ナ シ ョ ナ ル・ セ
キ ュ リ テ ィ ー、 つ ま り、 牛 乳 を 海 外 に 依 存 し た く な い と い う こ と だ 」( コ ー
ネ ル 大 学 K 教 授 )、「 生 乳 の 腐 敗 性 と 消 費 者 へ の 秩 序 あ る 販 売 の 必 要 性 か ら、
米国政府は酪農を、ほとんど電気やガスのような公益事業として扱ってきて
お り 、外 国 に よ っ て そ の 秩 序 が 崩 さ れ る の を 望 ま な い 」
( フ ロ リ ダ 大 学 K 教授)
といった見解にも示されているように、国民、特に若年層に不可欠な牛乳の
供給が不足することは国家として許さない姿勢がみられる。
さ ら に は 、 米 国 を は じ め 各 国 が、 エ ネ ル ギ ー 自 給 率 の 向 上 が ナ シ ョ ナ ル ・
セ キ ュ リ テ ィ ー に 不 可 欠 だ と の 認 識 を 強 め て い る と い う 現 実 は 、「 い わ ん や
食 料 自 給 率 に お い て を や 」( ま し て 食 料 自 給 率 に つ い て は 言 う ま で も な い )
と い え る で あ ろ う。 わ が 国 は 、 エ ネ ル ギ ー 自 給 率 、 食 料 自 給 率 の 両 面 で、 す
でに各国に大きく離された低水準にあることを、あらためて認識する必要が
あろう。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
3
ま た、 ア ジ ア 全 体 で の 食 料 安 全 保 障 と い う 議 論 に は 2 つ の 異 な る 視 点 が あ
る の で、 注 意 が 必 要 で あ る 。 1 つ は 、 日 本 で コ メ を 作 ら な く て も 中 国 で 作 れ
ばよいという視点であるが、もう1つは、各国が一定の自給率を確保した上
で、 備 蓄 等 で 調 整 す る と い う 内 容 で あ る 。 E U ( 欧 州 連 合 ) も 、 あ れ だ け の
域内統合を進めながらも、まず各国での一定の自給率の維持を重視している
点 に 留 意 す べ き で ある 。
日 豪 E PA( 経 済 連携 協 定 ) に つ い て も 、 E P A を 結 ん だ か ら 、 日 本 で食料
生 産 し な く て も、 豪 州 が 安 定 供 給 し て く れ る 、 と い う よ う な 楽 観 的 な 考 え 方
は 間 違 っ て い る。 食 料 の 輸 出 規 制 条 項 を 削 除 し た と し て も 、 食 料 は 自 国 を 優
先するのが当然であるから、不測の事態における日本への優先的な供給を約
束 し た と し て も 、 実質 的 な 効 力 を 持 た な い で あ ろ う 。
5. 国土環境と国民の健康
さ ら に は 、食 料 自給 率 の 低 下 に 伴 い 、環 境 問 題 も 深 刻 に な る 可 能 性 がある。
極端な事態を想定してみるとわかりやすい。仮に、食料貿易の自由化が徹底
さ れ て 日 本 か ら 農 地が 消 え 、す べ て の 食 料 が 海 外 か ら 運 ば れ て く る としよう。
こ の 場 合、 農 地 の 一 部 は 原 野 に 戻 る が 、 農 業 を 離 れ た 人 々 が 他 産 業 で 働 く た
め に 多 く の 農 地 が 他産 業 に 転 用 さ れ 、日 本 は 製 造 業 と サ ー ビ ス 業 の 国になる。
す る と、 海 外 か ら 食 料 と し て 入 っ て く る 窒 素 と 、 国 内 の 産 業 活 動 か ら 排 出 さ
れる窒素量が増え、その窒素を最終的に受け入れていた農地や自然環境は減
少 し て い る た め 、 日本 の 窒 素 需 給 は 大 幅 な 供 給 超 過 に な る 。
実は、現状でも、農地の循環可能量の 2 倍近い食料由来窒素が環境中に排
出 さ れ て お り、 日 本 人 は 世 界 保 健 機 関 ( W H O ) の 基 準 値 を 大 き く 上 回 る 窒
素を摂取している。過剰な窒素は乳児が重度の酸欠状態になるブルーベビー
症 を 引 き 起 こ し、 消 化 器 系 ガ ン 、 糖 尿 病 、 ア レ ル ギ ー 等 と の 因 果 関 係 が 不 安
視 さ れ て い る ほ か 、酸 性 雨 、地 球 温 暖 化 等 の 環 境 問 題 の 原 因 に も な っ ている。
そ の 事 態 が、 自 由 化 に よ り 農 地 が 失 わ れ る こ と で さ ら に 悪 化 す る 。 ま た、 そ
もそも、いくら経済的に豊かになっても田園も牧場もない殺伐とした社会に
人が暮らせるであろうか。つまり、農の営みは、健全な国土環境と国民の健
康を守るという大きなミッション(社会的使命)を有している。農業関係者
も産業界も国民も、この点をあらためて再認識する必要があるのではなかろ
う か。 日 本 の 農 業 自 体 も 、 も っ と 環 境 に 配 慮 し な け れ ば 、 人 々 の 健 康 を む し
ば ん で 、わ れ わ れ は「 殺 人 者 」と 変 わ ら な く な っ て し ま う と い う こ と で もある。
6. 狭義の経済効率 を超えた総合的判断基準の必要性
以 上 の よ う に、 食 料 貿 易 の 自 由 化 は 、 一 部 の 輸 出 産 業 の 短 期 的 利 益 や 安 い
食 料 で 消 費 者 が 得 る 利 益 ( 狭 義 の 経 済 効 率 ) だ け で 判 断 す る の で は な く、 土
地賦存条件の格差は埋められないという認識を踏まえ、極端な食料自給率の
低下による国家安全保障の問題、窒素過剰による国土環境や人々の健康への
悪 影 響 等、 長 期 的 に 失 う も の の 大 き さ を 総 合 的 に 勘 案 し て 、 バ ラ ン ス の と れ
た適切かつ現実的な水準を検討すべき問題であろう。
表は、このことを端的に問いかけている。日本、韓国、中国、米国の 4 カ
国でコメのみの市場を考えた極めてシンプルな例示的なモデルによる試算で
あ る が 、 W TO に よ る コ メ 貿 易 自 由 化 に よ り、 生 産 者 の 損 失 と 政 府 収 入 の 減
少 の 合 計 は 1. 1 兆 円 に の ぼ る が 、 消 費 者 の 利 益 が 2 . 1 兆 円 に の ぼ る た め、 日
本トータルでは、1 兆円の「純利益」があるというのが、狭義の(外部効果
4 《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
を考慮しない)経済指標
の変化で、これが、経済
変 数
単 位
現 状
ゼロ関税
財政諮問会議等の自由化
億円
消費者利益の変化
21153.8
推進の1つの根拠であ
億円
生産者利益の変化
-10201.6
億円
政府収入の変化
-988.3
る。
億円
純利益の変化
9963.9
し か し な が ら 、同時に、
日 本
%
コメ自給率
95.4
1.4
表は、わずか数パーセン
立方km
バーチャル・ウォーター
1.5
33.3
トというようなコメ自給
千トン
農地の窒素受入限界量
1237.3
825.8
率の大幅な低下によるナ
千トン
環境への食料由来窒素供給量
2379.0
2198.8
ショナル・セキュリティ
%
窒素総供給/農地受入限界比率
192.3
266.3
世界計
ポイント
フード・マイレージ
457.1
4790.6
ーの不安、水田の減少に
(資料)鈴木宣弘『WTO・FTAの潮流と農業─新たな構図を展望』(2007年)
よ る 窒 素 過 剰 率 の 1.9 倍
か ら 2.7 倍 へ の 大 幅 増 加
注 : 世界をジャポニカ
に よ る 環 境 負 荷・ 健 康 リ ス ク の 増 大 、 バ ー チ ャ ル ・ ウ ォ ー タ ー の 2 2 倍 の 増
米の主要生産国である
加 や フ ー ド・ マ イ レ ー ジ の 10 倍 の 増 加 に よ る 環 境 負 荷 の 大 幅 増 大、 と い っ
日 本、 韓 国、 中 国、 米
たマイナス面も多くなることを数値で示している。
国の 4 カ国からなると
し、 コ メ の み の 市 場 を
日本についてのバーチャル・ウォーターとは、輸入されたコメを仮に日本
考えた極めてシンプル
で作ったとしたら、どれだけの水が必要かという仮想的な水必要量の試算で
な例示的なモデルによ
ある。つまり、コメ輸入の増加は、それだけ輸出国の水需給を逼迫させるこ
る 試算。
とを意味する。
フード・マイレージとは、輸入相手国別の食料輸入量に、当該国から輸入
国までの輸送距離を乗じ、その国別の数値を累計して求められるもので、単
位は t ・ km(トン・キロメートル)で表され、遠距離輸送に伴う消費エネル
ギー量増加による環境負荷増大の指標となる。
食料自給率の低下、およびそれに付随するこれらの外部効果指標は、表の
ような技術指標としての数値化は可能だが、それを簡単に金額換算して、狭
義の経済性指標の純利益の 1 兆円と、単純に比較できるものではない。しか
し、だからといって、狭義の 1 兆円の利益よりも軽視されていいというもの
で は な い 。 社 会 全 体 で 十 分 に 議 論 し 、 さ ま ざ ま な 人 々 の 価 値 判 断 も 考 慮 し、
適切なウエートを用いて、総合的な判断を行うべきものであろう。
また、これらはいずれも、現行の WTO ルールには反映されていない指標
である。現行の WTO では、狭義の経済性指標のみに基づき、継続的に一律
的な関税削減を行う道筋になっており、このままでは、仮に、その速度を緩
めることができても、やがて関税がゼロになる流れの途上にあることを重く
受け止めなくてはならない。一律的な保護削減ルールの適用は、資源賦存条
件の不利な地域の農業が壊滅することを容認するものである。それは、米国
や豪州といった人口密度の低い大規模畑作地帯に有利な一方、アジアのよう
に人口密度が高く1戸当たり耕地面積が零細な稲作地帯の農業・農村の存続
を困難にし、食料自給率の低下を招いていくであろう。
したがって、ナショナル・セキュリティーの問題を含め、各国の多様な農
業が存続する価値を再認識し、多面的な指標に基づいて、世界的な食料貿易
自由化や農業保護削減の無制限な推進を今一度再検討し、総合的な判断基準
を導入することを世界に働きかけていく努力をあきらめてはならないのであ
る。そのためには、アジア諸国が連携を強化し、多様な農業の価値が反映さ
れるように国際ルールの形成に共同して取り組むことが必要であろう。
もちろん、食料・農業・農村問題だけでなく、欧州圏や米州圏の統合の拡
大・深 化 に 対 す る 政 治 経 済 的 カ ウ ン タ ベ イ リ ン グ・パ ワ ー ( 拮 抗 力 ) として、
わが国がアジアとともに持続的な経済発展を維持し、国際社会におけるプレ
【表】コメ
【表
メ関税撤廃の経済厚生・自給率・環境指標への影響試算(補填システムがない場合)
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
5
ゼ ン ス を よ り 強 化 す る 必 要 性 は 高 ま っ て い る 。 こ の よ う な と き に 、アジア諸
国 が 結 束 し て 足 場 を 固 め る こ と を お ろ そ か に し て 、韓 米 F T A に 浮 き足だっ
て、 日 豪 F P A や 日 米 E P A を 急 い だ と し た ら 、 米 国 は ほ く そ 笑 む だ ろ う
が、アジアの将来は危うい。
7. 日本農業への誤解
そ も そ も 、 わ が 国 は 高 い 国 境 の 防 波 堤 と 国 内 で の 手 厚 い 価 格 支 持 政策に支
え ら れ た 農 業 保 護 大 国 で あ る と 内 外 か ら 批 判 さ れ が ち だ が 、国 境 の 防波堤が
高 い と い う の も 、手 厚 い 価 格 支 持 政 策 に 依 存 し て い る と い う の も 、いずれも
間違いである。
わが国の農産物の平均関税率は 12% であり、農産物輸出国であるEUの
20 %、 タ イ の 35 % 、 ア ル ゼ ン チ ン の 3 3 % よ り も は る か に 低 い 。 さ ら に 、 品
目 数 で 農 産 物 全 体 の 1 割 程 度 を 占 め る 最 重 要 品 目 を 除 け ば 、他 の 農 産物の関
税 は 相 当 に 低 く 、 野 菜 で は わ ず か 3% で あ る 。 し た が っ て 、 日 本 が 守 ろ う と
し て い る の は 、 コ メ・乳 製 品・肉 類 等 の わ ず か に 残 さ れ た 最 重 要 品 目だけで、
いわば、つつましい最低限の望みを訴えているだけなのである。
こ の こ と は 、 F T A 交 渉 に お け る 従 来 の 「 農 業 悪 玉 論 」 も 誤 解 で あること
を 示 し て い る 。 事 実、 タ イ の よ う な 農 産 物 輸 出 国 と の FT A で も、 農 産 物 に
関 す る 合 意 は 他 の 分 野 に 先 ん じ て 成 立 し、 難 航 し た の は 自 動 車 と 鉄 鋼 だ っ
た ( 日 本 企 業 の 「 懐 の 深 さ 」 が 問 わ れ て い る )。 大 多 数 の 農 産 物 関 税 は そ も
そ も 非 常 に 低 く 、高 関 税 な の は 品 目 数 で 1 割 強 程 度 の 重 要 品 目 の み であるか
ら 、重 要 品 目 へ の 柔 軟 な 対 応 を 行 っ て も 、結 果 的 に は 、か な り の 農 産物をカ
バ ー す る F TA が 可 能 だ っ た の で あ る( た だ し、 豪 州 の よ う に、 農 産 物 貿 易
に 占 め る 重 要 品 目 の 割 合 が 極 め て 大 き い 国 と の 間 で は 、こ の 議 論 は 成立しな
い )。
国 内 保 護 政 策 に つ い て も 、 コ メ や 酪 農 の 政 府 価 格 を 世 界 に 先 ん じ て廃止し
た わ が 国 の 国 内 保 護 額 は 、今 や 絶 対 額 で 見 て も E U や 米 国 よ り は る かに小さ
く 、農 業 生 産 額 に 占 め る 割 合 で 見 て も 米 国 と 同 水 準 で あ る 。 し か も 、米国は
酪 農 の 保 護 額 を 実 際 の 4 割 し か 申 告 し て お ら ず 、実 は も っ と 多 額 の 保護を温
存している。
経 済 協 力 開 発 機 構 ( O E C D ) が 開 発 し た 国 際 的 な 農 業 保 護 指 標 (PSE
指 標 ) で は 、 消 費 者 の 求 め る 品 質・安 全 性 に 応 え る べ く 国 内 生 産 者 が努力し
た 結 果 で あ る 「 国 産 プ レ ミ ア ム 」 も、「 非 関 税 障 壁 」 に よ る 内 外 価 格 差 と し
