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上皮性卵巣癌における TP53変異と予後への影
博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 友 希子 学 位 論 文 題 名 上皮性卵巣 癌におけ るTP53変 異と予後への影響 学位論文内容の要旨 [背景と目的] 癌 抑 制 遺 伝子 TP53の 遺 伝 子変 異 は ヒ ト癌 に お い て最 も 一 般 的に 認 め ら れ、 癌 の 発 生、 進 展 に 重 要 な 遺 伝子 と 考 え られ て い る 。上 皮 性 卵 巣癌 に お い てTP53は 最 も 研 究さ れ て い る遺 伝 子 の ー つ で ある が 、 TP53の 治療 に 対 す る予 測 因 子 とし て の 役 割は 未 だ 不 明な 点 が 残 され て い る 。 TP53変 異 に は 、 主 に dominant negative変 異 と recesslve変 異 の ニっ が あ り 、前 者 は ー 方 の 対 立 遺 伝 子 由 来 の 変 異 p53蛋 白 が 他 方 の 野 生 型 p53蛋 白 の 機 能を 抑 制 す るが 、 後 者 の 変 異は そ の よ うな 抑 制 は 起こ さ な い 。酵 母 機 能 アッ セ イ は 、p53の 転 写活 性化能 カを む VI VOで 検 討 す る 方 法 で あ り 、 rIyansdominanceas8ayは こ の 方 法 を 改 変 し ロ 珊 の 変 異 が dominantnegative変 異 か recesslve変 異 か を 検 討 す る も の で ある 。 今 回 我々 は 、 p53の 転 写 活 性 化 能 カ と 変 異 の 状 態 に 注 目 し 、 酵 母 機 能 ア ッ セ イ と nansdominanceassayを 用 いてロ珊変異が上皮性卵巣癌の進展や予後に与える影響を検討した。 【材料と方法] 1993年 か ら 2006年 の 間に 上 皮 性 卵巣 癌 と 診 断さ れ 、 cytoreducti. vesurgeryお よ び 化学 療 法 に て 治 療 さ れ た 74例 を 対 象 と し た 。 腫 瘍 組 織 か ら 全 RNAを 抽 出 し て RT. PCRを 行 い ロ 珊 遺 伝 子を 増 幅 し 、酵 母 p53機 能ア ッ セ イ を行 っ て 兜 芍コ 遺 伝 子 変異 の 有 無を 同定し た。 酵 母 p53機 能 ア ッ セ イ で 変 異 p53と 判 明 し た 症 例 で は 、 シ ー ク エ ン ス 解 析を 行 い 変 異部 位 を 同 定 し 、 同 定 さ れ た p53変 異 が dominantnegative効 果 を も つ か ど う か を 恥 anSdominanCeaSSayで 検 定 し た 。 PrOFeSSion‐ FreeSuruValお よ び OVera11SuruVal は 、 Kaplan. Meier法 で 算 出し た 。 有 意差 は 10g・ ranktestで 検 定し た 。 各 臨床 バ ラ メ ータ と 郷 珊 変 異 の 関 連 に つ い て は Z2テ ス ト で 検 定 し た 。 ま た 、 独 立 予 後決 定 因 子 の検 定 は コ ッ ク ス 比 例ハ ザ ー ド 回帰 分 析 を 使用 し て 行 った 。 全 てにお いてpく 0.05以下 で有意 差あり と 判定した。 [結果] 卵 翫変異 は74例中 34例(45 .9%)に認められ.残り40例(5 411%)は野生型であった。シーク エ ンス解析の結果、ミスセンス変異が2 1例(60 .0%)、ナンセンス変異が4例(n.4%)、挿入変 異 が1例( 2.9%) 、欠失 変異が 9例(25. 7%)に 認められた。冊a nsdom inanc eAssa yにより、ミ ス セ ン ス 変異 を 有 す る症 例 の うち14例 (18.9% )がdominantnegative変異 、ミス センス変 異 の 残り7例 とナン センス 変異、 挿入変 異および 欠失変 異の20例 がrecesslve変異(27.0%)と判 定 さ れ た 。 各 組 織 型 に お け る ロ 玩 ヨ 変 異 は 、 漿 液 性 腺 癌 で は dominantnegative変 異 8例 (22.2 %)、rec esslv e変異16 例(44.4 %)、野生型13例(33 .3%)、非漿液性腺癌ではdo mi na nt negat ive変異6例(16 .2%)、re ce ss lve 変異4 例(10 .8 %)、野生型27 例(73 .0 %)であり、兜斑渡 異 は 漿 液 性腺 癌 に お いて 非 漿 液性腺癌 に比ベ 有意に 多く認 められ た(p匚 二ニ0. 001)。FIGO stage分 類で は 、 stageI十 H期にお いてdom泣 antnegative変 異1例( 3.2%) 、recesslve変 異4 例 ( 12.9%) 、 野 生 型26例 (83.9%)、stageIH十IV期に おいて dominantnegative変 異13例 (30.2 %)、rec esslv e変異16 例(37 .2 %)、野生型1 4例(32.6 %)であり、弼玩唆異とFIG 08 ta ge 分 類 は相関 してい たゆ= 0.00005)。 Kaplan・Meier法とlog. ranktestによ り、変 異ぬ珊 を有 す る 症 例 では 野 生 型 ロ硼 こ 比 ベProgression. Freesurvivalが短 かった (舮0. 009)。一 方、 0vera11Survivalでは 有 意 差 は見 ら れ な かっ た 。 ロ 芍aのdominantnegative変 異とrecesslve - 395ー 変異との比較では、P r og r e s s i o n F r e es u r v i v al 、O v e r a l ls u r v i v a l ともに違しゝは認められな か っ た 。 さ ら に 、 コ ッ ク ス 比 例 ハ ザ ー ド回 帰分 析に て多 変量 解析 を行 った とこ ろ、 P ro gr es si onFr ee s ur vi va lについてはFI GO s ta ge と手術時の残存病変の有無が、O v e ra l l survivalに つ い て は 手 術 時 の 残 存 病 変 の 有 無 が 独 立 の 予 後 決 定 因 子 で あ っ た 。 [考察] p53の転 写活 性化 能カ と変 異の 状態 に注 目し 、酵 母 機能 アッ セイ と' Iy ans do nu na nc e a ss ay を凩い てT P5 3変異が上皮性卵巣癌の進展や予後に与える影響を 検討した。上皮性卵 巣癌 にお ける TP 53 変 異の予後に与える影響を解析したところ、変異TP 53 を有 する症例で は野生型T P53 に比べPr og re ss i on F re es u r vi v al が有意に短かった(p : ニ0 . 00 9 ) が、O v e ra l l s ur vi va lでは有意差は見られなかった。 この理由としては、@症例数が少ないこと◎経過 観察期間が短いためOv er al ls ur ¥ r iv a lに関しては今後差が出てくる可能性があること◎化 学療法中の進行例や再発例などでは化学 療法剤が変更されており新しく使用された化学療 法剤 の効 果に TP 53 変 異は影響を与えなかった可能性があることなどが考えら れる。今回 我々 は上 皮性 卵巣 癌に お ける d omin ant neg at ive 変異TP 53 と年齢、組織型、 F IG O st ag e 分類、P ro gre ss 10 n‐F re es ur uv a1 および O ve ra 11 su rv iv al について検 討したが、有意な相 関は認められなかった。これは、上皮性 卵巣癌の予後については弼珊の変異の有無そのも のがその変異の種類よりも強いインバクトを持っためと考えられる。上皮性卵巣癌には生物 学的特性の異なる複数の組織型があること、治療法も複数存在することから独立予後因子の 検討 は困 難で あり 、刀 珊 のdom inan tneg ati ve 変 異とr ec es sl ve 変異が上皮性 卵巣癌に与 える影響を正確に検討するためには症例数を増やし各組織型ごとに検討するなど、さらなる 研究が必要であると思われた。 [結論] 上 皮性 卵巣 癌組織 におけるp 53 変異頻度とFI GOs ta ge との間に相関関係が認 められた。 ま た 、 FIGOs tage HI十IV期で はI十 H期に 比ベ 、dom inan tneg ative 変 異が 多い 傾向 が認 めら れた 。変 異丑 珊を 有 する 症例 では 野生 型ロ 珊に 比べ Pr ogre ssio n.F ree sw vi va lが 短か った が、 Ov era1 1surv iva1 と の間 には 相関 関係 は 認め られ なか った。p5 3d om in an t n e ga t l ve 変異をもつ癌組織と、r e c es s lv e 変異をもつ癌組織との違しゝに相関する臨床病理学 的パラメーターは見出せなかった。 - 396ー 学位論文審査の要旨 主 査 教 授 守 内 哲 也 副 査 教 授 櫻 木 範 明 副 査 教 授 秋 田 弘 俊 学 位 論 文 題 名 上皮 性卵巣 癌に おけるTP53変異と予後への影響 癌 抑 制 遺 伝 子 TP53の 遺 伝 子 変 異 は ヒ ト 癌 に お い て 最 も 一般 的 に 認 めら れ 、 癌 の発 生 、 進 展に 重 要 な 遺 伝 子 と 考 え ら れ て い る 。 