て 算 入 さ れ て し ま う 問 題 が あ る。 こ の こ と が 一 般 に は 理 解 さ れ て い な い た
め 、P S E は 国 内 外 で 誤 用 さ れ 、日 本 は 手 厚 い 農 業 保 護 に よ っ て 内 外価格差
を 維 持 し て い る と い う 誤 解 を 生 み 出 し て い る 。 例 え ば 、ス ー パ ー で 大分産の
ネ ギ 1 束 が 1 5 8 円 、 中 国 産 が 100 円 で 並 べ て 販 売 さ れ て い る 場 合、 こ れ を、
158 円の大分産ネギに対して中国産が 58 円安いとき、日本の消費者はどち
ら を 買 っ て も 同 等 と 判 断 し て い る と 解 釈 す る と、 こ の 58 円 分 が 大 分 産 ネ ギ
の 「 国 産 プ レ ミ ア ム 」 で あ る 。 こ れ は 品 質 向 上 努 力 の 結 果 で あ り 、保護の結
果ではない。
最 終 的 に 、 わ が 国 の 市 場 開 放 度 の 高 さ を 最 も 端 的 に 示 し て い る の は、食料
(供給熱量ベース)の海外依存度が 60% と、他の先進国に類を見ない高水準
だという事実であろう。
6 《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
8. 真摯に受け止めるべき点
一 方 、 国 内 的 に も 、 全 面 的 な 農 産 物 関 税 撤 廃 と い う よ う な 厳 し い 議論が出
て く る 背 景 に は、 日 本 の 農 家 は 十 分 経 営 努 力 を し て い な い と い う 批 判 が あ
り 、こ の こ と は 、真 摯 に 受 け 止 め な け れ ば な ら な い 面 も あ る 。 極 論 を排除す
る た め に は 、日 本 の 農 家 、農 業 関 連 業 者 も 、あ る 程 度 の 国 際 化 の 波 は避けら
れ な い こ と を 一 層 認 識 し 、さ ら に 経 営 セ ン ス を 磨 き 、可 能 な 限 り の コスト削
減努力、販売努力を強化することが必要である。
し か し 、 そ れ だ け で は 、 と て も 海 外 の 安 価 な 製 品 と は 競 争 で き な い。今こ
そ 、 環 境 に も 人 に も 動 物 に も 優 し い 経 営 に 徹 し 、 消 費 者 に 自 然・安 全・本物
の品質を届けるという食にかかわる人間の基本的な使命に立ち返ることが
求 め ら れ て い る 。 そ れ に よ っ て 、ま ず 、地 域 の 、そ し て 日 本 の 消 費 者ともっ
と 密 接 に 結 び つ く こ と が 不 可 欠 で あ る 。 そ の こ と が 、安 い 海 外 農 産 物との競
争 の な か で も 、国 産 品 が 日 本 の 消 費 者 に 選 択 さ れ 、ひ い て は 、日 本 の食品が
アジアに販路を見出すことにもつながる。
ス ロ ー フ ー ド 発 祥 の 地 の イ タ リ ア で は 、 い く ら で も 安 い 農 産 物 が イギリス
等 か ら 入 っ て き て も お か し く な い の に 、少 々 高 く て も 、地 元 の 味 を 誇 りにし、
消 費 者 と 生 産 者 が 一 体 と な っ て 、自 分 た ち の 地 元 の 食 文 化 を 守 ろ う という機
運が生まれている。こういう関係を生み出さなくてはならない。
大 規 模 化 や 経 済 効 率 の 追 求 を 否 定 す る つ も り は 全 く な い が 、 そ れ が、環境
に も 人 に も 動 物 に も 優 し く、 消 費 者 に 自 然・ 安 全・ 本 物 の 品 質 を 届 け る と
い う 本 来 の 使 命 を 果 た し つ つ 進 め ら れ な け れ ば、 こ れ か ら は 生 き 残 れ な い、
つ ま り 、本 当 の 意 味 で の 経 済 効 率 を 追 求 し た こ と に は な ら な い 、と いうこと
である。
9. 同じ土俵で展開すべき国民的議論
去る 4 月 23 日に政府間交渉が開始された日豪EPAで、仮に例外なしの
関税撤廃が行われた場合には、すでに 40% しかないわが国の供給熱量ベー
スの食料自給率が 30% 程度までくらいに下がるとの試算もあり、農産物貿
易 自 由 化 の 工 程 表 を 示 す べ し と す る 経 済 財 政 諮 問 会 議 の ワ ー キ ン グ・グルー
プ 会 合 で は、 世 界 に 対 す る 全 面 的 な 国 境 措 置 の 撤 廃 に よ り 自 給 率 は 1 2 % に
な る と の 試 算 が 農 林 水 産 省 か ら 提 出 さ れ 、現 在 、官 邸 周 辺 で 進 行 中 の議論の
事の重大性が改めてクローズアップされた。
こ の よ う な な か、 今 こ そ 、 自 給 率 が 3 0 % や 1 2 % ま で 下 が っ て も よ い の か
と い う こ と を 含 め 、日 本 に 農 業 が 存 在 す る 意 味 を 、産 業 界 や 消 費 者 も 含めて、
国 民 全 体 で 議 論 す る 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。 従 来 、食 料 自 給 率 に 関 連する議
論 に つ い て も 、規 制 緩 和 を 第 一 と す る 人 々 と 、多 様 な 農 業 の 存 続 を 重視する
人 々 と の 議 論 は 、 な か な か 噛 み 合 わ な い 面 が あ っ た が 、 こ れ を 打 破 し、 同
じ 土 俵 で 十 分 議 論 を 尽 く し、 長 期 的 に 持 続 可 能 な 日 本 の 将 来 像 を 描 き つ つ、
現実的な着地点を見出す努力が不可欠であろう。
自 己 の 目 先 の 利 益 の み を 追 求 し て い る も の は 長 期 的 に は 滅 び る 。 日本企業
が ア ジ ア で 「 大 人 げ な い 」 と い わ れ 、尊 敬 さ れ な い の は 、貧 し い 諸 国で、露
骨 に 自 ら の 利 益 の み を 追 求 す る か ら で あ る 。こ れ で は 日 本 が ア ジ ア とともに
長 期 的 な 繁 栄 を 築 く こ と は で き な い。 一 部 の 人 々 の 短 期 的 な 利 益 の た め に、
日 本 や ア ジ ア の 将 来 が 危 機 に さ ら さ れ る よ う な 愚 を 避 け ね ば な ら な い。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《論説》規制緩和一辺倒の経済政策では地域社会が崩壊する
7
農村地域再生の課題
論 説
s
r
e
d
Lea
明治大学 農学部 教授
小田切 徳 美 (おだぎり とくみ)
1.いま、農村を めぐって̶はじめに̶
農村の危機が深まっている。中山間地域で進行している「人、土地、ムラの3つ
の空洞化」は、必ずしも中山間地域だけの現象ではなくなり始めている。
「農村地域
全域の中山間地域化」と言えるような現象が生じているのである。
しかし他方では、その農村に対して、さまざまな場面で、新たな議論や問題提起
が行われている。その1つに「限界集落」をめぐる議論があげられる。限界集落問
題は、しばしば全国紙やテレビ等でも取り上げられ、社会学者・大野晃氏による造
語であるこの用語も、いまや社会的に定着している。さらに報道サイドの視点は、
「集
落問題」という領域にとどまることなく、わが国における都市と農村の関係、ある
いは人間活動と自然との関係という大きな枠組みの議論につながり始めている。
また、いわゆる「ふるさと納税」をめぐる議論も注目される。総務大臣によって
問題提起されたこの政策構想は、連日のようにその賛否がマスコミを賑わせている。
その論点は、「ふるさと支援」を税制で実施しようとすることの適否、あるいは税制
で実施した場合の問題点の所在であり、現時点では賛否を二分する状況と言える。
しかし、興味深いことに、「ふるさと」を支援することに対する反対論やそれが不必
要だという議論はほとんど見られない。むしろ、ふるさと支援を前提として、その
手法をめぐる議論が盛んに行われているのが現状であろう。
限界集落問題を契機とする農村問題への人々の関心の高まり、ふるさと納税論議
における「ふるさと支援」への思い。こうした状況は、少し前までに見られた、
「都
市の不満」の増大が地方批判、特に「農村優遇」「農村の甘え」批判として、噴出し
ていたような状況とは明らかに位相が異なるように思われる。
このような新たな動きが一時的なものなのか否かの判断をするのは、もうしばら
く状況を見る必要があろう。しかし、それを一時的なものに終わらせないためにも、
農村サイドが、状況が変化しつつあることを正しく認識して、主体的に活発な対応
を行うことが求められよう。
本稿では、そうした農村地域再生に向けた具体策を試論的に示してみたい。その際、
次の点は特に意識している。それは、農村をめぐる風の向きが変わり始めたとしても、
依然として農村は著しく困難な状況にあり、そしてそれに抗する途は、やはり現場
が示していると考えられることである。
「地域再生の現場力」は、農村地域でも確か
に存在している。そして、このような「現場力」を発揮する地域を歩くと、地域再
生の目標が、「所得増大」や「若者定住」だけでなく、それらを含みつつも、より幅
広い課題、すなわち「安心して、楽しく、少し豊かに、そして誇りを持って暮らす」
という点で共通していることに気が付く。しばしば指摘されているように、地域再
生には、住民の目線による「暮らしの視点」が欠かせない。
2.新しいコミュニティーの構築
「暮らしの視点」からの地域再生を考える場合、特に重要な課題となるのは、農村
コミュニティーである。なぜならば、コミュニティーは、
「安心して、楽しく、少し
豊かに、そして誇りを持って暮らす」という地域課題のほとんどの実現にかかわる
からである。
現実に、集落の限界化傾向も相まって、農村地域のコミュニティーがあらためて
学界内外で議論され始めている。ただし、今の議論は、集落だけではなく、
「地域振
8 《論説》農村地域再生の課題
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
興会」「自治振興区」「むらづくり委員会」等の多様な名称で呼ばれている新たなコ
ミュニティー組織も同時に注目されている点に特徴がある。
そのような事例は、例えば広島県をはじめとして、西日本において顕著である。
それは、西日本で進んだ市町村合併の動きとは無縁ではない。合併が急進した地域
では、団体自治の広域化のなかで、それを埋めるような形で、住民自治の強化が主
張されている(小さな自治)。また、合併自治体がそうした住民自治組織の育成に努
めている事例も多く見られる。
しかし、そのような行政主導の組織であっても、現実の取り組みのなかで、行政
機能の低下を代替するという消極的なものではなく、むしろ住民が、当事者意識を
もって、地域の仲間とともに手作りで自らの未来を切り開くという積極的な展開を
示す例も少なくない。つまり、行政用語では「地域自治組織」と呼ばれるこうした
組織は、新しいコミュニティーとして、従来行政に任せていた領域を含めて、住民
の手作りで実現するという性格を持っている。そういう意味を込めて、筆者はこの
ようなコミュニティーを「手作り自治区」と呼びたい。
「手作り」が可能な地域単位を考えれば、合併市町村はもとより、合併を選択しな
かった市町村の一部においても、既に過大な規模となっている可能性がある。これ
らの先発事例である広島県旧高宮町(安芸高田市)や京都府旧美山町(南丹市)が、
「地
域振興会」等の活動単位として、
「手触り感」のあるエリアである旧村(昭和合併時)
や大字を重視するのはそのためである。
なお、「手作り自治区」は、しばしば限界集落への対応策として論じられる。しか
し、その実態は、集落機能を直接に代替するものではない。むしろ、集落の機能を
「守りの自治」とすれば、この組織は「攻めの自治」を担当する。このように、集落
と新たな自治組織は、補完関係にある点が重要である。「新たなコミュニティー」の
「新たな」という意味はここにもある。
3.新しい地域産業構造の構築̶4つの経済の構築̶
所得水準の急落が進むなかで、農村地域では公共事業に依存しない産業の育成が
あらためて喫緊の課題となっている。その具体的イメージは、著名な高知県馬路村
いろどり
のゆず加工や「葉っぱビジネス」として名高い徳島県上勝町の「
『彩』事業」等が輪
郭を示している。それらを含めて、農村地域の新しい地域産業は、次の4つの経済
の構築・確立としてまとめることができる。
第1に、
「第6次産業型経済」の構築である。地域農林水産物を加工、販売する第
6次産業の必要性は、先の馬路村の事例がつとに示している。それは、食用農水産
物の国内生産額約 12 兆円と最終食料消費額約 80 兆円のギャップに含まれている付
加価値と雇用を農村サイドが新たに得ようとする活動でもある。
第2に、「交流産業型経済」の実現である。交流は、都市住民と農村住民の双方の
人間的成長の機会である。日本におけるグリーンツーリズムのメッカと言える大分
あ じ む
県旧安心院町(現・宇佐市)の「農泊(農家民泊)
」が、高いリピーター率を誇るの
はこうした要因による。そのため、交流は産業としての成立可能性も、実は小さく
ない。
第3には、「地域資源保全型経済」の実践である。農村地域の地域産業が、地域に
固有の「資源」を利活用するのは当然のことである。しかし、現在ではそれだけで
はなく、その地域資源を地域が保全し、磨き上げる過程を担っている点を外部にア
ピールすることが必要である。こうした地域資源の形成・磨き上げ・利用・保全と
いうプロセスが、ひとつの「物語」となって、商品に埋め込まれた時に、都市の消
費者の強い共感が生まれる。
そして、第4に「小さな経済」の構築である。山口県中山間地域の住民(非農家
を含む)を対象としたアンケート結果が興味深い論点を示している。アンケート回
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《論説》農村地域再生の課題
9
答者は、経済的水準が不十分な場合、
「あといくらぐらいの月額収入が必要か」とい
う問に対しては、必ずしも大きな金額を求めてはいない。追加所得として、月 10 万
円以上を望む回答者は、男性で 32%、女性で 22%に過ぎない。また年齢別に見ると、
高齢者では月3∼5万円の増収を希望する割合が多くなっている。年収に換算すれ
ば、36 万円∼ 120 万円の追加所得を実現する産業があれば、所得問題の一部には、
対応できることを示している。このような「小さな経済」を確実に地域内に作り出
していくことが重要となっている。
4.地域の取り組 みの体系化
農村地域再生には、以上の点を含めたさまざまな取り組みの戦略的な体系化が必
要である。例えば鳥取県智頭町(ゼロ分のイチ村おこし運動)や新潟県山北町(魅