上 皮 性 卵 巣 癌 に お い て TP53は最 も 研 究 され て い る 遺伝 子 の ー つで あ る が 、 TP53の 治 療 に 対 す る 予 測 因 子 と し て の 役 割 は 未 だ 不明 な 点 が 残さ れ て い る。 TP53変 異 に は 、 主 に dominant negative変 異 と recesslve変 異 の ニっ が あ り 、前 者 は 一 方の 対 立 遺 伝子 由 来 の 変 異 TP53蛋 白 が 他 方 の 野 生 型 TP53蛋 白 の 機 能 を 抑 制 す るが 、 後 者 の変 異 は そ のよ う な 抑 制は 起 こ さ な い 。 酵 母 機 能 ア ッ セ イ は 、 TP53の 転 写 活 性 化 能 カ を む ぬ voで 検 討 す る 方 法 で あ り 、 Transdominance assayは こ の 方 法 を 改 変 し TP53の 変 異 が dominant negative変 異 か recessive変 異 か を 検 討 す る も の で あ る 。 今 回 我 々 は 、 TP53の 転 写 活 性 化能 カ と 変 異の 状 態 に 注目 し 、 酵 母機 能 ア ッセ イ と : Transdominance assayを 用 い てTP53変異 が 上 皮 性卵 巣 癌 の 進展 や 予 後 に与 え る 影響 を検討した。 1993年 か ら 2006年 の 問 に 上 皮 性 卵 巣 癌 と 診 断 さ れ 、 cytoreductive surgeryお よび 化 学 療 法に て 治 療 さ れ た 74例 を 対 象 と し た 。 腫 瘍 組 織 か ら 全 RNAを 抽 出 し て RTー PCRを 行 い TP53遺 伝 子 を 増 幅 し 、 酵 母 TP53機 能 ア ッ セ イ を 行 っ て TP53遺 伝 子 変 異 の 有 無 を 同 定 し た 。 酵 母 TP53機 能 ア ッ セ イ で 変 異 TP53と 判 明 し た 症 例 で は 、 シ ー ク エ ン ス 解 析 を 行 い変 異 部 位 を同 定 し 、 同定 さ れ た TP53 変 異 が dominant negative効 果 を も っ か ど う か を Transdominance assayで 検 定 し た 。 Progression― Free survivalおよ び Overall survivalは 、 Kaplanー Meier法 で 算出 し た 。 有意 差 は logー rank testで 検 定 し た 。 各 臨 床 パ ラ メ ー タ ー と TP53変 異 の 関 連に つ い て はx'テ ス トで 検 定 し た 。 また 、 独 立 予後 決 定 因 子の 検 定 は コッ ク ス 比 例ハ ザ ー ド 回帰 分 析 を 使用 し て 行 った 。 全 て にお いてp く0. 05 以下で有意差ありと判定した。 TP53変 異は74例 中34例(45. 9y0)に認め られ, 残り40例(54.1%)は野生型であった。シークエンス解 析の結果、ミスセンス変異が21例(60.O %)、ナンセンス変異が4 例(1l .4 Y0) 、挿入変異が1例(2 .9%)、 欠失 変異が 9例(25. 7%)に 認めら れた。 Transdominance Assayに より、 ミスセ ンス変 異を有 する症 例 の う ち14例 (18. 90)が dominant negative変異 、 ミ ス セン ス 変 異 の残 り 7例 と ナ ンセ ン ス 変 異、 挿 入 変 異 およ び 欠 失 変異 の 20例が recesslve変異 (27.0% )と判定 された 。各組 織型に おける TP53変異は 、 漿 液 性腺 癌 で は dominant negative変 異 8例 ( 22. 2% ) 、 recesslve変 異 16例(44. 4Y0)、野生 型13例 (33 .3%)、非漿液性腺癌ではdomin ant n egati ve変異6例(1 6.2%)、r ec ess lv e変異4 例(1 0.8%)、野生 ー 397 - 型 27例 ( 73. 0%) で あ り 、TP53変 異は漿 液性腺癌 におい て非漿 液性腺 癌に比 べ有意 に多く 認めら れた ( pr0.0288)。 FIGO stage分 類 で は 、stageI+II期 に お いて dominant negative変異1例 (3.2Y0)、 recesslve変異4例 (12.9%)、野 生型26例(83.90)、stageIII+IV期に おいて dominantnegative変 異 13例(30.2%)、recesslve変異 16例( 37.2 y0)、野生型14例( 32.6%)であり、TP 53変異とFIGOstage 分類 は相 関して いた(p -ニ0. 