力ある集落づくり事業)をはじめ各地の取り組みにはそれを意識的に追求したもの
も少なくない。それらの取り組みから学べば、地域再生には次の3つの柱が必要で
あることを教えている。
第1に、
「参加の場づくり」である。いうまでもなく、地域づくりは地域住民の参
加によって成り立っている。しかし、地域の中で住民の参加は自然に実現するもの
ではなく、その仕組みを意識的にセットする必要がある。特に農村地域では、地域
の意志決定の場から女性や若者が排除される傾向が強い。集落の寄合などで「1戸
1票」制を原則とするからである。そこで、地域内の人々が、個人単位で、地域と
かかわりを持つような仕組みや、地域を支援しようとする都市住民や NPO 等も参
加できる仕組みへの再編が求められている。
第2の柱は、「カネとその循環づくり」である。世帯所得の急落が進むなかで、公
共事業に依存しない地域産業の育成があらためて地域課題となっている。さらにそ
の所得が地域内で投資され、新たな経済循環が形成されることが重要であろう。こ
こでは先に論じた「4つの経済」の追求が求められる。
そして第3の柱は、暮らしの「ものさしづくり」である。地域に暮らし続けるこ
とを支える価値観は、何もせずに身に付くものではない。特に、画一的な都市的価
値観が深く広がった日本では重要な課題である。そうしたなかで、自らの暮らしを
めぐる「ものさし」の確立のためには、とりわけ意識的な取り組みが必要である。
近年各地で実践されている「地元学」の試みは、それを十分に認識したものであろう。
また、交流活動にも「ものさしづくり」の大きな可能性がある。交流は産業である
と同時に、それを通じて双方が新たな価値(ものさし)を形成するという意義があ
るからである。
以上、地域再生の取り組みの体系化に必要な3つの要素を指摘したが、<参加の
場づくり><カネとその循環づくり><暮らしの「ものさし」づくり>は、それぞれ、
地域づくりの「場づくり」「条件づくり」「主体づくり」に相当するものである。
5.おわりに
本稿で指摘した農村地域再生の3つのアクション──①新しいコミュニティーの
形成の促進、②新たな地域産業構造の構築の促進、③地域再生の取り組みの体系化
の促進──は、いずれも「地域の自立に向けた内発的発展」を目指す取り組みである。
当然、こうした地域自らの動きだけでは、農村地域再生は困難であることもいうま
でもない。農村内部のこうした動きの基盤を作り出し(格差是正)
、またその取り組
みを促進し、安定化させる外部からの支援が必要になる。
「内部の取り組み」と「外部からの支援」がどのような関係にあるべきかという議
論は、古くからの実践的論点であった。しかし、冒頭で述べたように新しい風が農
村に吹き始めている段階だとするならば、その新しい段階における両者の新しい結
合関係のあり方が論じられなくてはならない。
10 《論説》農村地域再生の課題
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
調査報告 > >>>>>>>
担い手の育成・確保と新規参入
有機農業の新規参入支援の課題
(社)JA総合研究所 協同組合研究部 主任研究員
横 田 茂 永 (よこた しげなが)
1.はじめに
2006 年 12 月に「有機農業の推進に関する法律」が施行され、有機農業を行う農
業者も国策的に担い手の一部に位置付けられたといえる。また、同法に基づいて、
「有
機農業の推進に関する基本的な方針」が 2007 年度からおおむね 5 年間を対象として
定められたが、そのなかで有機農業を行おうとする新規就農者への支援にも努める
旨が明記されている。
新規就農者のなかでも、特に非農家出身の新規参入者の間には根強く有機農業へ
の志向が存在している。また、実際にも新規参入者が有機農業を実践している事例
が少なくない。これらのことから、有機農業の新規参入者への支援について検討す
ることが、今後の担い手の育成・確保の一端としても必要になると考えられる。
2.新規参入の課題と就農支援制度の現状
農林水産省の統計調査によると、新規就農者のなかに新規参入者が占める割合は
2001 年度で 0.7%とまだわずかではあるが、実数では 1985 年度の 66 人から 2001 年
度には 530 人へと約 8 倍の増加を示している。
新規参入者においては、技術、農地、資金および住宅の取得が課題であるといわ
れているが、以前よりは支援制度が充実してきている。全国および都道府県に設置
された新規就農相談センターで就農にかかる相談を受けられるほか、「青年の就農促
進のための資金の貸付け等に関する特別措置法」
(青年等就農促進法)の制定により、
30 才未満(あるいは 40 才未満で知事の特認により定められた年齢)の青年、もし
くは 55 才未満(あるいは 65 才未満で知事の特認により定められた年齢)の中高年
者で、就農計画を提出し、知事の認定を受けた者(認定就農者)については、無利
子の就農支援資金(就農研修資金、就農準備資金、就農施設等資金)の借用などの
支援を得ることができるようになっている。
3.有機農業の新規参入と青年等就農促進法
有機農家で研修をして、その後独自に就農するという方法は、これまでの有機農
業での新規参入で最も一般的な方法である。ここでは、神奈川県藤沢市に位置する
研修農家とその近隣に新規就農した元研修生 3 人、現在の研修生 3 人のうち調査当
日研修を受けに来ていた 2 人からの聞き取り結果のうち青年等就農促進法に関わる
部分について報告する。
(1)研修の概要
本研修農家では、60 代の経営主夫婦と 30 代の後継者夫婦の 4 人家族が農業に従
事しており、研修の受け入れは 1998 年から開始している。2006 年までに年 1 ∼ 4 人、
計 21 人の研修生を送り出しており、うち 5 人が神奈川県内、15 人が県外の全国各
地で就農している(1 人は就農準備中である)。
研修の仕組みは、通常の農作業を一緒にやる形式である。基本的には、作業の冒
頭で説明を行って実際にやってもらい、適宜アドバイスをしている。期間はおおむ
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《調査報告》担い手の育成・確保と新規参入
11
ね1年間、研修費は徴収しておらず、食事は提供している。通い、住み込みの別など
研修生の都合に合わせた柔軟な対応をしており、昨年は研修に妻や小学生の子どもを
連れて来る人もいたそうである。
以前は、有機農業団体であるNPO法人日本有機農業研究会からの研修生の紹 介
が 多かったが、現在は神奈川県農業技術センター(以下、農業技術センター)から
の紹介が増えている。農業技術センターは、業務の一環として就農計画作成の支援を
行っており、県内での有機農業による就農を考えている人からの問い合わせに対して
本研修農場を紹介しているのである。
(2)新規参入者と青年等就農促進法
3 人の新規就農者のうち 2 人(40 代男性、20 代男性 ) は認定就農者になっている。
認定を取得した理由の第一は、農地の取得を容易にするためであり、いずれも資金面
での無利子融資を目的としていない。認定を取得していない 1 人(20 代男性 ) は、祖
父所有の農地 20a に加えて、農業はやっていないが地縁のある父のつてで借地による
経営耕地の拡大を行っており、融資のために認定を取得することには消極的である。
研修生の 2 人は、農業技術センターの仲介で研修に入っており、やはり認定の取
得意向を示している。うち 1 人(20 代女性)は、就農を志してからの日が浅いため、
今後の研修のなかで就農地も含めて計画を固めていきたいとしているが、農地の取得
の便宜が得られることから認定を受けることは必要と考えている。もう 1 人(50 代
男性)は、すでに住居の近隣での農地の取得を計画しているが、やはり農地取得を容
易にすることが認定を受ける第1の理由と考えている。また、あまり大きな機械の購
入は考えておらず、融資を受ける気はないという。
4.有機農業でも農地の利用調整が急務
今日の農業情勢のなかでは、融資を受けても返済が難しいということもあり、初期
投資を抑制し、必要以上の資金借入はしない方針のようである。多品目の野菜栽培を
含む複合経営の有機農業を目指している場合は小規模から始めることもあり、このよ
うな傾向がある程度広く存在していることが推察される。
認定取得の理由として共通している農地取得については、新規就農者の間でもまだ
満足がいくものにはなっていない。農地の資産的保有が強い土地柄ということもあり、
規模を拡大できなかったり、住居近くでは農地を借りられなかったりと条件の良い場
所がなかなか手に入らないのが実状である。新規参入者だけでなく、研修農家自体も
約 20 カ所に分散する耕地条件に悩まされている。
また、農地条件が交錯していると、有機農業側からの病虫害や雑草の拡散、慣行農
業側からの農薬の飛散といった有機農家と周辺農家の摩擦が問題となることが多い
が、一部の果樹栽培からの農薬飛散が深刻であるほかは、今のところ 3 人の新規就農
者の間で大きな問題は出ていないという。しかし、研修農家が危惧するようにこの地
か き
区で多いハウス花卉の農家のなかには害虫等の拡散に神経質なところも多く、今後の
動向を見守る必要がある。そのような意味も含めて農地の利用調整が、有機農業の新
規参入でも主要な課題の1つであるといえる。
12 《調査報告》担い手の育成・確保と新規参入
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
研究レポート 協同組合研究部
WTO体制下の韓国の新しい農業政策
(社)JA総合研究所 主任研究員
柳 京 熙(ユウ・キョンヒ)
1. 課題
1990 年代はいわゆる農産物自由化の波が韓国を本格的に直撃し始めた時期で、激
変期の韓国農業に新しい農政への転換が強く求められた時期である。この時期の農
業政策の大きな特徴は、財政で裏付けられた構造改善事業の推進と、もう一つ、「親
(注)
1) 足 立 恭 一 郎「 資 料
でたどる韓国の親環境
農 業 政 策 」( デ ィ ス カ
ッションペーパー第 1
号、 農 林 水 産 政 策 研 究
所 、2002 年 ) を 引 用
す る と、「 親 環 境 と は
環境への配慮を強調す
る韓国独自の表現であ
り、 日 本 で い う 有 機 栽
培 と特別栽培(減農薬 、
無農薬)の双方が含ま
れている」と定義され
て い る。 し た が っ て 極
めて包括的でなお広義
の意味を持つ概念とし
て 理解すべきである。
環境農業」の推進である注1)。特に後者は、自由貿易時代における国内農産物の生き
残りをかけた戦略として注目を浴びており、ここ 10 年間の取り組みを見ると、大き
な成果をあげている。したがって本稿では、韓国の「親環境農業」に注目し、その
政策概要と生産の現状について考察を行いたい。
2.「親環境農業」政策の概要
(1)政策概要
「親環境農業」が農業政策の対象として検討されたのは、ごく最近のことで、政府
が有機農産物の存在を認め、法整備を必要とする懸案事業として取り扱うようにな
ったのは、1994 年 12 月に農林部の「環境農業課(後に「親環境農業課」に改編)」
が設置されて以降である。
このように韓国が「親環境農業」推進へと急速に転換した背景には、まず農業部
門への自由化の進展が急速であったにもかかわらず、それに対応できるような政策
が十分に開発されなかったことがある。すなわちこの動きは安全性を担保に農産物
の差別化を図ると同時に、自由化に対する対抗軸として想定されたのである。
2006 年に、一層の「親環境農業」の奨励を目的として、既存の「親環境農業直接
支払い」制度に水田部分を拡充し、既存の畑の部分を合わせて新しくスタートさせた。
支給要件としては、10a 以上の農地規模または 100 万ウォン以上の販売実績がある
(注)
2 )2007 年 5 月 15 日
時 点 で の 韓 国 の 100 0
ウ ォ ン = 130 円 程 度 で
あ る。
農家となっている。注 2)
2006 年度は 114 億ウォン(畑 72 億ウォン、田 42 億ウォン)の予算が充てられた。
支払い単価は、環境への寄与度と畑農業の所得補填の貢献度に分けられている。
有機・転換有機農産物は畑 79 万 4000 ウォン /ha(田 39 万 2000 ウォン /ha)
、無
農薬は畑 67 万 4000 ウォン(畑 30 万 7000 ウォン /ha)
、低農薬は畑 52 万 4000 ウォ
ン(畑 21 万 7000 ウォン /ha)となっており、格差をつけた支給体系となっている。
同一耕作地に対して最初の選定年度から 3 年間支給される。さらにあらためて実
験的に実施されていた畜産部門と条件不利地域への直接支払いの導入が決まった。
次は「親環境農業」政策の要である認証制度について見ることにしたい。
(2)認証制度の仕組み
「親環境農業育成法」の制定によって第三者(認証機関や国立農産物品質管理院〈以
下、管理院〉
)の品質管理は構築したものの施行当初はコーデックス基準より緩やか
な基準であった。 JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《研究レポート》W TO体制下の韓国の新しい農業政策
13
そこで「親環境農業育成法」に基づいて「親環境認証」制度を 2001 年から実施し、
強制的な認証制度に代わった。また、基準はより国際基準に近づかせると同時に輸
入品の取り扱いも盛り込まれた。ただし「親環境認証」の枠内に、日本の有機農産
物と特別栽培農産物に相当する農産物(転換期農産物、無農薬農産物、低農薬農産物)
が含まれているなど、適用範囲は広い。
認証過程について説明すると、まず、生産者が「管理院」または認証機関に親環
境認証を申請し、それを受けた認証機関は適切な審査を経て申請者に認証結果を通
知する。認証された生産者は生産計画に基づいて生産し、生産者自ら「親環境農産
物認証マーク」を付着し出荷する。出荷後は、「管理院」が抜き打ち検査を行うなど
の指導業務も兼ねている。
3)認証制度の改正
「親環境農業育成法」は 2006 年 9 月に法律の一部を改正し、2007 年 3 月から施行
された。大きな特徴として、第一に、認証制度の簡素化があげられる。
現在 4 分類になっている認証制度は 「転機期有機農産物」が削除され、3つに集約
された(表参照)。
基盤が脆弱な畜産物の場合「有機畜産物」より一段規制が緩やかな「無抗生剤畜
産物」認証が新設される。
第二に、親環境農産物流通を活性化するために認証申請者の適用範囲を拡大する。
現在、
「生産者」と「輸入者」のみ認証申請をすることができるが、これからは 「認
証品を再包装して流通する者」も親環境農産物の認証を申請することができるよう
になる。
第三に、認証の有効期間が延長される。現在は親環境農産物認証の有効期間は 1
年であったが、今後 2 年に延長される。ただし、厳格な管理が要求される有機農産
物は現行 1 年の有効期間がそのまま適用される。
第四に、不正流通を防止するための認証と事後管理が一層強化される。民間認証
機関は5年ごとに資格要件に対する定期的な審査を経て再指定を受けなければなら
ない。また、これからは誤認・虚偽広告をした場合においても罰金が科されるよう
になった。
【表】改正認証制度の概要
項 目
従 来
改 正
定 義
化学剤を適切に使用
化学剤を使用しないか、
また最小限に使用する
分 類
有機・転換期・無農薬・低農薬
有機無農薬(無抗生剤)
低農薬
認証対象
生産者・輸入業者
生産者・輸入業者・流通業者
認証有効期限
1年
2年(有機は1年)
民間認証機関の指定有効期限
規定なし
5年
認証取り消しの処分を受けた者の
再申請の資格
規定なし
1年間申請禁止
不正行為禁止
規定なし
現行の制度以外に
表示と異なる内容の場合も禁止
生産・流通支援対象
生産者・生産者団体・流通業者
生産者・生産者団体・流通業者・認証機関
(注)著者作成
14 《研究レポート》W TO体制下の韓国の新しい農業政策
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
3.親環境農業の 動向と今後の課題
「親環境農業」は、統計で見る限り大きな進展を見せている。1999 年の農家戸数
はわずか 1306 戸であったが、2005 年には 5 万 3478 戸と 40 倍以上に増加した。
面積は同期間に、875ha から 4 万 9807ha と、およそ 57 倍の増加率を見せている。
生産量は同期間に 30 倍近く増加した。特に 2001 年以降の増加率が顕著であり、「直
接支払い」制度の拡充時期と重なることから、一定の政策的効果はあったと思われる。
ただし、政策的な意図によってもたらされた外延的な増加とは対象的に、内実ある
生産体制の確立にはほど遠い感じがすることも否めない。
端的な例として、1999/2006 年対比出荷量を見ると、有機農産物の生産は転換期
農産物を入れても 10 倍の増加であるが、無農薬は 27 倍、低農薬は 90 倍まで増加し
た。その差は歴然である(図参照)。
ちなみに 2006 年現在、有機農産物の生産面積は 4374ha となっており、
「親環境農業」
に占める面積割合は1割に満たない状況であり、出荷量はわずか4%を超える程度
に過ぎない。
今年から転換期農産物の認証制度が廃止されることに伴い、純粋な有機農産物と
称することができる生産は今よりさらに減少すると思われる。 4.課題と展望
以上、韓国の「親環境農業」をめぐる現状について整理したが、いくつかの特徴
をあらためて整理し、課題を踏まえて今後の展望について述べたい。
「親環境農業」の現状については本稿で考察したとおり、年間数十倍の成長を遂げ
ているものの、全体農業に占める「親環境農業」の比重はまだまだ小さいことがわ
かる。2006 年現在、全体農業生産・面積・生産量に占める割合を順にみると、4.3%、
2.7%、4.4%に過ぎない。しかし実施期間を考えればその展開スピードは特筆すべき
であろう。
さらに 2000 年に 554 億ウォンの「親環境農業」予算は、2006 年には 2218 億ウォ
ンと 4 倍増となり、これまで手をつけなかった流通部門に関する諸制度の整備に力
を入れることができるようになりつつある。
これからの「親環境農業」政策については「親環境農業育成5カ年計画(2006 ∼
2010 年)」におおよその方向性が提示されているが、これを見ると、一層の生産の
拡大とともに、流通部門の改善に向けての計画が実行される計画である。また、国
内の消費拡大を目指し、2008 年まで親環境農産物にも履歴をつけることになってお
り、流通部門に大幅なてこ入れが行われる。さらに「転換期有機農産物」の区分廃
止から分かるように、法律と現
実の整合性が取れるような法改
正を行うことで、消費者に分か
【図】新環境農産物の認証別出荷量の推移
800,000
トン
700,000
りやすい制度にしたことも大き
な特徴といえよう。
最後に農業政策の影響を強く
受ける韓国農業の現状を踏まえ
て言えるのは、今後の政策次第
(注)
3)「 農 産 物 品 質 管 理
院 」の資料より作成。
有機
600,000
400,000
無農薬
300,000
低農薬
によっては「親環境農業」の発
200,000
展可能性は極めて高い。
100,000
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
転換期
500,000
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
年度
《研究レポート》W TO体制下の韓国の新しい農業政策
15
研究レポート 地域研究部
水田農業の担い手対策と
集落営農組織の課題
(社)JA総合研究所 主席研究員
鴻 巣 正 (こうのす ただし)
はじめに
新たな「食料・農業・農村基本計画」の具体策として、政府は「経営所得安定対
策等大綱」を決定し、効率的かつ安定的な農業経営の育成が進められている。これ
に伴い地域農業の再編が急速に進展しており、既存の枠組みが大きく変貌しようと
している。本稿では、水田農業の担い手対策の背景や課題を概観し、集落営農組織
が直面している課題や今後の展開について考察を行った。
水田農業の担い手対策の背景
水田農業の担い手対策の背景には、農業をめぐる外的・内的要因の変化、構造的
変化がある。その意味で、基本構造の変革であり、組合員の営農やJAの組織基盤
に影響が大きい基本課題の1つといえる。
1)農業の担い手不足の深刻化
構造変化の第一は、農業の担い手不足の深刻化である。農業構造の展望では、基
(注)
1) 農 業 構 造 の 展 望 の 試
算結果、農業労働力の見
通しによる。
幹的農業従事者が、2015 年には 150 万人を割り込むとみている。注1)このままでは
農業を担う基幹的農業従事者がさらに減少し、従来の枠組みでは農業の維持が困難
になることを示唆している。
2)WTO等国際規律の強化
第二は、WTO等の国際基準への対応という点である。所得政策への転換には、
国際ルールを踏まえた制度の構築が前提であった。米国もEUも「緑」の政策の要
(注)
2) 例 え ば 岸 編(2006)
第2部直接支払制度をめ
ぐる論点に詳しい。
件に合うように政策転換を図っており、注 2)日本もそれに準拠する形で政策転換を進
めた。
3)農業の疲弊と農村、地域の衰退
第三は、農業の疲弊である。農家戸数は、2003 年には 300 万戸を割り込み、農業
就業人口は 1960 年当時の4分の1に減少している。農業就業人口に占める高齢者の
割合は 60%近くに達しており、農業生産基盤が弱体化している。こうした農業の疲
弊が、農村や地域の衰退につながっており、食料自給率の低下や不耕作地の増加等
の大きな要因になっている。
4)農業関連予算の削減
第四は、農業関連予算の削減である。財政健全化に向けた歳出削減により、農林
水産関連予算は 2005 年度に3兆円を割り込んだ。また、米・麦政策を支える食糧管
(注)
理特別会計も歳出削減が実施され、農業経営基盤強化措置特別会計と統合される。注3)
3) 財 政 制 度 等 審 議 会 の
提言等を受けた改革が進
められている。
こうした歳出削減の一環として、農業の構造改革を主要課題として担い手への施策
の集中化、重点化が図られている。
担い手対策における集落営農の役割
JA全国大会では、
「水田農業の担い手確保が喫緊の課題となるなかで、新たな品
目横断的対策の導入を契機として水田農業を中心に各作物の担い手育成支援に全力
16 《研究レポート》水田農業の担い手対策と集落営農組織の課題
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
で取り組み、米・麦・大豆等の土地利用型農業の大層を集落営農など政策対象とな
(注)
る担い手で担う姿をめざす」注4)ことを明確化した。集落営農組織の育成は、組合
4) JA全中(2006)『第
24回JA全国大会組織
協議案』P.5
員の営農やJAグループの組織基盤と深く関連する課題である。
1)兼業農家の役割
第一は、JAの組合員の大多数が兼業農家であり、農業構造において、兼業農家
の役割を重視しているという点である。農家所得においては、準主業農家や副業的
農家、自給的農家の所得も確保しなくてはならない。
2)生産条件格差の是正
第二は、水田農業のような土地利用型農業において、諸外国との生産条件の格差
は歴然としており、経営の安定策を前提としなければ、水田の不耕作地は急速に増
加し、農業は崩壊してしまう状況にあるためである。
3)農作業受託の重要性
高齢化や後継者不足で、ゆくゆくは自分で農業をやれなくなるという層は多数存
在する。生産者にとって真に必要な担い手は、農地を代わって耕作してくれる農作
業受託組織である。これは、特に稲作において必要性が高い。
4)農家にとっての農地の意味
農地は農家にとって大事な資産であるとともに、農村社会の重要な基盤である。
そのために農地の維持が重要で、農地としての保有の継続や、次世代に対し農地の
円滑な継承を図っていく必要がある。
集落営農組織の課題
品目横断的経営安定対策に対応するため、特定農業団体や特定農業法人等、担い
手要件を満たす集落営農組織の育成が優先課題であり、全国的には特定農業団体と
同様の要件を満たす任意組織の設立が進んでいる。しかし、こうした集落営農組織は、
さまざまな課題に直面しているのが実情である。
1)地域農業の再編強化
集落には、機械利用組合や転作受託組織などさまざまな任意組織が存在するが、
品目横断的経営安定対策の担い手要件に該当せず、新しい制度に対応した組織の再
編が不可避となっている。担い手要件を満たす組織へ再編を図ることにより、地域
(注)
農業における新たな枠組みを構築する必要がある。注5)
5) 例 え ば 日 本 農 業 年 報
53(2007)では、各地に
おける農業構造再編の取
り組みを論述している。
2)米政策改革への対応
2007 年度から導入されている品目横断的経営安定対策については、水田農業の態
勢整備がどの程度進むかが試金石となる。今後、最も影響が大きいとみられるのは
WTO等国際交渉の動向であり、特に稲作への対応は大きな課題である。担い手対
策は米政策改革と表裏一体をなすものであり、不可分の関係にある。
3)農地の利用集積とコスト削減
農地の効率的利用を図るため、地域実態に即して合意できる農地の利用集積を進
める必要がある。これには集落の合意形成機能の活用が有効である。さらに農業機
械への過剰投資を抑制するなど、一層のコスト削減を図る必要がある。その意味で
も集落営農組織を基幹とする営農体系への移行を急ぐ必要がある。
4)法人化の課題
農業生産法人化計画を有するが、短期間での条件整備が困難な状況にある。特に、
法人としての経営に誰が責任を持つのかなどの課題があり、多くの集落営農組織で
法人化が重い課題となっている。どのような法人形態が望ましいかを含めてさまざ
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《研究レポート》水田農業の担い手対策と集落営農組織の課題
17
まな課題を内在しており、地域実態とのギャップも大きい。
5)経営体としての持続的発展
集落営農組織としての経営収支の確保や経営基盤の確立も優先順位の高い課題で
ある。米価の下落により、すでに稲作の採算性は非常に厳しくなっている。このた
め経営体としての採算性を確保し、持続的な農業経営への展開をどう実現していく
かが大きな課題である。
今後の展開
1)担い手対策基本指針
JAグループでは、2005 年4月に「JAグループ担い手対策基本指針」を決定し
JAにおける担い手づくり戦略を策定し、集落営農の組織化等の数値目標などを盛
り込んだアクションプログラムを設定し、取り組みの徹底を図っている。
品目横断的経営安定対策への加入申請状況から、麦・大豆については、およそ目
安がついたともいえる。しかし問題は稲作であり、担い手になれない層が相当残る
状況になっている。
2)担い手への対策の傾斜
農業の構造改革を進めるために、予算の重点を、さらに担い手に移していくとみ
られる。予算が経営安定対策に傾斜するなかで、否応なく、担い手要件を満たす組
織への転換を図っていかざるをえない。その枠組みのなかで、どういう形態の担い
手を選択していくかということになる。
3)地域実態に応じた担い手の育成
担い手づくり戦略に位置付けられた集落営農組織の割合は 50%に達していない
(表参照)。組合員への周知徹底を図っているが、集落営農の意義が十分理解されて
いない面がある。一方で、集落営農にも一定の限界が見えてきた点である。集落営
農組織は概して規模が小さく、多数設立されてもカバー率が上がらないなどの課題
(注)
がある。また集落営農の設立が進まない地域が多数存在し、認定農業者としての農
6) 谷 口・ 李(2006) は
担い手問題への対応形態
としてJA出資法人の可
能性に着目している。
業法人等を含めた担い手構造を展望していく必要がある。注 6)その意味で地域実態に
(注)
結 語
7)『共生農業システム叢
書』第3巻(2006)など
農業の規模の零細性は、農業基本法制定以前から課題視され、規模拡大や法人化
(参考文献)
〔1〕岸 康彦編(2006)
『世界の直接支払制度』
農林統計協会
〔2〕
『共生農業システム
叢書』第3巻(2006)
『中
山間地域の共生農業シス
テム』農林統計協会
〔3〕生源寺眞一編(2001)
『21世紀日本農業の基
礎構造』農林統計協会
〔4〕谷口・李(2006)
『J
A(農協)出資農業生産
法人』農山漁村文化協会
〔5〕日本農業年報53
(2007)『農業構造改革の
現段階』農林統計協会
応じた担い手の育成が一層重要になってくるといえよう。
が目指されてきた経緯がある。しかし国土や自然条件の制約の下で規模拡大には限
界があり、集落営農組織の育成には経済合理性とは異なる視点も必要である。注 7)
水田農業を支えてきたのは兼業農家であり、農村や地域社会を維持するうえでも
重要な役割を果たしてきた。集落営農組織は、兼業農家や高齢者をはじめ、多様な
構成員により地域農業を維持する機能
を有している。農業・農村の有する多
面的機能を保持するためにも有効な手
段である。その意味でも日本の風土や
地域に根ざした担い手として育成して
いくことが望まれる。
【表】JA担い手づくり戦略に位置付けられた担い手の類型
担い手類型
位置づけている
認定農業者
501 (59%)
集落営農組織
408 (48%)
農業生産法人
401 (47%)
水稲作業受託組織
293 (34%)
その他の作業受託組織
254 (30%)
JA出資法人
175 (21%)
新規就農者
274 (32%)
(資料)JA全中調査(2006年3月)
18 《研究レポート》水田農業の担い手対策と集落営農組織の課題
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
私たちの目指したまちづくり
連載…都 市 と は 何 か
①コンパクトシティを考える
(社)JA総合研究所 理事・主席研究員
丹 勇 夫 (たん いさお)
○はじめに
7大都市圏に住む人口は全人口の 60%に、また人口5万人以上の市に住む人口は
全人口の 80%に近づいている。
大都市圏のまちづくりにおいては、過去の人口急増と地価・家賃の高騰に伴って、