0033)。Kaplan―Meier法とlogーra.n ktes tにより、変異TP53 を有する症例で は 野 生 型TP53に 比 べ Progression− Freesurvivalが 短 か っ た(p=0.009)。 ー 方 、Overall survival で は 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。 TP53の dominant negative変 異 と recesslve変 異 と の 比 較 で は 、 Progressionー Freesurvival、Overall survivalと も に違 い は 認 めら れ な か った 。 変 異 TP53を有 す る 症 例 でコ ド ン 72番 目 の ポ リモ ル フ ィ ズム に よ り Progression−Free survival、 Overallsurvival が 異 な るか を 検 討 した と こ ろ 、コ ド ン 72番 目 に ア ルギ ニ ン を 有す る 症 例 の方 が プ ロ リン を 有 す る症 例 よ り良 い Progression― Freesurvivalを有し ていた( 炉0.395)。 さらに 、コッ クス比 例ハザ ード回 帰 分 析 にて 多 変 量 解析 を 行 っ たと こ ろ 、 ProgressionーFree survivalに つ いて は FIGOstageと 手術 時 の 残 存病 変 の 有 無が 、 Overallsurvivalに つ い て は手 術 時 の 残存 病 変 の 有無 が 独 立 の予 後 決 定 因 子で あった 。 結 論 と し て 、 上 皮 性 卵 巣 癌 組 織 に お け る TP53変 異 頻度 と FIGOstageと の問 に 相 関 関係 が 認 め ら れ た 。 変 異 TP53を 有 す る 症 例 で は 野 生 型 TP53に 比 べ Progression− Free survivalが 短 く 、 変 異 TP5,コ を 有 し さ ら に コ ド ン 72番 目 に ア ル ギ ニ ン を 有 する 症 例 で はプ ロ リ ン を有 す る 症 例よ り 良 い Progression― Freesurvivalを有 してい た。TP53dominantnegatlve変異 をもつ 癌組織 と、recesslve 変 異を も つ 癌組 織 との 違 い に相 関 する 臨 床 病理 学 的パ ラメータ ーは見出 せたかっ た。 こ の 論 文 は , 上 皮 性 卵 巣 癌 に お い て は TP53変 異 が dominantnegative変 異 と recesslve変 異 の 間 に 予 後 の 違 い が な い こ と を 示 し た 点 が 評 価 さ れ る 。 子 宮 体 部 癌 が TP53の dominantnegative変 異 で 予 後 が 悪 い こ と と は 対 照 的 な 結 果 で 、 両 者 の 比 較 に よ り TP53の dominant negative変 異 の機 序 解明 が進む ことが期 待され る。 質 疑 応 答 で は 、 副 査 の 秋 田 教 授 か ら TP53遺 伝 子 変 異 の 対 立 遺 伝 子 の 状 態 に つ い て 、 dominant negative変 異 の 効 果 に 関 す る 質 問 、 お よ び 卵 巣 癌 の TP53変異 が グ ア ニン か ら ア デニ ン に 変 化す る 例 が 多 いこ と に つ いて 質 問 が あっ た 。 次 いで 、 副 査 の櫻 木 教 授 から 子 宮 体 癌で は TP.駟 の Dominant negative変 異 で 予 後 が 悪 か っ た が 、 卵 巣 癌 で は そ う で は な か った が ど の よう な 理 由 が考 え ら れ る か に つ い て 質 問 が あ っ た 。 最 後 に 主 査 の 守 内 教 授 か ら 卵 巣 癌 が 緩 徐 に 進 行 す る TypeIpathwayと 急 速 に 進 展 す る TypeIIpathwayに つ いて 質 問 が あっ た 。 ‘ いず れ の 質 問に 対 し て も、 申 請 者 は実 験 デー タや先 行論文を 引用し 、妥当 な回答 をした 。 審 査員 一 同 は 、こ れ ら の 成果 を 高 く 評価 し 、 大 学院 課 程 に おけ る 研 鑽 や取 得 単 位 など も 併 せ 申請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す るも の と判 定 した 。 ― 398 -