中心市街地周辺に道路未整備のまま大量の不良賃貸住宅ストックが蓄積されたり、
また住宅地が郊外部の外縁まで拡大した結果として長距離通勤が拡大するなど外部
不経済の存在が指摘されてきた。しかし、今後、都心部において人口の増加が見込
まれることや、研究所や研究開発型工場の立地の増加、大学の郊外から都心への移
転や機能拡充、オフィス需要の好転など、なお都市の活力を維持する社会・経済環
境に恵まれている。そのため、今後のまちづくりにおいては、副都心へ都市機能の
集積を進めるとともに、ゆとりある住空間を確保し緑地等の公共空間が充実した良
質な宅地を、郊外部から供給する施策に転換することが重要だと指摘されている。
一方で、地方都市においては、人口規模が大きい都市ほど人口集積が進む傾向が
あると観察されているものの、車社会化の強い影響を受けて、地域の産業の低迷や
集客施設(大型商業施設など)
、公共公益施設(病院など)の郊外立地の増加等によ
り中心市街地の空洞化が進行している。今後、農山村が高齢化の進展とともに急速
な人口減少に直面して、自立的な地域社会づくりが厳しい状況になると予想される
なかで、地方都市は、さらに周辺農山村の人口移動の受け皿としての役割や、医療
や教育などの生活インフラの一部を支える役割が期待されてくる。そこで、地方都
市のまちづくりについては、多様な都市機能を再び中心部に集積しながら歩行者に
やさしい商店街の形成を図り、都市型住宅を中心市街地に建設して居住密度を高め
る「まちなか居住」を実現することで、まちの賑わいを取り戻すコンパクトシティ
が提案されている。
それでは、まずコンパクトシティに至る日本の都市づくりの歴史を概観してみよ
う。
■城下町という固有の都市づくり
○コンパクトシティであった地方都市
現在の大都市や地方都市には、城下町を起源とする都市が多い。城下町は本来歩
行中心の町として計画され建設されたので、これらの都市の多くも歩いて暮らせる
コンパクトな都市構造を維持していたが、高度成長期の車社会化によって中心市街
地が幹線道路で分断され商店街の道の機能が失われると、次第に都市の郊外部への
拡散が始まったのである。
○経済都市として建設された城下町
戦国時代は、技術革新の蓄積が農業生産の拡大や商工業の生産流通の増大をもた
らした時期であった。
農業生産力の高まりを基盤として成長をみせた商工業を、戦国大名は領国経営に
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《連載…都市とは何か》わたしたちの目指したまちづくり
19
生かす政策をとりはじめた。「楽市・楽座」は門前町や市場において、既得権益を排
除して新規参入を増やし領国経済の活性化を目指すという、当時の流通業界に対す
る規制緩和改革であった。
その結果、戦国時代が終わると、城という軍事施設から城下町という経済都市へ
の転換が行われ、城下町は全国各地において交通・軍事・経済の要衝に建設される
こととなった。家臣団を常住させ、その消費需要をまかなう職人・商人を集めて商
工業を振興したことが、城下町の発達を促したのである。
○農業土木技術が造った城下町
稲作とともに移入された農業土木技術は、戦国時代には河川堤防の構築、運河水
路の掘削、沼沢の埋め立てや開田など、大規模な農業土木技術の段階まで達していた。
「水を制する者が天下を征する」と唱われた農業土木技術が、当時の築城技術の発達
と相まって、城下町を造成する技術水準に高められ技術者集団が形成されていたの
である。 ○共通のコンセプトで設計された城下町
南北に 1000 kmの距離がある日本列島において、各地の城下町の築造規模は異な
っても設計理念は驚くほど共通している。当時すでに、築城から城下町の造成にい
たる計画技術が伝承され、また上方を中心に組織された技術者集団が存在したよう
である。
城下町の構成は、城の正面および周囲に武家地を配し、その外側に帯状に町人地
を置き、寺社地は武家地や町人地の外郭に配置している。居住地を所属身分や業態
ごとに定めるコミュニティー型の住区構成であった。
町人地の町割りの標準形は整形・格子型であるため、各区画(敷地)は短冊形となり、
間口は異なっても奥行きは一定になる。城と城下町は、河川や湾や運河の水面で囲
まれている。運河は河川や港湾と接続する水路(堀)を掘削したもので物資輸送の
水運に利用した。
■殖産興業の都市づくり(明治政府が選択した都市計画)
明治以降、都市計画は産業育成のための基盤整備に重点が置かれてきた。産業政
策の一環として、道路整備、港湾建設、鉄道建設等の基盤整備が重用視されてきた。
「道路橋梁乃至河川は本なり、住宅下水は末なり」というわけである。
このような時代背景のなかで、1919 年に最初の都市計画法が制定され、ドイツ流
の用途地域と区画整理が組み込まれた。
この流れは、戦後においても臨海工業地帯の整備や交通網の基盤整備に受け継が
れた。電源開発ダムの建設、大規模農用地開発、公有水面の埋め立てや港湾建設に
続き、自動車専用道路網や新幹線網の建設、さらに、空港施設の整備へと延々と続
いたのである。
一方で工業化の進行する大都市においては、人口増加に伴う住宅不足、家賃や地
価の高騰が、戦前から不況期を挟んで繰り返された。この住宅難の圧力に対応して、
大都市においては電鉄企業による交通路線の延伸・増強と並んで、主として郊外地
の民間開発による宅地や住宅の供給が行われ都市の郊外化が進んだ。 ■規制と誘導による都市づくり
20 《連載…都市とは何か》わたしたちの目指したまちづくり
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
20 世紀初頭以来のイギリスの田園都市論の理念は、都市の中間市民層に対して居
住環境の改善と良質な住宅の供給を図る郊外小都市の形成を目指すものであったが、
戦後になって日本の都市計画にも取り入れられることになった。経済活動のための
施設整備だけでなく都市生活の基盤や施設(社会資本)の充実がようやく課題とな
ったのである。
また、1968 年改正の都市計画法では、各都市が都市機能の改善を目指す範囲と内
容を明確に計画として示すこととなった。線引き制度によって市街地の拡大をコン
トロールする手法の始まりである。
都市の近郊地域を市街化区域と市街化調整区域に線引きする制度は、はじめて都
市計画に取り入れられた土地利用の誘導策であったが、この場合の新市街地の整備
手法としては、多数の小土地所有地権者の権利調整手法である土地区画整理事業が
最も期待されていた。
線引き制度が実施された昭和 40 年代半ばにおいては、すでに業務代行方式のモデ
(注)
区 画 整 理 に お い て、
細街路を整備しないで
大規模な区画のまま土
地を地権者に返還する
換 地方法。
ルとなった組合施行の土地区画整理が電鉄企業によって大規模に進行しており、見
がいせいかくちがたかんち
かけ上の減歩率を軽減するために採用した慨成画地型換地注)などが、地元とはいく
あつれき
つかの軋轢も引き起こしていたのである。
■コンパクトシティを目指す都市づくり
現在、社会資本の対象は、産業基盤のほかに居住環境を支える生活インフラ(歩
車分離道路、公共下水道、公園・緑地、医療・福祉施設、文化施設等)に加えて、
住宅の規模・性能・デザインや都市景観までを含むようになっている。
生活面の社会資本の蓄積を先進国の水準と比較すると、良好な住環境や住空間の
ストックが相当及ばない印象を受ける。住宅は量的には充足したが、耐久性があっ
て景観としても優れている住宅地が不足している。生活の質を高めるまちづくりが
必要である。
城下町を歴史にもつ都市は、過去のまちづくりにおいて相当の生活インフラを整
備している。かつて衰退した中心市街地の都市再生に成功した先進国の都市は、旧
市街から車を閉め出して歩いてアクセスできるまちづくりに努め、まちの賑わいを
取り戻した事例が多い。中心市街地を取り囲む外周道路を整備して、母親や高齢者
に安心な商店街を提供することや、公共交通を改善したり、歴史的な景観を修復し
たり、環境価値を高める取り組みが求められる。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《連載…都市とは何か》わたしたちの目指したまちづくり
21
現地調査
大豆の食農連携②:
JA ささかみ「大豆加工体験施設」を事例に
(社)JA総合研究所 客員研究員
澤 千 恵 (さわ ちえ)(東京大学大学院
博士課程)
転作大豆を使った「ものがたり」のある商品開発
笹神地区(旧笹神村、現在は阿賀野市)は、新潟県の北東部に広がる稲作地域で
ある。新潟市から東北東へ約 30km のところに位置し、東部には五頭連峰がつらなり、
山間部から湧き出る水は阿賀野川に流れ込む。
JA ささかみは、パルシステム生協連と、1978 年から協同組合間提携の歴史をもつ。
都市農村交流や産直、近年では生き物調査などさまざまな活動を通して提携を深め
てきた。2000 年に「もう一歩進んだ交流事業をやろう」と、笹神村・JA ささかみ・
首都圏コープ事業連合(当時)の三者が、
「食料と農業に関する基本協定」を締結し、
「食料農業推進協議会」
(以下、食農協)を設立した。食農協では、
「農産物の背景に
ある“ものがたり”を、消費者に伝えたい」という共通認識のもと、転作大豆を使
った商品づくりが議論された。
大豆加工品として、味噌も候補にあがったが、地域内に自噴している湧き水(地
域資源)を活用した豆腐を商品化することに決定した。新潟県の「食と緑の交流拠
点整備事業」の施設として「大豆加工体験施設」が竣工され、事業主体は JA ささかみ、
運営主体は「(株)ささかみ」が担っている。
「大豆加工体験施設」― JA・生協・メーカーが出資する「(株)ささかみ」
による運営
「大豆加工体験施設」を運営する(株)ささかみは、JA ささかみ・パルシステム
生協連・新潟総合生協・共生食品(豆腐加工会社)が出資して設立された会社であり、
農協・生協・加工業者が共同で所有していることが注目される。出資比率は、JA が
55%、パルシステム生協連が 15%、新潟総合生協が 15%、共生食品が 15%となっ
ている。
絹豆腐、木綿豆腐、ブロ
ー豆腐(充填豆腐)の 3 種
類を製造し、年間の販売量
は、275 万 2839 丁(2003 年)
→ 365 万 1990 丁(2004 年 )
→ 355 万 8476 丁(2005 年 )
→ 407 万 8167 丁(2006 年 )
であり、4 年間で 1.5 倍に成
長した。絹豆腐と木綿豆腐
(写真)
大豆加工体験施設にて
「手作り豆腐学校」の
風 景( 写 真 提 供、JA
ささかみ)
は、地元の新潟総合生協に
販売し、ブロー豆腐はパル
システム生協連に販売して
いる。なかでも、ブロー豆
腐が売り上げの 8 割以上を
占めており、大豆加工体験
22 《現地調査》大豆の食農連携②:JAささかみ 「 大豆加工体験施設」を事例に
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
施設の主力商品となっている。販売量の伸びは、首都圏の消費者が、国産大豆ある
いは阿賀野市産大豆を使用した豆腐への需要を強めていることを示している。
また、施設の 2 階は食育スペースとして使用され、1 階の工場を見渡しながら大
豆の製法について学び、豆腐作りを体験できる。食育スペースには、大豆の生育の
パネル展示もある。毎月2回の「手作り豆腐学校」や「畑の学校」といった定期的
な活動に加えて小学校の課外授業や、生協や消費者グループの学びの場としても活
用されており 2006 年度には、大人 361 人・子ども 184 人(計 545 人)が訪れた。
需要と結びついた生産体制
笹神地区では現在、大豆品種ではエンレイとタチナガハが生産されている。2006
年には、それぞれ 96ha、18.1ha(計 114.1ha)が作付けられた。新潟県の奨励品種の
エンレイだけでなく、元来この地域には馴染みが薄かったタチナガハも栽培されて
いるのは、豆腐の原材料として、より甘みのある大豆の生産が必要とされたためで
ある。大豆加工体験施設の設立にあたって、豆腐の試作と大豆の試験栽培が同時に
進められた結果、さまざまな品種の中で、タチナガハが選ばれた。需要と密接に結
びついた品種が、地域農業のなかに根付いているということができるだろう。
大豆の生産は、地域の中核的農家約 70 人が構成する「エコファームささかみ株
式会社」(2007 年 5 月設立。農作業機械化銀行が法人化した)が作業受託している。
50a 以上の団地となっている農地は全作業を受託、50 a未満の場合は基幹作業を受
託している。エコファームささかみは、受託料金に加えて、販売収益が得られるこ
とで、品質と収量を上げる意欲を強めているとのことだ。
また、笹神地区は独自の「大豆経営安定基金」を設けている(阿賀野市地域大豆
経営安定対策事業による)
。生産者、加工実需者、JAささかみ、食農協の 4 者が拠
出し、品質低下・減収時に、生産者に対して「買い支え奨励金」
・「減収見舞金」が
支払われる。この基金の拠出に、実需者と食農協が参加しているところが注目ポイ
ントだろう。加工業者と生協注)が、地域の大豆作経営の安定に一役買っていると見
(注)
パルシステム生協連と新
潟総合生協が食農協を通
して、間接的にではある
が参加している。
ることができるためである。
まとめ−農業政策と大豆の食農連携−
大豆生産は、米政策の変化に強く影響を受けてきたために、多くの産地では、安
定的な生産体制の構築途上にある。収量を上げ、かつ安定させるためには、技術の
向上は不可欠であるが、その土台に、大豆を生産するインセンティブが助成金や交
付金以外にも見いだされることが必要であろう。笹神地区では、パルシステム生協
連との提携により、転作大豆を使った豆腐の商品化を実現し、大豆生産を地域農業
に定着させると同時に、加工による付加価値を産地側が得られる仕組みを構築して
きた。
品目横断的経営安定対策に政策が移行し、小規模生産者の転作委託が減少するの
ではと懸念されていたが、今年度については、地区全体の大豆作付面積はむしろ増
えた。これは、
「担い手」が転作を拡大したこと、あるいは「担い手」以外の農家も、
農地・水・環境保全向上対策の要件クリアのために転作を継続したこと等が理由と
考えられる。いずれにしても、
「大豆加工体験施設」の売り上げ増加や消費者との交
流が、地域ぐるみで大豆生産に取り組む追い風となっていることは確かであろう。
政策の変動にも揺らがない産地が、食農連携によって形成されつつあると言えるの
ではないか。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《現地調査》大豆の食農連携②:JAささかみ 「 大豆加工体験施設」を事例に
23
トレン ド
農地法改正の論点
(社)JA総合研究所 地域研究部 主席研究員
星 勉 (ほし つとむ)
( 1) 農地制度を巡る議論と最近の法改正
昨今の農地法を始め農地制度を巡る議論としては、おおよそ以下の3点に
集 約 で き よ う。 ① 増 え 続 け る 遊 休 農 地 の 対 策 、 ② 認 定 農 業 者 等 担 い 手 へ の 農
地 の 面 的 利 用 集 積 の加 速 、 ③ 都 市 住 民 等 に よ る 農 地 利 用 機 会 の 増 大 である。
以上の議論の延長で最近法改正されたものとして、まず農業経営基盤強化
促 進 法 に お け る 特 定 法 人 貸 付 事 業 の 全 国 展 開 が あ げ ら れ る 。 こ の 制 度 は、 そ
れまで構造改革特区のみで行われていた農家以外に農地を取得できる農業生
( 注)
1) 特定法人の要件とし
て、「業務執行役員のう
ち1人以上の者が耕作
又は養畜の事業に常時
従事」。
産 法 人 以 外 の 法 人 、 つ ま り 特 定 法 人 注1)に よ る 全 国 レ ベ ル で の 新 規 参 入 が で
き る よ う に な っ た ( 2 0 0 5 年 9 月 施 行 )。 こ の 事 業 は 、 市 町 村 等 と 特 定 法 人 が
土地利用に関する協定を締結した上で、農家および農業生産法人以外で耕作
意欲のある者へ遊休農地およびそのおそれがある農地について耕作してもら
おうという趣旨である。
次に、上記③の都市住民等による農地利用機会の増大に対応して改正され
た 法 律 と し て 特 定 農 地 貸 付 法(2005 年 9 月 施 行 ) が あ る。 こ の 制 度 も そ れ
まで構造改革特区のみで可能であった、農家など「地方公共団体及び農業協
同組合以外の者」についても、特区を設定することなく市民農園を開設する
ことが可能となった。
(2)経済財政諮問会議からの提案
以 上 の 議 論 と は 別 に 、 2 0 0 7 年 5 月 8 日 に 経 済 財 政 諮 問 会 議 よ り 農 地制度を
巡って提案がなされている。基本的スタンスとしては、農地制度に関し市場
原理の全面的活用を採用するように提言している。
その具体的施策として、①これまで農地法の大前提となっていた農地に関
する権利移動の制限を取り払い、農地が有効的に活用される限り経営形態は
不 問 と す る。 つ ま り 株 式 会 社 に よ る 農 地 取 得 も 可 能 と し て い る 。 ② 借 地 人 が
手腕を十二分に発揮できるように 20 年以上の農地版定期借地権制度を創設。
③現行農業委員会とは別に新たに「農業経営者と学識経験者で構成される公
正な第三者機関を各都道府県に一つ、全国に一つ設置し、a. 農地関連の情報
の集積、開示、b. 利用状況の監視、是正、強制措置、c. 利用権の中間保有、
担 い 手 へ の 集 積 に 関 す る 業 務 を 実 施 す べ き で あ る 」。 そ し て こ れ ら 施 策 実 施
と 同 時 に 、標 準 小 作 料 は 一 定 期 間 の 経 過 措 置 後 廃 止 す る 、と し て い る 。④「高
齢、相続等により農地を手放すことを希望する人が所有権を移転しやすい仕
組 み と し て 農 地 を『株 式 会 社 』に 現 物 出 資 し て 株 式 を 取 得 す る 仕 組 み を 創設」。
これは農家にとっては相続などを機に遊休農地になりかねない土地をすぐに
金融資産に換えられる利点を狙っている。⑤農地の活用実態に応じて保有コ
ストつまり課税体系も見直す、などが施策提言の骨子となっている。
24 《トレンド》 農地法改正の論点
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
(3)今後 50 年間通用する制度の検討を
経済財政諮問会議が提案している以上の内容は、株式会社による農地の取
得 、 定 期 借 地 権 制 度 の 農 地 へ の 応 用、 土 地 の 証 券 化 を 思 わ せ る よ う な 高 齢・
離 農 家 の 土 地 を 対 象 と し た 株 式 会 社 へ の 現 物 出 資 な ど に 象 徴 さ れ る よ う に、
農地の土地政策への一般化であろう。
農地と一般の土地との違いを決めるのは2点だけである。1つは担い手へ
(注)
2) 諮 問 会 議 の 提 案 書 で
は『 農 地 の 利 用 権 者 の
権 利・ 義 務 の 明 確 化 』
も明記している。
の利用集積とそのための公正な第三者機関による中間保有、そしてもう1つ
は 農 地 が 農 地 と し て 使 用 さ れ る べ き だ 注2)と い う こ と で あ る 。“ 最 後 の 一 線 を
守 る た め に ”、 農 地 の 転 用 を 厳 し く し 、 ま た 利 用 状 況 も 監 視 す る と い う 事 後 規
制 の 立 場 に 立 っ て い る 。ち な み に 、現 行 農 地 法 で は 農 家 以 外 に よ る 農 地 取得は、
総議決権の2分の1以上を農地の現物出資者や常時農業に従事しているなど
の資格要件を備えた農業生産法人が可能といったように、事前規制の立場に
立 っ て い る。 ま た 特 定 法 人 は 、 農 業 生 産 法 人 と 同 様 に 役 員 要 件 で 事 前 規 制 を
受けると同時に、市町村等による利用形態のチェックという事後規制も受け
ることになっている。
いずれにしても経済財政諮問会議が提案している内容は、農地法の足りな
いところを補うといったものではなく、農地法そのものの根幹を問うものと
なっている。
(注)
3) 現 行 農 地 法 で 想 定 し
ている農地の公共性と
土地基本法で想定して
いる土地の公共性とで
は お の ず と 異 な る。 こ
の 議 論 に つ い て は、 淵
野・ 星「 耕 作 放 棄 と 農
地の公共性」『農政調査
時 報 』507 号 全 国 農 業
会議所(1998) を参照。
農地を一般の土地とみ
なした場合にはこの議
論は避けて通れない。
(注)
4) コ モ ン と は、 行 政 等
公共主体の制度といっ
た公的領域と私経済主
体による経済活動とい
った私的領域との中間
および両者以外の“共”
の部分での社会活動領
域 を 指 す。 具 体 的 に は
地域コミュニティ活動
であるとか集落合意に
基づく土地利用計画策
定 活 動 な ど が あ る。 コ
モ ン セ ク タ ー と は、 そ
う し た“ 共 ” 的 領 域 活
動 を 担 う 団 体 で、 N P
O法人や任意のまちづ
くり組織 、 さらには農
用地利用改善団体や農
業水利団体等が該当す
る。
仮に農地制度の見直しをするにしても、農地が国民への食料供給の責務を
果たすとともに営農を通じて自然環境保全や資源管理を担うものとして少な
く と も 今 後 50 年 間 は 通 用 す る 制 度 と し な け れ ば な ら な い。 そ う い う 意 味 で も
JAグループを始め農業団体は、今般の経済財政諮問会議からの提案に関わ
ら ず、 現 行 農 地 法 で 堅 持 す べ き 点 の ほ か に 、 ど の よ う な 公 共 性 の 理 念 に 立 っ
て 法 律 を 組 み 立 て る べ き な の か 注3)、 ま た 生 産 基 盤 の 維 持 と と も に ヨ ー ロ ッ パ
並みの美しい農村景観を創出するために国土利用計画のなかでどのように農
地 制 度 を 位 置 付 け る べき な の か な ど 、 根 底 的 議 論 を 深 め る べ き で あ ろ う 。
(4)担い手等への面的集積問題
最後に、経済財政諮問会議の提案を含め担い手等への面的集積について述
べ た い。 こ れ ま で の 議 論 や 法 改 正 の 流 れ に お い て 面 的 集 積 問 題 は 、 残 さ れ た
最 後 の テ ー マ で、 今 年 後 半 に か け て の 議 論 の 的 と な り そ う な 気 配 で あ る 。 具
体的には、農地保有合理化事業を格段に強化して合理化法人が金銭出資や貸
付信託事業を行うことができるようにする。また、生産調整の実施を含め地
域の合意形成が不可欠であることから、農用地利用改善団体の役割の強化や
J A 農 地 保 有 合 理 化 事業 の 強 化 な ど に つ い て の 議 論 が な さ れ て い る 。
この問題については、実効性を担保するために2つのポイントがあると筆
者 は 考 え る。 1 つ は ど の よ う な 組 織 が こ の 事 業 を 担 う に し ろ 、 そ れ な り の 財
政的裏付けが是非必要である。もう1つは、イル・ド・フランス地方圏のS
A F E R( サ フ ェ ー ル / 農 地 開 発 ・ 農 地 建 設 会 社 ) の よ う に 中 間 保 有 に 留 ま
ら ず、 保 全 す べ き 農 地 を 公 的 資 金 を 活 用 し て 取 得 し 、 担 い 手 等 耕 作 適 任 者 は
も ち ろ ん、 公 益 性 の 高 い コ モ ン セ ク タ ー 注4)が 多 面 的 機 能 確 保 の た め に 管 理 ・
活用することも可能となるような先買権を行使するといった、強力な公的あ
るいはコモン的なリーダーシップが発揮される必要がある。それくらい強い
覚 悟 で こ の 問 題 に 取 り組 ま な い と 、 課 題 解 決 は 困 難 で は な い か と 考 え る 。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《トレンド》 農地法改正の論点
25
トレ ンド
金融機関としてのJAの内部統制
の構築とその評価と課題について
(社)JA総合研究所 協同組合研究部 主席研究員
加 島 徹 (かしま とおる)
内部統制の整備と金融業務といった2つの点に焦点をあて金融機関経営としての
JAの内部統制の構築のための評価手法と内部統制の整備に向けた課題を提起して
いきたい。
1.金融機関にお ける内部統制の考え方
現在の内部統制の枠組みは、ほぼすべて COSO レポート(トレッドウェイ委員会
スポンサー組織委員会報告)を基本に体系が形作られてきており、バーゼル銀行監
督委員会における金融機関における内部統制の考え方である BIS 内部管理体制フレ
ームワーク(「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」
)も COSO のフレ
ームワークをベースに 13 の原則を示している。さらに、それを改訂したバーゼルⅡ
の規制において、第2の柱(監督上の検証)では自己資本充実度評価プロセスにお
いて金融機関におけるリスク管理や内部統制の充実度をベースとした評価を各国の
監督機関に求めており、今後、金融機関においてリスク管理や内部統制の充実度と
いった自己資本の質に対する規制や指導が強化されていくものとみられる。
金融機関の経営においては、コンプライアンス(法令等遵守)、オペレーショナル・
リスクといった基盤的な整備にとどまらず、積極的に日常的な業務から発生するビ
ジネスリスクをコントロールするようになってきている。特に財務諸表の信頼性に
影響を及ぼしかねないリスクに関しては発生確率が高いものであり、金融業務から
発生するさまざまなリスクを計量化し、それを統合化し自己資本との対比でコント
ロールしていくといったERM(Enterprise Risk Management)では統合的リスク
管理といった概念にまで発展してきている。
この「統合的リスク管理」の考え方はリスク管理とALM(資産・負債の総合管理:
Asset Liability Management)が連携し、収益の確保の目標についてもリスク調整
後の収益の最大化が業務上、経営管理上の目標に据えられた管理に移行してきてい
る。
金融機関における内部統制の考え方は、自己資本(経営体力)との対比でリスク
量を自己資本へ配賦し、リスクをその範囲に収まるよう管理を行い、財務諸表の信
経済資本・配賦原資・リスク資本とリスクコントロールの関係
Tier2
経 資本
Tier1
資本
済 配 資 賦 =
本 原 合 資
計
配賦された
リスク
リスク
資本
上限量
合計
実際の
リスク
リスクコントロール
26 《トレンド》 金融機関としてのJAの内部統制の構築とその評価と課題について
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
内部統制の枠組み(COSO)
モニタリング(監視活動)
情報とコミュニケーション
コント
ロール
活動
情報とコミュニケーション
リスクの識別と評価
統 制 環 境
頼性と金融機関としての永続性を確保する。さらに、リスク管理とALM管理に連
携をもたせ、リスク調整後の収益を最大化していくといった収益(profit)管理まで
行うといった統合的リスク管理の考え方になってきている。
2.内部統制の構 築とリスクアセスメント評価
内部統制の評価とは、内部統制の目的(
「財務・経営情報上の目的」、「業務活動上
の目的」、
「法令遵守目的」)に対して5つの統制要素(「統制環境」、
「リスク評価」、
「統
制活動」
、「情報と伝達」
、「監視活動」)が有効に機能しているかどうかについてその
有効性を評価するプロセスチェックである。
内部統制の構築・改善のためには、現状の内部統制の状況の把握およびに評価を
行い、現状を認識し、課題点を抽出しなければならない。リスクの評価にあたっては、
特に財務諸表の信頼性といった重要なリスクに関して内部統制、リスクコントロー
ルの有効性を検証し、評価する必要がある。
内部統制の有効性の評価は固有の業務リスク(ビジネスリスク)に内部統制、リ
スクコントロールの強度を勘案して評価を決定していくことになる。
具体的な評価方法としては、その業務に対する専門性を評価者が有していること
が前提となるが、理想的なリスクコントロールの状況を最適(ベストプラクティス)
(注)
1) C o n t r o l Objectives for Information and related Technology
の略で企業などの組織
のITガバナンスの指
針 ・実践規範。
と考えて、その状況にどれだけ近いかを5段階で評価する COBIT 注1)の成熟度モデ
ルを応用した評価方法により内部統制の状況を把握し、課題点を明確にするアプロ
ーチが有効ではないかと考えられる。
この成熟度モデルによる評価と業務における固有のリスクを加味して内部統制の
状況を評価し、現状が認識できれば、どこを優先的に整備していくのかが明確にな
ってくる。
内部統制の構築に関わる優先度はリスクアセスメント評価の結果により、偶発的
なリスクの発生の危険性が高い場合には、基礎的なリスクの発生を抑えることが必
要である。ある程度基盤的な管理がなされていれば、ビジネスリスクといった業務
に付随したリスクの発生をコントロールすることを優先的に整備することになる。
また、内部統制の構築にあたっては経営者自らのリーダーシップによるトップダ
ウン型でかつ横断的なプロジェクトによる内部統制の構築が有効と考えられる。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《トレンド》 金融機関としてのJAの内部統制の構築とその評価と課題について
27
成熟度モデルの図式
不在 初期/ 再現性は 定められた 管理され、 最適化
その場対応 あるが直感的 プロセスがある 測定可能
0 1 2 3 4 5
○‥‥現状の発展段階 0−管理プロセスがない
△‥‥業界標準 1−場当たり的で体系化されていない
□‥‥目標とすべき段階 2−管理プロセスに一定のパターン
3−明文化・周知がなされている
4−監視され、成果が測定されている
5−優れた指針に従い、自動化
3.JAにおける 内部統制、リスクコントロールへの実践課 題
日本においても会社法の制定により、金融機関のみならず、企業の内部統制の確
立に向けた取り組みが一層強化されていく見込みである。このような金融機関なら
びに他業態、あるいは社会的な内部統制強化のトレンドは、JAにおいても同様に
内部統制の確立を求める内外からの声として日増しに強まってくるものとみられる。
JAの場合、大きくは信用、共済、経済事業と3つの柱の事業が存在する。した
がってJAにおける内部統制の整備にあたってはまず内部統制とは何かを考えなけ
ればならない。JAの内部統制とは、JA経営をめぐるあらゆるリスクの発生プロ
セスを認識し、リスクをコントロールするプロセスである。他の業態と異なり、複
数の事業が多岐にわたるためそれぞれの業務ごとにリスク管理プロセスを考えてい
たのでは際限がない。このため、実際の内部統制の整備やリスク管理を行う際には
対象となる事業をカテゴリー化し、その重要度に応じてリスク管理や内部統制の整
備を行っていく必要がある。
JAの事業を大きく信用、共済、経済事業とした場合、共済事業については代理
店業務であるため、ビジネスリスクは確率的に低いが、法令遵守の面でのリスク管
理が重要と考えられる。一方、信用、経済事業については、法令遵守は当然のこと
ながら、業務におけるビジネスリスクが高く(固有リスク)
、リスクコントロールの
必要性が高い事業といえる。また、信用と経済を比べるとリスクの顕在化による影
響金額は信用事業のほうがはるかに大きいため、信用事業ではリスクコントロール
を行う必要性が高い。
リスク管理態勢の整備といった面では信用事業の必要性が高いが金融業務に関し
てはすでにほかの金融機関におけるリスク管理や統合リスク管理の考え方が存在す
る。このため、内部統制の一環としてのリスク管理の整備に関してはイメージしや
すいが、JAの事業に関しては経済事業も共済事業も同じJAの資本を使用してい
るため、JAの資本面に着目した3事業を統合した統合的なリスク管理を志向する
ことが必要である。
金融業務に関してはJAも金融機関として国内行基準の自己資本比率4%未満で
は市場退出を迫られるなど、金融機関としての制約を負うため、資本面での統合的
なリスク管理の必要性は同じ経済事業的なビジネスを営む他業態とは異なり、当然
に必要なことと考えられる。
経済事業等に関しては事業の多様性とリスクの種類が多岐にわたるため、資本の
28 《トレンド》 金融機関としてのJAの内部統制の構築とその評価と課題について
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
JA事業とリスクコントロールの必要性
ビジネスリスクの程度
高 低
信用事業
経済事業
共済事業
高 低
リスクコントロールの必然性
大
コンプラ等業務基盤の整備のウエート
管理といった側面からそのすべてのリスクの計量化は困難である。信用のみならず
経済事業においても信用事業と同様にリスク量の資本への配分とリスクの統合化と
いった課題を考えた場合、経済事業は収支フローによる経営への影響度合いが大き
いため、ひとつは収支フローを確率的に変動させ、リスク資本量を算出する方法や
(注)
2)Disc oun t ed Cash
F low の 略。 割 引 現 在
価 値。
キャッシュフローに着目し、DCF注 2)等の投資価値を算出し、投資差額を資本への
リスク量として統合化を図るなどの方法が考えられる。
内部統制の構築はいずれにしても事業・組織におけるリスクをいかに許容レベル
に抑え、事業基盤となる収益の確保をいかに図り、継続組合(ゴーイングコンサーン)
を確保していくかである。
現状の内部統制の整備はコンプライアンスなど偶発的なリスクの予防やドキュメ
ントの整理などが焦点になっているように感じられる。もちろん、基礎的な条件の
確保は必要不可欠であるが、組織・事業運営プロセスにおけるリスクの所在を明確
にして、より多くの事業のリスクの分野を含み、全体のリスクをコントロールして
いくといった視点が必要な時期に来ているのではなかろうか。なお、詳細に関して
はJA総研のホームページを参考にされたい。(http://www.ja-so-ken.or.jp)
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《トレンド》 金融機関としてのJAの内部統制の構築とその評価と課題について
29
ズ《
ー
シリ
報
現地
告》
大きかった「地域ブランド」登録効果
̶ 「由比桜えび」
(社)JA総合研究所 客員研究員
根 岸 久 子 (ねぎし ひさこ)
<漁協と商工業協 同組合で共同出願>
静岡県の由比港漁協と由比町桜海老商工業協同組合は、2006 年4月に地域団体
商標制度(いわゆる 「 地域ブランド 」)が創設されたことに伴って、由比町特産の
桜えびを「由比桜えび」の商標で共同出願し、11 月に登録された。桜えびは駿河湾
でしか獲れないが、もう 1 つの産地漁協のある隣町では加工業者の組合が「駿河湾
桜えび」として商標登録しており、由比町のように異業種の共同出願は珍しいという。
それは、特産の桜えびを地域活性化に生かそうと考えた行政が、桜えびを獲る漁
[写真]
「駿河湾の妖精」と呼ば
れる 「 由比桜えび」
協と加工・販売を専門とする組合に働き掛けたからである。漁協としては、「由比桜
えび」は知名度が高いが、最近は台湾産の桜えびとミックスして「桜えび」として
販売する業者がいるため、出生の確かさをアピールしたかったし、一方、加工業者
としては、加工技術や保存方法による品質の良さや、「桜えび」と称する子えび商品
との違いをアピールし、価格に反映させたいという思いがあった。こうしたそれぞ
れの狙いを担って共同出願したと言えよう。
登録後に漁協が取り組んだのは、収穫段階から市場までの衛生管理の徹底で、一
方、加工業者は規格の厳格化とともに、例えば、メディアへの露出度が多い県内の
「富士宮のやきそば」に桜えびを提供し話題づくりをしたり、写真コンテスト(8 月
に予定)を実施する等、知名度の向上に取り組んでいる。
ちなみに、桜えびには春漁(4 月∼ 6 月初め)と秋漁(10 月末∼ 12 月末)があり、
ほとんどが素干し品で販売されてきたが、冷凍技術が進歩し最近では釜揚げや冷凍
(生)のウェートが増しているという。
<「地域ブランド」の効果>
希少性もあり、もともと一定の知名度があったため、これまでは特に宣伝はしな
かったとのことだが、
「地域ブランド」への登録によって明らかな変化が生まれてい
ると、両組合ともに指摘している。
それは、何と言っても取り上げるメディアが増えたことで、登録後の初めての漁
期となった今年の春漁の時期には、わずか2カ月間にテレビ取材だけでも 20 回ほ
[写真]
ほとんど桜えびだけのか
き 揚 げ、「 か き 揚 げ 丼 」
にはこれが二つのってい
る。
どあったという。JALの機内誌のほか種々の雑誌も取り上げている。
それによる知名度の向上で、漁協の場合には、①仲買人・業者が増え、浜値が上
がった(浜値は昨年比 15%のアップ)、②桜えびの宣伝のために 2006 年 3 月に開
設した食堂「浜のかきあげや」の集客力がアップ(当初の営業日は毎月第3土曜日
だったが、現在は漁期は毎日、それ以外は毎週金・土・日)
、③既設の直売所の販売
高がアップ(知名度の向上と「浜のかきあげや」効果)、等の経済効果が生まれている。
筆者は 6 月 9 日の土曜日の昼ごろに、漁協事務所近くにある「浜のかきあげや」
に行ってみた。6∼7人が作業するのが精一杯のプレハブの調理場と、その続きに
は椅子とテーブルを並べたテント張りのスペースが設けられ、客はそこで食べる。
メニューにはかき揚げ丼やかき揚げソバ(いずれも 600 円)、かき揚げ(200 円)、
それに地元JAの味噌を使った味噌汁(100 円)等がある。
30 《シリーズ / 現地報告》 大きかった「地域ブランド」登録効果 ̶「由比桜えび」
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
店の前にはすでに大勢の人が並び、これでは 30 分待ちかと覚悟したが、同じ待
ち人の話では、今日は寸前まで雨が降っていたのでこの程度の待ち時間ではラッキ
ーだという。ようやく順番がきて念願のかき揚げ丼にありついたが、それを見て・
食べてびっくり。「桜えびのかき揚げ」のイメージが変わってしまった。何しろ、生
のえびを使い、しかもネギは彩り程度でほとんど桜えびだけ、小麦粉も少々のかき
揚げなのだ。隣にいた若い男女3人は「おいしい」
「桜えびの香りがする」
「安い」
「幸せ」
を連発している。食べるだけでなく、かき揚げ丼やかき揚げを買って帰る客も多い。
地元タクシーの運転手の話では、
「日曜日は延々と人が並び、2時間は待つ。午後
3時で閉店するので、待っても食べられない時には伝令が走る」という。
「秋漁のこ
ろまでには場所を広げないともったいない」とも話していた。
ブランド登録は加工業者にとっても、①知名度が上がり販売しやすくなった、②
インターネットによる個人顧客が増加した、等の経済効果をもたらしたという。
[写真]
いまかいまかと順番を
待 っ て い る お 客 さ ん。
この先まで、ずーっと
遠くまで並んでいま
す。
さらに、「ブランド」効果は
町の狙いにも応えた。何しろ
人口1万人足らずの町に 5 月
3 日の桜えび祭りには4万人
の人出があるし、「浜のかきあ
げや」の集客力も示すように、
交流人口が増えたため、商店
街の売上増に繋がる経済効果
も生み出している。町の活性
化への期待と感謝を込めてか、
駅から「浜のかきあげや」や
直売所までの道は「桜えび通
り」と命名されていた。
<課題―そして可能 性>
ただし悩みもある。それは「水揚げ量が減っていること」で、両組合ともに共通
している。そのため、漁協としては、資源管理が課題だとし、すでに 1963 年から
実施しているプール制に加え、漁獲量制限等の資源管理を実施している。
一方、加工業者にしても、水揚量の減少は浜値アップに繋がるし、商品不足で注
文に対応できなくなるので経営的に打撃を受けるという。従って、限られた資源に
付加価値をつけていかに有利販売するかが課題であり、今後は健康ブームに便乗し
つつ、公的機関による研究成果等を利用して健康面の効用等もアピールしていくと
いう。
以上のように、
「地域ブランド」への登録がメディアを「由比桜えび」に引き寄せ、
その影響力が多様な効果をもたらしたと言える。しかし、効果の要因はそれだけで
はない。顧客にはリピーターが少なくないことを考えると、ブランド登録が関係者
の意欲を引き出し、品質向上 ( 加工技術、品質管理など ) や新たな消費者戦略に主
体的に取り組んだことも大きかったと思われる。移ろいやすいメディアの影響力を
超え、真のブランド確立につなげるためには、ある意味でこれがブランド登録の大
きな成果と言えるのではなかろうか。
同年 11 月に「農山漁村活性化推進本部(農林水産省)」がまとめた農山漁村活性
化戦略の中では、
「生産・販売戦略(ブランドの確立による差別化・高付加価値化な
ど)」をトップに取り上げている。
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《シリーズ / 現地報告》 大きかった「地域ブランド」登録効果 ̶ 「由比桜えび」 31
報 告 > >> >> >> >
全国機関・情報システムの動向
●全国農業協同組合中央会●
JA全中の取り組み状況について
1.戦略的なシステム対策
(1)Compass −JAを中心にしたJA経営改革の支援
①普及・活用・導入対策
Compass- JAの普及状況については 2007 年 1 月現在、稼動県 24 県、準備 6 県、
導入に向け組織協議中 10 県(2006 年度調査等)といった状況になっている。
導入・運用コストの削減のため基本構想で掲げた全国的な共同導入・共同運用に
ついては、2006 年度調査では、共同導入希望県9県、共同運用希望県 10 県となっ
ている。
② Compass −JA基盤を活用した経営管理機能の強化
JA資産査定システム、不動産担保評価・管理システムについては、2006 年 3 月
完成し、6 月 13 日に全国説明会を開催した。現在は、2007 年 11 月に稼動予定とし
ている個別県への導入支援に取り組んでいる。また、導入希望県が 14 県程度と推移
している。
Compass-JA の 2006 年度改善版については、2007 年 3 月を目途に出荷した。
(2)経済事業改革にかかるシステム対策の充実
①JAの経済事業業務・システムの標準化
JA経済事業における業務・システムの標準化については、「JA経済事業業務・
システム標準化研究会」を開催し、報告書を作成した。また、報告書をもとにJA
購買事業にかかる標準システムの開発を進め、2005 年 9 月に完成している。
基本構想で掲げた「JA経済事業にかかる管理」、「JAとJA全農等外部との連
動手順」、
「JA購買事業にかかる汎用業務」の業務・システムの標準化については、
「J
A経済事業業務・システム標準化研究会」を踏まえ、「JA経済事業業務・システム
の標準化」報告書を作成した。現在は、個別県へのデモンストレーション等の推進
に取り組んでいる。
2.システムコスト削減対策
(1)システム基盤の共用化・標準化等による端末コスト削減対策
管理・経済システムについては、共用端末を主体として展開されているものの、
信用・共済端末についてはセキュリティ等から当面、専用端末を原則としつつ、共
済事務システムの一部(照会業務)については、他事業端末の活用について2県の
モデル県域での実施検証に取り組んだ。特に実施検証上問題はなく、今後、希望県
域での展開に取り組む。
一方、端末の標準的なソフトウエア製品(OSやOFFICE等)については、
マイクロソフト社から一括契約によるコスト削減対策を継続実施している。2007 年
2 月からの購入レベルを 1 月 17 日に合意した。
(2)県情報センター対策の推進
県センターについては、JASTEM移行に伴い経営問題が予想されるが、基本
32 《報告》全国機関・情報システムの動向
JA総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
的に各県が主体的に整備計画を策定し、全国連としては、「センター整備の手引き」
を基本に整備計画の取り組みの検証・フォローをすることとしており、このための調
査等を実施している。また、次期JAグループ基本構想の検討のなかで、今後の各県
域JA情報センターの役割分担を整理し、提示する予定である。
3.セキュリティー対策等の強化対策
(1)情報セキュリティー対策
2006 年 6 月より、内部統制整備プロジェクトの一部として、情報セキュリティー
マネジメントシステム定着化に向けたチームを設立し、モデルJAを選定し、定着化
作業を進めており、今後、JAグループ情報セキュリティー定着化の雛形を提示する
予定としている。また、2007 年度下期以降は、全国JAへの展開を実施する予定で
ある。
(2)JAでの内部統制等の対策
2006 年 6 月に内部統制整備プロジェクトが設立され、IT関連にかかる事項(I
T全般統制、IT業務処理統制等)についても盛り込まれており、モデルJAでの文
書化作業(パイロット作業)を進めている。パイロット業務の文書化については、ほ
ぼ完了しており、2 月からウォークスルー実施のフェーズに入る予定である。その後、
2007 年度内にはJAグループとしての内部統制文書化の雛形を提示する予定である。
(3)職員の生産性向上にかかる対策の充実
ITの基盤整備状況を調査するため、各JAにおける PC、メール、インターネッ
トなどの普及状況について例年どおり調査する予定となっている。
●全国農業協同組合連合会●
系統経済事業システムの最近の動き
1.安全・安心な農産物の提供と地域農業の振興対策
(1) 食の安全・安心確保に向けたシステム対策
ア.トレーサビリティーシステムの構築・推進
牛肉のトレーサビリティーシステムについて、JA全農ではBSE発生を契機に、
トレーサビリティー(1頭ずつの生産履歴の遡及・確認)の確立「生産農家∼食肉セ
ンター∼全農∼スーパー・生協・小売店」を実現してきた。消費者が自宅などからイ
ンターネットを利用し、生産履歴を確認できるシステムが 21 県 21 カ所で稼動してい
る(2007 年 3 月末現在)。
イ.全農安心システムの推進
産地・取引先等を選定し、双方が合意した生産・加工方法に基づいて農畜産物を生
産し認証する「全農安心システム」(2002 年 7 月開始)は、196 産地、79 加工場に拡
大している(2007 年 3 月末現在)。
(2) マーケティング戦略による地域農業の活性化を支援する情報システム対策
国内農畜産物の新しい流通スタイルを確立するために、JA全農が 2001 年 10 月に
開設したインターネットショッピングモール「JAタウン」(www.ja-town.com)は、
2007 年 3 月末現在で、売上高 300 百万円(2006 年 3 月末 234 百万円)、会員数 12 万
7000 人(2006 年 3 月末 10 万 6000 人)、出店数 78 店舗(2006 年 3 月末 70 店舗)と
JA総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《報告》全国機関・情報システムの動向
33
拡大しています。
なお、2003 年度より「JA共済しあわせ夢くらぶ」と連携し、インターネットを
活用した会員拡大キャンペーン、JA共済キャンペーン賞品へのJAタウンの活用、
しあわせ夢くらぶ会員割引サービスなどを実施している。
さらにJA−SSや農薬等のキャンペーン賞品としても採用され、国産農畜産物の
アピールにも一役かっている。
2.経済事業改革にかかるシステム対策の充実
(1) 標準化・統一化
JA全農では、標準業務システムの構築による全国本部・県本部のシステム統合を
通じて、事務処理コストと情報システム経費の削減を実現するために、全国事務集中
センターシステムの構築を進めている。販売起票・大豆システムが 2006 年 2 月に、
米穀システムが同年 6 月∼ 11 月、購買共通システムが 2007 年 1 月に本稼働した。こ
のシステムでは、JA・取引先と各種連動データ・帳票等の標準化・統一化を進め、
業務事務の合理化・効率化を図ることとしている。
(2) 物流情報センター標準システムの開発
JA全農では、事業改革構想の一環として、農家戸配送業務(受注から入出庫・保
管・配送まで)の連合会への委託による広域(県域・ブロック域)物流体制の構築を
主眼とする物流改革構想を策定し、県域物流構想の策定・見直し、広域農家配送拠点
の整備などを進めている。
この広域物流における受発注や在庫管理情報を一元的に実施・管理する物流情報セ
ンター標準システムは、佐賀(2002 年 11 月)、福岡(2003 年 5 月)、山口・徳島(2003
年 10 月)、埼玉(2004 年 11 月)、長崎(2005 年 1 月) 、群馬(2005 年 9 月)、島根(2005
年 9 月)、岐阜(2006 年 10 月)、茨城・栃木・大分(2007 年 1 月)、山形(2007 年 3 月)
で稼動している。
●全国共済農業協同組合連合会●
系統共済事業システムの最近の動き
(注)
3Q訪問プロジェクト
に つ い て は、『 共 済 総
研 レ ポ ー ト 』 № 90 の
特集を参照。
2007 年度の主な取り組み内容については、以下のとおりである。
1.3Q支援システム(重点訪問活動支援システム)の機能強化と活用促進
組合員・利用者とのコミュニケーションの強化を通じた満足度の向上等を図るため、
LAの活動量アップなどのプロセスを重視した活動管理の強化と3Q訪問プロジェク
ト(全戸訪問活動)注)の進捗管理を行うために、世帯保障台帳・JA共済加入状況
表等の作成と訪問活動の結果や進捗状況の管理・分析の強化に取り組む。
2.オンライン休止日削減・稼動時間拡大に向けた取り組み
仕組改訂等による平日の照会系・更新系オンラインの休止日について廃止を目指す
とともに稼動時間の拡大を図り、より利便性・信頼性の高い情報システムの提供に取
り組む。
3.事務の簡素化に向けたシステム対応
組合員・利用者への利便性の向上と質の高いサービスを提供するために、事務手続
きに必要な書類の削減、帳票様式の簡略化および出力帳票の削減に向け取り組む。
2008 年度初めに向けた具体的な取り組みとしては、自動車共済の新契約申込書の
改善等を図るとともに、異動事務の簡素化に向けた事務手続きの見直しや帳票様式の
34 《報告》全国機関・情報システムの動向
JA総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
設定などに取り組む。
4.ニーズに応じた保障提供にかかるシステム対応
組合員・利用者のニーズに即した総合保障の提供を図るために、仕組改訂にかかる
システム対応に取り組む。
●農林中央金庫●
系統信用事業システムの最近の動き
1.システム機能具備の状況
JASTEMシステムをはじめとする系統信用事業システムについては、新BIS
規制への対応、MUFG(三菱東京UFJ銀行)との提携によるICカードや生体認
証の導入への取り組みに加え、セブン銀行・郵貯との入金提携等、必要な機能の具備
を果たした。
今後は、三大疾病保障特約付住宅ローンの取り扱い等にかかるシステム開発を進め
る一方、さらなるシステムの安定的稼動を維持すべく、所要の対策を重点的に講じて
いく予定である。
2 次期システムへの取り組み
JASTEMシステムは 2006 年5月に全県移行を完了したことにより、システム
の共同利用体制が整ったが、現行システムの初期稼動が 1999 年ということもあり、
ハードウェアの更新期限到来や通信技術の陳腐化等への対策が必須となっていること
から、2010 年1月から 2011 年5月にかけて順次次期システムへ移行していくことを
予定している。
次期システムへの移行に際しては上記対策に加え、個人情報保護に代表されるよう
にセキュリティーの重要性も飛躍的に高まってきていることから、顧客からの信頼を
確保するためにも、セキュリティー水準を向上することを想定している。
また、最新技術を採用することによるシステム機器のスリム化を進めるとともに、
現在 4 つあるセンターを 2 つに集約し、コスト低減を進めることとしている。
JA総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《報告》全国機関・情報システムの動向
35
読 書
の 窓 『P・F・ドラッカー 理想企業を求めて』
エリザベス・ハース・イーダスハイム著 上田惇生[訳]
ダイヤモンド社(20076 年 5 月 31 日)
(社)JA総合研究所 協同組合研究部長
吉 田 成 雄 (よしだ しげお)
ピーター・ファーディナンド・ドラッカーは、1909 年 11 月 19 日、オーストリアのウイーンで生
まれた。2005 年 11 月 11 日、米国カリフォルニア州クレアモントの自宅にて 95 歳でこの世を去る
までに 39 冊の本を書き、そのすべてが世界中の主要言語すべてに翻訳された。本書は、94 歳のド
ラッカー本人が直接、エリザベス・ハース・イーダスハイムに電話をかけて、自分へのインタビュ
ーを行い、本にまとめることを依頼したことに始まる。ドラッカー最晩年の1年半にわたる独占密
着インタビュー(体力の消耗を考え1回2時間以内厳守)と、逝去後1年をかけての追加取材によ
り執筆された。
「ドラッカーの考えははっきりしていた。伝記も自伝も望んでいなかった。
『全部書いて』
『偏らず』
『あなたの本だ』『助けはする』『やり合うのは好きだ』『思ったとおりに書いてほしい』といってく
れた」という。したがって、本書は、ドラッカーの 40 冊目の本ではない。
また、ドラッカーは、著者に次の2つのことを求めたという。1つは「私がいってきたことのうち、
意味のなくなったもの、もともと間違っていたものは捨ててほしい」。もう1つは、理屈にとらわれ
ないでほしいということ。「現実にこだわりなさい。すでに起こったことだけでも、あまりにいろい
ろなことがあるのだから」
なんと 94 歳にして、こんな自由で囚われない、柔軟な思考ができるのだ。
だからこそドラッカーは未来を予見することができたのではないか。「すでに起こった未来」、彼
にとってはごく当たり前のことかもしれない。われわれは例えばバブルの行く末を見通せなかった。
筆者は、1984 年 11 月から 87 年 3 月まで旧経済企画庁に居た。バブルの発生のただ中だ。日経平均
終値が 84 年には1万円を突破し、87 年に2万円突破、88 年に3万円突破、89 年には史上最高値
3万 8915 円。85 年当時、いまの状況がバブルかどうか、といった議論を端で聞いていたが、だれ
も確信を持てなかった。
だが、ドラッカーは、処女作『「経済人」の終わり̶全体主義はなぜ生まれたのか』(1939 年)
でナチスの本質を暴き、第2作『産業人の未来』
(1942 年)で、組織が大きな意味を持つことを、
1947 年雑誌『ハーパース』に、「マネジメントとはリーダーシップのことである」と書き、54 年に
は「戦略」を書名に使おうとして編集者から軍事用語は経営書の読者には受け入れられないと言わ
れ、「経営戦略」「事業部制」
「目標管理」
「民営化」
「知識労働者」などの概念や言葉を生み、
『断絶
の時代』(1969 年)では情報化社会と知識社会を予見した。
『リエンジニアリング革命』の著者マイケル・ハマーは、
「初期の本などは、読むのが恐いくらいだ。
最近自分が考えていることが、何十年も前にドラッカーがいっていることだとわかることがあるか
ら」と語ったという。
子ども時代から、シュンペーター、ハイエク、トーマス・マンなどの知性と身近に接し、新聞記者、
イギリスに移住し投資銀行に勤め、アメリカに渡り学者やコンサルタントを経験している。だがそ
れだけではない、
「長期的な視野を欠いて目先の利益をはかること」とは無縁の「知」だけが生み出す、
深い洞察力や豊かな人間観、世界観が彼には備わっている。
ソクラテスのように質問し、読者に考えさせるドラッカーの流儀は本書にも生きている。ぜひ一
読され、あなたの組織に照らし合わせながら、
「なされるべき」マネジメントの本質に迫ってほしい。
36 《読書の窓》 『P・F・ドラッカー 理想企業を求めて』
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
お知らせ
■理事長・常務理事の交代について■
2007 年6月末をもって、初代理事長の古賀成祐が退任し、7月1日より薄井寛(前株
式会社日本農業新聞常務取締役)が理事長に就任いたしました。
また、常務理事斉藤順(経営研究部担当)が退任し、後任の常務理事に松田克文が就
任いたしました。
■新理事長のごあいさつ■
理事長 薄井寛
昨年4月のJA総研発足前からご尽力されてきた古賀成祐
初代理事長の後を継ぐことになりました。旧3組織のコアの
研究活動の強化に加えて、具体的な統合メリットの開発が最
優先の挑戦課題だと認識しています。今、戦後農政の大転換
にWTOやEPAによる通商の新たな枠組みが続こうとして
います。一方では、人々の価値観の多様化など社会が大きく
変化する中で、総合的な「JA力」の発揮や地産地消、食農教育、
IT技術の更なる展開、そして地球温暖化への対応など、協同組合運動の枠組みと活動
のステージを自らの力で新しく構築していくことが併行して求められています。シンク
タンクの機能発揮が期待されて誕生したJA総研。そのための踏み石を着実に敷いてい
きたいと存じます。引き続きのご支援、ご指導をお願いいたします。
編集後記
平成 18 年4月1日の社団法人JA総合研究所発足には、統合前の公益法人3団体が従
来手がけてきた専門研究分野に加え、シンクタンクとしての研究分野を充実させるとの
期待が込められている。この『JA総研レポート』は、こうした取り組みの端緒ではあ
るが、4月に創刊号を発行し、今号は第 2 号である。まだまだ卵から孵ったばかりの研
究機関ではあるが、3年の任期付研究員(博士号取得者)を採用するなど人材の充実の
工夫をしながら、あるいは外部の研究機関・大学等との共同研究などを進め、充実した
研究内容と実績づくりに努力をしてきたつもりである。
まだまだ不十分ではあるが、かなりのスピードで内容を充実させてきていると実感し
ている。雛鳥から成鳥となって自由に羽ばたくことができる日はそう遠くないだろう。
会員をはじめ皆様にはなお継続してご支援を賜り温かく見守っていただきたい。
今号は、基調テーマを「農業・農村政策」とし編集企画を行った。協同組合研究部で研
究員の資質向上等を目的に毎週水曜日(原則)行ってきた定例研究会で報告していただい
た東京大学大学院の鈴木宣弘教授、また、今村奈良臣研究所長とともに研究指導をしてい
ただいている明治大学の小田切徳美教授(当総研運営委員)のお 2 人の論文を中心に据え
た。わが国の国家としてこの国の形をどうしていくべきなのか、冷静かつ戦略的な議論を
始めるときが来ている。時機を失することがないように願うのは私だけだろうか。
(協同組合研究部長兼企画総務部付企画担当 吉田)
『JA総研レポート』もようやく第2号をお届けできる運びとなりました。編集は全く
の初心者の私、厳しくも温かく見守ってくださる2人の大先輩のお力を借り、なんとか
かんとか作業を進めることができました。この『JA総研レポート』とともに、自分自
身も成長できたらいいな、と熱い思いを胸に抱きつつ、第3号の企画を進めております。
次号は原稿取り立て(!)を強化し、素早い発行を目指します。
(企画総務部総務課長 小川)
JA 総研レポート/ 2007 /夏/ vol.2
《お知らせ》
《編集後記》 37
《最寄駅》
●神保町駅(都営三田線)
A8出口より徒歩1分
●神保町駅(東京メトロ半蔵門線)
A6出口より徒歩5分
●神保町駅(都営新宿線)
A6出口より徒歩5分
夏
Fly UP